説明

導電性ローラ

【課題】導電性弾性層と、導電性被覆層とを有し、導電性弾性層中の内容成分によって感光体が汚染されることのない導電性ローラを提供する。
【解決手段】導電性弾性層中に残存している染み出し成分の量と、表面樹脂導電性被覆層の架橋反応により形成される三次元網目構造の粗密度および導電性被覆層の膜厚を規定する。これにより、残存成分の染み出しを抑えて感光体にの汚染がなく高解像度の画像が得られ、かつ高寿命の導電性ローラを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真装置の感光体周辺に設置される現像ローラ、帯電ローラ、あるいは転写ローラなどに使用可能な導電性ローラに関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真装置には、感光体へ電荷を供給する帯電ローラ、トナーを感光体へ供給する現像ローラ、形成されたトナー像を記録用紙に転写させる転写ローラ等の導電性ローラが組み込まれている。これらの導電性ローラにはその目的にあった特性を付与するため様々な材料が使用されているが、電子写真装置内では何れも感光体の周辺に組み込まれるため、使用時に感光体を汚染しないことが条件として求められている。
【0003】
しかしながら、従来からローラ製造時の反応の不完全性、ローラの構成材料の特性、ローラの使用条件(高温での長期使用)などの理由から、ローラの構成成分のその表面への染み出しを完全に防止することは困難であった。例えば、導電性ローラにおいて弾性層用の材料としてシリコーンゴムを使用する場合、金型に液状シリコーンゴムを注型した後、加熱硬化する方法により製造することが多い。この注型に用いる液状シリコーンゴムとしては、以下の理由から、付加反応架橋型液状シリコーンゴムが多く使われている。
(1)加工性に優れている。
(2)硬化反応に伴う副生成物の発生が無く、寸法安定性が良好である。
(3)硬化後の物性が安定している。
【0004】
しかしながら、付加反応架橋型液状シリコーンゴムを注型してローラを製造した場合であっても、その製造条件によっては未反応の低分子液状シリコーンゴムが導電性弾性層中に残留する場合があった。そして、この低分子液状シリコーンゴムが存在すると、ローラから染み出し、この中の低分子シロキサンにより感光体が汚染されるという問題が生じていた。また、現像ローラにおいては、これによりトナーフィルミングが発生するという問題もあった。
【0005】
そこで、従来からローラによる感光体の汚染を防ぐ技術が検討されている。特許文献1(特開平11−174831号公報)には、ローラを構成する弾性層を加熱することにより、弾性層材料である低分子シロキサンをベイクアウトする技術が開示されている。特許文献1では、これにより弾性層からのn−ヘキサン抽出物量を5質量%以下にできるとしている。
【0006】
また、特許文献2(特開2000−3090号公報)には、弾性層の表面にポリウレタン等の被覆層を形成し、最表面の被覆層中に含まれる揮発性成分を200ppm未満にする方法が用いられている。特許文献2では、この方法を用いることにより弾性層中に残存している染み出し成分が最表面の被覆層にブロックされ、ローラ表面に到達しないとしている。
【特許文献1】特開平11−174831号公報
【特許文献2】特開2000−3090号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1の技術では、ローラの熱劣化等を防ぐため、使用できる加熱温度に限界があり、弾性層内の低分子シロキサンの残留を完全に無くすことは困難であった。このため、電子写真装置の長期使用時には、ローラ表面への構成材料の染み出しが起こり、画像特性が劣化することとなっていた。
【0008】
また、上記特許文献2の方法では、弾性層中の染み出し成分の量、被覆層の物性によっては、感光体への構成材料の染み出しを完全に回避することは難しかった。更に、被覆層を厚くすることにより、ローラ回転の安定性や感光体への均一な当接が困難となり、画像の解像度やローラの寿命が低下するという問題が生じていた。
【0009】
このように、従来技術は、画像の高解像度化及びローラの高寿命化の点において問題を有していた。
そこで、本発明者は鋭意検討した結果、ローラ中の下記特性を所定範囲内に制御することによって、感光体を汚染せず高解像度の画像が得られると共に、耐久性に優れた導電性ローラを提供できることを発見したものである。
(a)導電性弾性層中に残存する染み出し成分量。
(b)導電性被覆層の架橋反応により形成される三次元網目構造の粗密度。
