説明

定着用ヒータとその製造方法、使用方法

【課題】電子写真方式による画像形成装置の定着装置のための発熱体として、耐熱性、絶縁性、及び、耐磨耗性に優れ、摩擦係数も低く、及び、ある程度熱伝導率も高い、保護層を設けた、新規な定着用ヒータを提供する。
【解決手段】基材と、前記基材上に設けられ、少なくともアモルファス炭素を含む炭素系発熱体層と、前記炭素系発熱体層を被覆する、耐熱樹脂体質材中に金属または半金属化合物を混合した第一の保護層と、さらに前記保護層を被覆する、融点が500℃以下のガラスからなる第二の保護層とを具備したヒータとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式による画像形成装置の定着用ヒータおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素系発熱体を基材上に設け、フィルム加熱定着方式にも用いることのできる複写機の定着用ヒータが本出願人により開示されている(特許文献1)。そして炭素含有樹脂を焼成して得られるアモルファス炭素とアモルファス炭素中に均一に分散した導電性阻害物質としての金属または半金属化合物とを含む複合炭素材料は、焼成温度等の条件によってNTC(Negative Temperature Coefficient)からPTC(Positive Temperature Coefficient)までその温度特性を変えることができることも開示されている(特許文献2)。これらのような炭素系発熱体は、金、銀、パラジウムなど希少な金属資源を用いる必要が無く、熱容量も少ないので、実用化が望まれている。更に、ここでは、炭素系発熱体への炭素化の際、焼成温度を1700℃未満とすることで、NTC特性の発熱体を得ることができることも記載されている。このような発熱体の表面は被加熱物との滑りを良くし発熱体の磨耗を防止するため、ガラス質の保護層で被覆するのが一般的である(特許文献3)。ガラス質の保護膜を設けようとする場合、500℃を超える温度でガラス質の物質を溶融させ、発熱体などに密着させる工程を経ることとなる。ここで、発熱体が炭素系のものである場合、そのガラスの溶融密着工程の中では炭素系発熱体が酸化して、その特性を失ってしまう場合がある。また、発熱体の上に保護層を被覆させて、ポリイミド樹脂等に窒化硼素等の熱伝導フィラーを加えたシームレスのシートを用いる定着方法が知られている(特許文献4)。このような定着方式において、発熱体の保護層はガラス質のものを用いるのが通例であり、シームレスのシートと同様な樹脂材を用いると、耐磨耗性に劣ることが予想され、通常は使用が忌避される。
【0003】
それにもかかわらず、本出願発明者等は発熱体の保護層として、前記のポリイミド樹脂等に窒化硼素等の熱伝導フィラーを加えた保護層を設け、耐熱性、熱伝導性および耐磨耗性に優れ、摩擦係数も低い定着用ヒータを完成させた(特許文献5)。しかし、摩擦係数が低く、耐摩耗性に優れるといっても、シームレスのシート等を擦過し続けるため、前記の保護層および発熱体の摩滅は避けることは出来ない。
【0004】
【特許文献1】国際公開第WO2005/124471パンフレット(請求の範囲等)
【特許文献2】特開2001−15250
【特許文献3】特開平4−147595(特許請求の範囲等)
【特許文献4】特開2006−267235(発明の詳細な説明
【0005】
段等)
【特許文献5】特開2008−203575(特許請求の範囲等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願発明者等は、前記した課題に鑑み、工程の増加を犠牲に、耐摩耗性を向上させるため、敢えて発熱体の保護層を二層とした定着用ヒータを検討した。従って、本発明の目的は、電子写真方式による画像形成装置の定着装置のための発熱体として、耐熱性、絶縁性、耐磨耗性に優れ、及び、摩擦係数も低く、並びに、ある程度熱伝導率も高い、保護層を設けた、新規な定着用ヒータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば基材と、前記基材上に設けられ、少なくともアモルファス炭素を含む炭素系発熱体層と、前記炭素系発熱体層を被覆する、耐熱樹脂体質材中に金属または半金属化合物を混合した第一の保護層と、さらに前記保護層を被覆する、少なくとも融点が500℃以下のガラスを含む第二の保護層とを具備する定着用ヒータが提供される。
