説明

塗工装置

【課題】光学フィルム製造用のロール金型の表面に、保護皮膜剤の溶媒を過剰に拡散させることなく、均一な膜厚の剥離容易な保護皮膜を形成することが可能な塗工装置を提供する。
【解決手段】本発明の塗工装置は、光学フィルム製造用のロール金型に保護皮膜剤を塗工する塗工装置であって、中心軸が水平となるように配置されたロール金型3に対して、ロール金型3の中心軸を含む水平面より上方に配置され、中心軸の方向に延在する塗工ブレード2と、塗工ブレード上に設けられ、塗工ブレード上の保護皮膜剤である塗工液の流動領域を規定する一対のプレート7a,7bからなる液止めと、塗工ブレードがロール金型の表面から一定の距離を保つように設けられ、塗工ブレードよりロール金型の近くに位置するストッパー8と、所定の回転速度でロール金型を回転させる回転手段と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルム製造用のロール金型に保護皮膜剤を塗工する塗工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
表面に微細な凹凸形状を有する拡散フィルムや防眩フィルムなどの各種光学フィルムの製造方法として、所定の微細凹凸形状と逆型の金型を作製し、該金型を用いて、ホットエンボス法やUVエンボス法などの方法を用いることが知られている(特許文献1〜3)。このようなエンボス法を用いて光学フィルムを製造する際に、金型をロール状にすれば、光学フィルムを連続的なロール状で製造することができて、量産性に優れる。
【0003】
しかしながら、このような光学フィルム製造用のロール金型は、保管中に錆が発生したり、汚れや異物などが付着したりすることによって、その表面が劣化することがあった。このように表面が劣化した金型を用いて光学フィルムを製造した場合には、得られる光学フィルムに欠陥が発生することになる。光学フィルムに発生する欠陥は、光学フィルム製造用のロール金型の径に依存した周期性を有することになり、量産性が著しく低下する。
【0004】
金型の表面の錆の発生を防止するために、防錆油を塗布した状態で金型を保管することが知られている。しかしながら、防錆油を塗布した場合には、防錆油を除去する必要があり、防錆油を除去するための工数が必要となり、加えて、防錆油を完全に除去できなかった場合には、得られる光学フィルムに欠陥が発生するという問題もあった。また、防錆油を除去する際に金型を傷つける恐れもあった。さらに、光学フィルム製造用のロール金型の中には機能面などの制約から防錆油の塗布が困難なものも存在した。
【0005】
防錆油が使用できない場合には、気化性防錆紙で金型を包装して保管する方法が知られている(特許文献4)。また、密閉容器中に光学フィルム製造用のロール金型を入れ密閉容器中の空気を窒素ガスなどの非酸化性ガスで置換して保管する方法や、密閉容器中に光学フィルム製造用のロール金型を入れ脱酸素剤とともに保管する方法も知られている(特許文献5)。
【0006】
さらに、水溶性アミノ官能性シランカップリング剤を含む防錆処理剤に、防錆すべき基体を浸漬し、乾燥させることにより防錆処理を施すことが知られている(特許文献6)。また、ロール状の基体にコーティング液を塗布する装置として、塗布ロールを用いた塗布装置も知られている(たとえば、特許文献7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−53371号公報
【特許文献2】特開2007−187952号公報
【特許文献3】特開2007−237541号公報
【特許文献4】特開2001−10679号公報
【特許文献5】特開平7−291364号公報
【特許文献6】特開2006−28597号公報
【特許文献7】特開2001−170532号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、気化性防錆紙を使用する場合には、梱包や搬送時に防錆紙との摩擦等によって、防錆紙自体もしくは防錆紙と金型との間に異物が入り、該異物が光学フィルム製造用のロール金型の表面を傷つける恐れがあった。また、特許文献6には、100℃以上に加熱して防錆剤を乾燥させるのが好ましいことが記載されており、この乾燥によって、光学フィルム製造用のロール金型の微細な表面形状の精度に影響を及ぼす恐れがあり、さらに防錆剤の除去においては上述の防錆油と同様の問題が生じる場合があった。また、特許文献7に記載の方法は、塗布ロールを回転させてコーティング液を付着させるため溶媒が広く拡散してしまうという問題があり、さらに基体の大きさが変わった場合に対応できないという問題があった。
