説明

射出成形機用スクリュ、射出成形装置及び射出成形方法

【課題】 樹脂の流路を自在に開閉でき、又その樹脂の流路がシンプルな構造の逆止リング開閉機構を備えた射出成形用スクリュ、射出成形装置及び射出成形方法を提供する。
【解決手段】 逆止リング開閉機構を備えた射出成形機用スクリュ1において、逆止リング5のヘッド部側の端面に、スクリュ軸方向に対して所定の角度を持って傾けられた突起部5Aを形成するとともに、突起部5Aに係合して、突起部5Aがスクリュ軸を中心に回転することにより摺動し軸方向に移動する溝2Cをヘッド部2Aに形成する。本発明は、前述の構成によって、スクリュ1を計量時の回転方向に回転させると逆止リング5がシールリング3から離間する方向に移動し、スクリュ1を該回転方向と逆の方向に回転させると逆止リング5がシールリング3に当接する方向に移動することにより、樹脂の流路を自在に開閉でき、又その樹脂の流路もシンプルな構造である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は樹脂の射出成形機に用いる射出成形機用スクリュ、射出成形装置及び射出成形方法に係り、射出成形機用スクリュのスクリュ先端部に配した逆止リング機構について、その動作精度と樹脂のシール性を高めること等により、精度の高い射出及び計量動作が可能な射出成形機用スクリュ、射出成形装置及び射出成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から一般的に知られている射出成形用スクリュは、スクリュ後方側の原料供給部側から順に樹脂を射出する方向に向かって供給・圧縮・計量用のフライトが形成されたスクリュ本体、シールリング(リアシートと称されることもある)、樹脂の逆流を防止するための逆止リング(チェックリングと称することもある)、及びスクリュヘッドを備えている。
【0003】
通常、逆止リングは、スクリュヘッドの小径部に嵌合された状態で取り付けられて、スクリュヘッドのヘッド部(スクリュヘッドの樹脂を射出する方向側の部分)と、スクリュ本体部に配されたシールリング部との間で、スクリュ長手方向のスクリュ軸方向にわずかな距離を移動できるよう配されている。そして、逆止リングが、計量時にヘッド部側(樹脂を射出する方向側)に移動することにより、シールリング側(スクリュ本体方向側)の溶融樹脂をヘッド部側に流すことができる構造となっている。
【0004】
また、逆止リングは、射出時にシールリング側に移動してシールリングと当接することにより、ヘッド側にある樹脂がシールリング側に逆流しないよう樹脂をシールする構造となっている。逆止リングをスクリュの前後に移動させることにより、シールリング側とヘッド部側との間における樹脂の流路を開閉する前述の機構は、一般的に逆止リング機構(チェックリング機構と称されることもある)と称されるものである
【0005】
従来の一般的な逆止リング機構は、逆止リングを挟んで前後に発生する樹脂の圧力差(射出時の樹脂圧力、計量時の樹脂圧力等)を利用して、逆止リングをヘッド部側、或いはシールリング側に移動させて樹脂の流路を開閉するよう構成されていることが多い。
しかし、逆止リングの移動は、前記樹脂の圧力差を利用した移動だけではなく、例えば以下、簡略に説明する特許文献1〜5に開示されるような技術も公知である。
なお、本明細書においては、説明を簡略にするため、スクリュによって樹脂を射出する方向側を、スクリュの前側,或いは前方と称し、それに対向するスクリュ原料供給側の方向をスクリュの後側、或いは後方と称することもある。また、樹脂を計量する際に回転させるスクリュの回転方向をスクリュの正回転方向とする
【0006】
【特許文献1】特開平04−119812号公報
【0007】
特許文献1には、片テーパの爪が形成された逆止リングが開示されており、逆止リングの爪は、スクリュヘッドに形成された溝に係合して摺動する。
