説明

導電性接着剤、及び接着方法

【課題】厳密な温度制御を要することなく、接着剤が面方向に均一に広がり、接着剤が被接着物周辺に過度にはみ出して被接着物の側面に過度に這い上がることを抑制することが可能な導電性接着剤及び接着方法を提供する。
【解決手段】導電性接着剤20は、少なくとも表面が導電性を有しかつ全体的に磁性を有しない複数の粒子からなる第1のフィラー21と、第1のフィラー21の平均粒径に対して0.1〜10倍の平均粒径を有し、少なくとも表面が導電性を有しかつ少なくとも一部が磁性を有する複数の粒子からなる第2のフィラー22と(ここで、「粒径」は粒子形状によらず最大径を意味するものとする。「平均粒径」は50%粒径を指し、平均粒径以上と平均粒径以下にそれぞれ50質量%の粒子が存在する粒径である。)、バインダ樹脂等の他の成分23とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性接着剤、及びそれを用いた接着方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造においては、銀ペーストなどの導電性接着剤を用いてリードフレーム上に半導体チップを接着固定することがなされている。以下、本明細書においては特に明記しない限り、単に「接着剤」と記載してあっても、「導電性接着剤」を意味するものとする。
リードフレームへの半導体チップの接着は一般に、先ずリードフレームの半導体チップが搭載されるダイパッド部(アイランド部)上に接着剤を塗布し、その上に半導体チップを所定圧力で押し付けて搭載した後、接着剤を硬化させることで実施される。
【0003】
リードフレームへの半導体チップの接着には、所望の接着強度が得られるように充分な接着面積が確保され、接着剤中にボイドが少なく、さらに半導体チップ周辺に接着剤が過度にはみ出してチップの側面を過度に這い上がってチップ表面を汚染しないことが要求される。
【0004】
半導体チップの接着状態は、リードフレームのダイパッド部に塗布される接着剤の塗布量と粘度に強く依存するため、通常、接着剤の塗布量と粘度は適正範囲に管理される。しかしながら、接着剤の塗布量と粘度を所定範囲に管理するだけでは、半導体チップ側面への過度な接着剤の這い上がりを安定的に抑制して、良好な接着状態を安定的に得ることが難しい場合がある。
【0005】
上記のように、接着剤の塗布形状は主に塗布量と粘度に大きく依存する。接着剤の粘度が低すぎると塗布量のばらつきが大きくなったり、広がりすぎてダイパッド部の外側に過度に流れ出す恐れがある。そのため、接着剤はある程度の高粘度に調整される。ある程度高粘度の接着剤を用いると、均一な厚みで接着剤を塗布することが難しく、塗布形状がどうしても高く盛り上がった形状となるとともに、塗布表面に凹凸が生じることが避けられない。
このような状態では、接着剤の量が不充分な領域が生じる一方で、半導体チップの周辺にはみ出す接着剤量に偏りが生じてある特定部分ではみ出し量が多くなり、その部分ではチップ側面への這い上がり量が多くなり、これがチップ表面にまで達してチップ表面を汚染する率が高くなる。
そのため、半導体チップ側面への接着剤の過度な這い上がりを安定的に抑制して良好な接着状態を安定的に得るには、リードフレームのダイパッド部に塗布された接着剤が面方向になるべく均一に広がり、その厚さがなるべく均一であることが好ましい。
【0006】
特許文献1の図1には、リードフレーム(1)のダイパッド部(2)上に熱硬化性の導電性接着剤(4)を介して半導体チップ(3)が搭載された半導体装置が記載されている。
【0007】
特許文献1の段落0007には、半導体チップ(3)はダイパッド部(2)のほぼ中央に搭載されるが、接着剤(4)の濡れ性が良好でないと、半導体チップ(3)の角部に接着剤(4)が行き渡らないと記載されている。特許文献1の図2には、半導体チップ(3)の角部に接着剤(4)が行き渡らない一方で、一部の接着剤(4)が半導体チップ(3)よりはみ出している様子が示されている。
【0008】
特許文献1の段落0009には、半導体チップ(3)をリードフレーム(1)のダイパット部(2)に搭載する際に熱硬化性接着剤が高粘度状態であると、半導体チップ(3)の側面に接着剤が這い上がってフィレット部(9)が形成されることが記載されている(図3を参照)。特許文献1の段落0009には、フィレット部(9)の先端が半導体チップ(3)に近づくと、その表面を汚染する恐れがあることが記載されている。
【0009】
特許文献1の図2及び図3には、接着剤(4)の硬化後に、接着剤(4)中にエアが残留して接着剤(4)内部にボイド(8)が発生している様子が示されている。
【0010】
特許文献1には、一定温度までの加熱により流動性が高くなり、この一定温度を越える加熱により逆に流動性が低下する特性を備える熱硬化性接着剤層をマウント部材に被覆する工程と、この熱硬化性接着剤層の流動性を高くする工程と、この高流動性状態の熱硬化性接着剤層に半導体素子をマウントする工程と、前記熱硬化性接着剤層の硬化反応工程とより成ることを特徴とする半導体素子の組立方法が開示されている(請求項1)。
特許文献1には、一定温度までの加熱により流動性が高くなる低粘度の領域で半導体素子をマウントする方式を採用することで、接着剤の濡れ性が向上すると記載されている(段落0012、0026、図17)。
【0011】
特許文献1には、熱硬化性接着剤層をマウント部材に被覆する工程と、熱硬化性接着剤層の流動性を高くする工程との間にプリベーク工程を実施することが好ましいことが記載されている(請求項2)。
特許文献1には、予めプリベーク(Prebake) 工程を行って接着可能な範囲で熱硬化反応を行うことにより、反応ガスが放出されてボイドの発生が抑えられると記載されている(段落0012、0027、図18)。
特許文献1では、接着剤の半導体チップの側面への這い上がりが抑制されると記載されている(段落0028)。
【0012】
特許文献1では、以下のようにリードフレームへの半導体チップの接着が実施されている(段落0015−0016、図4)。
