説明

塩味強化剤

【課題】飲食品の味質を変えることなく、極少量の使用であっても十分な効果を得ることのできる塩味強化剤を提供する。また、該塩味強化剤と塩化ナトリウムからなる食塩組成物を提供する。
【解決手段】乳酸ナトリウム、及び/又は乳酸カリウムを有効成分として含有する塩味強化剤は、塩化ナトリウムに極少量添加しただけであっても極めて強い塩味増強する効果があり、かつ、苦みや渋みがほとんどない。該塩味強化剤及び該食塩組成物を使用することにより減塩飲食品を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲食品の塩味をその味質を変えることなく、極少量の添加で強化することのできる塩味強化剤、塩味が強化された食塩組成物、塩味が強化された飲食品、さらには飲食品の塩味強化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
5つの基本風味の1つである塩味は、単なる嗜好としてではなく、飲食品の美味しさを引きたて食欲増進効果もあることから、飲食品の風味として極めて重要である。
飲食品に塩味を付与するには、通常、食塩、すなわち塩化ナトリウムを使用するが、その主要構成成分であるナトリウムの過剰摂取が、高血圧をはじめとする多くの健康疾患の危険因子であることから、塩化ナトリウムの摂取量抑制が推奨され、そのため塩化ナトリウム含量を減じた様々な減塩飲食品が開発され、市販されている。しかし、ただ塩化ナトリウム添加量を減じただけでは、当然基本味の1つである塩味が減ってしまいうす味となり、美味しさが損なわれてしまう。
そのため、飲食品の塩味を維持したまま、塩化ナトリウム含量を減じる方法の検討が多数行なわれてきた。
その方法を大きく分類すると、塩化ナトリウム代替品を使用する方法と、塩味強化剤を使用する方法に分けることができる。
【0003】
塩化ナトリウム代替品とは、塩化カリウムや有機酸のアルカリ金属塩に代表される塩化ナトリウムに近似した塩味を持つ物質であり、飲食品に使用している塩化ナトリウムの一部、又は全部を置換することで、塩化ナトリウム含量を減少させるものである。
しかし、塩化カリウムをはじめとする塩化ナトリウム代替品は塩味が塩化ナトリウムに比べて弱いこと、及び塩味に加えて渋味や苦味を有するものであるため、塩化ナトリウムの置換量を増やすと、得られる飲食品の塩味が弱いものとなってしまうことに加え、味質も変わってしまう問題があった。
【0004】
一方、塩味強化剤とは、それ自体は塩味を示さないかあるいはごく薄い塩味であるが、塩化ナトリウムに極少量添加することで、塩化ナトリウムの塩味を強く感じさせる効果を示す物質であり、少ない塩化ナトリウム含量の飲食品であってもより塩化ナトリウム含量の高い飲食品と同等の塩味を持たせることができるというものである。
この方法によれば、大きな味質の変化を伴わずに飲食品の塩化ナトリウム含量を低下させることが可能であるため、カプサイシン(例えば特許文献1参照)、トレハロース(例えば特許文献2参照)、蛋白質の加水分解物(例えば特許文献3参照)、特定の界面活性剤(例えば特許文献4参照)など多くの物質が提案されている。
【0005】
しかし、これらの塩味強化剤は、その塩味の増強効果が極めて弱いことから、少ない塩化ナトリウム含量の飲食品に高い塩味増強効果を求める場合、これらの塩味強化剤を多く使用する必要があり、その場合これらの塩味強化剤は極めて強い塩味以外の風味を有する物質であることから、例えば特許文献1の方法は、辛味が強く感じられ、特許文献2の方法は甘味が感じられ、特許文献3の方法は苦味が感じられ、特許文献4の方法は臭味が感じられるなど、飲食品の味質が変わってしまう問題もあった。
【0006】
このように、飲食品の味質を変えることなく極少量の使用であっても十分な効果を得ることのできる塩味強化剤は得られておらず、さらには、飲食品の味質と塩味を維持したまま塩化ナトリウム含量を減じる方法も現在まで得られていなかった。
