説明

射出成形による樹脂成形歯車の製造方法

【課題】収縮による歯車精度の悪化を伴うことなく、歯部への加圧状態を維持することが可能となる射出成形による樹脂成形歯車の製造方法を提供する。
【解決手段】リムの外周面に形成された歯部と、リムの内周面に延在するウェブと、ウェブの少なくとも一部に接合し中心軸の心部に形成されたボスに配設されたゲート部と、
を有する樹脂成形歯車を、射出成形によって一体成形する樹脂成形歯車の製造方法であって、
合成樹脂として溶融温度がTm℃の合成樹脂を用い、樹脂成形歯車を形成する金型のキャビティ内に、溶融温度Tm℃のもとで溶融した樹脂を射出充填する工程と、
ゲート部の固化時に、ウェブの肉厚中心温度T1を(Tm−20)℃以上、(Tm+20)℃以下で、歯部の表面温度T2を(T1−50)℃以下とする工程と、
キャビティ内の成形品表面温度がTm℃以下になるように冷却する工程と、を有する構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形による樹脂成形歯車の製造方法に関する。特に、ウェブおよびリムを有し歯部が成形品外周部に配設された樹脂成形歯車を、射出成形工程において歯車の所定箇所の樹脂温度に温度範囲を設けることにより、歯部の変形、寸法バラツキおよび収縮の増大を抑制し、高精度に製造する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
樹脂成形歯車は、複写機、プリンター等のOA機器、インクカートリッジ等の消耗品、デジタルカメラやビデオカメラ等の小型精密機器のような広い範囲の機械製品に動力伝達部品として組み込まれている。
従来、動力伝達部品としての樹脂成形歯車は平歯車が多く使用されている。
また、低騒音性能や噛合い率の向上等の要求が強い場合には、はすば歯車が使用される。
近年では、機械製品の高機能・高品質化に伴い歯車も高精度化が求められ、歯すじ等級(JIS B 1702)および噛合い誤差(JGMA 116−02)以外にも、真円度や同軸度などの規格も以前より小さい規格幅に設定されることが多い。
【0003】
このような歯車の成形に用いられる樹脂には、ポリアセタール、ポリエチレン、ナイロン、ポリブタジエンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンなどが挙げられる。
しかし、いずれの樹脂も溶融状態から固化状態に変態する際に体積の収縮を伴うだけでなく、保圧設定、金型温度設定あるいは樹脂温度設定などの諸条件によっては成形品の変形、ヒケなども発生し歯車精度を満足できないといった問題がある。
例えば、成形樹脂にポリアセタールを使用した場合では、同樹脂が結晶性の樹脂であるので収縮率は大きく、また結晶化時の潜熱の発生により樹脂温度が低下しにくく成形品が変形しやすいといった問題がある。この問題に対し、従来技術において金型の冷却方法を工夫し冷却性を向上する手法や、冷却工程に成形品表面を加圧することでこれら変形や収縮を抑制する手法が開示されている。
また、収縮を抑制するために歯車の部分的な箇所を所定の形状や所定の肉厚に設定するといった手法が開示されている。
【0004】
例え、ば特許文献1では、可動側駒金型駒に歯車歯部と同心円状の凹形状部が設けられ、固定側金型駒には金型が閉じた際に可動側凹形状部と合致することができるような同形状の凸部が設けられている。
この凸部内にやはり歯部と同心円状の冷却媒体経路を配設することで歯車歯部の冷却性を向上させる技術が開示されている。
また、特許文献2では、射出成形の工程内に、保圧工程以外に金型に取り付けられた加圧機構を用いて歯車形状部の一部を加圧する工程を設けることで、形状や寸法精度向上させた高精度な樹脂成形歯車を提供する技術が開示されている。
また、特許文献3では、ウェブおよびリムを有し歯部が成形品外周部に配設された樹脂成形歯車において、リムおよびウェブの肉厚を歯のピッチ円歯厚に対してある範囲の比率にすることで高精度歯車を得る技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−130902号公報
【特許文献2】特開2002−235835号公報
【特許文献3】特開平11−13861号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