所定温度に制御されたフレーム支持台(b)に載置されたリードフレーム(10)は、はじめに接着剤塗布位置(c)に移送される。この位置でほぼ100℃に維持されたダイパッド部(11)に熱硬化性接着剤(12)が塗布される。フレーム支持台(b)において、プリベーク位置(d、e)は約120℃と高めに設定されている。リードフレーム(10)がプリベーク位置(d、e)に移送されると、塗布された熱硬化性接着剤(12)は加熱により粘度が下がって周囲に広がる。この温度でプリベーク処理が行われて、接着に支障が生じない程度の硬化反応が起こり、反応ガスが放出される。その後、マウント位置(f)で半導体チップ(15)がマウントされ、この位置でより高温の加熱により接着剤の硬化反応が促進されて、半導体チップの接着固定が完了する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平6−204263号公報
【特許文献2】特開2010−44967号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
特許文献1で用いられている接着剤は、一定温度までの加熱により流動性が高くなり、この一定温度を越える加熱により逆に流動性が低下する特殊な特性を有するものである。しかしながら、特許文献1では接着剤の具体的な組成等が不明である。
【0015】
特許文献1の接着剤は温度依存性が強く、接着剤塗布、プリベーク、及び接着剤硬化の温度を厳密に制御して、各工程における接着剤の粘度を厳密に制御する必要がある。そのため、特許文献1の方法では、再現性の良い高精度な温度プロファイルを維持確保する必要がある。
しかしながら、特許文献1の方法では、リードフレームを順次移送し、各移送位置で温度を制御している。この方法では、作業環境の温度変化、製品ごとに異なる熱容量のばらつき、一時的な製造トラブルによる製造設備の一時停止発生などの排除できない温度変化要因を考慮すると、常に再現性良く高精度な温度プロファイルを得ることが難しい。
加えて、塗布後にいったん接着剤の粘度を低下させることは、接着剤の広がりには有利であるが、毛細管現象による半導体チップの側面への這い上がりを助長する恐れがある。
【0016】
特許文献2に記載の導電性接着剤は、導電性と接着性を両立させることを目的としたものである。特許文献2には、導電性フィラーが、平均粒径が2〜30μmの金属粉末を主成分とするとともに、平均粒径が100nm以下の金属超微粒子を含有する導電性接着剤が開示されている(請求項1)。
金属超微粒子としては、銀、銅、金、白金、パラジウム、イリジウム、ロジウム、ルテニウム、ニッケル、スズ、あるいは亜鉛からなる超微粒子が挙げられている(段落0030)。
特許文献2において、導電性フィラー全体に対する金属超微粒子の含有量は0.1質量%以上10質量%以下が好ましく、導電性接着剤全体に対する導電性フィラーの含有量は50質量%以上90質量%以下であることが好ましいと記載されている(請求項2、3)。
【0017】
特許文献2には、「導電性フィラーとして使用される比較的粒径の大きい金属粉末の間に粒径が100nm以下である金属超微粒子が充填されるため、導電性フィラーにおける金属の充填密度が高くなり、結果として、低温の焼結温度(200℃以下)で導電性を向上させることが可能になる。また、平均粒径が100nm以下の金属超微粒子は、低温(200℃以下)で焼結するため、接着の対象となる金属基板との間で金属結合を形成する。従って、導電性接着剤の接着性を向上させることが可能になる。」と記載されている(段落0007)。
【0018】
特許文献2では、金属超微粒子の粒径が導電性フィラーとして使用される比較的粒径の大きい金属粉末の粒径の1/20以上小さい。特許文献2は、本発明とは目的、構成及び作用効果が異なっており、接着剤が面方向になるべく均一に広がり、その厚さがなるべく均一となるように、基板と半導体チップとの間を良好に接着することができ、接着剤が半導体チップの外側に過度にはみ出して半導体チップの表面まで這い上がることを抑制することが可能なものではない。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の導電性接着剤は、
少なくとも表面が導電性を有しかつ全体的に磁性を有しない複数の粒子からなる第1のフィラーと、
前記第1のフィラーの平均粒径に対して0.1〜10倍の平均粒径を有し、少なくとも表面が導電性を有しかつ少なくとも一部が磁性を有する複数の粒子からなる第2のフィラーと(ここで、「粒径」は粒子形状によらず最大径を意味するものとする。「平均粒径」は50%粒径を指し、平均粒径以上と平均粒径以下にそれぞれ50質量%の粒子が存在する粒径である。)、
バインダ樹脂とを含むものである。
【0020】
本発明の接着方法は、
接着対象に被接着物を接着固定する接着方法であって、
前記接着対象上の前記被接着物の接着箇所に上記の本発明の導電性接着剤を塗布する工程(A)と、
前記接着対象の前記接着剤を塗布した側と反対側に、前記接着剤に対して磁界を印加する磁界印加手段を配して、当該磁界印加手段により前記第2のフィラーを前記接着対象側に引き寄せる磁力を発生させた後、磁界印加を停止する工程(B)と、
前記接着剤上に前記被接着物を搭載する工程(C)と、
前記接着剤を硬化する工程(D)とを順次有するものである。
【0021】
本発明の接着方法では、工程(B)において、第2のフィラーに磁力を作用させて第2のフィラー及びその他の成分を接着対象側に引き寄せることができ、これによって塗布された接着剤を全体的に広げることができ、塗布された接着剤の厚みを全体的により均一にし、塗布された接着剤の表面を全体的に平坦化させることができる。
これによって、工程(C)において、接着対象に被接着物を搭載した際に、特定部分に集中して接着剤のはみ出し量が多くなることがなく、被接着物の側面への接着剤の這い上がりが局所的に過度になることが抑制される。
本発明の接着方法では、塗布された接着剤内にエアが巻き込まれてボイドが発生することが抑制される。
【0022】
本発明の接着方法は、特許文献1のように特殊な温度プロファイルの接着剤を用いる必要がないので、厳密な温度制御を必要としない。
【0023】
