説明

塗装焼付硬化性能に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法

【課題】強度と加工性を兼ね備え、更にBH性と常温遅時効性をも兼ね備えた、塗装焼付硬化性能に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法を提供すること。
【解決手段】C:0.0014〜0.0025質量%である極低炭素のスラブを、熱間圧延、冷間圧延、連続焼鈍後に一旦、調質圧延を施した後、引き続き、連続溶融亜鉛めっきラインにてめっき後合金化熱処理後に再度、調質圧延を施す、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造プロセスにおいて、めっき前後の二種の調質圧延率の関係が、式:SP1+SP2≦SP0≦0.75×SP1+1.5×SP2(SP0は冷間圧延後に焼鈍ラインのみによって冷延鋼板を製造する際の、鋼板の遅時効性が確保される最小限の調質圧延率(%)、SP1とSP2は焼鈍ラインに引き続くめっきラインでの、めっき前後の各々の調質圧延率(%))を満たすように行なうことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装焼付硬化性(BH性)、常温遅時効性、成形性を兼ね備えた合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法に関するものである。
【0002】
本発明が係わる合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、自動車、家庭電気製品、建物などに使用されるものである。
【背景技術】
【0003】
溶鋼の真空脱ガス処理の進歩により、極低炭素鋼の溶製が容易になった現在、良好な加工性を有する極低炭素鋼板の需要は益々増加しつつある。この中でも、TiやNbを添加した極低炭素鋼板は極めて良好な加工性を有するが、更にこの添加量をC量とのバランスで調整することで塗装焼付硬化(BH)性を付与しつつ、PやMnやSiなどの固溶強化元素を添加して高強度化を図るなどした、高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板は重要な位置をしめつつある。しかしながら、BH鋼板はその発現機構として、固溶Cとプレス成型等で材料に導入された転位との相互作用を利用するため、プレス成型時のストレッチャーストレイン発生、即ち時効現象も起こりやすく、常温遅時効性との両立が技術的な課題である。
【0004】
この両立を図るために、特許文献1のようなめっき鋼板の製造ラインにおける冷延板からの焼鈍−めっき浸漬−合金化などの熱履歴を制御する技術を始め、特許文献2のような最終の調質圧延量を調整する技術、また特許文献3のようなめっき鋼板に異周速調質圧延を施す技術など、固溶Cの量や状態、及び材料に導入する転位の量や状態の両面から種々の技術が検討されている。しかしながら、これらの従来技術は基本的に冷延板の焼鈍工程を含む熱処理とそれに続く調質圧延との組み合わせによるゼンジマー法や無酸化炉方式での合金化溶融亜鉛めっき製造プロセスを前提としたものである。
【0005】
ところが近年、特許文献4のように冷延板を焼鈍した焼鈍済み冷延鋼板を用いて、これを電気加熱などで急速昇温して、めっき浸漬後に合金化熱処理することで合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造する新しい製造プロセスが開発されている。このプロセスは既存の冷延鋼板製造ラインを焼鈍ラインとして活用するため、続く合金化溶融亜鉛めっき鋼板製造ラインでは焼鈍する必要がない。しかしながら他方、一旦焼鈍済みの冷延鋼板を後者のラインで通板する際に、めっき不良につながる形状不良を防止するなどの目的で、前者の冷延鋼板製造ラインで調質圧延を施されると、後者のめっきラインでの最終の調質圧延と合わせて、計二度の調質圧延が材料に付与されることになる。ところで前者の調質圧延は、鋼板がその後加熱され、亜鉛めっき合金化熱処理を受けることを考えると、後者の最終の調質圧延とは鋼板に与える影響が異なる。このため前記の新プロセスにおける二回の調質圧延方法については、例えば特許文献5のような低炭素Alキルド鋼や、特許文献6のような複合組織の高強度鋼板の材質に関して、特に前者の中間での調質圧延の伸び率に着目した検討がなされている。しかしながら、この新めっきプロセスでの極低炭素鋼板の材質に関する検討、特にBH性と常温遅時効性の両立が求められる極低炭素焼付硬化鋼板における検討は見当たらない。
