説明

大気圧プラズマ装置

【課題】長尺な基材をドラムに巻き掛けて長手方向に搬送しつつ、大気圧プラズマを用いて成膜を行なう際に、成膜前に基材の表面処理を行なう場合に、基材とパスローラ等との接触や表面処理からの時間経過によって表面処理の効果を低下させること無く成膜を行なうことにより、基材と成膜物との密着性を向上させ、高品質な膜を効率よく連続成膜することができる大気圧プラズマ装置を提供する。
【解決手段】基材の搬送方向において、成膜用電極よりも上流側に、ドラム電極の周面に対面して設けられる処理用電極と、処理用電極に電圧を印加する処理用電源と、ドラム電極と処理用電極との間に、表面処理用の反応性ガスを供給する反応性ガス供給手段とを有することで上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気圧プラズマを用いて基材上に成膜を行なう大気圧プラズマ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、液晶ディスプレイおよび有機ELディスプレイなどの表示装置、光学素子、半導体装置、または薄膜太陽電池など、各種の装置に、ガスバリアフィルム、保護フィルム、光学フィルタ、反射防止フィルム等の光学フィルムなど、各種の機能性フィルム(機能性シート)が利用されている。
このような機能性フィルムの製造には、一般に、塗布によるものや、スパッタリング、プラズマCVD等の真空成膜法による成膜(薄膜形成)が利用されているが、近年では、大気圧プラズマを用いて成膜を行なう方法も提案されている。
大気圧プラズマを用いた成膜は、真空成膜法よる成膜と比較して、真空と大気圧との切替が不要のため連続で処理することができ、生産性が高く、また、真空装置が不要のため、装置構成が簡単になる。
【0003】
また、大気圧プラズマを用いた成膜において、効率良く、高い生産性を確保して成膜を行なうためには、長尺な基材に連続的に成膜を行なうのが好ましい。
このような成膜を実施する成膜装置としては、長尺な基材(ウェブ状の基材)をロール状に巻回してなる供給ロールと、成膜済の基材をロール状に巻回する巻取りロールとを用いる、いわゆるロール・ツー・ロール(Roll to Roll)の成膜装置が知られている。このロール・ツー・ロールの成膜装置は、基材に成膜を行なう成膜領域を通過する所定の経路で、供給ロールから巻取りロールまで長尺な基材を挿通し、供給ロールからの基材の送り出しと、巻取りロールによる成膜済基材の巻取りとを同期して行いつつ、成膜室において、搬送される基材に連続的に成膜を行なう。
また、このようなロール・ツー・ロールの成膜装置では、円筒状のドラムを設け、この周面に対面する位置に電極や反応ガス供給手段等の成膜手段を設けると共に、ドラムの周面に基材を巻き掛けて搬送しつつ、成膜手段によって連続的に成膜を行なう装置も知られている。
【0004】
例えば、特許文献1には、大気圧プラズマ放電処理装置を用いて、対向電極間で放電させ、対向電極間を移送する基材フィルムをプラズマ状態の混合ガスに晒すことによって基材フィルムの上に薄膜を形成させる大気圧プラズマ放電処理による光学フィルムの製造方法において、基材フィルムまたは薄膜形成された基材フィルムの供給ロール(繰り出し機(アンワインダー))から巻取りロール(巻き取り機(ワインダー))までの工程内の少なくとも一箇所に設けた表面処理手段により表面処理を行うようにした光学フィルムの製造方法が記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、大気圧もしくは大気圧近傍の圧力下で、対向する電極間に高周波電界を印加して放電空間を形成し、放電空間に供給される製膜性ガスを含む放電ガスを励起し、励起した放電ガスを基材に晒して基材上に薄膜を形成する薄膜形成装置において、異なる製膜形成条件を付与しうる、製膜処理ゾーンまたは製膜処理モードを2つ以上有する薄膜形成装置が記載されている。
この引用文献2には、ドラム(ロール電極)と複数の対向電極(棒状電極)により放電空間が形成されており、長尺の基材はドラムに接触したまま巻き回しながら対向電極との間に移送されることで、プラズマ状態のガスに晒され、それにより基材表面上に薄膜が形成されることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−328125号公報
【特許文献2】特開2005−194576号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
基材上に成膜を行なう際に、基材と成膜物との密着性を向上させるために、成膜の前に表面処理を行なうことが一般的に行なわれている。例えば、前述のとおり、特許文献1には、基材フィルムの供給ロールから巻取りロールまでの工程内の少なくとも一箇所に表面処理手段を設けることが記載されている。
このような表面処理手段の1つとしてプラズマ処理が用いられている。プラズマ処理による表面処理により、基材表面の表面粗さが増加し、また、基材表面が活性化される。これにより、基材と成膜物との密着性を向上させることができる。
【0008】
しかしながら、特許文献1のように、表面処理手段と成膜手段(ドラム)とを互いに独立に配置した場合、表面処理された基材が成膜手段(ドラム)の位置に搬送されるまでの間に複数のパスローラ等を通過することになる。そのため、表面粗さが増加した基材の表面の一部が脱落して、密着性向上の効果が低下したり、脱落した基材の一部がパーティクルとなり、基材や装置に異物として付着するという問題が発生する。
また、表面処理を行なってからの時間経過とともに、表面処理による基材表面の活性化の効果も減少していくため、基材を表面処理手段から成膜手段へ搬送するまでの時間が長くなるほど、密着性向上の効果も低下してしまう。基材と成膜物との密着性が低下してしまうと、高温になったり、曲げたりした場合に、成膜物が基材から剥がれてしまうおそれがある。
【0009】
