説明

壁面調査システム

【課題】 簡易かつ低コストで調査対象建物の壁面調査を実施し、壁面状態を容易に確認可能とするとともに使い勝手のよい調査結果出力を得る。
【解決手段】 調査対象建物8の壁面8Aに吊り下げた調査端末機2から打撃音データと壁面画像とを得る端末コンピュータ3により打撃音データと基準打撃音データとを比較して診断データを作成する。管理コンピュータ4において、端末コンピュータ3から出力された診断データと記憶した調査対象建物8の建物白図面データとの合成処理を行って、プリンタ5により調査結果図表データ表6とともに診断結果合成建物図面7を出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、壁面の劣化状態を調査する壁面調査システムに関する。
【背景技術】
【0002】
建物の壁面には、経時劣化によって、ひび割れ等の損傷、シーリング材の浮き上がりや脱落、表面コート材の変色や脱色或いは汚れ、エフロ(風化)等が発生する。また、タイル貼り外壁やモルタル塗り外壁の建物においては、外観上特に変化が観察されない場合でも、コンクリート躯体から表面材の浮き上がり現象が生じて地震等の発生によって落下する危険性もある。建物等においては、このため定期的に壁面の劣化状態が調査される。
【0003】
建物等の壁面調査方法においては、中層や高層建物の場合に、一般に壁面に沿って上下方向と横方向とに移動自在に設置したゴンドラに調査員が搭乗して、調査員が直接目視調査や壁面をテストハンマーで叩いて打撃音を聴取する打撃調査を実施していた(例えば、特許文献1、特許文献2を参照。)。建物等の壁面調査方法においては、打撃音調査に際して、打撃音を基準値に対して機械的に判別することによってより精度の高い壁面調査を実施する方法も提案されている(例えば、特許文献3を参照。)。特許文献4には、壁面を打撃する打撃手段や打撃音を集音するマイクロホンを搭載して調査対象建物の壁面に吊り下げられて遠隔操作される調査機を用いた建物等の壁面調査方法が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特公平2−54903号公報
【特許文献2】特公平5−11577号公報
【特許文献3】特開2000−131288号公報
【特許文献4】実開平7−34367号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来の建物等の壁面調査方法においては、上述した特許文献1或いは特許文献2のように調査対象建物に調査を行うためだけに大規模なゴンドラ等を設置することから調査コストが極めて莫大となり、例えば入居者数が少ない比較的中小規模のマンション等において実施することが困難であるといった問題があった。特許文献3に開示された建物等の壁面調査方法においても、同様にして調査対象建物にゴンドラ等を設置して調査を実施しなければならず、また精度の高い調査結果データが得られるものの例えばマンション居住者等の素人がその調査結果を直接評価することが困難であった。
【0006】
特許文献4に開示された建物等の壁面調査方法は、大規模なゴンドラ等の設置が不要であり、調査コストの負担を低減して精度の高い調査を実施することが可能である。しかしながら、かかる建物等の壁面調査方法においても、上述した他の従来の壁面調査方法と同様に、マンション居住者等が調査機から得られた全てのデータから対象建物のどの箇所にどの程度の不具合が発生しているかを直接的に確認することが可能な評価結果を提供されることは無かった。
【0007】
したがって、本発明は、簡易かつ低コストで調査対象建物の壁面調査を実施するとともに、調査結果を表示した診断データとともに調査対象建物の図面に診断結果を合成して出力することにより、壁面状態を容易にかつ直接的に確認することを可能として修繕計画の立案等において有効資料として活用される使い勝手のよい調査結果出力を得る壁面調査システムを提供することを目的に提案されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した目的を達成する本発明にかかる壁面調査システムは、調査端末機と、端末コンピュータと、管理コンピュータと、出力手段とを備える。本発明にかかる壁面調査システムは、調査端末機が、少なくとも壁面を打撃する打撃手段と、打撃音を集音するマイクロホンと、壁面を撮像する撮像手段とを備えており、調査対象建物の壁面に吊り下げられて調査員によって遠隔操作されて壁面に沿って昇降移動する。調査端末機は、所定の間隔で打撃手段による壁面の打撃動作を行うとともに、その打撃音をマイクロホンによって集音する。調査端末機は、撮像手段によって壁面を撮像しながら移動動作を行い、撮像した壁面画像データを端末コンピュータに出力する。
