説明

導電性ポリイミドベルトおよびその製造方法

【課題】電気特性及び機械特性に優れた電子写真記録装置における像の中間転写ベルトやその像の記録シートの転写搬送ベルト、定着ベルトなどに良好な導電性ポリイミドベルトおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の導電性ポリイミドベルトは、導電剤を含有する導電性ポリイミドベルトであって、陽電子消滅法により測定した50℃における陽電子の消滅寿命(τ)が0.324ns以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性ベルトに関するもので、特に、電子写真記録装置等における像の中間転写ベルトやその像の記録シートの転写搬送ベルトや定着ベルトなどに有用である。
【背景技術】
【0002】
複写機やレーザープリンタ、ビデオプリンタ、ファクシミリおよびそれらの複合機といった電子写真方式で像を形成記録する装置等では、装置寿命の向上などを目的に感光体ドラム等の像担持体にトナー等の記録剤などを介し形成した像を記録シート上に直接定着させる方式を回避して、像担特体上の像を中間転写ベルトに一且転写してそれを記録シート上に定着させる方式が行われており、また前記の像を記録シートへ転写しつつ、そのシートの搬送も兼ねさせる転写方式も検討されている。
これより中間転写ベルトや転写搬送ベルトや定着ベルトは、連続駆動による張力負荷に耐えられないとベルトの変形を引き起こし、転写画像の乱れに繋がる。また、定着においては座屈や端部破損に繋がる。そこで、中間転写ベルトや転写搬送ベルトや定着ベルトには高強度、高弾性が求められる。
【0003】
また、高画質の転写画像を得るために中間転写体の電気抵抗値は、所定の範囲に制御され、かつ中間転写体の面内バラツキ(抵抗値の最大値と最小値の値)が少ないことが求められ、定着においては除電目的に5[logΩ/□]以下の表面抵抗が求められる。これらを達成するためにポリイミド樹脂に半導電フィラーを添加した組成のポリイミド環状物が提案されている。(例えば、特許文献1を参照)。
【特許文献1】特開2003‐213014号公報
【特許文献2】特開2002‐296919号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記ベルトは、表面抵抗率が比較的安定で、ロール間に張設した状態で駆動させた時、受ける屈曲疲労に対して効果はあるものの、ベルト端部に応力が加わった場合、座屈、裂けが生じやすかった。
【0005】
また、ポリイミド前駆体に3級アミンを添加した無機粉末含有ポリイミドベルト(例えば、特許文献2参照)では、引裂伝搬強度が3000N/m以上と改善されてはいるものの、伸びやすく、弾性に欠けるため、座屈が生じやすかった。
【0006】
一方、従来は、N−メチル−2−ピロリドンなどの有機極性溶媒中に導電剤を分散した後、テトラカルボン酸二無水物とジアミン成分を添加し反応させてポリアミド酸溶液とし、これをイミド転化してベルトを製造していた。しかしながら、この製法では、樹脂と導電剤との間に微小な空隙を生じ、これが電気的トラップの原因となってベルトの電気特性や機械特性を劣化させていることが判明した。具体的には、ベルトの電気依存性の増大や引裂強度の低下などの問題を生じていた。
【0007】
そこで、本発明の目的は、電気特性及び機械特性に優れた電子写真記録装置における像の中間転写ベルトやその像の記録シートの転写搬送ベルト、定着ベルトなどに良好な導電性ポリイミドベルトおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために、ナノオーダーの微小な空隙の解析と構造制御について鋭意研究を重ねた結果、以下に示す導電性ポリイミドベルトの製造方法により、樹脂と導電剤との間に微小な空隙を制御でき、この空隙と陽電子の消滅寿命(τ)との間に相関関係に基づいて空隙の大きさを特定できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0009】
すなわち、本発明の導電性ポリイミドベルトは、導電剤を含有する導電性ポリイミドベルトであって、陽電子消滅法により測定した50℃における陽電子の消滅寿命(τ)が0.324ns以下であることを特徴とする。
