説明

外網膜の疾患を処置する薬剤を製造するためのβ−アドレナリン作用受容体アンタゴニストの使用

【課題】外網膜の疾患を処置する際に有用なβ−アドレナリン作用受容体アンタゴニストを提供すること。
【解決手段】本発明は、以下の外網膜の疾患を処置する薬剤を製造するためにβ−アドレナリン作用受容体アンタゴニストを使用することに関する:ARMD;RPおよび他の形態の遺伝変性網膜疾患;網膜剥離および断裂;黄斑襞;外網膜を冒す虚血;光力学療法、熱または寒冷療法を含めたレーザー療法(格子、焦点および広範囲網膜)に付随した損傷;外傷;外科的(網膜転位置、網膜下手術または硝子体切除)または光誘発医原性網膜症;および網膜移植片の保存。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本発明は、外網膜の疾患を処置するためにβ−アドレナリン作用受容体アンタゴニスト(例えば、ベタキソロール)を使用することに関する。
(発明の背景)
現在までに、網膜の変性に関連し得る100以上の遺伝子が地図化されまたはクローン化されている。網膜変性疾患(例えば、年齢関連性の黄斑変性症(ARMD)および網膜色素変性(RP))の病因は、多くの側面を持ち、遺伝的素因のある人において、環境因子により誘発され得る。このような環境因子の1つである露光量は、ARMDのような網膜変性疾患の進行の寄与因子として、同定されている(Young,Survey of Ophthalmology,1988,32巻:252〜269)。網膜細胞に対する光損傷を引き起こす光酸化ストレスは、以下の理由で網膜変性疾患を研究するのに有用なモデルであることが明らかとなっている:損傷は、主に、外網膜の光受容体および網膜色素上皮(RPE)に対するものである(Noellら、Investigative Ophthalmology & Visual Science,1966,5巻:450〜472;Bresslerら、Survey of Ophthalmology,1988,32巻:375〜413;Curcioら、Investigative Ophthalmology & Visual Science,1996,37巻:1236〜1249);これらは、細胞死の一般的機構(アポトーシス)を共有している(Ge−Zhiら、Transactions of the American Ophthalmology Society,1996,94巻:411〜430;Ablerら、Research Communications in Molecular Pathology and Pharmacology,1996,92巻:177〜189);光は、ARMDおよびRPの進行の環境危険因子として、関係している(Taylorら、Archives of Ophthalmology,1992,110巻:99〜104;Naashら、Investigative Ophthalmology & Visual Science,1996,37巻:775〜782);および光酸化傷害を阻止する処置処置はまた、遺伝変性網膜疾患に罹った動物モデルにおいて有効であることが明らかとなっている(LaVailら、Proceedings of the National Academy of Science,1992,89巻:11249〜11253;Fakforovichら、Nature,1990,347巻:83〜86)。
【0002】
種々の動物モデルにおいて、多数の異なる種類の化合物が網膜光傷害を最小化することを報告されている。これらの化合物として:酸化防止剤(例えば、アスコルビン酸塩(Organisciakら、Investigative Ophthalmology & Visual Science,1985,26巻:1580〜1588)、ジメチルチオ尿素(Organisciakら、Investigative Ophthalmology & Visual Science,1992,33巻:1599〜1609;Lamら、Archives of Ophthalmology,1990,108巻:1751〜1757)、α−トコフェロール(Kozakiら、Nippon Ganka Gakkai Zasshi,1994,98巻:948〜954)およびβ−カロテン(Rappら、Current Eye Research,1996,15巻:219〜223));カルシウムアンタゴニスト(例えば、フルナリジン(Liら、Experimental Eye Research,1993,56巻:71〜78;Edwardら、Archives of Ophthalmology,1992,109巻:554〜622));増殖因子(例えば、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、脳誘発神経因子(BDNF)、毛様体神経栄養性因子(CNTF)およびインターロイキン−1−β(LaVailら、Proceedings of the National Academy of Science,1992,89巻:11249〜11253));糖質コルチコイド(例えば、メチルプレドニゾロン(Lamら、Graefes Archives of Clinical & Experimental Ophthalmology,1993,231巻:729〜736)、デキサメタゾン(Fu,J.