歯車の成形には必ず収縮が伴い、収縮量や収縮傾向によって歯車の精度に影響を与えることが分かっている。
また、収縮だけでなく変形や寸法のバラツキも歯車精度に影響することも分かっている。
射出成形において収縮を抑える手段は幾つか挙げられる。その中でも最も影響の度合いの大きなものは、(1)成形品肉厚、(2)ゲート寸法、(3)射出圧力、(4)スクリュー前進時間、(5)金型温度の五つである。
しかしながら、(1)および(2)に示す内容は成形品の使用目的によっては変更することが難しい場合がある。
そこで一般的に収縮軽減を図る手段として用いられるのは(3)〜(5)に示される、成形条件の変更によるものが多い。
【0007】
以下に射出圧力、スクリュー前時間、金型温度の収縮率との関係について具体的に説明する。
射出圧力:射出圧力が高いほど収縮率は小さくなる。
しかし、高射出圧力をかけても、キャビティ内に伝達される圧力は途中の圧力損失の度合いによって異なる。そのため、最も樹脂流動距離の長い最終充填部近傍で最も圧力損失が大きくなり、同箇所では収縮量が増大するだけでなく、寸法のバラツキなどが生じやすくなる。
スクリュー前進時間:射出圧力がキャビティ内の樹脂を圧縮し続けている時間、すなわちスクリューまたはプランジャーが前進し始めてから、後退を開始するまでの時間をスクリュー前進時間ということとする。
スクリュー前進時間がゲート固化時間まで加わっていれば収縮率は最も小さくなるが、ゲート固化時間より短い場合では収縮率は増大する。
金型温度:金型温度が低下するほど収縮率は小さくなる。
しかし、金型温度が低くなるほど樹脂流動過程での圧力損失は大きくなり、キャビティ内での伝達圧力にバラツキが生じる。
また、流動性悪化に伴い表面性状の悪化を生じることもある。
つまり、収縮現象はキャビティ内の圧力状態および金型温度状態に大きく依存していることが分かる。また、この二つの状態は収縮だけでなく変形や寸法バラツキにも大きく影響している。
【0008】
つぎに、図2に示すような歯車を例に挙げ、キャビティ内圧力状態および金型温度状態の影響を詳しく説明する。
11は円筒状に形成されたリム、12はリムの外周面に該リムの円筒状の中心軸15から外方向に形成された歯、13はリムの内周面に接合し中心軸の方向に平円板状に延在するウェブ、14はウェブに接合し中心軸の心部に形成されたボス、16はゲートである。
キャビティ内の加圧が高いほど収縮率は小さくなり、寸法のバラツキも小さくなるので射出圧力は高い方が有効となる。
しかし、キャビティ内に樹脂が充填した後、シリンダー前進による加圧工程において、ボスあるいはウェブ部分で樹脂の固化が進むと、圧力の伝播経路が最も長いリムおよび歯部の加圧状態は減衰することになる。結果、ゲートが固化するまでに十分な加圧性を維持する事が出来なくなり、リブおよび歯部に寸法のバラツキや変形などの問題を生じる。
加圧状態の減衰を抑制するために金型温度を上げる手段が用いられる。つまり、高型温によりボスおよびウェブ部分での固化状態への移行を遅延させ、ゲート固化時間まで加圧状態を維持する方法である。
しかし、先に述べたように、金型温度が高い場合では成形品収縮率が増大し、結果として歯車精度が低下するといった問題が生じる。
【0009】
上記の特許文献1では、媒体経路を有した嵌め込み式の駒によって歯部の冷却性を向上させる手法が開示されているが、歯車の加圧状態は考慮されておらず寸法バラツキや変形などの問題を改善することは難しい。また、金型の耐久性や金型製作上の問題を多く含んでいる。
また、上記特許文献2では、加圧機構を用いることで歯車精度の向上を図る手法が開示されているが、金型構造が複雑になり金型の製作が困難になる上、成形工程が増大するといった問題が生じている。
また、上記特許文献3では、歯車形状を変更することによってヒケや変形を抑制する手法が開示されている。しかし、肉厚などの形状を変更することによって、歯車自身の強度、耐久性が著しく変化するといった問題を生じる。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑み、収縮による歯車精度の悪化を伴うことなく、歯部への加圧状態を維持することが可能となる射出成形による樹脂成形歯車の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の射出成形による樹脂成形歯車の製造方法は、