【0009】
本発明は、光学フィルム製造用のロール金型の表面に、保護皮膜剤の溶媒を過剰に拡散させることなく、均一な膜厚の剥離容易な保護皮膜を形成することが可能な塗工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、光学フィルム製造用のロール金型に保護皮膜剤を塗工する塗工装置であって、中心軸が水平となるように配置されたロール金型に対して、ロール金型の中心軸を含む水平面より上方に配置され、中心軸の方向に延在する塗工ブレードと、塗工ブレード上に設けられ、塗工ブレード上の保護皮膜剤である塗工液の流動領域を規定する一対のプレートからなる液止めと、塗工ブレードがロール金型の表面から一定の距離を保つように設けられ、塗工ブレードよりロール金型の近くに位置するストッパーと、所定の回転速度でロール金型を回転させる回転手段と、を備える、塗工装置を提供する。
【0011】
本発明の塗工装置は、好ましくは、塗工ブレードを、鉛直方向と、ロール金型の中心軸に直交する水平方向とに移動させる移動手段をさらに備える。塗工ブレードは、フッ素樹脂からなることが好ましい。液止めを構成する一対のプレートおよびストッパーは、それぞれ塗工ブレードの延在方向に移動可能に設けられていることが好ましい。
【0012】
本発明の塗工装置による塗工対象の上記ロール金型は、表面に凹凸形状を有する防眩フィルム製造用の金型であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の塗工装置によると、光学フィルム製造用のロール金型の表面に、保護皮膜剤の溶媒を過剰に拡散させることがなく、またロール金型表面を傷つけることがなく、均一な膜厚で容易に剥離可能な保護皮膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の塗工装置の一例を示す断面図である。
【図2】図1に示す塗工装置における塗工ブレード周辺の構成要素を詳細に示す上面斜視図である。
【図3】塗工ブレードの固定部材への取り付け位置を説明するための模式図である。
【図4】図1に示す塗工装置における塗工ブレードと、液止めを構成するプレートおよびストッパーとの位置関係を模式的に示す図である。
【図5】光学フィルム製造用のロール金型の作製に用いたパターン拡大図である。
【図6】比較例2で用いた塗工装置の塗工手段であるニップロールの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明について詳細に説明する。
[塗工装置の構成]
図1は、本発明の塗工装置の一例を示す断面図である。図1に示す塗工装置20において、塗工対象である光学フィルム製造用のロール金型3は、中心軸が水平となるように配置される。塗工装置20は、ロール金型3との間に所定のギャップを有するように配置された板状の塗工ブレード2と、塗工ブレード2上に保護皮膜剤である塗工液を供給する塗工ノズル1と、ロール金型3を回転させるためのロール状の駆動装置4と、回転制御装置5と、回転補助ロール6とを備えている。駆動装置4、回転制御装置5および回転補助ロール6により回転手段が構成される。塗工ブレード2は、ロール金型の中心軸を含む水平面C1より上方に配置され、ロール金型3の外周面3aに対向するように、かつロール金型3に接触しないように配置されている。塗工ブレード2は、ロール金型3の中心軸方向に延在し、塗工ノズル1から供給された保護皮膜剤である塗工液をロール金型3の表面に導く。これにより、ロール金型3の表面が上記の塗工液で塗工される。
【0016】
