説明

基板貼り合わせ装置

【課題】固有振動数付近の共振による基板貼り合わせ装置の損傷を防止する。
【解決手段】複数の基板を貼り合せる基板貼り合わせ装置であって、複数の基板を貼り合せる基板貼り合わせ装置であって、一方の基板が支持される第1ステージと、第1ステージに対向して配され、他方の基板が支持される第2ステージと、第2ステージを除振する除振部と、除振部および第2ステージを含む系の固有振動数を調整する振動数調整部とを備える。振動数調整部は、予め定められた種類の振動が外部から与えられる旨を検出した場合に、固有振動数を調整してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板貼り合わせ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の基板を積層して貼り合わせた積層型半導体装置がある(特許文献1参照)。基板を貼り合わせる場合は、半導体装置の線幅レベルの精度で基板を位置合わせする。このため、基板の貼り合わせは、除振装置により外部からの振動伝播が遮断された環境で実行される。
[先行技術文献]
[特許文献]
[特許文献1]特開2005−251972号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
除振装置は、それ自体の固有振動数に近い振動数の地震波が生じた場合に共振することがある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
そこで、本発明の一態様として、複数の基板を貼り合せる基板貼り合わせ装置であって、一方の基板が支持される第1ステージと、第1ステージに対向して配され、他方の基板が支持される第2ステージと、第2ステージを除振する除振部と、除振部及び第2ステージを含む系の固有振動数を調整する振動数調整部とを備える基板貼り合わせ装置が提供される。
【0005】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションも発明となり得る。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】貼り合わせ装置100の模式的断面図である。
【図2】貼り合わせ装置100の模式的断面図である。
【図3】貼り合わせ装置100の模式的断面図である。
【図4】貼り合わせ装置100の模式的断面図である。
【図5】貼り合わせ装置100の模式的平面図である。
【図6】貼り合わせ装置100の模式的断面図である。
【図7】貼り合わせ装置100の模式的断面図である。
【図8】貼り合わせ装置100の模式的断面図である。
【図9】貼り合わせ装置101の模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、下記の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態で説明される特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0008】
図1は、貼り合わせ装置100の模式的断面図である。貼り合わせ装置100は、全体定盤120、粗動用定盤132および微動用定盤152を含む。
【0009】
全体定盤120は、貼り合わせ装置100を設置する床上に水平に固定される。粗動用定盤132は、全体定盤120上に、支柱136を介して固定される。これに対して、微動用定盤152は、除振部190を介して全体定盤120から支持される。
【0010】
微動用定盤152は、枠体110を搭載する。枠体110の内側には、粗動ステージ130、微動ステージ150および固定ステージ160が配される。固定ステージ160は、枠体110の天井面に、複数のロードセル170を介して下向きに固定される。
【0011】
また、固定ステージ160は、図示していない静電チャックを備え、貼り合わせに供する基板102の一方を下面に吸着して保持する。ロードセル170は、固定ステージ160に対して下方から上方に向かってかかる負荷を検出する。
【0012】
粗動ステージ130は、リニアアクチュエータ138を介して粗動用定盤132から支持される。よって、リニアアクチュエータ138を動作させることにより、粗動ステージ130は、粗動用定盤132に対して、図中に矢印Yで示す方向に水平に進退する。
