説明

増幅器

【課題】直線性が良く、低歪みで且つ高効率の増幅器を提供することを目的とする。
【解決手段】AB級で動作するキャリア増幅回路4とピーク増幅回路5を合成する増幅器において、前記増幅器4、5の出力から任意の長さの伝送線路を経由して伝送線路の終端部を合成し、任意の閾値以下の低入力時はピーク増幅回路5をC級とし、任意の閾値以上の高入力時はキャリア増幅回路4と同程度アイドル電流の多いAB級で動作させ、低入力時から高入力時の間ではC級からアイドル電流の少ないAB級を経てアイドル電流の多いAB級で動作させる。また、ピーク増幅回路5の前段に可変減衰器34を設け、前記入力レベルに応じて可変減衰器34の減衰量を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、増幅器に係り、特に従来のドハティ増幅器では整合が困難な増幅素子等を用いたときの性能を改善した増幅器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、CDMA信号やマルチキャリア信号のような無線周波信号を電力増幅する場合、共通増幅器に歪補償手段を付加し、共通増幅器の動作範囲を飽和領域付近まで広げることで低消費電力化を図っていた。歪補償手段として、フィードフォワード歪補償やプリディストーション歪補償などがあるが、歪補償だけでは低消費電力化に限界が近づいている。そのため近年、高効率増幅器としてドハティ(Doherty)増幅器が注目されている。
【0003】
図5は従来のドハティ増幅器の構成図である。
入力端子1から入力された信号は、分配器2で分配され、一方の分配信号はキャリア増幅回路4に入力される。キャリア増幅回路4は、増幅素子42の入力側と整合を取る入力整合回路41と、増幅素子42と、該増幅素子42の出力側と整合を取る出力整合回路43から構成されている。キャリア増幅回路4の出力は、λ/4変成器61でインピーダンス変換される。
【0004】
また、分配器2で分配されたもう一方の信号は、移相器3で位相が90度遅延されてピーク増幅回路5に入力される。ピーク増幅回路5は、キャリア増幅回路4と同様に、入力整合回路51と、増幅素子52と、出力整合回路53から構成されている。
【0005】
λ/4変成器61及びピーク増幅回路5の出力は、ノード(合成点)62において合成される。ノード62において合成された信号は、出力負荷Zに整合するため、λ/4変成器7でインピーダンス変換される。λ/4変成器61とノード62とを合わせて、ドハティ合成部6と呼ぶ。上記λ/4変成器7の出力は、出力端子8を介して負荷9に接続される。λ/4変成器7は、ノード62から見たインピーダンスZを出力負荷Zに変換する。
【0006】
上記キャリア増幅回路4とピーク増幅回路5は、増幅素子42がAB級にバイアスされ、増幅素子52がB又はC級にバイアスされている点で異なる。そのため、増幅素子52が動作する入力までは増幅素子42は単独で動作し、増幅素子42が飽和領域に入り、その線形性が崩れ始めると、増幅素子52が動作し始め、増幅素子52の出力が負荷9に供給され、増幅素子42とともに負荷9を駆動する。このとき出力整合回路43の負荷線は、高い抵抗から低い抵抗へ移動するが、増幅素子42は飽和領域にあるので効率は良い。
【0007】
そして、入力端子1からの入力が更に増加すると、増幅素子52も飽和し始めるが、増幅素子42、52ともに飽和しているので、このときも効率は良い。
【0008】
図6は、図5のドハティ増幅器における理論上のコレクタ効率ないしドレイン効率を示す図である。なお、ここでいうコレクタ効率とは、コレクタに印加される電源の電圧(直流)とその電源から供給される電流(直流)の積に対する、コレクタから取り出せる無線周波出力電力の割合の意味であり、ドレイン効率についても同様である。
【0009】
図6の横軸はバックオフであり、増幅素子42、52の両方が飽和する最小の入力端子1への入力レベル、即ちコンプレッションポイントを0dBとし、入力レベルがコンプレッションポイントに対しどれだけ余裕があるかを示す数値である。
【0010】
図6において、実線は簡単なモデルにおけるドハティ増幅器の効率を示し、破線は一般的なB級増幅器の効率を示している。