【0007】
【特許文献1】特開2001−245627号公報
【特許文献2】特開平10−66540号公報
【特許文献3】WO01/039613公報
【特許文献4】特開平5−184326号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、飲食品の味質を変えることなく、極少量の使用であっても十分な効果を得ることのできる塩味強化剤、塩化ナトリウムと同等の味質であって塩味が強化された食塩組成物、さらには、飲食品の味質を維持したまま塩化ナトリウム含量あたりの塩味が強化された飲食品、さらには、飲食品の味質を維持したまま飲食品の塩味を増強することのできる飲食品の塩味強化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記目的を達成すべく種々検討した結果、乳酸ナトリウム、及び/又は乳酸カリウムは、塩化ナトリウムに極少量添加しただけであっても極めて強い塩化ナトリウムの塩味を増強する効果を示し、且つ苦味や渋味がほとんどないことを知見した。
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、乳酸ナトリウム、及び/又は、乳酸カリウムを有効成分として含有する塩味強化剤を提供するものである。
また、本発明は、該塩味強化剤と塩化ナトリウムからなる食塩組成物を提供するものである。
また、本発明は、該食塩組成物を使用した飲食品を提供するものである。
さらに、本発明は、該塩味強化剤を飲食品に添加することを特徴とする飲食品の食塩味強化方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の塩味強化剤は、極少量の使用であっても飲食品の味質を変えることなく、塩味を増強することができる。
また、本発明の食塩組成物は、塩化ナトリウムと同等の味質であり、且つ塩味が強化されている。
また、本発明の飲食品は、塩味や美味しさを兼ね備えた減塩飲食品として好ましく使用できる。
さらに、本発明の飲食品の塩味強化方法によれば、飲食品の塩味をその味質を変えることなく、極少量の添加で強化することができ、よって簡単に塩味や美味しさを兼ね備えた減塩飲食品を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の塩味強化剤は、乳酸ナトリウム、及び/又は乳酸カリウムを有効成分として含有する。本発明の塩味増強剤においては、乳酸ナトリウム、及び/又は乳酸カリウムとして、それらの製剤そのものを用いてもよく、また乳酸ナトリウム、及び/又は乳酸カリウムを含有する飲食品を用いてもよい。
【0012】
乳酸ナトリウム:乳酸カリウムの質量比は特に限定されず任意であるが、効果が強いことや風味が良好であることから、100:0〜20:80の範囲であることが好ましく、より好ましくは100:0〜60:40である。
【0013】
本発明の塩味強化剤は、上記乳酸ナトリウム、及び/又は乳酸カリウムをそのまま単独で使用してもよく、また各種の添加剤と混合して、常法により粉体、顆粒状、錠剤、液剤などの形状に製剤化して用いてもよい。これらの製剤中の上記乳酸ナトリウム、及び/又は乳酸カリウムの含有量は、固形分として好ましくは1〜100質量%、より好ましくは5〜100質量%、更に好ましくは10〜100質量%、最も好ましくは50〜100質量%である。
本発明の塩味強化剤において、乳酸ナトリウム、及び/又は乳酸カリウムを含有する飲食品の好ましいものとしては、例えば、チーズホエー、粕漬かす等が挙げられる。
【0014】
