説明

導電性金属酸化物の後処理方法及び成膜兼後処理装置

【課題】炭素を含む導電性金属酸化物膜の電気的特性を改善する。
【解決手段】炭素を含有する導電性金属酸化物を成膜した後、導電性金属酸化物膜92に酸化作用を有する酸化性ガスを接触させる酸化性後処理工程を実行する。好ましくは、導電性金属酸化物膜92の加熱や酸化性ガスの活性化によって上記酸化作用を発現又は促進させる。酸化性後処理工程後の導電性金属酸化物膜92に対し、還元作用を有する還元性ガスを接触させる還元性後処理工程を実行する。好ましくは、導電性金属酸化物膜92の加熱や還元性ガスの活性化によって上記還元作用を発現又は促進させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、導電性金属酸化物に対して成膜後に行なう後処理方法及び成膜兼後処理装置に関し、特に有機金属化合物を含む原料を用い、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、スプレー法、ゾルゲル法などによって成膜した結晶性の導電性金属酸化物に適した後処理方法及び成膜兼後処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性金属酸化物は、フラットパネルディスプレイの透明電極や太陽電池の透明電極をはじめ、帯電防止用コーティング等の材料としても用いられ、年々需要が高まっている。代表的な導電性金属酸化物としては、ITO(Indium Tin Oxide)、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化チタンなどが知られている。この種の導電性金属酸化物は結晶性である。結晶性の金属酸化物は、原子や分子が空間的に繰り返しパターンを持った配列をしており、一般にX線程度の波長の光に対して回折格子として働き、X線回折と呼ばれる現象を引き起こす。
【0003】
導電性金属酸化物の成膜方法としては、衝突や蒸着等の物理的作用を利用した物理的成膜方法と、化学反応を利用した化学的成膜方法とに大別される。物理的成膜方法としては、真空下でのスパッタリングや、真空蒸着等が挙げられる。これら物理的成膜法では、一般に純度の高い金属酸化物の焼結体を成膜原料として用いる。化学的成膜方法としては、CVD法、スプレー法、ゾルゲル法等が挙げられる。これら化学的成膜法では、一般に有機金属化合物を成膜原料として用いている。
【0004】
導電性金属酸化物は、成膜後に電気的特性や加工性を改善するための後処理が必要となることがある。電気的特性の改善のための後処理としては、還元性処理や熱処理が多く用いられている。酸素空孔を増加させることで電気抵抗率を低下させることを狙った還元性後処理の例としては、非特許文献1の水素雰囲気下での熱処理や特許文献1の水素プラズマ処理等が知られている。導電性薄膜中のキャリア電子の移動度の増加による電気抵抗率の低下を狙った熱処理の例としては特許文献2が挙げられる。導電性薄膜への酸素吸着の抑制による電気抵抗率の低下を狙った熱処理の例としては特許文献3が挙げられる。導電性薄膜の結晶性を向上させることによる電気抵抗率の低下を狙った熱処理の例としては特許文献4が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−77456号公報
【特許文献2】特開昭63−170813号公報
【特許文献3】特開2008−53118号公報
【特許文献4】特開平3−84816号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】三重県科学技術振興センター工業研究部 研究報告 No.32(2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
スパッタリング法や真空蒸着法等の物理的成膜法は、高純度の金属酸化物の焼結体を原料とするため、導電性金属酸化物薄膜の生産コストが高い。
これに対し、CVD法、スプレー法、ゾルゲル法等の化学的成膜法は、有機金属化合物を原料とするため、導電性金属酸化物薄膜の生産コストを低くできる。しかし、有機金属化合物を原料とするため、膜の表面や結晶粒界に原料中の炭素成分に起因する有機不純物が取り込まれやすい。このような有機不純物は導電の障壁になり、膜の電気抵抗率上昇の要因になる。この種の有機不純物は、上述した還元性後処理だけでは充分に除去することが難しい。また、熱処理の場合、処理温度を有機不純物が除去される温度(例えば700℃程度)まで上昇させると、膜と基板の膨張係数の違いから膜構造が乱れ、却って電気抵抗率が上昇するおそれがある。
本発明は、かかる事情に鑑み、炭素を含有する導電性金属酸化物に対し、その電気的特性を確実に改善できる後処理方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
従来、導電性金属酸化物膜を酸化性雰囲気下で後処理すると、導電性金属酸化物膜の表面や結晶粒界で酸素の吸着が起き、この吸着酸素がキャリア電子移動の障壁となって電気抵抗率を上昇させると考えられていた。そのため、電気抵抗率を低下させる目的の場合、非酸化雰囲気下もしくは不活性雰囲気下で後処理を行なうことが望ましいと考えられていた。
しかし、発明者は、酸化性雰囲気下での処理によって、膜構造の乱れを誘起する温度まで昇温しなくても、導電性金属酸化物膜の表面や結晶粒界に存在する炭素成分を除去できることを見出した(後記実施例1参照)。さらに、酸化性後処理によって、導電性金属酸化物膜に含まれる金属と水酸基の結合体を酸化し、導電性金属酸化物膜中の水酸基濃度を減らすことができることを見出した(後記実施例1及び図5参照)。
【0009】
本発明は、かかる知見に基づいてなされたものであり、炭素を含有する導電性金属酸化物を成膜した後、前記導電性金属酸化物の膜に対して行なう後処理方法であって、
前記導電性金属酸化物膜に酸化作用を有する酸化性ガスを接触させる酸化性後処理工程と、
前記酸化性後処理工程後の導電性金属酸化物膜に還元作用を有する還元性ガスを接触させる還元性後処理工程と、
を含むことを特徴とする。
【0010】
