説明

基板処理装置

【課題】成膜に十分な量のラジカルを生成し、かつそれを失活することなく基板上に輸送することで成膜速度の向上を図ると共に、基板に加わる熱による損傷を低減し、膜質を向上させる基板処理装置を提供する。
【解決手段】処理室1と、処理ガスを処理室1に供給する処理ガス供給部と、前記処理室1を、2つの空間に隔て、前記処理ガスを一方の空間から他方の空間に通流させる通流孔5aを有する遮熱板5と、前記一方の空間に配され、前記処理ガスを接触させることにより該処理ガスを活性化させる触媒6を支持する触媒支持部61と、前記他方の空間に配され、基板を支持する基板支持体3とを備える基板処理装置において、前記遮熱板5の前記他方の空間側の面の温度を、前記一方の空間側の面より低い温度となるように制御する温度制御部を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱した触媒により処理ガスを活性化させて基板を処理する基板処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
CVD(Chemical Vapor Deposition)法は、半導体、液晶、有機EL等の製造工程における成膜処理、その他、各種基板処理に用いられている。特に、触媒CVD法は、成膜速度に優れ、処理ガスの利用効率が高い成膜方法として注目されている。
【0003】
特許文献1には、基板処理室と、触媒により反応ガスを加熱するガス加熱室と、ガス加熱室で加熱された反応ガスを基板処理室に導入する反応ガス供給路を設けた基板処理装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−41365号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に係る基板処理装置においては、触媒と基板とが離れているため、基板の過加熱を防止できるものの、反応ガスの活性種の到達度が下がり成膜速度が下がるという問題があった。反応ガスからの熱エネルギーや触媒からの輻射熱による基板の損傷を防止しつつ、活性種の基板への到達度をあげることが望まれる。
【0006】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、成膜に十分な量のラジカルを生成し、かつそれを失活することなく基板上に輸送することで成膜速度の向上を図ると共に、基板に加わる熱による損傷を低減し、膜質を向上させる基板処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る基板処理装置は、処理室と、処理ガスを処理室に供給する処理ガス供給部と、前記処理室を、2つの空間に隔て、前記処理ガスを一方の空間から他方の空間に通流させる通流孔を有する遮熱板と、前記一方の空間に配され、前記処理ガスを接触させることにより該処理ガスを活性化させる触媒を支持する触媒支持部と、前記他方の空間に配され、基板を支持する基板支持体とを備える基板処理装置において、前記遮熱板の前記他方の空間側の面の温度を、前記一方の空間側の面より低い温度となるように制御する温度制御部を備えることを特徴とする。
【0008】
本発明においては、遮熱板の一方の空間側の面は活性化されたラジカルが失活しない温度に保たれ、他方の空間側の面は基板が過加熱とならない温度に保たれる。したがって、成膜に十分な量のラジカルを失活することなく基板上に輸送するとともに、基板を過加熱することを防ぐことができる。
【0009】
本発明に係る基板処理装置は、前記温度制御部は、前記遮熱板を冷却する冷却部を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明においては、冷却部により遮熱板を冷却するので、基板に面している遮熱板の表面温度を、基板に損傷を与えない温度に保つことができる。
【0011】
本発明に係る基板処理装置は、前記冷却部は、前記遮熱板の他方の空間側の面に沿うように配置されている温度調節媒体通路を備え、該温度調節媒体通路に媒体を通流することにより前記遮熱板を冷却するように構成してあることを特徴とする。