本発明の目的は、前記従来技術の問題点を解消し、長尺な基材をドラムに巻き掛けて長手方向に搬送しつつ、大気圧プラズマを用いて成膜を行なう際に、成膜前に基材の表面処理を行なう場合に、基材とパスローラ等との接触や表面処理からの時間経過によって表面処理の効果を低下させること無く成膜を行なうことにより、基材と成膜物との密着性を向上させ、高品質な膜を効率よく連続成膜することができる大気圧プラズマ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は、長尺な基材を長手方向に搬送しつつ、前記基材に成膜を行なう大気圧プラズマ装置であって、前記基材を周面の所定領域に巻き掛けて搬送する円筒状のドラム電極と、前記ドラム電極の周面に対面して設けられる成膜用電極と、前記成膜用電極に電圧を印加する成膜用電源と、前記ドラム電極と前記成膜用電極との間に、成膜用の原料ガスを供給する原料ガス供給手段と、前記基材の搬送方向において、前記成膜用電極よりも上流側に、前記ドラム電極の周面に対面して設けられる処理用電極と、前記処理用電極に電圧を印加する処理用電源と、前記ドラム電極と前記処理用電極との間に、表面処理用の反応性ガスを供給する反応性ガス供給手段とを有することを特徴とする大気圧プラズマ装置を提供するものである。
【0011】
ここで、前記成膜用電極が円筒状の第2ドラムであり、この第2ドラムも、長尺な基材を周面の所定領域に巻き掛けて長手方向に搬送することが好ましい。
また、前記第2ドラムの周面に対面して第2処理用電極と、この第2処理用電極と第2ドラムとの間に表面処理用の反応性ガスを供給する第2反応性ガス供給手段とを有することが好ましい。
【0012】
また、前記反応性ガス供給手段と共に、前記処理用電極を前記基材の搬送方向に挟むように配置される、前記反応性ガス供給手段が供給した反応性ガスを吸引する反応性ガス吸引手段を有することが好ましい。
さらに、前記第2反応性ガス供給手段と共に、前記第2処理用電極を前記基材の搬送方向に挟むように配置される、前記第2反応性ガス供給手段が供給した反応性ガスを吸引する第2反応性ガス吸引手段を有することが好ましい。
また、前記基材の搬送方向において、前記原料ガス供給手段の下流に配置される、前記原料ガス供給手段が供給した原料ガスを吸引する、原料ガス吸引手段を有することが好ましい。
【0013】
また、前記反応性ガスが、前記ドラム電極と成膜用電極との間に混入することを防止する反応性ガス混入防止手段を有することが好ましい。
ここで、前記反応性ガス混入防止手段が、前記ドラム電極と成膜用電極との間へのガス流を遮蔽するエアナイフであることが好ましい。
あるいは、前記反応性ガス混入防止手段が、前記ドラム電極と成膜用電極との間の圧力を、他の電極対の間の圧力よりも高くする、ガス供給の制御手段であることが好ましい。
また、前記反応性ガスが、前記原料ガスに含まれないガス成分を含む場合に、前記反応性ガス混入防止手段を有することが好ましい。
【0014】
また、前記原料ガスが、前記ドラム電極と前記処理用電極との間に混入することを防止する、原料ガス混入防止手段を有することが好ましい。
ここで、前記原料ガス混入防止手段が、前記ドラム電極と前記処理用電極との間へのガス流を遮蔽するエアナイフであることが好ましい。
あるいは、前記原料ガス混入防止手段が、前記ドラム電極と前記処理用電極との間の圧力を、前記ドラム電極と前記成膜用電極との間の圧力よりも高くするガス供給の第2制御手段であることが好ましい。
【0015】
また、前記原料ガスが、前記第2ドラムと前記第2処理用電極との間に混入することを防止する、第2原料ガス混入防止手段を有することが好ましい。
ここで、前記第2原料ガス混入防止手段が、前記第2ドラムと前記第2処理用電極との間へのガス流を遮蔽するエアナイフであることが好ましい。
あるいは、前記第2原料ガス混入防止手段が、前記第2ドラムと前記第2処理用電極との間の圧力を、前記ドラム電極と前記第2ドラムとの間の圧力よりも高くするガス供給の第3制御手段であることが好ましい。
また、前記原料ガスが、前記反応性ガスに含まれるガス成分を全て含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、長尺な基材をドラムに巻き掛けて長手方向に搬送しつつ、大気圧プラズマを用いて成膜を行なう際に、成膜前に基材の表面処理を行なう場合に、同一ドラム上で表面処理を行なうので、表面処理後の基材をパスローラ等に接触させることなく、成膜位置まで搬送することができ、また、表面処理から成膜までの距離が短く、表面処理から成膜までの経過時間を短くすることができ、表面処理の効果を低下させることなく成膜を行なうことができるので、基材と成膜物との密着性を向上させ、高品質な膜を効率よく連続成膜することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の大気圧プラズマ装置の一例を概念的に示す図である。
【図2】本発明の大気圧プラズマ装置の他の一例の一部を概念的に示す図である。
【図3】本発明の大気圧プラズマ装置の他の一例を概念的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の大気圧プラズマ装置について、添付の図面に示される好適例を基に、詳細に説明する。
【0019】
図1に、本発明の大気圧プラズマ装置の一例を概念的に示す。
図示例の大気圧プラズマ装置10は、長尺な基材(フィルム原反)を長手方向に搬送しつつ、この基材の表面に、大気圧近傍の圧力のもとでプラズマを発生させる大気圧プラズマCVDによって各種の機能膜を成膜(製造/形成)して、機能性フィルムを製造するものである。
また、この大気圧プラズマ装置10は、長尺な基材をロール状に巻回してなる基材ロールから基材を送り出し、長手方向に搬送しつつ機能膜を成膜して、機能膜を成膜した基材(すなわち、機能性フィルム)をロール状に巻き取る、いわゆるロール・ツー・ロール(Roll to Roll)による成膜を行なう装置である。
【0020】
なお、本発明において、基材には、特に限定はなく、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムなどの樹脂フィルム、金属フィルム等、大気圧プラズマCVDによる成膜が可能な長尺なフィルム状物(シート状物)が、全て利用可能である。
また、樹脂フィルム等を基材として、平坦化層、保護層、密着層、反射層、反射防止層等の各種の機能を発現するための層(膜)を成膜してなるフィルム状物を、基材として用いてもよい。
なお、金属フィルムを基材として利用する場合には、プラズマを発生させるための電極の表面に誘電体層を設ける必要がある。
【0021】
図1に示す大気圧プラズマ装置10は、2つの長尺な基材ZおよびYを搬送しつつ、基材Zおよび基材Yが巻き掛けられた2つのドラムの間でプラズマを発生させて、基材ZおよびYの表面に成膜を行なう装置である。
