説明

小型船舶用駆動軸のシール装置

【課題】 駆動軸とハウジングとの隙間の径方向におけるシールだけでなく軸方向におけるシールも行うことができ、水の軸受への浸入を確実に防止できる小型船舶用駆動軸のシール装置を提供する。
【解決手段】 シール部材は、駆動軸6に対して径方向に当接して該駆動軸6とハウジング14との隙間の径方向のシールを行う径方向リップ部18dと、軸方向に延びる軸方向リップ部18fと、該軸方向リップ部18fに当接して駆動軸6とハウジング14との隙間の軸方向のシールを行う当接部材19とを備えており、該当接部材19は、前記駆動軸6に嵌合して該駆動軸6と共に回転する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小型船舶用駆動軸のシール装置に関し、詳細には、駆動軸を軸支する軸受に水が浸入するのを防止するシール部材の改善に関する。
【背景技術】
【0002】
小型船舶では、エンジンの動力を駆動軸により推進装置に伝達するとともに、該駆動軸を軸受を介してハウジングで保持する構造が採用される。この場合、水が駆動軸とハウジングとの隙間を通って軸受に浸入するのを防止するシール部材を駆動軸とハウジングとの間に介在させるのが一般的である。
【0003】
このような小型船舶用駆動軸のシール装置として、従来例えば、特許文献1に記載されたものがある。この従来のシール装置では、インペラ軸を支持する軸受の両側にオイルシールを配設し、該オイルシールと軸受との間に潤滑油を封入する場合に、前記軸受の水と対面する側に2つのオイルシールを設け、該軸受に水が浸入するのを防止している。
【特許文献1】特開平8−177868号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前記従来装置におけるオイルシールは、前記インペラ軸とハウジングとの隙間の径方向におけるシールを行うにとどまる構造となっている。一方、前記軸受が対面する水の圧力は、前記インペラ軸の軸方向にも作用する。この軸方向水圧がエンジンの高出力化によって高くなると、前記従来のシール装置では、水の軸受への浸入を十分に防止できなくなるおそれがある。
【0005】
本発明は、前記従来の実情に鑑みてなされたもので、駆動軸とハウジングとの隙間の径方向におけるシールだけでなく軸方向におけるシールも行うことができ、水の軸受への浸入を確実に防止できる小型船舶用駆動軸のシール装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明は、エンジンの動力を推進装置に伝達する駆動軸と、該駆動軸を回転自在に支持する軸受と、該軸受を保持するハウジングと、該ハウジングと駆動軸との間に介在され、前記軸受に水が浸入するのを防止するシール部材とを備えた小型船舶用駆動軸のシール装置において、前記シール部材は、前記駆動軸に対して径方向に当接して該駆動軸とハウジングとの隙間の径方向のシールを行う径方向シール部と、軸方向に延びる軸方向シール部と、該軸方向シール部に当接して駆動軸とハウジングとの隙間の軸方向のシールを行う当接部材とを備えており、該当接部材は、前記駆動軸に嵌合して該駆動軸と共に回転することを特徴としている。
【0007】
ここで本発明における駆動軸とは、エンジンの動力を推進装置に伝達するものであればよく、中実のものだけでなく中空のもの(例えばスリーブ)も含まれる。また当接部材は、例えば圧入により駆動軸に嵌合される。
【0008】
さらにまた、本発明は、水ジェットポンプを推進装置とするジェット推進艇だけでなく、スクリューを推進装置とするインボートエンジン艇にも適用可能である。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1において、前記軸方向シール部は、軸方向に延びるリップ部を備えており、該リップ部は径方向外側に傾斜していることを特徴としている。
【0010】
請求項3の発明は、請求項1又は2において、前記径方向シール部と軸方向シール部は一体成形されていることを特徴としている。
【0011】
請求項4の発明は、請求項1ないし3の何れかにおいて、前記当接部材の軸方向端面には水拡散構造が設けられており、該水拡散構造は、該当接部材が駆動軸と共に回転するに伴って水を径方向外方に案内するよう構成されていることを特徴としている。
【0012】
請求項5の発明は、請求項4において、前記水拡散構造は、前記当接部材の軸方向端面の外周縁から軸方向中央部に向かって延在する溝及びリブの一方又は両方により構成されていることを特徴としている。
【0013】