特許文献1に開示の技術は、計量後にスクリュを逆回転させることによって、該爪を該溝の中で摺動移動させることにより、逆止リングをスクリュの後方に移動させて、樹脂のシール部を形成する。
【0008】
【特許文献2】特開昭62−19423号公報
【0009】
また、特許文献2には、スクリュヘッドのヘッド部と逆止リングが傾斜面で当接している構造になっており、スクリュ逆回転で逆止リングがスクリュ後方に移動する。なお、特許文献2においては、逆止リングを、樹脂圧力でスクリュ前方に移動させる構成となっている。
【0010】
【特許文献3】特開2004−9554号公報
【0011】
特許文献3に開示された技術は、スクリュヘッドと逆止リングがカム機構で連結されており、正回転又は逆回転で逆止リングがスクリュの前方又後方に移動する構成となっている。
【0012】
【特許文献4】特開2000−309042号公報
【0013】
特許文献4に開示された技術は、スクリュヘッドと逆止リングの連結部に円周方向の流路が形成されており、正回転又は逆回転で逆止リングがスクリュの前方又後方に移動する構成となっている。
【0014】
【特許文献5】特開平07−214619号公報
【0015】
特許文献5に開示された技術は、スクリュヘッドと逆止リングがネジ構造で連結されており、正回転又は逆回転で逆止リングがスクリュの前方又後方に移動する構成となっている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
ところで、樹脂の圧力差を利用して、逆止リングをスクリュの前方又後方に移動させることにより樹脂の流路を開閉し、樹脂の流れを流通又は遮断させる従来の一般的な逆止リング機構では、射出時又計量時において、樹脂の圧力差に変化が出た場合に、その開閉動作に変化が生じる。例えば、連続成形している際などにおいて、溶融樹脂の温度が変化すると成形中の樹脂圧力が微妙に変化して、逆止リングの開閉動作が不安定になり、射出樹脂量、計量精度、又計量時間に影響を与えるという問題点があった。
【0017】
また、特許文献1、2に開示された技術は、計量後にスクリュを逆回転させることにより、逆止リングのシールを確実に行っている。そのため、射出時における樹脂の逆流については確実に防止でき、その安定性も高い。
しかし、特許文献1、2に開示された技術は、計量時に逆止リングが動く機構について、一般的な従来技術と同様に樹脂圧力を利用している。そのため、そのタイミングには、ばらつきがあり、動作が不安定となっている。従って、前述した一般的な従来技術と同様に計量精度や計量時間が不安定であるという問題を有している。
なお、樹脂圧力を利用する前述の方法は、逆止リングが動き始めた瞬間に樹脂の急激な圧力変化が起こるために添加剤等が入っていた場合に添加剤が再分離しやすいという欠点を有しており、さらに、逆止リングが動き始めた瞬間から開き終わるまで間に、樹脂の流路面積が変わることによって、樹脂温度が不安定になりやすいという問題があった。
【0018】
特許文献3から5まで開示された技術は、それぞれ、樹脂の圧力差を利用せずに、逆止リングを前後に移動させることにより樹脂の流路を開閉する。
しかし、特許文献3から5までに開示された技術は、いずれも逆止リングにより形成される樹脂流路の形状が複雑であって、樹脂流動の抵抗になり、樹脂の滞留による樹脂替不良と言う問題を生じやすいという問題があった。
【0019】
本発明は、前述した従来技術の問題点に着目し、樹脂の圧力差を利用することなく、逆止リングを確実に前後に移動させて、樹脂の流路を自在に開閉することができ、又その樹脂の流路がシンプルな構造の逆止リング開閉機構を備えた射出成形用スクリュ、射出成形装置及び射出成形方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記の目的を達成するため、本発明による射出成形機用スクリュは
