説明

基準信号発生装置

【課題】演算処理能力の低い安価なCPUを用いても、ホールドオーバー時における位相差を抑制して、保守作業の時間的制限等の自走発振に係わる課題を解決することができる基準信号発生装置を実現する。
【解決手段】制御部10は、1PPSが入力されている間に同期型制御電圧信号のレベルを経時的に観測し、記憶する。制御部10は、リファレンス信号の入力断を検出すると、自走用第1制御電圧信号を生成し、電圧制御発振器14へ与える。また該自走用第1制御電圧信号を用いて前記電圧制御発振器を制御している期間において、自走用第2制御電圧信号の算出を開始する。そして前自走用第2制御電圧信号の記算出が完了し次第、自走用制御電圧補正値を算出し、位相差を相殺しながら制御を続ける。以後、H.O.が終了するまで、自走用第N制御電圧信号の算出を繰り返し、高精度な基準周波数信号を発生させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、デジタル通信等の無線通信設備に用いる基準信号発生装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
携帯電話や地上波デジタル放送等の広範囲なエリアで無線システムを提供する場合には、末端の機器にデータを送信するために複数の基地局が必要となる。これらの基地局では、仕様上、高精度な基準信号すなわち基準周波数信号やタイミング信号が必要となる。そして、このような状況下で用いられる基準信号発生装置は、電圧制御発振器を備え、GPSシステムから得られる1PPSのような高精度なリファレンス信号に自装置が発生する基準信号を同期させるように、電圧制御発振器に対して制御電圧信号を与えることで、高精度な基準信号を発生している。そして、この基準信号発生装置では、特許文献1に示すように、GPS信号から得られる1PPSと発振器の出力信号とを比較して、その差からGPS信号の1PPSに常に同期するように発振器の発振制御を行っている。
【0003】
ところで、このようにGPS等の測位用衛星を用いた測位システムから得られるリファレンス信号を利用する場合、測位用衛星からの測位信号を確実且つ正確に受信し続けなければならない。しかしながら、GPSアンテナの設置位置や設置方向により測位信号が受信できなかったり、妨害波等により測位信号を正確に受信できなかったり、測位用衛星から測位信号が送信されなかったりした場合には、同期のためのリファレンス信号を得ることができない。
【0004】
このようなリファレンス信号の入力断の状態(ホールドオーバー状態)、つまり自走状態になった場合であっても周波数確度の劣化を防止する為、従来の基準信号発生装置は、特許文献2に示すように、GPS信号を受信可能な正常受信状態において、GPS信号から得られる1PPSと、内部の電圧制御型水晶発振器とを同期比較した位相差データを蓄積し、最小二乗法やカルマンフィルタ等の計算処理を行うことで自走用の制御電圧信号を推定し、受信不能状態において、その推定した値を電圧制御型水晶発振器に与えることで、受信不能状態においても高精度な基準周波数の発生を長時間維持するような構成になっており、その基準信号発生装置は前記推定が円滑に行える程度の、高性能なCPUを搭載していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−16438号公報
【特許文献2】特開平11−271476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで基準信号発生装置は、より安価、より小型化を求められる一方、ホールドオーバー(Hold Over)状態における自走用制御電圧信号には高い精度が求められる。そのためコストダウンを目指す過程においても、リファレンス断時における自走用制御電圧信号の推定に、時間を要する計算処理を必要とするため、CPUの演算処理能力を落とす事ができない。
【0007】