【0013】
また、粗動ステージ130は、その上面に固定された渦電流センサ133、支持脚134およびボイスコイル135を搭載する。粗動ステージ130が水平移動した場合、渦電流センサ133、支持脚134およびボイスコイル135は、いずれも粗動ステージ130と共に移動する。
【0014】
微動ステージ150は、重力打ち消し部140を介して、微動用定盤152から支持される。微動ステージ150は、静電チャックを有し、貼り合わせに供する基板102の他方を上面に吸着して保持する。
【0015】
重力打ち消し部140は、粗動ステージ130を重力方向に貫通して配される。重力打ち消し部140の側面と粗動ステージ130の間は、エアベアリング131により潤滑される。よって、重力打ち消し部140は、粗動ステージ130に対して重力方向に自由に相対移動する。
【0016】
また、重力打ち消し部140は、下端にエアベアリング142を、上端に球面座146を有する。エアベアリング142は、微動用定盤152の上面と、重力打ち消し部140の下端面との間に気体の層流を形成して両者の摩擦を著しく低減させる。これにより、水平な駆動力を受けた重力打ち消し部140は、微動用定盤152の上面を自在に滑動する。なお、エアベアリング142に供給される気体は、乾燥空気の他、窒素ガス等の不活性ガスでもよい。
【0017】
球面座146は、重力打ち消し部140の上端面を自在に傾斜させる。これらエアベアリング142および球面座146の作用により、重力打ち消し部140に支持された微動ステージ150は、円滑に移動または揺動する。
【0018】
重力打ち消し部140は、圧力センサの検出結果を参照しつつサーボ弁を制御することにより、微動ステージ150の浮上圧力を一定に維持する。これにより、微動ステージ150を変位させるアクチュエータの負荷を軽減すると共に、微動ステージ150の慣性モーメントを減らして位置の制御精度を向上させる。
【0019】
微動ステージ150は、反射鏡157を搭載する。反射鏡157は、図示していない干渉計が射出した光を反射して干渉計に返す。これにより、制御部180は、微動ステージ150の位置を高精度に検知できる。
【0020】
また、微動ステージ150には、リニアスケール151の一端が固定される。これにより、リニアスケール151は微動ステージ150と共に変位し、重力打ち消し部140に固定されたリニアエンコーダ141と協働して、微動ステージ150の垂直方向の変位を高精度に検出する垂直変位検出部を形成する。制御部180は、この垂直変位検出部の出力を参照して微動ステージ150の動作を制御する。なお、貼り合わせ装置100が正常に動作している限り、リニアスケール151およびリニアエンコーダ141は互いに接触しない。
【0021】
更に、微動ステージ150には、永久磁石155も固定される。永久磁石155は、粗動ステージ130に固定されたボイスコイル135と協働してボイスコイルモータを形成する。制御部180は、ボイスコイル135に供給する駆動電流を制御することにより、微動ステージ150を粗動ステージ130に対して相対移動させる。なお、貼り合わせ装置100が正常に動作している限り、ボイスコイル135および永久磁石155は接触しない。
【0022】
また更に、微動ステージ150には、ターゲットプレート153も固定される。ターゲットプレート153は、粗動ステージ130に固定された渦電流センサ133と協働して、微動ステージ150の粗動ステージ130に対する相対位置を検出する相対位置検出部を形成する。制御部180は、相対位置検出部の出力を参照して、ボイスコイル135に供給する駆動電流を制御する。なお、貼り合わせ装置100が正常に動作している限り、渦電流センサ133およびターゲットプレート153は互いに接触しない。
【0023】
更に、微動ステージ150には、脚受け144も固定される。ボイスコイル135および永久磁石155により形成されたアクチュエータも、重力打ち消し部140も動作していない場合、脚受け144は、粗動ステージ130に固定された支持脚134上端と当接して微動ステージ150を下方から直接的に支持する。
【0024】
微動用定盤152を支持する除振部190は、弾性部194および緩衝部196を有する。弾性部194および緩衝部196は、微動用定盤152の下面に固定されたステージ側部材192と、全体定盤120の上面に固定されたベース側部材198との間に並列的に配される。