粉体、顆粒状、錠剤などの形状に製剤化するための添加剤としては、アルギン酸類、ペクチン、海藻多糖類、カルボキシメチルセルロース等の増粘多糖類や、乳糖、でんぷん、二酸化ケイ素等の賦形剤、ブドウ糖、果糖、ショ糖、麦芽糖、ソルビトール、ステビア等の甘味料、微粒二酸化ケイ素、炭酸マグネシウム、リン酸二ナトリウム、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム等の固結防止剤、ビタミン類、香料、酸化防止剤、光沢剤などが挙げられ、これらの一種または二種以上のものが適宜選択して用いられる。本発明の塩味強化剤中における上記各種添加剤の含有量は、添加剤の種類によって異なるが好ましくは99質量%以下、更に好ましくは、90質量%以下である。
液剤の形状に製剤化する場合は、液体に溶解または分散させることにより得られる。そのような液体としては、水、エタノール、プロピレングリコール等が挙げられる。本発明の塩味強化剤中における上記液体の含有量は、好ましくは99質量%以下、更に好ましくは90質量%以下である。
【0015】
なお、本発明の塩味強化剤にはより高い塩味増強効果を得るために、乳酸ナトリウム、及び/又は乳酸カリウムに加え、カルシウムイオン封鎖剤を含有するものであることが好ましい。
上記カルシウムイオン封鎖剤としては、第一リン酸ナトリウム、第一リン酸カリウム、第二リン酸ナトリウム、第二リン酸カリウム、第三リン酸ナトリウム、第三リン酸カリウム、トリポリリン酸ナトリウム、トリポリリン酸カリウム、ピロリン酸ナトリウム、ピロリン酸カリウム、クエン酸三ナトリウム、クエン酸三カリウム、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウムなどが挙げられ、これらのうちの1種又は2種以上を使用することができる。
上記カルシウムイオン封鎖剤の含有量は、物質の種類や塩味強化剤の使用対象となる食品の種類によっても適正量が異なるが、好ましくは乳酸ナトリウムと乳酸カリウムの合計量100質量部あたり、1〜5000質量部、更に好ましくは10〜1000質量部である。
【0016】
次に、本発明の食塩組成物について述べる。
本発明の食塩組成物は、塩化ナトリウム、及び上記塩味強化剤からなるものであり、従来の塩化ナトリウムのみからなる食塩と同等の味質を維持したまま塩味が強化された調味料である。
本発明の食塩組成物における、塩化ナトリウムと塩味強化剤の比率は、塩化ナトリウム100質量部に対し、塩味強化剤に含まれる乳酸ナトリウムと乳酸カリウムの合計量として、好ましくは0.0001〜1.5質量部、より好ましくは0.001〜0.5質量部、更に好ましくは0.002〜0.1質量部である。0.0001質量部未満では、塩味強化効果が認められ難く、1.5質量部を超えると、塩味強化効果も弱まると共に味質に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0017】
なお、本発明の食塩組成物は、塩化ナトリウム含量を減じる目的で、塩化ナトリウムの一部、好ましくは塩化ナトリウムの80質量%以下、より好ましくは60質量%以下を公知の塩化ナトリウム代替物に置換することができる。
該塩化ナトリウム代替物としては、塩化カリウム、有機酸のアルカリ金属塩などがあげられ、なかでも本発明の食塩組成物では、同等の味質と塩味を維持したまま、塩化ナトリウムをより多く置換することが可能である点で、塩化カリウムを使用することが好ましい。
【0018】
本発明の食塩組成物は、上記塩化ナトリウム及び上記塩味強化剤に加えて、抹茶・コーヒー等の風味素材、糖類、固結防止剤、ビタミン類、香料、香辛料、着色料、酸化防止剤、光沢剤などのその他の成分を含んでいてもよい。本発明の食塩組成物中におけるこれらのその他の成分の含有量は、好ましくは70質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。
【0019】
次に本発明の飲食品について述べる。
本発明の飲食品は、本発明の食塩組成物を含有する飲食品である。
本発明の飲食品における、本発明の食塩組成物の含有量は、特に限定されず、使用する飲食品や求める塩味の強さに応じて適宜決定される。