【0012】
本発明においては、冷却部は、温度調節媒体通路を備えているため、温度調節媒体により、基板に面している遮熱板の表面温度を、基板に損傷を与えない温度に保つことができる。
【0013】
本発明に係る基板処理装置は、前記温度調節媒体通路は前記処理ガスを通流するように構成してあることを特徴とする。
【0014】
本発明においては、温度調節媒体として処理ガスを用いることにより、基板に面している遮熱板の表面温度を、基板に損傷を与えない温度に保つとともに、処理ガスを予備加熱することができる。
【0015】
本発明に係る基板処理装置は、前記温度制御部は、前記遮熱板を加熱する加熱部を備えることを特徴とする。
【0016】
本発明においては、加熱部により遮熱板を加熱することにより、触媒に面している遮熱板の表面温度を、処理ガスが失活しない温度に保つことができる。
【0017】
本発明に係る基板処理装置は、前記加熱部は、前記触媒を利用して前記遮熱板を加熱するように構成してあることを特徴とする。
【0018】
本発明においては、触媒を利用して遮熱板を加熱するので、新たな加熱部を必要とせずに、触媒に面している遮熱板の表面温度を、処理ガスが失活しない温度に保つことができる。
【0019】
本発明に係る基板処理装置は、前記加熱部は、加熱源を前記遮熱板に備えることを特徴とする。
【0020】
本発明においては、加熱源を遮熱板に設けたことにより、触媒に面している遮熱板の表面温度を、処理ガスが失活しない温度に保つことができる。
【0021】
本発明に係る基板処理装置は、前記他方の空間に配され、第2処理ガスを供給する第2処理ガス供給部を備えることを特徴とする。
【0022】
本発明においては、他方の空間に第2処理ガスを供給するので、処理ガスと第2処理ガスとの反応により、基板に成膜することができる。
【0023】
本発明に係る基板処理装置は、前記触媒は、タングステンからなり、前記処理ガスは水素ガスであり、前記第2処理ガスはモノシランであることを特徴とする。
【0024】
本発明においては、前記触媒は、タングステンからなり、前記処理ガスは水素ガスであり、前記第2処理ガスはモノシランとしたことにより、触媒で活性化された水素ラジカル及びモノシランが反応し、基板にシリコン成膜を生成することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、成膜に十分な量のラジカルを失活することなく基板上に輸送するとともに、基板を過加熱することを防ぐことができ、基板に生成される膜の膜質を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本実施の形態1に係る基板処理装置の一構成例を示した側断面図である。
【図2】触媒の一構成例を示す側断面図である。
【図3】図2に示した触媒の平面図である。
【図4】遮熱板支持部によって支持された遮熱板の一構成例を示す側断面図である。
【図5】図4に示した遮熱板を底部側から見た平面図である。
【図6】温度勾配発生部(温度制御部)の一構成例を示す概念図である。
【図7】第2処理ガス導入部の一構成例を示した背面図である。
【図8】本実施の形態2に係る基板処理装置における温度勾配発生部の構造を概念的に示した説明図である。
【図9】本実施の形態4に係る基板処理装置における遮熱板の断面図である。
【図10】遮熱板の他の形態を示す平面図である。
【図11】触媒を複数の板状部材で構成した場合の概念図である。
【図12】触媒をワイヤ状に構成した場合の概念図である。
【図13】触媒をヒータにて加熱する場合の基板処理装置の一構成例を示した側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明に係る基板処理装置の一実施形態について詳細に説明する。
実施の形態1