この大気圧プラズマ装置10は、成膜部12と、第1表面処理部14と、第2表面処理部16と、回転軸20と、メインドラム24aと、第2ドラム24bと、巻取り軸48と、ガイドローラ50、52と、圧力制御手段58とを有する。
なお、大気圧プラズマ装置10は、図示した部材以外にも、各種のセンサ、搬送ローラ対や基材ZおよびYの幅方向の位置を規制するガイド部材など、基材ZおよびYを所定の経路で搬送するための各種の部材(搬送手段)等、ロール・ツー・ロールによって大気圧プラズマCVDによる成膜を行なう装置が有する各種の部材を有してもよい。
【0022】
大気圧プラズマ装置10は、基材Zおよび基材Yをそれぞれ所定の経路で搬送しつつ、基材Zが巻き掛けられたメインドラム24aと、基材Yが巻き掛けられた第2ドラム24bとの間に原料ガスを供給し、メインドラム24aと第2ドラム24bとの間にプラズマ励起電力を印加してプラズマを発生させて基材ZおよびYに成膜を行なうものである。
なお、基材Zと基材Yとは、同じ種類のフィルムを用いてもよいし、異なる種類のフィルムを用いてもよい。
【0023】
長尺な基材Zを巻回した基材ロール22aは、回転軸20aに装填される。また、長尺な基材Yを巻き回した基材ロール22bは、回転軸20bに装填される。
回転軸20aに基材ロール22aが装填されると、基材Zは、メインドラム24aに巻き掛けられ、巻取り軸48aに至る所定の搬送経路を通される。
同様に、回転軸20bに基材ロール22bが装填されると、基材Yは、第2ドラム24bに巻き掛けられ、巻取り軸48bに至る所定の搬送経路を通される。
基材Zの搬送経路と基材Yの搬送経路とは、互いに平行で対称に設けられており、基材Zが巻き掛けられるメインドラム24aと、基材Yが巻き掛けられる第2ドラム24bとが対面するように配置されている。
【0024】
回転軸20aは、図示しない駆動源によって図中反時計方向に回転して、基材ロール22aから基材Zを送り出し、ガイドローラ50aによって所定の経路を案内して、基材Zをメインドラム24aに送る。
同様に、回転軸20bは、図示しない駆動源によって図中時計方向に回転して、基材ロール22bから基材Yを送り出し、ガイドローラ50bによって所定の経路を案内して、基材Yを第2ドラム24bに送る。
【0025】
メインドラム24aは、中心線を中心に図中時計方向に回転する円筒状の部材で、ガイドローラ50aによって所定の経路に案内された基材Zを、周面の所定領域に掛け回して、基材Zを第2ドラム24bに対面する所定位置に保持しつつ、長手方向に搬送する。
このメインドラム24aは、基材Zに成膜を行なう大気圧プラズマCVDにおいては、第2ドラム24bと共に電極対を形成するものであり、かつ、基材Zの表面処理を行なう大気圧プラズマ放電処理においては、表面処理用対向電極34aと共に電極対を形成するものである。また、メインドラム24aは、接地(アース)されている。
【0026】
第2ドラム24bは、中心線を中心に図中反時計方向に回転する円筒状の部材で、ガイドローラ50bによって所定の経路に案内された基材Yを、周面の所定領域に掛け回して、基材Yをメインドラム24aに対面する所定位置に保持しつつ、長手方向に搬送する。
この第2ドラム24bは、基材Yに成膜を行なう大気圧プラズマCVDにおいては、メインドラム24aと共に電極対を形成するものであり、かつ、基材Yの表面処理を行なう大気圧プラズマ放電処理においては、表面処理用対向電極34bと共に電極対を形成するものである。また、第2ドラム24bには、成膜部12の交流電源28が接続されている。
【0027】
なお、必要に応じて、メインドラム24aおよび第2ドラム24b(以下、両方をまとめて「ドラム24」ともいう)は、成膜中の基材の温度調整手段を兼ねてもよい。そのため、ドラム24は、温度調節手段を内蔵するのが好ましい。ドラム24の温度調節手段には、特に限定はなく、温媒又は冷媒等を循環する温度調節手段、ピエゾ素子等を用いる冷却手段等、各種の温度調節手段が、全て利用可能である。
【0028】
メインドラム24aおよび第2ドラム24bにそれぞれ巻き掛けられ搬送される基材ZおよびYは、成膜部12において、成膜される前に、メインドラム24aおよび第2ドラム24bにそれぞれ対面して設けられた表面処理部14、16によって、表面処理を行なわれる。
【0029】
前述のとおり、第1表面処理部14は、メインドラム24aとの間で、プラズマを生成して、大気圧プラズマ放電処理を行なうことによって、成膜前の基材Zの表面処理を行なうものである。
同様に、第2表面処理部16は、第2ドラム24bとの間で、プラズマを生成して、大気圧プラズマ放電処理を行なうことによって、成膜前の基材Yの表面処理を行なうものである。
なお、第1表面処理部14で行なう表面処理と、第2表面処理部16で行なう表面処理とは同じであっても異なっていてもよい。
【0030】
第1表面処理部14は、表面処理用対向電極34aと、交流電源36と、反応性ガス供給手段38aと、反応性ガス吸気手段40aとを有する。
第2表面処理部16は、表面処理用対向電極34bと、反応性ガス供給手段38bと、反応性ガス吸気手段40bとを有する。
【0031】
表面処理用対向電極34aは、成膜を行なう前の基材Zに表面処理を行なうための大気圧プラズマ放電処理において、メインドラム24aと共に電極対を形成するものである。
同様に、表面処理用対向電極34bは、成膜を行なう前の基材Yに表面処理を行なうための大気圧プラズマ放電処理において、第2ドラム24bと共に電極対を形成するものである。
【0032】
表面処理用対向電極34は、プラズマCVD等において利用される、公知の電極であり、基材の搬送方向において、2つのドラム24が互いに対面する位置よりも上流側でドラム24と対面して配置されている。
また、第1表面処理部14の表面処理用対向電極34aには、交流電源36が接続されている。
一方、第2表面処理部16の表面処理用対向電極34bは、接地(アース)されている。
【0033】
図示例において、表面処理用対向電極34は、一例として、一面がドラム24の周面に対面した、板状の電極である。
なお、表面処理用対向電極34のドラム24と対面する面の表面は、誘電体で形成されていることが好ましい。表面処理用対向電極34の表面を誘電体で形成することにより、ドラム24との間で安定してプラズマを形成することができる。
【0034】
