多環縮環化合物、多環縮環重合体及びこれらを含む有機薄膜
【課題】高い電荷輸送性を発揮し得る構造を有するとともに、溶媒への溶解性にも優れる多環縮環重合体を提供すること。
【解決手段】式(1)で表される構造単位を有する多環縮環重合体。
【解決手段】式(1)で表される構造単位を有する多環縮環重合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多環縮環化合物、多環縮環重合体及びこれらを含む有機薄膜、並びに、この有機薄膜を備える有機薄膜素子及び有機薄膜トランジスタに関する。
【背景技術】
【0002】
電荷(電子又はホールを意味し、以下、同様である。)輸送性を有する有機材料を含む薄膜は、有機薄膜トランジスタ、有機太陽電池、光センサといった有機薄膜素子への応用が期待されている。そのため、このような薄膜を形成できる有機p型半導体材料(ホール輸送性を示す)や有機n型半導体材料(電子輸送性を示す)が種々検討されている。
【0003】
有機p型半導体材料としては、オリゴチオフェン、ポリチオフェン等のチオフェン環を有する化合物のほか、架橋した構造を有するポリチオフェンやラダー型のフルオレンが検討されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開2004/186266号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したような電荷輸送性を有する有機材料は、溶媒等に溶解させて塗布することにより、簡便に有機薄膜を形成できるという利点を有している。しかし、高い特性を有する有機薄膜素子を得るためには、有機薄膜とした状態で高い電荷輸送性を有している必要があるが、上述したような構造的に高い電荷輸送性を有する有機材料は、有機薄膜とすると高い電荷輸送性が得られなくなることが少なくなかった。これは、電荷輸送性が高い構造を有する従来の有機材料は、溶媒に対する溶解性が低いため、有機薄膜を形成する際に均質な膜を形成することが困難であることが一因であると考えられる。
【0006】
そこで、本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、高い電荷輸送性を発揮し得る構造を有するとともに、溶媒への溶解性にも優れる多環縮環重合体を提供することを目的とする。本発明はまた、多環縮環重合体を得るのに好適な多環縮環化合物、多環縮環重合体又は多環縮環化合物を含む有機薄膜、この有機薄膜を備える有機薄膜トランジスタ等の有機薄膜素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の多環縮環重合体は、式(1)で表される構造単位を有することを特徴とする。
【化1】
[式(1)中、X1及びX2は、それぞれ独立に、酸素原子、硫黄原子又はセレン原子を示し、R1及びR2は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、不飽和アルキル基、直鎖状、分岐状若しくは環状の炭素数1〜30のアルキル基、直鎖状、分岐状若しくは環状の炭素数1〜30のアルキル基を含む非アルキル基、置換基を有してもよい炭素数6〜60のアリール基、又は、置換基を有してもよい炭素数4〜60の複素環基を示し、R1及びR2の少なくとも一方は、直鎖状、分岐状若しくは環状の炭素数1〜30のアルコキシ基、又は、直鎖状、分岐状若しくは環状の炭素数1〜30のアルキルチオ基を示す。R3及びR4は、それぞれ独立に、1価の基を示し、s、t、R3及びR4がそれぞれ複数ある場合、それらは同一でも異なっていてもよい。R0は、水素原子又は1価の基を示し、R0が複数ある場合、それらは同一でも異なっていてもよい。m、n、s、t及びrは、それぞれ独立に、0〜2の整数である。]
【0008】
このような本発明の多環縮環重合体は、複数の環同士が縮合した構造であることから高いπ共役平面性を有しているため、高い電荷輸送性を発揮し得る構造となっている。また、かかる多環縮環重合体は、R1及びR2として、所定の置換基、特に、R1又はR2として所定のアルコキシ基又は所定のアルキルチオ基を少なくとも1つ有していることから、溶媒に対する高い溶解性も有している。したがって、本発明の多環縮環重合体によれば、塗布により均質な薄膜を良好に形成することができ、その構造に起因する高い電荷輸送性を得ることが可能となる。
【0009】
上記本発明の多環縮環重合体において、式(1)中、X1及びX2は、硫黄原子であると好ましい。このような構造を有すると、多環縮環重合体は、より高い電荷輸送性を発揮し得るようになる。
【0010】
また、式(1)中、R1及びR2は、直鎖状、分岐状若しくは環状の炭素数1〜30のアルキルチオ基であると好ましい。これによって、一層優れた溶媒に対する溶解性が得られるようになる。
【0011】
本発明の多環縮環重合体は、式(3)で表される構造単位を更に有すると好ましい。これにより、一層高い電荷輸送性及び溶媒に対する溶解性が得られるようになる。
【化2】
[式(3)中、Ar1は、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい複素環基を示す。]
【0012】
式(3)で表される構造単位において、Ar1は、式(4)で表される基であると好ましい。これにより、より優れた電荷輸送性が得られるようになる。特に、式(4)中のZ1は、式(ii)で表される基であると好適である。
【化3】
【化4】
[式(4)中、R5及びR6は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子又は1価の基を示し、R5とR6とは互いに結合して環を形成していてもよい。Z1は、式(i)で表される基、式(ii)で表される基、式(iii)で表される基、式(iv)で表される基、式(v)で表される基、式(vi)で表される基、式(vii)で表される基、式(viii)で表される基及び式(ix)で表される基のうちのいずれかの基(以下、同様の記載を、「式(i)〜(ix)のうちのいずれかの基」と表記する。)を示す。
式(vii)、(viii)及び(ix)中、R7、R8、R9及びR10は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子又は1価の基を示し、R7とR8とは互いに結合して環を形成していてもよい。また、式(viii)で表される基は左右反転していてもよい。]
【0013】
また、本発明は、式(5)で表される多環縮環化合物を提供する。
【化5】
[式(5)中、X1及びX2は、それぞれ独立に、酸素原子、硫黄原子又はセレン原子を示し、R1及びR2は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、不飽和アルキル基、直鎖状、分岐状若しくは環状の炭素数1〜30のアルキル基、直鎖状、分岐状若しくは環状の炭素数1〜30のアルキル基を含む非アルキル基、置換基を有してもよい炭素数6〜60のアリール基、又は、置換基を有してもよい炭素数4〜60の複素環基を示し、R1及びR2の少なくとも一方は、直鎖状、分岐状若しくは環状の炭素数1〜30のアルコキシ基又は直鎖状、分岐状若しくは環状の炭素数1〜30のアルキルチオ基を示す。R3及びR4は、それぞれ独立に、1価の基を示し、s、t、R3及びR4がそれぞれ複数ある場合、それらは同一でも異なっていてもよい。R0は、水素原子又は1価の基を示し、R0が複数ある場合、それらは同一でも異なっていてもよい。Y1及びY2は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜30のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数6〜60のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数4〜60の複素環基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アルキルスルホネート基、アリールスルホネート基、アリールアルキルスルホネート基、アルキルスタニル基、アリールスタニル基、アリールアルキルスタニル基、ホウ酸エステル残基、スルホニウムメチル基、ホスホニウムメチル基、ホスホネートメチル基、モノハロゲン化メチル基、ホウ酸残基、ホルミル基、又はビニル基を示す。m、n、s、t及びrは、それぞれ独立に、0〜2の整数である。]
【0014】
本発明の多環縮環化合物は、式(7)で表される化合物であってもよい。このような多環縮環化合物も、上述した多環縮環化合物と同様の構造を含むことから、本発明の多環縮環重合体を得るために好適な化合物であり、高い電荷輸送性及び高い溶媒への溶解性を有する。
【化6】
[式(7)中、X1及びX2は、それぞれ独立に、酸素原子、硫黄原子又はセレン原子を示し、R1及びR2は、それぞれ独立に、直鎖状、分岐状若しくは環状の炭素数1〜30のアルキル基、直鎖状、分岐状若しくは環状の炭素数1〜30のアルキル基を含む非アルキル基、置換基を有してもよい炭素数6〜60のアリール基、又は、置換基を有してもよい炭素数4〜60の複素環基を示し、R1及びR2の少なくとも一方は、直鎖状、分岐状若しくは環状の炭素数1〜30のアルコキシ基、又は、直鎖状、分岐状若しくは環状の炭素数1〜30のアルキルチオ基を示す。R3及びR4は、それぞれ独立に、1価の基を示し、R3及びR4がそれぞれ複数ある場合、それらは同一でも異なっていてもよい。R0は、水素原子又は1価の基を示し、R0が複数ある場合、それらは同一でも異なっていてもよい。Y5及びY6は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜30のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数6〜60のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数4〜60の複素環基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アルキルスルホネート基、アリールスルホネート基、アリールアルキルスルホネート基、アルキルスタニル基、アリールスタニル基、アリールアルキルスタニル基、ホウ酸エステル残基、スルホニウムメチル基、ホスホニウムメチル基、ホスホネートメチル基、モノハロゲン化メチル基、ホウ酸残基、ホルミル基、又はビニル基を示す。Ar2及びAr3は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい2価の芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい2価の複素環基を示す。m、n、s、t及びrは、それぞれ独立に、0〜2の整数である。u及びvは、それぞれ独立に0又は1であって、かつ、u+vは1以上である。]
【0015】
上述した本発明の多環縮環化合物は、それらが有しているY1、Y2、Y5及びY6で表される基として重合活性基を有する場合、重合させることによって本発明の多環縮環重合体を容易に形成することができる。そのため、本発明の多環縮環重合体を得るために好適な原料化合物として有用である。また、本発明の多環縮環化合物、なかでも式(7)で表される構造単位を含む多環縮環化合物は、電荷輸送性が高い構造を有しており、また溶媒への溶解性にも優れていることから、それ自体が電荷輸送性を有する材料として有用なものであり、有機薄膜素子に適用することが可能である。
【0016】
上記本発明の多環縮環化合物において、式(5)又は式(7)中、X1及びX2は、硫黄原子であると好ましい。これにより、多環縮環化合物やそれらにより得られる多環縮環重合体の電荷輸送性が更に良好になる。
【0017】
また、式(5)又は式(7)中、R1及びR2は、それぞれ独立に、直鎖状、分岐状若しくは環状の炭素数1〜30のアルキルチオ基であると好ましい。これによって、電荷輸送性や溶媒への溶解性が一層良好になる。
【0018】
本発明はまた、上記本発明の多環縮環重合体又は多環縮環化合物を含む有機薄膜を提供する。このような有機薄膜は、上記本発明の多環縮環重合体又は多環縮環化合物を用いて得られることから、ほぼ均質な膜であり、そのため、多環縮環重合体又は多環縮環化合物が本来有する高い電荷輸送性を十分に発揮し得るものとなる。
【0019】
さらに、本発明は、上記本発明の有機薄膜を備える有機薄膜素子、特に有機薄膜トランジスタを提供する。これらの有機薄膜素子及び有機薄膜トランジスタは、高い電荷輸送性を有する有機薄膜を備えることから、素子としても優れた特性を有するものとなり得る。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、高い電荷輸送性を発揮し得る構造を有するとともに、溶媒への溶解性にも優れる多環縮環重合体を提供することが可能となる。また、電荷輸送性及び溶媒への溶解性に優れるとともに、多環縮環重合体を得るための原料化合物として好適な多環縮環化合物や、多環縮環重合体又は多環縮環化合物を含む有機薄膜、さらにはこの有機薄膜を備える有機薄膜トランジスタ等の有機薄膜素子を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】第1実施形態に係る有機薄膜トランジスタの模式断面図である。
【図2】第2実施形態に係る有機薄膜トランジスタの模式断面図である。
【図3】第3実施形態に係る有機薄膜トランジスタの模式断面図である。
【図4】第4実施形態に係る有機薄膜トランジスタの模式断面図である。
【図5】第5実施形態に係る有機薄膜トランジスタの模式断面図である。
【図6】第6実施形態に係る有機薄膜トランジスタの模式断面図である。
【図7】第7実施形態に係る有機薄膜トランジスタの模式断面図である。
【図8】好適な実施形態に係る太陽電池の模式断面図である。
【図9】第1実施形態に係る光センサの模式断面図である。
【図10】第2実施形態に係る光センサの模式断面図である。
【図11】第3実施形態に係る光センサの模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0023】
[多環縮環重合体]
まず、好適な実施形態に係る多環縮環重合体について説明する。好適な実施形態の多環縮環重合体は、上記式(1)で表される構造単位を有するものである。ここで、多環縮環重合体の「構造単位」とは、当該重合体の主鎖を構成している構造単位を意味する。また、「重合体」とは、かかる「構造単位」を少なくとも2つ有するものをいい、通常オリゴマーやポリマーに分類されるものの両方を含む。
【0024】
以下、式(1)で表される構造単位の好適な構成について説明する。まず、一般式(1)におけるX1及びX2は、それぞれ独立に、酸素原子、硫黄原子又はセレン原子であり、硫黄原子であると好ましい。また、X1及びX2が同じ原子であると、多環縮環重合体の製造が容易になるので好ましく、両方が硫黄原子であると、特に高い電荷輸送性が得られることから更に好ましい。
【0025】
また、R1及びR2としては、溶媒への溶解性が高くなるので、直鎖状、分岐状若しくは環状の炭素数1〜30のアルキル基、及び、直鎖状、分岐状若しくは環状の炭素数1〜30のアルキル基を含む非アルキル基が好ましい。ここで、直鎖状、分岐状若しくは環状の炭素数1〜30のアルキル基を含む非アルキル基とは、アルキル基以外の置換基であって、その構造中に直鎖状、分岐状若しくは環状の炭素数1〜30のアルキル基を有している基であり、以下、同様の表現は同様の意味である。R1又はR2の少なくとも一方は、直鎖状、分岐状若しくは環状の炭素数1〜30のアルキル基を含む非アルキル基であることが好ましく、直鎖状、分岐状若しくは環状の炭素数1〜30のアルコキシ基、又は、直鎖状、分岐状若しくは環状の炭素数1〜30のアルキルチオ基であることがより好ましく、直鎖状、分岐状若しくは環状の炭素数1〜30のアルキルチオ基であることがさらに好ましい。これらにより、多環縮合環重合体による分子間の相互作用が高められ、より高い電荷輸送性が得られる傾向にある。R1及びR2の両方が直鎖状、分岐状若しくは環状の炭素数1〜30のアルキルチオ基であると、多環縮環重合体の製造が容易となる。
【0026】
また、R1及びR2において、直鎖状、分岐状若しくは環状の炭素数1〜30のアルキル基、及び、直鎖状、分岐状若しくは環状の炭素数1〜30のアルキル基を含む非アルキル基のアルキル基としては、直鎖状、分岐状若しくは環状の炭素数3〜24のアルキル基が好ましく、直鎖状若しくは分岐状の炭素数6〜20のアルキル基がより好ましい。ただし、分子間の配列をよくするためには、直鎖状のアルキル基が好ましい一方、有機溶媒への溶解性を高くするためには、分岐状のアルキル基が好ましく、これらは所望とする特性に応じて選択することができる。なお、R1及びR2が同じ基であると、多環縮環重合体の製造が容易となるため、より好ましい。
【0027】
アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基、3−メチルブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、3,7−ジメチルオクチル基、3,7,11−トリメチルドデシル基が挙げられる。これらのアルキル基は、水素原子の一部又は全部がハロゲン原子で置換されていてもよく、置換されるハロゲン原子としては、フッ素原子が好ましい。
【0028】
また、アルキル基を含む非アルキル基とは、アルキル基及び炭素原子以外の原子を含む基、並びにアルキル基及び不飽和結合を含む基をいう。アルキル基を含む非アルキル基の炭素数は、1〜30であると好ましく、3〜24であるとより好ましく、6〜20であると更に好ましい。アルキル基を含む非アルキル基としては、例えば、アルコキシ基、アルキルチオ基、アルキル−アルケニル基、アルキル−アルキニル基、アルキルフェニル基、アルコキシフェニル基、アルキルチオフェニル基、アルコキシカルボニル基、アルキルチオカルボニル基、アルキルシリル基及びアルキルアミノ基が挙げられる。なかでも、アルコキシ基、アルキルチオ基が好ましく、アルキルチオ基がより好ましい。なお、非アルキル基に含まれるアルキル基としては、上記と同様のものが例示できる。
【0029】
炭素数6〜60のアリール基は、置換基を有する置換アリール基であってもよい。当該アリール基が置換アリール基である場合、炭素数6〜60のアリール基が有している置換基の炭素数は1〜20であることが好ましく、その置換基の数は、1〜4個であるとより好ましい。アリール基としては、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基や、それらにおける水素原子の少なくとも一つが炭素数1〜12のアルキル基で置換されたものが挙げられる。例えば、フェニル基における水素原子の少なくとも一つが炭素数1〜12のアルコキシ基で置換された置換フェニル基、フェニル基における水素原子の少なくとも一つが炭素数1〜12のアルキル基で置換された置換フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基等が例示できる。なかでも、炭素数6〜20のアリール基が好ましく、フェニル基における水素原子の少なくとも一つが炭素数1〜12のアルコキシ基で置換された置換フェニル基、及びフェニル基における水素原子の少なくとも一つが炭素数1〜12のアルキル基で置換された置換フェニル基が更に好適である。
【0030】
炭素数3〜60の複素環基は、縮環構造と一つの結合手にて結合している1価の複素環基であると好ましい。複素環基は、置換基を有する置換複素環基であってもよい。当該複素環基が置換複素環基である場合、炭素数3〜60の複素環基が有している置換基の炭素数は1〜20であると好ましく、その置換基の数は、1〜4個であるとより好ましい。複素環基としては、チエニル基、ピロリル基、フリル基、ピリジル基や、それらにおける水素原子の少なくとも一つが炭素数1〜12のアルキル基で置換されたものが挙げられる。例えば、チエニル基における水素原子の少なくとも一つが炭素数1〜12のアルキル基で置換された置換チエニル基、ピロリル基、フリル基、ピリジル基、ピリジル基における水素原子の少なくとも一つが炭素数1〜12のアルキル基で置換された置換ピリジル基等が例示できる。なかでも、炭素数3〜20の1価の複素環基が好ましく、チエニル基、チエニル基における水素原子の少なくとも一つが炭素数1〜12のアルキル基で置換された置換チエニル基、ピリジル基、及び、ピリジル基における水素原子の少なくとも一つが炭素数1〜12のアルキル基で置換された置換ピリジル基がより好ましい。なお、複素環基とは、環状構造を有する有機基において、環を構成する少なくとも1つの原子がヘテロ原子である基をいうものとする。
【0031】
R3及びR4で表される1価の基としては、アルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、フルオロアルキル基、フルオロアルコキシ基、フルオロアルキルチオ基、アリール基、アリールアミノ基、1価の複素環基等が挙げられる。これらの1価の基は、置換基を更に有するものであってもよい。R3及びR4で表される1価の基としてのアルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリール基、1価の複素環基としては、上述したR1及びR2についてそれらの基として例示したものと同じ基が挙げられる。また、フルオロアルキル基、フルオロアルコキシ基、フルオロアルキルチオ基としては、上記アルキル基、上記アルコキシ基、上記アルキルチオ基における一つ以上の水素原子がフッ素原子で置換されたものが、さらに、アリールアミノ基としては、上記アリール基にアミノ基が置換したものが挙げられる。R3及びR4で表される1価の基としては、なかでも、アルキル基、アルコキシ基、フルオロアルキル基、フルオロアルコキシ基、アリール基、アリールアミノ基が好ましく、アルキル基、アリール基が更に好ましい。s、t、m及びnのいずれかが2である場合、R3、R4は分子中に複数含まれることになるが、その場合、複数のR3、R4は、それぞれ同一でも異なっていてもよい。ただし、多環縮環重合体の製造が容易になるので、R3同士、R4同士、又は、R3とR4との組み合わせは、同じ基であることが好ましい。
【0032】
また、s及びtは、1又は2であることが好ましい。これにより、溶媒への溶解性がさらに高められる。
【0033】
R0で表される1価の基としては、アルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、フルオロアルキル基、フルオロアルコキシ基、フルオロアルキルチオ基、アリール基、アリールアミノ基、1価の複素環基等が挙げられる。なかでも、アルキル基、アルコキシ基、フルオロアルキル基、フルオロアルコキシ基、アリール基、アリールアミノ基が好ましく、アルキル基、アリール基が更に好ましい。R0で表される1価の基におけるこれらの基としても、R3及びR4についてそれらの基として例示したものと同じ基が挙げられる。また、R0で表される1価の基も、R3及びR4で表される1価の基の場合と同様、その構造に応じて置換基を更に有するものであってもよい。rは、0〜2の整数であり、0または2であると好ましい。
【0034】
式(1)において、m及びnはそれぞれ独立に0〜2の整数であるが、m+nが0、1、2又は4となる組み合わせであると好ましく、m+nが0であると特に好ましい。これらの条件を満たす場合、多環縮環重合体の電荷移動度がより高くなる傾向にある。
【0035】
好適な実施形態の多環縮環重合体は、上述した式(1)で表される構造単位に加えて、上記の式(3)で表される構造単位を更に有していると好ましい。式(3)で表される構造単位を適切に含むことで、溶媒への溶解性や、機械的、熱的又は電子的特性を広い範囲で変化させることが可能となり、所望とする特性が得られ易くなる。
【0036】
この場合、多環縮環重合体は、式(1)で表される構造単位と、式(3)で表される構造単位との含有割合が、前者100モルに対して後者10〜1000モルであると好ましく、前者100モルに対して後者25〜400モルであるとより好ましく、前者100モルに対して後者50〜200モルであると更に好ましい。これらの条件を満たすと、高い電荷移動度が得られるとともに上記の各特性を高めることが一層容易となる。
【0037】
式(3)中、Ar1は、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい複素環基であり、両隣の構造単位とそれぞれ単結合を介して結合することで合計2つの結合手を有している2価の芳香族炭化水素基又は2価の複素環基であると好ましい。ここで、2価の芳香族炭化水素基とは、ベンゼン環又は多環縮環から水素原子2個を除いた残りの原子団をいう。2価の芳香族炭化水素基は、炭素数6〜60であると好ましく、炭素数6〜20であるとより好ましい。多環縮環としては、例えば、ナフタレン環、アントラセン環、テトラセン環、ペンタセン環、ピレン環、ペリレン環、フルオレン環が挙げられる。
【0038】