請求項6の発明は、請求項1ないし5の何れかにおいて、前記当接部材は、該当接部材の少なくとも一部が前記ハウジングと対向するように配置され、該当接部材のハウジング対向部には水排出構造が設けられており、該水排出構造は、該当接部材が駆動軸と共に回転するに伴って水をハウジングの軸方向外方に案内するよう構成されていることを特徴としている。
【0014】
請求項7の発明は、請求項6において、前記水排出構造は、前記当接部材のハウジング対向部に螺旋状をなすように形成された溝及びリブの一方又は両方により構成されていることを特徴としている。
【0015】
請求項8の発明は、請求項1ないし7の何れかにおいて、前記当接部材は金属製であり、該当接部材の少なくとも一部を径方向外側から覆う絶縁性カバーが配設されていることを特徴としている。
【0016】
請求項9の発明は、請求項1ないし8の何れかにおいて、前記推進装置は、水ジェットポンプであり、該水ジェットポンプは、前記駆動軸により駆動されるインペラと、該インペラの回転により汲み上げられる水が通る水通路と、前記インペラにより加圧された水が噴射されるジェットノズルとを備え、前記当接部材は、前記水通路に連通する空間に面して設けられていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
請求項1の発明によれば、シール部材は、径方向シール部と、軸方向シール部と、該軸方向シール部に当接して軸方向のシールを行う当接部材とを備えているので、軸方向シール部と当接部材との当接により、軸方向に作用する水圧に対するシール性を向上でき、軸方向水圧がエンジンの高速化によって大きくなっても軸受への水の浸入を防止できる。
【0018】
また前記当接部材は、前記駆動軸と共に回転するので、当接部材に水がかかっても遠心力により拡散させることができ、軸受への水の浸入をより確実に防止できる。
【0019】
請求項2の発明では、軸方向シール部を、軸方向に延びるリップ部を備えたものとし、かつ該リップ部を径方向外側に傾斜させたので、該リップ部の耐水圧性が高くなり、リップ部にかかる水圧が大きくなっても水の浸入を確実に防止できる。即ち、前記軸方向シール部においては、水は当接部材の外周側から浸入してくることとなるが、リップ部が外側に傾斜した状態で当接部材に当接しているので、該水の浸入に対する抗力が大きくなり、大きな水圧に耐えることができる。
【0020】
また当接部材の回転による遠心力の方向が前記リップ部の傾斜方向に一致するので、リップ部に余分な力が作用しにくく、リップ部の寿命が向上する。
【0021】
請求項3の発明では、径方向シール部と軸方向シール部を一体成形したので、部品点数及び組立工数を削減でき、かつ省スペース化を図ることができる。
【0022】
請求項4の発明では、当接部材の軸方向端面に、当接部材の回転に伴って水を径方向外方に案内する水拡散構造を設けたので、軸受に向かって浸入する水を径方向外方に拡散させることができ、軸受への水の浸入をより確実に防止できる。
【0023】
請求項5の発明では、水拡散構造を、前記当接部材の軸方向端面の外周縁から軸方向中央部に向かって延在する溝及びリブの一方又は両方により構成したので、簡単な構造により水拡散構造を実現できる。
【0024】
請求項6の発明では、当接部材のハウジング対向部に、当接部材の回転に伴って水をハウジングの軸方向外方に案内する水排出構造を設けたので、当接部材とハウジングとの間から軸受側に浸入しようとする水を軸方向外方に排出でき、軸受への水の浸入をより確実に防止できる。
【0025】
請求項7の発明では、水排出構造を、前記当接部材のハウジング対向部に螺旋状をなすように形成された溝及びリブの一方又は両方により構成したので、簡単な構造により水排出構造を実現できる。
【0026】
請求項8の発明では、当接部材を金属製とするとともに、該当接部材の少なくとも一部を絶縁性のカバーで径方向外側から覆ったので、当接部材とハウジングとが異なる金属で形成されている場合に異種金属間の電蝕が生じるのを防止できる。
【0027】
請求項9の発明では、駆動軸により駆動されるインペラと、該インペラの回転により汲み上げられる水が通る水通路と、前記インペラにより加圧された水が噴射されるジェットノズルとを有する水ジェットポンプからなる推進装置を備えた場合に、前記当接部材を、前記水通路に連通する空間に面して設けたので、軸受への水の浸入を確実に防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。図1〜図6は、本発明の一実施形態における小型船舶用駆動軸のシール装置を説明するための図である。
【0029】
図において、1は小型船舶であり、該小型船舶1は、略水密に形成された船体2と、該船体2内に配置されたエンジン3と、該エンジン3により駆動される水ジェットポンプ(推進装置)4とを備えている。
