多層構造の樹脂成形品の製造方法および射出成形装置
【課題】樹脂流れが抑えられ、歪みが小さく、転写が良好であり、各層間の密着性に優れている、薄い層を含む多層構造の樹脂成形品を製造可能にする。
【解決手段】可動側金型9と第1の固定側金型4の、第1のキャビティ14の周囲のキャビティ表面を、第1の熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度以上かつ加熱分解温度未満に保ち、第1のキャビティ14内に第1の熱可塑性樹脂を射出して第1層を形成する。両金型4,9を冷却した後、第1層を保持した可動側金型9と第2の固定側金型5によって第2のキャビティを形成する。両金型5,9の、第1層12の周囲を低温に保ち、第2のキャビティ17の周囲であって第1層12の周囲は除く位置のキャビティ表面を第2の熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度以上かつ加熱分解温度未満に保った状態で、第2の熱可塑性樹脂を第2のキャビティ内に射出して第2層を形成する。
【解決手段】可動側金型9と第1の固定側金型4の、第1のキャビティ14の周囲のキャビティ表面を、第1の熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度以上かつ加熱分解温度未満に保ち、第1のキャビティ14内に第1の熱可塑性樹脂を射出して第1層を形成する。両金型4,9を冷却した後、第1層を保持した可動側金型9と第2の固定側金型5によって第2のキャビティを形成する。両金型5,9の、第1層12の周囲を低温に保ち、第2のキャビティ17の周囲であって第1層12の周囲は除く位置のキャビティ表面を第2の熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度以上かつ加熱分解温度未満に保った状態で、第2の熱可塑性樹脂を第2のキャビティ内に射出して第2層を形成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多色射出成形による多層構造の樹脂成形品の製造方法と、そのための射出成形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂成形品を多層構造にして、各層をそれぞれ異なる樹脂によって形成した成形品がある。例えば、成形品の裏側に位置する層(本明細書では便宜上「裏側層」という)を成形品の強度を維持するための層とし、成形品の表側に位置する層(ここでは便宜上「表側層」という)を、裏側層の樹脂とは異なる色の樹脂からなる意匠用または表示用の層にする場合がある。このように複数の色を組み合わせることによって、裏側層を背景として表側層によって文字や図形を表示することや、裏側層および表側層を所望の色合いに形成して、成形後の塗装を不要にすることができる。また、複数の材質を組み合わせることによって、部分的に各々の材質の特性を生かした成形品を得ることもでき、その場合、機能の異なる部材を一体に成形することが可能になる。
【0003】
さらに、裏側層の全てまたは大部分が表側層によって覆われて、外部にほとんど露出しない構成であると、裏側層は、完成状態の成形品の外観にほとんど影響を与えないため、リサイクル樹脂など外観が多少不良になる可能性のある安価な材料を用いて構成することができる。それによって、低コスト化が図れるとともに、省資源や環境保全に寄与することができる。
【0004】
なお、表側層を透光性樹脂から形成して、裏側層を視認できるようにしたり、裏側層の存在しない部分においてこの成形品を通してその奥にある他部材を視認できるようにする場合もある。このように、少なくとも表側層を、透光性を有する構成にして意匠性を高める場合には、表側層も裏側層も製品の外観として視認されるため、良好な表面外観に形成されなければならない。
【0005】
前記した種々の利点を有する多層構造の樹脂成形品を製造するための一般的な方法は、多色成形法である(特許文献1参照)。多色成形法は、異材質成形とも呼ばれる成形方法のことであり、色や材質の異なる複数の成形材料を、それぞれ異なる射出装置から順次射出して、複数の成形材料が組み合わされた成形品を成形する方法である。多色成形法の一例である2色成形法の具体例を挙げると、まず、可動側金型と第1の固定側金型とを閉じることによって構成された第1のキャビティ内に第1の熱可塑性樹脂を射出して、第1層を形成する。次に、形成された第1層を保持した状態の可動側金型を移動させて第2の固定側金型に当接させ、可動側金型と第2の固定側金型との間に構成された第2のキャビティ内に第2の熱可塑性樹脂を射出して、第2層を形成する。こうして、第1層の上に第2層が積層された構成の多層構造の樹脂成形品が完成する。なお、第1層が裏側層であって第2層が表側層である場合もあるが、第1層が表側層であって第2層が裏側層であっても構わない。
【0006】
また、多層構造の樹脂成形品を製造するその他の方法として、フィルムやシート等を金型のキャビティ内に予め挿入しておいてから、そのキャビティ内に溶融状態の樹脂を射出する、いわゆるインモールド成形法やインサート成形法などがある。さらに、フィルムやシートではなく予め射出成形した半製品をキャビティ内に配置するインサート成形法が用いられる場合もある。
【特許文献1】特開平5−162171号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記したような多層構造の樹脂成形品においては、通常、一方の層を通常の樹脂成形品と同等の厚さに形成して十分な強度を確保し、その上に、少なくとも部分的にもう1つの層を積層形成している。後者の層は、比較的薄く、例えば0.05mm〜1mm程度の厚さに形成することが好ましい。仮に両方の層が厚い場合には、樹脂成形品全体の大型化および重量化を招き、ひいてはこの樹脂成形品を取り付ける機械の性能に影響を及ぼすおそれがある。また、材料となる樹脂の使用量が多くコスト高になるなどの問題を生じる可能性がある。
【0008】
前記した多色成形法や、予め射出成形した半製品を用いるインサート成形法では、比較的形状の自由度が高い成形が可能であるが、0.05mm〜1mm程度の薄い層を形成することは困難である。すなわち、1mm以下の薄い層を形成しようとすると、溶融状態の樹脂が射出されるキャビティが薄すぎるため、そのキャビティ全体に万遍なく樹脂を充填させることが困難であり、未充填の部分が生じ易い。また、成形品の2つの層の界面に大きな熱歪みが残ることが多い。特に、2つの層がいずれも透光性を有する樹脂からなる場合には、熱歪みが光学的歪みを引き起こすため、樹脂成形品の所望の性能が得られないおそれがある。さらに、2つの層の材料となる樹脂が互いに密着性の悪い組み合わせであった場合には、大きな熱歪みの影響で剥がれやすくなるおそれもある。仮に、樹脂の射出速度を標準以上に速くする、いわゆる超高速射出成形法を応用して1mm以下の薄い層を形成しても、これらの問題を十分に解決できるとは言えないのが実情である。
【0009】
多色成形法において、超高速射出成形法を用いて薄い層を第1層として先に形成し、その後に比較的厚い層を第2層として形成することが考えられるが、その場合にも良好な成形は困難な場合が多い。例えば、後に行われる厚い第2層の形成時に、先に形成されていた薄い第1層が再溶解して流動する、いわゆる樹脂流れ現象が生じる可能性がある。特に、1mm以下の薄い第1層に樹脂流れが生じると、その樹脂が部分的に少ない部分、すなわち、その樹脂の濃度が部分的に低く、その結果、色が薄くなったり性質が変化した部分が生じやすい。結果的に、このような成形品の色相の悪化や、後に行われる厚い第2層の射出後の冷却時間の長期化(厚い分だけ冷却に要する時間が長くなる)に伴う成形サイクルの長期化等の問題が生じ易い。
【0010】
なお、以上の説明は、主に2色成形法について述べたが、3色以上の多色成形法や、予め射出成形した半製品を用いるインサート成形法でも、実質的に同じ問題が生じ易い。
【0011】
そこで、本発明の目的は、樹脂流れが抑えられ、歪みが小さく、転写が良好であり、各層間の密着性に優れている、薄い層を含む多層構造の樹脂成形品を製造するための方法と、そのための射出成形装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の、第1の熱可塑性樹脂からなる第1層と第2の熱可塑性樹脂からなる第2層を含む多層構造の樹脂成形品の製造方法は、第1層を保持した状態の一方の金型を対向側金型に接合することによって第2層形成用のキャビティを構成し、第2層形成用のキャビティ内に第2の熱可塑性樹脂を射出して第2層を形成するステップを含み、第2層を形成するステップでは、形成された第1層を保持した状態の一方の金型のキャビティ表面のうちの少なくとも一部を第1の熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度未満に保つとともに、対向側金型のキャビティ表面を第2の熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度以上かつ加熱分解温度未満に保った状態で、第2の熱可塑性樹脂を第2層形成用のキャビティ内に射出し、射出完了後に、対向側金型のキャビティ表面を第2の熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度未満に冷却することを特徴とする。
【0013】
なお、荷重たわみ温度は、国際規格 ISO 75(JIS7191) 荷重1.8MPaで規定されている。
【0014】
さらに、第1層を保持する前の一方の金型を他の対向側金型に接合することによって第1層形成用のキャビティを構成し、第1層形成用のキャビティ内に第1の熱可塑性樹脂を射出して第1層を形成するステップと、形成された第1層を保持した状態の一方の金型を、第1層形成用のキャビティを構成する他の対向側金型との対向位置から、第2層形成用のキャビティを構成する対向側金型との対向位置へ相対的に移動させるステップと、を含み、第1層を形成するステップでは、一方の金型と他の対向側金型のキャビティ表面をいずれも第1の熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度以上かつ加熱分解温度未満に保った状態で、第1の熱可塑性樹脂を第1層形成用のキャビティ内に射出し、射出完了後に一方の金型と他の対向側金型のキャビティ表面を第1の熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度未満に冷却するようにしてもよい。その場合、全ての金型には、加熱媒体と冷却媒体を選択的に導入可能な複数の流路管がそれぞれ設けられており、第1層を形成するステップでは、一方の金型と他の対向側金型の複数の流路管のうち、第1層形成用のキャビティの周囲の流路管のみに前記加熱媒体を供給し、第2層を形成するステップでは、対向側金型の複数の流路管のうち、第2層形成用のキャビティの周囲の流路管のみに加熱媒体を供給すればよい。
【0015】
あるいは、第1層を保持する前の一方の金型を、対向側金型に接合することによって第1層形成用のキャビティを構成し、第1層形成用のキャビティ内に第1の熱可塑性樹脂を射出して第1層を形成するステップと、第1層を形成した後に、形成された第1層を保持している一方の金型または対向側金型の内部のコア部分を移動させることによって、第1層形成用のキャビティを構成した状態から第2層形成用のキャビティを構成した状態に移行させるステップと、を含み、第1層を形成するステップでは、一方の金型と対向側金型のキャビティ表面をいずれも第1の熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度以上かつ加熱分解温度未満に保った状態で、第1の熱可塑性樹脂を前記第1層形成用のキャビティ内に射出し、射出完了後に一方の金型と対向側金型のキャビティ表面を第1の熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度未満に冷却してもよい。その場合、全ての金型には、加熱媒体と冷却媒体を選択的に導入可能な複数の流路管がそれぞれ設けられており、第2層を形成するステップでは、形成された第1層を保持した状態の一方の金型の複数の流路管のうち、形成された第1層を保持している部分の周囲に位置する流路管に冷却媒体を供給し、または当該流路管への加熱媒体および冷却媒体の供給を停止し、それ以外の流路管に加熱媒体を供給すればよい。
【0016】