(1) 略円錐形状のヘッド部と略円柱状の小径部とからなり該小径部がスクリュ本体のシールリング部側に取り付けられたスクリュヘッドと、該小径部に摺動自在に嵌めあわされてヘッド部からシールリング部までスクリュ軸方向に移動できる逆止リングとを備えて、該逆止リングの内周面と該小径部の外周面との間に樹脂が流れることのできる隙間を形成して樹脂の流路とし、該逆止リングをシールリング部に当接又離間させることによって、該樹脂の流路を遮断又は流通させる樹脂の射出成形機用スクリュにおいて、該逆止リングのヘッド部側の端面に、スクリュ軸方向に対して所定の角度を持って傾けられた突起部を形成するとともに、該突起部に係合して該突起部がスクリュ軸を中心に回転することにより摺動し軸方向に移動する溝を該ヘッド部に形成することによって、該スクリュを計量時の回転方向に回転させると該逆止リングがシールリングから離間する方向に移動し、該スクリュを該回転方向と逆の方向に回転させると該逆止リングがシールリングに当接する方向に移動する。
【0021】
本発明による射出成形装置は、
(2) (1)に記載の射出成形用スクリュを備えた。
【0022】
本発明による射出成形方法は、
(3) (1)に記載の射出成形用スクリュを備えた射出成形装置を用いる射出成形方法であって、スクリュを回転させて所望の量の樹脂を計量した後に、スクリュ位置を保持したままスクリュを逆回転させることによって逆止リングとシールリング部を当接させてから、射出動作によって樹脂を射出した。
【発明の効果】
【0023】
本発明の射出成形用スクリュによれば、スクリュの回転を利用し、逆止リングを確実に前後に移動させることができるので、計量後の樹脂の逆流防止効果(シール性)が高く、一旦、スクリュ前方に送った樹脂が、射出時においてスクリュ本体側に逆流しないので、製品重量の安定化が達成できる。
また、逆止リングにより形成される樹脂の流路の形状もシンプルであり、計量時の溶融樹脂の流動を阻害しないので計量時の品質安定化を得られると同時に、滞留による樹脂替不良を生じにくいとという優れた効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面に基づいて本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
図1及び図2は本発明による好ましい実施の形態に係り、図1は射出成形機用スクリュの構造を概念的に説明するための説明図であり、(A)は計量時を示し、(B)は計量後の射出前にスクリュを逆回転させた場合を示す。図2は図1の射出成形機用スクリュを備えた射出装置について全体的な構成を説明する説図である。図3は突起部とスクリュ軸がなす角度θを説明する図である。
【0025】
まず始めに、本発明の実施形態である射出成形用スクリュ1の構成について説明する。
図1において、スクリュ1は、スクリュ本体4、シールリング3、逆止リング5、スクリュヘッド2を備えている。なお、スクリュ1は、成形中に図2に示すように加熱シリンダ31Aの中に挿入されて配される。
【0026】
スクリュ本体4は、原料ホッパ側から順に、供給・圧縮・計量用のフライトが形成されている。また、スクリュ本体4のスクリュ前方側の端部には、雌ねじを加工された開口部が形成されており、後述するスクリュヘッド2がシールリング3を挟んだ状態で取り付けられる。
【0027】
スクリュ本体4に取り付けるスクリュヘッド2は、図1に示すように、その一端がヘッド部2Aとして略円錐形状に形成されて、他端が円柱形状の小径部2Bとして形成されている。そして、小径部2Bの一端には、図示しない雄ねじ部が形成されており、該雄ねじ部は、小径部2Bとスクリュ本体4でシールリング3を挟持した状態となるようにして、前述したスクリュ本体4の雌ねじ部と螺合する。
図1に示す実施形態においては、スクリュ本体4とスクリュヘッド2の小径部2Bを、シールリング3を挟んだ状態で螺合させて取り付ける際に、小径部2Bを後述する逆止リング5に挿通させて取り付ける構成となっている。
【0028】
以下、逆止リング5の構成について説明する。
