説明

導電性膜

【課題】帯電防止材、抗菌材及び食品の冷凍保存に適した導電性膜の提供。
【解決手段】酸化亜鉛粒子及び/又は酸化チタン粒子を親水性バインダーに分散させたバインダー溶液を紙又は不織布からなる基材に塗布又は含浸させてなるシート抵抗が10Ω/□〜1012Ω/□である導電性膜。この導電性膜で食品を包装し電場中で冷却して過冷却状態とし、電場をなくして急速に凍結させることにより、大氷結晶の生成を抑制して良好な凍結状態を形成し、食品を鮮度よく凍結保存することができる。また、この導電性膜は耐電防止材、抗菌材としての用途がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化亜鉛粒子を含有する導電性膜に関し、より詳細には、食品包装容器、食品弁当箱などの食品包装材、あるいは壁紙、敷き材等の建材、あるいは主にプリント基板・電子部品・光学機器などの静電気やホコリを嫌う物品のための100℃以下で十分な耐熱性を有する梱包・包装材、更には靴の中敷き、使い捨てシーツなどの抗菌性を有することが望まれる物品に適した導電性膜に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の導電性膜は種々の用途を有するが、特に好ましい用途は食品包装材としての用途であるので、まず、食品包装材の従来技術について述べる。
最近の消費者の健康志向などを背景とした生鮮野菜への根強いこだわりや、食品の鮮度保持に対する意識の高まり、コールドチェーンの発達、女性の就労率の増加に伴う家事時間の減少及び食生活の多様化等を背景として、鮮度保持、長期保存及び調理の簡便性等の観点から、冷凍状態又は冷蔵状態での食品の流通・保存・販売が急激に増加している。そして、このような冷凍食品需要の高まりの中で、冷蔵庫の本質機能としてこれら食品の新鮮保存に対する要望が強くなっており、2004年度の家庭用冷凍冷蔵庫の需要は、年間で約440万台が見込まれ、ここ数年では、400L以上の大型冷蔵庫の構成比が増加する傾向がある。
【0003】
食品の冷凍保存に適した食品包装材に関しては、特許文献1に、低温下でも高い弾性率及び優れた耐低温衝撃性を兼ね備えた合成樹脂シートが開示されており、また、特許文献2に、包装材に防曇剤を配合して防曇性を付与することにより、冷蔵温度範囲においても、被包装物である食品に含まれる水分がフィルム面に凝結したり、あるいはフィルムが曇ったりして被包装物が鮮明に見えなくなるという欠点を解消したフィルムが開示されている。
しかしながら、これらのシート又はフィルムは食品そのものの凍結状態を改善して食品の鮮度を保持することを目的とするものではない。
【0004】
特許文献3には、野菜類、果実類、穀物類、ナッツ類、活魚、貝類等の呼吸をしている食品類の生体を0℃以下の低温度帯で保存すると共に、乾燥、加水、圧力、光線、雪、音波等によるストレス処理を行うことによって食品類の生体内に各種旨味関連成分を生成分泌させ未熟のものを完熟に、旬の味でないものを旬の味にし、旨味を向上させる方法が提案されている。この方法は未凍結温度より低い温度帯では、組織が凍結破壊し、品質の劣化とともに旨み向上効果がなく好ましくないことから、0℃以下でかつ食品が凍らない未凍結温度領域で食品を保存するというものである。
しかしながら、上記の未凍結温度領域での保存では、細菌の活動を抑えることによってある程度の期間は鮮度が維持されるが、長期保存することはできない。長期保存のためには−15℃以下の凍結保存が必要であり、長期保存のために食品を凍結しても食品の細胞組織が破壊して品質を劣化させることがないような凍結技術が必要となっている。
【0005】
ところで、生鮮食料品を始め殆どの食品は水分を多量に含んでおり、食品等の内部における水は、食品を構成する生体高分子などに直接結合している結合水や、自由水として存在しているが、冷却していくと氷の結晶が生成する温度帯(最大氷結晶生成帯と呼ばれる0〜−7℃の温度領域)で大部分が氷の結晶を成長させる。そして、例えば30分以上かけて最大氷結晶生成帯を通過するように食品を凍結(緩慢凍結)させた場合、細胞内の水による氷の結晶が大きくなり、細胞膜や細胞壁が破壊され、それに伴い水分の分離や移動が起こり、解凍時のドリップ(ここでは、“流出する旨み成分”を指す)もより多くなってしまい、素材の鮮度を維持する目的を達成できないばかりか、細胞が傷ついたことによる外観の変化も招いてしまう。
従って、食品を凍結させる場合、氷の結晶が生成する最大氷結晶生成帯をできるだけ早く通過して急速に冷凍させる必要がある。
【0006】
そこで、従来から、食品の急速冷凍を可能にする種々の方法が提案されている。
特許文献4〜6には、最大氷結晶生成帯を急速に通過する技術として、アルコールの比較的高い熱伝導率を冷媒として利用した液体凍結、あるいはブライン凍結を一般の冷凍庫に合わせこむ技術がある。
【0007】
また、特許文献7には、不凍液中に被冷凍物を浸漬して冷凍するブライン冷凍方法においては、ブライン液の熱伝導率が空気のそれより一桁大きいため、凍結速度が速く、最大氷結晶生成帯を通過する時間が短くなる利点があるが、水分の多い食品や、組織(細胞)の弱い、わさび、鶏肝、魚の白子等や赤身と脂身のように凍結温度差のある食品等の冷凍には、解凍時の形くずれや、組織破壊によるドリップが発生し、風味、歯ざわりや舌触りに係る食感等の品質を低下させる問題がある殊に鑑みて、不凍液に電場を付与して冷凍を行うことにより、食感、色調に優れ、ドリップの少ない冷凍食品とすることができ、また水分の多い、組織(細胞)の弱い食品の良好な冷凍処理を可能にすることについての記載がある。