上記酸化性後処理工程によって、導電性金属酸化物膜の表面や結晶粒界における炭素を主成分とする有機不純物を除去する第1の作用と、導電性金属酸化物膜に含まれる金属と水酸基の結合体を酸化して導電性金属酸化物膜中の水酸基濃度を減らす第2の作用とを奏することができる。上記第1の作用は、膜構造の乱れを誘起する温度(例えば700℃程度)まで昇温しなくても、比較的低温下で奏することができる。上記第1、第2の作用によって、導電性金属酸化物膜におけるキャリア電子の捕獲サイトを減らすことができ、キャリア電子の移動度を上げることができる。上記酸化性後処理工程に続いて還元性後処理工程を行なうことによって、導電性金属酸化物膜の表面を安定化でき、導電性金属酸化物膜が大気に触れても、大気中の酸素や水分が導電性金属酸化物膜の表面や結晶粒界に侵入するのを防止でき、侵入した酸素や水分がキャリア電子の捕獲サイトとなるのを防止できる。更に、還元性後処理によって、キャリア電子を持つ酸素空孔を増加させることができる。
この結果、導電性金属酸化物膜の電気抵抗率を低下させることができる。更には、導電性金属酸化物膜の電気抵抗率の経時上昇を低減することができる。
【0011】
前記導電性金属酸化物を、成膜後、大気に晒すことなく、前記酸化性後処理工程に供することが好ましい。これにより、大気中の水分をはじめとする酸素以外の成分が導電性金属酸化物に触れて不適な反応を起こすのを防止できる。或いは、大気中の酸素が導電性金属酸化物に触れて不完全な酸化膜ができるのを防止でき、その後の酸化性後処理が阻害されるのを防止できる。加熱手段で基板を加熱しながら基板の表面に導電性金属酸化物を成膜し、その後、酸化性後処理までの間、上記成膜時の残留熱によって、又は成膜終了後も加熱し続けることによって、大気中の水分が導電性金属酸化物に付着しないようにしてもよい。
【0012】
好ましくは、前記酸化性後処理工程において、プラズマ化手段、マイクロ波照射手段、紫外線照射手段の群から選択される1の活性化手段によって前記酸化性ガスを活性化し、又は前記導電性金属酸化物膜を加熱する。これによって、前記酸化作用を確実に起こさせることができる。前記酸化性ガスの活性化と前記導電性金属酸化物膜の加熱のうち何れか一方のみを実行してもよい。より好ましくは、前記酸化性ガスの活性化と前記導電性金属酸化物膜の加熱の両方を同時に実行する。
【0013】
前記酸化性後処理工程におけるプラズマ化手段は、酸化性ガスをプラズマ化して活性化する。例えば、プラズマ化手段は、少なくとも一対の電極を有し、これら電極間に電界を印加して放電を生成するとともに、電極間に酸化性ガスを導入してプラズマ化する。プラズマ化は大気圧近傍下で行なうことが好ましい。ここで、大気圧近傍とは、1.013×10Pa〜50.663×10Paの範囲を言い、圧力調整の容易化や装置構成の簡便化を考慮すると、1.333×10Pa〜10.664×10Paが好ましく、前記酸化性後処理工程及び前記還元性後処理工程では更に9.331×10Pa〜10.397×10Paがより好ましい。成膜工程では、5×10Pa〜10.397×10Paがより好ましい。
前記酸化性後処理工程におけるマイクロ波照射手段は、酸化性ガスにマイクロ波を照射して活性化する。
前記酸化性後処理工程における紫外線照射手段は、酸化性ガスに紫外線を照射して活性化する。例えば、酸化性ガスが酸素含有ガスである場合、紫外線照射によって酸素がオゾン化(活性化)される。
前記酸化性後処理工程における前記導電性金属酸化物膜の加熱温度は、膜構造の乱れを誘起する温度未満であり、好ましくは100℃〜300℃程度であり、より好ましくは200℃〜300℃程度である。前記導電性金属酸化物は、通常、ガラスや半導体ウェハ等の基板の表面に成膜されるから、前記基板を加熱することで前記導電性金属酸化物膜を加熱するとよい。
【0014】
前記酸化性ガスは、酸化性成分として、酸素(O)、亜酸化窒素(NO)、その他の酸素含有化合物を含み、好ましくは酸素(O)を含む。前記酸化性ガス中の酸素等の酸化性成分の濃度は、微量でもよいが、好ましくは5体積%以上であり、より好ましくは50体積%以上であり、一層好ましくは70体積%以上である。前記酸化性ガスが、酸素等の酸化性成分100%で構成されていてもよい。前記酸化性ガス中の酸素等の酸化性成分の濃度が100%未満の場合、酸化性ガスの残部は不活性ガスであることが好ましい。前記不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、ヘリウム等が挙げられる。前記酸化性ガスの酸素(O)の一部又は全部が、前記活性化手段にて活性化され、オゾン、酸素プラズマ、酸素ラジカルになっていてもよい。
【0015】
前記導電性金属酸化物を、前記酸化性後処理工程の後、大気に晒すことなく、前記還元性後処理工程に供することが好ましい。これにより、大気中の水分が導電性金属酸化物に触れて不適な反応を起こすのを防止できる。酸化性後処理の後、還元性後処理までの間、導電性金属酸化物を加熱し続けることによって、大気中の水分が導電性金属酸化物に付着しないようにしてもよい。
【0016】
好ましくは、前記還元性後処理工程において、プラズマ化手段、マイクロ波照射手段、紫外線照射手段の群から選択される1の活性化手段によって前記還元性ガスを活性化し、又は前記導電性金属酸化物膜を加熱する。これによって、前記還元作用を確実に起こさせることができる。前記還元性ガスの活性化と前記導電性金属酸化物膜の加熱のうち何れか一方のみを実行してもよい。前記還元性ガスの活性化と前記導電性金属酸化物膜の加熱の両方を同時に実行してもよい。
【0017】
前記還元性後処理工程におけるプラズマ化手段は、還元性ガスをプラズマ化して活性化する。例えば、プラズマ化手段は、少なくとも一対の電極を有し、これら電極間に電界を印加して放電を生成するとともに、電極間に還元性ガスを導入してプラズマ化する。プラズマ化は上記酸化性後処理工程と同様に大気圧近傍下で行なうことが好ましい。
前記還元性後処理工程におけるマイクロ波照射手段は、還元性ガスにマイクロ波を照射して活性化する。
前記還元性後処理工程における紫外線照射手段は、還元性ガスに紫外線を照射して活性化する。
前記還元性後処理工程における前記導電性金属酸化物膜の加熱温度は、200℃〜500℃程度が好ましい。還元性後処理工程に先立って酸化性後処理工程を行うことにより、還元性後処理工程における前記導電性金属酸化物膜の加熱温度を低くすることができる。前記還元性後処理工程においても前記酸化性後処理工程と同様に前記導電性金属酸化物を被膜すべき基板を加熱することで前記導電性金属酸化物膜を加熱するとよい。
