説明

塗布方法及び装置

【課題】塗り付け開始時の厚塗りそのものを減少し、且つ、塗布開始時に塗布ビードを確実に形成できる塗布方法及び装置を提供する。
【解決手段】スライドビードコータ84のスライド面86上に、平板から成るガイド部材100を設置する。ガイド部材100は、長さをL(mm)、リップ94との成す角をθ(°)、アルミウエブ12との距離をFCL(mm)とした際、L・sin θ/(FCL+0.3)2 ≦10、の関係を満たすように設定される。このガイド部材100でスライド面86上の塗布液88の流れを変化させることによって、塗布液88を集液し、液盛り上がり部96を形成する。これにより、塗布液88の架橋点が形成され、塗布が開始される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塗布方法及び装置に係り、特に、塗布開始時において、薄い金属板、紙、フィルム等のシート状或いはウエブ状の被塗工基材(以下「ウエブ」という)に各種の液状物質を塗り付ける塗布方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
平版印刷原版の感光層の表面にポリビニルアルコールなどの酸素非透過性樹脂の薄膜からなる酸化保護層を形成し、感光層を空気中の酸素から保護することが現在広く行なわれている。
【0003】
酸化保護層の形成にはスライドビード型塗布装置が使用される。スライドビード型塗布装置は一般的に、酸素非透過性樹脂の溶液などの塗布液を吐出する吐出スリットとこの吐出スリットから吐出された塗布液が流下するスライド面とが形成されたスライドビードコータと、このスライドビードコータのスライド面の先端近傍に設けられ、平版印刷原版を巻き掛けて一定方向に搬送するバックアップローラとを備える。このようなスライドビード型塗布装置においては、バックアップローラによって平版印刷原版を感光層が外側を向くように搬送しつつ、前記吐出スリットから溶液を吐出してスライド面に沿って流下させ、スライド面の先端部と平版印刷原版の感光層表面との間に塗布液架橋(塗布ビード)を形成し、溶液を塗布している。
【0004】
ところで、スライドビード型塗布装置において塗布を開始する際、スライドビードコータの先端と平版印刷原版などの被塗布物との間に、塗布液架橋を確実に形成する必要があるが、塗布開始時に塗布液が被塗布物に過剰に付着し、塗り始めの部分が他の部分よりも塗布厚さが厚い厚塗り部が形成されることがある。厚塗り部が形成されると、未乾部が残ってしまうという問題が発生する。このため、厚塗り部の不具合を解消する様々な方法が提案されている。
【0005】
例えば特許文献1には、塗布開始時に発生する過剰厚塗り部に吸収ローラを当接させ、過剰な塗布液を吸収する方法が提案されている。また、特許文献2には、ウエブに除去ローラを押し当てることによって、塗布液の一部を除去する方法が提案されている。特許文献3には、バックアップローラをスライドビードコータに向かって接近させることによって、スライドビードコータの先端とバックアップローラ上の平版印刷原版との間のクリアランスを狭め、塗布液架橋を形成する方法が提案されている。また、特許文献4には、被塗布物の塗布面に電荷を与えた状態で、スライドビードコータをバックアップローラに向かって接近させることによって、スライドビードコータの先端とバックアップローラ上の平版印刷原版との間のクリアランスを狭め、塗布液架橋を形成する方法が提案されている。特許文献5には、スライドビードコータをバックアップローラに向かって接近させることによって、スライドビードコータの先端とバックアップローラ上の平版印刷原版との間のクリアランスを狭めるとともに、その際のビード上下にかける圧力差を強くする方法が提案されている。さらに、特許文献6には、塗布工程後、ウエブ上の塗り始めの部分にエアを吹き付けることによって、厚塗り部を均す方法が提案されている。
【特許文献1】特開2000−271531号公報
【特許文献2】特開平8−294663号公報
【特許文献3】特開昭63−80872号公報
【特許文献4】特開平3−123669号公報
【特許文献5】特開平1−213641号公報
【特許文献6】特開2002−273299号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1、2、及び6の方法は、塗布工程後に、吸収ローラ、除去ローラ或いはエアの吹付け手段等を用いた別工程を追加するため、装置が大型化するという問題があった。また、これらの方法は、塗布液の過剰厚塗り自体を防止することができないという問題もあった。
【0007】
一方、特許文献3、4、及び5の方法は、スライドビードコータ或いはバックアップローラを移動させる複雑な機構が必要になるため、装置が大型化するという問題があった。さらに、特許文献3の場合は、バックアップローラを汚すおそれがあり、特許文献4はアルミ製のウエブで使えない問題があり、特許文献5は圧力制御が非常に難しいという問題があった。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、塗り付け開始時の厚塗りそのものを減少し、且つ、塗布開始時に塗布ビードを確実に形成できる塗布方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は前記目的を達成するために、塗布液を帯状に吐出する吐出スリットと、該吐出した塗布液を流下させるスライド面とを有するスライドビードコータを備え、該スライドビードコータと走行中の被塗布物との間に塗布液架橋を形成し、塗布を行う塗布装置において、塗布開始時に、前記スライド面上の塗布液をガイドすることによって該塗布液の流れを変化させるガイド部材を備え、該ガイド部材の前記塗布液をガイドする部分の長さL(mm)、前記スライドビードコータのリップと前記ガイド部材との成す角度θ(°)、前記被塗布物と前記ガイド部材との距離FCL(mm)、及び前記スライド面と水平面との成す角度α(°)は、前記スライドビードコータと前記被塗布物との間に塗布液の架橋点を形成可能な領域に設定されることを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の発明は請求項1の発明において、前記長さL、前記角度θ、前記距離FCL、及び前記角度αが、塗布開始時の厚塗り抑制効果のある領域に設定されることを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の発明は前記目的を達成するために、塗布液を帯状に吐出する吐出スリットと、該吐出した塗布液を流下させるスライド面とを有するスライドビードコータを備え、該スライドビードコータと被塗布物との間に塗布液架橋を形成して塗布を行う塗布装置において、塗布開始時に、前記スライド面上の塗布液をガイドすることによって該塗布液の流れを変化させるガイド部材を備え、該ガイド部材は、前記塗布液をガイドする部分の長さL(mm)、前記スライドビードコータのリップとの成す角θ(°)、前記被塗布物との距離FCL(mm)とした際に、L・sin θ/(FCL+0.3)2 ≦10の関係を満たすことを特徴とする。