【0025】
全体定盤120が振動した場合、弾性部194が変形することにより、微動用定盤152への振動の伝播が遮断される。また、変形した弾性部194が元の形状を復元する場合に生じる振動は、緩衝部196の伸縮により減衰される。これにより、除振部190は、貼り合わせ装置100の外部の震動または振動を遮断する。
【0026】
ステージ側部材192およびベース側部材198の間隙の側方には、エアアクチュエータ210および楔形部材220が配される。エアアクチュエータ210は、微動用定盤152の底面に固定され、プランジャを水平に変位させる。楔形部材220は、プランジャと共に水平に移動する。
【0027】
なお、図中には一対の除振部190が描かれるが、全体定盤120および微動用定盤152の間には3基以上の除振部190が配されてもよい。これにより、除振部190上で微動用定盤152が安定する。
【0028】
また、エアアクチュエータ210および楔形部材220は、複数の除振部190の各々に対応して配してもよい。また、上記の例では、受動型の除振部190を用いたが、加速センサとアクチュエータを組み合わせた能動型の除振装置を用いて除振部190を形成してもよい。
【0029】
貼り合わせ装置100は更に、制御部180を備える。制御部180は、予め実装された、あるいは外部から読み込ませた手順に従って、貼り合わせ装置100全体の動作を制御する。また、制御部180は、貼り合わせ装置100の外部に配された地震検知部182が地震の発生を検知した場合にその旨の通知を受信する。
【0030】
地震検知部182は、例えば加速センサを用いて形成できる。あるいは、工場設備として配された共同の地震検知装置、外部の地震通知サービス等から地震発生の通知を受ける通信装置であってもよい。 更に、地震検知部182に、地震以外の原因で生じた震動を検出する機能を設けてもよい。即ち、貼り合わせ装置100自体が生じた振動、貼り合わせ装置100の設置環境において他の機材が発生した震動を検出する機能を設けてもよい。
【0031】
図示の状態にある貼り合わせ装置100では、微動ステージ150が固定ステージ160の直下からはずれた位置にある。このため、微動ステージ150の上方および固定ステージ160の下方はそれぞれ大きく空いている。よって、微動ステージ150および固定ステージ160のそれぞれに基板102を保持させまたは取り外すことができる。
【0032】
なお、貼り合わせ装置100において貼り合わせに供される基板102は、シリコン単結晶基板、化合物半導体基板等の半導体基板の他、サファイア基板、ガラス基板等の誘電体基板である場合もある。また、貼り合わされる基板102の少なくとも一方が、複数の素子を実装された半導体装置である場合がある。更に、貼り合わされる基板102の一方または両方が、既に基板102を積層して形成された積層基板104である場合もある。
【0033】
図2は、貼り合わせ装置100の模式的断面図であり、図1と共通の要素には同じ参照番号を付して重複する説明を省く。図示の貼り合わせ装置100では、微動ステージ150が固定ステージ160の直下に移動している。微動ステージ150および固定ステージ160は、それぞれ基板102を保持しつつ対向している。
【0034】
図3は、貼り合わせ装置100の模式的断面図であり、図1および図2と共通の要素には同じ参照番号を付して重複する説明を省く。図示の貼り合わせ装置100では、微動ステージ150が上昇して一対の基板102が密着している。
【0035】
このように、一対の基板102が相互に位置合わせされた状態で微動ステージ150を上昇させることにより一対の基板102が互いに密着している。更に、微動ステージ150を上昇させる駆動力を増加することにより、一対の基板102は互いに貼り合わされる。
【0036】
貼り合わされた一対の基板102は、はんだバンプ、パッド等を介して相互に電気的に結合される。これにより、基板102上の素子が相互に結合され、積層基板104が形成される。
【0037】
なお、図示の貼り合わせ装置100では、基板102が直接に取り扱われるが、基板102を吸着して保持する基板ホルダを用いることもできる。即ち、基板ホルダは、静電チャック等を有して基板102を吸着する。基板102を吸着した基板ホルダを基板と一体的に取り扱うことにより、薄くて脆い基板102の取り扱いを容易にできる。