(c)導電性被覆層の膜厚。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する本発明の導電性ローラは、以下の構成を有する。
1.導電性支持体と、前記導電性支持体の外周上に設けられた導電性弾性層と、前記導電性弾性層の外周上に設けられた導電性被覆層とを有する導電性ローラであって、
前記導電性弾性層をメチルエチルケトンに浸漬したときの抽出物の総量は、前記メチルエチルケトンに浸漬前の導電性弾性層の質量の4質量%以下であり、
前記導電性被覆層の100%モジュラスが2MPa以上10MPa以下の範囲内にあり、かつ前記導電性被覆層の膜厚が5μm以上15μm以下であることを特徴とする導電性ローラ。
【0011】
2.前記導電性弾性層が、付加反応架橋型液状シリコーンゴムを加熱硬化して得られるシリコーンゴムを含むことを特徴とする上記1に記載の導電性ローラ。
【0012】
3.前記導電性被覆層が、イソシアネートとポリオールを含むポリウレタン樹脂を含むことを特徴とする上記1又は2に記載の導電性ローラ。
【0013】
4.前記導電性被覆層は、メチルエチルケトンを含有する塗工液を用いて形成されたものであることを特徴とする上記1から3の何れか1項に記載の導電性ローラ。
【発明の効果】
【0014】
本発明の導電性ローラは、電子写真装置内で使用した場合に、高寿命であり、長期間、使用することができる。また、使用中に表面にローラの内容成分が染み出して、ローラが接触する感光体の表面を汚染するといったことがなく、高解像度の記録画像を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
1.導電性ローラ
本発明の導電性ローラは、導電性支持体と、導電性支持体の外周上に設けられた導電性弾性層と、導電性弾性層の外周上に設けられた導電性被覆層とを有する。本発明の導電性ローラは、以下の点で特徴を有する。
(a)導電性弾性層をメチルエチルケトンに浸漬したときに、メチルエチルケトン中に抽出される導電性弾性層由来の抽出物の総量が、メチルエチルケトンに浸漬前の導電性弾性層の質量の4質量%以下となる。
(b)導電性被覆層の100%モジュラスが2MPa以上10MPa以下の範囲内にある。
(c)導電性被覆層の膜厚が5μm以上15μm以下となっている。
【0016】
本発明では、上記(a)の構成を有することによって、導電性弾性層の内容成分のうち、導電性被覆層内を浸透してその表面に染み出してくる可能性のある成分が少なくなる。
【0017】
なお、本発明では、上記構成(a)において、メチルエチルケトン内に浸漬したときの導電性弾性層の抽出物の総量について規定している。この理由は、溶媒としてメチルエチルケトンを含有する塗布液を用いて導電性被覆層を形成する場合、形成後の導電性被覆層内に若干、又はある程度のメチルエチルケトンが残留していることによる。すなわち、導電性弾性層の内容成分は、このメチルエチルケトン内への浸透を通して導電性被覆層の表面に染み出す。このため、形成後の導電性弾性層を、メチルエチルケトン中への抽出量が少ない成分から構成することによって、この染み出し量自体を少なくできる。
【0018】
また、溶媒としてメチルエチルケトンを含有しない塗布液を用いて導電性被覆層を形成する場合であっても、塗布液の主成分として、構造がメチルエチルケトンに類似するか、同様の特性を有する溶媒を用いることによる。すなわち、このような溶媒を含有する塗布液を用いて導電性被覆層を形成した場合、形成後の導電性被覆層内に若干、又はある程度の溶媒が残留している。この結果、導電性弾性層の内容成分は、この溶媒内への浸透を通して導電性被覆層の表面に染み出すこととなる。ここで、この溶媒とメチルエチルケトンは構造が類似するか、同様の特性を有する。このため、形成後の導電性弾性層をメチルエチルケトンへの抽出量が少ない成分から構成することにより、この溶媒中への浸透及び導電性被覆層表面への染み出し量を少なくできる。
【0019】
上記(b)の構成を有することによって、導電性被覆層の架橋反応により形成される三次元網目構造を密にすることができる。この結果、たとえ、導電性弾性層内に、メチルエチルケトン中へ抽出される成分が存在しても、導電性被覆層内の三次元網目構造を通ってその表面へ浸透しにくくなる。この結果、導電性弾性層の内容成分が導電性被覆層の表面に染み出しにくくなる。
【0020】
なお、本発明では、導電性被覆層の100%モジュラスの大小と三次元網目構造の粗密とは、相関関係にある。すなわち、100%モジュラスが大きいときには三次元網目構造が密であり、100%モジュラスが小さいときには三次元網目構造が粗となっている。このため、上記構成(b)の範囲内とすることによって、導電性ローラの特性を損なわない範囲で、導電性弾性層の内容成分の導電性被覆層内への浸透を阻害する適度な三次元網目構造を有する導電性被覆層とすることができる。