しかしながら、このような不凍液などの冷媒を組込んだ冷凍庫はコスト的に高価であること、アルコールの攪拌が難しく、その結果、大量に凍結することができないなど、大量に凍結する必要がある業務用での利用には課題がある。
【0008】
一方、業務用としては既に一般化しているマイナス60℃といった大きな温度差で、短時間で冷凍する技術がある。しかし、当該技術には、強力な冷凍機が必要であり、冷凍装置のコストが高いといった課題をもつ。東芝製品GR−NF417GあるいはGR−NF467Gのように、急速冷凍時には、マイナス約40℃の吹き出し冷気を用いた急速凍結技術がある。このような技術では、Digital Signal Processor(DSP)インバータによるきめ細かな動力制御を行うことで、省エネを実現するなど工夫のある一方で、その周辺の技術開発コストがかかるなどの課題をもつ。
【0009】
特許文献8では、食品収納時から電場処理室内が0℃以下に冷却される迄の時間帯に高圧電源に通電することで食品中の水を一時的に配向せしめ、自由水から結合水にすることにより食品温度が一時的に−5℃になっても凍結しないようにすることが記載されているが、これは収納から2〜3日後に食するためのものであって、凍結することによる結晶の成長をなくし、細胞の破壊の危険性をなくし、かつ、解凍の手間が省くというものであり、長期保存を目的としたものではない。
また、この装置は(i)0〜マイナス5℃に温度調節される低温室の一部または全部とする電場処理室、(ii)当該処理室に高電圧電極と、これに対向して配設された平板電極、(iii)前記高電圧電極と平板電極に高電圧を付加する高圧電源から成る構成を備えており、具体的には高電圧の範囲を1kV以上とし、電場処理室内に電導性物質を満載しても電気容量は1mW/mを越えないように高圧電極と電場処理室内壁面とが絶縁されている冷蔵庫であり、電極から及ぼされる電場雰囲気は高電圧ほど影響範囲が広く、低電圧になるほど影響範囲が狭くなるので、実用上はかなり高い電圧を必要としているため、業務用としては適当でなく、また、高電圧を発生させるための装置や高い電圧に対する安全の面に課題が残る。
【0010】
特許文献9には、冷凍庫の内部空間に、経時的に変動する磁場または電場を発生させ、内部空間に位置した物体に含まれる水分中の水分子や、イオンに振動を付与することにより、電場又は磁場の作用により被冷凍物体の水分の氷結温度を降下させて水分の凍結を抑制しつつ物体を通常の氷結温度以下に過冷却した後、磁場または電場の発生若しくは変動を停止することによって被冷凍物体を低温下で瞬時に冷凍させて大氷結晶の生成を抑制し、食品等を冷凍保存する際の水分の分離や組織の破壊を抑えることによって食品の鮮度や風味を損なわずに冷凍できる冷凍方法及び冷凍庫が開示されている。
しかしながら、この方法においても具体的な電圧としては1000V程度の交流高電圧を印加しており、やはり、一般の業務用には適したものではない。
【0011】
次に本発明の導電性膜の他の用途である帯電防止材の従来技術について述べる。
帯電防止材としては一般に難燃硬質塩化ビニールシートが用いられている。
この難燃硬質塩化ビニールシートは、特殊配合技術により、難燃性・耐熱性を高めた硬質塩化ビニールシートに対し、精密カレンダー技術を用いて金属板や金属箔を貼り合わせた複合商品である。一般の硬質塩化ビニールシートに比べ、難燃性・耐熱性に優れた帯電防止材や電磁波(より長波長側)シールド材として使用できる。シート抵抗は、ほぼ5×1011Ω/□である。
また、帯電防止エアーパッキンは通常のエアーパッキンに帯電防止剤を練りこんだ商品である。空気を閉じ込めた気泡緩衝材のため、クッション性に優れ、内容物を外側からの衝撃より守ることに特徴がある。主にプリント基板・電子部品・光学機器等の静電気やホコリを嫌うものの梱包・包装に最適である。シート抵抗は、1010Ω/□台である。
【0012】
上記したように、シート抵抗が1010Ω/□台である帯電防止材としては難燃硬質塩化ビニールシート及び帯電防止エアーパッキンが公知であるが、これらは廃棄処理に手間がかかる。特に前者は、樹脂と金属とから成るため廃棄やリサイクルに工夫を要するという欠点がある。
【0013】
次に本発明の導電性膜の他の用途である抗菌材の従来技術について述べる。
特許文献10には、酸化亜鉛とグリシン、アラニン、フェニルアラニン、グルタミン酸塩及びサルコシンの群から選ばれるアミノ酸とを有効成分とする抗菌性消臭剤が、特許文献11には、オキソリニック酸と酸化亜鉛とを含有する抗菌剤組成物が、特許文献12には、二酸化チタンと酸化亜鉛とを含有するシリカ膜を表面に有する紙を殺菌用に用いることが、特許文献13には、超微粒子状の酸化亜鉛と酸化ジルコニウム超微粒子との混合物とバインダーからなる抗菌性コーティング剤がそれぞれ記載されている。しかしながら、これらは他の薬剤と併用するものであり、本件発明におけるように酸化亜鉛を単独で使用して紙又は不織布からなる基材に分散含有させて導電性膜としたものではない。
【0014】
【特許文献1】特開2000−336182号公報
【特許文献2】特開2002−20553号公報
【特許文献3】特開平7−115952号公報
【特許文献4】特開2005−9826号公報
【特許文献5】特開平9−94082号公報