反応性ガス供給手段38は、ドラム24と表面処理用対向電極34との間に、プラズマを発生させるための反応性ガスを供給するものである。反応性ガス供給手段38は、各種のプラズマCVD装置で利用されている公知のガス供給手段が、全て利用可能である。
反応性ガス供給手段38のガス噴出口は、基材の搬送方向において、表面処理用対向電極34の下流側に配置されている。
【0035】
反応性ガスは、要求される表面処理に応じて、公知のガスを利用すればよい。例えば、酸素ガス、窒素ガス、水素ガス、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、ラドン、水、アンモニア等を単体あるいは複数組み合わせて用いることができる。
なお、第1表面処理部14で供給される反応性ガスと第2表面処理部16で供給される反応性ガスとは同じであっても異なっていてもよい。
【0036】
反応性ガス吸引手段40は、ドラム24と表面処理用対向電極34との間に供給された反応性ガスを吸引するためのものである。反応性ガス吸引手段40は、各種のプラズマCVD装置で利用されている公知のガス吸引手段(排気手段)が、全て利用可能である。
反応性ガス吸引手段40のガス吸引口は、基材の搬送方向において、表面処理用対向電極34の上流側に配置されている。反応性ガス吸引手段40により、反応性ガスが装置の他の領域に拡散することを防止している。
【0037】
第1表面処理部14の交流電源36は、表面処理用対向電極34aに、プラズマ励起電力を供給する交流電源である。なお、表面処理用対向電極にプラズマ励起電力を供給する電源としては、交流電源、高周波電源、パルス電源等の、各種のプラズマCVD装置で利用されている、公知の電源が、全て利用可能である。
【0038】
前述のとおり、基材上に成膜を行なう際に、基材と成膜物との密着性を向上させるために、成膜の前に種々の表面処理が行なわれており、このような表面処理の1つとしてプラズマ放電処理が用いられている。プラズマ放電処理による表面処理により、基材表面の表面粗さが増加し、また、基材表面が活性化され、基材と成膜物との密着性を向上させることができる。
しかしながら、特許文献1のように、表面処理手段と成膜手段(ドラム)とを互いに独立に配置した場合、表面処理後の基材は、成膜手段(ドラム)の位置に搬送されるまでの間に複数のガイドローラを通過することになる。そのため、表面粗さが増加した基材の表面の一部が脱落して、密着性向上の効果が低下したり、脱落した基材の一部がパーティクルとなり、基材や装置に異物として付着するという問題が発生する。また、表面処理を行なってからの時間経過とともに、表面処理による基材表面の活性化の効果も減少していくため、基材を表面処理手段から成膜手段へ搬送するまでの時間が長くなるほど、密着性向上の効果も低下してしまう。
【0039】
これに対して、本発明は、このように、ロール・ツー・ロールで、基材をドラムに巻き掛けて搬送しつつ、大気圧プラズマCVDによる成膜を行なう装置において、成膜前に基材の表面処理を行なう場合に、成膜を行なうドラム上に基材が巻き掛けられた状態で、基材の表面処理を行なう。これにより、表面処理後の基材をガイドローラ等と接触させることなく成膜を行なうことができる。また、同一ドラム上で表面処理と成膜とを行なうので、表面処理部から成膜部までの距離が短く、表面処理から成膜までの経過時間を短くすることができる。従って、表面処理の効果を低下させることなく成膜を行なうことができ、基材と成膜物との密着性を向上させることができる。
【0040】
ドラムに巻き掛けられた状態で表面処理部14、16によって表面処理された基材ZおよびYは、それぞれメインドラム24aおよび第2ドラム24bに巻き掛けられたまま、成膜部12において、成膜される。
【0041】
成膜部12は、電極対となるメインドラム24aおよび第2ドラム24bと共に、基材Zおよび基材Yの表面に、大気圧プラズマCVDによって、機能膜を形成(成膜)するものである。
図示例において、成膜部12は、交流電源28と、原料ガス供給手段30と、原料ガス吸引手段32と、隔壁54、56とを有する。
【0042】
交流電源28は、第2ドラム24bにプラズマ励起電力を供給する交流電源である。なお、第2ドラム24bにプラズマ励起電力を供給する電源としては、交流電源、高周波電源、パルス電源等の、各種の大気圧プラズマCVD装置で利用されている、公知の電源が、全て利用可能である。
【0043】
原料ガス供給手段30は、プラズマCVD装置等の真空成膜装置に用いられる公知のガス供給手段であり、メインドラム24aと第2ドラム24bとの間に、原料ガスを導入する。
原料ガス供給手段30のガス噴出口は、基材の搬送方向において、ドラム24が互いに対向する位置の上流側に配置されている。
【0044】
原料ガスは、成膜する機能膜に応じて、公知のガスを利用すればよい。
例えば、機能膜として酸化物無機化合物層を形成する場合であれば、原料ガスとして、不活性ガスと、酸素ガスと、テトラエトキシシランもしくはヘキサメチルジシロキサンとを用いることが好ましい。
酸化物無機化合物層を、少なくとも、原料ガスとして用いるCVDで形成するのが好ましい。
【0045】
原料ガス吸引手段32は、メインドラム24aと第2ドラム24bとの間で成膜に用いられた原料ガスを吸引するためのものである。原料ガス吸引手段32は、各種のプラズマCVD装置で利用されている公知のガス吸引手段(排気手段)が、全て利用可能である。
反応性ガス吸引手段40のガス吸引口は、基材の搬送方向において、ドラム24が互いに対向する位置の下流側に配置されている。
原料ガス吸引手段32により、原料ガスが装置の他の領域に拡散することを防止している。
【0046】
本発明の大気圧プラズマ装置10は、好ましい態様として、隔壁54および56を有している。
隔壁54および56は、成膜が行なわれる領域(成膜領域)と、他の空間とを分離し、原料ガスが他の空間、特に、表面処理部14、16とドラム24との間(表面処理領域)へ流入するのを防止し、また、表面処理部14、16での表面処理用の反応ガスが成膜領域に流入するのを防止するためのものである。
【0047】
隔壁54は、延在方向に垂直な断面が略C形状であり、略C形状の内側面が、メインドラム24aおよび第2ドラム24bと共に、原料ガス供給手段30を囲むように配置されている。また、略C形状の先端は、それぞれ基材に接触しない可能な位置まで、ドラム24の周面に近接している。
【0048】
