説明

密閉型圧縮機

【課題】密閉型圧縮機に関し、常に安定して十分なオイルを各摺動部に供給し、摺動部の摩耗や傷付きを防止し、信頼性の高い密閉型圧縮機を提供することを目的とする。
【解決手段】オイル102を上方に汲み上げる給油機構を備えたクランクシャフト115と、円筒形の圧縮室を備えたシリンダブロックを備え、給油機構は、クランクシャフト115の外周に刻設された螺旋溝を備え、螺旋溝は、オイル102とともに汲み上げられた異物をクランクシャフト115と主軸受123との摺動部に排出することなく上部に搬送する異物排出防止手段131を備えているので、異物排出防止手段131により摩耗粉などの異物がオイルとともに集まって流れ、摩耗粉などの異物が摺動部に流れ出すのを防止することができ、摩耗粉などの異物による摺動部の摩耗や傷付きを防止し、信頼性の高い密閉型圧縮機を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密閉型圧縮機の給油機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、一般の密閉型圧縮機の給油装置は、密閉容器内に貯留したオイルを上方に汲み上げる給油機構と、回転軸の回転により生じる遠心力を利用してオイルを各摺動部に供給する螺旋形状の給油溝をクランクシャフトに備え、給油機構によって汲み上げられたオイルは螺旋形状の給油溝を通りながら、主軸部の潤滑を行い、さらに偏芯部等の各摺動部の潤滑を行うものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
以下、図面を参照しながら上記従来技術の密閉型圧縮機について説明する。
【0004】
図4は、特許文献1に記載された従来の密閉型圧縮機の側面の縦断面図であり、図5は、特許文献1に記載された従来のクランクシャフトの正面図である。図6は、図5のB−B線における要部断面図である。
【0005】
尚、図5と図6の図中の矢印はクランクシャフトの回転方向を示している。
【0006】
図4から図6において、密閉容器1内にはオイル2が収納されるとともに、固定子3と回転子4からなる電動要素5と、電動要素5によって駆動される圧縮要素6が収容される。
【0007】
圧縮要素6は、圧縮室7を形成するシリンダ8と、シリンダ8内を往復摺動自在に挿入されたピストン10を備えている。
【0008】
主軸部11と偏心部12とを備えるクランクシャフト13は、回転子4が軸装されるとともに、すべり軸受構造である主軸受14に回転自在に軸支される。
【0009】
クランクシャフト13には、一端がオイル2に開口し、他端がクランクシャフト13の外周に刻設された螺旋溝15の下端に連通している給油孔16が設けられており、螺旋溝15の上端は偏心部12のオイル流路17に連通している。
【0010】
以上のように構成された密閉型圧縮機について、以下その動作を説明する。
【0011】
電動要素5に通電すると、電動要素5が起動して回転子4が回転する。そして、この回転子4と一体に軸装されたクランクシャフト13が回転し、クランクシャフト13の偏心部12の動きが圧縮要素6のピストン10の往復運動に変換され、ピストン10がシリンダ8内を往復運動し、圧縮室7において冷媒を吸入し圧縮する。
【0012】
密閉容器1に貯留されたオイル2は、クランクシャフト13の回転により生じる遠心力によりクランクシャフト13の下端に取り付けられた給油孔16により上方に汲み上げられ、クランクシャフト13に設けられた螺旋溝15を通り、主軸受14や偏心部12、及び圧縮要素6の各摺動部に供給される。
【特許文献1】特開2001−182656号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら上記従来の構成では、クランクシャフト13の螺旋溝15に汲み上げられたオイル2中に混入した摩耗粉などの異物が、オイル2とともに螺旋溝15から摺動部に流れ出し、摺動部での損失の増加を引き起こしたり、摩耗や傷付きといった信頼性を損なったりする可能性があった。
【0014】
本発明は上記従来の課題を解決するもので、給油機構にオイルとともに混入した摩耗粉などの異物が、給油機構から摺動部に流れ出すことを防止し、摺動部での損失の増加を防止するとともに、摺動部の摩耗や傷付きを防止し、信頼性の高い密閉型圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記従来の課題を解決するために、クランクシャフトの外周に刻設された給油機構を構成する螺旋溝は、オイルとともに汲み上げられた異物をクランクシャフトと主軸受との摺動部に排出することなく上部に搬送する異物排出防止手段を備えたもので、給油機構にオイルとともに混入した摩耗粉などの異物が、給油機構から摺動部に流れ出すことを防止