図1に示すように、本実施形態における逆止リング5は、従来構造の逆止リング5と同様に、その本体が環状となっており、スクリュヘッド2の小径部2Bに、逆止リング5の本体部分である環状部を嵌め込み、その際に、スクリュヘッド2とスクリュ本体4の間でシールリング3を挟持させる。また、この際において、スクリュヘッド2の小径部2Bの外周面と、逆止リング5の本体環状部の内周面には樹脂を流すための隙間が形成されている。
【0029】
逆止リング5は、スクリュヘッド2の小径部2B外側でスクリュの軸方向に進退自在であり、逆止リング5が、スクリュ本体4側に移動した際に、シールリング3と当接してヘッド部2A側の溶融樹脂がスクリュ本体4側へ逆流することを防止する。
【0030】
なお、本実施形態においては、逆止リング5のヘッド部2A側の端面に複数個の凸部5Bを形成している。従って、後述する計量工程で、逆止リング5をヘッド部2Aの端面側に移動させた場合においても、逆止リング5とヘッド部2Aの端面との間には、凸部5Bがあるため、樹脂が流れることのできる隙間が形成される。
【0031】
なお、本実施形態において、逆止リング5とシールリング3から構成される逆流リング機構は、前述の構成により、スクリュヘッド2とシールリング3が、スクリュ本体4の間で脱着自在に取り付けられることになる。
従って、長期の連続使用などにより、逆止リング2或いはシールリング3等が摩耗や損傷した場合に交換が容易である。勿論、シールリング3が破損しない場合は、スクリュ本体の一部をシールリングとして一体化する構造としても良く、そのような構造は本発明の適応の範囲である。
【0032】
さらに、本実施形態においては、逆止リング5のヘッド部2A側(スクリュ前方)の端面に、スクリュ長手方向に対して所定の角度を持って傾けられた突起部5Aが少なくとも1箇所(図1に示す実施形態ではスクリュヘッド回転中心軸を挟んで対向するように2箇所)が形成されている。
【0033】
また、本発明においては、突起部5Aを、スクリュ軸方向に対して所定の角度(θ度)で傾ける構成としており、本実施形態においては、突起部5Aについての好ましい1例として、スクリュ長手方向であるスクリュ軸方向に対して45度を傾ける構成としているが、本発明の適応の範囲がこれに限らないことは勿論であって、15度から75度の間が好ましく、30度から50度までの間は特に好ましい。
なお、図1(A)に示すスクリュ1の回転方向は、スクリュ前方から見て時計回りの方向に回っている場合を示したものである。
【0034】
図3(A)に前述の角度θを説明するための図を参考として示す。
図3(A)に示すスクリュ1の回転方向は、図1(A)と同様に、スクリュ前方から見て時計回りの方向に回っている場合を示したものである。図3(A)に示したように、前述の角度θは、突起部5Aの中心線とスクリュ軸のなす角度θとしている。
また、突起部5Aは、後述する円錐状のヘッド部に形成された溝部2Cに係合するため螺旋状となる場合があり、その場合、前記突起部5Aの中心線も螺旋状となる。従って、そのような場合は、該螺旋状の中心線を展開して開いた際にスクリュ軸のなす角度をθとする。
【0035】
従って、スクリュヘッド5のヘッド部2Aには、逆止リング5の突起部Aに対向して突起部5Aに係合する溝部2Cが形成されており、小径部2Bに逆止リング5を嵌め合わせた場合において、溝部2Cと突起部5Aが係合するよう構成されている。
従って、図1(A)のように、スクリュ1を計量時の方向に回転させると、突起部5Aが溝部2Cを滑りながら摺動して、その結果、逆止リング5が軸方向のスクリュ前方側に移動する。そのため、逆止リング5は、シールリングから離間して、ヘッド部2Aの端面側に移動し、前述したような樹脂が流れることのできる隙間が形成される。
また、スクリュ1を、図1(B)のように、計量時の方向と逆の方向に回転させると、突起部5Aが溝部2Cを滑りながら摺動して、逆止リング5が軸方向のスクリュ後方側に移動して、逆止リング5の端面がシールリングに当接する構造となっている。
【0036】
以下、本実施形態に使用される射出成形装置100の構成について簡略に説明する。