【0012】
本発明の発明者は、スライド面を流下する塗布液の流れをガイド部材によって変化させ、塗布液の架橋点を形成すると、塗布開始時の厚塗りを抑制できることを見いだした。さらに、ガイド部材の最適な形状を試験により求めた結果、L・sin θ/(FCL+0.3)2 ≦10の関係式を満たせば、塗布液の架橋点が形成され、塗布が確実に開始されるという知見を得た。したがって、請求項3に記載の発明によれば、塗布を確実に開始でき、且つ塗布開始時における塗布液の厚塗りそのものを抑制することができる。
【0013】
請求項4に記載の発明は請求項3の発明において、前記ガイド部材は、L・cos θ・5FCL≦13、且つFCL≠0の関係を満たすことを特徴とする。この関係を満たすようにガイド部材を設定することによって、塗布開始時の厚塗りの抑制効果が大きくなる。
【0014】
請求項5に記載の発明は請求項3又は4の発明において、前記ガイド部材は、前記被塗布物側の先端が鋭角に形成されることを特徴とする。ガイド部材の先端が鋭角に形成されることによって、塗布開始点における塗布液量を減少させることができ、厚塗り抑制効果が大きくなる。
【0015】
請求項6に記載の発明は請求項3〜5のいずれか1の発明において、前記ガイド部材は、前記スライド面に対して若干の隙間を持って支持されることを特徴とする。このようにスライド面に若干の隙間を持ってガイド部材を配置することによって、スライド面上の塗布液のない乾き部分が形成されることを防止できる。
【0016】
請求項7に記載の発明は請求項3〜6のいずれか1の発明において、前記ガイド部材を、前記被塗布物の巾方向に移動自在に支持する支持手段を備えたことを特徴とする。請求項7の発明によれば、ガイド部材の位置を被塗布物の巾方向に調節することができるので、被塗布物の巾を変更した場合にもガイド部材を最適な位置を配置することができる。
【0017】
請求項8に記載の発明は請求項3〜7のいずれか1の発明において、前記ガイド部材の前記被塗布物側の先端が、前記被塗布物の巾方向の端部に対して内側方向に0〜20mmの位置に配置されることを特徴とする。ガイド部材の先端をこのような位置に配置することによって、被塗布物の巾方向の両端部に塗布開始点が形成される。したがって、中央から塗布を開始した時のように、巾方向の両端部に厚塗り部が形成されることを防止できる。
【0018】
請求項9に記載の発明は請求項3〜8のいずれか1の発明において、前記ガイド部材を塗布開始後に前記塗布液と非接触となる位置に退避移動させる退避移動手段を備えたことを特徴とする。請求項9の発明によれば、塗布開始後に塗布液と非接触となる位置にガイド部材を退避させるので、塗布液の流れがすぐに元の状態に戻り、定常の塗布運転が開始される。
【0019】
請求項10に記載の発明は請求項9の発明において、前記ガイド部材は前記被塗布物の巾方向に複数配置され、前記退避移動手段は、前記複数のガイド部材のうち、前記被塗布物の巾方向の端部位置に配置されたガイド部材を除いた他のガイド部材を移動させることを特徴とする。請求項10の発明によれば、端部位置に配置されたガイド部材が残るので、被塗布物の巾方向の端部に液を集めて補強部を形成することができる。
【0020】
請求項11に記載の発明は前記目的を達成するために、塗布液を帯状に吐出する吐出スリットと、該吐出した塗布液を流下させるスライド面とを有するスライドビードコータを備え、該スライドビードコータと被塗布物との間に塗布液架橋を形成して塗布を行う塗布装置において、前記スライド面上に向かい合わせで配置され、塗布開始時に前記スライド面上の塗布液をガイドすることによって該塗布液の流れを変化させる二枚のガイド部材を備え、該二枚のガイド部材は、前記塗布液をガイドする部分の長さをL1 (mm)、L2 (mm)、前記スライドビードコータのリップとの成す角をθ1 (°)、θ2 (°)、前記被塗布物との距離をFCL1 (mm)、FCL2 (mm)とした際、L1 ・sin θ1 /(FCL1 +0.3)2 +L2 ・sin θ2 /(FCL2 +0.3)2 ≦10の関係を満たすことを特徴とする。二枚のガイド部材を用いる場合には、このような関係を満たすことによって塗布液の架橋点を形成して塗布を開始することが可能となる。また、スライド面上の塗布液の流れを変化させて架橋点を形成するので、塗布液の厚塗りそのものを抑制することができる。
【0021】
請求項12に記載の発明は請求項11の発明において、前記二枚のガイド部材は、L1 ・cos θ1 ・5FCL1 +L2 ・cos θ2 ・5FCL2 ≦13、且つFCL1 ≠0、FCL2 ≠0の関係を満たすことを特徴とする。このような関係を満たすことによって、塗布開始時の厚塗りの抑制効果が大きくなる。
【0022】
請求項13に記載の発明は前記目的を達成するために、スライドビードコータの吐出スリットから塗布液を帯状に吐出し、該塗布液を前記スライドビードコータのスライド面を流下させ、前記スライドビードコータと被塗布物との間に塗布液架橋を形成して塗布を行う塗布方法において、塗布開始時に、前記スライド面を流下する塗布液の流れをガイド部材によって変化させるとともに、前記ガイド部材の前記塗布液をガイドする部分の長さをL(mm)、前記スライドビードコータのリップと前記ガイド部材との成す角をθ(°)、前記ガイドと前記ウエブとの距離をFCL(mm)とした際、L・sin θ/(FCL+0.3)2 ≦10が成立する条件で塗布を開始することを特徴とする。このような条件で塗布を開始することによって、塗布液の架橋点を形成して塗布を開始することができる。また、スライド面上の塗布液の流れを変化させて架橋点を形成するので、塗布液の厚塗りそのものを抑制することができる。
