説明

塗装成形品および塗装成形品の製造方法

【課題】樹脂塗料などの被覆材料の密着性に優れる、ポリ乳酸系樹脂組成物からなる塗装成形品およびその塗装成形品の製造方法を提供すること。
【解決手段】ポリ乳酸系樹脂(a)と、酢酸ビニル単位30重量%以上を含むエチレン−酢酸ビニル共重合体(b)と、を含有するポリ乳酸系樹脂組成物を成形して成形品を作製し、この成形品の表面を樹脂(c)で被覆することによって、樹脂(c)の密着性に優れる塗装成形品を得る。そして、この塗装成形品は、業務用食器や家庭用食器などの食器類、お盆、コップ、キャップなどの日用品、電気・電子部品、建築土木部材、自動車部品、または包装資材などの各種実用品に有効に利用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸系樹脂組成物からなる塗装成形品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ポリ乳酸は、とうもろこしなどを原料として合成されるバイオマス由来の樹脂として注目されている。ポリ乳酸は、熱可塑性樹脂であり、射出成形機や押出成形機などの既存の成形機を用いて加熱溶融し、成形することが可能である。そのため、汎用樹脂としての利用が期待されている。
ポリ乳酸を利用した実用品として、例えば、特許文献1には、樹脂塗料(ポリウレタン樹脂塗料など)で被覆されたポリ乳酸系生分解性樹脂製の食器が提案されている。また、特許文献2には、接着剤を用いて装飾用材料(塗料など)で被覆されたポリ乳酸系樹脂成形品が提案されている。
【特許文献1】特開2006−122484号公報
【特許文献2】特開2002−19041号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、樹脂塗料や装飾用材料などの被覆材料で被覆されたポリ乳酸系樹脂製の成形品(塗装成形品)においては、ポリ乳酸に対する被覆材料の密着性が低いため、経時使用によって、ポリ乳酸系樹脂から被覆材料が剥離するという不具合がある。
また、ポリ乳酸系樹脂製の塗装成形品が、業務用食器として学校給食や社員食堂で利用される場合には、被覆材料の剥離に起因して、ポリ乳酸系樹脂がアルカリ性の洗浄水に晒されて加水分解されてしまうという不具合もある。
【0004】
これらの不具合から、ポリ乳酸系樹脂製の塗装成形品は、工業生産に必ずしも適さないため、被覆材料の密着性に優れるポリ乳酸系樹脂製の塗装成形品の実用化が望まれている。
本発明の目的は、樹脂塗料などの被覆材料の密着性に優れる、ポリ乳酸系樹脂組成物からなる塗装成形品およびその塗装成形品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明の塗装成形品は、ポリ乳酸系樹脂(a)と、酢酸ビニル単位30重量%以上を含むエチレン−酢酸ビニル共重合体(b)と、を含有するポリ乳酸系樹脂組成物からなる成形品であって、前記成形品の表面が、樹脂(c)で被覆されていることを特徴としている。
また、本発明の塗装成形品では、前記ポリ乳酸系樹脂組成物は、フィラー(d)をさらに含有することが好ましい。
【0006】
また、前記ポリ乳酸系樹脂組成物は、前記ポリ乳酸系樹脂組成物の全重量に対して、前記ポリ乳酸系樹脂(a)を50〜96.9重量%、前記エチレン−酢酸ビニル共重合体(b)を3〜49.9重量%、前記フィラー(d)を0.1〜47重量%含有することが好ましい。
また、前記フィラー(d)が、無機フィラーであることが好ましい。
【0007】
さらに、前記樹脂(c)が、ウレタン系樹脂または漆系樹脂であることが好ましい。
また、本発明の塗装成形品の製造方法は、ポリ乳酸系樹脂(a)および酢酸ビニル単位30重量%以上を含むエチレン−酢酸ビニル共重合体(b)を含有するポリ乳酸系樹脂組成物からなる成形品の表面を、樹脂(c)で被覆する被覆工程と、前記樹脂(c)に被覆された前記成形品を、前記ポリ乳酸系樹脂組成物のガラス転移点以上融点未満の温度で加熱する加熱工程と、を含むことを特徴としている。
