多原色表示用の色変換プロファイルの作成方法及びそれを用いた多原色プロジェクター
【課題】従来よりも滑らかな色再現が可能な多原色表示用の色変換プロファイル及び多原色表示装置を提供する。
【解決手段】プロファイルの作成方法では、分光投影モデルコンバータを用いて、各サンプル多原色データを仮想サンプルカラーパッチの分光強度に変換する。また、各サンプル多原色データのサンプル色に関する色差を表す予め指定されたタイプの色差指数を含む評価指数を算出する。また、サンプル色に応じて複数のサンプル多原色データを複数の組に分類するとともに、評価指数に基づいて複数の組のそれぞれにおいて最良サンプル多原色データを選択する。そして、選択された複数の最良サンプル多原色データに基づいて色変換プロファイルを作成する。色差指数としては、スクリーンに投影されたカラーパッチを異なる角度で観察したときの色差を示す指数が使用される。
【解決手段】プロファイルの作成方法では、分光投影モデルコンバータを用いて、各サンプル多原色データを仮想サンプルカラーパッチの分光強度に変換する。また、各サンプル多原色データのサンプル色に関する色差を表す予め指定されたタイプの色差指数を含む評価指数を算出する。また、サンプル色に応じて複数のサンプル多原色データを複数の組に分類するとともに、評価指数に基づいて複数の組のそれぞれにおいて最良サンプル多原色データを選択する。そして、選択された複数の最良サンプル多原色データに基づいて色変換プロファイルを作成する。色差指数としては、スクリーンに投影されたカラーパッチを異なる角度で観察したときの色差を示す指数が使用される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多原色表示用の色変換プロファイル、及び、その色変換プロファイルを用いた多原色プロジェクターなどのカラー画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
通常のカラー画像表示装置は、RGBの3原色(加法混色の3原色)を用いてカラー表示を行うのが普通である。但し、近年では、より広い色再現域(カラーガマット)を用いてきれいなカラー画像を表示するために、RGB以外にシアンやマゼンタなどの他の原色を含む4つ以上の原色を用いてカラー表示を行う多原色表示装置が提案されている(特許文献1)。多原色表示装置では、任意の1色を表現する原色値の組み合わせが多数存在する。そこで、色変換プロファイルとして、個々の色を再現するための原色値の組み合わせを示すプロファイルが予め準備され、多原色表示装置に実装される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−338950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、色再現域を複数の角錐の領域に分割し、各々の角錐領域において、入力三刺激値に対応する4つの原色の出力値を計算する方法が開示されている。この方法では、入力三刺激値に対応する表示色が属する領域は、入力三刺激値に対する条件判定を行うことによって求められる。しかし、この方法では、特に角錐領域の境界付近にある表示色同士の間に違和感が生じてしまう場合があった。そこで、従来から、より滑らかな色再現が可能な多原色表示用の色変換プロファイルが望まれていた。
【0005】
また、画像を投写表示するプロジェクターでは、各種のスクリーンに画像を投写する場合がある。従って、4種類以上の色光を用いてカラー画像を行う多原色プロジェクターに関しても、スクリーン特性を考慮した色変換プロファイルを作成することが好ましい。しかし、従来は、多原色プロジェクター用の色変換プロファイルにおいて、スクリーン特性はほとんど考慮されていないのが実情であった。また、色の見え方はスクリーンの観察条件によってもかなり異なる。しかし、従来は、スクリーンの観察条件に関しても十分に考慮されていなかった。
【0006】
さらに、一般に、カラー画像表示装置では色むらが問題になることが多い。しかし、従来は、色変換プロファイルの作成に際して、色むらの低減についてはまったく考慮されていないのが実情であった。また、階調再現の滑らかさや、粒状性についてもそれほど考慮されていなかった。
【0007】
なお、上述のような種々の課題は、プロジェクターに限らず、4つ以上の原色を利用してカラー画像を表示する多原色表示装置に共通する問題であった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0009】
[適用例1]
4つ以上の複数の原色を用いてカラー画像を投影可能な多原色プロジェクターで使用される色変換プロファイルとして、前記複数の原色の原色値を含む多原色データと測色値との対応関係を規定する色変換プロファイルを作成する方法であって、
(a)前記多原色データを、前記多原色データに従って投影されるカラーパッチの分光強度に変換する分光投影モデルコンバータを準備する工程と、
(b)複数のサンプル多原色データを準備する工程と、
(c)前記分光投影モデルコンバータを用いて、各サンプル多原色データを、前記サンプル多原色データに従って投影されるべき仮想サンプルカラーパッチの分光強度に変換する工程と、
(d)各サンプル多原色データについて、前記分光強度から算出されるサンプル色に関する色差を表す予め指定されたタイプの色差指数を含む評価指数を算出する工程と、
(e)前記複数のサンプル多原色データについてそれぞれ算出されたサンプル色に応じて前記複数のサンプル多原色データを複数の組に分類するとともに、前記評価指数に基づいて、前記複数の組のそれぞれにおいて最良サンプル多原色データを選択する工程と、
(f)前記選択された複数の最良サンプル多原色データに基づいて、測色値と多原色データとの対応関係を規定する色変換プロファイルを作成する工程と、
を備え、
前記色差指数は、スクリーンに投影されたカラーパッチを異なる角度で観察したときの色差を示す指数である、方法。
この方法によれば、スクリーンに投影されたカラーパッチを異なる角度で観察したときの色差を示す色差指数を含む評価指数に基づいて最良サンプル多原色データが選択されるので、従来のように色再現域を複数の角錐の領域に分割する場合に比べてより滑らかな色再現が可能な多原色表示用の色変換プロファイルを作成することが可能である。また、異なる角度でスクリーン上の画像を観察したときに、その色の見えの変化が小さな画像を表示可能である。
【0010】
[適用例2]
適用例1記載の方法であって、
前記評価指数は、前記色差指数とともに、前記多原色プロジェクターの消費電力を示す消費電力指数を含む、色変換プロファイル作成方法。
この構成によれば、滑らかな色再現が可能であり、かつ、消費電力を低減できる色変換プロファイルを作成することが可能である。
【0011】
[適用例3]
4つ以上の複数の原色を用いてカラー画像を投影可能な多原色プロジェクターであって、
予め準備された色変換プロファイルを参照して、入力カラー画像信号を前記複数の原色の原色値に変換する色変換部と、
前記色変換後の複数の原色の原色値に応じて画像をスクリーンに投影する画像投影部と、
を備え、
前記色変換プロファイルは、スクリーンに投影されたカラーパッチを異なる角度で観察したときの色差を示す色差指数を含む評価指数が最小となるように生成されたプロファイルである、多原色プロジェクター。
この多原色プロジェクターによれば、分光特性の異なる複数の異なるスクリーンに投影されるカラーパッチ間での色差を示す色差指数を含む評価指数が最小となるように生成された色変換プロファイルを用いて色変換が行われるので、従来のように色再現域を複数の角錐の領域に分割する場合に比べてより滑らかな色再現が可能である。また、異なる角度でスクリーン上の画像を観察したときに、その色の見えの変化が小さな画像を表示可能である。
【0012】
[適用例4]
4つ以上の複数の原色を用いてカラー画像を表示可能な画像表示装置であって、
予め準備された色変換プロファイルを参照して、入力カラー画像信号を前記複数の原色の原色値に変換する色変換部と、
前記色変換後の複数の原色の原色値に応じて画像を表示する画像表示部と、
を備え、
前記色変換プロファイルは、前記画像表示部によって表示されたカラーパッチを異なる角度で観察したときの色差を示す色差指数を含む評価指数が最小となるように生成されたプロファイルである、画像表示装置。
この画像表示装置によれば、表示されたカラーパッチ間での色差を示す色差指数を含む評価指数が最小となるように生成された色変換プロファイルを用いて色変換が行われるので、従来のように色再現域を複数の角錐の領域に分割する場合に比べてより滑らかな色再現が可能である。また、異なる角度で画像を観察したときに、その色の見えの変化が小さな画像を表示可能である。
【0013】
なお、本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、色変換プロファイルの作成方法及び装置、色変換プロファイルの作成システム、色変換プロファイルが実装された多原色表示装置、それらの方法または装置の機能を実現するためのコンピュータプログラム、そのコンピュータプログラムを記録した記録媒体等の形態で実現することができる。なお、本明細書において、「記録媒体」とは、DVD、ハードディスク、半導体メモリのような実体的な記録媒体を意味している。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態における色変換システムのブロック図である。
【図2】多原色表示装置の画像投影部の一構成例を示す説明図である。
【図3】多原色表示装置の画像投影部の他の構成例を示す説明図である。
【図4】プロファイル作成システムのブロック図である。
【図5】色変換プロファイルの作成手順を示すフローチャートである。
【図6】最良のサンプルを選択する処理手順を示すフローチャートである。
【図7】色差指数CDIaの算出手順を示すフローチャートである。
【図8】スクリーン1の分光反射率の測定値の例を示すグラフである。
【図9】スクリーン2の分光反射率の測定値の例を示すグラフである。
【図10】スクリーン3の分光反射率の測定値の例を示すグラフである。
【図11】スクリーン4の分光反射率の測定値の例を示すグラフである。
【図12】スクリーン4を別の角度から見た場合の分光反射率の例を示すグラフである。
【図13】第2実施形態における色差指数CDIbの算出手順を示すフローチャートである。
【図14】第3実施形態におけるプロファイル作成システムのブロック図である。
【図15】第3実施形態におけるプロファイルの作成手順を示すフローチャートである。
【図16】第3実施形態において最良のサンプルを選択する処理手順を示すフローチャートである。
【図17】色むら指数UEの算出方法のフローチャートである。
【図18】階調性指数SIの算出方法のフローチャートである。
【図19】粒状性指数GIの算出方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明の実施の形態を以下の順序で説明する。
A.色変換システムの全体構成:
B.第1実施形態(スクリーン間の色差を最小とするプロファイルの作成):
B-1.プロファイル作成の例:
B-2.分光投影モデルの一例:
B-3.スクリーンの分光反射率の影響:
C.第2実施形態(観察角度による色差を最小とするプロファイルの作成):
D.第3実施形態(色むらを最小とするプロファイルの作成):
E.変形例:
【0016】
A.色変換システムの全体構成:
図1は、本発明の一実施形態における色変換システムのブロック図である。この色変換システムは、色変換装置100と、多原色表示装置200と、スクリーン300とを備えている。この色変換システムは、入力画像信号に応じて、カラー画像をスクリーン300上に投写表示するシステムである。なお、この色変換システムを「多原色表示システム」とも呼ぶ。
【0017】
多原色表示装置200は、N個(Nは4以上の整数)の原色の光を利用したカラー画像表示装置である。この多原色表示装置200は、色変換装置100から入力されるN個の多原色表示信号(R,G,B,Y,C)に応じて、N種類の色光(「原色光」とも呼ぶ)を変調し、変調後の色光をスクリーンに投射する。図1の例では、R(Red), G(Green), B(Blue), Y(Yellow), C(Cyan)の5つの原色の光を使用したプロジェクターが例示されている。但し、多原色表示装置200で使用する原色光の種類や数は、これ以外の種々のものを採用可能である。なお、RGB以外の色は、通常は加法混色の原色として使用されていないが、本明細書では、カラー画像表示のために変調される光の色を「原色」と呼ぶ。多原色表示装置200の具体例については後述する。
【0018】
色変換装置100は、PCなどの画像入力装置から入力されたRGB信号などの3原色表色系の入力画像信号を、多原色表色系の画像信号に変換する装置である。色変換装置100は、色変換部110と、色変換プロファイル格納部120と、色変換プロファイル選択部130とを備えている。色変換部110は、色変換プロファイル選択部130が選択したプロファイルを参照して、3原色データR,G,Bを多原色データR,G,B,Y,Cに変換するモジュールである。なお、色変換装置100を、多原色表示装置200の内部に設けるようにしてもよい。
【0019】
色変換プロファイル格納部120には、複数種類の色変換プロファイルPF1, PF2, PF3…が記録されている。第1のプロファイルPF1は、異なるスクリーン間における色差を最小とするプロファイルである。第2のプロファイルPF2は、同一のスクリーンを使用したときの観察角度の違いによる色差を最小とするプロファイルである。第3のプロファイルPF3は、色むらを最小とするプロファイルである。後述するように、各プロファイルは、異なる評価指数を利用して作成されている。なお、色変換プロファイルとしては、これ以外の種々のものを採用可能である。
【0020】
各プロファイルは、RGBデータ(例えばsRGBデータ)をRGBYCの各原色値に変換するためのプロファイルであり、sRGB表色系とRGBYC表色系とのそれぞれによって色を表現するとともに両者を対応づけ、色再現域の全般にわたって予め選択された複数の色について、この対応関係を記述したテーブルである。色変換部110は、1つのプロファイルを参照し、補間演算を利用して、sRGB表色系で表現された任意の色をRGBYC表色系の色に変換することができる。
【0021】
なお、個々のプロファイルに含まれるデータは、色再現域を細かく分割した入力格子点に対応する値となっており、その格子点の分割数は、9x9x9や17x17x17、33x33x33など、任意の数を設定可能である。
【0022】
色変換プロファイル選択部130は、色変換プロファイル格納部120に予め記憶されている複数のプロファイルPF1, PF2, PF3…の中から適切なプロファイルを選択して取得する。すなわち、プロファイルデータPF1, PF2, PF3…は、それぞれが異なる評価指数を利用して作成されているので、各プロファイルによって得られる多原色表示データが互いに異なり、色変換対象として好ましい画像や表示条件が異なる。そこで、色変換プロファイル選択部130が適切なプロファイルを選択し、色変換部110が選択されたプロファイルを参照することで、表示対象の画像や観察条件、利用者の意図等に的確に対応した色変換を実施することが可能になる。
【0023】
なお、色変換プロファイル選択部130は適切なプロファイルを選択することができればよく、一実施形態として、予め利用者が1つのプロファイルを選択する構成を採用可能である。例えば、プロジェクターのOSD設定画面(オンスクリーンメニュー表示画面)に対して、プロファイル選択用の設定画面(図示せず)を表示させ、プロジェクターに備えられたスイッチによるユーザの入力操作を受け付けることによって、選択されたプロファイルを色変換プロファイル選択部130が認識できるように構成することができる。そして、色変換プロファイル選択部130がこのプロファイルを選択すれば、利用者の意図に的確に対応した色変換を実施することが可能になる。
【0024】
第1のプロファイルPF1が選択されている場合には、色変換部110は、同じ画像を異なるスクリーン上で画像を観測したときの色が略一致するように色変換を行う。また、第2のプロファイルPF2が選択されている場合には、色変換部110は、同じ画像を同一のスクリーン上で異なる観察角度で観測したときの色が略一致するように色変換を行う。さらに、第3のプロファイルPF3を選択している場合には、色変換部110は、画像の色むらが最小になるように色変換を行う。
【0025】