【0008】
前記第一の保護層の耐熱樹脂体質材はイミド骨格を持つ樹脂を含む樹脂材が好ましい。また前記第一の保護層に含まれる金属または半金属化合物は窒化硼素あるいは酸化珪素が好ましい。
【0009】
前記第二の保護層に用いる融点が500℃以下のガラスは、酸化硼素を含む低融点ガラス、酸化ビスマスを含む低融点ガラス、五酸化燐を含む低融点ガラスが好ましい。特に熱膨張係数の点から、酸化ビスマスを含む低融点ガラスが好ましい。前記した通り、ガラス質の材料は、定着用ヒータの被覆に普通に使用されているものであるが、直接に発熱体表面を被覆する構成が一般的である。
【0010】
本発明の定着用ヒータは、炭素含有樹脂の炭素化後、前記炭素化された炭素含有樹脂の層を基材上に設け、発熱体層とし、前記基材上に設けられた前記発熱体層を不活性雰囲気中で焼成して前記炭素含有樹脂を炭素化して、前記基材上に固定するステップと、金属または半金属化合物と、耐熱樹脂体質材のモノマーを含む混合物を均一に混合し第一の保護層用混合物とし、前記第一の保護層用混合物の層を前記炭素化された発熱体層を被覆するように設け、前記第一の保護層用混合物を焼成して、前記発熱体層上に固定するステップと、少なくとも融点が500℃以下のガラスを含む第二の保護層用組成物を、前記焼成された第一の保護層を被覆するように設け、前記第二の保護層用混合物を溶融させ、前記第一の保護層上に固定するステップとを具備する製造方法により製造することができる。
【0011】
さらに、本発明の定着用ヒータは、第一の保護層、及び、第二の保護層の摩滅を検知することによって、使用に供した定着用ヒータの交換時期を知ることができる。本発明の定着用ヒータは発熱体層も耐摩耗性に優れるものであるため、第一の保護層の摩滅する時まで使用可能であり、この時点を交換時期とすることができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の定着用ヒータは導体の主成分が炭素であるので、熱容量が小さく昇温および放冷に要する時間が短く、装置のウォーミングアップ時間を短縮できるという定着用ヒータとして優れた特性を備えている。発熱体層の導体はアモルファス炭素を主体としているので軽量かつ耐摩耗性に優れているが、更に、金属または半金属化合物と、耐熱樹脂体質材とを混合したもので、発熱体層を被覆し、焼成した第一の保護層を設け、加えて、その上に少なくとも耐熱樹脂体質材を含む第二の保護層を設けているので、耐熱性、絶縁性、及び、耐磨耗性に優れ、摩擦係数も低く、また、ある程度熱伝導率も高く、定着用ヒータとして優れている。
【0013】
まず、前記基材上に前記発熱体層、あるいは、前記保護層を設けるには、例えばスクリーン印刷の手法により行う。基材上あるいは発熱体層上に、発熱体層用混合物あるいは保護層用混合物の層をスクリーン印刷の後、焼成する代わりに、薄板状に形成したそれぞれの混合物の板を焼成した後、粘着材等により基材上あるいは発熱体層上に貼り合わせるようにした後、昇温等を行い固定しても良い。
【0014】
本発明の定着用ヒータにおいて、基材上に設けられる発熱体層および保護層のパターンの例を図1〜9に示す。図1の例では、基材1上に発熱体層3が直線状に設けられ、その両端に電極2が設けられており、発熱体層の上に第一の保護層4が、第一の保護層4の上に第二の保護層5が構築されており、発熱体層の周縁部をも二重に被覆している。図2は、図1のA−A線での断面図であり、ここでは発熱体層3の表面全て(周縁部も含む)を第一の保護層4が、第一の保護層4の表面全て(周縁部も含む)を第二の保護層5が被覆している。
【0015】
図3の例では、発熱体層3がUの字状に形成され、基材1上を一往復する。第一の保護層4は発熱体層3をはみ出して覆うようになっており、第二の保護層5は第一の保護層4をはみ出して覆うようになっている。図4は、図3の例に保護層4を設けた時のB−B線での断面図であり、第一の保護層4は発熱体層3をはみだし、第二の保護層5は第一の保護層4をはみ出して、それぞれ基材1まで被覆している。発熱体層3を覆う部分の第一の保護層4及び第二の保護層5は、そうではない部分と比較して突出することとなっている。
