説明

射出装置、射出成形機、及び、射出制御方法

【課題】計量後における計量サーボモータの回転トルクを低減することで不要な電力消費を防止し、機構系の負担を軽減すること。
【解決手段】金型30を開閉する型締装置20と、金型30内に材料を射出する射出装置40とを備え、射出装置40は、金型30内に材料を射出することができるスクリュ54と、スクリュ54を回転駆動するとともに最大限界回転トルクが可変である計量サーボモータ61と、計量サーボモータ61の最大限界回転トルクを、スクリュ54により材料を計量した後、スクリュ54を金型30方向に移動させて射出する前にゼロにする又はゼロに収束させる制御部70とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動式射出成形機の計量サーボモータを用いた射出装置、射出成形機、及び、射出制御方法に関し、特に計量サーボモータの発熱を低減する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
電動式射出成形機は、金型、これを締める型締装置、金型内に材料を射出する射出装置を有している。このような射出成形機は各種のものが知られている(例えば、特許文献1,2参照)。射出装置では、材料をシリンダ内に取り込む計量動作、シリンダ内の材料を金型内に射出する射出動作が繰り返される。詳しく説明すると、シリンダに取り付けられたホッパからペレット状の樹脂(材料)をスクリュを回転して計量・溶融しながらシリンダ内に導入し、計量が完了した時点で停止する。スクリュを回転駆動するのは計量サーボモータを用いる。次に、射出サーボモータを作動させ、スクリュ全体を金型方向に移動して、シリンダ内の溶融した樹脂を金型内に射出する。
【0003】
図4は、このような射出成形機における計量モータトルクTm、計量モータトルクリミットTmax、スクリュ速度Vsの相互関係を示すグラフである。なお、あらかじめ計量モータトルクリミットTmaxは、計量時よりも射出時が大きく、いずれも一定に設定されている。また、計量開始を時刻t0、計量完了を時刻t1とする。
【0004】
時刻t0において計量が開始されると、計量モータトルクTmとスクリュ速度Vsは上昇し、計量完了が近づくと、スクリュ速度Vsは0に近づき、時刻t1で0となる。一方、計量モータトルクTmは時刻t1で小さくなるものの後述する抵抗トルク成分により0とはならない(図4中Px)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−247874号公報
【特許文献2】特開2008−195025号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した電動式射出成形機では、次のような問題があった。すなわち、計量が完了した時点で計量サーボモータを停止させるが、計量サーボモータを停止しても、シリンダ内に収容された樹脂の圧力によりスクリュを介して計量サーボモータに回転力(抵抗トルク成分)が与えられる。このため、計量サーボモータを停止している際にも、計量サーボモータにはスクリュの回転を停止させるためのトルクPxを付加する必要があり、計量サーボモータが発熱する。この付加トルクPxは射出工程の間にも維持されているため、不要な電力を消費したり、機構系に負担がかかり装置寿命が短くなるという問題があった。
【0007】
そこで本発明は、計量後における計量サーボモータの回転トルクを低減することで不要な電力消費を防止し、機構系の負担を軽減することができる射出装置、射出成形機、及び、射出制御方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決し目的を達成するために、本発明の射出装置、射出成形機、及び、射出制御方法は次のように構成されている。
【0009】
金型内に材料を射出する射出装置において、前記金型内に前記材料を射出することができるスクリュと、前記スクリュを回転駆動するとともに最大限界回転トルクが可変である回転駆動手段と、前記スクリュにより材料を計量した後、前記スクリュを前記金型方向に移動させて射出する前に、前記回転駆動手段の最大限界回転トルクを予め設定された関数に基づいて徐々に下げてゼロにする又はゼロに収束させる制御手段とを備えていることを特徴とする。
【0010】
金型と、この金型を開閉する型締装置と、前記金型内に材料を射出する射出装置とを備え、前記射出装置は、前記金型内に前記材料を射出することができるスクリュと、前記スクリュを回転駆動するとともに最大限界回転トルクが可変である回転駆動手段と、前記回転駆動手段の最大限界回転トルクを、前記スクリュにより材料を計量した後、前記スクリュを前記金型方向に移動させて射出する前にゼロにする又はゼロに収束させる制御手段とを備えていることを特徴とする。
【0011】