【0006】
【特許文献1】特許第3745496号
【特許文献2】特公平5−42486号
【特許文献3】特開平10−195540号
【特許文献4】特開2006−299309号
【特許文献5】特開2006−283070号
【特許文献6】特開2006−283071号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のとおり、BH性と常温遅時効性の両立が求められる極低炭素焼付硬化鋼板における、前記の新めっきプロセスでの材質に関わる調質圧延方法に関する技術は見当たらない。しかしながら、BH性や時効性は調質圧延率の影響を強く受けること、更にそもそも、加工性の良好な極低炭素鋼板の調質圧延は、過度に行うと降伏強度の上昇や伸びの低下などまねくことなど、本発明が対象とする鋼板製造において、常温遅時効性を確保するのに必要最小限の調質圧延条件を明確にすることは、工業的に極めて重要である。
【0008】
そこで、本発明は、焼鈍済み冷延鋼板を用いて、これを急速昇温して、めっき浸漬後に合金化熱処理することで合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造する新しい製造プロセスでの、BH性と常温遅時効性とを兼ね備えた、塗装焼付硬化性能に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の目標を達成するために、鋭意、研究を遂行し、以下に述べるような、従来にはない知見を得た。
【0010】
すなわち、新めっきプロセスにおけるめっき前後の調質圧延率に対して、加工性や常温遅時効性などの各種材質に及ぼす影響を調査し、BH性と常温遅時効性とを兼ね備えた、塗装焼付硬化性能に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板を得ることができるめっき前後の二種の調質圧延の最適な付与比率の条件を見出したものである。
【0011】
本発明は、このような思想と新知見に基づいて構築されたものであり、その発明の要旨とするところは以下のとおりである。
【0012】
(1)質量%で、
C :0.0014〜0.0025%、
Si≦0.5%、
Mn:0.03〜1.0%、
P :0.01〜0.15%、
S ≦0.015%、
Al:0.005〜0.1%、
N ≦0.0040%
を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成のスラブを、Ar3変態点以上の温度で熱間圧延を行い、圧下率60〜95%の冷間圧延を施し、連続焼鈍ラインにて650℃〜Ac3変態点で焼鈍後に調質圧延を施して、一旦、焼鈍済み冷延鋼板を製造し、引き続き、連続溶融亜鉛めっきラインにて亜鉛めっき浴温度まで加熱してめっきした後、460〜600℃までの温度範囲で5〜15秒の合金化熱処理を行い、その後、再度調質圧延を施す、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造プロセスにおいて、めっき前後の二種の調質圧延率の関係が、めっきをしない連続焼鈍ラインのみによって製造される冷延鋼板に施される調質圧延率を基準とした、次式で示す条件で行うことを特徴とする塗装焼付硬化性能に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
SP1+SP2≦SP0≦0.75×SP1+1.5×SP2
ここで、SP0は冷間圧延後に焼鈍ラインのみによって冷延鋼板を製造する際の、鋼板の遅時効性が確保される最小限の調質圧延率(%)、SP1とSP2は焼鈍ラインに引き続くめっきラインによって合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造する際の、めっき前後の各々の調質圧延率(%)を意味する。