【0008】
また、本発明の塗装成形品の製造方法は、ポリ乳酸系樹脂(a)および酢酸ビニル単位30重量%以上を含むエチレン−酢酸ビニル共重合体(b)を含有するポリ乳酸系樹脂組成物を、前記ポリ乳酸系樹脂組成物のガラス転移点以上融点未満の温度に設定された成形金型によって成形品に成形する成形工程と、前記成形品の表面を、樹脂(c)を被覆する被覆工程と、を含むことを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
以上述べたように、本発明の塗装成形品は、本発明の塗装成形品を被覆する樹脂の密着性に優れている。そのため、本発明の塗装成形品は、業務用食器や家庭用食器などの食器類、お盆、コップ、キャップなどの日用品、電気・電子部品、建築土木部材、自動車部品、または包装資材などの各種実用品に有効に利用することができる。
また、上述した本発明の塗装成形品は、本発明の塗装成形品の製造方法によって得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の塗装成形品は、ポリ乳酸系樹脂(a)と、エチレン−酢酸ビニル共重合体(b)と、を含有するポリ乳酸系樹脂組成物からなる成形品であって、この成形品の表面が樹脂(c)で被覆されている。
ポリ乳酸系樹脂(a)は、乳酸を重合させることにより得られる重合体である。
ポリ乳酸系樹脂(a)の重合成分である乳酸には、L−乳酸、D−乳酸およびDL−乳酸の光学異性体が存在するが、重合成分としてはいずれの光学異性体でもよく、ポリ乳酸系樹脂(a)に含有される乳酸全量に対して、L−乳酸および/またはD−乳酸が95モル%以上含有されていることが好ましく、98モル%以上含有されていることがさらに好ましい。乳酸の光学純度が高いほど、ポリ乳酸系樹脂組成物の結晶化度を向上させることができ、ポリ乳酸系樹脂組成物の耐熱性を向上させることができる。
【0011】
また、ポリ乳酸系樹脂(a)は、乳酸と他の共重合成分との共重合体であってもよい。乳酸と他の共重合成分と共重合させることによって、ポリ乳酸系樹脂組成物の耐衝撃性や染色性を向上させることができる。
他の共重合成分としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリエーテル、例えば、ポリヘキサンアジペートやポリグリコール酸などの脂肪族ポリエステル、例えば、ポリエチレンイソフタレートなどの芳香族ポリエステル、例えば、グリコール酸、ヒドロキシプロピオン酸などのヒドロキシカルボン酸類、例えば、カプロラクトン、プロピオンラクトンなどのラクトン類、例えば、シュウ酸、アジピン酸などのジカルボン酸類、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのジオール類などが挙げられる。
【0012】
また、ポリ乳酸系樹脂(a)は、上述した乳酸および必要により他の共重合成分を公知の重合方法で重合させることによって得ることができる。このような重合方法として、例えば、脱水縮合重合、環状二量体である環状ラクチドの開環重合などが挙げられる。
また、ポリ乳酸系樹脂(a)の分子量については、ポリ乳酸系樹脂組成物を成形できれば特に制限されないが、通常、重量平均分子量が30,000〜1,000,000、好ましくは50,000〜500,000、さらに好ましくは100,000〜400,000である。なお、ここでいう重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定したポリスチレン換算の重量平均分子量である。
【0013】
このようなポリ乳酸系樹脂の市販品として、例えば、三井化学株式会社製のレイシアH−100やレイシアH−400などが挙げられる。
