説明

導電性組成物、導電性被膜の形成方法および導電性被膜

【課題】チクソ性に優れ、短い加熱時間でも電気抵抗の低い被膜となりうる導電性組成物および該導電性組成物を用いた導電性被膜の形成方法ならびに電気抵抗の低い導電性被膜の提供。
【解決手段】酸化銀と、炭素原子数7以下の第二級脂肪酸銀塩と、炭素原子数8以上の脂肪酸および/または炭素原子数8以上の脂肪酸銀塩と、溶媒とを含有する導電性組成物、該導電性組成物を用いた導電性被膜の形成方法、該導電性被膜の形成方法によって得られる、電気抵抗の低い導電性被膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性組成物、導電性被膜の形成方法および導電性被膜に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリエステルフィルムなどの合成樹脂基材上に、銀粒子などの導電性粒子と、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂などの熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などの熱硬化性樹脂などからなるバインダ、有機溶剤、硬化剤、触媒などとを混合して得られる銀ペーストなどの導電性組成物を、スクリーン印刷などの印刷法によって、所定の回路パターンとなるように印刷し、これらを加熱して導体回路をなす導電性被膜を形成し、回路基板を製造する方法が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、「一般式AgxCuy(0.001≦x≦0.4,0.6≦y≦0.999(原子比))で表され、且つ粒子表面の銀濃度が粒子の平均の銀濃度より高い銅合金粉末であり、かつ平均粒子径が1〜10μmであって、粒子径0.1〜1μmの微粒子が全粒子の5〜80重量%である銅合金粉末を含む導電性粉末100重量部に対して、10〜40重量部のバインダー樹脂を含み、該バインダー樹脂は、その重量平均分子量が300〜4000であり、かつホルムアルデヒド/フェノールのモル比が0.8〜2である熱硬化型フェノール樹脂を含むことを特徴とする導電性ペースト。」が記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、「導電性を有する金属粉と該金属粉のバインダとしてエポキシ樹脂を使用する導電性ペースト。」が記載されている。
特許文献3には、「粒子状の酸化銀と、三級脂肪酸銀塩とを含有することを特徴とする銀化合物ペースト。」が記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開平07−331125号公報
【特許文献2】特開平09−92029号公報
【特許文献3】特開2003−203522号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者は、特許文献1、2に記載されている導電性ペーストから得られる被膜は電気抵抗が高く、特許文献3に記載されている銀化合物ペーストは長時間の加熱時間を要するため、導電性被膜の生産性が低い、という問題を見出した。
このような問題に対して、本発明者は、以前に、導電性被膜の形成時間が短く、耐熱性の低い基材にも良好に導電性被膜を形成することができる導電性組成物および該導電性組成物を用いた導電性被膜の形成方法ならびに導電性被膜を見出し提案している(特願2006−108751号)。
そしてさらに、本発明者は、特願2006−108751号に記載した導電性組成物をインクとして用いてスクリーン印刷などの印刷法によって回路パターンを作製する場合、インクの印刷性について改善の余地があることを見出した。これは、酸化銀と、沸点が200℃以下の2級脂肪酸を用いて得られる2級脂肪酸銀塩とを含有する導電性組成物のチクソ性が比較的低いことに原因があると本発明者は推察した。
【0007】
