説明

基板吸着装置

【課題】Wet処理装置(洗浄装置あるいは現像装置等液体を用いるプロセス処理機)内の基板搬送にも適用可能で、配管系の不要なコンパクトな基板吸着装置の提供を目的とした。
【解決手段】少なくとも、基板を気密に吸着するためのラッパ状の吸着口を備えるゴムパッド8と、前記ゴムパッドの基部を膜保持ハウジング30を介して気密に被覆するダイアフラム膜7と、前記ダイアフラム膜7を変形させるための圧力制御ブロック3と、を有することを特徴とする基板吸着装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス基板等を搬送用支持台に固定して長距離搬送する際に、ガラス基板を支持台に固定するために使用する基板吸着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
搬送されるワーク(以下、基板と記す。)を加工処理単位ごとに枚葉処理する生産ラインにおいては、基板を搬送する速度は生産ラインのスループットを規定する。基板(特に、破損しやすいガラスが母材となるカラーフィルタ用基板)を搬送する方法として、一次配管接続された基板吸着パッドを用いて搬送用支持体に基板裏面を固定する方法、あるいは回転するローラー(基板の裏面や端面を利用した摩擦接触駆動)が使用されてきた。特に、発塵を嫌う生産ラインにおいては、基板と支持体、支持面の界面における相対擦れが発生しない吸着パッド方式が多用されてきた。
【0003】
吸着パッドは、基板裏面形状に対してフレキシブルに追従し、吸着パッド上に基板が搭載された状態で、別途用意される1次側用力(真空)により吸着パッドと基板間の雰囲気を減圧し大気圧で押し付けあうことで基板保持力を得るものである。安定した保持力を容易に得ることができるので多方面で利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−94370号公報
【特許文献2】特開2003−191191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、吸着パッドは、真空吸着という機構であるので、Wet処理装置(本明細書では、具体的には洗浄装置あるいは現像装置等液体を用いるプロセス処理機を指す。)、すなわち何かしらの液体が基板へ付着する可能性のある装置へ適用するのが困難という問題がある。これは、吸着外れなどが生じると、真空配管内に液体が吸引されることにより、1次側用力系統にダメージを与えるためである。
また、基板を幅方向に傾斜させてWet処理装置を通した後、排出されたWet状態の基板を水平に戻して次装置へ投入するような場合、吸着パッドもローラー方式も適用が難しいという問題がある(Wet処理装置内での基板搬送はローラー方式で実施し、該装置から排出する際には、必ず乾燥させて排出する。)。基板支持面の傾斜により、吸着パッドへの印圧が不均一になり基板が安定して保持できなくからである。
また、吸着した状態で長距離搬送、例えば階間を搬送するような場合、あるいはロボットのハンドに吸着固定するような場合には、配管を引き回す必要性、配管接続先ごとの圧力伝達速度のズレ、配管からの撥塵などの問題が生じる。
【0006】
そこで本発明はWet処理装置に適用可能で、配管系の不要なコンパクトな基板吸着装置の提供を目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を達成するための請求項1に係る発明は、少なくとも、基板を気密に吸着するためのラッパ状の吸着口を備えるゴムパッドと、前記ゴムパッドの基部を膜保持ハウジングを介して気密に被覆するダイアフラム膜と、前記ダイアフラム膜を変形させるための圧力制御ブロックと、を有することを特徴とする基板吸着装置としたものである。
【0008】
本構成は、ゴムパッドのラッパ側を基板に密着させ、反対側の基部にダイアフラム膜をラッパ開口以外は気密になるように膜保持ハウジングを利用して接続したものである。基板とダイアフラム膜とゴムパッドで囲まれる密閉空間の容積が、ダイアフラム膜が該容積を増大する方向に変形すると内部圧力が低下するため、大気圧がゴムパッドと基板を密着するように作用する。ダイヤフラム膜を元の位置に戻せば、基板はゴムパッドから開放される。
【0009】
請求項2に係る発明は、前記圧力制御ブロックの圧力制御は、加圧用治具とダイアフラム膜の間に低弾性液体を液密に充填し、加圧用治具で低弾性液体を加圧することでなされることを特徴とする請求項1に記載の基板吸着装置としたものである。
【0010】
加圧用治具、例えばシリンダシャフトとダイアフラム膜を連結して直接にダイアフラム膜を変形させることも可能であるが、低弾性液体を介在させて間接的に加圧した方が、低弾性液体は容易に変形するので、ゴムパッドが接触する基板のうねりや傾きに柔軟に対応することができる。
【0011】