【0010】
本発明のベルトは、ポリイミド樹脂と導電剤との間の局所空隙が小さく、良好な電気特性および機械特性を有し、実装状態におけるベルトの長期安定駆動と安定な電気特性による良好な画像の確保を達成することができる。前記陽電子の消滅寿命(τ)は、実施例に示す方法により測定した値である。
【0011】
上記ベルトにおいて、前記ベルトの表面抵抗率の常用対数値が1〜14[logΩ/□]の範囲にあり、且つ印加電圧100Vと1000Vにおける前記表面抵抗率の常用対数値の差が0.5[logΩ/□]以下であることが好ましい。前記電気特性を有するベルトは、白ぬけや転写チリの発生を防止することができる。また、電圧依存性が低いため、例えば、装置使用中に電気抵抗値の低下や過電流が生じにくく、ベルトの寿命低下を防止することができる。前記表面抵抗率は、実施例に示す方法により測定した値である。
【0012】
上記ベルトにおいて、引裂強度が6N/mm以上であることが好ましい。本発明のベルトは、引裂強度が良好であるため、ベルト端部に応力が加わった場合でも、座届、裂けが生じにくい。前記引裂強度は、実施例に示す方法により測定した値である。
【0013】
本発明の導電性ポリイミドベルトの製造方法は、固形分濃度0.1〜5wt%のポリアミド酸希釈溶液に導電剤を分散した後、テトラカルボン酸二無水物またはその誘導体とジアミン成分とを等モル添加して反応させる工程を含むことを特徴とする。
【0014】
本発明の製造方法によれば、個々の導電剤粒子表面におけるポリアミド酸の被覆率を高めることができ、イミド転化後にポリイミドと導電剤との界面に生ずる空隙の発生を低減または防止することができる。その結果、良好な電気特性及び機械特性を有するベルトを製造することができる。
【0015】
上記製造方法において、前記導電剤の分散を周波数25〜100kHzの超音波処理により行うことが好ましい。前記超音波処理により、導電剤の分散性および導電剤粒子に対するポリアミド酸の被覆率を高めることができ、ベルトの電気特性及び機械特性をさらに高めることできる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の導電性ポリイミドベルトは、ポリイミド樹脂と導電剤との間の局所空隙が小さく、ベルト帯電時に電気をトラップしにくい。このため、電位依存性が小さく、良好な電気特性を発現することができる。また、局所空隙が小さいため、ベルト端部に応力が加わった場合でも、座屈、裂けが生じにくい。これによって、実装状態におけるベルトの長期安定駆動と安定な電気特性による良好な画像の確保を達成できる。本発明の導電性ポリイミドベルトの製造方法は、ポリアミド酸希釈液に導電剤を分散することにより、導電剤粒子表面におけるポリアミド酸の被覆率を高めることができ、ポリイミド樹脂中およびポリイミド樹脂と導電剤との間の局所空隙の発生または局所空隙の大きさを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明に関し詳細に説明する。
【0018】
本発明の導電性ポリイミドベルトにおいて、用いるポリイミドには特に制限はない。ポリイミド樹脂はポリアミド酸がイミド転化したものであり、ポリイミド樹脂の前駆体であるポリアミド酸は、テトラカルボン酸二無水物あるいはその誘導体とジアミンの略等モルを有機溶媒中で反応させて得ることができる。
【0019】
ポリアミド酸を形成するテトラカルボン酸二無水物の具体例としては、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’ −ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ベリレン−3,4,9,10−テトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、エチレンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
【0020】