ら、Experimental Eye Research,1992,54巻:583〜594));NMDA−アンタゴニスト(例えば、エリプロテイルおよびMK−801(Collierら、Investigative Ophthalmology & Visual Science,1999,40巻、pg,S159))および鉄キレート剤(例えば、デスフェリオキサミン(Liら、Current Eye Research,1991,2巻:133〜144))。
【0003】
眼用β−アドレナリン作用性アンタゴニスト(β−アドレナリン作用受容体またはβ−ブロッカーともよばれる)は、十分立証された有名な緑内障処置用のIOP低下剤である。現在、世界中で数種の眼用β−ブロッカーの使用が認可されている。これらの大多数は、非選択的β−ブロッカーであり;ベタキソロールは、心選択性β−ブロッカーであり、これは、BetopticまたはBetoptic S(登録商標、Alcon Laboratories,Inc.,Fort Worth,Texas)として販売されている。
緑内障および他の内網膜の病状の処置として、Osborneら(Brain
Research,1997,751巻:113〜123)は、ベタキソロールがラット虚血/再灌流傷害モデルにおいて神経保護性であることを明らかにした。虚血/再灌流は、網膜電図(ERG)のb−波の振幅(これは、光受容体またはRPEの機能ではなく、内網膜の機能の尺度である)の低下を引き起こす。このERGのb−波の喪失は、ベタキソロールで処置することにより、保護された。この内網膜保護と呼応して、ベタキソロールで処置することにより、神経節細胞層および内部核層において、内網状層および細胞体でのコリンアセチルトランスフェラーゼおよびカルレチニンの免疫反応性が保存された。Osborneらによるインビトロ研究では、また、ベタキソロールが、ニワトリの網膜細胞でのカイニン酸誘発性の細胞内カルシウムの上昇を防止し得、グルコース−酸素の欠乏に続くウサギ内網膜でのGABA免疫反応性の変化を部分的に阻害し得、そして皮質培養物でのグルタミン酸誘発性の乳酸脱水素酵素の放出を部分的に防止し得ることが明らかとなった。β−アドレナリン作用受容体アンタゴニストはまた、KCl誘発性のブタ毛様体動脈の収縮を弛緩することが明らかとなった(Hesterら、Survey of Ophthalmology,38巻:SI25〜SI34,1994)。さらに、特定のβ−ブロッカーは、それらのβ−アドレナリン作用ブロッカー活性とは無関係の血管緊張低下を生じることが明らかとなった。(Yuら、Vascular Risk Factors and Neuroprotection in Glaucoma,123〜134頁、(Drance,S.編) Update,1996;Hosteら、Current Eye Research,13巻:483〜487,1994;およびBesshoら、Japanese Journal of Pharmacology,55巻:351〜358,1991)。特定のβ−ブロッカーがカルシウムチャネルブロッカーとして作用し、血管平滑筋細胞にカルシウムイオン(この場所で、それは、その収縮応答に関与し、そして血管内腔の直径を減少させ、血流を減少させる)の流入を少なくする能力に起因するという実験的証拠が存在する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
(発明の要旨)
本発明は、外網膜の疾患、特に以下の疾患を処置する際に有用であることが発見された、β−アドレナリン作用受容体アンタゴニストに関する:ARMD;RPおよび他の形態の遺伝変性網膜疾患;網膜剥離および断裂;黄斑襞;外網膜を冒す虚血;光力学療法、熱または寒冷療法を含めたレーザー療法(格子、焦点および広範囲網膜)に付随した損傷;外傷;外科的(網膜転位置、網膜下手術または硝子体切除)または光誘発医原性網膜症;および網膜移植片の保存。本明細書中で使用する場合、外網膜には、RPE、光受容体、Muller細胞(これらのプロセスが外網膜に伸長する範囲まで)、および外網状層が含まれる。これらの化合物は、全身的または局所的な眼球送達用に処方される。
本発明は、例えば以下の項目を提供する。
(項目1) 外網膜の疾患を処置する方法であって、薬学的有効量のβ−アドレナリン作用受容体アンタゴニストを投与する工程を包含する、方法。