図2は、多原色表示装置200の画像投影部の一構成例を示す説明図である。この多原色表示装置200は、制御部210と、2つの光源ランプ221,222と、ダイクロイックミラー231〜233と、反射ミラー241〜245と、液晶パネルで構成された変調素子251〜255と、クロスダイクロイックプリズム261,262と、投写レンズ270とを有している。実際には、これら以外の各種の光学素子(レンズ、カラーフィルタ、偏光分離膜など)も設けられているが、ここでは簡略化のために省略されている。光源ランプ221,222はいずれも白色の平行光を射出する。第1の光源ランプ221から射出された白色光は、ダイクロイックミラー231,232によってRGBの3色の光に分離され、各色用の変調素子251〜253で変調された後に、クロスダイクロイックプリズム261によって統合される。第2の光源ランプ222から射出された白色光は、ダイクロイックミラー233によってY,Cの2色の光に分離され、各色用の変調素子254〜255で変調される。第2のクロスダイクロイックプリズム262は、これらの2つの色光Y,Cと、第1のクロスダイクロイックプリズム261で統合された色光R,G,Bとを統合して、5つの色光R,G,B,Y,Cを含む合成画像光を生成する。この合成画像光は、投写レンズ270によってスクリーン300上に投写される。制御部210は、変調素子251〜255に変調信号を送信して変調を行わせるとともに、必要に応じて光源ランプ221,222の出力を調整する機能を有する。投写される画像の輝度は、光源ランプから射出される光の強度と、変調素子における光の透過率との積で決まる。従って、例えば、色光R,G,Bの輝度をあまり高くする必要がない場合には、第1の光源ランプ221の出力を低下させて、消費電力を低減することが可能である。同様に、色光Y,Cの輝度をあまり高くする必要がない場合には、第2の光源ランプ222の出力を低下させて、消費電力を低減することが可能である。なお、光源ランプとしては、1つのランプのみを設けてもよく、或いは、各色毎に異なる光源ランプを設けてもよい。光源ランプの数が多いほど、画像の色に応じて消費電力を低減できる可能性が高い。
【0026】
図3は、多原色表示装置の画像投影部の他の構成例を示す説明図である。この多原色表示装置200aは、図2の画像投影部における光源ランプ221,222とダイクロイックミラー231〜233と反射ミラー241〜245を、画素発光素子281〜285に置き換えたものである。実際には、これら以外の各種の光学素子(レンズや偏光分離膜など)も設けられているが、ここでは簡略化のために省略されている。画素発光素子281〜285は、それぞれ異なる色光R,G,B,Y,Cを画素毎に発光する素子である。制御部210は、個々の画素発光素子281〜285にそれぞれの色の表示信号(制御信号)を供給することによって、各画素における色の発光量を制御する。この多原色表示装置200aでは、ある色光の輝度が小さい場合には、その画素発光素子の出力が低下するので、これに応じて装置全体の消費電力が低下する。
【0027】
図2及び図3から理解できるように、2つ以上の光源を有するとともに、各光源から1つ又は複数の原色光をそれぞれ発生する光学系を有する画像投影部(「画像表示部」とも呼ぶ)を備えた多原色表示装置を利用することが可能である。このような多原色表示装置では、各光源の出力を独立に制御できるので、多原色を利用した色再現方法を工夫することによって消費電力をかなりの程度低下させることが可能である。但し、光源を1つだけ設けるようにしてもよい。また、多原色表示装置としては、プロジェクター(投写型表示装置)に限らず、直視型の表示装置も利用可能である。
【0028】
以下では、このような色変換システムで使用可能な各種の色変換プロファイルを作成する方法について説明する。
【0029】
B.第1実施形態(スクリーン間の色差を最小とするプロファイルの作成):
B-1.プロファイル作成の例:
第1実施形態では、分光特性(分光反射率または分光透過率)が異なる複数のスクリーンに画像を投写表示した場合に、スクリーン間での色の差異が最小となるようなプロファイルを作成する。
【0030】
図4は、色変換プロファイルを作成するプロファイル作成システムのブロック図である。このプロファイル作成システムは、分光投影モデルコンバータ500と、インデックス選択部510と、消費電力指数算出部520と、色差指数算出部530と、評価指数算出部550と、サンプル選択部560と、プロファイル生成部570と、ガマットマッピング処理部580とを備えている。
【0031】
分光投影モデルコンバータ500は、多原色データを、その多原色データに応じて投影されるカラーパッチの画像光の分光強度Ismp(λ)に変換する。すなわち、この分光強度Ismp(λ)は、多原色表示装置200から射出される画像光の分光強度である。なお、本明細書において「カラーパッチ」とは、有彩色のパッチに限らず、無彩色のパッチ含む広い意味を有している。この実施形態では、R,G,B,Y,Cの5色の原色を利用可能なプロジェクターを想定しており、分光投影モデルコンバータ500もこの5種類の原色の強度(原色値)を入力としている。分光強度Ismp(λ)は、多原色表示装置200の型式に依存するので、分光投影モデルコンバータ500は多原色表示装置の型式毎に予め準備される。分光投影モデルについては、後で詳述する。以下では、「分光投影モデル」を「フォワードモデル」とも呼ぶ。
【0032】
インデックス選択部510は、分光強度Ismp(λ)とともに、各種の指数の作成に必要なデータやパラメーターを、個々の指数算出部520、530に供給する機能を有する。指数の作成に必要なデータやパラメーターとしては、例えば、複数のスクリーンの分光反射率データや、同一スクリーンの観察角度毎の分光反射率データ、各原色の信号レベルに応じた多原色表示装置の消費電力、各指数の重み係数等が使用される。消費電力指数算出部520は、多原色表示装置200の消費電力の大きさを示す消費電力指数Tpowerを算出するためのTpower算出部522を備えている。色差指数算出部530は、特性の異なる複数のスクリーンに画像を投影した場合の色差を示す色差指数CDIを算出するためのCDI算出部532を備えている。
【0033】
インデックス選択部510は、ユーザからの指定に応じて消費電力指数Tpowerと色差指数CDIの重みを0.0〜1.0の範囲で設定可能であり、また、それらの重みを消費電力指数算出部520と色差指数算出部530に供給することが可能である。これにより、各算出部520,530で指数が計算される。インデックス選択部510は、利用者の指示を受け付けて予めいずれの指数を用いるのかを決定するなど、種々の構成を採用可能である。
【0034】
評価指数算出部550は、消費電力指数算出部520と色差指数算出部530とが出力する指数Tpower, CDIから、高い色彩恒常性及び/又は低消費電力を満たすサンプル多原色データを選択するための評価指数EIを算出する。なお、本明細書において、「高い色彩恒常性」という用語は、異なるスクリーン間の色差や、同一スクリーン上での異なる観察角度の間の色差が小さいことを意味している。
【0035】
この評価指数EIは、分光投影モデルコンバータ500に入力される複数のサンプル多原色データのそれぞれに対して算出される。サンプル選択部560は、これらの複数のサンプル多原色データそれぞれについての評価指数EIから、良好な評価指数EIを有するサンプル多原色データを選択する。プロファイル生成部570は、選択されたサンプル多原色データと、それらのサンプル多原色データを用いて表示されるカラーパッチの測色値(L*a*b*値)とを用いて、原色プロファイル572を作成する。この原色プロファイル572は、測色値(L*a*b*値)と多原色データRGBYCとの対応関係を示すルックアップテーブルである。なお、「原色プロファイル」を「出力デバイスプロファイル」とも呼ぶ。本明細書において、「プロファイル」とは、色空間の変換を行うための変換規則を具現化したものを意味しており、各種のデバイスプロファイルとルックアップテーブルとを含む広い意味を有している。
【0036】
ガマットマッピング処理部580は、この原色プロファイル572と、予め準備されたsRGBプロファイル582とを用い、ガマットマッピングを行うことによって、プロファイルデータ590を作成する。第1実施形態において、このプロファイルデータ590は、図1の第1のプロファイルPF1のデータである。ここで、sRGBプロファイル582としては、例えばsRGB色空間をL*a*b*色空間に変換するプロファイルを使用することができる。なお、「sRGBプロファイル」を「入力デバイスプロファイル」とも呼ぶ。
【0037】
図5は、プロファイル作成システムによる色変換プロファイルの作成手順を示すフローチャートである。ステップS100では、分光投影モデルを決定して、分光投影モデルコンバータ500を作成する。一実施形態では、分光投影モデルとして各原色の最大出力に重みを与えて合成する線形モデルを使用する。その詳細については後述する。
【0038】
次のステップS110では、多数の仮想サンプルを設定する。ここで、「仮想サンプル」とは、プロファイルの作成処理において使用される仮の多原色データ、および、その多原色データに応じて表示される仮想的なカラーパッチを意味している。なお、以下では、仮想サンプルを単に「サンプル」とも呼ぶ。一実施形態では、RGBYCの各原色に関して、0〜100%の範囲で10%おきに11点の原色値をそれぞれ設定し、5種類の原色値のすべての組合せを仮想サンプル(サンプル多原色表示データ)として準備する。こうすれば、115=161,051個の仮想サンプルが準備される。なお、「原色値100%」の色とは、1種類の原色の出力を最大にしたときの色を意味する。
【0039】
次のステップS120では、分光投影モデルコンバータ500を用いて、各仮想サンプルの多原色データを、多原色表示装置200の分光強度Ismp(λ)(「分光発光強度Ismp(λ)」とも呼ぶ)に変換する。インデックス選択部510はこの分光強度Ismp(λ)を取得し、この分光強度Ismp(λ)を有する光を、全ての波長の反射率が1.0である理想的な白色板に投影した場合のCIELAB表色系の測色値L*a*b*を算出する。この測色値L*a*b*は、例えばCIE1931 2ー観測者の観察条件で算出することが可能である。各サンプルの測色値L*a*b*と、サンプル多原色データRGBYCとの対応関係は、一時的にメモリ(図示せず)に記憶される。
【0040】
次のステップS130では、測色値L*a*b*の色空間(ここではCIELAB空間)の全体を複数のセルに分割し、予め準備した複数のサンプル色をセルに関してソート(分類)する。例えば、CIELAB空間を16×16×16個のセルに均等に分割するようにしてもよい。
【0041】
以上の処理で、評価指数EIを算出するために必要なデータの準備が完了したので、次のステップS140では、好ましいサンプルの選択に使用する評価指数EIを設定する。第1実施形態で使用される評価指数EI1は、以下の(1-1)式で表されるものを想定する。
【数1】
ここで、CDIaは色差指数であり、Tpowerは電力消費指数である。k1とk2はCDIaとTpowerに乗じられる重み付け係数であり、それぞれの指数が評価指数EI1に寄与する度合を調整する。なお、典型的な例では、係数k1は0以外の数(例えば1.0)であり、係数k2は0を含む任意の数(例えば、0又は0.5)に設定される。すなわち、色差指数CDIaは必ず評価指数EI1に含まれるが、消費電力指数Tpowerは任意の好ましい重みで評価指数EI1に含め得る。なお、係数k1,k2の値は、任意に変更しても良い。これらの係数k1,k2は、主観評価により、試行錯誤的に決めることが可能である。
【0042】
ステップS150では、評価指数算出部550が、各サンプルに対する評価指数EI1を算出し、サンプル選択部560がこの評価指数EI1に応じてCIELAB色空間の各セル内で最良のサンプルを選択する。
【0043】
図6は、ステップS150の詳細手順を示すフローチャートである。最初のステップS151では、あるセル内の1つのサンプルを選択する。次のステップS152では、色差指数CDIaを算出する。次のステップS153で消費電力指数Tpowerの重みk2が0でないと判断されたときにはステップS154で消費電力指数Tpowerを算出し、重みk2が0であると判断されたときには、次のステップS155に進む。ステップS155では、上記(1-1)式に従って評価指数EI1を算出し、そのセル内の全てのサンプルに対して評価指数EI1を計算し終わるまでこの処理を続ける。そのセル内の全てのサンプルに対する指数の計算が終了すると、次のステップS157で、評価指数EI1がベストなサンプルを選択し、処理を終了する。なお、図6の処理は、CIELAB空間内のすべてのセルに対してそれぞれ実行される。
【0044】
図7は、図6のステップS152における色差指数CDIaの算出手順を示すフローチャートである。この処理はCDI算出部532(図4)によって実施される。この処理に際して、インデックス選択部510は、分光投影モデルコンバータ500から供給される分光強度Ismp(λ)をCDI算出部532に受け渡す。最初のステップS200では、スクリーンの番号を示すパラメーターiに1番目のスクリーンAであることを示す値1を代入する。
【0045】
CDI算出部532は、次のステップS210において、投射されるカラーパッチの分光強度Ismp(λ)とスクリーンAの分光反射特性Rscr(1,λ)を乗算することによって、視覚に入射する分光強度Osmp(1,λ)を算出する。
【数2】
ここで、i番目のスクリーンの分光反射特性Rscr(i,λ)は既知である。
【0046】
次のステップS220では、この分光強度Osmp(1,λ)から三刺激値XYZを算出する。例えば、ある分光反射特性Rscr(1,λ)をもつスクリーンAに対して投影した場合の、CIE1931 2ー観測者の観察条件で三刺激値XYZを算出することができる。本明細書において、「観察条件」とはスクリーンと観測者の組合せを意味しているが、特に言及しない限り観測者としてCIE1931 2ー観測者を使用する。
【0047】
次のステップS230では、この三刺激値XYZに色順応変換を適用して、標準観察条件での対応色を算出する。例えば、標準観察条件の光源として標準の光D65を用い、色順応変換としてCIECAT02を利用することができる。CIECAT02については、例えば"The CIECAM02 Color Appearance Model", Nathan Moroney et al., IS&T/SID Tenth Color Imaging Conference, pp. 23-27,および、"The performance of CIECAM02", Changjun Li et al., IS&T/SID Tenth Color Imaging Conference, pp. 28-31に記載されている。但し、色順応変換としては、フォン・クリースの色順応予測式などの他の任意の色順応変換を用いることも可能である。また、色順応変換を省略しても良いが、色順応変換を行えば、色の見えの差異をより正しく評価することができる。
【0048】
次のステップS240では、この対応色のCIELAB表色系の測色値L*a*b*を算出する。ステップS250ではパラメーターiが1だけインクリメントされ、ステップS260では、パラメーターiがスクリーン数Nscrを越えたか否かが判断される。スクリーン数Nscrは、評価対象とするスクリーンの数であり、2以上の任意の整数である。パラメーターiがスクリーン枚数Nscrを越えていなければ、ステップS210に戻り、ステップS210〜S250の処理を繰り返す。こうして、すべてのスクリーンに対するCIELAB表色系の測色値L*a*b*を求めた後、最後のステップS270に移行する。
【0049】
最終ステップS270では、以上で得られた測色値L*a*b*の複数の組から、色差指数CDIaを算出する。色差指数CDIaは、例えば以下の式で表現される。この式は、全てのスクリーンのうちから2つを選択して得られるすべてのスクリーンペアに関する色差の平均を求めている。
【数3】
ここで、Nscrは評価対象とするスクリーンの数、L*(i)はi番目のスクリーンでのL*値、a*(i)はi番目のスクリーンでのa*値、b*(i)はi番目のスクリーンでのb*値である。(1-3)式の分母は、Nscr個の要素から2つの要素をとる組み合わせの数である。
【0050】
なお、色差指数CDIaの算出に使用する色差式としては、他の式を用いることも可能である。色差指数CDIaは、あるカラーパッチを複数の異なるスクリーンに投影して観察したときの色の見えの差として定義される。従って、色差指数CDIaが小さいサンプルは、異なるスクリーンに投影した際の色の見えの差が小さいという点で好ましい。
【0051】
以上のように色差指数CDIaを算出した後、図6のステップS154では、Tpower算出部522によって消費電力指数Tpowerを算出する処理が実行される。Tpower算出部522は、サンプルの多原色データRGBYCを入力として、この多原色データRGBYCが表すカラーパッチを表示した際に多原色表示装置200が消費する電力をシミュレーションにより算出する。この消費電力指数Tpowerは、例えば、複数組の多原色データに従ってカラーパッチを表示した際の消費電力をそれぞれ測定しておき、個々の多原色データに対応する消費電力を線形補間することで求められる。
【0052】
