説明

多段直動アクチュエータ及びロボットハンドの指機構

【課題】ロボットハンドの指機構の屈伸用駆動系の簡素化を可能とするようなアクチュエータの提供。
【解決手段】進退動を行う直動軸3(3a、3b、3c)を有した複数の直動モータ2(2a、2b、2c)を組み合わせて多段直動アクチュエータ1を形成する。それについて、直動モータそれぞれの直動軸を中空構造として軸腔を有するように形成し、そして隣接前段の直動モータの直動軸の軸腔に対し隣接後段の直動モータの直動軸が挿通するように、各直動モータを組み合わせることで、各直動モータそれぞれの直動軸が同一の軸芯上で個々に進退動をなせるようにしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多段的な直動を可能とし、ロボットハンドにおける指機構の屈伸駆動用として好適な多段直動アクチュエータ及びそれを用いたロボットハンドの指機構に関する。
【背景技術】
【0002】
ロボットハンドの一つとして、人型のロボットハンドがある。人型のロボットハンドは、人の手にできるだけ似せるようにしたロボットハンドであり、人の指におけるのと同様な屈伸(屈曲や伸展)を可能とする指機構が人の手における指に対応させるなどして複数設けられるのが一般的である。代表的な例によるロボットハンドの指機構は、人の指における指骨に対応する要素として複数のリンクを有するとともに、人の指における関節に対応する要素として複数の関節部を有する。そして各リンクは、各関節部で回動可能に連結されるとともに、屈伸用のアクチュエータからの駆動力により各関節部での回動を行えるようにされ、それにより指機構の屈伸をなせるようにされている(例えば特許文献1〜5)。
【0003】
以上のような人型のロボットハンドに望まれることの一つは、人の手に近い機能性を実現しつつ、全体をできるだけコンパクトにすることであるが、それについては指機構の屈伸用駆動系が大きな比重を占める。つまり、人型ロボットハンドのコンパクト化には指機構の屈伸用駆動系の簡素化が望まれるということである。
【0004】
指機構の屈伸用駆動系としては、特許文献1や特許文献2に見られる例のように、屈伸用のアクチュエータであるモータの回転駆動力をワイヤとプーリで伝えて関節部でのリンクの回動動作を行わせる方式(仮にワイヤ・プーリ方式と呼ぶ)が代表的な一つとして知られ、また特許文献3〜特許文献5に見られる例のように、関節部に組み込んだ屈伸用のアクチュエータの駆動力を直結的に作用させて関節部でのリンクの回動動作を行わせる方式(仮に直結方式と呼ぶ)が他の代表的な一つとして知られている。
【0005】
このようなワイヤ・プーリ方式や直結方式には、人型ロボットハンドのコンパクト化の上で限界がある。すなわちワイヤ・プーリ方式は、人の手に近い機能性を実現する上で求められる屈曲力や伸展力を得るのに屈伸用駆動系が複雑になるのを避けられず、屈伸用駆動系の簡素化に限界がある。一方、直結方式は、人の手に近い機能性を実現する上で求められる屈曲力や伸展力を可能とする駆動力のアクチュエータを関節部ごとに組み込む必要があり、やはり屈伸用駆動系の簡素化に限界がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−18489号公報
【特許文献2】特開2004−306224号公報
【特許文献3】特開2003−117873号公報
【特許文献4】特開2008−149448号公報
【特許文献5】特開2009−166152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、人型ロボットハンドのコンパクト化には指機構の屈伸用駆動系の簡素化が求められるが、従来ではこれに十分応えることができていない。本発明は、このような従来のロボットハンドをめぐる事情を背景になされたものであり、指機構の屈伸用駆動系の簡素化を可能とするようなアクチュエータの提供を課題とし、またそのようなアクチュエータを用いたロボットハンドの指機構の提供を課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ロボットハンドの指機構に屈伸をなさせるには、関節部で回動可能に連結された複数のリンクのそれぞれに回動を行わせる必要がある。つまり指機構の屈伸のためには、例えばリンクが3つで関節部が3つである3リンク・3関節構造の場合であれば、3つのリンクのそれぞれに関節部での回動を行わせることになる。
