塗装膜厚予測方法、その装置及びプログラム
【課題】塗装対象面の三次元形状に起因する塗装膜の膜厚の変動を考慮した膜厚の予測を簡易に実現する。
【解決手段】
本発明は、搬送流体を使用して塗料粒子として塗料を噴霧する塗装装置を用いて塗装される塗装対象面における塗装の膜厚を予測する膜厚予測装置200を提供する。この膜厚予測装置200は、搬送流体を模擬する搬送流体モデルと、塗料粒子を模擬する塗料粒子モデルとを有し、搬送流体モデルと塗料粒子モデルと空間メッシュとを用いて塗装対象面における膜厚を予測する予測計算部230を備える。予測計算部230が、空間メッシュの入力領域における塗料粒子の状態量の実測値である粒子状態実測値と、入力領域における搬送流体の状態量の実測値である流体状態実測値とを入力領域のメッシュに入力して、空間メッシュの出力領域のメッシュに予測された膜厚を出力する。
【解決手段】
本発明は、搬送流体を使用して塗料粒子として塗料を噴霧する塗装装置を用いて塗装される塗装対象面における塗装の膜厚を予測する膜厚予測装置200を提供する。この膜厚予測装置200は、搬送流体を模擬する搬送流体モデルと、塗料粒子を模擬する塗料粒子モデルとを有し、搬送流体モデルと塗料粒子モデルと空間メッシュとを用いて塗装対象面における膜厚を予測する予測計算部230を備える。予測計算部230が、空間メッシュの入力領域における塗料粒子の状態量の実測値である粒子状態実測値と、入力領域における搬送流体の状態量の実測値である流体状態実測値とを入力領域のメッシュに入力して、空間メッシュの出力領域のメッシュに予測された膜厚を出力する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズルから噴射される塗料の塗装対象面における膜厚を予測する方法、装置及びプログラムに関する。特に、シミュレーション解析による予測に関する。
【0002】
従来から自動車ボディその他のワークの塗装対象面への塗装膜の膜厚の予測が行われ、この予測に基づいて塗装条件が設定されていた。予測は、たとえば平板のような単純形状のワークに塗料を吹き付けたときの膜厚分布を実測した結果から得られるデータベースに基づいて行われていた。データベースには、塗料の噴射量、塗装ノズルの形状(たとえばベルの形状)、ワークと塗装ノズルの相対的な移動速度といった様々な塗装条件に対する膜厚分布が登録されている。このようなデータベースを利用すれば、各塗装条件が変動しても塗装膜厚を予測することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−238137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の方法では、三次元形状の塗装対象面における塗装膜の膜厚を正確に予測することが困難であった。
【0005】
本発明は、上述の課題を解決するために創作されたものであり、三次元形状の塗装対象面における塗料の膜厚の予測を簡易に実現する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者らは、数値流体解析によって塗装状態における流体の挙動を解析し、これにより膜厚を推定することを検討した。ところが、この検討においては、数値流体解析の対象が解析の困難な搬送流体と塗装粒子の混相流であるとともに、搬送流体の噴射部位近傍における急激な膨張や塗装粒子の噴霧化の状態の模擬も極めて困難であることが見出された。発明者らは、このような新規な課題を見出すとともに、これを解決するために以下の手段を創作した。
【0007】
本発明は、以下の構成として例示される技術を提供することができる。
第1構成例は、搬送流体を使用して塗料粒子として塗料を噴霧する塗装装置を用いて塗装される塗装対象面における塗装の膜厚を予測する膜厚予測装置を提供する。この膜厚予測装置は、搬送流体を模擬する搬送流体モデルと、塗料粒子を模擬する塗料粒子モデルとを有し、搬送流体モデルと塗料粒子モデルと空間メッシュとを用いて塗装対象面における膜厚を予測する予測計算部を備える。空間メッシュは、塗料の噴霧位置から予め設定された距離だけ塗装対象面側に離れた位置に設定されている入力領域と、塗装対象面の三次元形状に基づいて設定されている出力領域と、を有する。予測計算部は、入力領域における塗料粒子の状態量の実測値である粒子状態実測値と、入力領域における搬送流体の状態量の実測値である流体状態実測値とを入力領域のメッシュに入力して、出力領域のメッシュに予測された膜厚を出力する。
【0008】
第1構成例の膜厚予測装置では、塗料の噴霧位置から予め設定された距離だけ塗装対象面側に離れた位置に設定されている入力領域における粒子状態実測値と流体状態実測値とが使用され、これにより三次元形状に基づいて壁境界として設定されている出力領域のメッシュに予測された膜厚が出力されるので、搬送流体の噴射部位近傍における急激な膨張や塗装粒子の噴霧化の状態の模擬を省略することができる。これにより、三次元形状の塗装対象面における塗料膜厚の予測を簡易に実現することができる。
【0009】
第2構成例は、第1構成例の膜厚予測装置において、予測計算部が、粒子状態実測値と流体状態実測値の少なくとも一方を時系列データとして時変の入力を実行するので、搬送流体や塗料粒子の状態量の位置毎の経時的変動の大きな噴霧位置近傍の数値計算を省略しつつ、入力領域における搬送流体や塗料粒子の状態量の経時的変動をも考慮した高精度の予測を実現することができる。この経時的変動は、たとえば噴霧位置近傍における渦や剥離によって発生するものを含むものである。
【0010】
第3構成例は、ベルカップを備えるいわゆるベル型塗装装置を用いて塗装される塗装対象面における塗料の膜厚を予測するのに好適である。ここで、ベルカップは、回転しつつその外周端部から塗料粒子を吐出する。吐出した塗料粒子は搬送流体によって塗装対象面へと噴霧される。第3構成例では、第1または第2構成例の膜厚予測装置において、入力領域が、ベルカップの外周端部と塗装対象面との間に設定されている。
【0011】
ベル型塗装装置は、搬送流体を回転するベルカップの外周端部外側に噴射して、塗料粒子を外周端部から塗装対象面へと噴霧する。この際の搬送流体と塗料のダイナミクスは、非常に複雑であるとともに、ベルカップの外周端部付近における搬送流体の状態量(圧力や速度ベクトル)の位置毎の経時的変動も極めて大きい。第3構成例の膜厚予測装置では、入力領域がベルカップの外周端部と塗装対象面との間に設定されるので、ベルカップの外周端部付近における搬送流体の状態量の位置毎の経時的変動が極めて大きな領域の解析を省略することができる。さらに、ベルカップから吐出直後の塗料粒子の挙動を数値計算で求める場合、ベルカップの外周端部近傍の領域において、搬送流体(いわゆるシェーピングエア)の挙動と、塗料粒子の相互作用といった複雑な動的問題を取り扱うことが要請されるので、この領域における計算の省略は顕著な効果を奏する。
【0012】
第4構成例は、第3構成例の膜厚予測装置において、入力領域が、外周端部を含む平面に設定されている。また第4構成例では、粒子状態実測値が、ベルカップの外周端部における塗料粒子の速度ベクトルと、ベルカップの外周端部における塗料粒子の大きさと、を含む。
【0013】
第4構成例の膜厚予測装置では、入力領域が外周端部を含む平面に設定され、粒子状態の実測値がベルカップの外周端部における塗料粒子の速度ベクトルと、塗料粒子の大きさと、を含んでいるので、塗料粒子の実測範囲をベルカップの外周端部の近傍に限定することができる。これにより、塗料粒子の実測の負担を軽減することができる。なお、入力領域が外周端部を含む平面に設定されているということは、上述の「予め設定された距離」がゼロであることを意味している。
【0014】
第5構成例は、第1ないし第4構成例のいずれか一つの膜厚予測装置において、搬送流体の状態量は、搬送流体の速度ベクトルの時間平均である平均成分と、平均成分と搬送流体の速度ベクトルの差である変動成分と、を有する速度ベクトルを含む。また、塗料粒子モデルは、変動成分に応じて、塗料粒子が搬送流体から受ける荷重を調整することによって、搬送流体モデルに起因する予測値の誤差を補償するように構成されている。
【0015】
第5構成例の膜厚予測装置では、搬送流体の速度ベクトルの差である変動成分に応じて、塗料粒子が搬送流体から受ける荷重を調整することによって、搬送流体モデルに起因する予測値の誤差を補償するように塗料粒子モデルが構成されているので、計算負荷の小さな搬送流体モデルを利用した高精度の予測を可能とする。本構成は、発明者らによる以下の2つの知見に基づくものである。第1の知見は、計算負荷の小さな搬送流体モデルが搬送流体の速度ベクトルに含まれる変動成分に定量的な誤差を含みやすいという知見である。第2の知見は、その変動成分に応じて塗料粒子が搬送流体から受ける荷重を調整するように塗料粒子モデル側を構成すればその誤差が顕著に小さくなるという発明者らによって初めて見出された知見である。
【0016】
なお、本発明は、膜厚予測方法、塗装装置と膜厚予測装置とを含む塗装システムといった種々の形態、あるいは、これらの方法または装置の機能をコンピュータに実現させるためのコンピュータプログラム、そのコンピュータプログラムを記録した記録媒体、そのコンピュータプログラムを含み搬送波内に具現化されたデータ信号、等の種々の形態で実現することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、三次元形状の塗装対象面における塗料の膜厚の予測を簡易に実現する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施例に係る塗装装置10の構成を示す説明図。
【図2】本発明の実施例に係る塗装システムの概要を示す説明図。
【図3】本発明の実施例に係る塗装装置100による平板への塗装の状態を示す説明図。
【図4】本発明の実施例に係る塗装装置100の構成を示す説明図。
【図5】本発明の実施例に係る塗装装置100が平板に対して塗料の粒子を噴霧している状態の外観を示す説明図。
【図6】本発明の実施例に係る塗装装置100が平板に対して塗料の粒子を噴霧している状態の内部を示す断面図。
【図7】本発明の実施例に係る塗装膜厚予測方法の内容を示すフローチャート。
【図8】本発明の実施例に係る塗装装置特性取得処理の内容を示すフローチャート。
【図9】出願時の技術水準に基づいて設定されたモデルの一般的なメッシュM0を示す説明図。
【図10】本発明の実施例に係る設定されたモデルのメッシュM1を示す説明図。
【図11】本発明の実施例に係る状態量の計測値として塗料粒子の粒子径の分布を示す説明図。
【図12】本発明の実施例に係る状態量の計測値として搬送流体の流速ベクトルを示す説明図。
【図13】本発明の実施例に係る塗料粒子の運動方程式を示す説明図。
【図14】本発明の実施例に係る搬送流体の速度のR軸成分の様子を示す説明図。
【図15】本発明の実施例に係る乱流分散パラメータαの最適化の一例を示す説明図。
【図16】本発明の実施例に係る三次元塗装表面における塗装膜厚の実測値と予測値の関係を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、たとえば以下の特徴を単独あるいは組み合わせて備えることによって好ましい形態として実現することもできる。
(特徴1) 搬送流体モデルは、レイノルズ平均モデル(時間平均モデル)を含んでいる。時間平均モデルには、k−ε乱流モデルが含まれるようにしてもよい。
(特徴2) 塗料粒子モデルは、係数(スカラー)である乱流分散パラメータαを調整することによって搬送流体モデルに起因する予測値の誤差を補償するように構成されている。
(特徴3) 出力側境界条件は、ワークの電位に基づいて設定されている。予測計算部は、出力側境界条件に基づいて静電場を決定する。
【0020】
以下では、上述の特徴を踏まえて本発明の作用や効果を明確に説明するために、本発明の実施の形態を、次のような順序に従って説明する。
A.本発明の実施例に係る塗装装置の構成:
B.本発明の実施例に係る膜厚予測方法:
C.変形例:
【0021】
A.本発明の実施例に係る塗装装置の構成:
図1は、本発明の実施例に係る塗装装置10の構成を示す説明図である。塗装装置10は、矢印Tの方向に移動する車体であるワークWの表面に塗装を行うシステムである。塗装装置10は、2つのガイドレール11、12と、2台のロボット13、14と、2個の塗装装置100とを備えている。2つのガイドレール11、12は、ワークWの通り道の両脇に配置されている。2つのガイドレール11、12には、それぞれロボット13とロボット14がガイドレール11、12に沿って移動可能に装備されている。2台のロボット13、14は、いずれもアームの先端に塗装装置100を装着している。塗装装置100は、搬送流体(シェーピングエア)を使用して霧化された塗料粒子をワークWに吹き付けるように構成されている。
【0022】
図2は、本発明の実施例に係る塗装システムの概要を示す説明図である。塗装システムは、塗装装置10、膜厚予測装置200、計測システム300、および塗装装置特性データ取得装置400を備えている。塗装装置10は、さらに、テストワークWtに塗料を吸引させるための静電場を形成する2つの電源装置V1、V2を備えている。計測システム300は、塗装装置10が噴霧する搬送流体と塗料粒子の状態量(速度ベクトルや粒子径)を計測する流体計測装置310と、計測値を時系列で格納するデータロガー320とを備えている。膜厚予測装置200は、メッシュ設定部210、境界条件設定部220、および予測計算部230を備えている。
【0023】
メッシュ設定部210は、たとえば有限体積法や有限要素法といった数値流体解析方法で搬送流体や塗料粒子の挙動を計算するための空間メッシュを設定する。メッシュ設定部210は、この空間メッシュに入力側境界と出力側境界とを設定する。入力側境界は、予め設定された境界位置に配置されたメッシュの集合である。入力側境界は、塗料の噴霧位置から予め設定された距離だけ塗装対象面側に離れた位置に設定される。入力側境界の位置については後述する。出力側境界は、テストワークWtの三次元形状に基づいて設定されたメッシュの集合である。出力側境界についても後述する。境界条件設定部220は、入力境界条件として入力側境界を構成する各メッシュに実測値の時系列データをマッピングするとともに、出力境界条件として出力側境界を構成する各メッシュに壁の定義(流体の出入りのない壁境界)と電場のデータをマッピングすることができる。予測計算部230は、搬送流体の挙動を模擬するk−ε乱流モデルMtと、塗料粒子の動きを計算するための塗料粒子モデルMpとを備えている。予測計算部230は、k−ε乱流モデルMtと塗料粒子モデルMpとを用いて、入力側境界から出力側境界へと流れる塗装粒子の挙動を空間メッシュのメッシュ毎に求めて塗料の膜厚を予測する。この内容の詳細については後述する。
【0024】
塗装装置特性データ取得装置400は、塗装装置10の塗装条件を変更しつつ膜厚予測装置200の予測計算と塗装試験とを実行し、その結果を比較して塗装装置10の塗装装置特性データを取得する。テストワークWtは、上述のように3次元形状を有していてもよいし、あるいは2次元の平板形状を有していてもよい。塗装装置特性データは、塗装装置10の固有データである。膜厚予測装置200は、詳細については後述するが、この固有データを使用して様々な形状を有するワークWへの塗装膜厚を予測することができる。なお、塗装装置特性データ取得装置400は、このような処理を自動的(あるいは半自動的)に実行する装置として構成しても良いし、あるいは代わりに人間が実行してもよい。
【0025】
図3は、本発明の実施例に係る塗装装置100による平板への塗装の状態を示す説明図である。塗装装置100は、塗装対象面に対して塗装条件ごとに一定のパターンで塗装することができる。塗装条件には、たとえば塗装装置100のノズル先端部(後述)と塗装対象面との間の距離と、塗装対象面に対する塗装装置100の移動速度と、塗装装置100の作動パラメータとがある。換言すれば、これらの塗装条件が同一であれば、ほぼ同一の塗装膜厚を再現することができるので、塗装装置100を装着する2台のロボット13、14による塗装装置100の操作や塗装装置100の作動パラメータを制御して塗装対象面に対して一定の膜厚パターンを再現することができる。
【0026】
一方、塗装対象面が平板の場合ですら、塗装ガンのノズル軸線に近い部分では膜厚が厚くなり、軸線から遠ざかるほど膜厚が薄くなる膜厚分布が形成されていることが分かる。塗装対象面が三次元形状の場合、さらに膜厚の分布が複雑になる。このように、平板のような単純形状のワークにおける膜厚分布の実測値に基づくデータベースで三次元形状の塗装対象面の塗料膜厚を正確に予測するのが難しいことが理解される。
【0027】
図4は、本発明の実施例に係る塗装装置100の構成を示す説明図である。塗装装置100は、回転霧化方式のベル型塗装装置である。回転霧化方式は、微粒化特性に優れ、高い塗着効率が期待できる方法である。塗装装置100は、ベルカップ110と、塗料供給軸120と、モーター130と、ハウジング140と、を備えている。塗料供給軸120は、ベルカップ110を貫通してベルカップ110の下部(ハウジング140とは反対側)に塗料を供給してベルカップ110の外周端部Fから塗料を吐出させる。モーター130は、塗料供給軸120を介してベルカップ110を超高速回転で回転させる。ハウジング140は、ベルカップ110の上部からシェーピングエアと呼ばれる高速の空気を供給する。塗装装置100は、ベルカップ110を超高速回転で回転させるとともに、塗料粒子を搬送するための搬送流体(シェーピングエア)を供給することによって塗料を霧化してベルカップ110の外周端部Fから噴霧することができる。塗装装置100は、さらに、静電力を利用して塗装するために霧化する前に塗料に電圧を印加する。
【0028】
図5は、本発明の実施例に係る塗装装置100が平板に対して塗料の粒子を噴霧している状態の外観を示す説明図である。図6は、本発明の実施例に係る塗装装置100が平板に対して塗料の粒子を噴霧している状態の内部を示す断面図である。図5および図6において、多数の粒子Pの一つ一つは、塗料粒子を示している。多数の塗料粒子は、シェーピングエアによって霧化された後に、シェーピングエアで塗装対象面に向かって吹き付けられることになる。多数の塗料粒子は、塗装対象面の近傍に形成された電場による吸引、重力、慣性力によって塗装対象表面に衝突して塗装膜を形成する。図6における符号L0、L0’、L1、L1’については後に説明する。
【0029】
B.本発明の実施例に係る膜厚予測方法:
図7は、本発明の実施例に係る塗装膜厚予測方法の内容を示すフローチャートである。ステップS100では、塗装装置特性データ取得装置400(図2)が、塗装装置特性取得処理を実行する。塗装装置特性取得処理は、塗装装置側の特性を動的モデルとして構築する処理である。動的モデルは、塗料粒子の質量や速度ベクトル、シェーピングエアの圧力や流速、塗装対象面の近傍に形成された電場といった塗料粒子の動きに関与するパラメータ(たとえば後述する乱流分散パラメータα)を使用するものとして構成される。塗装装置特性データは、前述のように塗装装置毎の固有のデータなので、一度データを取得すれば、塗装装置が同一である限り塗装対象面の形状が変更されても同一のデータを使用して後述の方法で膜厚を推定することができる。この処理の詳細については後述する。
【0030】
ステップS200では、塗装対象面の三次元データが入力される。この三次元データは、動的モデルの計算結果の出力側の境界条件(流体の出入りのない壁境界)として利用され、塗装対象面の近傍におけるシェーピングエアの圧力や流速、電場といった塗料粒子の動きに関与するパラメータを決定することができる。これにより、塗装対象面上への塗料粒子の衝突を模擬できるので、塗装対象面上の各領域に衝突した塗料粒子の大きさと数とを積分して膜厚を予測することができる。
【0031】
ステップS300では、予測計算部230は、出力側境界条件と塗装装置特性データとに基づいて計算処理を実行する。この計算処理は、搬送流体の挙動を模擬するk−ε乱流モデルMt(図2)と、塗料粒子の挙動を模擬する塗料粒子モデルMpと空間メッシュとを使用して、たとえば有限体積法や有限要素法といった数値流体解析方法によって計算することができる。この空間メッシュは、出力側境界条件に基づいてメッシュ設定部210によって設定される。
【0032】
ステップS400では、計算結果出力処理が実行される。計算結果出力処理は、塗装対象面における塗装膜厚の予測値を出力するようにしても良いし、予め設定された塗装膜の膜厚を達成するための塗装装置100の操作内容(移動速度等)を出力するようにしても良い。
【0033】
図8は、本発明の実施例に係る塗装装置特性取得処理の内容を示すフローチャートである。ステップS110では、膜厚予測装置200のメッシュ設定部210(図2)は、動的モデルの設定を実行する。動的モデルは、本実施例では、連続相と分散相とからなる混相流としてモデル化がなされている。連続相は、流れを担う主要な相である。本実施例では、搬送流体であるシェーピングエアが連続相としてモデル化される。分散相は、連続相内に粒子が分散している相である。本実施例では、塗料粒子が分散相としてモデル化される。
【0034】
連続相(シェーピングエア)は、本実施例では、k−ε乱流モデルMtを使ってモデル化される。k−ε乱流モデルMtは、計算負荷が極めて小さく広く一般的に利用されているモデルなので、その利用は、計算の負荷やモデルの取り扱いの負担を軽減して予測計算の負荷を実質的に大きく低減させることができる。一方、k−ε乱流モデルMtは、剥離流の解析の忠実性(FIDELITY)が他の計算負荷の大きな解析法(たとえばLESモデル(Large Eddy Simulationモデル)やDNS(Direct Numerical Simulation))に劣るという特性を有している。一方、分散相は、個々の分散物質(塗料粒子)の運動方程式で表すことができる。この運動方程式は、連続相と分散相の相互作用を表す項を含んでいる。
【0035】
図9は、出願時の技術水準に基づいて設定されたモデルの一般的な空間メッシュM0を示す説明図である。図9の空間メッシュM0は、図6に示した塗装装置100に対する塗料粒子の数値計算用の空間モデルである。空間メッシュM0は、メッシュ密度の高い高密度メッシュ領域L0と、メッシュ密度の低い低密度メッシュ領域L1と、を有している。高密度メッシュ領域L0は、圧力勾配や速度変化が大きな領域なので、計算精度を高めるためにメッシュが高密度となっている。高密度メッシュ領域L0は、ベルカップ110の周辺領域に、さらに高密度の空間メッシュ領域を設定している(破線内断面図参照)。この領域では、圧力や速度が激しく変化するからである。一方、低密度メッシュ領域L1は、圧力勾配や速度変化が小さな領域なので、計算速度を高速化するためにメッシュが低密度となっている。低密度メッシュ領域L1は、図6の符号L1に示される範囲を模擬する。
【0036】
空間メッシュM0は、初期値として定常乱流の定常流れを想定している。即ち空間メッシュM0では、塗装装置100の内部においてベルカップ110の上部に供給されるシェーピングエアの定常的な流速と、高速回転するベルカップ110から放出されるときの塗料粒子の初速と、を上流側の初期値として境界条件が設定されることになる。しかしながら、ベルカップ110の周辺部における混相流の解析は、急変する圧力や速度の搬送流体の中における分散相の計算を実行しなければならず、極めて計算負荷が高い。
【0037】