これらの方法によると、第1の熱可塑性樹脂からなる第1層の形成時に、キャビティ表面が第1の熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度よりも高温であるため、第1層が薄い層であっても、第1の熱可塑性樹脂の流動性が良く第1層形成用のキャビティ内全体に充填される。その結果、ウェルドマークやフローマークの発生が抑制された樹脂成形品が製造でき、しかも、外観の転写良好で内部歪みが小さい。さらに、第2層の形成時に、一方の金型に保持された第1層は低温に保ち、対向側金型は高温にすることができるため、第2層形成用のキャビティ内を流動する第2の熱可塑性樹脂は、第1層に近い部分や中間部分よりも、対向側金型に近い部分で良好に流動できる。しかも一方の金型の第1層の周囲を、第1の熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度よりも低温にして第1層は再溶解しないようにすることができる。そのため、樹脂流れの発生を防ぐことができ、色むら等を防ぐことができる。また、第1層の外観が良好で内部歪みが小さいため、第2の熱可塑性樹脂の流動に伴う応力を低減でき、第2層の歪みも小さくなり、第1層と第2層の界面の密着性が良好で剥離の発生が抑えられ、外観が良好な製品を得ることができる。
【0017】
また、樹脂の射出時にも、樹脂成形にあまり影響を及ぼさない、キャビティから離れた部分においては、温度があまり高くならない。それによって、樹脂射出後の冷却固化をより効率良く迅速に行うことができる。
【0018】
本発明の、一方の金型と、少なくとも1つの対向側金型とを有する、多層構造の樹脂成形品製造用の射出成形装置は、1つの対向側金型は、樹脂成形品の第1の熱可塑性樹脂からなる第1層を保持した状態の一方の金型と接合されて第2層形成用のキャビティを構成するものであり、一方の金型と対向側金型には、加熱媒体と冷却媒体を選択的に導入可能な流路管がそれぞれ設けられており、第2層形成用のキャビティ内に第2の熱可塑性樹脂を射出する、第2の熱可塑性樹脂用の射出機構と、第2の熱可塑性樹脂用の射出機構から第2層形成用のキャビティ内に第2の熱可塑性樹脂を射出する際に、一方の金型のキャビティ表面のうちの少なくとも一部を第1の熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度未満に下げるように一方の金型の複数の流路管のうちの少なくとも一部に、冷却媒体を供給し、または当該流路管への加熱媒体および冷却媒体の供給を停止するとともに、第2層形成用のキャビティを構成する対向側金型のキャビティ表面を第2の熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度以上かつ加熱分解温度未満に保つように当該対向側金型の流路管に加熱媒体を供給し、射出完了後に当該対向側金型のキャビティ表面を第2の熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度未満に冷却するように当該対向側金型の流路管に冷却媒体を供給する、媒体供給制御機構と、を有していることを特徴とする。
【0019】
なお、本明細書中で言う「キャビティ」とは、型締め状態の金型間の、スプルーおよびランナーを除く、樹脂が充填可能な空間であり、各成形品の形状に対応する空間を指す。そして、「キャビティ表面」とは、キャビティを区画する金型表面を指す。
【発明の効果】
【0020】
本発明によると、多層構造の樹脂成形品において、少なくとも1つの層が非常に薄い場合であっても、ウェルドマーク、フローマーク、樹脂流れ、未充填などの外観不良を抑え、外観が良好な樹脂成形品を容易に得ることができ、しかも歪みを小さく抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。本発明は、多色成形によって多層構造の樹脂成形品を製造するものである。
【0022】
まず、本発明の射出成形装置の全体構造について説明する。図1,2に示すように、この射出成形装置は、固定側プレート1と、図示しない駆動手段によってガイド3に沿って、固定側プレート1に近づいたり離れたりする可動側プレート2を有している。固定側プレート1の、可動側プレート2側に向いた面には、第1の固定側金型4と第2の固定側金型5が取り付けられている。後述するように、第1の固定側金型4と第2の固定側金型5は、キャビティ14,17の形状とスプルー15,18およびランナー16,19の位置が異なっているが(図8,9参照)、それ以外は実質的に同じ構成である。そして、図1,2では、見易くするために分離して図示されているが、固定側プレート1には第1の射出機構(第1の熱可塑性樹脂用の射出機構)6と第2の射出機構(第2の熱可塑性樹脂用の射出機構)7が取り付けられている。第1の射出機構6および第2の射出機構7は、詳述しないが各固定側金型4,5のスプルー15,18にそれぞれ接続されており、溶融状態の熱可塑性樹脂を、スプルー15,18およびランナー16,19を介して各キャビティ14,17内にそれぞれ射出するものである。両射出機構6,7には、それぞれ異なる熱可塑性樹脂を供給可能である。
【0023】
可動側プレート2の、固定側プレート1側に向いた面には、図示しない駆動手段によって回転させられる回転板8が取り付けられており、この回転板8に2つの可動側金型9が取り付けられている。2つの可動側金型9は、キャビティ形状が上下反対になっているが、それ以外は同じ構成であり、第1の固定側金型4および第2の固定側金型5とそれぞれ対向可能な位置に配置されている。
【0024】
なお、本実施形態では、可動側金型9が「一方の金型」であり、それに対向可能な位置にある第1の固定側金型4が「他の対向側金型」、第2の固定側金型5が「対向側金型」である。
【0025】
各金型4,5,9には、それぞれ複数の流路管10が設けられている。各流路管10は各キャビティ14,17の近傍に配置されており、媒体供給制御機構20から、冷水等の冷却媒体と熱水等の加熱媒体を選択的に導入可能である。各図面では、簡略化のために媒体供給制御機構20から全ての流路管10を1本のラインで結んでいるかのように図示されているが、実際には、媒体供給制御機構20から個々の冷却管10に対してそれぞれ独立して冷却媒体または加熱媒体を供給可能である。さらに、各流路管10への媒体の供給経路内にそれぞれ弁(図示せず)が設けられていてもよい。また、図2には、各金型4,5,9が入れ子構造であるように図示されており、この構成によると、入れ子部分を交換することによって形状の異なる樹脂成形品を製造することが容易に可能になる。ただし、必ずしも入れ子構造である必要はない。
【0026】
次に、本実施形態において製造する多層構造の樹脂成形品11について説明する。図3(a)はこの樹脂成形品11の正面図、図3(b)はその側面図、図4(a)はその側面断面図、図4(b)は図4(a)の要部拡大図である。図5(a)はこの樹脂成形品11の第1層12の正面図、図5(b)はその側面図、図6(a)はその側面断面図、図6(b)は図6(a)の要部拡大図である。
【0027】
図3,4に示すように、樹脂成形品11は、外形が100mm×100mm×20mmの蓋のない中空の箱状である。そして、図5,6に示す第1層12は、有色の熱可塑性樹脂からなり、厚さが0.7mmであり、正方形状の主面の中央部に80mm×80mmの窓穴部12aを有している。第2層13は、透光性を有する熱可塑性樹脂からなり、第1層12を覆う形状であり、第1層12と重なる部分の厚さは0.7mmで、第1層12の存在しない部分(窓穴部12aの部分)の厚さは1.4mmである。なお、図3(a)では、透光性の第2層13を介して視認できる第1層12の輪郭(窓穴部12aの内周縁)も図示している。
【0028】
この樹脂成形品11は、例えば、表示器のカバーとして用いられ、透光性を有する第2層13と窓穴部12aを介して、図示しない表示画面を見ることができ、表示画面の周囲は、例えば黒色等の第1層12によって縁取られている。この構成によると、第2層13が表側層になるので、ウェルドマークやフローマークやヒケや表面状態不良を防ぐ必要がある。さらに、裏側層である第1層12も、透光性を有する第2層13を介して視認できるため、前記したような不良を防ぐ必要があるとともに、色むら等を引き起こす樹脂流れを防ぐ必要がある。また、当然のことながら、両層の界面の熱歪みを小さく抑えることや、密着性が良好であることが望まれる。
【0029】
そこで、図1,2に示す射出成形装置を用いて図3,4に示す樹脂成形品11を製造し、前記した種々の要求を満たすことができる、本発明の方法の一実施形態について、図7のフローチャートに沿って以下に説明する。
【0030】
本実施形態では、第1層となる第1の熱可塑性樹脂としてポリカーボネート樹脂(PC:荷重たわみ温度140℃)を用い、第2層となる第2の熱可塑性樹脂Bとして透光性を有するアクリル樹脂(PMMA:荷重たわみ温度90℃)を用いて、多層構造の樹脂成形品11を製造した。
【0031】
まず、図8に示すように、可動側金型9を第1の固定側金型4に当接させて、両者の間に第1のキャビティ(第1層形成用のキャビティ)14を形成する(ステップS1)。この第1のキャビティ14は、図5,6に示す第1層12と同じ形状である。そして、可動側金型9および第1の固定側金型4に設けられた流路管10に、媒体供給制御機構20から熱水等の加熱媒体を供給する。それによって可動側金型9および第1の固定側金型4のキャビティ表面温度を、第1の熱可塑性樹脂(PC)の荷重たわみ温度以上かつ加熱分解温度未満である150℃まで高めて保持する(ステップS2)。そこで、図1,2に示す第1の射出機構6から、スプルー15およびランナー16を介して第1のキャビティ14に、溶融状態の第1の熱可塑性樹脂(PC)を射出して、第1層12を形成する(ステップS3)。所定量のPCの射出が完了したら、媒体供給制御機構20は、可動側金型9および第1の固定側金型4に設けられた流路管10への加熱媒体の供給を停止し、代わりに冷水などの冷却媒体を供給する。それによって、可動側金型9および第1の固定側金型4のキャビティ表面温度を50℃まで降下させ、第1層12を固化させる(ステップS4)。このようにして、金型4,9の温度を上下させる、いわゆるヒートサイクル成形法によって第1層12を成形する。
【0032】
それから、可動側プレート2を固定側プレート1から離して型開きし、回転板8(図1,2参照)を180度回転させて、形成された第1層12を保持した状態の可動側金型9を、第1の固定側金型4に対向する位置から第2の固定側金型5に対向する位置に移動させる(ステップS5)。その状態で、図9に示すように、可動側プレート2を固定側プレート1に当接させ、可動側金型9を第2の固定側金型5に当接させて、両者の間に第2のキャビティ(第2層形成用のキャビティ)17を形成する(ステップS6)。第2のキャビティ17は、第2の固定側金型5と可動側金型9および第1層12とによって形成され、図3,4に示す第2層13と同じ形状である。なお、図9から第1層12を省略した状態を図10に示している。
【0033】
そして、可動側金型9のキャビティ表面温度を50℃に保ったまま、媒体供給制御機構20から第2の固定側金型5の流路管10に熱水等の加熱媒体を供給し、そのキャビティ表面温度を、第2の熱可塑性樹脂(PMMA)の荷重たわみ温度以上かつ加熱分解温度未満である100℃まで高めて保持する(ステップS7)。なお、後述するように、樹脂成形品11の第2層13の成形と同時に第1のキャビティ14において次の樹脂成形品11の第1層12の成形を行う場合には、この時点で第1の固定側金型4の流路管10への加熱媒体の供給を再開する。
【0034】
そして、図1,2に示す第2の射出機構7から、スプルー18およびランナー19を介して第2のキャビティ17に、溶融状態の第2の熱可塑性樹脂(PMMA)を射出して、第2層13を形成する(ステップS8)。所定量のPMMAの射出が完了したら、媒体供給制御機構20は、第2の固定側金型5の流路管10への加熱媒体の供給を停止し、代わりに冷水などの冷却媒体を供給する。それによって、第2の固定側金型4のキャビティ表面温度を、可動側金型9のキャビティ表面温度と同様に50℃まで降下させ、図11に示す第2層13を固化させる(ステップS9)。
【0035】
このようにして、図3,4に示す多層構造の樹脂成形品11を製造し、可動側プレート2を固定側プレート1から離して型開きして、図3,4に示す樹脂成形品11を取り出す(ステップS10)。
【0036】
なお、媒体供給制御機構20は、各流路管10への加熱媒体または冷却媒体の供給をそれぞれ独立して行うことができる。例えば、媒体供給制御機構20は、第1層12の形成時(ステップS2〜3)には、第1のキャビティ14の周囲の流路管10(例えば図8に示す流路管10A)のみに加熱媒体を供給し、第1のキャビティ14から離れた位置の流路管10(例えば図8に示す流路管10B)には加熱媒体を流さないようにすることもできる。その場合、キャビティ表面は所定の温度まで昇温させつつ、キャビティ表面温度にほとんど影響しない部分ではあまり温度上昇させず、第1層12の形成後の冷却工程を効率よく迅速にすることができる。
【0037】