【0018】
前記還元性ガスは、水素(H)、一酸化炭素(CO)、硫化水素(HS)、酸化硫黄(SOx)、ホルムアルデヒド等の還元性成分を含むことが好ましい。より好ましくは、前記還元性ガスは、水素(H)を含む。前記還元性ガス中の水素等の還元性成分の濃度は、好ましくは0.5体積%以上であり、より好ましくは1体積%以上であり、上限濃度は100%である。還元性成分が水素である場合、安全性の観点からは、還元性ガス中の水素濃度の上限は、10体積%程度が好ましく、5体積%程度がより好ましい。また、還元性ガスが酸素を含まないことが好ましい。更には、成膜対象の基板を配置する処理空間内に酸素が存在しないことが好ましい。処理空間を窒素等で置換することより酸素を完全に除外できる場合、前記還元性ガスが水素100%で構成されていてもよい。前記還元性ガス中の水素等の還元性成分の濃度が100%未満の場合、還元性ガスの還元性成分を除いた残部は、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスであることが好ましい。
【0019】
前記導電性金属酸化物は、結晶性であり、インジウム、亜鉛、チタン、スズ、カドミウム、ガリウム、アルミニウム、アンチモンから選ばれた1種類以上の金属の酸化物であることが好ましい。
【0020】
前記導電性金属酸化物は、例えば有機金属化合物を含む原料によって成膜される。その場合、導電性金属酸化物には、有機金属化合物に由来する炭素が含まれる。成膜方法としては、CVD法、スプレー法、ゾルゲル法が挙げられる。CVD法は、プラズマCVD、熱CVDを含む。
有機金属化合物として、亜鉛アセチルアセトネート[Zn(CHCOCHCOCH;Zn(acac)]、ガリウムアセチルアセトネート[Ga(acac)]等が挙げられる。
【0021】
本発明に係る成膜兼後処理装置は、炭素を含有する導電性金属酸化物を成膜し、かつ成膜後の後処理を行なう装置であって、
(a)基板を処理空間内に支持する支持部と、
(b)前記処理空間と同一の、又は前記処理空間に連なるプラズマ空間を形成する電極を含むプラズマ化手段と、
(c)前記基板を加熱する加熱手段と、
(d)前記導電性金属酸化物の原料を含む成膜用ガスと、前記導電性金属酸化物膜に対し酸化作用を有する酸化性ガスと、前記導電性金属酸化物膜に対し還元作用を有する還元性ガスとのうち1つを選択して、前記プラズマ空間に供給し、更には前記処理空間に供給するガス供給系と、
を備え、前記ガス供給系による前記選択が、前記成膜用ガス、前記酸化性ガス、前記還元性ガスの順になされることを特徴とする。
これにより、共通の処理装置を用い、成膜工程と酸化性後処理工程と還元性後処理工程を順次かつ連続的に行なうことができる。その結果、基板に導電性金属酸化物を成膜でき、さらには、成膜した導電性金属酸化物膜の導電性を高めることができる。基板を支持部で支持して処理空間内に配置した状態のまま、成膜工程から酸化性後処理工程へ移行でき、かつ酸化性後処理工程から還元性後処理工程へ移行できる。よって、工程移行時に導電性金属酸化物膜が大気に晒されるのを容易に防止でき、酸化性後処理や還元性後処理が阻害されるのを確実に防止できる。
【0022】
前記プラズマ空間および処理空間の圧力は、大気圧近傍であることが好ましい。
前記電極に電圧を供給して前記プラズマ化手段を稼働することによって、前記選択された処理ガス(成膜用ガス、酸化性ガス、又は還元性ガス)をプラズマ空間内でプラズマ化でき、プラズマ処理による成膜工程、酸化性後処理工程、又は還元性後処理工程を実行できる。前記プラズマ化手段の稼働と併行して、前記加熱手段をも稼働してもよい。
前記プラズマ化手段の稼働を停止し、かつ前記加熱手段を稼働してもよい。これにより、熱処理による成膜工程、酸化性後処理工程、又は還元性後処理工程を実行できる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、導電性金属酸化物が成膜時に炭素を含んでいても、その電気的特性を確実に改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態に係る処理装置の概略構成を成膜工程の実施状態で示す解説正面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る処理装置の概略構成を酸化性後処理工程の実施状態で示す解説正面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る処理装置の概略構成を還元性後処理工程の実施状態で示す解説正面図である。
【図4】成膜工程後の膜のX線回折法による測定結果を示し、酸化亜鉛における(002)面のピークを拡大したスペクトル図である。
【図5】X線光電子分光法による測定結果を示し、酸素の1s軌道由来のピークを拡大したスペクトル図であり、(a)は、成膜工程後(未酸化性後処理)を示し、(b)は、酸化性後処理後を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の一実施形態を説明する。
本発明は、導電性金属酸化物を成膜し、その後、この導電性金属酸化物膜に対して特性改善のための後処理を行なう。後処理は、酸化性後処理工程及び還元性後処理工程を含む。図1〜図3に示すように、この実施形態では、成膜処理工程及び後処理工程を共通の処理装置1を用いて連続的に行なう。
【0026】
導電性金属酸化物膜92(図1において仮想線)は、有機金属化合物を原料にして基板91の表面に成膜される。この実施形態では、導電性金属酸化物膜92として、例えばガリウムを含有する酸化亜鉛系の膜を成膜する。膜92の亜鉛源となる亜鉛含有有機金属化合物としては、例えば亜鉛アセチルアセトネート[Zn(acac)]を用いる。膜92のガリウム源となるガリウム含有有機金属化合物としては、例えばガリウムアセチルアセトネート[Ga(acac)]を用いる。亜鉛アセチルアセトネート及びガリウムアセチルアセトネートは、常温常圧で液体である。
【0027】