図10は、本発明の実施例に係る設定されたモデルの空間メッシュM1を示す説明図である。空間メッシュM1は、空間メッシュM0から高密度メッシュ領域L0を取り除いた低密度メッシュ領域L1の空間メッシュとして構成されている。図10において、空間メッシュM1の上面が入力側境界に相当し、下面が出力側境界に相当する。この例では、説明を簡素化するために出力側境界に相当する下面が平面形状となっている。しかし、現実には、出力側境界は、塗装対象面の三次元形状に沿って設定される。入力側境界は、ベルカップ(ベルカップの外周端部F)から予め設定された距離(=距離L0−距離L0‘、図6参照)だけ塗装対象面側に離れた位置に設定される。本実施例では、ベルカップの外周端部Fが塗料噴霧位置に相当する。空間メッシュM1は、ベルカップ110の周辺部を含まないので、周辺部における混相流の計算が不要になる。即ち、高密度メッシュ領域L0を含まない空間メッシュM1に基づいて膜厚を予測できれば、計算負荷が飛躍的に低減できる。
【0038】
空間メッシュM1は、初期値としてメッシュM1の上端部(入力側境界)の各メッシュの状態量を入力側境界条件として要求する。この状態量には、シェーピングエアの流速や圧力、塗料粒子の粒径や速度を含み、乱流であることを想定されるので、非定常流れとして扱うことが要求される。非定常流れとは、状態量が時々刻々と変化する流れを意味する。
【0039】
ステップS120では、計測システム300は、初期値の入力側の境界条件(入力側境界条件)として要求される状態量の計測を実行する。状態量の計測は、たとえば周知のPIA計測(Particle Image Analyzer)やPIV計測(Particle Image Velocimetry)を実行する流体計測装置310によって実現することができる。計測対象の状態量には、本実施例では、塗料粒子の粒子径、塗料粒子の流速ベクトル、搬送流体としてのシェーピングエアの流速ベクトルが含まれる。本実施例では、これらのデータは、データロガー320によって時系列データとして取得される。
【0040】
図11は、本発明の実施例に係る状態量の計測値として塗料粒子の粒子径の分布を示す説明図である。この図では、縦軸と横軸が正規化されている。入力側境界条件としての粒子径の入力は、この分布に基づいて、たとえば乱数を用いたモンテカルロ法や一定の規則で粒子径を分散させる方法で行うことができる。ただし、粒子径の分布が計算結果に有意な影響を与えるほどに時変である場合には、状態量の時系列データを時間毎に入力することによって、その分布の時間的変動をも模擬することが好ましい。
【0041】
図12は、本発明の実施例に係る状態量の計測値として搬送流体の流速ベクトルを示す説明図である。この図では、縦軸と横軸が正規化されている。搬送流体の流速は、ベルカップ110の回転軸からの距離ごとに計測された値が円筒座標系で表現されている。円筒座標系は、ベルカップ110の回転軸を中心軸とし、中心軸からの距離である半径Rと、角度θと、高さZとで表現されている。ベルカップ110は、外周端部Fから塗料を吐出するので、ベルカップ110の外周端部Fの位置にピークが発生している。
【0042】
このように、本実施例では、空間メッシュM1が中心軸に対して対称に構成されているので、半径R毎の計測値が得られれば、入力側境界条件としての搬送流体の流速の入力が可能である。この状態量は、ベルカップ110の周辺の激しい乱流の発生を考慮すれば、一般的に状態量の時系列データが時間毎に入力されることが好ましい。なお、塗料粒子の速度ベクトルは、搬送流体の流速ベクトルと同様に取り扱うことができる。
【0043】
ステップS130では、境界条件設定部220は、境界条件のマッピングを実行する。境界条件のマッピングとは、塗料粒子の粒子径、塗料粒子の流速ベクトル、搬送流体としてのシェーピングエアの流速ベクトルといった状態量の計測値を、入力側境界を構成する各メッシュに入力する処理を意味する。具体的には、塗料粒子の粒子径や質量の入力は、たとえばベルカップ110の外周端部Fの近傍の各メッシュにモンテカルロ法等の方法で行うことができる。搬送流体の流速ベクトルは、ベルカップ110の回転軸からの距離に応じた計測値をメッシュM1の半径Rごとの各メッシュに入力される。これらの計測値は、時系列データとして時間毎に入力されることになる。これらの計測値は、連続相としての搬送流体を模擬するk−ε乱流モデルMtと、分散相としての塗料粒子の挙動を表現する塗料粒子モデルMp(本実施例では、運動方程式)で使用されることになる。なお、ステップS130では、境界条件設定部220は、出力側境界に、流体の出入りのない壁境界を境界条件として設定する。
【0044】
図13は、本発明の実施例に係る塗料粒子の運動方程式を示す説明図である。各塗料粒子の運動は、本実施例では、塗料粒子モデルMpとして構成されたニュートンの運動方程式F1(数学モデル)で表現されている。運動方程式F1において、粒子質量md、粒子速度ud、抵抗力Fdr、圧力勾配力Fp、粒子牽引力Fam、粒子体積力Fbは、各塗料粒子の質量、塗料粒子の速度、塗料粒子と搬送流体(シェーピングエア)の間の抵抗力、搬送流体の圧力勾配により粒子が受ける力、粒子に牽引された搬送流体を加速させるために必要な力、および重力や静電力といった塗料粒子に働く体積力を現している。
【0045】
運動方程式F1の各項のうち、抵抗力Fdr、圧力勾配力Fp、および粒子牽引力Famは、連続相との相互作用を表す項であり、k−ε乱流モデルMtの各メッシュのデータから算出することができる。一方、粒子体積力Fbは、既知の重力と静電場とに基づいて決定することができる。粒子質量mdや粒子速度udは、入力側境界として境界を構成する各メッシュに入力された初期値から出力側境界(三次元の塗装表面)を構成する各メッシュに向かって順次計算することができる。
【0046】
抵抗力Fdrは、本実施例では、塗料粒子と搬送流体の間の抵抗(ベクトル)を表す第1項と、発明者らによって創作された乱流分散補正項としての第2項(ベクトル)と、を有する計算式F2に基づいて算出される。第1項は、空気抵抗を表す周知の数学モデルに基づく項であり、効力係数Cdと、搬送流体の密度ρと、塗料粒子の代表面積としての粒子断面積Adと、搬送流体の速度(=定常成分u+非定常成分ut)と塗料粒子の粒子速度udの相対速度のベクトルと、その大きさ(絶対値)の積を含む項として構成されている。
【0047】
乱流分散補正項(第2項)は、搬送流体の速度の時間的な変動に応じて、塗料粒子の分散が大きくなる現象を忠実に表現する項として発明者らによって創作されたものである。第2項は、空気抵抗を表す周知の数学モデルに近似する新規の数学モデルであり、搬送流体の速度(=定常成分u+非定常成分ut)と塗料粒子の粒子速度udの相対速度のベクトルが、搬送流体の非定常成分utに対して所定の係数(スカラー)を乗じた値に入れ替えられている点で第1項と相違する。この項は、塗料粒子と搬送流体の相対速度のベクトルと搬送流体の非定常成分utの積が塗料粒子と搬送流体の間の抵抗値として加算されるという物理的な意味を有することになる。この係数は、本明細書では、乱流分散パラメータαと呼ばれる。
【0048】
図14は、本発明の実施例に係る搬送流体の速度のR軸成分の様子を示す説明図である。搬送流体の速度は、本実施例では、定常成分uと非定常成分utとで表現される。定常成分uは、本実施例では、搬送流体の速度をアンサンブル平均(時間平均)したもので、非定常成分utは、搬送流体の速度と定常成分uの差である。アンサンブル平均とは、離散化された搬送流体の速度データを一群のデータ集団とし、所定の周期で切り取って重ね合わせることによって、その周期とその整数倍の周期を持つ信号を強調させる処理方法である。このような定常成分u(アンサンブル平均)および非定常成分utは、k−ε乱流モデルMtで使用されるデータなので、それをそのまま塗料粒子の運動方程式で利用することができる。
【0049】
ステップS140では、塗装装置特性データ取得装置400は、乱流分散パラメータの設定を実行する。乱流分散パラメータの設定とは、本実施例では、搬送流体の非定常成分utに乗じられている乱流分散パラメータαを調整して予測値を実測値に近づける処理である。この調整は、たとえば平板に対する塗装膜厚の実測値を使用するようにしても良いし、あるいは代表的な3次元形状に対する塗装膜厚の実測値を使用するようにしても良い。このようにして得られた乱流分散パラメータαは、塗装装置特性データの一部を構成する。乱流分散パラメータαは、塗装条件毎に決定することが好ましい。
【0050】
図15は、本発明の実施例に係る乱流分散パラメータαの最適化の一例を示す説明図である。図15には、模擬対象の塗装装置100による塗装膜厚の実測値と複数の予測値とが示されている。複数の予測値は、乱流分散パラメータαを変動させたものである。乱流分散パラメータαが「1」のときには、ベルカップ110の回転軸の近傍において膜厚の予測値が実測値よりも顕著に小さくなっている。乱流分散パラメータαが「1」のときは、計算式F2から分かるように乱流分散補正項の値がゼロ、すなわち、乱流分散補正項による補正が行われていない状態を示している。
【0051】
ベルカップ110の回転軸の近傍において膜厚の予測値が実測値よりも顕著に小さくなっているのは、k−ε乱流モデルMtの性質によるものと発明者らによって推測された。k−ε乱流モデルMtは、一般に剥離流の正確な解析を苦手とするのに対し、ベルカップ110の近傍下流域では、搬送流体の大規模な剥離流が発生することが予測されるからである。このような問題に対して、出願時の数値流体力学等の当業者であれば、このような剥離流に対応することができる乱流モデルの使用や補正項の設定を検討する。具体的には、乱流モデルをk−ε乱流モデルMtからLESモデル(Large Eddy Simulationモデル)やDNS(Direct Numerical Simulation)といった大きな渦をモデル化せずに剥離流を直接計算する方法、あるいは搬送流の挙動を実測値に近づけるための補正項を考案することになる。ただし、これらの方法は、モデル化や計算の負担が極めて大きい。
【0052】
しかし、発明者らは、最終的に算出する必要があるのは、塗装膜厚であって必ずしも搬送流体のシミュレーションの忠実性を高めることを必要としない点と、k−ε乱流モデルMtにおいても定量的に正確な剥離流が模擬できないまでも剥離流の発生自体は模擬されている点と、に着目した。さらに、発明者らは、混相流における搬送流体の剥離流と塗料粒子との間の物理的関係に着目し、剥離流が搬送流体の圧力と速度の変動を生じさせて塗装粒子を拡散させるという物理的な意義を有していることを見出した。
【0053】
発明者らは、上述の解析に基づいて、非定常成分utを使用した補正項を搬送流体の模擬にではなく、塗装粒子の運動方程式の側に設けて剥離流に起因する塗装粒子の分散の程度を自由に操作できるように塗装粒子の運動方程式を構成することに成功したのである。具体的には、本実施例では、乱流分散パラメータαを「5」に設定すると、塗装膜厚の予測値が実測値に顕著に近づくことが分かる。特に、剥離流が発生しているベルカップ110の下流域において塗装粒子が顕著に分散されているのに対して、乱流補正項で補正しなくても忠実性が高い他の領域においては膜厚予測値がほとんど変動していないことが分かる。一方、乱流分散パラメータαを「10」に設定すると、剥離流による塗料粒子の分散が過度に表現されて膜厚の予測値が外れていることが分かる。
【0054】
ただし、このような物理的に解析されたような現象が必ずしも確認されているわけではなく、このような解析に基づく現象が発生することが本実施例の必須の条件となるものではない。本実施例は、搬送流体の速度の変動成分に応じて、搬送流体モデルの忠実性の低下に起因する予測値の誤差を補償するように塗料粒子モデル(本実施例では、運動方程式という数学モデル)が構成されていれば、上述の効果を奏することが発明者らの塗装シミュレーションと塗装実験とによって現実に確認された点に本質的な意義を有しているのである。
【0055】
図16は、本発明の実施例に係る三次元塗装表面における塗装膜厚の実測値と予測値の関係を示す説明図である。k−ε乱流モデルMtは、壁近傍における壁に沿った付着流の模擬を高精度で実現することができるので、三次元塗装表面上における搬送流体の挙動を正確に模擬して種々の形状の三次元塗装表面における膜厚の予測を高精度の予測を実現することができる。
【0056】