媒体供給制御機構20は、第2層13の形成時(ステップS7〜8)には、可動側金型12に保持されている第1層12の周囲に位置している流路管10(例えば図9に示す流路管10B)には、冷却媒体を流すか、または、加熱媒体も冷却媒体も流さないようにする。流路管10Bに加熱媒体も冷却媒体も流さない場合にも、ステップS4において流路管10Bに冷却媒体が流されて既に冷却されているため、流路管10Bの周囲、すなわち可動側金型9の第1層12の周囲に位置する部分は、第1の熱可塑性樹脂(PC)の荷重たわみ温度未満(例えば約50℃)に保たれる。一方、この第2層13の形成時に、第2のキャビティ14の周囲の流路管10であって、前記した流路管10B以外の流路管(図9に示す流路管10A)には加熱媒体を流し、第2の熱可塑性樹脂(PMMA)の荷重たわみ温度以上かつ加熱分解温度未満である100℃まで高めて保持する。このように、複数の流路管への加熱媒体または冷却媒体の供給をそれぞれ独立して制御することによって、既に形成済みの第1層を、第2層の成形工程において再溶融させることを防ぎ、また、各金型4,5,9の全域を必要しないようにして、成形後の冷却工程を効率よく迅速にすることができる。なお、一部の流路管10に媒体を供給しない方法としては、図示しないが、ポンプ等の供給機構自体を一部停止させる方法や、各流路管への供給ライン内にそれぞれ設けられた弁を閉じる方法が考えられる。
【0038】
以上説明した本実施形態によって製造された多層構造の樹脂成形品11について、後述する比較例1〜4と対比させて検討した結果を表1に示している。
【0039】
【表1】
【0040】
この表1における「色流れ」とは、多層構造の樹脂成形品11において、樹脂の再溶解に伴う樹脂流れによる、視認できる程度の色むらの発生の有無を表す。「ウェルドマーク」とは、樹脂成形品11の表面における、視認できる程度のウェルドマークの発生の有無を表す。「フローマーク」とは、樹脂成形品11の表面における、視認できる程度のフローマークの発生の有無を表す。「剥離」とは、樹脂成形品11における第1層12と第2層13との界面の、視認できる程度の剥離の有無を表す。「未充填」とは、樹脂成形品11における、視認できる程度の未充填部分の有無を表す。
【0041】
表1からわかるように、本実施形態によると、色流れ、ウェルドマーク、フローマーク、剥離、未充填のいずれにおいても良好な結果が得られた。
【0042】
本出願人は、本実施形態と対比させるための比較実験を行った。以下、それらの比較例について説明する。なお、以下の全ての比較例において、前記した実施形態と同様な射出成形装置および熱可塑性樹脂を用いて、同様な形状の樹脂成形品を製造している。
【0043】
[比較例1]
比較例1では、可動側金型9および第1の固定側金型4のキャビティ表面温度を、第1の熱可塑性樹脂(PC)の荷重たわみ温度未満である100℃に保った状態で、第1のキャビティ14に第1の熱可塑性樹脂(PC)を射出した。所定量のPCの射出が完了したら、第1層12を自然固化させた後、形成された第1層12を保持した状態の可動側金型9を移動させて第2の固定側金型5に当接させた。そして、可動側金型9は温度変化させないまま、第2の固定側金型5のキャビティ表面温度を、第2の熱可塑性樹脂(PMMA)の荷重たわみ温度未満である60℃に保ち、第2のキャビティ17に第2の熱可塑性樹脂(PMMA)を射出した。こうして製造された樹脂成形品について検討した結果を、前記した表1に示している。比較例1では、色流れ、ウェルドマーク、フローマーク、剥離、未充填のいずれにおいても悪い結果であった。
【0044】
[比較例2]
比較例2では、可動側金型9および第1の固定側金型4のキャビティ表面温度を、第1の熱可塑性樹脂(PC)の荷重たわみ温度未満である100℃に保った状態で、第1のキャビティ14に第1の熱可塑性樹脂(PC)を射出した。所定量のPCの射出が完了したら、第1層12を自然固化させた後、形成された第1層12を保持した状態の可動側金型9を移動させて第2の固定側金型5に当接させた。そして、可動側金型9および第2の固定側金型5のキャビティ表面温度を、第2の熱可塑性樹脂(PMMA)の荷重たわみ温度以上かつ加熱分解温度未満である100℃まで高めて、第2のキャビティ17に第2の熱可塑性樹脂(PMMA)を射出した。所定量のPMMAの射出が完了したら、可動側金型9および第2の固定側金型5のキャビティ表面温度を50℃に下げて、第2層13を固化させた。こうして製造された樹脂成形品について検討した結果を、前記した表1に示している。比較例2では、ウェルドマーク、フローマーク、剥離に関しては良好な結果が得られたが、色流れと未充填に関しては悪い結果であった。
【0045】
[比較例3]
比較例3では、可動側金型9および第1の固定側金型4のキャビティ表面温度を、第1の熱可塑性樹脂(PC)の荷重たわみ温度以上かつ加熱分解温度未満である150℃まで高めて、第1のキャビティ14に第1の熱可塑性樹脂(PC)を射出した。所定量のPCの射出が完了したら、可動側金型9および第1の固定側金型4のキャビティ表面温度を50℃まで降下させ、第1層12を固化させた。それから、形成された第1層12を保持した状態の可動側金型9を移動させて第2の固定側金型5に当接させ、可動側金型9および第2の固定側金型5のキャビティ表面温度を、第2の熱可塑性樹脂(PMMA)の荷重たわみ温度未満の60℃に保ち、第2のキャビティ17に第2の熱可塑性樹脂(PMMA)を射出した。こうして製造された樹脂成形品について検討した結果を、前記した表1に示している。比較例3では、未充填に関しては良好な結果が得られたが、色流れ、ウェルドマーク、フローマーク、剥離に関しては悪い結果であった。
【0046】
[本発明の実施形態と比較例1〜3の検証]
表1からわかるように、本発明の実施形態においては、色流れ、ウェルドマーク、フローマーク、剥離、未充填のいずれにおいても良好な結果が得られた。これに対して比較例1は、色流れ、ウェルドマーク、フローマーク、剥離、未充填のいずれにおいても悪い結果であった。これらの理由について考察すると、比較例1では、第1層12の形成時(第1の熱可塑性樹脂の射出時)と、第2層13の形成時(第2の熱可塑性樹脂の射出時)のいずれも、キャビティ表面温度が各樹脂の荷重たわみ温度未満であるため、ウェルドマークとフローマークが発生したと考えられる。
【0047】
一方、本発明の実施形態では、第1層12の形成時(第1の熱可塑性樹脂の射出時)には、第1のキャビティ14の周囲のキャビティ表面温度を第1の熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度以上に保ち、第2層13の形成時(第2の熱可塑性樹脂の射出時)には、第2のキャビティ17の周囲(ただし形成済みの第1層12の周囲は除く)のキャビティ表面温度を第2の熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度以上に保っているため、ウェルドマークとフローマークが発生しなかったと考えられる。
【0048】
また、比較例1では、可動側金型9のキャビティ表面温度を100℃まで高めた後に温度変化させていないため、第2層13の形成時に、第1層12を保持している可動側金型9のキャビティ表面温度が、第2の固定側金型5のキャビティ表面温度である60℃よりも高い100℃のままである。すなわち、100℃の可動側金型9に保持されている第1層12の表面温度が、第2のキャビティ17を区画している第2の固定側金型5のキャビティ表面温度よりも高い。その結果、第2のキャビティ17内に射出された第2の熱可塑性樹脂は、第2の固定側金型5に近い方よりも、第1層12に近い方において流動性が良い。その第2の熱可塑性樹脂の流れによって、比較的高温のままである第1層12が引きずられるように移動させられて、いわゆる樹脂流れが生じる。1mm以下の薄い第1層12に樹脂流れが生じることにより、第1層12の色むらが生じる。この色むらは、透光性を有する第2層13を介して視認できるため、樹脂成形品11として非常に好ましくない。
【0049】
これに対し、本発明の実施形態では、第2層13の形成時に、可動側金型9の、形成済みの第1層12の周囲のキャビティ表面温度は、第2の固定側金型5のキャビティ表面温度である100℃よりも低い50℃のままである。従って、第2のキャビティ17内に射出された第2の熱可塑性樹脂は、第1層12に近い方が第2の固定側金型5に近い方よりも流動性が良い。そのため、第1層12が第2の熱可塑性樹脂に引きずられるように移動することはない。このように、第1層12に樹脂流れが生じないため、色むらは生じない。特に、第2層13の形成時の可動側金型9の、形成済みの第1層12の周囲の温度は、第1の熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度よりも低温であるため、第1層12が再溶融して樹脂流れを生じるおそれはない。
【0050】
比較例1では、第2層13の形成時(第2の熱可塑性樹脂の射出時)に、第2の固定側金型5のキャビティ表面温度が第2の熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度未満であるため、特に薄くなっている第1層12との積層部分において、第2のキャビティ17の末端部まで第2の熱可塑性樹脂の充填圧が十分に加わらない。その結果、第1層12と第2層13の界面の接着強度が低下して剥離が生じたり、第2層13の未充填部分が生じたりした。
【0051】
これに対し、本発明の実施形態では、第2層13の形成時(第2の熱可塑性樹脂の射出時)に、第2のキャビティ17の周囲(ただし形成済みの第1層12の周囲は除く)のキャビティ表面温度が第2の熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度以上であるため、第2のキャビティ17の末端部まで第2の熱可塑性樹脂の充填圧が十分に加わり、第1層12と第2層13の界面の接着強度が低下せず剥離が生じることはなく、第2層13の未充填部分が生じることもない。
【0052】
比較例2では、第2層13の形成時(第2の熱可塑性樹脂の射出時)に、第2の固定側金型5のキャビティ表面温度が第2の熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度以上であるため、第2層13にウェルドマークやフローマークは生じていない。
【0053】
しかし、比較例2では、第2層13の形成時(第2の熱可塑性樹脂の射出時)に、可動側金型9と第1の固定側金型4の両方のキャビティ表面温度を100℃まで高めているため、第2の熱可塑性樹脂は、第1層12に近い方でも第2の固定側金型5に近い方と同じように流れる。このとき、高温の可動側金型9に保持されている第1層12(PC成形品)が、第2の熱可塑性樹脂であるPMMAの荷重たわみ温度付近より高い温度(100℃)になるため、第2の熱可塑性樹脂の流動層(特に流動性の良い部分)が実施例に比べて第1層12の近くになり、その結果、色流れが発生する。このように色流れが発生するため、第1層12に色むらが生じる。
【0054】
また、第2の熱可塑性樹脂の射出時に、第2のキャビティ17の末端部まで第2の熱可塑性樹脂の充填圧が十分に加わらず未充填が生じている。ただし、第1層12と第2層13の剥離には至っていない。なお、第1層12の形成時(第1の熱可塑性樹脂の射出時)に、可動側金型9および第1の固定側金型4のキャビティ表面温度が第1の熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度未満であるため、第1層12にウェルドマークやフローマークが生じる可能性があるが、今回の実験においては確認されなかった。
【0055】
比較例3では、比較例1と同様に、第2層13の形成時(第2の熱可塑性樹脂の射出時)に、可動側金型9および第2の固定側金型5のキャビティ表面温度が第2の熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度未満であるため、ウェルドマークとフローマークと未充填部分と色流れが生じている。しかし、第1層12と第2層13の剥離には至っていなかった。
【0056】
以上のように、表1を参照すると、本発明において、第1層12の形成時の可動側金型9および第1の固定側金型4の、第1のキャビティ14の周囲のキャビティ表面温度を第1の熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度以上に高くし、その後、可動側金型9および第1の固定側金型4のキャビティ表面温度を、第2の熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度未満に冷却する。そして、第2層13の射出時には、第2のキャビティ17の周囲であって、形成済みの第1層12の周囲は除く位置のキャビティ表面温度のみを第2の熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度以上に高くすることによって、外観が良好な樹脂成形品11が製造できることが確認された。
【0057】
なお、本発明では、多色成形方法を用いているため、第1層12を形成する第1のキャビティ14と、第2層13を形成する第2のキャビティ17の形状とを自由に変えることができる。さらに、第1層12の形成時と第2層13の形成時とでは、それぞれ異なるキャビティを使用するため、各キャビティ14,17に同時に樹脂を射出することが可能である。すなわち、既に形成された第1層12を保持した可動側金型9を第2の固定側金型5に当接させて第2のキャビティ17に第2の熱可塑性樹脂を射出するのと同時に、もう1つの可動側金型9を第1の固定側金型4に当接させて第1のキャビティ14に第1の熱可塑性樹脂を射出して次の樹脂成形品11の製造を開始することができる。すなわち、樹脂成形品11の第2層13の成形と同時に第1のキャビティ14において次の樹脂成形品11の第1層12の成形を行うことができる。このようにして、樹脂成形品の製造サイクルを短縮することができ、大量生産に適している。