また、ジアミンとしては、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(DDE)、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジクロロベンジジン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、1,5−ジアミノナフタレン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン(PDA)、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニルジアミン、ベンジジン、3,3’−ジメチルベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、2,4−ビス(β−アミノ−第三ブチル)トルエン、ビス(p−β−アミノ−第三ブチルフェニル)エーテル、ビス(p−β−メチル−6−アミノフェニル)ベンゼン、ビス−p−(1,1−ジメチル−5−アミノ−ペンチル)ベンゼン、1−イソプロピル−2,4−m−フェニレンジアミン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン、ジ(p−アミノシクロヘキシル)メタン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ジアミノプロピルテトラメチレン、3−メチルへプタメチレンジアミン、4,4−ジメチルヘプタメチレシジアミン、2,11−ジアミノドデカン、1,2−ビス−3−アミノプロポキシエタン、2,2−ジメチルプロピレンジアミン、3−メトキシヘキサメチレンジアミン、2,5−ジメチルヘキサメチレンジアミン、2,5−ジメチルヘプタメチレンジアミン、3−メチルヘプタメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミン、2,17−ジアミノエイコサデカン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,10−ジアミノ−1,10−ジメチルデカン、1,12−ジアミノオクタデカン、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン等が挙げられる。
【0021】
また、上記したテトラカルボン酸二無水物とジアミンを重合反応させ、また希釈する際の溶媒としては、適宜なものを用いうるが、溶解性、カーボンブラックの分散性などの点より極性溶媒が好ましく用いうる。この極性溶媒の例としては、N,N−ジアルキルアミド類が有用であり、例えば、このうちの低分子量のものであるN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等が挙げられる。
【0022】
上記以外の有機極性溶媒として、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルメトキシアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホルトリアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ピリジン、ジメチルスルホキシド、テトラメチレンスルホン、ジメチルテトラメチレンスルホン等が挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、併せて用いても差し支えない。
【0023】
本発明の導電性ポリイミドベルトは、導電性を得るために導電剤を含有する。この場合、ベルトの表面抵抗率の常用対数値は、1〜14[logΩ/□]の範囲であることが好ましく、10〜12[logΩ/□]の範囲がさらに好ましい。例えば、中間転写ベルトとして用いた場合、表面抵抗率が上記範囲より小さすぎると白ぬけが発生し、逆に大きすぎると転写チリが発生し易い。また、印加電圧100Vと1000Vにおける表面抵抗率の常用対数値の差(電圧依存性)は0.5[logΩ/□]以下が好ましく、0.4[logΩ/□]以下がさらに好ましい。前記常用対数値の差が0.5[logΩ/□]を超えると、例えば、装置使用中に電気抵抗値の低下や過電流が生じ、ベルトの寿命低下を招く場合がある。
【0024】
導電剤としては、具体的には、カーボンブラック、アルミニウム、ニッケル、酸化錫、チタン酸カリウム等の無機化合物やポリアニリンやポリピロール等に代表される導電性高分子が挙げられるが、抵抗制御や抵抗低下の観点から、カーボンブラックが好ましい。