図1に示すように、成膜兼後処理装置1は、処理部10と、ガス供給系20を備えている。処理部10は、チャンバー19と、一対の電極11,12を備えている。チャンバー19内に電極11,12が収容されている。一対の電極11,12は、上下に対向する平行平板型の電極構造になっている。少なくとも一方の電極11,12の対向面には固体誘電体層(図示省略)が形成されている。一方(例えば上側)の電極11が電源13に接続されている。他方(例えば下側)の電極12は電気的に接地されている。電源13からの電圧供給によって電極11,12間の処理空間14が大気圧近傍のプラズマ空間になる。
処理部10は、プラズマ化手段ないしは活性化手段を構成する。
【0028】
処理空間14内に被処理体90が配置される。被処理体90は、基板91を備えている。基板91の上面に導電性金属酸化物膜92が形成される。基板91は、例えばガラスの板にて構成されている。下側の電極12上に基板91が載せられる。下側の電極12が基板支持部を兼ねている。電極12には加熱手段15が熱的に接続されている。加熱手段15は、電熱ヒータでもよく、電極12内に形成された温調媒体路でもよい。加熱手段15によって、電極12を介して基板91が加熱される。
【0029】
図1〜図3に示すように、成膜兼後処理装置1のガス供給系20は、ガス源21〜25と、ガス供給路28を有している。処理空間14の一端部(図1において右端部)にガス供給路28の先端が連なっている。処理空間14の他端部(図1において左端部)から排気路29が延びている。
【0030】
ガス供給路28には、処理工程に応じたガス源21〜25が選択的に接続される。図1に示すように、成膜工程では、有機金属化合物源21,22と不活性ガス源23と酸素ガス源24とがガス供給路28に接続される。図2に示すように、酸化性後処理工程では、不活性ガス源23と酸素ガス源24(酸化性成分源)とがガス供給路28に接続される。図3に示すように、還元性後処理工程では、不活性ガス源23と還元性成分源25とがガス供給路28に接続される。ガス供給系20は、処理工程に応じた処理ガスを選択的に処理空間14(プラズマ空間)に供給する。
【0031】
図1において、2つの有機金属化合物源21,22は、それぞれ気化器にて構成されている。気化器21には導電性金属酸化物膜92の亜鉛原料として液体の亜鉛アセチルアセトネートが蓄えられている。気化器22には導電性金属酸化物膜92のガリウム原料として液体のガリウムアセチルアセトネートが蓄えられている。
【0032】
不活性ガス源23には、不活性ガスとして窒素(N)が蓄えられている。不活性ガス源23のガスは、キャリアガス、希釈ガス、プラズマ生成用ガス等の役目を果たす。
図1及び図2に示すように、酸素ガス源24には、100%の酸素ガス(O)が蓄えられている。
【0033】
図3に示すように、還元性成分源25には、還元性成分として水素ガス(H)が蓄えられている。図3において、不活性ガス源23の窒素と還元性成分源25の水素とを別々に蓄えるのに代えて、窒素と水素を所定の混合比で混合した混合ガスを1つの還元性ガス源に蓄えることにしてもよい。窒素と水素の体積混合比は、好ましくはN:H=99.5:0.5〜90:10であり、より好ましくはN:H=99:1〜95:5である。
【0034】
上記構成の処理装置1による処理方法を詳述する。
[成膜工程]
図1に示すように、導電性金属酸化物膜92を形成すべきガラス基板91を電極兼基板支持部12上に設置する。加熱手段15によって、基板91の温度を100℃〜300℃程度に調節する。
【0035】
成膜工程では、2つの気化器21,22をガス供給路28に接続する。また、不活性ガス源23と酸素ガス源24をガス供給路28に接続する。成膜工程における酸素ガス源24の酸素(O)は、成膜すべき導電性金属酸化物膜92の酸素原料となる。
【0036】
不活性ガス源23の窒素と酸素ガス源24の酸素とを混合してガス供給路28へ送出する。混合ガス(N+O)中の酸素の含有量は、窒素に対し例えばO/N=60〜95vol%程度である。
【0037】
上記混合ガス(N+O)をキャリアガスとし、気化器21において上記キャリアガス中に亜鉛原料液(亜鉛アセチルアセトネート)を気化させる。気化方法は、気化器21内の亜鉛原料液の液面より上側の空間にキャリアガス(N+O)を導入し、上記液面より上側の空間内に存在する飽和亜鉛原料蒸気をキャリアガス(N+O)と混合しながら押し出す方式とする。押し出し方式に代えて、気化器21内の亜鉛原料液中にキャリアガス(N+O)をバブリングする方式を採用してもよい。亜鉛原料液を加熱して蒸発を促進させてもよく、押し出しと加熱、又はバブリングと加熱を併用してもよい。
【0038】
また、気化器22において、上記キャリアガス(N+O)にガリウム原料液(ガリウムアセチルアセトネート)を気化させる。気化方法は、亜鉛原料の気化と同様である。これにより、有機金属化合物(Zn(acac)及びGa(acac))を含む成膜用ガスが生成される。
【0039】
上記の成膜用ガスをガス供給路28から処理空間14に導入する。併行して、電源13から電極11に電圧を供給し、処理空間14内に電界を印加して大気圧グロー放電を生成する。これにより、成膜用ガスがプラズマ化される。このプラズマガスが基板9に接触して反応が起きる。これによって、基板1の表面に導電性金属酸化物の結晶を気相成長させることができる。この導電性金属酸化物は、酸化亜鉛系であり、かつガリウムを含有する。成膜した導電性金属酸化物膜のガリウム含有量は、亜鉛元素比で例えばGa/Zn=1〜5wt%程度である。
有機金属化合物を原料とする化学的成膜法を採用することで、スパッタリングや真空蒸着等の物理的成膜法よりも成膜コストを安価にすることができる。
【0040】
処理済みの成膜用ガスは、処理空間14から排気路29に排出され、無害化処理を経て大気に放出される。
【0041】
[酸化性後処理工程]
図2に示すように、導電性金属酸化物の成膜後、酸化性後処理工程を行なう。成膜工程から引き続いて酸化性後処理工程でも処理装置1を用いる。被処理体90は、処理空間14の外部ひいてはチャンバー19の外部に取り出すことなく、電極兼基板支持部12上にそのまま載置しておく。したがって、成膜工程後、酸化性後処理工程までの間、導電性金属酸化物膜92が大気に晒されることはない。これにより、大気中の水分等が導電性金属酸化物に触れて不適な反応を起こすのを防止できる。たとえ大気に晒されたとしても、成膜後、酸化性後処理までの間の被処理体90には成膜時の熱が残っているため、大気中の水分による影響は小さい。さらに、加熱手段15によって、被処理体90を成膜工程の終了後も加熱し続けることで、大気中の水分による影響をほぼ回避できる。