【0011】
入力レベルが小さく、バックオフが6dB以上の区間Aにあるときは、基本的にキャリア増幅回路4のみ動作する。バックオフが6dBになる付近でキャリア増幅回路4は飽和し始め、効率はB級増幅器の最大効率付近まで達する。ドハティ増幅器の最大出力をPとすると、このときキャリア増幅回路4の出力は約P/4である。
【0012】
バックオフが6dB以下の区間Bでは、入力レベルが増加するに従い、キャリア増幅回路4の出力は約P/4からP/2へ増加し、ピーク増幅回路5の出力はほぼ0からP/2へ増加する。このときキャリア増幅回路4及びピーク増幅回路5の出力電力の和は、入力端子1への入力電力に対し、区間Aのときと同じ比例定数で比例する。ピーク増幅回路5が動作し始めると効率は一旦低下するが、ピーク増幅回路5も飽和し始めるコンプレッション点で再びピークを迎える。コンプレッション点において、キャリア増幅回路4とピーク増幅回路5の出力は等しくなる。
【0013】
一般に、CDMA信号やマルチキャリア信号は高いピークファクタ、すなわちピーク電力と平均電力の比を有するが、通常の増幅器では7〜12dBのピークファクタに対応できるように、コンプレッション点からその分を下げた点を動作点としている。
【0014】
図5に戻り、各部のインピーダンスを説明する。出力負荷Zは一定に規定されているので、これを起点とする。ノード62からλ/4変成器7をみたインピーダンスZは、λ/4変成器7の特性インピーダンスをZとすると、
=Z/Z
となる。
【0015】
出力整合回路43からλ/4変成器61をみたインピーダンスZは、A区間においては出力整合回路53の出力インピーダンスが実質的に無限大となるために上記と同様に求まり、入力信号レベルが大きいC区間においては負荷を等しく分担するため、λ/4変成器61の負荷インピーダンス(ノード62での増幅回路4の寄与分)と出力整合回路53の負荷インピーダンスがそれぞれ2Zとなるので、
【数1】

【0016】
【数2】

【0017】
となる。ただし、Zは、λ/4変成器61の特性インピーダンスである。インピーダンスZ及びZは、B区間ではA区間の時の値とC区間の時の値との間をそれぞれ遷移する。
【0018】
従来のドハティ増幅器では、半導体の増幅素子を用いて周波数の高い領域に応用した場合、増幅素子から見たインピーダンスをドハティ理論に合致させることが困難である。これは増幅素子42から見た負荷線が出力整合回路43の挙動により変化するためである。
【0019】
このような問題を解決するために本出願人は、先に特願2004−322092にて増幅器を出願した。この増幅器は、図7に示す構成を有している。すなわち、上記図5に示したドハティ増幅器におけるλ/4変成器61を任意の電気長の伝送線路からなるインピーダンス変換器64に置き換えると共に移相器3を移相器33に置き換え、更に、ピーク増幅回路5とノード(合成点)62との間にインピーダンス変換器65を設けたものである。
【0020】
上記ノード62は、出力整合回路43及び53からの出力信号をインピーダンス変換器64とインピーダンス変換器65を介して結合する。
インピーダンス変換器64は、長さl=0〜λ/2或いは以上の電気長を有する伝送線路からなり、その特性インピーダンスZは2Z=2Z/Zに等しい。
インピーダンス変換器65は、例えばインピーダンス変換器64と同様の任意長の伝送線路からなり、入力が低く増幅素子52が動作していないときキャリア増幅回路4の信号が流れないように、出力整合回路53の出力インピーダンスZ20を、より大きなインピーダンスZ21に変換する。
【0021】
移相器33は、インピーダンス変換器65と同じ位相回転(遅延)を発生するもので、インピーダンス変換器64の影響やキャリア増幅回路4とピーク増幅回路5の位相が異なったときに位相調整を行なう。その他の構成は、定数等の違いはあるものの図5に示した増幅器と基本的に同じである。当然位相状態により移相器33はキャリア増幅回路系に入れる場合もある。
【0022】
上記増幅器によれば、従来の出力整合回路53の出力インピーダンスが、入力レベルが小さいときに十分大きくならず、キャリア増幅回路4の損失の原因となる場合があったのに対し、通常の出力整合回路53でもノード62側からみたインピーダンスZ21をより大きな値とすることができるので、キャリア増幅回路4の損失を抑えて高効率な増幅器を得ることができる。