【0009】
本発明にかかる壁面調査システムは、端末コンピュータが、調査員により持ち運びされる可搬型のコンピュータであり、調査端末機の撮像手段から出力される壁面画像データに基づく壁面画像を表示する表示器と、調査員により壁面画像を確認しながら調査端末機に対して移動動作や調査動作を制御する制御信号を出力する遠隔操作が行われるようにする調査端末機操作部と、基準打撃音データを記憶した記憶部と、基準打撃音データと調査端末機から出力された打撃音データとを比較して診断データを作成する診断データ作成部とを有する。端末コンピュータは、調査現場に持ち込まれて信号ケーブル等により調査端末機と接続される。
【0010】
本発明にかかる壁面調査システムは、管理コンピュータが、予め調査対象建物に関する建物白図面データを記憶部に記憶するとともに、端末コンピュータで作成した診断データが端末コンピュータから直接或いは端末コンピュータによって作成した調査結果を記録した記憶媒体が装填されて入力される。管理コンピュータは、この診断データに対して所定のデータ処理を施して診断結果図表データ等を作成するとともに、診断データと建物白図面データとの合成処理を行って診断結果合成建物図面データを作成する。
【0011】
本発明にかかる壁面調査システムは、出力手段が、管理コンピュータから出力される診断結果図表化データに基づいて所定様式の調査データ表や診断結果データ表等を出力するとともに、診断結果合成建物図面データに基づいて調査対象建物図面に診断結果を合成表示した診断結果合成建物図面を出力する。出力手段は、例えば調査結果データ表や診断結果合成建物図面等を紙出力するプリンタや、これらを画像出力する表示器或いはこれらデータを記憶した記憶媒体等の適宜の出力形態によって出力する。
【発明の効果】
【0012】
本発明にかかる壁面調査システムによれば、調査対象建物から吊り下げて調査員により遠隔操作される調査端末機を用いることから、大規模なゴンドラ等の設置を不要として低調査コストで壁面調査を実施することが可能である。本発明にかかる壁面調査システムによれば、調査現場に持ち込まれる端末コンピュータに基準打撃音データが保有されることによって、現場対応で壁面の不具合箇所を確認して当該箇所の詳細調査や画像確認を行うことが可能であり高精度の調査を効率よく実施することが可能である。本発明にかかる壁面調査システムによれば、数値データが主体である調査結果データ表や診断結果データ表とともに、調査対象建物図面に診断結果を合成して表示した診断結果合成建物図面を出力することにより当該調査対象建物の壁面状態を誰もが容易にかつ直接的に確認することを可能として修繕計画の立案等に際して使い勝手がよく有効に活用される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態として図面に示した壁面調査システム1について詳細に説明する。壁面調査システム1は、図1に示すように、調査端末機2と、端末コンピュータ3と、管理コンピュータ4とを備えるとともに、出力手段として例えばプリンタ5によって各種の調査結果データ表6や診断結果合成建物図面7をプリントアウトする。なお、壁面調査システム1は、出力手段としてプリンタ5ばかりでなく、報告形態として一般的に採用されているモニタを用いた画像出力、所定のデータを記憶した適宜の記憶媒体、或いはこれらの組み合わせによる出力形態であってもよいことは勿論である。
【0014】
壁面調査システム1においては、調査端末機2として、上述した特許文献4に開示された「外壁の浮き診断装置」と基本的な構成を同等としたものを用いることが可能である。調査端末機2は、同等品を用いるものとして個々の詳細な説明を省略するが、図1及び図2に示すように調査対象建物8から吊り下げられて壁面8Aを走行する調査機本体9と、この調査機本体9を調査対象建物8の屋上等から吊り下げる吊り下げユニット10及び調査機本体9を地上において保持するウエイトユニット11等によって構成する。
【0015】
調査端末機2は、吊り下げユニット10が、図示を省略するがワイヤ巻き上げ装置の電動ウインチや、建物から突出されワイヤをガイドする滑車等を設けた腕木等を備え、屋上の笠木等に油圧ジャッキ等を介して設置される。吊り下げユニット10は、調査端末機2がさほど大重量物ではないことから、簡易に取り扱うことが可能であり、屋上に支持構造を設置するといった対応を不要とする。吊り下げユニット10は、笠木に沿って移動されることによって、調査機本体9の吊り下げ位置を簡易に移動させることが可能である。
