説明

多電極ガスシールドアーク自動溶接装置

【課題】湯だまりの不安定化による溶接欠陥の発生を防止するとともに、ガスシールドアーク溶接の自動化に適合する多電極ガスシールドアーク自動溶接装置を提供することにある。
【解決手段】中間電極5と被溶接材料1との間の電圧を検知する電圧検知手段18と、前記電圧検知手段18により検知した電圧が入力され、短絡か否かを判定する短絡判定手段19と、電流値信号が外部より入力されるとともに、前記短絡判定手段19が短絡と判定した場合は、第1電流値I1を示す電流値信号を電流値設定信号として前記中間電極用直流電源Mに出力し、前記短絡判定手段19が短絡でないと判定した場合は、前記第1電流値I1より小さい第2電流値I2を示す電流値信号を電流値設定信号として前記中間電極用直流電源Mに出力する中間電極用電流設定手段20と、速度制御手段32と、電極送給手段27と、を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多電極ガスシールドアーク自動溶接装置に関し、特に、先行ガスシールドアーク溶接電極、後行ガスシールドアーク溶接電極、および中間電極を備えるとともに、溶接欠陥の発生を防止することができる多電極ガスシールドアーク自動溶接装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、造船、橋梁等の分野において使用される水平すみ肉溶接の高効率化を図るために、溶接速度が速い多電極ガスシールドアーク自動溶接装置が提案されている。
例えば、特許文献1には、3電極アーク溶接制御方法が開示されている。この技術は、3つの電極を溶接線上に直列に配置し、先行電極と後行電極のアークにより発生する湯だまりを中間電極のアークによって制御するというものである。
【0003】
しかし、特許文献1に開示された技術は、先行電極、後行電極、および、中間電極を全て電源の正極に接続していることから、3つの同方向に流れる電流により、溶接箇所においてアークブロー等の平行電流に起因する磁場干渉が多発するおそれがあった。
【0004】
また、特許文献1に開示された技術は、先行電極および後行電極のアークだけでなく、当該中間電極のアークも前記の磁場干渉の影響を受けてしまうことから、当然、中間電極のアークにより制御される湯だまりが不安定となる確率は高く、その結果、溶接欠陥を引き起こす可能性が高かった。
【0005】
前記のような問題を解消するために、特許文献2には、多電極ガスシールドアーク自動溶接方法として、先行電極と後行電極を電源の正極、中間電極を電源の負極に接続した溶接方法が開示されている。このような構成とすることにより、先行電極および後行電極のアークによる磁場干渉を、中間電極を流れる電流(先行電極および後行電極を流れる電流とは逆向きの電流)により軽減することができた。
【0006】
また、特許文献2に開示された技術は、中間電極をアークにより溶融させているのではなく、安定したジュール熱により溶融させているため、特許文献1に開示された技術と比べて、湯だまりを安定に制御することができた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−219571号公報
【特許文献2】特開2004−261839号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2に開示された技術では、中間電極の送給抵抗の変動に起因して、瞬間的に中間電極の送給速度が低速あるいは停止することで、ジュール熱による中間電極の溶融量が中間電極の送給量に対して過大となってしまう場合がある。また、アークブローによるアーク偏向など何らかの外乱により湯だまりの形状が変化し中間電極との相対位置関係が定常時と異なってしまう場合もある。
前記のような場合は、中間電極の先端が溶融池から離間し、中間電極の先端と溶融池との間でアークが発生してしまう。そして、当該アークにより湯だまりが不安定となり、その結果、良好な溶接部が得られないという問題点があった。
【0009】
また、特許文献2に開示された技術は、中間電極の溶融池への突っ込み欠陥を回避するために、中間電極の送給量をジュール熱による中間電極の溶融量よりも若干少なくなるように制御する必要がある。しかし、この様な制御を行うと、当然、中間電極の先端が溶融池から離間してしまう可能性が高くなり、前記場合と同様、中間電極の先端と溶融池との間に発生するアークにより、湯だまりが不安定となり、良好な溶接部が得られなくなってしまう。
【0010】