2価の芳香族炭化水素基は、置換基を有していてもよい。この場合、上述した好適な2価の芳香族炭化水素基の炭素数には、置換基の炭素数は含まれないこととする。置換基としては、ハロゲン原子、飽和若しくは不飽和炭化水素基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、1価の複素環基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基等が挙げられる。これらの置換基としての飽和炭化水素基としては、上述したR1及びR2におけるアルキル基として例示したものと同じ基が挙げられ、不飽和炭化水素基としては、ビニル基、1−プロペニル基、アリル基、プロパルギル基、イソプロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基等が挙げられ、ビニル基が好ましい。また、アリール基、アルコキシ基、1価の複素環基としては、R1及びR2についてそれらの基として例示したものと同じ基がそれぞれ挙げられ、アリールオキシ基としては、オキシ基(−O−)に同様のアリール基が結合したものが挙げられる。
【0039】
また、2価の複素環基とは、複素環式化合物から水素原子2個を除いた残りの原子団をいう。2価の複素環基は、炭素数は3〜60であると好ましく、3〜20であるとより好ましい。ここで、複素環式化合物とは、環式構造をもつ有機化合物のうち、環を構成する原子が炭素原子だけでなく、酸素原子、硫黄原子、窒素原子、リン原子、ホウ素原子、ケイ素原子等のヘテロ原子を環内に含むものをいう。複素環式化合物としては、チオフェン、チエノチオフェン、ジチエノチオフェン、チオフェン環が4又は5個縮環した化合物、ベンゾチオフェン、ベンゾジチオフェン、ジベンゾチオフェン、シクロペンタジチオフェン、ピロール、ピリジン、ベンゾチアジアゾール、ピリミジン、ピラジン、トリアジンが挙げられ、チオフェン、チエノチオフェン、ジチエノチオフェン、シクロペンタジチオフェン、ベンゾチアジアゾールが好ましい。
【0040】
2価の複素環基も置換基を有していてよいが、上述した2価の複素環基の炭素数には、置換基の炭素数は含まれない。置換基としては、ハロゲン原子、飽和若しくは不飽和炭化水素基、アリール基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールオキシ基、1価の複素環基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基等が挙げられる。これらの置換基としては、上述した2価の芳香族炭化水素基が有していてもよい置換基と同じものが挙げられる。
【0041】
2価の芳香族炭化水素基又は2価の複素環基としては、ベンゼン環、ペンタセン環、ピレン環又はフルオレン環から水素原子2個を除いた残りの原子団からなる基が特に好ましい。
【0042】
式(3)で表される構造単位におけるAr1で表される基としては、上記式(4)で表される基が特に好ましい。多環縮環重合体がこのような基を構造単位中に含んでいると、より優れた溶媒への溶解性や電荷輸送性が得られ易くなる。
【0043】
式(4)中のZ1としては、上記式(i)〜(ix)で表される基のうちのいずれかの基が好ましく、式(ii)、(vii)で表される基のうちのいずれかの基がより好ましく、式(ii)で表される基が特に好ましい。Z1が式(i)、(ii)又は(ix)で表される基である場合、式(4)で表される基はそれぞれチオフェン環、フラン環又はピロール環の構造を有する。これらの環、特にチオフェン環は、好適な電気的性質を示すため、種々の電気的特性を発揮することが可能となる。
【0044】
また、R5〜R10は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子又は1価の基であるが、R5とR6、又は、R7とR8が1価の基である場合は、これらは互いに結合して環を形成していてもよい。R5〜R10で表される1価の基としては、直鎖状若しくは分岐状の低分子鎖を有する基及び1価の環状基が好ましい。なお、1価の環状基は、単環及び縮合環のどちらでもよく、炭化水素環及び複素環のどちらでもよく、飽和環及び不飽和環のどちらでもよく、さらに置換基を有していてもよい。これらの1価の基は、電子供与基であっても電子吸引基であってもよい。
【0045】
なかでも、R5〜R10の1価の基としては、低分子鎖の炭素数が1〜20である低分子鎖を有する基、環状基の構成原子数が3〜60である環状基が好ましい。具体的には、飽和若しくは不飽和炭化水素基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アシルオキシ基(IUPAC名:アルカノイルオキシ基)、アミノ基、オキシアミノ基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アシルアミノ基(IUPAC名:アルカノイルアミノ基)、シアノ基、ニトロ基、スルホ基、1個以上のハロゲン原子で水素原子が置換されたアルキル基、アルコキシスルホニル基(ただし、アルキル部分に含まれる水素原子の1個以上は、ハロゲン原子で置換されてもよい)、アルキルスルホニル基(ただし、アルキル部分に含まれる水素原子の1個以上は、ハロゲン原子で置換されてもよい)、スルファモイル基、アルキルスルファモイル基、カルボキシル基、カルバモイル基、アルキルカルバモイル基、アシル基、アルコキシカルボニル基がより好ましい。
【0046】
上述した1価の基のうち、飽和炭化水素基(すなわち、アルキル基)としては、炭素数1〜20の飽和炭化水素基が好ましい。例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基又はtert−ブチル基が好ましい。また、上述した1価の基のうち、アルキル基を構造中に含む基(アルコキシ基、アルキルアミノ基、アルコキシカルボニル基等)におけるアルキル基としても、上記アルキル基と同様の基が好ましい。
【0047】
不飽和炭化水素基としては、炭素数1〜20の不飽和炭化水素基が好ましい。例えば、ビニル基、1−プロペニル基、アリル基、プロパルギル基、イソプロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基等が挙げられ、ビニル基が好ましい。
【0048】
アシル基(IUPAC名:アルカノイル基)としては、炭素数1〜20のアシル基が好ましい。好ましいアシル基としては、RC(=O)−で表される基(Rは、水素原子又はアルキル基)が挙げられる。その場合、アシル基の炭素数にはカルボニル炭素も含まれる。例えば、ホルミル基(IUPAC名:メタノイル基)は、炭素数1のアルカノイル基である。アシル基としては、ホルミル基(IUPAC名:メタノイル基)、アセチル基(IUPAC名:エタノイル基)、プロピオニル基(IUPAC名:プロパノイル基)、イソブチリル基(IUPAC名:イソブチロイル基)、バレリル基(IUPAC名:ペンタノイル基)、イソバレリル基(IUPAC名:3−メチルブタノイル基)等が挙げられる。また、アシル基を構造中に含む基(アシルオキシ基、アシルアミノ基等)におけるアシル基も同様である。好ましいアシル基としては、ホルミル基、アセチル基が挙げられる。さらに、ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。
【0049】
上述した構造を有する本実施形態の多環縮環重合体としては、式(9)〜(21)で表される構造を有するものが好適である。なお、式(9)〜(21)中の各符号を有する基は、いずれも上記で説明した同一符号の基と同義である。またAr11は、Ar1と同義であって、これらと同じ基であっても異なる基であっていてもよい。k及びk’は、0〜6の整数であり、0〜2の整数が好ましい。さらに、下記構造中、同一の符号が複数存在することになる場合、同一符号の基同士はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0050】
【化7】
【化8】
【0051】
【化9】
【化10】
【0052】
【化11】
【化12】
【0053】
【化13】
【化14】
【0054】
【化15】
【化16】
【0055】
【化17】
【化18】
【化19】
【0056】
多環縮環重合体の末端基としては、水素原子、フッ素原子、アルキル基、アルコキシ基、アシル基、アミノケト基、アリール基、1価の複素環基(これらの基に結合している水素原子の一部又は全部はフッ素原子と置換されていてもよい)、α−フルオロケトン構造を有する基や、その他の電子供与基及び電子吸引基等が挙げられる。なかでも、アルキル基、アルコキシ基、アリール基及び1価の複素環基が好ましい。また、末端基は、主鎖の共役構造と連続した共役結合を有するものも好ましい。このような末端基としては、例えば、主鎖と炭素−炭素結合を介して結合したアリール基及び1価の複素環基が挙げられる。なお、これらの末端基としてのアルキル基、アルコキシ基、アリール基、1価の複素環基としては、上述したR1及びR2についてそれらの基として例示したものと同じ基が挙げられ、アシル基としては、上述したR5〜R10におけるアシル基と同じ基が挙げられる。
【0057】
さらに、多環縮環重合体の末端基としては、重合活性基も挙げられる。末端基として重合活性基を有している場合、その多環縮環重合体は、更に高分子量の多環縮環重合体を得るための前駆体として用いることもできる。このような前駆体として用いる場合、多環縮環重合体は、分子内に2つの重合活性基を有していることが好ましい。
【0058】
重合活性基としては、ハロゲン原子、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アルキルスルホネート基、アリールスルホネート基、アリールアルキルスルホネート基、スズ原子に1〜3つのアルキル基が結合したアルキルスタニル基、スズ原子に1〜3つのアリール基が結合したアリールスタニル基、スズ原子に1〜3つのアリールアルキル基が結合したアリールアルキルスタニル基、ホウ酸エステル残基、スルホニウムメチル基、ホスホニウムメチル基、ホスホネートメチル基、モノハロゲン化メチル基、ホウ酸残基(−B(OH)2で表される基)、ホルミル基、ビニル基等が例示される。これらの重合活性基中に含まれるアルキル基、アルコキシ基、アリール基としては、上述したR1及びR2についてそれらの基として例示したものと同じ基が挙げられる。重合活性基としては、なかでも、ハロゲン原子、アルキルスタニル基、ホウ酸エステル基が好ましい。ここで、ホウ酸エステル残基とは、ホウ酸エステルにおけるホウ素原子が有する結合手の1つが置換用の結合手に置き換えられた構造を有する1価の基であり、式(100a)〜(100d)で表される基が挙げられる。
【化20】
【0059】
なお、多環縮環重合体を有機薄膜として用いる場合、末端基として重合活性基がそのまま残っていると、有機薄膜素子を形成したときの特性や耐久性が低下するおそれがあることから、重合活性基は安定な基で保護するようにしてもよい。
【0060】
多環縮環重合体としては、式(22)〜(37)で表される構造を有するものが、より高い電荷移動度及び優れた溶媒への溶解性を両立させ得ることから特に好適である。
【化21】
【化22】
【0061】
【化23】
【化24】
【0062】
【化25】
【化26】
【0063】
【化27】
【化28】
【0064】
【化29】
【化30】
【0065】
【化31】
【化32】
【0066】
【化33】
【化34】
【0067】
【化35】
【化36】
【0068】
式(22)〜(37)中、R10及びR11は、それぞれ独立に、上述した末端基を示す。なかでも、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、1価の複素環基が好ましい。Rは、水素原子または1価の基を示し、かかる1価の基としては、R3及びR4としての1価の基と同じ基が例示できる。また、pは2以上の整数を示し、qはq=p−1を満たす整数である。p及びqは、多環縮環重合体を用いた有機薄膜の形成方法に応じて選ぶことができる。すなわち、多環縮環重合体が昇華性を有しているのであれば、真空蒸着法等の気相成長法を用いて有機薄膜にすることができることから、この場合、p及びqは2〜10が好ましく、2〜5がさらに好ましい。一方、多環縮環重合体を有機溶媒に溶解させた溶液を塗布する方法により有機薄膜を形成する場合、p及びqは、それぞれ独立に、3〜500が好ましく、6〜300がより好ましく、20〜200がさらに好ましい。
【0069】
上述した多環縮環重合体は、塗布により有機薄膜を形成したときの膜の均一性が向上するので、ポリスチレン換算の数平均分子量が、1×103〜1×108であると好ましく、1×103〜1×106であるとより好ましく、5×103〜1×105であるとさらに好ましい。
【0070】
[多環縮環重合体の製造方法]
上述した構造を有する多環縮環重合体の製造方法としては、以下に示すように多環縮環化合物を重合させる方法が簡便であるため、特に好ましい。以下の例では、上記式(1)で表される構造単位と、上記式(3)で表される構造単位とを備えた構造を有する多環縮環重合体の好適な製造方法について説明する。
【0071】
すなわち、本実施形態の多環縮環重合体は、式(1)で表される構造単位を形成するための多環縮環化合物と、式(3)で表される構造単位を形成するための原料モノマーとを反応させて重合体を形成することにより得ることができる。
【0072】
式(1)で表される構造単位を形成するための多環縮環化合物としては、上記式(5)で表される多環縮環化合物においてY1及びY2が重合活性基である多環縮環化合物が好適である。さらに、式(3)で表される構造単位を形成するためのモノマー化合物としては、式(38)で表される化合物が好適である。なお、これらの多環縮環化合物やモノマー化合物としては、それぞれ複数種を組み合わせて用いてもよい。
【化37】
【0073】
ここで、式(5)において、上述した「多環縮環重合体」で説明したのと同じ符号は、いずれも上記と同義である。Y1及びY2は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜30のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数6〜60のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数4〜60の複素環基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アルキルスルホネート基、アリールスルホネート基、アリールアルキルスルホネート基、アルキルスタニル基、アリールスタニル基、アリールアルキルスタニル基、ホウ酸エステル残基、スルホニウムメチル基、ホスホニウムメチル基、ホスホネートメチル基、モノハロゲン化メチル基、ホウ酸残基、ホルミル基、ビニル基等が挙げられる。これらのうち、Y1及びY2としてのアルキル基、アリール基、複素環基としては、上述したR1及びR2についてそれらの基として例示したものと同じ基が挙げられ、その他の基としては、上述した重合活性基において例示したものと同じ基が挙げられる。
【0074】
式(38)におけるAr1は、式(3)におけるAr1と同じである。また、Y2及びY3としては、それぞれ独立に、上記Y1及びY2と同じ基が挙げられる。
【0075】
また、本実施形態の多環縮環重合体は、例えば、上記式(7)で表される多環縮環化合物においてY5及びY6が重合活性基であるものを重合することによって得ることもできる。式(7)で表される多環縮環化合物は、モノマーの状態で式(3)で表される構造単位に相当する構造を含むものである。そのため、式(7)で表される多環縮環化合物を重合することで、式(1)で表される構造単位及び式(3)で表される構造単位を含む多環縮環重合体が得られる。
【0076】
また、式(7)において、上述した「多環縮環重合体」で説明したのと同じ符号は、いずれも上記と同義である。Y5及びY6は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数6〜60のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数4〜60の1価の複素環基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アルキルスルホネート基、アリールスルホネート基、アリールアルキルスルホネート基、アルキルスタニル基、アリールスタニル基、アリールアルキルスタニル基、ホウ酸エステル残基、スルホニウムメチル基、ホスホニウムメチル基、ホスホネートメチル基、モノハロゲン化メチル基、ホウ酸残基、ホルミル基、又はビニル基を示す。Y5及びY6におけるこれらの基としては、Y1及びY2についてそれらの基として例示したものと同じ基が挙げられる。なお、アルキル基は、直鎖状、分岐状及び環状のいずれであってもよい。
【0077】
さらに、式(7)において、Ar2及びAr3は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい複素環基を示す。これらの芳香族炭化水素基又は複素環基としては、上記Ar1として例示したものと同じ基が挙げられる。特に、式(7)においては、Ar2及びAr3の少なくとも一方は置換基を有していてもよい複素環基であると好適である。この場合、分子間のヘテロ原子同士の相互作用により、π−πスタック構造をとりやすくなる。
【0078】
多環縮環化合物やモノマー化合物を多環縮環重合体の原料として用いる場合には、Y1、Y2、Y3、Y4、Y5及びY6は、上述したような重合活性基であると好ましい。これにより、多環縮環化合物やモノマー化合物の反応性が高められる。なかでも、ハロゲン原子、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アルキルスルホネート基、アリールスルホネート基、アリールアルキルスルホネート基、アルキルスタニル基、ホウ酸エステル残基、ホウ酸残基が好ましい。
【0079】
多環縮環重合体は、上述した多環縮環化合物とモノマー化合物との間や多環縮環化合物同士で結合を生じる反応を繰り返し生じさせることにより合成することができる。これらの化合物同士で結合を生じさせる反応としては、Wittig反応、Heck反応、Horner−Wadsworth−Emmons反応、Knoevenagel反応、鈴木カップリング反応、Grinard反応、Stille反応や、Ni(0)触媒を用いた重合反応等が挙げられる。その他、適当な脱離基を有する中間体化合物の分解による反応も適用でき、スルホニウム基を有する中間体化合物からポリ(p−フェニレンビニレン)を合成する方法が挙げられる。Y1、Y2、Y3、Y4、Y5及びY6で表される基の組み合わせは、目的とする反応に応じて選択することができる。
【0080】
上述した多環縮環重合体の合成方法のなかでも、Wittig反応を用いる方法、Heck反応を用いる方法、Horner−Wadsworth−Emmons反応を用いる方法、Knoevenagel反応を用いる方法、Suzukiカップリング反応を用いる方法、Grignard反応を用いる方法、Stille反応を用いる方法、又はNi(0)触媒を用いる方法が、多環縮環重合体の構造を制御し易いことから好ましい。特に、Suzukiカップリング反応を用いる方法、Grignard反応を用いる方法、Stille反応を用いる方法、Ni(0)触媒を用いる方法が、原料を入手しやすく、また反応操作も簡便であるためより好ましい。
【0081】
多環縮環重合体の合成反応は、例えば、原料である多環縮環化合物やモノマー化合物を、必要に応じて有機溶媒に溶解した後、必要に応じてアルカリや適当な触媒の存在下、有機溶媒の融点以上沸点以下の温度で反応させることにより行うことができる。
【0082】
このような反応においては、用いる化合物や反応の種類によっても異なるが、一般に副反応を抑制するために、有機溶媒として十分に脱酸素処理が施されたものを用いることが好ましく、脱水処理が施された溶媒を用いることも好適である(ただし、Suzukiカップリング反応のような水との2相系での反応の場合にはその限りではない)。また、反応は、不活性雰囲気下で進行させることが好ましい。
【0083】
反応に用いる溶媒としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン等の飽和炭化水素、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン等の不飽和炭化水素、四塩化炭素、クロロホルム、ジクロロメタン、クロロブタン、ブロモブタン、クロロペンタン、ブロモペンタン、クロロヘキサン、ブロモヘキサン、クロロシクロヘキサン、ブロモシクロヘキサン等のハロゲン化飽和炭化水素、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン等のハロゲン化不飽和炭化水素、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、tert−ブチルアルコール等のアルコール類、蟻酸、酢酸、プロピオン酸等のカルボン酸類、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチル−tert−ブチルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、ジオキサン等のエーテル類、塩酸、臭化水素酸、フッ化水素酸、硫酸、硝酸等の無機酸等が挙げられる。上記溶媒は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0084】
また、上述したアルカリや適当な触媒を添加することによって、多環縮環重合体の合成反応を効率よく生じさせることができる。アルカリや触媒は、生じさせる反応に応じて選択すればよい。アルカリや触媒としては、反応に用いる溶媒に十分に溶解するものが特に好ましい。
【0085】
多環縮環重合体からなる有機薄膜を有機薄膜素子に用いる場合、多環縮環重合体の純度が素子特性に影響を与える傾向にある。そのため、反応前の多環縮環化合物やモノマー化合物は、蒸留、昇華精製、再結晶等の方法によって精製した後に反応させることが好ましい。また多環縮環重合体を合成した後は、再沈精製、クロマトグラフィーによる分別等の純化処理を行うことが好ましい。
【0086】
反応後、多環縮環重合体は、水を用いて反応を停止させた後に有機溶媒による抽出を行い、更に溶媒を留去する等の通常の後処理で得ることができる。多環縮環重合体の単離及び精製は、クロマトグラフィーによる分取や再結晶等の方法により行うことができる。
【0087】
上述した多環縮環重合体の製造に用いる多環縮環化合物は、例えば、下記スキームによって表される反応によって得ることができる。下記の例では、式(5)で表される多環縮環化合物を製造する工程を示す。下記スキーム中、m及びnは上記と同義であり、Xは上述したX1及びX2と同義であり、Yは上述したY1及びY2と同義であり、さらに、環に結合している−S−Rで表される基は、上述したR1及びR2として示されたアルキルチオ基と同様のものである。なお、多環縮環化合物は、以下のような方法によって好適に得られるが、その他の方法によって製造してもよい。
【化38】
【化39】
【0088】
このような多環縮環化合物を生成する反応においては、反応性の高い官能基を保護するため、その官能基をその後の反応では不活性な官能基(保護基)で変換する工程や、さらに反応の終了後に保護基を外す工程を更に行ってもよい。保護基は、保護すべき官能基や用いる反応等に応じて選択することができる。例えば、活性水素の保護にはトリメチルシリル(TMS)、トリエチルシリル(TES)、tert−ブチルジメチルシリル(TBS又はTBDMS)、トリイソプロピルシリル(TIPS)、tert−ブチルジフェニルシリル(TBDPS)等を適用できる。
【0089】
また、上記の多環縮環化合物を合成する反応では、式中に示されるように、必要に応じて適切な溶媒を用いることができる。溶媒としては、なるべく目的の反応を阻害しないものであることが好ましい。溶媒としては、ヘキサン等の脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素、アセトニトリル等のニトリル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン等のエーテル、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、四塩化炭素等のハロゲン化溶媒等が挙げられ、ジクロロメタンが好ましい。これらは、単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0090】
なお、上述した多環縮環重合体、及び、その原料である多環縮環化合物の合成における反応条件や用いる反応試薬等は、上記で例示したもの以外も選択して用いることが可能である。
【0091】
また、上述した多環縮環化合物は、それ自体が高い電荷輸送性を有することもあるため、そのまま電荷輸送性材料として用いることができる場合がある。特に、式(7)で表される化合物は、高い電荷輸送性を示す傾向にある。式(7)で表される化合物のうち、電荷輸送性材料として好適な化合物としては、式(38)〜(45)で表される構造を有するものが挙げられる。なお、式(38)〜(45)中、上述されたものと同じ符号が付された基は、いずれも上記と同義である。R12及びR13は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基又は1価の複素環基を示し、なかでもアルキル基が好ましい。R12及びR13としてのアルキル基、アルコキシ基、アリール基又は1価の複素環基としては、上述したR1及びR2についてそれらの基として例示したものと同じ基が挙げられる。
【0092】
【化40】
【0093】
【化41】