【0023】
しかし、歪に関してはAB級増幅器より劣ってしまう。これは図7におけるC級増幅器をAB級増幅器に変えたものと比較すると、図7に示す高効率形はピーク増幅回路5が動作していない状態では3dBも高いレベルでAB級を使用しているので歪特性が悪くなり、また、歪特性の悪いC級を付加して出力電力を加算することにより歪が増加してしまうという問題がある。
【0024】
例えば歪の特性を示すAM−AM(入力振幅レベル対出力振幅レベル)特性、AM−PM(入力振幅レベル対出力位相回転量)特性を比較すると、図8(a)、(b)のようになる。このデータは同一素子を使用し、AB級合成と高効率合成した同じ出力の増幅器を比較している。図8(a)はAM−AM特性を比較して示したもので、横軸に入力、縦軸に利得(ゲイン)を取って示した。また、図8(b)はAM−PM特性を比較して示したもので、横軸に入力、縦軸に位相を取って示した。図8(a)、(b)に示した実線aはAB級増幅器を用いて合成した場合の特性、破線bは高効率増幅器を用いて合成した場合の特性である。上記図8の特性から明らかなようにAB級増幅器を用いた方が直線性が良い。
【0025】
また、従来、ドハティ増幅器において、ピーキング増幅器のバイアスを制御させ、低電力モードでは増幅素子をオフし、高電力モードではAB級動作となるようにしたものがある(例えば、特許文献1、2参照。)。しかし、この種のドハティ増幅器は、特性の詳細について記載されていないが、図9に示したAM−AM特性になるものと想定される。
【0026】
図9において、実線aはバイアス制御を行なった場合の特性、破線bはバイアス制御を行なわない一般的なドハティ増幅器の特性を示している。バイアス制御を行なったドハティ増幅器では、ピーキング増幅器が動作しないオフ領域ではスプリッタ(分配器)により3dBの損失が発生し、高電力モードになってピーキング増幅器がAB級になった場合は分配損失がない通常のAB合成方式になるので利得が3dB上昇する。従って、上記のようにバイアス制御を行なった従来のドハティ増幅器は、AM−AM特性が悪いと考えられる。実際はキャリア増幅回路の負荷が変わることにより、3dBの利得上昇はないが、ここでは説明容易のため3dBとした。
【特許文献1】特開2004−173231号公報
【特許文献2】特開2004−96729号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
従来のドハティ増幅器では、半導体の増幅素子を用いて周波数の高い領域に応用した場合、増幅素子から見たインピーダンスをドハティ理論に合致させることが困難であった。また、従来のドハティ増幅器を改良して高効率な増幅器を構成した場合、極めて高効率な増幅器を得ることができるが、歪み特性が劣化するという問題があった。
【0028】
本発明は上記の課題を解決するためになされたもので、直線性の良い低歪みで且つ高効率の増幅器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0029】
第1の発明は、AB級で動作するキャリア増幅回路とピーク増幅回路の出力を合成して出力とする増幅器において、前記キャリア増幅回路と前記ピーク増幅回路の出力を任意の長さの伝送線路を経由して合成する合成手段と、前記ピーク増幅回路のバイアスを制御するバイアス制御手段と、前記ピーク増幅回路の前段に設けられる可変減衰器と、前記可変減衰器を入力信号のレベルに応じて制御する減衰器制御手段とを具備し、前記ピーク増幅回路のバイアス制御手段は、第1の閾値以下の低入力時はピーク増幅回路をC級とし、第2の閾値以上の高入力時はアイドル電流の多いAB級で動作させ、前記第1の閾値から第2の閾値までの信号入力時はC級からアイドル電流の少ないAB級を経てアイドル電流の多いAB級で動作させることを特徴とする。
【0030】