図1は、本実施の形態1に係る基板処理装置の一構成例を示した側断面図である。本実施の形態1に係る基板処理装置は、例えば、珪素膜を形成する触媒CVD装置であり、気密に構成された中空略円柱状の処理室1と、処理室1内のガスを排気する排気装置2と、触媒CVD処理が施されるべき基板Wを支持する基板支持体3と、処理室1を上下の第1空間(一方の空間)及び第2空間(他方の空間)に隔てるとともに、触媒CVD処理を施すための活性化された処理ガスを失活させることなく、第2空間に通流させる遮熱板5と、処理ガスを活性化させる板状の触媒6と、処理室1上方の第1空間に第1処理ガスを導入する第1処理ガス導入部70a(処理ガス供給部)と、下方の第2空間に第2処理ガスを導入する第2処理ガス導入部70b(第2処理ガス供給部)とを備える。
【0028】
処理室1は、例えば、ステンレス製であり、平板状の底部10と、底部に周設された側壁11と、側壁11の上部に設けられた天板部12とを有する。
処理室1の底部10には、排気管10aが設けられており、排気管10aには真空ポンプを含む排気装置2が接続されている。排気装置2を作動させることにより処理室1内のガスが、排気管10aを介して排気される。従って、処理室1内を所定の真空度、例えば1mTorrまで減圧することが可能である。
【0029】
底部10の略中央には、触媒CVD処理が施されるべき基板Wを支持する基板支持体3が設けられている。基板Wは、例えば、矩形状ガラス基板である。基板支持体3は、例えば円盤状又は角板状であり、基板Wを冷却するための冷媒が通流する冷媒流路30と、基板Wを加熱するための加熱ヒータ31とを内部に有する。加熱ヒータ31は、該加熱ヒータ31へ給電を行う基板加熱用電源31aに接続されている。基板支持体3の加熱及び冷却は、後述の制御部80によって制御され、一定温度、例えば200℃に保持される。なお、200℃は一例であり、温度範囲180℃〜350℃内の所定温度に設定すれば良い。また、基板Wを固定するために、基板支持体3に静電チャックなどの固定手段を設けても良い。
【0030】
処理室1の側壁11には、基板処理装置に隣接する搬送室(図示せず)との間で基板Wの搬入出を行うための搬入出入口11aと、搬入出入口を開閉するゲートバルブ11bとが設けられている。
【0031】
図2は、触媒6の一構成例を示す側断面図である。図3は図2に示した触媒6の平面図である。
触媒6は、触媒CVD処理を施すための処理ガスを活性化させる機能を担っている。触媒6は複数の通流孔6aを有する。処理室1を第1空間と第2空間とに隔てる遮熱板5の上方に対向して、設置される。
第1空間に供給された処理ガスは、通流孔6aを通る際に、触媒6に触れて活性化する。活性化した処理ガスは、遮熱板5の備える通流孔5aを通流して、第2空間に供給される。
【0032】
触媒6は、少なくともその上面、下面及び通流孔6aを構成する壁面が、触媒作用を有する材質、例えばタングステン(W)で形成されている。このような触媒6は、触媒作用を有する材質からなる板状体に、貫通孔を形成することにより容易に作成することができる。なお、タングステンは、触媒6を構成する材質の一例であり、処理内容、使用する処理ガスに応じて、タンタル(Ta)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、ニッケル(Ni)等を利用することができる。また、母材にこれらをコーディングしたものであっても良い。母材としては、耐熱性があり、コーティングする材料と反応しないものが良い。更に反応面積を増大させるべく、触媒6の表面に凹凸を設けても良い。通流孔6aは直線状に限定されず、その他の任意の形状を採用しても良い。また、触媒6を、多孔質材又はハニカム構造材により構成しても良い。
【0033】
触媒6は、側壁11に設けられたフィードスルー62から伸びた支持体61(触媒支持部)により支持されている。フィードスルー62内部に収納された導線により、外部と電気的に接続されている。触媒6は該触媒6へ給電を行う触媒加熱用電源63に接続されている。
触媒6は、触媒加熱用電源63から供給される電流により、抵抗加熱される。触媒6の加熱は後述の制御部80によって制御され、一定温度、例えば1750℃に保持される。なお、1750℃は一例であり、温度範囲500〜2300℃内の所定温度に設定すれば良い。
