説明

導波路型光アイソレータ

【課題】 高いアイソレーションと小さな損失を備え、かつ安価で量産に適した、導波路型光アイソレータの構成を提供する。
【解決手段】 基体上に第1のクラッド層とコア部と第2のクラッド層とを有し、このコア部をファラデー回転子とし、そのコア部の途中に、互いの偏光軸が45度なすように第1及び第2の偏光素子が配置された導波路型光アイソレータにおいて、少なくとも前記基体に、第1及び第2の偏光素子をはめ込んで固定する溝を形成し、この溝の底部を基準となる平面に沿った位置決めができる位置決め面として、偏光素子の高精度の角度合わせを可能とすると共に、コア部の一部の断面積を他の部位に比して小さくすることによりモードフィルド径を増大せしめ損失の低減を図る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光通信や光を用いた放送波伝送、及び光による計測等において、光源となるレーザーから出射された光波が、種々の原因で光源に戻ることを防止するために用いる導波路型光アイソレータに関する。
【背景技術】
【0002】
図11に、従来からよく知られた、ファラデー回転子を用いた光アイソレータの構成概略を示す。図中、111はファラデー回転子、112は偏光子、113は検光子、114は永久磁石等の磁界印加手段、115は半導体レーザー等から成る光源、116は光源115から出射された光の伝播方向を示す。
【0003】
従来、ファラデー回転子111の材料としては、例えば特開平7−206593号公報に記載されているように、非磁性ガーネット基板上に液相エピタキシャル法で形成されたビスマス置換希土類鉄ガーネット単結晶が用いられていた。一般的に、ファラデー回転子111に入射する光の偏光方向と、ファラデー回転子を透過した後の光の偏光方向との成す角度、すなわちファラデー回転角は、ファラデー回転子の光伝播方向の厚さに比例する。
【0004】
例えば、光アイソレータの場合、ファラデー回転角は45度であることが必要であり、そのためのビスマス置換希土類鉄ガーネットの厚さは400〜500μmとなる(以下、45度のファラデー回転角を得るための厚さを「伝播長」と記す)。通常、係る伝播長を得るために、液相エピタキシャル法で、ビスマス置換希土類鉄ガーネットを前述した伝播長より厚く形成した後、基板を研磨で除去し、更に、精密研磨により所望のファラデー回転角を得るために必要な膜厚に追い込む、と云う加工方法が採られていた。
【0005】
一方、小型でかつ構造が簡単な光アイソレータとして、例えば、特開平7−3600号公報においては、所謂導波路型の光アイソレータが開示されている。同公報に開示されている導波路型光アイソレータは、所定形状のYIG単結晶膜から成る導波路を形成した後、その光伝搬方向の長さを、偏光面が45度回転するようにチップ状に切断、研磨し、その両端の研磨面に偏光子を貼り付ける、と云う方法で製造されていた。当該構成の導波路型光アイソレータにおいては、YIG単結晶膜から成る導波路が、ファラデー回転子としての機能を担っている。
【特許文献1】特開平7−206593号公報
【特許文献2】特開平7−36000号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
光アイソレータの、半導体レーザー等の光源への戻り光遮断能(以下、「アイソレーション」と記す)は、ファラデー回転子の特性もさることながら、偏光子112と検光子113の消光軸の角度調整の精度に大きく依存する。ここに消光軸とは、偏光子、検光子において、直線偏光波を入射した場合に、その透過率が極小となる直線偏光の方向を云う。すなわち、光アイソレータにおいては、ファラデー回転子のファラデー回転角を45度に設定し、かつ偏光子112と検光子113の消光軸が、互いに45度の角度をなすように設定した場合に、最大のアイソレーションが得られる。例えば、ファラデー回転子のファラデー回転角が45度の場合、偏光子と検光子の消光軸の合わせ角度が絶対値で1度ずれた場合、偏光子、検光子の性能にも依存するが、光アイソレータのアイソレーションの劣化量は、10〜15dB程度となることが見積もられる。
【0007】