図2は、図1に示す塗工装置20の塗工ブレード2周辺の他の構成要素を詳細に示す上面斜視図である。図2に示すように、塗工ブレード2は、複数の固定部材9を介して支持柱10に固定されている。両端に位置する固定部材9,9には、塗工ブレード2がロール金型3の表面から一定の距離を保つための部材である滑車状のストッパー8,8がそれぞれ設けられている。ストッパー8は、塗工ブレード2よりロール金型3の近くに位置するよう固定部材9に固定されている。つまり、ストッパー8のロール金型3側表面からロール金型3の表面に至る距離の方が、塗工ブレード2のロール金型3側先端からロール金型3の表面に至る距離よりも短い。不図示の移動手段は、支持柱10を鉛直方向に沿った上下方向と、ロール金型3の中心軸C2に直交する水平方向に移動させる(図2中矢印で示す方向)。したがって、支持柱10上に固定されている塗工ブレード2をも同様の方向に移動させる。移動手段により塗工ブレード2がロール金型3に近づく方向に移動されるとき、ストッパー8は、塗工ブレード2がロール金型3に接触することを防止する役割を果たす。
【0017】
塗工ブレード2上には、保護皮膜剤である塗工液の流動領域を規定する一対のプレート7a,7bからなる液止めが設けられている。一対のプレート7a,7bにより、塗工ブレード2上に塗工液をためることができる。つまり、一対のプレート7a,7b間が、塗工ブレード2上の液だめとなる。液止めにより、塗工液がプレート7a,7bより外側に漏れることが防止される。
【0018】
[塗工方法]
塗工装置20において、塗工ノズル1から塗工ブレード2上に保護皮膜剤である塗工液が供給され、供給された塗工液はその後、塗工対象であって回転手段により回転するロール金型3の表面に導かれ、その回転によってロール金型3の表面で均一に広げられるとともに、自然に乾燥される。塗工液を乾燥させると、ロール金型3に密着して保護皮膜が形成される。保護皮膜の厚みは、塗工ブレード2とロール金型3とのギャップにより調整することができる。
【0019】
ロール金型3は光学フィルム作製に使用するものであり、保護皮膜を剥離してから使用する。したがって、形成される保護皮膜は手で容易に剥離可能であることが好ましい。さらに、保護皮膜は、残渣等を残さずに完全に剥離することができるものであることが好ましい。残渣等を残さないことにより、保護皮膜を剥離した後のロール金型3の洗浄が不要となる。
【0020】
本発明の塗工装置を用いることによって、均一な膜厚の保護皮膜を形成することができるので、ロール金型の表面が均一に保護される。また、使用する保護皮膜剤を適宜選択することによって、手で剥離しやすく、かつ剥離したときに残渣等を生じにくい保護皮膜が形成できる。さらに、加熱乾燥しなくても自然に乾燥させて保護皮膜を形成することができるので、塗工対象のロール金型の表面に影響を及ぼす恐れがなく、高精度のロール金型の提供が可能である。また、塗工手段として塗工ブレードを用いているので、塗工液中の溶媒の拡散を抑えることができる。以下、塗工装置の各構成要素についてより詳細に説明する。
【0021】
[塗工装置の構成要素]
(塗工ブレード)
塗工ブレード2は、塗工装置20内でロール金型3に保護皮膜剤を塗工するときに、塗工ノズル1から供給された保護皮膜剤を、その上に一旦ためつつその上を流れさせてロール金型3の表面に導くための部材である。塗工ブレード2は、中心軸を有するロール金型3を塗工装置20内の所定の位置にその中心軸を水平にして配置したときに、ロール金型3の中心軸を含む水平面より上方に位置し、その中心軸と平行に延在するように配置される。塗工ブレード2は、保護皮膜剤に侵食されない材質であり、また仮に塗工対象であるロール金型3に接触した場合であっても、ロール金型3に傷をつけにくい材質であることが好ましく、各種フッ素樹脂(たとえば、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロプレン共重合体など)、高密度ポリエチレン等が例示される。
【0022】
塗工ブレード2の延在方向の長さは、塗工対象であるロール金型3の中心軸方向の長さと同程度またはそれ以上であることが好ましい。後述するように、プレート7a,7bは塗工ブレード2の延在方向に移動可能に設けられており、したがって塗工ブレード2上における塗工液の流動領域、すなわち液だめの範囲は、ロール金型3の中心軸方向の長さに応じて液止めのプレート7a,7bを適宜移動させることにより調節することができる。塗工ブレード2の幅は、塗工対象であるロール金型3の全周に十分に塗工される量の塗工液を保持できる程度であることが好ましい。塗工ブレード2の厚みは、塗工ブレード2自体がしならずにその形状を保ちながら、その上に塗工液を保持できる程度であることが好ましい。塗工ブレード2が塗工液の重さにより変形すると、ロール金型3に均一に塗工液を塗工することが難しくなる。