なお、中間電極の送給速度を変化させ、中間電極の先端が湯だまり内に挿入した短絡状態が維持されるように制御することにより、湯だまりの不安定化の問題を回避する手段も考えられる。しかし、この手段によると、高速で送給している細径の中間電極を制御するために、正逆回転制御可能なイナーシャ(慣性)の小さい送給装置を中間電極の先端近傍に配置する必要があるため、コストが高くなるとともに、何より狭隘な箇所に3電極を配置する装置設計上の自由度を削ぐという欠点があり、多電極ガスシールドアーク自動溶接装置に適用する手段としては不向きである。
【0011】
結果として、中間電極の送給速度を一定速度とするとともに、中間電極には直流電源から一定値の電流を供給するという方法が採用されているため、前記の湯だまりの不安定化による溶接欠陥の発生の可能性が存在したままであった。そのため、適宜、溶接状況を人が確認して安定な溶接が継続できる中間電極送給速度に調整する必要があった。したがって、従来の技術は、ガスシールドアーク溶接の自動化に十分に適合する技術であるとは言えなかった。
【0012】
本発明は、前記の問題に鑑みてなされたものであり、その課題は、湯だまりの不安定化による溶接欠陥の発生を防止するとともに、ガスシールドアーク溶接の自動化に適合する多電極ガスシールドアーク自動溶接装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するために、本発明に係る多電極ガスシールドアーク自動溶接装置は、先行ガスシールドアーク溶接電極と、後行ガスシールドアーク溶接電極と、を備え、さらに当該先行ガスシールドアーク溶接電極と当該後行ガスシールドアーク溶接電極との間に中間電極を備えるとともに、当該先行ガスシールドアーク溶接電極と、当該後行ガスシールドアーク溶接電極と、当該中間電極とが、消耗電極である多電極ガスシールドアーク自動溶接装置であって、それぞれ一定の速度で送給される前記先行ガスシールドアーク溶接電極、および前記後行ガスシールドアーク溶接電極が、それぞれ正極に接続され、被溶接材料が負極に接続されるとともに、定電圧特性を有する2つの直流電源と、前記被溶接材料が正極に接続され、前記中間電極が負極に接続されるとともに、定電流特性を有する中間電極用直流電源と、前記中間電極と前記被溶接材料との間の電圧を検知する電圧検知手段と、前記電圧検知手段により検知した電圧が入力され、短絡か否かを判定する短絡判定手段と、電流値信号が外部より入力されるとともに、前記短絡判定手段が短絡と判定した場合は、第1電流値を示す電流値信号を電流値設定信号として前記中間電極用直流電源に出力し、前記短絡判定手段が短絡でないと判定した場合は、前記第1電流値より小さい第2電流値を示す電流値信号を電流値設定信号として前記中間電極用直流電源に出力する中間電極用電流設定手段と、前記中間電極の送給速度を一定の速度とする速度制御手段と、前記中間電極を前記被溶接材料に向かって送給する電極送給手段と、を備えることを特徴とする。
【0014】
かかる構成により、本発明に係る多電極ガスシールドアーク自動溶接装置は、中間電極が短絡している状態であった場合、短絡判定手段は、電圧検知手段により検知・入力された電圧値から中間電極が短絡していると判断し、その結果、中間電極用電流設定手段により第1電流値を示す電流値信号が選択され、中間電極用直流電源が第1電流値の電流を中間電極に供給するように制御する。
一方、本発明に係る多電極ガスシールドアーク自動溶接装置は、中間電極が短絡していない状態であった場合、短絡判定手段が、電圧検知手段により検知・入力された電圧値から中間電極が短絡していないと判断し、その結果、中間電極用電流設定手段により第2電流値を示す電流値信号が選択され、中間電極用直流電源が第2電流値の電流を中間電極に供給するように制御する。
よって、本発明に係る多電極ガスシールドアーク自動溶接装置は、中間電極が短絡せずアークが発生している状態となった場合に、中間電極に対し、通常の電流値(第1電流値)よりも小さい第2電流値の電流を供給することができるため、中間電極の溶融量を短絡時の溶融量に比べて減少させることができる。したがって、本発明に係る多電極ガスシールドアーク自動溶接装置によると、中間電極が短絡せずアークが発生している状態となったとしても、瞬時に中間電極を短絡させることができる。
【0015】
そして、一般的に、消耗電極が定電流特性を有する直流電源に接続される場合は、一定の電圧が維持されるように電圧を検知して消耗電極の送給速度を変速制御する方法が採用されている。しかし、本発明に係る多電極ガスシールドアーク自動溶接装置の中間電極は、定電流特性を有する直流電源に接続されているにもかかわらず、前記のように中間電極に供給される電流を制御することにより短絡状態を維持することができるため、中間電極を一定の速度で供給することができる。よって、従来の定電流特性を有する直流電源に接続される消耗電極のように、送給速度を変速制御する必要がないため、送給速度を制御する複雑な制御手段を設ける必要がなく、その結果、装置全体のコストを抑えることができる。加えて、狭隘な箇所に複数の電極を設置しなければならない多電極ガスシールドアーク自動溶接装置において、送給装置を中間電極の先端近傍に設ける必要がなくなるため、装置設計上の自由度を確保することができる。