従って、高いアイソレーションを実現するためには、偏光子112と検光子113との成す角度を、可能な限り正確に45度に合わせることが重要となり、斯かる事情は導波路型光アイソレータにおいても同様である。
【0008】
このため、上述の従来の光アイソレータにおいて高いアイソレーションを得るためには、この角度合わせ調整を、検光子側から試験光を入射させて偏光子を透過する光の強度が最小になる角度に偏光子の設置角度を調整する等の極めて煩雑な調整が必要であった。それゆえ、この点が技術上の障害の1つになって、高いアイソレーションを有する光アイソレータを、歩留まりよく安価に大量に製造することを困難にしていた。
【0009】
発明者等の導波路型光アイソレータの開発に関する系統的な検討の結果、例えば、図3に示したような構成とすることで偏光子と検光子の消光軸を高精度で合わせることが可能であることが見いだされた。図3は、発明者等が新たに発明した導波路型光アイソレータの構成概略図で、図中31は基板、32は下部クラッド層、33はファラデー効果を有する磁性体ガーネットから成るコア部、34は上部クラッド層、35は偏光子、36は検光子、37は光源(図示せず)から出射された光の伝搬方向を示す矢印、38は当該導波路型光アイソレータから出射した光の伝搬方向を示す矢印である。
【0010】
本構成における導波路型光アイソレータにおいては、偏光子35、検光子36共に、コア部に形成された溝に挿入された形態となっており、溝部底面が基準面となっているため、高精度の軸合わせが可能となる。
【0011】
ところが、同構成の導波路型光アイソレータにおいては、良好な消光比が実現されるもののアイソレータの損失が大きいと云う問題点があることが、新たに見いだされた。
【0012】
本発明の目的は、高いアイソレーションと小さな損失を備え、かつ安価で量産に適した、導波路型光アイソレータの構成を提供することにある。
【0013】
なお、光伝搬方向とは、光源から出射された光が導波路型光アイソレータの設けられた導波路内を伝搬する方向を意味し、導波路型光アイソレータの出射端とは、光源から出射された光が導波路型光アイソレータに設けられた導波路内を伝搬し、伝搬した光が該導波路から出射される端部、例えば図3においては、矢印38側に位置する端部を意味する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記解決すべき課題に対して、本発明により提供される第1の手段は、
基体上に第1のクラッド層、該第1のクラッド層上に設けられたファラデー効果を有するガーネット磁性体から成るコア部、該コア部を覆う第2のクラッド層を有する導波路型光アイソレータであって、該コア部の光伝搬方向に位置する端部以外の該コア部に、光源側から第1の偏光素子、及び該第1の偏光素子から所望の間隔を隔てて第2の偏光素子が設けられ、少なくとも該第2の偏光素子がコア部の光伝搬方向と略直交するように該コア部に挿入された偏光板であり、かつ該第2の偏光素子の光出射端側に位置するコア部が、該コア部の光伝搬方向に直交する方向の断面積が、光出射端側に向けて増大する部分を具備することを特徴とする導波路型光アイソレータである。
【0015】
また、本発明により提供される第2の手段は、
基体上に第1のクラッド層、該第1のクラッド層上に設けられたファラデー効果を有するガーネット磁性体から成るコア部、該コア部を覆う第2のクラッド層を有する導波路型光アイソレータにおいて、該コア部の光伝搬方向と略直交するように、光源側から第1の偏光板、及び該第1の偏光板から所望の間隔を隔てて第2の偏光板が挿入され、かつ該第1、及び第2の偏光板の光出射端側に位置するコア部が、共に、該コア部の光伝搬方向に直交する方向の断面積が、光出射端側に向けて増大する部分を具備することを特徴とする導波路型光アイソレータである。
【0016】
また、本発明により提供される第3の手段は、
前記導波路型光アイソレータにおいて、該偏光板が、ガラス体に針状金属微粒子の長手方向を一方向に優先的に配向分散させて成る偏光ガラスであることを特徴とする手段である。
【0017】
また、本発明により提供される第4の手段は、