【0016】
図5では、発熱体の幅を場所により変えて温度分布を制御する例を示す。図5自体は発熱体層3の表面を覆うべき保護層4が無い状態を示している。符号6で示すスペーサを、複数の発熱体層の間に設けている。また符合7で示す封止体が発熱体層3が露出する周縁部に設けられている。図6は、図5の例に第一の保護層4及び第二の保護層5を設けた時のC−C線での断面図であり、スペーサにより、発熱体層3の上の第一の保護層4及び第二の保護層5が突出することが無いことを示している。
【0017】
図7の例は、発熱体層を上から見た形状は図3に示す例と同一であるが、基材1に溝を穿ち、該溝部に発熱体層3となる混合物を流し込んで焼成するか、該溝部に嵌るような形状の発熱体層3を嵌め込み、発熱体層3と基材1が面一となるように構成し、更にその上から第一の保護層4及び第二の保護層5を、基材1全体を覆うように被せたものである。図8は、図7におけるD−D線の断面図である。更に図9においては、発熱体層3を収める溝部の他、第一の保護層4及び第二の保護層5を収める溝部を、その上に設け、第二の保護層5と基材1とを面一になるように構成させた発熱体の断面図である。
【0018】
前記の通り発熱体層に金属又は半金属化合物を含む場合、金属或いは半金属化合物とは一般に入手可能な金属炭化物、金属硼化物、金属珪化物、金属窒化物、金属酸化物、半金属窒化物、半金属酸化物、半金属炭化物等が挙げられる。使用する場合、金属或いは半金属化合物種、および、量は、目的とする発熱体の抵抗値・形状により適宜選択され、単独でも二種以上の混合体でも使用することができるが、抵抗値制御の簡易さから、特に炭化硼素、炭化珪素、窒化硼素、酸化アルミおよび酸化珪素を使用することが好ましく、炭素の持つ優れた特性を堅持するために、その使用量は、その使用量は90%以下が好ましい。
【0019】
前述の発熱体層に使用する炭素含有樹脂としては、具体的には、ポリ塩化ビニル、ポリアクリルニトリル、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル−ポリ酢酸ビニル共重合体、ポリアミド等の熱可塑性樹脂、フェノール樹脂、フラン樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド等の熱硬化性樹脂、リグニン、セルロース、トラガントガム、アラビアガム、糖類等の縮合多環芳香族を分子の基本構造内に持つ天然高分子物質、及び前記には含有されないナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物、コブナ樹脂等の縮合多環芳香族を分子の基本構造内に持つ合成高分子物質が挙げられる。特にポリ塩化ビニル樹脂、フラン樹脂を使用することが好ましく、炭素の持つ優れた特性を堅持するために、その使用量は10%以上が好ましい。
【0020】
前記発熱体層の抵抗値を調整するために、より好ましくは、炭素化された前記樹脂層に黒鉛を混合することが好ましく、その量は所望の抵抗値に応じ、黒鉛の配合量と抵抗値の相関を調べつつ適宜調整することができる。
【0021】
前述の第一の保護層に使用する金属或いは半金属化合物は、発熱体層に使用できる前記のものと、ほぼ同じものが使用でき、特に炭化硼素、炭化珪素、窒化硼素、酸化アルミおよび酸化珪素を使用することが好ましいことも同様である。使用量については耐熱性、熱伝導性、摩擦係数、絶縁性および耐摩耗性などを考慮し適宜決定できるものであるが、5%以上60%以下が好ましく、更に好ましくは20%以上50%以下が好ましい。5%未満の場合、第一の保護層の摩擦係数が、使用しない場合に較べて差がなくなる及び熱伝導率が向上しない等の問題があり、60%を越える場合、保護層の成形が困難となり好ましくない。
【0022】
前記の第一の保護層に使用する耐熱性樹脂としては一定の耐熱性を有する樹脂であれば何でも使用可能である。具体的には、ポリアミドイミド樹脂、芳香族ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリイミダゾール等の樹脂を含む樹脂材が挙げられる。好ましくはポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂を含む樹脂材が用いられる。