なお、本発明でいうところの飲食品としては、特に限定されるものではなく、一般に、塩化ナトリウムのみからなる食塩を使用する食品であれば問題なく使用することができ、例えば味噌、醤油、めんつゆ、たれ、だし、パスタソース、ドレッシング、マヨネーズ、トマトケチャツプ、ウスターソース、とんかつソース、ふりかけ、ハーブ塩、調味塩等の調味料、お吸い物の素、カレールウ、ホワイトソース、お茶漬けの素、スープの素等の即席調理食品、味噌汁、お吸い物、コンソメスープ、ポタージュスープ等のスープ類、ハム、ソーセージ、チーズ等の畜産加工品、かまぼこ、干物、塩辛、佃煮、珍味等の水産加工品、漬物等の野菜加工品、ポテトチップス、煎餅等の菓子スナック類、食パン、菓子パン、クッキー等のベーカリー食品類、煮物、揚げ物、焼き物、カレー、シチュー、グラタン、ごはん、おかゆ、おにぎり等の調理食品等があげられる。
なお、食塩を含有しない飲食品であっても、飲食時に食塩が含まれる食品であれば使用することができる。
【0020】
本発明の飲食品は、飲食品の味質を維持しながら塩化ナトリウム含量あたりの塩味が強化されているという特徴を有する。さらに、本発明の食塩組成物が、その塩化ナトリウムの一部を塩化カリウムで置換したものである場合は、塩化ナトリウム含量あたりの塩味がさらに強化されたものとすることができる。
換言すれば、本発明の食塩組成物を従来の飲食品に含まれる食塩を置換使用する場合、その添加量を減少させたとしても従来の飲食品と同等の塩味と同等の味質を有する飲食品とすることができ、減塩飲食品として極めて好ましく使用することができる。
【0021】
そのため、従来の単に塩化ナトリウム含量を減じただけの減塩飲食品や、塩化ナトリウムの一部又は全部を塩化ナトリウム代替品で置換した減塩飲食品に比べ、極めて味質が良好である減塩飲食品とすることができ、また、従来の塩味増強物質を使用して塩化ナトリウム含量を減じた減塩飲食品に比べ、塩化ナトリウム含量をさらに減じた減塩飲食品とすることができる。
なお、本発明において、減塩飲食品とは、通常の飲食品よりも塩化ナトリウム含量が10〜90質量%、好ましくは20〜80質量%、さらに好ましくは30〜70質量%減じた食品である。塩化ナトリウム含量を減じた割合が10質量%未満であると、減塩飲食品といえるほどの意味がなく、90質量%を超えて減ずると、本発明の食塩組成物によっても、同等の強さの塩味を得難くなってしまう。
【0022】
本発明の飲食品が減塩飲食品である場合、本発明の食塩組成物の含有量は、上記理由から塩化ナトリウム含量が通常の飲食品の含量に比べて、10〜90質量%、好ましくは20〜80質量%減じた量となるような含有量であることが好ましい。
なお、飲食品に本発明の食塩組成物を含有させる方法としては、飲食品の製造時又は飲食時に本発明の食塩組成物を添加する方法を主に用いることができる。具体的には、塩化ナトリウムと本発明の塩味強化剤をそれぞれ製造時又は飲食時に別に添加する方法、本発明の塩味強化剤を含有する飲食品に塩化ナトリウムを製造時又は飲食時に添加する方法、塩化ナトリウムを含有する飲食品に本発明の塩味強化剤を製造時又は飲食時に添加する方法などがあげられる。即ち、飲食品を飲食するまでの間に、飲食品中で好ましくは上記比率と含有量で塩化ナトリウムと本発明の塩味強化剤が飲食品中に含まれていればよい。
【0023】
次に、本発明の飲食品の塩味強化方法について述べる。
本発明の飲食品の塩味強化方法は、飲食品に対し上記本発明の塩味強化剤を添加するものであり、飲食品の味質を維持したまま塩味を強化するものである。
本発明の塩味強化剤の飲食品への添加量は、塩味強化剤に含まれる乳酸ナトリウムと乳酸カリウムの合計量として、飲食品100質量部に対して、0.0000001〜1質量部、好ましくは0.000001〜0.5質量部、更に好ましくは0.00002〜0.1質量部である。
【0024】
本発明の塩味強化方法では、最も良質の塩味が得られることから、添加する基となる飲食品は塩化ナトリウムを含有するものであることが好ましい。