請求項3に係る発明は、前記圧力制御ブロックは、加圧用治具として加圧板と該加圧版を変位させるための電動シリンダを備えることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の基板吸着装置としたものである。
【0012】
請求項4に係る発明は、前記圧力制御ブロックは、加圧用治具として旋回プレートと該旋回プレートを回転させるための小型モータを備えることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の基板吸着装置としたものである。
【0013】
請求項3と請求項4はダイアフラム膜を変形させる手段を特定例示したものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明になる基板吸着装置によれば、
1、従来の真空吸着パッドに必要な1次配管系が不要で配管擦れによる撥塵がなくなる。
2、Wet処理装置内及びWetな雰囲気内においても基板固定が可能である。
3、大気圧以下の雰囲気においても十分な吸着力を発揮する。
4、傾斜した基板もそのまま吸着して搬送できる。
5、電量供給のみで、パッド⇔基板間の領域を減圧できるので真空発生装置が不要となる。
6、1次配管系の切り替え操作がないので、ガラス基板を安定して長距離搬送できる。
7、吸着パッドごとの真空圧や圧力伝達速度のバラツキがないので安定して吸着できる。8、1次真空配管がないため、配管用開口部設置による機械剛性の低下がない。
【0015】
8、についてであるが、吸着ハ゜ット゛方式で基板を搬送する場合、吸着パッドを敷き詰めるためのフレーム等構造体が必要となる。フレーム上面に吸着ハ゜ット゛を配置し、また、全てのパッドを真空配管で連結するため、フレーム上面には 比較的大きな開口(吸着パッドを固定し、配管を通すためのもの)を多数設ける必要があった。このため、フレームの強度が低下し、フレーム撓みが増加する。しかし真空配管がなければ、開口によるフレーム強度低下が大幅に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明になる基板吸着装置の第1の構成例を模式的に説明する断面斜視図である。
【図2】本発明になる基板吸着装置の第2の構成例を模式的に説明する断面斜視図である。
【図3】基板を長距離搬送するための吸着装置の使用方法を模式的に説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明になる基板吸着装置の実施形態の例として二つの構成を挙げる。
【実施例1】
【0018】
図1に基板吸着装置の概要の一例を示した。基板と接触するゴムパッド8は中空ラッパ状の形状であり、ラッパ状の吸着口31で基板と接触する。ラッパ状開口と反対側の基部側開口部は、気密性を高めるためのハウジング30を具備したダイアフラム膜7により、エアーが漏れないように気密に覆われている。ゴムパッド8は、低溶出性のゴムで成形され、ダイアフラム膜7のゴムパッド内への突出退避動作により基板、ゴムパッド、ダイアフラム、ハウジング部分により決まる容積が可変となるものである。
【0019】
尚、ラッパ状とは象徴的な意味であって、円筒状、放射状に広がるような形態も含むものとして使用している。
【0020】
内容積が増えると内部の圧力が下がるので大気圧により圧迫されることになる。内容積が増すと逆に内圧が上昇するのでゴムパッド8から基板が開放されることで基板の吸着開放動作が行われる。ゴムパッド8は内外部の圧力差で変形しない程度の剛性が必要である。
【0021】
ダイアフラム膜7と膜保持ハウジングからなる部分30は、例えばテフロン(登録商標)製のダイアフラム膜と、これを支持固定するハウジングからなっている。ダイアフラム膜7の片面は圧力制御装置の低弾性液体6(例えば、シリコンオイル)と接液し、他方の面は、ゴムパッドの基部開口部を気密に塞ぎ且つ大気にさらされている。ダイアフラム膜7は、低弾性液体6の圧力に応じて変形するため、当該液体の圧力を制御することにより、間接的にダイアフラム膜7の形状を制御できる。低弾性液体6を介在させると該液体は容易に形を変えるので、液密状態を保ったままゴムパッド8のラッパ開口面と加圧板5のなす角度を変えることができる。こうすることにより凹凸の有る基板、傾きのある基板も吸着開放動作が可能となる。
しかしながら、低弾性液体6の存在が不可欠ということではなく、シリンダシャフト4とダイアフラム膜7を回転可能なジョイント等により直結することも考えられないことではない。
【0022】
圧力制御ブロックは、液浸圧制御ブロック3と駆動ブロック1からなっている。駆動ブロック1は、液浸圧制御ブロック3に属する加圧板5とシリンダシャフト4で連結する小型電動シリンダ2を搭載し、圧力を制御するために伸縮動作をする。吸着時にはシリンダ引き動作、開放時にはシリンダ出し動作を行う。
【0023】
加圧板5の外周(端面)には、リップパッキン等駆動部に用いることができるパッキンを取り付ける。これにより、低弾性液体6が駆動ブロック1へ回り込むことを防止し、また、低弾性液体6の圧力を保持し 結果としてゴムパッド8による基板保持力を安定させることが可能となる。