【0023】
前記の第二の保護層に使用する融点が500℃以下のガラス、好ましくは酸化ビスマスを含む低融点ガラスとしては、酸化ビスマス(Bi)、酸化亜鉛(ZnO)及び酸化硼素(B)を含む低融点ガラスが挙げられる。具体的にはTMG−101(軟化点400℃、熱膨張係数7.6×10−6)、TMG−102(軟化点395℃、熱膨張係数11.5×10−6)(いずれも東罐マテリアル・テクノロジー株式会社製)が好ましい。
【0024】
ところで、本願発明の定着用ヒータは第二の保護層が、使用により摩滅して、第一の保護層が露出すると、いろいろな性能が変化を起こす。すぐに考えられる事象としては、(1)定着用ヒータの厚みが薄くなる、(2)表面の摩擦係数が高くなる、(3)熱伝導性が高くなる、といった変化が考えられる。逆に言えば、これらの変化を捉えることにより、本願発明の定着用ヒータの「使用による磨耗」を検知できることとなる。
【0025】
即ち、(1)定着用ヒータの厚みセンサ、又は、定着用ヒータの位置センサを取り付けることにより、容易に、その磨耗した厚みを検知することができる。(2)シームレスのシートを用いる方式であればシートの引っ張り力を、前記シートを用いない方法であれば紙等の引っ張り力を検知するセンサを用いることにより、容易に、第一の保護層又は発熱体層が露出して表面状態が変化したことを検知することができる。(3)定着用ヒータに相対する位置に熱センサを取り付け、一定量の電流を通じた際に伝わる熱量、又は、上昇する温度を測定することにより、その時点で、どの層が露出しているのかを把握することができる。以上のように、本願発明の定着用ヒータは、その磨耗量検知を行うことが可能である。ここで、発熱体層まで露出することとなっても、この発熱体層は一定の耐摩耗性、耐熱性を有しているので、ある程度は問題なく使用できるが、やはり好ましくないので、この発熱体層の露出前の時点において使用を中止することが望ましい。
【実施例】
【0026】
(実施例1)フラン樹脂(日立化成工業株式会社製)70部と窒化硼素(信越化学工業株式会社製 平均粒径6μm)30部を充分に分散、混合して、平板作成用液状材料(発熱体層用)を得た。これをアルミナ基板上にスクリーン印刷して基板上にグリーンシートを作成した。これを、熱硬化処理を行い、さらに不活性雰囲気中1000℃で焼成して、アルミナ基板上に炭素系の発熱体層を得た。次に、ポリアミドイミド樹脂(HPC−9100 日立化成工業株式会社製)10重量部に窒化硼素(同上)4重量部を分散、混合して、平板作成用液状材料(第一の保護層用)を得た。この第一の保護層用の材料を、発熱体層を周縁部も含め被覆するように10μmの厚みでスクリーン印刷を行った後、400℃で熱硬化(イミド化)処理を行い、該発熱体層の上に第一の保護層を得た。更に、TMG−101(東罐マテリアル・テクノロジー株式会社製)を、500℃までの適温にて溶融させ、第一の保護層を周縁部も含め被覆するように40μmの厚みで展開し、前記発熱体層の上に第二の保護層を得た。得られた炭素系発熱体は総厚0.35mm、幅4mm、長さ300mm、冷間で4×10−3Ω・cmの値を有するNTC特性を持つ発熱体であった。
【0027】
(実施例2)塩素化塩化ビニル樹脂(日本カーバイド工業株式会社製 T−741)33重量部に天然黒鉛微粉末(日本黒鉛工業株式会社製 平均粒径5μm)1重量部、窒化硼素(信越化学工業株式会社製 平均粒径2μm)67重量部に対し、可塑剤としてジアリルフタレートモノマー20重量部を添加して、ヘンシェルミキサーを用いて分散した後、表面温度を120℃に保ったミキシング用二本ロールを用いて十分に混練を繰り返して組成物を得、ペレタイザーによってペレット化し、成形用組成物を得た。このペレットをスクリュー型押出機で押し出し成形し、これを200℃に加熱されたエアオーブン中で5時間処理してプレカーサー(炭素前駆体)板材とした。次に、これを不活性雰囲気中1000℃で焼成し、板状の炭素系発熱体を得た。
【0028】