【0016】
調査機本体9は、シャーシ12に、全体の動作を制御する制御部13と、電動モータ等を有する動力部14と、入出力制御部15と、距離カウンタ部16等が搭載されて構成する。調査機本体9には、調査手段として、テストハンマ17と、マイクロホン18と、CCD(Charge-Coupled Device)カメラ19が搭載される。調査機本体9は、動力部13によって駆動される複数個の車輪20が設けられ、吊り下げユニット10とウエイトユニット11とによって保持されて調査対象建物8の壁面8A上を円滑かつ安定した状態で走行することが可能である。
【0017】
調査端末機2は、調査機本体9が、吊り下げユニット10の電動ウインチから引き出したワイヤ21によって吊り下げられる。調査端末機2は、詳細を省略するが吊り下げユニット10と地上側に配置したウエイトユニット11との間に掛け合わせた複数本のガイドワイヤによって壁面8A上を安定した状態で昇降移動するように保持される。調査端末機2は、調査機本体9が例えば電源線と信号線とを有するケーブル22によってウエイトユニット11との間を接続され、さらに信号ケーブル23によってウエイトユニット11を介して端末コンピュータ3と接続される。なお、調査端末機2は、吊り下げユニット10も、図示しない信号ケーブルを介して端末コンピュータ3と接続される。
【0018】
調査端末機2は、調査員(オペレータ)Pによって端末コンピュータ3を介して吊り下げユニット10の電動ウインチが遠隔操作されることにより、調査機本体9が吊り下げられた壁面8Aの調査ポイント領域を高さ方向に所定の速度で昇降移動されて後述する壁面8Aに対する打撃調査と撮像とを行って端末コンピュータ3に調査データと画像データとを出力する。調査端末機2は、例えばCCDカメラ19による壁面8Aの撮像を連続して行うとともに、所定のポイント毎で打撃調査を行うようにする。調査端末機2は、壁面8Aに対する所定調査ポイント領域の調査を終了すると吊り下げユニット10が屋上の笠木に沿って移動操作されることで、調査機本体9が次の調査ポイントの対応領域に移動される。調査端末機2は、当該調査ポイント領域においても同様にして調査機本体9を壁面8Aに沿って昇降移動させて所定の調査を行う。
【0019】
調査端末機2には、調査機本体9に対してケーブル22を介して端末コンピュータ3側から必要に応じて出力される制御信号が制御部13に入力されるとともに、ウエイトユニット11を介して動力部14に電源が供給される。調査端末機2は、制御信号に基づいて制御部13から動力部14に対して駆動信号が出力されることによって電動モータが駆動され、テストハンマ17により壁面8Aを打撃する打撃調査が行われる。なお、調査端末機2は、テストハンマ17による打撃動作が、壁面8Aを摺擦して摺擦音を発生させる打撃調査であってもよい。
【0020】
調査端末機2は、調査機本体9が、シャーシ12にマイクロホン18をテストハンマ17に近接して設置しており、テストハンマ17の打撃動作によって生じた打撃音をマイクロホン18によって集音して入出力制御部15へと供給する。調査機本体9は、制御部13からの駆動信号に基づいてCCDカメラ19による壁面8Aの撮像を行う。なお、調査機本体9においては、上述したようにCCDカメラ19によって壁面8Aを連続して撮像し、オペレータPによって壁面画像を確認しながら移動動作や調査動作の遠隔操作が行われるようにするが、例えばテストハンマ17による打撃調査で壁面8Aに異常を検出した場合においてCCDカメラ19が当該箇所を拡大して撮像するようにしてもよい。
【0021】
調査機本体9は、上述したマイクロホン18によって集音した打撃音信号とCCDカメラ19によって撮像した壁面画像データとを入出力制御部15を介して端末コンピュータ3側に出力する。調査機本体9は、距離カウンタ部16が、例えば車輪20の軸部に設けたエンコーダによって構成され、車輪20の回転量を検出して入出力制御部15に出力する。調査機本体9は、距離カウンタ部16によって検出した車輪20の回転量データが入出力制御部15を介して端末コンピュータ3側へと出力することによって、調査基準位置からの移動量が把握されるようにする。
【0022】
なお、調査端末機2については、上述した構成に限定されるものでは無く、少なくともテストハンマ17とマイクロホン18とCCDカメラ19とを搭載して遠隔操作される調査機本体9と、この調査機本体9を調査対象建物8から吊り下げる吊り下げユニット10とによって構成されればよい。上述調査端末機2は、調査対象建物8に大規模となるゴンドラや足場等の設置を不要とするとともに取り扱いが簡便で高精度の調査結果データが得られ、調査コストの負担を低減して精度の高い調査を実施することが可能であることから極めて有効である。