本発明の接着方法では、第1のフィラーと第2のフィラーの平均粒径の差が特許文献2よりも小さい。そのため、第2のフィラーは充分な磁力を作用させるに充分な大きさ(体積)を有することができる。また、第1のフィラーと第2のフィラーの平均粒径の差が特許文献2よりも小さいため、接着剤中において第1のフィラーと第2のフィラーとが良好に分散混合される。これらの効果が相俟って、上記効果が安定的に得られる。
【0024】
本発明の接着方法では、特許文献1のように塗布された接着剤を広げる際に加熱による粘度降下を利用していないため、厳密な温度制御が不要であり、被接着物を搭載する工程(C)において、被接着物周辺への接着剤の過度なはみ出し及び被接着物の側面への接着剤の過度な這い上がりが抑制される。
【0025】
第2のフィラーに作用する磁力は、接着剤の毛細管現象による被接着物の側面への這い上がり力と逆向きの力である。そのため、第2のフィラーに作用する磁力は、接着剤の毛細管現象による被接着物の側面への這い上がりを緩和するように作用し、接着剤の被接着物の側面への過度な這い上がりが抑制される。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、厳密な温度制御を要することなく、接着剤が面方向になるべく均一に広がり、その厚さがなるべく均一となるように、接着対象と被接着物との間を良好に接着することができ、接着剤が被接着物周辺に過度にはみ出して被接着物の側面に過度に這い上がることを抑制することが可能な導電性接着剤及び接着方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】半導体装置の一例を示す概略断面図である。
【図2A】工程(A)後の状態を示す平面図である。
【図2B】図2AのIIB-IIB断面図である。
【図3A】工程(B)後の状態を示す平面図である。
【図3B】図3AのIIIB-IIIB断面図である。
【図3C】磁界停止方法の一例を示す断面図である。
【図4A】工程(A)後の状態を示す拡大断面図である。
【図4B】工程(B)における磁界付与の状態を示す拡大断面図である。
【図5A】工程(C)及び工程(D)を示す平面図である。
【図5B】図5AのVB-VB断面図である。
【図6】工程(E)を示す断面図である。
【図7】工程(A)〜(D)を、リードフレームを移送して連続的に実施する様子を示す断面図である。
【図8】樹脂粒子の表面が磁性金属で被覆された粒子の例を示す分断斜視図である。
【図9A】接着剤の塗布パターンと磁界印加後のパターンの他の例を示す平面図である。
【図9B】接着剤の塗布パターンと磁界印加後のパターンの他の例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
「導電性接着剤、及び接着方法」
本発明の導電性接着剤は、
少なくとも表面が導電性を有しかつ全体的に磁性を有しない複数の粒子からなる第1のフィラーと、
第1のフィラーの平均粒径に対して0.1〜10倍の平均粒径を有し、少なくとも表面が導電性を有しかつ少なくとも一部が磁性を有する複数の粒子からなる第2のフィラーと(ここで、「粒径」は粒子形状によらず最大径を意味するものとする。「平均粒径」は50%粒径を指し、平均粒径以上と平均粒径以下にそれぞれ50質量%の粒子が存在する粒径である。)、
バインダ樹脂とを含むものである。
【0029】
本発明の接着方法は、
接着対象に被接着物を接着固定する接着方法であって、
接着対象上の被接着物の接着箇所に上記の本発明の導電性接着剤を塗布する工程(A)と、
接着対象の接着剤を塗布した側と反対側に、接着剤に対して磁界を印加する磁界印加手段を配して、この磁界印加手段により第2のフィラーを接着対象側に引き寄せる磁力を発生させた後、磁界印加を停止する工程(B)と、
接着剤上に被接着物を搭載する工程(C)と、
接着剤を硬化する工程(D)とを順次有するものである。
【0030】
本発明の接着方法において、
工程(D)後に、接着剤に対して工程(B)時の印加磁界と逆方向の磁界を印加して、接着剤の残留磁気を取り除く工程(E)をさらに有することができる。
工程(B)においては、接着剤に対する磁界印加と磁界印加の停止とを複数回繰り返すことができる。
【0031】
本発明の接着方法では、工程(B)において、第2のフィラーに磁力を作用させて第2のフィラー及びその他の成分を接着対象側に引き寄せることができ、塗布された接着剤を全体的に広げることができ、塗布された接着剤の厚みを全体的により均一にし、塗布された接着剤の表面を全体的に平坦化させることができる。
これによって、工程(C)において、接着対象に被接着物を搭載した際に、特定部分に集中して接着剤のはみ出し量が多くなることがなく、局所的に被接着物の側面への接着剤の這い上がりが過度になることが抑制される。
【0032】
平坦な押圧面を有する加圧部材を用いて、塗布された接着剤に対して機械的に圧力をかけて塗布された接着剤を機械的に押し広げる方法では、一部の接着剤が加圧部材に付着して、塗布された接着剤の表面粗さが塗布時より悪化する場合がある。
本発明の接着方法においては、磁界印加により非接触で接着剤を広げるので、塗布された接着剤の表面形状が悪化することなく、接着剤は接着剤の内部に生じる応力でソフトに広がり、その表面は平坦化する。この工程においては、過大な外力を用いないため、極端な変形を与えずに緩やかな変形による平坦化が可能であり、塗布された接着剤内にエアが巻き込まれてボイドが発生することも抑制される。
【0033】
本発明の接着方法は、特許文献1のように特殊な温度プロファイルの接着剤を用いる必要がない。また、塗布された接着剤を広げる際に加熱による粘度降下を利用していないため、厳密な温度制御が不要であり、かつ、被接着物を搭載する工程(C)において、被接着物周辺への接着剤の過度なはみ出し及び被接着物の側面への接着剤の過度な這い上がりが抑制される。
【0034】
第2のフィラーに作用する磁力Fdは、接着剤の毛細管現象による被接着物の側面への這い上がり力Fuと逆向きの力である。そのため、第2のフィラーに作用する磁力Fdは、接着剤の毛細管現象による被接着物の側面への這い上がり力Fuを緩和するように作用し、はみ出した接着剤の被接着物の側面への過度な這い上がりが抑制される(図5Bを参照)。