得られた炭素系発熱体層は厚み0.3mm、幅6mm、冷間で40×10−3Ω・cmの値を有するNTC特性を持つ発熱体であった。この炭素系発熱体を300mmの長さに切断し、アルミナ基板上に設置し発熱体層とし、端部に電気供給用の電極を設けた。次に、ポリアミック酸シリカ−ハイブリッド(コンポセラン(登録商標)H801D 荒川化学工業株式会社製)10重量部に窒化硼素(同上)6重量部を分散、混合して、平板作成用液状材料(第一の保護層用)を得、これを前記発熱体層を覆うよう20μmの厚みとなるように塗布を行った後、400℃で熱硬化処理(イミド化)を行い、前記の発熱体層と基板の上に第一の保護層を得た。更に、TMG−101(東罐マテリアル・テクノロジー株式会社製)を、500℃までの適温にて溶融させ、前記第一の保護層を覆うよう50μmの厚みとなるように塗布を行った後、前記の第一の保護層と基板の上に第二の保護層を得た。得られた炭素系発熱体は総厚0.37mm、幅4mm、長さ300mmのNTC特性を持つ発熱体であった。
【0029】
(実施例3)実施例2の炭素系前駆体を真空中2000℃で焼成し、板状の炭素系発熱体を得た。得られた炭素系発熱体層は厚み0.3mm、幅3mm、冷間で4×10−3Ω・cmの値を有するPTC特性を持つ発熱体であった。アルミナ基板に発熱体と電極を嵌め込むのに必要な溝を穿ち、該溝部に該発熱体と電極を嵌め込み、該基板と該発熱体が面一となるように調整した。次に、酸化珪素含有イミドワニス(コンポセラン(登録商標)H700 荒川化学工業株式会社製)10重量部に窒化硼素(同上)10重量部を分散、混合して、平板作成用液状材料(保護層用)を得、これを前記電極を除く基板を完全に覆うように10μmの厚みでスクリーン印刷を行った後、400℃で熱硬化(イミド化)処理を行い、該発熱体層の上に保護層を得た。更に、TMG−102(東罐マテリアル・テクノロジー株式会社製)を、500℃までの適温にて溶融させ、前記電極を除く基板を完全に覆うよう20μmの厚みとなるように塗布を行い、前記の第一の保護層の上に第二の保護層を得た。得られた炭素系発熱体は総厚0.34mm、幅4mm、長さ300mmのNTC特性を持つ発熱体であった。
【0030】
(実施例4)フラン樹脂(日立化成工業(株)製)60部と黒鉛微粉末(日本黒鉛製 平均粒径3μm)40部を充分に分散、混合して、平板作成用液状材料(発熱体層用)を得た。これをアルミナ基板上にスクリーン印刷して基板上にグリーンシートを作成した。これを、熱硬化処理を行い、さらに不活性雰囲気中1000℃で焼成して、アルミナ基板上に炭素系の発熱体層を得た。次に、イミドワニス(コンポセラン(登録商標)H800D 荒川化学工業株式会社製)10重量部に窒化硼素(信越化学工業株式会社製 平均粒径6μm)4重量部を分散、混合して、平板作成用液状材料(第一の保護層用)を得た。これを前記発熱体層を覆うように10μmの厚みでスクリーン印刷を行った後、400℃で熱処理を行い、前記発熱体層の上に第一の保護層を得た。更に、TMG−102(TOMATEC社製)を、500℃以下の適温にて溶融させ、前記第一の保護層を覆うように30μmの厚みでスクリーン印刷を行い、前記発熱体層の上に第二の保護層を得た。得られた炭素系発熱体は総厚0.34mm、幅4mm、長さ300mm、冷間で0.4×10−3Ω・cmの値を有するNTC特性を持つ発熱体であった。
【0031】
(比較例)実施例1〜4の二重の保護層の代わりに、第一の保護層のみからなる保護層を設け、それぞれ比較例1〜4とした。これらの実施例、比較例について下記の項目について評価を行った。次に、TMG−101(東罐マテリアル・テクノロジー株式会社製)からなり、厚みがそれぞれの第一の保護層と同じである保護層を設け、全保護層の厚みもそれぞれ実施例1、2に対応する発熱体を作成し、それぞれ比較例5、6とした。また、TMG−102(東罐マテリアル・テクノロジー株式会社製)からなり、厚みがそれぞれの第一の保護層と同じである保護層を設け、全保護層の厚みもそれぞれ実施例3、4に対応する発熱体を作成し、それぞれ比較例7、8とした。
【0032】
各項目の評価については下記の方法通り行った。