【0023】
壁面調査システム1においては、上述したようにオペレータPが端末コンピュータ3を操作することによって調査機本体9の移動動作や調査動作を制御する制御信号を出力して遠隔操作が行われるようにする。端末コンピュータ3は、モニタ24やキーボード25を一体化してオペレータPが持ち運びすることが可能な一般的な可搬型のコンピュータであり、調査現場に持ち込まれて信号ケーブル23によりウエイトユニット11とケーブル22を介して調査端末機2と接続される。
【0024】
端末コンピュータ3は、記憶部に後述する予め定めた調査要領や基準打撃音データ等が記憶されており、調査の実施に伴って調査端末機2から出力された生データの打撃音信号や壁面画像データ或いは後述する診断データが記憶部に記憶される。端末コンピュータ3は、例えばCD(コンパクトディスク)等の記録媒体の記録再生部を有することにより、基準打撃音データを記憶したCDを再生して内部のハードディスク(記憶部)に読み込んだり、打撃音信号や壁面画像データを記録部から読み出してCDに記録するようにしてもよい。
【0025】
壁面打撃調査は、予め正規状態の壁面をテストハンマで打撃してその打撃音のスペクトルを求めて基準打撃音データとして保有し、この基準打撃音データと調査対処建物8の壁面8Aをテストハンマ17で打撃して得た調査打撃音データとを比較する。壁面打撃調査においては、上述した特許文献にも開示されるように、壁面8Aに表面材の浮き、ひび割れ、欠損或いは爆裂等の不具合が生じている場合に、基準打撃音データに対して調査打撃音データにそれぞれ独自のスペクトルが生じる。壁面打撃調査においては、スペクトルの差異の状態によって、これによって壁面8Aに生じた不具合の内容やその程度等を診断することが可能である。
【0026】
なお、壁面打撃調査は、コンクリート躯体の表面に設けられたタイルやモルタル等の表面材の種類によって基準打撃音データ及び診断基準をそれぞれ異にする。したがって、端末コンピュータ3は、容量負荷を軽減するために調査を実施する際に調査対象建物8の仕様に適合した基準打撃音データ等が予め作成され、例えばこれを記録した記録媒体が装填されて記憶部を構成する内部ハードディスクに読み込むようにする。
【0027】
端末コンピュータ3には、調査端末機2からマイクロホン18によって集音した打撃音データやCCDカメラ19によって撮像した壁面画像データが刻々と供給される。端末コンピュータ3は、モニタ24に図3に示すコントロール画面を表示し、このコントロール画面によってオペレータPが壁面の状況を確認するとともに所定の制御操作が行われるようにする。端末コンピュータ3には、モニタ24のコントロール画面24に、同図に示すように、壁面画像表示部24Aや診断データ表示部24Bが設けられるとともに、調査端末機2に対して所定の制御動作を指示することによって調査端末機制御部を構成するコントロール部24Cが設けられる。
【0028】
端末コンピュータ3は、オペレータPによって壁面画像表示部24Aに表示される壁面8Aの状態が監視され、必要に応じて調査機本体9の停止・戻し動作の指示を行って不具合箇所の詳細確認を行うとともに録画操作等を行うことを可能とする。端末コンピュータ3は、調査端末機2から出力される打撃音データと記憶部に記憶した基準打撃音データとを比較して所定の診断データを作成して、モニタ24の診断データ表示部24Bに表示するとともに記憶部に記憶する。端末コンピュータ3は、例えば各調査ポイントにおける表面材の浮き状態、ひび割れの有無、欠損の有無或いは爆裂の有無等に分類してその程度を診断する。
【0029】
端末コンピュータ3は、コントロール画面24のコントロール部24Cに表示されたコマンドアイコンをクリック操作することにより所定の制御動作が行われるようにする。コントロール画面24には、図3に示すようにコマンドアイコンとして、調査の基準位置を設定する開始位置アイコン、調査終了を支持する終了アイコン、調査機本体9を昇降移動させる上下アイコン、或いは調査機本体9に打撃調査を指示するスキャンアイコンや入力完了アイコン、再チェックアイコン等が設けられる。
【0030】
端末コンピュータ3は、上述したようにケーブル22及び信号ケーブル23を介して調査端末機2と接続して制御信号や調査結果データの授受を行うようにしたが、かかる構成に限定されるものでは無い。端末コンピュータ3は、例えばブルートゥース無線方式等の近距離無線方式によって調査端末機2と無線接続されて信号授受が行われるようにしてもよいことは勿論である。