【0021】
また、上記(c)の構成を有することによって、ローラ回転の安定性やローラの感光体への当接性を向上させることができ、ローラを高寿命とすると共に、画像を高解像度化することができる。
以上のように、本発明の導電性ローラでは、上記(a)〜(c)の構成を有することにより、導電性被覆層表面への導電性弾性層の内容成分の染み出しを防止して、高解像度の画像を得ると共に、ローラの高寿命化を図ることができる。
【0022】
図1に本発明の導電性ローラの一例の概念的断面図を示す。
本発明の導電性ローラは、導電性支持体1、導電性支持体1上に積層された導電性弾性層2、及び導電性弾性層2上に積層された導電性被覆層3からなる。なお、導電性弾性層2及び導電性被覆層3は、導電性を有しており、単層であっても複層であっても良い。また、導電性弾性層2と導電性被覆層3との間に導電性をコントロールする為の層が形成されていても良い。更に、密着性を得る為に各層間に接着層が形成されていても良い。
【0023】
(導電性支持体)
導電性支持体1は導電性を有する芯状の材料であれば特に限定されるわけではなく、例えば、鉄、銅、ステンレス等の金属が挙げられる。また、これら金属の表面は、メッキ処理等の被覆処理が施されても良い。
【0024】
(導電性弾性層)
導電性弾性層2は導電性及び弾性を有するものであれば、特に限定されない。好ましくは、シリコーンゴムからなり、導電性を付加するため内部に導電剤が添加されているのが良い。導電剤としては、カーボンブラック、グラファイト、導電性金属酸化物等の電子伝導機構を有する導電剤、アルカリ金属塩、四級アンモニウム塩等のイオン伝導機構を有する導電剤が挙げられる。
【0025】
また、導電性弾性層を構成するシリコーンゴムの材料としては、注型に用いる液状シリコーンゴムを用いることがより好ましい。液状シリコーンゴムは加工性に優れており、硬化反応に伴う副生成物の発生がないため、寸法安定性が良好である。また、液状シリコーンゴムの中でも硬化後の物性が安定している等の理由から、付加反応架橋型液状シリコーンゴムを加熱硬化して得られるシリコーンゴムを用いることが更に好ましい。
【0026】
この付加反応架橋型液状シリコーンゴムは、例えば、下記式(1)で表されるオルガノポリシロキサン、及び下記式(2)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンを含む。また、更にこの付加反応架橋型液状シリコーンゴム中には、下記式(1)及び(2)の材料以外に、触媒や他の添加物を適宜、混合させて用いることができる。
【0027】
【化1】

【0028】
(式中、R1及びR2は互いに同一でも異なっていても良いアルケニル基であり、xは正の整数である。)
式(1)で表されるオルガノポリシロキサンは、付加反応架橋型液状シリコーンゴムのベースポリマーであり、その重量平均分子量は特に限定されないが10万以上100万以下が好ましく、40万以上70万以下がより好ましい。さらに加工特性及び得られる液状シリコーンゴム組成物の特性等の観点から、オルガノポリシロキサンの粘度(25℃)は、下限値としては10Pa・s以上が好ましく、50Pa・s以上がより好ましい。また、上限値としては300Pa・s以下が好ましく、250Pa・s以下がより好ましい。
【0029】
式(1)で表されるオルガノポリシロキサンのアルケニル基は、オルガノハイドロジェンポリシロキサンの活性水素と反応して架橋点を形成する部位である。その種類は特に限定されないが、活性水素との反応性が高い等の理由から、ビニル基及びアリル基から選ばれることが好ましく、ビニル基が特に好ましい。
【0030】
【化2】

【0031】
(式中、yは2以上の正の整数であり、zは正の整数である。)
式(2)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、硬化工程における付加反応の架橋剤の働きをするものである。一分子中のケイ素原子に結合した水素原子の数は2個以上であり、硬化反応を優れて行わせる観点から、一分子中のケイ素原子に結合した水素原子の数は3個以上であることが好ましい。
【0032】
また、オルガノハイドロジェンポリシロキサンの分子量に特に制限は無く、例えば、1000から10000までの重量平均分子量のものを使用できる。硬化反応を適切に行わせるためには、比較的、低分子量(例えば、重量平均分子量が1000以上5000以下)のオルガノハイドロジェンポリシロキサンが好ましい。