その場合、本発明の塩味強化剤の飲食品への添加量は、塩味強化剤に含まれる乳酸ナトリウム、及び/又は乳酸カリウムとして、飲食品に含まれる塩化ナトリウム100質量部に対して、好ましくは0.0001〜1.5質量部、より好ましくは0.001〜0.5質量部、更に好ましくは0.002〜0.1質量部である。0.0001質量部未満、又は、1.5質量部を超えると、塩味強化効果が認められ難く、また1.5質量部を超えると、飲食品の味質に悪影響を与えるおそれがある。
なお、塩化ナトリウムを含有する飲食品に対する塩味強化剤の添加方法としては、飲食品の製造時に原料として添加する方法であっても、また塩化ナトリウムを含有する飲食品に添加・混合使用する方法でもどちらでも可能である。
【0025】
本発明の飲食品の塩味強化方法において、本発明の塩味強化剤は、飲食品の味質を変えることなく極少量の添加で塩味を強化することのできることから、従来の飲食品に含まれる塩化ナトリウム含有量を減少させたとしても、従来の飲食品と同等の強さの塩味と同等の味質を有する飲食品とすることができる。
即ち、本発明の塩味強化剤を添加する基となる飲食品は減塩飲食品であることが好ましい。なお、この場合、得られた飲食品もまた減塩飲食品である。
【0026】
具体的には、飲食品の製造時に添加する場合は、塩化ナトリウム含量を減じることで、本来うす味で美味しさに乏しい減塩飲食品となるところを、通常の塩化ナトリウム含量の飲食品と同等の強さの塩味と味質を有する飲食品とすることができる。
また、飲食品に添加する場合は、塩化ナトリウム含有量が少ないためにうす味で美味しさに乏しい減塩飲食品に対して使用することで、塩化ナトリウム含量が少ないにもかかわらず、通常の塩化ナトリウム含量の飲食品と同等の強さの塩味と味質を有する飲食品とすることができる。
さらに、本発明の飲食品の塩味強化方法において、塩化ナトリウムの一部を塩化カリウム等の食塩代替物に置換することで、さらに塩化ナトリウム含量も減じることも可能である。
【0027】
本発明の飲食品の塩味強化方法において、本発明の塩味強化剤を添加する基となる飲食品が減塩飲食品である場合、本発明の塩味強化剤の添加量は、飲食品に含まれる塩化ナトリウム100質量部に対し、塩味強化剤に含まれる乳酸ナトリウムと乳酸カリウムとの合計量として、好ましくは0.0001〜1.5質量部、より好ましくは0.001〜0.5質量部、さらに好ましくは0.002〜0.1質量部である。0.0001質量部未満、又は、1.5質量部を超えると、塩味強化効果が認められ難いため、うす味で美味しさに乏しい減塩飲食品となってしまうおそれがある。また1.5質量部を超えると、飲食品の味質に悪影響を与えるおそれがある。
【実施例】
【0028】
〔実施例1〜5〕塩味強化剤の製造
粉末乳酸ナトリウム(発酵乳酸NaパウダーS96/ピューラックジャパン(株)製)、50質量%乳酸ナトリウム水溶液(和光純薬工業(株)製)、80質量%乳酸カリウム水溶液(関東化学(株)製)、第一リン酸ナトリウム二水和物(食品添加物/関東化学(株)製)、水を用い、下記表1の配合で混合し、本発明の塩味強化剤A〜Eを得た。なお、それぞれの塩味強化剤中に占める乳酸ナトリウム含有量、乳酸カリウム含有量、及びリン酸1ナトリウム含有量、また乳酸ナトリウムと乳酸カリウムとの比についても表1に記載した。
【0029】
【表1】

【0030】
〔実験例1〕
上記塩味強化剤A〜Eを、塩化ナトリウム100質量部に対し、それぞれ乳酸ナトリウムと乳酸カリウムとを合計した含有量が、0.0001質量部、0.001質量部、0.01質量部、0.1質量部、1質量部、10質量部、20質量部となる量添加、混合して食塩組成物を製造し、下記の塩味強度・味質評価を行なった。
【0031】
<塩味強度・味質評価方法>