【特許文献6】特開平6−153888号公報
【特許文献7】特開2001−292753号公報
【特許文献8】特許第3698776号公報
【特許文献9】特開2001−86967号公報
【特許文献10】特開2006−26156号公報
【特許文献11】特開2002−284601号公報
【特許文献12】特開平10−237794号公報
【特許文献13】特開平8−231897号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、従来技術の上記の問題点に鑑みて、簡便かつ安全な方法で、水分の分離や組織の破壊を抑え、鮮度や風味を損なわずに食品を凍結するための導電性膜を提供することを目的とする。また、本発明は、高い導電性を有し、廃棄処理も容易である導電性膜を提供することを目的とする。更に本発明は、高い抗菌性能を有する抗菌性導電膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者等は上記課題を解決するべく鋭意検討を進めた結果、紙又は不織布と酸化亜鉛及び/又は酸化チタンと親水性バインダーを主成分とする導電性膜を用いることにより上記課題が解決できることを見出して本発明を完成した。
すなわち、本発明は以下に記載する通りのものである。
(1) 紙又は不織布からなる基材と、この基材に塗布又は含浸させた酸化亜鉛粒子及び/又は酸化チタン粒子を分散含有する親水性バインダーとからなる導電性膜。
(2)前記親水性バインダーが、−COOM基含有の酢酸ビニル-マレイン酸共重合体化合物、親水性セルロース誘導体、ポリビニルアルコール誘導体、天然高分子化合物及び親水基含有ポリエステル誘導体よりなる群から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする上記(1)に記載の導電性膜。
(3) 前記親水性バインダーが添加剤として、IA族金属元素、IIIB族金属元素及びIVB族金属元素、よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を金属単体あるいはその酸化物の状態で含むことを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の導電性膜。
(4) 前記添加剤がアルミニウム、ガリウム、シリコン及びリチウムよりなる群から選ばれる少なくとも一種の元素の金属単体あるいはその酸化物であることを特徴とする上記(3)に記載の導電性膜。
(5) 前記酸化亜鉛粒子が、酸化亜鉛微粉末の1次粒子が集合して2次粒子を形成してなる酸化亜鉛粒子であることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の導電性膜。
(6) 酸化亜鉛粒子及び/又は酸化チタン粒子と親水性バインダーとからなる混合物が紙又は不織布を構成する繊維間に存在していることを特徴とする上記(1)〜(5)の何れかに記載の導電性膜。
(7) シート抵抗が10Ω/□〜1012Ω/□であることを特徴とする上記(1)〜(6)の何れかに記載の導電性膜。
(8) 上記(1)〜(7)のいずれかに記載の導電性膜からなる食品包装材。
(9) 上記(1)〜(7)のいずれかに記載の導電性膜からなる食品用弁当箱。
(10)上記(1)〜(7)のいずれかに記載の導電性膜からなる抗菌材。
(11) 上記(1)〜(7)のいずれかに記載の導電性膜からなる帯電防止材。
(12) 上記(1)〜(7)のいずれかに記載の導電性膜によって水分を含有する物体を包装し、電場中で氷結温度以下に冷却して過冷却状態とした後、電場をなくして物体を瞬時に凍結させることを特徴とする水分を含有する物体の凍結方法。
(13) 前記物体が食品又は医療用臓器であることを特徴とする上記(12)に記載の凍結方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の導電性膜を用いて食品を包装することで、冷凍に際して電場を印加したとき導電性膜が電極として働き、食品近傍から電場の影響を与えることにより、数10Vという弱い電圧下で食品中の水分を過冷却状態とし、次いで電場をなくすことによって良好な凍結状態を形成し、食品を鮮度よく凍結保存することができる。
また、本発明の導電性膜は帯電性防止材として有効に機能し、また毒性がないため廃棄しても環境問題を引き起こすという問題もない。
更に本発明の導電性膜は、汎用されている粒子径の酸化亜鉛、酸化チタンを用いることによっても優れた抗菌性を示すので、安価な抗菌材として用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の導電性膜について以下詳細に説明する。
本発明の導電性膜は、基材としての紙又は不織布と、酸化亜鉛及び/又は酸化チタンと親水性バインダーとを主たる構成成分として含む。
基材としての紙又は不織布の材料には特に制限はなく、天然素材又は合成素材のいずれもが使用できる。
【0019】
また、親水性バインダーとしては、−COOM基含有の酢酸ビニル-マレイン酸共重合体化合物又は親水性セルロース誘導体(例えばメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース等)、ポリビニルアルコール誘導体(例えば酢酸ビニル、酢酸ビニル-ビニルアルコール共重合体、ポリビニルアセタール、ポリビニルホルマール、ポリビニルベンザール等)、天然高分子化合物(例えばゼラチン、カゼインアラビアゴム等)、親水基含有ポリエステル誘導体(例えばスルホン基含有ポリエステル共重合体)などを含む親水性バインダーが使用できる。特に、酢酸ビニル系バインダーが好ましく使用できる。