このように、本実施例は、塗装対象面の三次元形状に基づいて設定されている出力側境界に基づいて塗装対象面における膜厚が予測されるので、塗装対象面の三次元形状に起因する塗装膜の膜厚の変動を予測して高い精度で膜厚を予測することができる。一方、この予測は、ベルカップの外周端部(塗料の噴霧位置)から離れた位置に設定された入力側境界における状態量の実測値に基づいて行われるので、搬送流体や塗料粒子の状態量の位置毎の経時的変動の大きな噴霧位置近傍の解析を省略することができる。これにより、塗装対象面の三次元形状に起因する塗装膜の膜厚の変動を考慮した膜厚の予測を簡易に実現することができる。さらに、入力側境界における状態量の実測は、塗装装置毎に一度だけ(あるいは校正(Calibration)時)行えばよいので、解析負担が極めて顕著に低減されることになる。
【0057】
上記実施例についての留意点は以下のとおりである。入力側境界とは、塗料粒子の挙動を数値計算で求める際の流れの上流側に位置する。従って、「入力側境界」は「上流側境界」と換言してよい。典型的には、上流側境界(入力側境界)は、ベルカップの軸方向の前方へ予め定められた距離だけ離れた位置に設定される。「予め定められた距離」は、ベルカップ外周端部を離れた搬送流体の乱流が収まる程度の距離でよい。その距離は、例えば、搬送流体のレイノルズ数によって見込むことができる。一方、入力側境界が外周端部Fを含む平面に設定すれば、塗料粒子の実測範囲をベルカップの外周端部の近傍に限定することができる。これにより、塗料粒子の実測の負担を軽減することができるという利点がある。
【0058】
出力側境界は、塗装装置から噴霧された塗料粒子が搬送流体によって流されて到達する塗装対象面の近傍に位置する。従って、「出力側境界」は「下流側境界」と換言してよい。典型的には、下流側境界(出力側境界)は、塗装対象面に沿って設定される。実施例の膜厚予測方法は、上流側境界と下流側境界の間に、数値流体力学(CFD:Computer Fruid Dynamics)シミュレーションのための空間メッシュを設定する。空間メッシュは、ベルカップ110の構造や霧化状態がベルカップ110の回転軸に対して対称である点に着目すれば、この軸に対象であることを想定してメッシュ密度を設定することもできる。
【0059】
実施例の膜厚予測方法は、上流側境界(入力側境界)に相当する実際の位置における塗料粒子の状態量の実測値と搬送流体の状態量の実測値とに応じて数値流体力学シミュレーションのための上流側境界の条件、即ち上流側境界条件を設定する。他方、実施例の膜厚予測方法は、塗装対象面に沿った下流側境界にいわゆる壁境界を設定する。壁境界が下流側境界条件に相当する。そして、実施例の膜厚予測方法は、搬送流体の挙動を模擬する搬送流体モデルと塗料粒子の挙動を模擬する塗料粒子モデルとを用い、上流側境界条件(入力側境界条件)と下流側境界条件(出力側境界条件)の下で搬送流体によって流される塗装粒子の空間メッシュにおける挙動を計算し、塗装対象面における塗装膜厚を予測する。実施例のシステムでは、膜厚予測装置200が上記の運動計算を行い、塗装対象面における塗装膜厚を予測する。
【0060】
C.変形例:
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項に記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数の目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。具体的には、たとえば以下のような変形例も実施可能である。
【0061】
C−1:上述の実施例では、搬送流体のモデルとしてk−ε乱流モデルMt(k−ε型2方程式モデル)が利用されているが、たとえばk−ω型2方程式モデルやSSTといった2方程式モデルを使用するようにしても良いし、さらに、0方程式モデルや1方程式モデルを含むモデル、あるいは応力方程式モデルを含む時間平均モデルを利用するようにしても良い。このように、本発明は、ナビエ・ストークス方程式に対して、時間平均(レイノルズ平均)を適用して導出されたレイノルズナビエ・ストークス平均方程式(Raynolds−Averaged Navier−Stocke Simulation:RANS)を使用する乱流モデルを搬送流体のモデルとして使用する方法に適用することができる。RANSを使用する乱流モデル(RANSモデル)は、他のモデルを使用する場合を比較して計算負荷が極めて小さいという利点を有している。
【0062】
ただし、k−ε乱流モデルMtは、広く一般的に利用されているモデルなので、その利用は、さらに、計算の負荷やモデルの取り扱いの負担を軽減して予測計算の負荷を実質的に大きく低減させることができるという利点を有している。一方、RANSモデルを使用する乱流モデルは、剥離流の正確な解析を苦手とするのに対し、たとえばベルカップの下流域のように塗装対象領域において搬送流体の大規模な剥離流が発生することが予測される場合には、たとえば実施例のように塗料粒子モデルを工夫して乱流モデルの計算誤差を補償するように構成することが好ましい。
【0063】
なお、本発明は、RANSを使用する乱流モデルだけでなく、たとえばLESモデル(Large Eddy Simulation)やDNS(Direct Numerical Simulation)、あるいは壁近傍でRANSモデルを使用するとともに壁遠方でLESモデルを使用するDESモデルといった種々のモデルを使用することができる。このようなモデルを使用する解析においても、本発明では、塗料の噴霧位置から予め設定された距離だけ塗装対象面側に離れた位置に設定されている入力側境界における塗料粒子の状態量の実測値に基づいて行われるので、搬送流体や塗料粒子の状態量の位置毎の変動の大きな噴霧位置近傍の解析を省略して簡易な予測を実現することができる。
【0064】
C−2:上述の実施例や変形例では、入力された時系列データに基づいて時変の入力側境界条件が設定されているが、たとえば時不変の入力側境界条件を設定するようにしても良い。ただし、時変の入力側境界条件を設定すれば、搬送流体や塗料粒子の状態量の位置毎の変動の大きな噴霧位置近傍の解析を省略しつつ、入力側境界における搬送流体や塗料粒子の状態量の時間毎の変動をも考慮した高精度の予測を実現することができる。この時間毎の変動は、たとえば噴霧位置近傍における渦や剥離によって発生するものを含むものである。
【0065】
C−3:上述の実施例や変形例では、ベルカップを有する塗装装置が形成する塗装の膜厚を予測しているが、たとえば搬送流体を使用して塗料粒子として塗料を噴霧するハンドガンの塗装膜厚の予測にも利用することができる。本発明は、広く一般に搬送流体を使用して塗料粒子として塗料を噴霧する塗装装置の膜厚の予測に適用することができる。
【0066】
C−4:上述の実施例や変形例では、塗料粒子や搬送流体の実測値を入力する領域である入力領域として入力側境界を利用しているが、たとえば空間メッシュ内で入力側境界から離れた位置に入力領域を設定し、入力領域の実測値を入力側境界から離れた入力領域において「湧き出し」として入力するように構成してもよい。このように、「入力領域」は、塗料粒子や搬送流体の実測値が入力される領域として定義されていればよく、必ずしも境界条件に関連付けられるものではない。
【0067】
C−5:上述の実施例や変形例では、計算結果を出力する領域である出力領域として出力側境界を利用しているが、たとえば出力側境界をワークの塗装対象面とワークを固定する治工具の3次元形状で定義し、出力領域をワークの塗装対象面だけとするような構成としてもよいし、あるいは治工具が吸引装置を備えている場合には、それを吸い込み面として出力側境界に含めるように定義しても良い。このように、「出力領域」は、塗装対象面の三次元形状に基づいて設定されている領域であればよく、必ずしも境界条件に関連付けられるものではない。
【符号の説明】
【0068】
10…塗装装置
11…ガイドレール
13、14…ロボット
100…塗装ガン
110…ベルカップ
120…塗料供給軸
130…モーター
140…ハウジング
200…膜厚予測装置
210…メッシュ設定部
220…境界条件設定部
230…予測計算部
300…計測システム
310…流体計測装置
320…データロガー
400…塗装装置特性データ取得装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズルから噴射される塗料の塗装対象面における膜厚を予測する方法、装置及びプログラムに関する。特に、シミュレーション解析による予測に関する。
【0002】
従来から自動車ボディその他のワークの塗装対象面への塗装膜の膜厚の予測が行われ、この予測に基づいて塗装条件が設定されていた。予測は、たとえば平板のような単純形状のワークに塗料を吹き付けたときの膜厚分布を実測した結果から得られるデータベースに基づいて行われていた。データベースには、塗料の噴射量、塗装ノズルの形状(たとえばベルの形状)、ワークと塗装ノズルの相対的な移動速度といった様々な塗装条件に対する膜厚分布が登録されている。このようなデータベースを利用すれば、各塗装条件が変動しても塗装膜厚を予測することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−238137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の方法では、三次元形状の塗装対象面における塗装膜の膜厚を正確に予測することが困難であった。
【0005】
本発明は、上述の課題を解決するために創作されたものであり、三次元形状の塗装対象面における塗料の膜厚の予測を簡易に実現する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者らは、数値流体解析によって塗装状態における流体の挙動を解析し、これにより膜厚を推定することを検討した。ところが、この検討においては、数値流体解析の対象が解析の困難な搬送流体と塗装粒子の混相流であるとともに、搬送流体の噴射部位近傍における急激な膨張や塗装粒子の噴霧化の状態の模擬も極めて困難であることが見出された。発明者らは、このような新規な課題を見出すとともに、これを解決するために以下の手段を創作した。
【0007】
本発明は、以下の構成として例示される技術を提供することができる。
第1構成例は、搬送流体を使用して塗料粒子として塗料を噴霧する塗装装置を用いて塗装される塗装対象面における塗装の膜厚を予測する膜厚予測装置を提供する。この膜厚予測装置は、搬送流体を模擬する搬送流体モデルと、塗料粒子を模擬する塗料粒子モデルとを有し、搬送流体モデルと塗料粒子モデルと空間メッシュとを用いて塗装対象面における膜厚を予測する予測計算部を備える。空間メッシュは、塗料の噴霧位置から予め設定された距離だけ塗装対象面側に離れた位置に設定されている入力領域と、塗装対象面の三次元形状に基づいて設定されている出力領域と、を有する。予測計算部は、入力領域における塗料粒子の状態量の実測値である粒子状態実測値と、入力領域における搬送流体の状態量の実測値である流体状態実測値とを入力領域のメッシュに入力して、出力領域のメッシュに予測された膜厚を出力する。
【0008】
第1構成例の膜厚予測装置では、塗料の噴霧位置から予め設定された距離だけ塗装対象面側に離れた位置に設定されている入力領域における粒子状態実測値と流体状態実測値とが使用され、これにより三次元形状に基づいて壁境界として設定されている出力領域のメッシュに予測された膜厚が出力されるので、搬送流体の噴射部位近傍における急激な膨張や塗装粒子の噴霧化の状態の模擬を省略することができる。これにより、三次元形状の塗装対象面における塗料膜厚の予測を簡易に実現することができる。
【0009】
第2構成例は、第1構成例の膜厚予測装置において、予測計算部が、粒子状態実測値と流体状態実測値の少なくとも一方を時系列データとして時変の入力を実行するので、搬送流体や塗料粒子の状態量の位置毎の経時的変動の大きな噴霧位置近傍の数値計算を省略しつつ、入力領域における搬送流体や塗料粒子の状態量の経時的変動をも考慮した高精度の予測を実現することができる。この経時的変動は、たとえば噴霧位置近傍における渦や剥離によって発生するものを含むものである。