9人のパネラーに対し、上記実験例1で得られた食塩組成物と、対照として用意した塩化ナトリウム100質量%からなる食塩を舐めさせ、その塩味強度、味質について、下記パネラー評価基準により4段階評価させ、その合計点数について下記<評価基準>で5段階評価を行なった。それらの結果を塩味強度については表2に、味質については表3に記載した。
【0032】
<パネラーの塩味強度評価基準>
対照に比べあきらかに強化された塩味を感じる・・ 2点
対照に比べ若干強化された塩味を感じる・・・・・ 1点
対照とほぼ同じ程度の塩味を感じる・・・・・・・ 0点
対照より弱い塩味を感じる・・・・・・・・・・ −1点
【0033】
<パネラーの味質評価基準>
塩化ナトリウム以外の風味を全く感じない・・・・・・・・2点
塩化ナトリウム以外の風味を感じるが、塩味として違和感ない・・・・1点
塩化ナトリウム以外の風味を感じ、且つ塩味として違和感がある・・・0点
耐えがたい異味を感じる・・・・・・・・・−1点
【0034】
<評価基準>
◎ :9人のパネラーの合計点が 15〜18点
○ :9人のパネラーの合計点が 9〜14点
△ :9人のパネラーの合計点が 5〜 8点
× :9人のパネラーの合計点が 0〜 4点
××:9人のパネラーの合計点が 0点未満
【0035】
【表2】

【0036】
【表3】

【0037】
上記表2の結果より、塩化ナトリウム100質量部あたり、乳酸ナトリウムと乳酸カリウムを合計した含有量0.0001〜1質量部では塩味の増強効果が見られるが、10質量部では塩味の増強効果はみられず、塩味はほぼ塩化ナトリウムと同レベルとなることがわかる。また、上記表3の結果より、10質量部では塩味以外の風味が感じられる上に、塩味としての違和感が顕れるようになり、20質量部では耐え難い異味が感じられることがわかる。
即ち、乳酸ナトリウム及び/又は乳酸カリウムは、塩化ナトリウム代替品としては異味が感じられる点で不適であるが、塩味強化剤として極めて好適に使用できることがわかる。
なかでも、乳酸ナトリウムと乳酸カリウムの質量比が、100:0〜20:80の範囲内である塩味強化剤A、B、C、Eは、範囲外である塩味強化剤Dに比べ、少量の添加量でも塩味の増強効果が高く、特に100:0〜60:40の範囲内である塩味強化剤A、B、Eは、更に少量の添加量でも強い塩味の増強効果を有することがわかる。
【0038】
<食塩組成物、飲食品の製造・評価>
〔実施例6〕
塩化ナトリウム82質量部、塩味強化剤A0.0164質量部、L−グルタミン酸ナトリウム16質量部、コーンスターチ2質量部を混合し、押出し造粒し、塩化ナトリウム100質量部に対し、乳酸ナトリウムを0.02質量部含有する本発明の食塩組成物Aを得た。この食塩組成物Aと、黒ゴマを20:80の質量比で混合し、本発明の飲食品である、ふりかけ1を得た。一方、上記塩味強化剤A粉末乳酸ナトリウムを全く使用しない以外は、実施例6と同様の配合・製法で製造されたふりかけ2を対照として用意した。ここで、この2種のふりかけを比較試食したところ、本発明の飲食品であるふりかけ1は、塩味強化剤Aを使用しないふりかけ2より明らかに塩味が強いが、異味は全く感じられず、味質を変えないまま、塩味を強化されたものであった。
【0039】
〔実施例7〕
上記実施例6の食塩組成物Aにおける塩化ナトリウム82質量部を、塩化ナトリウム41質量部、塩化カリウム41質量部とした以外は上記実施例6と同様の配合・製法で本発明の食塩組成物Bを得た。この食塩組成物Bと、黒ゴマを20:80の質量比で混合し、本発明の減塩飲食品である、ふりかけ3を得た。ここで、実施例6で得られた上記ふりかけ1と比較試食したところ、本発明の減塩飲食品であるふりかけ3は、通常の塩化ナトリウム含量である、ふりかけ1とほぼ同等の強さの塩味であり、且つほぼ同等の味質であった。
【0040】
〔実施例8〕