【0033】
液状シリコーンゴムを材料として使用し、注型により得られた導電性弾性層は二次硬化処理をすることで、反応の完結及び低分子シロキサンの除去を効果的に行うことができる。
【0034】
本発明では、上記導電性弾性層2は、下記条件で測定したメチルエチルケトン中に浸漬したときの抽出物の総量が、メチルエチルケトン(MEK)に浸漬前の導電性弾性層2の質量の4質量%以下となっている必要がある。なお、導電性弾性層が複数の層からなる場合、この「メチルエチルケトン中に浸漬したときの抽出物の総量」は、複数の層からなる導電性弾性層全体について測定する。以下に、この測定方法を記載する。
【0035】
まず、製造した弾性ローラの質量(Mst)を測定する。次に、25±5℃に温度調節されたMEKを入れたメスシリンダー内に、弾性ローラを沈め、24時間、静置する。この後、弾性ローラをMEK中から取り出して、24℃、40%RHの条件で24時間、放置してMEKを乾燥させる。その後、弾性ローラの質量(Mext)を測り、下記式1によりMEKの抽出物の量(Wext:質量%)を求める。
ext={(Mst−Mext)/(Mst−Mcore)}×100 (式1)
(式中、Mstは弾性ローラのMEK浸漬試験前の質量、Mextは弾性ローラのMEK浸漬試験後の質量、Mcoreは導電性支持体の質量を表す。)
上記抽出物の総量が4質量%を超える場合、導電性弾性層2上に導電性被覆層3を設けても、ローラ表面への残留物の染み出しを完全に抑えることが困難となり、感光体の汚染が起きる恐れがある。上記抽出物の総量は3質量%以下が好ましく、2質量%以下がより好ましく、1.5質量%以下が更に好ましい。抽出物の総量をこれらの範囲内にすることによって、ローラ表面への残留物の染み出しを、より効果的にほとんどなくすことができる。
【0036】
(導電性被覆層)
導電性被覆層3の材料としては特に限定されるわけではないが、弾性及び加工性に優れるため、イソシアネートとポリオールを含むポリウレタン樹脂を含む材料とすることが好ましい。
このポリオールとしては例えば、末端にポリヒドロキシル基を有するポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、及び両者の共重合物であるポリエーテルポリエステルポリオールが挙げられる。また、この他に、ポリブタジエンポリオールやポリイソプレンポリオール等のポリオレフィンポリオール、ポリオール中でエチレン性不飽和単量体を重合させて得られる、いわゆるポリマーポリオール等を使用することができる。
【0037】
また、イソシアネートとしては同様に、一般的な軟質ポリウレタンフォームやウレタンエラストマーの製造に用いられるポリイソシアネートを使用することができる。このポリイソシアネートとしては例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)、粗製TDI、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)を使用できる。また、粗製MDI、炭素数2〜18の脂肪族ポリイソシアネート、炭素数4〜15の脂環式ポリイソシアネートを使用できる。更に、上記に挙げたポリイソシアネートの混合物や変性物、例えば、部分的にポリオール類と反応させて得られるプレポリマー等を使用することができる。
【0038】
また、導電性被覆層に導電性を持たせる為に導電剤を添加しても良い。添加する導電剤としては例えば、カーボン、グラファイト、銅、アルミニウム、ニッケル、鉄粉、金属酸化物等が挙げられる。さらに、導電性ローラにトナー搬送性を付与するため、球形微粒子を添加することも好ましい。粒子としては、ポリメタクリレート、ポリスチレン、ポリウレタン等が挙げられ、平均粒径としては3μm以上30μm以下の範囲が好ましい。
【0039】
これら導電性被覆層を形成する際に使用する塗工液は、メチルエチルケトンを主成分とした混合溶剤として用いることが好ましく、ビーズミルやポットミル等により混合、分散し、塗工作業に適した粘度に調整し塗工する。なお、塗工液の塗工は、ディップ法、ロールコート法、スプレーコート法等を用いて導電性弾性層2上に均一な塗膜を形成させることにより行うことができる。
【0040】
本発明において、導電性弾性層2からの内容成分の染み出しを防止する為に、導電性被覆層の100%モジュラスが2MPa以上10MPa以下の範囲内にあることが必要である。また、この100%モジュラスは、3MPa以上7MPa以下であることが好ましい。100%モジュラスが3MPa以上7MPa以下であることにより、導電性被覆層の弾性及び導電性弾性層2からの内容成分の染み出し防止の観点から最適化を図ることができる。なお、本発明の100%モジュラスの測定は、JIS−K6251に準じて測定を行ったものである。また、導電性被覆層が複数の層からなる場合、この「100%モジュラス」は、複数の層からなる導電性被覆層全体について測定する。