仮にCPUの演算処理能力を落とした場合、ホールドオーバー状態において電圧制御発振器を制御するための最適な制御電圧信号のレベルの算出が間に合わない。さらに、リファレンス断が発生してから特定時間経過後に、自走用制御電圧信号の計算処理が完了し、その時点より当該自走用制御電圧信号を用いて電圧制御発振器を制御したとしても、リファレンス断時から計算処理完了までの期間においての基準信号のズレは位相差として積算される。
【0008】
図4は、従来の基準信号発生装置の課題を説明するための、電圧制御発振器に与える制御電圧信号のレベル(DAC値)の時間遷移を示した図である。
【0009】
図4(A)は従来の高性能なCPUを搭載した基準信号発生装置における、従来のホールドオーバー(以下、H.O.)発生前後の制御電圧信号の推移を示したものである。図4(A)において、101(b)は、H.O.発生までの実測されたDAC値の時間遷移を示し、101(i)は、H.O.が発生しなかったものとした場合の、H.O.発生タイミング以降のDAC値の時間遷移を示している。201は、H.O.発生時において、H.O.発生から予め設定した時間長まで過去に遡ったT(M)までの区間の制御電圧信号の推移に基づいて算出される推定曲線であり、201(a)は、推定曲線に基づいて算出される自走用制御電圧信号のレベル(自走DAC値)である。H.O.発生後は、この自走DAC値を電圧制御発振器に与える事で制御を行う。これにより高性能なCPUを搭載している場合は、H.O.発生後も高精度の自走DAC値が得られ、H.O.が発生しなかった場合の真値のDAC値との位相差(図中の斜線部)は小さくなる。
【0010】
一方、図4(B)は計算処理速度の遅い安価なCPU用いた基準信号発生装置における、H.O.発生前後の制御電圧信号の推移を示したものである。図4(B)において、101(b)、101(i)、201は図4(A)の説明と同様である。ただし安価なCPUを用いた場合、H.O.発生時において算出するべき推定曲線201は、そのCPUの演算処理能力に応じて所定時間長だけ算出が遅れる。そのため推定曲線201を用いた前記自走用制御電圧信号を前記電圧制御発振器に与えられるのはTs以降となる。よって、H.O.発生後からTsまでの間は計算処理が完了していないため、例えば、H.O.発生時の制御電圧信号のレベルでDAC値を固定する等の処理を行わなければならない。しかしながら、このようにDAC値を固定して前記電圧制御発振器に印加する行為は図中の斜線部である位相差を大きくする要因となる。
【0011】
このような位相差はシステムおよび装置仕様として許容範囲が設定されており、許容範囲を超えた場合にはシステムに悪影響を与える。このため、例えば、H.O.が発生すると、通常は、H.O.発生の警告を通知し、経験的に一律に設定された許容範囲を超えない期間中に作業者が補正を行う等の保守を行う。しかし、演算処理能力の低いCPUを用いる事で、保守作業が必要以上に時間的制限を受ける等の課題を有していた。
【0012】
したがって、本発明の目的は、演算処理能力の低い安価なCPUを用いてもホールドオーバー時における位相差を抑制して、保守作業の時間的制限等の自走発振に係わる課題を解決することができる基準信号発生装置を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明は以下の構成を有する。
本発明の基準信号発生装置は、外部からのリファレンス信号と電圧制御発振器の出力する基準信号から得られる調整用タイミング信号との位相差を取得し位相差信号を出力する位相比較器と、前記位相差信号から制御電圧信号を生成するループフィルタと、前記制御電圧信号に基づいて前記基準信号を発生する電圧制御発振器と、所定の起点時間から所定時間長だけ遡る期間の前記制御電圧信号のレベルを記憶する記憶手段と、前記リファレンス信号の入力断が発生すると、該入力断の時点の制御電圧信号に基づく自走用第1制御電圧信号を生成し、前記制御電圧信号に替えて該自走用第1制御電圧信号を前記電圧制御発振器へ与える制御手段と、を備えた基準信号発生装置であって、前記制御手段は、前記自走用第1制御電圧信号を用いて前記電圧制御発振器を制御している期間において、前記入力断の時点から予め設定した時間長まで過去に遡った区間の制御電圧信号の推移に基づく自走用第2制御電圧信号を生成し、前記自走用第1制御電圧信号に替えて該自走用第2制御電圧信号を前記電圧制御発振器へ与えることを特徴とする。