【0094】
【化42】
【0095】
【化43】
【0096】
[有機薄膜]
次に、好適な実施形態に係る有機薄膜について説明する。有機薄膜は、上述した実施形態の多環縮環重合体又は多環縮環化合物を含み、膜状の形状を有する構成を有している。
【0097】
有機薄膜の好適な厚さは、当該有機薄膜を適用する素子に応じて異なるが、1nm〜100μmの範囲であると好ましく、2nm〜1000nmであるとより好ましく、5nm〜500nmであると更に好ましく、20nm〜200nmであると特に好ましい。
【0098】
有機薄膜は、本発明の多環縮環重合体又は多環縮環化合物の1種類を単独で含むものであってもよく、また多環縮環重合体又は多環縮環化合物の2種類以上を含むものであってもよい。また、有機薄膜の電子輸送性又はホール輸送性を高めるため、多環縮環重合体又は多環縮環化合物以外に電子輸送性又はホール輸送性を有した低分子化合物又は高分子化合物を混合して用いることもできる。有機薄膜が、多環縮環重合体又は多環縮環化合物以外の成分を含む場合は、良好な電荷移動度となるので、多環縮環重合体又は多環縮環化合物を30質量%以上含むことが好ましく、50質量%以上含むことがより好ましい。
【0099】
ホール輸送性を有する化合物としては、ピラゾリン誘導体、アリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、トリフェニルジアミン誘導体、オリゴチオフェン及びその誘導体、ポリビニルカルバゾール及びその誘導体、ポリシラン及びその誘導体、側鎖若しくは主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体、ポリアニリン及びその誘導体、ポリチオフェン及びその誘導体、ポリピロール及びその誘導体、ポリフェニレンビニレン及びその誘導体、ポリチエニレンビニレン及びその誘導体が例示できる。
【0100】
また、電子輸送性を有する化合物としては、オキサジアゾール誘導体、アントラキノジメタン及びその誘導体、ベンゾキノン及びその誘導体、ナフトキノン及びその誘導体、アントラキノン及びその誘導体、テトラシアノアンスラキノジメタン及びその誘導体、フルオレノン誘導体、ジフェニルジシアノエチレン及びその誘導体、ジフェノキノン誘導体、8−ヒドロキシキノリン及びその誘導体の金属錯体、ポリキノリン及びその誘導体、ポリキノキサリン及びその誘導体、ポリフルオレン及びその誘導体、C60等のフラーレン類及びその誘導体が例示できる。
【0101】
有機薄膜は、その特性を向上させるために、その他の成分を含有していてもよい。その他の成分としては、電荷発生材料が挙げられる。有機薄膜が電荷発生材料を含むことで、当該薄膜が光を吸収して電荷を発生するようになり、光の吸収による電荷発生を要する光センサ等の用途に好適となる。
【0102】
電荷発生材料としては、アゾ化合物及びその誘導体、ジアゾ化合物及びその誘導体、無金属フタロシアニン化合物及びその誘導体、金属フタロシアニン化合物及びその誘導体、ペリレン化合物及びその誘導体、多環キノン系化合物及びその誘導体、スクアリリウム化合物及びその誘導体、アズレニウム化合物及びその誘導体、チアピリリウム化合物及びその誘導体、C60等のフラーレン類及びその誘導体等が挙げられる。
【0103】
また、有機薄膜は、種々の機能を発現させるために必要な材料を含んでいてもよい。例えば、吸収した光により電荷を発生させる機能を増感するための増感剤、安定性を増すための安定化剤、紫外(UV)光を吸収するためのUV吸収剤等が挙げられる。
【0104】
さらに、有機薄膜は、その機械的強度を高めることができるので、高分子化合物材料を高分子バインダーとして含有していてもよい。このような高分子バインダーとしては、電荷輸送性を過度に低下させないものが好ましく、また、可視光を過度に吸収しないものが好ましい。
【0105】
高分子バインダーとしては、ポリ(N−ビニルカルバゾール)、ポリアニリン及びその誘導体、ポリチオフェン及びその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)及びその誘導体、ポリ(2,5−チエニレンビニレン)及びその誘導体、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリシロキサン等が挙げられる。
【0106】
上述した有機薄膜は、例えば、以下の方法によって製造することができる。
【0107】
すなわち、有機薄膜は、多環縮環重合体又は多環縮環化合物、並びに、必要に応じて上述したその他の成分を溶媒に溶解させた溶液を、所定の基材上に塗布した後、溶媒を揮発させる等により除去することによって形成することができる。なお、多環縮環重合体又は多環縮環化合物が昇華性を有する場合は、真空蒸着法等の方法により有機薄膜を形成することもできる。
【0108】
溶媒としては、多環縮環重合体又は多環縮環化合物や、その他の成分を溶解又は均一に分散し得るものが好ましい。このような溶媒としては、トルエン、キシレン、メシチレン、テトラリン、デカリン、n−ブチルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒、四塩化炭素、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロブタン、ブロモブタン、クロロペンタン、ブロモペンタン、クロロヘキサン、ブロモヘキサン、クロロシクロヘキサン、ブロモシクロヘキサン等のハロゲン化飽和炭化水素系溶媒、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素系溶媒、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン等のエーテル類系溶媒が例示できる。多環縮環重合体又は多環縮環化合物は、溶媒に0.1質量%以上溶解させることが好ましい。
【0109】
溶液を塗布する方法としては、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェット印刷法、ディスペンサー印刷法等が挙げられる。なかでも、スピンコート法、フレキソ印刷法、インクジェット印刷法及びディスペンサー印刷法が好ましい。
【0110】
なお、有機薄膜に対しては、その用途に応じて有機薄膜中の多環縮環重合体又は多環縮環化合物を配向させる工程を更に施してもよい。かかる配向によって、有機薄膜中の多環縮環重合体又は多環縮環化合物の主鎖や側鎖が一定の方向に並ぶこととなり、有機薄膜の電荷輸送性が更に高められる。
【0111】
有機薄膜の配向方法としては、通常液晶等の配向に用いられる方法を適用することができる。具体的には、ラビング法、光配向法、シェアリング法(ずり応力印加法)、引き上げ塗布法が、簡便かつ有用であることから好ましく、ラビング法、シェアリング法がより好ましい。
【0112】
[有機薄膜素子]
上述した実施形態の有機薄膜は、上記実施形態の多環縮環重合体又は多環縮環化合物を含むことから、優れた電荷輸送性を有するものである。したがって、この有機薄膜は、電極等から注入された電子又はホール、或いは、光吸収により発生した電荷等を効率よく輸送できるものであり、有機薄膜を用いた各種の電気素子(有機薄膜素子)に応用することができる。なお、有機薄膜をこれらの有機薄膜素子に用いる場合は、配向処理により配向させて用いると、より高い電子輸送性又はホール輸送性が得られることから好ましい傾向にある。以下、有機薄膜素子の例についてそれぞれ説明する。
【0113】
(有機薄膜トランジスタ)
まず、好適な実施形態に係る有機薄膜トランジスタについて説明する。有機薄膜トランジスタは、ソース電極及びドレイン電極、これらの間の電流経路となり本発明の多環縮環重合体又は多環縮環化合物を含む活性層(すなわち、有機薄膜層)、電流経路を通る電流量を制御するゲート電極を備えた構造であればよく、電界効果型、静電誘導型などが例示される。
【0114】
電界効果型有機薄膜トランジスタは、ソース電極及びドレイン電極、これらの間の電流経路となり本発明の多環縮環重合体又は多環縮環化合物を含む活性層、電流経路を通る電流量を制御するゲート電極、並びに、活性層とゲート電極との間に配置される絶縁層を備えることが好ましい。特に、ソース電極及びドレイン電極が、本発明の多環縮環重合体又は多環縮環化合物を含む活性層に接して設けられており、さらに活性層に接した絶縁層を挟んでゲート電極が設けられていることが好ましい。
【0115】
一方、静電誘導型有機薄膜トランジスタは、ソース電極及びドレイン電極、これらの間の電流経路となり本発明の多環縮環重合体又は多環縮環化合物を含む活性層、並びに電流経路を通る電流量を制御するゲート電極を有し、ゲート電極が活性層中に設けられていることが好ましい。特に、ソース電極、ドレイン電極及び活性層中に設けられたゲート電極が、本発明の多環縮環重合体又は多環縮環化合物を含む活性層に接して設けられていることが好ましい。ゲート電極の構造としては、ソース電極からドレイン電極へ流れる電流経路が形成され、かつゲート電極に印加した電圧で電流経路を流れる電流量が制御できる構造であればよく、例えば、くし形電極が挙げられる。
【0116】
図1は第1実施形態に係る有機薄膜トランジスタ(電界効果型有機薄膜トランジスタ)の模式断面図である。図1に示す有機薄膜トランジスタ100は、基板1と、基板1上に所定の間隔を持って形成されたソース電極5及びドレイン電極6と、ソース電極5及びドレイン電極6を覆うようにして基板1上に形成された活性層2と、活性層2上に形成された絶縁層3と、ソース電極5とドレイン電極6との間の絶縁層3の領域を覆うように絶縁層3上に形成されたゲート電極4と、を備えるものである。
【0117】
図2は第2実施形態に係る有機薄膜トランジスタ(電界効果型有機薄膜トランジスタ)の模式断面図である。図2に示す有機薄膜トランジスタ110は、基板1と、基板1上に形成されたソース電極5と、ソース電極5を覆うようにして基板1上に形成された活性層2と、ソース電極5と所定の間隔を持って活性層2上に形成されたドレイン電極6と、活性層2及びドレイン電極6上に形成された絶縁層3と、ソース電極5とドレイン電極6との間の絶縁層3の領域を覆うように絶縁層3上に形成されたゲート電極4と、を備えるものである。
【0118】
図3は、第3の実施形態に係る有機薄膜トランジスタ(電界効果型有機薄膜トランジスタ)の模式断面図である。図3に示す有機薄膜トランジスタ120は、基板1と、基板1上に形成された活性層2と、活性層2上に所定の間隔を持って形成されたソース電極5及びドレイン電極6と、ソース電極5及びドレイン電極6を一部覆うようにして活性層2上に形成された絶縁層3と、ソース電極5が下部に形成されている絶縁層3の領域とドレイン電極6が下部に形成されている絶縁層3の領域とをそれぞれ一部覆うように、絶縁層3上に形成されたゲート電極4と、を備えるものである。
【0119】
図4は、第4実施形態に係る有機薄膜トランジスタ(電界効果型有機薄膜トランジスタ)の模式断面図である。図4に示す有機薄膜トランジスタ130は、基板1と、基板1上に形成されたゲート電極4と、ゲート電極4を覆うようにして基板1上に形成された絶縁層3と、ゲート電極4が下部に形成されている絶縁層3の領域を一部覆うように、絶縁層3上に所定の間隔を持って形成されたソース電極5及びドレイン電極6と、ソース電極5及びドレイン電極6を一部覆うように絶縁層3上に形成された活性層2と、を備えるものである。
【0120】
図5は、第5実施形態に係る有機薄膜トランジスタ(電界効果型有機薄膜トランジスタ)の模式断面図である。図5に示す有機薄膜トランジスタ140は、基板1と、基板1上に形成されたゲート電極4と、ゲート電極4を覆うようにして基板1上に形成された絶縁層3と、ゲート電極4が下部に形成されている絶縁層3の領域を一部覆うように絶縁層3上に形成されたソース電極5と、ソース電極5を一部覆うようにして絶縁層3上に形成された活性層2と、ゲート電極4が下部に形成されている活性層2の領域を一部覆うように、ソース電極5と所定の間隔を持って絶縁層3上に形成されたドレイン電極6と、を備えるものである。
【0121】
図6は、第6実施形態に係る有機薄膜トランジスタ(電界効果型有機薄膜トランジスタ)の模式断面図である。図6に示す有機薄膜トランジスタ150は、基板1と、基板1上に形成されたゲート電極4と、ゲート電極4を覆うようにして基板1上に形成された絶縁層3と、ゲート電極4が下部に形成されている絶縁層3の領域を覆うように形成された活性層2と、ゲート電極4が下部に形成されている活性層2の領域を一部覆うように絶縁層3上に形成されたソース電極5と、ゲート電極4が下部に形成されている活性層2の領域を一部覆うように、ソース電極5と所定の間隔を持って絶縁層3上に形成されたドレイン電極6と、を備えるものである。
【0122】
図7は、第7実施形態に係る有機薄膜トランジスタ(静電誘導型有機薄膜トランジスタ)の模式断面図である。図7に示す有機薄膜トランジスタ160は、基板1と、基板1上に形成されたソース電極5と、ソース電極5上に形成された活性層2と、活性層2上に所定の間隔を持って複数形成されたゲート電極4と、ゲート電極4の全てを覆うようにして活性層2上に形成された活性層2a(活性層2aを構成する材料は、活性層2と同一でも異なっていてもよい)と、活性層2a上に形成されたドレイン電極6と、を備えるものである。
【0123】
第1〜第7実施形態に係る有機薄膜トランジスタにおいては、活性層2及び/又は活性層2aは、本発明の多環縮環重合体又は多環縮環化合物を含有しており、ソース電極5とドレイン電極6の間の電流通路(チャネル)となる。また、ゲート電極4は、電圧を印加することにより活性層2及び/又は活性層2aにおける電流通路(チャネル)を通る電流量を制御する。
【0124】
このような電界効果型有機薄膜トランジスタは、公知の方法、例えば特開平5−110069号公報記載の方法により製造することができる。また、静電誘導型有機薄膜トランジスタは、公知の方法、例えば特開2004−006476号公報記載の方法により製造することができる。
【0125】
基板1としては、有機薄膜トランジスタとしての特性を阻害しなければよく、ガラス基板やフレキシブルなフィルム基板やプラスチック基板を用いることができる。
【0126】
活性層2を形成する際に、有機溶媒可溶性の化合物を用いることが製造上有利であり好ましいことから、上記で説明した有機薄膜の製造方法を用いて、活性層2となる有機薄膜を形成することができる。
【0127】
活性層2に接した絶縁層3としては、電気の絶縁性が高い材料であればよく、公知のものを用いることができる。例えば、SiOx、SiNx、Ta2O5、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルフェノール、有機ガラス及びフォトレジストが挙げられる。低電圧化できるので、誘電率の高い材料の方が好ましい。
【0128】
絶縁層3の上に活性層2を形成する場合は、絶縁層3と活性層2の界面特性を改善するため、シランカップリング剤等の表面処理剤で絶縁層3の表面を処理して表面改質した後に活性層2を形成することも可能である。表面処理剤としては、長鎖アルキルクロロシラン類、長鎖アルキルアルコキシシラン類、フッ素化アルキルクロロシラン類、フッ素化アルキルアルコキシシラン類、ヘキサメチルジシラザン等のシリルアミン化合物が挙げられる。表面処理剤で処理する前に、絶縁層表面をオゾンUV、O2プラズマで処理をしておくことも可能である。
【0129】
また、有機薄膜トランジスタの作製後には、素子を保護するために有機薄膜トランジスタ上に保護膜を形成することが好ましい。これにより、有機薄膜トランジスタが、大気から遮断され、有機薄膜トランジスタの特性の低下を抑えることができる。また、保護膜により有機薄膜トランジスタの上に駆動する表示デバイスを形成する工程からの影響を低減することができる。
【0130】
保護膜を形成する方法としては、UV硬化樹脂、熱硬化樹脂又は無機のSiONx膜でカバーする方法が挙げられる。大気との遮断を効果的に行うため、有機薄膜トランジスタを作製後、保護膜を形成するまでの工程を大気に曝すことなく(例えば、乾燥した窒素雰囲気中、真空中で)行うことが好ましい。
【0131】
(太陽電池)
次に、本発明の有機薄膜の太陽電池への応用を説明する。図8は、実施形態に係る太陽電池の模式断面図である。図8に示す太陽電池200は、基板1と、基板1上に形成された第1の電極7aと、第1の電極7a上に形成された本発明の多環縮環重合体又は多環縮環化合物を含む有機薄膜からなる活性層2と、活性層2上に形成された第2の電極7bと、を備えるものである。
【0132】
本実施形態に係る太陽電池においては、第1の電極7a及び第2の電極7bの一方に透明又は半透明の電極を用いる。電極材料としては、アルミニウム、金、銀、銅、アルカリ金属、アルカリ土類金属等の金属及びそれらの半透明膜、透明導電膜を用いることができる。高い開放電圧を得るためには、それぞれの電極として、仕事関数の差が大きくなるように選ばれることが好ましい。活性層2(有機薄膜)中には光感度を高めるために電荷発生剤、増感剤等を添加して用いることができる。基材1としては、シリコン基板、ガラス基板、プラスチック基板等を用いることができる。
【0133】
(光センサ)
次に、本発明の有機薄膜の光センサへの応用を説明する。図9は、第1実施形態に係る光センサの模式断面図である。図9に示す光センサ300は、基板1と、基板1上に形成された第1の電極7aと、第1の電極7a上に形成された本発明の多環縮環重合体又は多環縮環化合物を含む有機薄膜からなる活性層2と、活性層2上に形成された電荷発生層8と、電荷発生層8上に形成された第2の電極7bと、を備えるものである。
【0134】
図10は、第2実施形態に係る光センサの模式断面図である。図10に示す光センサ310は、基板1と、基板1上に形成された第1の電極7aと、第1の電極7a上に形成された電荷発生層8と、電荷発生層8上に形成された本発明の多環縮環重合体又は多環縮環化合物を含む有機薄膜からなる活性層2と、活性層2上に形成された第2の電極7bと、を備えるものである。
【0135】
図11は、第3実施形態に係る光センサの模式断面図である。図11に示す光センサ320は、基板1と、基板1上に形成された第1の電極7aと、第1の電極7a上に形成された本発明の多環縮環重合体又は多環縮環化合物を含む有機薄膜からなる活性層2と、活性層2上に形成された第2の電極7bと、を備えるものである。
【0136】
第1〜第3実施形態に係る光センサにおいては、第1の電極7a及び第2の電極7bの一方に透明又は半透明の電極を用いる。電荷発生層8は光を吸収して電荷を発生する層である。電極材料としては、アルミニウム、金、銀、銅、アルカリ金属、アルカリ土類金属等の金属及びそれらの半透明膜、透明導電膜を用いることができる。活性層2(有機薄膜)中には光感度を高めるためにキャリア発生剤、増感剤等を添加して用いることができる。また基材1としては、シリコン基板、ガラス基板、プラスチック基板等を用いることがきる。
【0137】
以上、本発明をその実施形態に基づいて詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。例えば、有機薄膜素子は、有機薄膜を適用した電気素子であれば上述した実施形態のものに限定されない。上記以外の有機薄膜素子としては、有機EL素子、有機メモリー、フォトリフラクティブ素子、空間光変調器、撮像素子等が挙げられる。
【実施例】
【0138】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0139】
(測定条件)
以下の合成例及び実施例において、各種の分析等は以下の条件で行った。まず、核磁気共鳴(NMR)スペクトルは、日本電子社製のJNM−GSX−400を用いて測定した。ガスクロマトグラフ−質量分析(GC−MS)は、島津製作所社製のQP−5050を用い、電子衝撃法により行った。高分解質量分析(HRMS)は、日本電子社製のJMS−DX−303を用いて行った。ガスクロマトグラフ(GC)分析は、島津製作所社製のGC−8Aにジーエルサイエンス社製のシリコンOV−17充填ガラスカラム(内径2.6mm、長さ1.5m)を装着して用いた。カラムクロマトグラフィー分離におけるシリカゲルは、和光純薬工業社製のワコーゲルC−200を用いた。分子量は、GPC測定装置(Waters製、Alliance GPC/V2000)を用い、カラム(TSKgel GMHHR−H(S)HT(東ソー製))を2本直列に接続し、カラム温度140℃にて、オルトジクロロベンゼン(流速1ml/分)の移動相で、示差屈折率検出器を用いて測定した。
【0140】
[実施例1]
<多環縮環化合物A:3,7−ビス(ドデシルチオ)ベンゾ[1,2−b;4,5−b]ジチオフェン−2,6−ジカルボン酸ブチルの合成>
まず、出発原料である2,6−ビス(ブトキシカルボニル)−3,7−ジクロロベンゾ[1,2−b;4,5−b’]ジチオフェンを、参考文献(Mitsuru Miyasaka, KojiHirano,Tetsuya Satoh, and Masahiro Miura, Adv. Synth. Catal. 2009, 351,2683)の記載を参照して合成した。100mLの二つ口反応器に2,6−ビス(ブトキシカルボニル)−3,7−ジクロロベンゾ[1,2−b;4,5−b’]ジチオフェン(1.4g,3.0mmol)、ドデカンチオール(1.3g,9.0mmol)、炭酸カリウム(1.7g,12.2mmol)、及び、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)(20mL)を加えて、窒素雰囲気下、80℃で12時間反応を行った。
【0141】
反応後の溶液に希塩酸を加え、エーテルで抽出し、硫酸ナトリウムで乾燥させ、さらに溶媒を留去した。その後、酢酸エチルを2質量%含むヘキサン溶液を展開溶媒とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーによって精製することにより、目的の3,7−ビス(ドデシルベンゾチオ)[1,2−b;4,5−b]ジチオフェン−2,6−ジカルボン酸ブチル(多環縮環化合物A)を黄色固体(1.74g,2.57mmol,収率85%)として得た。
【0142】
得られた多環縮環化合物Aの1H−NMRの測定結果は以下の通りであった。
1H−NMR(400MHz,CDCl3):δ(ppm)=0.87(t,J=7.2Hz,6H),1.02(t,J=6.2Hz,6H),1.37−1.20(m,36H),1.58−1.50(m,8H),1.84−1.77(m,4H),3.04(t,J=7.2Hz,4H),4.41(t,J=6.5Hz,4H),8.20(s,2H)
【化44】
【0143】
[実施例2]
<多環縮環化合物B:3,7−ビス(ドデシルチオ)ベンゾ[1,2−b;4,5−b’]ジチオフェン−2,6−ジカルボン酸の合成>
100mLのナスフラスコに、3,7−ビス(ドデシルチオ)ベンゾ[1,2−b;4,5−b’]ジチオフェン−2,6−ジカルボン酸ブチル(多環縮環化合物A)(1.95g,2.0mmol)、水酸化カリウム(933g,16.7mmol)、水(4mL)、及び、エタノール(24mL)を加えて、窒素雰囲気下、100℃で6時間還流を行った。
【0144】
反応後の溶液を室温まで冷却し、エタノールを留去した後、希塩酸を加えた。析出した固体を吸引ろ過により取り出し、乾燥させることにより、目的の3,7−ビス(ドデシルチオ)ベンゾ[1,2−b;4,5−b’]ジチオフェン−2,6−ジカルボン酸(多環縮環化合物B)を白色固体(1.64g,2.44mmol,収率95%)として得た。
【0145】
得られた多環縮環化合物Bの1H−NMRの測定結果は以下の通りであった。
1H−NMR(400MHz,(CD3)2SO):δ(ppm)=0.77(t,J=7.2Hz,6H),1.33−1.06(m,40H),3.03(t,J=6.9Hz,4H),7.94(s,2H)
【化45】
【0146】
[実施例3]
<多環縮環化合物C:3,7−ビス(ドデシルチオ)ベンゾ[1,2−b;4,5−b’]ジチオフェンの合成>
100mLのナスフラスコに、3,7−ビス(ドデシルチオ)ベンゾ[1,2−b;4,5−b’]ジチオフェン−2,6−ジカルボン酸(多環縮環化合物B)(1.55g,2.29mmol)、銅粉(300mg,4.72mmol)、及び、キノリン(10mL)を加えて、窒素雰囲気下、260℃で12時間加熱した。
【0147】
反応後の溶液に希塩酸を加え、エーテルで抽出し、硫酸ナトリウムで乾燥させた。そして、溶媒を留去して、ヘキサンを展開溶媒としたシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することにより、目的の3,7−ビス(ドデシルチオ)ベンゾ[1,2−b;4,5−b’]ジチオフェン(多環縮環化合物C)を白色固体(0.84g,1.52mmol,収率62%)として得た。
【0148】
得られた多環縮環化合物Cの1H−NMRの測定結果は以下の通りであった。
1H−NMR(400MHz,CDCl3):δ(ppm)=0.87(t,J=7.0Hz,6H),1.40−1.24(m,36H),1.64−1.59(m,4H),2.90(t,J=6.9Hz,4H),7.32(s,2H),7.93(s,2H)
【化46】
【0149】
[実施例4]
<多環縮環化合物D:2,6−ジブロモ−3,7−ビス(ドデシルチオ)ベンゾ[1,2−b;4,5−b’]ジチオフェンの合成>
