説明

導電インク組成物

【課題】 低い加熱処理温度にて、高い導電性と、基材との良好な密着性とを発現する導電インク組成物を実現することである
【解決手段】 金、銀、銅、白金、ニッケル、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、及びオスミウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属微粒子(P)、炭酸イオン部位をもつアニオン性分散剤(D)、及び親水性分散媒(S)を含有することを特徴とする導電インク組成物。アニオン性分散剤(D)は、2−メルカプトエチルカーボネートイオン、2−アミノエチルカーボネートイオン等のアニオン(a)と、共役酸の酸解離定数が10以上である有機系強塩基のカチオン(c)例えば1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセニウム−7からなる塩であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種々の分野で用いられる絶縁性の対象物に、導電性を付与するために使用することができる導電インクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
導電性被膜の製造方法としては、従来より、銀または他の金属を樹脂成分または溶媒で練り込んだ導電ペーストと呼ばれるものを、ディスペンサーまたはスクリーン印刷、インクジェット印刷等で基材に印刷した後、加熱処理する方法が広く用いられている。しかしながら、近年の電子機器の高性能化に伴い、導電ペーストを用いて形成される導電性被膜には、より低い電気抵抗、より低い加熱温度での処理、基材への高い密着性が要求され、その要求は年々厳しさを増している。
【0003】
上記要求に応えるべく、低抵抗・高密着を目指した導電ペーストが種々提案されているが、何れのペーストにおいても200℃以上の温度での熱処理を必要とすることから、描画を行う基板が変形、溶融、劣化等の損傷を受けるため、基板の材料選択が制約を受けてしまう問題があった。
【0004】
また、最近ではナノサイズの金属微粒子を用いることによって、加熱処理温度の低温化、低電気抵抗化を実現した導電インクが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001−35255号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、低い加熱処理温度にて、高い導電性と、基材との良好な密着性とを発現することのできる導電インク組成物を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、金、銀、銅、白金、ニッケル、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、及びオスミウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属微粒子(P)、炭酸イオン部位をもつアニオン性分散剤(D)、及び親水性分散媒(S)を含有することを特徴とする導電インク組成物である。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る導電インク組成物は上述の様な構成からなるので、低温での処理が可能である。よって、適用する基材の種類に制約を受けることが少ない。本発明に係る導電インク組成物は導電性および密着性に優れた導電パターンを形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明における導電インクは、金、銀、銅、白金、ニッケル、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、及びオスミウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属微粒子(P)、炭酸イオン部位をもつアニオン性分散剤(D)、及び親水性分散媒(S)を必須成分とする。
金属微粒子(P)としては、高電気導電性の観点から金、銀、銅が好ましく、銀がより好ましい。また、これらの金属は単独で用いられてもよく2種以上が併用されてもよい。
【0009】
銀を用いた導電インクによって形成される導電性被膜の導電率は、良好であるが、エレクトロマイグレーションの問題を考慮する必要性が生じる。よって、エレクトロマイグレーションを防止するためには、銀微粒子とその他の金属微粒子とを併用することが好ましい。併用する場合、銀とその他の金属の重量比は、銀重量が5〜95重量%である。上記その他の金属としては、金、銅、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、オスミウム等が挙げられる。特に、金、銅、白金、パラジウムが好ましい。