【0014】
この構成では、前記入力断直後より前記電圧制御発振器へ与える前記自走用第1制御電圧信号として、該入力断の時点の制御電圧信号に基づく制御電圧信号、例えば入力断の時点の制御電圧信号をそのまま用いるので、演算能力の低いCPUで計算処理を行っても前記制御電圧信号から前記自走用第1制御電圧信号への切り替えに支障が出ない。また前記自走用第2制御電圧信号の算出のために参照する前記制御電圧信号の推移の前記過去に遡る期間は、推定曲線を精度よく計算できるだけの長い期間を用いる。これにより、前記入力断が発生しても前記自走用第1制御電圧信号を前記電圧制御発振器に与える事で、基準信号を停止させることなく、精度のよい推定曲線を算出するだけの時間を得る事が出来る。
【0015】
また、本発明の基準信号発生装置は、外部からのリファレンス信号と電圧制御発振器の出力する基準信号から得られる調整用タイミング信号との位相差を取得し位相差信号を出力する位相比較器と、前記位相差信号から制御電圧信号を生成するループフィルタと、前記制御電圧信号に基づいて前記基準信号を発生する電圧制御発振器と、所定の起点時間から所定時間長だけ遡る期間の前記制御電圧信号のレベルを記憶する記憶手段と、前記リファレンス信号の入力断が発生すると、該入力断の時点から予め設定した時間長まで過去に遡った区間の制御電圧信号の推移に基づく自走用第1制御電圧信号を生成し、前記制御電圧信号に替えて前記自走用第1制御電圧信号を前記電圧制御発振器へ与える制御手段と、を備えた基準信号発生装置であって、前記制御手段は、前記自走用第1制御電圧信号を用いて前記電圧制御発振器を制御している期間において、前記過去に遡る前記所定時間長よりも長い特定時間長からなる区間内の前記制御電圧信号のレベルに基づいて自走用第2制御電圧信号を生成し、前記自走用第1制御電圧信号に替えて該自走用第2制御電圧信号を前記電圧制御発振器へ与えることを特徴とする。
【0016】
この構成では、前記入力断直後より前記電圧制御発振器へ与える前記自走用第1制御電圧信号の算出のために参照する前記制御電圧信号の推移の前記過去に遡る期間は、演算能力の低いCPUで計算処理を行っても前記制御電圧信号から前記自走用第1制御電圧信号への切り替えに支障が出ない程度の短い期間が用いられる。また前記自走用第2制御電圧信号の算出のために参照する前記制御電圧信号の推移の前記過去に遡る期間は、推定曲線を精度よく計算できるだけの長い期間を用いる。これにより、前記入力断が発生しても前記自走用第1制御電圧信号を前記電圧制御発振器に与える事で、基準信号を停止させることなく、精度のよい推定曲線を算出するだけの時間を得る事が出来る。
【0017】
また、本発明の基準信号発生装置は、前記入力断から前記自走用第2制御電圧信号算出完了までの期間における、前記自走用第1制御電圧信号のレベルと前記自走用第2制御信号のレベルをもとに自走用制御電圧補正値を算出し、前記自走用第2制御電圧信号のレベルを前記自走用制御電圧補正値にて補正したものを前記電圧制御発振器へ与えることを特徴とする。
【0018】
この構成では、前記入力断から前記自走用第2制御電圧信号の算出完了までの期間において発生する位相差に関して、位相差が周波数誤差の積算値であることに着目し、該区間における前記自走用第1制御電圧信号と前記自走用第2制御電圧信号との差分の積算値と逆符号の値を前記自走用制御電圧補正値として前記自走用第2制御電圧信号のレベルに加算し、位相差を相殺する事で解決している。
【0019】
また、本発明の基準信号発生装置は、Nを2以上の正の整数として、自走用第(N−1)制御電圧信号の生成が完了し、該自走用第(N−1)制御電圧信号を用いて前記電圧制御発振器を制御している期間において、該自走用第(N−1)制御電圧信号の算出に用いた過去に遡る所定時間長よりも長い特定時間長からなる区間内の前記制御電圧信号のレベルに基づいて自走用第N制御電圧信号を生成し、前記自走用第(N−1)制御電圧信号に替えて該自走用第N制御電圧信号を前記電圧制御発振器へ与えることを特徴とする。