【0035】
本発明の導電性接着剤は、熱硬化性接着剤であることが好ましい。
【0036】
特許文献2では、導電性フィラーとして、平均粒径が2〜30μmの金属粉末と、平均粒径が100nm以下の金属超微粒子とを用いている。特許文献2では、金属超微粒子としてニッケル等の磁性を有する金属超微粒子が例示されている。
【0037】
本発明の導電性接着剤において、少なくとも表面が導電性を有しかつ少なくとも一部が磁性を有する複数の粒子からなる第2のフィラーは、少なくとも表面が導電性を有しかつ全体的に磁性を有しない複数の粒子からなる第1のフィラーの平均粒径に対して0.1〜10倍の平均粒径を有している。
【0038】
上記したように、本発明の接着方法では、工程(B)において、第2のフィラーに磁力を作用させて第2のフィラー及びその他の成分を接着対象に引き寄せることにより、塗布された接着剤を全体的に広げ、塗布された接着剤の厚みを全体的により均一にし、塗布された接着剤の表面を全体的に平坦化させるようにしている。
【0039】
第2のフィラーに充分な磁力を作用させるには、第2のフィラーにある程度の大きさ(体積)が必要となる。一般に磁石等の磁界印加手段から距離xの位置にある磁性粒子の持つエネルギーE(x)は、次式で表される。
E(x)=(粒子の体積)×B(x)/2u
ここで、B(x)は磁束密度、uは透磁率であり、E(x)の傾きdEx/dxが磁性粒子に加わる力である。
【0040】
また、接着剤に対して全体的に充分な磁力を作用させるには、接着剤中に第2のフィラーが良好に分散していることが必要である。良好に分散した第2のフィラーによって接着剤に均一かつ充分な磁力がかかり、塗布された接着剤を全体的に広げ、塗布された接着剤の厚みを全体的により均一にし、塗布された接着剤の表面を全体的に平坦化させることができる。
【0041】
第2のフィラーの平均粒径が小さ過ぎると充分な磁力が得られない上に、表面積が増加して酸化を受け易くなり電気抵抗の観点からも好ましくない。これと反対に、第2のフィラーの平均粒径が大き過ぎると、第1のフィラーをなす複数の粒子同士の接触を阻害して電気抵抗の増加を招く恐れがある。
第1のフィラーと第2のフィラーの平均粒径が異なり過ぎると、接着剤の調製時にこれらの均一な混合が難しくなり、また調製された接着剤中において沈降速度差による成分分離が生じて、第2のフィラーの偏在が起こりやすくなる。
【0042】
上記理由により、本発明の導電性接着剤においては、第2のフィラーの平均粒径は第1のフィラーの平均粒径に対して0.1〜10倍とする。
本発明の導電性接着剤においては、第1のフィラーと第2のフィラーの平均粒径の差は小さい方が好ましい。
第2のフィラーの平均粒径は第1のフィラーの平均粒径に対して0.5〜5倍が好ましく、0.5〜2倍がより好ましい。
本発明の導電性接着剤において、第1のフィラーと第2のフィラーの平均粒径はいずれも1μm以上であることが好ましく、いずれも1〜30μmであることが好ましい。
【0043】
本発明の導電性接着剤において、第1のフィラーをなす複数の粒子は、少なくとも表面が導電性を有しかつ全体的に磁性を有しない複数の粒子であればよい。第1のフィラーは例えば、複数の非磁性金属粒子、及び/又は樹脂粒子の表面が非磁性金属で被覆された複数の粒子からなることが好ましい。
本発明の導電性接着剤において、第2のフィラーをなす複数の粒子は、少なくとも表面が導電性を有しかつ少なくとも一部が磁性を有する複数の粒子であればよい。第2のフィラーは例えば、複数の磁性金属粒子、及び/又は樹脂粒子の表面が磁性金属で被覆された複数の粒子からなることが好ましい。
【0044】
本発明の導電性接着剤において、第1のフィラーと第2のフィラーの形状は特に制限されない。
【0045】
第1のフィラーをなす複数の粒子は鱗片状(フレーク状)であることが好ましい。第1のフィラーをなす複数の粒子がかかる形状であると、接着剤が硬化した後に、第1のフィラーをなす鱗片状の複数の粒子が互いに繋がりやすく、良好な導電パスが形成されやすいので、所望の電気導電性が得られやすく、好ましい。
鱗片状の複数の粒子からなる第1のフィラーの平均粒径は例えば2〜10μmの範囲内であることが好ましい。
接着剤中の均一分散性を考慮すれば、第1のフィラーは粒度分布が小さいことが好ましい。
【0046】
第2のフィラーをなす複数の粒子は略球状であることが好ましい。「略球状」は完全球状及びそれに近い形状を意味する。
第2のフィラーが楕円状や針状等の長軸と短軸を有する形状である場合、接着剤に磁界が印加された際に粒子の長軸方向が磁力線に沿うため、接着剤中で第2のフィラーが直立する格好となり、第1のフィラーをなす複数の粒子同士の接触を阻害する恐れがある。このため、第2のフィラーをなす複数の粒子は、特定方向に延びた形状ではない略球状が好ましい。
第2のフィラーをなす複数の粒子の最大径/最小径の比は1.5以下が好ましい。
略球状の複数の粒子からなる第2のフィラーの平均粒径は例えば1〜10μmの範囲内であることが好ましい。
接着剤中の均一分散性を考慮すれば、第2のフィラーは粒度分布が小さいことが好ましい。
【0047】
本発明の導電性接着剤において、第1のフィラーと第2のフィラーとの体積比は特に制限されず、4:1〜3:1の範囲内であることが好ましい。
第1のフィラーの体積が上記範囲より少ないと、硬化後の電気導電性が不充分となる恐れがある。第2のフィラーの体積が上記範囲より少ないと、接着剤に磁界を印加したときに第2のフィラーに充分な磁力が作用しなくなる恐れがある。
【0048】
本発明の導電性接着剤において、接着剤の全体量に対する第1のフィラーと第2のフィラーの合計体積率は特に制限されず、60〜70%であることが好ましい。この場合、バインダ樹脂等の他の成分の体積率は40〜30%となる。
接着剤の全体量に対する第1のフィラーと第2のフィラーの合計体積率が上記範囲より少ないと、硬化後の電気導電性が不充分となる恐れがある。接着剤の全体量に対するバインダ樹脂等の他の成分の体積率が上記範囲より少ないと、良好な接着強度が得られなくなる恐れがある。
【0049】