100mLのナスフラスコに、3,7−ビス(ドデシルチオ)ベンゾ[1,2−b;4,5−b’]ジチオフェン(多環縮環化合物C)(730mg,1.52mmol)、N−ブロモスクシンイミド(NBS)(890mg,5.0mmol)、及び、DMF(10mL)を加えて、室温で6時間撹拌した。
【0150】
反応後の溶液に希塩酸を加え、エーテルで抽出し、硫酸ナトリウムで乾燥させた。溶媒を留去した後、ヘキサンを展開溶媒としたシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することにより、目的の2,6−ジブロモ−3,7−ビス(ドデシルチオ)ベンゾ[1,2−b;4,5−b’]ジチオフェン(多環縮環化合物D)を白色固体(854mg,1.35mmol,収率88%)として得た。
【0151】
得られた多環縮環化合物Dの1H−NMRの測定結果は以下の通りであった。
1H−NMR(400MHz,CDCl3):δ(ppm)=0.87(t,J=7.0Hz,6H),1.39−1.22(m,36H),1.56−1.49(m,4H),2.85(t,J=6.9Hz,4H),7.93(s,2H)
【化47】
【0152】
[実施例5]
<多環縮環化合物E:3,7−ビス(ドデシルチオ)−2,6−(5−フェニル−2−チエニル)ベンゾ[1,2−b;4,5−b’]ジチオフェンの合成>
20mLの反応器に、トルエン(1.5mL)に溶かした2,6−ジブロモ−3,7−ビス(ドデシルチオ)ベンゾ[1,2−b;4,5−b’]ジチオフェン(多環縮環化合物D)(73mg,0.12mmol)、トリブチル(5−フェニル−2チエニル)スズ(130g,0.29 mmol)、Pd(PPh3)4(14.2g,0.011mmol)、及び、DMF(1.5mL)を加えて、窒素雰囲気下、85℃で12時間反応を行った。
【0153】
反応後の溶液に希塩酸を加え、トルエンで抽出し、硫酸ナトリウムで乾燥させた。溶媒を留去した後、トルエンを展開溶媒としたシリカゲルカラムクロマトグラフィーでろ過した。溶媒を留去し、得られた固体をヘキサンとアセトンで洗浄した後、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで精製することで、目的の3,7−ビス(ドデシルチオ)−2,6−(5−フェニル−2−チエニル)ベンゾ[1,2−b;4,5−b’]ジチオフェン(多環縮環化合物E)を黄色固体(60mg,0.076mmol,収率66%)として得た。
【0154】
得られた多環縮環化合物Eの1H−NMRの測定結果は以下の通りであった。
1H−NMR(400MHz,CDCl3):δ(ppm)=0.87(t,J=6.9Hz,6H),1.30−1.15(m,32H),1.42−1.34(m,4H),1.61−1.53(m,4H),2.85(t,J=6.9,4H),7.33−7.28(m,4H),7.40(t,J=7.6Hz,4H),7.55(dd,J=4.0,1.8Hz,2H),7.68(d,J=7.6Hz,4H),δ7.98(s,2H)
【化48】
【0155】
[実施例6]
<多環縮環重合体a:3,7−ビス(ドデシルチオ)−2−(2,2’−ビチエニル)ベンゾ[1,2−b;4,5−b’]ジチオフェンポリマーの合成>
20mLの反応器に、原料として2,6−ジブロモ−3,7−ビス(ドデシルチオ)ベンゾ[1,2−b;4,5−b’]ジチオフェン(多環縮環化合物D)(180mg,0.24mmol)を用い、5,5’−ビス(トリブチルスタニル)−2,2’−ビチオフェン(180mg,0.24mmol)、Pd(PPh3)4(30.0mg,0.030mmol)、トルエン(2mL)、及び、DMF(2mL)を加えて、窒素雰囲気下、80℃で2日間反応を行った。
【0156】
反応後の溶液を、メタノール(100mL)、塩酸(10mL)の混合溶液に加え、撹拌した。その後、浮遊した固体を吸引ろ過により取り出し、ヘキサン、アセトンの順番で洗浄した。得られた固体はソックスレー抽出器を用いて、アセトンで洗浄した後、ヘキサン、クロロベンゼンで抽出した。抽出により得られた溶液にメタノールを加え、撹拌することで固体を再沈殿した。再沈殿した固体を吸引ろ過により取り出し、ヘキサン可溶分から、3,7−ビス(ドデシルチオ)−2−(チエノチエニル)ベンゾ[1,2−b;4,5−b’]ジチオフェンポリマーを赤黒色固体(56mg)として得た。また、同様にクロロベンゼン可溶分から、3,7−ビス(ドデシルチオ)−2−(チエノチエニル)ベンゾ[1,2−b;4,5−b’]ジチオフェンポリマーを赤黒色固体(多環縮環重合体a)(26mg)として得た。なお、下記式中、nは繰り返し単位数を示す。多環縮環重合体aのポリスチレン換算の数平均分子量は5,600であった。
【化49】
【0157】
[実施例7]
<多環縮環重合体b:3,7−ビス(ドデシルチオ)−2−(チエノチエニル)ベンゾ[1,2−b;4,5−b’]ジチオフェンポリマーの合成)>
20mLの反応器に、原料として2,6−ジブロモ−3,7−ビス(ドデシルチオ)ベンゾ[1,2−b;4,5−b’]ジチオフェン(多環縮環化合物D)(150mg,0.2mmol)、2,2’−ビス(トリブチルスタニル)チエノチオフェン(144mg,0.2mmol)、Pd(PPh3)4(11.56g,0.01mmol)、及び、クロロベンゼン(5mL)を加えて、窒素雰囲気下、150℃で2日間反応を行った。
【0158】
反応後の溶液を、メタノール(100mL)、及び、塩酸(10mL)の混合溶液に加え、撹拌した。その後、浮遊した固体を吸引ろ過により取り出し、ヘキサン、アセトンの順番で洗浄した。得られた固体はソックスレー抽出器を用い、アセトン、ヘキサンの順番で洗浄した後、クロロホルム、クロロベンゼンで抽出した。抽出により得られた溶液にメタノールを加え、撹拌することで固体を再沈殿した。再沈殿した固体を吸引ろ過により取り出し、クロロホルム可溶分から3,7−ビス(ドデシルチオ)−2−(チエノチエニル)ベンゾ[1,2−b;4,5−b’]ジチオフェンポリマー(多環縮環重合体b)を赤黒色固体(30mg)として得た。また、同様にクロロベンゼン可溶分から3,7−ビス(ドデシルチオ)−2−(チエノチエニル)ベンゾ[1,2−b;4,5−b’]ジチオフェンポリマー(多環縮環重合体b)を赤黒色固体(30mg)として得た。なお、下記式中、nは繰り返し単位数を示す。多環縮環重合体bのポリスチレン換算の数平均分子量は5,900であった。
【化50】
【0159】
[実施例8]
<有機薄膜トランジスタ1の製造及びそのトランジスタ特性の評価>
ゲート電極となる高濃度にドープされたp型シリコン基板の表面に、絶縁層となるシリコン酸化膜を熱酸化により300nm形成した基板を準備し、この基板をオクタデシルトリクロロシラン/オクタン(200μL/25mL)溶液に窒素中で15時間浸漬して、シリコン酸化膜表面の改質処理を行った。
【0160】
実施例7で合成した多環縮環化合物b(クロロホルム抽出分)を、0.5質量%o−ジクロロベンゼン溶液とし、塗布液を調製した。表面改質した基板と塗布液の入ったサンプル瓶をホットプレート上で130℃に加熱しておき、スピンコーターに加熱した基板をセットした後、すばやく加熱した塗布液を滴下し、スピンして、多環縮環化合物bを含む有機薄膜を形成した。得られた有機薄膜上に、真空蒸着法により三酸化モリブデン(15nm)/金(50nm)からなるソース電極及びドレイン電極(チャネル長/チャネル幅=20μm/2000μm)を形成して、有機薄膜トランジスタ1を作製した。
【0161】
得られた有機薄膜トランジスタ1に、真空中でゲート電圧Vgを0〜−60V、ソース−ドレイン間電圧Vsdを0〜−60V印加し、トランジスタ特性を測定すると、良好なドレイン電流−ゲート電圧(Id−Vg)特性が得られた。このときの移動度は1.2×10−2cm2/Vs、しきい値電圧は−10V、オン/オフ比は104であった。さらに、有機薄膜トランジスタ1を窒素雰囲気中、130℃、30分間ベーク処理した後に、トランジスタ特性を測定すると、移動度は3.3×10−2cm2/Vs、しきい値電圧は−10V、オン/オフ比は105に向上した。このことから、多環縮環化合物bを用いた有機薄膜トランジスタ1は、p型有機トランジスタとして有効に機能することが確認された。
【0162】
[参考合成例1]
<化合物G:3,7−ジ(1−ドデシニル)ベンゾ[1,2−b:4,5−b’]ジチオフェン−2,6−ジカルボン酸ジブチルの合成>
30mLの二口フラスコに、3,7−ジクロロベンゾ[1,2−b:4,5−b’]ジチオフェン−2,6−ジカルボン酸ジブチル(990mg,2.15mmol)、1−ドデシン(1.48g,8.9mmol)、PdCl2(PhCN)2(17mg,0.044mmol)、ジシクロヘキシル(2’,4’,6’−トリイソプロピルビフェニル−2−イル)ホスフィン(65.2mg,0.13mmol)、炭酸セシウム(5.79g,17.8mmol)、及び、アセトニトリル(15mL)を加え、100℃で24時間攪拌した。
【0163】
反応後の溶液を、ジエチルエーテル、水で抽出し、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させた後、ろ紙でろ過し溶媒を留去した。残存物をトルエンに溶かし、5質量%酢酸エチルを含むヘキサンを展開溶媒としたシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することにより、3,7−ジ(1−ドデシニル)ベンゾ[1,2−b:4,5−b’]ジチオフェン−2,6−ジカルボン酸ジブチルを黄白色固体(760mg,収率52%)の状態で得た(化合物G)。
【0164】
得られた化合物Gの1H−NMRの測定結果は以下の通りであった。
1H−NMR(400MHz,CDCl3):δ(ppm)=7.99(s,2H),4.39(t,J=6.4Hz,4H),2.62(t,J=6.8Hz,4H),1.83−1.71(m,8H),1.58−1.48(m,8H),1.43−1.18(m,24H),1.00(t,J=7.6Hz,6H),0.88(t,J=6.0Hz,6H)
【0165】
<化合物H:3,7−ジドデシルベンゾ[1,2−b:4,5−b’]ジチオフェン−2,6−ジカルボン酸ジブチルの合成>
50mLのオートクレーブ容器に、10質量%Pd/C(128mg,0.061mmol)を入れ、この容器内の気体を水素で置換して常圧で1時間活性化した後、3,7−ジ(1−ドデシニル)ベンゾ[1,2−b:4,5−b’]ジチオフェン−2,6−ジカルボン酸ジブチル(化合物G)(742mg,1.03mmol)を脱水エタノール(7mL)、ジオキサン(6mL)に溶かした溶液を加え、14気圧の水素雰囲気下、室温で48時間攪拌した。
【0166】
反応後の溶液をセライトろ過してPd/Cを取り除いた後、溶媒を留去することにより、3,7−ジドデシルベンゾ[1,2−b:4,5−b’]ジチオフェン−2,6−ジカルボン酸ジブチルを黄白色固体(720mg,収率96%)の状態で得た(化合物H)。
【0167】
得られた化合物Hの1H−NMRの測定結果は以下の通りであった。
1H−NMR(400MHz,CDCl3):δ(ppm)=7.78(s,2H),4.36(t,J=7.2Hz,4H),3.32(t,J=7.6,4H),1.82−1.75(m,4H),1.72−1.64(m,4H),1.58−1.42(m,10H),1.37−1.13(m,30H),1.01(t,J=7.6Hz,6H),0.88(t,J=6.4Hz,6H)
【0168】
<化合物I:3,7−ジドデシルベンゾ[1,2−b:4,5−b’]ジチオフェン−2,6−ジカルボン酸の合成>
100mLのナスフラスコに、3,7−ジドデシルベンゾ[1,2−b:4,5−b’]ジチオフェン−2,6−ジカルボン酸ジブチル(化合物H)(710mg,0.97mmol)、水酸化カリウム(327.2mg,5.84mmol)、水(1mL)、エタノール(12.5mL)を加え、100℃で8時間攪拌した。
【0169】
反応後の溶液からエタノールを留去し、希塩酸を加えた後、析出した固体を吸引ろ過によって、3,7−ジドデシルベンゾ[1,2−b:4,5−b’]ジチオフェン−2,6−ジカルボン酸を黄白色固体(553mg,収率92%)として得た(化合物I)。
【0170】
<化合物J:3,7−ジドデシルベンゾ[1,2−b:4,5−b’]ジチオフェンの合成>
100mLのナスフラスコに、3,7−ジドデシルベンゾ[1,2−b:4,5−b’]ジチオフェン−2,6−ジカルボン酸(化合物I)(553mg,0.897mmol)、銅粉(114mg,1.74mmol)、及び、キノリン(4.0mL)を加え、窒素雰囲気下、260℃で4時間撹拌した。
【0171】
反応後の溶液をジエチルエーテル、希塩酸、水で抽出した後、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ、溶媒を留去した。残存物をトルエンに溶かし、ヘキサンを展開溶媒とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することにより、3,7−ジドデシルベンゾ[1,2−b:4,5−b’]ジチオフェンを黄白色固体(320mg,収率69%)として得た(化合物J)。
【0172】
得られた化合物Jの1H−NMRの測定結果は以下の通りであった。
1H−NMR(400MHz,CDCl3):δ(ppm)=7.70(s,2H),7.02(s,2H),2.88(t,J=7.6Hz,4H),1.79−1.73(m,4H),1.70−1.57(m,4H),1.48−1.20(m,36H),0.88(t,J=7.3Hz,6H)
【0173】
<化合物K:2,6−ジブロモ−3,7−ジドデシルベンゾ[1,2−b:4,5−b’]ジチオフェンの合成>
100mLのナスフラスコに、3,7−ジドデシルベンゾ[1,2−b:4,5−b’]ジチオフェン(化合物J)(298mg,0.58mmol)、NBS(307mg,1.73mmol)、及び、DMF(5mL)を加え、室温で5時間攪拌した。
【0174】
反応後の溶液をジエチルエーテル、水で抽出した後、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ溶媒を留去した。得られた残存物をトルエンに溶かし、ヘキサンを展開溶媒とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することにより、2,6−ジブロモ−3,7−ジドデシルベンゾ[1,2−b:4,5−b’]ジチオフェンを黄白色固体(360mg,収率93%)の状態で得た(化合物K)。
【0175】
得られた化合物Kの1H−NMRの測定結果は以下の通りであった。
1H−NMR(400MHz,CDCl3):δ(ppm)=7.59(s,2H),2.86(t,J=7.6Hz,2H),1.68−1.61(m,4H),1.45−1.12(m,36H),0.88(t,J=7.2Hz,4H)
【0176】
<重合体c:2,6−ジブロモ−3,7−ジドデシルベンゾ[1,2−b:4,5−b’]ジチオフェンと2,2’−ビス(トリブチルスタニル)チエノチオフェンの共重合体の合成>
20mLの反応器に、2,6−ジブロモ−3,7−ジドデシルベンゾ[1,2−b:4,5−b’]ジチオフェン(化合物K)(120mg,0.175mmol)、2,2’−ビス(トリブチルスタニル)チエノチオフェン(125mg,0.175mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(9.8mg,0.0085mmol)、及び、クロロベンゼン(5mL)を加えて、窒素雰囲気下、150℃で48時間攪拌した。
【0177】
反応後の溶液を、濃塩酸10mLを含むメタノール100mL中に流し込み、析出した沈殿物を吸引ろ過した。回収した固体をアセトン、ヘキサンで洗浄して、赤黒色固体(80mg)を得た。さらに、得られた固体からソックスレー抽出器を用い、クロロベンゼンで抽出した。抽出により得られた溶液にメタノールを加え、撹拌することで固体を再沈殿した。再沈殿した固体を吸引ろ過により取り出し、目的とする共重合体(重合体c)を赤黒色固体(30mg)として得た。なお、下記式中、nは繰り返し単位数を示す。重合体cのポリスチレン換算の数平均分子量は15,000であった。
【化51】
【0178】
[比較例1]
<有機薄膜トランジスタ2の製造及びそのトランジスタ特性の評価>
参考合成例1で合成した重合体cを、多環縮環重合体bに代えて用いたこと以外は、実施例8と同様にして有機薄膜トランジスタ2を得た。
【0179】
得られた有機薄膜トランジスタ2に、真空中でゲート電圧Vgを0〜−60V、ソース−ドレイン間電圧Vsdを0〜−60V印加し、トランジスタ特性を測定すると、ドレイン電流−ゲート電圧(Id−Vg)特性が得られた。このときの移動度は2.7×10−3cm2/Vs、しきい値電圧は−5Vであり、オン/オフ比は103であった。さらに、有機薄膜トランジスタ2を、窒素雰囲気中、130℃、30分間ベーク処理した後に、トランジスタ特性を測定すると、移動度は4.4×10−3cm2/Vs、しきい値電圧は−1V、オン/オフ比は104となった。
【符号の説明】
【0180】
1…基板、2…活性層、2a…活性層、3…絶縁層、4…ゲート電極、5…ソース電極、6…ドレイン電極、7a…第1の電極、7b…第2の電極、8…電荷発生層、100…第1実施形態に係る有機薄膜トランジスタ、110…第2実施形態に係る有機薄膜トランジスタ、120…第3実施形態に係る有機薄膜トランジスタ、130…第4実施形態に係る有機薄膜トランジスタ、140…第5実施形態に係る有機薄膜トランジスタ、150…第6実施形態に係る有機薄膜トランジスタ、160…第7実施形態に係る有機薄膜トランジスタ、200…実施形態に係る太陽電池、300…第1実施形態に係る光センサ、310…第2実施形態に係る光センサ、320…第3実施形態に係る光センサ。
【技術分野】
【0001】
本発明は、多環縮環化合物、多環縮環重合体及びこれらを含む有機薄膜、並びに、この有機薄膜を備える有機薄膜素子及び有機薄膜トランジスタに関する。
【背景技術】
【0002】
電荷(電子又はホールを意味し、以下、同様である。)輸送性を有する有機材料を含む薄膜は、有機薄膜トランジスタ、有機太陽電池、光センサといった有機薄膜素子への応用が期待されている。そのため、このような薄膜を形成できる有機p型半導体材料(ホール輸送性を示す)や有機n型半導体材料(電子輸送性を示す)が種々検討されている。
【0003】
有機p型半導体材料としては、オリゴチオフェン、ポリチオフェン等のチオフェン環を有する化合物のほか、架橋した構造を有するポリチオフェンやラダー型のフルオレンが検討されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開2004/186266号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したような電荷輸送性を有する有機材料は、溶媒等に溶解させて塗布することにより、簡便に有機薄膜を形成できるという利点を有している。しかし、高い特性を有する有機薄膜素子を得るためには、有機薄膜とした状態で高い電荷輸送性を有している必要があるが、上述したような構造的に高い電荷輸送性を有する有機材料は、有機薄膜とすると高い電荷輸送性が得られなくなることが少なくなかった。これは、電荷輸送性が高い構造を有する従来の有機材料は、溶媒に対する溶解性が低いため、有機薄膜を形成する際に均質な膜を形成することが困難であることが一因であると考えられる。
【0006】
そこで、本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、高い電荷輸送性を発揮し得る構造を有するとともに、溶媒への溶解性にも優れる多環縮環重合体を提供することを目的とする。本発明はまた、多環縮環重合体を得るのに好適な多環縮環化合物、多環縮環重合体又は多環縮環化合物を含む有機薄膜、この有機薄膜を備える有機薄膜トランジスタ等の有機薄膜素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の多環縮環重合体は、式(1)で表される構造単位を有することを特徴とする。
【化1】
[式(1)中、X1及びX2は、それぞれ独立に、酸素原子、硫黄原子又はセレン原子を示し、R1及びR2は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、不飽和アルキル基、直鎖状、分岐状若しくは環状の炭素数1〜30のアルキル基、直鎖状、分岐状若しくは環状の炭素数1〜30のアルキル基を含む非アルキル基、置換基を有してもよい炭素数6〜60のアリール基、又は、置換基を有してもよい炭素数4〜60の複素環基を示し、R1及びR2の少なくとも一方は、直鎖状、分岐状若しくは環状の炭素数1〜30のアルコキシ基、又は、直鎖状、分岐状若しくは環状の炭素数1〜30のアルキルチオ基を示す。R3及びR4は、それぞれ独立に、1価の基を示し、s、t、R3及びR4がそれぞれ複数ある場合、それらは同一でも異なっていてもよい。R0は、水素原子又は1価の基を示し、R0が複数ある場合、それらは同一でも異なっていてもよい。m、n、s、t及びrは、それぞれ独立に、0〜2の整数である。]
【0008】
このような本発明の多環縮環重合体は、複数の環同士が縮合した構造であることから高いπ共役平面性を有しているため、高い電荷輸送性を発揮し得る構造となっている。また、かかる多環縮環重合体は、R1及びR2として、所定の置換基、特に、R1又はR2として所定のアルコキシ基又は所定のアルキルチオ基を少なくとも1つ有していることから、溶媒に対する高い溶解性も有している。したがって、本発明の多環縮環重合体によれば、塗布により均質な薄膜を良好に形成することができ、その構造に起因する高い電荷輸送性を得ることが可能となる。
【0009】
上記本発明の多環縮環重合体において、式(1)中、X1及びX2は、硫黄原子であると好ましい。このような構造を有すると、多環縮環重合体は、より高い電荷輸送性を発揮し得るようになる。
【0010】
また、式(1)中、R1及びR2は、直鎖状、分岐状若しくは環状の炭素数1〜30のアルキルチオ基であると好ましい。これによって、一層優れた溶媒に対する溶解性が得られるようになる。
【0011】
本発明の多環縮環重合体は、式(3)で表される構造単位を更に有すると好ましい。これにより、一層高い電荷輸送性及び溶媒に対する溶解性が得られるようになる。
【化2】
[式(3)中、Ar1は、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい複素環基を示す。]
【0012】
式(3)で表される構造単位において、Ar1は、式(4)で表される基であると好ましい。これにより、より優れた電荷輸送性が得られるようになる。特に、式(4)中のZ1は、式(ii)で表される基であると好適である。
【化3】
【化4】
[式(4)中、R5及びR6は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子又は1価の基を示し、R5とR6とは互いに結合して環を形成していてもよい。Z1は、式(i)で表される基、式(ii)で表される基、式(iii)で表される基、式(iv)で表される基、式(v)で表される基、式(vi)で表される基、式(vii)で表される基、式(viii)で表される基及び式(ix)で表される基のうちのいずれかの基(以下、同様の記載を、「式(i)〜(ix)のうちのいずれかの基」と表記する。)を示す。
式(vii)、(viii)及び(ix)中、R7、R8、R9及びR10は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子又は1価の基を示し、R7とR8とは互いに結合して環を形成していてもよい。また、式(viii)で表される基は左右反転していてもよい。]
【0013】
また、本発明は、式(5)で表される多環縮環化合物を提供する。
【化5】
[式(5)中、X1及びX2は、それぞれ独立に、酸素原子、硫黄原子又はセレン原子を示し、R1及びR2は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、不飽和アルキル基、直鎖状、分岐状若しくは環状の炭素数1〜30のアルキル基、直鎖状、分岐状若しくは環状の炭素数1〜30のアルキル基を含む非アルキル基、置換基を有してもよい炭素数6〜60のアリール基、又は、置換基を有してもよい炭素数4〜60の複素環基を示し、R1及びR2の少なくとも一方は、直鎖状、分岐状若しくは環状の炭素数1〜30のアルコキシ基又は直鎖状、分岐状若しくは環状の炭素数1〜30のアルキルチオ基を示す。R3及びR4は、それぞれ独立に、1価の基を示し、s、t、R3及びR4がそれぞれ複数ある場合、それらは同一でも異なっていてもよい。R0は、水素原子又は1価の基を示し、R0が複数ある場合、それらは同一でも異なっていてもよい。Y1及びY2は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜30のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数6〜60のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数4〜60の複素環基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アルキルスルホネート基、アリールスルホネート基、アリールアルキルスルホネート基、アルキルスタニル基、アリールスタニル基、アリールアルキルスタニル基、ホウ酸エステル残基、スルホニウムメチル基、ホスホニウムメチル基、ホスホネートメチル基、モノハロゲン化メチル基、ホウ酸残基、ホルミル基、又はビニル基を示す。m、n、s、t及びrは、それぞれ独立に、0〜2の整数である。]