【0041】
また、これと同時に、この導電性被覆層の膜厚は5μm以上15μm以下の必要がある。導電性被覆層の膜厚は8μm以上12μm以下の範囲にあることが好ましい。導電性被覆層の膜厚が8μm以上12μm以下であることにより、本発明のローラはより優れた回転特性及び感光体への当接性を有することができる。
【0042】
100%モジュラスが2MPa未満であったり、膜厚が5μm未満であると、ポリウレタン樹脂の架橋度が小さくなり、導電性弾性層2からの染み出し成分が導電性被覆層内を浸透してその表面に表れ、感光体を汚染しやすくなる。また、100%モジュラスが10MPaを超えたり、膜厚が15μmを超える場合、導電性被覆層の硬度が大きくなると共に、トナー劣化を引き起こして高解像度と高耐久性のバランスが取れなくなる。この結果、画像不具合が起きることとなる。
【0043】
なお、本発明における導電性被覆層の膜厚の測定は、図3に示されるように、点線部分を刃物で切り取り、導電性被覆層の断面を観察できる試料を作成した。次に、この試料の断面をキーエンス社製 デジタルHFマイクロスコープVH−8000により観察した。そして、導電性被覆層の構成材料によって以下の基準に従って膜厚の測定を行った。
【0044】
(i)導電性被覆層が、微粒子材料(導電剤、球形微粒子など)を含有していない場合は、最外層を構成する導電性被覆層の表面から、その内側の層(導電性弾性層、中間層など)の界面までの距離を測定した。そして、この距離のうち最も短い部分を、本発明の導電性被覆層の膜厚として測定した。図5(a)は、この測定方法を示したものであり、1bは導電性弾性層、1cは中間層(接着層など)、1dは最外層を構成する導電性被覆層を表す。図5(a)に示されるように、最外層を構成する導電性被覆層1d中の最も膜厚の小さな部分を、本発明の膜厚Bとして測定した。
【0045】
(ii)導電性被覆層中に微粒子材料を含有しており、導電性被覆層表面に微粒子材料の存在しない平らな部分が存在する場合は、図2のようにして測定した。すなわち、図2中で、1bは導電性弾性層、1cは中間層(接着層など)、1dは最外層を構成する導電性被覆層、1aは導電性被覆層1d中に含まれる微粒子材料を表す。図2に示されるように、導電性被覆層1dの表面のうち球形粒子の無い部分で平らな部分に関して、その表面から内側の層(導電性弾性層、中間層など)の界面までの距離を測定した。そして、この距離のうち最も膜厚の小さな部分を、本発明の膜厚Bとして測定した。
【0046】
(iii)導電性被覆層中に微粒子材料を含有し、且つこの微粒子材料同士が近接してその表面に平らな部分が無い場合は、膜が最も凹となった部分(最も膜厚の小さな部分)を本発明の膜厚Bとして測定した。図5(b)は、この測定方法を示したものであり、1bは導電性弾性層、1cは中間層(接着層など)、1dは最外層を構成する導電性被覆層、1aは導電性被覆層1d中に含まれる微粒子材料を表す。図5(b)に示されるように、最外層を構成する導電性被覆層1d中の最も膜厚の小さな部分を、本発明の膜厚Bとして測定した。
なお、導電性被覆層が複数の層からなる場合、この「導電性被覆層の膜厚」は、複数の層からなる導電性被覆層全体について測定する。
【0047】
(電子写真装置)
本発明の導電性ローラはその特性に応じて所望のローラとして使用することができ、例えば、電子写真装置内の感光体周辺に設置される現像ローラ、帯電ローラ、又は転写ローラなどとして使用可能である。
本発明の導電性ローラを現像剤担持ローラとして組み込んだ接触現像方式の電子写真装置の概略図の一例を図4に示す。
【0048】
この電子写真装置では、下記の構成部材が一つのカートリッジにまとめられ、電子写真装置の中で一体的に交換可能なカートリッジとなっている。
・画像形成体である感光体ドラム31
・一次帯電ローラ32
・現像剤担持ローラ33
・現像剤供給ローラ34
・現像剤層厚規制部材であるトナー層厚規制部材35
・撹拌羽36
・現像剤であるトナー37。
【0049】
図4の電子写真装置では、一次帯電ローラ32で均一に帯電された感光体ドラム31は矢印の方向に回転している。そして、一次帯電ローラ32と現像剤供給ローラ33との間でその表面に記録情報を乗せたレーザー光40が照射され、潜像が形成される。一方、撹拌羽36で現像剤供給ローラ34に送られたトナー37は、トナー層厚規制部材35によって現像剤担持ローラ33表面に均一にコートされ、感光体ドラム31表面へと運ばれる。図4の電子写真装置では、この現像剤担持ローラ33として本発明の導電性ローラを使用している。次に、感光体ドラム31表面上に形成された潜像をトナー像として顕像化する。