第2の発明は、前記第1の発明に係る増幅器において、前記キャリア増幅回路の前段に設けられて入力信号をAB級で増幅する第1のプリアンプと、前記ピーク増幅回路の前段に設けられて入力信号を増幅する第2のプリアンプと、前記第2のプリアンプに対し、第1の閾値以下の低入力時はC級とし、第2の閾値以上の高入力時はアイドル電流の多いAB級で動作させ、前記第1の閾値から第2の閾値までの信号入力時はC級からアイドル電流の少ないAB級を経てアイドル電流の多いAB級で動作させるバイアス制御手段とを具備することを特徴とする。
【0031】
第3の発明は、AB級で動作するキャリア増幅回路とピーク増幅回路の出力を合成して出力とする増幅器において、前記キャリア増幅回路と前記ピーク増幅回路の出力を任意の長さの伝送線路を経由して合成する合成手段と、前記ピーク増幅回路のバイアスを制御するバイアス制御手段と、入力信号を前記キャリア増幅回路とピーク増幅回路に分配する分配器と、前記分配器の前段に設けられ、入力信号をAB級で増幅するプリアンプと、前記分配器の前段に設けられる可変減衰器と、前記可変減衰器を入力信号のレベルに応じて制御する減衰器制御手段とを具備し、前記ピーク増幅回路のバイアス制御手段は、第1の閾値以下の低入力時はピーク増幅回路をC級とし、第2の閾値以上の高入力時はアイドル電流の多いAB級で動作させ、前記第1の閾値から第2の閾値までの信号入力時はC級からアイドル電流の少ないAB級を経てアイドル電流の多いAB級で動作させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、AB級で動作するキャリア増幅回路とピーク増幅回路の出力を合成して出力とする増幅器において、入力レベルが小さいときはピーク増幅回路をC級としてキャリア増幅回路のみ動作させ、入力が大きくなりピーク注入が必要になるとピーク増幅回路のバイアスをC級からアイドル電流の少ないAB級に変え、入力の増大とともにバイアス電流を増加し、且つピーク増幅回路をAB級にすることによる利得の増加分をピーク増幅回路の前段等に設けた可変減衰器で減衰させることにより、直線性の良い低歪みで且つ高効率の増幅器を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
【0034】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る増幅器の構成を示すブロック図である。
図1において、1は入力端子、前段回路からの信号が入力される。入力端子1に入力された信号は、結合器11へ送られ、入力レベル情報用端子11aと信号増幅用端子11bに分けられる。結合器11の入力レベル情報用端子11aから出力される信号は、入力レベル検知器12に入力される。この入力レベル検知器としては、例えば検波器が使用される。上記入力レベル検知器12により検知された入力レベルは、レベルシフタ13、14に入力される。
【0035】
また、上記結合器11の信号増幅用端子11bから出力される信号は、遅延線15を経由して分配器2に入力される。分配器2は、例えば配線板上に形成されたT分岐ライン、3dBカプラ、あるいは不等分配器等である。
【0036】
分配器2で分配された一方の信号は、キャリア増幅回路4に入力されて増幅された後、インピーダンス変換器64を介して取り出される。
キャリア増幅回路4は、増幅素子42の入力側と整合を取る入力整合回路41と、増幅素子42と、増幅素子42の出力側と整合を取る出力整合回路から構成される。入力整合回路41は、分配器2で分配された信号のインピーダンスを後段の増幅素子42の入力インピーダンスに変換する。増幅素子42はAB級にバイアスされて信号を増幅する。出力整合回路43は、増幅素子42と、該増幅素子42の出力側との整合をとる。
【0037】
上記分配器2で分配されたもう一方の信号は、移相器33及び可変減衰器34を介してピーク増幅回路5に入力される。
移相器33は原理的にインピーダンス変換器64に相当する遅延を発生する伝送線路である。移相器33は合成を同相で行なうためのものであり、キャリア増幅回路4、ピーク増幅回路5の可変減衰器34の位相差も吸収しなければならないので、挿入位置はキャリア増幅器4系に入れる場合もある。可変減衰器34には、上記入力レベル検知器12からレベルシフタ13を介して減衰量調整信号が入力される。
【0038】
ピーク増幅回路5は、キャリア増幅回路4と同様に、入力整合回路51と、増幅素子52と、出力整合回路53から構成されている。