【0030】
前記船体2は、ロアボディ2aとアッパボディ2bとをガンネル2cで水密に接合したものであり、進行方向を左右に変化させる操向ハンドル2d ,乗員が着座するメインシート2e,タンデムシート2f等を備えている。
【0031】
前記エンジン3は船体2のエンジンルームa内にクランク軸を船体前後方向に向けて搭載されている。該エンジン3の出力軸3aには、カップリング5を介して駆動軸6が接続されている。この駆動軸6は、エンジン出力を水ジェットポンプ4に伝達するためのものであり、前記カップリング5に螺挿等により結合されたスリーブ6aと、該スリーブ6a内に、軸方向に移動可能にかつ共に回転するように挿入された駆動軸本体6bとを有する。
【0032】
前記駆動軸本体6bの後端部に前記水ジェットポンプ4が接続されている。この水ジェットポンプ4は、前記駆動軸本体6bにより駆動されるインペラ7と、該インペラ7の回転により汲み上げられる水が通る水通路8と、前記インペラ7により加圧された水が噴射されるジェットノズル9と、操向ハンドル2dの操向操作により進行方向を変化させるステアリングノズル10とを備えている。
【0033】
前記水通路8は、船底に開口し、水を後斜め上方に取り入れる取水部8aと、該取水部8aに続いて後方に略水平に延びる円筒状の加圧部8bと、該加圧部8bに接続されたインペラハウジング部8d及び軸受ハウジング部8eとを有し、該軸受ハウジング部8eに前記ジェットノズル9が接続されている。
【0034】
前記加圧部8bと取水部8aとの境界付近にはガイド部8cが前方に延びるよう分岐形成されている。該ガイド部8cはエンジンルームaとポンプルームbとを画成する隔壁13の開口部13aに接続されている。前記駆動軸6は、前記カップリング5から前記開口部13a,ガイド部8c,加圧部8b,インペラハウジング部8d内を通って前記軸受ハウジング部8eまで延びている。
【0035】
前記インペラ7は、円錐筒状のブレードボス部7aの周囲に螺旋状のブレード7bを固着したものである。該ブレードボス部7aの軸心部に一体形成された軸ボス部7cは前記駆動軸本体6bに螺合等で固定されている。
【0036】
前記駆動軸6の前端に位置するスリーブ6aは前側軸受装置11により回転自在に支持され、前記駆動軸本体6bの後端に位置する支持部6cは後側軸受装置12により回転自在に支持されている。
【0037】
前記前側軸受装置11は、前記隔壁13に固定された前側ハウジング14と、該前側ハウジング14とスリーブ6aとの間に配置された、前側軸受15を備えている。該前側軸受15の前,後は、該前側軸受15の前側,後側に配置された第1オイルシール16,第2オイルシール17と、該第2オイルシール17の後側に配置された第3オイルシール18と、さらに該第3オイルシール18の後側に配置された前側当接部材19とを含むシール部材でシールされている。なお、15a,15bは前側軸受15の前後方向位置を規制するスナップリングである。また前記前側ハウジング14はアルミニューム合金製である。
【0038】
前記第1,第2オイルシール16,17は同じ構造を有し、互いに逆向きに配置されている。該第1,第2オイルシール16,17は、金属板を、断面コ字形状で、全体として環状をなすようプレス成形してなる保持リング16aと、該保持リング16aの一方の端面を覆うように配置され、焼付け等で該保持リング16aに固定されたシール体16bとを有する。該第1,第2オイルシール16,17は、シール体16bの外周部16c部分を前記前側ハウジング14の保持孔14a内に圧入することにより該前側ハウジング14に固定されている。またシール体16bの内周縁には、前記スリーブ6aに対して径方向に当接し、径方向シール部を構成する径方向リップ部16dが形成されている。この径方向リップ部16dには、ばねリング16eが配設されている。このばねリング16eは該径方向リップ部16dを、これの径を縮める方向に付勢し、もってスリーブ6aとの径方向のシール性を向上させている。
【0039】
前記第3オイルシール18は、前記第1,第2オイルシール16,17の保持リング16a,シール体16bと同様の形状を有する保持リング18a,シール体18bを有する。また前記保持リング18aの内部には補強用保持リング18gが圧入により固定されている。該第3オイルシール18は、シール体18bの外周部18c部分を前記保持孔14a内に圧入することにより前記前側ハウジング14に固定されている。またシール体18bの内周縁には、前記スリーブ6aに対して径方向に当接し、径方向シール部を構成する径方向リップ部18dが形成されている。この径方向リップ部18dには前記ばねリング16eと同様のばねリング18eが配設されている。