そして、本発明の塗装成形品を構成するポリ乳酸系樹脂組成物には、ポリ乳酸系樹脂(a)が、ポリ乳酸系樹脂組成物の全重量に対して、50〜96.9重量%含有されていることが好ましい。50重量%より少ないと、ポリ乳酸の性質、例えば、生分解性などを発揮できない場合があり、また、96.9重量%より多い場合は、ポリ乳酸系樹脂組成物の耐衝撃性が低下する場合がある。
【0014】
エチレン−酢酸ビニル共重合体(b)は、エチレンと酢酸ビニルとを共重合させることにより得られる共重合体である。
エチレン−酢酸ビニルの共重合体(b)の重合成分であるエチレンと酢酸ビニルとの配合割合については、エチレン−酢酸ビニル共重合体(b)の全重量に対して、酢酸ビニルが30重量%以上含有されている。酢酸ビニルの含有率が30重量%未満であると、成形品の表面に対する樹脂(c)の優れた密着性を十分に発現させることができない。なお、酢酸ビニルの含有率が30重量%以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体(b)であれば、酢酸ビニルの含有率が異なる複数のエチレン−酢酸ビニル共重合体(b)を2種以上併用してもよい。また、エチレン−酢酸ビニル共重合体(b)の全重量に対して、酢酸ビニルが30〜90重量%含有されていることが好ましく、酢酸ビニルが40〜85重量%含有されていることがさらに好ましい。このような範囲で酢酸ビニルが含有されていると、ポリ乳酸系樹脂組成物の耐熱性を低下させずに、耐衝撃性を向上させることができる。なお、エチレン−酢酸ビニル共重合体(b)中の酢酸ビニル含量は、JIS K 6924−2(1997)に基づいて測定される。
【0015】
また、エチレン−酢酸ビニル共重合体(b)は、エチレンと酢酸ビニルとを公知の重合方法で共重合させることによって得ることができる。このような重合方法としては、例えば、高圧法、スラリー法、エマルジョン法、溶液法などが挙げられる。
また、エチレン−酢酸ビニル共重合体(b)の分子量については、ポリ乳酸系樹脂組成物を成形できれば特に制限されないが、通常、重量平均分子量が50,000〜500,000、好ましくは100,000〜200,000である。なお、ここでいう重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定したポリスチレン換算の重量平均分子量である。
【0016】
このようなエチレン−酢酸ビニル共重合体の市販品として、例えば、大日本インキ化学工業株式会社製の、エバスレン410−Pまたはエバスレン420−P(ともに酢酸ビニル含量80重量%)、住友化学株式会社製の、エバテートR−5011(酢酸ビニル含量41重量%)またはスミテートMB−11(酢酸ビニル含量32重量%)などが挙げられる。
【0017】
そして、本発明の塗装成形品を構成するポリ乳酸系樹脂組成物には、エチレン−酢酸ビニル共重合体(b)が、ポリ乳酸系樹脂組成物の全重量に対して、3〜49.9重量%含有されていることが好ましく、5〜40重量%含有されていることがさらに好ましい。エチレン−酢酸ビニル共重合体(b)が3重量%より少ないと、ポリ乳酸系樹脂組成物の耐衝撃性を十分に向上させることができず、49.9重量%より多い場合は、耐熱性を低下させる場合がある。
【0018】
また、本発明の塗装成形品を構成するポリ乳酸系樹脂組成物には、フィラー(d)が含有されていることが好ましい。
フィラー(d)としては、例えば、タルク、クレー、マイカ、炭酸カルシウム、酸化チタン、酸化マグネシウム、硫酸バリウム、シリカ、水酸化アルミウムまたは層状珪酸塩などの無機フィラー、例えば、イノシトール誘導体、ソルビトール誘導体などの多糖類フィラーなどが挙げられ、これらは単独または併用してもよい。これらのうち、好ましくは、無機フィラーが挙げられ、さらに好ましくは、タルクが挙げられる。
【0019】