【0010】
第3構成例は、ベルカップを備えるいわゆるベル型塗装装置を用いて塗装される塗装対象面における塗料の膜厚を予測するのに好適である。ここで、ベルカップは、回転しつつその外周端部から塗料粒子を吐出する。吐出した塗料粒子は搬送流体によって塗装対象面へと噴霧される。第3構成例では、第1または第2構成例の膜厚予測装置において、入力領域が、ベルカップの外周端部と塗装対象面との間に設定されている。
【0011】
ベル型塗装装置は、搬送流体を回転するベルカップの外周端部外側に噴射して、塗料粒子を外周端部から塗装対象面へと噴霧する。この際の搬送流体と塗料のダイナミクスは、非常に複雑であるとともに、ベルカップの外周端部付近における搬送流体の状態量(圧力や速度ベクトル)の位置毎の経時的変動も極めて大きい。第3構成例の膜厚予測装置では、入力領域がベルカップの外周端部と塗装対象面との間に設定されるので、ベルカップの外周端部付近における搬送流体の状態量の位置毎の経時的変動が極めて大きな領域の解析を省略することができる。さらに、ベルカップから吐出直後の塗料粒子の挙動を数値計算で求める場合、ベルカップの外周端部近傍の領域において、搬送流体(いわゆるシェーピングエア)の挙動と、塗料粒子の相互作用といった複雑な動的問題を取り扱うことが要請されるので、この領域における計算の省略は顕著な効果を奏する。
【0012】
第4構成例は、第3構成例の膜厚予測装置において、入力領域が、外周端部を含む平面に設定されている。また第4構成例では、粒子状態実測値が、ベルカップの外周端部における塗料粒子の速度ベクトルと、ベルカップの外周端部における塗料粒子の大きさと、を含む。
【0013】
第4構成例の膜厚予測装置では、入力領域が外周端部を含む平面に設定され、粒子状態の実測値がベルカップの外周端部における塗料粒子の速度ベクトルと、塗料粒子の大きさと、を含んでいるので、塗料粒子の実測範囲をベルカップの外周端部の近傍に限定することができる。これにより、塗料粒子の実測の負担を軽減することができる。なお、入力領域が外周端部を含む平面に設定されているということは、上述の「予め設定された距離」がゼロであることを意味している。
【0014】
第5構成例は、第1ないし第4構成例のいずれか一つの膜厚予測装置において、搬送流体の状態量は、搬送流体の速度ベクトルの時間平均である平均成分と、平均成分と搬送流体の速度ベクトルの差である変動成分と、を有する速度ベクトルを含む。また、塗料粒子モデルは、変動成分に応じて、塗料粒子が搬送流体から受ける荷重を調整することによって、搬送流体モデルに起因する予測値の誤差を補償するように構成されている。
【0015】
第5構成例の膜厚予測装置では、搬送流体の速度ベクトルの差である変動成分に応じて、塗料粒子が搬送流体から受ける荷重を調整することによって、搬送流体モデルに起因する予測値の誤差を補償するように塗料粒子モデルが構成されているので、計算負荷の小さな搬送流体モデルを利用した高精度の予測を可能とする。本構成は、発明者らによる以下の2つの知見に基づくものである。第1の知見は、計算負荷の小さな搬送流体モデルが搬送流体の速度ベクトルに含まれる変動成分に定量的な誤差を含みやすいという知見である。第2の知見は、その変動成分に応じて塗料粒子が搬送流体から受ける荷重を調整するように塗料粒子モデル側を構成すればその誤差が顕著に小さくなるという発明者らによって初めて見出された知見である。
【0016】
なお、本発明は、膜厚予測方法、塗装装置と膜厚予測装置とを含む塗装システムといった種々の形態、あるいは、これらの方法または装置の機能をコンピュータに実現させるためのコンピュータプログラム、そのコンピュータプログラムを記録した記録媒体、そのコンピュータプログラムを含み搬送波内に具現化されたデータ信号、等の種々の形態で実現することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、三次元形状の塗装対象面における塗料の膜厚の予測を簡易に実現する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施例に係る塗装装置10の構成を示す説明図。
【図2】本発明の実施例に係る塗装システムの概要を示す説明図。
【図3】本発明の実施例に係る塗装装置100による平板への塗装の状態を示す説明図。
【図4】本発明の実施例に係る塗装装置100の構成を示す説明図。
【図5】本発明の実施例に係る塗装装置100が平板に対して塗料の粒子を噴霧している状態の外観を示す説明図。
【図6】本発明の実施例に係る塗装装置100が平板に対して塗料の粒子を噴霧している状態の内部を示す断面図。
【図7】本発明の実施例に係る塗装膜厚予測方法の内容を示すフローチャート。
【図8】本発明の実施例に係る塗装装置特性取得処理の内容を示すフローチャート。
【図9】出願時の技術水準に基づいて設定されたモデルの一般的なメッシュM0を示す説明図。
【図10】本発明の実施例に係る設定されたモデルのメッシュM1を示す説明図。
【図11】本発明の実施例に係る状態量の計測値として塗料粒子の粒子径の分布を示す説明図。
【図12】本発明の実施例に係る状態量の計測値として搬送流体の流速ベクトルを示す説明図。
【図13】本発明の実施例に係る塗料粒子の運動方程式を示す説明図。
【図14】本発明の実施例に係る搬送流体の速度のR軸成分の様子を示す説明図。
【図15】本発明の実施例に係る乱流分散パラメータαの最適化の一例を示す説明図。
【図16】本発明の実施例に係る三次元塗装表面における塗装膜厚の実測値と予測値の関係を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、たとえば以下の特徴を単独あるいは組み合わせて備えることによって好ましい形態として実現することもできる。
(特徴1) 搬送流体モデルは、レイノルズ平均モデル(時間平均モデル)を含んでいる。時間平均モデルには、k−ε乱流モデルが含まれるようにしてもよい。
(特徴2) 塗料粒子モデルは、係数(スカラー)である乱流分散パラメータαを調整することによって搬送流体モデルに起因する予測値の誤差を補償するように構成されている。
(特徴3) 出力側境界条件は、ワークの電位に基づいて設定されている。予測計算部は、出力側境界条件に基づいて静電場を決定する。
【0020】
以下では、上述の特徴を踏まえて本発明の作用や効果を明確に説明するために、本発明の実施の形態を、次のような順序に従って説明する。
A.本発明の実施例に係る塗装装置の構成:
B.本発明の実施例に係る膜厚予測方法:
C.変形例:
【0021】
A.本発明の実施例に係る塗装装置の構成:
図1は、本発明の実施例に係る塗装装置10の構成を示す説明図である。塗装装置10は、矢印Tの方向に移動する車体であるワークWの表面に塗装を行うシステムである。塗装装置10は、2つのガイドレール11、12と、2台のロボット13、14と、2個の塗装装置100とを備えている。2つのガイドレール11、12は、ワークWの通り道の両脇に配置されている。2つのガイドレール11、12には、それぞれロボット13とロボット14がガイドレール11、12に沿って移動可能に装備されている。2台のロボット13、14は、いずれもアームの先端に塗装装置100を装着している。塗装装置100は、搬送流体(シェーピングエア)を使用して霧化された塗料粒子をワークWに吹き付けるように構成されている。
【0022】
図2は、本発明の実施例に係る塗装システムの概要を示す説明図である。塗装システムは、塗装装置10、膜厚予測装置200、計測システム300、および塗装装置特性データ取得装置400を備えている。塗装装置10は、さらに、テストワークWtに塗料を吸引させるための静電場を形成する2つの電源装置V1、V2を備えている。計測システム300は、塗装装置10が噴霧する搬送流体と塗料粒子の状態量(速度ベクトルや粒子径)を計測する流体計測装置310と、計測値を時系列で格納するデータロガー320とを備えている。膜厚予測装置200は、メッシュ設定部210、境界条件設定部220、および予測計算部230を備えている。
【0023】
メッシュ設定部210は、たとえば有限体積法や有限要素法といった数値流体解析方法で搬送流体や塗料粒子の挙動を計算するための空間メッシュを設定する。メッシュ設定部210は、この空間メッシュに入力側境界と出力側境界とを設定する。入力側境界は、予め設定された境界位置に配置されたメッシュの集合である。入力側境界は、塗料の噴霧位置から予め設定された距離だけ塗装対象面側に離れた位置に設定される。入力側境界の位置については後述する。出力側境界は、テストワークWtの三次元形状に基づいて設定されたメッシュの集合である。出力側境界についても後述する。境界条件設定部220は、入力境界条件として入力側境界を構成する各メッシュに実測値の時系列データをマッピングするとともに、出力境界条件として出力側境界を構成する各メッシュに壁の定義(流体の出入りのない壁境界)と電場のデータをマッピングすることができる。予測計算部230は、搬送流体の挙動を模擬するk−ε乱流モデルMtと、塗料粒子の動きを計算するための塗料粒子モデルMpとを備えている。予測計算部230は、k−ε乱流モデルMtと塗料粒子モデルMpとを用いて、入力側境界から出力側境界へと流れる塗装粒子の挙動を空間メッシュのメッシュ毎に求めて塗料の膜厚を予測する。この内容の詳細については後述する。
【0024】
塗装装置特性データ取得装置400は、塗装装置10の塗装条件を変更しつつ膜厚予測装置200の予測計算と塗装試験とを実行し、その結果を比較して塗装装置10の塗装装置特性データを取得する。テストワークWtは、上述のように3次元形状を有していてもよいし、あるいは2次元の平板形状を有していてもよい。塗装装置特性データは、塗装装置10の固有データである。膜厚予測装置200は、詳細については後述するが、この固有データを使用して様々な形状を有するワークWへの塗装膜厚を予測することができる。なお、塗装装置特性データ取得装置400は、このような処理を自動的(あるいは半自動的)に実行する装置として構成しても良いし、あるいは代わりに人間が実行してもよい。
【0025】
図3は、本発明の実施例に係る塗装装置100による平板への塗装の状態を示す説明図である。塗装装置100は、塗装対象面に対して塗装条件ごとに一定のパターンで塗装することができる。塗装条件には、たとえば塗装装置100のノズル先端部(後述)と塗装対象面との間の距離と、塗装対象面に対する塗装装置100の移動速度と、塗装装置100の作動パラメータとがある。換言すれば、これらの塗装条件が同一であれば、ほぼ同一の塗装膜厚を再現することができるので、塗装装置100を装着する2台のロボット13、14による塗装装置100の操作や塗装装置100の作動パラメータを制御して塗装対象面に対して一定の膜厚パターンを再現することができる。
【0026】
一方、塗装対象面が平板の場合ですら、塗装ガンのノズル軸線に近い部分では膜厚が厚くなり、軸線から遠ざかるほど膜厚が薄くなる膜厚分布が形成されていることが分かる。塗装対象面が三次元形状の場合、さらに膜厚の分布が複雑になる。このように、平板のような単純形状のワークにおける膜厚分布の実測値に基づくデータベースで三次元形状の塗装対象面の塗料膜厚を正確に予測するのが難しいことが理解される。
【0027】
図4は、本発明の実施例に係る塗装装置100の構成を示す説明図である。塗装装置100は、回転霧化方式のベル型塗装装置である。回転霧化方式は、微粒化特性に優れ、高い塗着効率が期待できる方法である。塗装装置100は、ベルカップ110と、塗料供給軸120と、モーター130と、ハウジング140と、を備えている。塗料供給軸120は、ベルカップ110を貫通してベルカップ110の下部(ハウジング140とは反対側)に塗料を供給してベルカップ110の外周端部Fから塗料を吐出させる。モーター130は、塗料供給軸120を介してベルカップ110を超高速回転で回転させる。ハウジング140は、ベルカップ110の上部からシェーピングエアと呼ばれる高速の空気を供給する。塗装装置100は、ベルカップ110を超高速回転で回転させるとともに、塗料粒子を搬送するための搬送流体(シェーピングエア)を供給することによって塗料を霧化してベルカップ110の外周端部Fから噴霧することができる。塗装装置100は、さらに、静電力を利用して塗装するために霧化する前に塗料に電圧を印加する。