【0023】
請求項14に記載の発明は請求項13の発明において、前記塗布の開始時に、L・cos θ・5FCL≦13、且つFCL≠0が成立することを特徴とする。このような条件で塗布を開始することによって、塗布開始時の厚塗りの抑制効果が大きくなる。
【0024】
請求項15に記載の発明は前記目的を達成するために、スライドビードコータの吐出スリットから塗布液を帯状に吐出し、該塗布液を前記スライドビードコータのスライド面を流下させ、前記スライドビードコータと被塗布物との間に塗布液架橋を形成して塗布を行う塗布方法において、塗布開始時に、向かい合わせで配置された二枚のガイド部材によって、前記スライド面を流下する塗布液の流れを変化させるとともに、前記二枚のガイド部材の前記塗布液をガイドする部分の長さをL1 (mm)、L2 (mm)、前記スライドビードコータのリップとの成す角をθ1 (°)、θ2 (°)、前記被塗布物との距離をFCL1 (mm)、FCL2 (mm)とした際、L1 ・sin θ1 /(FCL1 +0.3)2 +L2 ・sin θ2 /(FCL2 +0.3)2 ≦10が成立する条件で塗布を開始することを特徴とする。このような条件で塗布を開始することによって、二枚のガイド部材を用いた場合にも塗布液の架橋点を確実に開始することができる。
【0025】
請求項16に記載の発明は請求項15の発明において、前記塗布を開始する際に、L1 ・cos θ1 ・5FCL1 +L2 ・cos θ2 ・5FCL2 ≦13、且つFCL1 ≠0、FCL2 ≠0、が成立することを特徴とする。このような条件で塗布を開始することによって、塗布開始時の厚塗りの抑制効果が大きくなる。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係る塗布方法及び装置によれば、最適な条件でガイド部材を設け、このガイド部材によってスライド面上の塗布液の流れを変化させるようにしたので、塗布開始時における厚塗りそのものを抑制することができる。したがって、厚塗りによる未乾の発生がなくなり、故障によるライン停止が減少するので、工程を安定化させることができる。また、乾燥の負荷を軽減することができるので、ライン速度を向上させることができ、効率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下添付図面に従って本発明に係る塗布方法及び装置の好ましい実施の形態について説明する。
【0028】
図1には本発明に係る塗布装置としてスライドビード型塗布装置を用いた、フォトポリマ型平版印刷版の素材としてのウエブの製造ライン10を示す構成図である。
【0029】
図1に示すように、製造ライン10の最も上流側(図1の左側)には送出装置16が配置されており、この送出装置16には、例えば厚さ0.1〜0.5mmのアルミウエブ12がロール状に巻き取られたアルミコイル14が装填されている。送出装置16は製造ライン10全体での製造速度に対応する速さでアルミウエブ12を下流側へ送り出している。ここで、平版印刷版用支持体の素材としてのアルミニウム板は、例えば、JIS1050材、JIS1100材、JIS1070材、Al−Mg系合金、Al−Mn系合金、Al−Mn−Mg系合金、Al−Zr系合金、Al−Mg−Si系合金等を適用し得る。メーカにおけるアルミニウム板の製造過程では、上記規格に適合するアルミニウムの鋳塊を製造し、このアルミニウム鋳塊を熱間圧延した後、必要に応じて焼鈍と呼ぶ熱処理を施し、冷間圧延により所定の厚さとされた帯状のアルミニウム板に仕上げる。このアルミニウム板はロール状に巻き取られてアルミコイルとされる。
【0030】
製造ライン10では、まず、送出装置16により下流側へ送り出されたアルミウエブ12を、平坦性を改善するためにローラレベラ、テンションレベラ等の矯正装置(図示省略)によって形状を矯正して必要な平坦性を得る。
【0031】
矯正装置の下流側には、アルミウエブ12の搬送経路に沿って上面研磨装置18及び下面研磨装置20が順次配置されている。
【0032】
上面研磨装置18には、アルミウエブ12の上面に接するように支持された研磨ローラ22が設けられると共に、アルミウエブ12の下面に接するように一対のテンションローラ24が設けられている。研磨ローラ22は、そのローラ面が例えば不織布により構成されており、研磨時にはローラ面の線速度がアルミウエブ12の搬送速度に対して十分大きくなるように高速回転される。このとき、研磨ローラ22の回転方向は、アルミウエブ12との接触部でのローラ面の移動方向がアルミウエブ12の搬送方向と同一となる順回転方向でも、またローラ面の移動方向がアルミウエブ12の搬送方向と反対となる逆回転方向の何れでもよい。また一対のテンションローラ24は、アルミウエブ12の搬送方向に沿って研磨ローラ22を挟むように配置され、アルミウエブ12を上方へ付勢し、アルミウエブ12の上面を所定の接触圧で研磨ローラ22のローラ面へ圧接させている。
【0033】
上面研磨装置18には、セラミック粒子等を含む研磨剤を水に分散させたスラリーを研磨ローラ22とアルミウエブ12との接触部へ供給するスラリー供給部(図示省略)が設けられており、このスラリー供給部はアルミウエブ12の研磨時に単位時間当たりに所定量のスラリーを供給する。このスラリー中の研磨材が研磨ローラ22によりアルミウエブ12の上面へ擦り付けられることにより、アルミウエブ12上面のミクロ的な凹凸が平均化されるように研磨されて表面粗さが小さくなっていく。
【0034】
なお、上面研磨装置18による研磨の研磨条件は、メーカから供給されるアルミウエブ12の初期表面粗さ、製造ライン10によるアルミウエブ12の搬送速度等により変化する。したがって、アルミウエブ12の初期表面粗さ、搬送速度等に応じて研磨ローラ22の回転速度、研磨材の種類及び粒径等を設定すればよい。また、本実施形態では、1台の上面研磨装置18によってアルミウエブ12の上面を研磨しているが、複数台の上面研磨装置18をアルミウエブ12の搬送経路に沿って配置し、それぞれの上面研磨装置18により段階的にアルミウエブ12の上面を表面粗さが所定値以下となるまで研磨するようにしてもよい。