そこで、本発明は、チクソ性に優れ、短い加熱時間でも電気抵抗の低い被膜となりうる導電性組成物および該導電性組成物を用いた導電性被膜の形成方法ならびに電気抵抗の低い導電性被膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、酸化銀と、特定の第二級脂肪酸銀塩と、特定の脂肪酸および/または脂肪酸銀塩と、溶媒とを含有する組成物が、チクソ性に優れ、短い加熱時間でも電気抵抗の低い導電性被膜となりうることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、本発明は、下記(1)〜(7)を提供する。
(1) 酸化銀と、炭素原子数7以下の第二級脂肪酸銀塩と、炭素原子数8以上の脂肪酸および/または炭素原子数8以上の脂肪酸銀塩と、溶媒とを含有する導電性組成物。
(2) 前記酸化銀と、前記第二級脂肪酸銀塩との合計質量と、前記炭素原子数8以上の脂肪酸および/または前記炭素原子数8以上の脂肪酸銀塩の質量との比が、100/0.5〜100/20である上記(1)に記載の導電性組成物。
(3) 前記第二級脂肪酸銀塩が、2−メチルプロパン酸銀塩である上記(1)または(2)に記載の導電性組成物。
(4) 前記溶媒が、α−テルピネオールである上記(1)〜(3)のいずれかに記載の導電性組成物。
(5) 上記(1)〜(4)のいずれかに記載の導電性組成物を基材上に塗布して塗膜を形成する塗膜形成工程と、前記塗膜を熱処理して導電性被膜を得る熱処理工程と、を具備する導電性被膜の形成方法。
(6) 前記熱処理工程において、前記塗膜を熱処理する際の温度が、100〜250℃である上記(5)に記載の導電性被膜の形成方法。
(7) 上記(5)または(6)に記載の導電性被膜の形成方法により得られる導電性被膜。
【発明の効果】
【0010】
本発明の導電性組成物は、チクソ性に優れ、短い加熱時間でも電気抵抗の低い導電性被膜となりうる。
また、本発明の導電性被膜の形成方法によれば、電気抵抗が低い導電性被膜を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明について以下詳細に説明する。
まず、本発明の導電性組成物について説明する。
本発明の導電性組成物は、
酸化銀と、炭素原子数7以下の第二級脂肪酸銀塩と、炭素原子数8以上の脂肪酸および/または炭素原子数8以上の脂肪酸銀塩と、溶媒とを含有する組成物である。
【0012】
酸化銀について以下に説明する。
本発明の導電性組成物に含有される酸化銀は、酸化銀(I)、即ち、Ag2Oである。
本発明においては、酸化銀の形状は特に限定されず、粒子径が10μm以下の粒子状であるのが好ましく、1μm以下であるのがより好ましい。粒子径がこの範囲であると、より低温で自己還元反応が生ずるので、結果的により低温で導電性被膜を形成できる。
【0013】
第二級脂肪酸銀塩について以下に説明する。
本発明の導電性組成物に含有される第二級脂肪酸銀塩は、炭素原子数7以下のものである。第二級脂肪酸銀塩は不飽和結合を有することができる。
第二級脂肪酸銀塩としては、例えば、下記式(1)で表されるものが挙げられる。
【0014】
【化1】

【0015】
式中、R1、R2は、炭素原子数1〜3のアルキル基を表し、R1の炭素原子数とR2の炭素原子数の和は5以下である。アルキル基は分岐していてもよい。
【0016】
炭素原子数1〜3のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基が挙げられる。
1は、メチル基、エチル基であるのが好ましい。
2は、メチル基、エチル基、n−プロピル基であるのが好ましい。
【0017】
第二級脂肪酸銀塩としては、例えば、2−メチルプロパン酸銀塩(別名:イソ酪酸銀塩)、2−メチルブタン酸銀塩(別名:2−メチル酪酸銀塩)、2−メチルペンタン酸銀塩、2−エチルブタン酸銀塩、アクリル酸銀塩が挙げられる。
なかでも、得られる組成物を用いて形成される導電性被膜の形成時間が短時間、具体的には180℃程度の温度で数秒(例えば5〜60秒程度)でも電気抵抗のより低い導電性被膜となりうることから、2−メチルプロパン酸銀塩が好ましい。
第二級脂肪酸銀塩は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0018】