多原色表示装置200の消費電力及びその調整可能範囲は、多原色表示装置200のタイプに依存する。例えば、図2に示したように、2つの光源ランプ221,222を有する多原色表示装置200を使用する場合には、個々の光源ランプ221,222に必要とされる出力(輝度)が、再現する色によって異なる。従って、消費電力指数Tpowerとして、2つの光源ランプ221,222の合計の消費電力を示す指数を使用することが可能である。例えば、図2の多原色表示装置200に関する消費電力指数Tpowerは、以下の式で表すことが可能である。
【数4】
(1-4)式の右辺第1項と第2項は2つの光源ランプ221、222の消費電力をそれぞれ示している。係数a1, a2は、原色値とランプ消費電力との換算係数である。
【0053】
なお、この消費電力指数Tpowerは1色のカラーパッチのみを画面上に表示する際の消費電力を示している。従って、多数の色で構成されたカラー画像を消費電力指数Tpowerが小さな色で表示するものとしても、画面全体として消費電力が低下することは保証されていない。しかしながら、通常は、消費電力指数Tpowerが小さな色でカラー画像を表示すれば、画面全体では消費電力が低くなる場合が十分に多いものと推定される。この意味で、カラーパッチの選択時の評価指数EI1として、消費電力指数Tpowerを含むものを使用することに十分な意義がある。
【0054】
また、図3に示したように、原色毎に設けられた画素発光素子281〜285を有する多原色表示装置200aを使用する場合にも、個々の画素発光素子281〜285に必要とされる出力(輝度)が再現する色によって異なる。従って、消費電力指数Tpowerとして、複数の画素発光素子281〜285の合計の消費電力を示す指数を使用することが可能である。このような消費電力指数Tpowerは、例えば以下の式で算出することが可能である。
【数5】
(1-5)式の右辺第1項〜第5項は5つの画素発光素子281〜285の消費電力をそれぞれ示している。係数a1〜a5は、原色値とランプ消費電力との換算係数である。
【0055】
この多原色表示装置200aでは、図2の装置とは異なり、画素毎に別個に発光するので、消費電力指数Tpowerが小さな色再現だけを利用すれば、画面全体でも消費電力が低下することが保証される。
【0056】
1つの光源のみを有する多原色表示装置に関する消費電力指数Tpowerは、例えば以下の式を用いて算出することが可能である。
【数6】
【0057】
このような1つの光源のみを有する多原色表示装置においても、消費電力指数Tpowerの小さな色で画面全体を表示すれば、消費電力が低下することが期待できる。
【0058】
図6のステップS151〜S154の処理により、評価指数EI1の構成要素としての色差指数CDIaと消費電力指数Tpowerとが算出されたことになるので、図6の次のステップS155では、上記(1-1)式によって評価指数EI1を算出する。次のステップS156では、処理対象となっているセルに含まれるすべてのサンプル色に関して評価指数EI1の算出が終了したか否かが判断される。こうして、各ステップが繰り返し実行されて、そのセル内のすべてのサンプル色に関して評価指数EI1が算出される。次のステップS157では、サンプル選択部560が、そのセル内の複数のサンプル色のうちで、評価指数EI1が最良であるサンプルを、そのセルに関する代表サンプルとして選択する。この結果、少なくとも1つのサンプルを含む各セルに関して、1つの代表サンプルがそれぞれ選択される。以下では、代表サンプルを「高評価サンプル」又は「最良サンプル」とも呼ぶ。
【0059】
図5の最終ステップS160では、ガマットマッピング処理部580(図4)が、原色プロファイル572とsRGBプロファイル582とに基づいてガマットマッピングを行い、プロファイルデータ590を作成する。ガマットマッピングを行う理由は、多原色表示装置200で再現可能な色域と、入力色空間(この実施形態ではsRGB空間)で表現可能な色域とに差があるためである。原色色空間の色域は原色プロファイル572で規定されており、入力色空間の色域はsRGBプロファイル582で規定されている。一般に、入力色空間と原色色空間には食い違いがあるので、入力色空間の色域を原色色空間の色域にマッピングすることが好ましい。
【0060】
こうしてガマットマッピングが行われると、最終的なプロファイルデータ590が完成する。このプロファイルデータ590を多原色表示装置200に実装すれば、色彩恒常性が高く(すなわち、異なるスクリーンに投影した場合でも色の見えの変化が小さく)、高画質な表示が可能である。また、消費電力指数Tpowerの重みk2として0で無い重みを用いて作成したプロファイルデータを使用すれば、低消費電力を実現可能である。
【0061】
B-2.分光投影モデルの一例:
以下では、分光投影モデルの一例を説明する。プロジェクターによってスクリーンに投影される光の分光強度Ismp(λ)は、次式に従って求められる。
【数7】
【数8】
ここで、IR(λ), IG(λ), IB(λ), IYe(λ), IC(λ)はそれぞれ各原色の入力レベル、BK(λ)は全原色の入力レベルを0にしたときの分光強度(バックグラウンド強度)、Rmax(λ), Gmax(λ), Gmax(λ), Yemax(λ), Cmax(λ)はそれぞれ、各原色の最大出力の分光強度,γは画像投影部のγ値である。なお、上記(1-8a)〜(1-8e)式は、各色の強度IR(λ), IG(λ), IB(λ), IYe(λ), IC(λ)からバックグラウンド強度BK(λ)を減算した値がγ特性を示すことを表している。
【0062】
なお、ここで用いた分光強度Rmax(λ), Gmax(λ), Gmax(λ), Yemax(λ), Cmax(λ), BK(λ)は実際にプロジェクターからスクリーン上に投影された画像の分光強度を測定し、その測定値をスクリーンの分光反射率(既知)で除算することによって求めた特性である。すなわち、これらの分光強度Rmax(λ), Gmax(λ), Gmax(λ), Yemax(λ), Cmax(λ), BK(λ)は、分光反射率が1.0であるスクリーンに投影した場合に観察される光強度である。それぞれの分光強度は、プロジェクターの光学要素(光源、レンズ、ダイクロイックミラー、カラーフィルタ、液晶パネルなど)の分光特性の影響を受けるため、上記の要素が異なる型式のプロジェクターに対してこのモデルを適用する場合は、分光強度を測定しなおすことが好ましい。また、同じ型式のプロジェクターでも、実際には多少特性が異なるので、同じ型式の複数のプロジェクターを用意し、それぞれ分光強度の測定を行って、それらの平均値を取ることが好ましい。
【0063】
B-3.スクリーンの分光反射率の影響:
図8〜図11は、実在するスクリーンの分光反射率の測定値の例を示すグラフである。これらの測定値は、スクリーン1〜4に対してほぼ垂直に光を投射表示し、スクリーンの法線から所定角度(例えば30度)傾いた方向から観察した場合の測定例である。
【0064】
下記の表1は、これらのスクリーンに対して、異なる色を有する3種類のカラーパッチをそれぞれ投影した場合の色差指数CDIaの算出例である。
【表1】
【0065】
表1から、ほぼ同じ(L*,a*,b*)値をとる異なる原色値の組み合わせを持つサンプルが複数あるが、それらのサンプル毎に、色差指数CDIaの値が異なることが理解できる。よって、最も小さい色差指数CDIaをとるサンプル(原色値の組み合わせ)を選択することにより、複数のスクリーンに対して、色の見えの変化が小さい画像表示を行えることがわかる。なお、表1は、原色値の組み合わせ全体の中の一部のみを評価した結果であり、全てのサンプルを評価すれば、さらに色差指数CDIaの値の差が広がる可能性がある。
【0066】
以上のように、第1実施形態では、サンプルを選択する際の評価指数EI1として、少なくとも色差指数CDIaを含み、また、所望により消費電力指数Tpowerを含む評価指数EI1を使用している。従って、これらの種々の指数及びその重みを加味した色変換プロファイルを容易に作成することができる。すなわち、異なるスクリーンに投影した場合でも色の見えの変化が小さい色再現を達成する色変換プロファイルを容易に作成することができ、また、この色再現の達成と同時に低消費電力での表示を実施可能な色変換プロファイルを作成可能である。さらに、本実施形態では、従来技術のように、色再現域を複数の角錐の領域に分割していないので、従来に比べてより滑らかな色再現が可能な色変換プロファイルを作成することが可能である。
【0067】
C.第2実施形態(観察角度による色差を最小とするプロファイルの作成):
第2実施形態では、スクリーンを1つの種類に固定し、視聴者が異なる位置に座っていても、つまり、異なる角度からスクリーンを見た場合でも、色の見えの差異が最小となるように色変換プロファイルを作成する。
【0068】
図12は、図11に示したスクリーン4を異なる角度から見た場合の分光反射率の例を示すグラフである。なお、図12は、スクリーン4に対してほぼ垂直に光を投射表示し、スクリーンの法線にほぼ近い角度で観察した場合の例である。図11と図12の比較から、観察角度によって分光反射率が異なり、異なる位置から映像を観察する場合には色の見えも異なることが理解できる。よって、この色の見えの差異を最小にするような原色値の組み合わせを出力する色変換プロファイルを作成しておくことで、いずれの方向からみても色の変化が少ない表示が可能となる。第2実施形態が第1実施形態と異なる点は色差指数CDIを求めるフローであり、装置構成は第1実施形態と同じである。
【0069】
図13は、第2実施形態における色差指数の算出手順を示すフローチャートである。図13の処理は、図7のステップS210、S260を変更したものであり、他のステップは図7と同じである。なお、ステップS200におけるパラメーターiは、スクリーンの観察角度の番号を示すパラメーターであり、また、ステップS260aの角度数Nangleは、異なる観察角度の個数を示すパラメーターである。
【0070】
ステップS210aでは、i番目の角度からスクリーンを観察したときのスクリーンAの分光反射特性Rscr(i,λ)と、サンプルの分光強度Ismp(λ)とを乗算して、視覚に入射する分光強度Osmp(1,λ)を算出する。ステップS220以降の処理は、図7のステップS220以降の処理とほぼ同じである。
【0071】
図13の最終ステップS270では、色差指数CDIbが算出される。色差指数CDIbは、例えば以下の式で表現される。この式では、全ての角度の組に対する色差の平均を求めている。
【数9】
ここで、Nangleは評価対象とする観察角度の数、L*(i)はi番目の角度から見た場合のL*値、a*(i)はi番目の角度から見た場合のa*値、b*(i)はi番目の角度から見た場合のb*値である。なお、色差指数CDIbの算出に使用する色差式としては、他の式を用いることも可能である。
【0072】
この色差指数CDIbは、同一スクリーン上に表示された同一色のカラーパッチを複数の異なる角度から観察したときの色の見えの差として定義されている。従って、色差指数CDIbが小さいサンプルは、異なる角度から観察した際の色の見えの差が小さいという点で好ましい。
【0073】
第2実施形態において、サンプル選択部560が高評価サンプルを選択する際に使用する評価指数としては、上記(1-1)式と同様な次の(2-2)式で与えられる評価指数EI2を利用することが可能である。
【数10】
【0074】
以上説明した第2実施形態によれば、異なる角度から観察した場合でも、色の見えの差異が小さい色変換プロファイルを作成することができる。この色変換プロファイルデータをプロジェクターに実装すれば、異なる角度から観察した場合の色彩恒常性が高い、高画質な表示が可能である。また、(2-2)式の重みk2として0でない値を使用すれば、観察角度による色差が小さく、かつ、低消費電力での表示を実施可能なプロファイルを作成可能である。
【0075】
なお、色差指数CDIとしては、上述した2種類の色差指数CDIa, CDIb以外のものも使用可能である。例えば、下記の(2-3)式に従って色差指数CDIを算出すれば、特定のスクリーンにおいて、ターゲットとする色に忠実な色表示が可能な色変換プロファイルを作成することが可能である。
【数11】
ここで、L*, a*, b*は評価対象サンプルに対して算出された測色値であり、L*Target, a*Target, b*Targetは、各サンプルがターゲットとする測色値である。
【0076】
このように、色差指数CDIとしては、サンプルの分光強度Ismp(λ)から算出されるサンプル色に関する色差を表す色差指数であって、予め指定されたタイプの色差指数を使用することが可能である。
【0077】
D.第3実施形態(色むらを最小とするプロファイルの作成):
第3実施形態では、表示されるカラーパッチの色むらを最小とするような色変換プロファイルを作成する。
【0078】
図14は、第3実施形態におけるプロファイル作成システムのブロック図である。このプロファイル作成システムは、図4のシステムに、画質指数算出部540を追加した構成を有しており、他の構成は図4のシステムと同じである。
【0079】
画質指数算出部540は、表示される各パッチの画質指数として、画面の色むらの程度を示す色むら指数UEを算出するUE算出部542と、階調の滑らかさを示す階調性指数SIを算出するSI算出部546と、粒状度を示す粒状性指数GIを算出するGI算出部544を備えている。また、消費電力指数算出部520と色差指数算出部530は、第1実施形態又は第2実施形態で説明したものと同じ指数を算出可能である。
【0080】
インデックス選択部510は、それぞれの指数算出部520〜540における指数の算出に必要なデータやパラメーターを、各指数算出部520〜540に受け渡す。また、インデックス選択部510は画質指数UE,GI,SIと消費電力指数Tpowerと色差指数CDIの重みが0.0〜1.0までの間で変化するように、各指数算出部520〜540を制御する。
【0081】
図15は、第3実施形態における色変換プロファイルの作成手順を示すフローチャートである。この手順は、図5のステップS140,S150の内容を変更したものであり、他のステップは図5と同じである。
【0082】
ステップS140aでは、好ましいサンプルの選択に使用する評価指数EI3が設定される。この評価指数EI3は、例えば以下の式で表される。
【数12】
ここで、CDIは第1又は第2実施形態で説明した色差指数であり、Tpowerは電力消費指数、UEは色むら指数、SIは階調性指数、GIは粒状性指数である。k1〜k5は各指数の重み付け係数であり、それぞれの指数が評価指数EI3に寄与する度合を示す。なお、第3実施形態では、色差指数CDIの係数k1と色むら指数UEの係数k3は0以外の数であり、他の係数k2, k4, k5は0を含む任意の数に設定可能である。これらの係数は、主観評価により、試行錯誤的に決められる値である。
【0083】
図15のステップS150aでは、評価指数算出部550が、各サンプルに対する評価指数EI3を算出し、サンプル選択部560がこの評価指数EI3に応じてCIELAB色空間の各セル内で最良のサンプルを選択する。
【0084】
図16は、ステップS150aの詳細手順を示すフローチャートである。図16の処理手順は、図6のステップS154とステップS155の間に、ステップS301〜S306を追加したものであり、他のステップは図6と同じである。ステップS301〜S306では、色むら指数UEと、階調性指数SIと、粒状性指数GIの重み係数k3, k4, k5が0で無い場合に、それぞれの指数が算出される。なお、上述したように、第3実施形態においては、色むら指数UEの重み係数k3は0以外の値に設定されて、少なくとも色むら指数UEは算出されることが好ましい。但し、上記(3-1)式の5つの指数CDI, Tpower, UE, SI, GIの係数k1〜k5は、少なくとも1つが0以外の値に設定されれば良く、他の係数は0に設定されてもよい。
【0085】
図17は、色むら指数UEの算出方法のフローチャートである。ステップS410では、サンプル多原色データに従ってカラーパッチを変調素子の画面全体に表示し、ステップS420では画面内の複数の測定位置においてRGBデータを測定する。ステップS430では、RGBデータを三刺激値XYZに変換し、ステップS440ではこれらの三刺激値XYZの平均値を算出する。そして、ステップS450では、三刺激値XYZの平均値を測色値(L*a*b*値)に変換することによって、カラーパッチ全体に渡る平均測色値を取得する。ステップS460では、個々の測定位置について、ステップS430〜S450と同様にしてL*a*b*値を算出する。
【0086】
ステップS470では、各測定位置のL*a*b*値と、カラーパッチ全体のL*a*b*平均値を用い、次式に従って色むら指数UEを算出する。
【数13】