【0035】
上面が研磨されたアルミウエブ12は、上面研磨装置18の下流側に配置された下面研磨装置20により下面の表面粗さ(JIS中心線平均粗さ)が一定値以下となるように研磨される。ここで、下面研磨装置20の構造は、研磨ローラ22と一対のテンションローラ24がアルミウエブ12を介して上下逆に配置されている点を除いて、上面研磨装置18と同一であるので説明を省略する。なお、アルミウエブ12の下面の表面粗さは、0.25〜0.75μm以下とすることが好ましく、このための研磨条件(研磨ローラ22の回転速度、研磨材の種類及び粒径等)も上面の場合と同様、アルミウエブ12の初期表面粗さ、搬送速度等に応じて設定すればよい。
【0036】
研磨装置18、20により研磨されたアルミウエブ12は、研磨装置18、20の下流側で機械的又は電気化学的にその表面が粗面化される。このような粗面化方法としては、機械的な砂目立て法,電気化学的な砂目立て法などがあり、それらを単独で、あるいは適宜組合わせて粗面化を行うことができる。機械的な砂目立て法としては、例えば、ボールグレイン、ワイヤーグレイン、ブラシグレイン、液体ホーニング法などがある。また電気化学的砂目立て方法としては、交流電解エッチング法が一般的に採用されており、電解電流としては、普通の正弦波交流電流あるいは矩形波や、特殊交番電流などが用いられている。またこの電気化学的砂目立ての前処理として、アルミニウム板を苛性ソーダなどでエッチング処理をしても良い。
【0037】
製造ライン10には、粗面化処理が完了したアルミウエブ12に対して公知の陽極酸化処理を行う陽極酸化装置(図示省略)が設けられている。この陽極酸化装置は、アルミウエブ12の表面を公知の液中給電方式により陽極酸化してアルミウエブ12の表面に高い硬度を有する陽極酸化皮膜を形成する。このとき、アルミウエブ12の表面には、0.1〜10g/m2 の陽極酸化皮膜、より好ましくは0.3〜5g/m2 の陽極酸化皮膜が形成される。また陽極酸化処理の条件は、使用される電解液によって設定を変更する必要があるので一概には決定されないが、一般的には、電解液の濃度は1〜80wt%、液温は5〜70℃、電流密度は0.5〜60A/dm2 、電圧は1〜100V、電解時間は1sec〜5minの範囲内でそれぞれ設定される。
【0038】
陽極酸化装置の下流側には、図1に示すように、アルミウエブ12に対する感光性材料(フォトポリマー)の塗布装置26及び乾燥装置28がそれぞれ設置されている。図2に示すように、塗布装置26は、軸受部材62に回転可能に、且つアルミウエブ12に接触するように支持されたロッド64を有している。軸受部材62に隣接して堰部材66が設けられており、これらの間には塗布液供給路68が構成されている。この塗布液供給路68から供給された塗布液70(フォトポリマー)が、アルミウエブ12に接触して液溜まり72を形成する。そして、ロッド64が回転することにより、液溜まり72の塗布液70が掻き上げられてアルミウエブ12に転移される。このような構成とされた塗布装置26は、いわゆるバー塗布(あるいはロッド塗布)を行う塗布装置である。
【0039】
塗布装置26の下流側に配置された乾燥装置28には、防爆及び断熱構造とされた乾燥槽46が設けられると共に、この乾燥槽46内に複数本の案内ローラ48が配置されている。フォトポリマーが転移されたアルミウエブ12は、案内ローラ48により上面側から案内されつつ乾燥槽46内を移動する。このとき、乾燥槽46内へ熱風50が供給されることにより、アルミウエブ12上のフォトポリマーが乾燥されて感光層が形成される。
【0040】
フォトポリマーの乾燥装置28の下流側には、本発明が適用されたポリビニルアルコール(PVA)の塗布装置30、及び乾燥装置32がそれぞれ設置されている。
【0041】
図3に示すように、塗布装置30は、アルミウエブ12が巻きかけられるバックアップローラ82と、このバックアップローラ82に隣接配置されたスライドビードコータ84と、で構成されている。スライドビードコータ84の上面は、バックアップローラ82に向かって下降し、下端がアルミウエブ12との間にわずかな隙間を構成するように形成された傾斜面(スライド面)86とされている。また、スライドビードコータ84の内部には、塗布液88(PVA)を貯留する貯留部90が設けられており、吐出スリット92に連通されている。図示しない流出装置によって、貯留部90内の塗布液88が吐出スリット92からスライド面86に流出され、スライド面86を流れて(スライドして)、アルミウエブ12に転移される。このような構成とされた塗布装置30は、いわゆるスライド塗布を行う塗布装置である。なお、本実施形態では、塗布液88が1種類のみ(PVA)であるため、貯留部90は図3に実線で示すように1つのみ設けられていれば十分であるが、複数の塗布液を多層に塗布する場合には、これに対応して、図3に二点鎖線で示すように貯留部90が複数設けられたものが使用される。
【0042】
塗布装置30の下流側に配置された乾燥装置32は、基本的にフォトポリマーの乾燥装置28と同一構造とされており、その加熱槽56内を移動するアルミウエブ12を複数本の案内ローラ58により案内しつつ、アルミウエブ12上のPVAを熱風50によって乾燥する。これにより、アルミウエブ12上には、感光層を覆うように酸素遮断層としてのオーバーコート層が形成される。ただし、感光層とオーバーコート層とではそれぞれ適正な乾燥条件が異なるため、それぞれの乾燥条件に応じて乾燥槽46、56へ供給される熱風温度や乾燥槽46、56の搬送方向に沿った長さ等が設定されている。
【0043】
このようにして、本実施形態の製造ライン10では、感光層上にオーバーコート層が形成されることにより、フォトポリマ型平版印刷版の素材としてのウエブの製造が完了する。製造されたウエブはウエブ巻取装置38によりロール状に巻き取られてウエブロール36とされる。このウエブロール36は、フォトポリマ型平版印刷版の加工ライン(図示省略)のウエブ供給装置へ供給され、このウエブ供給装置により巻き出されて加工ラインの加工速度に対応する速度でラインの下流側へ供給される。
【0044】
ところで、本発明に係る塗布装置30は、塗布開始時に塗布液架橋(ビード)を形成する架橋形成手段としてガイド部材が設けられている。以下、ガイド部材について実施形態をあげて説明する。