【0016】
また、本発明に係る多電極ガスシールドアーク自動溶接装置は、前記中間電極用直流電源に並列に接続されるとともに、前記被溶接材料が正極に接続され、前記中間電極が負極に接続されており、高インピーダンス特性を有する中間電極用補助直流電源を備えることが好ましい。
【0017】
かかる構成により、多電極ガスシールドアーク自動溶接装置は、中間電極が短絡せずアークが発生している状態となった場合に、中間電極に対し、第2電流値の電流とするために実質的に出力が停止した場合、または出力を停止した場合であっても、電圧検知手段は中間電極用補助直流電源が示す高い電圧を検知する。その結果、短絡判定手段は、短絡か否かを判断することができる。
したがって、本発明に係る多電極ガスシールドアーク自動溶接装置は、中間電極が短絡していない状態となった場合に、中間電極に対し、通常の電流値(第1電流値)よりも小さい第2電流値の電流とするために実質的に出力が停止した場合または出力を停止した場合でも、中間電極の溶融量を中間電極の送給量に対して減少させることができる。
【0018】
また、本発明に係る多電極ガスシールドアーク自動溶接装置の前記中間電極用補助直流電源は、短絡電流が1A以下という出力特性を有することが好ましい。
中間電極用補助直流電源が前記の出力特性を有することにより、実質的には、中間電極用補助直流電源から中間電極にほとんど電流が供給されない。したがって、中間電極用電流設定手段により適切に制御された中間電極用直流電源のみから中間電極に電流が供給される。つまり、中間電極に供給される電流を適切に制御することができる。
【0019】
また、本発明に係る多電極ガスシールドアーク自動溶接装置は、前記電圧検知手段と、前記短絡判定手段と、前記中間電極用電流設定手段と、前記速度制御手段と、前記中間電極用直流電源と、をまとめて一つの筐体に備えることが好ましい。
【0020】
かかる構成により、電圧検知手段、短絡判定手段、中間電極用電流設定手段、速度制御手段、それぞれの装置を別途設ける必要がないため、装置全体のコストを抑えられるとともに、装置の設置に必要なスペースも小さくすることができる。
また、電圧検知手段、短絡判定手段、中間電極用電流設定手段、速度制御手段が中間電極用溶接電源と一緒の筐体内にあるため、ノイズに対する耐性が上がり、装置の信頼性が向上する。
【0021】
また、本発明に係る多電極ガスシールドアーク自動溶接装置は、水平すみ肉溶接に適用されることが好ましい。
本発明に係る多電極ガスシールドアーク自動溶接装置を水平すみ肉溶接に適用することにより、発明の効果をより適切に得ることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る多電極ガスシールドアーク自動溶接装置によれば、中間電極が短絡せずアークが発生している状態となった場合に、中間電極に対し、通常の電流値(第1電流値)よりも小さい第2電流値の電流を供給することができるため、中間電極が短絡せずアークが発生している状態となったとしても、瞬時に中間電極を短絡させることができる。その結果、短絡した中間電極により湯だまりを安定化させることができ、良好な溶接部を得ることができる。
【0023】
また、本発明に係る多電極ガスシールドアーク自動溶接装置によれば、中間電極が短絡していない状態となった場合に、中間電極に対し、通常の電流値(第1電流値)よりも小さい第2電流値の電流とするために実質的に出力が停止した場合、または出力を停止した場合であっても短絡か否か判定することができるため、中間電極が短絡していない状態となったとしても、瞬時に中間電極を短絡させることができる。その結果、短絡した中間電極により湯だまりを安定化させることができ、良好な溶接部を得ることができる。
【0024】
そして、本発明に係る多電極ガスシールドアーク自動溶接装置によれば、従来の定電流特性を有する直流電源に接続される消耗電極のような送給速度を制御する複雑な制御手段を設ける必要がなく、その結果、装置全体のコストを抑えることができる。加えて、狭隘な箇所に複数の電極を設置しなければならない多電極ガスシールドアーク自動溶接装置において、送給装置を中間電極の先端近傍に設ける必要がなくなるため、装置設計上の自由度を確保することができる。
【0025】
加えて、本発明に係る多電極ガスシールドアーク自動溶接装置によれば、電圧検知手段、短絡判定手段、中間電極用電流設定手段、速度制御手段それぞれの装置を別途設ける必要がないため、装置全体のコストを抑えられるとともに、装置の設置に必要なスペースも小さくすることができ、装置の信頼性を高めることができる。
