説明

大気中の前処理を伴っためっき方法並びにめっき前処理装置

【課題】事前の表面処理工程を伴わずに、レーザーの照射によって金属表面にめっき膜の形成を可能とするめっき方法の構成を提供すること。
【解決手段】窒素雰囲気中において、金属表面に対し、1ピコ秒ないし600ピコ秒のパルス幅を有している近赤外領域のレーザーパルスを照射することによって、当該金属表面に窒化膜を形成した後に当該窒化膜形成表面に金属をめっきすることに基づき、事前の表面処理に伴わずにめっき膜の形成を可能とするめっき方法及び当該めっき方法を実現するための窒素ガスボンベ5と連通し、かつ窒素ガスを収容する容器10を備えたことによるめっき前処理装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属表面において、事前の前処理を伴うめっき方法及びめっき前処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属表面に対し、所定の領域にめっき処理を行う為には必然的な前段階の処理を必要としている。
【0003】
通常、特許文献1に示すようなマスキング剤を金属表面にコーティングし、その後油脂成分による汚れ除去の為の脱脂工程に酸化膜を除去するための酸処理を行った後、めっき膜を形成し、さらにその後マスキング剤を薬品によって除去する方法が採用されているが、そのような方法はマスキング剤及び前記処理のための薬品が必要であり、しかも処理作業も煩雑である。
【0004】
他方、特許文献2に示すようにめっき液中に金属を挿入し、当該金属表面にレーザー光を照射する方法が提案されているが、そのような方法では各仕様毎にレーザーを照射する光学系を有するめっきラインが必要となり、生産性が極めて乏しく、実用化に至っていない。
【0005】
【特許文献1】特開2003−183877号公報
【特許文献2】特開2002−161369号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、事前の表面処理工程を伴わずに、レーザーの照射によって金属表面にめっき膜の形成を可能とするめっき方法の構成を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明の基本構成は窒素雰囲気中において、金属表面に対し、1ピコ秒ないし600ピコ秒のパルス幅を有している近赤外領域のレーザーパルスを照射することによって、当該金属表面に窒化膜を形成した後に当該窒化膜形成表面に金属をめっきすることに基づくめっき方法からなる。
【発明の効果】
【0008】
本発明においては、金属表面において、窒化膜を形成するという画期的な手法にて表面の油脂及び酸化膜を除去することによって、事前のマスキング工程を伴わずに、その後のめっき処理が可能となり、極めて効率的な金属表面めっきを実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
前記基本構成からも明らかなように、本発明はめっき処理の対象となる金属表面に窒化膜を形成し、かつ、当該形成に伴って、油脂、酸化膜等の汚れ部分を除去し、事前の表面処理を実現する点に、最大の特徴を有している。
【0010】
したがって、本発明の方法を適用し得る金属は、窒化化合物を形成し得る金属に限定され得るが、その典型例はチタン、チタン合金、鉄、ステンレス、ジルコニウム、タンタル等を挙げることができる(尚、窒化カルシウム等のアルカリ土類金属、更には窒化アルミニウム等の軽金属においても窒化膜の形成は可能であるが、このような金属の場合には通常めっき処理の対象となっていない)。
【0011】
前記窒化膜の形成は、近赤外領域の波長(通常800nmないし1100nm)であって、しかも、パルス幅が1ピコ秒ないし600ピコ秒であることによって初めて実現可能であることが、実験により確認されており、逆に、前記パルス幅の長い場合又は短い場合の何れにおいてもめっき前処理に必要な窒化膜の形成を確認するに至っていない。
【0012】
レーザーの照射においては、前記窒化膜の形成に必要な照射エネルギーを必要とするが、発明者らの経験によれば0.18ジュール/cmの場合には十分窒素噴出中において窒化膜の形成が可能である。
【0013】