図2に示した射出成形装置100は、金型10、型締装置20、射出装置30、及び制御装置60とを備えている。
【0037】
金型10の構造について説明する。
金型10は、固定盤11に取り付けられた固定型13と、可動盤12に取り付けられた可動型14とからなり、固定型13と可動型14とが、嵌め合わされた状態で金型キャビティを形成する。
【0038】
型締装置20は、図2に示したように、固定盤11、可動盤12、型締用サーボモータ20Bにより動かされるトグル式型締機構20を備えている。また、可動盤12は、固定盤11とエンドプレートとの間に架設された図示しないタイバーにより案内されて、トグル式型締機構21により可動型14と共に前後進できるよう構成されている。
【0039】
なお、本実施形態において、型締装置20に備えたリンク駆動機構のクロスヘッド駆動軸には、クロスヘッドの位置を検出するために図示しないストロークセンサが取り付けられており、可動盤12の位置を精度よくコントロールすることが可能であり、さらに、型締力を測定する図示しない型締力測定センサが型締力を検出するよう配されている。
【0040】
次に、図2に示した射出装置30は、射出装置30として、加熱シリンダ31A、加熱シリンダ31Aに内装されたスクリュ1、加熱シリンダ31Aに熱可塑性樹脂材料を供給する原料ホッパ、スクリュ1を前後進又回転させるスクリュ駆動装置31Cを設けられている。なお、前記加熱シリンダ31Aの外周面には、図示しないヒータが取り付けられている。
【0041】
また、射出装置30には、スクリュ1が回転することにより、原料ホッパから熱可塑性樹脂材料が、バレル31A内に供給される構成となっており、該供給された熱可塑性樹脂材料は、加熱シリンダ31A内に取り付けられたヒータによって加熱され、また、スクリュ1の回転によって混練圧縮作用を受けることにより溶融してスクリュ1前方へ送られる。スクリュ1前方へ送られた溶融樹脂は、スクリュ1によって、バレル31Aの先端に取り付けられたノズル31Bから、固定型13に取り付けられたバルブ等を介して、金型キャビティへ充填される。
【0042】
なお、制御装置60は、金型の開閉や型締力を制御する型締制御部、射出装置を制御して熱可塑性樹脂材料の可塑化と溶融樹脂の金型キャビティへの充填を制御する射出制御部を備えている。
【0043】
型締装置20の型締制御部は、可動型4の開閉位置を必要に応じて設定でき、又可動型14の開閉速度を必要によって型開閉位置に応じて変化させるように設定可能な型締条件設定機を備えている。型締装置20の型締制御部は、設定値に基づいて、金型開閉中の可動型14の開閉位置及び開閉速度を制御するとともに、成形中に所望の型締力となるよう制御できる。
【0044】
次に、このように構成された射出成形装置100の動作について簡略に説明するとともに、射出成形用スクリュ1の動作について好ましい1例を説明する。
まず、第1の工程として、型締装置20のトグル式型締機構21(リンク駆動機構21と称することもある)を作動させて、トグル機構を延伸させながら可動盤12を固定盤11方向に移動させ金型装置10を所定の状態に型締めする。
【0045】
また、前記第1の工程と並行して、射出装置30はシャットオフノズル31を閉じた状態として、図1(A)に示したようにスクリュ1を回転(本実施形態においてはスクリュ前方からみて時計回り方向の回転)させる。
本実施形態によるスクリュ1は、前述したように、逆止リング5のヘッド部2A側の端面に、スクリュ長手方向に対して所定の角度を持って傾けられた突起部Aが2箇所形成されており、さらに、スクリュヘッド2のヘッド部2Aには、逆止リング5の突起部Aに対向して突起部Aに係合する溝部2Cが形成されているから、図1(A)のように、スクリュ1を回転させると、突起部5Aが溝部2Cを滑りながら摺動して、その結果、逆止リング5が軸方向のスクリュ前方側に移動する。
【0046】