ポリ乳酸系樹脂組成物にフィラー(d)を含有することによって、ポリ乳酸系樹脂組成物からなる成形品の表面に凹凸が発生して比表面積が増大し、成形品の表面に対する樹脂(c)の密着性を向上させることができる。また、ポリ乳酸系樹脂組成物に対して結晶核剤として機能し、ポリ乳酸系樹脂組成物の耐熱性を向上させることができる。さらに、ポリ乳酸系樹脂組成物の結晶化収縮率を減少させることができるため、ポリ乳酸系樹脂組成物の寸法安定性を向上させることができる。
【0020】
また、フィラー(d)が無機フィラーである場合には、その平均粒径が、例えば、0.001μm〜20μmであることが好ましい。なお、ここでいう平均粒径とは、レーザ回折散乱法によって測定された平均粒径のことをいう。また、フィラー(d)が層状珪酸塩である場合には、ポリ乳酸系樹脂組成物への分散性を向上させるために、層状珪酸塩が有機化されていることが好ましい。
【0021】
また、フィラー(d)は、ポリ乳酸系樹脂組成物の全重量に対して、例えば、0.1〜47重量%含有されていることが好ましく、5〜30重量%含有されていることがさらに好ましい。このような範囲でフィラー(d)が含有されていると、ポリ乳酸系樹脂組成物の耐熱性および寸法安定性を向上させると共に、成形品の表面に対する樹脂(c)の密着性を向上させることができる。すなわち、フィラー(d)が0.1重量%よりも少ないと、耐熱性を十分に向上できない上に、樹脂(c)の密着性が低下して剥がれやすくなる場合がある。一方、47重量%よりも多いと、得られた成形品が脆くなり、割れが生じやすくなる。
【0022】
また、本発明の塗装成形品を構成するポリ乳酸系樹脂組成物には、本発明の優れた効果を損なわない量であれば、上述した成分以外に、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン系樹脂、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどの芳香族ポリエステル、例えば、ポリブチレンサクシネートなどの脂肪族ポリエステル、例えば、セルロースアセテートなどのセルロース系樹脂、例えば、ABS樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリエーテル系エラストマー、ポリスチレン系エラストマー、天然ゴム、澱粉、木粉、などを含有させてもよい。
【0023】
また、例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系熱安定剤もしくはヒンダードアミン系光安定剤などの安定剤、可塑剤、滑剤、例えば、脂肪酸アミド、脂肪酸エステル、脂肪酸塩もしくはグリセリン脂肪酸エステルなどの脂肪酸、着色剤、離型剤または難燃剤などの公知の添加剤を含有させてもよい。
成形品の表面を被覆する樹脂(c)としては、一般的に塗装やコーティングなどに用いられる硬化性樹脂であれば特に制限されず、例えば、ポリウレタン系樹脂、アクリルウレタン系樹脂などのウレタン系樹脂、例えば、アクリル系樹脂、メラミン系樹脂、シリコーン系樹脂、エポキシ系樹脂、不飽和ポリエステル系、カシュー系樹脂、ポリ乳酸系樹脂、漆系樹脂などが挙げられる。これらのうち、好ましくは、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、カシュー系樹脂、漆系樹脂が挙げられ、さらに好ましくは、ウレタン系樹脂、漆系樹脂が挙げられる。
【0024】
また、樹脂(c)の厚みは、例えば、0.01μm〜2000μmであり、1μm〜500μmであることが好ましい。
そして、本発明の塗装成形品は、ポリ乳酸系樹脂(a)およびエチレン−酢酸ビニル共重合体(b)を含有するポリ乳酸系樹脂組成物を成形し、得られた成形品の表面を樹脂(c)で被覆する、本発明の塗装成形品の製造方法(被覆工程)によって得ることができる。
【0025】
ポリ乳酸形樹脂組成物は、上述したポリ乳酸系樹脂(a)およびエチレン−酢酸ビニル共重合体(b)、ならびに必要により任意成分として、フィラー(d)などを混合することによって得ることができる。