入力整合回路51は、分配器2で分配された信号のインピーダンスを、後段の増幅素子52の入力インピーダンスに変換する。上記増幅素子42、52としては、通常、LD−MOS(Lateral Double-diffused MOS)、GaAs−FET、HEMT、HBT等の半導体デバイスが用いられる。増幅素子52には、入力レベル検知器12の検知出力がレベルシフタ14を介してバイアス信号として入力され、AB級またはC級にバイアスされて信号を増幅する。
【0039】
増幅素子52は、入力が低いときはC級増幅器として動作し、入力が中間になりピーク注入が必要なレベルになると、レベルシフタ14からアイドル電流の少ないAB級用のバイアスゲート電圧が供給され、更に入力が増えるに従ってアイドル電流の多いAB級に遷移する。
出力整合回路53の負荷インピーダンスはA区間においては∞で、C区間においてはZである。
【0040】
上記キャリア増幅回路4及びピーク増幅回路5において、入力整合回路41、51及び出力整合回路43、53は、集中定数回路、分布定数回路、或いはそれらの組み合わせのいずれで構成されても良い。また出力整合回路43、53は、実装上避けられないストレーキャパシタンスやインダクタンス等を含んでも良い。
【0041】
上記ピーク増幅回路5で増幅された信号は、インピーダンス変換器65を介して取り出され、キャリア増幅回路4からインピーダンス変換器64を介して取り出される信号とノード(合成点)62において合成される。
【0042】
インピーダンス変換器64は、長さl=0〜λ/2以上の電気長を有する伝送線路からなり、その特性インピーダンスZは、2Z=2Z/Zに等しい。
インピーダンス変換器65は、長さl=0〜λ/2以上の電気長を有する伝送線路からなり、ピーク増幅器が動作する前の出力インピーダンスZ20をZ21に大きく変換する作用を有する。
【0043】
ノード(合成点)62は、インピーダンス変換器64や65の伝送線路が0λの時はその構造は配線板上で単に接続されるものである。
【0044】
インピーダンス変換器64、65で合成された信号は、λ/4変成器7及び出力端子8を介して負荷9に出力される。λ/4変成器7は、ノード62から見たインピーダンスZを出力負荷Zに変換する。λ/4変成器7は、その特性インピーダンスZに相当する線幅、及びλ/4に相当する長さを有する導体パターンとして配線板上に形成させても良い。λ/4変成器7を用いることにより比較的広い周波数範囲で整合が取れるが、整合さえ取れればλ/4変成器7以外の整合手段を用いても良い。
【0045】
なお、上記結合器11と分配器2との間に設けた遅延線15は、結合器11の入力レベル情報用端子11aから出力される信号により制御する可変減衰器34やピーク増幅回路5への制御電圧と、結合器11の信号増幅用端子11bから可変減衰器34及びピーク増幅回路5に入力される信号の時間を一致させるためである。
【0046】
上記のように構成された増幅器において、入力端子1に入力された信号は、結合器11で入力レベル情報用端子11aと信号増幅用端子11bに分配されて出力される。結合器11の入力レベル情報用端子11aより出力される信号は、入力レベル検知器12で信号レベルが検知され、レベルシフタ13、14で必要な電圧に変換されて可変減衰器34の制御端子及びピーク増幅回路5における増幅素子52の制御端子に供給される。これにより可変減衰器34の減衰量が制御されると共に、増幅素子52の動作レベルが制御される。
【0047】
また、上記結合器11の信号増幅用端子11bから出力される信号は、遅延線15を介して分配器2へ送られて2分配される。分配器2で分配された一方の信号は、キャリア増幅回路4へ送られて増幅される。このキャリア増幅回路4は、入力信号のレベルに拘わらず、常にAB級増幅器として動作する。
【0048】
また、分配器2で分配された他方の信号は、移相器33で位相が調整され、可変減衰器34でレベルが調整されてピーク増幅回路5へ送られる。このピーク増幅回路5は、レベルシフタ14から出力されるバイアスゲート電圧に応じてC級増幅器あるいはAB級増幅器として動作する。
【0049】