【0025】
本発明に用いるカーボンブラックとしては、例えば、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック等が挙げられ、これらは単独使用することもでき、または複数種類のカーボンブラックを併用してもよい。これらのカーボンブラックの種類は、目的とする導電性により適宜選択することができ、中間転写ベルトや転写搬送ベルト等の中抵抗から高抵抗域(表面抵抗率10〜1014[Ω/□]、体積抵抗率10〜1014[Ω・cm])において制電性が必要である場合は、特にチャンネルブラックやファーネスブラックが好適に用いられ、その用途によっては酸化処理、グラフト処理等の酸化劣化を防止したものや溶媒への分散性を向上させたものを用いると好ましい。
【0026】
カーボンブラックの含有量については、その目的に応じ、また添加するカーボンブラックの種類により適宜決定されるが、画像形成装置用機能性ベルトとしては、その機械的強度の観点等から、ポリイミド樹脂固形分に対して3〜40重量%、より好ましくは3〜30重量%である。
【0027】
具体的には、ファーネスブラックとして、デグサ・ヒュルス社製の「Special Black 550」、「Special Black 350」、「Special Black 250」、「Special Black 100」、「Printex 35」、「Printex 25」、三菱化学社製の「MA 7」、「MA 77」、「MA 8」、「MA 11」、「MA 100」、「MA 100R」、「MA 220」、「MA 230」、キャボット社製、「MONARCH 1300」、「MONARCH 1100」、「MONARCH 1000」、「MONARCH 900」、「MONARCH 880」、「MONARCH 800」、「MONARCH700」、「MOGUL 1」、「REGAL 400R」、「VULCAN XC−72R」等が挙げられ、チャンネルブラックとしてデグサ・ヒュルス社製の「Color Black FW200」、「Color Black FW2」、「Color Black FW2V」、「Color Black FW1」、「Color Black FW18」、「Special Black 6」、「Color Black S170」、「Color Black S160」、「Special Black 5」、「Special Black 4」、「Special Black 4A」、「Printex 150T」、「Printex U」、「Printex V」、「Printex 140U」、「Printex 140V」等が挙げられる。
【0028】
本発明の導電性ポリイミドベルトは、陽電子消滅法により測定した50℃における陽電子の消滅寿命(τ)が0.324ns以下であり、好ましくは、0.317〜0.323nsである。ベルトにおける陽電子の消滅寿命(τ)が0.324nsを超えるとベルトの機械特性及び電気特性が不安定となる。
【0029】
ここで、陽電子消滅法とは、陽電子(e)が試料に入射してから消滅するまでの時間(陽電子消滅寿命)を計測して、物質中に存在する空孔、局所空隙の大きさや密度を測定する方法である。陽電子は電子の反粒子であり、電子と同じ質量で正電荷をもつ素粒子である。分子性結晶や非晶質固体中で陽電子が電子と出会うとクーロン力によって電子−陽電子対を形成することがあり、しかる後に消滅することが知られている(例えば、堂山他、まてりあ、35,No.2,pp91〜173(1996)、The TRC NEWS No.80(Jul.2002)に記載)。
【0030】
この陽電子−電子対は、粒子的な振る舞いを示し、これをポジトロニウムという。ポジトロニウムには、対になる電子と陽電子のスピンが平行であるパラ−ポジトロニウム(p−Ps)と、反平行であるオルソ−ポジトロニウム(o−Ps)とがある。高分子に陽電子を打ち込むと、陽電子(e)は高分子中で叩き出された電子の1つと結合してo−Psを形成する場合がある。eやo−Psは高分子材料中の電子密度の低い部分、すなわち高分子中の局所空隙にトラップされ、空隙壁から出た電子雲と重なり消滅する。eやo−Psが高分子中の空隙中に存在する場合、その空隙の大きさとeやo−Psの消滅寿命は反比例の関係にある。すなわち、空隙が小さいとeやo−Psと周囲電子との重なりが大きくなり、陽電子消滅寿命は短くなる。一方、空隙が大きいとeやo−Psが空隙壁からしみ出した他の電子と重なって消滅する確立が低くなりeやo−Psの消滅寿命は長くなる。したがって、eやo−Psの消滅寿命を測定することにより高分子樹脂中の局所空隙の大きさを評価することができる。