【0042】
酸化性後処理工程では、加熱手段15による被処理体90の加熱温度を、好ましくは100℃〜300℃程度、より好ましくは200℃〜300℃程度に調節する。この温度範囲は、膜構造の乱れを誘起する温度(700℃程度)より十分に低い。
【0043】
酸化性後処理工程では、有機金属化合物源21,22をガス供給路28から切り離す。不活性ガス源23及び酸素ガス源24については、そのままガス供給路28に接続した状態を維持する。
【0044】
酸素ガス源24の酸素(O)を不活性ガス源23の窒素(N)にて希釈し、酸化性後処理用の酸化性ガス(O+N)を得る。酸化性ガス中の酸素濃度O/(O+N)は、例えば5体積%〜100%の範囲で設定でき、好ましくは50体積%以上であり、より好ましくは70体積%以上であり、一層好ましくは約100%である。酸化性ガスが酸素100%である場合、不活性ガス源23からの窒素供給量は0である。
【0045】
酸化性ガス(O+N又はO100%)を、ガス供給路28を経て、処理空間14に導入し、処理空間14全体のガスを酸化性ガスにて置換する。チャンバー19全体のガスを酸化性ガスにて置換してもよい。併行して、電源13から電極11に電圧を供給し、電極11,12間に電圧を印加して大気圧放電を生成する。これにより、酸化性ガスがプラズマ化(活性化)され、酸素プラズマ、酸素ラジカル、オゾン等の酸素系活性種が生成される。この結果、酸化性ガスの酸化作用が発現又は促進される。
【0046】
上記酸化作用の発現又は促進のために、酸化性ガスをプラズマ化(活性化)する一方、加熱手段15を停止してもよい。これとは逆に、酸化性ガスをプラズマ化(活性化)せず、加熱手段15で被処理体90を加熱するだけでも上記酸化作用を発現又は促進可能である。この場合、電源13からの電圧供給は行わない。
【0047】
プラズマ化された酸化性ガスが、被処理体90の加熱された導電性金属酸化物膜92に接触する。これにより、導電性金属酸化物の表面や結晶界面で酸化反応(酸化作用)が起きる。この酸化反応によって、導電性金属酸化物膜の表面や結晶界面に存在する原料由来の有機不純物を除去できる。非酸素雰囲気下で有機不純物を除去する場合より加熱温度を低くでき、膜構造が乱れるのを回避できる。さらに、導電性金属酸化物膜に含まれる金属と水酸基の結合体を酸化して導電性金属酸化物膜中の水酸基濃度を減らすことができる。これにより、導電性金属酸化物のキャリア電子の捕獲サイトを減らすことができる。この結果、キャリア電子の移動度を上げることができる。
【0048】
処理済みの酸化性ガスは、処理空間14から排気路29に排出され、無害化処理を経て大気に放出される。
【0049】
[還元性後処理工程]
図3に示すように、酸化性後処理工程の後、還元性後処理工程を行なう。成膜工程及び酸化性後処理工程から引き続いて還元性後処理工程でも処理装置1を用いる。被処理体90は、処理空間14の外部ひいてはチャンバー19の外部に取り出すことなく、電極兼基板支持部12上にそのまま載置しておく。したがって、酸化性後処理工程後、還元性後処理工程までの間、導電性金属酸化物膜92が大気に晒されることはない。これにより、大気中の水分等が導電性金属酸化物に触れて不適な反応を起こすのを防止できる。たとえ大気に晒されたとしても、酸化性後処理工程後、還元性後処理までの間の被処理体90には酸化性後処理時の熱が残っているため、大気中の水分による影響は小さい。さらに、加熱手段15によって、被処理体90を酸化性後処理工程の終了後も加熱し続けることで、大気中の水分による影響をほぼ回避できる。
【0050】
還元性後処理工程では、加熱手段15による被処理体90の加熱温度を好ましくは200℃〜500℃程度に調節する。
【0051】
還元性処理工程では、不活性ガス源23をガス供給路28に接続したまま、酸素ガス源24をガス供給路28から切り離し、代わりに、水素ガス源25をガス供給路28に接続する。
【0052】
水素ガス源25の水素(H)を不活性ガス源23の窒素(N)にて希釈し、還元性後処理用の還元性ガス(H+N)を得る。還元性ガス中の水素濃度は、H/(H+N)=0.5体積%以上の範囲で設定できる。処理空間14から酸素を完全に除外できる場合、還元性ガスが水素100%であってもよく、その場合、不活性ガス源23からの窒素供給量は0である。還元性ガス中の水素は、0.5体積%〜10体積%程度が好ましく、1体積%〜5体積%程度がより好ましい。
【0053】
還元性ガス(H+N又はH100%)を、ガス供給路28を経て、処理空間14に導入し、処理空間14全体のガスを還元性ガスにて置換する。チャンバー19全体のガスを還元性ガスにて置換してもよい。併行して、電源13から電極11に電圧を供給し、電極11,12間に電圧を印加して大気圧放電を生成する。これにより、還元性ガスがプラズマ化(活性化)され、水素プラズマ、水素ラジカル等の水素系活性種が生成される。この結果、還元性ガスの還元作用が発現又は促進される。
【0054】
上記還元作用の発現又は促進のために、還元性ガスをプラズマ化(活性化)せず、加熱手段15で被処理体90を加熱するだけでもよい。この場合、電源13からの電圧供給は行わない。これとは逆に、還元性ガスをプラズマ化(活性化)する一方、加熱手段15を停止してもよい。
【0055】
上記の還元性ガスが、被処理体90の加熱された導電性金属酸化物膜92に接触する。これにより、導電性金属酸化物の表面や結晶界面で還元反応(還元作用)が起きる。この還元反応によって、導電性金属酸化物膜92の表面を安定化でき、空気中の酸素や水分が導電性金属酸化物膜92の表面や結晶粒界に侵入するのを防止して、キャリア電子の捕獲サイトができるのを防止できる。また、酸素空孔を増加させることができ、キャリア電子を充分に確保できる。
この結果、導電性金属酸化薄膜の電気抵抗率を低下させることができる。更には、導電性金属酸化物膜の電気抵抗率の経時上昇を低減することができる。
【0056】