【0010】
金属微粒子(P)の平均粒子径は、2〜40nmであることが好ましい。平均粒子径が2nm以上である粒子は従来から知られている方法により、容易に合成が可能であり、40nm以下であると、金属微粒子の融点は、同一金属のバルクの融点よりも、低下することから、より低温での金属被膜の形成が可能である。
【0011】
金属微粒子(P)は、通常、一般に知られる気相法、液相法により、それぞれ粉体、分散液の状態で得ることができるが、生産性の観点から分散液が、より望ましい。
【0012】
アニオン性分散剤(D)は、炭酸イオン部位をもつアニオン(a)と、共役酸の酸解離定数が10以上である有機系強塩基のカチオン(c)からなる塩であることが好ましい。
炭酸イオン部位をもつアニオン(a)とは、下記の一般式(1)で示される化合物を言うものとする。ただし式中に示したRは、好ましくは末端に金属吸着性を示す官能基をもつ有機基であり、金属吸着性を示す官能基としては、メルカプト基、アミノ基、カルボキシル基、水酸基などが挙げられ、メルカプト基、アミノ基がより好ましい。
Rの炭素数は2〜6が好ましい。アニオン(a)の具体例としては、2−メルカプトエチルカーボネートイオン、6−ヒドロキシヘキシルカーボネートイオン、2−アミノエチルカーボネートイオンなどが挙げられ、2−メルカプトエチルカーボネートイオン、2−アミノエチルカーボネートイオンがより好ましい。
【0013】
【化1】

【0014】
強塩基のカチオン(c)はpKaが10以上であることが好ましく、11以上であることがさらに好ましい。また金属イオンを含まない有機系の塩基がより好ましい。
これらは有機系の超強塩基であり、これらを対イオンに用いた分散剤(D)はイオン解離度が高くなるため、分散安定性が極めて優れる。また、アルカリ金属やアルカリ土類金属といった金属系のイオンを用いないことから、これらのイオンの存在を非常に嫌う、電子材料用途にも、好適に利用することができる。
カチオン(c)の具体例としては、アンモニウム、トリメチルアンモニウム、イミダゾリム、イミダゾリニウム、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセニウムー7または、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノネニウムー5が挙げられ、特に1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセニウムー7または、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノネニウム−5がより好ましい。
【0015】
アニオン性分散剤(D)の製造方法
炭酸イオンは非常に不安定であり、通常の大気圧の条件では、COガスの脱離が起こる。よって、アニオン性分散剤(D)は、系内をCOで置換した状態でのみ、安定に存在する。アニオン性分散剤(D)の合成の仕方としては、例えば、一般式(2)で示したような、アルコールと塩基、好ましくは共役酸の酸解離定数が10以上である有機系強塩基とを、COガスをバブリングさせながら反応させる方法を例示することができる。具体的には室温で、アルコールと塩基を、それぞれ等モル、均一に混合した後、この混合液に対してCOガスをバブリングさせる。
【化2】

【0016】
(a)の具体例としては、室温において、メルカプトエタノールを当モルのアンモニア水の存在下でCOガスをバブリングすることによって得られる2−メルカプトエチルカーボネートのアンモニウム塩、同様にヘキサンジオールと等モルの1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7から合成される、6−ヒドロキシヘキシルカーボネートの1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセニウム−7塩、同様にエタノールアミンと等モルの1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン−5から得られる2−アミノエチルカーボネートの1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノネニウム−5塩などが挙げられる。
【0017】