【実施例2】
【0024】
図2に別の構成例を示した。実施例1とは液浸圧制御ブロックの圧力の制御方法が異なっている。
【0025】
駆動ブロック9は小型モータ10を搭載し、圧力制御時に正転/逆転する。図2の場合
では、吸着時=左回転、開放時=右回転となる。
【0026】
液浸圧制御ブロック11は、旋回軸に固定された旋回プレート14と、旋回軸とは独立している底面プレート12(図1では加圧板に相当)と、これに固定されて形成された開口部15から構成される。液浸圧制御ブロックは稼動部を備えるが、内部には低弾性液体16が液密に充填されている。旋回軸は駆動ブロックの小型モータ10のシャフトに連結してあり、旋回プレート14が回転すると、低弾性液体16を加圧/減圧する。旋回プレート14により力を受けた低弾性液体16は、底面プレート12の開口部15を通じて、ダイアフラム側と行き来する。
【0027】
実施例1,2に記載した構成の吸着装置をWet処理装置内で用いても、Wet状態にある基板を吸着して安定して搬送できる。基板と接触するゴムパッドとダイアフラム膜の間の空間がWet状態であっても、配管系が存在しないために配管系が汚染されることがないからである。
【0028】
本発明では、パッド内の液体の有無に関わらず、内部を安定に減圧可能であり、復旧処置(配管交換など)も発生しない。当然、基板が傾斜している場合や、傾斜状態を変更するような場合においても、吸着状態を維持できる。また、パッドを配置した雰囲気(圧力場)を基準として、基板と吸着口に機密された領域を相対的に減圧する機構のため、大気圧以下の雰囲気においても強い吸着力を発揮することが可能である。
【0029】
電力供給のみで負圧を発生させる(外部の真空源に頼らない)という本パッドの特徴により、当然 1次側の真空発生装置の容量を削減できるメリットが得られる。また同様に、真空配管が不要となるため、パッドをクリーン要求の高い装置へ適用する場合においては、パッド保持用のフレーム構造体の配管貫通のための開口が不要となる。このため、装置フレームの機械剛性低下を抑止できる効果も期待できる。
【0030】
次に、本基板吸着装置を長距離搬送系に適用する場合には、図3に示すように搬送ベルト19上に、所定数の基板吸着パッド21を固定した基板吸着パッドホルダー20を設置する。基板吸着パッド21へは、非接触給電にて、電力供給を行うのが望ましい。真空配管系や電気配線が省略できるので、シームレスな高速安定搬送が実現できる。
すなわち、配管・配線があると、物理的なねじれの限界があるため、装置の挙動は往復運動(1方向連続運動でない)となる。この場合、パッドがホームポジションに移動するだけの、無駄な動作・時間が発生する。本発明では、1方向連続運動が可能である。
【符号の説明】
【0031】
1、駆動ブロック
2、小型電動シリンダ
3、液浸圧制御ブロック
4、シリンダシャフト
5、加圧板
6、低弾性液体
7、ダイアフラム膜
8、ゴムパッド
9、駆動ブロック
10、小型モータ
11、液浸圧制御ブロック
12、底面プレート
13、固定ブロック
14、旋回プレート
15、開口部
16、低弾性液体
17、ダイアフラム膜
18、ゴムパッド
19、搬送ベルト
20、基板吸着パッドホルダー
21、基板吸着パッド
30、ハウシング部分
31、吸着口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、
基板を気密に吸着するためのラッパ状の吸着口を備えるゴムパッドと、
前記ゴムパッドの基部を膜保持ハウジングを介して気密に被覆するダイアフラム膜と、
前記ダイアフラム膜を変形させるための圧力制御ブロックと、を有することを特徴とする基板吸着装置。
【請求項2】
前記圧力制御ブロックの圧力制御は、加圧用治具とダイアフラム膜の間に低弾性液体を液密に充填し、加圧用治具で低弾性液体を加圧することでなされることを特徴とする請求項1に記載の基板吸着装置。
【請求項3】
前記圧力制御ブロックは、加圧用治具として加圧板と該加圧版を変位させるための電動シリンダを備えることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の基板吸着装置。
【請求項4】
前記圧力制御ブロックは、加圧用治具として旋回プレートと該旋回プレートを回転させるための小型モータを備えることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の基板吸着装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−61014(P2011−61014A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−209230(P2009−209230)
【出願日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】