処理済みの還元性ガスは、処理空間14から排気路29に排出され、無害化処理を経て大気に放出される。
【0057】
還元性後処理工程の終了後、被処理体90をチャンバー19から取り出す。導電性金属酸化物膜92の表面が安定化されているため、その後、大気に晒しても、導電性金属酸化物膜92が劣化するのを防止できる。
【0058】
本発明は、上記実施形態に限定されず、その要旨の範囲内において種々の態様を採用できる。
例えば、成膜兼後処理装置1のプラズマ化手段10は、被処理体90が配置される処理空間14と、電極11,12間のプラズマ空間とが同一であり、被処理体90をプラズマ空間内に配置して、プラズマを被処理体90に直接的に接触させる所謂ダイレクト方式であるが、処理空間とプラズマ空間を分離し、プラズマ空間に処理空間を連ね、プラズマ空間からプラズマガスを噴出して処理空間の被処理体90に接触させる所謂リモート方式のプラズマ化手段を用いてもよい。この場合、基板支持手段を電極12とは別に設ける。
プラズマ化手段10は、大気圧近傍下でプラズマ放電を生成するものであるが、真空下でプラズマ放電を生成するものであってもよい。
酸化性ガスまたは還元性ガスの活性化手段は、プラズマ化手段に代えて、マイクロ波を照射してガスを活性化するマイクロ波照射手段であってもよく、紫外線を照射してガスを活性化する紫外線照射手段であってもよい。
酸化性ガスの酸化性成分としては、酸素(O)やオゾン(O)に限られず、酸化作用を奏するものであればよく、或いは酸素原子を含有するガスであればよく、亜酸化窒素(NO)等を用いてもよい。
還元性ガスの還元性成分としては、水素(H)に限られず、還元作用を奏するものであればよく、一酸化炭素(CO)、硫化水素(HS)、酸化硫黄(SOx)、ホルムアルデヒド等を用いてもよい。
不活性ガス源23として、窒素に代えて、アルゴン、ヘリウム等の希ガスを用いてもよい。
【0059】
成膜工程を行う装置と後処理工程を行う装置が互いに別になっていてもよい。
酸化性後処理工程を行う装置と還元性後処理工程を行う装置が互いに別になっていてもよい。
導電性金属酸化物膜の成膜方法として、大気圧プラズマCVDに代えて、真空プラズマCVDを適用してもよく、熱CVDを適用してもよい。CVD法に限られず、スプレー法やゾルゲル法等によって導電性金属酸化物膜を成膜してもよい。スプレー法では、有機金属化合物を含む原料液を霧状にして基板に吹き付け、加熱して結晶化させる。ゾルゲル法では、有機金属化合物を含む原料液を基板に塗布し、ゾルゲル反応を起こさせて結晶化させる。
導電性金属酸化物膜に含まれる金属は、亜鉛及びガリウムに限られず、インジウム、スズ、チタン、カドミウム、アルミニウム、アンチモン等であってもよい。導電性金属酸化物膜は、酸化亜鉛系に限られず、ITO、酸化スズ、酸化チタン、酸化カドミウム、酸化アルミニウム、酸化アンチモン等であってもよい。成膜すべき膜の成分に応じて有機金属化合物原料を適宜選択する。
本発明の処理対象は、炭素を含む金属酸化物膜であればよく、有機金属化合物を原料に成膜された膜に限定されない。
【実施例1】
【0060】
本発明の実施例を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
[成膜工程]
図1に示す成膜兼後処理装置1を用いて成膜を行なった。基板91として、コーニング社製の無アルカリガラス(#1737)を用いた。キャリアガスの窒素(N)と酸素(O)の流量比は、N:O=1:5.5であった。このキャリアガスに亜鉛原料の亜鉛アセチルアセトネート[Zn(acac)]とガリウム原料のガリウムアセチルアセトネート[Ga(acac)]を気化させて混合し、成膜用ガスを得た。この成膜用ガスを大気圧プラズマ空間14に導入してプラズマ化して基板91に接触させた。基板温度は、300℃とした。これにより、基板91の表面に薄膜を気相成長させた。
【0061】
得られた薄膜の結晶性、組成、電気抵抗率を測定した。結晶性はX線回折法により測定した。その結果、図4に示すように、得られた薄膜が結晶性酸化亜鉛系膜であることが確認された。図4は、酸化亜鉛の(002)面由来のピークを拡大したものである。X線光電子分光法により膜の組成を測定したところ、膜には、亜鉛元素比でGa/Zn=1〜5wt%と推定される量のガリウムが含まれていた。さらに、膜には3%程度の炭素が含まれていた。電気抵抗率の測定は、四端針法により行なった(以下の実施例及び比較例において同様)。
この成膜工程終了段階を比較例1とする。すなわち、比較例1のサンプルは、成膜後、酸化性後処理及び還元性後処理を行なっていない。表1において、比較例1の電気抵抗率を100とした。
【0062】
[酸化性後処理工程]
次に、上記の膜に対し酸化性後処理を施した。酸化性後処理は、大気圧プラズマ処理により行なった。酸化性ガスとして、100%酸素(O)ガスを用いた。この酸化性ガスを電極11,12間の処理空間14に導入してプラズマ化し、膜に接触させた。基板温度は、300℃とした。電極11,12間への印加電圧は、Vpp=6kVとした。印加電圧の周波数は、180kHzとした。電極11,12間のギャップは、1.0mmとした。
【0063】
酸化性後処理後の膜の成分構成をX線光電子分光法により測定し、成膜後酸化性後処理前と比較した。その結果を図5に示す。図5は、酸素の1s軌道由来のピークを拡大したものである。同図(a)は、成膜後酸化性後処理前であり、同図(b)は、酸化性後処理後である。図中の斜線部が導電性金属酸化物膜中の水酸基を示すピークである。酸化性後処理を行うことで膜中の水酸基濃度が減少したことが確認された。成膜後酸化性後処理工程前の膜中の炭素含有量は3%であったのに対し、酸化性後処理工程後の膜中の炭素含有量は1%であった。
【0064】
[還元性後処理工程]
次に、上記の膜に対し還元性後処理を施した。還元性後処理は、熱処理により行なった。加熱手段15によって基板温度を500℃に調節した。この基板に還元性ガスを接触させた。還元性ガスとして、窒素95vol%及び水素5vol%の混合ガスを用いた。電源13は停止し、還元性ガスのプラズマ化はしなかった。
【0065】
還元性後処理後、膜の電気抵抗率を測定した。結果は表1に記載の通りであり、電気抵抗率を比較例1(成膜後酸化性後処理前)の2%にまで大幅に低減できた。
【実施例2】
【0066】
