説明

増幅装置

【課題】ピーク信号の電力および位相を最適化できるようにして、ドハティ増幅装置の生産性、リニアリティおよび効率を改善する。
【解決手段】ドハティ増幅装置を改良した増幅装置2においては、減衰器242および移相器244によるピーク信号の位相および電力の最適に調整される。この最適化の結果、キャリア増幅部22およびピーク増幅部24において生じるキャリア信号と、ピーク信号との位相差が解消されるので、高効率で、しかも、リニアリティよく、無線信号を増幅できるようになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、高周波用の線形電力増幅装置に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1は、高周波入力信号のキャリア信号とピーク信号とを分離して増幅し、増幅したこれらの信号を合成して出力するドハティ増幅装置を開示する。
特許文献1は、出力電力に応じて増幅装置のアイドル電流を調整するようになされたドハティ増幅装置を開示する。
また、特許文献2は、入力信号の歪みを補償する前置歪み補償回路と、ピーク信号の歪みを補償する前置歪み補償回路とを有するドハティ増幅装置を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−116259号公報
【特許文献2】特開2006−319533号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】W.H.Doherty "A New High Efficiency Power Amplifier for Modu1ated Waves", Proc. IRE, Vo1. 24, No.9, Sept, 1936
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願発明は、上述の背景からなされたものであって、ドハーティ増幅装置を改良し、より高い生産性、高いリニアリティおよび高い効率の増幅装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本願にかかる増幅装置は、増幅の対象として入力される入力信号に対して、この入力信号のピーク部分を増幅するために用いられるピーク信号と、この入力信号の全部を増幅するために用いられるキャリア信号とを増幅し、増幅されたこれらの信号を合成して得られる出力信号に生じる歪みを補償する歪み補償手段と、前記歪みが補償された入力信号から、前記キャリア信号と、前記ピーク信号とを分離する分離手段と、前記分離されたキャリア信号を増幅する第1の増幅手段と、前記分離されたピーク信号を減衰させ、移相させる減衰・移相手段と、前記減衰され、移相されたピーク信号を増幅する第2の増幅手段と、前記増幅されたキャリア信号を1/4波長分移相した信号と、前記増幅されたピーク信号とを合成して、前記出力信号とする合成手段とから構成される。
【発明の効果】
【0007】
本願発明によれば、より高い生産性、高いリニアリティおよび高い効率の改良されたドハティ増幅装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】ドハティ増幅装置の構成を示す図である。
【図2】本発明にかかる増幅装置の内、基本的な第1の増幅装置の構成を示す図である。
【図3】本発明にかかる第2の増幅装置の構成を示す図である。
【図4】本発明にかかる第3の増幅装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[ドハティ増幅装置1]
以下、本願発明にかかる増幅装置の説明に先立ち、その理解を助けるために、まず、ドハティ増幅装置1を説明する。
図1は、ドハティ増幅装置1の構成を示す図である。
図1に示すように、ドハティ増幅装置1は、入力分離器12、キャリア増幅器14、ピーク増幅器16および出力合成器18から構成される。
入力分離器12は、入力信号を直接、キャリア信号としてキャリア増幅器14に対して出力し、入力信号を、その1/4波長の伝送経路(λ/4)により移相して、ピーク信号としてピーク信号としてピーク増幅器16に対して出力する。
【0010】