本発明の導電性接着剤において、第1のフィラーの組成は少なくとも表面が導電性を有しかつ全体的に磁性を有しないものであればよい。第1のフィラーは、電気導電性に優れることから、銀、銅、アルミニウム、及びこれらの合金からなる群より選択された少なくとも1種の非磁性金属を含むことが好ましい。
【0050】
本発明の導電性接着剤において、第2のフィラーの組成は少なくとも表面が導電性を有しかつ少なくとも一部が磁性を有するものであればよい。第2のフィラーは、磁性に優れることから、ニッケル、鉄、コバルト、及びこれらの合金からなる群より選択された少なくとも1種の磁性金属を含むことが好ましい。
【0051】
本発明の導電性接着剤において、絶縁性のバインダ樹脂の組成は特に制限されない。
バインダ樹脂としては、フッ素樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリベンズイミダゾール樹脂、ポリベンズオキサゾール樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ビスマレイミド樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、及びフェノキシ樹脂等を挙げることができる。これらの樹脂は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせてバインダ樹脂として使用することができる。
【0052】
バインダ樹脂としては熱硬化性樹脂が好ましく、エポキシ樹脂等が特に好ましい。エポキシ樹脂の種類としては特に限定はされず、ビスフェノールA型、F型、S型、あるいはAD型等を骨格とするビスフェノール型のエポキシ樹脂、ナフタレン型のエポキシ樹脂、ノボラック型のエポキシ樹脂、ビフェニル型のエポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型のエポキシ樹脂等が挙げられる。また、高分子量のエポキシ樹脂であるフェノキシ型のエポキシ樹脂を使用することもできる。
【0053】
本発明の導電性接着剤は必要に応じて、バインダ樹脂を硬化させるための硬化剤、バインダ樹脂を溶解するための溶剤、及びその他添加剤等を1種又は2種以上含むことができる。
【0054】
例えば、エポキシ樹脂用の硬化剤としては、ヘキサメチレンテトラアミン、脂肪族アミン、及び芳香族アミン等のアミン系、ジシアンジアミド系、ポリアミド系、及びイミダゾール系等が挙げられる。
溶剤は用いるバインダ樹脂に応じて選択され、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、カルビトールアセテート、ターピネオール、及びフタル酸ジエチル等の有機溶媒が好適に使用できる。
【0055】
「半導体装置への適用実施形態」
図面を参照して、本発明の導電性接着剤及び接着方法を半導体装置に適用した実施形態について説明する。
図1は半導体装置(半導体パッケージ)の一例を示す概略断面図である。視認しやすくするため、各構成要素の縮尺や位置等は適宜実際のものとは異ならせてある。
【0056】
図1に示す半導体装置100は、リードフレーム10のダイパッド部(アイランド部)12に導電性接着剤20を介して半導体チップ40が接着固定され、半導体チップ40の表面に設けられた電極パッド部41とリードフレーム10のリード11とがボンディングワイヤ50を介して電気的に接続され、半導体チップ40とボンディングワイヤ50とが封止樹脂60により封止された半導体パッケージである。
【0057】
半導体装置100は、上記の本発明の導電性接着剤を用いて、接着対象であるリードフレーム10に被接着物である半導体チップ40を接着固定する工程を有して製造されたものである。
【0058】
図面を参照して、リードフレーム10への半導体チップ40の接着方法について説明する。
図2Aは工程(A)後の状態を示す平面図であり、図2Bは図2AのIIB-IIB断面図である。
図3Aは工程(B)後の状態を示す平面図であり、図3Bは図3AのIIIB-IIIB断面図である。図3Cは磁界停止方法の一例を示す断面図である。
図4Aは工程(A)後の状態を示す拡大断面図であり、図4Bは工程(B)における磁界付与の状態を示す拡大断面図である。
図5Aは工程(C)及び工程(D)を示す平面図であり、図5Bは図5AのVB-VB断面図である。
図6は工程(E)を示す断面図である。
【0059】
<工程(A)>
はじめに、図2A、図2B、及び図4Aに示すように、リードフレーム10のダイパッド部12に導電性接着剤20を塗布する。
リードフレーム10の組成は特に制限されず、本実施形態では、リードフレーム10は42アロイ金属(ニッケル42質量%/鉄58質量%/少量の他金属元素)を基材とし、表面にニッケルまたはニッケル合金がメッキされたリードフレームである。
【0060】
導電性接着剤20は上記の本発明の導電性接着剤であり、図4Aに示すように、少なくとも表面が導電性を有しかつ全体的に磁性を有しない複数の粒子からなる第1のフィラー21と、少なくとも表面が導電性を有しかつ少なくとも一部が磁性を有する複数の粒子からなる第2のフィラー22と、バインダ樹脂及び溶剤などのフィラー以外の成分23とを含んでいる。
【0061】
導電性接着剤20において、第2のフィラー22の平均粒径は第1のフィラー21の平均粒径に対して0.1〜10倍である。
第1のフィラーと第2のフィラーの平均粒径がいずれも1μm以上であることが好ましく、いずれも1〜30μmであることがより好ましい。
本実施形態では、第1のフィラー21は平均粒径が2〜10μmの範囲内にあり、粒度分布が比較的シャープな複数の鱗片状の銀粒子からなり、第2のフィラー22は平均粒径が1〜10μmの範囲内にあり、粒度分布が比較的シャープな複数の略球状のニッケル粒子からなり、バインダ樹脂は熱硬化性のエポキシ樹脂である。
【0062】
図2Aに示すように、リードフレーム10のダイパッド部12に、半導体チップ40の平面パターンに対応させた平面パターンで接着剤20を塗布する。本実施形態では、半導体チップ40が平面視矩形状であるので、それに対応した矩形状に近いベタパターンで接着剤20を塗布する。