第二級脂肪酸銀塩は、その製造について特に制限されず、例えば、炭素原子数7以下の第二級脂肪酸と酸化銀とを反応させることによって得ることができる。
【0019】
第二級脂肪酸銀塩の製造の際に用いられる第二級脂肪酸は、炭素原子数7以下の第二級脂肪酸であれば特に限定されない。第二級脂肪酸は不飽和結合を有することができる。
炭素原子数7以下の第二級脂肪酸としては、例えば、下記式(2)で表されるものが挙げられる。
【0020】
【化2】

【0021】
式中、R1、R2は、上記と同義である。
1は、メチル基、エチル基であるのが好ましい。
2は、メチル基、エチル基、n−プロピル基であるのが好ましい。
【0022】
第二級脂肪酸としては、例えば、2−メチルプロパン酸(別名:イソ酪酸)、2−メチルブタン酸(別名:2−メチル酪酸)、2−メチルペンタン酸、2−エチルブタン酸のような飽和第二級脂肪酸;アクリル酸のような不飽和第二級脂肪酸が挙げられる。
【0023】
一方、第二級脂肪酸銀塩の製造の際に用いられる酸化銀は、本発明の導電性組成物に含有される酸化銀と同義である。
【0024】
炭素原子数7以下の第二級脂肪酸と酸化銀との反応は、下記式(3)で表される反応が進行するものであれば特に限定されない。
【0025】
【化3】

【0026】
第二級脂肪酸銀塩の製造において、酸化銀を粉砕しつつ進行させる方法や酸化銀を粉砕した後に第二級脂肪酸を反応させる方法が好ましい態様として挙げられる。前者の方法としては、具体的には、酸化銀と、溶剤により第二級脂肪酸を溶液化したものとを、ボールミル等により混練し、固体である上記酸化銀を粉砕させながら、室温で、1〜24時間程度、好ましくは2〜8時間反応させるのが好ましい。
【0027】
第二級脂肪酸を溶液化する溶剤としては、例えば、ブチルカルビトール、メチルエチルケトン、イソホロン、α−テルピネオールが挙げられる。
溶剤は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
なかでも、イソホロンおよび/またはα−テルピネオールを溶剤として用いるのが、得られる第二級脂肪酸銀塩を含有する本発明の導電性組成物のチクソ性がより良好となる。
【0028】
本発明の導電性組成物において、酸化銀と第二級脂肪酸銀塩との量比は、酸化銀のモル数Aと、第二級脂肪酸銀塩のモル数Bとのモル比(A/B)が、2/1〜15/1であるのが好ましく、1/1〜10/1であるのがより好ましい。モル比がこの範囲である場合、得られる導電性組成物を用いて形成した導電性被膜の電気抵抗がより低くなる。
【0029】
炭素原子数8以上の脂肪酸について以下に説明する。
本発明の導電性組成物に含有される脂肪酸は、炭素原子数8以上のものである。
脂肪酸は、鎖状のものであり、直鎖状および分岐状のいずれでもよく、不飽和結合を有することができる。
脂肪酸の炭素原子数は、8以上であり、チクソ性により優れるという観点から、8〜22が好ましく、10〜18がより好ましい。
【0030】
炭素原子数8以上の脂肪酸は、R3−(COOH)mと表され、R3は炭素原子数2以上の脂肪族炭化水素基であり、mは1以上の整数であり、R3の炭素原子数とmとの和が8以上である。
mは、1〜4の整数であるのが好ましい。
【0031】
3としての脂肪族炭化水素基の炭素原子数は、2以上であり、4以上であるのが好ましく、4〜21であるのがより好ましく、6〜21がさらに好ましい。
炭素原子数2以上の脂肪族炭化水素基は、特に制限されない。脂肪族炭化水素基は、鎖状であり、直鎖状および分岐状のいずれでもよく、不飽和結合を有することができる。
【0032】
炭素原子数2以上の脂肪族炭化水素基としては、例えば、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基、n−テトラデシル基、n−ペンタデシル基、n−ヘキサデシル基が挙げられる。
【0033】
脂肪酸としては、例えば、カプリル酸(炭素原子数8。以下、この段落において[]内の数字は脂肪酸の炭素原子数を示す。)、カプリン酸[10]、ラウリン酸[12]、ミリスチン酸[14]、パルミチン酸[16]、ステアリン酸[18]のようなモノカルボン酸含有飽和脂肪族炭化水素化合物;下記式(4)で表される化合物のような多価カルボン酸含有飽和脂肪族炭化水素化合物;オレイン酸[18]、リノール酸[18]、リノレン酸[18]、アラキドン酸[20]、エイコサペンタエン酸[20]、ドコサヘキサエン酸[22]のような不飽和脂肪酸が挙げられる。