【0031】
陽電子消滅寿命の測定には、陽電子源として放射性同位元素22Naがよく用いられる。22Naは22Neにβ崩壊するときに、陽電子と1.28MeVのγ線を同時放出する。高分子中に入射した陽電子は、消滅過程を経て511keVのγ線を放出する。したがって、1.28MeVのγ線を開始信号とし、511kevのγ線を終了信号として、両者の時間差を計測すれば陽電子の消滅寿命を求めることができる。
【0032】
本発明において、ベルトの引裂強度は、6N/mm以上が好ましく、6.2N/mm以上がより好ましい。引裂強度が6N/mm未満であるとベルトを駆動させた際、端部裂けが生じやすい。
【0033】
本発明において、引張弾性率が4000Mpa以上であることが好ましく、より好ましくは4800Mpa以上である。引張弾性率が4000Mpa未満であると、ベルトの伸び率が高くなって寸法安定性が乏しくなり、画像形成装置内に組み込んで稼動すると、徐々にベルトが伸びて画像ムラが生じてしまう。
【0034】
次に、本発明の導電性ポリイミドベルトの製造方法を説明する。なお、本発明において、前記ベルトはシームレスタイプが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0035】
本発明の導電性ポリイミドベルトは、ポリアミド酸希釈溶液に導電剤を分散した後、前記ポリアミド酸希釈液にテトラカルボン酸二無水物またはその誘導体とジアミン成分を等モル添加して反応させ、これをイミド転化することにより得ることができる。
【0036】
ポリアミド酸希釈溶液は、テトラカルボン酸二無水物等やジアミンから重合されるものであれば特に制限はないが、固形分濃度が0.1〜5wt%であることが好ましく、さらに好ましくは0.3〜3wt%である。固形分濃度が0.1wt%未満であると、個々の導電剤表面におけるポリアミド酸の被覆率が低下し、イミド転化後のポリイミドと導電性の添加剤との界面に空隙が生じやすくなり、電気特性及び機械特性が低下する。また、5wt%を超えると、溶液粘度も高くなり、機械的分散手段が有効に働かなくなり、ポリアミド酸の全導電剤に対する処理ムラが生じ、結果、被覆率の低下を生じる。
【0037】
本発明に用いるカーボンブラック等の導電剤をポリアミド酸希釈溶液に分散させる前に、分散性の向上や前記導電剤との親和性向上を狙って分散剤を添加することができる。分散剤としては、本発明の目的にかなうものであれば特に限定されないが,例えば高分子分散剤、界面活性剤、無機塩等の分散安定化剤を用いることができる。
【0038】
高分子分散剤としては、ポリ(N−ビニル−2−ピロリドン)、ポリ(N,N’−ジエチルアクリルアジド)、ポリ(N−ビニルホルムアミド)、ポリ(N−ビニルアセトアミド)、ポリ(N−ビニルフタルアミド)、ポリ(N−ビニルコハク酸アミド)、ポリ(N−ビニル尿素)、ポリ(N−ビニルピペリドン)、ポリ(N−ビニルカプロラクタム)、ポリ(N−ビニルオキサゾリン)等が挙げられ、単独または複数の高分子分散剤を添加することができる。
【0039】
界面活性剤としては、カルボン酸型、硫酸エステル型、スルホン酸型の陰イオン界面活性剤、第4級アンモニウム型、脂肪族アミン型、イミダゾリニウム型の陽イオン界面活性剤、エーテルアミンオキシド型、グリシン型、べタイン型の両性界面活性剤、エーテル型、エステル型、アミノエーテル型、エーテルエステル型、アルカノールアミド型の非イオン界面活性剤が挙げられる。
【0040】
カーボンブラック等の導電剤の機械的分散方法としては、超音波、ボールミル、サンドミル、バスケットミル、三本ロールミル、プラネタリーミキサー、ビーズミル、ホモジナイザー等の方法が挙げられる。
【0041】
その中でも、特に超音波により分散することが好ましい。導電剤にシェアがかからないため、形状変化が少なく、また粒度分布ばらつきが小さく好ましい。その上、ポリアミド酸希釈溶液の導電剤表面への浸透性、吸着性も良好である。周波数については25kHz〜100kHzが好ましい。より好ましくは39〜41kHzである。25kHz未満では、処理にばらつきが生じ、100 kHzを超えると、キャビテーション効果が得られにくく、そのため、ポリアミド酸による被覆率が低下する。