【0058】
このような射出成形装置における射出機構は、例えば図1,2に示すように2つ以上の射出機構を水平に並べて配置したり、一方の射出機構を垂直に立てて他方の射出機構を水平に配置したり、2つ以上の射出装置を水平に、かつ互いに直交するように配置したり、2つ以上の射出機構を、金型を挟んで互いに対向するように配置することなどが考えられる。本発明では、前記したいずれの配置方法を採用してもよく、各射出機構毎に独立して成形条件を設定して成形をすることができる。
【0059】
前記した実施形態では、複数の可動側金型9が取り付けられた回転板8が回転することによって、可動側金型9が第1の固定側金型4と第2の固定側金型5との間を移動する構成である。このように可働側金型9全体または少なくともそのコア部分が回転するコア回転方式に代えて、可動側金型9全体または少なくともそのコア部分が平行移動するコア移動方式を用いることもできる。また、可働側金型9全体は移動せず、コア部分の少なくとも一部が後退することによってキャビティを大きくすることができるコアバック方式を用いることもできる。特に、コアバック方式の場合には、固定側金型が1つだけでよいので、多色成形でない通常の射出成形の場合と比べて、樹脂成形品の製造個数を減らすことなく、しかも射出成形装置全体を大型化する必要もない。また、複数の固定側金型を必要とする構成に比べて、射出成形装置の構成が簡単でその作製が容易であるという利点がある。
【0060】
さらに、本発明は、第1層12を予め成形しておく、いわゆるインモールド成形法やインサート成形法にも適用することができる。すなわち、別の射出成形装置を用いて、第1の熱可塑性樹脂によってフィルム状やシート状、または複雑な形状であってもよい部品(半製品)を予め成形しておく。そして、その部品(半製品)を可動側金型に保持させる。この可動側金型を固定側金型に接合させて、両者の間に構成されるキャビティ内に第2の熱可塑性樹脂を射出して、第1層に接合された第2層を成形することができる。この場合にも、前記した実施形態と同様に、第2層の成形時に、予め成形された第1層12の周囲に位置する流路管のみに冷却媒体を流し、または加熱媒体も冷却媒体も流さない状態にして、第1の熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度未満に保つ。そして、第2のキャビティ17の周囲であって、予め成形された第1層12の周囲は除く位置の流路管のみに加熱媒体を流して、第2の熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度以上に保つ。これによって、前記したのと同様な作用が得られ、外観が良好な樹脂成形品11を製造できる。例えば、流動ストレスによるインキの色流れ防止や、特にエッジ部分、鏡面加工部分、およびシボ加工部分がある場合にはそれらの部分における転写性の向上や、流動の末端部分(ウエルド部分)におけるシワ防止などの効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の射出成形装置を示す図である。
【図2】図1に示す射出成形装置の金型部分を断面した図である。
【図3】(a)本発明によって製造される樹脂成形品の正面図、(b)はその側面図である。
【図4】(a)は図3に示す樹脂成形品の側面断面図、(b)はその要部拡大図である。
【図5】(a)は図3,4に示す樹脂成形品の第1層の正面図、(b)はその側面図である。
【図6】(a)は図5に示す第1層の側面断面図、(b)はその要部拡大図である。
【図7】本発明の多層構造の樹脂成形品の製造方法を示すフローチャートである。
【図8】図7に示す製造方法を説明するための、金型部分の拡大断面図である。
【図9】図7に示す製造方法を説明するための、金型部分の拡大断面図である。
【図10】図7に示す製造方法を説明するための、金型部分の拡大断面図である。
【図11】図7に示す製造方法を説明するための、金型部分の拡大断面図である。
【符号の説明】
【0062】
1 固定側プレート
2 可動側プレート
3 ガイド
4 第1の固定側金型(他の対向側金型)
5 第2の固定側金型(対向側金型)
6 第1の射出機構(第1の熱可塑性樹脂用の射出機構)
7 第2の射出機構(第2の熱可塑性樹脂用の射出機構)
8 回転板
9 可動側金型(一方の金型)
10 流路管
11 多層構造の樹脂成形品
12 第1層
12a 窓穴部
13 第2層
14 第1のキャビティ(第1層形成用のキャビティ)
15,18 スプルー
16,19 ランナー
17 第2のキャビティ(第2層形成用のキャビティ)
20 媒体供給制御機構
【技術分野】
【0001】
本発明は、多色射出成形による多層構造の樹脂成形品の製造方法と、そのための射出成形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂成形品を多層構造にして、各層をそれぞれ異なる樹脂によって形成した成形品がある。例えば、成形品の裏側に位置する層(本明細書では便宜上「裏側層」という)を成形品の強度を維持するための層とし、成形品の表側に位置する層(ここでは便宜上「表側層」という)を、裏側層の樹脂とは異なる色の樹脂からなる意匠用または表示用の層にする場合がある。このように複数の色を組み合わせることによって、裏側層を背景として表側層によって文字や図形を表示することや、裏側層および表側層を所望の色合いに形成して、成形後の塗装を不要にすることができる。また、複数の材質を組み合わせることによって、部分的に各々の材質の特性を生かした成形品を得ることもでき、その場合、機能の異なる部材を一体に成形することが可能になる。
【0003】
さらに、裏側層の全てまたは大部分が表側層によって覆われて、外部にほとんど露出しない構成であると、裏側層は、完成状態の成形品の外観にほとんど影響を与えないため、リサイクル樹脂など外観が多少不良になる可能性のある安価な材料を用いて構成することができる。それによって、低コスト化が図れるとともに、省資源や環境保全に寄与することができる。
【0004】
なお、表側層を透光性樹脂から形成して、裏側層を視認できるようにしたり、裏側層の存在しない部分においてこの成形品を通してその奥にある他部材を視認できるようにする場合もある。このように、少なくとも表側層を、透光性を有する構成にして意匠性を高める場合には、表側層も裏側層も製品の外観として視認されるため、良好な表面外観に形成されなければならない。
【0005】
前記した種々の利点を有する多層構造の樹脂成形品を製造するための一般的な方法は、多色成形法である(特許文献1参照)。多色成形法は、異材質成形とも呼ばれる成形方法のことであり、色や材質の異なる複数の成形材料を、それぞれ異なる射出装置から順次射出して、複数の成形材料が組み合わされた成形品を成形する方法である。多色成形法の一例である2色成形法の具体例を挙げると、まず、可動側金型と第1の固定側金型とを閉じることによって構成された第1のキャビティ内に第1の熱可塑性樹脂を射出して、第1層を形成する。次に、形成された第1層を保持した状態の可動側金型を移動させて第2の固定側金型に当接させ、可動側金型と第2の固定側金型との間に構成された第2のキャビティ内に第2の熱可塑性樹脂を射出して、第2層を形成する。こうして、第1層の上に第2層が積層された構成の多層構造の樹脂成形品が完成する。なお、第1層が裏側層であって第2層が表側層である場合もあるが、第1層が表側層であって第2層が裏側層であっても構わない。
【0006】
また、多層構造の樹脂成形品を製造するその他の方法として、フィルムやシート等を金型のキャビティ内に予め挿入しておいてから、そのキャビティ内に溶融状態の樹脂を射出する、いわゆるインモールド成形法やインサート成形法などがある。さらに、フィルムやシートではなく予め射出成形した半製品をキャビティ内に配置するインサート成形法が用いられる場合もある。
【特許文献1】特開平5−162171号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記したような多層構造の樹脂成形品においては、通常、一方の層を通常の樹脂成形品と同等の厚さに形成して十分な強度を確保し、その上に、少なくとも部分的にもう1つの層を積層形成している。後者の層は、比較的薄く、例えば0.05mm〜1mm程度の厚さに形成することが好ましい。仮に両方の層が厚い場合には、樹脂成形品全体の大型化および重量化を招き、ひいてはこの樹脂成形品を取り付ける機械の性能に影響を及ぼすおそれがある。また、材料となる樹脂の使用量が多くコスト高になるなどの問題を生じる可能性がある。
【0008】
前記した多色成形法や、予め射出成形した半製品を用いるインサート成形法では、比較的形状の自由度が高い成形が可能であるが、0.05mm〜1mm程度の薄い層を形成することは困難である。すなわち、1mm以下の薄い層を形成しようとすると、溶融状態の樹脂が射出されるキャビティが薄すぎるため、そのキャビティ全体に万遍なく樹脂を充填させることが困難であり、未充填の部分が生じ易い。また、成形品の2つの層の界面に大きな熱歪みが残ることが多い。特に、2つの層がいずれも透光性を有する樹脂からなる場合には、熱歪みが光学的歪みを引き起こすため、樹脂成形品の所望の性能が得られないおそれがある。さらに、2つの層の材料となる樹脂が互いに密着性の悪い組み合わせであった場合には、大きな熱歪みの影響で剥がれやすくなるおそれもある。仮に、樹脂の射出速度を標準以上に速くする、いわゆる超高速射出成形法を応用して1mm以下の薄い層を形成しても、これらの問題を十分に解決できるとは言えないのが実情である。
【0009】
多色成形法において、超高速射出成形法を用いて薄い層を第1層として先に形成し、その後に比較的厚い層を第2層として形成することが考えられるが、その場合にも良好な成形は困難な場合が多い。例えば、後に行われる厚い第2層の形成時に、先に形成されていた薄い第1層が再溶解して流動する、いわゆる樹脂流れ現象が生じる可能性がある。特に、1mm以下の薄い第1層に樹脂流れが生じると、その樹脂が部分的に少ない部分、すなわち、その樹脂の濃度が部分的に低く、その結果、色が薄くなったり性質が変化した部分が生じやすい。結果的に、このような成形品の色相の悪化や、後に行われる厚い第2層の射出後の冷却時間の長期化(厚い分だけ冷却に要する時間が長くなる)に伴う成形サイクルの長期化等の問題が生じ易い。
【0010】
なお、以上の説明は、主に2色成形法について述べたが、3色以上の多色成形法や、予め射出成形した半製品を用いるインサート成形法でも、実質的に同じ問題が生じ易い。
【0011】
そこで、本発明の目的は、樹脂流れが抑えられ、歪みが小さく、転写が良好であり、各層間の密着性に優れている、薄い層を含む多層構造の樹脂成形品を製造するための方法と、そのための射出成形装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の、第1の熱可塑性樹脂からなる第1層と第2の熱可塑性樹脂からなる第2層を含む多層構造の樹脂成形品の製造方法は、第1層を保持した状態の一方の金型を対向側金型に接合することによって第2層形成用のキャビティを構成し、第2層形成用のキャビティ内に第2の熱可塑性樹脂を射出して第2層を形成するステップを含み、第2層を形成するステップでは、形成された第1層を保持した状態の一方の金型のキャビティ表面のうちの少なくとも一部を第1の熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度未満に保つとともに、対向側金型のキャビティ表面を第2の熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度以上かつ加熱分解温度未満に保った状態で、第2の熱可塑性樹脂を第2層形成用のキャビティ内に射出し、射出完了後に、対向側金型のキャビティ表面を第2の熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度未満に冷却することを特徴とする。
【0013】
なお、荷重たわみ温度は、国際規格 ISO 75(JIS7191) 荷重1.8MPaで規定されている。
【0014】