本発明の方法によって前処理が行われた後のめっき方法は、所謂電気めっき、無電解めっき、溶融めっき、衝撃めっき、真空めっき、化学蒸着めっきの何れも採用することが可能である。
【0014】
そして、めっき膜を形成する金属としては、従前技術の場合と同様にニッケル、金、銀、銅、スズ、亜鉛等を採用することができる。
【0015】
金属表面において所定領域にめっき膜を形成する場合、逆にその他の領域においてめっき膜を形成しないことが必要である場合が存在し、本発明においてもその例外ではない。
【0016】
このような場合に備えて、本発明においては酸素雰囲気中において、金属表面のうちめっき形成を予定していない領域に対し、1ピコ秒ないし600ピコ秒のパルス幅を有している近赤外領域のレーザーパルスを照射することによって酸化膜を形成することに基づく金属表面に対するめっき方法を特徴とする実施形態を採用することも可能である。
【0017】
以下、実施例に従って説明する。
【実施例1】
【0018】
実施例1は、
図1(a)、(b)、(c)に示すように、窒素ガスをノズル4によってめっきを予定している領域である金属1表面に吹きつける構成を示している。
【0019】
本発明の方法において窒化膜は、大気中における窒素の含有状態によって実現することは極めて困難である。
【0020】
前記吹きつけ方法としては、レーザー光2の照射方向と対比した場合、図1(a)に示すように同一方向である場合、図1(b)に示すように斜方向の場合、更には図1(c)に示すように直交する方向の場合と何れも採用することが可能であるが、図1(a)のような同軸方向が最も効率的な窒化膜の形成を実現することができる。
【0021】
図1(a)、(b)、(c)に示すような何れの方向においても、集光レンズ3を通過したレーザー光は、窒素ガスが吹き付けられている金属1の表面に集光されていることを不可欠としている。
【実施例2】
【0022】
実施例2は、
図2(a)、(b)に示すように、窒素雰囲気化した領域内においてレーザー照射が可能である本願発明のめっき前処理装置の構成を示している。
具体的には、
図2(a)に示すように、パルス幅が1ピコ秒ないし600ピコ秒の範囲内にあるレーザー発振装置及び集光レンズを備えたレーザー光照射装置と、窒素ガスボンベ及び当該ボンベと連通し、かつ窒素ガスを収容する容器を備え、当該容器の外側に設けたノズルによってレーザー光の集光領域に窒素ガスを噴き付けることができるノズルを設けたことによる構成、又は
図2(b)に示すように、パルス幅が1ピコ秒ないし600ピコ秒の範囲内にあるレーザー発振装置及び集光レンズを備えたレーザー光照射装置と、窒素ガスボンベ及び当該ボンベと接続可能であって、かつ窒素ガスを収容する容器を備え、当該容器10のへ基部のうち、少なくともレーザー光が進入し、かつ透過する領域について透明部材によって形成されており、かつ容器の内側においてレーザー光を集光することに基づく構成
の何れをも採用することができる(図2(b)においてミラー8の左側及び上側部分は、図2(a)と同一なので、これらの領域部分の図示については省略する)。
【0023】
図2(a)に示すような容器の外側にノズル4を設けた構成の場合には、前処理を行う金属表面に対し、ノズルによって集中的な窒素ガスの噴きつけが可能となる。
これに対し、図2(b)の構成の場合には、レーザー照射を行い、かつ前処理を行う領域全体を窒素雰囲気の状態とすることが可能となる。
尚、図2(a)に対応する実施例の場合には、ノズル4による吹きつけを行う関係上、容器10とガスボンベ5とは連通していることが必要であるが、図2(b)に対応する実施例の場合には、窒素ガスが容器10内に充満していることから、容器10とガスボンベ5とは必ずしも連通する必要はなく、接続可能であればよい。
【0024】
図2(a)は、レーザー光には容器10の壁部、及びノズル4を透過する構成を示しているが、図2(a)に対応する実施例は、そのような構成に限定される訳ではない(レーザー光が容器10及びノズル4を透過しない構成も採用可能である。)。
但し、容器10の壁部、及び/又はノズル4を透過する場合には容器の壁部及び/又はノズル4のうち、少なくともレーザー光2が通過する領域については透明な素材を採用することを不可欠とする。