キャリア増幅器14は、A級,AB級,B級に増幅素子のバイアス(アイドル電流)が設定された増幅回路から構成され、ピーク増幅器16は、C級に増幅素子のバイアスが設定された増幅回路から構成される。
キャリア増幅器14は、入力分離器12から入力されたキャリア信号の全体を、比較的直線性がよいA〜B級にバイアスされた増幅素子で増幅し、増幅したキャリア信号を、ピーク増幅器16の1/4波長伝送経路(λ/4)に対して出力する。
ピーク増幅器16は、C級増幅の対象となる、移相された入力信号のピーク部分を増幅し、出力合成器18に対して出力する。
出力合成器18は、1/4波長伝送回路により移相され、ピーク信号と同相とされたキャリア信号と、ピーク信号とを合成し、出力信号として出力する。
【0011】
しかしながら、上述したドハティ増幅装置1においては、キャリア増幅器14およびピーク増幅器16における増幅によりキャリア信号およびピーク信号の移相が変化するので、増幅されたキャリア信号とピーク信号とを単純に合成しただけでは、出力信号の歪みが大きくなってしまう。
従って、ドハティ増幅装置1により、歪みが少ない出力信号を、高能率で得ようとすると、キャリア増幅器14およびピーク増幅器16の利得および位相の詳細な調整が必要とされる。
このため、ドハティ増幅装置1の生産性は、これまであまり高くなかった。
【0012】
あるいは、ドハティ増幅装置1により、歪みが少ない出力信号を得ようとすると、キャリア増幅器14およびピーク増幅器16の効率を下げたり、複雑な方法で歪み補償(例えば、ダブルループ型フィードフォワード歪み補償)を行う必要があったりした。
このため、ドハティ増幅装置1の構造は複雑化し、その小型化は難しかった。
以下に説明する本発明にかかる増幅装置は、このようなドハティ増幅装置1の問題点を解消するように工夫されている。
【0013】
[実施形態]
以下、本発明の実施形態を説明する。
図2は、本発明にかかる増幅装置の内、基本的な第1の増幅装置2の構成を示す図である。
図2に示すように、第1の増幅装置2は、入力端子200、前置歪み補償器202、ドライブ増幅器204、入力分配器206、キャリア増幅部22、ピーク増幅部24、1/4波長伝送経路(λ/4)を含む出力合成器210、および、出力端子212から構成される。
キャリア増幅部22は、ドライブ増幅器220およびキャリア増幅器222から構成される。
ピーク増幅部24は、減衰器(ATT)242、移相器(φ)244、ドライブ増幅器246およびピーク増幅器248から構成される。
なお、以下の各図において、実質的に同じ構成部分には、同じ符号が付される。
増幅装置2は、ドハティ増幅装置を改良したものであって、例えば、携帯電話システムにおいて基地局として用いられ、これらの構成部分により、高い生産性で生産可能であり、しかも、高効率・高リニアリティで無線信号の増幅を行う。
【0014】
増幅装置2において、前置歪み補償器202は、入力端子200を介して入力された入力信号に対して、ドライブ増幅器204、キャリア増幅部22、ピーク増幅部24および出力合成器210を介して出力される出力信号に生じる歪みを打ち消すように、予め入力信号に対して補償信号を加え、ドライブ増幅器204に対して出力する。
ドライブ増幅器204は、前置歪み補償器202から入力された入力信号を線形増幅して、入力分配器206に対して出力する。
入力分配器206は、ドライブ増幅器204から入力された入力信号を、キャリア増幅部22およびピーク増幅部24それぞれに対して、キャリア信号およびピーク信号それぞれとして分配する。
【0015】
キャリア増幅部22において、ドライブ増幅器220は、入力分配器206から入力されたキャリア信号を線形増幅して、キャリア増幅器222に対して出力する。
キャリア増幅器222は、その出力素子がA,AB,B級のいずれかで動作するようにバイアス(アイドル電流)が設定され、ドライブ増幅器220から入力されたキャリア信号を電力増幅して、出力合成器210の1/4波長伝送経路に対して出力する。
なお、減衰器242と移相器244は、入れ替えられうるが、図2においては、入力分配器206の直後に減衰器242が接続され、その次に移相器244が接続される場合が例示されている(以下の各図において同じ)。
【0016】