【0013】
(2) さらに、質量%で、B:0.0001〜0.0040%を含有することを特徴とする前記(1)に記載の塗装焼付硬化性能に優れた冷延鋼板の製造方法。
【0014】
(3)質量%で、
C :0.0014〜0.0030%、
Si≦0.5%、
Mn:0.03〜1.0%、
P :0.01〜0.15%、
S ≦0.015%、
Al:0.005〜0.1%、
N ≦0.0040%
を含有し、さらに
Ti:0.002〜0.015%
および
Nb:0.002〜0.015%
のうち1種または2種を
Ti+Nb=0.002〜0.015%
となるように含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成のスラブを、Ar3変態点以上の温度で熱間圧延を行い、圧下率60〜95%の冷間圧延を施し、連続焼鈍ラインにて650℃〜Ac3変態点で焼鈍後に調質圧延を施して、一旦、焼鈍済み冷延鋼板を製造し、引き続き、連続溶融亜鉛めっきラインにて亜鉛めっき浴温度まで加熱してめっきした後、460〜600℃までの温度範囲で5〜15秒の合金化熱処理を行い、その後、再度調質圧延を施す、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造プロセスにおいて、めっき前後の二種の調質圧延率の関係が、めっきをしない連続焼鈍ラインのみによって製造される冷延鋼板に施される調質圧延率を基準とした、次式で示す条件で行うことを特徴とする塗装焼付硬化性能に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
SP1+SP2≦SP0≦0.75×SP1+1.5×SP2
ここで、SP0は冷間圧延後に焼鈍ラインのみによって冷延鋼板を製造する際の、鋼板の遅時効性が確保される最小限の調質圧延率(%)、SP1とSP2は焼鈍ラインに引き続くめっきラインによって合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造する際の、めっき前後の各々の調質圧延率(%)を意味する。
【0015】
(4) さらに、質量%で、B:0.0001〜0.0040%を含有することを特徴とする前記(3)に記載の塗装焼付硬化性能に優れた冷延鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
以上詳述したように、本発明により、焼鈍済み冷延鋼板を用いて、これを急速昇温して、めっき浸漬後に合金化熱処理することで合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造する、新しいめっき鋼板製造プロセスによって、強度と加工性を兼ね備え、更にBH性と常温遅時効性をも兼ね備えた、塗装焼付硬化性能に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法を提供することができる。この新しいプロセスは、既存の冷延鋼板製造ラインを活用することを前提としているため、生産効率が高く、他方、本発明により製造された鋼板は、使用に当たって今までの鋼板より板厚を減少でき、地球環境保全に寄与できる軽量化を可能にする鋼板であることから、本発明は工業的に価値の高い発明であると言える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
ここに、本発明において鋼組成および製造条件を上述のように限定する理由についてさらに説明する。
【0018】
Cは製品のBH特性および常温遅時効性さらには加工性を決定する極めて重要な元素である。Cが0.0014%未満となると十分なBH性が発現しないほか、製造コストが著しく増加するので、その下限を0.0014%とする。一方、C量が0.0025%を超えると成形性の劣化を招き、また常温非時効性が確保されなくなるので、上限を0.0025%とする。高BH性と常温遅時効性とのバランスは、C量を0.0016〜0.0022%の範囲とすることがさらに好ましい。Ti、Nbを含有する場合には、固溶Cを確保しにくくなるのでCの上限を0.0030%とする。Ti、Nbを含有する場合には0.0017〜0.0024%がC量の好ましい範囲である。