【0023】
たとえば、面長が1500mmのロール金型3が塗工対象である場合、塗工ブレード2の延在方向の長さは1400〜2000mmであり、幅は30〜100mmであり、厚みは3mm以上であることが好ましい。
【0024】
図3は、塗工ブレード2の固定部材9への取り付け位置を説明するための模式図である。塗工ブレード2は、塗工液をロール金型3の表面へとスムーズに導くために、水平方向に対する角度αが好ましくは30〜60°となるように固定部材9へ取り付けられる。この角度αが60°を超えると、保護皮膜剤である塗工液がロール金型3の表面へと急激に流れ込むので、効率的な塗工が難しくなることがある。一方、この角度αが30°未満であると、保護皮膜剤が塗工ブレード2とロール金型3の間のギャップ11から落ちやすくなって、塗工ブレード2による膜厚調整が難しくなることがある。
【0025】
塗工ブレード2の位置は、上述の通り、ロール金型3の中心軸を含む水平面C1より上方の領域であればよいが、ロール金型3表面の塗工ブレード2に最も近い位置から中心軸に向かう平面と中心軸を含む水平面C1とのなす角度βが30°以上であることが好ましい。この角度βが30°未満であると、塗工液がロール金型3を伝わらずにそのまま下部に落ちやすく、効率的ではない。
【0026】
(液止め)
液止めを構成する一対のプレート7a,7bは、塗工ブレード2上で保護皮膜剤である塗工液の流動領域を規定するための部材である。中心軸を有するロール金型3を塗工装置20内の所定の位置にその中心軸を水平にして配置したときに、プレート7a,7bは、塗工ブレード2上で互いの主面(すなわち、供給された塗工液に触れる面)同士が向き合うように位置する。図4は、塗工ブレード2と、液止めを構成する一方のプレート7aおよびストッパー8との位置関係を模式的に示す図である。液止めを構成する一対のプレート7a,7b(図2参照)は、塗工ブレード2に対して垂直に設置された板状のものであり、塗工液の漏れを防止し、かつ塗工ブレード2上に塗工液を保持して液だめを形成できるものであれば、形状や大きさは特に限定されない。一対のプレート7a,7bは、塗工対象であるロール金型3と接触しないように設けられることが好ましい。そのためには、塗工ブレード2上に、これよりもロール金型3へ近接しないように設置すればよい。たとえば、塗工ブレード2の幅方向と同程度の大きさ(長さ)であることが好ましい。また、プレート7a,7bの高さは、塗工ブレード2上に塗工液を保持して液だめを形成できる程度であればよく、たとえば20〜100mmとすることができる。プレート7a,7bは、塗工対象であるロール金型3の大きさに応じて、塗工ブレード2の延在方向(図4中の矢印方向)に任意に移動させることができるように構成されていることが好ましい。
【0027】
プレート7a,7bは、仮にロール金型3と接触することがあってもロール金型3を傷つけず、かつ保護皮膜剤に侵食されない材質から形成されていることが好ましく、各種フッ素樹脂(たとえば、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロプレン共重合体など)、高密度ポリエチレン等が例示される。
【0028】
(ストッパー)
ストッパー8は、塗工装置20内でロール金型3に保護皮膜剤を塗工するときに、ロール金型3と塗工ブレード2との間に所定の距離を保つための部材である。図2および図4に示すように、ストッパー8は、塗工ブレード2よりロール金型3の近くに位置するよう固定部材9に固定されている。つまり、ストッパー8のロール金型3側表面からロール金型3の表面に至る距離の方が、塗工ブレード2のロール金型3側先端からロール金型3の表面に至る距離(すなわち、図3に示すギャップ11)よりも短い。したがって、移動手段により塗工対象であるロール金型3に塗工ブレード2を近づける場合は、ストッパー8が塗工ブレード2より先にロール金型3に接触するので塗工ブレード2とロール金型3とが接触することを防止することができる。ストッパー8は、塗工ブレード2の長さによるしなりやロール金型3の有効領域への接触防止を考慮して、塗工対象であるロール金型3の有効領域以外の領域(光学フィルムの製品化領域に対応しない領域)、たとえば端部近傍に配置されることが好ましい。また、ロール金型3の大きさに応じて塗工ブレード2の延在方向に任意に移動させることができるように構成されていることが好ましい。