例えば、キャリア増幅器222の飽和電力と、ピーク増幅器248の飽和電力とが非対称であっても、これらの増幅器それぞれの利得誤差および位相誤差を、減衰器242およびピーク増幅器244を最適化することによって、効率低下が最小とされるので、高バックオフ動作および高いピークパワーレシオの変調波について高効率な増幅器が実現される。
また、温度変動および増幅個体素子にばらつきがあったとしても、この減衰器242および移相器244を、同様に最適化することにより、高効率な増幅が維持されうる。
【0017】
ピーク増幅部24において、減衰器242は、入力されたピーク信号を減衰し、移相器244は、減衰されたピーク信号を移相し、ドライブ増幅器246に対して出力する。
ドライブ増幅器246は、移相器244から入力されたピーク信号を線形増幅し、ピーク増幅器248に対して出力する。
ピーク増幅器248は、その増幅素子がB,C級のいずれかで動作するようにバイアスが設定されており、ドライブ増幅器246から入力されたピーク信号の内、B,C級増幅の対象となるピーク部分を増幅し、出力合成器210に対して出力する。
出力合成器210は、キャリア増幅器222から入力され、1/4波長位相経路により移相されたキャリア信号と、ピーク増幅器248から入力されたピーク信号とを合成し、出力信号(アヴェレージ信号)として、出力端子212から出力する。
【0018】
以上説明したように増幅装置2を構成し、減衰器242および移相器244による最適化調整を行うことにより、キャリア増幅部22およびピーク増幅部24において生じるキャリア信号とピーク信号との位相差が解消され、高効率でしかもリニアリティがよい無線信号の増幅が可能となる。
また、ピーク増幅器248は、B,C級で動作するので、ピーク増幅器248において、大きなAM−PM変換が生じる。
【0019】
キャリア増幅部22のキャリア増幅器222において生じるAM−PM変換に起因する歪みは、ピーク増幅器248に生じる同様な歪みよりも小さく、前置歪み補償器202だけでも補償されうる。
なお、ピーク増幅部24のピーク増幅器248において生じるAM−PM変換に起因する歪みは、前置歪み補償器202の他に、入力分配器206の直後に、前置歪み補償器を設けることによっても、補償されうる。
つまり、ピーク増幅部24において生じる歪みは、2つの前置歪み補償器により補償されるので、前置歪み補償器202を有するピーク増幅部24において生じる歪みは、これがない場合に比べて著しく少なくなる。
【0020】
なお、入力分配器206に前置される前置歪み補償器202の数を複数とし、また、ピーク増幅器おける前置歪み補償器の数を複数とすることにより、さらに出力信号を低歪み化できる(以下同様)。
また、前置歪み補償器202を、小信号用電子素子(ショットキーダイオードおよび小信号トランジスタ/FET)により効率的に構成するためには、前置歪み補償器202,204に入力される信号のレベルを小さくし、前置歪み補償器202に、さらにドライブ増幅器を後置して、信号レベルの低下を補償してもよい。
【0021】
[第2の増幅装置3]
以下、本発明にかかる第2の増幅装置3を説明する。
図3は、本発明にかかる第2の増幅装置3の構成を示す図である。
図3に示すように、第2の増幅装置3は、第1の増幅装置2における第1のピーク増幅部24を、温度センサ260、湿度センサ262およびドライバ264を、第1のピーク増幅部24に追加して得られる第2のピーク増幅部26に置換した構成をとる。
増幅装置3は、これらの構成部分により、増幅装置3の周囲の環境に自動的に追従して、入力信号を最適に増幅して出力信号とする。
【0022】
温度センサ260は、増幅装置3の周囲の温度を検出する。
湿度センサ262は、同じく湿度を検出する。
ドライバ264は、温度センサ260および湿度センサ262が検出した温度および湿度に応じて、減衰器242および移相器244に対して、出力信号を最も低歪みと(増幅装置3の動作を最適化)する制御電圧を印加する。
このように構成された第2の増幅装置3により、周囲の温度および湿度に変化に応じて、ピーク信号の位相および電力が最適化されるので、常に最適に入力信号を増幅し、低歪みの出力信号を得ることができる。
【0023】
[第3の増幅装置4]