ここで、Npixはサンプルカラーパッチ上の測定位置の数、L*(i)はi番目の測定位置のL*値、a*(i)はi番目の測定位置のa*値、b*(i)はi番目の測定位置のb*値である。この色むら指数UEは、各測定位置における測色値と、その平均値との間のユークリッド距離の平均値に相当する。なお、色むら指数UEの算出には、他の式を用いることも可能である。
【0087】
上記(3-2)式では3つの成分L*, a*, b*のユークリッド距離を求めているが、この代わりに、L*成分を考慮せずに、a*成分およびb*成分のみを考慮したユークリッド距離を用いても良い。また、パッチの輝度に応じた補正項を乗算するように上記(3-2)式を構成しても良い。
【0088】
多原色表示装置200における色むらは、変調素子(液晶ライトバルブ)や、レンズ、カラーフィルタ、画素発光素子などの各種の光学部品の製造誤差に起因して発生すると考えられる。例えば、薄膜を有する光学部品では、同じ寸法誤差でも、設計膜厚が薄いほど、その誤差によって画面全体に渡る輝度のむらが大きくなる傾向にある。従って、4つ以上の原色光のうちで、輝度のむらが比較的大きな原色光と、比較的小さな原色光とが存在する場合がある。このような場合に、多原色を用いた各種の色再現方法のうちで、輝度のむらが大きな原色光をより多く使用する色再現方法は色むらが大きくなりやすい。逆に、輝度のむらが小さな原色光をより多く使用する色再現方法を使用すれば、色むらを小さく抑えられる。このような具体的な特性を反映するために、ステップS410においては、複数台の多原色表示装置200を順次使用して同一のカラーパッチをそれぞれ表示し、表示されたカラーパッチ内の複数の測定箇所で色の測定をそれぞれ行うことが好ましい。こうすれば、多原色表示装置200を用いてカラーパッチを変調素子の画面全体に表示したときに発生する色むらの程度を示す色むら指数UEを得ることが可能である。
【0089】
図18は、階調性指数SIの算出方法のフローチャートである。最初のステップS510では、評価指数算出部550が上記(3-1)式の右辺第4項(k4・SI)以外の各項の和で与えられる評価指数EI3'を算出し、サンプル選択部560がこの評価指数EI3'が最小であるサンプルを各セル毎に1つずつ選択し、これを代表サンプルセットとする。この代わりに、各セルにおいて、評価指数EI3'が最小であるサンプルを複数個(例えば10個)選択し、それらのサンプルの平均値で表される色をそのセルの代表サンプルとして採用してもよい。評価指数EI3が粒状性指数GIを含む場合には、階調性指数SIの算出は粒状性指数GIの算出後に行えばよい。ステップS520では、これらの代表サンプルセットを用いて、各セルの代表サンプルに関するスムージング処理が行われる。すなわち、ここでは、CIELAB空間において3次元ガウス関数(Gaussian function)によるぼかし処理が行われる。ガウス関数は、CIELAB空間の1つのセルの代表サンプル(対象サンプル)と、これに近い他のセルの代表サンプルとに重みを与える。そして、これらの対象サンプルと代表サンプルの原色データにこの重みを乗じた値を足し合わせ、重みの合計で規格化を行って、対象サンプルに対するスムージングされたサンプル多原色データを得る。なお、スムージング処理としては、単純平均を用いてもよい。次のステップS530では、色再現域外において原色値が0に落ち込むことを防止するためにリスケーリング処理が実施される。すなわち、各原色データは各色の原色データの最大値によって除されるとともに、原色データのダイナミックレンジの最大値が乗じられる。この結果、各原色データの最大値は、そのダイナミックレンジの最大値(例えば255)に規格化される。このリスケーリング処理は、スムージング処理における繰り返しにおいてガマット内の原色値が低減してしまうことを防止するために実施されるものであるが、省略してもよい。
【0090】
次のステップS540では、以下の式によって、対象サンプルのぼかし前の多原色データで表される色とぼかし後の多原色データで表される色とのユークリッド距離を算出し、階調性指数SIとする。
【数14】
ここで、Aprimeは、ぼかし前の原色値であり、Aprime,blurは、ぼかし後の原色値、Primeは原色の種類を示すパラメーターである。
【0091】
この階調性指数SIは、ぼかし前後での色の変化を示しており、元のサンプルの色とぼかし後の色とがどの程度近いのかを示している。ここで、階調性指数SIが小さいほど色の変化が小さいので、その対象サンプルの色と、周囲の他のセルの代表サンプルの色との間隔がより均等に近く、その局所的な色の範囲で階調が滑らかに再現されると考えることができる。従って、階調性指数SIは、入力に対する階調変化の滑らかさを表す指標として利用できる。
【0092】
図19は、粒状性指数GIの算出方法のフローチャートである。この処理では、サンプルカラーパッチを表示し、その表示結果を撮影してそのカラーパッチのぼかし画像(blurred Image)と元の画像(original image)との差分を算出し、この差分を粒状性指数GIとする。この粒状性指数GIについては、M. D. Fairchild and G. M. Johnson, "Meet iCAM: and Image Color Appearance Model" IS&T/SID 10th Color Imaging Conference, Scottsdale,(2002),あるいはG. M. Johnson and M. D. Fairchild, "Rendering HDR Images" IS*T/SID 11th Color Imaging Conference, Scottsdale, (2003)に記述されたモデル(iCAM)を参照。
【0093】
ステップS550では、まず、サンプル多原色データを用いてサンプルパッチを多原色表示装置200で表示する。ステップS560においては、表示したサンプルパッチをスキャナで撮影してRGBデータを取得する。ここでは、サンプルパッチの粒状性を評価するので、変調素子や画素発光素子の解像度よりも高い解像度で(すなわち、より細かい画素ピッチで)測定を行うことが好ましい。RGBデータは、機器依存色空間内のデータであるため、ステップS570ではスキャナ特性変換(scanner characterization)を行って機器非依存色空間であるXYZ色空間内のデータに変換する。
【0094】
ステップS580〜S620では、ぼかし画像を作成する。まず、ステップS580では、XYZ色空間を反対色空間(opponent-colors space)に変換する。すなわち、反対色空間の各チャンネルについては実験等によって人間の目におけるコントラスト感度関数(contrast sensitivity function(csf))を周波数空間で定義することが可能であるので、このcsfを利用できるように変換を行う。この変換は、例えば以下の式によって算出することができる。
【数15】
ここで、AC1C2は反対色チャンネル(opponent channels)であり、Aが輝度チャンネルであり、C1C2がクロミナンスチャンネルである。
【0095】
上記csfは周波数空間で定義されるので、ステップS590では、各反対色チャンネルに対してフーリエ変換を実施する。ステップS600では、各反対色チャンネルに対して上述のcsfでフィルタリングを行う。すなわち、各成分に対してcsfを乗じる。一実施形態では、輝度に対して下記(3-5)式を利用し、クロミナンスチャンネルに対して下記(3-6)式を利用することができる。
【数16】
【数17】
ここで、fは周波数、csflumは輝度コントラスト感度関数(luminance contrast sensitivity function)、csfchromはクロミナンスコントラスト感度関数(chrominance contrast sensitivity function)である。また、係数a,b,c,a1,a2,b1,b2,c1,c2は予め設定される値である。
【0096】
以上のように、フィルタリングを行うと、ステップS610ではフィルタリング後の関数を逆フーリエ変換し、ステップS620でさらに反対色空間をXYZ色空間に変換する。この変換は、例えば以下の式によって算出することができる。
【数18】
【0097】
以上の処理により、ぼかし画像のXYZ値が算出され、上記ステップS570では元の画像のXYZ値が算出されているので、ステップS630ではそれぞれの画像についてCIELAB値を算出する。そして、ステップS640ではCIEDE2000色差式によってぼかし画像と元の画像とにおける色差を算出する。この色差は、カラーパッチのぼかし画像と元の画像との差分に相当するものであり、元のカラーパッチの粒状性が多いほど大きな値を示す。従って、この差分の値は、元のカラーパッチの粒状性の程度を示す粒状性指数GIとして利用可能である。
【0098】
なお、上述の粒状性指数GIの計算では、実際に表示した画像を撮影してGIを算出していたが、多原色データが示す色の画素を複数個集めて所定の面積を持たせた仮想的なサンプルカラーパッチを考えてシミュレーションにより粒状性指数GIを算出しても良い。
【0099】
また、RMS粒状度やウィナースペクトルを用いてサンプルカラーパッチの粒状性指数GIを求めても良い。さらに、笠原広和:"バンディング測定方法能ochJapan Hardcopy '04に記載された方法により、カラーパッチに含まれるバンディング成分と、粒状成分を分離した上で、粒状性指数を求めても良い。
【0100】
以上の処理により、評価指数EI3に含むべき各種の指数CDI, Tpower, UE, SI, GIとが算出されたことになるので図16の次のステップS155では、上記(3-1)式によって評価指数EI3を算出する。次のステップS156では、処理対象となっているセルに含まれるすべてのサンプル色に関して評価指数EI3の算出が終了したか否かが判断される。こうして、各ステップが繰り返し実行されて、そのセル内のすべてのサンプル色に関して評価指数EI3が算出される。次のステップでは、サンプル選択部560が、そのセル内のサンプル色のうちで、評価指数EI3が最良であるサンプルを、そのセルに関する代表サンプルとして選択する。この結果、少なくとも1つのサンプルを含む各セルに関して、1つの代表サンプルがそれぞれ選択される。
【0101】
以上のように、第3実施形態では、色差指数CDIと色むら指数EIを含む評価指数EI3を用いているので、滑らかな色再現を実現するとともに、色むらの少ない画像表示を達成するプロファイルを作成することが可能である。また、色差指数CDIとして、第1実施形態と同じ色差指数CDIaを使用すれば、同じ画像を異なるスクリーンに投影した場合に色の見えの変化が小さい色再現を達成するプロファイルを作成することができる。さらに、色差指数CDIとして、第2実施形態と同じ色差指数CDIbを使用すれば、同じ画像を同一スクリーンにおいて異なる角度で観察した場合でも色の見えの変化が小さい色再現を達成するプロファイルを作成することができる。また、評価指数EI3に消費電力指数Tpowerを含めるようにすれば、低消費電力での表示を実施可能なプロファイルを作成可能である。また、評価指数EI3に階調性指数SIや粒状性指数GIを含めるようにすれば、局所的な階調再現がより滑らかな色再現や、粒状性の少ない表示を実現するプロファイルを作成可能である。これらの各種の望ましい特性のうち、いずれを重視するかは、これらの特性に関する(3-1)式の重み係数k1〜k5を用いて調整することが可能である。
【0102】
E.変形例:
なお、この発明は上記の実施形態や実施例に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0103】
・変形例1:
上述した第1実施形態および第2実施形態では、消費電力指数Tpowerと色差指数CDIを用いて最適な多原色データを選択したが、評価指数EIに含まれる指数としては、画質や装置寿命に関わる指数を含めても良い。例えば、液晶素子やEL素子、レーザー発振素子などは、表示する原色の強度(温度)が寿命に与える影響がある。そこで、原色値の組み合わせによる装置寿命の程度を示す寿命指数を評価指数に含めても良い。なお、上述した各種の指数を求める式や算出方法は例示であり、これとは異なる他の式や算出方法を用いて、それぞれの指数を算出するようにしてもよい。
【0104】
・変形例2:
上述した各実施形態では、測色値の色空間を複数のセルに分割し、各セルにおいて評価指数EIが最良であるサンプルを代表サンプルとして選択していた。しかし、色変換プロファイルを作成する際に用いる複数の代表サンプルを選択する方法は、これらに限らず、一般には、評価指数EIに基づいて複数の代表サンプルを選択することが可能である。例えば、測色値の色空間を複数のセルに分割せずに複数の代表サンプル(最良サンプル)を選択することも可能である。具体的には、測色値の色空間内で複数のグリッド点(ノード)を設定し、各ノードの近傍の所定範囲に存在するサンプルの中で評価指数EIが最も小さなサンプルをそのノードの代表サンプル(最良サンプル)として選択することができる。これらの場合には、いずれもサンプルの色(すなわち測色値)に応じてサンプルを複数の組に分類し、その各組毎に、評価指数EIに応じた最良サンプルを選択する点で共通していることが理解できる。
【0105】
・変形例3:
上記実施形態では、反射型のスクリーンを使用していたが、この代わりに透過型のスクリーンを使用するようにしてもよい。この場合には、スクリーンの分光反射率の代わりに、分光透過率を使用すれば良い。すなわち、スクリーンの分光特性(分光反射率又は分光透過率)と利用すれば、スクリーン上で観察される画像の分光強度を算出することが可能である。
【0106】
・変形例4:
上記実施形態では、多原色表示装置としてプロジェクター(投写型表示装置)を使用した場合について説明していたが、本発明は、テレビジョンやモニターなどの直視型の表示装置にも適用可能である。特に、観察角度に応じて見えが大幅に異なる表示装置に関しては、第2実施形態で説明したような観察角度による見えの変化を小さく抑えるような色変換プロファイルを使用することが好ましい。
【符号の説明】
【0107】
100…色変換装置
110…色変換部
120…色変換プロファイル格納部
130…色変換プロファイル選択部
200…多原色表示装置
210…制御部
221,222…光源ランプ
231〜233…ダイクロイックミラー
241〜245…反射ミラー
251〜255…変調素子
261,262…クロスダイクロイックプリズム
270…投写レンズ
281〜285…画素発光素子
300…スクリーン
500…分光投影モデルコンバータ
510…インデックス選択部
520…消費電力指数算出部
530…色差指数算出部
540…画質指数算出部
550…評価指数算出部
560…サンプル選択部
570…プロファイル生成部
572…原色プロファイル
580…ガマットマッピング処理部
590…プロファイルデータ
【技術分野】
【0001】
本発明は、多原色表示用の色変換プロファイル、及び、その色変換プロファイルを用いた多原色プロジェクターなどのカラー画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
通常のカラー画像表示装置は、RGBの3原色(加法混色の3原色)を用いてカラー表示を行うのが普通である。但し、近年では、より広い色再現域(カラーガマット)を用いてきれいなカラー画像を表示するために、RGB以外にシアンやマゼンタなどの他の原色を含む4つ以上の原色を用いてカラー表示を行う多原色表示装置が提案されている(特許文献1)。多原色表示装置では、任意の1色を表現する原色値の組み合わせが多数存在する。そこで、色変換プロファイルとして、個々の色を再現するための原色値の組み合わせを示すプロファイルが予め準備され、多原色表示装置に実装される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−338950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、色再現域を複数の角錐の領域に分割し、各々の角錐領域において、入力三刺激値に対応する4つの原色の出力値を計算する方法が開示されている。この方法では、入力三刺激値に対応する表示色が属する領域は、入力三刺激値に対する条件判定を行うことによって求められる。しかし、この方法では、特に角錐領域の境界付近にある表示色同士の間に違和感が生じてしまう場合があった。そこで、従来から、より滑らかな色再現が可能な多原色表示用の色変換プロファイルが望まれていた。
【0005】
また、画像を投写表示するプロジェクターでは、各種のスクリーンに画像を投写する場合がある。従って、4種類以上の色光を用いてカラー画像を行う多原色プロジェクターに関しても、スクリーン特性を考慮した色変換プロファイルを作成することが好ましい。しかし、従来は、多原色プロジェクター用の色変換プロファイルにおいて、スクリーン特性はほとんど考慮されていないのが実情であった。また、色の見え方はスクリーンの観察条件によってもかなり異なる。しかし、従来は、スクリーンの観察条件に関しても十分に考慮されていなかった。
【0006】