【0034】
【化4】

【0035】
なかでも、チクソ性により優れるという観点から、モノカルボン酸含有飽和脂肪族炭化水素化合物、多価カルボン酸含有飽和脂肪族炭化水素化合物が好ましく、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、式(4)で表される化合物がより好ましい。
【0036】
炭素原子数8以上の脂肪酸銀塩について以下に説明する。
本発明の導電性組成物に含有される脂肪酸銀塩は、炭素原子数8以上のものである。
脂肪酸銀塩は、鎖状のものであり、直鎖状および分岐状のいずれでもよく、不飽和結合を有することができる。
脂肪酸銀塩の炭素原子数は、8以上であり、チクソ性により優れるという観点から、8〜22が好ましく、10〜18がより好ましい。
【0037】
脂肪酸銀塩は、R4−(COOAg)nで表されるものであり、R4は炭素原子数2以上の脂肪族炭化水素基であり、nは1以上の整数であり、R4の炭素原子数とnとの和が8以上である。
nは、1〜4の整数であるのが好ましい。
【0038】
4としての脂肪族炭化水素基の炭素原子数は、2以上であり、4以上であるのが好ましく、4〜21であるのがより好ましく、6〜21がより好ましい。
炭素原子数2以上の脂肪族炭化水素基は、特に制限されず、上記と同義である。
【0039】
炭素原子数8以上の脂肪酸銀塩としては、例えば、カプリル酸銀塩、カプリン酸銀塩、ラウリン酸銀塩、ミリスチン酸銀塩、パルミチン酸銀塩、ステアリン酸銀塩のようなモノカルボン酸含有飽和脂肪族炭化水素化合物の銀塩;式(4)で表される化合物の銀塩のような多価カルボン酸含有飽和脂肪族炭化水素化合物の銀塩;オレイン酸銀塩、リノール酸銀塩、リノレン酸銀塩、アラキドン酸銀塩、エイコサペンタエン酸銀塩、ドコサヘキサエン酸銀塩のような不飽和脂肪酸銀塩が挙げられる。
【0040】
なかでも、チクソ性により優れるという観点から、モノカルボン酸含有飽和脂肪族炭化水素化合物の銀塩、多価カルボン酸含有飽和脂肪族炭化水素化合物の銀塩が好ましく、カプリン酸銀塩、ラウリン酸銀塩、ミリスチン酸銀塩、パルミチン酸銀塩、ステアリン酸銀塩、式(4)で表される化合物の銀塩がより好ましい。
【0041】
炭素原子数8以上の脂肪酸銀塩は、その製造について特に制限されず、例えば、炭素原子数8以上の脂肪酸と酸化銀とを反応させることによって得ることができる。
炭素原子数8以上の脂肪酸銀塩の製造の際に用いられる炭素原子数8以上の脂肪酸は、炭素原子数8以上の脂肪酸であれば特に限定されない。
炭素原子数8以上の脂肪酸は、上記と同義である。
一方、炭素原子数8以上の脂肪酸銀塩の製造の際に用いられる酸化銀は、本発明の導電性組成物に含有される酸化銀と同義である。
炭素原子数8以上の脂肪酸銀塩の製造は、炭素原子数8以上の脂肪酸と酸化銀とを用いて上記と同様に行うことができる。
【0042】
炭素原子数8以上の脂肪酸、炭素原子数8以上の脂肪酸銀塩は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
なかでも、チクソ性により優れ、電気抵抗のより低い被膜となりうるという観点から、炭素原子数8以上の脂肪酸および炭素原子数8以上の脂肪酸銀塩からなる群から選ばれる少なくとも2種であるのが好ましく、炭素原子数8以上の脂肪酸のなかの少なくとも2種であるのがより好ましく、ステアリン酸とラウリン酸との組合せであるのがさらに好ましい。
【0043】
炭素原子数8以上の脂肪酸および/または炭素原子数8以上の脂肪酸銀塩の量は、電気抵抗のより低い被膜となりうるという観点から、酸化銀と、第二級脂肪酸銀塩との合計100質量部に対して、20質量部以下であるのが好ましく、0.5〜15質量部であるのがより好ましい。
【0044】