【0009】
このような指機構の屈伸のための駆動系の簡素化を図るには、直線的な進退動を行う直動軸(直動出力軸)を有した直動アクチュエータを屈伸用アクチュエータとして用い、その直動駆動力で各リンクに回動力を加える方式とするのが有効である。またそのような直動アクチュエータを多段的にする、つまり複数の直動軸を有し、それらの直動軸が同一の軸芯上で個々に進退動をなす、といった多段的な直動をなさせるようにすることで、さらに指機構の屈伸駆動系の簡素化を図ることが可能となる。
【0010】
本発明では、以上のような考え方に基づいて上記課題を解決する。具体的には、上記課題を解決するための第1の発明によるアクチュエータは、進退動を行う直動軸を有した直動モータをn個組み合わせて形成される多段直動アクチュエータであって、少なくともn−1段目までの前記直動モータそれぞれの前記直動軸が軸芯方向に貫通する軸腔を有する中空構造に形成され、そして隣接前段の前記直動モータの前記直動軸の前記軸腔に対し隣接後段の前記直動モータの前記直動軸が挿通するように、前記各直動モータを組み合わせることで、前記各直動モータそれぞれの前記直動軸が同一の軸芯上で個々に進退動をなせるようにされていることを特徴としている。
【0011】
第2の発明では、上記第1の発明において、前記直動モータは、送りねじ構造により前記直動軸が進退動を行うようにされ、そのために回転子の出力軸が軸芯方向に貫通する軸腔を有する中空構造に形成されるとともに、前記出力軸に減速機を介して送りねじ構造用のナットが連結され、さらに前記直動軸が前記ナットに螺合する送りねじ構造用のねじ軸となるように形成され、そして前記回転子により前記減速機を介して前記ナットが行う回転動により前記直動軸が前記出力軸の前記軸腔を貫通する状態で進退動を行うようにされていることを特徴としている。
【0012】
このように送りねじ構造で直動軸に進退動を行わせるようにし、しかも回転子の回転出力を減速機で減速させる構成とすることにより、進退動力を大きなものとすることができる。このため、ロボットハンドの指機構の屈伸駆動系に用いた場合、リンクに対する回動力として大きなものが得られ、屈伸駆動系の簡素化を図りつつ、人の手に近い機能性を実現する上で求められる指機構の屈曲力や伸展力を得ることが可能となる。
【0013】
また本発明では上記課題を解決するために、関節部を介して回動可能に連結された複数のリンクを有し、屈伸用アクチュエータにより前記各リンクに回動を行わせることで屈伸をなせるようにされたロボットハンドの指機構について、前記屈伸用アクチュエータとして上記第1の発明又は第2の発明による多段直動アクチュエータが用いられ、前記各直動モータそれぞれの前記直動軸が同一の軸芯上で個々になす進退動により、前記複数のリンクそれぞれの回動をなさせるようにされていることを特徴としている。
【0014】
このようなロボットハンドの指機構では、屈伸用アクチュエータとして多段直動アクチュエータを用いることで、上述のように屈伸駆動系の簡素化を図ることができ、これによりロボットハンドの全体的なコンパクト化が可能となる。
【0015】
第4の発明では、上記第3の発明において、前記リンクとして第1リンク、第2リンク、及び第3リンクを有するとともに、前記関節部として第1関節部、第2関節部、及び第3関節部を有し、また前記多直動アクチュエータは、前記直動モータとして1段目直動モータ、2段目直動モータ、及び3段目直動モータを有し、そして前記第1リンクは、基端部が前記3段目直動モータの前記直動軸に連結ワイヤを介して連結されるとともに、当該基端部が前記第1関節部で前記第2リンクの先端部に連結され、前記第2リンクは、基端部が前記2段目直動モータの前記直動軸に連結ワイヤを介して連結されるとともに、当該基端部が前記第2関節部で前記第3リンクの先端部に連結され、前記第3リンクは、基端部が前記3段目直動モータの前記直動軸に連結ワイヤを介して連結されていることを特徴としている。
【0016】
このように各直動軸による直動駆動力をワイヤで各リンクに伝える構造とすることにより、屈伸駆動系の簡素化をより一層進めることが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