【0050】
感光体ドラム31がさらに回転してトナー像が転写領域に到達すると、感光体ドラム31に対し対置された転写ローラ42により、紙等の記録メディア43にトナー像が転写される。感光体ドラム31の表面上に記録メディア43に転写せずに残ったトナーは、クリーニング用弾性部材38により除去された後、一次帯電ローラ32で再び均一に帯電される。
【0051】
記録メディア43に転写された未定着のトナー像は、定着ローラ44と加圧ローラ45の間を通り、圧力と熱で記録メディアに定着され、電子写真装置から排出される。
【0052】
一方、現像に使用されずに現像剤担持ローラ31表面に残ったトナーは、その表面に坦持したまま現像容器41に戻す。現像容器41の内部では現像剤供給ローラ34が現像剤担持ローラ33表面に残ったトナーを現像剤担持ローラ33表面から取り除くとともに、新しいトナーを現像剤担持ローラ33の表面に供給する。現像剤担持ローラ33表面に供給された新しいトナーは、トナー層厚規制部材35によりコートしたトナーの厚さを均一に整えられて、現像領域に搬送される。この繰り返しによって現像剤担持ローラ33は常に新しいトナーを均一にコートして静電潜像を現像する。
【実施例】
【0053】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。なお、これらは本発明を何ら限定するものではない。
(導電性ローラ1の作製)
φ8mmステンレス製支持体(導電性支持体)を、内径16mmの円筒状金型内に同心となるように設置した。次に、導電性弾性層材料として付加反応架橋型液状シリコーンゴム(東レダウコーニング社製;体積固有抵抗107Ω・cm)を注型後、130℃のオーブンに入れ20分、加熱硬化して成型した。この後、円筒状金型を脱型後、200℃のオーブンで4時間、二次硬化処理を行い、導電性弾性層の厚みが4mmの導電性ローラ1を得た。
【0054】
(導電性ローラ2の作製)
二次硬化処理の温度を160℃と低くした以外は、上記導電性ローラ1の作製方法と同様にして導電性弾性層の厚みが4mmの導電性ローラ2を得た。
【0055】
(導電性ローラ3の作製)
二次硬化処理を行っていない以外は、導電性ローラ1の作製方法と同様にして導電性弾性層の厚みが4mmの導電性ローラ3を得た。
【0056】
(塗工液1の調製)
ポリウレタン樹脂(日本ポリウレタン社製;ニッポラン5033(商品名))を、固形分濃度が15質量%となるようにメチルエチルケトンで希釈して塗工液を作成した。次に、この塗工液中の固形分100質量部に対して、導電剤としてカーボンブラック(三菱化学社製:MA77(商品名))が35質量部となるように添加した。また、非導電性充填剤としてポリウレタン粒子(根上工業株式会社製;アートパールC−400(商品名);透明)が20質量部となるように添加した。この後、上記の塗工液を十分に分散させた後、ポリウレタン樹脂100質量部に対し10質量部となるように、硬化剤(日本ポリウレタン社製;コロネートL(商品名))を添加した後、攪拌して塗工液1とした。
【0057】
(塗工液2の調製)
ポリウレタン樹脂(日本ポリウレタン社製;ニッポラン5033(商品名))を、固形分濃度が10質量%となるようにメチルエチルケトンで希釈して塗工液を作成した。次に、この塗工液中の固形分100質量部に対して、導電剤としてカーボンブラック(三菱化学社製;MA77(商品名))が35質量部となるように添加した。また、非導電性充填剤としてポリウレタン粒子(根上工業株式会社製;アートパールC−400(商品名);透明)が20質量部となるように添加した。この後、上記の塗工液を十分に分散させた後、ポリウレタン樹脂100質量部に対し10質量部となるように、硬化剤(日本ポリウレタン社製;コロネートL(商品名))を添加した後、攪拌して塗工液2とした。
【0058】
(塗工液3の調製)
ポリウレタン樹脂(日本ポリウレタン社製;ニッポラン5033(商品名))を、固形分濃度40質量%となるようにメチルエチルケトンで希釈して塗工液を作成した。次に、この塗工液中の固形分100質量部に対して、導電剤としてカーボンブラック(三菱化学社製;MA77(商品名))が35質量部となるように添加した。また、非導電性充填剤としてウレタン粒子(根上工業株式会社製;アートパールC−400(商品名);透明)が20質量部となるように添加した。この後、上記の塗工液を十分に分散させた後、ポリウレタン樹脂100質量部に対し10質量部となるように、硬化剤(日本ポリウレタン社製;コロネートL(商品名))を添加した後、攪拌して塗工液3とした。