塩化ナトリウム40質量部、塩味強化剤A0.004質量部、L-グルタミン酸ナトリウム20質量部、グラニュー糖20質量部、コーンスターチ15質量部、抹茶3質量部、昆布粉1質量部を混合し、押出し造粒し、塩化ナトリウム100質量部に対し乳酸ナトリウムとして0.01質量部含有する本発明の食塩組成物Cを得た。この食塩組成物C100質量部に対し、あられ40質量部、海苔3質量部を加えて混合し、本発明の飲食品であるお茶漬けの素1を得た。一方、上記塩味強化剤Aを全く使用しない以外は、同様の配合・製法で製造されたお茶漬けの素2を対照として用意した。ここで、この2種のお茶漬けの素を使用し、それぞれお茶漬けを作製し、比較試食したところ、本発明の飲食品であるお茶漬けの素1を使用したお茶漬けは、塩味強化剤Aを使用しないお茶漬けの素2を使用したお茶漬けより明らかに塩味が強いが、異味は全く感じられず、味質を変えないまま、塩味を強化させたものであった。
【0041】
〔実施例9〕
塩化ナトリウム100質量部に対し、粉末乳酸ナトリウム0.02質量部を添加して十分に混合し、塩化ナトリウム100質量部に対し、乳酸ナトリウムを0.02質量部含有する本発明の食塩組成物Dを得た。ジャガイモをスライスして菜種油でフライしたフライ品100質量部と、上記食塩組成物D1質量部を、袋に入れて振揺混合することで食塩組成物Dをフライ品に付着させ、本発明の飲食品であるポテトチップス1を製造した。一方、食塩組成物Dに代えて、塩化ナトリウム100質量%からなる食塩を使用した以外は同様の配合・製法で製造されたポテトチップス2を対照として用意した。この2種のポテトチップスを比較試食したところ、ポテトチップス2は塩味が弱く物足りない風味であったのに対し、本発明の減塩飲食品であるポテトチップス1は、ポテトチップス2に比べて明らかに塩味が強いが、異味は全く感じられず、味質を変えないまま、塩味を強化されたものであった。
【0042】
〔実施例10〕
中華の素(本格中華の素/株式会社エヌ・エスフーズ)5質量部と上記実施例9で得られた食塩組成物D0.3質量部に、お湯94.7質量部を加え、本発明の減塩飲食品であるラーメンのスープ1を作製した。一方、食塩組成物D0.3質量部を、塩化ナトリウム100質量%からなる食塩0.5質量部に変更した以外は同様の配合・製法で製造されたラーメンのスープ2を対照として用意した。この2種のラーメンのスープを比較試食したところ、本発明の減塩飲食品であるラーメンのスープ1は、通常の塩化ナトリウム含量である、ラーメンのスープ2とほぼ同等の強さの塩味であり、且つほぼ同等の味質であった。
【0043】
〔実施例11〕
白米100質量部に対し、実施例9で得られた食塩組成物Dを0.5質量部加え、さらに水を適量加え、炊飯し、本発明の減塩飲食品である塩飯1を得た。一方、食塩組成物D0.5質量部を、塩化ナトリウム100質量%からなる食塩0.9質量部に変更した以外は同様の配合・製法で製造された塩飯2を対照として用意した。ここで、この2種の塩飯を使用し、それぞれおにぎりを作製し、比較試食したところ、本発明の飲食品である塩飯1を使用したおにぎりは、通常の塩化ナトリウム含量である、塩飯2を使用したおにぎりとほぼ同等の強さの塩味であり、且つほぼ同等の味質であった。
【0044】
<飲食品の塩味強化方法・評価>
〔実施例12〕
減塩飲食品である減塩醤油(減塩しょうゆ/キッコーマン(株)、塩化ナトリウム含量8.11質量%)100質量部に対し、上記実施例1で得られた塩味強化剤Aを0.01質量部(食塩100質量部に対し乳酸ナトリウムとして約0.12質量部)添加し、十分に混合し、本発明の減塩飲食品である減塩醤油1を製造した。ここで、通常の塩化ナトリウム含量(塩化ナトリウム含量15質量%)の醤油を用意し、比較試食したところ、本発明の減塩飲食品である減塩醤油1は、通常の塩化ナトリウム含量の醤油とほぼ同等の塩味と味質を備えるものであった。
【0045】
〔実施例13〕