【0029】
ストッパー8は、上記目的を達成できれば形状は特に問わないが、ロール金型3と接触しても傷の付きにくい円盤(タイヤ)状であることが好ましい。またストッパー8は、ロール金型3と接触しても傷がつきにくく、かつ保護皮膜剤である塗工液により侵されない材質であることが好ましく、各種フッ素樹脂(たとえば、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロプレン共重合体など)、高密度ポリエチレン等が例示される。
【0030】
(塗工ノズル)
塗工ノズル1は、塗工ブレード2の上方に配置され、塗工ブレード2上に保護皮膜剤である塗工液を供給する。供給方法は特に限定されないが、たとえばポンプで塗工液をくみ上げてホースで一定量供給するように構成されていてもよい。塗工ブレード2の延在方向に偏りなく塗工液を供給するために、アクチュエータ等で塗工ノズル1を塗工ブレード2の延在方向に移動させて塗工液を供給できる構成が好ましい。
【0031】
(移動手段)
塗工装置20は、塗工ブレード2を鉛直方向に沿った上下方向と、ロール金型3の中心軸に直交する水平方向(ロール金型3に対して近づける方向または遠ざける方向)に移動させる移動手段を備える。移動手段は、たとえば固定部材9上に取り付けたマイクロメータを備え、これにより塗工ブレード2とロール金型3との距離を任意に変更でき、任意に保護皮膜の膜厚を変更することができる構成が好ましい。マイクロメータは、塗工ブレード2の延在方向での歪みを調整するために、延在方向に複数個備えることが好ましい。
【0032】
[その他の説明]
(ロール金型)
塗工対象であるロール金型3は、光学フィルムの製造を目的としたものである。光学フィルム製造用金型の中でも、表面を保護皮膜で覆った状態で保管または搬送されるのが好ましく、その保護皮膜を形成するのに本発明の塗工装置が好適に適用されるロール金型として、防眩フィルム製造用の金型が例示される。防眩フィルム製造用のロール金型は一般に、表面に微細な凹凸形状が施されたエンボスロールとなっている。このようなロール金型は、表面の微細な凹凸で光学特性が決められるため、ロールの錆びやダメージによる傷がないことが求められる。したがって、本発明の塗工装置により保護皮膜を形成する対象として適している。その中でもクロムめっき、銅めっき、ニッケルめっきなどの金属表面を有する光学フィルム製造用ロール金型に対して錆の発生防止という観点から特に効果的である。たとえば、特開2006−53371号公報、特開2007−187952号公報、特開2007−237541号公報等に開示されているような微細な表面凹凸形状を有する光学フィルム製造用のロール金型が塗工対象として適している。また、本発明の塗工装置によって形成される保護皮膜は、このような光学フィルム製造用ロール金型を輸送する際の表面の保護にも有用なものとなる。
【0033】
(ロール金型の回転速度)
塗工ブレード2に塗工液が供給されると、回転手段によりロール金型3は一定速度で回転される。回転手段による回転方法は特に限定されない。図1においては、ロール状の駆動装置4により回転される構成を例示したが、その他に中心軸にゴムバンドをつけてモーターで回転する構成などが挙げられる。ロール金型3の回転速度は、塗工液の粘度により好適範囲が異なるが、たとえば粘度が25℃で50〜500mPa・sの保護皮膜剤を用いる場合には、5〜150rpmが好ましい。5rpmより小さいと、遠心力に対して重力が大きくなり、保護皮膜剤がロール金型3から垂れてしまうことがある。一方、150rpmより大きいと、保護皮膜剤がロール金型3全体に広がりにくくなる。
【0034】
(保護皮膜剤)