前記導波路型光アイソレータにおいて、該コア部が単結晶の磁気光学効果を有する磁性ガーネットであることを特徴とする手段である。
【0018】
更に、本発明により提供される第5の手段は、
前記導波路型光アイソレータにおいて、該コア部が多結晶の磁気光学効果を有する磁性ガーネットであることを特徴とする手段である。
【0019】
以下、図3に示した導波路型光アイソレータにおいて、損失が増大する原因、及びその解決手段について、図4a及び図4bを用いて詳細に説明する。
【0020】
図4aは、導波路から出射された光が拡がる様子を模式的に示した図であり、図4bは、図3において、検光子36近傍における光の伝搬の様子を模式的に示す概略側断面図である。図4a中、41は基板、42は下部クラッド層、43はコア部、44は上部クラッド層、44は模式的に示した光の拡がり、45は導波路の出射端から出射された光が伝搬する方向を示す矢印である。また、図4b中、331は光源(図示せず)側に位置するコア部、332は出射端側に位置するコア部、47、48は各々コア部331、332の内部を伝搬する光の伝搬方向を示す矢印、441は模式的に示した検光子36の内部を伝搬する光の拡がり、である。
【0021】
一般的に導波路の出射端から空間に出射された光は、図4aに模式的に示したように拡散する。拡散の程度は、空間の比屈折率を1とすると以下の(1)式で定義される開口数(NA)で表される。
【0022】
【数1】

式1においてncoreはコア部の屈折率θcは、コア部43の屈折率ncore、とクラッド層42及び44の屈折率nclad、によって決定される全反射臨界角で、以下の(2)式で与えられる。
【0023】
【数2】

すなわち、空間に出射された光の拡散の程度は、NAの増加と共に増大し、かつ式(1)からNAはコア部の屈折率に比例することから、コア部43の屈折率の増加と共に、出射された光の拡散の度合いは増大する。また、一般的な石英ガラスを用いた導波路におけるコア部の屈折率、は〜1.5近傍であるのに対し、磁性ガーネットから成るコア部の場合には、その屈折率は〜2.2程度となるため出射された光の拡散の度合いは、石英ガラスを用いた導波路の場合に比べて増大する。
【0024】
また、図4bに示したように、導波路の途中を切断し、偏光ガラス等から成る検光子36を挿入した場合の光の伝搬についても同様の状態であり、コア部331内を伝搬する光47は、検光子36内を伝搬する際に拡がり441に模式的に示したように拡がることとなる。従って、コア部332とコア部331の断面形状が同一である場合には、コア部332内を伝搬する光のエネルギーは、検光子36内におけるビーム拡がり幅とコア部332の光伝搬方向に直交する面の断面積(以下、係る断面積を単に「コア部の断面積」と記す)との比率に応じて減少することとなり、結果として光アイソレータの損失が増大することとなる。
【0025】
係る損失を低減する方法として、受け側であるコア部332の断面積を増大せしめる方法が考えられる。しかし、同方法をとる場合には、コア部内を伝搬する光のシングルモード条件が満足されなくなることから適当ではない。
【0026】
すなわち、本発明は、導波路を伝搬する光のモードフィルド径(伝搬する光のエネルギーが全伝搬エネルギーに対して1/e2になる径)が、導波路を構成するコア部の光伝搬方向に直交する面の形状(以下、係るコア部の形状を単に「コア部形状」と記す。)に大きく依存することに着目し、その効果を利用することにより完成されたものである。
【0027】
以下、本発明における光アイソレータの損失低減手段について説明する。
【0028】
図5及び図6に導波路内を伝搬する光の電界強度分布及びパワー分布の計算結果の一例を示す。計算に用いたコア部の屈折率は2.20、クラッド層の屈折率は2.19である。また、コア部の断面形状は正方形である。図5は、コア部の中心を原点として、中心からの距離と電界強度との関係を示した図である。同図において、規格化電界強度とは、コア部の中心における電界強度で規格化した電界強度を意味し、中心からの距離とは、コア部の正方断面における一辺に平行方向の距離である。
【0029】