【0040】
また前記保持リング18aの内部には補強用保持リング18gが圧入により固定されている。
【0041】
そして前記シール体18bには、軸方向シール部を構成する軸方向リップ部18fが一体形成されている。この軸方向リップ部18fは断面視で径方向外側かつ後方に傾斜するように延びている。
【0042】
前記前側当接部材19は、金属板(本実施形態の場合はステンレス板)を、横辺部19aと縦辺部19bを有する断面L字形で、全体として環状をなすようプレス成形してなるものである。該前側当接部材19の、前記横辺部19aが前記スリーブ6aに圧入により固定されており、前記縦辺部19bの前側軸受15側の面に前記軸方向リップ部18fの先端部が当接している。
【0043】
さらにまた前記縦辺部19bの、前側軸受15と反対側の面には、ゴム等の絶縁性材料からなるカバー20が焼き付け等で固定されている。このカバー20の外周部には、電蝕リップ部20aが形成されている。この電蝕リップ部20aは前記前側当接部材19の外周縁部を覆うとともに、径方向外側かつ前方に傾斜しており、その先端部は前記第3オイルシール18のシール体18bの軸方向端面部分に近接、又は当接している。
【0044】
前記後側軸受装置12は、前記軸受ハウジング部8eの軸受ボス部8fと前記駆動軸本体6bの支持部6cとの間に配置された第1,第2後側軸受21,21を備えている。そして該第1後側軸受21の前側は、該第1後側軸受21の前側に配置された第4オイルシール22及び第5オイルシール23と、該第5オイルシール23の前側に配置された後側当接部材24とによってシールされている。なお、21aは前記第1,第2後側軸受21,21の軸方向間隔を規制するカラーである。なお、前記軸受ハウジング部8e,軸受ボス部8fは共に円筒状をなしており、両者は放射状に配置された複数の静翼8iで接続されている。インペラ7で加圧された水は、この静翼8iにより整流される。
【0045】
前記第4オイルシール22は、金属板を、断面L字形で、全体として環状をなすようプレス成形してなる保持リング22aと、該保持リング22aを覆うように配置され、焼付け等で該保持リング22aに固定されたシール体22bとを有する。該第4オイルシール22は、シール体22bの外周部22c部分を前記軸受ボス部8fの前縁部に形成されたシール孔8g内に圧入することにより該軸受ボス部8fに固定されている。またシール体22bの内周縁には、前記駆動軸本体6bのシール部6c′に対して径方向に当接し、径方向シール部を構成する径方向リップ部22dが形成されている。この径方向リップ部22dには、ばねリング22eが配設されている。このばねリング22eは径方向リップ部22dを、これの径を縮める方向に付勢し、もってシール部6c′との径方向のシール性を向上させている。
【0046】
前記第5オイルシール23は、前記第4オイルシール22の保持リング22a,シール体22bと同様の形状を有する保持リング23a,シール体23bを有する。シール体23bの外周部23c部分が前記シール孔8g内に圧入されている。またシール体23bの内周縁には、前記と同様の径方向リップ部23dが形成され、該径方向リップ部23dにはばねリング23eが配設されている。
【0047】
前記第5オイルシール23の保持リング23aには、リップ保持リング23gが嵌合接続されている。該リップ保持リング23gには、軸方向シール部を構成する軸方向リップ部23fが固定さている。該軸方向リップ部23fは径方向外側かつ前方に傾斜している。前記リップ保持リング23gは、金属板を、断面L字形で、全体として環状をなすようプレス成形したものである。前記リップ保持リング23gの横辺部23hは、前記保持リング23aの内面に嵌合固定され、またリップ保持リング23gの縦辺部23iに前記軸方向リップ部23fの基部23jが固定されている。
【0048】
前記後側当接部材24は金属製(本実施形態の場合はステンレス製)の環状体であり、その内周面には保持フランジ部24aが一体形成されている。この保持フランジ部24aは、前記インペラ7の軸ボス部7cを駆動軸本体6bに螺合することにより該軸ボス部7cの後端面7c′と、前記駆動軸本体6bのシール部6c′の前端面とで挟持されている。
【0049】
そして前記当接部材24の後側端面24bに前記軸方向リップ部23fが当接している。また前記後側当接部材24の外周面24cの一部は前記軸受ボス部8fのシール孔8g内に挿入されており、該挿入された部分と前記シール孔8gとの間には僅かな隙間cが形成されている。
【0050】