この状態の時に、逆止リング5は、シールリング3から離間して、ヘッド部2Aの端面側に移動し、前述したような樹脂が流れることのできる隙間が形成される。また、前述したように、スクリュヘッド2の小径部2Bの外周面と、逆止リング5の本体環状部の内周面には樹脂を流すための隙間が形成されており、逆止リング5をヘッド部2Aの端面側に移動させた場合においても、逆止リング5とヘッド部2Aの端面との間には、凸部5Bがあるため、樹脂が流れることのできる隙間が形成されている。
つまり、本願発明によれば、計量開始時において、スクリュ1の回転を利用することにより、逆止リング5を速やかにヘッド部2B側に移動させることにより、スクリュ本体側4からヘッド部2A側に樹脂が流れる樹脂の流路を形成する。従って、樹脂圧力のみにより逆止リング5を移動させる従来の方式に比べて、その動作が素早く、安定している。
また、本実施形態により形成される逆止リング5近傍、言い換えれば逆止リング機構を開くことによって流通する樹脂の流路は非常にシンプルである。従って、樹脂流路の形状が複雑であることにより生じる従来技術の問題点の樹脂の滞留による樹脂替不良を、効果的に抑制できる。
【0047】
そして、前述の計量開始から計量工程がスタートし、計量工程中、スクリュ1が回転することにより原料ホッパから供給された樹脂はスクリュ本体4で、加熱・圧縮・混練作用などを受けながらスクリュ1前方に送られていき、前述した逆止リング5近傍の樹脂流路を通過して、所望の量が計量される。
【0048】
計量が完了した後、スクリュ1の位置を保持した状態で、スクリュ1を計量時の回転方向とは逆の方向に回転に回転させると、図1(B)のように、突起部5Aが溝部2Cを滑りながら摺動して、逆止リング5がスクリュ後方側に移動することによって、逆止リング5の端面がシールリング3に当接する。逆止リング5がシールリング3に当接することにより、樹脂が流れることのできる流路を遮断する。そして、樹脂の流路が遮断された後、スクリュ1の回転を止める。
【0049】
次に、前述の工程により樹脂の流路が遮断された状態で、射出工程に入る。
射出工程では、シャットオフバルブ31Bを開いた後、射出装置30を作動させて、樹脂を金型10内に射出充填する。
【0050】
なお、本実施形態においては、射出開始時に、ヘッド部2A側からスクリュ本体4側に樹脂が流れる樹脂の流路が遮断されている。従って、射出の際の樹脂圧力により逆止リング5を移動させる従来の方式に比べて、その動作が素早く、安定しており、樹脂がヘッド部2A側からスクリュ本体4側に逆流することはない。
【0051】
金型10内に樹脂を充填完了した後、所定時間保持して金型10内の樹脂を冷却する。
そして、冷却完了後に、型締装置20のトグル式型締機構21を作動させて、トグル機構を屈曲させながら可動盤12を固定盤11から離間させて金型10を、所定の状態まで型開きした後、製品を取り出す。
【0052】
なお、本発明において、成形できる樹脂は一般的に射出成形に使用される樹脂であれば特に限定されない。一般的に射出成形に使用される樹脂としては、例えば、熱可塑性樹脂材料として、ポリプロピレン、ポリエチレン等のオレフィン系樹脂、ポリスチレン、ポリメチルアクリレート等のアクリル系樹脂、6−ナイロン等のポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ABS樹脂、ポリカーボネイト樹脂、サーモプラスティツクエラストマ等が挙げられる。
【0053】
また、スクリュ1の回転を利用する本発明であれば、逆止リング5による樹脂流路の遮断又流通を所望のタイミングで自在に行える。従って、成形時に発泡ガスの漏れが問題となる発泡成形等において、特に本発明は適している。
本発明は、計量完了後に素早く逆止リング5を閉じることによって、スクリュ本体4からヘッド部2Aに抜け出す発泡ガス、又、ヘッド部2Aからスクリュ本体4に逆流する発泡ガスの流れを効果的に防止することが可能であり、発泡剤を含んだ樹脂を射出して発泡成形する場合に特に好ましい。
【0054】