図6は、コア部の中心を原点として、中心からの距離と積算パワーとの関係を示した図である。同図において、伝送パワーの規格化積算値とは、全伝送パワーで規格化したパワーの積算値を意味する。また、中心からの距離については前述したとおりである。
【0030】
図中、51、61はコア部の形状が5μm角の正方形状の場合、52、62はコア部の形状が0.8μm角の正方形状の場合についての計算結果である。
【0031】
図5に示したように、コア部の形状が0.8μm角の正方形状の場合、同5μmの場合に比べて、電界強度分布はブロードになっていることが理解される。また、これに呼応して、図6に示したように、コア部の形状が5μm角の正方形状の場合、全パワーの〜90%がコア部内で伝搬されるのに対し、同0.8μm角の正方形状の場合には、その量は全パワーの〜20%に過ぎず、大半の伝搬パワーはクラッド層、すなわち、エバネッセント成分として伝搬されていることが判る。換言すると、コア部の形状が0.8μm角の正方形状の場合のモードフィルド径は、同5μmの場合のモードフィルド径に比べて大きいことが理解される。
【0032】
図7に正方形状コア部の一辺の長さとモードフィルド径との関係について計算した結果を示す。ここでモードフィルド径とは、例えば、図6に示した計算結果において、伝搬パワーの規格化積算値が〜0.86(厳密には、1−1/e2)となる距離の2倍の値である。同図に示したように、四角形状コア部の一辺の長さが1μm以下になると、モードフィルド径が急激に増大することが判る。
【0033】
本発明は、係るモードフィルド径の増大効果を利用して、前述した光アイソレータの損失を改善せんとするものである。
【発明の効果】
【0034】
本発明により、高いアイソレーションと小さな損失を備え、かつ安価で量産に適した、導波路型光アイソレータの構成を提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
図1に本発明により成る導波路型光アイソレータの第1の実施形態を示す。
【0036】
図中、1は基板、2は下部クラッド層、3は出射端側に位置するファラデー効果を有する磁性体ガーネットから成るコア部、4は上部クラッド層、6は光源(図示せず)側に位置するファラデー効果を有する磁性ガーネットから成るコア部、5はコア部6の上に形成された金属膜、7は偏光板から成る検光子、8はコア部3においてその断面積が変化する部分、9、10は各々コア部5及びコア部3内を伝播する光の伝搬方向を示すブロック矢印である。
【0037】
以下、本実施形態の光アイソレータの動作原理について説明する。
【0038】
コア部6の上に設けられた金属膜5は、所謂金属クラッディングとして設けられたものであり、当該金属膜の設けられたコア部分は、TE−TMフィルタとして機能する。
【0039】
光源(図示せず)から出射され、当該導波路型光アイソレータに入射した光は、TE波成分(偏光面が基板表面と平行である成分)とTM波成分(偏光面が基板表面と直交である成分)の両者を含んだ光であるが、TE−TMフィルタを通過することによりTM波成分は除かれる。TE−TMフィルタを通過したTE波の偏光面は、コア部6内を伝搬する際にファラデー効果により回転し、検光子7に到達する直前には、その偏光面は基板表面に対して45度の角度を成す。検光子の透過軸(消光軸と直交する軸)は、基板表面に対して45度の角度を成すように配置されているので、当該偏光波は損失を受けずに検光子7を通過する。検光子7を通過する際、前述したように光は拡散し、そのビーム径は拡がることになる。しかし、コア部8の断面積(コア部の一辺の長さに相当)は他の部分に比して小さいため、前述したように、当該部分のモードフィルド径は他の部分よりも大きく、拡散した光の大部分をコア部8で受けることができる。その結果、コア部5を伝搬する光を、損失を伴わずしてコア部3に導くことが可能となる。
【0040】