【0045】
図4は第1の実施形態のガイド部材100を用いた塗布装置30を示す平面図であり、図5はその側面図である。
【0046】
図4に示すように、ガイド部材100、100は平板で形成されており、スライド面86上に、且つ、アルミウエブ12の両端部の位置に合わせて配置されている。また、スライドビードコータ84のリップ94に対して斜めに配置されており、塗布液88を外側から内側に集液するようになっている。ここで、ガイド部材100とリップ94との成す角度をθ°とし、ガイド部材の長さをLとする。
【0047】
図5に示すように、ガイド部材100は、アルミウエブ12側の先端100Aが鋭角に尖った楔状に形成されており、その先端角度βは例えば30°に形成されている。また、ガイド部材100は、下辺100Bがスライド面86と平行に、且つ、スライド面86と若干の隙間を持って配置されている。スライド面86は水平線に対して若干の角度(例えば5°〜10°)を持って斜めに配置されており、塗布液88がスライド面86上をアルミウエブ12側に流下するようになっている。
【0048】
さらに、ガイド部材100は、矢印A方向(すなわち、バックアップローラ82に対して退避する側の斜め上方)に退避移動できるようになっている。退避手段としては例えば、図6に示す如くエアシリンダ104が用いられる。エアシリンダ104は、スライド面86の上方に配置され、スライド面86よりも大きな傾斜角度で斜めに支持されている。そして、エアシリンダ104のロッド106がガイド部材100の上端部に連結されている。このロッド106を伸縮すると、ガイド部材100は、アルミウエブ12から後退する方向に、且つ、上方に退避するように移動する。なお、その他の退避手段としては、例えば矢印A方向に配置された送りねじ(不図示)と、この送りねじを回転させるモータ(不図示)とを設け、送りねじをガイド部材100に螺合にて連結させるようにしてもよい。この場合、モータを駆動させることによってガイド部材100を矢印A方向に退避移動させることができる。
【0049】
なお、ガイド部材100の退避位置としては、スライド面86上を流れる塗布液88に非接触になり、且つ、アルミウエブ12から確実に離れた位置に設定される。ガイド部材100の退避移動は、塗布開始後、所定時間内、例えば5秒以内に退避位置まで退避させることが好ましい。これにより、ガイド部材100が塗布液88にすぐに非接触になるので、塗布液88の流れの乱れがすぐに収まり、定常状態での塗布を行うことができる。また、ガイド部材100を退避移動させる際は、ガイド部材100の下辺100Bがスライド面86と平行な角度を保ったまま退避移動することが好ましい。これにより、ガイド部材100が塗布液88から離れる際に塗布液88の乱れを極力抑制することができる。
【0050】
ところで、ガイド部材100は、塗布開始時において、その下辺100Bがスライド面86に接近して塗布液88に接触する位置で、且つガイド部材100の先端100Aがアルミウエブ12に接近する位置(以下、架橋点形成位置という)に配置される。架橋点形成位置での先端100Aとアルミウエブ12との距離は、リップ94とアルミウエブ12との距離よりも小さくすることが好ましい。また、架橋点形成位置でのガイド部材100は、その下面100Bが、スライド面86に対して若干の隙間を持って配置されることが好ましい。ここで、架橋点形成位置のガイド部材100の先端とウエブとの距離をFCLとする。
【0051】
上記の如く設定された距離FCL、長さL、角度θに対して、架橋点形成位置のガイド部材は、以下の関係式(1)及び関係式(2)を満たすように設定される。
【0052】
Lsin θ/(FCL+0.3)2 ≦10 ・・・式(1)
Lcos θ・5FCL≦13、且つ、FCL≠0・・・式(2)
この式(1)、式(2)は後述する様々な試験を行うことによって得られた関係式であり、例えば式(1)を満たすように設定すると、スライド面86上の塗布液によって十分な液盛り上がり部96を形成することができ、塗布液の架橋点を確実に形成して塗布を開始することができる。また、式(2)を満たすように設定すると、塗布開始点における厚塗り抑制の効果が大きくなる。
【0053】
次に上記の如く構成されたガイド部材100の作用について説明する。
【0054】
塗布開始前、ガイド部材100は退避位置に配置される。この状態で、スライドビードコータ84の吐出スリット92から塗布液88を吐出すると、塗布液88はスライド面86上を流下し、リップ94とアルミウエブ12との隙間を通って落下する。この状態では、塗布液88はアルミウエブ12に接触することなく流れるので、アルミウエブ12に塗布液88は転移しない。
【0055】
次いで、塗布を開始する際に、ガイド部材100を架橋点形成位置に配置する。ガイド部材100は図4に示す如くリップ94に対して斜めに配置されているので、スライド面86上を流下する塗布液88の流れが変化し、塗布液88がガイド部材100によって内側に集液される。そして、集液された塗布液88によって塗布液88の液盛り上がり部96が形成され、この液盛り上がり部96がアルミウエブ12に接触して塗布液の架橋点が形成される。この架橋点は、ガイド部材100の先端100Aが配置された位置、すなわち、アルミウエブ12の両端部に形成され、この位置で塗布が開始される。
【0056】
図7(A)〜図7(C)は、塗布開始時におけるアルミウエブ12の塗布状況を示している。まず、図7(A)に示すように、アルミウエブ12の巾方向の両端部で塗布液の架橋点が形成され、塗布が開始される。以下、この点を塗布開始点Aという。両端部に塗布開始点A、Aが形成されると、アルミウエブ12が走行しているために、塗布液88は図7(B)に示す如く斜めに塗れ拡がる。そして、両側から塗れ拡がった部分が中間部で合流し、アルミウエブ12の全面で塗布が開始される。以下、塗れ拡がった部分を拡がり部B、合流した点を合流点Cとする。
【0057】