【0042】
ポリイミド前駆体溶液であるポリアミド酸溶液は、上記ポリアミド酸希釈液にテトラカルボン酸二無水物またはその誘導体とジアミン成分を略等モル添加し、反応させることにより得ることができる。前記ポリアミド酸溶液中のモノマー濃度(溶媒中における酸二無水物とジアミンの濃度)は種々の条件に応じて適宜設定されるが、5〜30重量%が好ましい。また、反応温度は、80℃以下に設定することが好ましく、特に好ましくは5〜50℃である。ポリアミド酸溶液のポリマー成分は、本発明の目的を達成できるならば、上記の酸二無水物およびジアミン成分を共重合したものでもブレンドしたものでも構わない。
【0043】
本発明の導電性ポリイミドベルトは、前記ポリアミド酸溶液の溶媒を加熱等による除去、脱水閉環水の除去およびイミド転化反応を完結することにより得られる。
【0044】
前記イミド転化には、高温加熱による方法もしくは、前記ポリアミド酸溶液に脱水剤と触媒機能を示す試薬を加えて低温加熱する方法いずれを用いてもよい。加熱方法としては、加熱炉内を通過させる方法や加熱風を吹き付ける方法などが挙げられるが、方法は特に制限されず、例えば、加熱炉としては放射型、循環風型などが挙げられ、加熱風の形成には、熱風器、加熱ロール、遠赤外線ヒータなどが挙げられる。また、金型周囲にコイルを巻き、誘導加熱により直接金型を加温する方法も挙げられる。
【0045】
脱水剤については、有機カルボン酸無水物、N,N’−ジアルキルカルボジイミド類、低級脂肪酸ハロゲン化物、ハロゲン化低級脂肪酸無水物、アリールホスホン酸ジハロゲン化物、およびチオニルハロゲン化物等が挙げられ、これらの中でも特に有機カルボン酸無水物が好ましい。
【0046】
有機カルボン酸無水物としては、無水酢酸、プロピオン酸無水物、酪酸無水物、吉草酸無水物、およびこれらの分子間無水物、有機カルボン酸無水物の混合物を含む。また、芳香族モノカルボン酸、例えば安息香酸、ナフトエ酸等の無水物、これらの混合物および有機カルボン酸無水物の混合物、および炭酸、蟻酸および脂肪族ケテン類の無水物、これらの混合物および有機カルボン酸無水物などが挙げられるが、中でも無水酢酸が好ましい。
【0047】
また、脱水反応の触媒的な機能を示す試薬については、イミダゾール系、第2級アミン、第3級アミンを挙げることができ、特にpKbが10以下のものが好ましい。前記触媒として、具体的には1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、2−フェニルイミダゾール、イミダゾール、イソキノリン等を挙げることができ、これらのうちでも2−フェニルイミダゾールが高沸点の点で好ましい。触媒の添加量としては、ポリアミド酸溶液中のポリアミド酸1モル当量に対して0.01〜5モル当量添加することが好ましく、より好ましくは0.1〜1モル当量である。また、これら触媒は脱水剤を使用しない加熱イミド化においても低温でのイミド化促進剤として有効である。
【実施例】
【0048】
以下、本発明の構造と効果を具体的に示す実施例について説明する。なお、実施例等における試験・評価項目は下記のようにして測定を行った。
【0049】
<評価試験方法>
1.表面抵抗率
表面抵抗率が0乗以上6乗以下については、ロレスタ‐GP(三菱化学製)に接続した4探針プローブ(MCP‐TP03P)をベルト表面に押し当て測定した。表面抵抗率が6乗以上15乗以下については、ハイスタ‐UP(三菱化学製)に接続したリングプローブ(UR)をベルト表面に押し当て測定した。印加電圧100Vまたは1000V、10秒後、測定条件20±5℃、65±20%RHでの表面抵抗率を測定し、その表面抵抗率を常用対数値にて示した。
2.引張弾性率
JIS K 7127に準じ、オリエンテックUTM1000テンシロン(オリエンテック社製)を用い、チャック間隔30mm、引張速度100mm/分で測定した。試験片として、JIS K 6301の3号形ダンベルで打ち抜いたものを使用した。引張弾性率は、応力‐歪み曲線の最大接線の傾きから算出した。
3.引裂強度