【0014】
本発明の多環縮環化合物は、式(7)で表される化合物であってもよい。このような多環縮環化合物も、上述した多環縮環化合物と同様の構造を含むことから、本発明の多環縮環重合体を得るために好適な化合物であり、高い電荷輸送性及び高い溶媒への溶解性を有する。
【化6】
[式(7)中、X1及びX2は、それぞれ独立に、酸素原子、硫黄原子又はセレン原子を示し、R1及びR2は、それぞれ独立に、直鎖状、分岐状若しくは環状の炭素数1〜30のアルキル基、直鎖状、分岐状若しくは環状の炭素数1〜30のアルキル基を含む非アルキル基、置換基を有してもよい炭素数6〜60のアリール基、又は、置換基を有してもよい炭素数4〜60の複素環基を示し、R1及びR2の少なくとも一方は、直鎖状、分岐状若しくは環状の炭素数1〜30のアルコキシ基、又は、直鎖状、分岐状若しくは環状の炭素数1〜30のアルキルチオ基を示す。R3及びR4は、それぞれ独立に、1価の基を示し、R3及びR4がそれぞれ複数ある場合、それらは同一でも異なっていてもよい。R0は、水素原子又は1価の基を示し、R0が複数ある場合、それらは同一でも異なっていてもよい。Y5及びY6は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜30のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数6〜60のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数4〜60の複素環基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アルキルスルホネート基、アリールスルホネート基、アリールアルキルスルホネート基、アルキルスタニル基、アリールスタニル基、アリールアルキルスタニル基、ホウ酸エステル残基、スルホニウムメチル基、ホスホニウムメチル基、ホスホネートメチル基、モノハロゲン化メチル基、ホウ酸残基、ホルミル基、又はビニル基を示す。Ar2及びAr3は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい2価の芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい2価の複素環基を示す。m、n、s、t及びrは、それぞれ独立に、0〜2の整数である。u及びvは、それぞれ独立に0又は1であって、かつ、u+vは1以上である。]
【0015】
上述した本発明の多環縮環化合物は、それらが有しているY1、Y2、Y5及びY6で表される基として重合活性基を有する場合、重合させることによって本発明の多環縮環重合体を容易に形成することができる。そのため、本発明の多環縮環重合体を得るために好適な原料化合物として有用である。また、本発明の多環縮環化合物、なかでも式(7)で表される構造単位を含む多環縮環化合物は、電荷輸送性が高い構造を有しており、また溶媒への溶解性にも優れていることから、それ自体が電荷輸送性を有する材料として有用なものであり、有機薄膜素子に適用することが可能である。
【0016】
上記本発明の多環縮環化合物において、式(5)又は式(7)中、X1及びX2は、硫黄原子であると好ましい。これにより、多環縮環化合物やそれらにより得られる多環縮環重合体の電荷輸送性が更に良好になる。
【0017】
また、式(5)又は式(7)中、R1及びR2は、それぞれ独立に、直鎖状、分岐状若しくは環状の炭素数1〜30のアルキルチオ基であると好ましい。これによって、電荷輸送性や溶媒への溶解性が一層良好になる。
【0018】
本発明はまた、上記本発明の多環縮環重合体又は多環縮環化合物を含む有機薄膜を提供する。このような有機薄膜は、上記本発明の多環縮環重合体又は多環縮環化合物を用いて得られることから、ほぼ均質な膜であり、そのため、多環縮環重合体又は多環縮環化合物が本来有する高い電荷輸送性を十分に発揮し得るものとなる。
【0019】
さらに、本発明は、上記本発明の有機薄膜を備える有機薄膜素子、特に有機薄膜トランジスタを提供する。これらの有機薄膜素子及び有機薄膜トランジスタは、高い電荷輸送性を有する有機薄膜を備えることから、素子としても優れた特性を有するものとなり得る。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、高い電荷輸送性を発揮し得る構造を有するとともに、溶媒への溶解性にも優れる多環縮環重合体を提供することが可能となる。また、電荷輸送性及び溶媒への溶解性に優れるとともに、多環縮環重合体を得るための原料化合物として好適な多環縮環化合物や、多環縮環重合体又は多環縮環化合物を含む有機薄膜、さらにはこの有機薄膜を備える有機薄膜トランジスタ等の有機薄膜素子を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】第1実施形態に係る有機薄膜トランジスタの模式断面図である。
【図2】第2実施形態に係る有機薄膜トランジスタの模式断面図である。
【図3】第3実施形態に係る有機薄膜トランジスタの模式断面図である。
【図4】第4実施形態に係る有機薄膜トランジスタの模式断面図である。
【図5】第5実施形態に係る有機薄膜トランジスタの模式断面図である。
【図6】第6実施形態に係る有機薄膜トランジスタの模式断面図である。
【図7】第7実施形態に係る有機薄膜トランジスタの模式断面図である。
【図8】好適な実施形態に係る太陽電池の模式断面図である。
【図9】第1実施形態に係る光センサの模式断面図である。
【図10】第2実施形態に係る光センサの模式断面図である。
【図11】第3実施形態に係る光センサの模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0023】
[多環縮環重合体]
まず、好適な実施形態に係る多環縮環重合体について説明する。好適な実施形態の多環縮環重合体は、上記式(1)で表される構造単位を有するものである。ここで、多環縮環重合体の「構造単位」とは、当該重合体の主鎖を構成している構造単位を意味する。また、「重合体」とは、かかる「構造単位」を少なくとも2つ有するものをいい、通常オリゴマーやポリマーに分類されるものの両方を含む。
【0024】
以下、式(1)で表される構造単位の好適な構成について説明する。まず、一般式(1)におけるX1及びX2は、それぞれ独立に、酸素原子、硫黄原子又はセレン原子であり、硫黄原子であると好ましい。また、X1及びX2が同じ原子であると、多環縮環重合体の製造が容易になるので好ましく、両方が硫黄原子であると、特に高い電荷輸送性が得られることから更に好ましい。
【0025】
また、R1及びR2としては、溶媒への溶解性が高くなるので、直鎖状、分岐状若しくは環状の炭素数1〜30のアルキル基、及び、直鎖状、分岐状若しくは環状の炭素数1〜30のアルキル基を含む非アルキル基が好ましい。ここで、直鎖状、分岐状若しくは環状の炭素数1〜30のアルキル基を含む非アルキル基とは、アルキル基以外の置換基であって、その構造中に直鎖状、分岐状若しくは環状の炭素数1〜30のアルキル基を有している基であり、以下、同様の表現は同様の意味である。R1又はR2の少なくとも一方は、直鎖状、分岐状若しくは環状の炭素数1〜30のアルキル基を含む非アルキル基であることが好ましく、直鎖状、分岐状若しくは環状の炭素数1〜30のアルコキシ基、又は、直鎖状、分岐状若しくは環状の炭素数1〜30のアルキルチオ基であることがより好ましく、直鎖状、分岐状若しくは環状の炭素数1〜30のアルキルチオ基であることがさらに好ましい。これらにより、多環縮合環重合体による分子間の相互作用が高められ、より高い電荷輸送性が得られる傾向にある。R1及びR2の両方が直鎖状、分岐状若しくは環状の炭素数1〜30のアルキルチオ基であると、多環縮環重合体の製造が容易となる。
【0026】
また、R1及びR2において、直鎖状、分岐状若しくは環状の炭素数1〜30のアルキル基、及び、直鎖状、分岐状若しくは環状の炭素数1〜30のアルキル基を含む非アルキル基のアルキル基としては、直鎖状、分岐状若しくは環状の炭素数3〜24のアルキル基が好ましく、直鎖状若しくは分岐状の炭素数6〜20のアルキル基がより好ましい。ただし、分子間の配列をよくするためには、直鎖状のアルキル基が好ましい一方、有機溶媒への溶解性を高くするためには、分岐状のアルキル基が好ましく、これらは所望とする特性に応じて選択することができる。なお、R1及びR2が同じ基であると、多環縮環重合体の製造が容易となるため、より好ましい。
【0027】
アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基、3−メチルブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、3,7−ジメチルオクチル基、3,7,11−トリメチルドデシル基が挙げられる。これらのアルキル基は、水素原子の一部又は全部がハロゲン原子で置換されていてもよく、置換されるハロゲン原子としては、フッ素原子が好ましい。
【0028】
また、アルキル基を含む非アルキル基とは、アルキル基及び炭素原子以外の原子を含む基、並びにアルキル基及び不飽和結合を含む基をいう。アルキル基を含む非アルキル基の炭素数は、1〜30であると好ましく、3〜24であるとより好ましく、6〜20であると更に好ましい。アルキル基を含む非アルキル基としては、例えば、アルコキシ基、アルキルチオ基、アルキル−アルケニル基、アルキル−アルキニル基、アルキルフェニル基、アルコキシフェニル基、アルキルチオフェニル基、アルコキシカルボニル基、アルキルチオカルボニル基、アルキルシリル基及びアルキルアミノ基が挙げられる。なかでも、アルコキシ基、アルキルチオ基が好ましく、アルキルチオ基がより好ましい。なお、非アルキル基に含まれるアルキル基としては、上記と同様のものが例示できる。
【0029】
炭素数6〜60のアリール基は、置換基を有する置換アリール基であってもよい。当該アリール基が置換アリール基である場合、炭素数6〜60のアリール基が有している置換基の炭素数は1〜20であることが好ましく、その置換基の数は、1〜4個であるとより好ましい。アリール基としては、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基や、それらにおける水素原子の少なくとも一つが炭素数1〜12のアルキル基で置換されたものが挙げられる。例えば、フェニル基における水素原子の少なくとも一つが炭素数1〜12のアルコキシ基で置換された置換フェニル基、フェニル基における水素原子の少なくとも一つが炭素数1〜12のアルキル基で置換された置換フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基等が例示できる。なかでも、炭素数6〜20のアリール基が好ましく、フェニル基における水素原子の少なくとも一つが炭素数1〜12のアルコキシ基で置換された置換フェニル基、及びフェニル基における水素原子の少なくとも一つが炭素数1〜12のアルキル基で置換された置換フェニル基が更に好適である。
【0030】
炭素数3〜60の複素環基は、縮環構造と一つの結合手にて結合している1価の複素環基であると好ましい。複素環基は、置換基を有する置換複素環基であってもよい。当該複素環基が置換複素環基である場合、炭素数3〜60の複素環基が有している置換基の炭素数は1〜20であると好ましく、その置換基の数は、1〜4個であるとより好ましい。複素環基としては、チエニル基、ピロリル基、フリル基、ピリジル基や、それらにおける水素原子の少なくとも一つが炭素数1〜12のアルキル基で置換されたものが挙げられる。例えば、チエニル基における水素原子の少なくとも一つが炭素数1〜12のアルキル基で置換された置換チエニル基、ピロリル基、フリル基、ピリジル基、ピリジル基における水素原子の少なくとも一つが炭素数1〜12のアルキル基で置換された置換ピリジル基等が例示できる。なかでも、炭素数3〜20の1価の複素環基が好ましく、チエニル基、チエニル基における水素原子の少なくとも一つが炭素数1〜12のアルキル基で置換された置換チエニル基、ピリジル基、及び、ピリジル基における水素原子の少なくとも一つが炭素数1〜12のアルキル基で置換された置換ピリジル基がより好ましい。なお、複素環基とは、環状構造を有する有機基において、環を構成する少なくとも1つの原子がヘテロ原子である基をいうものとする。
【0031】
R3及びR4で表される1価の基としては、アルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、フルオロアルキル基、フルオロアルコキシ基、フルオロアルキルチオ基、アリール基、アリールアミノ基、1価の複素環基等が挙げられる。これらの1価の基は、置換基を更に有するものであってもよい。R3及びR4で表される1価の基としてのアルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリール基、1価の複素環基としては、上述したR1及びR2についてそれらの基として例示したものと同じ基が挙げられる。また、フルオロアルキル基、フルオロアルコキシ基、フルオロアルキルチオ基としては、上記アルキル基、上記アルコキシ基、上記アルキルチオ基における一つ以上の水素原子がフッ素原子で置換されたものが、さらに、アリールアミノ基としては、上記アリール基にアミノ基が置換したものが挙げられる。R3及びR4で表される1価の基としては、なかでも、アルキル基、アルコキシ基、フルオロアルキル基、フルオロアルコキシ基、アリール基、アリールアミノ基が好ましく、アルキル基、アリール基が更に好ましい。s、t、m及びnのいずれかが2である場合、R3、R4は分子中に複数含まれることになるが、その場合、複数のR3、R4は、それぞれ同一でも異なっていてもよい。ただし、多環縮環重合体の製造が容易になるので、R3同士、R4同士、又は、R3とR4との組み合わせは、同じ基であることが好ましい。
【0032】
また、s及びtは、1又は2であることが好ましい。これにより、溶媒への溶解性がさらに高められる。
【0033】
R0で表される1価の基としては、アルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、フルオロアルキル基、フルオロアルコキシ基、フルオロアルキルチオ基、アリール基、アリールアミノ基、1価の複素環基等が挙げられる。なかでも、アルキル基、アルコキシ基、フルオロアルキル基、フルオロアルコキシ基、アリール基、アリールアミノ基が好ましく、アルキル基、アリール基が更に好ましい。R0で表される1価の基におけるこれらの基としても、R3及びR4についてそれらの基として例示したものと同じ基が挙げられる。また、R0で表される1価の基も、R3及びR4で表される1価の基の場合と同様、その構造に応じて置換基を更に有するものであってもよい。rは、0〜2の整数であり、0または2であると好ましい。
【0034】
式(1)において、m及びnはそれぞれ独立に0〜2の整数であるが、m+nが0、1、2又は4となる組み合わせであると好ましく、m+nが0であると特に好ましい。これらの条件を満たす場合、多環縮環重合体の電荷移動度がより高くなる傾向にある。
【0035】
好適な実施形態の多環縮環重合体は、上述した式(1)で表される構造単位に加えて、上記の式(3)で表される構造単位を更に有していると好ましい。式(3)で表される構造単位を適切に含むことで、溶媒への溶解性や、機械的、熱的又は電子的特性を広い範囲で変化させることが可能となり、所望とする特性が得られ易くなる。
【0036】
この場合、多環縮環重合体は、式(1)で表される構造単位と、式(3)で表される構造単位との含有割合が、前者100モルに対して後者10〜1000モルであると好ましく、前者100モルに対して後者25〜400モルであるとより好ましく、前者100モルに対して後者50〜200モルであると更に好ましい。これらの条件を満たすと、高い電荷移動度が得られるとともに上記の各特性を高めることが一層容易となる。
【0037】
式(3)中、Ar1は、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい複素環基であり、両隣の構造単位とそれぞれ単結合を介して結合することで合計2つの結合手を有している2価の芳香族炭化水素基又は2価の複素環基であると好ましい。ここで、2価の芳香族炭化水素基とは、ベンゼン環又は多環縮環から水素原子2個を除いた残りの原子団をいう。2価の芳香族炭化水素基は、炭素数6〜60であると好ましく、炭素数6〜20であるとより好ましい。多環縮環としては、例えば、ナフタレン環、アントラセン環、テトラセン環、ペンタセン環、ピレン環、ペリレン環、フルオレン環が挙げられる。
【0038】
2価の芳香族炭化水素基は、置換基を有していてもよい。この場合、上述した好適な2価の芳香族炭化水素基の炭素数には、置換基の炭素数は含まれないこととする。置換基としては、ハロゲン原子、飽和若しくは不飽和炭化水素基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、1価の複素環基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基等が挙げられる。これらの置換基としての飽和炭化水素基としては、上述したR1及びR2におけるアルキル基として例示したものと同じ基が挙げられ、不飽和炭化水素基としては、ビニル基、1−プロペニル基、アリル基、プロパルギル基、イソプロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基等が挙げられ、ビニル基が好ましい。また、アリール基、アルコキシ基、1価の複素環基としては、R1及びR2についてそれらの基として例示したものと同じ基がそれぞれ挙げられ、アリールオキシ基としては、オキシ基(−O−)に同様のアリール基が結合したものが挙げられる。
【0039】
また、2価の複素環基とは、複素環式化合物から水素原子2個を除いた残りの原子団をいう。2価の複素環基は、炭素数は3〜60であると好ましく、3〜20であるとより好ましい。ここで、複素環式化合物とは、環式構造をもつ有機化合物のうち、環を構成する原子が炭素原子だけでなく、酸素原子、硫黄原子、窒素原子、リン原子、ホウ素原子、ケイ素原子等のヘテロ原子を環内に含むものをいう。複素環式化合物としては、チオフェン、チエノチオフェン、ジチエノチオフェン、チオフェン環が4又は5個縮環した化合物、ベンゾチオフェン、ベンゾジチオフェン、ジベンゾチオフェン、シクロペンタジチオフェン、ピロール、ピリジン、ベンゾチアジアゾール、ピリミジン、ピラジン、トリアジンが挙げられ、チオフェン、チエノチオフェン、ジチエノチオフェン、シクロペンタジチオフェン、ベンゾチアジアゾールが好ましい。
【0040】
2価の複素環基も置換基を有していてよいが、上述した2価の複素環基の炭素数には、置換基の炭素数は含まれない。置換基としては、ハロゲン原子、飽和若しくは不飽和炭化水素基、アリール基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールオキシ基、1価の複素環基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基等が挙げられる。これらの置換基としては、上述した2価の芳香族炭化水素基が有していてもよい置換基と同じものが挙げられる。
【0041】
2価の芳香族炭化水素基又は2価の複素環基としては、ベンゼン環、ペンタセン環、ピレン環又はフルオレン環から水素原子2個を除いた残りの原子団からなる基が特に好ましい。
【0042】
式(3)で表される構造単位におけるAr1で表される基としては、上記式(4)で表される基が特に好ましい。多環縮環重合体がこのような基を構造単位中に含んでいると、より優れた溶媒への溶解性や電荷輸送性が得られ易くなる。
【0043】
式(4)中のZ1としては、上記式(i)〜(ix)で表される基のうちのいずれかの基が好ましく、式(ii)、(vii)で表される基のうちのいずれかの基がより好ましく、式(ii)で表される基が特に好ましい。Z1が式(i)、(ii)又は(ix)で表される基である場合、式(4)で表される基はそれぞれチオフェン環、フラン環又はピロール環の構造を有する。これらの環、特にチオフェン環は、好適な電気的性質を示すため、種々の電気的特性を発揮することが可能となる。
【0044】
また、R5〜R10は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子又は1価の基であるが、R5とR6、又は、R7とR8が1価の基である場合は、これらは互いに結合して環を形成していてもよい。R5〜R10で表される1価の基としては、直鎖状若しくは分岐状の低分子鎖を有する基及び1価の環状基が好ましい。なお、1価の環状基は、単環及び縮合環のどちらでもよく、炭化水素環及び複素環のどちらでもよく、飽和環及び不飽和環のどちらでもよく、さらに置換基を有していてもよい。これらの1価の基は、電子供与基であっても電子吸引基であってもよい。
【0045】
なかでも、R5〜R10の1価の基としては、低分子鎖の炭素数が1〜20である低分子鎖を有する基、環状基の構成原子数が3〜60である環状基が好ましい。具体的には、飽和若しくは不飽和炭化水素基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アシルオキシ基(IUPAC名:アルカノイルオキシ基)、アミノ基、オキシアミノ基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アシルアミノ基(IUPAC名:アルカノイルアミノ基)、シアノ基、ニトロ基、スルホ基、1個以上のハロゲン原子で水素原子が置換されたアルキル基、アルコキシスルホニル基(ただし、アルキル部分に含まれる水素原子の1個以上は、ハロゲン原子で置換されてもよい)、アルキルスルホニル基(ただし、アルキル部分に含まれる水素原子の1個以上は、ハロゲン原子で置換されてもよい)、スルファモイル基、アルキルスルファモイル基、カルボキシル基、カルバモイル基、アルキルカルバモイル基、アシル基、アルコキシカルボニル基がより好ましい。
【0046】
上述した1価の基のうち、飽和炭化水素基(すなわち、アルキル基)としては、炭素数1〜20の飽和炭化水素基が好ましい。例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基又はtert−ブチル基が好ましい。また、上述した1価の基のうち、アルキル基を構造中に含む基(アルコキシ基、アルキルアミノ基、アルコキシカルボニル基等)におけるアルキル基としても、上記アルキル基と同様の基が好ましい。
【0047】
不飽和炭化水素基としては、炭素数1〜20の不飽和炭化水素基が好ましい。例えば、ビニル基、1−プロペニル基、アリル基、プロパルギル基、イソプロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基等が挙げられ、ビニル基が好ましい。
【0048】
アシル基(IUPAC名:アルカノイル基)としては、炭素数1〜20のアシル基が好ましい。好ましいアシル基としては、RC(=O)−で表される基(Rは、水素原子又はアルキル基)が挙げられる。その場合、アシル基の炭素数にはカルボニル炭素も含まれる。例えば、ホルミル基(IUPAC名:メタノイル基)は、炭素数1のアルカノイル基である。アシル基としては、ホルミル基(IUPAC名:メタノイル基)、アセチル基(IUPAC名:エタノイル基)、プロピオニル基(IUPAC名:プロパノイル基)、イソブチリル基(IUPAC名:イソブチロイル基)、バレリル基(IUPAC名:ペンタノイル基)、イソバレリル基(IUPAC名:3−メチルブタノイル基)等が挙げられる。また、アシル基を構造中に含む基(アシルオキシ基、アシルアミノ基等)におけるアシル基も同様である。好ましいアシル基としては、ホルミル基、アセチル基が挙げられる。さらに、ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。
【0049】
上述した構造を有する本実施形態の多環縮環重合体としては、式(9)〜(21)で表される構造を有するものが好適である。なお、式(9)〜(21)中の各符号を有する基は、いずれも上記で説明した同一符号の基と同義である。またAr11は、Ar1と同義であって、これらと同じ基であっても異なる基であっていてもよい。k及びk’は、0〜6の整数であり、0〜2の整数が好ましい。さらに、下記構造中、同一の符号が複数存在することになる場合、同一符号の基同士はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0050】
【化7】
【化8】
【0051】
【化9】
【化10】
【0052】
【化11】
【化12】
【0053】
【化13】
【化14】
【0054】
【化15】
【化16】
【0055】
【化17】
【化18】
【化19】
【0056】