すなわち、ピーク増幅回路5は、入力信号のレベルが任意の閾値以下のときはC級増幅器となり、カットオフの状態となる。そして、入力信号のレベルが中間になり、ピーク注入が必要なレベルになると、入力レベル検知器12で検出された入力レベル情報からレベルシフタ14で軽いAB級用のバイアスゲート電圧がピーク増幅回路5に供給される。従って、ピーク増幅回路5は、アイドル電流の少ないAB級増幅器として動作する。また、利得増加に伴うレベル補正を行なうため、入力レベル検知器12により検知された入力レベル情報からレベルシフタ13で可変減衰器34の減衰量を変化させる。更に入力信号のレベルが大きくなる従い、ピーク増幅回路5はアイドル電流の少ないAB級からアイドル電流の多いAB級に遷移する。上記のようにピーク増幅回路5は、任意の閾値以下の低入力時はC級にバイアスしてカットオフの状態とし、任意の閾値以上の高入力時はアイドル電流の多いAB級で動作させ、低入力時から高入力時の間ではC級からアイドル電流の少ないAB級へ、そしてアイドル電流の多いAB級で動作させている。
【0050】
そして、上記ピーク増幅回路5で増幅された信号は、インピーダンス変換器65を介して出力され、キャリア増幅回路4からインピーダンス変換器64を介して出力される信号と、ノード62において合成される。合成された信号は、出力負荷Zに整合するため、λ/4変成器7でインピーダンス変換され、出力端子8を介して負荷9に出力される。
【0051】
上記のように予め設定される任意の閾値以下の低入力時はピーク増幅回路5をC級動作、すなわちピーク増幅回路5をオフしてキャリア増幅回路4のみ動作させ、入力が大きくなりピーク注入が必要になるとピーク増幅回路5のバイアスをC級からアイドル電流の少ないAB級に変え、入力の増大とともにバイアス電流を増加し、且つピーク増幅回路5をAB級にすることによる利得の増加分をピーク増幅回路5の前段に設けた可変減衰器34で減衰させて直線性の良い低歪みな高効率増幅器としている。
【0052】
従って、上記第1実施形態に係る増幅器のAM−AM特性は図2のようになり、利得特性は平坦になり歪は大幅に低下する。図中の実線aは増幅素子52に対するバイアス制御及び可変減衰器34による信号レベル制御を行なった場合の特性を示し、破線bは増幅素子52に対するバイアス制御のみを行なった場合の特性を示している。
【0053】
また、AM−PM特性は、図示しないが上記AM−AM特性と同様に改善されたものとなり、平坦な特性を得ることができた。
【0054】
なお、上記第1実施形態では、入力端子1に入力された信号を結合器11で入力レベル検知器12に分配して検出するようにしたが、その他、入力信号と等価な例えばキャリア増幅回路4の入力電流を検出するようにしても良い。
【0055】
(第2実施形態)
次に本発明の第2実施形態に係る増幅器について説明する。
図3は、本発明の第2実施形態に係る増幅器の構成を示すブロック図である。
【0056】
この第2実施形態に係る増幅器は、第1実施形態に係る増幅器(図1参照)において、キャリア増幅回路4の入力にAB級で動作するプリアンプ44を挿入すると共に、ピーク増幅回路5の入力にプリアンプ54を挿入したものである。この場合、入力レベル検知器12で検知された信号をレベルシフタ16によりバイアスゲート電圧に変換してプリアンプ54のゲートに入力し、該プリアンプ54をC級からAB級に移行するように制御する。その他の構成は、第1実施形態に係る増幅器と同様の構成であるので、同一部分には同一符号を付して詳細な説明は省略する。
【0057】
上記プリアンプ54は、レベルシフタ16によりバイアスを制御し、ピーク増幅回路5と同様に入力レベルに応じてC級からAB級に移行させる。すなわち、プリアンプ54は、任意の閾値以下の低入力時はC級にバイアスし、任意の閾値以上の高入力時はアイドル電流の多いAB級で動作させ、低入力時から高入力時の間ではC級からアイドル電流の少ないAB級を経てアイドル電流の多いAB級で動作させる。そして、プリアンプ54及びピーク増幅回路5をAB級にすることによる利得の増加分を可変減衰器34で減衰させて直線性の良い低歪みな増幅特性を得ている。
【0058】