金型内に材料を射出する射出制御方法において、スクリュを回転駆動手段により回転駆動しながら前記材料を計量しながら導入し、前記材料を貯める計量工程と、前記スクリュを前記金型方向に移動させて前記材料を前記金型内に射出する射出工程と、前記計量工程後、前記射出工程前に、前記回転駆動手段の最大限界回転トルクを予め設定された関数に基づいて徐々に下げてゼロにする又はゼロに収束させる制御工程とを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、計量後における計量サーボモータの回転トルクを低減することで不要な電力消費を防止し、機構系の負担を軽減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施の形態に係る射出成形機を示す説明図。
【図2】同射出成形機における計量モータトルク、計量モータトルクリミット、スクリュ速度の相互関係の一例を示すグラフ。
【図3】同射出成形機における計量モータトルク、計量モータトルクリミット、スクリュ速度の相互関係の一例を示すグラフ。
【図4】従来の射出成形機における計量モータトルク、計量モータトルクリミット、スクリュ速度の相互関係の一例を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、本発明の一実施の形態に係る射出成形機10を示す説明図、図2,3はそれぞれ射出成形機10における計量モータトルク、計量モータトルクリミット、スクリュ速度の相互関係の一例を示すグラフである。
【0015】
射出成形機10は、型締装置20と、この型締装置20に設置された金型30と、金型30内に材料を射出する射出装置40とを備えている。
【0016】
射出装置40は、材料を収容するシリンダ部50と、後述するスクリュ54を動作させる駆動部60と、駆動部60を制御する制御部70とを備えている。シリンダ部50は、ヒータ付のシリンダ51と、このシリンダ51の先端に取り付けられたノズル52と、シリンダ51の側面に取り付けられ、ペレット状の樹脂を投入するホッパ(供給口)53と、シリンダ51内部に配置されたスクリュ54とを備えている。シリンダ51の軸芯とスクリュ54の回転軸とは一致している。
【0017】
駆動部60は、計量サーボモータ(回転駆動手段/回転駆動モータ)61と、この計量サーボモータ61の回転力をスクリュ54へ伝達する伝達機構62と、スクリュ54全体を往復動させる射出サーボモータ(軸方向駆動手段/軸方向駆動モータ)63と、スクリュ54の後端に取り付けられボールネジ/ナット等の回転運動を直線運動に変換する変換機構64と、射出サーボモータ63の回転力を変換機構64に伝達する伝達機構65と、変換機構64に設けられたロードセル等の圧力センサ(回転力検出手段)66とを備えている。計量サーボモータ61はトルク制限手段が設けられており、制御部70からの信号により、出力トルクの計量モータトルクリミット(最大限界回転トルク値)Tmaxを変更することができる。したがって、計量サーボモータ61は、設定された最大限界回転トルクに応じて出力できる回転トルクが制限されることとなる。
【0018】
制御部70には、計量サーボモータ61及び射出サーボモータ63からスクリュ54の回転速度・位置・移動速度(射出速度)の信号が入力され、圧力センサ66から圧力信号が入力されている。また、計量サーボモータ61及び射出サーボモータ63へ駆動信号を出力し、スクリュ54の回転速度・位置等を制御している。
【0019】
なお、制御部70では、計量後、射出前の時間において計量サーボモータ61の計量モータトルクリミットTmaxを0とする制御を行う。
【0020】
このように構成された射出成形機10では、次のようにして射出成形を行う。なお、図2は計量モータトルクTm、計量モータトルクリミットTmax、スクリュ速度Vsの相互関係を示している。なお、あらかじめ計量モータトルクリミットTmaxは、計量時よりも射出時が大きく、いずれも一定に設定されている。また、計量後、射出前の区間Qにおいて計量モータトルクリミットTmaxが所定の関数にしたがって0まで低下するように設定されている。また、計量開始を時刻t0、計量完了を時刻t1とする。
【0021】
すなわち、射出サーボモータ63を動作させ、シリンダ51内のスクリュ54を後退(図1中右方側へ移動)させる。次に、計量サーボモータ61を動作させ、ホッパ53からシリンダ51内にペレット状の樹脂(材料)を導入し、溶融しながらシリンダ51のノズル52側に貯めてゆく。そして、射出に必要な量が計量された時点でスクリュ54の回転を停止する。すなわち、時刻t0において計量が開始されると、計量モータトルクTmとスクリュ速度Vsは上昇し、計量完了が近づくと、スクリュ速度Vsは0に近づき、時刻t1で0となる。
【0022】