【0059】
(塗工液4の調製)
ポリウレタン樹脂(日本ポリウレタン社製;ニッポラン5033(商品名))を、固形分濃度が8質量%となるようにメチルエチルケトンで希釈して塗工液を作成した。次に、この塗工液中の固形分100質量部に対して、導電剤としてカーボンブラック(三菱化学社製;MA77(商品名))が35質量部となるように添加した。また、非導電性充填剤としてポリウレタン粒子(根上工業株式会社製;アートパールC−400(商品名);透明)が20質量部となるように添加した。この後、上記の塗工液を十分に分散させた後、ポリウレタン樹脂100質量部に対し10質量部となるように、硬化剤(日本ポリウレタン社製;コロネートL(商品名))を添加した後、攪拌して塗工液4とした。
【0060】
(塗工液5の調整)
ポリウレタン樹脂(日本ポリウレタン社製;ニッポラン5033(商品名))を、固形分濃度が50質量%となるようにメチルエチルケトンで希釈して塗工液を作成した。次に、この塗工液中の固形分100質量部に対して、導電剤としてカーボンブラック(三菱化学社製;MA77(商品名))が35質量部となるように添加した。また、非導電性充填剤としてポリウレタン粒子(根上工業株式会社製;アートパールC−400(商品名);透明)が20質量部となるように添加した。この後、上記の塗工液を十分に分散させた後、ポリウレタン樹脂100質量部に対し10質量部となるように、硬化剤(日本ポリウレタン社製;コロネートL(商品名))を添加した後、攪拌して塗工液4とした。
【0061】
(塗工液6の調整)
ポリウレタン樹脂(日本ポリウレタン社製;ニッポラン5033(商品名))を、固形分濃度が7質量%となるようにメチルエチルケトンで希釈して塗工液を作成した。次に、この塗工液中の固形分100質量部に対して、導電剤としてカーボンブラック(三菱化学社製;MA77(商品名))が35質量部となるように添加した。また、非導電性充填剤としてウレタン粒子(根上工業株式会社製;アートパールC−400(商品名);透明)が20質量部となるように添加した。この後、上記の塗工液を十分に分散させた後、ポリウレタン樹脂100質量部に対し10質量部となるように、硬化剤(日本ポリウレタン社製;コロネートL(商品名))を添加した後、攪拌して塗工液4とした。
【0062】
(実施例1)
塗工液1内に上記導電性ローラ1を浸漬させた後、引き上げることで、導電性ローラ1上に導電性被覆層を塗工した。この導電性被覆層の乾燥後の膜厚は10μmであり、100%モジュラスは4.01MPaであった。
【0063】
(実施例2)
塗工液1内に導電性ローラ2を浸漬させた後、引き上げることで、導電性ローラ2上に導電性被覆層を塗工した。この導電性被覆層の乾燥後の膜厚は10μmであり、100%モジュラスは4.01MPaであった。
【0064】
(実施例3)
塗工液2内に導電性ローラ1を浸漬させた後、引き上げることで、導電性ローラ1上に導電性被覆層を塗工した。この導電性被覆層の乾燥後の膜厚は7μmであり、100%モジュラスは3.01MPaであった。
【0065】
(実施例4)
塗工液3内に導電性ローラ1を浸漬させた後、引き上げることで、導電性ローラ1上に導電性被覆層を塗工した。この導電性被覆層の乾燥後の膜厚は15μmであり、100%モジュラスは9.70MPaであった。
【0066】
(実施例5)
塗工液4内に導電性ローラ1を浸漬させた後、引き上げることで、導電性ローラ1上に導電性被覆層を塗工した。この導電性被覆層の乾燥後の膜厚は5μmであり、100%モジュラスは2.10MPaであった。
【0067】
(比較例1)
塗工液1内に導電性ローラ3を浸漬させた後、引き上げることで、導電性ローラ3上に導電性被覆層を塗工した。この導電性被覆層の乾燥後の膜厚は10μmであり、100%モジュラスは4.01MPaであった。
【0068】
(比較例2)
塗工液5内に導電性ローラ1を浸漬させた後、引き上げることで、導電性ローラ1上に導電性被覆層を塗工した。この導電性被覆層の乾燥後の膜厚は16μmであり、100%モジュラスは10.50MPaであった。
【0069】
(比較例3)
塗工液6内に導電性ローラ1を浸漬させた後、引き上げることで、導電性ローラ1上に導電性被覆層を塗工した。この導電性被覆層の乾燥後の膜厚は1.9μmであり、100%モジュラスは1.90MPaであった。
【0070】
【表1】

【0071】
(ローラの評価)