以上のような本発明によれば、指機構の屈伸用駆動系の大幅な簡素化を可能とする多段直動アクチュエータが実現され、また全体的によりコンパクトなロボットハンドの指機構を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】一実施例による多段直動アクチュエータの構成を示す図である。
【図2】多段直動アクチュエータにおける各直動軸の関係を拡大して示す図である。
【図3】直動モータの縦断面による内部構造を簡略化して示す図である。
【図4】一実施例によるロボットハンドの指機構の構成を示す図である。
【図5】ルーバに多段直動アクチュエータを用いる場合の構成例を模式化して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0019】
図1に、一実施例による多段直動アクチュエータ1の構成を示す。図1の(a)は、多段直動アクチュエータ1を縦側面側から見た状態を示し、図1の(b)は、多段直動アクチュエータ1の縦断面による内部構造を簡略化して示している。図1に見られるように、多段直動アクチュエータ1は、直動モータ2をn個組み合わせて形成されている。図の例ではn=3であり、直動モータ2として1段目直動モータ2a、2段目直動モータ2b、及び3段目直動モータ2cを組み合わせた3段組合せの場合となっている。
【0020】
直動モータ2a、2b、2cは、それぞれ直動軸3(3a、3b、3c)を有し、この直動軸3に送りねじ構造により矢印Aのような進退動を行わせることができるようにされている。そのために直動軸3は、外周にねじ溝4が形成され、送りねじ構造用のねじ軸となるようにされている。また直動軸3aと直動軸3bは、軸芯方向に貫通する軸腔5(図2、図3)を有する中空構造に形成され、直動軸3cは、中実に形成されている。
【0021】
以上のような直動モータ2a、2b、2cは、直動軸3aと直動軸3bの中空構造を用いることで、それぞれの直動軸3a、3b、3cが同一の軸芯上で個々に進退動をなせるように組み合わされている。具体的には、図2に各直動軸3の関係を拡大して示すように、直動モータ2aの直動軸3aの軸腔5に直動モータ2bの直動軸3bが摺接的に挿通し、また直動モータ2bの直動軸3bの軸腔5に直動モータ2cの直動軸3cが摺接的に挿通するように組み合わされている。このような直動モータ2の組合せは、一般化すると、隣接前段の直動モータ2の直動軸3の軸腔5に対し隣接後段の直動モータ2の直動軸3が挿通するようにする組合せであるといえる。ここで、直動モータ2cの直動軸3cを中実に形成するのは、直動モータ2cが3段組合せにおける最終段となることから、その直動軸3cを中空にする必要がないからである。このことは、一般化していうと、直動モータをn個組み合わせるについては、n−1段目までの直動モータそれぞれの直動軸を中空構造にすれば足りるということである。
【0022】
図3に、1段目直動モータ2aの縦断面による内部構造を簡略化して示す。図3に見られるように、直動モータ2aは、モータケーシング6を備え、その内部にモータ部7と減速部8が設けられている。モータケーシング6は、円筒状に形成され、後部に嵌合凸部11が設けられるとともに、先端部に嵌合凹部12が設けられている。嵌合凸部11は、モータケーシング6の外径よりモータケーシング6の厚み程度小さな径の短円筒状に形成され、一方、後部嵌合凹部12は、開放状態にされたモータケーシング6の先端部から嵌合凸部11の突出程度で引っ込んだ位置に閉止壁13を設けることで形成されており、その閉止壁13に直動軸3(直動軸3a)を通すための通し孔14が設けられている。
【0023】
モータ部7は、固定子15と回転子16を有する。回転子16は、回転子出力軸17が一体回転可能に組み付けられ、この回転子出力軸17を介してラジアル軸受け18により回転可能に支持されている。回転子出力軸17は、軸芯方向に貫通する軸腔19を有する中空構造に形成され、その軸腔19の径は軸腔19に直動軸3が摺接する程度とされている。そしてこの回転子出力軸17に対し、軸腔19を摺接的に貫通することで軸腔19に支持された状態で進退動を行えるように直動軸3が組み合わされている。また回転子出力軸17は、その先端部に太陽歯車部21が形成されており、この太陽歯車部21が減速部8に臨むようにされている。