一方、貯留された樹脂は加圧されており、その圧力でスクリュ54を押圧し、この押圧力がスクリュ54に回転力である抵抗トルク成分を与える。この抵抗トルク成分が伝達機構62を介して計量サーボモータ61に伝達される。このため、計量モータトルクTmは時刻t1で小さくなるものの上記の抵抗トルク成分により0とはならない。ここで、時刻t1を経過すると、上述した設定により計量モータトルクリミットTmaxが所定の関数にしたがって0まで低下する。すなわち、計量サーボモータ61がスクリュ54に加える回転トルクを0にし、スクリュ54が自由に回転するようになる。したがって、スクリュ54は抵抗トルク成分によって回転させられ、抵抗トルク成分が0となった時点で、スクリュ54の回転は停止する。
【0023】
時刻t2になると、計量モータトルクリミットTmaxを最大値や、射出時に用いる計量トルクリミットの値等に戻すことで、位置のフィードバック制御がなされることになるので、スクリュ54そのときの回転位置が保持される。そして、射出サーボモータ63を作動させ、スクリュ54全体を金型30方向に移動して、シリンダ51内の溶融した樹脂を金型30内に射出する。
【0024】
なお、所定の関数については、例えば1次関数または指数関数とする。また、関数の算出基準値として、例えば、図2に示すように計量時(計量工程時)(時刻t0〜t1)の計量サーボモータ61の計量モータトルクリミットTmaxを用いる。また、図3に示すように、計量終了時(計量完了時)(時刻t1)の際の計量サーボモータ61の回転トルクを用いてもよい。さらに、計量サーボモータ61が有する最大発生回転トルクを用いてもよい。さらにまた、射出時(射出工程時)の計量サーボモータ61の計量モータトルクリミットTmaxを用いてもよい。
【0025】
なお、計量モータトルクリミットTmaxを下げる前に、射出サーボモータ63によりスクリュ54を金型30と反対方向に移動させて、圧抜き動作を行ってもよい。
【0026】
なお、上述では、計量後、射出前の時間において計量サーボモータ61の計量モータトルクリミットTmaxを所定の関数にしたがって0まで低下するようにしたが、本発明はこれに限るものではない。例えば、計量後、射出前の時間において、計量サーボモータ61の計量モータトルクリミットTmaxを所定の関数にしたがって0に収束するように低下させるなど、計量サーボモータ61の計量モータトルクリミットTmaxが計量後従来よりも十分小さい値に低下させることができれば必ずしも0でなくてもよい。
【0027】
また、所定の関数については、上述では1次関数又は指数関数を例としたが、本発明はこれに限るものではない。例えば、2次関数を用いた場合や、高次関数を用いた場合や、対数関数を用いた場合や、反比例関数を用いた場合や、三角関数を用いた場合や、各々の関数を2つ以上組み合わせて用いた場合など、時刻t1における計量モータトルクリミットTmaxを0にするまたは0に収束させるような十分小さい値まで下げていくことができる関数であれば、どのような関数であってもよい。
【0028】
また、材料については、上述では樹脂を挙げているが、本発明はこれに限るものではない。例えば、ガラスや、金属や、炭素繊維を含む炭素化合物や、樹脂を含めたこれらの複合材料等、成形材料として用いることができる材料であれば、特に規定されない。
【0029】
このように射出成形機10によれば、計量完了後にスクリュ54を回転させる計量サーボモータ61の計量モータトルクリミットTmaxを下げることで、スクリュ54を回転させる計量サーボモータ61の平均トルクを下げることができる。したがって、計量サーボモータ61の発熱の低減が可能となり、成形運転における消費電力を抑え、省エネルギ化が可能となる。また、粘度の高い材料を用いた場合には、粘度の低い材料よりも材料による抵抗が大きいため、よりトルクが使用されていたが、このトルクを抑制できるため、粘度の低い材料を用いる場合よりも効果的に計量サーボモータ61の発熱の低減、及び成形中の消費エネルギの抑制、成形動作における省エネルギ化を図ることができる。また、成形サイクル中にスクリュ54を回転させる計量サーボモータ61へかかる負荷が減少するため、スクリュ54を回転させるサーボモータの耐久性の向上(長寿命化)が図れる。また、計量モータトルクリミットTmaxを徐々に下げているので、伝達機構62に用いられるタイミングペルトにかかる負荷(タイミングべルトのテンションの張り具合)を徐々に下げることができるため、タイミングべルトの長寿命化が図れる。これらより、保守費用(メンテナンスコスト)の抑制を図ることができる。
【0030】
なお、本発明は前記実施の形態に限定されるものではない。この他、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変形実施可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0031】