するという作用を有する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の密閉型圧縮機は、クランクシャフトの外周に刻設された給油機構を構成する螺旋溝は、オイルとともに汲み上げられた異物をクランクシャフトと主軸受との摺動部に排出することなく上部に搬送する異物排出防止手段を備えたもので、給油機構にオイルとともに混入した摩耗粉などの異物が、給油機構から摺動部に流れ出すことを防止し、摺動部での損失の増加を防止するとともに、摺動部の摩耗や傷付きを防止し、信頼性の高い密閉型圧縮機を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の請求項1に記載の発明は、密閉容器内にオイルを貯留するとともに、電動要素と前記電動要素によって駆動される圧縮要素とを収容し、前記圧縮要素は、ピストンと、偏心軸部と主軸部とを有するとともに、下端が前記オイル中に浸漬し、前記オイルを上方に汲み上げる給油機構を備えたクランクシャフトと、円筒形の圧縮室を備えたシリンダブロックと、前記シリンダブロックに形成され前記クランクシャフトを軸支する主軸受とを備え、前記給油機構は、前記クランクシャフトの外周に刻設された螺旋溝を備え、前記螺旋溝は、前記オイルとともに汲み上げられた異物を前記クランクシャフトと前記主軸受との摺動部に排出することなく上部に搬送する異物排出防止手段を備えたもので、螺旋溝の異物排出防止手段によりオイルとともに混入した摩耗粉などの異物が摺動部に流れ出すことを防止し、摺動部での損失の増加を防止するとともに、摺動部の摩耗や傷付きを防止し、信頼性の高い密閉型圧縮機を提供することができる。
【0018】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、異物排出手段は、クランクシャフトの横断面において、螺旋溝の反回転方向の側壁と前記クランクシャフトの軸芯側の底部とのなす角度を鋭角となるように形成したもので、遠心力によりオイルや摩耗粉などの異物が鋭角である螺旋溝の側壁近傍を集まって流れ、鋭角であるために、そこから摺動部に流れ出しにくく、請求項1に記載の発明の効果に加えて、さらに確実に摩耗粉などの異物が摺動部に流れ出すことを防止することができる。
【0019】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、異物排出手段は、クランクシャフトの横断面において、螺旋溝は略台形形状で、台形の下底を前記クランクシャフトの軸芯側の底部とし、台形形状の上底を前記螺旋溝の開口部とするとともに、上底は下底よりも短く形成したもので、螺旋溝の台形形状の下底の端点にある2つの角は鋭角となり、遠心力によりオイルや摩耗粉などの異物は、その鋭角な螺旋溝の台形形状下底近傍を集まって流れ、鋭角であるために、そこから摺動部に流れ出しにくく、請求項1に記載の発明の効果に加えて、さらに確実に摩耗粉などの異物が摺動部に流れ出すことを防止することができる。
【0020】
請求項4に記載の発明は、請求項1から3のいずれか一項に記載の発明において、複数の運転周波数でインバータ駆動されるもので、低速運転時に螺旋溝内のオイルの流れが遅く、摩耗粉などの異物が螺旋溝内に比較的長く滞留する時や、高速運転時に螺旋溝内の摩耗粉などの異物が大きな遠心力により螺旋溝内から流れ出しそうになる時においても、螺旋溝の異物排出防止手段によりオイルとともに混入した摩耗粉などの異物が摺動部に流れ出すことを防止し、摺動部での損失の増加を防止するとともに、摺動部の摩耗や傷付きを防止し、インバータ駆動による省エネ運転および高機能運転においても、高い信頼性を得ることができる。
【0021】
以下、本発明による密閉型圧縮機の実施の形態について図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によってこの発明が限定されるものではない。
【0022】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における密閉型圧縮機の側面の縦断面図、図2は、同実施の形態における密閉型圧縮機のクランクシャフトの正面図である。図3は、図2のA−A線における要部断面図である。
【0023】
尚、図2と図3の図中の矢印は、クランクシャフトの回転方向を示している。
【0024】
図1から図3において、密閉容器101内にオイル102を貯留するとともに、固定子103と回転子104からなる電動要素105と、電動要素105によって駆動される圧縮要素106とを収容している。
【0025】
圧縮要素106は、ピストン111と、偏心軸部112と主軸部113とを有している。
【0026】