上述したように本実施の形態では、ガイド部材100で塗布液88の流れを変化させて液盛り上がり部96を形成し、塗布液の架橋点を形成しているので、スライド面86上の塗布液88を利用して特定点から塗布液架橋を形成することができる。このようにスライド面86上の塗布液88を利用して架橋点を形成すると、塗布開始点Aに過剰の塗布液が転移することがないので、塗布開始点Aでの厚塗りを抑制することができる。また、塗布開始点Aでの厚塗りが抑制されたことによって、塗布開始点Aからの拡がり部Bの厚さも薄くなり、さらに、拡がり部Bが合流する合流点Cでの厚塗りも抑制される。したがって、本実施の形態によれば、塗布開始時における塗布液88の厚塗りを抑制することができるので、塗布後の乾燥工程における負荷を軽減することができ、結果としてライン速度を向上させることができる。
【0058】
ちなみに、リップ94とアルミウエブ12とのクリアランスを狭めて塗布を開始する方法では、アルミウエブ12の巾方向全体に塗布液が同時に転移するため、必要量以上の塗布液88がアルミウエブ12に転移し、塗布液88の厚塗りが発生する。また、アルミウエブ12に液滴を付着させてこの液滴をきっかけとして塗布を開始する方法では、液滴の分だけ厚塗りが発生する。本実施の形態では、スライド面86上の塗布液88を利用して特定点から塗布を行うので、上述した不具合を防止できる。
【0059】
また、本実施の形態では、上記の式(1)を満たすようにガイド部材100を設定しているので、ガイド部材100によって十分な液盛り上がり部96を形成することができ、塗布液の架橋点を確実に形成して塗布を開始することができる。さらに、式(2)を満たすようにガイド部材100を設定しているので、過剰な液がアルミウエブ12に転移することを防止でき、厚塗りの大きな抑制効果を得ることができる。
【0060】
また、本実施の形態では、塗布開始後にガイド部材100を退避位置に退避させている。したがって、スライド面86上の塗布液88に対してガイド部材100が非接触になるので、スライド面86上の塗布液88の流れがすぐに元の状態に戻り、アルミウエブ12に一定の膜厚で塗布液88が塗布される。よって、すぐに定常の塗布運転を行うことができる。
【0061】
なお、上述した第1の実施形態では、ガイド部材100を平板で形成したが、これに限定するものではなく、図8に示すように湾曲形状にしてもよい。図8に示すガイド部材102は、リップ94の延長上にある点を仮想中心点Oとして円弧状に湾曲されている。例えば、ガイド部材102の先端から外側に3mmの位置に仮想中心点Oを設け、この仮想中心に点O対して60°の範囲でガイド部材102が円弧状に形成されている。このようなガイド部材102を設けることによって、塗布液88の集液効果が高まり、より大きな液盛り上がり部96を形成することができる。なお、図8のガイド部材102の場合も二枚を一組として使用してもよい。
【0062】
また、上述した第1の実施形態は、架橋点形成位置におけるガイド部材100の先端100Aをアルミウエブ12に接近させたが、アルミウエブ12に触れるようにしてもよい。この場合、ガイド部材100はアルミウエブ12よりも柔らかい材質、例えば樹脂で形成することが好ましい。このようにガイド部材100の先端をアルミウエブ12に接触させることによって、スライド面86上の塗布液88がアルミウエブ12に接触しやすくなり、架橋点を形成しやすくなる。なお、ガイド部材100の先端100Aをアルミウエブ12に接触させる場合には、上述したようにガイド部材100の先端100Aの角度βを小さくして鋭角に形成すると、塗り始めの塗布量が少なくなり、厚塗りの抑制効果が大きくなる。
【0063】
さらに、上述した第1の実施形態は、ガイド部材100の形状として、先が鋭角に尖った楔型に形成したが、これに限定するものではなく、例えば矩形状にしてもよい。
【0064】
図9は第2の実施形態のガイド部材100を用いた塗布装置30を示す平面図である。
【0065】
図9に示すように、ガイド部材100、100は二枚で一組として配置してもよい。ガイド部材100、100は、その間隔が塗布液の流れの下流側になるほど接近するように斜めに配置されている。
【0066】
二枚のガイド部材を一組とする場合には、ガイド部材の形状や配置を下記のように設定することが好ましい。すなわち、ガイド部材100、100の長さをL1 、L2 とし、リップ94先端とガイド部材100、100との成す角をθ1 、θ2 とし、さらにガイド部材100、100の先端とアルミウエブ12との距離をFCL1 、FCL2 とした時、下式が成り立つ領域で塗布を行うことが好ましい。
【0067】
L 1 sin θ1 /(FCL1 +0.3)2 +L 2 sin θ2 /(FCL 2 +0.3 )2 ≦10 ・・・式(3)
L 1 cos θ1 ・5FCL1 +L 2 cos θ2 ・5FCL2 ≦13、且つFCL 1 ≠0 、FCL 2 ≠0 ・・・式(4)
この式(3)、式(4)は後述する様々な試験を行うことによって得られた関係式であり、例えば式(3)を満たすように設定すると、スライド面86上の塗布液によって十分な液盛り上がり部96を形成することができ、塗布液の架橋点を確実に形成して塗布を開始することができる。また、式(4)を満たすように設定すると、塗布開始点における厚塗り抑制の効果が大きくなる。
【0068】
また、二枚のガイド部材100、100を一組として配置することによって、ガイド部材100、100による塗布液88の集液効果が高まり、より大きな液盛り上がり部96を形成することができる。よって、リップ94とアルミウエブ12との間隔が大きい場合にも塗布液の架橋点を確実に形成することができる。
【0069】
なお、上述した実施形態は、アルミウエブ12の巾方向の両端部に塗布開始点Aを形成したが、塗布開始点Aの個数や位置はこれに限定するものではない。例えば、図10(A)に示すように、巾方向の中央部に一組のガイド部材100、100を設け、このガイド部材100、100によって中央部に液盛り上がり部96を形成してもよい。この場合、巾方向の中央の一点で塗布開始点Aが形成され、この塗布開始点Aから両外側に向かって拡がり部Bが形成され、塗れ終わり点(合流点Cに相当)が巾方向の両端部に形成される。 また、図10(B)は、巾方向の両端部を含む三点で塗布を開始する例である。この場合、二枚一組として三組のガイド部材100、100が設けられており、三点の塗布開始点Aが形成されるようになっている。なお、三点以上の塗布開始点Aを設ける場合には、巾方向において一定の間隔で塗布開始点Aを形成することが好ましい。これにより、各拡がり部Bや各合流点Cの厚さの偏りを防止できる。また、三点以上の塗布開始点Aを設ける場合には、全ての塗布開始点Aが同じ条件、同じタイミングで形成されるように、各ガイド部材100の形状や取付位置を等しくすることが好ましい。さらに、塗布開始点Aの個数は、ガイド部材100が増え過ぎると液盛り上がり部がかえって形成されにくくなることから、アルミウエブ12の巾が1000mm程度の場合に塗布開始点Aの数が3〜5個になるように設定することが好ましい。