疎水性バインダーの場合には、粉体酸化亜鉛同士の引力が効かず、粉落ちなどが生じやすいので、バインダーとしては、前記、親水性バインダーが望ましい。
【0020】
本発明における親水性バインダーは、基材上又は基材中における酸化亜鉛粒子又は酸化チタン粒子等の導電性粒子同士のネットワークの形成実現にその役割がある。例えばグラビア塗布法によって塗布した紙あるいは不織布上の導電性粒子は、その一部が紙の層を形成する繊維と繊維との間にバインダーとともに浸入する。その結果、酸化亜鉛粒子と繊維との結合体が形成され、前記の酸化亜鉛粒子のネットワークと紙の層との密着性向上を実現させる。
【0021】
本発明においては、シートに導電性を付与するために酸化亜鉛及び/又は酸化チタンを用いる。酸化亜鉛、酸化チタンは導電性が良好であると共に白色であるためシートへの着色印刷に適しているからである。特に酸化亜鉛は安価であり、また、廃棄しても環境に影響を与えないという利点があるため好ましい。
【0022】
本発明の導電性膜には、酸化亜鉛、酸化チタンと共に必要に応じて他の導電性粒子を添加することもできる。この導電性粒子は導電性膜の導電性を増加させるために添加されるものであり、具体的には、IA族金属元素とIIIB族金属元素とIVB族金属元素からなる群のうちから選ばれた少なくとも1種を添加することができる。好ましくはアルミニウム、ガリウム、リチウムを添加することができる。またその添加量は酸化亜鉛及び/又は酸化チタン100重量部に対して1〜15重量部である。
【0023】
次に本発明の導電性膜の製造方法について述べる。
本発明の導電性膜は、酸化亜鉛粒子及び/又は酸化チタン粒子を親水性バインダーに分散してなるバインダー液を紙又は不織布の基材に塗布又は含浸することによって得ることができる。
【0024】
本発明の導電性膜を製造するには、まず、酸化亜鉛粒子等の導電性粒子を親水性バインダーの溶剤溶液中に添加して混合分散させてバインダー混合液を調製し、このバインダー混合液を基材に塗布又は含浸する。塗布又は含浸は、ナイフコータ、ドクタコータ、ワイヤーバー、エアブラシ等を用いる方法によって行うことができる。
【0025】
図6は後述する実施例で用いた基材に親水性バインダーの混合液を塗布するために用いたグラビア塗工システムの概要を示す図である。
基材原反1をアルミローラ4を介してグラビアロール2に導いて塗布用溶液3を基材に塗布し、これを乾燥機5に導いて乾燥させた後、エキスパンダで張力を付加して巻き取ることによって導電性膜を製品7として得る。
【0026】
次に、本発明の導電性膜を食品の包装材、特に食品の冷凍保存用シートとして用いて食品を凍結する方法について説明する。
本発明の凍結方法は上記特許文献7に記載の凍結方法の原理を利用したものである。
すなわち、特許文献7に記載の凍結方法は、被凍結物体に電場を与えることによって被冷凍物体の水分の氷結温度を降下させて水分の凍結を抑制しつつ物体を通常の氷結温度以下に過冷却した後、磁場または電場の発生若しくは変動を停止することによって過冷却状態を解き、被凍結物体を低温下で瞬時に冷凍させて大氷結晶を生成することなく凍結させるというものである。しかしながら、この方法は1000V程度の高電圧を必要とする。
これに対し、本発明の導電性膜によって食品を包装して冷凍装置又は冷凍庫に入れると、数10Vという商用電源の電圧よりも低い電圧の電場をかけるだけで、食品中の水分が過冷却状態となり、次いで電場をなくすことによって瞬時に食品中の水分が大氷結晶を生成することなく凍結し、特許文献7に記載の方法におけると同様の効果を奏することができる。
印加電圧は高いほど好ましいが、実用性の点から数V〜100Vの範囲が好ましい。もちろん100Vを超える電源であればより効果的である。
【0027】
なお、ここで「過冷却」とは、物質を冷却していき凝固点に到達しても結晶化しない現象を指す(岩波理化学辞典より引用)。結晶化には長距離相互作用が必要不可欠であり、長距離相互作用は大きな範囲で、秩序化を促進させる。一方、電場や磁場といった環境下では、電場や磁場の向きに応じて水分子は動きに制約を受け、その結果として、短距離相互作用に留まる。この極端な例がアモルファスである。
本発明の導電性膜が前記の効果を奏するメカニズムは次のようなものであると推察される。
すなわち、前記の効果は、本発明の導電性膜によって食品を包装することで、導電性膜が電極として働き、食品近傍から食品に対して電場の影響を与え、電場による効果を数10Vという弱い電圧でも伝達することができることによって奏されると考えられる。
【0028】
前記の効果を得るためには、包装材は、導電性のあるシートであればよく、アルミ箔などの金属箔、金属箔と積層一体となった樹脂や紙などのシート、金属粉末を含む樹脂フィルム、不織布や布に導電性のある粉末を塗布したものなども同様の機能を持つと考えられる。しかしながら本発明では、パルプをベースとする紙を選択してその紙に消臭効果、抗菌効果を有し、しかも無害な導電性粉末(酸化亜鉛、酸化チタン)を塗布することで、最終的に廃棄物として扱われる包装材が、焼却前のある一定の時間内では、悪臭、雑菌発生などを抑制し、焼却する場合には、有害な物質を発生しないという効果をも併せ持つのである。
【0029】