【0028】
図5は、本発明の実施例に係る塗装装置100が平板に対して塗料の粒子を噴霧している状態の外観を示す説明図である。図6は、本発明の実施例に係る塗装装置100が平板に対して塗料の粒子を噴霧している状態の内部を示す断面図である。図5および図6において、多数の粒子Pの一つ一つは、塗料粒子を示している。多数の塗料粒子は、シェーピングエアによって霧化された後に、シェーピングエアで塗装対象面に向かって吹き付けられることになる。多数の塗料粒子は、塗装対象面の近傍に形成された電場による吸引、重力、慣性力によって塗装対象表面に衝突して塗装膜を形成する。図6における符号L0、L0’、L1、L1’については後に説明する。
【0029】
B.本発明の実施例に係る膜厚予測方法:
図7は、本発明の実施例に係る塗装膜厚予測方法の内容を示すフローチャートである。ステップS100では、塗装装置特性データ取得装置400(図2)が、塗装装置特性取得処理を実行する。塗装装置特性取得処理は、塗装装置側の特性を動的モデルとして構築する処理である。動的モデルは、塗料粒子の質量や速度ベクトル、シェーピングエアの圧力や流速、塗装対象面の近傍に形成された電場といった塗料粒子の動きに関与するパラメータ(たとえば後述する乱流分散パラメータα)を使用するものとして構成される。塗装装置特性データは、前述のように塗装装置毎の固有のデータなので、一度データを取得すれば、塗装装置が同一である限り塗装対象面の形状が変更されても同一のデータを使用して後述の方法で膜厚を推定することができる。この処理の詳細については後述する。
【0030】
ステップS200では、塗装対象面の三次元データが入力される。この三次元データは、動的モデルの計算結果の出力側の境界条件(流体の出入りのない壁境界)として利用され、塗装対象面の近傍におけるシェーピングエアの圧力や流速、電場といった塗料粒子の動きに関与するパラメータを決定することができる。これにより、塗装対象面上への塗料粒子の衝突を模擬できるので、塗装対象面上の各領域に衝突した塗料粒子の大きさと数とを積分して膜厚を予測することができる。
【0031】
ステップS300では、予測計算部230は、出力側境界条件と塗装装置特性データとに基づいて計算処理を実行する。この計算処理は、搬送流体の挙動を模擬するk−ε乱流モデルMt(図2)と、塗料粒子の挙動を模擬する塗料粒子モデルMpと空間メッシュとを使用して、たとえば有限体積法や有限要素法といった数値流体解析方法によって計算することができる。この空間メッシュは、出力側境界条件に基づいてメッシュ設定部210によって設定される。
【0032】
ステップS400では、計算結果出力処理が実行される。計算結果出力処理は、塗装対象面における塗装膜厚の予測値を出力するようにしても良いし、予め設定された塗装膜の膜厚を達成するための塗装装置100の操作内容(移動速度等)を出力するようにしても良い。
【0033】
図8は、本発明の実施例に係る塗装装置特性取得処理の内容を示すフローチャートである。ステップS110では、膜厚予測装置200のメッシュ設定部210(図2)は、動的モデルの設定を実行する。動的モデルは、本実施例では、連続相と分散相とからなる混相流としてモデル化がなされている。連続相は、流れを担う主要な相である。本実施例では、搬送流体であるシェーピングエアが連続相としてモデル化される。分散相は、連続相内に粒子が分散している相である。本実施例では、塗料粒子が分散相としてモデル化される。
【0034】
連続相(シェーピングエア)は、本実施例では、k−ε乱流モデルMtを使ってモデル化される。k−ε乱流モデルMtは、計算負荷が極めて小さく広く一般的に利用されているモデルなので、その利用は、計算の負荷やモデルの取り扱いの負担を軽減して予測計算の負荷を実質的に大きく低減させることができる。一方、k−ε乱流モデルMtは、剥離流の解析の忠実性(FIDELITY)が他の計算負荷の大きな解析法(たとえばLESモデル(Large Eddy Simulationモデル)やDNS(Direct Numerical Simulation))に劣るという特性を有している。一方、分散相は、個々の分散物質(塗料粒子)の運動方程式で表すことができる。この運動方程式は、連続相と分散相の相互作用を表す項を含んでいる。
【0035】
図9は、出願時の技術水準に基づいて設定されたモデルの一般的な空間メッシュM0を示す説明図である。図9の空間メッシュM0は、図6に示した塗装装置100に対する塗料粒子の数値計算用の空間モデルである。空間メッシュM0は、メッシュ密度の高い高密度メッシュ領域L0と、メッシュ密度の低い低密度メッシュ領域L1と、を有している。高密度メッシュ領域L0は、圧力勾配や速度変化が大きな領域なので、計算精度を高めるためにメッシュが高密度となっている。高密度メッシュ領域L0は、ベルカップ110の周辺領域に、さらに高密度の空間メッシュ領域を設定している(破線内断面図参照)。この領域では、圧力や速度が激しく変化するからである。一方、低密度メッシュ領域L1は、圧力勾配や速度変化が小さな領域なので、計算速度を高速化するためにメッシュが低密度となっている。低密度メッシュ領域L1は、図6の符号L1に示される範囲を模擬する。
【0036】
空間メッシュM0は、初期値として定常乱流の定常流れを想定している。即ち空間メッシュM0では、塗装装置100の内部においてベルカップ110の上部に供給されるシェーピングエアの定常的な流速と、高速回転するベルカップ110から放出されるときの塗料粒子の初速と、を上流側の初期値として境界条件が設定されることになる。しかしながら、ベルカップ110の周辺部における混相流の解析は、急変する圧力や速度の搬送流体の中における分散相の計算を実行しなければならず、極めて計算負荷が高い。
【0037】
図10は、本発明の実施例に係る設定されたモデルの空間メッシュM1を示す説明図である。空間メッシュM1は、空間メッシュM0から高密度メッシュ領域L0を取り除いた低密度メッシュ領域L1の空間メッシュとして構成されている。図10において、空間メッシュM1の上面が入力側境界に相当し、下面が出力側境界に相当する。この例では、説明を簡素化するために出力側境界に相当する下面が平面形状となっている。しかし、現実には、出力側境界は、塗装対象面の三次元形状に沿って設定される。入力側境界は、ベルカップ(ベルカップの外周端部F)から予め設定された距離(=距離L0−距離L0‘、図6参照)だけ塗装対象面側に離れた位置に設定される。本実施例では、ベルカップの外周端部Fが塗料噴霧位置に相当する。空間メッシュM1は、ベルカップ110の周辺部を含まないので、周辺部における混相流の計算が不要になる。即ち、高密度メッシュ領域L0を含まない空間メッシュM1に基づいて膜厚を予測できれば、計算負荷が飛躍的に低減できる。
【0038】
空間メッシュM1は、初期値としてメッシュM1の上端部(入力側境界)の各メッシュの状態量を入力側境界条件として要求する。この状態量には、シェーピングエアの流速や圧力、塗料粒子の粒径や速度を含み、乱流であることを想定されるので、非定常流れとして扱うことが要求される。非定常流れとは、状態量が時々刻々と変化する流れを意味する。
【0039】
ステップS120では、計測システム300は、初期値の入力側の境界条件(入力側境界条件)として要求される状態量の計測を実行する。状態量の計測は、たとえば周知のPIA計測(Particle Image Analyzer)やPIV計測(Particle Image Velocimetry)を実行する流体計測装置310によって実現することができる。計測対象の状態量には、本実施例では、塗料粒子の粒子径、塗料粒子の流速ベクトル、搬送流体としてのシェーピングエアの流速ベクトルが含まれる。本実施例では、これらのデータは、データロガー320によって時系列データとして取得される。
【0040】
図11は、本発明の実施例に係る状態量の計測値として塗料粒子の粒子径の分布を示す説明図である。この図では、縦軸と横軸が正規化されている。入力側境界条件としての粒子径の入力は、この分布に基づいて、たとえば乱数を用いたモンテカルロ法や一定の規則で粒子径を分散させる方法で行うことができる。ただし、粒子径の分布が計算結果に有意な影響を与えるほどに時変である場合には、状態量の時系列データを時間毎に入力することによって、その分布の時間的変動をも模擬することが好ましい。
【0041】
図12は、本発明の実施例に係る状態量の計測値として搬送流体の流速ベクトルを示す説明図である。この図では、縦軸と横軸が正規化されている。搬送流体の流速は、ベルカップ110の回転軸からの距離ごとに計測された値が円筒座標系で表現されている。円筒座標系は、ベルカップ110の回転軸を中心軸とし、中心軸からの距離である半径Rと、角度θと、高さZとで表現されている。ベルカップ110は、外周端部Fから塗料を吐出するので、ベルカップ110の外周端部Fの位置にピークが発生している。
【0042】
このように、本実施例では、空間メッシュM1が中心軸に対して対称に構成されているので、半径R毎の計測値が得られれば、入力側境界条件としての搬送流体の流速の入力が可能である。この状態量は、ベルカップ110の周辺の激しい乱流の発生を考慮すれば、一般的に状態量の時系列データが時間毎に入力されることが好ましい。なお、塗料粒子の速度ベクトルは、搬送流体の流速ベクトルと同様に取り扱うことができる。
【0043】
ステップS130では、境界条件設定部220は、境界条件のマッピングを実行する。境界条件のマッピングとは、塗料粒子の粒子径、塗料粒子の流速ベクトル、搬送流体としてのシェーピングエアの流速ベクトルといった状態量の計測値を、入力側境界を構成する各メッシュに入力する処理を意味する。具体的には、塗料粒子の粒子径や質量の入力は、たとえばベルカップ110の外周端部Fの近傍の各メッシュにモンテカルロ法等の方法で行うことができる。搬送流体の流速ベクトルは、ベルカップ110の回転軸からの距離に応じた計測値をメッシュM1の半径Rごとの各メッシュに入力される。これらの計測値は、時系列データとして時間毎に入力されることになる。これらの計測値は、連続相としての搬送流体を模擬するk−ε乱流モデルMtと、分散相としての塗料粒子の挙動を表現する塗料粒子モデルMp(本実施例では、運動方程式)で使用されることになる。なお、ステップS130では、境界条件設定部220は、出力側境界に、流体の出入りのない壁境界を境界条件として設定する。
【0044】
図13は、本発明の実施例に係る塗料粒子の運動方程式を示す説明図である。各塗料粒子の運動は、本実施例では、塗料粒子モデルMpとして構成されたニュートンの運動方程式F1(数学モデル)で表現されている。運動方程式F1において、粒子質量md、粒子速度ud、抵抗力Fdr、圧力勾配力Fp、粒子牽引力Fam、粒子体積力Fbは、各塗料粒子の質量、塗料粒子の速度、塗料粒子と搬送流体(シェーピングエア)の間の抵抗力、搬送流体の圧力勾配により粒子が受ける力、粒子に牽引された搬送流体を加速させるために必要な力、および重力や静電力といった塗料粒子に働く体積力を現している。
【0045】
運動方程式F1の各項のうち、抵抗力Fdr、圧力勾配力Fp、および粒子牽引力Famは、連続相との相互作用を表す項であり、k−ε乱流モデルMtの各メッシュのデータから算出することができる。一方、粒子体積力Fbは、既知の重力と静電場とに基づいて決定することができる。粒子質量mdや粒子速度udは、入力側境界として境界を構成する各メッシュに入力された初期値から出力側境界(三次元の塗装表面)を構成する各メッシュに向かって順次計算することができる。