また、炭素原子数8以上の脂肪酸および/または炭素原子数8以上の脂肪酸銀塩の量は、電気抵抗のより低い被膜となり、インクのチクソ性に優れるという観点から、酸化銀と、第二級脂肪酸銀塩との合計質量と、炭素原子数8以上の脂肪酸および/または炭素原子数8以上の脂肪酸銀塩の質量との比[(酸化銀+第二級脂肪酸銀塩)/(炭素原子数8以上の脂肪酸および/または炭素原子数8以上の脂肪酸銀塩)]が、100/0.5〜100/20であるのが好ましく、100/0.5〜100/15であるのがより好ましい。
【0045】
溶媒について以下に説明する。
本発明の導電性組成物に含有される溶媒は、上記脂肪酸および/または脂肪酸銀塩を溶解できるものであれば、特に制限されない。
例えば、ブチルカルビトール、メチルエチルケトン、イソホロン、α−テルピネオールなどが挙げられる。
なかでも、電気抵抗のより低い被膜となりうるという観点から、α−テルピネオールが好ましい。
溶媒は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0046】
溶媒の量は、チクソ性により優れ、電気抵抗のより低い被膜となりうるという観点から、酸化銀100質量部に対して、20〜50質量部であるのが好ましく、25〜40質量部であるのがより好ましい。
【0047】
本発明の導電性組成物は、必要に応じて、さらに、金属粉、還元剤等の添加剤を含有することができる。
金属粉としては、具体的には、例えば、銅、銀、アルミニウム等が挙げられ、中でも、銅、銀であるのが好ましい。また、0.01〜10μmの粒径の金属粉であるのが好ましい。
還元剤としては、具体的には、例えば、エチレングリコール類等が挙げられる。
【0048】
本発明の導電性組成物は、その製造について特に限定されない。例えば、酸化銀と、第二級脂肪酸銀塩と、脂肪酸および/または脂肪酸銀塩と、溶媒と、必要に応じて含有することができる添加剤とを、ロール、ニーダー、押出し機、万能かくはん機等により混合する方法が挙げられる。
本発明の導電性組成物においては、上述のとおり、第二級脂肪酸銀塩の製造の際に使用される酸化銀は、本発明の導電性組成物に含有される酸化銀と同様であるため、本発明の導電性組成を製造する際、予め合成した第二級脂肪酸銀塩を含有させる以外に、例えば、酸化銀と第二級脂肪酸とを系内で反応させて第二級脂肪酸銀塩を生成させることによって、導電性組成物中に第二級脂肪酸銀塩を存在させることができる。
また、炭素原子数8以上の脂肪酸銀塩についても同様である。
【0049】
本発明の導電性組成物は、23℃、65%RH(相対湿度)の条件下において、E型粘度計にて3°コーンを用いて測定されたチクソインデックス(1r.p.mでの粘度/10r.p.mでの粘度)が、4.0以上であるのが好ましく、5.0〜20であるのがより好ましい。
【0050】
本発明の導電性組成物の用途としては、例えば、基材上に電子回路、アンテナ等の回路を作製するためのインクなどが挙げられる。
【0051】
本発明の導電性組成物は、第二級脂肪酸銀塩を含有するため、電気抵抗の低い被膜となることができ、導電性被膜の形成時間が短く、具体的には、180℃程度の温度で数秒〜1分程度で形成することができ、耐熱性の低い基材にも良好に導電性被膜を形成することができる。これは、第二級脂肪酸銀塩が熱処理により銀に分解されやすく、かつ、分解により生じる第二級脂肪酸またはその分解物が揮発されやすいためであると考えられる。また、熱重量測定(TGA)の結果からも、第三級脂肪酸銀塩よりも還元されやすいことが明らかとなっている。
また、本発明の導電性組成物は、炭素原子数8以上の脂肪酸および/または炭素原子数8以上の脂肪酸銀塩を含有するので、チクソ性に優れる。これは、炭素原子数8以上の脂肪酸および/または炭素原子数8以上の脂肪酸銀塩と溶媒との相溶性がよいため、炭素原子数8以上の脂肪酸および/または炭素原子数8以上の脂肪酸銀塩が、系内において酸化銀の分散剤として働き、組成物にチクソトロピー性を付与していると本発明者は推察する。
このように、本発明の導電性組成物は、被膜の電気抵抗の低減化とチクソ性のバランスに優れるものである。
本発明の導電性組成物をインクとして使用する場合、印刷時に膜厚をコントロールしやすく、細線でも精度よく印刷することができ、ニジミがなく、版離れがよく、印刷性に優れる。
【0052】