【0031】
壁面調査システム1においては、調査対象建物8に対する所定の壁面調査を終えると、調査現場から持ち帰った端末コンピュータ3からその記憶部に記憶した生の情報である調査結果データや壁面画像データを吸い上げて例えばCD等の記憶媒体に記憶する処理が行われる。また、壁面調査システム1においては、端末コンピュータ3がホストコンピュータである管理コンピュータ4と接続され、端末コンピュータ3で作成した記憶部に記憶した調査結果データや診断データが管理コンピュータ4に供給される。なお、壁面調査システム1は、端末コンピュータ3において診断データ等を記憶したCD等の記憶媒体を作成し、この記憶媒体を管理コンピュータ4に装填してデータ読み取りを行うようにしてもよい。
【0032】
管理コンピュータ4は、端末コンピュータ3よりも大きな記憶容量を有するホストコンピュータであり、システムの全般的な管理機能を奏するとともに、記憶部に過去に実施した当該検査対象建物8の壁面調査に関する実施データ等を保存するデータベース機能も奏する。壁面調査システム1においては、調査の実施に際して依頼者側から図4(A)に示した当該調査対象建物8に関する設計図面等の建物図面情報26の提供を受ける。管理コンピュータ4には、この建物図面情報26に基づいて各部の寸法値等の建物白図面データが入力される。管理コンピュータ4は、この建物白図面データに基づいてCAD(Computer Aided Desin)データを作成し、記憶部に記憶する。
【0033】
壁面調査システム1においては、建物図面情報26に基づいて当該調査対象建物8に実施する壁面調査の具体的な実施方法が検討され、調査端末機2によって打撃調査を実施する調査ポイントが決定される。壁面調査システム1においては、建物形状や壁面仕様に応じて具体的な調査内容(打撃調査の間隔や回数等)も異なることから、図4(B)に示すように原点Gpを定めるとともにこの原点位置から例えば水平方向において形状が異なる居住ブロックとタワーブロック部位にそれぞれの各基準点a1、a2を決定する。
【0034】
壁面調査システム1においては、各基準点a1、a2から所定の間隔を以って実際に調査端末機2による打撃調査を実施する第1調査ポイントp1〜第4調査ポイントp4が決定される。壁面調査システム1においては、各調査ポイントp1〜p4において、それぞれ調査端末機2による打撃調査の開始位置f1〜f4も決定される。
【0035】
壁面調査システム1においては、上述した調査実施要領のデータが管理コンピュータ4に入力されて所定のデータ処理が施される。管理コンピュータ4は、これら調査実施要領データと上述した建物図面情報26との合成処理を行うとともに、CADデータを作成して記憶部に記憶する。また、管理コンピュータ4は、調査の実施に際して記憶部から調査実施要領データを読み出して、調査現場に持ち込まれる端末コンピュータ3の記憶部に記憶させる。
【0036】
管理コンピュータ4は、現場調査を終了して端末コンピュータ3から調査対象建物8の調査結果データや診断データが供給されると、これら調査結果データや診断データに対してさらに所定のデータ処理を施して報告書体裁に合わせた所定の調査結果データ表6を作成するための診断結果図表化データを作成する。さらに、管理コンピュータ4は、記憶部から記憶したCADデータを読み出して診断データとの合成処理を施し、診断結果合成建物図面7を作成するための診断結果合成建物図面データを作成する。なお、管理コンピュータ4は、必要に応じて報告書体裁に合わせた図表類を記憶したCD等の記憶媒体を作成する。
【0037】
管理コンピュータ4は、作成した診断結果図表化データや診断結果合成建物図面データを記憶部に記憶する。管理コンピュータ4は、接続したプリンタ5に対して、診断結果図表化データを出力して調査結果データ表6の出力を指示し、診断結果合成建物図面データを出力して診断結果合成建物図面7の出力を指示する。プリンタ5は、管理コンピュータ4からの指示に基づいて、例えば図5(A)に示した異常発生部集計一覧表6A及び同図(B)に示した集計結果表6B或いは図6に示した診断結果合成建物図面7をプリンタアウトする。なお、これらの表や図面は、一例を示すものであって、その体裁に限定されるものではないことは勿論であり、管理コンピュータ4のデータ処理によって様々な様式のものが出力される。
【0038】
図5(A)に示した異常発生部集計一覧表6Aは、各調査ポイントp1〜p4の調査位置毎に異常発生の状況とその内容を一覧で示した集計表である。すなわち、異常発生部集計一覧表6Aには、調査ポイントAにおいて調査開始位置から高さ方向の調査位置において発生した異常状態が一覧様式で示されている。また、同図(B)に示した集計結果表6Bは、各調査ポイントp1〜p4毎の異常発生部の状況を集計して表示した集計票であり、結果として調査ポイントAでは4.50%でタイルの浮きが生じていると結論されている。