【0026】
さらに、大電流溶接や高速溶接を行う場合は、外乱が大きく、中間電極が短絡しない状態になりやすいが、本発明に係る多電極ガスシールドアーク自動溶接装置によれば、中間電極が短絡していない状態となったとしても、瞬時に中間電極を短絡させることができるため、大電流溶接や高速溶接にも好適に適用することができる。
また、本発明に係る多電極ガスシールドアーク自動溶接装置は、中間電極を短絡した状態となるように自動で制御することができるため、ガスシールドアーク自動溶接に好適に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係る多電極ガスシールドアーク自動溶接装置の概略を示す概略図である。
【図2】本発明に係る多電極ガスシールドアーク自動溶接装置により溶接を行った場合の被溶接材料の状態を示す概略図である。
【図3】第1実施形態に係る多電極ガスシールドアーク自動溶接装置の中間電極用直流電源装置の構成を示すブロック図である。
【図4】第2実施形態に係る多電極ガスシールドアーク自動溶接装置の中間電極用直流電源装置の構成を示すブロック図である。
【図5】第3実施形態に係る多電極ガスシールドアーク自動溶接装置の中間電極用直流電源装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明に係る多電極ガスシールドアーク自動溶接装置を実施するための第1実施形態、および第2実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
【0029】
≪第1実施形態に係る多電極ガスシールドアーク自動溶接装置≫
多電極ガスシールドアーク自動溶接装置100は、ガスで溶接箇所を空気から遮断しつつ複数の電極を用いて溶接を行う装置である。
なお、多電極ガスシールドアーク自動溶接装置100は、図1に示すように、水平すみ肉溶接に好適に適用される。詳細には、多電極ガスシールドアーク自動溶接装置100は、被溶接材料である下板1と立板2の隅部(溶接箇所)に沿うようにして、先行電極3、後行電極4、および中間電極5の3つの電極が一組として配置され、図1の矢印方向に移動しながら溶接を行う。
【0030】
また、多電極ガスシールドアーク自動溶接装置100は、下板1と立板2の両側の隅部を同時に溶接できるように、立板2を挟んで2組の先行電極3、3、後行電極4、4、中間電極5、5、を対向するように配置し、2組の電極が同時に移動するような構成であってもよい。さらに、下板1と複数の立板2、2を同時に溶接できるように、それぞれの立板2に対して、2組の先行電極3、3、後行電極4、4、中間電極5、5、を配置し、2組以上の電極が同時に移動するような構成であってもよい。
【0031】
なお、ガスについては特に限定されず、ガスシールドアーク溶接に用いられる公知のガス、例えば、二酸化炭素や、これと不活性ガスの混合ガス等を用いればよい。
そして、図2に示すように、多電極ガスシールドアーク自動溶接装置100は、先行ガスシールドアーク溶接電極3(以下、適宜、先行電極3という)と、後行ガスシールドアーク溶接電極4(以下、適宜、後行電極4という)と、中間電極5と、先行電極3に接続された直流電源Lと、後行電極4に接続された直流電源Tと、中間電極5に接続された中間電極用直流電源Mと、を備える。
【0032】
<先行電極、後行電極、中間電極>
先行電極3、および後行電極4は、各電極の先端にアークを発生させ、被溶接材料である下板1と立板2との溶接箇所に溶融金属8(溶融池8)を形成させるものである(図2参照)。一方、中間電極5は、溶融金属8の湯だまり10に挿入され、アークブロー等の磁場干渉の発生を防止し、当該湯だまり10を安定させるものである(図2参照)。
なお、先行電極3、および後行電極4により発生した溶融金属8が、凝固することにより溶接金属7となり、当該溶接金属7が下板1と立板2を溶接することとなる。そして、溶接スラグ9は、溶接金属7の表面に形成される。
【0033】
先行電極3、後行電極4、および中間電極5は、消耗電極であり、フラックス入りワイヤにより構成されることが好ましい。フラックス入りワイヤを用いることにより、フラックスがアークを安定化させるので、良好な溶接部を得ることができる。
なお、各電極を構成するフラックス入りワイヤの成分、径、各電極の極間距離、設置角度等は特に限定されず、特開2004−261839号公報に開示されているような条件で行えばよい。
また、先行電極3、後行電極4、および中間電極5は、送給速度が一定速度に制御され溶接箇所に供給される。
【0034】
<先行電極に接続された直流電源、後行電極に接続された直流電源>
直流電源L、Tは、先行電極3、または後行電極4に電流を供給する電源である。