【0019】
Siは安価に強度を増加させる元素として知られており、その添加量は狙いとする強度レベルに応じて変化するが、添加量が0.5%超となると降伏強度が上昇しすぎてプレス成形時に面歪が生じる。なお従来のゼンジマー法や無酸化炉方式でのめっき製造プロセスによる合金化溶融亜鉛めっき鋼板では、めっき密着性の低下や、合金化反応の遅延による生産性の低下などの問題から、Si量に制約が設けられることが多いが、本発明が対象とするめっき製造プロセスでは、後述するように、焼鈍済みの冷延鋼板をめっき浴温度まで加熱する際の表面酸化防止などの理由でNiめっきやNi−Feめっきなどのプレめっきが付与されるため、特段の制約を設ける必要はない。
【0020】
MnはMnSを形成し熱延時のSによる耳割れを抑制したり、熱延板組織を微細にするので、0.03%以上添加する。さらに、Mnは降伏強度をあまり増加させずに強度を増加させる有効な固溶体強化元素であり、かつ化成処理性を改善したり、溶融亜鉛めっき性を改善する効果も有する。一方、Mn量が1.0%を超えると強度が高くなりすぎたり、亜鉛めっきの密着性が阻害されたりするのでその上限を1.0%とする。
【0021】
PはSiと同様に安価に強度を上昇させる効果がある元素として知られており、0.01%以上でその効果が得られるが、強度を増加する必要がある場合にはさらに積極的に添加する。また、Pは熱延組織を微細にし、加工性を向上する効果も有する。ただし、添加量が0.15%を超えると、降伏強度が増加し過ぎてプレス時に面形状不良を引き起こす。さらに、連続溶融亜鉛めっき時に合金化反応が極めて遅くなり、生産性が低下する。また、2次加工性も劣化する。したがって、Pの上限値を0.15%とする。
【0022】
Sは0.015%超では、熱間割れの原因となったり、加工性を劣化させるので0.15%を上限とする。
【0023】
Alは脱酸調整およびTiを添加しない場合にはNの固定に使用するが、0.005%未満ではその効果が不十分である。一方、Al量が0.1%超になるとコストアップを招いたり、表面性状の劣化を招くのでその上限を0.1%とする。
【0024】
Nはあまり多いと多量のTi、Nb、Alが必要になったり、加工性が劣化したりするので0.0040%を上限値とする。
【0025】
Bは2次加工脆化の防止に有効であるほか、AlやTiでNを固定するよりも再結晶温度が低くなるので、必要に応じて0.0040%以下添加する。しかし、Bが0.0001%未満ではその効果が発現しないので、0.0001%を下限とする。
【0026】
Ti、NbはN、C、Sの一部を固定することにより、常温遅時効性を確保する役割を有する。さらには、熱延板の結晶粒を微細化し、製品板の加工性を良好にするので必要に応じてTi、Nbの1種又は2種を添加する。Ti、Nbがそれぞれ0.002%未満ではその添加効果が現れないのでこれを下限値とする。一方、Ti、Nbの添加量が多すぎると十分なBH性が発現しにくいばかりではなく、再結晶温度が著しく上昇したり、亜鉛めっきの密着性も阻害される。従って、Ti、Nbの上限をいずれも0.015%、Ti+Nbの上限を0.015%とする。より好ましくはTi:0.004〜0.010%、Nb:0.003〜0.009%、Ti+Nb=0.004〜0.010%である。
【0027】
これらを主成分とする鋼にCu、Sn、Zn、Mo、W、Cr、Niを合計で1%以下含有しても構わない。
【0028】
次に、製造条件の限定理由について述べる。
熱間圧延に供するスラブは特に限定するものではない。すなわち、連続鋳造スラブや薄スラブキャスターなどで製造したものであればよい。また、鋳造後に直ちに熱間圧延を行う連続鋳造−直接圧延(CC−DR)のようなプロセスにも適合する。
【0029】
熱延の仕上温度は製品板の加工性を確保するという観点からAr3変態点以上とする必要がある。
【0030】
熱延後の冷却は、限定するものではないが、特に優れた加工性を必要とする場合には、圧延後1.5秒以内に冷却を開始し、巻取温度までの平均冷却速度を30℃/s以上とすることが望ましい。
【0031】