さらに、一般に、カラー画像表示装置では色むらが問題になることが多い。しかし、従来は、色変換プロファイルの作成に際して、色むらの低減についてはまったく考慮されていないのが実情であった。また、階調再現の滑らかさや、粒状性についてもそれほど考慮されていなかった。
【0007】
なお、上述のような種々の課題は、プロジェクターに限らず、4つ以上の原色を利用してカラー画像を表示する多原色表示装置に共通する問題であった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0009】
[適用例1]
4つ以上の複数の原色を用いてカラー画像を投影可能な多原色プロジェクターで使用される色変換プロファイルとして、前記複数の原色の原色値を含む多原色データと測色値との対応関係を規定する色変換プロファイルを作成する方法であって、
(a)前記多原色データを、前記多原色データに従って投影されるカラーパッチの分光強度に変換する分光投影モデルコンバータを準備する工程と、
(b)複数のサンプル多原色データを準備する工程と、
(c)前記分光投影モデルコンバータを用いて、各サンプル多原色データを、前記サンプル多原色データに従って投影されるべき仮想サンプルカラーパッチの分光強度に変換する工程と、
(d)各サンプル多原色データについて、前記分光強度から算出されるサンプル色に関する色差を表す予め指定されたタイプの色差指数を含む評価指数を算出する工程と、
(e)前記複数のサンプル多原色データについてそれぞれ算出されたサンプル色に応じて前記複数のサンプル多原色データを複数の組に分類するとともに、前記評価指数に基づいて、前記複数の組のそれぞれにおいて最良サンプル多原色データを選択する工程と、
(f)前記選択された複数の最良サンプル多原色データに基づいて、測色値と多原色データとの対応関係を規定する色変換プロファイルを作成する工程と、
を備え、
前記色差指数は、スクリーンに投影されたカラーパッチを異なる角度で観察したときの色差を示す指数である、方法。
この方法によれば、スクリーンに投影されたカラーパッチを異なる角度で観察したときの色差を示す色差指数を含む評価指数に基づいて最良サンプル多原色データが選択されるので、従来のように色再現域を複数の角錐の領域に分割する場合に比べてより滑らかな色再現が可能な多原色表示用の色変換プロファイルを作成することが可能である。また、異なる角度でスクリーン上の画像を観察したときに、その色の見えの変化が小さな画像を表示可能である。
【0010】
[適用例2]
適用例1記載の方法であって、
前記評価指数は、前記色差指数とともに、前記多原色プロジェクターの消費電力を示す消費電力指数を含む、色変換プロファイル作成方法。
この構成によれば、滑らかな色再現が可能であり、かつ、消費電力を低減できる色変換プロファイルを作成することが可能である。
【0011】
[適用例3]
4つ以上の複数の原色を用いてカラー画像を投影可能な多原色プロジェクターであって、
予め準備された色変換プロファイルを参照して、入力カラー画像信号を前記複数の原色の原色値に変換する色変換部と、
前記色変換後の複数の原色の原色値に応じて画像をスクリーンに投影する画像投影部と、
を備え、
前記色変換プロファイルは、スクリーンに投影されたカラーパッチを異なる角度で観察したときの色差を示す色差指数を含む評価指数が最小となるように生成されたプロファイルである、多原色プロジェクター。
この多原色プロジェクターによれば、分光特性の異なる複数の異なるスクリーンに投影されるカラーパッチ間での色差を示す色差指数を含む評価指数が最小となるように生成された色変換プロファイルを用いて色変換が行われるので、従来のように色再現域を複数の角錐の領域に分割する場合に比べてより滑らかな色再現が可能である。また、異なる角度でスクリーン上の画像を観察したときに、その色の見えの変化が小さな画像を表示可能である。
【0012】
[適用例4]
4つ以上の複数の原色を用いてカラー画像を表示可能な画像表示装置であって、
予め準備された色変換プロファイルを参照して、入力カラー画像信号を前記複数の原色の原色値に変換する色変換部と、
前記色変換後の複数の原色の原色値に応じて画像を表示する画像表示部と、
を備え、
前記色変換プロファイルは、前記画像表示部によって表示されたカラーパッチを異なる角度で観察したときの色差を示す色差指数を含む評価指数が最小となるように生成されたプロファイルである、画像表示装置。
この画像表示装置によれば、表示されたカラーパッチ間での色差を示す色差指数を含む評価指数が最小となるように生成された色変換プロファイルを用いて色変換が行われるので、従来のように色再現域を複数の角錐の領域に分割する場合に比べてより滑らかな色再現が可能である。また、異なる角度で画像を観察したときに、その色の見えの変化が小さな画像を表示可能である。
【0013】
なお、本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、色変換プロファイルの作成方法及び装置、色変換プロファイルの作成システム、色変換プロファイルが実装された多原色表示装置、それらの方法または装置の機能を実現するためのコンピュータプログラム、そのコンピュータプログラムを記録した記録媒体等の形態で実現することができる。なお、本明細書において、「記録媒体」とは、DVD、ハードディスク、半導体メモリのような実体的な記録媒体を意味している。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態における色変換システムのブロック図である。
【図2】多原色表示装置の画像投影部の一構成例を示す説明図である。
【図3】多原色表示装置の画像投影部の他の構成例を示す説明図である。
【図4】プロファイル作成システムのブロック図である。
【図5】色変換プロファイルの作成手順を示すフローチャートである。
【図6】最良のサンプルを選択する処理手順を示すフローチャートである。
【図7】色差指数CDIaの算出手順を示すフローチャートである。
【図8】スクリーン1の分光反射率の測定値の例を示すグラフである。
【図9】スクリーン2の分光反射率の測定値の例を示すグラフである。
【図10】スクリーン3の分光反射率の測定値の例を示すグラフである。
【図11】スクリーン4の分光反射率の測定値の例を示すグラフである。
【図12】スクリーン4を別の角度から見た場合の分光反射率の例を示すグラフである。
【図13】第2実施形態における色差指数CDIbの算出手順を示すフローチャートである。
【図14】第3実施形態におけるプロファイル作成システムのブロック図である。
【図15】第3実施形態におけるプロファイルの作成手順を示すフローチャートである。
【図16】第3実施形態において最良のサンプルを選択する処理手順を示すフローチャートである。
【図17】色むら指数UEの算出方法のフローチャートである。
【図18】階調性指数SIの算出方法のフローチャートである。
【図19】粒状性指数GIの算出方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明の実施の形態を以下の順序で説明する。
A.色変換システムの全体構成:
B.第1実施形態(スクリーン間の色差を最小とするプロファイルの作成):
B-1.プロファイル作成の例:
B-2.分光投影モデルの一例:
B-3.スクリーンの分光反射率の影響:
C.第2実施形態(観察角度による色差を最小とするプロファイルの作成):
D.第3実施形態(色むらを最小とするプロファイルの作成):
E.変形例:
【0016】
A.色変換システムの全体構成:
図1は、本発明の一実施形態における色変換システムのブロック図である。この色変換システムは、色変換装置100と、多原色表示装置200と、スクリーン300とを備えている。この色変換システムは、入力画像信号に応じて、カラー画像をスクリーン300上に投写表示するシステムである。なお、この色変換システムを「多原色表示システム」とも呼ぶ。
【0017】
多原色表示装置200は、N個(Nは4以上の整数)の原色の光を利用したカラー画像表示装置である。この多原色表示装置200は、色変換装置100から入力されるN個の多原色表示信号(R,G,B,Y,C)に応じて、N種類の色光(「原色光」とも呼ぶ)を変調し、変調後の色光をスクリーンに投射する。図1の例では、R(Red), G(Green), B(Blue), Y(Yellow), C(Cyan)の5つの原色の光を使用したプロジェクターが例示されている。但し、多原色表示装置200で使用する原色光の種類や数は、これ以外の種々のものを採用可能である。なお、RGB以外の色は、通常は加法混色の原色として使用されていないが、本明細書では、カラー画像表示のために変調される光の色を「原色」と呼ぶ。多原色表示装置200の具体例については後述する。
【0018】
色変換装置100は、PCなどの画像入力装置から入力されたRGB信号などの3原色表色系の入力画像信号を、多原色表色系の画像信号に変換する装置である。色変換装置100は、色変換部110と、色変換プロファイル格納部120と、色変換プロファイル選択部130とを備えている。色変換部110は、色変換プロファイル選択部130が選択したプロファイルを参照して、3原色データR,G,Bを多原色データR,G,B,Y,Cに変換するモジュールである。なお、色変換装置100を、多原色表示装置200の内部に設けるようにしてもよい。
【0019】
色変換プロファイル格納部120には、複数種類の色変換プロファイルPF1, PF2, PF3…が記録されている。第1のプロファイルPF1は、異なるスクリーン間における色差を最小とするプロファイルである。第2のプロファイルPF2は、同一のスクリーンを使用したときの観察角度の違いによる色差を最小とするプロファイルである。第3のプロファイルPF3は、色むらを最小とするプロファイルである。後述するように、各プロファイルは、異なる評価指数を利用して作成されている。なお、色変換プロファイルとしては、これ以外の種々のものを採用可能である。
【0020】
各プロファイルは、RGBデータ(例えばsRGBデータ)をRGBYCの各原色値に変換するためのプロファイルであり、sRGB表色系とRGBYC表色系とのそれぞれによって色を表現するとともに両者を対応づけ、色再現域の全般にわたって予め選択された複数の色について、この対応関係を記述したテーブルである。色変換部110は、1つのプロファイルを参照し、補間演算を利用して、sRGB表色系で表現された任意の色をRGBYC表色系の色に変換することができる。
【0021】
なお、個々のプロファイルに含まれるデータは、色再現域を細かく分割した入力格子点に対応する値となっており、その格子点の分割数は、9x9x9や17x17x17、33x33x33など、任意の数を設定可能である。
【0022】
色変換プロファイル選択部130は、色変換プロファイル格納部120に予め記憶されている複数のプロファイルPF1, PF2, PF3…の中から適切なプロファイルを選択して取得する。すなわち、プロファイルデータPF1, PF2, PF3…は、それぞれが異なる評価指数を利用して作成されているので、各プロファイルによって得られる多原色表示データが互いに異なり、色変換対象として好ましい画像や表示条件が異なる。そこで、色変換プロファイル選択部130が適切なプロファイルを選択し、色変換部110が選択されたプロファイルを参照することで、表示対象の画像や観察条件、利用者の意図等に的確に対応した色変換を実施することが可能になる。
【0023】
なお、色変換プロファイル選択部130は適切なプロファイルを選択することができればよく、一実施形態として、予め利用者が1つのプロファイルを選択する構成を採用可能である。例えば、プロジェクターのOSD設定画面(オンスクリーンメニュー表示画面)に対して、プロファイル選択用の設定画面(図示せず)を表示させ、プロジェクターに備えられたスイッチによるユーザの入力操作を受け付けることによって、選択されたプロファイルを色変換プロファイル選択部130が認識できるように構成することができる。そして、色変換プロファイル選択部130がこのプロファイルを選択すれば、利用者の意図に的確に対応した色変換を実施することが可能になる。
【0024】
第1のプロファイルPF1が選択されている場合には、色変換部110は、同じ画像を異なるスクリーン上で画像を観測したときの色が略一致するように色変換を行う。また、第2のプロファイルPF2が選択されている場合には、色変換部110は、同じ画像を同一のスクリーン上で異なる観察角度で観測したときの色が略一致するように色変換を行う。さらに、第3のプロファイルPF3を選択している場合には、色変換部110は、画像の色むらが最小になるように色変換を行う。
【0025】
図2は、多原色表示装置200の画像投影部の一構成例を示す説明図である。この多原色表示装置200は、制御部210と、2つの光源ランプ221,222と、ダイクロイックミラー231〜233と、反射ミラー241〜245と、液晶パネルで構成された変調素子251〜255と、クロスダイクロイックプリズム261,262と、投写レンズ270とを有している。実際には、これら以外の各種の光学素子(レンズ、カラーフィルタ、偏光分離膜など)も設けられているが、ここでは簡略化のために省略されている。光源ランプ221,222はいずれも白色の平行光を射出する。第1の光源ランプ221から射出された白色光は、ダイクロイックミラー231,232によってRGBの3色の光に分離され、各色用の変調素子251〜253で変調された後に、クロスダイクロイックプリズム261によって統合される。第2の光源ランプ222から射出された白色光は、ダイクロイックミラー233によってY,Cの2色の光に分離され、各色用の変調素子254〜255で変調される。第2のクロスダイクロイックプリズム262は、これらの2つの色光Y,Cと、第1のクロスダイクロイックプリズム261で統合された色光R,G,Bとを統合して、5つの色光R,G,B,Y,Cを含む合成画像光を生成する。この合成画像光は、投写レンズ270によってスクリーン300上に投写される。制御部210は、変調素子251〜255に変調信号を送信して変調を行わせるとともに、必要に応じて光源ランプ221,222の出力を調整する機能を有する。投写される画像の輝度は、光源ランプから射出される光の強度と、変調素子における光の透過率との積で決まる。従って、例えば、色光R,G,Bの輝度をあまり高くする必要がない場合には、第1の光源ランプ221の出力を低下させて、消費電力を低減することが可能である。同様に、色光Y,Cの輝度をあまり高くする必要がない場合には、第2の光源ランプ222の出力を低下させて、消費電力を低減することが可能である。なお、光源ランプとしては、1つのランプのみを設けてもよく、或いは、各色毎に異なる光源ランプを設けてもよい。光源ランプの数が多いほど、画像の色に応じて消費電力を低減できる可能性が高い。
【0026】
図3は、多原色表示装置の画像投影部の他の構成例を示す説明図である。この多原色表示装置200aは、図2の画像投影部における光源ランプ221,222とダイクロイックミラー231〜233と反射ミラー241〜245を、画素発光素子281〜285に置き換えたものである。実際には、これら以外の各種の光学素子(レンズや偏光分離膜など)も設けられているが、ここでは簡略化のために省略されている。画素発光素子281〜285は、それぞれ異なる色光R,G,B,Y,Cを画素毎に発光する素子である。制御部210は、個々の画素発光素子281〜285にそれぞれの色の表示信号(制御信号)を供給することによって、各画素における色の発光量を制御する。この多原色表示装置200aでは、ある色光の輝度が小さい場合には、その画素発光素子の出力が低下するので、これに応じて装置全体の消費電力が低下する。
【0027】
図2及び図3から理解できるように、2つ以上の光源を有するとともに、各光源から1つ又は複数の原色光をそれぞれ発生する光学系を有する画像投影部(「画像表示部」とも呼ぶ)を備えた多原色表示装置を利用することが可能である。このような多原色表示装置では、各光源の出力を独立に制御できるので、多原色を利用した色再現方法を工夫することによって消費電力をかなりの程度低下させることが可能である。但し、光源を1つだけ設けるようにしてもよい。また、多原色表示装置としては、プロジェクター(投写型表示装置)に限らず、直視型の表示装置も利用可能である。
【0028】
以下では、このような色変換システムで使用可能な各種の色変換プロファイルを作成する方法について説明する。
【0029】
B.第1実施形態(スクリーン間の色差を最小とするプロファイルの作成):
B-1.プロファイル作成の例:
第1実施形態では、分光特性(分光反射率または分光透過率)が異なる複数のスクリーンに画像を投写表示した場合に、スクリーン間での色の差異が最小となるようなプロファイルを作成する。
【0030】
図4は、色変換プロファイルを作成するプロファイル作成システムのブロック図である。このプロファイル作成システムは、分光投影モデルコンバータ500と、インデックス選択部510と、消費電力指数算出部520と、色差指数算出部530と、評価指数算出部550と、サンプル選択部560と、プロファイル生成部570と、ガマットマッピング処理部580とを備えている。