本発明の導電性膜は前記のような優れた特性を併せ持つものであるが、その用途が箱の場合には強い強度や十分に硬いといった特性を備えるものを、また、用途が包装用の場合には、扱いやすい厚さと、印刷特性の優れるものを紙、不織布の素材として選択することが望ましい。
また、本発明の導電性膜を用いた凍結方法は食品に限らず、細胞を破壊することなく凍結保存する必要がある例えば医療用臓器の凍結保存などにも適用できる。
【0030】
また、本発明の導電性膜は壁紙、敷き材などの建材、あるいは主にプリント基板・電子部品・光学機器等の静電気やホコリを嫌う物品のための100℃以下で十分な耐熱性を有する梱包・包装材としても用いることができる。
本発明の導電性膜は紙と親水性バインダーと酸化亜鉛粒子及び/又は酸化チタンとを少なくとも主たる構成要素としているので、紙として天然素材を用いた場合には、燃えるゴミとして容易に廃棄することができる。
【0031】
本発明の導電性膜は、汎用されている粒子径の酸化亜鉛、酸化チタンを用いて、これを接着剤により紙又は不織布からなる基材に塗布又は含浸させることにより、従来の抗菌材のように、他の有機性の抗菌剤成分と併用することなく、また、高価な超微粒子状のものを用いることなく優れた抗菌性を示すことができるので、安価な抗菌材として利用性が高い。
【実施例】
【0032】
以下に、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
以下に示す実施例1〜7では本発明の導電性膜のシート抵抗値を明らかにし、実施例3、5では本発明の導電性膜の食品包装材としての作用効果を明らかにする。
実施例1〜7で使用した酸化亜鉛粉末は、すべて、ハクスイテック株式会社製、商品名:酸化亜鉛23−Kである。平均粒径は0.2μm、体積抵抗率は150Ωcmであり、添加剤としてアルミニウムを1重量%程度添加した。
まず、実施例において用いた測定方法について述べる。
<シート抵抗>
導電性膜のシート抵抗の測定には高抵抗計HIRESTA IP(MCP-HT260 三菱油化)を用い、試料上の3点について500Vを印加測定し、その中央の値を代表値とした。
【0033】
[実施例1]
(初回試験)
坪量(紙・板紙の基準となる重さを表し、単位面積あたりの質量)80g/mの“紙ニューとき”(北越製紙株式会社製、商品名:ニューとき)に対して、酸化亜鉛粉末を240gと酢酸ビニル系バインダー(日本合成化学工業株式会社製、固形分50%)1800gとノントルエン系有機溶剤(大阪印刷インキ製造株式会社製、商品名:GOF-V♯1)3000gを混合したものを、エアブラシを用いて塗布し、塗布量35.8g/mである導電性膜を得た。この導電性膜のシート抵抗は1.43×10Ω/□であった。また、酸化亜鉛未塗布の場合のシート抵抗は9.81×1011Ω/□であった。
【0034】
[実施例2]
(連続機械加工試験)
坪量155g/mの“紙NPiフォーム135(日本製紙株式会社製、商品名:NPiフォーム)”に対して、酸化亜鉛2600gと酢酸ビニル系バインダー(日本合成化学工業株式会社製、固形分50%)1600gとメタノール3000gを混合したものを、グラビア深度200μm、150μm、60μmのグラビアロールを用いて塗布し、おのおの塗布量32.6g/m、26.6g/m、14.4g/mである導電性膜を得た。
この導電性膜のシート抵抗は、それぞれ、1.40×10Ω/□、1.39×10Ω/□、3.18×10Ω/□であった。また、酸化亜鉛未塗布の場合のシート抵抗は9.81×1011Ω/□である。
【0035】
[実施例3]
(弁当箱)
坪量155g/mの“紙NPiフォーム135” (日本製紙株式会社製、商品名:NPiフォーム)に対して、酸化亜鉛1500gと酢酸ビニル系バインダー(日本合成化学工業株式会社製、固形分50%)3000gとメタノール5000gを混合したものを、グラビア深度60μmのグラビアロールを用いて塗布し、塗布量4.1g/mである導電性膜を得た。
この導電性膜のシート抵抗は5.50×1010Ω/□であった。また、酸化亜鉛未塗布の場合のシート抵抗は9.81×1011Ω/□であった。
次に本サンプルで、B5版ほどの面積、高さ3cmをもつ弁当箱を作成し、マイナス15℃設定の冷凍庫に、商用電源から変圧器を介して30Vに調整された片方の端子を封鎖し、もう片方の端子を冷凍庫内に置かれた厚さ1mmのポリエチレン製絶縁板の上に置かれたアルミニウム製バットに被覆線で接続し、これら2つの端子間に電圧を与えられる冷凍実験装置を作製した。試作した弁当箱に、ご飯とうなぎの蒲焼をうな重の形で入れ、上記アルミニウム製バットの上にのせて30Vを印加して冷凍し、熱電対で測定しながら、マイナス7℃に達した後、印加電圧を切り、その後、3時間ほど冷凍状態を保った。解凍後試食した結果、良好な食味であった。本発明による弁当箱では、うな重を冷凍、解凍したものは、ドリップも少なく、その結果、食品の見かけも冷凍前と変化せず、味も良好であることがわかった。
【0036】
[実施例4]
(親水性のない不織布)
坪量50g/mと100g/mのPP製メルトブロー不織布(ニッポン高度紙工業株式会社製)に対して、酸化亜鉛300gと酢酸ビニル系バインダー(日本合成化学工業株式会社製、固形分50%)600gとメタノール1000gを混合したものを、ワイヤーバーを用いて、おのおの塗布量33.5g/mと30.4g/mの導電性膜を得た。