巻取温度は特に限定しないが、TiやBを添加しないときには650〜800℃とすることが望ましい。これによってAlNの形成、成長が促され良好な成形性が確保される。TiやBを添加する際にはNは巻取前に固定されるので巻取温度は室温から800℃とすればよい。巻取温度の上限が800℃であることは、コイル両端部での材質劣化に起因する歩留低下を防止すること、また、熱延組織の粗大化を防止する観点から決定される。
【0032】
冷間圧延は、通常の条件でよく、焼鈍後の深絞り性を確保する目的からその圧延率は、60%以上とする。圧下率を95%超とすると加工性が劣化してしまうのでこれを上限とする。
【0033】
連続焼鈍ラインの焼鈍温度は、650℃以上Ac3変態点以下とする。焼鈍温度が650℃未満では、再結晶が完了せず、加工性が劣悪となる。一方、焼鈍温度がAc3変態点超では、変態によって加工性の低下を招く。焼鈍後の冷却および熱処理条件は、特別に限定するものではないが、通常、650℃以上の温度から熱処理温度までの範囲を40℃/s以上で冷却し、連続焼鈍ラインでの生産性を低下させない温度域として、280〜450℃で120秒以上行うことが好ましく、280〜380℃の範囲で150秒以上熱処理を行うのがより好ましい。なお、このラインの冷却の際に、水やミスト冷却を行うと鋼板表面がスケール生成するため、鋼板を熱処理後に酸洗する場合があるが、本発明はこの酸洗の有無に何ら影響するものではない。
【0034】
連続焼鈍ラインの焼鈍及び熱処理に引き続き、通常ライン内に併設されている、調質圧延機によるめっき前の調質圧延率は、本発明において重要である。しかしながらこの量は後述するように、めっき後に付与される最終の調質圧延率と合わせて、最適な組み合わせが存在するため、ここで単独に圧延率を規定するものではない。例えば、この後のめっきラインでの通板性が確保される場合には、この焼鈍ラインでのめっき前調質圧延は、省略すら可能である。他方これに対し、このラインが最終工程となる冷延鋼板の場合には、時効によるプレス成型時のストレッチャーストレインの防止、即ち常温遅時効性を確保するために、この調質圧延は必須である。但し、必要以上の過度な調質圧延は、材料をいたずらに加工硬化させ、降伏強度の上昇や伸びの低下につながることから、通常、遅時効性が確保される最小の調質圧延率が選定される。具体的には鋼組成に応じて1〜2%の調質圧延が施されている。
【0035】
この後に通板する連続溶融亜鉛めっきラインでは、前記のとおり、まず、焼鈍済みの冷延鋼板をめっき浴温度まで加熱する際の表面酸化防止などの理由で、NiめっきやNi−Feめっきなどのプレめっきを付与した後に、めっきするために鋼板をめっき浴温度まで加熱する。このめっき量としては0.2〜2g/m程度が望ましいが、プレめっきの方法は電気めっき、浸漬めっき、スプレーめっきの何れでもよい。またその加熱方法は短時間処理でき生産性の高い電気加熱で行われることが望ましい。次に、亜鉛浴中に浸漬し、ワイピング後に更に昇温して、めっき合金化のために熱処理を行う。この条件は460〜600℃で5〜15秒とする。460℃未満や5秒未満では合金化が十分に生じないため摺動性が悪化し、600℃を超えたり15秒を超えると合金化が進みすぎてパウダリング性が悪くなる。
【0036】
合金化後の鋼板には、表面調整や形状調整のためにラインの最終段階で再度、調質圧延が施されるが、このめっき後の調質圧延率は、前記の連続焼鈍ラインにおけるめっき前の調質圧延率と合わせて、本発明で最も重要である。そこでこの二種の調質圧延率の要件に関しては、本発明に至った実験によって、以下に詳細に説明する。
【0037】
表1に示す本発明の鋼を用いて、スラブ加熱温度1200℃、仕上温度920℃、巻取温度720℃で熱間圧延し、4.0mm厚の鋼帯とした。酸洗後、80%の圧下率の冷間圧延を施し0.8mm厚の冷延板とし、次いで連続焼鈍ラインにて780℃で焼鈍した。この焼鈍板にめっき前調質圧延率として0〜1.5%の種々の調質圧延を付与し、連続溶融めっきラインにてめっき後に550℃で10秒の合金化処理し、再度、めっき後調質圧延率として0.5〜2%の種々の調質圧延を付与した。そして、このめっき鋼板の降伏応力と常温遅時効性、及びBH量を調査した。ここで引張試験はJIS Z 2201記載の5号試験片をJIS Z 2241記載の方法で行い、BH量はJIS G 3135の附属書Aに規定の方法で、また常温遅時効性は、試験前の試験片に100℃で1時間の熱処理を施した後の引張時の降伏伸びで評価し、0.3%以下のものを遅時効性が確保されているとした。試験結果を鋼Aについては図1で、鋼Bについては図2でまとめる。