(1)動摩擦係数:図10(a)に示すような回転しないステンレス球(符号12)3個を、その頂点が正三角形を成すように下面に設けた、直径3/16インチの円盤(符号11)からなり、重量300gの動摩擦係数測定装置(符号10)を、25度、60RH%条件下で、図10(b)に示す通り、3.0mm/sec.の速度でヒータ表面を移動させ、動摩擦力を測定し、動摩擦係数を算出した。
(2)熱伝導性:トナー(imagio Pトナー タイプ7 株式会社リコー製)を散布した紙面に各発熱体を押し当て、発熱体層に導通を行ってから10秒後のトナーの定着状況を観察し下記の通りランク付けを行い評価した。
◎…トナーが完全に定着していた。
○…ほとんどのトナーが完全に定着していた。
△…定着していないトナーが見られた。
×…ほとんどのトナーは定着していなかった。
(3)保護層擦過:棒状摺動材とφ49mm、幅10mmのSUS303リング(Ra:0.1μm)を組み合わせたロッド−リング型摩擦試験機を用いて、摺動速度10m/min.および荷重1.2N、摺動距離4kmの条件で摺動試験を実施し、発熱体表面の摺動痕、特に摺動痕の深さを測定した。
(4)絶縁耐力:それぞれの発熱体表面と、絶縁耐力検査装置の低圧側ケーブルを接続し、絶縁耐力検査装置の高圧側ケーブルを発熱体の電極部と接続させる。高圧側ケーブルと接続した電極に1kVの電圧を1分間かけ、発熱体表面から10mA以上の電流が流れるか否か測定を行った。
○…電流漏れ値が10mAを超えていなかった。
×…電流漏れ値が10mAを超えていた。
以上のように、測定、観察を行った結果を下記表1〜3に記載した。
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】

【0035】
【表3】


【0036】
上記表1〜3の比較から明らかなように、実施例1〜4の発熱体は、対応するそれぞれの比較例に比べて格段に耐摩耗性に優れ、熱伝導性において遜色ない発熱体であることが分かる。ここで述べる熱伝導性においては、比較例1〜4に対しては、やや劣るものの、実用に供するに十分な範囲であり、何より第二の保護層摩滅後は、それぞれ比較例1〜4と同じ構成となるため、構成上優れているものと言える。
【0037】
本発明によれば、電子写真方式による画像形成装置の定着装置のための発熱体として耐磨耗性に特に優れ、熱伝導性および摩擦係数においても通常の発熱体と遜色ない保護層を設けた新規な定着用ヒータが提供され、第二の保護層摩滅後には、熱伝導性および摩擦係数においても優れた発熱体となる有用な定着用ヒータが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】発熱体の第1の例を示す図である。
【図2】図1におけるA−A線での横断面図である。
【図3】発熱体の第2の例を示す図である。
【図4】図3におけるB−B線での横断面図である。
【図5】発熱体の第3の例を示す図である。
【図6】図5におけるC−C線での横断面図である。
【図7】発熱体の第4の例を示す図である。
【図8】図7におけるD−D線での横断面図である。
【図9】発熱体の第5の例を示す横断面図である。
【図10】ステンレス球を3個備える動摩擦力測定装置を示す図面である。
【符号の説明】
【0039】
1 基材
2 電極
3 発熱体層
4 第一の保護層
5 第二の保護層
6 スペーサ
7 ストッパ
10 動摩擦係数測定装置
11 円盤
12 ステンレス球

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材上に設けられ、少なくともアモルファス炭素を含む炭素系発熱体層と、
前記炭素系発熱体層を被覆する、耐熱樹脂体質材中に金属または半金属化合物を混合した第一の保護層と、
さらに前記保護層を被覆する、少なくとも融点が500℃以下のガラスを含む第二の保護層とを
具備する定着用ヒータ。
【請求項2】
前記炭素発熱体層が、アモルファス炭素中に均一に分散した導電性物質としての黒鉛とを含む請求項1記載の定着用ヒータ。
【請求項3】
前記炭素系発熱体層に導電阻害物質としての金属または半金属化合物とを含む請求項1記載の定着用ヒータ。
【請求項4】
前記第一の保護層に含まれる耐熱樹脂体質材はイミド骨格を持つ樹脂を含む樹脂材である請求項1記載の定着用ヒータ。
【請求項5】
前記第一の保護層に含まれる半金属化合物は窒化硼素である請求項1記載の定着用ヒータ。
【請求項6】