【0039】
図6に示した診断結果合成建物図面7は、調査対象建物8の外観図に対して、各調査ポイントp1〜p4毎に異常発生部の発生状況とその内容を合成して示した図面である。すなわち、診断結果合成建物図面7には、調査対象建物8における各調査ポイントp1〜p4の位置が具体的に表示されるとともに、各調査ポイントp1〜p4の各調査位置における異常発生部の有無とその内容が識別されて帯状に図示されている。なお、診断結果合成建物図面7は、詳細を省略するが、各調査ポイントp1〜p4毎に異常発生部とその内容を色別にしたカラー表示で出力される。
【0040】
壁面調査システム1においては、上述した調査結果データ表6によって、各調査ポイントp1〜p4における異常発生部の発生状況とその内容が数値データを主体として詳細に把握することが可能である。また、壁面調査システム1においては、建物外観と異常発生部の発生状況とその内容とが診断結果合成建物図面7に同時に表示されることによって、調査対象建物8の壁面状態を誰もが容易にかつ直接的に確認することを可能とする。
【0041】
上述した壁面調査システム1は、調査対象建物8の壁面8Aについて図7乃至図10に示した段取り工程Dと、現地調査工程Tと、報告書作成工程Hとを経て実施され、依頼者等に対して調査結果とそれに基づく診断が報告される。段取り工程は、図7に示すように依頼者との調査の実施に関する調整や報告形態の取り決め等を終え、現地調査を実施するために事前に処理される事前処理の工程である。壁面調査システム1においては、段取り工程Dとして図7に示すように、データベース機能を有する管理コンピュータ4によって当該調査対象建物8の調査が新規調査か再調査かの検索を行う(ステップD−1)。
【0042】
段取り工程Dにおいては、管理コンピュータ4に当該調査対象建物8の登録例が無く新規調査であると判断された場合に、依頼者等から当該調査対象建物8に関する建物図面情報26の提供を受けて各部の寸法値等の建物白図面データが管理コンピュータ4に入力される(ステップD−2)。段取り工程Dにおいては、管理コンピュータ4において、この建物白図面データに基づいてCADデータを作成して記憶部に記憶する白図データ登録処理が行われる(ステップD−3)。
【0043】
段取り工程Dにおいては、管理コンピュータ4に既登録され或いは上述した手順によって登録した調査対象建物8の物件情報を呼び出し、今回の調査を実施するために必要な調査ファイルを作成する(ステップD−4)。段取り工程Dにおいては、登録された建築物仕様分類から当該調査対象建物8がいずれの建築物仕様に属するかを判定して分類分けすることによって、各建築物仕様に付帯された基準打撃音データを入手し、調査ファイルに登録する(ステップD−5)。なお、段取り工程Dにおいては、必要に応じて当該調査対象建物8を事前に下見して注意すべき事項等を特記事項として調査ファイルに登録するようにしてもよい(ステップD−6)。
【0044】
段取り工程Dにおいては、調査対象建物8の建物図面情報26に基づいて、調査の実施要領を立案してその内容を調査ファイルに登録する(ステップD−7)。なお、実施要領には、上述したように調査対象建物8の原点Gpや、調査内容が異なる領域を規定する各基準点a1、a2或いは調査端末機2による打撃調査を実施する第1調査ポイントp1〜第4調査ポイントp4やこれら調査ポイントp1〜p4における打撃調査の開始位置f1〜f4等を含むものとする。段取り工程Dにおいては、上述した手順を経て作成された調査ファイルの内容が、調査現場に持ち込まれる端末コンピュータ3の記憶部に記憶させる処理が行われる(ステップD−8)。
【0045】
壁面調査システム1においては、上述した調査端末機2と端末コンピュータ3とを調査現場に持ち込んで、調査対象建物8の壁面8Aの状態を調査端末機2によって直接調査する図8に示した現地調査工程Tが実行される。現地調査工程Tは、調査対象建物8の屋上に第1調査ポイントp1に合わせて吊り下げユニット10を設置し、この吊り下げユニット10によって調査機本体9を壁面8Aに沿って吊り下げるとともに調査機本体9をウェイトユニット11によって位置決め保持しかつ電源との接続を行って調査端末機2をセッティングする(ステップT−1)。現地調査工程Tにおいては、調査端末機2と端末コンピュータ3とを接続するとともに、端末コンピュータ3により調査機本体9を第1調査ポイントp1の所定位置に移動させてセットする(ステップT−2)。