引裂強度は、JIS K 7128‐1トラウザー引裂法に準じて行った。75±1mmのスリットを入れた、長さ150mm×幅75mm試験片を、オリエンテックUTM1000テンシロン(オリエンテック社製)で、引張速度20mm/分で測定した。(最大応力+最低応力)/2(N)をポリイミド厚さ(mm)で割った値を引裂強度とした。
4.陽電子消滅法による陽電子の消滅寿命
陽電子寿命の測定は、PATFITおよびMELTプログラムを用いたファースト−ファースト コインシデンス配置(fast−fast coincidence systems)で行った。一方のガンマ線検出器では、陽電子放出と同時に放出される1.28MeVのγ線を測定し、これを開始信号とし、もう一方のガンマ線検出器では511keVの消滅γ線を測定し、これを終了信号とした。測定は以下の条件で実施した。
陽電子線源:22NaCl(強度0.6MBq)
ガンマ線検出器:フッ化バリウムシンチレーターおよび光電子増倍管
測定温度:常温(298K)、真空中
カウント数:1,000,000
試料サイズ:1.2cm×1.2cm×1mmのベルト小片を2枚使用(陽電子線源を挟み込んだ状態で真空容器に収容して測定)
得られたタイムスペクトルを、3つの指数関数成分の存在を仮定して下記式(1)
【0050】
【数1】

によって解析し、消滅寿命の短いものからτ、τ、τ、それに応じた強度をI、I、I(I+I+I3=100%)として、τを算出した。前述の陽電子消滅寿命の機構を考慮すると、τ1、τ2およびτは、それぞれp−Ps、e+およびo−Psの消滅寿命を反映していると考えられる。
【0051】
<実施例1>
ポリアミド酸溶液(固形分18wt%、U−ワニス−S(宇部製))9gにN−メチル−2−ピロリドン(NMP)23.4gを加え、固形分濃度0.5wt%のポリアミド酸希釈溶液を作成し、これにバルカン(XC‐72、キャボット社製)16gを添加し、周波数40kHzで1時間、超音波処理を行った。次いで、p‐フェニレンジアミン0.2モルと、3,3’,4,4’‐ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を略等モル添加した。増粘後、2−フェニルイミダゾール0.06モルを加え、攪拌しながら加温し、カーボンブラック18wt%(カーボンブラック固形分重量/(カーボンブラック固形分重量+ポリイミド固形分重量)×100)、固形分20wt%((カーボンブラック固形分重量+ポリイミド固形分重量)/総重量×100)の導電性ポリアミド酸溶液を得た。内径60mm、長さ850mmの円筒状金型の内面に上記導電性ポリアミド酸溶液をディスペンサーで塗布後、1500rpmで10分間回転させ均一な塗膜面を得た。その後、40rpmで回転させながら130℃で20分間、220℃で20分間、加熱し膜を形成した。金型から円筒状の膜を取り出し、パイプに差し替え、更に360℃で30分間加熱し、イミド転化を行い、導電性ポリイミドベルトを得た。このベルトを評価したところ、陽電子消滅法により測定した陽電子の消滅寿命(τ)は、20〜120℃の条件下で0.320〜0.322ns(図1参照)、引裂強度7.5N/mm、引張弾性率5600Mpaとなった。尚、表面抵抗率の常用対数値は3.2[logΩ/□]であった。
【0052】
<実施例2>
ポリアミド酸溶液(固形分18wt%、U−ワニス‐S(宇部製))9gにN−メチル−2‐ピロリドン(NMP)23.4gを加え、固形分濃度0.5wt%のポリアミド酸希釈溶液を作成し、その後、チャンネルブラック(Special Black4(デグサ社製))18gを添加し、周波数40kHzで1時間、超音波処理を行った。次に、アミン成分としてp‐フェニレンジアミンと4,4’‐ジアミノジフェニルエーテルの混合物(モル比5:5)0.2モルを投入し、続けて3,3’,4,4’‐ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を添加し略等モルとした。増粘後、攪拌しながら加温し、粘度2000pまで下がったところで2−フェニルイミダゾール0.04モルを加え、攪拌しながら冷却し、カーボンブラック18wt%(カーボンブラック固形分重量/(カーボンブラック固形分重量+ポリイミド固形分重量)×100)、固形分20wt%((カーボンブラック固形分重量+ポリイミド固形分重量)/総重量×100)の導電性ポリアミド酸溶液を得た。