この導電性膜のシート抵抗はいずれも1×10Ω/□以下であった。また、酸化亜鉛未塗布の場合のシート抵抗は5.5×1013Ω/□である。
【0037】
[実施例5]
(耐水性和紙)
坪量14g/mの和紙(森製紙株式会社製、商品名:パーマネント紙)に対して、酸化亜鉛300gと酢酸ビニル系バインダー(日本合成化学工業株式会社製、固形分50%)600gとメタノール1000gを混合したものを、グラビア深度25μmおよびグラビア深度60μmのグラビアロールを用いて塗布し、塗布量1.9g/mおよび9.2g/mである導電性膜を得た。
この導電性膜のシート抵抗は1.81×1011Ω/□、およびで3.00×1010Ω/□であった。また、酸化亜鉛未塗布の場合のシート抵抗は9.81×1011Ω/□であった。本実施例では、帯電防止材としての機能は格別でないが、環境安全性については効果がある。
本サンプルによる冷凍効果を試みた。マイナス15℃設定の冷凍庫に、商用電源から変圧器を介して20Vに調整された片方の端子を封鎖し、もう片方の端子を冷凍庫内に置かれた厚さ1mmのポリエチレン製絶縁板の上に置かれたアルミニウム製バットに被覆線で接続する。試作したサンプルで作った袋の中に巨峰ぶどうを入れ、袋の余る部分を折りたたみ、上記アルミニウム製バットの上にのせて20Vを印加ししながら、マイナス7℃まで、冷凍し、その後、電圧を閉じた。3時間後、解凍後、試食した結果、ドリップも少なく、その結果、ぶどうの色合いなど、見かけも冷凍前と変化せず、良好な食味であった。
【0038】
[実施例6]
本実施例は、同一基材を用いた実施例2と比較するものである。酸化亜鉛の量を実施例2と比べて、およそ1桁落とし、グラビア深度も小さくすることで、塗布量を減少させた。
予想通り、シート抵抗は大きく増大することが確認された。シート抵抗は同一基材であれば、酸化亜鉛量と塗布量とが主たる制御因子であることがわかった。
(実施例6−1)
坪量155g/mの“紙NPiフォーム135” (日本製紙株式会社製、商品名:NPiフォーム)に対して、酸化亜鉛300gと酢酸ビニル系バインダーb(日本合成化学工業株式会社製、商品名:ビニロールSH、固形分50%)700gとメタノール1000gを混合したものを、グラビア深度45μmのグラビアロールで塗布し、塗布量6.4g/mである導電性膜を得た。この導電性膜のシート抵抗は、1.55×1011Ω/□であった。また、酸化亜鉛未塗布の場合のシート抵抗は9.81×1011Ω/□であった。
【0039】
(実施例6−2)
酸化亜鉛300gと酢酸ビニル系バインダーa(ビニロールSH;固形分50%)700gとメタノール1000gを混合したものを、グラビア深度45μmのグラビアロールで塗布し、塗布量6.4g/mである導電性膜を得た。この導電性膜のシート抵抗は1.705×1011Ω/□であった。また、酸化亜鉛未塗布の場合のシート抵抗は9.81×1011Ω/□である。
上記の実施例6−1〜6−2で得られた導電性膜について基材への酸化亜鉛の接着性を比較すると、酢酸ビニル系バインダーaよりも酢酸ビニル系バインダーbの方が、基材に対する酸化亜鉛微粉末の接着性を向上させる効果をもつ。
【0040】
[実施例7]
坪量355g/mの“カード紙Sカードグリーン100(王子製紙株式会社製、商品名:Sカードグリーン)”に対して、酸化亜鉛300gと酢酸ビニル系バインダー(日本合成化学工業株式会社製、固形分50%)850gと溶剤1000gとを混合したものを、グラビア深度160μmのグラビアロールを用いて塗布し、塗布量17.0g/mである導電性膜を得た。
この導電性膜のシート抵抗は8.30×1010Ω/□であった。また、酸化亜鉛未塗布の場合のシート抵抗は9.81×1011Ω/□であった。
【0041】
次にこのような1桁の導電性向上の原因を解明するために、本サンプルの電子顕微鏡像を作成して観察した。
図1、2に本サンプルの表面走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)像を、また、図3〜5に本サンプルの断面SEM像を示す。図3〜5は、亜鉛を鮮明に表示することを目的に2次電子ビームを照射してSEM像を得たものである(2次電子像)。
図1、2が示すように、紙表面に酸化亜鉛粉末(白っぽく見えている)がほぼ一様に分散されて、ネットワークを構成する形状において分布している様子がわかる。
また、図3〜5が示すように、紙のセルロース上に酸化亜鉛粉末(白く見える部分)が互いに隣接している。図1、2で表示されている酸化亜鉛粉末ネットワーク形成と共に、これが酸化亜鉛未塗布の当該サンプル紙に比べて、酸化亜鉛粉末を塗布された当該サンプル紙において、その導電性が向上する原因である。また酸化亜鉛粉末層と紙の層との界面付近では、酸化亜鉛粉末層の下にある紙の層において、構成成分である繊維と繊維との間に、酸化亜鉛粉末がバインダーとともに侵入していることがわかる。そのようなミックス構造は、酸化亜鉛粉末層と紙の層との界面における密着性を向上させる役割を担っている。
【0042】
以上の結果をまとめたものを表1に示す。なお、実施例では導電性を付与するための導電性粒子として酸化亜鉛粒子を用いたが、同様の効果は酸化チタン粒子によっても得られた。
【0043】
【表1】

【0044】
以上のように本発明の紙あるいは不織布、親水性バインダー、酸化亜鉛粒子及び/又は酸化チタン粒子から成る導電性膜は、酸化亜鉛微粉末が未塗布の場合と比較して、そのシート抵抗が、最小変化の場合では1桁ほど、最大変化の場合では6桁ほど減少している導電性膜である。このシート抵抗値は酸化亜鉛粒子及び/又は酸化チタン粒子の添加量が増えるにつれて減少する。