【0038】
【表1】

【0039】
両図共に、横軸にめっき前調質圧延率(%)を、縦軸にめっき後調質圧延率(%)をとり、各条件でのめっき鋼板の時効後降伏伸び(時効後YP−El)と降伏応力(YP)の程度から、材質を3種に分類して示した。なおYPの大小は、各鋼を冷間圧延後に焼鈍ラインのみによって冷延鋼板として製造する際に、鋼板の遅時効性が確保される最小限の調質圧延率(SP0)を施した時の、冷延鋼板の降伏応力(YP0)で分類した。ちなみにこの値は鋼AではSP0が1.5%で192MPa、鋼BではSP0が2.0%で203MPaであった。
なお、SP0の技術的意味について説明すると、極低炭素鋼板のBH性は、固溶Cと転位の相互作用を利用したものであるため、鋼組成と調質圧延率の関係は、冷延鋼板や従来のめっき鋼板(ゼンジマー法や無酸化炉法)のような調質圧延が一回のみ施される場合でも、鋼組成に応じてSP0が選定されています。一般的に固溶Cを有する鋼板は、調質圧延率を増すことにより、時効性は改善されますが、硬質化(YPの上昇、Elの劣化)すると共にBH量も低下するため、遅時効性が担保される最低の調質圧延率(SP0)を施すことは、同業者にとってはよく知られた技術である。
【0040】
図1及び図2で×の条件は、時効後YP−Elが遅時効性の指標である0.3%を超えたものであり、調質圧延率として不十分な条件である。一方、△の条件は遅時効性は満足するものの、YPが上述の冷延鋼板の降伏応力(YP0)を超えており、冷延鋼板よりも材質が硬質となる条件である。よって、この二種の条件に挟まれた○の条件では、遅時効性を満足し、且つ、冷延鋼板よりも軟質な鋼板が得られる。なお、図1と図2の○の条件は異なっているが、これは各鋼の鋼組成の違いに起因した、SP0が異なることによるものであり、SP0を基準とすると、遅時効性を満足する条件は次の(1)式で、降伏応力を満足する条件は次の(2)式として、統一的に規定される。
SP1+2×SP2≦(4/3)×SP0・・・・(1)
SP1+SP2≦SP0・・・・(2)
よって(1)(2)式を共に満足する条件は以下の(3)式によって示すことが出来る。
SP1+SP2≦SP0≦0.75×SP1+1.5×SP2・・・・(3)
なお、図1と図2の図中に太枠の三角形の領域で示すのが、この式の示す条件であり、両図共に○の条件を規定していることが確認される。なお、この条件で製造しためっき鋼板のBH量は全て30MPa以上であり、本条件は本発明が要件とする、焼付硬化性も具備した遅時効性と加工性に優れためっき鋼板の製造条件ということができる。
【0041】
さらに、式について追加説明すると、本発明鋼に対し、これを冷延鋼板として製造する場合に最適な調質圧延率(連続焼鈍ラインで遅時効性が確保される最小の調質圧延:SP0を施す)で製造した鋼板材質(YP0)を基準として、同鋼を本発明のプロセスにより合金化溶融亜鉛めっき鋼板として製造する場合の種々の調質圧延率(連続焼鈍ライン=めっき前に調質圧延:SP1を施し、更にその後の連続合金化溶融亜鉛めっきライン=めっき後に調質圧延:SP2を施す)で得られる鋼板材質(YP)の大きさを比較して、これがYP0よりも小さくなる条件(図1、図2の○と△の境界)と、そもそもめっき鋼板で遅時効性が担保されるべき条件(図1、図2の×と○の境界)とから、二種の調質圧延率の条件として実験的に式を決定したものである。ここで図1、図2の比較から分かるようにこの条件は鋼種A,Bで異なる。しかし、これは鋼種A,Bは最適なSP0がそもそも異なることに由来したもので、ここで各SP0を基準とすることで、上記の式(3)で統一的に条件を規定できるため、これを本発明の条件とした。具体的には、式(1)が図1、図2の×と○の境界から上側(○側)を示し、式(2)が△と○の境界から下側(○側)を示す条件である。図中の境界線はこの式(1)、(2)を用いて、図1の鋼AではSP0を1.5%とし、図2の鋼BではSP0を2.0%として計算した結果であり、実験的に決定された異なる○の条件が、式(3)で統一的に表されていることが分かるように各図中に併記してある。