【0063】
接着剤20の塗布方法は特に制限されず、シリンジからの吐出方式、あるいはスタンプ方式等が挙げられる。
【0064】
ダイパッド部12に塗布された接着剤20の塗布形状は、主に塗布量と粘度に大きく依存する。接着剤20の粘度が低すぎると塗布量のばらつきが大きくなったり、広がりすぎてダイパッド部12の外側に過度に流れ出す恐れがある。そのため、接着剤20はある程度の高粘度に調整される。ある程度高粘度の接着剤20を用いると、均一な厚みで接着剤20を塗布することが難しく、図2Bに示すように、塗布形状がどうしても高く盛り上がった形状となるとともに、塗布表面に凹凸が生じることが避けられない。
本発明の方法では、後工程において接着剤20が全体的に広がって均一化するので、図2A及び図2Bに示すようにこの工程後の接着剤20は平面視、断面視とも不均一な形状であっても構わない。
図2B及び図4Aにおいて、工程(A)後の接着剤20の高さに符号H1、幅に符号W1を付してある。
【0065】
<工程(B)>
次に、図3A、図3B、及び図4Bに示すように、リードフレーム10の接着剤20を塗布した側と反対側に、接着剤20に対して磁界を印加する磁界印加手段30を配して、磁界印加手段30により第2のフィラー22をリードフレーム10側に引き寄せる磁力Fdを発生させた後、磁界印加を停止する。
【0066】
図3B及び図4Bに示すように、本実施形態では、磁界印加手段30はリードフレーム10側がS極であり、その反対側がN極である永久磁石である。図中破線で示すように、磁界Fはリードフレーム10から磁界印加手段30に向かう方向(図示下向き方向)に発生する。
【0067】
第2のフィラー22をなす複数の粒子(本実施形態ではニッケル粒子)は磁性を有するので、磁界印加手段30により発生した磁界Fによって、第2のフィラー22をなす複数の粒子(ニッケル粒子)には磁界印加手段30側(図示下側)に向かう磁力Fdが発生する。この磁力Fdによって、第2のフィラー22をなす各粒子はリードフレーム10側に引き寄せられる。
なお、リードフレーム10の基材が銅などの非磁性金属であっても、磁界はリードフレーム10を透過するため、リードフレーム10によって接着剤20への磁界印加が阻害されることはない。
【0068】
磁性を有しない第1のフィラー21をなす複数の粒子及びバインダ樹脂等の他の成分23は直接的には磁界Fの影響は受けない。しかしながら、接着剤20中全体的に良好に分散された第2のフィラー22がリードフレーム10側に引き寄せられると、第2のフィラー22の動きによって第1のフィラー21をなす複数の粒子のうち少なくとも一部の粒子がリードフレーム10側に押し下げられる。また、第1のフィラー21及び第2のフィラー22と密着しているバインダ樹脂等の他の成分23も、第1のフィラー21及び第2のフィラー22の動きに伴ってリードフレーム10側に押し下げられる。したがって、第2のフィラー22の動きによって接着剤20が全体的にリードフレーム10側に引き寄せられる。
【0069】
接着剤20に対する磁界印加方向は上記と逆でもよい。その場合、磁界印加手段30のN極/S極を上記と逆にすればよい。かかる磁界印加方向においても、第2のフィラー22をなす各粒子にはこれをリードフレーム10側に引き寄せる磁力Fdが働き、上記と同様に、接着剤20が全体的にリードフレーム10側に引き寄せられる。
図3B及び図4Bにおいて、工程(B)後の接着剤20の高さに符号H2、幅に符号W2を付してある。
【0070】
上記のように接着剤20に対して磁界が印加されると、接着剤20の表面張力が緩和され、かつ接着剤20が全体的にリードフレーム10側に引き寄せられる。これによって接着剤20は全体的に均等に広がり、磁界印加前と比較して、塗布高さは全体的に低くなり(H2<H1)、かつ塗布幅は広くなる(W2>W1)。そして、表面平坦性は高くなって全体的に均一な厚みに近づき、平面形状はきれいな矩形状に近づく。
磁界印加前と磁界印加後の塗布高さと塗布幅は、図2A及び図2B(磁界印加前)と図3A及び図3B(磁界印加後)との比較、及び図4A(磁界印加前)と図4B(磁界印加後)との比較に示されている。
【0071】
磁力Fdの大きさ及び磁界印加時間は、磁界印加後に、接着剤20が全体的に均等に広がって平面形状がきれいな矩形状に近づき、全体的に均一な厚みに近づくように調整される。磁力Fdは、磁界印加手段30によって発生する磁界密度、及び、接着剤20中の第2のフィラー22の組成/平均粒径/含量等によって調整可能である。
【0072】
良好な導電性及び良好な接着性を確保しつつ、安定的に磁界印加による塗布形状の改善効果を得るための、第1のフィラー21と第2のフィラー22の組成、第1のフィラー21と第2のフィラー22の平均粒径、接着剤20中の第1のフィラー21と第2のフィラー22との体積比、接着剤20の全体量に対する第1のフィラー21と第2のフィラー22の合計体積率の好ましい範囲と理由については、上記した通りである。ただし、上記した好適な範囲外であっても、磁界密度と磁界印加時間を調整すれば、良好な導電性及び良好な接着性を確保し、磁界印加による塗布形状の改善効果を得ることが可能である。
【0073】
平坦な押圧面を有する加圧部材を用いて、塗布された接着剤に対して機械的に圧力をかけて接着剤を押し広げる方法では、一部の接着剤が加圧部材に付着して、塗布された接着剤の表面粗さが塗布時より悪化する恐れがある。
本実施形態の接着方法においては、磁界印加により非接触で接着剤20を広げるので、塗布された接着剤20の表面形状が悪化することなく、接着剤20は接着剤の内部に生じる応力でソフトに広がり、その表面は平坦化する。この工程においては、過大な外力を用いないため、極端な変形を与えずに緩やかな変形による平坦化が可能であり、塗布された接着剤20内にエアが巻き込まれてボイドが発生する恐れもない。
【0074】
本実施形態の接着方法は、特許文献1のように特殊な温度プロファイルの接着剤を用いる必要がない。
特許文献1のように温度を上げて接着剤の粘度を下げることにより塗布された接着剤を広げる場合には、厳密な温度制御が必要である。また加熱による粘度降下によって、半導体チップを搭載する後工程において、半導体チップ周辺への接着剤のはみ出し及び半導体チップの側面への接着剤の這い上がりが助長される恐れがある。