同様に、隔壁56は、延在方向に垂直な断面が略C形状であり、略C形状の内側面が、メインドラム24aおよび第2ドラム24bと共に、原料ガス吸引手段32を囲むように配置されている。また、略C形状の先端は、それぞれ基材に接触しない可能な位置まで、ドラム24の周面に近接している。
【0049】
原料ガスが他の空間に流入すると、装置や基材の不要な位置に成膜物が堆積/成膜してしまうおそれがある。特に、表面処理部14、16では、プラズマを形成して基材表面の表面処理を行なっているため、表面処理領域に原料ガスが混入すると、表面処理中の基材表面や、表面処理用対向電極34表面に成膜物が成膜されてしまう。
また、表面処理部14、16で用いられる反応性ガスが成膜領域に流入し、成膜に影響を及ぼすおそれもある。
【0050】
これに対して、隔壁54、56により、成膜領域と他の空間とを分離することにより、原料ガスが他の空間に流入して、装置や基材の不要な位置に成膜物が堆積/成膜されてしまうことを防止できる。また、成膜領域に表面処理用の反応性ガスが流入して、成膜に影響を及ぼすことも防止できる。
【0051】
さらに、本発明の大気圧プラズマ装置10においては、好ましい態様として、成膜領域と表面処理領域との間でのガスの流れを規制するための圧力制御手段58を有している。
【0052】
圧力制御手段58は、原料ガス供給手段30の原料ガス供給量と、原料ガス吸引手段32の原料ガス吸引量とを制御し、また、反応性ガス供給手段38aの反応性ガス供給量と、反応性ガス吸引手段40aの反応性ガス吸引量とを制御し、また、反応性ガス供給手段38bの反応性ガス供給量と、反応性ガス吸引手段40bとを制御するものである。
すなわち、圧力制御手段58は、メインドラム24aと第2ドラム24bとの間の空間(成膜領域)の圧力、メインドラム24aと表面処理用対向電極34aとの間の空間(第1表面処理領域)の圧力、および、第2ドラム24bと表面処理用対向電極34bとの間の空間(第2表面処理領域)の圧力を制御するものである。
【0053】
圧力制御手段58は、成膜領域および表面処理領域の圧力を調節して、成膜領域と表面処理領域との間のガスの流れを規制する。
【0054】
例えば、反応性ガス供給手段38から供給される反応性ガスの種類が、成膜部12での成膜への影響が小さいもの(例えば、原料ガスに含まれるガス)であれば、反応性ガスが成膜領域に流入しても成膜部12での成膜は好適に行なわれる。従って、成膜領域から表面処理領域への原料ガスの流入を防止すればよい。
すなわち、表面処理用対向電極34とドラム24との間の空間(表面処理領域)の圧力が、メインドラム24aと第2ドラム24bとの間の空間(成膜領域)の圧力よりも高くなるように、原料ガスの供給量と、反応性ガスの供給量とを調節して、成膜領域の原料ガスが表面処理領域へ流入すること防止すればよい。
【0055】
また、反応性ガスの種類が、成膜部12での成膜に影響するものである場合は、反応性ガスが成膜領域に流入することを防止することが好ましい。従って、メインドラム24aと第2ドラム24bとの間の空間(成膜領域)の圧力が、表面処理用対向電極34とドラム24との間の空間(表面処理領域)の圧力よりも高くなるように、原料ガスの供給量と、反応性ガスの供給量とを調節して、表面処理部の反応性ガスが成膜領域に流入すること防止すればよい。
【0056】
ガスの供給量を調節して成膜領域と表面処理領域との間のガスの流れを規制する方法は、構成が簡単になりコストを低減することができる点で好ましい。
また、第1表面処理部と第2表面処理部とで利用する反応性ガスの種類が異なり、一方の反応性ガスの種類が全て原料ガスに含まれるものであり、他方の反応性ガスが原料ガスに含まれない種類のガスを含む場合には、一方の表面処理領域の圧力を成膜領域より高くし、他方の表面処理領域の圧力を成膜領域より低くしてもよい。
【0057】
なお、本実施例においては、成膜領域と表面処理部との間で、互いにガスが流入するのを防止するために隔壁および圧力制御手段を配置したが、本発明はこれに限定はされない。
【0058】
例えば、成膜領域と表面処理部との間で、ドラムに対してガスを吹き付ける送気手段、すなわち、エアナイフを設けてもよい。エアナイフは、ガスを噴出することによりドラムの軸方向の幅と略同じ長さのエアカーテンを形成し、成膜領域と表面処理部との間を分離し、互いにガス(原料ガス、反応性ガス)が流入するのを防止する。
エアナイフに用いるガスは、成膜および表面処理に影響しないガスであれば良く、例えば、空気を用いることができる。
【0059】
隔壁を用いて成膜領域と表面処理部との間を分離する場合は、隔壁の先端とドラム(基材)とが接触しないように間隙を設ける必要がある。そのため、成膜領域と表面処理部との間でガスが流出入するおそれがある。
これに対して、エアナイフを用いて成膜領域と表面処理部との間を分離することで、より好適に、成膜領域と表面処理部との間でのガスの流出入を防止することができる。
また、これらの方法を複数組み合わせて、成膜領域と表面処理部との間を分離してもよい。
【0060】
ここで、真空成膜装置においては、複数の成膜室や表面処理等の処理室を有する場合、各室を隔壁により分離し、かつ、それぞれの室を高真空にするので、各室は略気密に分離されており、他の室からのガス流入量は少ない。また、他の室からガスが流入した場合であっても、流入したガスは、真空を維持するための排気手段によって排気され、また、成膜領域(処理領域)には、原料ガスが供給されているため、他の室から流入したガスが成膜領域に流入することは少ない。
一方、大気圧プラズマ装置では、大気圧近傍の圧力で成膜や表面処理を行なうので、他の領域のガスが流入しやすい。
これに対して、本発明においては、前述のとおり、好ましい態様として、エアナイフや、原料ガスおよび反応性ガスの供給量を調整することに成膜領域と表面処理部とを分離している。これにより、成膜領域と表面処理部との間で他方のガスが流入することを防止している。
【0061】
機能膜を成膜された基材(すなわち、機能性フィルム)は、ドラム24からガイドローラ52に搬送され、ガイドローラ52によって案内されて、巻取り軸48に搬送される。
【0062】
巻取り軸48aは、図示しない駆動源によって図中反時計方向に回転して、ガイドローラ52aによって所定の経路を案内された成膜後の基材Zをロール状に巻き回す。ロール状に巻き回された基材Zは、機能性フィルムロールとして、次の工程に供される。