【0038】
図4は、図1〜3の断面と直交する断面を模式的に示す断面図である。図1から図3までと共通の要素には同じ参照番号を付して重複する説明を省く。
【0039】
図示のように、粗動ステージ130をY方向に移動させるリニアアクチュエータ138の両端には、粗動ステージ130を粗動用定盤132に対してX方向に案内しつつ移動させるリニアアクチュエータ139が配される。これにより、粗動ステージ130を水平に二次元的に移動させ得ることが判る。
【0040】
移動する粗動ステージ130は、エアベアリング131を介して重力打ち消し部140に水平の変位を伝達する。よって、粗動ステージ130が移動した場合は、微動ステージ150も、粗動ステージ130の移動の水平成分と同じように移動する。これにより、リニアアクチュエータ139が動作した場合に、微動ステージ150は、固定ステージ160の直下の位置と、固定ステージ160の直下からはずれた位置との間を移動する。
【0041】
図5は、微動ステージ150を上から見下ろした様子を示す模式的平面図である。図4と共通の要素には同じ参照番号を付して重複する説明を省く。
【0042】
微動ステージ150と粗動ステージ130の間には、図4に示したボイスコイル135および永久磁石155の他に、複数のアクチュエータが設けられている。図示の例では、微動ステージ150の図中側方に一対の永久磁石155が、微動ステージ150の上方にひとつの永久磁石155がそれぞれ配される。
【0043】
また、粗動ステージ130には、永久磁石155の各々に対応したボイスコイル135が配される。これにより、紙面に並行な駆動力を発生する複数のボイスコイルモータが形成される。
【0044】
これらボイスコイルモータのうち、平行な一対のボイスコイルモータを同時且つ同方向に動作させた場合、微動ステージ150は並進する。また、複数のボイスコイルモータが異なる動作をした場合は、微動ステージ150を、粗動ステージ130に対して、Z軸回りに回転させることができる。
【0045】
更に、微動ステージ150の下面には、紙面に垂直な複数の永久磁石155が固定され、これらの永久磁石155に対応したボイスコイル135が、粗動ステージ130に固定される。これにより、紙面に垂直な複数のボイスコイルモータが形成される。
【0046】
これらボイスコイルモータを同時に同じ方向に動作させた場合、微動ステージ150は垂直方向に並進して上昇または降下する。また、これらボイスコイルモータに互いに異なる動作をさせた場合、微動ステージ150は、重力打ち消し部140の球面座146を中心として、粗動ステージ130に対して揺動する。
【0047】
制御部180は、垂直変位検出部のリニアエンコーダ141が検出した微動ステージ150の垂直変位を参照してボイスコイルモータを制御する。制御部180は、基板102を搭載した微動ステージ150が昇降する場合に、微動ステージ150の運動量に見合った重力方向の駆動力をボイスコイルモータに発生させる。また、重力打ち消し部140は、圧力センサとサーボ弁にて、一定の圧力を維持するように制御される。
【0048】
重力打ち消し部140が動作している場合、微動ステージ150の重量は、専ら、重力打ち消し部140により支持される。このため、微動ステージ150と共に上昇した脚受け144は、粗動ステージ130に固定された支持脚134の上端から離間している。
【0049】
上記のように微動ステージ150が粗動ステージ130から離間した状態で、粗動ステージ130が水平に変位した場合、粗動ステージ130の変位は、エアベアリング131を介して非接触を保ちつつ重力打ち消し部140に伝達される。重力打ち消し部140は、自身の下端に設けられたエアベアリング142により浮上しているので、粗動ステージ130と共に円滑に水平移動する。
【0050】
更に、粗動ステージ130に搭載されたボイスコイル135のいずれかに駆動電流を供給すると、ボイスコイル135が発生した磁界と永久磁石155との相互作用により、微動ステージ150が、粗動ステージ130に対して変位する。微動ステージ150と重力打ち消し部140との間には、球面エアベアリングに加えて、水平方向用エアベアリングが設けてある。そのため、微動ステージ150は、重力打ち消し部140に対して、水平方向に円滑に移動できる。
【0051】