本実施形態の接着方法では、塗布された接着剤20を広げる際に加熱による粘度降下を利用していないため、厳密な温度制御が不要である。また、半導体チップを搭載する後工程(C)において、半導体チップ周辺への接着剤の過度なはみ出し及び半導体チップの側面への接着剤の過度な這い上がりが抑制される。
【0075】
接着剤20に対する磁界印加の停止は例えば、磁界印加手段30を取り除くことで実施できる。
接着剤20に対して磁力Fdが作用しなくなるまでリードフレーム10から磁界印加手段30を離間させる、若しくは接着剤20に対して磁力Fdが作用しなくなるまで磁界印加手段30からリードフレーム10を離間させてもよい。
図3Cに示すように、接着剤20に対する磁界印加の停止は、磁界印加手段30を強磁性体(例えばパーマロイなど)からなる磁気シールド31で磁界印加を遮断することでも実施できる。
【0076】
工程(B)において、接着剤20に対する磁界印加とその停止とは、必要に応じて複数回繰り返すことができる。
磁界印加と磁界印加の停止とを複数繰り返すことにより、接着剤20の面方向の広がり、厚みの均一化、及び表面平坦化を促進することができ、好ましい。
磁界印加と磁界印加の停止とを複数繰り返す場合、磁界印加強度はその都度変更しても構わない(図7を参照)。
【0077】
接着剤20に対する磁界印加とその停止の複数回の繰り返しは例えば、リードフレーム10と磁界印加手段30との近接と離間を複数回繰り返すことによって、簡易に実施できる。
接着剤20に対する磁界印加とその停止の複数回の繰り返しは、磁気シールド31による磁界印加遮断の解除と磁界印加遮断とを複数回繰り返すことによっても、簡易に実施できる。
【0078】
磁界印加手段30としては、永久磁石の代わりに電磁石を用いることもできる。この場合、磁界印加とその停止は、電磁石の電流のオン/オフの切り替えにより簡易に実施できる。
【0079】
<工程(C)>
次に、図5A及び図5Bに示すように、磁界印加によって面方向に均一に広がり、厚みが全体的に均一に近づき、表面平坦性の高まった接着剤20上に、半導体チップ40を搭載する。
この工程においては通常、半導体チップ40に所定の圧力をかけて半導体チップ40を接着剤20に対して押し付けて、半導体チップ40を搭載する。
【0080】
本実施形態の接着方法では、先の工程(B)において、塗布された接着剤20が全体的にほぼ均一な厚さに広げられているため、半導体チップ40が接着剤20に押し付けられた際に、半導体チップ40周辺にはみ出す接着剤20の量は偏りが少なく、フィレット部20Fの高さは全体的にほぼ均一となる。本実施形態の接着方法では、特定部分に集中して接着剤20のはみ出し量が多くなることがなく、局所的に半導体チップ40の側面への接着剤20の這い上がりが過度になることが抑制される。
【0081】
本実施形態の接着方法では、第2のフィラー22に作用する磁力Fdは、接着剤20の毛細管現象による半導体チップ40の側面への這い上がり力Fuと逆向きの力である。そのため、第2のフィラー22に作用する磁力Fdは、半導体チップ40の側面への這い上がり力Fuを緩和するように作用し、半導体チップ40周辺にはみ出した接着剤20の半導体チップ40の側面への過度な這い上がりが抑制される。
【0082】
<工程(D)>
次に、接着剤20を硬化する。この工程後にリードフレーム10への半導体チップ40の接着固定が完了する。
接着剤20が熱硬化性であれば、加熱処理により接着剤20を硬化させることができる。硬化条件は接着剤の20の組成に応じて選択され、例えばバインダ樹脂としてエポキシ系樹脂を用いた熱硬化性の接着剤20であれば、150〜200℃程度、30分間程度が好ましい。
【0083】
<工程(E)>
工程(D)後に必要に応じて、接着剤20に対して工程(B)時の印加磁界と逆方向の磁界を印加して、接着剤20の残留磁気を取り除く工程(E)を実施することができる。
例えば、工程(B)における印加磁界が強い場合、工程(B)において磁界を取り除いた後もダイパッド部12あるいは第2のフィラー22に多少磁気が残留する場合がある。かかる場合には、接着剤20を硬化する工程(D)後に、脱磁工程(E)を実施することができる。
図6に示すように、工程(B)とはN極とS極が逆となるように磁界印加手段30を配することで、接着剤20に対して工程(B)時の印加磁界と逆方向の磁界を印加することができる。
【0084】
工程(A)〜(D)あるいは工程(A)〜(E)の各工程は製造設備の同一ステージで実施することができる。また、リードフレーム10を保持し、かつこれを所定方向に移送することが可能なフレーム移送手段(図示略)にリードフレーム10を載置し、図7に示すように、各工程を実施する場所へのリードフレーム10の移送と各工程の実施とを連続的に実施することができる。
図7は工程(A)〜(D)を連続的に実施する様子を示す断面図である。工程(E)についても同様に実施可能である。この図では、工程(B)において印加する磁界強度を変えて2回磁界印加を行う場合について図示してある。
【0085】
以上説明したように、本実施形態によれば、厳密な温度制御を要することなく、接着剤20が面方向になるべく均一に広がり、その厚さがなるべく均一となるように、リードフレーム10と半導体チップ40との間を良好に接着することができ、接着剤20が半導体チップ40周辺に過度にはみ出して半導体チップ40の側面に過度に這い上がることを抑制することが可能な導電性接着剤及び接着方法を提供することができる。
【0086】
本実施形態では、第2のフィラー22が複数の略球状のニッケル粒子からなる場合について説明したが、ニッケル、鉄、コバルト、及びこれらの合金からなる群より選択された少なくとも1種の磁性金属を含む複数の磁性金属粒子、あるいは、スチレン樹脂あるいはアクリル樹脂などからなる樹脂粒子の表面が例示したような磁性金属でメッキ等により被覆された複数の粒子からなるものでもよい。図8は、樹脂粒子22Pの表面が磁性金属22Mで被覆された粒子の例を示している。図8は、粒子を半分に分断した状態を示す斜視図である。