アニオン(a)は、炭酸イオン部位を親水性分散媒(D)に向ける形で、金属微粒子(P)の金属に配位しており、アニオン性分散剤(D)が金属微粒子(P)を被覆していると考えられ、金属微粒子(P)が親水性分散媒(S)中に安定に分散させる効果を有している。
【0018】
親水性分散媒(S)は、水単独、親水性の溶剤単独、または水および親水性の溶剤の混合物である。親水性溶剤としてはメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセロールなどが挙げられる。これらの中でも、低沸点、かつ、基板への浸食性の観点から、アルコール系の溶剤が好ましく、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールが特に好ましい。
水および親水性の溶剤の混合物において、水および親水性の溶剤の重量比率は、任意の割合で混合したものを使用することができる。親水性分散媒(S)は、金属微粒子(P)、アニオン性分散剤(D)、及び親水性分散媒(S)の合計重量に基づいて、4.999〜89.999重量%であることが好ましい。
【0019】
また本発明の導電インク組成物において、上記金属微粒子(P)の金属濃度は、金属微粒子(P)、アニオン性分散剤(D)、及び親水性分散媒(S)の合計重量に基づいて、10〜95重量%であることが好ましく、20〜90重量%がさらに好ましい。10重量%以上であると、密度の高い金属被膜を形成することが可能となり、また95重量%以下であると、スクリーン印刷、インクジェット法などにより、微細な金属パターンを形成するために適度な粘性を付与することができる。
【0020】
また本発明の導電インク組成物において、アニオン性分散剤(D)の濃度は、金属微粒子(P)、アニオン性分散剤(D)、及び親水性分散媒(S)の合計重量に基づいて、0.001〜3重量%であることが好ましく、0.1〜1重量%がさらに好ましい。
【0021】
本発明の導電インク組成物は、以下のような添加剤を含有していてもよい。添加剤の合計量は金属微粒子(P)、アニオン性分散剤(D)、及び親水性分散媒(S)の合計重量に基づいて5重量%以下であることが好ましい。
(1)バインダー成分として水溶性樹脂を含んでもよい。バインダー成分が添加されることにより、本発明に係る導電インクは、各種塗布方法に応じた粘度・チキソ比等の調整、およびレベリング性の付与を可能にする。水溶性の樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリアクリル酸、ポリビニルピロリドン、セルロース誘導体等が挙げられる。添加量は、多すぎると絶縁体である水溶性樹脂が導電性を阻害する。
(2)液の特性を改質するための添加剤を含んでもよい。
(3)界面活性剤、消泡剤、レベリング剤、揮発抑制剤等を含んでもよい。
【0022】
本発明の導電インク組成物の製造方法は、液相法により、金属イオンから還元により金属微粒子(P)を合成した後、表面の分散剤を、アニオン性分散剤(D)で交換し、液中に残ったイオン、不純物などを、イオン交換膜、透析などの方法を用いて除去した後、金属微粒子の濃度を分散媒(S)により調整する方法、アニオン性分散剤(D)と金属イオンの存在下で、金属イオンの還元を行い、直接、アニオン性分散剤(D)で被覆された金属微粒子(P)を合成した後、液中に残ったイオン、不純物などを、イオン交換膜、透析などの方法を用いて除去した後、金属微粒子の濃度を分散媒(S)により調整する方法などが挙げられる。
【0023】
本発明の導電インク組成物を使用して配線基板回路を形成する方法は以下の通りである。
(1)本発明の導電インク組成物でパターンを描画する工程
本発明に係る導電インク組成物を基材上に塗布する方法としては、例えば、スクリーン印刷、グラビア印刷、凹板印刷、フレキソ印刷、バーコート法による方法等が挙げられるが、特に限定されない。
本発明の導電インク組成物を用いて導電性被膜を形成させる際に使用する基材は、高温、例えば200℃以上の温度での熱処理で変形、溶融、劣化等の損傷を受けてしまう素材であっても、使用することができる。よって、本発明に係る導電インクを用いれば、より広い範囲の基材の中から選ぶことができ、高い密着性を有する被膜を発現させることができる。本発明に係る導電インクを適用する基材としては、例えば、熱に強い金属、ガラス、セラミック、ITO(インジウムすずオキサイド)処理された基材をはじめ、高温をかけると変形または分解するおそれのある高分子系の基体(例えば、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ビニル樹脂等)が挙げられる。また、その形状としては、例えば、板状、フィルム状、繊維状等が挙げられる。