(項目2) 前記疾患が、ARMD;RPおよび他の形態の遺伝変性網膜疾患;網膜剥離および断裂;黄斑襞;外網膜を冒す虚血;光力学療法、熱または寒冷療法を含めたレーザー療法(格子、焦点および広範囲網膜)に関連する損傷;外傷;外科的(網膜転位置、網膜下手術または硝子体切除)または光誘発医原性網膜症;および網膜移植片の保持からなる群から選択される、項目1に記載の方法。
(項目3) 前記β−アドレナリン作用受容体アンタゴニストが、ベタキソロール(R体またはS体もしくはラセミ体)、チモロール、カルテオロール、レボブノロール、メチプラノロール、ベフノロール、プロプラノロール、メトプロロール、アテノロール、ペンドロールおよびピンブトロールからなる群から選択される、項目1に記載の方法。
(項目4) 前記β−アドレナリン作用受容体アンタゴニストが、ベタキソロールもしくはそのRまたはS異性体である、項目3に記載の方法。
(項目5) 前記β−アドレナリン作用受容体アンタゴニストが、ベタキソロール(R体またはS体もしくはラセミ体)、チモロール、カルテオロール、レボブノロール、メチプラノロール、ベフノロール、プロプラノロール、メトプロロール、アテノロール、ペンドロールおよびピンブトロールからなる群から選択される、項目2に記載の方法。
(項目6) 前記β−アドレナリン作用受容体アンタゴニストが、ベタキソロールもしくはそのRまたはS異性体である、項目5に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【図1A】図1Aは、選択的β1−ブロッカーであるベタキソロールおよびその異性体を全身投与することによる光網膜症の予防を示す。
【図1B】図1Bは、選択的β1−ブロッカーであるベタキソロールおよびその異性体を全身投与することによる光網膜症の予防を示す。
【図2A】図2Aは、非選択的β−ブロッカーであるチモモールを全身投与することによる光網膜症の予防を示す。
【図2B】図2Bは、非選択的β−ブロッカーであるチモモールを全身投与することによる光網膜症の予防を示す。
【図3A】図3Aは、局所眼内投与後の光網膜症からのベタキソロールおよびレボベタキソロールによる網膜の保護を比較する。
【図3B】図3Bは、局所眼内投与後の光網膜症からのベタキソロールおよびレボベタキソロールによる網膜の保護を比較する。
【図4A】図4Aは、P23H変異ロドプシントランスジェニックラットでの網膜機能の保護を示す。
【図4B】図4Bは、P23H変異ロドプシントランスジェニックラットでの網膜機能の保護を示す。
【図5】図5は、レボベタキソロールの1回投与後の内因性網膜神経栄養性因子mRNAレベルの上方制御を他の薬剤と比較して示す。
【発明を実施するための形態】
【0006】
(好ましい実施態様の詳細な説明)
神経栄養因子は、強力な神経栄養性剤であり得るが、ペプチドのように、網膜または中枢神経系に送達するのは困難である。本発明者は、ベタキソロールがCNTFおよびbFGF mRNAの網膜での発現を上方制御し、これが外網膜に対する光誘発アポトーシス細胞死を防止し得ることを立証した。本発明者は、ベタキソロールで処置すると、光酸化誘発性網膜症を完全に防止し得、また、網膜機能の喪失を著しく低下できることを発見した。この化合物は、安全であるという長所があるために、急性療法および慢性療法の療法に特に望ましい。このような薬剤は、種々の外網膜の変性疾患の処置に有用性がある。
本発明者らの光損傷の模範例では、酸化防止剤は、効果がなかった(α−トコフェロール)か、高用量で僅かに効果があったか(アスコルビン酸塩、ビタミンEアナログ)のいずれかであった。同様に、ある種のカルシウムアンタゴニスト(フルナリジン、ニカルジピン)は、中程度に効果があったのに対して、他のもの(ニフェジピン、ニモジピン、ベラパミル)は、光誘発性の機能的または形態的な変化を防止する効果がなかった。しかしながら、β−アドレナリン作用受容体アンタゴニストは、これらの光損傷の模範例で有効であり、従って、外網膜の疾患を処置するのに有用であることが発見された。
【0007】
外網膜の疾患には、正常な人および遺伝的な素因のある人において、光受容体およびRPE細胞の急性および慢性の環境誘発性(外傷、虚血、光酸化ストレス)変性状態が含まれる。これには、ARMD、RPおよび他の形状の遺伝変性網膜疾患;網膜剥離および断裂;黄斑襞;外網膜を冒す虚血;光力学療法、熱または寒冷療法を含めたレーザー療法(格子、焦点および広範囲網膜)に付随した損傷;外傷;外科的(網膜転位置、網膜下手術または硝子体切除)または光誘発医原性網膜症;および網膜移植片の保存が挙げられるが、これらに限定されない。
【0008】
本発明は、外網膜の疾患を処置するために、任意のβ−アドレナリン作用受容体アンタゴニストを使用することを企図し、これには、これらの異性体および薬学的に受容可能な塩が含まれる。好ましいβ−アドレナリン作用受容体アンタゴニストはまた、神経栄養活性を示し、カルシウムアンタゴニスト活性を有し得る。