円筒状に形成されたリムと、前記リムの外周面に円筒の中心軸から外方向に形成された歯部と、前記リムの内周面に接合し中心軸の方向に平円板状に延在するウェブと、前記ウェブの少なくとも一部に接合し中心軸の心部に形成されたボスに配設されたゲート部と、
を有する樹脂成形歯車を、合成樹脂を用いて射出成形によって一体成形する樹脂成形歯車の製造方法であって、
前記合成樹脂として溶融温度がTm℃の合成樹脂を用い、前記樹脂成形歯車を形成する金型のキャビティ内に、前記溶融温度Tm℃のもとで溶融した樹脂を射出充填する工程と、
前記ゲート部の固化時に、前記ウェブの肉厚中心温度T1を(Tm−20)℃以上、(Tm+20)℃以下で、前記歯部の表面温度T2を(T1−50)℃以下とする工程と、
前記キャビティ内の成形品表面温度がTm℃以下になるように冷却する工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、収縮による歯車精度の悪化を伴うことなく、歯部への加圧状態を維持することが可能となる射出成形による樹脂成形歯車の製造方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態における射出成形による樹脂成形歯車の製造方法を説明するための成形中の温度履歴を表す図。
【図2】本発明の実施の形態における射出成形による樹脂成形歯車の製造方法を説明するための樹脂成形歯車の一例を表す概略断面図。
【図3】本発明の実施の形態における樹脂成形歯車を成形する射出成形金型の概略断面図。
【図4】本発明の実施の形態の射出成形による樹脂成形歯車の製造方法と従来技術による成形品の歯車精度の差異を説明するための成形中の温度および圧力履歴を表す図。
【図5】本発明の実施の形態の射出成形による樹脂成形歯車の製造方法と従来技術による成形品の歯車精度の差異を説明するための樹脂成形歯車の歯部の変形を表す概略図。
【図6】本発明の実施の形態の射出成形による樹脂成形歯車の製造方法と従来技術による成形品の歯車精度の差異を説明するための樹脂成形歯車の歯形形状測定箇所を表す図。
【図7】本発明の実施の形態の射出成形による樹脂成形歯車の製造方法と従来技術による成形品の歯車精度の差異を説明するための樹脂成形歯車の歯の収縮を表す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、成形工程内における、射出成形機のシリンダーあるいはプランジャーの前進開始からゲートが固化するまでのキャビティ内への加圧が有効な期間で、所定箇所の樹脂温度に範囲を設けるものである。
一つは樹脂成形歯車のウェブ部の肉厚中心部であり、ゲート固化時の樹脂温度T1を樹脂の溶融温度Tm℃に対し(Tm−20)℃以上とする。
これによりリムおよび歯部への圧力伝播経路であるウェブが完全固化しないので、加圧が有効な期間でリムおよび歯部への加圧性の減衰が抑制され、同箇所における寸法のバラつきや変形を抑えることが可能となる。
また、ゲート固化時のT1が(Tm+20)℃以下とすることによりキャビティ内の成形品表面温度を溶融温度Tm℃以下に冷却する工程を短く設定することができ、成形サイクルが短縮され低コストで成形製造することが可能となる。また、歯部の表面温度にも範囲を設ける。
ゲート固化時の歯部表面温度T2を(T1−50)℃までに急冷することで歯部の収縮を最小限に抑えることができ、高精度な歯車形成が可能となる。
【0015】
以下に、本発明の実施形態における合成樹脂を用いて射出成形によって一体成形する樹脂成形歯車の製造方法について、図を用いて説明する。
図1は、成形中の温度履歴であり、成形中の時間経過に伴う成形品所定箇所の樹脂温度の変化を表している。
1は樹脂成形歯車のウェブ部肉厚中心の樹脂温度履歴、2は歯部表面の温度履歴である。
図2は、樹脂成形歯車の一例を示した断面図である。
11は円筒状に形成されたリムであり、ギアの中心軸に対して同心円状に構成される。
12は歯部であり、リムの中心軸からみて外周上に接合されている。すなわち、リムの外周面に円筒の中心軸から外方向に形成されている。
13はウェブであり、リムの内周面から軸方向に平円板状に延在している。14は中心軸の心部に形成されたボスであり、ウェブの少なくとも一部に接合している。