【0020】
この構成では、自走用の制御電圧信号の算出を多段階にしている。これにより入力断直後は算出に要する時間をできるだけ短くしながらも、徐々に推定曲線の精度を高めるための演算に時間の掛かる処理を行ってゆくことができ、算出完了に要する時間と推定曲線の精度とのトレードオフに関する問題が解決できる。
【0021】
また、本発明の基準信号発生装置は、前記入力断から前記自走用第N制御電圧信号算出完了までの期間における、前記自走用第1制御電圧信号のレベルから前記第N自走用制御信号のレベルまでの値をもとに自走用制御電圧補正値を算出し、前記自走用第N制御電圧信号のレベルを前記自走用制御電圧補正値にて補正したものを前記電圧制御発振器へ与えることを特徴とする。
【0022】
この構成では、入力断から最新の時点までに算出した各自走用の制御電圧信号のレベルを、算出が完了した最新の自走用制御電圧信号のレベルで減算し、その差分値の総和を取る事で、位相差を小さくするための自走用制御電圧補正値を算出している。これにより自走用の制御電圧信号を多段階で算出した場合も、位相差を相殺することが可能となる。
【発明の効果】
【0023】
この発明によれば、演算処理能力の低い安価なCPUを用いても、同期用のリファレンス信号を得られないような状況で、高精度な基準周波数信号を出力することができるので、保守作業の時間的制限等の自走発振に係わる課題を解決することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態に係る基準信号発生装置およびこの装置にリファレンス信号を与える回路を示す概略ブロック図である。
【図2】自走用制御電圧信号の算出および自走用制御電圧補正値の算出の処理フローを示すフローチャートである。
【図3】本発明における自走DAC値の遷移曲線の一例を示した図である。
【図4】一般的な自走DAC値の遷移曲線の一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の実施形態に係る基準信号発生装置について図を参照して説明する。
図1は、本実施形態の基準信号発生装置およびこの装置にリファレンス信号を与える回路を示す概略ブロック図である。なお、以下の説明では、GPSを用いてリファレンス信号を取得する例を示すが、他のGNSSを用いても良く、さらには外部装置からリファレンス信号を取得しても良い。
【0026】
本実施形態の基準信号発生装置1は、制御部10、位相比較器11、ループフィルタ12、スイッチ回路13、電圧制御発振器14、分周器15、およびメモリ16を備える。
【0027】
この基準信号発生装置1にはGPS受信機2が接続されており、GPS受信機2にはGPSアンテナ3が接続されている。GPS受信機2は、GPSアンテナ3で受信した測位用信号に基づいて航法メッセージ等の測位関連情報を取得するとともに、リファレンス信号である1PPSを生成し、制御部10と位相比較器11に与える。
【0028】
位相比較器11は、1PPSと、電圧制御発振器14から出力される基準周波数信号(基準信号に相当)を分周器15で分周してなる調整用タイミング信号との位相差を検出し、当該位相差に基づく電圧レベルの位相差信号を生成して出力する。
【0029】
ループフィルタ12は、ローパスフィルタ等により構成され、位相差信号の電圧レベルを時間軸上で平均化することで、制御電圧信号を生成して制御部10とスイッチ回路13へ出力する。
【0030】
スイッチ回路13は、電圧制御発振器14の制御信号入力端子に対して、ループフィルタ12または制御部10の何れか一方を接続するように切り替え可能とする回路である。この切り替えは、制御部10からの切替制御信号に応じて行われる。
【0031】
電圧制御発振器14は、スイッチ回路13から入力される制御電圧信号のレベル(同期DAC値)もしくは自走用制御電圧信号のレベル(自走DAC値)に基づいて、所定周波数の基準周波数信号を発生する。
【0032】
分周器15は基準周波数信号を分周して調整用タイミング信号を発生し、位相比較器11へ与える。
【0033】