実施例2では、実施例1と同一内容、同一条件で成膜工程を行なった後、酸化性後処理として熱処理を行なった。加熱手段15によって基板温度を300℃に調節した。この基板に酸化性ガスを接触させた。酸化性ガスとして、100%酸素(O)ガスを用いた。処理時間は5分間とした。電源13は停止し、酸化性ガスのプラズマ化はしなかった。
続いて、実施例1と同一内容、同一条件の還元後処理工程を行なった。すなわち、還元性ガスとして窒素95vol%及び水素5vol%の混合ガスを用い、基板温度を500℃にして、膜の熱処理を行った。
その後、膜の電気抵抗率を測定したところ、表1に示すように、電気抵抗率を比較例1(成膜後酸化性後処理前)の23%にまで低減できたことが確認された。
実施例1、2の結果から、大気圧プラズマによる酸化性後処理が熱処理のみによる酸化性後処理よりも膜の導電率を高くできることが判明した。
【実施例3】
【0067】
実施例3では、成膜工程を実施例1と同一内容、同一条件で行なった。さらに、酸化性後処理工程を実施例1と同一内容、同一条件で行なった。すなわち、酸化性ガスとして100%酸素(O)ガスを用い、導電性金属酸化物膜を大気圧プラズマ処理した。基板温度は300℃とした。その後、還元性後処理工程を行った。実施例3の還元性後処理工程では、還元性ガス組成を水素0.5vol%、窒素99.5vol%とし、それ以外の条件は実施例1の還元性後処理工程と同一とした。すなわち、上記組成の還元性ガスを用い、基板温度を500℃にして膜を熱処理した。
その後、膜の電気抵抗率を測定したところ、表1に示すように、電気抵抗率を比較例1(成膜後酸化性後処理前)の6%にまで低減できたことが確認された。
実施例1〜3より、酸化性後処理を大気圧プラズマにて行なうと、還元性後処理の水素濃度が低くても、酸化性後処理を熱処理のみにて行なうよりも膜の導電率を高くできることが判明した。
【0068】
[比較例2]
比較例2では、成膜後の後処理として大気圧プラズマ処理による酸化性後処理工程のみを実行した。すなわち、実施例1と同一内容、同一条件で成膜工程を行ない、その後、実施例1と同一内容、同一条件の酸化性後処理工程(酸素100%、基板温度300℃の大気圧プラズマ処理)を行ない、かつ還元性後処理を省略した。その結果、表1に示すように、膜の電気抵抗率が比較例1(成膜後酸化性後処理前)の207%に増大した。
【0069】
[比較例3]
比較例3では、成膜後の後処理として熱処理による酸化性後処理工程のみを実行した。すなわち、実施例2と同一内容、同一条件で成膜工程を行ない、その後、実施例2と同一内容、同一条件の酸化性後処理工程(酸素100%、基板温度300℃の熱処理)を行ない、かつ還元性後処理を省略した。その結果、表1に示すように、膜の電気抵抗率は比較例1(成膜後酸化性後処理前)の104%になった。
実施例1、2及び比較例2、3より、酸化性後処理のみでは膜の導電性の改善効果が不十分又は逆効果であり、酸化性後処理と還元性後処理とを組み合わせることで導電性の改善効果を奏し得ることが確認された。
【0070】
[比較例4]
比較例4では、成膜後の後処理として熱処理による還元性後処理工程のみを実行した。すなわち、実施例1と同一内容、同一条件で成膜工程を行ない、その後、実施例1と同一内容、同一条件の還元性後処理工程(水素5vol%、窒素95vol%の混合ガス雰囲気で基板温度500℃の熱処理)を行なった。酸化性後処理工程は行わなかった。その結果、表1に示すように、膜の電気抵抗率は比較例1(成膜後酸化性後処理前)の61%になった。
【0071】
[比較例5]
比較例5では、成膜後の後処理として大気圧プラズマ処理による還元性後処理工程のみを実行した。すなわち、実施例1と同一内容、同一条件で成膜工程を行ない、その後、還元性ガスをプラズマ化して基板に接触させた。還元性ガスとして、窒素95vol%、水素5vol%の混合ガスを用いた。電極11,12間への印加電圧及び周波数並びに電極11,12間のギャップは、実施例1の酸化性後処理と同じであった。基板温度は、300℃とした。酸化性後処理は行わなかった。その結果、表1に示すように、膜の電気抵抗率は比較例1(成膜後酸化性後処理前)の84%になった。
比較例4、5は従来から知られている後処理方法であるが、本発明に係る実施例1、2と比べ、電気抵抗率の低下効果が小さかった。
【0072】
[比較例6]
比較例6では、成膜後の後処理の順番を実施例1に対し入れ替えた。すなわち、実施例1と同一内容、同一条件で成膜工程を行なった後、実施例1と同一内容、同一条件の還元性後処理工程(水素5vol%、窒素95vol%の混合ガス雰囲気で基板温度500℃の熱処理)を行なった。その後、実施例1と同一内容、同一条件の酸化性後処理工程(酸素100%、基板温度300℃の大気圧プラズマ処理)を行なった。その結果、表1に示すように、膜の電気抵抗率は比較例1(成膜後酸化性後処理前)の444%にまで大幅に上昇した。
これにより、膜の導電性を改善するには、後処理の順序が重要であり、先ず酸化性後処理を行い、次に還元性後処理を行うべきことが確認された。
【0073】
[比較例7]
比較例7では、実施例1と同一内容、同一条件で成膜工程を行なった後、実施例1と同一内容、同一条件の酸化性後処理工程(酸素100%、基板温度300℃の大気圧プラズマ処理)を行なった。その後、窒素100%の雰囲気下で膜の熱処理を行った。熱処理の基板温度は500℃とした。その結果、表1に示すように、膜の電気抵抗率は比較例1(成膜後酸化性後処理前)の34%になった。
実施例1及び比較例7より、酸化性後処理に続く熱処理では、雰囲気中に水素等の還元性成分を含ませたほうが、膜の導電率をより高くできることが確認された。
【0074】
[比較例8]
比較例8では、実施例1と同一内容、同一条件で成膜工程を行なった後、100%の窒素ガスをプラズマ化し、膜を大気圧プラズマ処理した。基板温度は300℃とした。大気圧プラズマ処理の条件は、ガス組成を除き実施例1と同一とした。還元性後処理は行わなかった。その結果、表1に示すように、膜の電気抵抗率は比較例1(成膜後酸化性後処理前)の106%になった。
【0075】
[比較例9]