さらに、下端がオイル102中に浸漬し、オイル102を上方に汲み上げる給油機構114を備えたクランクシャフト115と、円筒形の圧縮室121を備えたシリンダブロック122と、シリンダブロック122に形成されクランクシャフト115を軸支する主軸受123とを備えている。
【0027】
給油機構114は、クランクシャフト115の外周に刻設された螺旋溝124の下端で連通し、螺旋溝124の上端は、偏心軸部112に設けられたオイル流路125と連通する。オイル流路125の他端は、偏心軸部112の上端面に開口されている。
【0028】
また螺旋溝124は、オイル102とともに汲み上げられた異物をクランクシャフト115と主軸受123との摺動部に排出することなく上部に搬送する異物排出防止手段131を備えている。
【0029】
異物排出防止手段131は、図3に示すクランクシャフト115の螺旋溝124近傍の断面において、螺旋溝124は略台形形状で、台形の下底をクランクシャフト115の軸芯側の底部133とし、台形形状の上底を螺旋溝124の開口部134とするとともに、上底は下底よりも短く形成したもので、螺旋溝124の反回転方向の側面135と軸芯側である底部133によって形成される鋭角部132を有する。
【0030】
以上のように構成された圧縮機について、以下その動作を説明する。
【0031】
電動要素105に通電すると、電動要素105が起動して回転子104が回転する。そして、この回転子104と一体に軸装されたクランクシャフト115が回転し、クランクシャフト115の偏心軸部112の動きが圧縮要素106のピストン111の往復運動に変換され、ピストン111がシリンダブロック122内を往復運動し、圧縮室121において冷媒を吸入し圧縮する。
【0032】
密閉容器101に貯留されたオイル102は、クランクシャフト115の回転により生じる遠心力によりクランクシャフト115の下端に取り付けられた給油機構114により上方に汲み上げられ、クランクシャフト115に設けられた螺旋溝124を通り、主軸受123の摺動部に供給される。
【0033】
螺旋溝124により主軸受123に至ったオイル102は、さらに上方に持ち上げられ、螺旋溝124に連通したオイル流路125を経て、偏心軸部112に供給される。
【0034】
偏心軸部112に供給されたオイル102は、偏心軸部112の上端面のオイル流路125開口部から密閉容器101内の空間に放出される。
【0035】
ここで、オイル102に摩耗粉などの異物が混入していた場合、摩耗粉などの異物はオイル102とともにクランクシャフト115の給油機構114から汲み上げられ、螺旋溝124に至る。
【0036】
この時、螺旋溝124に入り込んだ摩耗粉などの異物は、オイル102よりも重いため、クランクシャフト115の回転力により螺旋溝124の反回転方向の側面135と軸芯側である底部133とで形成された鋭角部132に集まって上部へ搬送される。
【0037】
鋭角部132に集まった摩耗粉などの異物は、回転の遠心力により鋭角部132に溜まり開口部134に流れ出しにくくなるため、摺動部に流れ出しにくくなり、螺旋溝124に沿ってオイル102とともに上方に押し上げられ、オイル流路125を介して偏心軸部112先端から密閉容器101内に排出される。
【0038】
これにより、摩耗粉などの異物が摺動部に流れ出すことを防止することができ、オイル102のみを摺動部に供給し、摺動部での損失の増加を防止するとともに、摩耗粉などの異物による摺動部の摩耗や傷付きを防止し、信頼性の高い密閉型圧縮機を提供することができる。
【0039】
なお、鋭角部132の角度や形状は、螺旋溝124内を流れるオイル102が回転の遠心力によって溜められるものであれば良いことは言うまでもない。
【0040】
また、インバータ駆動で低速運転をしたときは、オイル102の汲み上げ量が少なくなり、螺旋溝124内のオイル102の流れが遅く、摩耗粉などの異物が螺旋溝124内に比較的長く滞留し、上部のオイル流路125内に流れ込むまでの時間が長くなり、クランクシャフト115と主軸受123の摺動部に流れ出す可能性が高くなる。
【0041】
しかし、摩耗粉などの異物は、回転の遠心力により鋭角部132に溜まり開口部134に流れ出しにくくなるため、クランクシャフト115と主軸受123の摺動部に流れ出しにくくなり、螺旋溝124に沿ってオイル102とともに上方に押し上げられ、オイル流路125を介して偏心軸部112先端から密閉容器101内に排出される。
【0042】
これにより、螺旋溝124を流れるオイル102が少ないときでも、摩耗粉などの異物が摺動部に流れ出すことを防止することができ、オイル102のみを摺動部に供給し、摺動部での損失の増加を防止するとともに、摩耗粉などの異物による摺動部の摩耗や傷付きを防止し、信頼性の高い密閉型圧縮機を提供することができる。
【0043】