【0024】
本発明に係る導電インクと基材との濡れ性が悪い場合には、基材を表面処理し、濡れ性を向上させればよい。適用可能な基材の表面処理方法としては、種々の公知の手法(例えば、物理的に表面を荒らす方法;プラズマ処理、オゾン処理、コロナ処理等の乾式化学処理法;クロム酸混液、濃硫酸、濃塩酸中に浸漬させる方法;シランカップリング剤やチタネートカップリング剤による湿式化学処理等)が挙げられる。これらの方法を、単独で使用しても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0025】
本発明に係る導電性被膜が形成された基材を、必要に応じて加熱してもよい。上記加熱方法としては、例えば、オーブン中で加熱する方法の他、誘電加熱法、高周波過熱法等が挙げられるが、特に限定されない。
【0026】
(2)脱炭酸工程
本発明の導電インク組成物でパターンを描画した後、脱炭酸処理を行う。
脱炭酸の方法としては、単純に加熱する方法、系内を減圧にする方法、窒素、アルゴンなどの不活性ガスを系内に封入する方法などが挙げられるが、ここでの例に限定はされない。また、これらの方法を組み合わせてもよい。アニオン性分散剤(D)の炭酸イオン部位が脱炭酸すると、導電インクの金属分散性が不安定化するため、課題である、低い加熱処理温度による、高い導電性をもつ金属被膜の形成が可能になる。炭酸イオン部位は、金属微粒子の安定性を静電的反発により高める一方、脱炭酸により、炭酸イオン部位が、水酸基に変化し、アニオン性分散剤(D)の分散安定化力の低下と、アニオン性分散剤(D)の分子量低下、脱イオン化による(D)の沸点低下が起こる。これにより、均一に分散していた金属微粒子間で凝集と、粒子表面での金属同士の融着が起こる。
【0027】
(2)分散剤(D)除去工程
分散剤(D)の沸点が下がるため、120℃以下の比較的低温での分散剤の除去が可能となる。脱炭酸により、分散剤(D)が低分子量化、脱イオン化した化合物は、沸点が低下し、減圧条件の調整により、100℃以下での揮発除去が可能となる。必要により、残存した分散剤は、金属膜形成後に、水洗により、除去することができる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例および比較例により本発明を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。以下、特に記載のないかぎり、「部」は「重量部」、%は重量%を意味する。
【0029】
製造例1
(1)分散剤(D1)の作製
メルカプトエタノール(ナカライテスク社製)78gと25%アンモニア水(ナカライテスク社製)140gを混合し、これに二酸化炭素ガスを50ml/minの速度で10分間吹き込むことで、2―メルカプトエチルカーボネートのアンモニウム塩を合成した。脱炭酸により、炭酸イオン部分が水酸基に戻るため、二酸化炭素ガスで容器内を置換しておく。
【0030】
製造例2
(2)分散剤(D2)の作製
メルカプトエタノール(ナカライテスク社製)78gと1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7(サンアプロ社製)152gを混合し、これに二酸化炭素ガスを50ml/minの速度で10分間吹き込むことで、2−メルカプトエチルカーボネートの1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセニウムー7塩を合成した。脱炭酸により、炭酸イオン部分が水酸基に戻るため、二酸化炭素ガスで容器内を置換しておく。
【0031】
製造例3
(3)分散剤(D3)の作製
エタノールアミン(ナカライテスク社製)61gと、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7(サンアプロ社製)152gを混合し、これに二酸化炭素ガスを50ml/minの速度で10分間吹き込むことで、2−アミノエチルカーボネートの1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセニウムー7塩を合成した。脱炭酸により、炭酸イオン部分が水酸基に戻るため、二酸化炭素ガスで容器内を置換しておく。
【0032】
実施例1