逆に光アイソレータに戻る光については、その偏光方向がランダムに分布しているが、当該戻り光が検光子7(この場合には、当該検光子は、偏光子として機能することから、厳密には“偏光子”と記すべきであるが、混同を生じるおそれがあるので、“検光子”と記載する。)を透過することによって、基板面に対して電界振動方向が45度の角度を成す成分が、コア部6に取り込まれることになる。コア部6に取り込まれた光は、その内部を伝搬することにより、ファラデー回転の非相反性により、TE−TMフィルタの直前においては、その偏光方向は基板表面に垂直方向、すなわちTM波となる。当該TM波は、TE−TMフィルタを透過する際に減衰するため、結果として戻り光が光源に到達することが妨げられることとなる。
【0041】
図2に、本発明により成る導波路型光アイソレータの第2の実施形態を示す。
図中、21は検光子35と偏光子36とに夾持されたコア部、22は検光子36の出射端側に位置するコア部である。すなわち、同図に示した実施形態は、図3に示した導波路型光アイソレータにおいて、偏光子35と検光子36に夾持されたコア部21と、検光子36の出射端側に位置するコア部22の両者において、光源(図示せず)側の端部近傍におけるコア部の断面積を他の部分に比して小さくしたものである。
【0042】
本実施形態においては、第1の実施形態で用いられているTE−TMフィルタの代わりに、偏光ガラス等からなる偏光板が偏光子35として用いられ、かつ偏光子35と検光子36との透過軸は互いに45度の角度を成すように配置される。本実施形態の光アイソレータの動作原理は、第1の実施形態とほぼ同様である。
【0043】
図8−1〜図8−6に、本発明により成るコア部の先端の形状(図1あるいは図2におけるコア部8の形状)の主たる態様を概略的に記す。同図において、(a)はコア部8の光伝搬方向からみた概略正面図、(b)は上部クラッド層側からみたコア部8の概略上面図、(c)はコア部8の概略側面図である。
【0044】
図8−1に示した態様は、コア部8の先端が四角錐台形状となっている場合であり、四角錐台の頂点は、コア部の中心線とほぼ一致する態様である。
【0045】
図8−2に示した態様は、コア部8の先端部に、他に比して断面積が小さな矩形の凸部を設けた態様で、当該矩形の凸部の中心線は、コア部の中心線とほぼ一致する態様である。
【0046】
図8−3に示した態様は、コア部の一方向、すなわち基板面に対して平行方向の幅のみが、その先端に向けて減少している態様である。
【0047】
図8−4に示した態様は、コア部の基板法線方向の幅(換言する膜厚)が、その先端に向けて減少している態様である。
【0048】
図8−5に示した態様は、図8−1に示した態様において四角錐台の頂点が、コア部の中心位置からずれてその底面(下部クラッド層と接する面)にある場合である。
【0049】
図8−6に示した態様は、図8−2に示した態様において、矩形の突部の一側面がコア部の底面と略同一の面にある場合である。
【0050】
図8−1〜図8−6に示した態様の内、図8−1と図8−2に示した態様がモードフィルドの中心とコア部の中心とが一致する点で最良の態様であると云える。しかし、他の態様の場合でにおいても、モードフィルドの拡大効果は期待されるため、本発明により成る導波路型光アイソレータの損失低減には有効である。
【0051】
なお、本発明により成る導波路型光アイソレータにおけるコア部8の形状として、図8−1〜図8−6に示した態様に限定されず、要はその断面積が他の部分に比して小さくなっている限りにおいて、他のバリーエーシヨンも採りうるものであることは、改めて言及するまでもない。
【0052】
以下、本発明について、実施例を用いて、更に詳細に説明する。
【実施例1】
【0053】
本発明の第1の実施例について、図9(図9a〜図9e)を用いて説明する。図9は、本発明より成る導波路型光アイソレータの製造工程を示す流れ図である。図中、91は3インチφの(111)面 (CaGd)(MgZrGa)12単結晶基板、92はTb2.3Bi0.7Fe4.6Ga0.412単結晶から成る下部クラッド層、93はTb2.3Bi0.7Fe4.7Ga0.312単結晶膜から成るコア層、931はコア層93をパターニングして得られた第1のコア部、932は同第2のコア部、933は同第3のコア部、94はTb2.3Bi0.7Fe4.6Ga0.412から成る上部クラッド層、95は偏光板挿入溝、96、97は偏光ガラスで、両者の消光軸は互いに45度の角度を成す。