上記のようにして製造した導電性ローラを電子写真装置内に組み込んだ。そして、連続で8000枚、記録した最終品について、目視により、画像に白抜け等の濃度の異常な部分が発生していないかどうか(感光体汚染)、画像に通紙方向のスジが発生していないか(画像評価)を調べた。また、目視により、記録終了後に現像ローラの表面にトナーフィルミングが生じていないかどうかも確認した。この「感光体汚染」及び「画像評価」の評価については、何れも「○:問題なし」「×:観察される」とした。なお、上記表1中、「感光体の汚染」及び「画像評価」が共に、「○」又は「△」の結果が得られた場合は、使用上、問題がないと判断をした。
また、表1の、導電性被覆層の「100%モジュラス」、導電性弾性層の「メチルエチルケトン中への溶出量」及び「導電性被覆層の膜厚」については、上記(発明を実施するための最良の形態)に記載の方法により測定した。
【0072】
上記表1の結果より、実施例1〜5では全て、導電性被覆層の100%モジュラスが2MPa以上10MPa以下であり、かつ膜厚が5μm以上15μm以下であった。また、実施例1〜5では全て、導電性弾性層のメチルエチルケトン抽出量が4質量%以下の為、感光体の汚染がなく「○」又は「△」となり、画像評価もトナー劣化も見られず画像評価も「○」又は「△」と、良好な結果が得られた。
【0073】
これに対して、比較例1ではメチルエチルケトン抽出量が4質量%を超え、比較例3では被覆樹脂層の膜厚が5μm未満、且つ100%モジュラスが2MPa未満であった。このため、比較例1及び3では、導電性弾性層からの染み出し成分が導電性被覆層内を浸透して感光体の汚染が見られ、「感光体の汚染」が「×」となった。また、比較例2では、導電性被覆層の膜厚が15μmを超え、且つ100%モジュラスが10MPaを超えていた。このため、比較例2では、「画像評価」でトナーの劣化による不鮮明な画像となり、「×」となった。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の導電性ローラの一例の断面を表す概念図である。
【図2】本発明の導電性ローラの導電性被覆層の膜厚測定方法を示す概略図である。
【図3】本発明の導電性ローラの導電性被覆層の膜厚測定方法を示す概略図である。
【図4】本発明の導電性ローラを備えた電子写真装置の一例を表す概略図である。
【図5】本発明の導電性ローラの導電性被覆層の膜厚測定方法を示す概略図である。
【符号の説明】
【0075】
1 導電性支持体
2 導電性弾性層
3 被覆樹脂層
1a 球形微粒子
1b 導電性弾性層
1c 中間層
1d 導電性被覆層
31 感光体ドラム
32 一次帯電ローラ
33 現像剤担持ローラ
34 現像剤供給ローラ
35 トナー層規制部材
36 撹拌羽
37 トナー
41 現像容器
42 転写ローラ
43 記録メディア
44 定着ローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性支持体と、前記導電性支持体の外周上に設けられた導電性弾性層と、前記導電性弾性層の外周上に設けられた導電性被覆層とを有する導電性ローラであって、
前記導電性弾性層をメチルエチルケトンに浸漬したときの抽出物の総量は、前記メチルエチルケトンに浸漬前の導電性弾性層の質量の4質量%以下であり、
前記導電性被覆層の100%モジュラスが2MPa以上10MPa以下の範囲内にあり、かつ前記導電性被覆層の膜厚が5μm以上15μm以下であることを特徴とする導電性ローラ。
【請求項2】
前記導電性弾性層が、付加反応架橋型液状シリコーンゴムを加熱硬化して得られるシリコーンゴムを含むことを特徴とする請求項1に記載の導電性ローラ。
【請求項3】
前記導電性被覆層が、イソシアネートとポリオールを含むポリウレタン樹脂を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の導電性ローラ。
【請求項4】
前記導電性被覆層は、メチルエチルケトンを含有する塗工液を用いて形成されたものであることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の導電性ローラ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−262044(P2008−262044A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−104990(P2007−104990)
【出願日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【出願人】(393002634)キヤノン化成株式会社 (640)
【Fターム(参考)】