同様に、巻取り軸48bは、図示しない駆動源によって図中時計方向に回転して、ガイドローラ52bによって所定の経路を案内された成膜後の基材Yをロール状に巻き回す。ロール状に巻き回された基材Yは、機能性フィルムロールとして、次の工程に供される。
【0063】
次に、大気圧プラズマ装置10における成膜の作用を説明する。
前述のように、回転軸20に基材ロール22が装填されると、基材ZおよびYは、ガイドローラ50によって案内されて、ドラム24の周面の所定領域に掛け回され、ガイドローラ52によって案内されて、巻取り軸48に至る所定の搬送経路を通される。
【0064】
基材ロール22から供給され、ガイドローラ50によって所定の経路に案内された基材ZおよびYはそれぞれメインドラム24aおよび第2ドラム24bに支持/案内されつつ、所定の搬送経路を搬送される。
さらに、反応性ガス供給手段38から、ドラム24と表面処理用対向電極34との間に反応性ガスが供給される。同時に、反応性ガス吸引手段40により、ドラム24と表面処理用対向電極34との間のガスが吸引される。
また、メインドラム24aおよび第2ドラム24bが対面する領域、すなわち、成膜領域には、原料ガス供給手段30から原料ガスが供給される。同時に、原料ガス吸引手段32により、成膜領域のガスが吸引される。
【0065】
反応性ガス供給手段38による反応性ガスの供給と、反応性ガス吸引手段によるガスの吸引とにより、ドラム24と表面処理用対向電極34との間が反応性ガスで満たされ、ガス量(圧力)が安定し、かつ、原料ガス供給手段30による原料ガスの供給と、原料ガス吸引手段によるガス吸引とにより、成膜領域が原料ガスで満たされ、ガス量(圧力)が安定したら、第1表面処理部14の表面処理用対向電極34aには、交流電源36から、プラズマ励起電力が供給され、また、第2ドラム24bには、交流電源28からプラズマ励起電力が供給される。
【0066】
すなわち、成膜部12においては、メインドラム24aと第2ドラム24bとが、大気圧プラズマCVDにおける電極対を構成する。また、第1表面処理部14においては、表面処理用対向電極34aとメインドラム24aとが、大気圧プラズマ放電処理における電極対を構成する。さらに、第2表面処理部16においては、表面処理用対向電極34bと第2ドラム24bとが、大気圧プラズマ放電処理における電極対を構成する。
【0067】
表面処理部14、16においては、表面処理用対向電極34とドラム24との間へのプラズマ励起電力の供給によって、表面処理用対向電極34とドラム24との間でプラズマが励起され、反応性ガスからラジカルが生成されて、ドラム24によって支持されつつ搬送される基材の表面が、粗面化および活性化される。
表面処理部14、16によって表面処理された基材ZおよびYは、ドラム24に巻き掛けられたまま、成膜部12の成膜領域に搬送される。
【0068】
成膜部12においては、メインドラム24aと第2ドラム24bとの間へのプラズマ励起電力の供給によって、メインドラム24aと第2ドラム24bとの間でプラズマが励起され、原料ガスからラジカルが生成されて、ドラム24によって支持されつつ搬送される基材ZおよびYの表面に、大気圧プラズマCVDによって機能膜が成膜される。
【0069】
ここで、同一ドラム上で基材への表面処理と成膜とを行なっているので、表面処理後の基材をガイドローラ等と接触させることなく成膜を行なうことができる。また、同一ドラム上で表面処理と成膜とを行なうので、表面処理部から成膜部までの距離が短く、表面処理から成膜までの経過時間を短くすることができる。
【0070】
このように、本発明は、表面処理の効果を低下させることなく成膜を行なうことができるので、基材と成膜物との密着性を向上させ、高品質な膜を効率よく連続成膜することができる。
【0071】
なお、図示例の大気圧プラズマ装置10においては、表面処理部14、16を、表面処理用対向電極34と、表面処理用対向電極34の下流側に配置された反応性ガス供給手段38と、表面処理用対向電極34の上流側に配置された反応性ガス吸引手段40とを有する構成としたが、本発明はこれに限定はされず、表面処理部を表面処理用対向電極34の上流側に反応性ガス供給手段38を配置し、下流側に反応性ガス吸引手段40を配置する構成としてもよい。
【0072】
表面処理部を表面処理用対向電極34の上流側に反応性ガス供給手段38を配置し、下流側に反応性ガス吸引手段40を配置する構成とすることで、反応性ガス吸引手段40が、成膜部12の原料ガス供給手段30と隣接する。従って、原料ガス供給手段30から供給される原料ガスが表面処理部に流入しても、反応性ガス吸引手段40が流入した原料ガスを吸引するので、表面処理部の表面処理用対向電極34とドラム24との間の空間、すなわち、大気圧プラズマ放電処理を行なうためのプラズマを生成する領域に、原料ガスが混入することを防止できる。
【0073】
また、図示例の大気圧プラズマ装置10では、第1表面処理部14および第2表面処理部16を有して、2つの基材ZおよびYの両方に表面処理を行なったが、本発明は、これに限定はされず、第2ドラム24b側の第2表面処理部16を有さず、基材Zのみに表面処理を行なう構成であってもよい。このとき、第2ドラム24b側の基材Yは、第2ドラム24b(メインドラム24aと対面する対向電極)に成膜物が体積するのを防止するためのものとしてもよい。
なお、第1表面処理部14および第2表面処理部16を有する構成は、2つの基材ZおよびYに同じ成膜を行える点で好ましい。
【0074】
また、図示例の大気圧プラズマ装置10においては、表面処理部を、表面処理用対向電極34と反応性ガス供給手段38と反応性ガス吸引手段40とで構成したが、本発明は、これに限定はされず、表面処理用対向電極と反応性ガス供給手段(ガス噴出口)とが一体となった表面処理用対向電極を用いて、反応性ガス吸引手段を有さない構成としてもよい。
【0075】
図2は、本発明の大気圧プラズマ装置の他の一例の一部を概念的に示す図である。なお、図2に示す大気圧プラズマ装置100は、図1に示す大気圧プラズマ装置10において、第1表面処理部14に代えて、第1表面処理部102を有する以外は、同じ構成を有するので、同じ部位には同じ符号を付し、以下の説明は異なる部位を主に行なう。
【0076】
第1表面処理部102は、表面処理用対向電極104と、交流電源36とを有する。