【0009】
本発明に従って有用な代表的なβ−アドレナリン作用受容体アンタゴニストには、以下が挙げられるが、これらに限定されない:ベタキソロール(RまたはSまたはラセミ体)、チモロール、カルテオロール、レボブノロール、メチプラノロール、ベフノロール、プロプラノロール、メトプロロール、アテノロール、ペンドロールおよびピンブトロール(pinbutolol)。
【0010】
好ましいβ−アドレナリン作用受容体アンタゴニストは、ベタキソロールおよび/またはそのRまたはS異性体である。このS異性体はまた、レボベタキソロール(levobetaxolol)とも呼ばれる。
【0011】
一般に、変性疾患に対して、本発明のβ−ブロッカーは、0.001ミリグラムと500ミリグラムの間の範囲の用量でこれらの化合物を、毎日経口投与される。好ましい1日あたりの合計用量は、1ミリグラムと100ミリグラムの間の範囲である。非経口投与(例えば、硝子体内投与、局所眼球投与、経皮パッチ、皮膚下、腸管外、眼球内、結膜下または球後注射、イオン泳動または緩慢放出の生体分解性高分子またはリポソーム)には、この化合物の処置有効量を供給するために必要な1日あたりの合計用量を調節する必要があり得る。このβ−ブロッカーはまた、手術中に使用される眼球灌注液中で送達し得る(例えば、米国特許第4,443,432号を参照のこと)。この特許の内容は、本明細書中で参考として援用されている。濃度は、0.001μM〜100μMの範囲、好ましくは、0.01μM〜5μMの範囲とするべきである。
【0012】
β−ブロッカーは、目に局所送達するために、種々のタイプの眼用処方物に組み込まれ得る。これらは、眼科的に受容可能な防腐剤、界面活性剤、粘度向上剤、ゲル化剤、浸透向上剤、緩衝液、塩化ナトリウムおよび水と配合され、水性の無菌眼用懸濁液または溶液もしくはあらかじめ形成されるゲルあるいはインサイチュで形成されるゲルを形成し得る。眼用溶液処方物は、この化合物を生理学的に受容可能な等張性水性緩衝液に溶解することにより、調製され得る。さらに、この眼用溶液は、この化合物の溶解を助けるために、眼科的に受容可能な界面活性剤を含有し得る。これらの眼用溶液は、結膜嚢でのこの処方の保持を改良するために、粘度向上剤(例えば、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルピロリドンなど)を含有し得る。無菌眼用軟膏処方物を調製するために、この活性成分は、適当な賦形剤(例えば、鉱油、液状ラノリンまたは白色ワセリン)中で、防腐剤と配合される。無菌眼用ゲル処方物は、この活性成分を親水性ベース(これは、類似の眼用調製物について公開された処方に従って、例えば、カルボポール−940などを配合することにより、調製した)に懸濁することにより、調製され得る。防腐剤および等張剤は、取り込まれ得る。
【0013】
局所投薬する場合、β−ブロッカーは、好ましくは、約4〜8のpHを有する局所眼用懸濁液または溶液として、処方され得る。これらのβ−ブロッカーは、通常、0.001重量%〜5重量%の量、好ましくは、0.01重量%〜2重量%の量で、これらの処方物に含有される。従って、局所適用には、これらの処方物の1〜2滴が、熟練した臨床医の判断に従って、1日に1〜4回、眼の表面に送達される。
【0014】
好ましいβ−ブロッカーであるベタキソロール(もしくはそのRまたはS異性体)は、経口的に生物利用可能であり、投与時に副作用を生じる頻度が低く、また、血液−脳バリアを効果的に通過し、このことは、標的組織である網膜において、有効濃度が得られると予想されることを意味している。ベタキソロールは、米国特許第4,252,984号および第4,311,708号で記述されており、これらの内容は、本明細書中で参考として援用されている。
【0015】
β−アドレナリン作用受容体アンタゴニストは、本発明者の光酸化誘発性の網膜症の模範例(RPおよびARMDの処置用薬剤を同定するのに有用であり得る網膜変性疾患の1モデル)で評価した。意外なことに、ベタキソロールおよびその鏡像異性体は、神経保護剤として、顕著な効力および効能を示した。光受容体およびRPE細胞の両方は、光誘発性の機能変化および形態学的な外傷から完全に保護された。チモロールもまた、神経保護性であったが、効力が著しく低かった。ロドプシン変異(これは、遺伝変性疾患に罹った一部の患者に観察される欠損と類似している)を有するトランスジェニックラットモデルにおいて、レボベタキソロールのさらなる評価が、網膜機能に著しい保護を提供した。
【実施例】
【0016】
(実施例1)
(ベタキソロールおよびその鏡像異性体による光酸化誘発性の網膜症の予防)