また本発明による導電性膜は、いずれもがそのシート抵抗値が1011Ω/□以下である。この場合、電荷の漏洩時間が1秒以下と非常に速く、静電気障害防止梱包材としての役割を果たすことが可能である。難燃硬質塩化ビニールシートは、シート抵抗が1011Ω/□の半ばであるが、これは特殊配合技術により、難燃性・耐熱性を高めた硬質塩化ビニールシートに対し、精密カレンダー技術を用いて金属板や金属箔を貼り合わせた複合商品であり、コスト高である。
【0045】
以下に示す実施例8〜15では、本発明の導電性膜の抗菌材としての作用効果を明らかにする。
実施例8〜15の導電性膜の作製方法を以下に示す。
酸化亜鉛150gとメタノール500gと酢酸ビニル系バインダー(日本合成化学工業株式会社製、商品名:ゴーセニール M50-Y0)425gとの混合物をグラビア深度200μmのグラビアロールによって基材(KP40g)に塗布し実施例8〜15の導電性膜(検体1〜8)を得た。
各実施例で用いた酸化亜鉛の種類、および塗布に用いた原料酸化亜鉛粉末の一次粒子の平均粒子径(この値は酸化亜鉛粉末製品カタログ値あるいは製造元からの仕様書から抜粋した)及び塗布量を表2に示す。
【0046】
【表2】

【0047】
[実施例8〜15]
各検体1〜8についてJIS Z2801(2000)に基づいて抗菌性試験を行った。
試験の概要は次の通りである。
<試験方法>
(試験片の調製)
製品の平らな部分を50±2mm角(厚さ10mm以内)の正方形に切り取り、これを標準の大きさの試験片とする。これらを無加工試験片は6個、抗菌加工試験片は各3個準備する。無加工試験片には、微生物の発育に影響を及ぼさない材質で、吸水性のないもので、厚さは特に規定しないが、密着性のよいフィルムとしてポリエチレンを使用する。試験片の調整に当たっては微生物汚染、製品間の相互汚染及び汚れに十分注意する。
(試験菌液の接種)
試験片を試験面を上にして滅菌済みシャーレ内に置く。所定の試験菌液をピペットで正確に0.4ml採取し、これシャーレ内の各試験片に滴下する。滴下した試験菌液の上にフィルムをかぶせ、菌液がフィルムの端からこぼれないように注意しながら試験菌液がフィルム全体に行きわたるように軽く押さえつけた後、シャーレのふたをする。
(試験菌液を接種した試験片の培養)
試験菌液を接種した試験片(無加工試験片各3個と抗菌加工試験片3個)の入ったシャーレを温度35±1℃、相対湿度90%以上で24±1時間培養する。
今回は、JISには規定されていないが、経過を知る目的で、6±1時間の培養を追加し、白癬菌は通常の生育環境を考慮して、25±1℃で培養した。
細菌としては大腸菌、黄色ブドウ球菌及び白癬菌を使用した。大腸菌及び黄色ブドウ球菌は、接種直後、35℃6時間後、35℃24時間後のそれぞれにおける生菌数を測定した。白癬菌は、接種直後、25℃6時間後、25℃24時間後のそれぞれにおける生菌数を測定した。
試験結果を表3−1〜3−3に示す。
【0048】
【表3−1】

【0049】
【表3−2】

【0050】
【表3−3】

【0051】
上記の試験結果から、本発明の導電性膜は優れた抗菌効果を示すことがわかる。
また、JISL1902(2002)に規定されているハロー法(シャーレ内の寒天培地に菌液を接種し、直径28mmの円形の試験片を、培地表面を傷つけないように培地中央に軽く置いて密着させ、37±1℃で24〜48時間培養後、試験片の周囲にできたハローと呼ばれる無菌帯の幅を測定する。)では、ハローの幅がゼロである。このときの試料の観察では、周囲にハローの発生はないが、試料上には菌が繁殖していない。このことから、酸化亜鉛は白癬菌などに対しては菌を殺す力は弱くても、菌をその上で繁殖させない力はあると考えられる。
以上、本件の実施例が示すように、導電性酸化亜鉛粉体が有する抗菌作用においては、その粒径依存性はないことが判明した。すなわち、表面積の体積に対する割合が大きいほど、抗菌性が優れるという傾向は見られず、コスト的には高価な超微粒子を用いる必要がないことが本件で明白となった。すなわち、汎用的かつコスト的に有利となる粒径の大きいものが抗菌効果からも使用できるといった産業応用上、望ましいという結果が、導電性酸化亜鉛粉体において、得られている。尚、原料に用いる酸化亜鉛粒子は、菌の大きさが数μmであること、及び二次凝集を考慮した上で、平均粒子径10nm〜5μmが望ましい。
【0052】
一方で、本発明は、いずれも安価な紙、安価な酸化亜鉛微粉末を用いており、低コスト化への効果がある。本発明においての塗布技術を壁紙やカーテンなどの樹脂に応用すれば、一般家庭やホテルなど公共な建物内における静電気障害防止として効果をもつだけでなく、酸化亜鉛微粉末がもつ防臭効果をも併せ持つ、複合機能膜となりえる。また実施例にあるように本発明は、基材が不織布のときにも導電性、防臭、抗菌効果を併せ持つことが可能である。不織布は、衣料用資材(衣料用芯地、ブラジャーカップ用芯、肩パット、イベントジャンパー他)、防護用衣料(実験着、防塵マスク他)、家具・インテリア用資材(カーペット、カーペット基布他)、フィルター(エアフィルター他)、車両用資材(フロアマット等自動車内装材、自動車用各種フィルター他)、工業用資材(研磨材、製紙用フェルト、電線押さえ巻テープ、電池セパレーター他)、医療用資材(手術着、覆布セット、お産用パット、キャップ他)、衛生材料(紙おむつ、生理用ナプキン、ガーゼ、ウェットティッシュ他)などに使用されるので、これらに前記3つの効果である、導電性、防臭、抗菌を併せ持つ製品として販売が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の導電性膜は特に食品の冷凍保存用の包装材として、また、帯電防止シートとして、プリント基板・電子部品・光学機器等の静電気やホコリを嫌う物品のための梱包・包装材として、更に、靴の中敷き等の抗菌性を有することが望まれる物品に好適に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】実施例7におけるサンプル表面での走査電子顕微鏡像を示す図である。