【0046】
現地調査工程Tにおいては、端末コンピュータ3からの起動指示に基づいて調査機本体9が壁面8Aに沿って下降動作を開始して、CCDカメラ19による壁面3Aの撮像動作が開始されるとともに距離カウンタ部16から端末コンピュータ3に対して調査機本体9の移動量情報が出力される(ステップT−3)。現地調査工程Tにおいては、調査機本体9が打撃調査の開始位置f1に達すると、端末コンピュータ3からテストハンマ17に対して打撃動作の指示信号が出力されて打撃調査が実行され、マイクロホン18によって打撃音が集音されるとともに打撃音データが入出力制御部15を介して端末コンピュータ3に出力される(ステップT−4)。
【0047】
現地調査工程Tにおいては、端末コンピュータ3において入力された打撃音データと基準打撃音データとが比較されて診断データを作成し、打撃音データ及び検査位置情報とともに記憶部に記憶される(ステップT−5)。現地調査工程Tにおいては、オペレータPによって端末コンピュータ3のモニタ24に表示される壁面画像表示部24Aや診断データ表示部24Bが監視され、必要に応じて調査機本体9を停止させて当該部位の詳細調査が実施される。
【0048】
現地調査工程Tにおいては、調査機本体9が第1調査ポイントp1を下降移動しながら所定の調査位置において上述した打撃調査を行ってそれぞれの診断データを順次記憶部に記憶する動作が行われ、調査機本体9が終了位置に達すると端末コンピュータ3からの指示信号によって停止動作が行われて第1調査ポイントp1の調査を終了する(ステップT−6)。現地調査工程Tにおいては、吊り下げユニット10が第2調査ポイントp2に移動されて調査機本体9を初期位置まで上昇移動させてウェイトユニット11により位置決めした状態で、第2調査ポイントp2の調査が実行される(ステップT−7)。
【0049】
現地調査工程Tにおいては、以下同様にして全ての調査ポイントにおいて調査端末機2による調査が行われる。現地調査工程Tにおいては、全ての調査ポイントにおける調査が終了すると、端末コンピュータ3において調査完了のスイッチ操作が行われる(ステップT−8)。現地調査工程Tにおいては、吊り下げユニット10から調査機本体9が取り外されるとともに、屋上から吊り下げユニット10が撤去されて調査現場からの撤収が行われる(ステップT−9)。
【0050】
壁面調査システム1においては、調査端末機2と端末コンピュータ3とによる調査対象建物8の現地調査を終了すると、記憶部に記憶した調査端末機2から出力された生の調査データである調査結果データと診断データとを端末コンピュータ3から管理コンピュータ4に吸い上げてデータ処理を行い、プリンタ5によって所定の調査結果データ表6や診断結果合成建物図面7を出力する図9に示した報告書作成工程Hが実施される。報告書作成工程Hにおいては、上述したように端末コンピュータ3から管理コンピュータ4に対して調査データ等が出力され、管理コンピュータ4においてこれら調査データ等を該当する調査ファイルに登録する処理が行われる(ステップH−1)。
【0051】
報告書作成工程Hにおいては、管理コンピュータ4において、端末コンピュータ3から出力された調査結果データや診断データに対してさらに所定のデータ処理を施し、上述した各調査結果データ表6を作成するための診断結果図表化データを作成する(ステップH−2)。報告書作成工程Hにおいては、調査結果データや診断データと調査対象建物8のCADデータとの合成処理を行って、診断結果合成建物図面7を作成するための診断結果合成建物図面データを作成する(ステップH−3)。報告書作成工程Hにおいては、報告書体裁に合わせた図表類を記憶したCD等の記憶媒体を作成する(ステップH−4)。
【0052】
診断結果合成建物図面データの作成工程においては、上述したように図面データに原点Gpや基準点a1、a2に対して位置決めされて第1調査ポイントp1〜第4調査ポイントp4やこれら調査ポイントp1〜p4における打撃調査の開始位置f1〜f4等の位置情報が入力されている。診断結果合成建物図面データの作成工程においては、端末コンピュータ3から出力された位置情報に基づいて、各調査ポイントp1〜p4の位置を特定するとともに名称付与の処理を行う。
【0053】
診断結果合成建物図面データの作成工程においては、図面データの特定された各調査ポイントp1〜p4の対応位置に、調査結果データや診断データを関連付けするデータ処理を施す。診断結果合成建物図面データの作成工程においては、図面データに対して各診断データの内容に対して用語や図示化の記号処理を付与する処理を行う。なお、診断結果合成建物図面データの作成工程においては、複数の建物図面に関する図面データが存在する場合に、各図面データに対して同様のデータ処理を行う。