光網膜症は、可視光線または近紫外線の吸収によるRPEおよび視神経網膜(neuroretina)の過度の興奮から起こる。外傷の重症度は、波長、照射量、露光持続時間、種類、眼球の色素沈着および年齢に依存する。損傷は、細胞膜の過酸化、ミトコンドリアの酵素(例えば、シトクロムオキシダーゼ)の不活性化および/または細胞内カルシウムの増大から起こり得る。この光酸化性ストレスから生じる細胞の損傷は、アポトーシスによる細胞死を招く(Shahinfarら、1991,Current Eye Research,10巻:47〜59;Ablerら、1994,Investigative Ophthalmology & Visual Science.35巻(Suppl):1517)。酸化性ストレスで誘発されたアポトーシスは、多くの眼の病状の原因として関係しており、これらには、医原性網膜症、黄斑変性症、RPおよび他の形態の遺伝変性疾患、虚血性網膜症、網膜断裂、網膜剥離、緑内障および網膜新血管形成が挙げられる(Changら、1995,Archives of Ophthalmology,113巻:880〜886;Portera−Cailliauら、1994,Proceedings of National Academy of Science(U.S.A.),91巻:974〜978;Buchi,E.R.,1992,Experimental Eye Research,55巻:605〜613;Quigleyら、1995,Investigative Ophthalmology & Visual Science,36巻:774〜786)。光誘発性の網膜の損傷は、マウス(Zigmanら、1975,Investigative Ophthalmology & Visual Science,14巻:710〜713)、ラット(Noellら、1966,Investigative Ophthalmology and Visual Science,5巻:450〜473;Kuwabaraら、1968,Archives of Ophthalmology,79巻:69〜78;LaVail,M.M.,1976,Investigative Ophthalmology & Visual Science,15巻:64〜70)、ウサギ(Lawwill,T.,1973,Investigative Ophthalmology & Visual Science,12巻:45〜51)、およびリス(Collierら、1989;In LaVailら、Inherited and Environmentally Induced Retinal Degenerations.Alan R.Liss,Inc.,New York;Collierら、1989,Investigative Ophthalmology & Visual Science,30巻:631〜637)、ヒト以外の霊長類(Tso,M.O.M.,1973,Investigative Ophthalmology & Visual Science,Vol.12:17〜34;Hamら、1980,Vision Research,20巻:1105〜1111;Sperlingら、1980,Vision Research,20巻:1117〜1125;Sykesら、1981,Investigative Ophthalmology & Visual Science,20巻:425〜434;Lawwill,T.,1982,Transactions of the American Ophthalmology Socieiy,80巻:517〜577)およびヒト(Marshallら、1975,British Journal of Ophthalmology,59巻:610〜630;Greenら、1991,American Journal of Ophthalmology,112巻:520〜27)で観察されている。ヒトでは、環境的放射線に慢性的に晒すこともまた、ARMDに対する危険因子として関連している(Young,R.W.,1988,Survey of Ophthalmology,32巻:252〜269;Taylorら、1992,Archives of Ophthalmology,110巻:99〜104;Cruickshankら、1993,Archives of Ophthalmology,111巻:514〜518)。
(全身投薬)