16はゲート部であり、ボスの端部に配設されている。樹脂成形歯車は主に結晶性樹脂であるポリアセタールによって製造される事が多く、旭化成ケミカルズ社製テナック(登録商標)などを用いて射出成形により製造される。
【0016】
図3は、樹脂成形歯車を成形する射出成形金型の概略断面図である。
図3に示すように射出成形用金型20は、固定側金型24に歯車形成駒51および52を備え、歯車形成駒51は歯車の外周部を、歯車形成駒52はウェブと歯車内周部およびボスを形成する。
さらに、歯車形成駒52はゲート32を有し、また温調媒体経路21を有し駒の温度を単独に変更することが可能である。
可動側金型25は歯車形成駒53、54および55を備え、歯車形成駒53はウェブと歯車の内周部およびボスを形成し、歯部に接する箇所に内圧センサー42を、ウェブに接する箇所に樹脂温度センサー41を備える。
さらに、歯車形成駒53は温調媒体経路22を有し、駒の温度を単独に変更することが可能である。歯車形成駒54は歯部を形成する。また、歯車形成駒55は歯車の中心軸の軸孔を形成する。
【0017】
つぎに、本実施形態における射出成形による樹脂成形歯車の製造方法の一例について、図1を用いて説明する。
図1におけるaは射出開始時間、bはゲートが固化した時間、cはシリンダー前進終了時間、dは冷却終了時間を示したものである。
ゲート固化時間bがシリンダー前進終了時間c以内に行われるように、時間cを設定する。
時間aにおいて金型キャビティ内に溶融樹脂が射出充填され、その後シリンダー前進によりキャビティ内の樹脂は加圧される。
その後、時間bのゲート固化に伴いキャビティ内への加圧力の伝播は遮断されるが、この時点でのウェブ肉厚中心温度T1が使用樹脂の溶融温度Tm℃に対して(Tm−20)℃以上、(Tm+20)℃以下になるように設定する。
例えば、溶融温度150℃である場合は130℃以上、170℃以下とする。
このとき、ウェブ肉厚中心温度T1は図3における樹脂温度センサー41によって測定し媒体経路21および22を流れる媒体温度によって変動させる。
次に、同時点における歯部表面温度T2を(T1−50)℃以下になるように設定する。
例えば、先に設定されたウェブ肉厚中心温度T1が130℃であった場合歯部表面温度は80℃以下になるようにする。
このときの歯部表面温度T2はゲート固化時間b直後に成形品を取り出し、赤外線カメラ等によって表面温度を測定し、測定結果に基づいて金型媒体経路23を流れる媒体温度を変更することによって調整する。
次に、冷却終了時間d時点における成形品表面温度を溶融温度Tm温度以下になるように冷却終了時間dおよび金型媒体経路23の媒体温度を調整する。
例えば、溶融温度150℃の樹脂を使用した場合ではd時点での成形品温度が150℃以下になるようにする。
成形品表面温度は赤外線カメラ等を用いて測定し、歯部表面温度T2の温度条件を満足する媒体経路23の媒体温度を設定し、且つ冷却終了時間dを設定する。
【0018】
ここで、本実施形態の製造方法による成形品と従来技術による成形品の歯車精度の差異を、図4、図5、図6及び図7を用いて説明する。
図4は、内圧センサー42によって計測された歯部の内圧力3とウェブ部の肉厚中心温度1の経過時間に伴う履歴を示したものである。
本実施形態の射出成形による樹脂成形歯車の製造方法は、射出成形機に有するシリンダーあるいはプランジャーが前進し、キャビティ内へ樹脂が充填し始める時間aからゲートが固化する時間bまでの期間における所定箇所の温度状態を定義したものである。
本実施形態の上記製造方法に従い、樹脂成形歯車のウェブ部の肉厚中心温度T1を(Tm−20)℃以上に設定することにより、時間bまでリムおよび歯部への圧力伝播経路であるウェブが完全固化しなくなる。
これにより、シリンダーあるいはプランジャーの射出開始時間aからゲート固化時間bまでの、加圧が有効な期間内におけるリムおよび歯部への加圧の減衰が抑制される。
つまり、充填直後のピーク内圧力Pmaxと時間bでの内圧力Pbの差が小さくなる。
【0019】
図5は図2に示す歯車において、歯部が軸中心方向に倒れ変形した時の最終的な形状17を倒れ量rと併せて表したものである。
この倒れ変形量rは時間bにおける内圧力Pbの値が大きい場合ほど小さくなり、倒れ変形が抑えられるということが実験により明らかとなった。