【0070】
なお、上述した実施形態において、ガイド部材100は、アルミウエブ12の巾方向に位置調節自在に支持しておくことが好ましい。そして、巾方向の両外側のガイド部材100をアルミウエブ12の巾方向の両端部の位置に合わせることによって、アルミウエブ12の巾寸法の変更に容易に対応することができる。また、巾方向の両端部の位置以外にもガイド部材100を設ける場合には、アルミウエブ12の巾を変更した際、ガイド部材100が一定の間隔になるようにガイド部材100の位置を調節するとよい。
【0071】
また、上述した実施形態では、塗布開始後に全てのガイド部材100を退避位置に退避させるようにしたが、これに限定するものではなく、両端位置のガイド部材100のみを退避させずに残しておくようにしてもよい。これにより、アルミウエブ12の巾方向の両端部に厚塗り部が形成され、耳部の補強が行われる。
【実施例】
【0072】
(試験1)塗布液として水系酸化防止膜層形成液(液粘度10cp)を用い、支持体には陽極酸化皮膜を形成したアルミウエブ(ウエブ巾1000mm)を使用した。塗布条件は、L.S.(ライン速度)50〜120m/分、塗布量40cc/m2 、スライド面の角度5°で行った。使用した塗布乾燥機は、送液巾1600mmでチャンバー内圧力300Paにて、そしてリップ先端とウエブとの距離は、0.3mmにて塗布し、上下垂直風(ノズルスリット隙間2mm、ピッチ150mm、ノズル風速10m/sec、ノズル風温度150℃)で乾燥を行い、テストを実施した。
【0073】
試験1−1〜3では、上述した実施形態と同様にガイド部材を用いた。ガイド部材は、ウエブとの距離が0〜0.3mm、スライド面との距離が0.2〜0.5mmになるように設置した。また、ガイド部材は、集液巾(長さ)が10〜50mm、リップに対する角度が40〜80°になるようにした。試験1−4は、比較例として、チャンバー内圧力を制御する方法を採用した。この方法ではチャンバー内圧力を300→0Paに変化させた。
【0074】
以上の条件によって塗布を行い、塗布開始点A、拡がり部B、合流点Cにおいて乾燥に必要な時間を測定した。試験結果を図11に示す。
【0075】
図11の表から分かるように、比較例では、塗布開始点A、拡がり部B、合流点Cのいずれにおいても40秒の乾燥時間がかかっていたのに対し、本発明を適用した試験1−1〜3はいずれの場合も、比較例よりも乾燥時間が短くなるという効果が得られた。
【0076】
なお、表には示さなかったが、ガイド部材の先端の角度を変えて試験した結果、ガイド部材の先端をウエブに接触させる場合は、鋭角になっている方が厚塗り抑制効果が大きくなった。また、ガイド部材を一枚で使用するよりも二枚を合わせて使用した方が集液効果が大きくなり、塗布液の架橋点が形成しやすくなった。これによって、ウエブとスライドビードコータとの距離をさらに拡げることができた。さらに、ガイド部材の形状を変えて試験した結果、ガイド部材の形状は平板に限らず、円弧状や半円状でも、厚塗り抑制の効果が得られた。
【0077】
(試験2)次に、上述した試験1と同じ塗布条件において、ガイド設定条件(FCL、θ、L)を変えて試験を行った。その試験結果を図12に示す。また、図12の結果から導き出したFCLとθの関係を図13(A)、図13(B)に示す。
【0078】
これらの結果から分かるように、L・sin θ/(FCL+0.3)2 ≦10、の関係式を満たす場合には、塗布が可能になった。また、L・cos θ・5FCL≦13、且つFCL≠0、の関係式を満たす場合には、厚塗りが少なくなり、乾燥時間が短縮された。
【0079】
(試験3)次に、上述した試験1と同様の塗布条件において、ガイド部材の先端をアルミウエブに接触させ(すなわちFCL=0の場合)、ガイド部材の先端形状を変えて試験を行った。その際、スライド面の角度は10°とした。その結果を図14に示す。
【0080】
図14の表に示すように、ガイド部材の先端をアルミウエブに接触させた場合はいずれの場合も、従来法(試験1−4参照)に比べて、乾燥時間を大幅に短縮することができた。
【0081】
(試験4)次に平面視で円弧状に形成されたガイド部材(図8参照)を用いて試験を行った。図15に結果を示すように、円弧状のガイド部材を用いた場合には集液効果が大きくなり、FCLを3mmまで拡げた場合にも架橋を形成して塗布を開始することができた。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明に係る塗布装置としてスライドビード型塗布装置を用いたウエブの製造ラインを示す構成図
【図2】ロッド塗布装置を示す構成図
【図3】スライドビード塗布装置を示す構成図
【図4】第1の実施形態のガイド部材を用いた塗布装置を示す平面図
【図5】図4の塗布装置の側面図
【図6】ガイド部材の退避手段を示す側面図
【図7】塗布開始時の状態を説明する説明図
【図8】湾曲させたガイド部材を用いた塗布装置の平面図
【図9】第2の実施形態のガイド部材を用いた塗布装置を示す平面図
【図10】別の塗布開始方法を説明する説明図
【図11】試験1の結果を示す表図
【図12】試験2の結果を示す表図
【図13】試験2の結果から得られたFCLとθの関係を示す図
【図14】試験3の結果を示す表図
【図15】試験4の結果を示す表図
【符号の説明】
【0083】
10…製造ライン、12…アルミウエブ、30…塗布装置、82…バックアップローラ、84…スライドビードコータ、86…スライド面、88…塗布液、90…貯留部、92…吐出スリット、94…リップ、100…ガイド部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗布液を帯状に吐出する吐出スリットと、該吐出した塗布液を流下させるスライド面とを有するスライドビードコータを備え、該スライドビードコータと走行中の被塗布物との間に塗布液架橋を形成し、塗布を行う塗布装置において、