【0042】
以上のような熱延の後の各工程、酸洗、冷延、焼鈍、熱処理、調質圧延(めっき前)、亜鉛めっき、合金化処理、調質圧延(めっき後)は各々独立した工程であってもかまわないし、部分的に連続している工程でもかまわない。生産効率から考えれば、全て連続化していることが理想である。
【実施例】
【0043】
次に本発明を実施例にて説明する。なお、実施例はSi,Mn,Pと言った固溶強化元素の量を調整して、引張強さが340MPa以上となるJIS G 3135記載のSPFC340H相当の材質を有する鋼板のみで示したが、本発明は固溶元素量を調整することで引張強さを270〜440MPaに調整することが可能なものである。
【0044】
<実施例1>
表2に示す本発明の鋼を溶製し、スラブ加熱温度1200℃、仕上温度920℃、巻取温度680℃で熱間圧延し、3.5mm厚の鋼帯とした。酸洗後、81%の圧下率の冷間圧延を施し0.65mm厚の冷延板とした。次いでこれを、連続焼鈍ラインにて加熱温度750℃で焼鈍後、冷却速度60℃/sで冷却し、270℃にて180秒の熱処理を行った後、種々の調質圧延率で調質圧延を施し、冷延鋼板を得た。さらにこの冷延鋼板を素材としてNiプレめっき後、昇温し亜鉛浴に浸漬し、これをワイピングした後に、550℃で10秒の合金化処理後、再度、種々の調質圧延率で調質圧延を施した。そしてこれらを冷延鋼板ままの材質と比較した。
【0045】
【表2】

【0046】
結果を表3に示す。ここで冷延鋼板の欄は、各鋼を冷間圧延後に焼鈍ラインのみによって冷延鋼板として製造する際に、鋼板の遅時効性が確保される最小限の調質圧延率(SP0)とその時のYP(YP0)である。これに対し、めっき鋼板の欄は焼鈍済み冷延鋼板を素材としてめっき鋼板を製造した場合の、めっき前後の二種の調質圧延率(SP1、SP2)とその材質である。これによると、本発明条件を満たす調質圧延率のものは、遅時効性があり、めっき鋼板のYPが冷延鋼板のYP(YP0)よりも低く、またBH量も安定して30MPa以上あることから、良好な材質が得られている。これに対し、二種の調質圧延率が足りないものは遅時効性が担保されておらす、逆に過剰なものは冷延鋼板に比して硬質となっており、BH量や伸びも劣化している。
【0047】
【表3】

【0048】
<実施例2>
表4に示す組成を有する鋼を溶製し、スラブ加熱温度1200℃、仕上温度920℃、巻取温度680℃で熱間圧延し、4.5mm厚の鋼帯とした。酸洗後、82%の圧下率の冷間圧延を施し0.8mm厚の冷延板とした。次いでこれを、連続焼鈍ラインにて加熱温度780℃で焼鈍後、冷却速度45℃/sで冷却し、300℃にて180秒の熱処理を行った後、種々の調質圧延率で調質圧延を施し、冷延鋼板を得た。さらにこの冷延鋼板を素材としてNiプレめっき後、昇温し亜鉛浴に浸漬し、これをワイピングした後に、530℃で12秒の合金化処理後、再度、種々の調質圧延率で調質圧延を施した。そしてこれらを冷延鋼板ままの材質と比較した。
【0049】
【表4】

【0050】
結果を表5に示す。本発明の成分の鋼を用いて、更に本発明の調質圧延率を施しためっき鋼板は、高強度でありながら加工性が優れており、また30MPa以上のBH量と遅時効性を兼備していることがわかる。
【0051】
【表5】

【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】鋼Aの材質に及ぼすめっき前後の調質圧延率の影響を表す図である。
【図2】鋼Bの材質に及ぼすめっき前後の調質圧延率の影響を表す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C :0.0014〜0.0025%、
Si≦0.5%、
Mn:0.03〜1.0%、
P :0.01〜0.15%、
S ≦0.015%、
Al:0.005〜0.1%、
N ≦0.0040%