保護皮膜剤としては、塗布、常温での乾燥、および皮膜形成後の剥離が可能であり、かつ、剥離した際に残渣等を残さないものであれば特に限定されず、従来公知のものを用いることができる。そのような保護皮膜剤の中でも、塗布性、剥離性、コストなどの観点から、ビニル樹脂(塩化ビニル、酢酸ビニルなど)を溶剤(トルエン、エタノール、酢酸エチルなど)で希釈したものを用いることが好ましい。このような保護皮膜剤を用いることによって、保護皮膜の形成が容易となる上に、保護皮膜を剥離する際に保護皮膜を一体的に剥離することができる。このような保護皮膜剤としては、例えば、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体を主成分とするシリテクトII(Trylaner International製)などが挙げられる。
【0035】
(保護皮膜の膜厚)
光学フィルム製造用ロール金型の表面に形成される保護皮膜の厚さについては、光学フィルム製造用のロール金型の表面を保護できれば特に限定はされないが、剥離性、コストなどから、乾燥硬化後の膜厚が5〜50μmとなるようにすることが好ましい。膜厚が5μmを下回る場合には、保護皮膜強度が不十分となり、保護皮膜を剥離する際に保護皮膜が破断しやすくなり、剥離が困難となる。また、酸素や水蒸気の遮断効果が不十分となる恐れもある。膜厚が50μmを上回る場合には、保護皮膜を形成する際に、膜厚が不均一となりやすく、また、乾燥に時間を要するため好ましくない。保護皮膜の膜厚は、上述の通り、塗工ブレード2とロール金型3との間のギャップにより調整することができる。
【実施例】
【0036】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0037】
[光学フィルム製造用のロール金型の作製]
直径300mmで面長1350mmのアルミロール(JISによるA5056)の表面に銅バラードめっきが施されたものを用意した。銅バラードめっきは、銅めっき層/薄い銀めっき層/表面銅めっき層からなるものであり、めっき層全体の厚みは、約200μmとなるように設定した。その銅めっき表面を鏡面研磨し、研磨された銅めっき表面に感光性樹脂を塗布、乾燥して感光性樹脂膜を形成した。ついで、図5に示すドット径16μmのドットを多数ランダムに配置して作成したパターンを繰り返し並べたパターンを感光性樹脂膜上にレーザ光によって露光し、現像した。レーザ光による露光、および現像はLaser Stream FX((株)シンク・ラボラトリー製)を用いて行った。感光性樹脂膜にはポジ型の感光性樹脂を使用した。
【0038】
その後、塩化第二銅液で第1のエッチング処理を行った。その際のエッチング量は3μmとなるように設定した。第1のエッチング処理後のロールから感光性樹脂膜を除去し、再度、塩化第二銅液で第2のエッチング処理を行った。その際のエッチング量は10μmとなるように設定した。その後、クロムめっき加工を行い、光学フィルム製造用のロール金型を作製した。このとき、クロムめっき厚みが4μmとなるように設定した。
【0039】
<実施例1>
実施例1では、図1の塗工装置を用いて、光学フィルム製造用のロール金型表面に保護皮膜を形成した。まず、上に示した方法で作製した光学フィルム製造用のロール金型を、中心軸が水平となるように図1の塗工装置に設置した。塗工ブレードとロール金型との間のギャップを0.3mmとなるように設定し、保護皮膜剤「シリテクトII(Trylaner International製)」を塗工ブレード上に、塗工ノズルを140mm/secの速度でロール金型の一方の端から他方の端に移動させて塗工ブレードの延在方向に均等に供給した。保護皮膜剤の供給量は450mlであった。その後、ロール金型を12rpmで回転させながら、保護皮膜剤をロール金型に導き、その表面で均一に広げて回転を終了した。そして、保護皮膜剤を常温常圧にて乾燥させてロール金型表面に保護皮膜を形成した。
【0040】
<比較例1,2>
比較例1,2で用いた塗工装置は、図1の塗工装置とは、塗工ブレード2の代わりにニップロールが設けられている点でのみ異なる。図6は、比較例2で用いた塗工装置のニップロールの断面図を示すものである。比較例1で用いた塗工装置のニップロールは、表面に凹凸がない平面であり、比較例2で用いた塗工装置のニップロール13は、図6に示すように端部間に凹部12が形成されているものである。
【0041】