なお、その際に使用される発泡剤としては、特に限定されるものではなく、化学発泡剤や物理発泡剤が使用できる。化学発泡剤では、重炭酸ソーダに代表される無機発泡剤やアゾジカルボンアミド(ADCA)に代表される有機発泡剤が挙げられる。物理発泡剤では、二酸化炭素、窒素、二酸化炭素と窒素との混合ガス等の不活性ガスや空気等が挙げられる。これらの発泡剤は単独で使用しても、混合して使用しても良い。
【0055】
以上説明したように、本実施形態においては、逆止リング5の構造が、計量時の溶融樹脂の流動を阻害しないので計量時の品質安定化を得られると同時に、射出時において計量後の樹脂のシール性が高く、一旦、スクリュ1前方に送った樹脂がスクリュ本体4側に逆流しないので、製品重量の安定化が達成できる。
また、本実施形態においては、逆止リング5により形成する樹脂流路が、シンプルでスムーズな構造であるため、樹脂滞留が少なく樹脂替えが容易である。さらに、本実施形態の発明であれば、一般的に使用されている逆止リング機構を大きく変更する必要なく、スクリュヘッドと逆止リングを改造するだけでよいので、汎用性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の実施形態に係り射出成形機用スクリュの構造を概念的に説明するための説明図でありって(A)は計量時を示し、(B)は射出前を示す。
【図2】本発明の実施形態に係り射出成形機用スクリュを備えた射出装置の構成を説明する全体図である。
【図3】本発明の実施形態に係り、突起部とスクリュ軸がなす角度θを説明する図である。
【符号の説明】
【0057】
1 スクリュ
2 スクリュヘッド
2A ヘッド部
2B 小径部
2C 溝部
3 シールリング
4 スクリュ本体
5 逆止リング
5A 突起部
5B 凸部
10 金型
11 固定盤
12 可動盤
13 固定型
14 可動型
100 射出成形装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
略円錐形状のヘッド部と略円柱状の小径部とからなり該小径部がスクリュ本体のシールリング部側に取り付けられたスクリュヘッドと、
該小径部に摺動自在に嵌めあわされてヘッド部からシールリング部までスクリュ軸方向に移動できる逆止リングとを備えて、
該逆止リングの内周面と該小径部の外周面との間に樹脂が流れることのできる隙間を形成して樹脂の流路とし、該逆止リングをシールリング部に当接又離間させることによって、該樹脂の流路を遮断又は流通させる樹脂の射出成形機用スクリュにおいて、
該逆止リングのヘッド部側の端面に、スクリュ軸方向に対して所定の角度を持って傾けられた突起部を形成するとともに、
該突起部に係合して該突起部がスクリュ軸を中心に回転することにより摺動し軸方向に移動する溝を該ヘッド部に形成することによって、
該スクリュを計量時の回転方向に回転させると該逆止リングがシールリングから離間する方向に移動し、
該スクリュを該回転方向と逆の方向に回転させると該逆止リングがシールリングに当接する方向に移動することを特徴とした射出成機用スクリュ。
【請求項2】
請求項1に記載の射出成形用スクリュを備えた射出成形装置。
【請求項3】
請求項1に記載の射出成形用スクリュを備えた射出成形装置を用いる射出成形方法であって、スクリュを回転させて所望の量の樹脂を計量した後に、スクリュ位置を保持したままスクリュを逆回転させることによって逆止リングとシールリング部を当接させてから、射出動作によって樹脂を射出することを特徴とする射出成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−254359(P2008−254359A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−100323(P2007−100323)
【出願日】平成19年4月6日(2007.4.6)
【出願人】(300041192)宇部興産機械株式会社 (268)
【Fターム(参考)】