上記のようにプリアンプ44、54を挿入することにより、消費電力の少ない可変減衰器34を構成できると共に、分配器2で損失する絶対値を少なくでき、更に高効率とすることができる。
なお、上記第2実施形態において、プリアンプ44、54は多段構成としても良い。又プリアンプ54はAB級の固定バイアスでも良い。プリアンプ44、54を挿入して多段にすることにより遅延線15を短くできる利点もある。
【0059】
(第3実施形態)
次に本発明の第3実施形態に係る増幅器について説明する。
図4は、本発明の第3実施形態に係る増幅器の構成を示すブロック図である。
この第3実施形態に係る増幅器は、上記第1実施形態に係る増幅器において、遅延線15と分配器2との間に可変減衰器21及びAB級で動作するプリアンプ22を挿入し、入力レベル検知器12で検知された信号を制御電圧用レベルシフタ13により制御電圧に変換して可変減衰器21に入力するようにしたものである。この場合、第1実施形態における可変減衰器34は設けていない。その他の構成は、第1実施形態に係る増幅器と同様の構成であるので、同一部分には同一符号を付して詳細な説明は省略する。
【0060】
上記の構成において、入力端子1に入力された信号は、結合器11で入力レベル情報用端子11aと信号増幅用端子11bに分けられる。上記結合器11の信号増幅用端子11bから出力される信号は、遅延線15及び可変減衰器21を経由してプリアンプ22に入力されて増幅される。プリアンプ22で増幅された信号は、分配器2により2分配され、その一方の分配信号はキャリア増幅回路4に送られてAB級で増幅される。また、分配器2で分配された他方の信号は、移相器33を介してピーク増幅回路5に入力される。
【0061】
一方、上記結合器11の入力レベル情報用端子11aより出力される信号は、入力レベル検知器12でレベルが検知され、レベルシフタ13、14で必要な電圧に変換されて可変減衰器21及び増幅素子52に入力される。
【0062】
上記ピーク増幅回路5は、入力信号が小さいときはC級増幅器として動作する。このC級増幅ではカットオフの状態になる。上記ピーク増幅回路5は、入力信号のレベルが増加するに従ってC級からアイドル電流の少ないAB級を経てアイドル電流の多いAB級に遷移する。
【0063】
そして、入力信号が増加してピーク注入が必要なレベルになると、入力レベル検知器12で検知された入力レベル情報に基づいてレベルシフタ14から軽いAB級用のバイアスゲート電圧を増幅素子52に供給し、更に利得増加に伴う補正をするため、レベルシフタ13の出力により可変減衰器21の減衰量を増大させる。
【0064】
従って、第1実施形態と同様にAM−AM特性は図2に示したようになり、ゲイン特性が平坦になると共に歪は大幅に低下する。AM−PM特性は図示しないが同様に改善される。
【0065】
上記第3実施形態で示したように分配器2の前段にプリアンプ22を挿入することにより、小信号から増幅できることになる。なお、プリアンプ22は、多段に構成しても良い。また、上記プリアンプ22は周波数変換部や帯域制限フィルタなど含んでも良い。その場合、入力はIF(中間周波信号)となり、自由度が増加する。図示しないが、キャリア増幅回路4やピーク増幅回路5の前段にプリアンプを設けても良い。プリアンプを挿入することにより遅延線を短くすることができる。
【0066】
なお、上記実施形態では、すべてアナログ動作で説明したが、結合器11、入力レベル検知器12、レベルシフタ13、14、遅延線15、可変減衰器21などデジタル信号で処理できる部分はアナログ回路である必要はない。例えば本増幅器を歪補償DPD(Digital pre-distortion)などと組み合わせて使用する場合は、入力レベル検知器12、可変減衰器21はDPDで使用する機能を流用できる。また、レベルシフタ13、14、16の代わりにDPD部で得られた任意の電圧をDA変換して供給することもできる。
【0067】
要するに本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の第1実施形態に係る増幅器の構成を示すブロック図である。
【図2】同実施形態におけるAM−AM特性を示す図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係る増幅器の構成を示すブロック図である。