塩化金酸(和光純薬工業社製)340gを含む水溶液1.5Lに、製造例1で作製した分散剤(D1)を 150g添加し、溶解させた。以下、導電インク組成物を得るまでの操作は、炭酸ガス雰囲気下で行った。これに還元剤として水素化ホウ素ナトリウム(和光純薬工業社製)10gを含む水溶液0.5Lを混合、撹拌することにより、金粒子を含む溶液を得た。得られた金粒子を含む溶液を、中空糸モジュール(旭化成製、マイクローザUFラボモジュールSLP−1053)を用いて脱塩した。さらに溶液中の金固形分が30wt%になるまで濃縮し、この濃縮液を3000rpmで10分間遠心分離した。このとき、下層の沈殿と上層の分散液に分離するが、この上層の分散液を回収することで、金微粒子からなる導電インク組成物(I−1)を得た。導電インク組成物は炭酸ガスを封入して保管した。粒子の粒径を動的光散乱式粒径測定装置LB-550(堀場製作所製)を用いて測定を行った結果、5.2nmであった。
【0033】
実施例2
塩化金酸(和光純薬工業社製)340gを含む水溶液1.5Lに、製造例1で作製した分散剤(D2)を150g添加し、溶解させた。以下、導電インク組成物を得るまでの操作は、炭酸ガス雰囲気下で行った。これに還元剤として水素化ホウ素ナトリウム(和光純薬工業社製)10gを含む水溶液0.5Lを混合、撹拌することにより、金粒子を含む溶液を得た。得られた金粒子を含む溶液を、中空糸モジュール(旭化成製、マイクローザUFラボモジュールSLP−1053)を用いて脱塩した。さらに溶液中の金固形分が30wt%になるまで濃縮し、この濃縮液を3000rpmで10分間遠心分離した。このとき、下層の沈殿と上層の分散液に分離するが、この上層の分散液を回収することで、金微粒子からなる導電インク組成物(I−2)を得た。導電インク組成物は炭酸ガスを封入して保管した。粒子の粒径を動的光散乱式粒径測定装置LB-550(堀場製作所製)を用いて測定を行った結果、3.2nmであった。
【0034】
実施例3
硝酸銀(和光純薬工業社製)59.1gを含む水溶液1.5L、分散剤としてクエン酸三ナトリウム二水和物(和光純薬工業社製)512.64gを含む水溶液1L、還元剤としてタンニン酸(和光純薬工業社製)10.8gを含む水溶液0.5L、pH調整剤として10N−NaOH水溶液90mLを混合、撹拌することにより、銀粒子を含む溶液を得た。導電インク組成物を得るまでの操作は、炭酸ガス雰囲気下で行った。得られた銀粒子を含む溶液を透析膜に入れ、透析膜の外液を製造例2で作成した分散剤(D3)を10重量%で溶解させた溶液にし、24時間透析を行った。同様の透析を更に2回行ったのち、透析膜の外液をイオン交換水に交換し、さらに24時間の透析を5回行った。溶液中の銀固形分が30wt%になるまで濃縮し、この濃縮液を3000rpmで10分間遠心分離した。このとき、下層の沈殿と上層の分散液に分離するが、この上層の分散液を回収することで、銀微粒子からなる導電インク組成物(I−3)を得た。導電インク組成物は炭酸ガスを封入して保管した。粒子の粒径を動的光散乱式粒径測定装置LB―550(堀場製作所製)を用いて測定を行った結果、7.2nmであった。
【0035】
比較例1
硝酸銀(和光純薬工業社製)59.1gを含む水溶液1.5L、分散剤としてクエン酸三ナトリウム二水和物(和光純薬工業社製)512.64gを含む水溶液1L、還元剤としてタンニン酸(和光純薬工業社製)10.8gを含む水溶液0.5L、pH調整剤として10N−NaOH水溶液90mLを混合、撹拌することにより、銀粒子を含む溶液を得た。得られた銀粒子を含む溶液を、中空糸モジュール(旭化成製、マイクローザUFラボモジュールSLP−1053)を用いて脱塩した後m溶液中の銀固形分が50wt%以上になるまで濃縮し、この濃縮液を3000rpmで10分間遠心分離した。このとき、下層の沈殿と上層の分散液に分離するが、この上層の分散液を銀コロイド液として採取し、比較導電インク組成物(I−1’)を得た。
【0036】
比較例2
市販の銀の導電ペーストであるドータイトFA−353N(藤倉化成社製)を比較導電インク組成物(I−2’)とする。
【0037】
導電性被膜の作製
PETフィルム(東レ社製)上に、導電インク組成物(I−1)〜(I−3)、比較導電インク組成物(I−1’)、(I−2’)をスキージーにて塗布し、50mmHgに減圧乾燥した。その後減圧乾燥機(EYELA社製)で120℃、50mmHgにて30分間減圧加熱処理し、金からなる導電性被膜(M−1)、(M−2)、銀からなる導電性被膜(M−3)、比較導電性被膜(M−1’)、(M−2’)を得た。同様にスライドガラス上と、イオンプレーティングにより作成したITOフィルム(トービ社製)にも同様にして、被膜を作成した。
また、比較導電インク組成物(I−1’)、(I−2’)においては、スキージーにて塗布し、50mmHgに減圧乾燥した。その後減圧乾燥機(EYELA社製)で200℃、50mmHgにて30分間減圧加熱処理し導電性被膜を得た。