【0034】
図4は、遮熱板支持部4によって支持された遮熱板5の一構成例を示す側断面図である。図5は、図4に示した遮熱板5を底部側から見た平面図である。
遮熱板5は、処理ガスの有する熱エネルギーを低減する機能、及び触媒6から発せられる輻射熱が基板に到達することを防ぐ機能を主に担っている。遮熱板支持部4に支持された遮熱板5は、処理室1を上方の第1空間と、下方の第2空間とに隔てる。
【0035】
遮熱板5は、処理室1の第1空間に供給された処理ガスを第1空間から第2空間へ通流させる複数の通流孔5aを有する。通流孔5aは等間隔で形成されており、基板支持体3に支持された基板Wに対して均一に第1処理ガスが供給される。遮熱板5は、使用温度領域において耐熱性がある金属、例えば、ニッケル基耐熱超合金やステンレスを素材とする。遮熱板5は素材を板状体にし、貫通孔を形成することにより、容易に製作することができる。遮熱板5の表面においては、触媒6によって活性化された活性種を失活させないようにする必要がある。例えば、遮熱板5は、上面及び通流孔の壁面に触媒作用のある金属をコーティングし、触媒作用を持たせても良い。また、触媒作用を持つ金属により遮熱板5を構成しても良い。触媒作用を持つ金属の一例は、上記のタングステンであり、その他に、タンタル(Ta)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、ニッケル(Ni)等を利用することができる。どの金属を用いるかについては、処理内容、使用する処理ガスに応じて、定める。遮熱板5の表面においては、積極的に活性させる必要はなく、触媒6によって活性化された活性種を失活させなければ十分である為、上述した材料に限られず、失活させない材料から適宜選択すればよい。
【0036】
また、遮熱板5は、円管状の温度調節媒体(以下、「温調媒体」と記す。)通路50を含み、温調媒体通路50は、温調媒体導入路51a及び温調媒体排出路51bと接続されている。
【0037】
図6は、温度勾配発生部(温度制御部)の一構成例を示す概念図である。図6において、温調媒体通路50は遮熱板5の下面(基板支持体に対向する面)を第1処理ガス導入部70aと直交する方向に貫くように配されている。温調媒体通路50の径方向の一部は遮熱板5に埋め込まれている。後述するように、遮熱板5の基板に対向する面を冷却できればよいので、その目的が達成できるのであれば温調媒体通路50は全てが埋め込まれてもよい。温調媒体導入路51aと温調媒体通路50の接続部分には、分岐が設けられている。分岐により分かれた温調媒体は複数本の温調媒体通路50をほぼ同時に通流し、温調媒体排出路51bに設けた合流で再び一体となり、温調媒体排出路51bを通り排出される。温調媒体は循環使用されるようになっている。温調媒体導入通路51aに繋がる媒体通路の途中には媒体温調器52が設置されている。媒体温調器52は、媒体を所定温度に冷却する。温調媒体導入路51aより遮熱板5下面の温調媒体通路50を流れる温調媒体により遮熱板5は下面から冷却される。
なお、温調媒体通路50は遮熱板5の下面(基板支持体に対向する面)を第1処理ガス導入部70aと直交する方向に配されるとしたが、それに限られず、第1処理ガス導入部70aと平行となるように温調媒体通路50を配しても良い。
また、温調媒体は、気体であれば、空気、窒素等であり、液体であれば純水や不凍液、フロン系の絶縁液体を用いる。
【0038】
処理室1の側壁11には、第1空間へ第1処理ガスを供給する石英製の第1処理ガス導入部70aが設けられている。第1処理ガス導入部70aは、第1処理ガスを送出する第1処理ガス供給源72aが配管を介して接続されている。第1処理ガスは、触媒6によって活性化されるべき処理ガスであり、例えば、水素(H2)ガスである。
更に、処理室1の側壁11には、第2空間へ第2処理ガスを導入する第2処理ガス導入部70bが設けられている。第2処理ガス導入部70bは、第2処理ガスを送出する第2処理ガス供給源72bが配管を介して接続されている。第2処理ガスは、例えば、モノシラン(SiH4)ガスである。