実験1の目的は、選択β−アドレナリン作用受容体アンタゴニスト、特に、ベタキソロール(ラセミ体)、レボベタキソロール(S異性体)およびベタキソロール(R異性体)が神経保護性であり光酸化誘発性の網膜症から網膜細胞を救済し得るかどうかを決定することにあった。実験2の目的は、この光酸化ストレスモデルにおいて、チモロール(強力な非選択的β1−およびβ2−ブロッカー)の用量依存性効能を決定することにあった。オスSprague Dawleyラットを、薬剤実験群および賦形剤実験群に無作為に割り当てた。48時間、24時間および0時間の時点で、ラットに、賦形剤または薬剤のいずれかで3回腹腔内(IP)注射した後、スペクトル濾過(spectrally filtered)した青色光(〜220fc)に6時間露光した。コントロールラットを、普通のサイクルの露光(cyclic light exposure)下にて、ホームケージに収容した。コントロールラットに対しては、賦形剤も薬剤もいずれも投薬しなかった。ERGは、閃光に対する目の電気応答の浸潤性の臨床的な測定値である。a−波およびb−波は、網膜機能に対して診断性であるERGの二成分である。a−波は、外網膜機能を反映しており、光受容体とRPEの間の相互作用によって発生するのに対し、b−波は、内網膜機能(特に、双極細胞(on−bipolar cells)での)を反映している。内網膜は、この露光によって著しく損傷を受けないものの、b−波は、光受容体の入力の欠乏に起因して低下する。a−波の振幅または潜在的な変化は、外網膜の病状に診断的である。暗所適用し麻酔したラット(ケタミン−HCl、75mg/Kg;キシラジン、6mg/Kg)から5日間の回復期間後、ERGを記録した。全体野を見ることによって、閃光に対する目の電気応答を引き出した。一連の漸増強度の閃光に対するERGをデジタル化して、その波形の時間的特性および応答電位−対数強度関係(response voltage−log intensity relationship)を分析した。
【0017】
(結果)
(実験1)
(ベタキソロールとそのRおよびS異性体との比較)
(賦形剤投薬ラット)
青色光に6時間露光すると、5日間の回復時間後に測定したとき、コントロールと比較して、ERG応答振幅(ANOVA、p<0.001)が著しく減少した(図1)。最大のa−波およびb−波の振幅は、賦形剤投薬ラットでは、コントロールと比較して、約66%低下した。それに加えて、閾応答は、コントロールより低く、さらに明るい閃光強度で誘発された。
【0018】
(ベタキソロール(ラセミ体))
ベタキソロール(ラセミ体)の全身的な(IP)投薬は、5日間の回復期間後のラットにおいて、この光誘発性網膜変性に対する外網膜および内網膜の機能の用量依存性保護を提供した(図1)。ベタキソロールを20mg/kgおよび40mg/kg投薬したラットでの最大a−波応答振幅は、賦形剤を投薬したラットよりもそれぞれ1.9倍および2.1倍高かった。
【0019】
(レボベタキソロール(S−異性体))
レボベタキソロールを全身投与は、この重症の光酸化誘発性網膜症を誘発した5日後にERGを測定した場合、外網膜の機能の用量依存性保護を提供した。20mg/kgおよび40mg/kgのレボベタキソロールを全身投薬は、この酸化的発作に対する網膜機能の顕著な保護を提供した(図1)。20mg/kgを投薬したラットでのERG振幅は、通常の69%であり、賦形剤を投薬したラットの振幅の2倍であった。閃光に対する網膜応答の完全な保護を、レボベタキソロール(40mg/kg)を投薬したラットにおける5日間の回復期間後に測定した。この保護は、4週間の回復期間後も持続していた。
【0020】
(ベタキソロール(R異性体))
光誘発性網膜変性に対する外網膜および内網膜の機能の部分的ではあるが顕著な保護を、20mg/kgおよび40mg/kgを投薬したラットにおいて測定した(図1)。ERGは、ベタキソロールのR異性体を投薬した(20mg/kgまたは40mg/kg)ラットでは、通常の約64%であった。この保護は、4週間の回復期間後も持続していた。
【0021】
(実験2)
(チモロールによる光網膜症の予防)
青色光を露光した5日後、賦形剤を投薬したラットでの外網膜機能は、54%低下し、そして内網膜機能は、52%低下した(図2)。10mg/kg、20mg/kgおよび40mg/kgでチモロールを全身投与(IP)すると、この光酸化性発作に対する網膜機能の顕著な保護が得られなかった(図2)。80mg/kgを投薬したラットから記録したERGは、賦形剤を投薬したラットで測定した応答よりも顕著に良好であった。
【0022】
(結論)
β−アドレナリン作用受容体アンタゴニストであるベタキソロールおよびその鏡像異性体の全身投与は、重症の光酸化誘発性網膜症を誘発した5日後または4週間後に測定した場合、外網膜および内網膜の機能の用量依存性神経保護を提供した。これらのβ−アドレナリン作用受容体アンタゴニストを20mg/kgおよび40mg/kgで投薬したラットにおいて、著しい網膜保護が測定された。この光誘発性網膜症は、レボベタキソロールを投薬したラットにおいて、予防された。チモロール(非選択的β−ブロッカー)もまた、この露光の結果としての網膜に対する酸化損傷の重症度の減少に有効であった。
【0023】
(実施例2)
(レボベタキソロールの局所眼球投薬による光酸化誘発性網膜症の予防)