【0025】
図2(a)(b)に示すめっき前処理装置において集光レンズ3は容器10の内側及び外側の何れにも設置することが可能である(図2(a)は集光レンズ3を容器10の内側に設けた場合を示しており、図2(b)は集光レンズ3を容器10の外側に設けた場合を示す。)。
尚、図2(a)(b)においては、良質のレーザー処理を行うために、ビーム成形素子9を通過させている。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、前処理を使用する広範囲のめっき産業の分野に利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施例1の構成を示しており、(a)は窒素ガスをレーザー光と同一方向に吹き付けた場合を示しており、(b)は窒素ガスをレーザー光に対し斜方向に吹き付けた場合を示しており、(c)は窒素ガスをレーザー光と直交する方向に吹き付けた場合を示している。
【図2】実施例2のめっき前処理装置の構成を示しており、(a)はノズルを容器の外側に設けた構成を示しており、(b)はノズルを設けていない構成を示している(尚、図2(b)の点線はガスボンベと容器とが接続可能である状態を示している)。
【符号の説明】
【0028】
1 めっき処理金属
2 レーザー光
3 集光レンズ
4 ノズル
5 ガスボンベ
6 レーザーパルス発振装置
7 レーザーの出力を制御するユニット
8 ミラー
9 ビーム成形素子
10 容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素雰囲気中において、金属表面に対し、1ピコ秒ないし600ピコ秒のパルス幅を有している近赤外領域のレーザーパルスを照射することによって、当該金属表面に窒化膜を形成した後に当該窒化膜形成表面に金属をめっきすることに基づくめっき方法。
【請求項2】
窒素ガスをガスノズルによってめっきを予定している領域である金属表面に吹きつけることを特徴とする請求項1記載の金属表面に対するめっき方法。
【請求項3】
めっき処理の対象となる金属がチタン、チタン合金、鉄、ステンレス、ジルコニウム、タンタルであることを特徴とする請求項1,2記載の金属表面に対するめっき方法。
【請求項4】
酸素雰囲気中において、金属表面のうちめっき膜形成を予定していない領域に対し、1ピコ秒ないし600ピコ秒のパルス幅を有している近赤外領域のレーザーパルスを照射することによって酸化膜を形成することを特徴とする請求項1記載の金属表面に対するめっき方法。
【請求項5】
パルス幅が1ピコ秒ないし600ピコ秒の範囲内にあるレーザー発振装置及び集光レンズを備えたレーザー光照射装置と、窒素ガスボンベ及び当該ボンベと連通し、かつ窒素ガスを収容する容器を備え、当該容器の外側に設けたノズルによってレーザー光の集光領域に窒素ガスを噴き付けることができることに基づく請求項1記載のめっき方法を実現するためのめっき前処理装置。
【請求項6】
レーザー光が容器、及び/又はノズルを透過しており、かつ容器の壁部及び/又はノズルのうち、少なくともレーザー光が透過する領域については透明部材によって形成されていることを特徴とする請求項5記載のめっき前処理装置。
【請求項7】
パルス幅が1ピコ秒ないし600ピコ秒の範囲内にあるレーザー発振装置及び集光レンズを備えたレーザー光照射装置と、窒素ガスボンベ及び当該ボンベと接続可能であって、かつ窒素ガスを収容する容器を備え、当該容器の壁部のうち、少なくともレーザー光が進入し、かつ透過する領域について透明部材によって形成されており、かつ容器の内側においてレーザー光を集光することを特徴とする請求項1記載のめっき方法を実現するためのめっき前処理装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−81783(P2008−81783A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−262722(P2006−262722)
【出願日】平成18年9月27日(2006.9.27)
【出願人】(592029256)福井県 (122)
【出願人】(000146087)株式会社松浦機械製作所 (40)
【Fターム(参考)】