内径320mm、長さ850mmの円筒状金型の内面に上記導電性ポリアミド酸溶液をディスペンサーで塗布後、800rpmで10分間回転させ均一な塗膜面を得た。その後、40rpmで回転させながら130℃で20分間加熱して膜を形成した後、続けて360℃で30分間加熱してイミド転化を行い、導電性ポリイミドベルトを得た。このベルトを評価したところ、引裂強度6.4N/mm、引張弾性率4300Mpaとなった。尚、表面抵抗率の常用対数値は、100Vで12.8[logΩ/□]、1000Vで12.5[logΩ/□]であり、その差は0.3[logΩ/□]であった。
【0053】
<比較例1>
ポリアミド酸希釈溶液を省くこと以外は実施例1と同様とした。このベルトを評価したところ、陽電子消滅法により測定した陽電子の消滅寿命(τ)は、20〜120℃の条件下で0.325〜0.327ns(図1参照)、引裂強度5.4N/mm、引張弾性率4600Mpaとなった。尚、表面抵抗率の常用対数値は3.2[logΩ/□]であった。
【0054】
<比較例2>
ポリアミド酸希釈溶液を省くこと以外は実施例2と同様とした。このベルトを評価したところ、引裂強度5.8N/mm、引張弾性率4200Mpaとなった。尚、表面抵抗率の常用対数値は、100Vで12.8[logΩ/□]、1000Vで12.1[logΩ/□]であり、その差は0.7[logΩ/□]であった。
【0055】
<比較例3>
ポリアミド酸希釈溶液の濃度を7wt%にした以外は実施例1と同様にした。このベルトを評価した評価したところ、引裂強度5.8N/mm、引張弾性率5300Mpaとなった。尚、表面抵抗率の常用対数値は3.2[logΩ/□]であった。
【0056】
図1に、陽電子の消滅寿命(τ)と測定温度との関係を示す。図中、(○)は比較例1、(□)は実施例1で測定した結果を表す。図1から明らかなように、ポリアミド酸希釈液によりカーボンブラックを分散させた実施例1は、ポリアミド酸希釈液を使用しない比較例1に比べ、ベルトにおける陽電子の消滅寿命(τ)が測定温度範囲内で短くなっており、ベルト中の局所空隙の大きさが小さくなっていることがわかる。
【0057】
【表1】

表1の結果が示すように、ポリアミド酸希釈液によりカーボンブラックを分散させた実施例1および2のベルトは、比較例1〜3のベルトに比べ、引裂強度に優れ、電位依存性も小さい。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】陽電子消滅法で測定したときのベルトにおける陽電子の消滅寿命(τ)と測定温度との関係を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電剤を含有する導電性ポリイミドベルトであって、陽電子消滅法により測定した50℃における陽電子の消滅寿命(τ)が0.324ns以下であることを特徴とする導電性ポリイミドベルト。
【請求項2】
前記ベルトの表面抵抗率の常用対数値が1〜14[logΩ/□]の範囲にあり、且つ印加電圧100Vと1000Vにおける前記表面抵抗率の常用対数値の差が0.5[logΩ/□]以下であることを特徴とする請求項1記載の導電性ポリイミドベルト。
【請求項3】
引裂強度が6N/mm以上であることを特徴とする請求項2記載の導電性ポリイミドベルト。
【請求項4】
固形分濃度0.1〜5wt%のポリアミド酸希釈溶液に導電剤を分散した後、テトラカルボン酸二無水物またはその誘導体とジアミン成分とを等モル添加して反応させる工程を含むことを特徴とする導電性ポリイミドベルトの製造方法。
【請求項5】
前記導電剤の分散を周波数25〜100kHzの超音波処理により行うこと特徴とする請求項4に記載の導電性ポリイミドベルトの製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2006−301255(P2006−301255A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−122214(P2005−122214)
【出願日】平成17年4月20日(2005.4.20)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】