さらに、第1層を保持する前の一方の金型を他の対向側金型に接合することによって第1層形成用のキャビティを構成し、第1層形成用のキャビティ内に第1の熱可塑性樹脂を射出して第1層を形成するステップと、形成された第1層を保持した状態の一方の金型を、第1層形成用のキャビティを構成する他の対向側金型との対向位置から、第2層形成用のキャビティを構成する対向側金型との対向位置へ相対的に移動させるステップと、を含み、第1層を形成するステップでは、一方の金型と他の対向側金型のキャビティ表面をいずれも第1の熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度以上かつ加熱分解温度未満に保った状態で、第1の熱可塑性樹脂を第1層形成用のキャビティ内に射出し、射出完了後に一方の金型と他の対向側金型のキャビティ表面を第1の熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度未満に冷却するようにしてもよい。その場合、全ての金型には、加熱媒体と冷却媒体を選択的に導入可能な複数の流路管がそれぞれ設けられており、第1層を形成するステップでは、一方の金型と他の対向側金型の複数の流路管のうち、第1層形成用のキャビティの周囲の流路管のみに前記加熱媒体を供給し、第2層を形成するステップでは、対向側金型の複数の流路管のうち、第2層形成用のキャビティの周囲の流路管のみに加熱媒体を供給すればよい。
【0015】
あるいは、第1層を保持する前の一方の金型を、対向側金型に接合することによって第1層形成用のキャビティを構成し、第1層形成用のキャビティ内に第1の熱可塑性樹脂を射出して第1層を形成するステップと、第1層を形成した後に、形成された第1層を保持している一方の金型または対向側金型の内部のコア部分を移動させることによって、第1層形成用のキャビティを構成した状態から第2層形成用のキャビティを構成した状態に移行させるステップと、を含み、第1層を形成するステップでは、一方の金型と対向側金型のキャビティ表面をいずれも第1の熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度以上かつ加熱分解温度未満に保った状態で、第1の熱可塑性樹脂を前記第1層形成用のキャビティ内に射出し、射出完了後に一方の金型と対向側金型のキャビティ表面を第1の熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度未満に冷却してもよい。その場合、全ての金型には、加熱媒体と冷却媒体を選択的に導入可能な複数の流路管がそれぞれ設けられており、第2層を形成するステップでは、形成された第1層を保持した状態の一方の金型の複数の流路管のうち、形成された第1層を保持している部分の周囲に位置する流路管に冷却媒体を供給し、または当該流路管への加熱媒体および冷却媒体の供給を停止し、それ以外の流路管に加熱媒体を供給すればよい。
【0016】
これらの方法によると、第1の熱可塑性樹脂からなる第1層の形成時に、キャビティ表面が第1の熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度よりも高温であるため、第1層が薄い層であっても、第1の熱可塑性樹脂の流動性が良く第1層形成用のキャビティ内全体に充填される。その結果、ウェルドマークやフローマークの発生が抑制された樹脂成形品が製造でき、しかも、外観の転写良好で内部歪みが小さい。さらに、第2層の形成時に、一方の金型に保持された第1層は低温に保ち、対向側金型は高温にすることができるため、第2層形成用のキャビティ内を流動する第2の熱可塑性樹脂は、第1層に近い部分や中間部分よりも、対向側金型に近い部分で良好に流動できる。しかも一方の金型の第1層の周囲を、第1の熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度よりも低温にして第1層は再溶解しないようにすることができる。そのため、樹脂流れの発生を防ぐことができ、色むら等を防ぐことができる。また、第1層の外観が良好で内部歪みが小さいため、第2の熱可塑性樹脂の流動に伴う応力を低減でき、第2層の歪みも小さくなり、第1層と第2層の界面の密着性が良好で剥離の発生が抑えられ、外観が良好な製品を得ることができる。
【0017】
また、樹脂の射出時にも、樹脂成形にあまり影響を及ぼさない、キャビティから離れた部分においては、温度があまり高くならない。それによって、樹脂射出後の冷却固化をより効率良く迅速に行うことができる。
【0018】
本発明の、一方の金型と、少なくとも1つの対向側金型とを有する、多層構造の樹脂成形品製造用の射出成形装置は、1つの対向側金型は、樹脂成形品の第1の熱可塑性樹脂からなる第1層を保持した状態の一方の金型と接合されて第2層形成用のキャビティを構成するものであり、一方の金型と対向側金型には、加熱媒体と冷却媒体を選択的に導入可能な流路管がそれぞれ設けられており、第2層形成用のキャビティ内に第2の熱可塑性樹脂を射出する、第2の熱可塑性樹脂用の射出機構と、第2の熱可塑性樹脂用の射出機構から第2層形成用のキャビティ内に第2の熱可塑性樹脂を射出する際に、一方の金型のキャビティ表面のうちの少なくとも一部を第1の熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度未満に下げるように一方の金型の複数の流路管のうちの少なくとも一部に、冷却媒体を供給し、または当該流路管への加熱媒体および冷却媒体の供給を停止するとともに、第2層形成用のキャビティを構成する対向側金型のキャビティ表面を第2の熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度以上かつ加熱分解温度未満に保つように当該対向側金型の流路管に加熱媒体を供給し、射出完了後に当該対向側金型のキャビティ表面を第2の熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度未満に冷却するように当該対向側金型の流路管に冷却媒体を供給する、媒体供給制御機構と、を有していることを特徴とする。
【0019】
なお、本明細書中で言う「キャビティ」とは、型締め状態の金型間の、スプルーおよびランナーを除く、樹脂が充填可能な空間であり、各成形品の形状に対応する空間を指す。そして、「キャビティ表面」とは、キャビティを区画する金型表面を指す。
【発明の効果】
【0020】
本発明によると、多層構造の樹脂成形品において、少なくとも1つの層が非常に薄い場合であっても、ウェルドマーク、フローマーク、樹脂流れ、未充填などの外観不良を抑え、外観が良好な樹脂成形品を容易に得ることができ、しかも歪みを小さく抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。本発明は、多色成形によって多層構造の樹脂成形品を製造するものである。
【0022】
まず、本発明の射出成形装置の全体構造について説明する。図1,2に示すように、この射出成形装置は、固定側プレート1と、図示しない駆動手段によってガイド3に沿って、固定側プレート1に近づいたり離れたりする可動側プレート2を有している。固定側プレート1の、可動側プレート2側に向いた面には、第1の固定側金型4と第2の固定側金型5が取り付けられている。後述するように、第1の固定側金型4と第2の固定側金型5は、キャビティ14,17の形状とスプルー15,18およびランナー16,19の位置が異なっているが(図8,9参照)、それ以外は実質的に同じ構成である。そして、図1,2では、見易くするために分離して図示されているが、固定側プレート1には第1の射出機構(第1の熱可塑性樹脂用の射出機構)6と第2の射出機構(第2の熱可塑性樹脂用の射出機構)7が取り付けられている。第1の射出機構6および第2の射出機構7は、詳述しないが各固定側金型4,5のスプルー15,18にそれぞれ接続されており、溶融状態の熱可塑性樹脂を、スプルー15,18およびランナー16,19を介して各キャビティ14,17内にそれぞれ射出するものである。両射出機構6,7には、それぞれ異なる熱可塑性樹脂を供給可能である。
【0023】
可動側プレート2の、固定側プレート1側に向いた面には、図示しない駆動手段によって回転させられる回転板8が取り付けられており、この回転板8に2つの可動側金型9が取り付けられている。2つの可動側金型9は、キャビティ形状が上下反対になっているが、それ以外は同じ構成であり、第1の固定側金型4および第2の固定側金型5とそれぞれ対向可能な位置に配置されている。
【0024】
なお、本実施形態では、可動側金型9が「一方の金型」であり、それに対向可能な位置にある第1の固定側金型4が「他の対向側金型」、第2の固定側金型5が「対向側金型」である。
【0025】
各金型4,5,9には、それぞれ複数の流路管10が設けられている。各流路管10は各キャビティ14,17の近傍に配置されており、媒体供給制御機構20から、冷水等の冷却媒体と熱水等の加熱媒体を選択的に導入可能である。各図面では、簡略化のために媒体供給制御機構20から全ての流路管10を1本のラインで結んでいるかのように図示されているが、実際には、媒体供給制御機構20から個々の冷却管10に対してそれぞれ独立して冷却媒体または加熱媒体を供給可能である。さらに、各流路管10への媒体の供給経路内にそれぞれ弁(図示せず)が設けられていてもよい。また、図2には、各金型4,5,9が入れ子構造であるように図示されており、この構成によると、入れ子部分を交換することによって形状の異なる樹脂成形品を製造することが容易に可能になる。ただし、必ずしも入れ子構造である必要はない。
【0026】
次に、本実施形態において製造する多層構造の樹脂成形品11について説明する。図3(a)はこの樹脂成形品11の正面図、図3(b)はその側面図、図4(a)はその側面断面図、図4(b)は図4(a)の要部拡大図である。図5(a)はこの樹脂成形品11の第1層12の正面図、図5(b)はその側面図、図6(a)はその側面断面図、図6(b)は図6(a)の要部拡大図である。
【0027】
図3,4に示すように、樹脂成形品11は、外形が100mm×100mm×20mmの蓋のない中空の箱状である。そして、図5,6に示す第1層12は、有色の熱可塑性樹脂からなり、厚さが0.7mmであり、正方形状の主面の中央部に80mm×80mmの窓穴部12aを有している。第2層13は、透光性を有する熱可塑性樹脂からなり、第1層12を覆う形状であり、第1層12と重なる部分の厚さは0.7mmで、第1層12の存在しない部分(窓穴部12aの部分)の厚さは1.4mmである。なお、図3(a)では、透光性の第2層13を介して視認できる第1層12の輪郭(窓穴部12aの内周縁)も図示している。
【0028】
この樹脂成形品11は、例えば、表示器のカバーとして用いられ、透光性を有する第2層13と窓穴部12aを介して、図示しない表示画面を見ることができ、表示画面の周囲は、例えば黒色等の第1層12によって縁取られている。この構成によると、第2層13が表側層になるので、ウェルドマークやフローマークやヒケや表面状態不良を防ぐ必要がある。さらに、裏側層である第1層12も、透光性を有する第2層13を介して視認できるため、前記したような不良を防ぐ必要があるとともに、色むら等を引き起こす樹脂流れを防ぐ必要がある。また、当然のことながら、両層の界面の熱歪みを小さく抑えることや、密着性が良好であることが望まれる。
【0029】
そこで、図1,2に示す射出成形装置を用いて図3,4に示す樹脂成形品11を製造し、前記した種々の要求を満たすことができる、本発明の方法の一実施形態について、図7のフローチャートに沿って以下に説明する。
【0030】
本実施形態では、第1層となる第1の熱可塑性樹脂としてポリカーボネート樹脂(PC:荷重たわみ温度140℃)を用い、第2層となる第2の熱可塑性樹脂Bとして透光性を有するアクリル樹脂(PMMA:荷重たわみ温度90℃)を用いて、多層構造の樹脂成形品11を製造した。
【0031】
まず、図8に示すように、可動側金型9を第1の固定側金型4に当接させて、両者の間に第1のキャビティ(第1層形成用のキャビティ)14を形成する(ステップS1)。この第1のキャビティ14は、図5,6に示す第1層12と同じ形状である。そして、可動側金型9および第1の固定側金型4に設けられた流路管10に、媒体供給制御機構20から熱水等の加熱媒体を供給する。それによって可動側金型9および第1の固定側金型4のキャビティ表面温度を、第1の熱可塑性樹脂(PC)の荷重たわみ温度以上かつ加熱分解温度未満である150℃まで高めて保持する(ステップS2)。そこで、図1,2に示す第1の射出機構6から、スプルー15およびランナー16を介して第1のキャビティ14に、溶融状態の第1の熱可塑性樹脂(PC)を射出して、第1層12を形成する(ステップS3)。所定量のPCの射出が完了したら、媒体供給制御機構20は、可動側金型9および第1の固定側金型4に設けられた流路管10への加熱媒体の供給を停止し、代わりに冷水などの冷却媒体を供給する。それによって、可動側金型9および第1の固定側金型4のキャビティ表面温度を50℃まで降下させ、第1層12を固化させる(ステップS4)。このようにして、金型4,9の温度を上下させる、いわゆるヒートサイクル成形法によって第1層12を成形する。
【0032】
それから、可動側プレート2を固定側プレート1から離して型開きし、回転板8(図1,2参照)を180度回転させて、形成された第1層12を保持した状態の可動側金型9を、第1の固定側金型4に対向する位置から第2の固定側金型5に対向する位置に移動させる(ステップS5)。その状態で、図9に示すように、可動側プレート2を固定側プレート1に当接させ、可動側金型9を第2の固定側金型5に当接させて、両者の間に第2のキャビティ(第2層形成用のキャビティ)17を形成する(ステップS6)。第2のキャビティ17は、第2の固定側金型5と可動側金型9および第1層12とによって形成され、図3,4に示す第2層13と同じ形状である。なお、図9から第1層12を省略した状態を図10に示している。