【0039】
各処理ガス供給源に接続する配管それぞれには、マスフローコントローラ(MFC)71a、71b及びその前後に開閉バルブ73a、73bが設けられており、供給される処理ガスの流量制御ができるように構成されている。流量制御は、後述の制御部80によって行われる。第1処理ガスである水素ガスの流量は、例えば、10slm、第2処理ガスであるモノシランガスの流量は、100sccm〜1slmである。
【0040】
図7は、第2処理ガス導入部70bの一構成例を示した背面図である。第2処理ガス導入部70bは、例えば、一本の配管で構成されており、基板Wの外周に倣うよう略矩形枠状に曲成されている。配管の表面には、基板Wに対して処理ガスを噴出する複数の噴出孔74bが配管の長手方向に沿って形成されている。配管は温調媒体通路50の直下にあるため、基板に対して均一にガスを噴出することが可能になると共に、配管が高温にさらされることを防止することができる。
【0041】
基板処理装置は、基板処理装置の各構成部を制御する制御部80を備える。制御部80には、オペレータが基板処理装置を管理するためにコマンド入力操作等を行うキーボード、基板処理装置の稼働状況を可視化して表示するディスプレイ等からなるインタフェース81が接続されている。また、制御部80には、基板処理装置で実行される各種処理を制御部80の制御にて実現するための制御プログラム、処理条件データ等が記録されたプロセス制御プログラムが格納された記憶部82が接続されている。制御部80は、インタフェース81からの指示に応じた任意のプロセス制御プログラムを記憶部82から呼び出して実行することにより、基板処理装置に所望の処理を行わせる。
【0042】
このように構成された基板処理装置によれば、第1空間に供給された第1処理ガスは、触媒6により活性化された後、遮熱板5の通流孔5aを通じて第1空間の下方の第2空間へ通流する。
第2処理ガスは、活性化した第1処理ガスと第2空間内で合流し、該第1処理ガスによって、膜中欠陥が少ない成膜が可能となるSiH3に解離する。解離したSiH3は、基板Wに到達し、珪素膜が形成される。
【0043】
次に、基板処理装置が成膜処理中に制御する温度勾配発生部の動作について述べる。
上述の成膜処理中、遮熱板5上面は抵抗加熱された触媒6の輻射エネルギーにより加熱される。及び触媒6に触れて活性化した第1処理ガスの熱エネルギーによっても、遮熱板5は加熱される。一方、遮熱板5の下面は温調媒体通路50を流れる温調媒体により冷却する。遮熱板5上面の入熱量と遮熱板5下面の冷却機構による奪熱量のバランスを取ることで、遮熱板5に温度勾配が発生する。
従って、遮熱板5上面及び通流孔5a壁面の温度は第1処理ガスが失活しない程度に保たれるとともに、遮熱板5の下面は基板Wが損傷を受けない程度の温度となるように、温調媒体の温度を適切に制御する。遮熱板5の下面を冷却することによって、遮熱板5から基板に向かって発生する輻射熱を低減すると共に、遮熱板5を通って噴出される処理ガスの熱エネルギーをも奪うことができるからである。
【0044】
なお、遮熱板5の上面、下面には温度を計測する温度計測手段を設けることが望ましい。温度計測手段は、例えば、熱電対や放射温度計である。遮熱板5の上面、下面以外では通流孔5a付近の温度が計測できる位置に設けることが望ましい。
温度計測手段を設けることにより、温調媒体を用いて、遮熱板5の上面、下面の温度をきめ細かく制御することができる。
また、本実施の形態においては温調媒体を用いて遮熱板5を冷却することとしたが、ペルチェ素子など他の冷却手段を採用しても良い。
【0045】
以上のように構成された基板処理装置においては、活性化させる第1処理ガスが供給される第1空間と、基板Wが配置される第2空間とが、遮熱板5により隔てられている。遮熱板5上面及び通流孔5a壁面はラジカルを生成しないまでもラジカルが失活しない程度の温度、及び材料で構成されているので、第1空間で活性化された第1処理ガスを、失活することなく第2空間に供給することができる。それにより、成膜速度を向上するという効果を奏する。なおかつ、遮熱板5の下面は冷却手段により冷却されているので、基板に加わる熱による損傷を低減し、膜質を向上させるという効果を奏する。