メモリ16は、制御部10によって読み書きされ、ループフィルタ12から出力される同期DAC値や制御部10が推定した演算係数等を記憶する。メモリ16は、同期DAC値に関してリングバッファメモリとして機能し、新たな同期DAC値を書き込む時点から所定期間長(例えば72時間等)に亘る過去の同期DAC値を記憶する。この際、メモリ16は、制御部10によって、予め設定した時間間隔毎(例えば100秒毎)の記憶タイミングで、同期DAC値を更新記憶する。
【0034】
制御部10は、基準信号発生装置1を動作させる各種制御を行う。制御部10は、安価なCPU等で構成され、GPS受信機2からの1PPS受信断を検出すると、メモリ16に記憶されている同期DAC値を読み出し、制御電圧信号を求めるために、推定曲線を算出する。この推定曲線の算出は、予め設定した所定の演算用関数に対してカルマンフィルタや最小二乗法等を適用することで行われる。
【0035】
また、制御部10は、GPS受信機2から1PPSの受信の有無に応じてスイッチ回路13の切替制御を行う。具体的には、制御部10は、GPS受信機2から1PPSを取得できればループフィルタ12と電圧制御発振器14とを接続するように切替制御信号をスイッチ回路13へ与える。
【0036】
一方、制御部10は、GPS受信機2から1PPSを取得できなければ、すなわちリファレンスの入力断を検出すれば、自身(制御部10)と電圧制御発振器14とを接続するように切替制御信号をスイッチ回路13へ与える。そして、制御部10は、リファレンスの入力断を検出した時点で、上述の演算用係数を読み出して、当該演算用係数に基づいて自走DAC値を算出して出力する。
【0037】
このような構成の基準信号発生装置において、制御部10は、さらに以下に示すような自走用制御電圧信号の算出処理を行う。
【0038】
図2は、ホールドオーバー(H.O.)発生時における自走用電圧制御信号を算出する際の処理フローを示すフローチャートであり、Nを2以上の正の整数として、自走用の制御電圧信号の算出をN段階で行う場合を表している。また図3は、H.O.発生前後におけるDAC値の例を示す図である。101(b)、101(i)、201は図4(A)の説明と同様である。
【0039】
基準信号発生装置1が起動操作されると、内部の各機能部が起動し、制御部10は計時を開始する(S101)。この起動とともに、制御部10は、GPS受信機2からの1PPS信号の入力を確認すると、ループフィルタ12と電圧制御発振器14とを接続するようにスイッチ回路13を制御する。これに伴い、位相比較器11、ループフィルタ12、スイッチ回路13、電圧制御発振器14、分周器15からなるPLL回路が形成され、GPS受信機2からの1PPS信号に同期した基準周波数信号が出力される。この基準周波数信号の生成工程において、ループフィルタ12からは位相比較器11の位相差信号に応じた同期DAC値が出力される。制御部10は、この同期DAC値を、予め設定した記憶タイミング毎に取得してメモリ16へ記憶する(S102)。
【0040】
制御部10は、リファレンス信号の入力断を検出すると(S103:Yes)、メモリ16に記憶した同期DAC値を読み出し、この同期DAC値を用いて最小二乗法や、または平均値などを計算することで、自走用第一制御電圧信号を生成する(S104)。この際、制御部10は、リファレンス信号の入力断から所定時間長だけ遡る(図3における時刻T(1)から入力断までの)期間の同期DAC値を読み出す。
【0041】
また、前記所定時間長は、安価なCPUを用いても自走用第一制御電圧信号の算出が直ぐに完了できる程度の、例えば120秒程度の短い時間長が通常は設定されるが、入力断の時点の制御電圧信号に基づく制御電圧信号、例えば入力断の時点の制御電圧信号をそのまま用いることも可能である。
【0042】
また、自走用第一制御電圧信号が算出されれば、該自走用第1制御電圧信号が電圧制御発振器14に印加され、制御される(S105)。この自走用第1制御電圧信号のレベルは、例えば、図3における推定曲線201(a1)のようになる。
【0043】