上述した成分の混合方法としては、例えば、溶融混練など、公知の混合方法が挙げられる。溶融混練をするために用いられる装置としては、例えば、単軸押出機、二軸押出機、オープンロールミル、バンバリーミキサー、ニーダー、ブラベンダーまたは溶融混合槽などが挙げられる。また、溶融混練の方法としては、特に限定されず、ポリ乳酸系樹脂(a)と、エチレン−酢酸ビニル共重合体(b)と、任意成分とを一括して溶融混練してもよいし、ポリ乳酸系樹脂(a)と任意成分とを予備混練した後、エチレン−酢酸ビニル共重合体(b)とを溶融混練してもよい。
【0026】
また、ポリ乳酸系樹脂組成物の成形方法としては、例えば、射出成形、押出成形、発泡成形、圧縮成形、ブロー成形など、公知の成形方法が挙げられる。
成形品の表面を樹脂(c)で被覆する方法としては、成形品の表面を被覆することができれば特に制限されず、例えば、刷毛塗り、ロールコート、吹きつけなどの方法が挙げられる。また、樹脂(c)による被覆の回数としては、成形品の表面を被覆する樹脂(c)が適切な厚みとなるのであれば特に制限されず、例えば、2回、3回など複数回であってもよい。
【0027】
また、成形品の表面を被覆した後の樹脂(c)の硬化方法としては、例えば、熱硬化、湿気硬化、UV硬化など、公知の硬化方法が挙げられる。また、樹脂(c)がウレタン系樹脂などの熱硬化性樹脂である場合、樹脂(c)を熱硬化させるための乾燥温度は、例えば、30〜150℃であることが好ましく、乾燥時間は、樹脂(c)の厚みや乾燥温度に応じて適宜の時間になる。
【0028】
また、樹脂(c)が漆系樹脂である場合、樹脂(c)を硬化させるための乾燥温度は、例えば、常温であることが好ましく、乾燥湿度は、例えば相対湿度70〜75%であることが好ましい。そして、このときの乾燥時間は、例えば1週間程度であり、この時間は、季節・周囲環境などに応じて適宜の時間になる。
また、本発明の塗装成形品の製造方法では、成形品の表面に対して前処理を施すことが好ましい。
【0029】
前処理の方法としては、例えば、成形品の表面を有機溶剤で拭き、自然乾燥させる方法が挙げられる。この方法に用いられる有機溶剤としては、例えば、シンナー、アセトン、クロロホルムなどが挙げられる。これらの有機溶剤を用いて前処理をすることによって、成形品の表面の油分を除去すると共に、表面をやや溶解させることができ、成形品の表面に対する樹脂(c)の密着性を向上させることができる。
【0030】
また、本発明の塗装成形品の製造方法では、ポリ乳酸系樹脂からなる成形品を結晶化させることが好ましい。成形品を結晶化させることによって、本発明の塗装成形品の耐熱性および寸法安定性を向上させることができる。
成形品を結晶化させる方法としては、成形品を樹脂(c)で被覆する前に行なう方法と、樹脂(c)で被覆した後に行なう方法とがある。
【0031】
成形品を樹脂(c)で被覆する前に結晶化させる方法としては、例えば、ポリ乳酸系樹脂組成物を、ポリ乳酸系樹脂組成物のガラス転移点以上融点以下の温度、例えば、結晶化温度付近に設定された成形金型内に射出または押出することによって、成形品に成形することによって結晶化させる方法がある(成形工程)。このように、成形金型内で結晶化を行なうことで、正確な寸法の成形品を得ることができる。このような方法は、寸法の正確性が必要とされる成形品、例えば、他の部品に嵌合して使用されるようなキャップや電気部品、自動車部品などに好適に用いられる。なお、金型温度は、例えば、90〜130℃である。
【0032】
また、成形品を樹脂(c)で被覆する前に結晶化させる他の方法としては、例えば、成形品を、成形金型によって成形した後、加熱炉で加熱処理することによって結晶化させる方法がある。このように、成形品を成形する工程と、成形品を加熱処理する工程とを分離させることで、成形品の成形サイクルを短縮することができる。このような方法は、形状が単純であり、大量生産が必要とされる成形品、例えば、業務用食器や家庭用食器などの食器類、お盆やコップなどの日用品に好適に用いられる。