直流電源Lは、正極に先行電極3が接続され、負極に被溶接材料(下板1または立板2)が接続される。そして、直流電源Tは、正極に後行電極4が接続され、負極に被溶接材料(下板1または立板2)が接続される。そして、直流電源L、および直流電源Tは、定電圧特性を有する。なお、定電圧特性の電源とは、一定速度に制御されて送給されている消耗電極の送給速度が、何らかの外乱によって送給速度の変化が生じ、アーク電圧が変化した場合にあっても、常に一定の電圧に制御するように自動的に電流値を増減して安定なアーク溶接を持続できるように制御する電源のことである。
直流電源L、および直流電源Tから、先行電極3、および後行電極4に供給される電流の値については、特に限定されず、例えば、先行電極3に供給される電流を250A以上、後行電極4に供給される電流を200A以上とすればよい。
【0035】
<中間電極用直流電源>
中間電極用直流電源Mは、正極に被溶接材料(下板1または立板2)が接続され、負極に中間電極5が接続されるとともに、定電流特性を有する電源である。なお、定電流特性とは、電流を意図的に制御する場合を除き、負荷電圧が増大しても、電流がほとんど変化しない特性である。そして、中間電極用直流電源Mは、図3に示すように、三相交流電源11から電力が入力され、整流器12と、平滑コンデンサ13と、インバータ14と、トランス15と、整流器16と、リアクトル17と、電流検知手段24と、誤差増幅器25と、出力制御回路26と、を備える。
【0036】
三相交流電源11は、三相交流を供給するものである。そして、整流器12は、三相交流電源11から供給された三相交流を直流に整流(変換)するものである。
平滑コンデンサ13は、整流器12が整流した直流を平滑化、つまり、この直流に含まれるリップル(波)を平らにするものである。
【0037】
電流検知手段24は、中間電極5と被溶接材料(下板1または立板2)とに流れる電流を検知し、当該電流の検知値を示す電流検知信号を誤差増幅器25に出力する。
【0038】
誤差増幅器25は、電流検知手段24から入力された電流検知信号と、中間電極用電流設定手段20から入力された第1電流値I1を示す電流値設定信号、または、第2電流値I2を示す電流値設定信号との誤差を増幅して、電流誤差増幅信号として出力制御回路26に出力するものである。
【0039】
出力制御回路26は、誤差増幅器25から入力された電流誤差増幅信号に応じてインバータ14に駆動信号を出力する回路である。
【0040】
インバータ14は、平滑コンデンサ13が平滑化した直流を交流に変換すると共に、出力制御回路26からの駆動信号に従って、中間電極5に供給する電流を変動させるものである。
トランス15は、インバータ14から出力された交流を変圧するものである。そして、整流器16は、トランス15が変圧した交流を再度直流に整流(変換)するものである。
リアクトル17は、整流器16が整流した直流を平滑化、つまり、この直流に含まれるリップルを平らにするものである。
そして、リアクトル17で平滑化された電流が中間電極5に供給される。
【0041】
<電圧検知手段>
電圧検知手段18は、中間電極5と被溶接材料(下板1または立板2)との間の電圧を検知する手段である。そして、電圧検知手段18は、検知した電圧信号を短絡判定手段19に出力する。
【0042】
<短絡判定手段>
短絡判定手段19は、電圧検知手段18から入力された電圧信号が所定値を超えるか否かを判定する手段である。そして、短絡判定手段19は、その結果を中間電極用電流設定手段20(電流設定選択回路23)に出力する。
ここで、所定値とは、中間電極5が短絡している状態の電圧値と、中間電極5が短絡せずアークが発生している状態または無負荷の電圧値とを区別するための閾値である。そして、所定値は、中間電極5が短絡している状態の電圧値(中間電極5と被溶接材料との間の電圧値)と、中間電極5が短絡せずアークが発生している状態または無負荷の電圧値(中間電極5と被溶接材料との間の電圧値)とを区別できるように、前記2つの電圧値の間の値であり、例えば、10〜15Vとするのが好ましい。なお、短絡判定手段19は、所定値を外部から入力できるようにしても良い。
この他、既知の短絡判定方法を有する短絡判定手段であれば良い。
例えば、一つの閾値とした場合、閾値近傍の電圧では、短絡の判定と短絡でない判定が短い周期で繰り返されることになる。所定値は、短絡でない状態から短絡とする閾値と短絡である状態から短絡でないとする閾値の2つの閾値を有することが好ましい。
また、中間電極5が短絡している状態の電圧値は、中間電極に流れる電流でも変化するので、閾値は、流れている電流により変化させても良い。