【0046】
実施の形態2
図8は、本実施の形態2に係る基板処理装置における温度勾配発生部の構造を概念的に示した説明図である。
本実施の形態2においては、実施の形態1における温調媒体として、第1処理ガスを用いる。それ以外の構成については、実施の形態1と同様であるので、説明を省略する。
第1処理ガスは、第1処理ガス供給源72aから温調媒体導入路51aを通り、遮熱板5に設けられた温調媒体通路50に供給される。温調媒体通路50を通った第1処理ガスは、温調媒体排出路51bを経て、第1処理ガス導入部70aに供給される。
温調媒体排出路51bと第1処理ガス導入部70aとを接続する配管においては、マスフローコントローラ(MFC)71a及びその前後に開閉バルブ73aを設け、第1空間に供給される処理ガスの流量制御ができるように構成されている。流量制御は制御部80によって行われる。
第1処理ガスは、遮熱板5に設けられた温調媒体通路50を通る際に、遮熱板5より熱を奪い、奪った熱量により温度が上昇した状態で、第1処理ガス導入部70aから第1空間に供給される。このように、第1処理ガスは第1空間に供給される前に予備的に加熱されるため、加熱されていない場合に比べて、触媒6の温度低下を抑制できる。
なお、マスフローコントローラ(MFC)71a及び開閉バルブ73aは、温調媒体排出路51bと第1処理ガス導入部70aとの間に設けるものとしたが、それに限られず、第1処理ガス供給源72aと温調媒体導入路51aとの間に設けても良い。
また、実施の形態1と同様に、媒体温調器により第1処理ガスの温度を制御することとしても良い。
【0047】
実施の形態2における基板処理装置においても、実施の形態1と同様に、成膜速度を向上するという効果、及び膜質を向上させるという効果を奏する。
さらに、第1処理ガスが予備加熱されるので、触媒6の温度低下を抑制でき、触媒6を加熱するために必要な電力を低減できるという効果を奏する。
【0048】
実施の形態3
本実施の形態3においては、実施の形態1における触媒6の温度を制御することにより、遮熱板5の温度を制御するものである。本実施の形態3において、触媒6は、第1処理ガスを活性化させるという本来の機能に加え、加熱部としての機能を併せて持つこととなる。
本実施の形態3に係る基板処理装置の構成は、実施の形態1と同様であるので、図示は省略する。
【0049】
制御部80は、温度計測手段によって計測結果に基づいて、遮熱板5の上面が所定の温度となるように触媒6に電流を供給する触媒加熱用電源63を制御する。なおかつ、遮熱板5の下面が所定の温度となるように、制御部80は、温調媒体の温度を調整する。ただし、触媒6は第1処理ガスを活性化させる機能も担っているため、第1処理ガスが活性化するのに必要な温度以上を保つ必要がある。それにより、触媒6から遮熱板5の輻射エネルギーが制御され、遮熱板5の上面及び通流孔5aの温度を制御することができる。遮熱板5は第1処理ガスを失活させることなく、第2空間に第1処理ガスを供給することができる。
【0050】
本実施の形態3によれば、遮熱板5の下面を温調媒体により冷却すると共に、触媒6に供給する電流により触媒6の温度を制御する。触媒6から遮熱板5上面への輻射熱を制御することにより遮熱板5上面及び通流孔5a壁面は適正に加熱されるので、第1処理ガスが遮熱板5により失活することなく、第2空間に送られる。それにより、成膜速度が向上するという効果を奏する。
また、遮熱板5の下面の温度を温調媒体により適切に冷却するので、遮熱板5の下面からの輻射エネルギーを低減すると共に、遮熱板5を通って噴出される処理ガスの熱エネルギーをも奪うことができるので、基板の過加熱が防止することができ、生成される膜の質が向上するという効果を奏する。
【0051】
実施の形態4