図6は、貼り合わせ装置100の模式的断面図である。図4と共通の要素には同じ参照番号を付して重複する説明を省く。
【0052】
地震検知部182が地震の発生を検出した旨を制御部180に通知した場合、制御部180は、エアアクチュエータ210を動作させる。これにより、エアアクチュエータ210から押し出されたプランジャは、楔形部材220を水平に変位させて、ステージ側部材192およびベース側部材198の間隙に差し込む。
【0053】
ステージ側部材192およびベース側部材198の間隙に楔形部材220が位置する状態では、固定された全体定盤120と共に固定されたベース側部材198に対して、微動用定盤152と共に移動するステージ側部材192が相対移動する範囲が制限される。ここで、除振部190および当該除振部190により除振される部材からなる質量系は外部からの振動に対して共振をおこす固有振動数を生じる。ここで、固有振動数に主な影響を与えるのは、除振される部材のうち相対的に質量の大きい粗動ステージ130および微動ステージ150等である。固定された全体定盤120と共に固定されたベース側部材198に対して、微動用定盤152と共に移動するステージ側部材192が相対移動する範囲が制限されることにより、当該質量系の固有振動数が高くなる。このように、エアアクチュエータ210および楔形部材220は、除振部190および当該除振部190により除振される部材からなる質量系の固有振動数を調整する振動数調整部を形成する。
【0054】
当該質量系の固有振動数が高くなると、除振部190に支持された微動用定盤152、重力打ち消し部140および微動ステージ150において、地震により生じる揺動が制限される。よって、地震が生じた場合に、微動ステージ150と共に変位するターゲットプレート153および永久磁石155と、渦電流センサ133およびボイスコイル135との相対的な変位が抑制される。
【0055】
こうして、地震波の震動により、ターゲットプレート153が渦電流センサ133に接触することが防止される。また、永久磁石155がボイスコイル135に接触することも防止される。
【0056】
また、地震検知部182は、生じた振動のうち、予め定められた種類の振動を検知した場合に、制御部180に通知して振動数調整部を動作させてもよい。即ち、除振部190は、地震の震動の他に、貼り合わせ装置100自体が生じた振動、貼り合わせ装置100の設置環境において他の機材が発生した振動等により共振を生じる場合がある。そこで、例えば、予め判っている除振部190の固有振動数を含む振動を地震検知部182が検知した場合に、制御部180が振動数調整部を動作させてもよい。さらに、振動の有無とは別個に、制御部180に直接的に指示を与えることにより、振動調整部を作動させてもよい。
【0057】
更に、地震検知部182は、振動の有無に加えて、伝播してから後の振動の継続時間を計測して、予め定めた時間、例えば、1秒〜数秒が経過した後に振動調整部を作動させてもよい。なお、地震の震動の振動数は多くの場合10Hz以下なので、地震に関しては、その有無を検出したときに振動数調整部を動作させればよい。
【0058】
また、除振部190に楔形部材220が挿入されていない場合の上記質量系の固有振動数は、地震波の振動数に近い。このため、地震波が貼り合わせ装置100に伝わった場合、除振部190が共振を生じて、除振部190に支持された微動用定盤152、重力打ち消し部140および微動ステージ150を大きく変位させる。一方、除振部190に支持されていない全体定盤120、粗動用定盤132および粗動ステージ130は、除振部190の共振の影響を受けない。
【0059】
このため、ターゲットプレート153および永久磁石155と、渦電流センサ133およびボイスコイル135とが、それぞれ異なる変位を生じて互いに接触する場合がある。しかしながら、楔形部材220により除振部190の動作を制限された貼り合わせ装置100においては、地震波と除振部190の共振が生じないので、ターゲットプレート153および永久磁石155と、渦電流センサ133およびボイスコイル135の接触が防止される。
【0060】
なお、楔形部材220がステージ側部材192およびベース側部材198の間に挿入された状態では、除振部190の特性が変化する。よって、微動ステージ150の位置合わせ精度が低下するので、制御部180は、貼り合わせ装置100全体の動作を停止させることが好ましい。地震検知部182が地震を検知しなくなった場合は、エアアクチュエータ210を収縮させて楔形部材220を引き抜くことにより、除振部190の所期の性能を取り戻すことができる。