さらに、電圧検知手段18から入力された電圧信号をカットオフ周波数の異なる複数のフィルタ回路を通過させノイズ成分を除去した複数の電圧信号と複数の所定値と比較するロジックを組み合わせることで、短絡判定手段19と電極間距離が長くノイズにより短絡か否かの区別が難しい場合でも即座に判定することができる。
【0043】
<中間電極用電流設定手段>
中間電極用電流設定手段20は、短絡判定手段19から入力された結果に基づき、中間電極用直流電源Mから中間電極5に供給する電流を設定する手段である。そして、中間電極用電流設定手段20は、図3に示すように、第1電流設定回路21と、第2電流設定回路22と、電流設定選択回路23と、を備える。
【0044】
第1電流設定回路21は、第1電流値I1を示す電流値信号が設定された回路である。また、第2電流設定回路22は、第2電流値I2を示す電流値信号が設定された回路である。
第1電流設定回路21、および第2電流設定回路22は、第1電流値I1を示す電流値信号、または第2電流値I2を示す電流値信号を電流設定選択回路23に出力する。なお、第1電流設定回路21は、第1電流値I1を外部より入力できるようになっていてもよい。一方、第2電流設定回路22は、第2電流値I2を外部より入力できるようになっていてもよい。
【0045】
第1電流値I1は、ジュール熱による中間電極5の溶融量と中間電極5の送給量とが同量(溶融速度と送給速度が同速度)となるような値、または、中間電極5の溶融池8への突っ込み欠陥を回避するために中間電極5の送給量がジュール熱による中間電極5の溶融量よりも若干少なくなるような値である。よって、第1電流値I1は、中間電極5の成分、径、送給量(または送給速度)等から算出するか、事前の実験により求めればよい。例えば、第1電流値I1は、50〜150Aである。
第2電流値I2は、第1電流値I1よりも小さい電流値である。例えば、15A以下の電流値が好ましい。
【0046】
電流設定選択回路23は、短絡判定手段19から入力された結果に基づき、第1電流設定回路21から入力された第1電流値I1を示す電流値信号、または、第2電流設定回路22から入力された第2電流値I2を示す電流値信号のいずれかを、電流値設定信号として中間電極用直流電源Mの誤差増幅器25に出力する回路である。
【0047】
詳細には、短絡判定手段19から入力された結果が、中間電極5が短絡している状態であるという結果であった場合、電流設定選択回路23は、第1電流設定回路21から入力された第1電流値I1を示す電流値信号を電流値設定信号として誤差増幅器25に出力する。
一方、短絡判定手段19から入力された結果が、中間電極5が短絡せずアークが発生している状態であるという結果であった場合、電流設定選択回路23は、第2電流設定回路22から入力された第2電流値I2を示す電流値信号を電流値設定信号として誤差増幅器25に出力する。
なお、第1電流値I1、および第2電流値I2を外部から直接、電流設定選択回路23に入力するような構成であってもよい。この場合は、第1電流設定回路21、および第2電流設定回路22は必要ない。
【0048】
<電極送給手段>
電極送給手段27は、中間電極5を一定の速度により溶接箇所に送給する手段である。そして、電極送給手段27は、図3に示すように、電極送給モータ30と、電極送給ローラ31と、を備えている。
電極送給モータ30は、電極送給ローラ31を介して中間電極5を被溶接材料の表面の所定位置に送給する。この電極送給ローラ31は、例えば、中間電極5を挟み込むように配置された2個のローラで構成されているものを用いればよい。
【0049】
<速度制御手段>
速度制御手段32は、中間電極5を一定の速度に制御する手段である。そして、図3に示すように、電極送給速度設定器28と、電極送給モータ制御回路29と、を備えている。
電極送給速度設定器28は、予め設定された電極の送給速度を示す送給速度信号を電極送給モータ制御回路29に出力するものである。なお、電極送給速度設定器28は、送給速度を外部より入力することができる。
電極送給モータ制御回路29は、電極送給速度設定器28から入力された送給速度信号に基づいて電極送給モータ30を制御する回路である。
なお、電極の送給速度については、特に限定されず、好ましくは、1〜3m/minである。
【0050】
≪第2実施形態に係る多電極ガスシールドアーク自動溶接装置≫
第2実施形態に係る多電極ガスシールドアーク自動溶接装置100は、図4に示すように、中間電極用直流電源Mに並列に接続されるとともに、被溶接材料(下板1または立板2)が正極に接続され、中間電極5が負極に接続されており、高インピーダンス特性を有する中間電極用補助直流電源33を、さらに備える構成であってもよい。
【0051】