次に、本発明の導電性被膜の形成方法について以下に説明する。
本発明の導電性被膜の形成方法は、本発明の導電性組成物を基材上に塗布して塗膜を形成する塗膜形成工程と、得られた塗膜を熱処理して導電性被膜を得る熱処理工程と、を具備する導電性被膜の形成方法である。
以下に、塗膜形成工程、熱処理工程について詳述する。
【0053】
<塗膜形成工程>
塗膜形成工程は、本発明の導電性組成物を基材上に塗布して塗膜を形成する工程である。
ここで、基材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート、ポリイミドなどのフィルム;銅板、銅箔、ガラス、エポキシなどの基板が挙げられる。
本発明の導電性組成物は、例えば、インクジェット、スクリーン印刷、グラビア印刷、オフセット印刷、凸版印刷のような塗布方法により基材上に塗布され、塗膜を形成する。
【0054】
<熱処理工程>
熱処理工程は、塗膜形成工程で得られた塗膜を熱処理して導電性被膜を得る工程である。
熱処理工程において、塗膜を熱処理して導電性被膜を得ることによって、塗膜を有する基板を導電性被膜付き基材とすることができる。
【0055】
熱処理工程において、塗膜を熱処理する際の温度は、耐熱性の低い基材にも良好な導電性被膜を形成することができる観点から、100〜250℃であるのが好ましく、180℃程度で、数秒程度、加熱する処理であるのがより好ましい。熱処理の温度および時間がこの範囲である場合、耐熱性の低い基材にも良好な導電性被膜を形成することができる。これは、本発明の導電性被膜の形成方法において使用される導電性組成物は、第二級脂肪酸銀塩を含有するためである。
【0056】
なお、本発明の導電性被膜の形成方法においては、塗膜形成工程で得られた塗膜は、紫外線または赤外線の照射による場合でも導電性被膜を形成することができる。このため、熱処理工程において、紫外線または赤外線を用いることができる。
【0057】
本発明の導電性被膜の形成方法においては、塗膜を熱処理することによって、塗膜に含有される、第二級脂肪酸銀塩、炭素原子数8以上の脂肪酸銀塩が分解されて、銀および第二級脂肪酸、炭素原子数8以上の脂肪酸またはこれらの分解物となる。分解により生じた第二級脂肪酸、炭素原子数8以上の脂肪酸、またはこれらの分解物は、その一部が揮発する。また、一部の、第二級脂肪酸、炭素原子数8以上の脂肪酸は、酸化銀と反応し、再び第二級脂肪酸銀塩、炭素原子数8以上の脂肪酸銀塩となり、これらが還元されて、銀が生成する。このようなサイクルが繰り返されることによって、系内において効率的に銀が生成し、銀によって基板上に被膜化され、導電性被膜(銀膜)、すなわち本発明の導電性被膜が形成される。
【0058】
本発明の導電性被膜について以下に説明する。
本発明の導電性被膜は、本発明の導電性被膜の形成方法によって得られるものである。
【0059】
本発明の導電性被膜は、180℃にて1分間の熱処理を施したものにおいてその体積抵抗率が、12×10−6Ω・cm以下であるのが好ましく、10×10−6〜8×10−6Ω・cmであるのがより好ましい。
本発明の導電性被膜は、細線でも精度よく印刷することができ、ニジミがなく、版離れがよく、印刷性に優れる。
本発明の導電性被膜の用途としては、例えば、電子回路、アンテナの回路が挙げられる。
【実施例】
【0060】
以下、実施例を用いて、本発明について詳細に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0061】
1.評価
(1)チクソインデックス
得られた導電性組成物について、23℃、65%RH(相対湿度)の条件下において、E型粘度計にて3°コーンを用いて、回転速度1r.p.mおよび10r.p.mでの粘度を測定した。そして、1r.p.mでの粘度と10r.p.mでの粘度との比(1r.p.mでの粘度/10r.p.mでの粘度)からチクソインデックスを求めた。結果を第1表に示す。
【0062】
(2)体積抵抗率
基材としての厚さ125μmのPETフィルム(商品名:ルミラーS56、東レ社製)に得られた導電性組成物をスクリーン印刷し、180℃で1分間乾燥させて組成物を被膜化させ、被膜を有するサンプルを作製した。得られたサンプルを用いて、低抵抗率計(ロレスターGP、三菱化学社製)を用いた4端子4探針法によって、被膜の体積抵抗率を測定した。結果を第1表に示す。