【0061】
また、前述したように、全体定盤120および微動用定盤152の間には複数の除振部190が設けられる。この場合、エアアクチュエータ210および楔形部材220により形成される振動数調整部も複数の除振部190の各々に設けてもよい。
【0062】
更に、エアアクチュエータ210が動作した場合、および、地震の震動が継続する間は、楔形部材220と、ステージ側部材192またはベース側部材198との衝突が繰り返される。よって、楔形部材220は、除振部190から受ける衝撃に耐え得る高い強度および剛性と、ステージ側部材192およびベース側部材198のいずれよりも高い表面硬度、例えば、ビッカース硬度で50以上を有することが好ましい。このような表面硬度を有する材料としては、焼き入れ処理による硬化加工が有効なステンレス鋼を例示できる。
【0063】
図7は、貼り合わせ装置100の模式的断面図である。図4および図5と共通の要素には同じ参照番号を付して重複する説明を省く。
【0064】
図示の状態では、微動ステージ150の重量により動作を停止した重力打ち消し部140が短縮し、微動ステージ150が降下している。このため、微動ステージ150の下面に固定された脚受け144が、粗動ステージ130に固定された支持脚134の上端に当接している。これにより、微動ステージ150は、粗動ステージ130から機械的に支持されている。
【0065】
また、図示の状態においては、エアアクチュエータ210も動作を解除されて短縮し、楔形部材220が、ステージ側部材192およびベース側部材198の間隙から抜き出されている。よって、除振部190および当該除振部190により除振される部材からなる質量系は、再び低い固有振動数を有する状態にある。
【0066】
なお、既に説明した通り、除振部190に楔形部材220が挿入されていない場合の当該質量系の固有振動数は地震波の振動数に近い。このため、地震が生じた場合に除振部190に共振が生じ、除振部190により支持された微動用定盤152および重力打ち消し部140が大きく変位する。
【0067】
一方、除振部190に支持されていない全体定盤120、粗動用定盤132および粗動ステージ130と、粗動ステージ130から支持脚134および脚受け144を通じて支持された微動ステージ150とは、除振部190の共振の影響を受けない。このため、地震が生じた場合に、粗動ステージ130と共に変位する微動ステージ150およびリニアスケール151と、重力打ち消し部140およびリニアエンコーダ141とが相対的に大きく変化して接触する場合がある。
【0068】
図8は、貼り合わせ装置100の模式的断面図である。図7と共通の要素には同じ参照番号を付して重複する説明を省く。
【0069】
地震検知部182が地震の発生を検出した旨を制御部180に通知した場合、制御部180は、エアアクチュエータ210を動作させる。これにより、エアアクチュエータ210から押し出されたプランジャは、楔形部材220を水平に移動させて、除振部190のステージ側部材192およびベース側部材198の間隙に差し込む。
【0070】
ステージ側部材192およびベース側部材198の間隙に楔形部材220が位置する場合、固定された全体定盤120と共に固定されたベース側部材198に対して、微動用定盤152と共に移動するステージ側部材192が相対移動する範囲が制限される。これにより、除振部190の剛性が増す。このように、エアアクチュエータ210および楔形部材220は、除振部190を含む質量系の固有振動数を上げる振動数調整部を形成する。
【0071】
除振部190の剛性が高くなると、除振部190に支持された微動用定盤152および重力打ち消し部140において、地震により生じる揺動の範囲が制限される。これにより、粗動ステージ130と共に変位する微動ステージ150およびリニアスケール151と、重力打ち消し部140およびリニアエンコーダ141との相対的な変位が抑制され、リニアエンコーダ141およびリニアスケール151の接触が防止される。
【0072】