なお、高インピーダンス特性を有する中間電極用補助直流電源33とは、中間電極5と被溶接材料(下板1または立板2)との間の電圧を検知する目的で設ける電源であり、実質的には中間電極5を溶融するような電流を供給しない極微小な電流供給能力を持つ電源である。また、高インピーダンス特性とは、出力回路が短絡された場合であってもごく微小な電流しか流れない高いインピーダンスを有するという特性である。
そして、この中間電極用補助直流電源33は、短絡電流が1A以下となる出力特性を有することが好ましい。中間電極用補助直流電源33から中間電極5にほとんど電流が供給されないため、中間電極用直流電源Mのみから中間電極5に電流が供給されることとなる。つまり、中間電極5に供給される電流を適切に制御することができるからである。
【0052】
高インピーダンスの中間電極用補助直流電源33を備えることにより、中間電極5が短絡せずアークが発生している状態となった場合に、中間電極5に対し、第2電流値の電流とするためにアークを維持できずアーク切れが発生して実質的に中間電極用直流電源Mの出力が停止した場合、または出力を停止した場合であっても、電圧検知手段18は当該中間電極用補助直流電源33が示す高い電圧を検知することとなる。その結果、短絡判定手段19が、前記の状態が生じた場合の電圧を、中間電極が短絡せずアークが発生している状態または無負荷電圧が発生している場合と同様に短絡していないと判断する。
よって、中間電極用補助直流電源33の電圧は、中間電極5が短絡している状態の電圧値(中間電極5と被溶接材料との間の電圧値)を超える値であって、例えば15V以上とするのが好ましい。
【0053】
そして、電流設定選択回路23は、短絡判定手段19から入力された結果に基づき、第1電流設定回路21から入力された第1電流値I1を示す電流値信号、または、第2電流設定回路22から入力された第2電流値I2を示す電流値信号を、電流値設定信号として誤差増幅器25に出力する。
【0054】
詳細には、短絡判定手段19から入力された結果が、中間電極5が短絡している状態であるという結果であった場合、電流設定選択回路23は、第1電流設定回路21から入力された第1電流値I1を示す電流値信号を電流値設定信号として誤差増幅器25に出力する。
一方、短絡判定手段19から入力された結果が、中間電極5が短絡していない状態であるという結果であった場合、電流設定選択回路23は、第2電流設定回路22から入力された第2電流値I2を示す電流値信号を電流値設定信号として誤差増幅器25に出力する。
【0055】
なお、第2電流値I2については、第1実施形態に係る第2電流値と同様の値でもよいが、0Aであってもよい。つまり、中間電極5に対して中間電極用直流電源Mからの電流の供給を停止してもよい。第2実施形態に係る多電極ガスシールドアーク自動溶接装置100は、中間電極用補助直流電源33を備えているため、中間電極5に対して中間電極用直流電源Mからの電流の供給を停止しても、中間電極用補助直流電源33から中間電極5に対して検知用の電圧が供給されるからである。
その他の構成については、第1実施形態に係る多電極ガスシールドアーク自動溶接装置100と同じであるため、説明を省略する。
【0056】
≪第3実施形態に係る多電極ガスシールドアーク自動溶接装置≫
第3実施形態に係る多電極ガスシールドアーク自動溶接装置100は、図5に示すように、中間電極極用直流電源装置mは、中間電極5と被溶接材料との間の電圧を検知する電圧検知手段18と、電圧検知手段18により検知した電圧が入力され、短絡か否かを判定する短絡判定手段19と、短絡判定手段19が短絡と判定した場合は、第1電流値I1を示す電流値信号を選択し、短絡判定手段19が短絡でないと判定した場合は、第1電流値I1より小さい第2電流値I2を示す電流値信号を選択する中間電極用電流設定手段20と、中間電極5の送給を一定の速度とする速度制御手段32と、定電流特性を有する中間電極用直流電源Mとを一つの筐体にまとめた構成であってもよい。その他の構成については、第1実施形態に係る多電極ガスシールドアーク自動溶接装置100と同じであるため、説明を省略する。
【0057】
≪中間電極の電流制御の動作≫
以下、中間電極の電流制御の動作について説明する(適宜、図3参照)。
まず、電圧検知手段18が、被溶接材料(下板1または立板2)と中間電極5との電圧を検知し、検知した電圧信号を短絡判定手段19に出力する。
そして、短絡判定手段19が、電圧検知手段18により検知・入力された電圧信号から短絡か否かを判定し、その判定結果を中間電極用電流設定手段20に出力する。
次に、短絡判定手段19が短絡していると判断した結果が入力された場合は、中間電極用電流設定手段20から、第1電流値I1を示す電流値信号を電流値設定信号として中間電極用直流電源Mに出力する。一方、短絡判定手段19が短絡していないと判断した結果が入力された場合は、中間電極用電流設定手段20から、第2電流値I2を示す電流値信号を電流値設定信号として中間電極用直流電源Mに出力する。