【図4】本発明の第3実施形態に係る増幅器の構成を示すブロック図である。
【図5】従来のドハティ増幅器の構成を示すブロック図である。
【図6】従来のドハティ増幅器における理論上のコレクタ効率ないしドレイン効率を示す図である。
【図7】本出願人が先に出願した増幅器の構成を示すブロック図である。
【図8】(a)は図7に示した増幅器のAM−AM特性を示す図、(b)は同AM−PM特性を示す図である。
【図9】従来のバイアス制御機能を備えたドハティ増幅器のAM−AM特性を示す図である。
【符号の説明】
【0069】
1…入力端子、2…分配器、3…移相器、4…キャリア増幅回路、4、5…増幅器、5…ピーク増幅回路、6…ドハティ合成部、7…変成器、8…出力端子、9…負荷、11…結合器、11a…入力レベル情報用端子、11b…信号増幅用端子、12…入力レベル検知器、13、14…レベルシフタ、15…遅延線、16…レベルシフタ、21…可変減衰器、22…プリアンプ、33…移相器、34…可変減衰器、41…入力整合回路、42…増幅素子、42…増幅素子、43…出力整合回路、44…プリアンプ、51…入力整合回路、52…増幅素子、53…出力整合回路、54…プリアンプ、61…変成器、62…ノード、64、65…インピーダンス変換器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
AB級で動作するキャリア増幅回路とピーク増幅回路の出力を合成して出力とする増幅器において、
前記キャリア増幅回路と前記ピーク増幅回路の出力を任意の長さの伝送線路を経由して合成する合成手段と、
前記ピーク増幅回路のバイアスを制御するバイアス制御手段と、
前記ピーク増幅回路の前段に設けられる可変減衰器と、
前記可変減衰器を入力信号のレベルに応じて制御する減衰器制御手段とを具備し、
前記ピーク増幅回路のバイアス制御手段は、第1の閾値以下の低入力時はピーク増幅回路をC級とし、第2の閾値以上の高入力時はアイドル電流の多いAB級で動作させ、前記第1の閾値から第2の閾値までの信号入力時はC級からアイドル電流の少ないAB級を経てアイドル電流の多いAB級で動作させることを特徴とする増幅器。
【請求項2】
前記キャリア増幅回路の前段に設けられて入力信号をAB級で増幅する第1のプリアンプと、
前記ピーク増幅回路の前段に設けられて入力信号を増幅する第2のプリアンプと、
前記第2のプリアンプに対し、第1の閾値以下の低入力時はC級とし、第2の閾値以上の高入力時はアイドル電流の多いAB級で動作させ、前記第1の閾値から第2の閾値までの信号入力時はC級からアイドル電流の少ないAB級を経てアイドル電流の多いAB級で動作させるバイアス制御手段とを具備することを特徴とする請求項1に記載の増幅器。
【請求項3】
AB級で動作するキャリア増幅回路とピーク増幅回路の出力を合成して出力とする増幅器において、
前記キャリア増幅回路と前記ピーク増幅回路の出力を任意の長さの伝送線路を経由して合成する合成手段と、
前記ピーク増幅回路のバイアスを制御するバイアス制御手段と、
入力信号を前記キャリア増幅回路とピーク増幅回路に分配する分配器と、
前記分配器の前段に設けられ、入力信号をAB級で増幅するプリアンプと、
前記分配器の前段に設けられる可変減衰器と、
前記可変減衰器を入力信号のレベルに応じて制御する減衰器制御手段とを具備し、
前記ピーク増幅回路のバイアス制御手段は、第1の閾値以下の低入力時はピーク増幅回路をC級とし、第2の閾値以上の高入力時はアイドル電流の多いAB級で動作させ、前記第1の閾値から第2の閾値までの信号入力時はC級からアイドル電流の少ないAB級を経てアイドル電流の多いAB級で動作させることを特徴とする増幅器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−116259(P2007−116259A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−303093(P2005−303093)
【出願日】平成17年10月18日(2005.10.18)
【出願人】(000001122)株式会社日立国際電気 (5,007)
【Fターム(参考)】