多環縮環重合体の末端基としては、水素原子、フッ素原子、アルキル基、アルコキシ基、アシル基、アミノケト基、アリール基、1価の複素環基(これらの基に結合している水素原子の一部又は全部はフッ素原子と置換されていてもよい)、α−フルオロケトン構造を有する基や、その他の電子供与基及び電子吸引基等が挙げられる。なかでも、アルキル基、アルコキシ基、アリール基及び1価の複素環基が好ましい。また、末端基は、主鎖の共役構造と連続した共役結合を有するものも好ましい。このような末端基としては、例えば、主鎖と炭素−炭素結合を介して結合したアリール基及び1価の複素環基が挙げられる。なお、これらの末端基としてのアルキル基、アルコキシ基、アリール基、1価の複素環基としては、上述したR1及びR2についてそれらの基として例示したものと同じ基が挙げられ、アシル基としては、上述したR5〜R10におけるアシル基と同じ基が挙げられる。
【0057】
さらに、多環縮環重合体の末端基としては、重合活性基も挙げられる。末端基として重合活性基を有している場合、その多環縮環重合体は、更に高分子量の多環縮環重合体を得るための前駆体として用いることもできる。このような前駆体として用いる場合、多環縮環重合体は、分子内に2つの重合活性基を有していることが好ましい。
【0058】
重合活性基としては、ハロゲン原子、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アルキルスルホネート基、アリールスルホネート基、アリールアルキルスルホネート基、スズ原子に1〜3つのアルキル基が結合したアルキルスタニル基、スズ原子に1〜3つのアリール基が結合したアリールスタニル基、スズ原子に1〜3つのアリールアルキル基が結合したアリールアルキルスタニル基、ホウ酸エステル残基、スルホニウムメチル基、ホスホニウムメチル基、ホスホネートメチル基、モノハロゲン化メチル基、ホウ酸残基(−B(OH)2で表される基)、ホルミル基、ビニル基等が例示される。これらの重合活性基中に含まれるアルキル基、アルコキシ基、アリール基としては、上述したR1及びR2についてそれらの基として例示したものと同じ基が挙げられる。重合活性基としては、なかでも、ハロゲン原子、アルキルスタニル基、ホウ酸エステル基が好ましい。ここで、ホウ酸エステル残基とは、ホウ酸エステルにおけるホウ素原子が有する結合手の1つが置換用の結合手に置き換えられた構造を有する1価の基であり、式(100a)〜(100d)で表される基が挙げられる。
【化20】
【0059】
なお、多環縮環重合体を有機薄膜として用いる場合、末端基として重合活性基がそのまま残っていると、有機薄膜素子を形成したときの特性や耐久性が低下するおそれがあることから、重合活性基は安定な基で保護するようにしてもよい。
【0060】
多環縮環重合体としては、式(22)〜(37)で表される構造を有するものが、より高い電荷移動度及び優れた溶媒への溶解性を両立させ得ることから特に好適である。
【化21】
【化22】
【0061】
【化23】
【化24】
【0062】
【化25】
【化26】
【0063】
【化27】
【化28】
【0064】
【化29】
【化30】
【0065】
【化31】
【化32】
【0066】
【化33】
【化34】
【0067】
【化35】
【化36】
【0068】
式(22)〜(37)中、R10及びR11は、それぞれ独立に、上述した末端基を示す。なかでも、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、1価の複素環基が好ましい。Rは、水素原子または1価の基を示し、かかる1価の基としては、R3及びR4としての1価の基と同じ基が例示できる。また、pは2以上の整数を示し、qはq=p−1を満たす整数である。p及びqは、多環縮環重合体を用いた有機薄膜の形成方法に応じて選ぶことができる。すなわち、多環縮環重合体が昇華性を有しているのであれば、真空蒸着法等の気相成長法を用いて有機薄膜にすることができることから、この場合、p及びqは2〜10が好ましく、2〜5がさらに好ましい。一方、多環縮環重合体を有機溶媒に溶解させた溶液を塗布する方法により有機薄膜を形成する場合、p及びqは、それぞれ独立に、3〜500が好ましく、6〜300がより好ましく、20〜200がさらに好ましい。
【0069】
上述した多環縮環重合体は、塗布により有機薄膜を形成したときの膜の均一性が向上するので、ポリスチレン換算の数平均分子量が、1×103〜1×108であると好ましく、1×103〜1×106であるとより好ましく、5×103〜1×105であるとさらに好ましい。
【0070】
[多環縮環重合体の製造方法]
上述した構造を有する多環縮環重合体の製造方法としては、以下に示すように多環縮環化合物を重合させる方法が簡便であるため、特に好ましい。以下の例では、上記式(1)で表される構造単位と、上記式(3)で表される構造単位とを備えた構造を有する多環縮環重合体の好適な製造方法について説明する。
【0071】
すなわち、本実施形態の多環縮環重合体は、式(1)で表される構造単位を形成するための多環縮環化合物と、式(3)で表される構造単位を形成するための原料モノマーとを反応させて重合体を形成することにより得ることができる。
【0072】
式(1)で表される構造単位を形成するための多環縮環化合物としては、上記式(5)で表される多環縮環化合物においてY1及びY2が重合活性基である多環縮環化合物が好適である。さらに、式(3)で表される構造単位を形成するためのモノマー化合物としては、式(38)で表される化合物が好適である。なお、これらの多環縮環化合物やモノマー化合物としては、それぞれ複数種を組み合わせて用いてもよい。
【化37】
【0073】
ここで、式(5)において、上述した「多環縮環重合体」で説明したのと同じ符号は、いずれも上記と同義である。Y1及びY2は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜30のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数6〜60のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数4〜60の複素環基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アルキルスルホネート基、アリールスルホネート基、アリールアルキルスルホネート基、アルキルスタニル基、アリールスタニル基、アリールアルキルスタニル基、ホウ酸エステル残基、スルホニウムメチル基、ホスホニウムメチル基、ホスホネートメチル基、モノハロゲン化メチル基、ホウ酸残基、ホルミル基、ビニル基等が挙げられる。これらのうち、Y1及びY2としてのアルキル基、アリール基、複素環基としては、上述したR1及びR2についてそれらの基として例示したものと同じ基が挙げられ、その他の基としては、上述した重合活性基において例示したものと同じ基が挙げられる。
【0074】
式(38)におけるAr1は、式(3)におけるAr1と同じである。また、Y2及びY3としては、それぞれ独立に、上記Y1及びY2と同じ基が挙げられる。
【0075】
また、本実施形態の多環縮環重合体は、例えば、上記式(7)で表される多環縮環化合物においてY5及びY6が重合活性基であるものを重合することによって得ることもできる。式(7)で表される多環縮環化合物は、モノマーの状態で式(3)で表される構造単位に相当する構造を含むものである。そのため、式(7)で表される多環縮環化合物を重合することで、式(1)で表される構造単位及び式(3)で表される構造単位を含む多環縮環重合体が得られる。
【0076】
また、式(7)において、上述した「多環縮環重合体」で説明したのと同じ符号は、いずれも上記と同義である。Y5及びY6は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数6〜60のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数4〜60の1価の複素環基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アルキルスルホネート基、アリールスルホネート基、アリールアルキルスルホネート基、アルキルスタニル基、アリールスタニル基、アリールアルキルスタニル基、ホウ酸エステル残基、スルホニウムメチル基、ホスホニウムメチル基、ホスホネートメチル基、モノハロゲン化メチル基、ホウ酸残基、ホルミル基、又はビニル基を示す。Y5及びY6におけるこれらの基としては、Y1及びY2についてそれらの基として例示したものと同じ基が挙げられる。なお、アルキル基は、直鎖状、分岐状及び環状のいずれであってもよい。
【0077】
さらに、式(7)において、Ar2及びAr3は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい複素環基を示す。これらの芳香族炭化水素基又は複素環基としては、上記Ar1として例示したものと同じ基が挙げられる。特に、式(7)においては、Ar2及びAr3の少なくとも一方は置換基を有していてもよい複素環基であると好適である。この場合、分子間のヘテロ原子同士の相互作用により、π−πスタック構造をとりやすくなる。
【0078】
多環縮環化合物やモノマー化合物を多環縮環重合体の原料として用いる場合には、Y1、Y2、Y3、Y4、Y5及びY6は、上述したような重合活性基であると好ましい。これにより、多環縮環化合物やモノマー化合物の反応性が高められる。なかでも、ハロゲン原子、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アルキルスルホネート基、アリールスルホネート基、アリールアルキルスルホネート基、アルキルスタニル基、ホウ酸エステル残基、ホウ酸残基が好ましい。
【0079】
多環縮環重合体は、上述した多環縮環化合物とモノマー化合物との間や多環縮環化合物同士で結合を生じる反応を繰り返し生じさせることにより合成することができる。これらの化合物同士で結合を生じさせる反応としては、Wittig反応、Heck反応、Horner−Wadsworth−Emmons反応、Knoevenagel反応、鈴木カップリング反応、Grinard反応、Stille反応や、Ni(0)触媒を用いた重合反応等が挙げられる。その他、適当な脱離基を有する中間体化合物の分解による反応も適用でき、スルホニウム基を有する中間体化合物からポリ(p−フェニレンビニレン)を合成する方法が挙げられる。Y1、Y2、Y3、Y4、Y5及びY6で表される基の組み合わせは、目的とする反応に応じて選択することができる。
【0080】
上述した多環縮環重合体の合成方法のなかでも、Wittig反応を用いる方法、Heck反応を用いる方法、Horner−Wadsworth−Emmons反応を用いる方法、Knoevenagel反応を用いる方法、Suzukiカップリング反応を用いる方法、Grignard反応を用いる方法、Stille反応を用いる方法、又はNi(0)触媒を用いる方法が、多環縮環重合体の構造を制御し易いことから好ましい。特に、Suzukiカップリング反応を用いる方法、Grignard反応を用いる方法、Stille反応を用いる方法、Ni(0)触媒を用いる方法が、原料を入手しやすく、また反応操作も簡便であるためより好ましい。
【0081】
多環縮環重合体の合成反応は、例えば、原料である多環縮環化合物やモノマー化合物を、必要に応じて有機溶媒に溶解した後、必要に応じてアルカリや適当な触媒の存在下、有機溶媒の融点以上沸点以下の温度で反応させることにより行うことができる。
【0082】
このような反応においては、用いる化合物や反応の種類によっても異なるが、一般に副反応を抑制するために、有機溶媒として十分に脱酸素処理が施されたものを用いることが好ましく、脱水処理が施された溶媒を用いることも好適である(ただし、Suzukiカップリング反応のような水との2相系での反応の場合にはその限りではない)。また、反応は、不活性雰囲気下で進行させることが好ましい。
【0083】
反応に用いる溶媒としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン等の飽和炭化水素、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン等の不飽和炭化水素、四塩化炭素、クロロホルム、ジクロロメタン、クロロブタン、ブロモブタン、クロロペンタン、ブロモペンタン、クロロヘキサン、ブロモヘキサン、クロロシクロヘキサン、ブロモシクロヘキサン等のハロゲン化飽和炭化水素、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン等のハロゲン化不飽和炭化水素、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、tert−ブチルアルコール等のアルコール類、蟻酸、酢酸、プロピオン酸等のカルボン酸類、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチル−tert−ブチルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、ジオキサン等のエーテル類、塩酸、臭化水素酸、フッ化水素酸、硫酸、硝酸等の無機酸等が挙げられる。上記溶媒は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0084】
また、上述したアルカリや適当な触媒を添加することによって、多環縮環重合体の合成反応を効率よく生じさせることができる。アルカリや触媒は、生じさせる反応に応じて選択すればよい。アルカリや触媒としては、反応に用いる溶媒に十分に溶解するものが特に好ましい。
【0085】
多環縮環重合体からなる有機薄膜を有機薄膜素子に用いる場合、多環縮環重合体の純度が素子特性に影響を与える傾向にある。そのため、反応前の多環縮環化合物やモノマー化合物は、蒸留、昇華精製、再結晶等の方法によって精製した後に反応させることが好ましい。また多環縮環重合体を合成した後は、再沈精製、クロマトグラフィーによる分別等の純化処理を行うことが好ましい。
【0086】
反応後、多環縮環重合体は、水を用いて反応を停止させた後に有機溶媒による抽出を行い、更に溶媒を留去する等の通常の後処理で得ることができる。多環縮環重合体の単離及び精製は、クロマトグラフィーによる分取や再結晶等の方法により行うことができる。
【0087】
上述した多環縮環重合体の製造に用いる多環縮環化合物は、例えば、下記スキームによって表される反応によって得ることができる。下記の例では、式(5)で表される多環縮環化合物を製造する工程を示す。下記スキーム中、m及びnは上記と同義であり、Xは上述したX1及びX2と同義であり、Yは上述したY1及びY2と同義であり、さらに、環に結合している−S−Rで表される基は、上述したR1及びR2として示されたアルキルチオ基と同様のものである。なお、多環縮環化合物は、以下のような方法によって好適に得られるが、その他の方法によって製造してもよい。
【化38】
【化39】
【0088】
このような多環縮環化合物を生成する反応においては、反応性の高い官能基を保護するため、その官能基をその後の反応では不活性な官能基(保護基)で変換する工程や、さらに反応の終了後に保護基を外す工程を更に行ってもよい。保護基は、保護すべき官能基や用いる反応等に応じて選択することができる。例えば、活性水素の保護にはトリメチルシリル(TMS)、トリエチルシリル(TES)、tert−ブチルジメチルシリル(TBS又はTBDMS)、トリイソプロピルシリル(TIPS)、tert−ブチルジフェニルシリル(TBDPS)等を適用できる。
【0089】
また、上記の多環縮環化合物を合成する反応では、式中に示されるように、必要に応じて適切な溶媒を用いることができる。溶媒としては、なるべく目的の反応を阻害しないものであることが好ましい。溶媒としては、ヘキサン等の脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素、アセトニトリル等のニトリル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン等のエーテル、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、四塩化炭素等のハロゲン化溶媒等が挙げられ、ジクロロメタンが好ましい。これらは、単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0090】
なお、上述した多環縮環重合体、及び、その原料である多環縮環化合物の合成における反応条件や用いる反応試薬等は、上記で例示したもの以外も選択して用いることが可能である。
【0091】
また、上述した多環縮環化合物は、それ自体が高い電荷輸送性を有することもあるため、そのまま電荷輸送性材料として用いることができる場合がある。特に、式(7)で表される化合物は、高い電荷輸送性を示す傾向にある。式(7)で表される化合物のうち、電荷輸送性材料として好適な化合物としては、式(38)〜(45)で表される構造を有するものが挙げられる。なお、式(38)〜(45)中、上述されたものと同じ符号が付された基は、いずれも上記と同義である。R12及びR13は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基又は1価の複素環基を示し、なかでもアルキル基が好ましい。R12及びR13としてのアルキル基、アルコキシ基、アリール基又は1価の複素環基としては、上述したR1及びR2についてそれらの基として例示したものと同じ基が挙げられる。
【0092】
【化40】
【0093】
【化41】
【0094】
【化42】
【0095】
【化43】
【0096】
[有機薄膜]
次に、好適な実施形態に係る有機薄膜について説明する。有機薄膜は、上述した実施形態の多環縮環重合体又は多環縮環化合物を含み、膜状の形状を有する構成を有している。
【0097】
有機薄膜の好適な厚さは、当該有機薄膜を適用する素子に応じて異なるが、1nm〜100μmの範囲であると好ましく、2nm〜1000nmであるとより好ましく、5nm〜500nmであると更に好ましく、20nm〜200nmであると特に好ましい。
【0098】
有機薄膜は、本発明の多環縮環重合体又は多環縮環化合物の1種類を単独で含むものであってもよく、また多環縮環重合体又は多環縮環化合物の2種類以上を含むものであってもよい。また、有機薄膜の電子輸送性又はホール輸送性を高めるため、多環縮環重合体又は多環縮環化合物以外に電子輸送性又はホール輸送性を有した低分子化合物又は高分子化合物を混合して用いることもできる。有機薄膜が、多環縮環重合体又は多環縮環化合物以外の成分を含む場合は、良好な電荷移動度となるので、多環縮環重合体又は多環縮環化合物を30質量%以上含むことが好ましく、50質量%以上含むことがより好ましい。
【0099】
ホール輸送性を有する化合物としては、ピラゾリン誘導体、アリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、トリフェニルジアミン誘導体、オリゴチオフェン及びその誘導体、ポリビニルカルバゾール及びその誘導体、ポリシラン及びその誘導体、側鎖若しくは主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体、ポリアニリン及びその誘導体、ポリチオフェン及びその誘導体、ポリピロール及びその誘導体、ポリフェニレンビニレン及びその誘導体、ポリチエニレンビニレン及びその誘導体が例示できる。
【0100】
また、電子輸送性を有する化合物としては、オキサジアゾール誘導体、アントラキノジメタン及びその誘導体、ベンゾキノン及びその誘導体、ナフトキノン及びその誘導体、アントラキノン及びその誘導体、テトラシアノアンスラキノジメタン及びその誘導体、フルオレノン誘導体、ジフェニルジシアノエチレン及びその誘導体、ジフェノキノン誘導体、8−ヒドロキシキノリン及びその誘導体の金属錯体、ポリキノリン及びその誘導体、ポリキノキサリン及びその誘導体、ポリフルオレン及びその誘導体、C60等のフラーレン類及びその誘導体が例示できる。
【0101】
有機薄膜は、その特性を向上させるために、その他の成分を含有していてもよい。その他の成分としては、電荷発生材料が挙げられる。有機薄膜が電荷発生材料を含むことで、当該薄膜が光を吸収して電荷を発生するようになり、光の吸収による電荷発生を要する光センサ等の用途に好適となる。
【0102】
電荷発生材料としては、アゾ化合物及びその誘導体、ジアゾ化合物及びその誘導体、無金属フタロシアニン化合物及びその誘導体、金属フタロシアニン化合物及びその誘導体、ペリレン化合物及びその誘導体、多環キノン系化合物及びその誘導体、スクアリリウム化合物及びその誘導体、アズレニウム化合物及びその誘導体、チアピリリウム化合物及びその誘導体、C60等のフラーレン類及びその誘導体等が挙げられる。
【0103】
また、有機薄膜は、種々の機能を発現させるために必要な材料を含んでいてもよい。例えば、吸収した光により電荷を発生させる機能を増感するための増感剤、安定性を増すための安定化剤、紫外(UV)光を吸収するためのUV吸収剤等が挙げられる。
【0104】
さらに、有機薄膜は、その機械的強度を高めることができるので、高分子化合物材料を高分子バインダーとして含有していてもよい。このような高分子バインダーとしては、電荷輸送性を過度に低下させないものが好ましく、また、可視光を過度に吸収しないものが好ましい。
【0105】
高分子バインダーとしては、ポリ(N−ビニルカルバゾール)、ポリアニリン及びその誘導体、ポリチオフェン及びその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)及びその誘導体、ポリ(2,5−チエニレンビニレン)及びその誘導体、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリシロキサン等が挙げられる。
【0106】
上述した有機薄膜は、例えば、以下の方法によって製造することができる。
【0107】
すなわち、有機薄膜は、多環縮環重合体又は多環縮環化合物、並びに、必要に応じて上述したその他の成分を溶媒に溶解させた溶液を、所定の基材上に塗布した後、溶媒を揮発させる等により除去することによって形成することができる。なお、多環縮環重合体又は多環縮環化合物が昇華性を有する場合は、真空蒸着法等の方法により有機薄膜を形成することもできる。
【0108】
溶媒としては、多環縮環重合体又は多環縮環化合物や、その他の成分を溶解又は均一に分散し得るものが好ましい。このような溶媒としては、トルエン、キシレン、メシチレン、テトラリン、デカリン、n−ブチルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒、四塩化炭素、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロブタン、ブロモブタン、クロロペンタン、ブロモペンタン、クロロヘキサン、ブロモヘキサン、クロロシクロヘキサン、ブロモシクロヘキサン等のハロゲン化飽和炭化水素系溶媒、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素系溶媒、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン等のエーテル類系溶媒が例示できる。多環縮環重合体又は多環縮環化合物は、溶媒に0.1質量%以上溶解させることが好ましい。
【0109】
溶液を塗布する方法としては、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェット印刷法、ディスペンサー印刷法等が挙げられる。なかでも、スピンコート法、フレキソ印刷法、インクジェット印刷法及びディスペンサー印刷法が好ましい。
【0110】
なお、有機薄膜に対しては、その用途に応じて有機薄膜中の多環縮環重合体又は多環縮環化合物を配向させる工程を更に施してもよい。かかる配向によって、有機薄膜中の多環縮環重合体又は多環縮環化合物の主鎖や側鎖が一定の方向に並ぶこととなり、有機薄膜の電荷輸送性が更に高められる。
【0111】
有機薄膜の配向方法としては、通常液晶等の配向に用いられる方法を適用することができる。具体的には、ラビング法、光配向法、シェアリング法(ずり応力印加法)、引き上げ塗布法が、簡便かつ有用であることから好ましく、ラビング法、シェアリング法がより好ましい。
【0112】
[有機薄膜素子]
上述した実施形態の有機薄膜は、上記実施形態の多環縮環重合体又は多環縮環化合物を含むことから、優れた電荷輸送性を有するものである。したがって、この有機薄膜は、電極等から注入された電子又はホール、或いは、光吸収により発生した電荷等を効率よく輸送できるものであり、有機薄膜を用いた各種の電気素子(有機薄膜素子)に応用することができる。なお、有機薄膜をこれらの有機薄膜素子に用いる場合は、配向処理により配向させて用いると、より高い電子輸送性又はホール輸送性が得られることから好ましい傾向にある。以下、有機薄膜素子の例についてそれぞれ説明する。
【0113】
(有機薄膜トランジスタ)
まず、好適な実施形態に係る有機薄膜トランジスタについて説明する。有機薄膜トランジスタは、ソース電極及びドレイン電極、これらの間の電流経路となり本発明の多環縮環重合体又は多環縮環化合物を含む活性層(すなわち、有機薄膜層)、電流経路を通る電流量を制御するゲート電極を備えた構造であればよく、電界効果型、静電誘導型などが例示される。
【0114】
電界効果型有機薄膜トランジスタは、ソース電極及びドレイン電極、これらの間の電流経路となり本発明の多環縮環重合体又は多環縮環化合物を含む活性層、電流経路を通る電流量を制御するゲート電極、並びに、活性層とゲート電極との間に配置される絶縁層を備えることが好ましい。特に、ソース電極及びドレイン電極が、本発明の多環縮環重合体又は多環縮環化合物を含む活性層に接して設けられており、さらに活性層に接した絶縁層を挟んでゲート電極が設けられていることが好ましい。