制御部10は、自走用第1制御電圧信号にて電圧制御発振器14を制御している期間において、自走用第1制御電圧信号を算出するために過去に遡る所定時間長よりも、長い特定時間長からなる(図3における時刻T(2)から入力断までの)区間内の同期DACに基づいて自走用第2制御電圧信号(N=2)を算出する(S106,S107)。
【0044】
この自走用第2制御電圧信号は、前記区間における同期DACを用いて最小二乗法、カルマンフィルタ等を利用して算出を行う。またこの算出方法は自走用第1制御電圧信号算出のときとは異なる方法を用いてもよい。例えば自走用第1制御電圧信号には算出速度が要求されるため平均を用いて処理を軽くしたり、上述のように入力断の時点の制御電圧信号をそのまま用いるようにし、自走用第2制御電圧信号には精度が要求されるため最小二乗法を用いる方が有効となる。
【0045】
制御部10は、自走用第2制御電圧信号の算出が完了したか否かを判定し(S108)、算出が完了しない限り、自走用第1制御電圧信号を用いて電圧制御発振器14を制御し続ける(S181)。また自走用第2制御電圧信号の算出が完了した場合は、自走用第1制御電圧信号と自走用第2制御電圧信号に基づいて、自走用制御電圧補正値を算出する(S109)。
【0046】
この自走用制御電圧補正値は、もっとも最近に生成された自走用制御電圧信号(自走用第2制御電圧信号)を真値と考え、それより過去に生成された自走用制御電圧信号(自走用第1制御電圧信号)で制御していた区間は誤差が生じていたものと考えて、その区間の誤差を相殺する方向に自走用制御電圧補正値を設定する。
【0047】
例えば図3において、自走用第2制御電圧信号の算出が完了した時刻がTsであり、算出した自走用第2制御電圧信号のレベルが201である場合、H.O.からTsまでの区間における推定曲線201と推定曲線201(a)とで挟まれる面積(積分値)は真値に対する誤差であると考えられ、この積分値の符号を逆転させたものが自走用制御電圧補正値となる。
【0048】
これは位相差が周波数の積分値であり、積分値の逆符号を加算することによって位相差が相殺されることを利用している。
【0049】
また、この自走用制御電圧補正値は自走用第2制御電圧信号に加算することで位相差を相殺できるが、自走用制御電圧補正値は自走用第2制御電圧信号に瞬時的に加算してもよいし、特定区間長に分割して加算してもよい。例えば自走用制御電圧補正値が100であった場合、自走用第2制御電圧信号に100を1秒だけ加算してもよいし、10を10秒間に分割して加算してもよい。
【0050】
ただし、一般的には基準信号発生装置におけるリファレンスの入力断時には、周波数にも位相差と同様に装置仕様としての許容範囲が定められているため、それらを超えないようにするためには、分割して加算するほうが好ましい。いずれにせよ、自走用制御電圧補正値をすべて加算した後(図3におけるTt以降)は、自走用第2制御電圧信号のみ(図3における202(a2))で電圧制御発振器14を制御する(S110)。
【0051】
制御部10は、リファレンスの入力断が発生してから特定時間長が経過した時点で、H.O.から仕様値を保証しない、H.O.外へとなり、処理が終了する(S111:Yes)。また、リファレンスの入力断が発生してから特定時間長が経過していない場合(S111:No)は、以後、Nの値を1つインクリメントし(S112)、上記と同様に第N自走用制御電圧信号の生成と自走用制御電圧補正値、および電圧制御発振器14の制御を継続する。
【0052】
これにより、時間の経過に伴って第N自走用制御電圧信号は高精度となり、高精度な自走用制御電圧信号を得て、高精度な基準周波数信号を発生することができる。また第N自走用制御電圧信号の算出までの位相差を自走用制御電圧補正値にて補正しながら制御を行うこともできる。
【符号の説明】
【0053】
1 基準周波数信号発生装置
2 GPS受信機
3 GPSアンテナ
10 制御部
11 位相比較器
12 ループフィルタ
13 スイッチ回路
14 電圧制御発振器
15 分周器