【0031】
分光投影モデルコンバータ500は、多原色データを、その多原色データに応じて投影されるカラーパッチの画像光の分光強度Ismp(λ)に変換する。すなわち、この分光強度Ismp(λ)は、多原色表示装置200から射出される画像光の分光強度である。なお、本明細書において「カラーパッチ」とは、有彩色のパッチに限らず、無彩色のパッチ含む広い意味を有している。この実施形態では、R,G,B,Y,Cの5色の原色を利用可能なプロジェクターを想定しており、分光投影モデルコンバータ500もこの5種類の原色の強度(原色値)を入力としている。分光強度Ismp(λ)は、多原色表示装置200の型式に依存するので、分光投影モデルコンバータ500は多原色表示装置の型式毎に予め準備される。分光投影モデルについては、後で詳述する。以下では、「分光投影モデル」を「フォワードモデル」とも呼ぶ。
【0032】
インデックス選択部510は、分光強度Ismp(λ)とともに、各種の指数の作成に必要なデータやパラメーターを、個々の指数算出部520、530に供給する機能を有する。指数の作成に必要なデータやパラメーターとしては、例えば、複数のスクリーンの分光反射率データや、同一スクリーンの観察角度毎の分光反射率データ、各原色の信号レベルに応じた多原色表示装置の消費電力、各指数の重み係数等が使用される。消費電力指数算出部520は、多原色表示装置200の消費電力の大きさを示す消費電力指数Tpowerを算出するためのTpower算出部522を備えている。色差指数算出部530は、特性の異なる複数のスクリーンに画像を投影した場合の色差を示す色差指数CDIを算出するためのCDI算出部532を備えている。
【0033】
インデックス選択部510は、ユーザからの指定に応じて消費電力指数Tpowerと色差指数CDIの重みを0.0〜1.0の範囲で設定可能であり、また、それらの重みを消費電力指数算出部520と色差指数算出部530に供給することが可能である。これにより、各算出部520,530で指数が計算される。インデックス選択部510は、利用者の指示を受け付けて予めいずれの指数を用いるのかを決定するなど、種々の構成を採用可能である。
【0034】
評価指数算出部550は、消費電力指数算出部520と色差指数算出部530とが出力する指数Tpower, CDIから、高い色彩恒常性及び/又は低消費電力を満たすサンプル多原色データを選択するための評価指数EIを算出する。なお、本明細書において、「高い色彩恒常性」という用語は、異なるスクリーン間の色差や、同一スクリーン上での異なる観察角度の間の色差が小さいことを意味している。
【0035】
この評価指数EIは、分光投影モデルコンバータ500に入力される複数のサンプル多原色データのそれぞれに対して算出される。サンプル選択部560は、これらの複数のサンプル多原色データそれぞれについての評価指数EIから、良好な評価指数EIを有するサンプル多原色データを選択する。プロファイル生成部570は、選択されたサンプル多原色データと、それらのサンプル多原色データを用いて表示されるカラーパッチの測色値(L*a*b*値)とを用いて、原色プロファイル572を作成する。この原色プロファイル572は、測色値(L*a*b*値)と多原色データRGBYCとの対応関係を示すルックアップテーブルである。なお、「原色プロファイル」を「出力デバイスプロファイル」とも呼ぶ。本明細書において、「プロファイル」とは、色空間の変換を行うための変換規則を具現化したものを意味しており、各種のデバイスプロファイルとルックアップテーブルとを含む広い意味を有している。
【0036】
ガマットマッピング処理部580は、この原色プロファイル572と、予め準備されたsRGBプロファイル582とを用い、ガマットマッピングを行うことによって、プロファイルデータ590を作成する。第1実施形態において、このプロファイルデータ590は、図1の第1のプロファイルPF1のデータである。ここで、sRGBプロファイル582としては、例えばsRGB色空間をL*a*b*色空間に変換するプロファイルを使用することができる。なお、「sRGBプロファイル」を「入力デバイスプロファイル」とも呼ぶ。
【0037】
図5は、プロファイル作成システムによる色変換プロファイルの作成手順を示すフローチャートである。ステップS100では、分光投影モデルを決定して、分光投影モデルコンバータ500を作成する。一実施形態では、分光投影モデルとして各原色の最大出力に重みを与えて合成する線形モデルを使用する。その詳細については後述する。
【0038】
次のステップS110では、多数の仮想サンプルを設定する。ここで、「仮想サンプル」とは、プロファイルの作成処理において使用される仮の多原色データ、および、その多原色データに応じて表示される仮想的なカラーパッチを意味している。なお、以下では、仮想サンプルを単に「サンプル」とも呼ぶ。一実施形態では、RGBYCの各原色に関して、0〜100%の範囲で10%おきに11点の原色値をそれぞれ設定し、5種類の原色値のすべての組合せを仮想サンプル(サンプル多原色表示データ)として準備する。こうすれば、115=161,051個の仮想サンプルが準備される。なお、「原色値100%」の色とは、1種類の原色の出力を最大にしたときの色を意味する。
【0039】
次のステップS120では、分光投影モデルコンバータ500を用いて、各仮想サンプルの多原色データを、多原色表示装置200の分光強度Ismp(λ)(「分光発光強度Ismp(λ)」とも呼ぶ)に変換する。インデックス選択部510はこの分光強度Ismp(λ)を取得し、この分光強度Ismp(λ)を有する光を、全ての波長の反射率が1.0である理想的な白色板に投影した場合のCIELAB表色系の測色値L*a*b*を算出する。この測色値L*a*b*は、例えばCIE1931 2ー観測者の観察条件で算出することが可能である。各サンプルの測色値L*a*b*と、サンプル多原色データRGBYCとの対応関係は、一時的にメモリ(図示せず)に記憶される。
【0040】
次のステップS130では、測色値L*a*b*の色空間(ここではCIELAB空間)の全体を複数のセルに分割し、予め準備した複数のサンプル色をセルに関してソート(分類)する。例えば、CIELAB空間を16×16×16個のセルに均等に分割するようにしてもよい。
【0041】
以上の処理で、評価指数EIを算出するために必要なデータの準備が完了したので、次のステップS140では、好ましいサンプルの選択に使用する評価指数EIを設定する。第1実施形態で使用される評価指数EI1は、以下の(1-1)式で表されるものを想定する。
【数1】
ここで、CDIaは色差指数であり、Tpowerは電力消費指数である。k1とk2はCDIaとTpowerに乗じられる重み付け係数であり、それぞれの指数が評価指数EI1に寄与する度合を調整する。なお、典型的な例では、係数k1は0以外の数(例えば1.0)であり、係数k2は0を含む任意の数(例えば、0又は0.5)に設定される。すなわち、色差指数CDIaは必ず評価指数EI1に含まれるが、消費電力指数Tpowerは任意の好ましい重みで評価指数EI1に含め得る。なお、係数k1,k2の値は、任意に変更しても良い。これらの係数k1,k2は、主観評価により、試行錯誤的に決めることが可能である。
【0042】
ステップS150では、評価指数算出部550が、各サンプルに対する評価指数EI1を算出し、サンプル選択部560がこの評価指数EI1に応じてCIELAB色空間の各セル内で最良のサンプルを選択する。
【0043】
図6は、ステップS150の詳細手順を示すフローチャートである。最初のステップS151では、あるセル内の1つのサンプルを選択する。次のステップS152では、色差指数CDIaを算出する。次のステップS153で消費電力指数Tpowerの重みk2が0でないと判断されたときにはステップS154で消費電力指数Tpowerを算出し、重みk2が0であると判断されたときには、次のステップS155に進む。ステップS155では、上記(1-1)式に従って評価指数EI1を算出し、そのセル内の全てのサンプルに対して評価指数EI1を計算し終わるまでこの処理を続ける。そのセル内の全てのサンプルに対する指数の計算が終了すると、次のステップS157で、評価指数EI1がベストなサンプルを選択し、処理を終了する。なお、図6の処理は、CIELAB空間内のすべてのセルに対してそれぞれ実行される。
【0044】
図7は、図6のステップS152における色差指数CDIaの算出手順を示すフローチャートである。この処理はCDI算出部532(図4)によって実施される。この処理に際して、インデックス選択部510は、分光投影モデルコンバータ500から供給される分光強度Ismp(λ)をCDI算出部532に受け渡す。最初のステップS200では、スクリーンの番号を示すパラメーターiに1番目のスクリーンAであることを示す値1を代入する。
【0045】
CDI算出部532は、次のステップS210において、投射されるカラーパッチの分光強度Ismp(λ)とスクリーンAの分光反射特性Rscr(1,λ)を乗算することによって、視覚に入射する分光強度Osmp(1,λ)を算出する。
【数2】
ここで、i番目のスクリーンの分光反射特性Rscr(i,λ)は既知である。
【0046】
次のステップS220では、この分光強度Osmp(1,λ)から三刺激値XYZを算出する。例えば、ある分光反射特性Rscr(1,λ)をもつスクリーンAに対して投影した場合の、CIE1931 2ー観測者の観察条件で三刺激値XYZを算出することができる。本明細書において、「観察条件」とはスクリーンと観測者の組合せを意味しているが、特に言及しない限り観測者としてCIE1931 2ー観測者を使用する。
【0047】
次のステップS230では、この三刺激値XYZに色順応変換を適用して、標準観察条件での対応色を算出する。例えば、標準観察条件の光源として標準の光D65を用い、色順応変換としてCIECAT02を利用することができる。CIECAT02については、例えば"The CIECAM02 Color Appearance Model", Nathan Moroney et al., IS&T/SID Tenth Color Imaging Conference, pp. 23-27,および、"The performance of CIECAM02", Changjun Li et al., IS&T/SID Tenth Color Imaging Conference, pp. 28-31に記載されている。但し、色順応変換としては、フォン・クリースの色順応予測式などの他の任意の色順応変換を用いることも可能である。また、色順応変換を省略しても良いが、色順応変換を行えば、色の見えの差異をより正しく評価することができる。
【0048】
次のステップS240では、この対応色のCIELAB表色系の測色値L*a*b*を算出する。ステップS250ではパラメーターiが1だけインクリメントされ、ステップS260では、パラメーターiがスクリーン数Nscrを越えたか否かが判断される。スクリーン数Nscrは、評価対象とするスクリーンの数であり、2以上の任意の整数である。パラメーターiがスクリーン枚数Nscrを越えていなければ、ステップS210に戻り、ステップS210〜S250の処理を繰り返す。こうして、すべてのスクリーンに対するCIELAB表色系の測色値L*a*b*を求めた後、最後のステップS270に移行する。
【0049】
最終ステップS270では、以上で得られた測色値L*a*b*の複数の組から、色差指数CDIaを算出する。色差指数CDIaは、例えば以下の式で表現される。この式は、全てのスクリーンのうちから2つを選択して得られるすべてのスクリーンペアに関する色差の平均を求めている。
【数3】
ここで、Nscrは評価対象とするスクリーンの数、L*(i)はi番目のスクリーンでのL*値、a*(i)はi番目のスクリーンでのa*値、b*(i)はi番目のスクリーンでのb*値である。(1-3)式の分母は、Nscr個の要素から2つの要素をとる組み合わせの数である。
【0050】
なお、色差指数CDIaの算出に使用する色差式としては、他の式を用いることも可能である。色差指数CDIaは、あるカラーパッチを複数の異なるスクリーンに投影して観察したときの色の見えの差として定義される。従って、色差指数CDIaが小さいサンプルは、異なるスクリーンに投影した際の色の見えの差が小さいという点で好ましい。
【0051】
以上のように色差指数CDIaを算出した後、図6のステップS154では、Tpower算出部522によって消費電力指数Tpowerを算出する処理が実行される。Tpower算出部522は、サンプルの多原色データRGBYCを入力として、この多原色データRGBYCが表すカラーパッチを表示した際に多原色表示装置200が消費する電力をシミュレーションにより算出する。この消費電力指数Tpowerは、例えば、複数組の多原色データに従ってカラーパッチを表示した際の消費電力をそれぞれ測定しておき、個々の多原色データに対応する消費電力を線形補間することで求められる。
【0052】
多原色表示装置200の消費電力及びその調整可能範囲は、多原色表示装置200のタイプに依存する。例えば、図2に示したように、2つの光源ランプ221,222を有する多原色表示装置200を使用する場合には、個々の光源ランプ221,222に必要とされる出力(輝度)が、再現する色によって異なる。従って、消費電力指数Tpowerとして、2つの光源ランプ221,222の合計の消費電力を示す指数を使用することが可能である。例えば、図2の多原色表示装置200に関する消費電力指数Tpowerは、以下の式で表すことが可能である。
【数4】
(1-4)式の右辺第1項と第2項は2つの光源ランプ221、222の消費電力をそれぞれ示している。係数a1, a2は、原色値とランプ消費電力との換算係数である。
【0053】
なお、この消費電力指数Tpowerは1色のカラーパッチのみを画面上に表示する際の消費電力を示している。従って、多数の色で構成されたカラー画像を消費電力指数Tpowerが小さな色で表示するものとしても、画面全体として消費電力が低下することは保証されていない。しかしながら、通常は、消費電力指数Tpowerが小さな色でカラー画像を表示すれば、画面全体では消費電力が低くなる場合が十分に多いものと推定される。この意味で、カラーパッチの選択時の評価指数EI1として、消費電力指数Tpowerを含むものを使用することに十分な意義がある。
【0054】
また、図3に示したように、原色毎に設けられた画素発光素子281〜285を有する多原色表示装置200aを使用する場合にも、個々の画素発光素子281〜285に必要とされる出力(輝度)が再現する色によって異なる。従って、消費電力指数Tpowerとして、複数の画素発光素子281〜285の合計の消費電力を示す指数を使用することが可能である。このような消費電力指数Tpowerは、例えば以下の式で算出することが可能である。
【数5】
(1-5)式の右辺第1項〜第5項は5つの画素発光素子281〜285の消費電力をそれぞれ示している。係数a1〜a5は、原色値とランプ消費電力との換算係数である。
【0055】
この多原色表示装置200aでは、図2の装置とは異なり、画素毎に別個に発光するので、消費電力指数Tpowerが小さな色再現だけを利用すれば、画面全体でも消費電力が低下することが保証される。
【0056】
1つの光源のみを有する多原色表示装置に関する消費電力指数Tpowerは、例えば以下の式を用いて算出することが可能である。
【数6】
【0057】
このような1つの光源のみを有する多原色表示装置においても、消費電力指数Tpowerの小さな色で画面全体を表示すれば、消費電力が低下することが期待できる。
【0058】
図6のステップS151〜S154の処理により、評価指数EI1の構成要素としての色差指数CDIaと消費電力指数Tpowerとが算出されたことになるので、図6の次のステップS155では、上記(1-1)式によって評価指数EI1を算出する。次のステップS156では、処理対象となっているセルに含まれるすべてのサンプル色に関して評価指数EI1の算出が終了したか否かが判断される。こうして、各ステップが繰り返し実行されて、そのセル内のすべてのサンプル色に関して評価指数EI1が算出される。次のステップS157では、サンプル選択部560が、そのセル内の複数のサンプル色のうちで、評価指数EI1が最良であるサンプルを、そのセルに関する代表サンプルとして選択する。この結果、少なくとも1つのサンプルを含む各セルに関して、1つの代表サンプルがそれぞれ選択される。以下では、代表サンプルを「高評価サンプル」又は「最良サンプル」とも呼ぶ。
【0059】
図5の最終ステップS160では、ガマットマッピング処理部580(図4)が、原色プロファイル572とsRGBプロファイル582とに基づいてガマットマッピングを行い、プロファイルデータ590を作成する。ガマットマッピングを行う理由は、多原色表示装置200で再現可能な色域と、入力色空間(この実施形態ではsRGB空間)で表現可能な色域とに差があるためである。原色色空間の色域は原色プロファイル572で規定されており、入力色空間の色域はsRGBプロファイル582で規定されている。一般に、入力色空間と原色色空間には食い違いがあるので、入力色空間の色域を原色色空間の色域にマッピングすることが好ましい。