【0115】
一方、静電誘導型有機薄膜トランジスタは、ソース電極及びドレイン電極、これらの間の電流経路となり本発明の多環縮環重合体又は多環縮環化合物を含む活性層、並びに電流経路を通る電流量を制御するゲート電極を有し、ゲート電極が活性層中に設けられていることが好ましい。特に、ソース電極、ドレイン電極及び活性層中に設けられたゲート電極が、本発明の多環縮環重合体又は多環縮環化合物を含む活性層に接して設けられていることが好ましい。ゲート電極の構造としては、ソース電極からドレイン電極へ流れる電流経路が形成され、かつゲート電極に印加した電圧で電流経路を流れる電流量が制御できる構造であればよく、例えば、くし形電極が挙げられる。
【0116】
図1は第1実施形態に係る有機薄膜トランジスタ(電界効果型有機薄膜トランジスタ)の模式断面図である。図1に示す有機薄膜トランジスタ100は、基板1と、基板1上に所定の間隔を持って形成されたソース電極5及びドレイン電極6と、ソース電極5及びドレイン電極6を覆うようにして基板1上に形成された活性層2と、活性層2上に形成された絶縁層3と、ソース電極5とドレイン電極6との間の絶縁層3の領域を覆うように絶縁層3上に形成されたゲート電極4と、を備えるものである。
【0117】
図2は第2実施形態に係る有機薄膜トランジスタ(電界効果型有機薄膜トランジスタ)の模式断面図である。図2に示す有機薄膜トランジスタ110は、基板1と、基板1上に形成されたソース電極5と、ソース電極5を覆うようにして基板1上に形成された活性層2と、ソース電極5と所定の間隔を持って活性層2上に形成されたドレイン電極6と、活性層2及びドレイン電極6上に形成された絶縁層3と、ソース電極5とドレイン電極6との間の絶縁層3の領域を覆うように絶縁層3上に形成されたゲート電極4と、を備えるものである。
【0118】
図3は、第3の実施形態に係る有機薄膜トランジスタ(電界効果型有機薄膜トランジスタ)の模式断面図である。図3に示す有機薄膜トランジスタ120は、基板1と、基板1上に形成された活性層2と、活性層2上に所定の間隔を持って形成されたソース電極5及びドレイン電極6と、ソース電極5及びドレイン電極6を一部覆うようにして活性層2上に形成された絶縁層3と、ソース電極5が下部に形成されている絶縁層3の領域とドレイン電極6が下部に形成されている絶縁層3の領域とをそれぞれ一部覆うように、絶縁層3上に形成されたゲート電極4と、を備えるものである。
【0119】
図4は、第4実施形態に係る有機薄膜トランジスタ(電界効果型有機薄膜トランジスタ)の模式断面図である。図4に示す有機薄膜トランジスタ130は、基板1と、基板1上に形成されたゲート電極4と、ゲート電極4を覆うようにして基板1上に形成された絶縁層3と、ゲート電極4が下部に形成されている絶縁層3の領域を一部覆うように、絶縁層3上に所定の間隔を持って形成されたソース電極5及びドレイン電極6と、ソース電極5及びドレイン電極6を一部覆うように絶縁層3上に形成された活性層2と、を備えるものである。
【0120】
図5は、第5実施形態に係る有機薄膜トランジスタ(電界効果型有機薄膜トランジスタ)の模式断面図である。図5に示す有機薄膜トランジスタ140は、基板1と、基板1上に形成されたゲート電極4と、ゲート電極4を覆うようにして基板1上に形成された絶縁層3と、ゲート電極4が下部に形成されている絶縁層3の領域を一部覆うように絶縁層3上に形成されたソース電極5と、ソース電極5を一部覆うようにして絶縁層3上に形成された活性層2と、ゲート電極4が下部に形成されている活性層2の領域を一部覆うように、ソース電極5と所定の間隔を持って絶縁層3上に形成されたドレイン電極6と、を備えるものである。
【0121】
図6は、第6実施形態に係る有機薄膜トランジスタ(電界効果型有機薄膜トランジスタ)の模式断面図である。図6に示す有機薄膜トランジスタ150は、基板1と、基板1上に形成されたゲート電極4と、ゲート電極4を覆うようにして基板1上に形成された絶縁層3と、ゲート電極4が下部に形成されている絶縁層3の領域を覆うように形成された活性層2と、ゲート電極4が下部に形成されている活性層2の領域を一部覆うように絶縁層3上に形成されたソース電極5と、ゲート電極4が下部に形成されている活性層2の領域を一部覆うように、ソース電極5と所定の間隔を持って絶縁層3上に形成されたドレイン電極6と、を備えるものである。
【0122】
図7は、第7実施形態に係る有機薄膜トランジスタ(静電誘導型有機薄膜トランジスタ)の模式断面図である。図7に示す有機薄膜トランジスタ160は、基板1と、基板1上に形成されたソース電極5と、ソース電極5上に形成された活性層2と、活性層2上に所定の間隔を持って複数形成されたゲート電極4と、ゲート電極4の全てを覆うようにして活性層2上に形成された活性層2a(活性層2aを構成する材料は、活性層2と同一でも異なっていてもよい)と、活性層2a上に形成されたドレイン電極6と、を備えるものである。
【0123】
第1〜第7実施形態に係る有機薄膜トランジスタにおいては、活性層2及び/又は活性層2aは、本発明の多環縮環重合体又は多環縮環化合物を含有しており、ソース電極5とドレイン電極6の間の電流通路(チャネル)となる。また、ゲート電極4は、電圧を印加することにより活性層2及び/又は活性層2aにおける電流通路(チャネル)を通る電流量を制御する。
【0124】
このような電界効果型有機薄膜トランジスタは、公知の方法、例えば特開平5−110069号公報記載の方法により製造することができる。また、静電誘導型有機薄膜トランジスタは、公知の方法、例えば特開2004−006476号公報記載の方法により製造することができる。
【0125】
基板1としては、有機薄膜トランジスタとしての特性を阻害しなければよく、ガラス基板やフレキシブルなフィルム基板やプラスチック基板を用いることができる。
【0126】
活性層2を形成する際に、有機溶媒可溶性の化合物を用いることが製造上有利であり好ましいことから、上記で説明した有機薄膜の製造方法を用いて、活性層2となる有機薄膜を形成することができる。
【0127】
活性層2に接した絶縁層3としては、電気の絶縁性が高い材料であればよく、公知のものを用いることができる。例えば、SiOx、SiNx、Ta2O5、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルフェノール、有機ガラス及びフォトレジストが挙げられる。低電圧化できるので、誘電率の高い材料の方が好ましい。
【0128】
絶縁層3の上に活性層2を形成する場合は、絶縁層3と活性層2の界面特性を改善するため、シランカップリング剤等の表面処理剤で絶縁層3の表面を処理して表面改質した後に活性層2を形成することも可能である。表面処理剤としては、長鎖アルキルクロロシラン類、長鎖アルキルアルコキシシラン類、フッ素化アルキルクロロシラン類、フッ素化アルキルアルコキシシラン類、ヘキサメチルジシラザン等のシリルアミン化合物が挙げられる。表面処理剤で処理する前に、絶縁層表面をオゾンUV、O2プラズマで処理をしておくことも可能である。
【0129】
また、有機薄膜トランジスタの作製後には、素子を保護するために有機薄膜トランジスタ上に保護膜を形成することが好ましい。これにより、有機薄膜トランジスタが、大気から遮断され、有機薄膜トランジスタの特性の低下を抑えることができる。また、保護膜により有機薄膜トランジスタの上に駆動する表示デバイスを形成する工程からの影響を低減することができる。
【0130】
保護膜を形成する方法としては、UV硬化樹脂、熱硬化樹脂又は無機のSiONx膜でカバーする方法が挙げられる。大気との遮断を効果的に行うため、有機薄膜トランジスタを作製後、保護膜を形成するまでの工程を大気に曝すことなく(例えば、乾燥した窒素雰囲気中、真空中で)行うことが好ましい。
【0131】
(太陽電池)
次に、本発明の有機薄膜の太陽電池への応用を説明する。図8は、実施形態に係る太陽電池の模式断面図である。図8に示す太陽電池200は、基板1と、基板1上に形成された第1の電極7aと、第1の電極7a上に形成された本発明の多環縮環重合体又は多環縮環化合物を含む有機薄膜からなる活性層2と、活性層2上に形成された第2の電極7bと、を備えるものである。
【0132】
本実施形態に係る太陽電池においては、第1の電極7a及び第2の電極7bの一方に透明又は半透明の電極を用いる。電極材料としては、アルミニウム、金、銀、銅、アルカリ金属、アルカリ土類金属等の金属及びそれらの半透明膜、透明導電膜を用いることができる。高い開放電圧を得るためには、それぞれの電極として、仕事関数の差が大きくなるように選ばれることが好ましい。活性層2(有機薄膜)中には光感度を高めるために電荷発生剤、増感剤等を添加して用いることができる。基材1としては、シリコン基板、ガラス基板、プラスチック基板等を用いることができる。
【0133】
(光センサ)
次に、本発明の有機薄膜の光センサへの応用を説明する。図9は、第1実施形態に係る光センサの模式断面図である。図9に示す光センサ300は、基板1と、基板1上に形成された第1の電極7aと、第1の電極7a上に形成された本発明の多環縮環重合体又は多環縮環化合物を含む有機薄膜からなる活性層2と、活性層2上に形成された電荷発生層8と、電荷発生層8上に形成された第2の電極7bと、を備えるものである。
【0134】
図10は、第2実施形態に係る光センサの模式断面図である。図10に示す光センサ310は、基板1と、基板1上に形成された第1の電極7aと、第1の電極7a上に形成された電荷発生層8と、電荷発生層8上に形成された本発明の多環縮環重合体又は多環縮環化合物を含む有機薄膜からなる活性層2と、活性層2上に形成された第2の電極7bと、を備えるものである。
【0135】
図11は、第3実施形態に係る光センサの模式断面図である。図11に示す光センサ320は、基板1と、基板1上に形成された第1の電極7aと、第1の電極7a上に形成された本発明の多環縮環重合体又は多環縮環化合物を含む有機薄膜からなる活性層2と、活性層2上に形成された第2の電極7bと、を備えるものである。
【0136】
第1〜第3実施形態に係る光センサにおいては、第1の電極7a及び第2の電極7bの一方に透明又は半透明の電極を用いる。電荷発生層8は光を吸収して電荷を発生する層である。電極材料としては、アルミニウム、金、銀、銅、アルカリ金属、アルカリ土類金属等の金属及びそれらの半透明膜、透明導電膜を用いることができる。活性層2(有機薄膜)中には光感度を高めるためにキャリア発生剤、増感剤等を添加して用いることができる。また基材1としては、シリコン基板、ガラス基板、プラスチック基板等を用いることがきる。
【0137】
以上、本発明をその実施形態に基づいて詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。例えば、有機薄膜素子は、有機薄膜を適用した電気素子であれば上述した実施形態のものに限定されない。上記以外の有機薄膜素子としては、有機EL素子、有機メモリー、フォトリフラクティブ素子、空間光変調器、撮像素子等が挙げられる。
【実施例】
【0138】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0139】
(測定条件)
以下の合成例及び実施例において、各種の分析等は以下の条件で行った。まず、核磁気共鳴(NMR)スペクトルは、日本電子社製のJNM−GSX−400を用いて測定した。ガスクロマトグラフ−質量分析(GC−MS)は、島津製作所社製のQP−5050を用い、電子衝撃法により行った。高分解質量分析(HRMS)は、日本電子社製のJMS−DX−303を用いて行った。ガスクロマトグラフ(GC)分析は、島津製作所社製のGC−8Aにジーエルサイエンス社製のシリコンOV−17充填ガラスカラム(内径2.6mm、長さ1.5m)を装着して用いた。カラムクロマトグラフィー分離におけるシリカゲルは、和光純薬工業社製のワコーゲルC−200を用いた。分子量は、GPC測定装置(Waters製、Alliance GPC/V2000)を用い、カラム(TSKgel GMHHR−H(S)HT(東ソー製))を2本直列に接続し、カラム温度140℃にて、オルトジクロロベンゼン(流速1ml/分)の移動相で、示差屈折率検出器を用いて測定した。
【0140】
[実施例1]
<多環縮環化合物A:3,7−ビス(ドデシルチオ)ベンゾ[1,2−b;4,5−b]ジチオフェン−2,6−ジカルボン酸ブチルの合成>
まず、出発原料である2,6−ビス(ブトキシカルボニル)−3,7−ジクロロベンゾ[1,2−b;4,5−b’]ジチオフェンを、参考文献(Mitsuru Miyasaka, KojiHirano,Tetsuya Satoh, and Masahiro Miura, Adv. Synth. Catal. 2009, 351,2683)の記載を参照して合成した。100mLの二つ口反応器に2,6−ビス(ブトキシカルボニル)−3,7−ジクロロベンゾ[1,2−b;4,5−b’]ジチオフェン(1.4g,3.0mmol)、ドデカンチオール(1.3g,9.0mmol)、炭酸カリウム(1.7g,12.2mmol)、及び、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)(20mL)を加えて、窒素雰囲気下、80℃で12時間反応を行った。
【0141】
反応後の溶液に希塩酸を加え、エーテルで抽出し、硫酸ナトリウムで乾燥させ、さらに溶媒を留去した。その後、酢酸エチルを2質量%含むヘキサン溶液を展開溶媒とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーによって精製することにより、目的の3,7−ビス(ドデシルベンゾチオ)[1,2−b;4,5−b]ジチオフェン−2,6−ジカルボン酸ブチル(多環縮環化合物A)を黄色固体(1.74g,2.57mmol,収率85%)として得た。
【0142】
得られた多環縮環化合物Aの1H−NMRの測定結果は以下の通りであった。
1H−NMR(400MHz,CDCl3):δ(ppm)=0.87(t,J=7.2Hz,6H),1.02(t,J=6.2Hz,6H),1.37−1.20(m,36H),1.58−1.50(m,8H),1.84−1.77(m,4H),3.04(t,J=7.2Hz,4H),4.41(t,J=6.5Hz,4H),8.20(s,2H)
【化44】
【0143】
[実施例2]
<多環縮環化合物B:3,7−ビス(ドデシルチオ)ベンゾ[1,2−b;4,5−b’]ジチオフェン−2,6−ジカルボン酸の合成>
100mLのナスフラスコに、3,7−ビス(ドデシルチオ)ベンゾ[1,2−b;4,5−b’]ジチオフェン−2,6−ジカルボン酸ブチル(多環縮環化合物A)(1.95g,2.0mmol)、水酸化カリウム(933g,16.7mmol)、水(4mL)、及び、エタノール(24mL)を加えて、窒素雰囲気下、100℃で6時間還流を行った。
【0144】
反応後の溶液を室温まで冷却し、エタノールを留去した後、希塩酸を加えた。析出した固体を吸引ろ過により取り出し、乾燥させることにより、目的の3,7−ビス(ドデシルチオ)ベンゾ[1,2−b;4,5−b’]ジチオフェン−2,6−ジカルボン酸(多環縮環化合物B)を白色固体(1.64g,2.44mmol,収率95%)として得た。
【0145】
得られた多環縮環化合物Bの1H−NMRの測定結果は以下の通りであった。
1H−NMR(400MHz,(CD3)2SO):δ(ppm)=0.77(t,J=7.2Hz,6H),1.33−1.06(m,40H),3.03(t,J=6.9Hz,4H),7.94(s,2H)
【化45】
【0146】
[実施例3]
<多環縮環化合物C:3,7−ビス(ドデシルチオ)ベンゾ[1,2−b;4,5−b’]ジチオフェンの合成>
100mLのナスフラスコに、3,7−ビス(ドデシルチオ)ベンゾ[1,2−b;4,5−b’]ジチオフェン−2,6−ジカルボン酸(多環縮環化合物B)(1.55g,2.29mmol)、銅粉(300mg,4.72mmol)、及び、キノリン(10mL)を加えて、窒素雰囲気下、260℃で12時間加熱した。
【0147】
反応後の溶液に希塩酸を加え、エーテルで抽出し、硫酸ナトリウムで乾燥させた。そして、溶媒を留去して、ヘキサンを展開溶媒としたシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することにより、目的の3,7−ビス(ドデシルチオ)ベンゾ[1,2−b;4,5−b’]ジチオフェン(多環縮環化合物C)を白色固体(0.84g,1.52mmol,収率62%)として得た。
【0148】
得られた多環縮環化合物Cの1H−NMRの測定結果は以下の通りであった。
1H−NMR(400MHz,CDCl3):δ(ppm)=0.87(t,J=7.0Hz,6H),1.40−1.24(m,36H),1.64−1.59(m,4H),2.90(t,J=6.9Hz,4H),7.32(s,2H),7.93(s,2H)
【化46】
【0149】
[実施例4]
<多環縮環化合物D:2,6−ジブロモ−3,7−ビス(ドデシルチオ)ベンゾ[1,2−b;4,5−b’]ジチオフェンの合成>
100mLのナスフラスコに、3,7−ビス(ドデシルチオ)ベンゾ[1,2−b;4,5−b’]ジチオフェン(多環縮環化合物C)(730mg,1.52mmol)、N−ブロモスクシンイミド(NBS)(890mg,5.0mmol)、及び、DMF(10mL)を加えて、室温で6時間撹拌した。
【0150】
反応後の溶液に希塩酸を加え、エーテルで抽出し、硫酸ナトリウムで乾燥させた。溶媒を留去した後、ヘキサンを展開溶媒としたシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することにより、目的の2,6−ジブロモ−3,7−ビス(ドデシルチオ)ベンゾ[1,2−b;4,5−b’]ジチオフェン(多環縮環化合物D)を白色固体(854mg,1.35mmol,収率88%)として得た。
【0151】
得られた多環縮環化合物Dの1H−NMRの測定結果は以下の通りであった。
1H−NMR(400MHz,CDCl3):δ(ppm)=0.87(t,J=7.0Hz,6H),1.39−1.22(m,36H),1.56−1.49(m,4H),2.85(t,J=6.9Hz,4H),7.93(s,2H)
【化47】
【0152】
[実施例5]
<多環縮環化合物E:3,7−ビス(ドデシルチオ)−2,6−(5−フェニル−2−チエニル)ベンゾ[1,2−b;4,5−b’]ジチオフェンの合成>
20mLの反応器に、トルエン(1.5mL)に溶かした2,6−ジブロモ−3,7−ビス(ドデシルチオ)ベンゾ[1,2−b;4,5−b’]ジチオフェン(多環縮環化合物D)(73mg,0.12mmol)、トリブチル(5−フェニル−2チエニル)スズ(130g,0.29 mmol)、Pd(PPh3)4(14.2g,0.011mmol)、及び、DMF(1.5mL)を加えて、窒素雰囲気下、85℃で12時間反応を行った。
【0153】
反応後の溶液に希塩酸を加え、トルエンで抽出し、硫酸ナトリウムで乾燥させた。溶媒を留去した後、トルエンを展開溶媒としたシリカゲルカラムクロマトグラフィーでろ過した。溶媒を留去し、得られた固体をヘキサンとアセトンで洗浄した後、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで精製することで、目的の3,7−ビス(ドデシルチオ)−2,6−(5−フェニル−2−チエニル)ベンゾ[1,2−b;4,5−b’]ジチオフェン(多環縮環化合物E)を黄色固体(60mg,0.076mmol,収率66%)として得た。
【0154】
得られた多環縮環化合物Eの1H−NMRの測定結果は以下の通りであった。
1H−NMR(400MHz,CDCl3):δ(ppm)=0.87(t,J=6.9Hz,6H),1.30−1.15(m,32H),1.42−1.34(m,4H),1.61−1.53(m,4H),2.85(t,J=6.9,4H),7.33−7.28(m,4H),7.40(t,J=7.6Hz,4H),7.55(dd,J=4.0,1.8Hz,2H),7.68(d,J=7.6Hz,4H),δ7.98(s,2H)
【化48】
【0155】
[実施例6]
<多環縮環重合体a:3,7−ビス(ドデシルチオ)−2−(2,2’−ビチエニル)ベンゾ[1,2−b;4,5−b’]ジチオフェンポリマーの合成>
20mLの反応器に、原料として2,6−ジブロモ−3,7−ビス(ドデシルチオ)ベンゾ[1,2−b;4,5−b’]ジチオフェン(多環縮環化合物D)(180mg,0.24mmol)を用い、5,5’−ビス(トリブチルスタニル)−2,2’−ビチオフェン(180mg,0.24mmol)、Pd(PPh3)4(30.0mg,0.030mmol)、トルエン(2mL)、及び、DMF(2mL)を加えて、窒素雰囲気下、80℃で2日間反応を行った。
【0156】
反応後の溶液を、メタノール(100mL)、塩酸(10mL)の混合溶液に加え、撹拌した。その後、浮遊した固体を吸引ろ過により取り出し、ヘキサン、アセトンの順番で洗浄した。得られた固体はソックスレー抽出器を用いて、アセトンで洗浄した後、ヘキサン、クロロベンゼンで抽出した。抽出により得られた溶液にメタノールを加え、撹拌することで固体を再沈殿した。再沈殿した固体を吸引ろ過により取り出し、ヘキサン可溶分から、3,7−ビス(ドデシルチオ)−2−(チエノチエニル)ベンゾ[1,2−b;4,5−b’]ジチオフェンポリマーを赤黒色固体(56mg)として得た。また、同様にクロロベンゼン可溶分から、3,7−ビス(ドデシルチオ)−2−(チエノチエニル)ベンゾ[1,2−b;4,5−b’]ジチオフェンポリマーを赤黒色固体(多環縮環重合体a)(26mg)として得た。なお、下記式中、nは繰り返し単位数を示す。多環縮環重合体aのポリスチレン換算の数平均分子量は5,600であった。
【化49】
【0157】
[実施例7]
<多環縮環重合体b:3,7−ビス(ドデシルチオ)−2−(チエノチエニル)ベンゾ[1,2−b;4,5−b’]ジチオフェンポリマーの合成)>
20mLの反応器に、原料として2,6−ジブロモ−3,7−ビス(ドデシルチオ)ベンゾ[1,2−b;4,5−b’]ジチオフェン(多環縮環化合物D)(150mg,0.2mmol)、2,2’−ビス(トリブチルスタニル)チエノチオフェン(144mg,0.2mmol)、Pd(PPh3)4(11.56g,0.01mmol)、及び、クロロベンゼン(5mL)を加えて、窒素雰囲気下、150℃で2日間反応を行った。
【0158】
反応後の溶液を、メタノール(100mL)、及び、塩酸(10mL)の混合溶液に加え、撹拌した。その後、浮遊した固体を吸引ろ過により取り出し、ヘキサン、アセトンの順番で洗浄した。得られた固体はソックスレー抽出器を用い、アセトン、ヘキサンの順番で洗浄した後、クロロホルム、クロロベンゼンで抽出した。抽出により得られた溶液にメタノールを加え、撹拌することで固体を再沈殿した。再沈殿した固体を吸引ろ過により取り出し、クロロホルム可溶分から3,7−ビス(ドデシルチオ)−2−(チエノチエニル)ベンゾ[1,2−b;4,5−b’]ジチオフェンポリマー(多環縮環重合体b)を赤黒色固体(30mg)として得た。また、同様にクロロベンゼン可溶分から3,7−ビス(ドデシルチオ)−2−(チエノチエニル)ベンゾ[1,2−b;4,5−b’]ジチオフェンポリマー(多環縮環重合体b)を赤黒色固体(30mg)として得た。なお、下記式中、nは繰り返し単位数を示す。多環縮環重合体bのポリスチレン換算の数平均分子量は5,900であった。
【化50】
【0159】
[実施例8]
<有機薄膜トランジスタ1の製造及びそのトランジスタ特性の評価>
ゲート電極となる高濃度にドープされたp型シリコン基板の表面に、絶縁層となるシリコン酸化膜を熱酸化により300nm形成した基板を準備し、この基板をオクタデシルトリクロロシラン/オクタン(200μL/25mL)溶液に窒素中で15時間浸漬して、シリコン酸化膜表面の改質処理を行った。
【0160】
実施例7で合成した多環縮環化合物b(クロロホルム抽出分)を、0.5質量%o−ジクロロベンゼン溶液とし、塗布液を調製した。表面改質した基板と塗布液の入ったサンプル瓶をホットプレート上で130℃に加熱しておき、スピンコーターに加熱した基板をセットした後、すばやく加熱した塗布液を滴下し、スピンして、多環縮環化合物bを含む有機薄膜を形成した。得られた有機薄膜上に、真空蒸着法により三酸化モリブデン(15nm)/金(50nm)からなるソース電極及びドレイン電極(チャネル長/チャネル幅=20μm/2000μm)を形成して、有機薄膜トランジスタ1を作製した。
【0161】
得られた有機薄膜トランジスタ1に、真空中でゲート電圧Vgを0〜−60V、ソース−ドレイン間電圧Vsdを0〜−60V印加し、トランジスタ特性を測定すると、良好なドレイン電流−ゲート電圧(Id−Vg)特性が得られた。このときの移動度は1.2×10−2cm2/Vs、しきい値電圧は−10V、オン/オフ比は104であった。さらに、有機薄膜トランジスタ1を窒素雰囲気中、130℃、30分間ベーク処理した後に、トランジスタ特性を測定すると、移動度は3.3×10−2cm2/Vs、しきい値電圧は−10V、オン/オフ比は105に向上した。このことから、多環縮環化合物bを用いた有機薄膜トランジスタ1は、p型有機トランジスタとして有効に機能することが確認された。
【0162】
[参考合成例1]