【0033】
一方、成形品を樹脂(c)で被覆した後に結晶化させる方法としては、例えば、樹脂(c)で被覆された成形品を、ポリ乳酸系樹脂組成物のガラス転移点以上融点未満の温度、例えば、結晶化温度付近に設定された温度の加熱炉で加熱処理することによって結晶化させる方法である(加熱工程)。なお、このような加熱処理は、例えば、樹脂(c)を硬化させるための乾燥熱を利用して行なってもよい。また、連続式処理、バッチ処理のいずれの処理方法で行なってもよい。このように、成形品を成形する工程と、成形品を加熱処理する工程とを分離させることで、成形品の成形サイクルを短縮することができる。このような方法は、前述した、樹脂(c)を被覆する前の成形品を加熱処理することによって結晶化させる方法と同様に、形状が単純であり、大量生産が必要とされる成形品、例えば、業務用食器や家庭用食器などの食器類、お盆やコップなどの日用品に好適に用いられる。
【0034】
以上のようにして得られる塗装成形品は、この塗装成形品を被覆する樹脂の密着性に優れている。そのため、この塗装成形品は、業務用食器や家庭用食器などの食器類、お盆、コップ、キャップなどの日用品、電気・電子部品、建築土木部材、自動車部品、または包装資材などの各種実用品に有効に利用することができる。とりわけ、食器類においては、塗装成形品から樹脂が剥離し難い結果、ポリ乳酸系樹脂組成物がアルカリ性の洗浄水などに侵食されることを防止することもできる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例および比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
1)以下の原料を用いた。
ポリ乳酸系樹脂(a)
三井化学株式会社製、レイシア H−100
エチレン−酢酸ビニル共重合体(b)
(b−1)エチレン−酢酸ビニル共重合体:酢酸ビニル単位含量80重量%(大日本インキ化学工業株式会社製、エバスレン 420−P)
(b−2)エチレン−酢酸ビニル共重合体:酢酸ビニル単位含量41重量%(住友化学株式会社製、エバテート R−5011)
(b−3)エチレン−酢酸ビニル共重合体:酢酸ビニル単位含量32重量%(住友化学株式会社製、スミテート MB−11)
(b−4)エチレン−酢酸ビニル共重合体:酢酸ビニル単位含量10重量%(住友化学株式会社製、エバテート D−3010)
樹脂(c)
(c−1)ウレタン系樹脂塗料(カシュー株式会社製、ストロンTXL−2800(2液ウレタン塗料))
(c−2)漆(有限会社田島漆店製 日本製)
フィラー(d)
タルク(林化成株式会社製、ミクロンホワイト5000S 平均粒径4μm)
2)実施例および比較例(の成形品の製造)
実施例1
下記の表1に示す処方において、ポリ乳酸系樹脂(a)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(b)およびフィラー(d)を、二軸エクストルーダー(株式会社池貝製、PCM30 スクリュー径30mm)を用いて190℃で溶融混練して、ポリ乳酸系樹脂組成物のペレットを得た。
【0036】
得られたペレットを、70℃で15時間真空乾燥した後、射出成形機(日精樹脂工業株式会社製、スクリュー径30mm)を用い、シリンダ温度(シリンダ入口部温度180℃、シリンダ中間部温度およびシリンダ出口部温度200℃)、金型温度30℃、冷却時間50秒で射出成形して、長さ80mm、幅10mm、厚さ4mmのポリ乳酸系樹脂成形品(試験片)を作製し、それを120℃に設定した熱風乾燥機中で60分間加熱処理をした。
【0037】
得られたポリ乳酸系樹脂成形品(試験片)の表面をシンナーで拭き、自然乾燥させた後、スプレー式の塗装装置を用い、厚みが50〜60μmになるように、成形品の表面にウレタン系樹脂塗料(c−1)を吹きつけた。その後、ウレタン系樹脂塗料(c−1)に被覆された成形品を、表1に示す条件で乾燥して塗装成形品(試験片)を得た。