【0060】
こうしてガマットマッピングが行われると、最終的なプロファイルデータ590が完成する。このプロファイルデータ590を多原色表示装置200に実装すれば、色彩恒常性が高く(すなわち、異なるスクリーンに投影した場合でも色の見えの変化が小さく)、高画質な表示が可能である。また、消費電力指数Tpowerの重みk2として0で無い重みを用いて作成したプロファイルデータを使用すれば、低消費電力を実現可能である。
【0061】
B-2.分光投影モデルの一例:
以下では、分光投影モデルの一例を説明する。プロジェクターによってスクリーンに投影される光の分光強度Ismp(λ)は、次式に従って求められる。
【数7】
【数8】
ここで、IR(λ), IG(λ), IB(λ), IYe(λ), IC(λ)はそれぞれ各原色の入力レベル、BK(λ)は全原色の入力レベルを0にしたときの分光強度(バックグラウンド強度)、Rmax(λ), Gmax(λ), Gmax(λ), Yemax(λ), Cmax(λ)はそれぞれ、各原色の最大出力の分光強度,γは画像投影部のγ値である。なお、上記(1-8a)〜(1-8e)式は、各色の強度IR(λ), IG(λ), IB(λ), IYe(λ), IC(λ)からバックグラウンド強度BK(λ)を減算した値がγ特性を示すことを表している。
【0062】
なお、ここで用いた分光強度Rmax(λ), Gmax(λ), Gmax(λ), Yemax(λ), Cmax(λ), BK(λ)は実際にプロジェクターからスクリーン上に投影された画像の分光強度を測定し、その測定値をスクリーンの分光反射率(既知)で除算することによって求めた特性である。すなわち、これらの分光強度Rmax(λ), Gmax(λ), Gmax(λ), Yemax(λ), Cmax(λ), BK(λ)は、分光反射率が1.0であるスクリーンに投影した場合に観察される光強度である。それぞれの分光強度は、プロジェクターの光学要素(光源、レンズ、ダイクロイックミラー、カラーフィルタ、液晶パネルなど)の分光特性の影響を受けるため、上記の要素が異なる型式のプロジェクターに対してこのモデルを適用する場合は、分光強度を測定しなおすことが好ましい。また、同じ型式のプロジェクターでも、実際には多少特性が異なるので、同じ型式の複数のプロジェクターを用意し、それぞれ分光強度の測定を行って、それらの平均値を取ることが好ましい。
【0063】
B-3.スクリーンの分光反射率の影響:
図8〜図11は、実在するスクリーンの分光反射率の測定値の例を示すグラフである。これらの測定値は、スクリーン1〜4に対してほぼ垂直に光を投射表示し、スクリーンの法線から所定角度(例えば30度)傾いた方向から観察した場合の測定例である。
【0064】
下記の表1は、これらのスクリーンに対して、異なる色を有する3種類のカラーパッチをそれぞれ投影した場合の色差指数CDIaの算出例である。
【表1】
【0065】
表1から、ほぼ同じ(L*,a*,b*)値をとる異なる原色値の組み合わせを持つサンプルが複数あるが、それらのサンプル毎に、色差指数CDIaの値が異なることが理解できる。よって、最も小さい色差指数CDIaをとるサンプル(原色値の組み合わせ)を選択することにより、複数のスクリーンに対して、色の見えの変化が小さい画像表示を行えることがわかる。なお、表1は、原色値の組み合わせ全体の中の一部のみを評価した結果であり、全てのサンプルを評価すれば、さらに色差指数CDIaの値の差が広がる可能性がある。
【0066】
以上のように、第1実施形態では、サンプルを選択する際の評価指数EI1として、少なくとも色差指数CDIaを含み、また、所望により消費電力指数Tpowerを含む評価指数EI1を使用している。従って、これらの種々の指数及びその重みを加味した色変換プロファイルを容易に作成することができる。すなわち、異なるスクリーンに投影した場合でも色の見えの変化が小さい色再現を達成する色変換プロファイルを容易に作成することができ、また、この色再現の達成と同時に低消費電力での表示を実施可能な色変換プロファイルを作成可能である。さらに、本実施形態では、従来技術のように、色再現域を複数の角錐の領域に分割していないので、従来に比べてより滑らかな色再現が可能な色変換プロファイルを作成することが可能である。
【0067】
C.第2実施形態(観察角度による色差を最小とするプロファイルの作成):
第2実施形態では、スクリーンを1つの種類に固定し、視聴者が異なる位置に座っていても、つまり、異なる角度からスクリーンを見た場合でも、色の見えの差異が最小となるように色変換プロファイルを作成する。
【0068】
図12は、図11に示したスクリーン4を異なる角度から見た場合の分光反射率の例を示すグラフである。なお、図12は、スクリーン4に対してほぼ垂直に光を投射表示し、スクリーンの法線にほぼ近い角度で観察した場合の例である。図11と図12の比較から、観察角度によって分光反射率が異なり、異なる位置から映像を観察する場合には色の見えも異なることが理解できる。よって、この色の見えの差異を最小にするような原色値の組み合わせを出力する色変換プロファイルを作成しておくことで、いずれの方向からみても色の変化が少ない表示が可能となる。第2実施形態が第1実施形態と異なる点は色差指数CDIを求めるフローであり、装置構成は第1実施形態と同じである。
【0069】
図13は、第2実施形態における色差指数の算出手順を示すフローチャートである。図13の処理は、図7のステップS210、S260を変更したものであり、他のステップは図7と同じである。なお、ステップS200におけるパラメーターiは、スクリーンの観察角度の番号を示すパラメーターであり、また、ステップS260aの角度数Nangleは、異なる観察角度の個数を示すパラメーターである。
【0070】
ステップS210aでは、i番目の角度からスクリーンを観察したときのスクリーンAの分光反射特性Rscr(i,λ)と、サンプルの分光強度Ismp(λ)とを乗算して、視覚に入射する分光強度Osmp(1,λ)を算出する。ステップS220以降の処理は、図7のステップS220以降の処理とほぼ同じである。
【0071】
図13の最終ステップS270では、色差指数CDIbが算出される。色差指数CDIbは、例えば以下の式で表現される。この式では、全ての角度の組に対する色差の平均を求めている。
【数9】
ここで、Nangleは評価対象とする観察角度の数、L*(i)はi番目の角度から見た場合のL*値、a*(i)はi番目の角度から見た場合のa*値、b*(i)はi番目の角度から見た場合のb*値である。なお、色差指数CDIbの算出に使用する色差式としては、他の式を用いることも可能である。
【0072】
この色差指数CDIbは、同一スクリーン上に表示された同一色のカラーパッチを複数の異なる角度から観察したときの色の見えの差として定義されている。従って、色差指数CDIbが小さいサンプルは、異なる角度から観察した際の色の見えの差が小さいという点で好ましい。
【0073】
第2実施形態において、サンプル選択部560が高評価サンプルを選択する際に使用する評価指数としては、上記(1-1)式と同様な次の(2-2)式で与えられる評価指数EI2を利用することが可能である。
【数10】
【0074】
以上説明した第2実施形態によれば、異なる角度から観察した場合でも、色の見えの差異が小さい色変換プロファイルを作成することができる。この色変換プロファイルデータをプロジェクターに実装すれば、異なる角度から観察した場合の色彩恒常性が高い、高画質な表示が可能である。また、(2-2)式の重みk2として0でない値を使用すれば、観察角度による色差が小さく、かつ、低消費電力での表示を実施可能なプロファイルを作成可能である。
【0075】
なお、色差指数CDIとしては、上述した2種類の色差指数CDIa, CDIb以外のものも使用可能である。例えば、下記の(2-3)式に従って色差指数CDIを算出すれば、特定のスクリーンにおいて、ターゲットとする色に忠実な色表示が可能な色変換プロファイルを作成することが可能である。
【数11】
ここで、L*, a*, b*は評価対象サンプルに対して算出された測色値であり、L*Target, a*Target, b*Targetは、各サンプルがターゲットとする測色値である。
【0076】
このように、色差指数CDIとしては、サンプルの分光強度Ismp(λ)から算出されるサンプル色に関する色差を表す色差指数であって、予め指定されたタイプの色差指数を使用することが可能である。
【0077】
D.第3実施形態(色むらを最小とするプロファイルの作成):
第3実施形態では、表示されるカラーパッチの色むらを最小とするような色変換プロファイルを作成する。
【0078】
図14は、第3実施形態におけるプロファイル作成システムのブロック図である。このプロファイル作成システムは、図4のシステムに、画質指数算出部540を追加した構成を有しており、他の構成は図4のシステムと同じである。
【0079】
画質指数算出部540は、表示される各パッチの画質指数として、画面の色むらの程度を示す色むら指数UEを算出するUE算出部542と、階調の滑らかさを示す階調性指数SIを算出するSI算出部546と、粒状度を示す粒状性指数GIを算出するGI算出部544を備えている。また、消費電力指数算出部520と色差指数算出部530は、第1実施形態又は第2実施形態で説明したものと同じ指数を算出可能である。
【0080】
インデックス選択部510は、それぞれの指数算出部520〜540における指数の算出に必要なデータやパラメーターを、各指数算出部520〜540に受け渡す。また、インデックス選択部510は画質指数UE,GI,SIと消費電力指数Tpowerと色差指数CDIの重みが0.0〜1.0までの間で変化するように、各指数算出部520〜540を制御する。
【0081】
図15は、第3実施形態における色変換プロファイルの作成手順を示すフローチャートである。この手順は、図5のステップS140,S150の内容を変更したものであり、他のステップは図5と同じである。
【0082】
ステップS140aでは、好ましいサンプルの選択に使用する評価指数EI3が設定される。この評価指数EI3は、例えば以下の式で表される。
【数12】
ここで、CDIは第1又は第2実施形態で説明した色差指数であり、Tpowerは電力消費指数、UEは色むら指数、SIは階調性指数、GIは粒状性指数である。k1〜k5は各指数の重み付け係数であり、それぞれの指数が評価指数EI3に寄与する度合を示す。なお、第3実施形態では、色差指数CDIの係数k1と色むら指数UEの係数k3は0以外の数であり、他の係数k2, k4, k5は0を含む任意の数に設定可能である。これらの係数は、主観評価により、試行錯誤的に決められる値である。
【0083】
図15のステップS150aでは、評価指数算出部550が、各サンプルに対する評価指数EI3を算出し、サンプル選択部560がこの評価指数EI3に応じてCIELAB色空間の各セル内で最良のサンプルを選択する。
【0084】
図16は、ステップS150aの詳細手順を示すフローチャートである。図16の処理手順は、図6のステップS154とステップS155の間に、ステップS301〜S306を追加したものであり、他のステップは図6と同じである。ステップS301〜S306では、色むら指数UEと、階調性指数SIと、粒状性指数GIの重み係数k3, k4, k5が0で無い場合に、それぞれの指数が算出される。なお、上述したように、第3実施形態においては、色むら指数UEの重み係数k3は0以外の値に設定されて、少なくとも色むら指数UEは算出されることが好ましい。但し、上記(3-1)式の5つの指数CDI, Tpower, UE, SI, GIの係数k1〜k5は、少なくとも1つが0以外の値に設定されれば良く、他の係数は0に設定されてもよい。
【0085】
図17は、色むら指数UEの算出方法のフローチャートである。ステップS410では、サンプル多原色データに従ってカラーパッチを変調素子の画面全体に表示し、ステップS420では画面内の複数の測定位置においてRGBデータを測定する。ステップS430では、RGBデータを三刺激値XYZに変換し、ステップS440ではこれらの三刺激値XYZの平均値を算出する。そして、ステップS450では、三刺激値XYZの平均値を測色値(L*a*b*値)に変換することによって、カラーパッチ全体に渡る平均測色値を取得する。ステップS460では、個々の測定位置について、ステップS430〜S450と同様にしてL*a*b*値を算出する。
【0086】
ステップS470では、各測定位置のL*a*b*値と、カラーパッチ全体のL*a*b*平均値を用い、次式に従って色むら指数UEを算出する。
【数13】
ここで、Npixはサンプルカラーパッチ上の測定位置の数、L*(i)はi番目の測定位置のL*値、a*(i)はi番目の測定位置のa*値、b*(i)はi番目の測定位置のb*値である。この色むら指数UEは、各測定位置における測色値と、その平均値との間のユークリッド距離の平均値に相当する。なお、色むら指数UEの算出には、他の式を用いることも可能である。
【0087】
上記(3-2)式では3つの成分L*, a*, b*のユークリッド距離を求めているが、この代わりに、L*成分を考慮せずに、a*成分およびb*成分のみを考慮したユークリッド距離を用いても良い。また、パッチの輝度に応じた補正項を乗算するように上記(3-2)式を構成しても良い。
【0088】
多原色表示装置200における色むらは、変調素子(液晶ライトバルブ)や、レンズ、カラーフィルタ、画素発光素子などの各種の光学部品の製造誤差に起因して発生すると考えられる。例えば、薄膜を有する光学部品では、同じ寸法誤差でも、設計膜厚が薄いほど、その誤差によって画面全体に渡る輝度のむらが大きくなる傾向にある。従って、4つ以上の原色光のうちで、輝度のむらが比較的大きな原色光と、比較的小さな原色光とが存在する場合がある。このような場合に、多原色を用いた各種の色再現方法のうちで、輝度のむらが大きな原色光をより多く使用する色再現方法は色むらが大きくなりやすい。逆に、輝度のむらが小さな原色光をより多く使用する色再現方法を使用すれば、色むらを小さく抑えられる。このような具体的な特性を反映するために、ステップS410においては、複数台の多原色表示装置200を順次使用して同一のカラーパッチをそれぞれ表示し、表示されたカラーパッチ内の複数の測定箇所で色の測定をそれぞれ行うことが好ましい。こうすれば、多原色表示装置200を用いてカラーパッチを変調素子の画面全体に表示したときに発生する色むらの程度を示す色むら指数UEを得ることが可能である。
【0089】
図18は、階調性指数SIの算出方法のフローチャートである。最初のステップS510では、評価指数算出部550が上記(3-1)式の右辺第4項(k4・SI)以外の各項の和で与えられる評価指数EI3'を算出し、サンプル選択部560がこの評価指数EI3'が最小であるサンプルを各セル毎に1つずつ選択し、これを代表サンプルセットとする。この代わりに、各セルにおいて、評価指数EI3'が最小であるサンプルを複数個(例えば10個)選択し、それらのサンプルの平均値で表される色をそのセルの代表サンプルとして採用してもよい。評価指数EI3が粒状性指数GIを含む場合には、階調性指数SIの算出は粒状性指数GIの算出後に行えばよい。ステップS520では、これらの代表サンプルセットを用いて、各セルの代表サンプルに関するスムージング処理が行われる。すなわち、ここでは、CIELAB空間において3次元ガウス関数(Gaussian function)によるぼかし処理が行われる。ガウス関数は、CIELAB空間の1つのセルの代表サンプル(対象サンプル)と、これに近い他のセルの代表サンプルとに重みを与える。そして、これらの対象サンプルと代表サンプルの原色データにこの重みを乗じた値を足し合わせ、重みの合計で規格化を行って、対象サンプルに対するスムージングされたサンプル多原色データを得る。なお、スムージング処理としては、単純平均を用いてもよい。次のステップS530では、色再現域外において原色値が0に落ち込むことを防止するためにリスケーリング処理が実施される。すなわち、各原色データは各色の原色データの最大値によって除されるとともに、原色データのダイナミックレンジの最大値が乗じられる。この結果、各原色データの最大値は、そのダイナミックレンジの最大値(例えば255)に規格化される。このリスケーリング処理は、スムージング処理における繰り返しにおいてガマット内の原色値が低減してしまうことを防止するために実施されるものであるが、省略してもよい。
【0090】
次のステップS540では、以下の式によって、対象サンプルのぼかし前の多原色データで表される色とぼかし後の多原色データで表される色とのユークリッド距離を算出し、階調性指数SIとする。
【数14】