以下、本発明にかかる第3の増幅装置4を説明する。
図4は、本発明にかかる第3の増幅装置4の構成を示す図である。
図4に示すように、第3の増幅装置4は、第1の増幅装置2の第1のピーク増幅部24を、温度センサ260、湿度センサ262、アナログ/ディジタル変換器(ADC)280、CPU282、RAM284およびディジタル/アナログ変換器(DAC)286を第1のピーク増幅部24に追加して得られる第3のピーク増幅部28に置換した構成をとる。
増幅装置4は、増幅装置3と同様に、これらの構成部分により、周囲の環境に自動的に追従して、入力信号を最適に増幅して出力信号とする。
【0024】
ADC280は、温度センサ260が検出した温度を示すアナログ形式の電圧信号、および、湿度センサ262が検出した湿度を示すアナログ形式の電圧信号を、ディジタルデータに変換し、CPU282に対して出力する。
RAM284には、各温度および各湿度において、最適に増幅装置4を動作させるために減衰器242および移相器244に対して印加させるべき電圧値の組み合わせを示すテーブル(図示せず)と、このテーブルを用いて、増幅装置4の動作を常に最適化するためのプログラム(図示せず)が記憶されている。
【0025】
CPU282は、RAM284などに記憶された動作最適化用のプログラム(図示せず)を実行する。
CPU282は、このプログラムの処理により、検出された温度および湿度の組み合わせと、上記テーブルに含まれる温度および湿度とを比較し、これらの組み合わせに対応する制御電圧の電圧値の組み合わせを、上記テーブルから選択し、この組み合わせを示すデータをDAC286に対して設定する。
DAC286は、CPU282から設定されたデータを、アナログ形式の電圧信号に変換し、減衰器242および移相器244に印加し、増幅装置4の動作を最適化する。
このように構成された第3の増幅装置4によっても、第2の増幅装置3と同様に、周囲の温度および湿度に変化に応じて、増幅装置の動作を最適化できる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本願発明は、高周波線形増幅に利用可能である。
【符号の説明】
【0027】
1・・・ドハティ増幅装置,12・・・入力分離器,14・・・キャリア増幅器,16・・・ピーク増幅器,18・・・出力合成器,2〜4・・・増幅装置,200・・・入力端子,202,204,220,246・・・ドライブ増幅器,206・・・入力分配器,210・・・出力合成器,212・・・出力端子,22・・・キャリア増幅部,222・・・キャリア増幅器,24,26,28・・・ピーク増幅部,242・・・減衰器,244・・・移相器,248・・・ピーク増幅器,260・・・温度センサ,262・・・湿度センサ,264・・・ドライバ,280・・・ADC,282・・・CPU,284・・・RAM,286・・・DAC,

【特許請求の範囲】
【請求項1】
増幅の対象として入力される入力信号に対して、この入力信号のピーク部分を増幅するために用いられるピーク信号と、この入力信号の全部を増幅するために用いられるキャリア信号とを増幅し、増幅されたこれらの信号を合成して得られる出力信号に生じる歪みを補償する歪み補償手段と、前記歪みが補償された入力信号から、前記キャリア信号と、前記ピーク信号とを分離する分離手段と、
前記分離されたキャリア信号を増幅する第1の増幅手段と、
前記分離されたピーク信号を減衰させ、移相させる減衰・移相手段と、
前記減衰され、移相されたピーク信号を増幅する第2の増幅手段と、前記増幅されたキャリア信号を1/4波長分移相した信号と、前記増幅されたピーク信号とを合成して、前記出力信号とする合成手段と
を有する増幅装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−213170(P2010−213170A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−59381(P2009−59381)
【出願日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(000001122)株式会社日立国際電気 (5,007)
【Fターム(参考)】