なお、第1表中、体積抵抗率の結果としての「測定不能」とは、組成物が被膜化しなかったため、体積抵抗率を測定できなかったことを示す。
【0063】
2.導電性組成物の調製
第1表に示す成分を第1表に示す量(単位:g)でボールミルに投入して、24時間酸化銀を粉砕させながら混合し、導電性組成物を調製した。
【0064】
【表1】

【0065】
【表2】

【0066】
第1表に示す成分の詳細は以下のとおりである。
・酸化銀:東洋化学工業社製、以下同様。
・第二級脂肪酸銀塩:α−テルピネオール(東京化成工業社製)60g中に、2−メチルプロパン酸(関東化学社製)30.5gと酸化銀40gとを加えて混合物とし、この混合物をボールミルで12時間混練することによって得られた2−メチルプロパン酸銀塩
・脂肪酸銀塩:α−テルピネオール(東京化成工業社製)60g中に、ステアリン酸(関東化学社製)97gと酸化銀40gとを加えて混合物とし、この混合物をボールミルで12時間混練することによって得られたステアリン酸銀塩
・ステアリン酸:関東化学社製
・パルミチン酸:和光純薬工業社製
・ミリスチン酸:和光純薬工業社製
・ラウリン酸:関東化学社製
・カプリン酸:商品名LUNAC10−98、花王社製
・カプリル酸:商品名LUNAC8−98、花王社製
・脂肪酸1:下記式(4)で表される化合物、リカシッドBT−W、新日本理化社製
【0067】
【化5】

【0068】
・ペンタン酸:関東化学社製
・脂肪酸2:下記式(5)で表される化合物、リカシッドTH−W、新日本理化社製
【0069】
【化6】

【0070】
・脂肪酸3:下記式(6)で表される化合物、リカシッドHH−W、新日本理化社製
【0071】
【化7】

【0072】
・溶媒:α−テルピネオール、東京化成工業社製
【0073】
第1表に示す結果から明らかなように、炭素原子数8以上の脂肪酸および/または炭素原子数8以上の脂肪酸銀塩を含有しない比較例1は、チクソ性に劣った。
また、炭素原子数8未満の脂肪酸を含有する比較例2、炭素原子数8以上の脂肪酸以外の化合物を含有する比較例3、4は、チクソ性に劣り、組成物が被膜化しなかった。
これらに対して、実施例1〜11の組成物はチクソ性に優れ、低温、短時間の熱処理において得られる被膜の電気抵抗が低かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化銀と、炭素原子数7以下の第二級脂肪酸銀塩と、炭素原子数8以上の脂肪酸および/または炭素原子数8以上の脂肪酸銀塩と、溶媒とを含有する導電性組成物。
【請求項2】
前記酸化銀と、前記第二級脂肪酸銀塩との合計質量と、前記炭素原子数8以上の脂肪酸および/または前記炭素原子数8以上の脂肪酸銀塩の質量との比が、100/0.5〜100/20である請求項1に記載の導電性組成物。
【請求項3】
前記第二級脂肪酸銀塩が、2−メチルプロパン酸銀塩である請求項1または2に記載の導電性組成物。
【請求項4】
前記溶媒が、α−テルピネオールである請求項1〜3のいずれかに記載の導電性組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の導電性組成物を基材上に塗布して塗膜を形成する塗膜形成工程と、前記塗膜を熱処理して導電性被膜を得る熱処理工程と、を具備する導電性被膜の形成方法。
【請求項6】
前記熱処理工程において、前記塗膜を熱処理する際の温度が、100〜250℃である請求項5に記載の導電性被膜の形成方法。
【請求項7】
請求項5または6に記載の導電性被膜の形成方法により得られる導電性被膜。

【公開番号】特開2007−317535(P2007−317535A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−146587(P2006−146587)
【出願日】平成18年5月26日(2006.5.26)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】