【0033】
そして、可動側金型9のキャビティ表面温度を50℃に保ったまま、媒体供給制御機構20から第2の固定側金型5の流路管10に熱水等の加熱媒体を供給し、そのキャビティ表面温度を、第2の熱可塑性樹脂(PMMA)の荷重たわみ温度以上かつ加熱分解温度未満である100℃まで高めて保持する(ステップS7)。なお、後述するように、樹脂成形品11の第2層13の成形と同時に第1のキャビティ14において次の樹脂成形品11の第1層12の成形を行う場合には、この時点で第1の固定側金型4の流路管10への加熱媒体の供給を再開する。
【0034】
そして、図1,2に示す第2の射出機構7から、スプルー18およびランナー19を介して第2のキャビティ17に、溶融状態の第2の熱可塑性樹脂(PMMA)を射出して、第2層13を形成する(ステップS8)。所定量のPMMAの射出が完了したら、媒体供給制御機構20は、第2の固定側金型5の流路管10への加熱媒体の供給を停止し、代わりに冷水などの冷却媒体を供給する。それによって、第2の固定側金型4のキャビティ表面温度を、可動側金型9のキャビティ表面温度と同様に50℃まで降下させ、図11に示す第2層13を固化させる(ステップS9)。
【0035】
このようにして、図3,4に示す多層構造の樹脂成形品11を製造し、可動側プレート2を固定側プレート1から離して型開きして、図3,4に示す樹脂成形品11を取り出す(ステップS10)。
【0036】
なお、媒体供給制御機構20は、各流路管10への加熱媒体または冷却媒体の供給をそれぞれ独立して行うことができる。例えば、媒体供給制御機構20は、第1層12の形成時(ステップS2〜3)には、第1のキャビティ14の周囲の流路管10(例えば図8に示す流路管10A)のみに加熱媒体を供給し、第1のキャビティ14から離れた位置の流路管10(例えば図8に示す流路管10B)には加熱媒体を流さないようにすることもできる。その場合、キャビティ表面は所定の温度まで昇温させつつ、キャビティ表面温度にほとんど影響しない部分ではあまり温度上昇させず、第1層12の形成後の冷却工程を効率よく迅速にすることができる。
【0037】
媒体供給制御機構20は、第2層13の形成時(ステップS7〜8)には、可動側金型12に保持されている第1層12の周囲に位置している流路管10(例えば図9に示す流路管10B)には、冷却媒体を流すか、または、加熱媒体も冷却媒体も流さないようにする。流路管10Bに加熱媒体も冷却媒体も流さない場合にも、ステップS4において流路管10Bに冷却媒体が流されて既に冷却されているため、流路管10Bの周囲、すなわち可動側金型9の第1層12の周囲に位置する部分は、第1の熱可塑性樹脂(PC)の荷重たわみ温度未満(例えば約50℃)に保たれる。一方、この第2層13の形成時に、第2のキャビティ14の周囲の流路管10であって、前記した流路管10B以外の流路管(図9に示す流路管10A)には加熱媒体を流し、第2の熱可塑性樹脂(PMMA)の荷重たわみ温度以上かつ加熱分解温度未満である100℃まで高めて保持する。このように、複数の流路管への加熱媒体または冷却媒体の供給をそれぞれ独立して制御することによって、既に形成済みの第1層を、第2層の成形工程において再溶融させることを防ぎ、また、各金型4,5,9の全域を必要しないようにして、成形後の冷却工程を効率よく迅速にすることができる。なお、一部の流路管10に媒体を供給しない方法としては、図示しないが、ポンプ等の供給機構自体を一部停止させる方法や、各流路管への供給ライン内にそれぞれ設けられた弁を閉じる方法が考えられる。
【0038】
以上説明した本実施形態によって製造された多層構造の樹脂成形品11について、後述する比較例1〜4と対比させて検討した結果を表1に示している。
【0039】
【表1】
【0040】
この表1における「色流れ」とは、多層構造の樹脂成形品11において、樹脂の再溶解に伴う樹脂流れによる、視認できる程度の色むらの発生の有無を表す。「ウェルドマーク」とは、樹脂成形品11の表面における、視認できる程度のウェルドマークの発生の有無を表す。「フローマーク」とは、樹脂成形品11の表面における、視認できる程度のフローマークの発生の有無を表す。「剥離」とは、樹脂成形品11における第1層12と第2層13との界面の、視認できる程度の剥離の有無を表す。「未充填」とは、樹脂成形品11における、視認できる程度の未充填部分の有無を表す。
【0041】
表1からわかるように、本実施形態によると、色流れ、ウェルドマーク、フローマーク、剥離、未充填のいずれにおいても良好な結果が得られた。
【0042】
本出願人は、本実施形態と対比させるための比較実験を行った。以下、それらの比較例について説明する。なお、以下の全ての比較例において、前記した実施形態と同様な射出成形装置および熱可塑性樹脂を用いて、同様な形状の樹脂成形品を製造している。
【0043】
[比較例1]
比較例1では、可動側金型9および第1の固定側金型4のキャビティ表面温度を、第1の熱可塑性樹脂(PC)の荷重たわみ温度未満である100℃に保った状態で、第1のキャビティ14に第1の熱可塑性樹脂(PC)を射出した。所定量のPCの射出が完了したら、第1層12を自然固化させた後、形成された第1層12を保持した状態の可動側金型9を移動させて第2の固定側金型5に当接させた。そして、可動側金型9は温度変化させないまま、第2の固定側金型5のキャビティ表面温度を、第2の熱可塑性樹脂(PMMA)の荷重たわみ温度未満である60℃に保ち、第2のキャビティ17に第2の熱可塑性樹脂(PMMA)を射出した。こうして製造された樹脂成形品について検討した結果を、前記した表1に示している。比較例1では、色流れ、ウェルドマーク、フローマーク、剥離、未充填のいずれにおいても悪い結果であった。
【0044】
[比較例2]
比較例2では、可動側金型9および第1の固定側金型4のキャビティ表面温度を、第1の熱可塑性樹脂(PC)の荷重たわみ温度未満である100℃に保った状態で、第1のキャビティ14に第1の熱可塑性樹脂(PC)を射出した。所定量のPCの射出が完了したら、第1層12を自然固化させた後、形成された第1層12を保持した状態の可動側金型9を移動させて第2の固定側金型5に当接させた。そして、可動側金型9および第2の固定側金型5のキャビティ表面温度を、第2の熱可塑性樹脂(PMMA)の荷重たわみ温度以上かつ加熱分解温度未満である100℃まで高めて、第2のキャビティ17に第2の熱可塑性樹脂(PMMA)を射出した。所定量のPMMAの射出が完了したら、可動側金型9および第2の固定側金型5のキャビティ表面温度を50℃に下げて、第2層13を固化させた。こうして製造された樹脂成形品について検討した結果を、前記した表1に示している。比較例2では、ウェルドマーク、フローマーク、剥離に関しては良好な結果が得られたが、色流れと未充填に関しては悪い結果であった。
【0045】
[比較例3]
比較例3では、可動側金型9および第1の固定側金型4のキャビティ表面温度を、第1の熱可塑性樹脂(PC)の荷重たわみ温度以上かつ加熱分解温度未満である150℃まで高めて、第1のキャビティ14に第1の熱可塑性樹脂(PC)を射出した。所定量のPCの射出が完了したら、可動側金型9および第1の固定側金型4のキャビティ表面温度を50℃まで降下させ、第1層12を固化させた。それから、形成された第1層12を保持した状態の可動側金型9を移動させて第2の固定側金型5に当接させ、可動側金型9および第2の固定側金型5のキャビティ表面温度を、第2の熱可塑性樹脂(PMMA)の荷重たわみ温度未満の60℃に保ち、第2のキャビティ17に第2の熱可塑性樹脂(PMMA)を射出した。こうして製造された樹脂成形品について検討した結果を、前記した表1に示している。比較例3では、未充填に関しては良好な結果が得られたが、色流れ、ウェルドマーク、フローマーク、剥離に関しては悪い結果であった。
【0046】
[本発明の実施形態と比較例1〜3の検証]
表1からわかるように、本発明の実施形態においては、色流れ、ウェルドマーク、フローマーク、剥離、未充填のいずれにおいても良好な結果が得られた。これに対して比較例1は、色流れ、ウェルドマーク、フローマーク、剥離、未充填のいずれにおいても悪い結果であった。これらの理由について考察すると、比較例1では、第1層12の形成時(第1の熱可塑性樹脂の射出時)と、第2層13の形成時(第2の熱可塑性樹脂の射出時)のいずれも、キャビティ表面温度が各樹脂の荷重たわみ温度未満であるため、ウェルドマークとフローマークが発生したと考えられる。
【0047】
一方、本発明の実施形態では、第1層12の形成時(第1の熱可塑性樹脂の射出時)には、第1のキャビティ14の周囲のキャビティ表面温度を第1の熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度以上に保ち、第2層13の形成時(第2の熱可塑性樹脂の射出時)には、第2のキャビティ17の周囲(ただし形成済みの第1層12の周囲は除く)のキャビティ表面温度を第2の熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度以上に保っているため、ウェルドマークとフローマークが発生しなかったと考えられる。
【0048】
また、比較例1では、可動側金型9のキャビティ表面温度を100℃まで高めた後に温度変化させていないため、第2層13の形成時に、第1層12を保持している可動側金型9のキャビティ表面温度が、第2の固定側金型5のキャビティ表面温度である60℃よりも高い100℃のままである。すなわち、100℃の可動側金型9に保持されている第1層12の表面温度が、第2のキャビティ17を区画している第2の固定側金型5のキャビティ表面温度よりも高い。その結果、第2のキャビティ17内に射出された第2の熱可塑性樹脂は、第2の固定側金型5に近い方よりも、第1層12に近い方において流動性が良い。その第2の熱可塑性樹脂の流れによって、比較的高温のままである第1層12が引きずられるように移動させられて、いわゆる樹脂流れが生じる。1mm以下の薄い第1層12に樹脂流れが生じることにより、第1層12の色むらが生じる。この色むらは、透光性を有する第2層13を介して視認できるため、樹脂成形品11として非常に好ましくない。
【0049】
これに対し、本発明の実施形態では、第2層13の形成時に、可動側金型9の、形成済みの第1層12の周囲のキャビティ表面温度は、第2の固定側金型5のキャビティ表面温度である100℃よりも低い50℃のままである。従って、第2のキャビティ17内に射出された第2の熱可塑性樹脂は、第1層12に近い方が第2の固定側金型5に近い方よりも流動性が良い。そのため、第1層12が第2の熱可塑性樹脂に引きずられるように移動することはない。このように、第1層12に樹脂流れが生じないため、色むらは生じない。特に、第2層13の形成時の可動側金型9の、形成済みの第1層12の周囲の温度は、第1の熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度よりも低温であるため、第1層12が再溶融して樹脂流れを生じるおそれはない。
【0050】
比較例1では、第2層13の形成時(第2の熱可塑性樹脂の射出時)に、第2の固定側金型5のキャビティ表面温度が第2の熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度未満であるため、特に薄くなっている第1層12との積層部分において、第2のキャビティ17の末端部まで第2の熱可塑性樹脂の充填圧が十分に加わらない。その結果、第1層12と第2層13の界面の接着強度が低下して剥離が生じたり、第2層13の未充填部分が生じたりした。
【0051】
これに対し、本発明の実施形態では、第2層13の形成時(第2の熱可塑性樹脂の射出時)に、第2のキャビティ17の周囲(ただし形成済みの第1層12の周囲は除く)のキャビティ表面温度が第2の熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度以上であるため、第2のキャビティ17の末端部まで第2の熱可塑性樹脂の充填圧が十分に加わり、第1層12と第2層13の界面の接着強度が低下せず剥離が生じることはなく、第2層13の未充填部分が生じることもない。
【0052】
比較例2では、第2層13の形成時(第2の熱可塑性樹脂の射出時)に、第2の固定側金型5のキャビティ表面温度が第2の熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度以上であるため、第2層13にウェルドマークやフローマークは生じていない。
【0053】