実施例2〜11
表1に示す処方および条件において、実施例1と同様の操作により、ポリ乳酸系樹脂成形品(試験片)を得た後、塗装成形品(試験片)を得た。但し、実施例7については、成形品の表面に漆を刷毛塗りした。また、実施例8〜10については、ポリ乳酸系樹脂成形品(試験片)の作製において、射出成形時の金型温度および冷却時間を表1に示す条件とし、熱風乾燥機での加熱処理は行なわなかった。
【0038】
比較例1〜5
表1に示す処方において、実施例1と同様の操作により、ポリ乳酸系樹脂成形品(試験片)を得た後、塗装成形品(試験片)を得た。但し、比較例5については、成形品の表面を樹脂(c)で被覆しなかった。
【0039】
【表1】

【0040】
表1中のポリ乳酸系樹脂組成物中の各成分の割合は、全てポリ乳酸系樹脂組成物の全重量に対する重量%で表される。
3)各物性の測定方法
各実施例および各比較例で得られたポリ乳酸系樹脂成形品(試験片)および塗装成形品(試験片)について、以下の方法により物性試験を行なった。結果を表1に示す。
(1)シャルピー衝撃強度(ノッチなし):東洋精機工業株式会社製シャルピー衝撃試験機(ハンマー4J)を用いて、JIS K 7111(1996年)に従って、長さ80mm、幅10mm、厚さ4mmのポリ乳酸系樹脂成形品(試験片)への打撃方向をエッジワイズ方向とすることにより測定した。なお、表1中の「NB」の記載は、試験片が破壊されなかったため、測定値がないことを意味している。
(2)荷重たわみ温度:東洋精機工業株式会社製HDTテスターを用いて、JIS K 7191−2(1996年)に従って、長さ80mm、幅10mm、厚さ4mmのポリ乳酸系樹脂成形品(試験片)のフラットワイズ方向にかかる曲げ応力を、0.45MPaとし、0.35mm変形したときの温度を測定した。
(3)耐アルカリ性試験:塗装成形品(試験片)を2つ準備し、一方をアルカリ処理し、他方をアルカリ処理せず、比較試料とした。アルカリ処理は、密閉できるガラス容器に1Nの水酸化ナトリウム水溶液を入れ、この水溶液に塗装成形品(試験片)を完全に浸漬させた後、ガラス容器を密閉し、25℃に設定した恒温器に静置することにより行なった。そして、120時間経過後にガラス容器から塗装成形品(試験片)を取り出し、流水で洗浄した後、自然乾燥させ、比較試料と目視で比較した。
【0041】
なお、表1に示した記号は、以下の基準を示している。
◎:比較試料と比べて変化なし
○:比較試料と比べてやや艶がなくなった程度
×:比較試料と比べて大きな変化あり
(4)剥離強度:樹脂(c)を塗装して48時間後の塗装成形品(試験片)の表面に、JIS K 5600−5−6に従って、2mm×2mmの碁盤目をカッターナイフで15個(3×5)作り、これらの碁盤目の上に幅24mmのセロハン粘着テープを付着させ、テープの一端を塗装面に対して垂直に保った後、テープを瞬間的に引き離した。そして、引き離した後、剥離せずに残った碁盤目の数を数えた。
【0042】
なお、表1に示した記号は、以下の基準を示している。
◎:カッターナイフのカットの縁が完全に滑らかで、剥離した碁盤目はなかった
○:カッターナイフのカットが交差する部分近傍において、小さな剥離があった
×:カッターナイフのカットの縁に沿って、部分的または全体的に剥離し、また、完全に剥離した碁盤目が1つ以上あった
(5)結晶化温度、ガラス転移温度および融点は、セイコーインスツル株式会社製の示差走査熱分析装置(DSC)を用い、二軸エクストルーダーで溶融混練したポリ乳酸系樹脂組成物のペレット約5mgを、窒素雰囲気下、30℃から200℃の範囲で10℃/分の速度で昇温および200℃から30℃まで10℃/分の速度で降温することにより測定した。なお、昇温過程における結晶化ピークのピークトップ温度をTcとし、降温過程における結晶化ピークのピークトップ温度をTc‘とした。