また、インバータ駆動で高速運転をしたときは、クランクシャフト115の螺旋溝124内のオイル102に働く遠心力が大きくなり、摩耗粉などの異物がクランクシャフト115の摺動部に流れ出しそうになる。
【0044】
しかし、摩耗粉などの異物は、回転の遠心力により鋭角部132に溜まり開口部134に流れ出しにくくなるため、クランクシャフト115と主軸受123の摺動部に流れ出しにくくなり、螺旋溝124に沿ってオイル102とともに上方に押し上げられ、オイル流路125を介して偏心軸部112先端から密閉容器101内に排出される。
【0045】
これにより、螺旋溝124内のオイル102に働く遠心力が大きいときでも、摩耗粉などの異物が摺動部に流れ出すのを防止することができ、オイル102のみを摺動部に供給し、摺動部での損失の増加を防止するとともに、摩耗粉などの異物による摺動部の摩耗や傷付きを防止し、信頼性の高い密閉型圧縮機を提供することができる。
【0046】
尚、本実施の形態では、螺旋溝124の断面を略台形形状としたが、クランクシャフトの回転方向に対して、オイルが溜まる反回転方向の側面135と底部133とで形成された角部が鈍角部を形成していれば、螺旋溝124の断面形状は略平行四辺形や三角形やその他の形状であっても同様の効果を得ることができる。
【0047】
また、回転による遠心力によって異物やオイルを溜めて上部に搬送することができる形状であれば、異物排出防止手段は鋭角部でなくても同様に機能する形状であれば、同様に実施可能である。
【0048】
また、本実施の形態では、異物排出防止手段131をクランクシャフト115の螺旋溝124に設けたが、本実施の形態の断面形状を、偏心軸部112やスラスト部の他の摺動部に設けられた給油溝に用いても、同様の効果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
以上のように、本発明にかかる密閉型圧縮機は、圧力差を利用した給油機構により、安定して十分なオイルを供給することが可能となるので、家庭用冷蔵庫を初めとして、除湿機やショーケース、自販機等、冷凍サイクルを用いたあらゆる用途にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の実施の形態1における密閉型圧縮機の側面の縦断面図
【図2】同実施の形態における密閉型圧縮機のクランクシャフトの正面図
【図3】図2のA−A線における要部断面図
【図4】従来の密閉型圧縮機の側面の縦断面図
【図5】従来のクランクシャフトの正面図
【図6】図5のB−B線における要部断面図
【符号の説明】
【0051】
101 密閉容器
102 オイル
105 電動要素
106 圧縮要素
111 ピストン
112 偏心軸部
113 主軸部
114 給油機構
115 クランクシャフト
121 圧縮室
122 シリンダブロック
123 主軸受
124 螺旋溝
131 異物排出防止手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉容器内にオイルを貯留するとともに、電動要素と、前記電動要素によって駆動される圧縮要素とを収容し、前記圧縮要素は、ピストンと、偏心軸部と主軸部とを有するとともに、下端が前記オイル中に浸漬し、前記オイルを上方に汲み上げる給油機構を備えたクランクシャフトと、円筒形の圧縮室を備えたシリンダブロックと、前記シリンダブロックに形成され前記クランクシャフトを軸支する主軸受とを備え、前記給油機構は、前記クランクシャフトの外周に刻設された螺旋溝を備え、前記螺旋溝は、前記オイルとともに汲み上げられた異物を前記クランクシャフトと前記主軸受との摺動部に排出することなく上部に搬送する異物排出防止手段を備えている密閉型圧縮機。
【請求項2】
異物排出手段は、クランクシャフトの横断面において、螺旋溝の反回転方向の側壁と前記クランクシャフトの軸芯側の底部とのなす角度を鋭角となるように形成した請求項1に記載の密閉型圧縮機。
【請求項3】
異物排出手段は、クランクシャフトの横断面において、螺旋溝は略台形形状で、台形の下底を前記クランクシャフトの軸芯側の底部とし、台形形状の上底を前記螺旋溝の開口部とするとともに、上底は下底よりも短く形成されている請求項1に記載の密閉型圧縮機。
【請求項4】
複数の運転周波数でインバータ駆動される請求項1から3のいずれか一項に記載の密閉型圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−138582(P2009−138582A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−314321(P2007−314321)
【出願日】平成19年12月5日(2007.12.5)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】