しかし、比較例2では、第2層13の形成時(第2の熱可塑性樹脂の射出時)に、可動側金型9と第1の固定側金型4の両方のキャビティ表面温度を100℃まで高めているため、第2の熱可塑性樹脂は、第1層12に近い方でも第2の固定側金型5に近い方と同じように流れる。このとき、高温の可動側金型9に保持されている第1層12(PC成形品)が、第2の熱可塑性樹脂であるPMMAの荷重たわみ温度付近より高い温度(100℃)になるため、第2の熱可塑性樹脂の流動層(特に流動性の良い部分)が実施例に比べて第1層12の近くになり、その結果、色流れが発生する。このように色流れが発生するため、第1層12に色むらが生じる。
【0054】
また、第2の熱可塑性樹脂の射出時に、第2のキャビティ17の末端部まで第2の熱可塑性樹脂の充填圧が十分に加わらず未充填が生じている。ただし、第1層12と第2層13の剥離には至っていない。なお、第1層12の形成時(第1の熱可塑性樹脂の射出時)に、可動側金型9および第1の固定側金型4のキャビティ表面温度が第1の熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度未満であるため、第1層12にウェルドマークやフローマークが生じる可能性があるが、今回の実験においては確認されなかった。
【0055】
比較例3では、比較例1と同様に、第2層13の形成時(第2の熱可塑性樹脂の射出時)に、可動側金型9および第2の固定側金型5のキャビティ表面温度が第2の熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度未満であるため、ウェルドマークとフローマークと未充填部分と色流れが生じている。しかし、第1層12と第2層13の剥離には至っていなかった。
【0056】
以上のように、表1を参照すると、本発明において、第1層12の形成時の可動側金型9および第1の固定側金型4の、第1のキャビティ14の周囲のキャビティ表面温度を第1の熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度以上に高くし、その後、可動側金型9および第1の固定側金型4のキャビティ表面温度を、第2の熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度未満に冷却する。そして、第2層13の射出時には、第2のキャビティ17の周囲であって、形成済みの第1層12の周囲は除く位置のキャビティ表面温度のみを第2の熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度以上に高くすることによって、外観が良好な樹脂成形品11が製造できることが確認された。
【0057】
なお、本発明では、多色成形方法を用いているため、第1層12を形成する第1のキャビティ14と、第2層13を形成する第2のキャビティ17の形状とを自由に変えることができる。さらに、第1層12の形成時と第2層13の形成時とでは、それぞれ異なるキャビティを使用するため、各キャビティ14,17に同時に樹脂を射出することが可能である。すなわち、既に形成された第1層12を保持した可動側金型9を第2の固定側金型5に当接させて第2のキャビティ17に第2の熱可塑性樹脂を射出するのと同時に、もう1つの可動側金型9を第1の固定側金型4に当接させて第1のキャビティ14に第1の熱可塑性樹脂を射出して次の樹脂成形品11の製造を開始することができる。すなわち、樹脂成形品11の第2層13の成形と同時に第1のキャビティ14において次の樹脂成形品11の第1層12の成形を行うことができる。このようにして、樹脂成形品の製造サイクルを短縮することができ、大量生産に適している。
【0058】
このような射出成形装置における射出機構は、例えば図1,2に示すように2つ以上の射出機構を水平に並べて配置したり、一方の射出機構を垂直に立てて他方の射出機構を水平に配置したり、2つ以上の射出装置を水平に、かつ互いに直交するように配置したり、2つ以上の射出機構を、金型を挟んで互いに対向するように配置することなどが考えられる。本発明では、前記したいずれの配置方法を採用してもよく、各射出機構毎に独立して成形条件を設定して成形をすることができる。
【0059】
前記した実施形態では、複数の可動側金型9が取り付けられた回転板8が回転することによって、可動側金型9が第1の固定側金型4と第2の固定側金型5との間を移動する構成である。このように可働側金型9全体または少なくともそのコア部分が回転するコア回転方式に代えて、可動側金型9全体または少なくともそのコア部分が平行移動するコア移動方式を用いることもできる。また、可働側金型9全体は移動せず、コア部分の少なくとも一部が後退することによってキャビティを大きくすることができるコアバック方式を用いることもできる。特に、コアバック方式の場合には、固定側金型が1つだけでよいので、多色成形でない通常の射出成形の場合と比べて、樹脂成形品の製造個数を減らすことなく、しかも射出成形装置全体を大型化する必要もない。また、複数の固定側金型を必要とする構成に比べて、射出成形装置の構成が簡単でその作製が容易であるという利点がある。
【0060】
さらに、本発明は、第1層12を予め成形しておく、いわゆるインモールド成形法やインサート成形法にも適用することができる。すなわち、別の射出成形装置を用いて、第1の熱可塑性樹脂によってフィルム状やシート状、または複雑な形状であってもよい部品(半製品)を予め成形しておく。そして、その部品(半製品)を可動側金型に保持させる。この可動側金型を固定側金型に接合させて、両者の間に構成されるキャビティ内に第2の熱可塑性樹脂を射出して、第1層に接合された第2層を成形することができる。この場合にも、前記した実施形態と同様に、第2層の成形時に、予め成形された第1層12の周囲に位置する流路管のみに冷却媒体を流し、または加熱媒体も冷却媒体も流さない状態にして、第1の熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度未満に保つ。そして、第2のキャビティ17の周囲であって、予め成形された第1層12の周囲は除く位置の流路管のみに加熱媒体を流して、第2の熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度以上に保つ。これによって、前記したのと同様な作用が得られ、外観が良好な樹脂成形品11を製造できる。例えば、流動ストレスによるインキの色流れ防止や、特にエッジ部分、鏡面加工部分、およびシボ加工部分がある場合にはそれらの部分における転写性の向上や、流動の末端部分(ウエルド部分)におけるシワ防止などの効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の射出成形装置を示す図である。
【図2】図1に示す射出成形装置の金型部分を断面した図である。
【図3】(a)本発明によって製造される樹脂成形品の正面図、(b)はその側面図である。
【図4】(a)は図3に示す樹脂成形品の側面断面図、(b)はその要部拡大図である。
【図5】(a)は図3,4に示す樹脂成形品の第1層の正面図、(b)はその側面図である。
【図6】(a)は図5に示す第1層の側面断面図、(b)はその要部拡大図である。
【図7】本発明の多層構造の樹脂成形品の製造方法を示すフローチャートである。
【図8】図7に示す製造方法を説明するための、金型部分の拡大断面図である。
【図9】図7に示す製造方法を説明するための、金型部分の拡大断面図である。
【図10】図7に示す製造方法を説明するための、金型部分の拡大断面図である。
【図11】図7に示す製造方法を説明するための、金型部分の拡大断面図である。
【符号の説明】
【0062】
1 固定側プレート
2 可動側プレート
3 ガイド
4 第1の固定側金型(他の対向側金型)
5 第2の固定側金型(対向側金型)
6 第1の射出機構(第1の熱可塑性樹脂用の射出機構)
7 第2の射出機構(第2の熱可塑性樹脂用の射出機構)
8 回転板
9 可動側金型(一方の金型)
10 流路管
11 多層構造の樹脂成形品
12 第1層
12a 窓穴部
13 第2層
14 第1のキャビティ(第1層形成用のキャビティ)
15,18 スプルー
16,19 ランナー
17 第2のキャビティ(第2層形成用のキャビティ)
20 媒体供給制御機構
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の熱可塑性樹脂からなる第1層と第2の熱可塑性樹脂からなる第2層を含む多層構造の樹脂成形品の製造方法において、
前記第1層を保持した状態の一方の金型を対向側金型に接合することによって第2層形成用のキャビティを構成し、該第2層形成用のキャビティ内に前記第2の熱可塑性樹脂を射出して前記第2層を形成するステップを含み、
前記第2層を形成するステップでは、形成された前記第1層を保持した状態の前記一方の金型のキャビティ表面のうちの少なくとも一部を前記第1の熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度未満に保つとともに、前記対向側金型のキャビティ表面を前記第2の熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度以上かつ加熱分解温度未満に保った状態で、前記第2の熱可塑性樹脂を前記第2層形成用のキャビティ内に射出し、射出完了後に、前記対向側金型のキャビティ表面を前記第2の熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度未満に冷却する
ことを特徴とする、多層構造の樹脂成形品の製造方法。
【請求項2】
前記第1層を保持する前の前記一方の金型を他の対向側金型に接合することによって第1層形成用のキャビティを構成し、該第1層形成用のキャビティ内に前記第1の熱可塑性樹脂を射出して前記第1層を形成するステップと、
形成された前記第1層を保持した状態の前記一方の金型を、前記第1層形成用のキャビティを構成する前記他の対向側金型との対向位置から、前記第2層形成用のキャビティを構成する前記対向側金型との対向位置へ相対的に移動させるステップと、
を含み、
前記第1層を形成するステップでは、前記一方の金型と前記他の対向側金型のキャビティ表面をいずれも前記第1の熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度以上かつ加熱分解温度未満に保った状態で、前記第1の熱可塑性樹脂を前記第1層形成用のキャビティ内に射出し、射出完了後に前記一方の金型と前記他の対向側金型のキャビティ表面を前記第1の熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度未満に冷却する、
請求項1に記載の、多層構造の樹脂成形品の製造方法。
【請求項3】
全ての前記金型には、加熱媒体と冷却媒体を選択的に導入可能な複数の流路管がそれぞれ設けられており、
前記第1層を形成するステップでは、前記一方の金型と前記他の対向側金型の複数の前記流路管のうち、前記第1層形成用のキャビティの周囲の流路管のみに前記加熱媒体を供給し、
前記第2層を形成するステップでは、前記対向側金型の複数の前記流路管のうち、前記第2層形成用のキャビティの周囲の流路管のみに前記加熱媒体を供給する、
請求項2に記載の、多層構造の樹脂成形品の製造方法。
【請求項4】
前記第1層を保持する前の前記一方の金型を、前記対向側金型に接合することによって第1層形成用のキャビティを構成し、該第1層形成用のキャビティ内に前記第1の熱可塑性樹脂を射出して前記第1層を形成するステップと、
前記第1層を形成した後に、形成された前記第1層を保持している前記一方の金型または前記対向側金型の内部のコア部分を移動させることによって、前記第1層形成用のキャビティを構成した状態から前記第2層形成用のキャビティを構成した状態に移行させるステップと、
を含み、
前記第1層を形成するステップでは、前記一方の金型と前記対向側金型のキャビティ表面をいずれも前記第1の熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度以上かつ加熱分解温度未満に保った状態で、前記第1の熱可塑性樹脂を前記第1層形成用のキャビティ内に射出し、射出完了後に前記一方の金型と前記対向側金型のキャビティ表面を前記第1の熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度未満に冷却する、
請求項1に記載の、多層構造の樹脂成形品の製造方法。
【請求項5】
全ての前記金型には、加熱媒体と冷却媒体を選択的に導入可能な複数の流路管がそれぞれ設けられており、
前記第2層を形成するステップでは、形成された前記第1層を保持した状態の前記一方の金型の複数の前記流路管のうち、形成された前記第1層を保持している部分の周囲に位置する前記流路管に前記冷却媒体を供給し、または当該流路管への前記加熱媒体および前記冷却媒体の供給を停止し、それ以外の前記流路管に前記加熱媒体を供給する、請求項1から4のいずれか1項に記載の、多層構造の樹脂成形品の製造方法。
【請求項6】
一方の金型と、少なくとも1つの対向側金型とを有する、多層構造の樹脂成形品製造用の射出成形装置において、
1つの前記対向側金型は、前記樹脂成形品の第1の熱可塑性樹脂からなる第1層を保持した状態の前記一方の金型と接合されて第2層形成用のキャビティを構成するものであり、