(6)結晶化収縮率:長さ80mm、幅10mm、厚さ4mmのポリ乳酸系樹脂成形品(試験片)を、120℃に設定した熱風乾燥機中で60分間加熱処理した後、試験片の流れ(MD)方向、すなわち縦の長さ、および流れに対して垂直(TD)方向、すなわち幅について、それぞれ加熱処理前の寸法と比較して、下記式により求めた。
【0043】
MD方向結晶化収縮率=(1−加熱後のMD方向の長さ/加熱前のMD方向の長さ)×100
TD方向結晶化収縮率=(1−加熱後のTD方向の長さ/加熱前のTD方向の長さ)×100
(7)ソリなどの変形の有無:長さ80mm、幅10mm、厚さ4mmのポリ乳酸系樹脂成形品(試験片)を、120℃に設定した熱風乾燥機中で60分間加熱処理した後、定盤の上に載置し、そのとき生じる隙間に、株式会社永井ゲージ製作所製の隙間ゲージを挿入することにより測定し、最も大きい値を測定値として採用した。
【0044】
なお、表1に示した記号は、以下の基準を示している。
◎:隙間なし ○:0.1mm未満 △:0.1mm以上0.2mm未満 ×:0.2mm以上

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸系樹脂(a)と、
酢酸ビニル単位30重量%以上を含むエチレン−酢酸ビニル共重合体(b)と、を含有するポリ乳酸系樹脂組成物からなる成形品であって、
前記成形品の表面が、樹脂(c)で被覆されていることを特徴とする、塗装成形品。
【請求項2】
前記ポリ乳酸系樹脂組成物は、フィラー(d)をさらに含有することを特徴とする、請求項1に記載の塗装成形品。
【請求項3】
前記ポリ乳酸系樹脂組成物は、前記ポリ乳酸系樹脂組成物の全重量に対して、前記ポリ乳酸系樹脂(a)を50〜96.9重量%、前記エチレン−酢酸ビニル共重合体(b)を3〜49.9重量%、前記フィラー(d)を0.1〜47重量%含有することを特徴とする、請求項2に記載の塗装成形品。
【請求項4】
前記フィラー(d)が、無機フィラーであることを特徴とする、請求項2または3に記載の塗装成形品。
【請求項5】
前記樹脂(c)が、ウレタン系樹脂または漆系樹脂であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の塗装成形品。
【請求項6】
ポリ乳酸系樹脂(a)および酢酸ビニル単位30重量%以上を含むエチレン−酢酸ビニル共重合体(b)を含有するポリ乳酸系樹脂組成物からなる成形品の表面を、樹脂(c)で被覆する被覆工程と、
前記樹脂(c)に被覆された前記成形品を、前記ポリ乳酸系樹脂組成物のガラス転移点以上融点未満の温度で加熱する加熱工程と、を含むことを特徴とする、塗装成形品の製造方法。
【請求項7】
ポリ乳酸系樹脂(a)および酢酸ビニル単位30重量%以上を含むエチレン−酢酸ビニル共重合体(b)を含有するポリ乳酸系樹脂組成物を、前記ポリ乳酸系樹脂組成物のガラス転移点以上融点未満の温度に設定された成形金型によって成形品に成形する成形工程と、
前記成形品の表面を、樹脂(c)を被覆する被覆工程と、を含むことを特徴とする、塗装成形品の製造方法。

【公開番号】特開2008−222873(P2008−222873A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−63588(P2007−63588)
【出願日】平成19年3月13日(2007.3.13)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)「平成18年度、経済産業省、地域新生コンソーシアム研究開発事業(改質ポリ乳酸の創製及びそれらの射出成形・加工技術の開発)委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願」
【出願人】(592026554)大洋化学株式会社 (26)
【出願人】(507081485)有限会社妹背保雄商店 (1)
【出願人】(591023594)和歌山県 (62)
【Fターム(参考)】