塗布開始時に、前記スライド面上の塗布液をガイドすることによって該塗布液の流れを変化させるガイド部材を備え、
該ガイド部材の前記塗布液をガイドする部分の長さL(mm)、前記スライドビードコータのリップと前記ガイド部材との成す角度θ(°)、前記被塗布物と前記ガイド部材との距離FCL(mm)、及び前記スライド面と水平面との成す角度α(°)は、前記スライドビードコータと前記被塗布物との間に塗布液の架橋点を形成可能な領域に設定されることを特徴とする塗布装置。
【請求項2】
前記長さL、前記角度θ、前記距離FCL、及び前記角度αが、塗布開始時の厚塗り抑制効果のある領域に設定されることを特徴とする請求項1に記載の塗布装置。
【請求項3】
塗布液を帯状に吐出する吐出スリットと、該吐出した塗布液を流下させるスライド面とを有するスライドビードコータを備え、該スライドビードコータと被塗布物との間に塗布液架橋を形成して塗布を行う塗布装置において、
塗布開始時に、前記スライド面上の塗布液をガイドすることによって該塗布液の流れを変化させるガイド部材を備え、
該ガイド部材は、前記塗布液をガイドする部分の長さL(mm)、前記スライドビードコータのリップとの成す角θ(°)、前記被塗布物との距離FCL(mm)とした際に、
L・sin θ/(FCL+0.3)2 ≦10
の関係を満たすことを特徴とする塗布装置。
【請求項4】
前記ガイド部材は、
L・cos θ・5FCL≦13、且つFCL≠0
の関係を満たすことを特徴とする請求項3に記載の塗布装置。
【請求項5】
前記ガイド部材は、前記被塗布物側の先端が鋭角に形成されることを特徴とする請求項3又は4に記載の塗布装置。
【請求項6】
前記ガイド部材は、前記スライド面に対して若干の隙間を持って支持されることを特徴とする請求項3〜5のいずれか1に記載の塗布装置。
【請求項7】
前記ガイド部材を、前記被塗布物の巾方向に移動自在に支持する支持手段を備えたことを特徴とする請求項3〜6のいずれか1に記載の塗布装置。
【請求項8】
前記ガイド部材の前記被塗布物側の先端が、前記被塗布物の巾方向の端部に対して内側方向に0〜20mmの位置に配置されることを特徴とする請求項3〜7のいずれか1に記載の塗布装置。
【請求項9】
前記ガイド部材を塗布開始後に前記塗布液と非接触となる位置に退避移動させる退避移動手段を備えたことを特徴とする請求項3〜8のいずれか1に記載の塗布装置。
【請求項10】
前記ガイド部材は前記被塗布物の巾方向に複数配置され、前記退避移動手段は、前記複数のガイド部材のうち、前記被塗布物の巾方向の端部位置に配置されたガイド部材を除いた他のガイド部材を移動させることを特徴とする請求項9に記載の塗布装置。
【請求項11】
塗布液を帯状に吐出する吐出スリットと、該吐出した塗布液を流下させるスライド面とを有するスライドビードコータを備え、該スライドビードコータと被塗布物との間に塗布液架橋を形成して塗布を行う塗布装置において、
前記スライド面上に向かい合わせで配置され、塗布開始時に前記スライド面上の塗布液をガイドすることによって該塗布液の流れを変化させる二枚のガイド部材を備え、
該二枚のガイド部材は、前記塗布液をガイドする部分の長さをL1 (mm)、L2 (mm)、前記スライドビードコータのリップとの成す角をθ1 (°)、θ2 (°)、前記被塗布物との距離をFCL1 (mm)、FCL2 (mm)とした際、
1 ・sin θ1 /(FCL1 +0.3)2 +L2 ・sin θ2 /(FCL2 +0.3)2 ≦10
の関係を満たすことを特徴とする塗布装置。
【請求項12】
前記二枚のガイド部材は、
1 ・cos θ1 ・5FCL1 +L2 ・cos θ2 ・5FCL2 ≦13、
且つFCL1 ≠0、FCL2 ≠0
の関係を満たすことを特徴とする請求項11に記載の塗布装置。
【請求項13】
スライドビードコータの吐出スリットから塗布液を帯状に吐出し、該塗布液を前記スライドビードコータのスライド面を流下させ、前記スライドビードコータと被塗布物との間に塗布液架橋を形成して塗布を行う塗布方法において、
塗布開始時に、前記スライド面を流下する塗布液の流れをガイド部材によって変化させるとともに、
前記ガイド部材の前記塗布液をガイドする部分の長さをL(mm)、前記スライドビードコータのリップと前記ガイド部材との成す角をθ(°)、前記ガイドと前記ウエブとの距離をFCL(mm)とした際、
L・sin θ/(FCL+0.3)2 ≦10
が成立する条件で塗布を開始することを特徴とする塗布方法。
【請求項14】
前記塗布の開始時に、
L・cos θ・5FCL≦13、且つFCL≠0
が成立することを特徴とする請求項13に記載の塗布方法。
【請求項15】
スライドビードコータの吐出スリットから塗布液を帯状に吐出し、該塗布液を前記スライドビードコータのスライド面を流下させ、前記スライドビードコータと被塗布物との間に塗布液架橋を形成して塗布を行う塗布方法において、
塗布開始時に、向かい合わせで配置された二枚のガイド部材によって、前記スライド面を流下する塗布液の流れを変化させるとともに、
前記二枚のガイド部材の前記塗布液をガイドする部分の長さをL1 (mm)、L2 (mm)、前記スライドビードコータのリップとの成す角をθ1 (°)、θ2 (°)、前記被塗布物との距離をFCL1 (mm)、FCL2 (mm)とした際、
1 ・sin θ1 /(FCL1 +0.3)2 +L2 ・sin θ2 /(FCL2 +0.3)2 ≦10
が成立する条件で塗布を開始することを特徴とする塗布方法。
【請求項16】
前記塗布を開始する際に、
1 ・cos θ1 ・5FCL1 +L2 ・cos θ2 ・5FCL2 ≦13、
且つFCL1 ≠0、FCL2 ≠0
が成立することを特徴とする請求項15に記載の塗布方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2006−26501(P2006−26501A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−207735(P2004−207735)
【出願日】平成16年7月14日(2004.7.14)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】