この実験の目的は、局所眼球投薬後のラットで測定し得る網膜保護の程度を決定することであった。光網膜症モデルにおいて、レボベタキソロール(0.5%)(ラセミ体)ベタキソロール(0.5%)および賦形剤を評価した。光化学的外傷の誘発およびERGでの網膜機能の評価は、実施例1で使用した光酸化誘発性網膜症の模範例で記述したのと同様に実行した。
【0024】
(被験体および投薬)
オスSprague Dawleyラットを、賦形剤投薬群(N=10)、(ラセミ体)ベタキソロール(0.5%)投薬群(N=10)またはレボベタキソロール(0.5%)投薬群(N=10)のいずれかに無作為に割り当てた。ラットに、1つの目あたり2滴で局所眼内投薬(b.i.d.)した。ラットを、露光前に17日間にわたって予め投薬し、そして露光後にさらに2日間投薬した。コントロールラット(N=4)は、通常のサイクルの露光下にて、ホームケージに収容した。
【0025】
(結果)
賦形剤を投薬したラットに青色光を露光すると、露光後5日間測定した場合、網膜電図(ERG)で測定した網膜機能(ANOVA、p<0.004)が著しく低下した(図3)。最大のa−波応答振幅は、58%低下し、そして内網膜機能は、56%低下した。
【0026】
レボベタキソロールの局所眼内投薬(b.i.d.)は、賦形剤を投薬したラットと比較した場合、著しい保護を提供した(図3)。さらに、コントロールラットとレボベタキソロール投薬ラットとの間で網膜機能に著しい差が検出されず、レボベタキソロールは、この光誘発性網膜症を完全に改善させた。
【0027】
ベタキソロール(ラセミ体)投薬ラットでは、著しい保護は測定されなかった。ベタキソロール投薬ラットでは、ERG応答振幅は、賦形剤投薬ラットから測定した応答よりも高かったが、あまり差がなかった。
【0028】
(実施例3)
(レボベタキソロールによるトランスジェニックラットでの視覚機能の保護)
P23Hロドプシン変異のトランスジェニックラットは、特異的なロドプシン変異を有し、これは、RPに罹った患者のサブセットで同定されている。この変性は、網膜光受容体の緩慢な変性および網膜電図での顕著な低下により特徴付けられる。光損傷と同様に、光受容体の損失は、主に、アポトーシス過程を介している。
【0029】
(方法)
(被験体および投薬)
ラットを離乳時に薬剤群および賦形剤群のいずれかに無作為に割り当てた。ラットに、1日おきに、賦形剤またはレボベタキソロール(40mg/kg)を投薬した(経口栄養補給)。この用量は、光誘発性網膜症を完全に改善させる能力に基づいて、評価された。ERGを、実施例1で記述したように記録した。
【0030】
(結果)
レボベタキソロール(40mg/kg)を1日おきに経口投薬すると、賦形剤投薬ラットと比較して、3ヶ月齢および6ヶ月齢のP23Hロドプシン変異トランスジェニックラットで測定された網膜機能の損失が、著しく減弱された(図4)。6ヶ月齢のラットにおける外網膜機能は、賦形剤投薬ラットで測定した応答よりも32%良好であった。
【0031】
(実施例4)
(ベタキソロールによる網膜内因性の神経栄養性因子の上方制御)
LaVailら(Faktorovichら、Nature,347巻:83〜86,1990;LeVailら、Proceedings of the Naional Academy of Science,1992,89巻:11249〜11253)は、多数の増殖因子を硝子体内に注入すると、網膜に対する光損傷を防止し得ることを明らかにした。これらの神経栄養因子は、大きいペプチドであり、血液−脳バリアを簡単には通過しない。慢性変性網膜疾患を処置するための処置的戦略の点から見ると、硝子体内への注入を繰り返せば、潜在的に合併症(出血、網膜剥離および炎症を含めて)を引き起こす可能性がある。代替的な戦略には、アデノウイルス媒介遺伝子転移の使用があり(RCSラットにおけるbFGF,Cayouetteら、Journal of Neuroscience、18巻(22):9282〜93,1998、およびrd マウスにおけるCNTF,Cayouetteら、Human Gene Therapy,8巻(4):423〜30,1997)、これは、長時間にわたる発現の損失および細胞の非相同的な感染に起因して、光受容体の損失を防止する際に成功が限られている。本発明者は、遺伝子操作した細胞をCNTFを分泌する硝子体へ設置することもまた酸化誘発性網膜症を防止する際に有効であることを明らかにした。最近の戦略は、内因性増殖因子を上方制御する薬理学的試薬を同定することである。Wenら(WO 98/10758、1998年3月19日)は、α2−アドレナリン作用受容体アンタゴニストがbFGFを上方制御し得、光傷害を防止し得ることを明らかにした。β−アドレナリン作用受容体アンタゴニストが神経栄養性因子の内因的な産生を誘発し得るかどうかを決定するために、レボベタキソロールを評価した。