表面処理用対向電極104は、シャワー電極であり、プラズマCVD等で利用される公知のシャワー電極を用いることができる。また、表面処理用対向電極104には、図示しない反応性ガス供給手段が接続されている。さらに、表面処理用対向電極104には、交流電源36が接続されている。
【0077】
図示例においては、一例として、表面処理用対向電極104は、中空の略直方体状であり、一面をメインドラム24aの周面に対面して配置される。また、表面処理用対向電極104のメインドラム24aとの対向面には、多数の貫通穴が全面的に形成される。なお、好ましくは、シャワー電極のドラム24との対向面は、ドラム24の周面に沿う様に湾曲してもよい。
【0078】
このような第1表面処理部102は、所定の搬送経路で搬送される基材Zがメインドラム24aに巻き掛けられ、かつ、成膜部12により成膜される前に、基材Zの表面処理を行なう。
具体的には、表面処理用対向電極104の内部に、反応性ガス供給手段から反応性ガスが供給され、表面処理用対向電極104のメインドラム24aとの対向面に形成された多数の貫通穴より、表面処理用対向電極104とメインドラム24aとの間に、反応性ガスが導入される。
さらに、交流電源36から表面処理用対向電極104に、プラズマ励起電力が供給され、表面処理用対向電極104とメインドラム24aとの間でプラズマが励起されて、基材Zの表面処理が行なわれる。
【0079】
このように、表面処理用対向電極と反応性ガス供給手段のガス噴出口とを一体としたシャワー電極を用いる場合であっても、基材の成膜前に、成膜と同一ドラム上で、基材の表面処理を行なうことができるので、基材と成膜物との密着性を向上させることができる。
【0080】
また、図示例の大気圧プラズマ装置10においては、2つのドラムを電極対として対面して配置し、2つの基材をそれぞれ所定の搬送経路で搬送してドラムに巻き掛け、2つのドラム間に原料ガスを導入して、プラズマ励起電力を印加してプラズマを発生させて、2つの基材表面に成膜を行なう構成としたが、本発明は、これに限定はされず、ドラムと固定電極との間で成膜を行ない、第2表面処理部を有さない構成としてもよい。
【0081】
図3は、本発明の大気圧プラズマ装置の他の一例を概念的に示す図である。なお、図3に示す大気圧プラズマ装置110は、図1に示す大気圧プラズマ装置10において、第2ドラム24bに代えて、固定電極114を有し、第2表面処理部16を有さない以外は、同じ構成を有するので、同じ部位には同じ符号を付し、以下の説明は異なる部位を主に行なう。
【0082】
固定電極114は、基材に成膜を行なう大気圧プラズマCVDにおいて、メインドラム24aと共に電極対を形成するものである。
固定電極114は、プラズマCVD等において利用される、公知の電極であり、基材Zの搬送方向において、第1表面処理部14よりも下流側でメインドラム24aと対面して配置されている。
また、固定電極114には、交流電源28が接続されている。
【0083】
図示例において、固定電極114は、一例として、一面がメインドラム24aの周面に対面した、板状の電極であり、メインドラム24aと対面する面は、凸形状の曲面に形成されている。
【0084】
このような大気圧プラズマ装置110は、所定の搬送経路で搬送される基材Yが、固定電極114の凸面に巻き掛けられており、メインドラム24aと固定電極114との間でプラズマを発生させて成膜を行なうと、メインドラム24aに巻き掛けられた基材Zの表面と、固定電極114に巻き掛けられた基材Yの表面とに成膜物を成膜する。
基材Zは、その搬送経路の上流側、メインドラム24a上で、第1表面処理部14によって、成膜前に表面処理されるので、基材Zと成膜物との密着性を向上させることができる。
なお、基材Yは、成膜後、機能性フィルムとして利用されるものであっても良いし、固定電極114に成膜物が堆積することを防止するためのものであり、機能性フィルムとして利用しないものであってもよい。
【0085】
以上、本発明の大気圧プラズマ装置について詳細に説明したが、本発明は、上記実施例に限定はされず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変更を行なってもよいのは、もちろんである。
【実施例】
【0086】
図1に示す大気圧プラズマ装置を用いて、基材に、ガスバリア膜を形成した。
【0087】
基材は、厚さ100μm、幅180mmのPETフィルム(東洋紡工業社製 A4300)を用いた。
また、原料ガスとして、窒素ガス(N)100体積%に対し、酸素ガス(O)5体積%、TEOS0.1体積%の混合ガスを用いた。
また、反応性ガスとして、窒素ガス(N)100体積%に対し、酸素ガス(O)0.1体積%、の混合ガスを用いた。
【0088】
さらに、第2ドラムに接続される交流電源として、周波数150kHzの電源を用い、表面処理用対向電極に接続される交流電源として、周波数150kHzの交流電源を用いた。
また、第2ドラムに供給するプラズマ励起電力は、2kWとし、表面処理用対向電極に供給されるプラズマ励起電力は、1kWとした。
さらに、成膜中は、ドラムが内蔵する温度調節手段によって、基材温度が80℃となるように調節した。
また、成膜する機能膜の膜厚は50nmとした。
【0089】
このような機能性フィルムの作製を、表面処理から成膜までの距離を、適宜、変更して行なった。
実施例1は、同一ドラム上で成膜と表面処理とを行なった。この際、表面処理と成膜の間の距離は0.2mであった。
【0090】
また、比較例1として、表面処理を行わず、成膜を行なった。
また、比較例2として、成膜ドラムの上流側に設けられた処理ドラムにて実施例1と同様の表面処理を行った後、成膜ドラムでは表面処理を行わず、成膜を行なった。この際、表面処理と成膜の間の距離は2.0mであった。
また、比較例3として、表面処理と成膜の間の距離を1.0mとした以外は、比較例2と同様に表面処理及び成膜を行った。
なお、比較例1、2および3のその他の条件は、実施例1と同様とした。
【0091】
[密着性]
作製した機能性フィルムの基材と成膜物との密着性を検査するために、繰り返し屈曲試験を行なった後、密着性を評価した。
具体的には、繰り返し屈曲試験は、25℃において繰り返し屈曲試験を行った。屈曲試験はIPC規格TM−650に従ったIPC屈曲試験にて行った。これは固定板と可動板の間にバリア面が凸になるように曲げた状態で挟み、可動板を繰り返し移動するものである。ガスバリアフィルムの屈曲半径Rは10mm、ストロークは60mmに設定し、繰り返し回数は50回とした。