ここで、Aprimeは、ぼかし前の原色値であり、Aprime,blurは、ぼかし後の原色値、Primeは原色の種類を示すパラメーターである。
【0091】
この階調性指数SIは、ぼかし前後での色の変化を示しており、元のサンプルの色とぼかし後の色とがどの程度近いのかを示している。ここで、階調性指数SIが小さいほど色の変化が小さいので、その対象サンプルの色と、周囲の他のセルの代表サンプルの色との間隔がより均等に近く、その局所的な色の範囲で階調が滑らかに再現されると考えることができる。従って、階調性指数SIは、入力に対する階調変化の滑らかさを表す指標として利用できる。
【0092】
図19は、粒状性指数GIの算出方法のフローチャートである。この処理では、サンプルカラーパッチを表示し、その表示結果を撮影してそのカラーパッチのぼかし画像(blurred Image)と元の画像(original image)との差分を算出し、この差分を粒状性指数GIとする。この粒状性指数GIについては、M. D. Fairchild and G. M. Johnson, "Meet iCAM: and Image Color Appearance Model" IS&T/SID 10th Color Imaging Conference, Scottsdale,(2002),あるいはG. M. Johnson and M. D. Fairchild, "Rendering HDR Images" IS*T/SID 11th Color Imaging Conference, Scottsdale, (2003)に記述されたモデル(iCAM)を参照。
【0093】
ステップS550では、まず、サンプル多原色データを用いてサンプルパッチを多原色表示装置200で表示する。ステップS560においては、表示したサンプルパッチをスキャナで撮影してRGBデータを取得する。ここでは、サンプルパッチの粒状性を評価するので、変調素子や画素発光素子の解像度よりも高い解像度で(すなわち、より細かい画素ピッチで)測定を行うことが好ましい。RGBデータは、機器依存色空間内のデータであるため、ステップS570ではスキャナ特性変換(scanner characterization)を行って機器非依存色空間であるXYZ色空間内のデータに変換する。
【0094】
ステップS580〜S620では、ぼかし画像を作成する。まず、ステップS580では、XYZ色空間を反対色空間(opponent-colors space)に変換する。すなわち、反対色空間の各チャンネルについては実験等によって人間の目におけるコントラスト感度関数(contrast sensitivity function(csf))を周波数空間で定義することが可能であるので、このcsfを利用できるように変換を行う。この変換は、例えば以下の式によって算出することができる。
【数15】
ここで、AC1C2は反対色チャンネル(opponent channels)であり、Aが輝度チャンネルであり、C1C2がクロミナンスチャンネルである。
【0095】
上記csfは周波数空間で定義されるので、ステップS590では、各反対色チャンネルに対してフーリエ変換を実施する。ステップS600では、各反対色チャンネルに対して上述のcsfでフィルタリングを行う。すなわち、各成分に対してcsfを乗じる。一実施形態では、輝度に対して下記(3-5)式を利用し、クロミナンスチャンネルに対して下記(3-6)式を利用することができる。
【数16】
【数17】
ここで、fは周波数、csflumは輝度コントラスト感度関数(luminance contrast sensitivity function)、csfchromはクロミナンスコントラスト感度関数(chrominance contrast sensitivity function)である。また、係数a,b,c,a1,a2,b1,b2,c1,c2は予め設定される値である。
【0096】
以上のように、フィルタリングを行うと、ステップS610ではフィルタリング後の関数を逆フーリエ変換し、ステップS620でさらに反対色空間をXYZ色空間に変換する。この変換は、例えば以下の式によって算出することができる。
【数18】
【0097】
以上の処理により、ぼかし画像のXYZ値が算出され、上記ステップS570では元の画像のXYZ値が算出されているので、ステップS630ではそれぞれの画像についてCIELAB値を算出する。そして、ステップS640ではCIEDE2000色差式によってぼかし画像と元の画像とにおける色差を算出する。この色差は、カラーパッチのぼかし画像と元の画像との差分に相当するものであり、元のカラーパッチの粒状性が多いほど大きな値を示す。従って、この差分の値は、元のカラーパッチの粒状性の程度を示す粒状性指数GIとして利用可能である。
【0098】
なお、上述の粒状性指数GIの計算では、実際に表示した画像を撮影してGIを算出していたが、多原色データが示す色の画素を複数個集めて所定の面積を持たせた仮想的なサンプルカラーパッチを考えてシミュレーションにより粒状性指数GIを算出しても良い。
【0099】
また、RMS粒状度やウィナースペクトルを用いてサンプルカラーパッチの粒状性指数GIを求めても良い。さらに、笠原広和:"バンディング測定方法能ochJapan Hardcopy '04に記載された方法により、カラーパッチに含まれるバンディング成分と、粒状成分を分離した上で、粒状性指数を求めても良い。
【0100】
以上の処理により、評価指数EI3に含むべき各種の指数CDI, Tpower, UE, SI, GIとが算出されたことになるので図16の次のステップS155では、上記(3-1)式によって評価指数EI3を算出する。次のステップS156では、処理対象となっているセルに含まれるすべてのサンプル色に関して評価指数EI3の算出が終了したか否かが判断される。こうして、各ステップが繰り返し実行されて、そのセル内のすべてのサンプル色に関して評価指数EI3が算出される。次のステップでは、サンプル選択部560が、そのセル内のサンプル色のうちで、評価指数EI3が最良であるサンプルを、そのセルに関する代表サンプルとして選択する。この結果、少なくとも1つのサンプルを含む各セルに関して、1つの代表サンプルがそれぞれ選択される。
【0101】
以上のように、第3実施形態では、色差指数CDIと色むら指数EIを含む評価指数EI3を用いているので、滑らかな色再現を実現するとともに、色むらの少ない画像表示を達成するプロファイルを作成することが可能である。また、色差指数CDIとして、第1実施形態と同じ色差指数CDIaを使用すれば、同じ画像を異なるスクリーンに投影した場合に色の見えの変化が小さい色再現を達成するプロファイルを作成することができる。さらに、色差指数CDIとして、第2実施形態と同じ色差指数CDIbを使用すれば、同じ画像を同一スクリーンにおいて異なる角度で観察した場合でも色の見えの変化が小さい色再現を達成するプロファイルを作成することができる。また、評価指数EI3に消費電力指数Tpowerを含めるようにすれば、低消費電力での表示を実施可能なプロファイルを作成可能である。また、評価指数EI3に階調性指数SIや粒状性指数GIを含めるようにすれば、局所的な階調再現がより滑らかな色再現や、粒状性の少ない表示を実現するプロファイルを作成可能である。これらの各種の望ましい特性のうち、いずれを重視するかは、これらの特性に関する(3-1)式の重み係数k1〜k5を用いて調整することが可能である。
【0102】
E.変形例:
なお、この発明は上記の実施形態や実施例に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0103】
・変形例1:
上述した第1実施形態および第2実施形態では、消費電力指数Tpowerと色差指数CDIを用いて最適な多原色データを選択したが、評価指数EIに含まれる指数としては、画質や装置寿命に関わる指数を含めても良い。例えば、液晶素子やEL素子、レーザー発振素子などは、表示する原色の強度(温度)が寿命に与える影響がある。そこで、原色値の組み合わせによる装置寿命の程度を示す寿命指数を評価指数に含めても良い。なお、上述した各種の指数を求める式や算出方法は例示であり、これとは異なる他の式や算出方法を用いて、それぞれの指数を算出するようにしてもよい。
【0104】
・変形例2:
上述した各実施形態では、測色値の色空間を複数のセルに分割し、各セルにおいて評価指数EIが最良であるサンプルを代表サンプルとして選択していた。しかし、色変換プロファイルを作成する際に用いる複数の代表サンプルを選択する方法は、これらに限らず、一般には、評価指数EIに基づいて複数の代表サンプルを選択することが可能である。例えば、測色値の色空間を複数のセルに分割せずに複数の代表サンプル(最良サンプル)を選択することも可能である。具体的には、測色値の色空間内で複数のグリッド点(ノード)を設定し、各ノードの近傍の所定範囲に存在するサンプルの中で評価指数EIが最も小さなサンプルをそのノードの代表サンプル(最良サンプル)として選択することができる。これらの場合には、いずれもサンプルの色(すなわち測色値)に応じてサンプルを複数の組に分類し、その各組毎に、評価指数EIに応じた最良サンプルを選択する点で共通していることが理解できる。
【0105】
・変形例3:
上記実施形態では、反射型のスクリーンを使用していたが、この代わりに透過型のスクリーンを使用するようにしてもよい。この場合には、スクリーンの分光反射率の代わりに、分光透過率を使用すれば良い。すなわち、スクリーンの分光特性(分光反射率又は分光透過率)と利用すれば、スクリーン上で観察される画像の分光強度を算出することが可能である。
【0106】
・変形例4:
上記実施形態では、多原色表示装置としてプロジェクター(投写型表示装置)を使用した場合について説明していたが、本発明は、テレビジョンやモニターなどの直視型の表示装置にも適用可能である。特に、観察角度に応じて見えが大幅に異なる表示装置に関しては、第2実施形態で説明したような観察角度による見えの変化を小さく抑えるような色変換プロファイルを使用することが好ましい。
【符号の説明】
【0107】
100…色変換装置
110…色変換部
120…色変換プロファイル格納部
130…色変換プロファイル選択部
200…多原色表示装置
210…制御部
221,222…光源ランプ
231〜233…ダイクロイックミラー
241〜245…反射ミラー
251〜255…変調素子
261,262…クロスダイクロイックプリズム
270…投写レンズ
281〜285…画素発光素子
300…スクリーン
500…分光投影モデルコンバータ
510…インデックス選択部
520…消費電力指数算出部
530…色差指数算出部
540…画質指数算出部
550…評価指数算出部
560…サンプル選択部
570…プロファイル生成部
572…原色プロファイル
580…ガマットマッピング処理部
590…プロファイルデータ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
4つ以上の複数の原色を用いてカラー画像を投影可能な多原色プロジェクターで使用される色変換プロファイルとして、前記複数の原色の原色値を含む多原色データと測色値との対応関係を規定する色変換プロファイルを作成する方法であって、
(a)前記多原色データを、前記多原色データに従って投影されるカラーパッチの分光強度に変換する分光投影モデルコンバータを準備する工程と、
(b)複数のサンプル多原色データを準備する工程と、
(c)前記分光投影モデルコンバータを用いて、各サンプル多原色データを、前記サンプル多原色データに従って投影されるべき仮想サンプルカラーパッチの分光強度に変換する工程と、
(d)各サンプル多原色データについて、前記分光強度から算出されるサンプル色に関する色差を表す予め指定されたタイプの色差指数を含む評価指数を算出する工程と、
(e)前記複数のサンプル多原色データについてそれぞれ算出されたサンプル色に応じて前記複数のサンプル多原色データを複数の組に分類するとともに、前記評価指数に基づいて、前記複数の組のそれぞれにおいて最良サンプル多原色データを選択する工程と、
(f)前記選択された複数の最良サンプル多原色データに基づいて、測色値と多原色データとの対応関係を規定する色変換プロファイルを作成する工程と、
を備え、
前記色差指数は、スクリーンに投影されたカラーパッチを異なる角度で観察したときの色差を示す指数である、方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法であって、
前記評価指数は、前記色差指数とともに、前記多原色プロジェクターの消費電力を示す消費電力指数を含む、色変換プロファイル作成方法。
【請求項3】
4つ以上の複数の原色を用いてカラー画像を投影可能な多原色プロジェクターであって、
予め準備された色変換プロファイルを参照して、入力カラー画像信号を前記複数の原色の原色値に変換する色変換部と、
前記色変換後の複数の原色の原色値に応じて画像をスクリーンに投影する画像投影部と、
を備え、
前記色変換プロファイルは、スクリーンに投影されたカラーパッチを異なる角度で観察したときの色差を示す色差指数を含む評価指数が最小となるように生成されたプロファイルである、多原色プロジェクター。
【請求項4】
4つ以上の複数の原色を用いてカラー画像を表示可能な画像表示装置であって、
予め準備された色変換プロファイルを参照して、入力カラー画像信号を前記複数の原色の原色値に変換する色変換部と、
前記色変換後の複数の原色の原色値に応じて画像を表示する画像表示部と、
を備え、
前記色変換プロファイルは、前記画像表示部によって表示されたカラーパッチを異なる角度で観察したときの色差を示す色差指数を含む評価指数が最小となるように生成されたプロファイルである、画像表示装置。
【請求項1】
4つ以上の複数の原色を用いてカラー画像を投影可能な多原色プロジェクターで使用される色変換プロファイルとして、前記複数の原色の原色値を含む多原色データと測色値との対応関係を規定する色変換プロファイルを作成する方法であって、
(a)前記多原色データを、前記多原色データに従って投影されるカラーパッチの分光強度に変換する分光投影モデルコンバータを準備する工程と、
(b)複数のサンプル多原色データを準備する工程と、
(c)前記分光投影モデルコンバータを用いて、各サンプル多原色データを、前記サンプル多原色データに従って投影されるべき仮想サンプルカラーパッチの分光強度に変換する工程と、
(d)各サンプル多原色データについて、前記分光強度から算出されるサンプル色に関する色差を表す予め指定されたタイプの色差指数を含む評価指数を算出する工程と、
(e)前記複数のサンプル多原色データについてそれぞれ算出されたサンプル色に応じて前記複数のサンプル多原色データを複数の組に分類するとともに、前記評価指数に基づいて、前記複数の組のそれぞれにおいて最良サンプル多原色データを選択する工程と、
(f)前記選択された複数の最良サンプル多原色データに基づいて、測色値と多原色データとの対応関係を規定する色変換プロファイルを作成する工程と、
を備え、
前記色差指数は、スクリーンに投影されたカラーパッチを異なる角度で観察したときの色差を示す指数である、方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法であって、
前記評価指数は、前記色差指数とともに、前記多原色プロジェクターの消費電力を示す消費電力指数を含む、色変換プロファイル作成方法。
【請求項3】
4つ以上の複数の原色を用いてカラー画像を投影可能な多原色プロジェクターであって、
予め準備された色変換プロファイルを参照して、入力カラー画像信号を前記複数の原色の原色値に変換する色変換部と、
前記色変換後の複数の原色の原色値に応じて画像をスクリーンに投影する画像投影部と、
を備え、
前記色変換プロファイルは、スクリーンに投影されたカラーパッチを異なる角度で観察したときの色差を示す色差指数を含む評価指数が最小となるように生成されたプロファイルである、多原色プロジェクター。
【請求項4】
4つ以上の複数の原色を用いてカラー画像を表示可能な画像表示装置であって、
予め準備された色変換プロファイルを参照して、入力カラー画像信号を前記複数の原色の原色値に変換する色変換部と、
前記色変換後の複数の原色の原色値に応じて画像を表示する画像表示部と、
を備え、
前記色変換プロファイルは、前記画像表示部によって表示されたカラーパッチを異なる角度で観察したときの色差を示す色差指数を含む評価指数が最小となるように生成されたプロファイルである、画像表示装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2011−215509(P2011−215509A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−85700(P2010−85700)
【出願日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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