なお、微動ステージ150の脚受け144が、粗動ステージ130の支持脚134に当接するのは、重力打ち消し部140を始めとする貼り合わせ装置100が停止している場合である。よって、貼り合わせ装置100が停止している場合であっても、地震検知部182からの通知によりエアアクチュエータ210を動作させる制御部180の機能は有効にしておくことが好ましい。あるいは、貼り合わせ装置100を停止した場合には、予めエアアクチュエータ210を動作させて、楔形部材220を、ステージ側部材192およびベース側部材198の間隙に差し込んでおいてもよい。
【0073】
図9は、他の貼り合わせ装置101の模式的断面図である。貼り合わせ装置101は、以下に説明する部分を除くと、図4から図8までに示した貼り合わせ装置100と同じ構造を有する。よって、共通の要素には同じ参照番号を付して重複する説明を省く。
【0074】
貼り合わせ装置101は、全体定盤120に直接に搭載された地震検知部182を有する点で固有の構造を有する。また、貼り合わせ装置101は、楔形部材220に換えて設けられたコの字形部材230と、除振部190のベース側部材198に形成された水平突起部191とを備える点で固有の構造を有する。
【0075】
地震検知部182は、全体定盤120に対して固定され、地震波により全体定盤120に生じた震動を直接に検出する。また、地震検知部182は、地震の発生を検出した場合に、その旨をエアアクチュエータ210に直接に通知する。地震の発生を通知されたエアアクチュエータ210は、即座に動作して、コの字形部材230を、水平突起部191に向かって移動させる。
【0076】
水平突起部191は、ベース側部材198と一体的に形成され、除振部190からコの字形部材230の内側に向かって水平に延在する。エアアクチュエータ210が動作して伸長した場合、プランジャにおされて移動したコの字形部材230は、水平突起部191の先端に向かって水平に移動する。
【0077】
コの字形部材230は、内側に対向する斜面を有する。斜面の間隔は、コの字形部材230の先端において広く、奥に行くほど狭くなる。よって、コの字形部材230と水平突起部191との間に多少の高さの差があっても、水平突起部191は、コの字形部材230に案内されて自律的に係合する。係合したコの字形部材230は、水平突起部191を上下から挟み、ベース側部材198の昇降方向の変位を規制する。
【0078】
ここで、ベース側部材198およびステージ側部材192の間に挿入される楔形部材220と異なり、コの字形部材230は、水平突起部191を上下から挟んで係合する。これにより、全体定盤120および微動用定盤152の垂直方向の間隔が固定され、除振部190を含む質量系の固有振動数は著しく高くなる。よって、地震波により除振部190が共振を生じることはない。
【0079】
なお、上記の例は、微動用定盤152に対して固定されたエアアクチュエータ210に取り付けられたコの字形部材230が、ベース側部材198に設けた水平突起部191と係合する構造を有する。しかしながら、エアアクチュエータ210およびコの字形部材230が全体定盤120に対して固定し、水平突起部191を、ステージ側部材192と一体に設けても同じ機能を実現できる。更に、いずれの構造であっても、エアアクチュエータ210のプランジャ先端に水平突起部191を設け、除振部190側にコの字形部材を固定しても同様の機能が得られる。
【0080】
また、貼り合わせ装置101の場合も、コの字形部材230がステージ側部材192およびベース側部材198と係合した状態では、除振部190による除振性能は低下するので、微動ステージ150の位置合わせ精度が低下する。よって、制御部180は、貼り合わせ装置100全体の動作を停止させることが好ましい。地震検知部182が地震を検出しなくなった場合は、コの字形部材230を引き戻すことにより、除振部190の所期の性能を取り戻すことができる。
【0081】
更に、エアアクチュエータ210が動作した場合、および、地震の震動が継続する間は、コの字形部材230と水平突起部191の衝突が繰り返される。よって、コの字形部材230は、水平突起部191から受ける衝撃に耐え得る高い強度および剛性と、水平突起部191よりも高い表面硬度を有することが好ましい。
【0082】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0083】