【0046】
抵抗力Fdrは、本実施例では、塗料粒子と搬送流体の間の抵抗(ベクトル)を表す第1項と、発明者らによって創作された乱流分散補正項としての第2項(ベクトル)と、を有する計算式F2に基づいて算出される。第1項は、空気抵抗を表す周知の数学モデルに基づく項であり、効力係数Cdと、搬送流体の密度ρと、塗料粒子の代表面積としての粒子断面積Adと、搬送流体の速度(=定常成分u+非定常成分ut)と塗料粒子の粒子速度udの相対速度のベクトルと、その大きさ(絶対値)の積を含む項として構成されている。
【0047】
乱流分散補正項(第2項)は、搬送流体の速度の時間的な変動に応じて、塗料粒子の分散が大きくなる現象を忠実に表現する項として発明者らによって創作されたものである。第2項は、空気抵抗を表す周知の数学モデルに近似する新規の数学モデルであり、搬送流体の速度(=定常成分u+非定常成分ut)と塗料粒子の粒子速度udの相対速度のベクトルが、搬送流体の非定常成分utに対して所定の係数(スカラー)を乗じた値に入れ替えられている点で第1項と相違する。この項は、塗料粒子と搬送流体の相対速度のベクトルと搬送流体の非定常成分utの積が塗料粒子と搬送流体の間の抵抗値として加算されるという物理的な意味を有することになる。この係数は、本明細書では、乱流分散パラメータαと呼ばれる。
【0048】
図14は、本発明の実施例に係る搬送流体の速度のR軸成分の様子を示す説明図である。搬送流体の速度は、本実施例では、定常成分uと非定常成分utとで表現される。定常成分uは、本実施例では、搬送流体の速度をアンサンブル平均(時間平均)したもので、非定常成分utは、搬送流体の速度と定常成分uの差である。アンサンブル平均とは、離散化された搬送流体の速度データを一群のデータ集団とし、所定の周期で切り取って重ね合わせることによって、その周期とその整数倍の周期を持つ信号を強調させる処理方法である。このような定常成分u(アンサンブル平均)および非定常成分utは、k−ε乱流モデルMtで使用されるデータなので、それをそのまま塗料粒子の運動方程式で利用することができる。
【0049】
ステップS140では、塗装装置特性データ取得装置400は、乱流分散パラメータの設定を実行する。乱流分散パラメータの設定とは、本実施例では、搬送流体の非定常成分utに乗じられている乱流分散パラメータαを調整して予測値を実測値に近づける処理である。この調整は、たとえば平板に対する塗装膜厚の実測値を使用するようにしても良いし、あるいは代表的な3次元形状に対する塗装膜厚の実測値を使用するようにしても良い。このようにして得られた乱流分散パラメータαは、塗装装置特性データの一部を構成する。乱流分散パラメータαは、塗装条件毎に決定することが好ましい。
【0050】
図15は、本発明の実施例に係る乱流分散パラメータαの最適化の一例を示す説明図である。図15には、模擬対象の塗装装置100による塗装膜厚の実測値と複数の予測値とが示されている。複数の予測値は、乱流分散パラメータαを変動させたものである。乱流分散パラメータαが「1」のときには、ベルカップ110の回転軸の近傍において膜厚の予測値が実測値よりも顕著に小さくなっている。乱流分散パラメータαが「1」のときは、計算式F2から分かるように乱流分散補正項の値がゼロ、すなわち、乱流分散補正項による補正が行われていない状態を示している。
【0051】
ベルカップ110の回転軸の近傍において膜厚の予測値が実測値よりも顕著に小さくなっているのは、k−ε乱流モデルMtの性質によるものと発明者らによって推測された。k−ε乱流モデルMtは、一般に剥離流の正確な解析を苦手とするのに対し、ベルカップ110の近傍下流域では、搬送流体の大規模な剥離流が発生することが予測されるからである。このような問題に対して、出願時の数値流体力学等の当業者であれば、このような剥離流に対応することができる乱流モデルの使用や補正項の設定を検討する。具体的には、乱流モデルをk−ε乱流モデルMtからLESモデル(Large Eddy Simulationモデル)やDNS(Direct Numerical Simulation)といった大きな渦をモデル化せずに剥離流を直接計算する方法、あるいは搬送流の挙動を実測値に近づけるための補正項を考案することになる。ただし、これらの方法は、モデル化や計算の負担が極めて大きい。
【0052】
しかし、発明者らは、最終的に算出する必要があるのは、塗装膜厚であって必ずしも搬送流体のシミュレーションの忠実性を高めることを必要としない点と、k−ε乱流モデルMtにおいても定量的に正確な剥離流が模擬できないまでも剥離流の発生自体は模擬されている点と、に着目した。さらに、発明者らは、混相流における搬送流体の剥離流と塗料粒子との間の物理的関係に着目し、剥離流が搬送流体の圧力と速度の変動を生じさせて塗装粒子を拡散させるという物理的な意義を有していることを見出した。
【0053】
発明者らは、上述の解析に基づいて、非定常成分utを使用した補正項を搬送流体の模擬にではなく、塗装粒子の運動方程式の側に設けて剥離流に起因する塗装粒子の分散の程度を自由に操作できるように塗装粒子の運動方程式を構成することに成功したのである。具体的には、本実施例では、乱流分散パラメータαを「5」に設定すると、塗装膜厚の予測値が実測値に顕著に近づくことが分かる。特に、剥離流が発生しているベルカップ110の下流域において塗装粒子が顕著に分散されているのに対して、乱流補正項で補正しなくても忠実性が高い他の領域においては膜厚予測値がほとんど変動していないことが分かる。一方、乱流分散パラメータαを「10」に設定すると、剥離流による塗料粒子の分散が過度に表現されて膜厚の予測値が外れていることが分かる。
【0054】
ただし、このような物理的に解析されたような現象が必ずしも確認されているわけではなく、このような解析に基づく現象が発生することが本実施例の必須の条件となるものではない。本実施例は、搬送流体の速度の変動成分に応じて、搬送流体モデルの忠実性の低下に起因する予測値の誤差を補償するように塗料粒子モデル(本実施例では、運動方程式という数学モデル)が構成されていれば、上述の効果を奏することが発明者らの塗装シミュレーションと塗装実験とによって現実に確認された点に本質的な意義を有しているのである。
【0055】
図16は、本発明の実施例に係る三次元塗装表面における塗装膜厚の実測値と予測値の関係を示す説明図である。k−ε乱流モデルMtは、壁近傍における壁に沿った付着流の模擬を高精度で実現することができるので、三次元塗装表面上における搬送流体の挙動を正確に模擬して種々の形状の三次元塗装表面における膜厚の予測を高精度の予測を実現することができる。
【0056】
このように、本実施例は、塗装対象面の三次元形状に基づいて設定されている出力側境界に基づいて塗装対象面における膜厚が予測されるので、塗装対象面の三次元形状に起因する塗装膜の膜厚の変動を予測して高い精度で膜厚を予測することができる。一方、この予測は、ベルカップの外周端部(塗料の噴霧位置)から離れた位置に設定された入力側境界における状態量の実測値に基づいて行われるので、搬送流体や塗料粒子の状態量の位置毎の経時的変動の大きな噴霧位置近傍の解析を省略することができる。これにより、塗装対象面の三次元形状に起因する塗装膜の膜厚の変動を考慮した膜厚の予測を簡易に実現することができる。さらに、入力側境界における状態量の実測は、塗装装置毎に一度だけ(あるいは校正(Calibration)時)行えばよいので、解析負担が極めて顕著に低減されることになる。
【0057】
上記実施例についての留意点は以下のとおりである。入力側境界とは、塗料粒子の挙動を数値計算で求める際の流れの上流側に位置する。従って、「入力側境界」は「上流側境界」と換言してよい。典型的には、上流側境界(入力側境界)は、ベルカップの軸方向の前方へ予め定められた距離だけ離れた位置に設定される。「予め定められた距離」は、ベルカップ外周端部を離れた搬送流体の乱流が収まる程度の距離でよい。その距離は、例えば、搬送流体のレイノルズ数によって見込むことができる。一方、入力側境界が外周端部Fを含む平面に設定すれば、塗料粒子の実測範囲をベルカップの外周端部の近傍に限定することができる。これにより、塗料粒子の実測の負担を軽減することができるという利点がある。
【0058】
出力側境界は、塗装装置から噴霧された塗料粒子が搬送流体によって流されて到達する塗装対象面の近傍に位置する。従って、「出力側境界」は「下流側境界」と換言してよい。典型的には、下流側境界(出力側境界)は、塗装対象面に沿って設定される。実施例の膜厚予測方法は、上流側境界と下流側境界の間に、数値流体力学(CFD:Computer Fruid Dynamics)シミュレーションのための空間メッシュを設定する。空間メッシュは、ベルカップ110の構造や霧化状態がベルカップ110の回転軸に対して対称である点に着目すれば、この軸に対象であることを想定してメッシュ密度を設定することもできる。
【0059】
実施例の膜厚予測方法は、上流側境界(入力側境界)に相当する実際の位置における塗料粒子の状態量の実測値と搬送流体の状態量の実測値とに応じて数値流体力学シミュレーションのための上流側境界の条件、即ち上流側境界条件を設定する。他方、実施例の膜厚予測方法は、塗装対象面に沿った下流側境界にいわゆる壁境界を設定する。壁境界が下流側境界条件に相当する。そして、実施例の膜厚予測方法は、搬送流体の挙動を模擬する搬送流体モデルと塗料粒子の挙動を模擬する塗料粒子モデルとを用い、上流側境界条件(入力側境界条件)と下流側境界条件(出力側境界条件)の下で搬送流体によって流される塗装粒子の空間メッシュにおける挙動を計算し、塗装対象面における塗装膜厚を予測する。実施例のシステムでは、膜厚予測装置200が上記の運動計算を行い、塗装対象面における塗装膜厚を予測する。
【0060】
C.変形例:
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項に記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数の目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。具体的には、たとえば以下のような変形例も実施可能である。
【0061】
C−1:上述の実施例では、搬送流体のモデルとしてk−ε乱流モデルMt(k−ε型2方程式モデル)が利用されているが、たとえばk−ω型2方程式モデルやSSTといった2方程式モデルを使用するようにしても良いし、さらに、0方程式モデルや1方程式モデルを含むモデル、あるいは応力方程式モデルを含む時間平均モデルを利用するようにしても良い。このように、本発明は、ナビエ・ストークス方程式に対して、時間平均(レイノルズ平均)を適用して導出されたレイノルズナビエ・ストークス平均方程式(Raynolds−Averaged Navier−Stocke Simulation:RANS)を使用する乱流モデルを搬送流体のモデルとして使用する方法に適用することができる。RANSを使用する乱流モデル(RANSモデル)は、他のモデルを使用する場合を比較して計算負荷が極めて小さいという利点を有している。
【0062】
ただし、k−ε乱流モデルMtは、広く一般的に利用されているモデルなので、その利用は、さらに、計算の負荷やモデルの取り扱いの負担を軽減して予測計算の負荷を実質的に大きく低減させることができるという利点を有している。一方、RANSモデルを使用する乱流モデルは、剥離流の正確な解析を苦手とするのに対し、たとえばベルカップの下流域のように塗装対象領域において搬送流体の大規模な剥離流が発生することが予測される場合には、たとえば実施例のように塗料粒子モデルを工夫して乱流モデルの計算誤差を補償するように構成することが好ましい。
【0063】