前記一方の金型と前記対向側金型には、加熱媒体と冷却媒体を選択的に導入可能な流路管がそれぞれ設けられており、
前記第2層形成用のキャビティ内に第2の熱可塑性樹脂を射出する、第2の熱可塑性樹脂用の射出機構と、
前記第2の熱可塑性樹脂用の射出機構から前記第2層形成用のキャビティ内に前記第2の熱可塑性樹脂を射出する際に、前記一方の金型のキャビティ表面のうちの少なくとも一部を前記第1の熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度未満に下げるように前記一方の金型の複数の前記流路管のうちの少なくとも一部に、前記冷却媒体を供給し、または当該流路管への前記加熱媒体および前記冷却媒体の供給を停止するとともに、前記第2層形成用のキャビティを構成する前記対向側金型のキャビティ表面を前記第2の熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度以上かつ加熱分解温度未満に保つように当該対向側金型の前記流路管に前記加熱媒体を供給し、射出完了後に当該対向側金型のキャビティ表面を前記第2の熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度未満に冷却するように当該対向側金型の前記流路管に前記冷却媒体を供給する、媒体供給制御機構と、
を有している
ことを特徴とする、多層構造の樹脂成形品製造用の射出成形装置。
【請求項7】
前記第1層を保持する前の前記一方の金型と接合されて第1層形成用のキャビティを構成する、前記第2層形成用のキャビティを構成する前記対向側金型とは異なる、他の対向側金型と、
前記第1層形成用のキャビティ内に前記第1の熱可塑性樹脂を射出する、第1の熱可塑性樹脂用の射出機構と、
をさらに有し、
前記他の対向側金型には、加熱媒体と冷却媒体を選択的に導入可能な流路管が設けられており、
前記媒体供給制御機構は、前記第1の熱可塑性樹脂用の射出機構から前記第1層形成用のキャビティ内に前記第1の熱可塑性樹脂を射出する際には、前記一方の金型および前記他の対向側金型のキャビティ表面を前記第1の熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度以上かつ加熱分解温度未満に保つように、前記一方の金型および前記他の対向側金型の前記流路管に前記加熱媒体を供給し、射出完了後に前記一方の金型および前記他の対向側金型のキャビティ表面を前記第1の熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度未満に冷却するように前記一方の金型および前記他の対向側金型の前記流路管に前記冷却媒体を供給する、
請求項6に記載の、多層構造の樹脂成形品製造用の射出成形装置。
【請求項8】
前記媒体供給制御機構は、前記第1の熱可塑性樹脂用の射出機構から前記第1層形成用のキャビティ内に第1の熱可塑性樹脂を射出する際には、前記一方の金型および前記他の対向側金型の複数の前記流路管のうち前記第1層形成用のキャビティの周囲の流路管のみに前記加熱媒体を供給し、前記第2の熱可塑性樹脂用の射出機構から前記第2層形成用のキャビティ内に第2の熱可塑性樹脂を射出する際には、前記一方の金型の複数の前記流路管のうち、形成された前記第1層を保持している部分の周囲に位置する前記流路管に前記冷却媒体を供給し、または当該流路管への前記加熱媒体および前記冷却媒体の供給を停止するとともに、前記対向側金型の複数の前記流路管のうち前記第2層形成用のキャビティの周囲の流路管のみに前記加熱媒体を供給する、
請求項7に記載の、多層構造の樹脂成形品製造用の射出成形装置。
【請求項1】
第1の熱可塑性樹脂からなる第1層と第2の熱可塑性樹脂からなる第2層を含む多層構造の樹脂成形品の製造方法において、
前記第1層を保持した状態の一方の金型を対向側金型に接合することによって第2層形成用のキャビティを構成し、該第2層形成用のキャビティ内に前記第2の熱可塑性樹脂を射出して前記第2層を形成するステップを含み、
前記第2層を形成するステップでは、形成された前記第1層を保持した状態の前記一方の金型のキャビティ表面のうちの少なくとも一部を前記第1の熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度未満に保つとともに、前記対向側金型のキャビティ表面を前記第2の熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度以上かつ加熱分解温度未満に保った状態で、前記第2の熱可塑性樹脂を前記第2層形成用のキャビティ内に射出し、射出完了後に、前記対向側金型のキャビティ表面を前記第2の熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度未満に冷却する
ことを特徴とする、多層構造の樹脂成形品の製造方法。
【請求項2】
前記第1層を保持する前の前記一方の金型を他の対向側金型に接合することによって第1層形成用のキャビティを構成し、該第1層形成用のキャビティ内に前記第1の熱可塑性樹脂を射出して前記第1層を形成するステップと、
形成された前記第1層を保持した状態の前記一方の金型を、前記第1層形成用のキャビティを構成する前記他の対向側金型との対向位置から、前記第2層形成用のキャビティを構成する前記対向側金型との対向位置へ相対的に移動させるステップと、
を含み、
前記第1層を形成するステップでは、前記一方の金型と前記他の対向側金型のキャビティ表面をいずれも前記第1の熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度以上かつ加熱分解温度未満に保った状態で、前記第1の熱可塑性樹脂を前記第1層形成用のキャビティ内に射出し、射出完了後に前記一方の金型と前記他の対向側金型のキャビティ表面を前記第1の熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度未満に冷却する、
請求項1に記載の、多層構造の樹脂成形品の製造方法。
【請求項3】
全ての前記金型には、加熱媒体と冷却媒体を選択的に導入可能な複数の流路管がそれぞれ設けられており、
前記第1層を形成するステップでは、前記一方の金型と前記他の対向側金型の複数の前記流路管のうち、前記第1層形成用のキャビティの周囲の流路管のみに前記加熱媒体を供給し、
前記第2層を形成するステップでは、前記対向側金型の複数の前記流路管のうち、前記第2層形成用のキャビティの周囲の流路管のみに前記加熱媒体を供給する、
請求項2に記載の、多層構造の樹脂成形品の製造方法。
【請求項4】
前記第1層を保持する前の前記一方の金型を、前記対向側金型に接合することによって第1層形成用のキャビティを構成し、該第1層形成用のキャビティ内に前記第1の熱可塑性樹脂を射出して前記第1層を形成するステップと、
前記第1層を形成した後に、形成された前記第1層を保持している前記一方の金型または前記対向側金型の内部のコア部分を移動させることによって、前記第1層形成用のキャビティを構成した状態から前記第2層形成用のキャビティを構成した状態に移行させるステップと、
を含み、
前記第1層を形成するステップでは、前記一方の金型と前記対向側金型のキャビティ表面をいずれも前記第1の熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度以上かつ加熱分解温度未満に保った状態で、前記第1の熱可塑性樹脂を前記第1層形成用のキャビティ内に射出し、射出完了後に前記一方の金型と前記対向側金型のキャビティ表面を前記第1の熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度未満に冷却する、
請求項1に記載の、多層構造の樹脂成形品の製造方法。
【請求項5】
全ての前記金型には、加熱媒体と冷却媒体を選択的に導入可能な複数の流路管がそれぞれ設けられており、
前記第2層を形成するステップでは、形成された前記第1層を保持した状態の前記一方の金型の複数の前記流路管のうち、形成された前記第1層を保持している部分の周囲に位置する前記流路管に前記冷却媒体を供給し、または当該流路管への前記加熱媒体および前記冷却媒体の供給を停止し、それ以外の前記流路管に前記加熱媒体を供給する、請求項1から4のいずれか1項に記載の、多層構造の樹脂成形品の製造方法。
【請求項6】
一方の金型と、少なくとも1つの対向側金型とを有する、多層構造の樹脂成形品製造用の射出成形装置において、
1つの前記対向側金型は、前記樹脂成形品の第1の熱可塑性樹脂からなる第1層を保持した状態の前記一方の金型と接合されて第2層形成用のキャビティを構成するものであり、
前記一方の金型と前記対向側金型には、加熱媒体と冷却媒体を選択的に導入可能な流路管がそれぞれ設けられており、
前記第2層形成用のキャビティ内に第2の熱可塑性樹脂を射出する、第2の熱可塑性樹脂用の射出機構と、
前記第2の熱可塑性樹脂用の射出機構から前記第2層形成用のキャビティ内に前記第2の熱可塑性樹脂を射出する際に、前記一方の金型のキャビティ表面のうちの少なくとも一部を前記第1の熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度未満に下げるように前記一方の金型の複数の前記流路管のうちの少なくとも一部に、前記冷却媒体を供給し、または当該流路管への前記加熱媒体および前記冷却媒体の供給を停止するとともに、前記第2層形成用のキャビティを構成する前記対向側金型のキャビティ表面を前記第2の熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度以上かつ加熱分解温度未満に保つように当該対向側金型の前記流路管に前記加熱媒体を供給し、射出完了後に当該対向側金型のキャビティ表面を前記第2の熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度未満に冷却するように当該対向側金型の前記流路管に前記冷却媒体を供給する、媒体供給制御機構と、
を有している
ことを特徴とする、多層構造の樹脂成形品製造用の射出成形装置。
【請求項7】
前記第1層を保持する前の前記一方の金型と接合されて第1層形成用のキャビティを構成する、前記第2層形成用のキャビティを構成する前記対向側金型とは異なる、他の対向側金型と、
前記第1層形成用のキャビティ内に前記第1の熱可塑性樹脂を射出する、第1の熱可塑性樹脂用の射出機構と、
をさらに有し、
前記他の対向側金型には、加熱媒体と冷却媒体を選択的に導入可能な流路管が設けられており、
前記媒体供給制御機構は、前記第1の熱可塑性樹脂用の射出機構から前記第1層形成用のキャビティ内に前記第1の熱可塑性樹脂を射出する際には、前記一方の金型および前記他の対向側金型のキャビティ表面を前記第1の熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度以上かつ加熱分解温度未満に保つように、前記一方の金型および前記他の対向側金型の前記流路管に前記加熱媒体を供給し、射出完了後に前記一方の金型および前記他の対向側金型のキャビティ表面を前記第1の熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度未満に冷却するように前記一方の金型および前記他の対向側金型の前記流路管に前記冷却媒体を供給する、
請求項6に記載の、多層構造の樹脂成形品製造用の射出成形装置。
【請求項8】
前記媒体供給制御機構は、前記第1の熱可塑性樹脂用の射出機構から前記第1層形成用のキャビティ内に第1の熱可塑性樹脂を射出する際には、前記一方の金型および前記他の対向側金型の複数の前記流路管のうち前記第1層形成用のキャビティの周囲の流路管のみに前記加熱媒体を供給し、前記第2の熱可塑性樹脂用の射出機構から前記第2層形成用のキャビティ内に第2の熱可塑性樹脂を射出する際には、前記一方の金型の複数の前記流路管のうち、形成された前記第1層を保持している部分の周囲に位置する前記流路管に前記冷却媒体を供給し、または当該流路管への前記加熱媒体および前記冷却媒体の供給を停止するとともに、前記対向側金型の複数の前記流路管のうち前記第2層形成用のキャビティの周囲の流路管のみに前記加熱媒体を供給する、
請求項7に記載の、多層構造の樹脂成形品製造用の射出成形装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−290383(P2008−290383A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−139270(P2007−139270)
【出願日】平成19年5月25日(2007.5.25)
【出願人】(000185868)小野産業株式会社 (14)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年5月25日(2007.5.25)
【出願人】(000185868)小野産業株式会社 (14)
【Fターム(参考)】
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