【0032】
(レボベタキソロールの評価)
オス白色種Sprague Dawleyラットに、α2−アドレナリン作用受容体アゴニスト(ブリモニジン(brimonidine))(20mg/kg)、β−アドレナリン作用受容体アンタゴニスト(レボベタキソロール)(20mg/kg)または賦形剤のいずれかを1回IP注入し、暗所で12時間維持した後、網膜組織を収集した。暗所に適合させた正常なコントロールラットもまた、評価した。内因性網膜増殖因子mRNAの上方制御は、ノーザンブロット分析により決定した。網膜を、液体窒素で瞬間凍結し、そして総RNAが単離されるまで、保存した。RNA試料を、1.2%アガロースゲル上で泳動し、ナイロンメンブレンに転写し、プレハイブリダイズし、標識cDNAプローブで16時間ハイブリダイズし、洗浄し、そしてX線フィルムに晒した。次いで、これらのブロットを剥ぎ取り、18S RNAに特異的なオリゴで再プローブした。bFGF、CNTFおよび18S RNAに特異的なバンドをゲルイメージスキャナーでスキャンし、そして分析した。
【0033】
(結果)
賦形剤投薬ラットとコントロールラットの間では、bFGF/18SまたはCNTF/18S比について、差は観察されなかった(図5)。
【0034】
ブリモニジン(20mg/kg)を1回投薬すると、bFGF mRNAの発現が14倍増加した(図5)。しかしながら、CNTF mRNAの発現は、これらのラットでは、上方制御されなかった。
【0035】
同様に、ラボベタキソロール(β−アドレナリン作用受容体アンタゴニスト)は、IP注入を1回受けた(20mg/kg)ラットにおいて、bFGF mRNAの発現の13倍の増加を誘発した(図5)。これらの齧歯類網膜でbFGFを上方制御することに加えて、内因性CNTF mRNAの発現は、バックグラウンドの発現と比較して、2.3の倍率だけ上方制御された。組換えCNTFでの処理は、光網膜症および網膜遺伝変性変化の防止に有効であることが明らかとなった。
【0036】
(結論)
本発明者は、予想外に、レボベタキソロールが内因性bFGF mRNAの強力なインデューサーであることを発見した。α−アドレナリン作用受容体アゴニストと異なり、レボベタキソロールはまた、CNTF mRNA発現の顕著な上昇を生じた。さらに、本発明者は、レボベタキソロール、ベタキソロール(ラセミ体)またはそのR異性体の投薬が、激しい光酸化発作でストレスを受けた場合、網膜に対する有意な保護を提供することを立証した。CNTF mRNAの上方制御は、網膜症の処置で特に重要である。CNTFまたはそのアナログが外網膜変性を予防する効果は、ラットおよびマウスの光毒性モデル、RCSジストロフィーラット、ロッドコーン(rod−cone)ジストロフィーに罹っているRdyネコ、網膜変性イヌモデル、トランスジェニックラット(P23HおよびQ344ter)、トランスジェニックマウス(Q344ter)、rdマウスおよびrdsマウスで、立証されている。他方、bFGFは、ラットおよびマウスの光毒性モデルおよびRCSジストロフィーラットでの効能だけが立証されている。
【0037】
これらの新規な発見に基づいて、本発明者は、β−アドレナリン作用受容体アンタゴニスト(特に、レボベタキソロールおよびベタキソロール)が、トランスジェニックラットおよび光酸化ストレスモデルにおいて神経保護性であり(図1、2、3および4)、外網膜の種々の眼変性疾患の処置に有効であると結論付ける。神経保護は、内因性神経栄養性因子(CNTFおよびbFGFを含む)の上方制御により与えられる(図5)。
【0038】
(実施例5)
【0039】
【表1】

(実施例6)
【0040】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書に記載の発明。

【図1A】
image rotate

【図1B】
image rotate

【図2A】
image rotate

【図2B】
image rotate

【図3A】
image rotate

【図3B】
image rotate

【図4A】
image rotate

【図4B】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−215667(P2010−215667A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−154379(P2010−154379)
【出願日】平成22年7月6日(2010.7.6)
【分割の表示】特願2001−544676(P2001−544676)の分割
【原出願日】平成12年11月29日(2000.11.29)
【出願人】(399054697)アルコン,インコーポレイテッド (102)
【Fターム(参考)】