図6は図2に示す歯車の一歯を抜き出しその歯における歯形測定箇所を示したものである。
ウェブ面に近いところから測定箇所4、測定箇所5、測定箇所6となっており、ゲートからの流動長が最も長くなる箇所は測定箇所6近傍となる。
4、5、6それぞれの歯形形状は時間bにおける内圧力Pbの値が大きい場合ほどバラツキが減少し、歯部の寸法も安定することが実験によってわかった。
また、T1を(Tm+20)℃以下に設定しておくことによって必要以上な樹脂温上昇を伴わないので、成形品取り出し後のウェブ部近傍でのヒケの発生を抑制することが出来るので精度の向上につながる。
さらに、冷却終了時間dの設定を必要最小限に設定する事が出来るのでサイクルの延長を伴わず、低コスト成形が可能となる。
【0020】
また、本実施形態の成形方法によれば、歯部の表面温度T2を加圧が有効な期間内にウェブ肉厚中心樹脂温度T1よりも50℃以上温度差が付くように冷却することで歯部の収縮挙動を抑制する特徴がある。
図7は歯車一歯の収縮傾向を示したものである。
歯部の表面温度が高い場合、18に示すように歯先部分で収縮が増大することが実験により分かった。
また、図2に示すpは歯部の歯外径寸法を、qは歯幅寸法を示したものであるが、どちらの寸法も歯部表面温度が上昇するにつれて減少することが実験によって明らかとなった。
つまり、歯部表面温度T2の温度を低温にすることによって歯部近傍の一連の収縮挙動を抑制し、高精度な歯車成形が可能となる。
【実施例】
【0021】
[実施例1]
実施例1として、本発明を適用した射出成形による樹脂成形歯車の製造方法の構成例について説明する。
本実施例では、樹脂材料として、溶融温度Tmが150℃である旭化成ケミカルズ社製テナック(登録商標)HC750を用いた。
時間bにおけるウェブの肉厚中心温度T1を樹脂溶融温度Tm℃に対し(Tm−20)℃以上、(Tm+20)以下になるように媒体経路21および22に流れる媒体温度を調整させた時、歯部における圧力傾向と形状変形の関係を以下の表1に示す。
実施例1−1、および以下で説明する実施例1−2、実施例1−3では、時間bにおけるT1温度を130℃以上、170℃以下になるように設定した。
実施例1−1のT1温度は下限となる130℃、実施例1−3のT1温度は上限となる170℃となっている。
また、比較例1−1および比較例1−2は本発明におけるT1温度設定範囲に含まれない例を示したものである。
[表1]時間bにおけるウェブ肉厚中心温度と圧力傾向および形状変形の関係

【0022】
以上のように、時間bにおけるウェブ肉厚中心温度T1を本実施例の温度範囲に設定することで、歯部に加わる圧力ピークPmaxと時間bにおける減衰後の圧力Pbの差を小さくすることが可能となった。
このように時間aから時間bまでの圧力の減衰を抑えることによって歯部の倒れ量rも小さくすることが可能となり、歯部の変形をも抑制される。
また、加えて図6に示される歯形形状4、5、6それぞれの形状バラツキも小さくなり、高精度な歯車が成形される。
一方、比較例1−1および比較例1−2はT1の温度範囲を満足しておらず、歯部における圧力減衰も大きく、その減衰量に伴い歯部の倒れ量rと歯形形状のバラツキの増大を招いている。
【0023】
また、時間bにおいて歯部の表面温度T2が(T1−50)℃以下になるように媒体経路23に流れる媒体温度を調整した時、歯部における収縮傾向の関係を以下の表2に示す。
実施例1−4および実施例1−5はT1温度が135℃であったとき、T2温度が85℃以下になるように設定した。
実施例1−5はT2温度範囲の上限に設定した例である。
また、比較例1−3および比較例1−4は本実施例におけるT2温度範囲に含まれない例を示したものである。
表2に示すように、時間bにおける歯部表面温度T2を本実施例の温度範囲に設定することによって図7に示す歯先の収縮傾向18の収縮傾向が抑制されることがわかった。
また、歯車歯部の歯幅寸法q及び歯外径寸法pも収縮量が小さくなっている。一方、比較例3および4は時間bにおける歯部表面温度が高いため、歯先の収縮傾向が増大しただけでなく、歯幅および歯外径の収縮量も増大している。
[表2]時間bにおける歯部表面温度と歯部収縮傾向の関係

【0024】