16 メモリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部からのリファレンス信号と電圧制御発振器の出力する基準信号から得られる調整用タイミング信号との位相差を取得し位相差信号を出力する位相比較器と、
前記位相差信号から制御電圧信号を生成するループフィルタと、
前記制御電圧信号に基づいて前記基準信号を発生する電圧制御発振器と、所定の起点時間から所定時間長だけ遡る期間の前記制御電圧信号を記憶する記憶手段と、
前記リファレンス信号の入力断が発生すると、該入力断の時点の制御電圧信号に基づく自走用第1制御電圧信号を生成し、前記制御電圧信号に替えて該自走用第1制御電圧信号を前記電圧制御発振器へ与える制御手段と、を備えた基準信号発生装置であって、
前記制御手段は、
前記自走用第1制御電圧信号を用いて前記電圧制御発振器を制御している期間において、前記入力断の時点から予め設定した時間長まで過去に遡った区間の制御電圧信号の推移に基づく自走用第2制御電圧信号を生成し、前記自走用第1制御電圧信号に替えて該自走用第2制御電圧信号を前記電圧制御発振器へ与えることを特徴とする基準信号発生装置。
【請求項2】
外部からのリファレンス信号と電圧制御発振器の出力する基準信号から得られる調整用タイミング信号との位相差を取得し位相差信号を出力する位相比較器と、
前記位相差信号から制御電圧信号を生成するループフィルタと、
前記制御電圧信号に基づいて前記基準信号を発生する電圧制御発振器と、所定の起点時間から所定時間長だけ遡る期間の前記制御電圧信号を記憶する記憶手段と、
前記リファレンス信号の入力断が発生すると、該入力断の時点から予め設定した時間長まで過去に遡った区間の制御電圧信号の推移に基づく自走用第1制御電圧信号を生成し、前記制御電圧信号に替えて該自走用第1制御電圧信号を前記電圧制御発振器へ与える制御手段と、を備えた基準信号発生装置であって、
前記制御手段は、
前記自走用第1制御電圧信号を用いて前記電圧制御発振器を制御している期間において、前記過去に遡る前記所定時間長よりも長い特定時間長からなる区間内の前記制御電圧信号に基づいて自走用第2制御電圧信号を生成し、前記自走用第1制御電圧信号に替えて該自走用第2制御電圧信号を前記電圧制御発振器へ与えることを特徴とする基準信号発生装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記入力断から前記自走用第2制御電圧信号算出完了までの期間における、前記自走用第1制御電圧信号と前記自走用第2制御信号をもとに自走用制御電圧補正値を算出し、
前記自走用第2制御電圧信号を前記自走用制御電圧補正値にて補正したものを前記電圧制御発振器へ与える、請求項1または2に記載の基準信号発生装置。
【請求項4】
前記制御手段は、Nを2以上の整数として、自走用第(N−1)制御電圧信号の生成が完了し、該自走用第(N−1)制御電圧信号を用いて前記電圧制御発振器を制御している期間において、該自走用第(N−1)制御電圧信号の算出に用いた過去に遡る所定時間長よりも長い特定時間長からなる区間内の前記制御電圧信号に基づいて自走用第N制御電圧信号を生成し、前記自走用第(N−1)制御電圧信号に替えて該自走用第N制御電圧信号を前記電圧制御発振器へ与えることを特徴とする請求項1または2に記載の基準信号発生装置。
【請求項5】
前記制御手段は、Nを2以上の整数として、前記入力断から前記自走用第N制御電圧信号算出完了までの期間における、前記自走用第1制御電圧信号から前記第N自走用制御信号までの値をもとに自走用制御電圧補正値を算出し、
前記自走用第N制御電圧信号を前記自走用制御電圧補正値にて補正したものを前記電圧制御発振器へ与える、請求項4に記載の基準信号発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−193337(P2010−193337A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−37464(P2009−37464)
【出願日】平成21年2月20日(2009.2.20)
【出願人】(000166247)古野電気株式会社 (441)
【Fターム(参考)】