次に、密着性の評価試験として、JIS K5400に準拠した碁盤目試験を行なった。上記層構成を有するガスバリアフィルムの表面にそれぞれカッターナイフで膜面に対して90°の切込みを1mm間隔で入れ、1mm間隔の碁盤目を100個作製した。この上に2cm幅のマイラーテープ[日東電工製、ポリエステルテープ(No.31B)]を貼り付け、テープ剥離試験機を使用して貼り付けたテープをはがした。積層フィルム上の100個の碁盤目のうち剥離せずに残存したマスの数(n)をカウントした。結果は、%で示した。
結果を下記表1に示す。
【0092】
【表1】

【0093】
上記表1より明らかなように、同一ドラム上で基材の表面処理と成膜とを行なうという本発明の大気圧プラズマ装置の実施例である実施例1は、基材と成膜物との密着性がよいものが得られた。
これに対して、表面処理を行なわなかった比較例1は、密着性が悪かった。また、別ドラム上で、基材の表面処理を行なった比較例2、3は、比較例1と比べて、基材と成膜物との密着性向上の効果は得られたものの、不十分なものであった。
以上の結果より、本発明の効果は、明らかである。
【符号の説明】
【0094】
10、100、110 大気圧プラズマ装置
12 成膜部
14、102 第1表面処理部
16 第2表面処理部
20 回転軸
22 基材ロール
24a メインドラム
24b 第2ドラム
28 交流電源
30 原料ガス供給手段
32 原料ガス吸引手段
34、104 表面処理用対向電極
36 交流電源
38 反応性ガス供給手段
40 反応性ガス吸引手段
48 巻取り軸
50、52 ガイドローラ
54、56 隔壁
58 圧力制御手段
114 固定電極
Z、Y 基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺な基材を長手方向に搬送しつつ、前記基材に成膜を行なう大気圧プラズマ装置であって、
前記基材を周面の所定領域に巻き掛けて搬送する円筒状のドラム電極と、
前記ドラム電極の周面に対面して設けられる成膜用電極と、
前記成膜用電極に電圧を印加する成膜用電源と、
前記ドラム電極と前記成膜用電極との間に、成膜用の原料ガスを供給する原料ガス供給手段と、
前記基材の搬送方向において、前記成膜用電極よりも上流側に、前記ドラム電極の周面に対面して設けられる処理用電極と、
前記処理用電極に電圧を印加する処理用電源と、
前記ドラム電極と前記処理用電極との間に、表面処理用の反応性ガスを供給する反応性ガス供給手段とを有することを特徴とする大気圧プラズマ装置。
【請求項2】
前記成膜用電極が円筒状の第2ドラムであり、この第2ドラムも、長尺な基材を周面の所定領域に巻き掛けて長手方向に搬送する請求項1に記載の大気圧プラズマ装置。
【請求項3】
前記第2ドラムの周面に対面して第2処理用電極と、この第2処理用電極と第2ドラムとの間に表面処理用の反応性ガスを供給する第2反応性ガス供給手段とを有する請求項2に記載の大気圧プラズマ装置。
【請求項4】
前記反応性ガス供給手段と共に、前記処理用電極を前記基材の搬送方向に挟むように配置される、前記反応性ガス供給手段が供給した反応性ガスを吸引する反応性ガス吸引手段を有する請求項1〜3のいずれかに記載の大気圧プラズマ装置。
【請求項5】
前記第2反応性ガス供給手段と共に、前記第2処理用電極を前記基材の搬送方向に挟むように配置される、前記第2反応性ガス供給手段が供給した反応性ガスを吸引する第2反応性ガス吸引手段を有する請求項3または4に記載の大気圧プラズマ装置。
【請求項6】
前記基材の搬送方向において、前記原料ガス供給手段の下流に配置される、前記原料ガス供給手段が供給した原料ガスを吸引する、原料ガス吸引手段を有する請求項1〜5のいずれかに記載の大気圧プラズマ装置。
【請求項7】
前記反応性ガスが、前記ドラム電極と成膜用電極との間に混入することを防止する反応性ガス混入防止手段を有する請求項1〜6のいずれかに記載の大気圧プラズマ装置。
【請求項8】
前記反応性ガス混入防止手段が、前記ドラム電極と成膜用電極との間へのガス流を遮蔽するエアナイフである請求項7に記載の大気圧プラズマ装置。
【請求項9】
前記反応性ガス混入防止手段が、前記ドラム電極と成膜用電極との間の圧力を、他の電極対の間の圧力よりも高くする、ガス供給の制御手段である請求項7または8に記載の大気圧プラズマ装置。
【請求項10】
前記反応性ガスが、前記原料ガスに含まれないガス成分を含む請求項7〜9のいずれかに記載の大気圧プラズマ装置。
【請求項11】
前記原料ガスが、前記ドラム電極と前記処理用電極との間に混入することを防止する、原料ガス混入防止手段を有する請求項1〜10のいずれかに記載の大気圧プラズマ装置。
【請求項12】
前記原料ガス混入防止手段が、前記ドラム電極と前記処理用電極との間へのガス流を遮蔽するエアナイフである請求項11に記載の大気圧プラズマ装置。
【請求項13】
前記原料ガス混入防止手段が、前記ドラム電極と前記処理用電極との間の圧力を、前記ドラム電極と前記成膜用電極との間の圧力よりも高くするガス供給の第2制御手段である請求項11または12に記載の大気圧プラズマ装置。
【請求項14】
前記原料ガスが、前記第2ドラムと前記第2処理用電極との間に混入することを防止する、第2原料ガス混入防止手段を有する請求項3〜13のいずれかに記載の大気圧プラズマ装置。
【請求項15】
前記第2原料ガス混入防止手段が、前記第2ドラムと前記第2処理用電極との間へのガス流を遮蔽するエアナイフである請求項14に記載の大気圧プラズマ装置。
【請求項16】
前記第2原料ガス混入防止手段が、前記第2ドラムと前記第2処理用電極との間の圧力を、前記ドラム電極と前記第2ドラムとの間の圧力よりも高くするガス供給の第3制御手段である請求項14または15に記載の大気圧プラズマ装置。
【請求項17】
前記原料ガスが、前記反応性ガスに含まれるガス成分を全て含む請求項11〜16のいずれかに記載の大気圧プラズマ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−179084(P2011−179084A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−45402(P2010−45402)
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】