100、101 貼り合わせ装置、102 基板、104 積層基板、110 枠体、120 全体定盤、130 粗動ステージ、131、142 エアベアリング、132 粗動用定盤、133 渦電流センサ、134 支持脚、135 ボイスコイル、136 支柱、138、139 リニアアクチュエータ、140 重力打ち消し部、141 リニアエンコーダ、144 脚受け、146 球面座、150 微動ステージ、151 リニアスケール、152 微動用定盤、153 ターゲットプレート、155 磁石、157 反射鏡、160 固定ステージ、170 ロードセル、180 制御部、182 地震検知部、190 除振部、191 水平突起部、192 ステージ側部材、194 弾性部、196 緩衝部、198 ベース側部材、210 エアアクチュエータ、220 楔形部材、230 コの字形部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の基板を貼り合せる基板貼り合わせ装置であって、
一方の基板が支持される第1ステージと、
前記第1ステージに対向して配され、他方の基板が支持される第2ステージと、
前記第2ステージを除振する除振部と、
前記除振部及び前記第2ステージを含む系の固有振動数を調整する振動数調整部と
を備える基板貼り合わせ装置。
【請求項2】
前記振動数調整部は、予め定められた種類の振動が外部から与えられる旨を検出した場合に、前記固有振動数を調整する請求項1に記載の基板貼り合わせ装置。
【請求項3】
前記除振部は、パッシブ型であって、前記第2ステージ側に固定されたステージ側部材、および、前記ステージ側部材に対して移動可能なベース側部材を有し、
前記振動数調整部は、前記ステージ側部材と前記ベース側部材との間に挟まれることにより固有振動数を高くする楔形部材を有する請求項1または請求項2に記載の基板貼り合わせ装置。
【請求項4】
前記楔形部材は、前記ステージ側部材および前記ベース側部材に比較して高い表面硬度および剛性を有する請求項3に記載の基板貼り合わせ装置。
【請求項5】
前記除振部は、パッシブ型であって、前記ステージ側に固定されたステージ側部材、および、前記ステージ側部材に対して移動可能なベース側部材を有し、
前記振動数調整部は、前記ステージ側部材および前記ベース側部材を挟み込むことにより固有振動数を高くするコの字状部材を有する請求項1または請求項2に記載の基板貼り合わせ装置。
【請求項6】
前記コの字状部材は、前記ステージ側部材および前記ベース側部材に比較して高い表面硬度および剛性を有する請求項5に記載の基板貼り合わせ装置。
【請求項7】
前記除振部は並列に複数配され、前記振動数調整部は、複数の前記除振部のそれぞれの固有振動数を調整する請求項1から6のいずれか1項に記載の基板貼り合わせ装置。
【請求項8】
地震を検知して前記振動数調整部に通知する地震検知部をさらに備える請求項1から7のいずれか1項に記載の基板貼り合わせ装置。
【請求項9】
地震の場合に、基板の貼り合わせ動作を停止する制御部をさらに備える請求項1から8のいずれか1項に記載の基板貼り合わせ装置。
【請求項10】
前記第2ステージは、
前記除振部に支持され、前記他方の基板を移動可能な微動ステージと、
前記微動ステージよりも大きい可動範囲で前記微動ステージを移動可能な粗動ステージと、
前記微動ステージに一方が配されるとともに前記粗動ステージに他方が配されて非接触で動作する非接触動作部材と
をさらに備える請求項1から9のいずれか1項に記載の基板貼り合わせ装置。
【請求項11】
対象物が支持されるステージと、
前記ステージを除振する除振部と、
前記除振部及び前記ステージを含む系の固有振動数を調整する振動数調整部と
を備えるステージ装置。
【請求項12】
対象物が支持されるステージを除振する除振装置であって、
前記ステージを除振する除振部と、
前記除振部及び前記ステージを含む系の固有振動数を調整する振動数調整部と
を備える除振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−156304(P2012−156304A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−14033(P2011−14033)
【出願日】平成23年1月26日(2011.1.26)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】