【0024】
減速部8は、減速機22、具体的には第1減速機22aと第2減速機22bを組み込んで形成され、2段減速をなせるようにされている。第1と第2の各減速機22a、22bには遊星歯車機構が用いられている。より具体的にいうと、第1減速機22aは、内周面に内歯車(図示を省略)が形成された減速機ケーシング23aの内部にキャリア24aとこれに組み付けられた複数の遊星歯車25aを設けた構成とされており、各遊星歯車25aが回転子出力軸17の太陽歯車部21と減速機ケーシング23aの内歯車のそれぞれ噛合するようにされている。一方、第2減速機22bは、同じく内周面に内歯車(図示を省略)が形成された減速機ケーシング23bの内部にキャリア24bとこれに組み付けられた複数の遊星歯車25bを設けた構成とされており、各遊星歯車25bがキャリア24aに固定の太陽歯車26と減速機ケーシング23bの内歯車のそれぞれに噛合するようにされている。これら第1と第2の各減速機22a、22bは、それぞれ減速比が例えば1/4とされ、最終的に1/16の減速比を得られるようにされている。したがって、回転子16の回転数が例えば7000rpmであるとすれば、キャリア24bからの回転出力における回転数は437.5rpmとなる。
【0025】
第2減速機22bのキャリア24bには、送りねじ構造用のナットである送りねじナット27が固定的に組みつけられている。この送りねじナット27は、直動軸3、つまり送りねじ軸3に螺合するようにされている。これにより送りねじ構造が形成され、第1減速機22aと第2減速機22bを介して伝えられる回転子16の回転力で送りねじナット27が回転し、この送りねじナット27の回転により直動軸3が進退動を行うことになる。このような直動軸3の進退動速度は、上述のような回転条件と減速条件の場合であれば、例えば10mm/秒程度となる。
【0026】
以上のような送りねじ構造にあっては、送りねじナット27と第2減速機22bのキャリア24bにスラスト荷重が負荷されることになる。そこでスラスト軸受28で送りねじナット27と第2減速機22bを支持するようにしてある。また以上のような送りねじ構造にあっては、送りねじナット27の回転に連れて直動軸3が回転するのを確実に防げるようにするのが好ましく、それには、例えば直動軸3にキー溝(図示を省略)を設け、そのキー溝に係合するキー(図示を省略)を通し孔14の内周面に設ける、といったキー構造などを用いることができる。
【0027】
直動モータ2bと直動モータ2cの構造は、直動軸3の径サイズの違い(直動軸3a→直動軸3b→直動軸3cの順で径が細くなる)と直動軸3の長さサイズの違い(直動軸3a→直動軸3b→直動軸3cの順で長くなる)、それに直動軸3が中空構造であるか否かの違い(直動軸3aと直動軸3bは中空で、直動軸3cは中実である)を除いて、基本的には以上のような直動モータ2aの構造と同一である。
【0028】
こうした直動モータ2a、2b、2cは、上述のように直動軸3aと直動軸3bの中空構造を用いて組み合わされることで、多段直動アクチュエータ1を形成する。そしてその多段直動アクチュエータ1の形成における直動モータ2a、2b、2cの組合せにあっては、直動モータ2aのモータケーシング6の嵌合凸部11と直動モータ2bのモータケーシング6の嵌合凹部12との嵌合をなさせるとともに、直動モータ2bのモータケーシング6の嵌合凸部11と直動モータ2cのモータケーシング6の嵌合凹部12との嵌合をなさせることで、直動モータ2a、2b、2cの組合せにおける一体化の強化が図られている。
【0029】
以上のような多段直動アクチュエータ1は、図示を省略のコントローラにて直動モータ2a、2b、2cを個々に制御することで、直動モータ2a、2b、2cそれぞれの直動軸3a、3b、3cに同一の軸芯上での進退動(前進動又は後退動)を個々に行わせることができ、またそれらの各進退動を互いに関連させることも可能である。
【実施例2】
【0030】
図4に、一実施例によるロボットハンドの指機構31の構成を示す。図4の(a)は、指機構31を横側から見た状態を示し、図4の(b)は、指機構31を上側から見た状態を示している。図4に見られるように、指機構31は、指部32と屈伸用駆動系33を備えている。なお、指機構31は、人の手を模すために指部32や屈伸用駆動系33を覆う被覆要素なども備えることになるが、それらについては図示を省略している。