まず、上に示した方法で作製した光学フィルム製造用のロール金型を、中心軸が水平となるように塗工装置に設置した。そして、塗工用のニップロールをロール金型に接触するように配置した。その後、ロール金型を12rpmで回転させて、保護皮膜剤「シリテクトII(Trylaner International製)」をニップロールとロール金型との間に供給し、ロール金型表面上に保護皮膜剤を均一に広げて回転を終了した。そして、保護皮膜剤を常温常圧にて乾燥させてロール金型表面に保護皮膜を形成した。
【0042】
<測定・評価>
実施例1、比較例1,2において形成された保護皮膜をロール金型から手で剥離し、剥離した保護皮膜について6点で膜厚を測定した。表1に、このときの平均膜厚および標準偏差を示す。また、保護皮膜剥離後の残渣の有無を目視判定した。残渣があることは、保護皮膜が容易に剥離できなかったことを示している。さらに、保護皮膜の形成に用いた保護皮膜剤の使用量を測定するとともに、塗工工程における保護皮膜剤由来の溶媒臭気の有無、また塗工後に目視で確認される塗工ムラの有無を評価した。表1に、これらの評価結果を示す。
【0043】
【表1】

【0044】
表1に示す結果から、実施例1においては、膜厚の標準偏差が小さく、目視にて塗工ムラも確認されず、膜厚が均一であったことがわかる。また、実施例1においては、塗工工程における溶媒臭気も発生しなかった。さらに、保護皮膜も容易に剥離可能であり、残渣もなかった。一方、比較例1においては、平均膜厚が小さいにもかかわらず標準偏差が大きく、目視にて塗工ムラも確認されたことから、膜厚が不均一な部分があったことがわかる。比較例2においても、膜厚の標準偏差が大きく、塗工ムラも確認されたことから、膜厚が不均一であったことがわかる。また比較例2においては、保護皮膜剤使用量が多く、塗工途中に溶媒臭気も発生した。これは、ニップロールにおける凹部に保護皮膜剤が供給されるために使用量が多くなり、溶媒臭気も発生しやすくなったものと解される。
【符号の説明】
【0045】
1 塗工ノズル、2 塗工ブレード、3 ロール金型、3a 外周面、4 駆動装置、5 回転制御装置、6 回転補助ロール、7a,7b プレート(液止め)、8 ストッパー、9 固定部材、10 支持柱、11 ギャップ、12 凹部、13 ニップロール、20 塗工装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学フィルム製造用のロール金型に保護皮膜剤を塗工する塗工装置であって、
中心軸が水平となるように配置された前記ロール金型に対して、前記ロール金型の前記中心軸を含む水平面より上方に配置され、前記中心軸の方向に延在する塗工ブレードと、
前記塗工ブレード上に設けられ、前記塗工ブレード上の前記保護皮膜剤の流動領域を規定する一対のプレートからなる液止めと、
前記塗工ブレードが前記ロール金型の表面から一定の距離を保つように設けられ、前記塗工ブレードより前記ロール金型の近くに位置するストッパーと、
所定の回転速度で前記ロール金型を回転させる回転手段と、を備える、塗工装置。
【請求項2】
前記塗工ブレードを、鉛直方向と、前記中心軸に直交する水平方向とに移動させる移動手段をさらに備える、請求項1に記載の塗工装置。
【請求項3】
前記塗工ブレードは、フッ素樹脂からなる、請求項1または2に記載の塗工装置。
【請求項4】
前記一対のプレートは、前記塗工ブレードの延在方向に移動可能に設けられている、請求項1〜3のいずれかに記載の塗工装置。
【請求項5】
前記ストッパーは、前記塗工ブレードの延在方向に移動可能に設けられている、請求項1〜4のいずれかに記載の塗工装置。
【請求項6】
前記ロール金型は、表面に凹凸形状を有する防眩フィルム製造用の金型である、請求項1〜5のいずれかに記載の塗工装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図6】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−254445(P2012−254445A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−108601(P2012−108601)
【出願日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】