前記発熱体層に含まれる半金属または半金属化合物は窒化硼素を含む請求項3記載の定着用ヒータ。
【請求項7】
前記第一の保護層表面の摩擦係数と、前記第二の保護層表面の摩擦係数とが異なっている請求項1記載の定着用ヒータ。
【請求項8】
前記第一の保護層表面の摩擦係数が0.06以上0.14以下であり、前記第二の保護層表面の摩擦係数が0.001以上、0.04以下である請求項7に記載の定着用ヒータ。
【請求項9】
負の温度抵抗特性を有する請求項1〜8のいずれか1項に記載の定着用ヒータ。
【請求項10】
炭素含有樹脂の炭素化後、前記炭素化された炭素含有樹脂の層を基材上に設け、発熱体層とし、
前記基材上に設けられた前記発熱体層を不活性雰囲気中で焼成して前記炭素含有樹脂を炭素化して、前記基材上に固定するステップと、
金属または半金属化合物と、耐熱樹脂体質材のモノマーを含む混合物を均一に混合し第一の保護層用混合物とし、
前記第一の保護層用混合物の層を前記炭素化された発熱体層を被覆するように設け、
前記第一の保護層用混合物を焼成して、前記発熱体層上に固定するステップと、
少なくとも「ガラス」を含む第二の保護層用混合物を、前記焼成された第一の保護層を被覆するように設け、
前記第二の保護層用混合物を溶融させ、前記第一の保護層上に固定するステップとを具備する定着用ヒータの製造方法。
【請求項11】
前記炭素含有樹脂の炭素化後に、
導電性物質となり得る黒鉛、或いは、導電阻害物質となり得る金属または半金属化合物を均一に混合し発熱体層用混合物とし、前記発熱体層用混合物を製造するステップを更に具備する請求項10記載の定着用ヒータの製造方法。
【請求項12】
前記第一の保護層用混合物に窒化硼素を混合するステップをさらに具備する請求項10または11記載の定着用ヒータの製造方法。
【請求項13】
前記第一の保護層被覆後の焼成は500℃以下の温度で行われる請求項10〜12のいずれか1項記載の定着用ヒータの製造方法。
【請求項14】
前記第二の保護層被覆後の融着は500℃以下の温度で行われる請求項10〜13のいずれか1項記載の定着用ヒータの製造方法。
【請求項15】
基材と、
前記基材上に設けられ、少なくともアモルファス炭素を含む炭素系発熱体層と、
前記炭素系発熱体層を被覆する、耐熱樹脂体質材中に金属または半金属化合物を混合した第一の保護層と、
さらに前記保護層を被覆する、少なくとも融点が500℃以下のガラスを含む第二の保護層とを
具備する定着用ヒータにおいて、
前記第二の保護層の消失を検知することにより、定着ヒータの交換時期を知る、
定着用ヒータの使用方法。
【請求項16】
基材と、
前記基材上に設けられ、少なくともアモルファス炭素を含む炭素系発熱体層と、
前記炭素系発熱体層を被覆する、耐熱樹脂体質材中に金属または半金属化合物を混合した第一の保護層と、
さらに前記保護層を被覆する、少なくとも融点が500℃以下のガラスを含む第二の保護層とを
具備する定着用ヒータにおいて、
前記第二の保護層の消失後、かつ、前記第一の保護層の消失直前の状態を検知することにより、定着ヒータの交換時期を知る、
定着用ヒータの使用方法。
【請求項17】
基材と、
前記基材上に設けられ、少なくともアモルファス炭素を含む炭素系発熱体層と、
前記炭素系発熱体層を被覆する、耐熱樹脂体質材中に金属または半金属化合物を混合した第一の保護層と、
さらに前記保護層を被覆する、少なくとも融点が500℃以下のガラスを含む第二の保護層とを
具備する定着用ヒータにおいて、
前記第二の保護層の消失を検知することにより、第一段階の定着用ヒータの交換時期を
前記第二の保護層の消失後、かつ、前記第一の保護層の消失直前の状態を検知することにより、第二段階の定着ヒータの交換時期を、段階的に知る、
定着用ヒータの使用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−123471(P2010−123471A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−297595(P2008−297595)
【出願日】平成20年11月21日(2008.11.21)
【出願人】(000005957)三菱鉛筆株式会社 (692)
【Fターム(参考)】