図9は、本実施の形態4に係る基板処理装置における遮熱板5の断面図である。実施の形態1から3における遮熱板5において、電気抵抗ヒータ55を埋め込んだものである。電気抵抗ヒータ55は、遮熱板5の厚み方向の真ん中より上側に埋めこまれている。電気抵抗ヒータ55は、温調媒体通路と平行に配され遮熱板5に埋め込まれている。ヒータ用電源(図示しない)により電気抵抗ヒータ55に電力を供給することにより、電気抵抗ヒータ55が発熱する。電気抵抗ヒータ55が発熱することにより、遮熱板5が加熱される。
電気抵抗ヒータ55、ヒータ用電源が加熱部としての機能を果たす。
なお、遮熱板5の上面付近及び下面付近には温度を計測する温度計測手段(図示しない)が設けられている。
【0052】
制御部80は、温度計測手段による計測結果に基づいて、ヒータ用電源を駆動し、遮熱板5を加熱する。また、温調媒体通路50を流れる温調媒体の温度を媒体温調器52により制御する。制御部80は、遮熱板5の上面温度及び下面温度を所定温度に保つように、ヒータ用電源及び媒体温調器52を制御する。
【0053】
なお、加熱部は電気抵抗ヒータ55としたが、これに限られず、温調媒体通路を設け、そこに加熱した温調媒体を通流させることにより、遮熱板5を加熱するという構成でもよい。
また、電気抵抗ヒータ55を遮熱板5の上面付近だけではなく、通流孔5aの側面を沿うように設置しても良い。
さらに、電気抵抗ヒータ55は温調媒体通路50と平行となるように配されるとしたが、電気抵抗ヒータ55を温調媒体通路50と直交するように配しても良い。
【0054】
本実施の形態4によれば、遮熱板5の下面を温調媒体により冷却すると共に、電気抵抗ヒータ55により遮熱板5上面又は通流孔5a壁面を適正に加熱するので、第1処理ガスが遮熱板5により失活することなく、第2空間に送られる。それにより、成膜速度が向上するという効果を奏する。
また、遮熱板5の下面の温度を温調媒体により適切に冷却するので、遮熱板5の下面からの輻射エネルギーを低減すると共に、遮熱板5を通って噴出される処理ガスの熱エネルギーをも奪うことができるので、基板の過加熱が防止することができ、生成される膜の質が向上するという効果を奏する。
【0055】
上述の実施の形態1から4において、温調媒体通路50は断面形状が円である円管としたが、これに限らず、断面が楕円または矩形であっても良い。
また、温調媒体通路50の径方向の略半分が遮熱板5に埋め込まれているものとしたが、これに限らず、すべてが埋め込まれていても良いし、径方向半分よりも少ない長さ分だけが遮熱板に5に埋め込まれているのでも良い。
【0056】
図10は、遮熱板5の他の形態を示す平面図である。遮熱板5を底部側から見た図である。図5では、温調媒体通路50、温調媒体導入路51a、及び温調媒体排出路51bを一組としていたが、図10に示したように、温調媒体通路50、温調媒体導入路51a及び温調媒体排出路51bを二組としても良い。二組にすることにより、遮熱板5下面の温度をより細かく制御することが可能となる。
【0057】
また、上述した遮熱板5は全て平面視矩形状であるが、それに限られず、平面視円形であっても良い。形状については、処理される基板W等に応じて適宜選択すれば良い。
【0058】
上述の実施の形態1から4において、触媒6は板状部材1枚で構成したが、それに限られるものではない。
図11は、触媒を複数の板状部材で構成した場合の概念図である。図11に示したように矩形のブロックを複数配列し、各々を並列に触媒加熱用電源に接続して加熱する。
図12は、触媒をワイヤ状に構成した場合の概念図である。図12に示したように、一本又は複数のワイヤにより触媒6を構成し、各々を並列に触媒加熱用電源に接続して加熱する。
【0059】
上述した実施の形態1から4において、触媒6の加熱は触媒6に電流を与えることにより行ったが、それに限られるものではない。
図13は、触媒をヒータにて加熱する場合の基板処理装置の一構成例を示した側断面図である。触媒6以外の部分については、上述した実施の形態1と同様であるので、説明を省略する。
図13において、触媒6にはヒータ64が取り付けられている。ヒータ64はフィードスルーを通る電線によりヒータ加熱用電源65と接続される。ヒータ加熱用電源65よりヒータ64に電流を流し、触媒6をヒータ64により加熱する。