<化合物G:3,7−ジ(1−ドデシニル)ベンゾ[1,2−b:4,5−b’]ジチオフェン−2,6−ジカルボン酸ジブチルの合成>
30mLの二口フラスコに、3,7−ジクロロベンゾ[1,2−b:4,5−b’]ジチオフェン−2,6−ジカルボン酸ジブチル(990mg,2.15mmol)、1−ドデシン(1.48g,8.9mmol)、PdCl2(PhCN)2(17mg,0.044mmol)、ジシクロヘキシル(2’,4’,6’−トリイソプロピルビフェニル−2−イル)ホスフィン(65.2mg,0.13mmol)、炭酸セシウム(5.79g,17.8mmol)、及び、アセトニトリル(15mL)を加え、100℃で24時間攪拌した。
【0163】
反応後の溶液を、ジエチルエーテル、水で抽出し、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させた後、ろ紙でろ過し溶媒を留去した。残存物をトルエンに溶かし、5質量%酢酸エチルを含むヘキサンを展開溶媒としたシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することにより、3,7−ジ(1−ドデシニル)ベンゾ[1,2−b:4,5−b’]ジチオフェン−2,6−ジカルボン酸ジブチルを黄白色固体(760mg,収率52%)の状態で得た(化合物G)。
【0164】
得られた化合物Gの1H−NMRの測定結果は以下の通りであった。
1H−NMR(400MHz,CDCl3):δ(ppm)=7.99(s,2H),4.39(t,J=6.4Hz,4H),2.62(t,J=6.8Hz,4H),1.83−1.71(m,8H),1.58−1.48(m,8H),1.43−1.18(m,24H),1.00(t,J=7.6Hz,6H),0.88(t,J=6.0Hz,6H)
【0165】
<化合物H:3,7−ジドデシルベンゾ[1,2−b:4,5−b’]ジチオフェン−2,6−ジカルボン酸ジブチルの合成>
50mLのオートクレーブ容器に、10質量%Pd/C(128mg,0.061mmol)を入れ、この容器内の気体を水素で置換して常圧で1時間活性化した後、3,7−ジ(1−ドデシニル)ベンゾ[1,2−b:4,5−b’]ジチオフェン−2,6−ジカルボン酸ジブチル(化合物G)(742mg,1.03mmol)を脱水エタノール(7mL)、ジオキサン(6mL)に溶かした溶液を加え、14気圧の水素雰囲気下、室温で48時間攪拌した。
【0166】
反応後の溶液をセライトろ過してPd/Cを取り除いた後、溶媒を留去することにより、3,7−ジドデシルベンゾ[1,2−b:4,5−b’]ジチオフェン−2,6−ジカルボン酸ジブチルを黄白色固体(720mg,収率96%)の状態で得た(化合物H)。
【0167】
得られた化合物Hの1H−NMRの測定結果は以下の通りであった。
1H−NMR(400MHz,CDCl3):δ(ppm)=7.78(s,2H),4.36(t,J=7.2Hz,4H),3.32(t,J=7.6,4H),1.82−1.75(m,4H),1.72−1.64(m,4H),1.58−1.42(m,10H),1.37−1.13(m,30H),1.01(t,J=7.6Hz,6H),0.88(t,J=6.4Hz,6H)
【0168】
<化合物I:3,7−ジドデシルベンゾ[1,2−b:4,5−b’]ジチオフェン−2,6−ジカルボン酸の合成>
100mLのナスフラスコに、3,7−ジドデシルベンゾ[1,2−b:4,5−b’]ジチオフェン−2,6−ジカルボン酸ジブチル(化合物H)(710mg,0.97mmol)、水酸化カリウム(327.2mg,5.84mmol)、水(1mL)、エタノール(12.5mL)を加え、100℃で8時間攪拌した。
【0169】
反応後の溶液からエタノールを留去し、希塩酸を加えた後、析出した固体を吸引ろ過によって、3,7−ジドデシルベンゾ[1,2−b:4,5−b’]ジチオフェン−2,6−ジカルボン酸を黄白色固体(553mg,収率92%)として得た(化合物I)。
【0170】
<化合物J:3,7−ジドデシルベンゾ[1,2−b:4,5−b’]ジチオフェンの合成>
100mLのナスフラスコに、3,7−ジドデシルベンゾ[1,2−b:4,5−b’]ジチオフェン−2,6−ジカルボン酸(化合物I)(553mg,0.897mmol)、銅粉(114mg,1.74mmol)、及び、キノリン(4.0mL)を加え、窒素雰囲気下、260℃で4時間撹拌した。
【0171】
反応後の溶液をジエチルエーテル、希塩酸、水で抽出した後、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ、溶媒を留去した。残存物をトルエンに溶かし、ヘキサンを展開溶媒とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することにより、3,7−ジドデシルベンゾ[1,2−b:4,5−b’]ジチオフェンを黄白色固体(320mg,収率69%)として得た(化合物J)。
【0172】
得られた化合物Jの1H−NMRの測定結果は以下の通りであった。
1H−NMR(400MHz,CDCl3):δ(ppm)=7.70(s,2H),7.02(s,2H),2.88(t,J=7.6Hz,4H),1.79−1.73(m,4H),1.70−1.57(m,4H),1.48−1.20(m,36H),0.88(t,J=7.3Hz,6H)
【0173】
<化合物K:2,6−ジブロモ−3,7−ジドデシルベンゾ[1,2−b:4,5−b’]ジチオフェンの合成>
100mLのナスフラスコに、3,7−ジドデシルベンゾ[1,2−b:4,5−b’]ジチオフェン(化合物J)(298mg,0.58mmol)、NBS(307mg,1.73mmol)、及び、DMF(5mL)を加え、室温で5時間攪拌した。
【0174】
反応後の溶液をジエチルエーテル、水で抽出した後、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ溶媒を留去した。得られた残存物をトルエンに溶かし、ヘキサンを展開溶媒とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することにより、2,6−ジブロモ−3,7−ジドデシルベンゾ[1,2−b:4,5−b’]ジチオフェンを黄白色固体(360mg,収率93%)の状態で得た(化合物K)。
【0175】
得られた化合物Kの1H−NMRの測定結果は以下の通りであった。
1H−NMR(400MHz,CDCl3):δ(ppm)=7.59(s,2H),2.86(t,J=7.6Hz,2H),1.68−1.61(m,4H),1.45−1.12(m,36H),0.88(t,J=7.2Hz,4H)
【0176】
<重合体c:2,6−ジブロモ−3,7−ジドデシルベンゾ[1,2−b:4,5−b’]ジチオフェンと2,2’−ビス(トリブチルスタニル)チエノチオフェンの共重合体の合成>
20mLの反応器に、2,6−ジブロモ−3,7−ジドデシルベンゾ[1,2−b:4,5−b’]ジチオフェン(化合物K)(120mg,0.175mmol)、2,2’−ビス(トリブチルスタニル)チエノチオフェン(125mg,0.175mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(9.8mg,0.0085mmol)、及び、クロロベンゼン(5mL)を加えて、窒素雰囲気下、150℃で48時間攪拌した。
【0177】
反応後の溶液を、濃塩酸10mLを含むメタノール100mL中に流し込み、析出した沈殿物を吸引ろ過した。回収した固体をアセトン、ヘキサンで洗浄して、赤黒色固体(80mg)を得た。さらに、得られた固体からソックスレー抽出器を用い、クロロベンゼンで抽出した。抽出により得られた溶液にメタノールを加え、撹拌することで固体を再沈殿した。再沈殿した固体を吸引ろ過により取り出し、目的とする共重合体(重合体c)を赤黒色固体(30mg)として得た。なお、下記式中、nは繰り返し単位数を示す。重合体cのポリスチレン換算の数平均分子量は15,000であった。
【化51】
【0178】
[比較例1]
<有機薄膜トランジスタ2の製造及びそのトランジスタ特性の評価>
参考合成例1で合成した重合体cを、多環縮環重合体bに代えて用いたこと以外は、実施例8と同様にして有機薄膜トランジスタ2を得た。
【0179】
得られた有機薄膜トランジスタ2に、真空中でゲート電圧Vgを0〜−60V、ソース−ドレイン間電圧Vsdを0〜−60V印加し、トランジスタ特性を測定すると、ドレイン電流−ゲート電圧(Id−Vg)特性が得られた。このときの移動度は2.7×10−3cm2/Vs、しきい値電圧は−5Vであり、オン/オフ比は103であった。さらに、有機薄膜トランジスタ2を、窒素雰囲気中、130℃、30分間ベーク処理した後に、トランジスタ特性を測定すると、移動度は4.4×10−3cm2/Vs、しきい値電圧は−1V、オン/オフ比は104となった。
【符号の説明】
【0180】
1…基板、2…活性層、2a…活性層、3…絶縁層、4…ゲート電極、5…ソース電極、6…ドレイン電極、7a…第1の電極、7b…第2の電極、8…電荷発生層、100…第1実施形態に係る有機薄膜トランジスタ、110…第2実施形態に係る有機薄膜トランジスタ、120…第3実施形態に係る有機薄膜トランジスタ、130…第4実施形態に係る有機薄膜トランジスタ、140…第5実施形態に係る有機薄膜トランジスタ、150…第6実施形態に係る有機薄膜トランジスタ、160…第7実施形態に係る有機薄膜トランジスタ、200…実施形態に係る太陽電池、300…第1実施形態に係る光センサ、310…第2実施形態に係る光センサ、320…第3実施形態に係る光センサ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表される構造単位を有する、多環縮環重合体。
【化1】
[式(1)中、X1及びX2は、それぞれ独立に、酸素原子、硫黄原子又はセレン原子を示し、R1及びR2は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、不飽和アルキル基、直鎖状、分岐状若しくは環状の炭素数1〜30のアルキル基、直鎖状、分岐状若しくは環状の炭素数1〜30のアルキル基を含む非アルキル基、置換基を有してもよい炭素数6〜60のアリール基、又は、置換基を有してもよい炭素数4〜60の複素環基を示し、R1及びR2の少なくとも一方は、直鎖状、分岐状若しくは環状の炭素数1〜30のアルコキシ基、又は、直鎖状、分岐状若しくは環状の炭素数1〜30のアルキルチオ基を示す。R3及びR4は、それぞれ独立に、1価の基を示し、s、t、R3及びR4がそれぞれ複数ある場合、それらは同一でも異なっていてもよい。R0は、水素原子又は1価の基を示し、R0が複数ある場合、それらは同一でも異なっていてもよい。m、n、s、t及びrは、それぞれ独立に、0〜2の整数である。]
【請求項2】
式(1)中、X1及びX2が、硫黄原子である、請求項1記載の多環縮環重合体。
【請求項3】
式(1)中、R1及びR2が、直鎖状、分岐状若しくは環状の炭素数1〜30のアルキルチオ基である、請求項1記載の多環縮環重合体。
【請求項4】
式(3)で表される構造単位を更に有する、請求項1又は2記載の多環縮環重合体。
【化2】
[式(3)中、Ar1は、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい複素環基を示す。]
【請求項5】
式(3)中、Ar1が、式(4)で表される基である、請求項3記載の多環縮環重合体。
【化3】
【化4】
[式(4)中、R5及びR6は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子又は1価の基を示し、R5とR6とは互いに結合して環を形成していてもよい。Z1は、式(i)で表される基、式(ii)で表される基、式(iii)で表される基、式(iv)で表される基、式(v)で表される基、式(vi)で表される基、式(vii)で表される基、式(viii)で表される基又は式(ix)で表される基を示す。
式(vii)、(viii)及び(ix)中、R7、R8、R9及びR10は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子又は1価の基を示し、R7とR8とは互いに結合して環を形成していてもよい。また、式(viii)で表される基は左右反転していてもよい。]
【請求項6】
式(4)中、Z1が、式(ii)で表される基である、請求項5記載の多環縮環重合体。
【請求項7】
式(5)で表される、多環縮環化合物。
【化5】
[式(5)中、X1及びX2は、それぞれ独立に、酸素原子、硫黄原子又はセレン原子を示し、R1及びR2は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、不飽和アルキル基、直鎖状、分岐状若しくは環状の炭素数1〜30のアルキル基、直鎖状、分岐状若しくは環状の炭素数1〜30のアルキル基を含む非アルキル基、置換基を有してもよい炭素数6〜60のアリール基、又は、置換基を有してもよい炭素数4〜60の複素環基を示し、R1及びR2の少なくとも一方は、直鎖状、分岐状若しくは環状の炭素数1〜30のアルコキシ基又は直鎖状、分岐状若しくは環状の炭素数1〜30のアルキルチオ基を示す。R3及びR4は、それぞれ独立に、1価の基を示し、s、t、R3及びR4がそれぞれ複数ある場合、それらは同一でも異なっていてもよい。R0は、水素原子又は1価の基を示し、R0が複数ある場合、それらは同一でも異なっていてもよい。Y1及びY2は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜30のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数6〜60のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数4〜60の複素環基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アルキルスルホネート基、アリールスルホネート基、アリールアルキルスルホネート基、アルキルスタニル基、アリールスタニル基、アリールアルキルスタニル基、ホウ酸エステル残基、スルホニウムメチル基、ホスホニウムメチル基、ホスホネートメチル基、モノハロゲン化メチル基、ホウ酸残基、ホルミル基、又はビニル基を示す。m、n、s、t及びrは、それぞれ独立に、0〜2の整数である。]
【請求項8】
式(7)で表される、多環縮環化合物。
【化6】
[式(7)中、X1及びX2は、それぞれ独立に、酸素原子、硫黄原子又はセレン原子を示し、R1及びR2は、それぞれ独立に、直鎖状、分岐状若しくは環状の炭素数1〜30のアルキル基、直鎖状、分岐状若しくは環状の炭素数1〜30のアルキル基を含む非アルキル基、置換基を有してもよい炭素数6〜60のアリール基、又は、置換基を有してもよい炭素数4〜60の複素環基を示し、R1及びR2の少なくとも一方は、直鎖状、分岐状若しくは環状の炭素数1〜30のアルコキシ基、又は、直鎖状、分岐状若しくは環状の炭素数1〜30のアルキルチオ基を示す。R3及びR4は、それぞれ独立に、1価の基を示し、R3及びR4がそれぞれ複数ある場合、それらは同一でも異なっていてもよい。R0は、水素原子又は1価の基を示し、R0が複数ある場合、それらは同一でも異なっていてもよい。Y5及びY6は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜30のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数6〜60のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数4〜60の複素環基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アルキルスルホネート基、アリールスルホネート基、アリールアルキルスルホネート基、アルキルスタニル基、アリールスタニル基、アリールアルキルスタニル基、ホウ酸エステル残基、スルホニウムメチル基、ホスホニウムメチル基、ホスホネートメチル基、モノハロゲン化メチル基、ホウ酸残基、ホルミル基、又はビニル基を示す。Ar2及びAr3は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい複素環基を示す。m、n、s、t及びrは、それぞれ独立に、0〜2の整数である。u及びvは、それぞれ独立に0又は1であって、かつ、u+vは1以上である。]
【請求項9】
式(5)又は式(7)中、X1及びX2は、硫黄原子である、請求項7又は8記載の多環縮環化合物。
【請求項10】
式(5)又は式(7)中、R1及びR2は、直鎖状、分岐状若しくは環状の炭素数1〜30のアルキルチオ基である、請求項7又は8記載の多環縮環化合物。
【請求項11】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の多環縮環重合体、又は、請求項7〜10のいずれか一項に記載の多環縮環化合物を含む有機薄膜。
【請求項12】
請求項11記載の有機薄膜を備える有機薄膜素子。
【請求項13】
請求項11記載の有機薄膜を備える有機薄膜トランジスタ。
【請求項1】
式(1)で表される構造単位を有する、多環縮環重合体。
【化1】
[式(1)中、X1及びX2は、それぞれ独立に、酸素原子、硫黄原子又はセレン原子を示し、R1及びR2は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、不飽和アルキル基、直鎖状、分岐状若しくは環状の炭素数1〜30のアルキル基、直鎖状、分岐状若しくは環状の炭素数1〜30のアルキル基を含む非アルキル基、置換基を有してもよい炭素数6〜60のアリール基、又は、置換基を有してもよい炭素数4〜60の複素環基を示し、R1及びR2の少なくとも一方は、直鎖状、分岐状若しくは環状の炭素数1〜30のアルコキシ基、又は、直鎖状、分岐状若しくは環状の炭素数1〜30のアルキルチオ基を示す。R3及びR4は、それぞれ独立に、1価の基を示し、s、t、R3及びR4がそれぞれ複数ある場合、それらは同一でも異なっていてもよい。R0は、水素原子又は1価の基を示し、R0が複数ある場合、それらは同一でも異なっていてもよい。m、n、s、t及びrは、それぞれ独立に、0〜2の整数である。]
【請求項2】
式(1)中、X1及びX2が、硫黄原子である、請求項1記載の多環縮環重合体。
【請求項3】
式(1)中、R1及びR2が、直鎖状、分岐状若しくは環状の炭素数1〜30のアルキルチオ基である、請求項1記載の多環縮環重合体。
【請求項4】
式(3)で表される構造単位を更に有する、請求項1又は2記載の多環縮環重合体。
【化2】
[式(3)中、Ar1は、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい複素環基を示す。]
【請求項5】
式(3)中、Ar1が、式(4)で表される基である、請求項3記載の多環縮環重合体。
【化3】
【化4】
[式(4)中、R5及びR6は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子又は1価の基を示し、R5とR6とは互いに結合して環を形成していてもよい。Z1は、式(i)で表される基、式(ii)で表される基、式(iii)で表される基、式(iv)で表される基、式(v)で表される基、式(vi)で表される基、式(vii)で表される基、式(viii)で表される基又は式(ix)で表される基を示す。
式(vii)、(viii)及び(ix)中、R7、R8、R9及びR10は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子又は1価の基を示し、R7とR8とは互いに結合して環を形成していてもよい。また、式(viii)で表される基は左右反転していてもよい。]
【請求項6】
式(4)中、Z1が、式(ii)で表される基である、請求項5記載の多環縮環重合体。
【請求項7】
式(5)で表される、多環縮環化合物。
【化5】
[式(5)中、X1及びX2は、それぞれ独立に、酸素原子、硫黄原子又はセレン原子を示し、R1及びR2は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、不飽和アルキル基、直鎖状、分岐状若しくは環状の炭素数1〜30のアルキル基、直鎖状、分岐状若しくは環状の炭素数1〜30のアルキル基を含む非アルキル基、置換基を有してもよい炭素数6〜60のアリール基、又は、置換基を有してもよい炭素数4〜60の複素環基を示し、R1及びR2の少なくとも一方は、直鎖状、分岐状若しくは環状の炭素数1〜30のアルコキシ基又は直鎖状、分岐状若しくは環状の炭素数1〜30のアルキルチオ基を示す。R3及びR4は、それぞれ独立に、1価の基を示し、s、t、R3及びR4がそれぞれ複数ある場合、それらは同一でも異なっていてもよい。R0は、水素原子又は1価の基を示し、R0が複数ある場合、それらは同一でも異なっていてもよい。Y1及びY2は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜30のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数6〜60のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数4〜60の複素環基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アルキルスルホネート基、アリールスルホネート基、アリールアルキルスルホネート基、アルキルスタニル基、アリールスタニル基、アリールアルキルスタニル基、ホウ酸エステル残基、スルホニウムメチル基、ホスホニウムメチル基、ホスホネートメチル基、モノハロゲン化メチル基、ホウ酸残基、ホルミル基、又はビニル基を示す。m、n、s、t及びrは、それぞれ独立に、0〜2の整数である。]
【請求項8】
式(7)で表される、多環縮環化合物。
【化6】
[式(7)中、X1及びX2は、それぞれ独立に、酸素原子、硫黄原子又はセレン原子を示し、R1及びR2は、それぞれ独立に、直鎖状、分岐状若しくは環状の炭素数1〜30のアルキル基、直鎖状、分岐状若しくは環状の炭素数1〜30のアルキル基を含む非アルキル基、置換基を有してもよい炭素数6〜60のアリール基、又は、置換基を有してもよい炭素数4〜60の複素環基を示し、R1及びR2の少なくとも一方は、直鎖状、分岐状若しくは環状の炭素数1〜30のアルコキシ基、又は、直鎖状、分岐状若しくは環状の炭素数1〜30のアルキルチオ基を示す。R3及びR4は、それぞれ独立に、1価の基を示し、R3及びR4がそれぞれ複数ある場合、それらは同一でも異なっていてもよい。R0は、水素原子又は1価の基を示し、R0が複数ある場合、それらは同一でも異なっていてもよい。Y5及びY6は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜30のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数6〜60のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数4〜60の複素環基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アルキルスルホネート基、アリールスルホネート基、アリールアルキルスルホネート基、アルキルスタニル基、アリールスタニル基、アリールアルキルスタニル基、ホウ酸エステル残基、スルホニウムメチル基、ホスホニウムメチル基、ホスホネートメチル基、モノハロゲン化メチル基、ホウ酸残基、ホルミル基、又はビニル基を示す。Ar2及びAr3は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい複素環基を示す。m、n、s、t及びrは、それぞれ独立に、0〜2の整数である。u及びvは、それぞれ独立に0又は1であって、かつ、u+vは1以上である。]
【請求項9】
式(5)又は式(7)中、X1及びX2は、硫黄原子である、請求項7又は8記載の多環縮環化合物。
【請求項10】
式(5)又は式(7)中、R1及びR2は、直鎖状、分岐状若しくは環状の炭素数1〜30のアルキルチオ基である、請求項7又は8記載の多環縮環化合物。
【請求項11】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の多環縮環重合体、又は、請求項7〜10のいずれか一項に記載の多環縮環化合物を含む有機薄膜。
【請求項12】
請求項11記載の有機薄膜を備える有機薄膜素子。
【請求項13】
請求項11記載の有機薄膜を備える有機薄膜トランジスタ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−177104(P2012−177104A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−18598(P2012−18598)
【出願日】平成24年1月31日(2012.1.31)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年1月31日(2012.1.31)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】
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