樹脂粒子22Pの表面が磁性金属22Mで被覆された粒子は、全体が磁性金属からなる粒子よりも比重が軽く、沈降速度差により接着剤20の上層に偏在しやすく、磁力による第2のフィラー22の押し下げ効果、及びこれに伴う第1のフィラー22及び他の成分23の押し下げ効果がより効果的に得られ、好ましい。
【0087】
本実施形態では、複数の鱗片状の銀粒子からなる場合について説明したが、銀、銅、アルミニウム、及びこれらの合金からなる群より選択された少なくとも1種の非磁性金属を含む複数の非磁性金属粒子、あるいは、スチレン樹脂あるいはアクリル樹脂などからなる樹脂粒子の表面が例示したような非磁性金属でメッキ等により被覆された複数の粒子からなるものでもよい。
【0088】
本実施形態では、半導体チップ40が平面視矩形状であるので、工程(A)におけるダイパッド部12への接着剤20の塗布パターンは半導体チップ40の平面形状に合わせて、矩形状に近いベタパターンとしたが、塗布パターンはかかるパターンに制限されない。
本実施形態では、工程(B)において接着剤20が良好に均一に広がるので、工程(A)におけるダイパッド部12への接着剤20の塗布パターンのパターン自由度は高い。
工程(A)におけるダイパッド部12への接着剤20の塗布パターンは例えば、図9Aに示すような辺方向へのはみ出しを抑制することができる十字状パターン、あるいは図9Bに示すような盛り上がりを低くできるドット状の分散パターン等でもよい。図示するように、かかる塗布パターンでも、工程(B)において接着剤20が良好に均一に広がり、工程(B)後(=磁界付与後)に略矩形状のパターンとなる。
【0089】
「設計変更」
本発明は上記実施例に限らず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において適宜設計変更可能である。
【符号の説明】
【0090】
10 リードフレーム(接着対象)
11 リード
12 ダイパッド部
20 導電性接着剤
21 第1のフィラー
22 第2のフィラー
22P 樹脂粒子
22M 磁性金属
23 バインダ樹脂等のその他の成分
30 磁界印加手段
31 磁気シールド
40 半導体チップ(被接着物)
50 ボンディングワイヤ
60 封止樹脂
100 半導体装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも表面が導電性を有しかつ全体的に磁性を有しない複数の粒子からなる第1のフィラーと、
前記第1のフィラーの平均粒径に対して0.1〜10倍の平均粒径を有し、少なくとも表面が導電性を有しかつ少なくとも一部が磁性を有する複数の粒子からなる第2のフィラーと(ここで、「粒径」は粒子形状によらず最大径を意味するものとする。「平均粒径」は50%粒径を指し、平均粒径以上と平均粒径以下にそれぞれ50質量%の粒子が存在する粒径である。)、
バインダ樹脂とを含む導電性接着剤。
【請求項2】
前記第1のフィラーと前記第2のフィラーの平均粒径がいずれも1μm以上である請求項1に記載の導電性接着剤。
【請求項3】
前記第1のフィラーと前記第2のフィラーの平均粒径がいずれも1〜30μmである請求項2に記載の導電性接着剤。
【請求項4】
前記第1のフィラーは、複数の非磁性金属粒子、及び/又は樹脂粒子の表面が非磁性金属で被覆された複数の粒子からなり、
前記第2のフィラーは、複数の磁性金属粒子、及び/又は樹脂粒子の表面が磁性金属で被覆された複数の粒子からなる請求項1〜3のいずれかに記載の導電性接着剤。
【請求項5】
前記第1のフィラーをなす前記複数の粒子は鱗片状であり、
前記第2のフィラーをなす前記複数の粒子は略球状である請求項1〜4のいずれかに記載の導電性接着剤。
【請求項6】
前記第1のフィラーと前記第2のフィラーとの体積比が4:1〜3:1の範囲内である請求項1〜5のいずれかに記載の導電性接着剤。
【請求項7】
全体量に対する前記第1のフィラーと第2のフィラーの合計体積率が60〜70%である請求項1〜6のいずれかに記載の導電性接着剤。
【請求項8】
前記第1のフィラーは銀、銅、アルミニウム、及びこれらの合金からなる群より選択された少なくとも1種の非磁性金属を含む請求項1〜7のいずれかに記載の導電性接着剤。
【請求項9】
前記第2のフィラーはニッケル、鉄、コバルト、及びこれらの合金からなる群より選択された少なくとも1種の磁性金属を含む請求項1〜8のいずれかに記載の導電性接着剤。
【請求項10】
前記バインダ樹脂は熱硬化性樹脂である請求項1〜9のいずれかに記載の導電性接着剤。
【請求項11】
接着対象に被接着物を接着固定する接着方法であって、
前記接着対象上の前記被接着物の接着箇所に請求項1〜10のいずれかに記載の導電性接着剤を塗布する工程(A)と、
前記接着対象の前記接着剤を塗布した側と反対側に、前記接着剤に対して磁界を印加する磁界印加手段を配して、当該磁界印加手段により前記第2のフィラーを前記接着対象側に引き寄せる磁力を発生させた後、磁界印加を停止する工程(B)と、
前記接着剤上に前記被接着物を搭載する工程(C)と、
前記接着剤を硬化する工程(D)とを順次有する接着方法。
【請求項12】
工程(D)後に、前記接着剤に対して工程(B)時の印加磁界と逆方向の磁界を印加して、前記接着剤の残留磁気を取り除く工程(E)をさらに有する請求項11に記載の接着方法。
【請求項13】
工程(B)において、前記接着剤に対する磁界印加と磁界印加の停止とを複数回繰り返す請求項11又は12に記載の接着方法。
【請求項14】
前記接着対象がリードフレームであり、前記被接着物が半導体チップである請求項11〜13のいずれかに記載の接着方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【公開番号】特開2012−52059(P2012−52059A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−197498(P2010−197498)
【出願日】平成22年9月3日(2010.9.3)
【出願人】(302062931)ルネサスエレクトロニクス株式会社 (8,021)
【Fターム(参考)】