塩味強化剤Aに代えて実施例5で得られた塩味強化剤Eを使用した以外は、実施例12と同様の配合(食塩100質量部に対し乳酸ナトリウムとして約0.03質量部)・製法で、本発明の減塩飲食品である減塩醤油2を製造した。ここで、通常の塩化ナトリウム含量(塩化ナトリウム含量15質量%)の醤油を用意し、比較試食したところ、本発明の減塩飲食品である減塩醤油1は、実施例7で得られた減塩醤油1よりも更に通常の塩化ナトリウム含量の醤油に近い塩味と味質を備えるものであった。
【0046】
〔実施例14〕
減塩飲食品である減塩浅漬けの素(うす塩仕立て浅漬けの素まろやか塩味/エバラ食品工業株式会社、塩化ナトリウム含量5.7質量%)100質量部に対し、上記実施例1で使用した塩味強化剤Aを0.002質量部(食塩100質量部に対し乳酸ナトリウムとして0.035質量部)添加し、十分混合し、本発明の減塩飲食品である減塩浅漬けの素1を製造した。ここで、通常の塩化ナトリウム含量(塩化ナトリウム含量8.2質量%)の浅漬けの素(浅漬けの素/エバラ食品工業株式会社、塩化ナトリウム含量8.2質量%)を用意し、この2種の浅漬けの素を使用し、それぞれ野菜を漬けて比較試食したところ、本発明の減塩飲食品である減塩浅漬けの素1で漬けた野菜は、通常の塩化ナトリウム含量の浅漬けの素で漬けた野菜とほぼ同等の強さの塩味であり、且つほぼ同等の味質を備えるものであった。
【0047】
〔実施例15〕
減塩飲食品である減塩味噌(信州減塩 田舎みそ/宮坂醸造株式会社、塩化ナトリウム含量9.8質量%)100質量部に対し、上記実施例1で使用した塩味強化剤Aを0.004質量部(食塩100質量部に対し乳酸ナトリウムとして0.04質量部)添加し、十分混合し、本発明の減塩飲食品である減塩味噌1を製造した。ここで通常の塩化ナトリウム含量の味噌(塩化ナトリウム含量12.2質量%)を用意し、この2種の味噌を使用してそれぞれ味噌汁を作製し、比較試食したところ、本発明の減塩飲食品である減塩味噌1を使用した味噌汁は、通常の塩化ナトリウム含量の味噌汁とほぼ同等の強さの塩味であり、且つほぼ同等の味質であった。
【0048】
〔実施例16〕
減塩飲食品である減塩ウスターソース(ブルドック塩分50質量%カットウスターソース/ブルドックソース株式会社、塩化ナトリウム含量4.2質量%)100質量部に対し、上記実施例1で使用した塩味強化剤Aを0.004質量部添加し、十分混合し、本発明の減塩飲食品である減塩ウスターソース1を製造した。ここで通常の塩化ナトリウム含量のウスターソース(塩化ナトリウム含量8.4質量%)を用意し、それぞれ比較試食したところ、本発明の減塩飲食品であるウスターソース1は、通常の塩化ナトリウム含量のウスターソースとほぼ同等の強さの塩味であり、且つほぼ同等の味質であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸ナトリウム、及び/又は乳酸カリウムを有効成分として含有する塩味強化剤。
【請求項2】
カルシウムイオン封鎖剤をさらに含有することを特徴とする請求項1記載の塩味強化剤。
【請求項3】
塩化ナトリウムと請求項1又は2記載の塩味強化剤とからなることを特徴とする食塩組成物。
【請求項4】
塩化ナトリウムの一部を塩化カリウムで置換したことを特徴とする請求項3記載の食塩組成物。
【請求項5】
請求項3又は4記載の食塩組成物を含有する飲食品。
【請求項6】
減塩飲食品であることを特徴とする請求項5記載の飲食品。
【請求項7】
請求項1又は2記載の塩味強化剤を飲食品に添加することを特徴とする飲食品の塩味強化方法。
【請求項8】
飲食品が減塩飲食品であることを特徴とする請求項7記載の飲食品の塩味強化方法。

【公開番号】特開2008−54661(P2008−54661A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−160731(P2007−160731)
【出願日】平成19年6月18日(2007.6.18)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】