【0060】
以上のような変形を加えた場合においても、遮熱板5の下面を温調媒体により冷却すると共に、遮熱板5に設けた加熱部により遮熱板5の上面を加熱するので、第1処理ガスが遮熱板5により失活することなく、第2空間に送られる。それにより、成膜速度が向上するという効果を奏する。
また、遮熱板5の下面の温度を温調媒体により適切に冷却するので、遮熱板5の下面からの輻射エネルギーと共に、遮熱板5を通って噴出される処理ガスの熱エネルギーをも奪うことができるので、基板Wの過加熱が防止でき、生成される膜の質が向上するという効果を奏する。
【0061】
なお、上述した実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上述した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0062】
1 処理室
2 排気装置
3 基板支持体
4 遮熱板支持部
5 遮熱板
5a 通流孔
50 温調媒体通路
51a 温調媒体導入路
51b 温調媒体排出路
52 媒体温調器
6 触媒
6a 通流孔
63 触媒加熱用電源
64 ヒータ
65 ヒータ加熱用電源
70a 第1処理ガス導入部
70b 第2処理ガス導入部
72a 第1処理ガス供給源
72b 第2処理ガス供給源
W 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理室と、
処理ガスを処理室に供給する処理ガス供給部と、
前記処理室を、2つの空間に隔て、前記処理ガスを一方の空間から他方の空間に通流させる通流孔を有する遮熱板と、
前記一方の空間に配され、前記処理ガスを接触させることにより該処理ガスを活性化させる触媒を支持する触媒支持部と、
前記他方の空間に配され、基板を支持する基板支持体と
を備える基板処理装置において、
前記遮熱板の前記他方の空間側の面の温度を、前記一方の空間側の面より低い温度となるように制御する温度制御部
を備えることを特徴とする基板処理装置。
【請求項2】
前記温度制御部は、前記遮熱板を冷却する冷却部を備えること
を特徴とする請求項1に記載の基板処理装置。
【請求項3】
前記冷却部は、前記遮熱板の他方の空間側の面に沿うように配置されている温度調節媒体通路を備え、該温度調節媒体通路に媒体を通流することにより前記遮熱板を冷却するように構成してあること
を特徴とする請求項2に記載の基板処理装置。
【請求項4】
前記温度調節媒体通路は前記処理ガスを通流するように構成してあること
を特徴とする請求項3に記載の基板処理装置。
【請求項5】
前記温度制御部は、前記遮熱板を加熱する加熱部を備えること
を特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の基板処理装置。
【請求項6】
前記加熱部は、前記触媒を利用して前記遮熱板を加熱するように構成してあること
を特徴とする請求項5に記載の基板処理装置。
【請求項7】
前記加熱部は、加熱源を前記遮熱板に備えること
を特徴とする請求項5又は6に記載の基板処理装置。
【請求項8】
前記他方の空間に配され、第2処理ガスを供給する第2処理ガス供給部を備えること
を特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の基板処理装置。
【請求項9】
前記触媒は、タングステンからなり、前記処理ガスは水素ガスであり、前記第2処理ガスはモノシランであること
を特徴とする請求項8に記載の基板処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−115141(P2013−115141A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−258086(P2011−258086)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】