計量後における計量サーボモータの回転トルクを低減することで不要な電力消費を防止し、機構系の負担を軽減することができる射出装置、射出成形機、及び、射出制御方法に用いることができる。
【符号の説明】
【0032】
10…射出成形機、20…型締装置、30…金型、40…射出装置、50…シリンダ部、51…シリンダ、52…ノズル、53…ホッパ、54…スクリュ、60…駆動部、61…計量サーボモータ(回転駆動手段/回転駆動モータ)、62…伝達機構、63…射出サーボモータ(軸方向駆動手段)、64…変換機構、65…伝達機構、66…圧力センサ、70…制御部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型内に材料を射出する射出装置において、
前記金型内に前記材料を射出することができるスクリュと、
前記スクリュを回転駆動するとともに最大限界回転トルクが可変である回転駆動手段と、
前記スクリュにより材料を計量した後、前記スクリュを前記金型方向に移動させて射出する前に、前記回転駆動手段の最大限界回転トルクを予め設定された関数に基づいて徐々に下げてゼロにする又はゼロに収束させる制御手段とを備えていることを特徴とする射出装置。
【請求項2】
前記関数は、一次関数または指数関数であることを特徴とする請求項1に記載の射出装置。
【請求項3】
前記関数は、計量時の前記回転駆動手段の最大限界回転トルクを基準にして設定されることを特徴とする請求項1又は2に記載の射出装置。
【請求項4】
前記関数は、計量完了時の前記回転駆動手段の回転トルクを基準にして設定されることを特徴とする請求項1又は2に記載の射出装置。
【請求項5】
前記関数は、射出時の前記回転駆動手段の最大限界回転トルクを基準にして設定されることを特徴とする請求項1又は2に記載の射出装置。
【請求項6】
前記関数は、前記回転駆動手段が有する最大発生回転トルクを基準にして設定されることを特徴とする請求項1又は2に記載の射出装置。
【請求項7】
前記スクリュを前記回転軸方向に沿って往復動させる軸方向駆動手段と、
前記最大駆動回転トルクを下げる前に、前記軸方向駆動手段は、前記スクリュを前記金型と反対方向に移動させることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の射出装置。
【請求項8】
金型と、
この金型を開閉する型締装置と、
前記金型内に材料を射出する射出装置とを備え、
前記射出装置は、前記金型内に前記材料を射出することができるスクリュと、
前記スクリュを回転駆動するとともに最大限界回転トルクが可変である回転駆動手段と、
前記回転駆動手段の最大限界回転トルクを、前記スクリュにより材料を計量した後、前記スクリュを前記金型方向に移動させて射出する前にゼロにする又はゼロに収束させる制御手段とを備えていることを特徴とする射出成形機。
【請求項9】
金型内に材料を射出する射出制御方法において、
スクリュを回転駆動手段により回転駆動しながら前記材料を計量しながら導入し、前記材料を貯める計量工程と、
前記スクリュを前記金型方向に移動させて前記材料を前記金型内に射出する射出工程と、
前記計量工程後、前記射出工程前に、前記回転駆動手段の最大限界回転トルクを予め設定された関数に基づいて徐々に下げてゼロにする又はゼロに収束させる制御工程とを備えていることを特徴とする射出制御方法。
【請求項10】
前記関数は、一次関数または指数関数であることを特徴とする請求項9に記載の射出制御方法。
【請求項11】
前記関数は、計量時の前記回転駆動手段の最大限界回転トルクを基準にして設定されることを特徴とする請求項9又は10に記載の射出制御方法。
【請求項12】
前記関数は、計量完了時の前記回転駆動手段の回転トルクを基準にして設定されることを特徴とする請求項9又は10に記載の射出制御方法。
【請求項13】
前記関数は、射出時の前記回転駆動手段の最大限界回転トルクを基準にして設定されることを特徴とする請求項9又は10に記載の射出制御方法。
【請求項14】
前記関数は、前記回転駆動手段が有する最大発生回転トルクを基準にして設定されることを特徴とする請求項9又は10に記載の射出制御方法。
【請求項15】
さらに、前記スクリュを往復動させる軸方向駆動手段により前記最大限界回転トルクを下げる前に、前記スクリュを前記金型と反対方向に移動させることを特徴とする請求項9〜14のいずれか1項に記載の射出制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−254536(P2012−254536A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−127641(P2011−127641)
【出願日】平成23年6月7日(2011.6.7)
【出願人】(000003458)東芝機械株式会社 (843)
【Fターム(参考)】