比較例9では、実施例1と同一内容、同一条件で成膜工程を行なった後、酸素5%、残部窒素からなる酸化性ガスをプラズマ化し、膜を大気圧プラズマ処理した。基板温度は300℃とした。酸化性後処理の条件は、ガス組成を除き実施例1と同一とした。還元性後処理は行わなかった。その後、膜の電気抵抗率を測定した。その結果、表1に示すように、電気抵抗率は比較例1(成膜後酸化性後処理前)の128%になった。
【0076】
[比較例10]
比較例10では、実施例1と同一内容、同一条件で成膜工程を行なった後、酸素27%、残部窒素からなる酸化性ガスをプラズマ化し、膜を大気圧プラズマ処理した。基板温度は300℃とした。酸化性後処理の条件は、ガス組成を除き実施例1と同一とした。還元性後処理は行わなかった。その結果、表1に示すように、膜の電気抵抗率は比較例1(成膜後酸化性後処理前)の110%になった。
【0077】
[比較例11]
比較例11では、実施例1と同一内容、同一条件で成膜工程を行なった後、酸素73%、残部窒素からなる酸化性ガスをプラズマ化し、膜を大気圧プラズマ処理した。基板温度は300℃とした。酸化性後処理の条件は、ガス組成を除き実施例1と同一とした。還元性後処理は行わなかった。その結果、表1に示すように、膜の電気抵抗率は比較例1(成膜後酸化性後処理前)の64%になった。
比較例8〜11より、窒素プラズマ処理のみ又は酸化性後処理のみでは膜の導電性の改善効果が不十分又は逆効果であることが確認された。
【0078】
以上の実施例及び比較例の結果を表1にまとめる。表1において、成膜後、最初に行なった後処理内容を「後処理1」の欄に記し、次に行なった後処理内容を「後処理2」の欄に記す。本発明の二段階の後処理を施すことにより、導電性金属酸化物の導電性を大幅に改善できることが確認された。
【表1】

【0079】
更に、比較例1に相当するサンプルすなわち後処理を一切施さなかったサンプルと、実施例1のサンプルについて、大気雰囲気下で2週間放置した後、これらサンプルの電気抵抗率を測定した。結果を表2に示す。比較例1相当のサンプルにおいては、電気抵抗率が当初(成膜直後)の278%に上昇した。これに対し、実施例1のサンプルの電気抵抗率は、当初(成膜後の酸化性後処理及び還元性後処理直後)の125%になった。本発明による後処理工程を施すことによって、電気抵抗率の経時上昇を低減できることが確認された。
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、例えば、ディスプレイや太陽電池の透明電極の製造分野に適用できる。
【符号の説明】
【0081】
1 成膜兼後処理装置
10 処理部(プラズマ化手段、活性化手段)
11 上側電極
12 下側電極兼基板支持部
13 電源
14 処理空間、プラズマ空間
15 加熱手段
19 チャンバー
20 ガス供給系
21 気化器(亜鉛含有有機金属化合物源)
22 気化器(ガリウム含有有機金属化合物源)
23 不活性ガス源
24 酸素ガス源(酸化性成分源)
25 水素ガス源(還元性成分源)
28 ガス供給路
29 排気路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素を含有する導電性金属酸化物を成膜した後、前記導電性金属酸化物の膜に対して行なう後処理方法であって、
前記導電性金属酸化物膜に酸化作用を有する酸化性ガスを接触させる酸化性後処理工程と、
前記酸化性後処理工程後の導電性金属酸化物膜に還元作用を有する還元性ガスを接触させる還元性後処理工程と、
を含むことを特徴とする導電性金属酸化物膜の後処理方法。
【請求項2】
前記酸化性後処理工程において、プラズマ化手段、マイクロ波照射手段、紫外線照射手段の群から選択される1の活性化手段によって前記酸化性ガスを活性化することを特徴とする請求項1に記載の後処理方法。
【請求項3】
前記酸化性後処理工程において、前記導電性金属酸化物膜を加熱することを特徴とする請求項1又は2に記載の後処理方法。
【請求項4】
前記酸化性ガスが、酸素を5体積%〜100%含むことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の後処理方法。
【請求項5】
前記還元性後処理工程において、プラズマ化手段、マイクロ波照射手段、紫外線照射手段の群から選択される1の活性化手段によって前記還元性ガスを活性化することを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の後処理方法。
【請求項6】
前記還元性後処理工程において、前記導電性金属酸化物膜を加熱することを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の後処理方法。
【請求項7】
前記還元性ガスが、水素を0.5体積%以上含むことを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の後処理方法。
【請求項8】
前記導電性金属酸化物が、有機金属化合物を含む原料によって成膜されたことを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の後処理方法。
【請求項9】
炭素を含有する導電性金属酸化物を成膜し、かつ成膜後の後処理を行なう装置であって、
(a)基板を処理空間内に支持する支持部と、
(b)前記処理空間と同一の、又は前記処理空間に連なるプラズマ空間を形成する電極を含むプラズマ化手段と、
(c)前記基板を加熱する加熱手段と、
(d)前記導電性金属酸化物の原料を含む成膜用ガスと、前記導電性金属酸化物膜に対し酸化作用を有する酸化性ガスと、前記導電性金属酸化物膜に対し還元作用を有する還元性ガスとのうち1つを選択して、前記プラズマ空間に供給し、更には前記処理空間に供給するガス供給系と、
を備え、前記選択が、前記成膜用ガス、前記酸化性ガス、前記還元性ガスの順になされることを特徴とする成膜兼後処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−29148(P2011−29148A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−58892(P2010−58892)
【出願日】平成22年3月16日(2010.3.16)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】