【図2】実施例7におけるサンプル表面での走査電子顕微鏡像を示す図である。
【図3】実施例7におけるサンプル断面での走査電子顕微鏡像を示す図である。
【図4】実施例7におけるサンプル断面での走査電子顕微鏡像を示す図である。
【図5】実施例7におけるサンプル断面での走査電子顕微鏡像を示す図である。
【図6】本発明で実施例を示すときに使用されるグラビア塗工システムの概要図である。
【符号の説明】
【0055】
1 原反
2 グラビア版
3 塗布用溶液
4 アルミローラ
5 乾燥炉
6 エキスパンダ
7 製品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
この基材に塗布又は含浸させた酸化亜鉛粒子及び/又は酸化チタン粒子を分散含有する親水性バインダーとからなる導電性膜。
【請求項2】
前記親水性バインダーが、−COOM基含有の酢酸ビニル-マレイン酸共重合体化合物、親水性セルロース誘導体、ポリビニルアルコール誘導体、天然高分子化合物及び親水基含有ポリエステル誘導体よりなる群から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項1に記載の導電性膜。
【請求項3】
前記親水性バインダーが添加剤として、IA族金属元素、IIIB族金属元素、及びIVB族金属元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を金属単体あるいはその酸化物の状態で含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の導電性膜。
【請求項4】
前記添加剤がアルミニウム、ガリウム、シリコン及びリチウムよりなる群から選ばれる少なくとも一種の元素の金属単体あるいはその酸化物であることを特徴とする請求項3に記載の導電性膜。
【請求項5】
前記酸化亜鉛粒子が、酸化亜鉛微粉末の1次粒子が集合して2次粒子を形成してなる酸化亜鉛粒子であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の導電性膜。
【請求項6】
酸化亜鉛粒子及び/又は酸化チタン粒子と親水性バインダーとからなる混合物が紙又は不織布を構成する繊維間に存在していることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の導電性膜。
【請求項7】
シート抵抗が10Ω/□〜1012Ω/□であることを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載の導電性膜。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の導電性膜からなる食品包装材。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載の導電性膜からなる食品用弁当箱。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれかに記載の導電性膜からなる抗菌材。
【請求項11】
請求項1〜7のいずれかに記載の導電性膜からなる帯電防止材。
【請求項12】
請求項1〜7のいずれかに記載の導電性膜によって水分を含有する物体を包装し、電場中で氷結温度以下に冷却して過冷却状態とした後、電場をなくして物体を瞬時に凍結させることを特徴とする水分を含有する物体の凍結方法。
【請求項13】
前記物体が食品又は医療用臓器であることを特徴とする請求項12に記載の凍結方法。

【図6】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−250522(P2007−250522A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−310988(P2006−310988)
【出願日】平成18年11月17日(2006.11.17)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年6月23日 高知新聞の朝刊(第1面)に発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(経済産業省四国経済産業局、平成17年度地域新生コンソーシアム研究開発事業(酸化亜鉛技術をベースとした多機能ハイブリッド部材の設計的創出)に関する委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(598024640)株式会社ヘイワ原紙 (2)
【出願人】(597154966)学校法人高知工科大学 (141)
【Fターム(参考)】