【0054】
最初に、通常の液相エピタキシャル成長法により,(CaGd)3(MgZrGa)5O12単結晶基板91の表面にTb2.3Bi0.7Fe4.6Ga0.4O12単結晶から成る下部クラッド層92、及びTb2.3Bi0.7Fe4.7Ga0.3O12単結晶膜から成るコア層93を順次積層した。各々の膜厚は、下部クラッド層92が7μm、コア層が5μmであった。(図9a)
その後、上部コア層を通常のフォトリソ・エッチングプロセスで、第1のコア部931、第2のコア部932、及び第3のコア部を形成した。コア部の幅はいずれも5μmで、第1のコア部931の長さは600μm、第2のコア部932の長さは570μm、第3のコア部933の長さは600μmであった。図10に、第2のコア部932と第3のコア部933の先端形状についてその概略を示す。図中、d1、d2は、各部位の寸法、φはコア部先端の開き角を示す。前述した方法で作成した第2及び第3のコア部のd1は共に〜70μm、またd2は〜1μm、φは〜4度であった。(図9b)
コア部のパターニング後、コア部を覆うように下部クラッド層形成と同様の条件で、液相エピタキシャル成長法により上部クラッド層94として、Tb2.3Bi0.7Fe4.6Ga0.4O12を7μm形成した。(図9c)
上部クラッド層94の形成後、第2コア部を挟むように、幅:35μmで深さ:40μmの偏光板挿入溝95を、高精度ダイサーで形成した。第2コア部を挟む溝の間隔は、第2コア部の長さと同様、570μmである。(図9d)
その後、短辺が10mmの短冊状に切り出した偏光ガラスを第2コア部を挟み偏光子96、検光子97の構成となるように挿入し、光学用接着剤で固定し(図9e)、最後に、短冊を導波路毎に切断し、光学研磨にて導波路端面を露出させ、図2に示した導波路型光アイソレータと略同型の光アイソレータを作成した。
【0055】
作成した導波路型光アイソレータの特性を測定した結果、アイソレーションは〜23dBで損失は〜1dBであった。なお、測定波長は1.55μmであった。
【比較例】
【0056】
比較例として、実施例1と同様の条件で、図3に示した態様の導波路型光アイソレータを作成した。ただし、当該比較例においては、コア部の断面形状は一様であり、一辺が〜5μmの正方形状である。また、偏光子35と検光子36とに夾持されたコア部の長さは、実施例1と同様、〜570μmであった。作成した導波路型光アイソレータの波長:1.55μmにおけるアイソレーションは〜23dBで損失は〜4dBであった。
【実施例2】
【0057】
実施例1と同様の条件で、図1に示した導波路型光アイソレータと略同型の光アイソレータを作成した。ただし、本実施例においては、コアパターン形成(図9b)に先立ち、Cr/Auから成る2層膜(Crがコア層93側)に通常のスパッタリング法を用いて全面に形成し、金属クラッディング5を形成した。各々の膜厚は、Cr:〜0.05μm、Au:〜0.3μmで、光伝搬方向の長さは〜5mmとした。
【0058】
また、コア部8の形状は、実施例1と同様、図10に示した形状である。
なお、本実施例においては、金属クラッディングの端部と検光子7との間隔は〜570μmであった。
【0059】
作成した光アイソレータの波長:1.55μmにおけるアイソレーションは〜18dBで、損失は〜2.5dBであった。
【実施例3】
【0060】
本実施例においては、3インチφの(111)面 (CaGd)(MgZrGa)12単結晶基板の代わりに3インチφのc面 サファイア基板を用いた。サファイア基板上にエアロゾルデポジション法により、下部クラッド層として多結晶のBi0.6Gd2.4Fe12を〜7μm厚に、その上にコア層としてBi0.7Tb2.3Fe12を〜5μm厚に成膜した。ここで用いた原料微粒子の平均粒径は0.8μm、搬送ガスは酸素で、その流量は5リットル/分であった。また、噴射ノズルの開口径は0.6mmφであった。その後、実施例1に示した方法と同様の方法でコア部を形成した。第1,2,3のコア部の形状は、実施例1に示した形状と同様である。その後、上部クラッド層として、下部クラッド層と同様の条件で、〜7μm厚のBi0.6Gd2.4Fe12を形成した後、700℃で1時間の熱処理を施した。