なお、本発明は、RANSを使用する乱流モデルだけでなく、たとえばLESモデル(Large Eddy Simulation)やDNS(Direct Numerical Simulation)、あるいは壁近傍でRANSモデルを使用するとともに壁遠方でLESモデルを使用するDESモデルといった種々のモデルを使用することができる。このようなモデルを使用する解析においても、本発明では、塗料の噴霧位置から予め設定された距離だけ塗装対象面側に離れた位置に設定されている入力側境界における塗料粒子の状態量の実測値に基づいて行われるので、搬送流体や塗料粒子の状態量の位置毎の変動の大きな噴霧位置近傍の解析を省略して簡易な予測を実現することができる。
【0064】
C−2:上述の実施例や変形例では、入力された時系列データに基づいて時変の入力側境界条件が設定されているが、たとえば時不変の入力側境界条件を設定するようにしても良い。ただし、時変の入力側境界条件を設定すれば、搬送流体や塗料粒子の状態量の位置毎の変動の大きな噴霧位置近傍の解析を省略しつつ、入力側境界における搬送流体や塗料粒子の状態量の時間毎の変動をも考慮した高精度の予測を実現することができる。この時間毎の変動は、たとえば噴霧位置近傍における渦や剥離によって発生するものを含むものである。
【0065】
C−3:上述の実施例や変形例では、ベルカップを有する塗装装置が形成する塗装の膜厚を予測しているが、たとえば搬送流体を使用して塗料粒子として塗料を噴霧するハンドガンの塗装膜厚の予測にも利用することができる。本発明は、広く一般に搬送流体を使用して塗料粒子として塗料を噴霧する塗装装置の膜厚の予測に適用することができる。
【0066】
C−4:上述の実施例や変形例では、塗料粒子や搬送流体の実測値を入力する領域である入力領域として入力側境界を利用しているが、たとえば空間メッシュ内で入力側境界から離れた位置に入力領域を設定し、入力領域の実測値を入力側境界から離れた入力領域において「湧き出し」として入力するように構成してもよい。このように、「入力領域」は、塗料粒子や搬送流体の実測値が入力される領域として定義されていればよく、必ずしも境界条件に関連付けられるものではない。
【0067】
C−5:上述の実施例や変形例では、計算結果を出力する領域である出力領域として出力側境界を利用しているが、たとえば出力側境界をワークの塗装対象面とワークを固定する治工具の3次元形状で定義し、出力領域をワークの塗装対象面だけとするような構成としてもよいし、あるいは治工具が吸引装置を備えている場合には、それを吸い込み面として出力側境界に含めるように定義しても良い。このように、「出力領域」は、塗装対象面の三次元形状に基づいて設定されている領域であればよく、必ずしも境界条件に関連付けられるものではない。
【符号の説明】
【0068】
10…塗装装置
11…ガイドレール
13、14…ロボット
100…塗装ガン
110…ベルカップ
120…塗料供給軸
130…モーター
140…ハウジング
200…膜厚予測装置
210…メッシュ設定部
220…境界条件設定部
230…予測計算部
300…計測システム
310…流体計測装置
320…データロガー
400…塗装装置特性データ取得装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送流体を使用して塗料粒子として塗料を噴霧する塗装装置を用いて塗装される塗装対象面における塗装の膜厚を予測する膜厚予測装置であって、
前記搬送流体を模擬する搬送流体モデルと、前記塗料粒子を模擬する塗料粒子モデルとを有し、前記搬送流体モデルと前記塗料粒子モデルと空間メッシュとを用いて前記塗装対象面における膜厚を予測する予測計算部を備え、
前記空間メッシュが、前記塗料の噴霧位置から予め設定された距離だけ前記塗装対象面側に離れた位置に設定されている入力領域と、前記塗装対象面の三次元形状に基づいて設定されている出力領域と、を有し、
前記予測計算部が、前記入力領域における前記塗料粒子の状態量の実測値である粒子状態実測値と、前記入力領域における前記搬送流体の状態量の実測値である流体状態実測値とを前記入力領域のメッシュに入力して、前記出力領域のメッシュに前記予測された膜厚を出力する膜厚予測装置。
【請求項2】
請求項1に記載の膜厚予測装置であって、
前記予測計算部が、前記粒子状態実測値と前記流体状態実測値の少なくとも一方を時系列データとして時変の入力を実行する膜厚予測装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の膜厚予測装置であって、
前記塗装装置が、回転しつつ外周端部から前記塗料を吐出するベルカップを有し、前記吐出された塗料粒子を霧化する搬送流体を噴射するベル型塗装装置であり、
前記入力領域が、前記外周端部と前記塗装対象面との間に設定されている膜厚予測装置。
【請求項4】
請求項3に記載の膜厚予測装置であって、
前記入力領域が、前記外周端部を含む平面に設定され、
前記粒子状態実測値が、前記ベルカップの外周端部における塗料粒子の速度ベクトルと、前記ベルカップの外周端部における前記塗料粒子の大きさと、を含む膜厚予測装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか一項に記載の膜厚予測装置であって、
前記搬送流体の状態量は、搬送流体の速度ベクトルの時間平均である平均成分と、前記平均成分と前記搬送流体の速度ベクトルの差である変動成分と、を含み、
前記塗料粒子モデルは、前記変動成分に応じて、前記搬送流体モデルに起因する予測値の誤差を補償するように構成されている膜厚予測装置。
【請求項6】
搬送流体を使用して塗料粒子として塗料を噴霧する塗装装置を用いて塗装される塗装対象面における塗装の膜厚を予測する膜厚予測方法であって、
前記搬送流体を模擬する搬送流体モデルと、前記塗料粒子を模擬する塗料粒子モデルと、空間メッシュと、を用いて前記塗装対象面における膜厚を予測する予測計算工程を備え、
前記空間メッシュが、前記塗料の噴霧位置から予め設定された距離だけ前記塗装対象面側に離れた位置に設定されている入力領域と、前記塗装対象面の三次元形状に基づいて設定されている出力領域と、を有し、
前記予測計算工程が、
前記入力領域における前記塗料粒子の状態量の実測値である粒子状態実測値と、前記入力領域における前記搬送流体の状態量の実測値である流体状態実測値とを前記入力領域のメッシュに入力する工程と、
前記出力領域のメッシュに前記予測された膜厚を出力する工程と、
を含む膜厚予測方法。
【請求項7】
搬送流体を使用して塗料粒子として塗料を噴霧する塗装装置を用いて塗装される塗装対象面における塗装の膜厚をコンピュータに予測させるためのコンピュータプログラムであって、
前記搬送流体を模擬する搬送流体モデルと、前記塗料粒子を模擬する塗料粒子モデルと、空間メッシュとを用いて前記塗装対象面における膜厚を予測する予測計算機能と、
を前記コンピュータに実現させるプログラムを備え、
前記空間メッシュが、前記塗料の噴霧位置から予め設定された距離だけ前記塗装対象面側に離れた位置に設定されている入力領域と、前記塗装対象面の三次元形状に基づいて設定されている出力領域と、を有し、
前記予測計算機能が、
前記入力領域における前記塗料粒子の状態量の実測値である粒子状態実測値と、前記入力領域における前記搬送流体の状態量の実測値である流体状態実測値とを前記入力領域のメッシュに入力する機能と、
前記出力領域のメッシュに前記予測された膜厚を出力する機能と、
を含むコンピュータプログラム。
【請求項1】
搬送流体を使用して塗料粒子として塗料を噴霧する塗装装置を用いて塗装される塗装対象面における塗装の膜厚を予測する膜厚予測装置であって、
前記搬送流体を模擬する搬送流体モデルと、前記塗料粒子を模擬する塗料粒子モデルとを有し、前記搬送流体モデルと前記塗料粒子モデルと空間メッシュとを用いて前記塗装対象面における膜厚を予測する予測計算部を備え、
前記空間メッシュが、前記塗料の噴霧位置から予め設定された距離だけ前記塗装対象面側に離れた位置に設定されている入力領域と、前記塗装対象面の三次元形状に基づいて設定されている出力領域と、を有し、
前記予測計算部が、前記入力領域における前記塗料粒子の状態量の実測値である粒子状態実測値と、前記入力領域における前記搬送流体の状態量の実測値である流体状態実測値とを前記入力領域のメッシュに入力して、前記出力領域のメッシュに前記予測された膜厚を出力する膜厚予測装置。
【請求項2】
請求項1に記載の膜厚予測装置であって、
前記予測計算部が、前記粒子状態実測値と前記流体状態実測値の少なくとも一方を時系列データとして時変の入力を実行する膜厚予測装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の膜厚予測装置であって、
前記塗装装置が、回転しつつ外周端部から前記塗料を吐出するベルカップを有し、前記吐出された塗料粒子を霧化する搬送流体を噴射するベル型塗装装置であり、
前記入力領域が、前記外周端部と前記塗装対象面との間に設定されている膜厚予測装置。
【請求項4】
請求項3に記載の膜厚予測装置であって、
前記入力領域が、前記外周端部を含む平面に設定され、
前記粒子状態実測値が、前記ベルカップの外周端部における塗料粒子の速度ベクトルと、前記ベルカップの外周端部における前記塗料粒子の大きさと、を含む膜厚予測装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか一項に記載の膜厚予測装置であって、
前記搬送流体の状態量は、搬送流体の速度ベクトルの時間平均である平均成分と、前記平均成分と前記搬送流体の速度ベクトルの差である変動成分と、を含み、
前記塗料粒子モデルは、前記変動成分に応じて、前記搬送流体モデルに起因する予測値の誤差を補償するように構成されている膜厚予測装置。
【請求項6】
搬送流体を使用して塗料粒子として塗料を噴霧する塗装装置を用いて塗装される塗装対象面における塗装の膜厚を予測する膜厚予測方法であって、
前記搬送流体を模擬する搬送流体モデルと、前記塗料粒子を模擬する塗料粒子モデルと、空間メッシュと、を用いて前記塗装対象面における膜厚を予測する予測計算工程を備え、
前記空間メッシュが、前記塗料の噴霧位置から予め設定された距離だけ前記塗装対象面側に離れた位置に設定されている入力領域と、前記塗装対象面の三次元形状に基づいて設定されている出力領域と、を有し、
前記予測計算工程が、
前記入力領域における前記塗料粒子の状態量の実測値である粒子状態実測値と、前記入力領域における前記搬送流体の状態量の実測値である流体状態実測値とを前記入力領域のメッシュに入力する工程と、
前記出力領域のメッシュに前記予測された膜厚を出力する工程と、
を含む膜厚予測方法。
【請求項7】
搬送流体を使用して塗料粒子として塗料を噴霧する塗装装置を用いて塗装される塗装対象面における塗装の膜厚をコンピュータに予測させるためのコンピュータプログラムであって、
前記搬送流体を模擬する搬送流体モデルと、前記塗料粒子を模擬する塗料粒子モデルと、空間メッシュとを用いて前記塗装対象面における膜厚を予測する予測計算機能と、
を前記コンピュータに実現させるプログラムを備え、
前記空間メッシュが、前記塗料の噴霧位置から予め設定された距離だけ前記塗装対象面側に離れた位置に設定されている入力領域と、前記塗装対象面の三次元形状に基づいて設定されている出力領域と、を有し、
前記予測計算機能が、
前記入力領域における前記塗料粒子の状態量の実測値である粒子状態実測値と、前記入力領域における前記搬送流体の状態量の実測値である流体状態実測値とを前記入力領域のメッシュに入力する機能と、
前記出力領域のメッシュに前記予測された膜厚を出力する機能と、
を含むコンピュータプログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2010−274185(P2010−274185A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−128663(P2009−128663)
【出願日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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