【0054】
報告書作成工程Hにおいては、プリンタ5に対して管理コンピュータ4から診断結果図表化データに基づいて調査結果データ表6の出力指示が行われることによって、プリンタ5が所定の様式で調査結果データ表6をプリントアウトする(ステップH−5)。報告書作成工程Hにおいては、プリンタ5に対して管理コンピュータ4から診断結果合成建物図面データに基づいて診断結果合成建物図面7の出力指示が行われることによって、プリンタ5が調査対象建物8の図面に診断結果を合成して表示した診断結果合成建物図面7をプリントアウトする(ステップH−6)。
【0055】
なお、壁面調査システム1においては、上述した段取り工程Dと現地調査工程Tと報告書作成工程Hによって基本的な手順のみを説明したが、各工程がかかる手順に限定されるものでは無いことは勿論である。壁面調査システム1においては、管理コンピュータ4に調査対象建物8に関する種々の情報が記憶されており、これら情報と調査端末機2により現場から得た調査結果データや診断データとを適宜加工することによって様々な内容の調査報告書を作成して依頼者に対して提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】実施の形態として示す壁面調査システムの構成図である。
【図2】調査端末機の構成図である。
【図3】端末コンピュータのモニタに表示される画面例である。
【図4】調査対象建物に関する建物図面を示し、同図(A)は情報源となる建物図面、同図(B)は調査基準位置を表示した建物図面である。
【図5】調査結果図表データ表を示し、同図(A)は異常発生部集計一覧表、同図(B)は集計結果表である。
【図6】診断結果合成建物図面である。
【図7】段取り工程のフローチャートである。
【図8】現地調査工程のフローチャートである。
【図9】報告書作成工程のフローチャートである。
【符号の説明】
【0057】
1 壁面調査システム、2 調査端末機、3 端末コンピュータ、4 管理コンピュータ、5 プリンタ、6 調査結果データ表、7 診断結果合成建物図面、8 調査対象建物、8A 壁面、9 調査機本体、10 吊り下げユニット、11 ウェイトユニット、12 シャーシ、13 制御部、14 動力部、15 入出力制御部、16 距離カウンタ部、17 テストハンマ、18 マイクロホン、19 CCDカメラ、20 車輪、21 ワイヤ、22 ケーブル、23 信号ケーブル、24 モニタ、25 キーボード、26 建物図面情報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
調査対象建物の壁面を打撃して打撃音を発生させる打撃手段と、上記打撃音を集音するマイクロホンと、上記壁面を撮像する撮像手段とを備え、上記調査対象建物の壁面に沿って吊り下げられて昇降移動して当該壁面の状態を調査する調査端末機と、
上記調査端末機と接続され、上記撮像手段から出力される壁面画像データに基づく壁面画像を表示する表示器と、上記調査端末機に対してその移動動作や調査動作を制御する制御信号を出力して遠隔操作が行われるようにする調査端末機制御部と、基準打撃音データを記憶する記憶部と、上記基準打撃音データと上記調査端末機から出力された打撃音データとを比較して診断データを作成する診断データ作成部とを有する端末コンピュータと、
上記調査対象建物に関する建物白図面データを記憶部に保有し、調査終了後に上記端末コンピュータから出力される上記診断データに対して所定のデータ処理を施して診断結果図表化データを作成するとともに、上記診断データと上記建物白図面データとの合成処理を行って診断結果合成建物図面データを作成する管理コンピュータと、
上記管理コンピュータから出力される上記診断結果図表化データに基づいて所定様式の調査結果図表データ表を出力するとともに、上記診断結果合成建物図面データに基づいて上記調査対象建物の図面上に上記診断結果を合成表示した診断結果合成建物図面を出力する出力手段
とから構成することを特徴とする壁面調査システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−139707(P2007−139707A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−337087(P2005−337087)
【出願日】平成17年11月22日(2005.11.22)
【出願人】(505434283)株式会社リコマ (2)
【Fターム(参考)】