【0061】
その後の作成条件は、実施例1に示した条件と同様である。
【0062】
作成した導波路型光アイソレータの特性を測定した結果、アイソレーションは〜25dBで損失は〜2dBであった。なお、測定波長は1.55μmであった。
【0063】
以上、本発明により成る導波路型光アイソレータについて、実施例を用いて詳細に説明した。しかし、本発明は、実施例に記載した形状、製法に限定されるものではなく、所望の特性に応じて、形状及び製法を適宜選定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、光通信や光を用いた放送波伝送、及び光による計測等において、光源となるレーザーから出射された光波が、種々の原因で光源に戻ることを防止するための光アイソレータとして利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明により成る導波路型光アイソレータの第1の実施形態。
【図2】本発明により成る導波路型光アイソレータの第2の実施形態。
【図3】導波路型光アイソレータに係る構成概略図。
【図4a】導波路から出射された光が拡がる様子を模式的に示した図。
【図4b】図3において、検光子36近傍における光の伝搬の様子を模式的に示す概略側断面図。
【図5】導波路内を伝搬する光の電界強度分布の計算結果。
【図6】導波路内を伝搬する光のパワー分布の計算結果。
【図7】正方形状コア部の一辺の長さとモードフィルド径との関係について計算した結果。
【図8−1】本発明により成るコア部の先端形状の概略図。
【図8−2】本発明により成るコア部の先端形状の概略図。
【図8−3】本発明により成るコア部の先端形状の概略図。
【図8−4】本発明により成るコア部の先端形状の概略図。
【図8−5】本発明により成るコア部の先端形状の概略図。
【図8−6】本発明により成るコア部の先端形状の概略図。
【図9】本発明より成る導波路型光アイソレータの製造工程を示すフロー図。
【図10】第2のコア部932と第3のコア部933の先端形状の概略図。
【図11】従来のバルク型ファラデー回転子を用いた光アイソレータの構成概略図。
【符号の説明】
【0066】
1 基板
2 下部クラッド層
3 出射端側に位置するファラデー効果を有する磁性ガーネットから成るコア部
4 上部クラッド層
5 光源(図示せず)側に位置するファラデー効果を有する磁性ガーネットから成るコア 部
6 コア部6の上に形成された金属膜
7 偏光板から成る検光子
8 コア部3においてその断面積が変化する部分
9、10 各々コア部5及びコア部3内を伝播する光の伝搬方向を示すブロック矢印
21 検光子35と偏光子36とに夾持されたコア部
22 検光子36の出射端側に位置するコア部
31 基板
32 下部クラッド層
33 ファラデー効果を有する磁性ガーネットから成るコア部
34 上部クラッド層
35 偏光子
36 検光子
37 光源(図示せず)から出射された光の伝搬方向を示す矢印
38 当該導波路型光アイソレータから出射した光の伝搬方向を示す矢印
331 光源(図示せず)側に位置するコア部
332 出射端側に位置するコア部
41 基板
42 下部クラッド層
43 コア部
44 上部クラッド層
45 導波路の出射端から出射された光が伝搬する方向を示す矢印
47、48 各々コア部331、332の内部を伝搬する光の伝搬方向を示す矢印
441 模式的に示した検光子36の内部を伝搬する光の拡がり
51、61 コア部の形状が5μm角の正方形状の場合の計算結果
52、62 コア部の形状が0.8μm角の正方形状の場合についての計算結果
91 3インチφの(111)面 (CaGd)3(MgZrGa)5O12単結晶基板
92 Tb2.3Bi0.7Fe4.6Ga0.4O12単結晶から成る下部クラッド層
93 Tb2.3Bi0.7Fe4.7Ga0.3O12単結晶膜から成るコア層
931 第1のコア部
932 第2のコア部
933 第3のコア部
94 Tb2.3Bi0.7Fe4.6Ga0.4O12から成る上部クラッド層
95 偏光板挿入溝
96、97は偏光ガラス
d1、d2は、各部位の寸法