時間bにおけるウェブ肉厚中心温度T1および歯部表面温度T2を本実施例の温度範囲に設定した場合の実施例1−6と、本実施例の温度範囲から外れる比較例1−5および比較例1−6で成形された歯車の精度への影響を表3に示す。
[表3]時間bにおけるT1およびT2温度による歯車精度への影響

【0025】
比較例1−5は金型全体が低温状態になっている一例であり、T1温度が本実施例の温度範囲の下限を下回り、且つT2温度も本発明温度範囲内にない。
また、比較例1−6は金型全体が高温状態になっている一例であり、T1温度は本実施例の温度範囲内にあるがT2温度が本実施例の温度範囲に該当していない。
表3に示すように、実施例1−6による歯車の歯すじ誤差および噛合い誤差は比較例1−5および比較例1−6で成形された歯車よりも高精度になっている。
比較例1−5ではウェブ肉厚中心温度T1が低いことによって歯部での形状変形が大きくなったため精度が悪化したものであり、比較例1−6は歯部表面温度T2が高いことによって歯部全体の収縮挙動が顕著になったための精度悪化である。
実施例1−6はいずれの精度悪化要因も排除されて成形されたものであり、高精度な歯車成形が可能となっている。
【0026】
[実施例2]
樹脂材料にポリアセタール樹脂以外の樹脂を採用して本発明の成形方法を用いて成形を行った。
使用樹脂は、東レ社製アミラン(登録商標)のポリアミド6(PA6)、ポリプラスチック社製ジュラネックス(登録商標)のポリブタジエンテレフタレート(PBT)、
旭化成ケミカルズ社製サンテック(登録商標)のポリエチレン(PE)、日本ポリプロ社製ノバテック(登録商標)のポリプロピレン(PP)を用いた。
本発明の温度範囲に設定した実施例2と、温度範囲から外れている従来の成形条件で成形された比較例2における歯車精度への影響を表4に示す。
[表4]PA6、PBT、PE,PPにおける実施例と精度比較

【0027】
比較例2ではいずれの樹脂を用いた時も、T1温度T2温度のどちらか一方が、あるいは両方が本実施例の温度範囲から外れた状態となっている。
結果、成形された歯車精度は比較例2と本発明に沿った実施例2とでは明らかな差異が生じており、どの樹脂を用いた場合でも実施例2の歯車精度の方が優秀な結果を示している。
【符号の説明】
【0028】
1:ウェブ肉厚中心の温度履歴
2:歯部表面の温度履歴
a:射出開始時間
b:ゲート固化時間
c:シリンダー前進終了時間
d:冷却終了時間
T1:時間bにおけるウェブ肉厚中心温度
T2:時間bにおける歯部表面温度
Tm:溶融温度またはガラス転移温度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状に形成されたリムと、前記リムの外周面に円筒の中心軸から外方向に形成された歯部と、前記リムの内周面に接合し中心軸の方向に平円板状に延在するウェブと、前記ウェブの少なくとも一部に接合し中心軸の心部に形成されたボスに配設されたゲート部と、
を有する樹脂成形歯車を、合成樹脂を用いて射出成形によって一体成形する樹脂成形歯車の製造方法であって、
前記合成樹脂として溶融温度がTm℃の合成樹脂を用い、前記樹脂成形歯車を形成する金型のキャビティ内に、前記溶融温度Tm℃のもとで溶融した樹脂を射出充填する工程と、
前記ゲート部の固化時に、前記ウェブの肉厚中心温度T1を(Tm−20)℃以上、(Tm+20)℃以下で、前記歯部の表面温度T2を(T1−50)℃以下とする工程と、
前記キャビティ内の成形品表面温度がTm℃以下になるように冷却する工程と、
を有することを特徴とする射出成形による樹脂成形歯車の製造方法。
【請求項2】
前記合成樹脂として、ポリアセタール、ポリアミド6、ポリブタジエンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレンのいずれか一つが用いられることを特徴とする請求項1に記載の射出成形による樹脂成形歯車の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−14075(P2013−14075A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−148459(P2011−148459)
【出願日】平成23年7月4日(2011.7.4)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】