を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成のスラブを、Ar3変態点以上の温度で熱間圧延を行い、圧下率60〜95%の冷間圧延を施し、連続焼鈍ラインにて650℃〜Ac3変態点で焼鈍後に調質圧延を施して、一旦、焼鈍済み冷延鋼板を製造し、引き続き、連続溶融亜鉛めっきラインにて亜鉛めっき浴温度まで加熱してめっきした後、460〜600℃までの温度範囲で5〜15秒の合金化熱処理を行い、その後、再度調質圧延を施す、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造プロセスにおいて、めっき前後の二種の調質圧延率の関係が、めっきをしない連続焼鈍ラインのみによって製造される冷延鋼板に施される調質圧延率を基準とした、次式で示す条件で行うことを特徴とする塗装焼付硬化性能に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
SP1+SP2≦SP0≦0.75×SP1+1.5×SP2
ここで、SP0は冷間圧延後に焼鈍ラインのみによって冷延鋼板を製造する際の、鋼板の遅時効性が確保される最小限の調質圧延率(%)、SP1とSP2は焼鈍ラインに引き続くめっきラインによって合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造する際の、めっき前後の各々の調質圧延率(%)を意味する。
【請求項2】
さらに、質量%で、B:0.0001〜0.0040%を含有することを特徴とする請求項1に記載の塗装焼付硬化性能に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項3】
質量%で、
C :0.0014〜0.0030%、
Si≦0.5%、
Mn:0.03〜1.0%、
P :0.01〜0.15%、
S ≦0.015%、
Al:0.005〜0.1%、
N ≦0.0040%
を含有し、さらに
Ti:0.002〜0.015%
および
Nb:0.002〜0.015%
のうち1種または2種を
Ti+Nb=0.002〜0.015%
となるように含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成のスラブを、Ar3変態点以上の温度で熱間圧延を行い、圧下率60〜95%の冷間圧延を施し、連続焼鈍ラインにて650℃〜Ac3変態点で焼鈍後に調質圧延を施して、一旦、焼鈍済み冷延鋼板を製造し、引き続き、連続溶融亜鉛めっきラインにて亜鉛めっき浴温度まで加熱してめっきした後、460〜600℃までの温度範囲で5〜15秒の合金化熱処理を行い、その後、再度調質圧延を施す、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造プロセスにおいて、めっき前後の二種の調質圧延率の関係が、めっきをしない連続焼鈍ラインのみによって製造される冷延鋼板に施される調質圧延率を基準とした、次式で示す条件で行うことを特徴とする塗装焼付硬化性能に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
SP1+SP2≦SP0≦0.75×SP1+1.5×SP2
ここで、SP0は冷間圧延後に焼鈍ラインのみによって冷延鋼板を製造する際の、鋼板の遅時効性が確保される最小限の調質圧延率(%)、SP1とSP2は焼鈍ラインに引き続くめっきラインによって合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造する際の、めっき前後の各々の調質圧延率(%)を意味する。
【請求項4】
さらに、質量%で、B:0.0001〜0.0040%を含有することを特徴とする請求項3に記載の塗装焼付硬化性能に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−249715(P2009−249715A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−101958(P2008−101958)
【出願日】平成20年4月9日(2008.4.9)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】