φ コア部先端の開き角
111 ファラデー回転子
112 偏光子
113 検光子
114 永久磁石等の磁界印加手段
115 半導体レーザー等から成る光源
116 光源115から出射された光の伝播方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体上に第1のクラッド層、該第1のクラッド層上に設けられたファラデー効果を有するガーネット磁性体から成るコア部、該コア部を覆う第2のクラッド層を有する導波路型光アイソレータであって、該コア部の光伝搬方向に位置する端部以外の該コア部に、光源側から第1の偏光素子、及び該第1の偏光素子から所望の間隔を隔てて第2の偏光素子が設けられ、少なくとも該第2の偏光素子がコア部の光伝搬方向と略直交するように該コア部に挿入された偏光板であり、かつ該第2の偏光素子の光出射端側に位置するコア部が、該コア部の光伝搬方向に直交する方向の断面積が、光出射端側に向けて増大する部分を具備することを特徴とする導波路型光アイソレータ。
【請求項2】
基体上に第1のクラッド層、該第1のクラッド層上に設けられたファラデー効果を有するガーネット磁性体から成るコア部、該コア部を覆う第2のクラッド層を有する導波路型光アイソレータにおいて、該コア部の光伝搬方向と略直交するように、光源側から第1の偏光板、及び該第1の偏光板から所望の間隔を隔てて第2の偏光板が挿入され、かつ該第1、及び第2の偏光板の光出射端側に位置するコア部が、共に、該コア部の光伝搬方向に直交する方向の断面積が、光出射端側に向けて増大する部分を具備することを特徴とする導波路型光アイソレータ。
【請求項3】
該偏光板が、ガラス体に針状金属微粒子の長手方向を一方向に優先的に配向分散させて成る偏光ガラスであることを特徴とする請求項1若しくは2いずれかに記載の導波路型光アイソレータ。
【請求項4】
該コア部が単結晶の磁気光学効果を有する磁性ガーネットであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の導波路型光アイソレータ。
【請求項5】
該コア部が多結晶の磁気光学効果を有する磁性ガーネットであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の導波路型光アイソレータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4a】
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【図5】
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【図7】
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【図8−1】
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【図8−2】
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【図8−3】
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【図8−4】
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【図8−5】
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【図8−6】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図4b】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−139578(P2008−139578A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−325913(P2006−325913)
【出願日】平成18年12月1日(2006.12.1)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】