中間電極用電流設定手段20から出力された電流値設定信号の電流が、中間電極5に供給されるように、中間電極用直流電源Mを制御する。
【0058】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されず、特許請求の範囲に記載した本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜設計変更可能である。
【符号の説明】
【0059】
1 下板(被溶接材料)
2 立板(被溶接材料)
3 先行ガスシールドアーク溶接電極(先行電極)
4 後行ガスシールドアーク溶接電極(後行電極)
5 中間電極
6 配電盤
7 溶接金属
8 溶融金属(溶融池)
9 溶接スラグ
10 湯だまり
11 三相交流電源
12 整流器
13 平滑コンデンサ
14 インバータ
15 トランス
16 整流器
17 リアクトル
18 電圧検知手段
19 短絡判定手段
20 中間電極用電流設定手段
21 第1電流設定回路
22 第2電流設定回路
23 電流設定選択回路
24 電流検知手段
25 誤差増幅器
26 出力制御回路
27 電極送給手段
28 電極送給速度設定器
29 電極送給モータ制御回路
30 電極送給モータ
31 電極送給ローラ
32 速度制御手段
33 中間電極用補助直流電源
L 直流電源(先行電極に接続された直流電源)
T 直流電源(後行電極に接続された直流電源)
M 中間電極用直流電源
m 中間電極用直流電源装置
I1 第1電流値
I2 第2電流値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先行ガスシールドアーク溶接電極と、後行ガスシールドアーク溶接電極と、を備え、さらに当該先行ガスシールドアーク溶接電極と当該後行ガスシールドアーク溶接電極との間に中間電極を備えるとともに、当該先行ガスシールドアーク溶接電極と、当該後行ガスシールドアーク溶接電極と、当該中間電極とが、消耗電極である多電極ガスシールドアーク自動溶接装置であって、
それぞれ一定の速度で送給される前記先行ガスシールドアーク溶接電極、および前記後行ガスシールドアーク溶接電極が、それぞれ正極に接続され、被溶接材料が負極に接続されるとともに、定電圧特性を有する2つの直流電源と、
前記被溶接材料が正極に接続され、前記中間電極が負極に接続されるとともに、定電流特性を有する中間電極用直流電源と、
前記中間電極と前記被溶接材料との間の電圧を検知する電圧検知手段と、
前記電圧検知手段により検知した電圧が入力され、短絡か否かを判定する短絡判定手段と、
電流値信号が外部より入力されるとともに、前記短絡判定手段が短絡と判定した場合は、第1電流値を示す電流値信号を電流値設定信号として前記中間電極用直流電源に出力し、前記短絡判定手段が短絡でないと判定した場合は、前記第1電流値より小さい第2電流値を示す電流値信号を電流値設定信号として前記中間電極用直流電源に出力する中間電極用電流設定手段と、
前記中間電極の送給速度を一定の速度とする速度制御手段と、
前記中間電極を前記被溶接材料に向かって送給する電極送給手段と、
を備えることを特徴とする多電極ガスシールドアーク自動溶接装置。
【請求項2】
前記中間電極用直流電源に並列に接続されるとともに、前記被溶接材料が正極に接続され、前記中間電極が負極に接続されており、高インピーダンス特性を有する中間電極用補助直流電源を備えることを特徴とする請求項1に記載の多電極ガスシールドアーク自動溶接装置。
【請求項3】
前記中間電極用補助直流電源は、短絡電流が1A以下という出力特性を有することを特徴とする請求項2に記載の多電極ガスシールドアーク自動溶接装置。
【請求項4】
前記電圧検知手段と、前記短絡判定手段と、前記中間電極用電流設定手段と、前記速度制御手段と、前記中間電極用直流電源と、をまとめて一つの筐体に備えることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の多電極ガスシールドアーク自動溶接装置。
【請求項5】
水平すみ肉溶接に適用されることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の多電極ガスシールドアーク自動溶接装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−166249(P2012−166249A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−30519(P2011−30519)
【出願日】平成23年2月16日(2011.2.16)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】