【0031】
指部32は、3リンク・3関節構造の場合で、リンク34として第1リンク34a、第2リンク34b、及び第3リンク34cを有し、また関節部35として第1関節部35a、第2関節部35b、及び第3関節部35cを有する。そして第1リンク34aは、基端部が第1関節部35aで第2リンク34bの先端部に回動可能に連結され、第2リンク34bは、先端部が第1関節部35aで第1リンク34aの基端部に回動可能に連結されるとともに、基端部が第2関節部35bで第3リンク34cの先端部に回動可能に連結され、第3リンク34cは、先端部が第2関節部35bで第2リンク34bの基端部に回動可能に連結されるとともに、基端部が第3関節部35cで掌部39に回動可能に連結されている。また第1〜第3の各関節部35a、35b、35cには、例えばトーションばねなどが用いられる回動付勢ばね36が組み込まれている(ただし、図4の(b)では回動付勢ばね36の図示を省略してある)。
【0032】
屈伸用駆動系33は、屈伸用アクチュエータとして実施例1における多段直動アクチュエータ1を備えるとともに、多段直動アクチュエータ1の駆動力を第1〜第3の各リンク34a、34b、34cに伝える連結ワイヤ37(37a、37b、37c)を備え(ただし、図4の(b)では連結ワイヤ37aと連結ワイヤ37bの図示を省略してある)、さらに第2関節部35bと第3関節部35cのそれぞれに組み込まれ、連結ワイヤ37cや連結ワイヤ37bのガイドに機能するガイドローラ38を備えている。
【0033】
多段直動アクチュエータ1は、掌部39に組み込まれ、3段目直動モータ2cの直動軸3cが連結ワイヤ37cを介して第1リンク34aの基端部に連結され、2段目直動モータ2bの直動軸3bが連結ワイヤ37bを介して第2リンク34bの基端部に連結され、1段目直動モータ2aの直動軸3aが連結ワイヤ37aを介して第3リンク34cの基端部に連結されている。このため第1〜第3の各リンク34a、34b、34cは、多段直動アクチュエータ1における直動モータ2a、2b、2cそれぞれの直動軸3a、3b、3cの進退動に応じた角度による回動を関節部35でなすことができる。より具体的にいうと、第1〜第3の各リンク34a、34b、34cは、指部32が屈曲状態となる回動方向(矢印B方向)に回動付勢ばね36にて付勢されており、直動軸3が前進動を行うと、それに連れて回動付勢ばね36の付勢力で矢印B方向に回動し、一方、直動軸3が後退動を行うと、それに引っ張られることで回動付勢ばね36の付勢力に抗して指部32が伸展状態となる回動方向(矢印c方向)に回動する。したがって、多段直動アクチュエータ1における直動モータ2a、2b、2cの個別制御による直動モータ2a、2b、2cそれぞれの直動軸3a、3b、3cの個別的な進退動により、第1〜第3の各リンク34a、34b、34cをそれぞれに必要な角度で回動させることができ、これにより指部32を所望の状態に屈伸させることができる。こうした指部32の屈伸では、上述のような直動軸3の進退動速度条件にあって、例えば5kgを超える把持力を実現することが可能であり、したがって人の手に近い機能性を実現する上で求められる屈曲力や伸展力に応えることができる。
【0034】
以上のような指機構31では、屈伸用アクチュエータとして多段直動アクチュエータ1を用いることにより、3リンク・3関節構造でありながら、屈伸用アクチュエータを1台で済ませることができ、これによりその屈伸用駆動系33の大幅な簡素化を図ることができる。また、多段直動アクチュエータ1を用いることは、多段直動アクチュエータ1の各直動軸3a、3b、3cを単純な連結ワイヤ37で第1〜第3の各リンク34a、34b、34cに連結させるだけで済み、このことも屈伸用駆動系33の簡素化に寄与している。