【0038】
<評価>
PETフィルム上、スライドガラス上、及びITOフィルム上に作成した導電性被膜(M−1)、(M−2)、導電性被膜(M−3)、比較導電性被膜(M−1’)、(M−2’)について導電性と密着性の評価を行った。評価方法は以下に記載した方法で行った。結果を表1に示した。
【0039】
(1)導電性
被膜の電気抵抗を、ダブルブリッジ2769(横河M&C社製)により測定し、体積抵抗率を下記式を用いて算出した。
ρv=Rwt/1
ここで、
・ρv:体積抵抗率(Ω・cm)
・R:測定端子問の被膜の電気抵抗(Ω)
・w:測定端子問の被膜の幅(cm)
・T:測定端子間の被膜の厚み(cm)
・l:測定端子間の被膜の長さ(cm)。
【0040】
(2)密着性
基材に対する被膜の密着性を、メンディングテープNo.810(住友スリーエム(株)製)を用いた剥離試験にて評価した。この際、メンディングテープを被膜に完全に付着させてから1分後に、テープの一方の端を持って基材に対して90℃の角度を保ちながら一気に引き剥がすことによって、剥離を行った。評価基準としては、剥離しなかった場合を○、剥離した場合を×とした。
【0041】
【表1】

【0042】
表1の通り、本発明品は120℃以下という、低温な焼結温度においても、高導電性、かつ密着性の良い被膜が形成できる。なお、比較導電インク組成物を用いた場合、焼結温度が120℃の場合は導電性が悪く、焼結温度を上げることで導電性は改善するが、耐熱性の低い基材の場合、基材自身が変形、溶融、分解してしまうため、試験を行う前の段階で、剥離が発生していた。
【0043】
本発明に係る導電インクを用いれば、スクリーン印刷をはじめ、描画装置、印刷機械等に幅広く適用可能である上、120℃以下での低温加熱条件においても、高い導電性と良好な密着性とを発現する被膜を形成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、ブラウン管の電磁波遮蔽、建材または自動車の赤外線遮蔽、電子機器または携帯電話の静電気帯電防止剤、曇ガラスの熱線、回路基板またはICカードの配線、フラットパネルディスプレイの電極、樹脂に導電性を付与するためのコーティング、導電繊維、スルーホール、回路自体等の広い分野にも適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金、銀、銅、白金、ニッケル、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、及びオスミウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属微粒子(P)、炭酸イオン部位をもつアニオン性分散剤(D)、及び親水性分散媒(S)を含有することを特徴とする導電インク組成物。
【請求項2】
金属微粒子(P)が、金、銀、及び銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属微粒子である請求項1に記載の導電インク組成物。
【請求項3】
アニオン性分散剤(D)が、炭酸イオン部位をもつアニオン(a)と、共役酸の酸解離定数が10以上である有機系強塩基のカチオン(c)からなる塩である請求項1又は2に記載の導電インク組成物。
【請求項4】
強塩基のカチオン(c)が、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセニウム−7または、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノネニウム−5である請求項1〜3のいずれか1項に記載の導電インク組成物。
【請求項5】
炭酸イオン部位をもつアニオン(a)が2−メルカプトエチルカーボネートイオン、2−アミノエチルカーボネートイオンである請求項1〜4のいずれか1項に記載の導電インク組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の導電インク組成物を、基板上に塗布または、パターン状に印刷し、アニオン性分散剤(D)の脱炭酸工程を経た後、アニオン性分散剤(D)を除去し金属被膜を形成させることを特徴とする配線基板回路形成方法。





【公開番号】特開2008−208285(P2008−208285A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−48260(P2007−48260)
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】