【0035】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、これは代表的な例に過ぎず、本発明はその趣旨を逸脱することのない範囲で様々な形態で実施することができる。例えば上記形態では、多段直動アクチュエータを3段組合せの場合としていたが、これに限られず、2段組合せや4段以上の組合せとすることも可能である。また本発明による多段直動アクチュエータは、ロボットハンドにおける指機構の屈伸用アクチュエータとして特に有用であるが、必ずしもそれに限られず、例えば図5に示すような用い方も好ましい例の一つである。すなわち、ルーバ41における各羽板42の開閉用アクチュエータとして多段直動アクチュエータ43(これは基本的には実施例1における多段直動アクチュエータ1と同様である)を用いる場合である。このような使い方にあっては、羽板42を適宜にグループ分けし、多段直動アクチュエータ1における多段的な直動性を活用することで、そのグループごとに異なる開度を与えることが容易に可能となり、ルーバ41の機能性を高めることができる。
【符号の説明】
【0036】
1 多段直動アクチュエータ
2 直動モータ
2a 1段目直動モータ
2b 2段目直動モータ
2c 3段目直動モータ
3 直動軸
5 軸腔
16 回転子
17 回転子出力軸
19 軸腔
27 送りねじナット
31 指機構
34 リンク
34a 第1リンク
34b 第2リンク
34c 第3リンク
35 関節部
35a 第1関節部
35b 第2関節部
35c 第3関節部
37 連結ワイヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
進退動を行う直動軸を有した直動モータをn個組み合わせて形成される多段直動アクチュエータであって、
少なくともn−1段目までの前記直動モータそれぞれの前記直動軸が軸芯方向に貫通する軸腔を有する中空構造に形成され、そして隣接前段の前記直動モータの前記直動軸の前記軸腔に対し隣接後段の前記直動モータの前記直動軸が挿通するように、前記各直動モータを組み合わせることで、前記各直動モータそれぞれの前記直動軸が同一の軸芯上で個々に進退動をなせるようにされていることを特徴とする多段直動アクチュエータ。
【請求項2】
前記直動モータは、送りねじ構造により前記直動軸が進退動を行うようにされ、そのために回転子の出力軸が軸芯方向に貫通する軸腔を有する中空構造に形成されるとともに、前記出力軸に減速機を介して送りねじ構造用のナットが連結され、さらに前記直動軸が前記ナットに螺合する送りねじ構造用のねじ軸となるように形成され、そして前記回転子により前記減速機を介して前記ナットが行う回転動により前記直動軸が前記出力軸の前記軸腔を貫通する状態で進退動を行うようにされていることを特徴とする請求項1に記載の多段直動アクチュエータ。
【請求項3】
関節部を介して回動可能に連結された複数のリンクを有し、屈伸用アクチュエータにより前記各リンクに回動を行わせることで屈伸をなせるようにされたロボットハンドの指機構であって、
前記屈伸用アクチュエータとして請求項1又は請求項2に記載の多段直動アクチュエータが用いられ、前記各直動モータそれぞれの前記直動軸が同一の軸芯上で個々になす進退動により、前記複数のリンクそれぞれの回動をなさせるようにされていることを特徴とするロボットハンドの指機構。
【請求項4】
前記リンクとして第1リンク、第2リンク、及び第3リンクを有するとともに、前記関節部として第1関節部、第2関節部、及び第3関節部を有し、また前記多直動アクチュエータは、前記直動モータとして1段目直動モータ、2段目直動モータ、及び3段目直動モータを有し、そして前記第1リンクは、基端部が前記3段目直動モータの前記直動軸に連結ワイヤを介して連結されるとともに、当該基端部が前記第1関節部で前記第2リンクの先端部に連結され、前記第2リンクは、基端部が前記2段目直動モータの前記直動軸に連結ワイヤを介して連結されるとともに、当該基端部が前記第2関節部で前記第3リンクの先端部に連結され、前記第3リンクは、基端部が前記3段目直動モータの前記直動軸に連結ワイヤを介して連結されていることを特徴とする請求項3に記載のロボットハンドの指機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−16784(P2012−16784A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−155858(P2010−155858)
【出願日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【出願人】(510189455)東和パーツ株式会社 (2)
【Fターム(参考)】