なお、前記水ジェットポンプ4の組立に当たっては、前記駆動軸本体6bの支持部6cに後方から第1,第2後側軸受21,21及びカラー21aをセットしてナット21bで固定し、これを前記軸受ボス部8fの支持孔8h内に圧入する。そして駆動軸本体6bの前端側から第4,第5オイルシール22,23を軸受ボス部8fのシール孔8gとシール部6c′との間に圧入するとともに後側当接部材24を装着し、さらにインペラ7を駆動軸本体6bに螺合することにより、前述の通り後側当接部材24を該インペラ7の軸ボス部7cと駆動軸本体6bのシール部6c′で挟持固定する。そして駆動軸本体6bの前端部を前記スリーブ6a内に挿入し、水通路8の後端部にインペラハウジング部8d,軸受ハウジング部8eを結合する。
【0051】
本実施形態では、前側軸受装置11のシール部材を、第3オイルシール18及び前側当接部材19を含むものとし、該第3オイルシール18は、径方向シールを行う径方向リップ部18dと、軸方向シールを行う軸方向リップ部18fとを備え、また前側当接部材19は前記軸方向リップ部18fに当接するように構成されているので、径方向のシールだけでなく、軸方向に作用する水圧に対するシール性を向上でき、軸方向水圧がエンジンの高速化によって大きくなっても前側軸受15への水の浸入を防止できる。
【0052】
また前記前側当接部材19は、電蝕リップ部20aを有するカバー20で覆われているので、該前側当接部材19がステンレス製であり、前側ハウジング14がアルミニューム合金製であることによる電界腐蝕が生じるのを防止できる。また前側当接部材19はカバー20で覆われているので、海水による腐蝕を抑制できる。
【0053】
さらにまた、前記電蝕リップ部20aは、前記駆動軸本体6bと共に回転する際の遠心力で水を外方に拡散させるポンプ作用を発揮し、該前側当接部材19に水がかかっても遠心力により拡散させることができ、前側軸受15への水の浸入をより確実に防止できる。
【0054】
また、後側軸受装置12においては、シール部材を、第5オイルシール23及び後側当接部材24を含むものとし、該第5オイルシール23は、径方向シールを行う径方向リップ部23dと、軸方向シールを行う軸方向リップ部23fとを備え、また後側当接部材24は前記軸方向リップ部23fに当接するように構成されているので、前記前側軸受装置11と同様に、径方向のシールだけでなく、軸方向に作用する水圧に対するシール性を向上でき、後側軸受21への水の浸入を防止できる。
【0055】
また前記後側当接部材24の一部は軸受ボス部8fのシール孔8gに対して僅かな隙間cを開けて対向しているので、前記駆動軸6と共に回転する際の遠心力により水を外方に排出する作用が得られ、後側軸受21への水の浸入をより確実に防止できる。
【0056】
前記前側軸受装置11,後側軸受装置12において、軸方向リップ部18f,23fを、径方向外側に傾斜させたので、該リップ部18f,23fの耐水圧性が高くなり、該リップ部にかかる水圧が大きくなっても水の浸入を確実に防止できる。即ち、前記軸方向リップ部18f,23fにおいては、水は当接部材の外周側から浸入してくることとなるが、該軸方向リップ部が外側に傾斜した状態で当接部材に当接しているので、水の浸入に対する抗力が大きくなり、大きな水圧に耐えることができる。
【0057】
また前側,後側当接部材19,24の回転による遠心力の方向が前記軸方向リップ部18f,23fの傾斜方向に一致するので、該リップ部に余分な力が作用しにくく、軸方向リップ部18f,23fの寿命が向上する。
【0058】
また、前側軸受装置11では、径方向リップ部18dと軸方向リップ部18fを一体成形し、後側軸受装置12では、径方向リップ部23dと軸方向リップ部23fとをリップ保持リング23gを介して一体化したので、部品点数及び組立工数を削減でき、かつ省スペース化を図ることができる。
【0059】
また本実施形態では、駆動軸6により駆動されるインペラ7と、該インペラ7の回転により汲み上げられる水が通る水通路8と、前記インペラ7により加圧された水が噴射されるジェットノズル9とを有する水ジェットポンプ4からなる推進装置を備えた場合に、前記前側,後側当接部材19,24を、前記水通路8に連通する空間に面して設けたので、該空間における水圧に対応でき、前側軸受15,後側軸受21への水の浸入を確実に防止できる。
【0060】
図6〜図8は本発明の第2実施形態を説明するための図である。本第2実施形態では、後側当接部材24は、これの外周面24cの一部が軸受ボス部8fのシール孔8g内に挿入され、僅かな隙間cを開けて対向するように配置されている。これは図5に示された第1実施形態と同様である。
【0061】
そして本第2実施形態では、前記後側当接部材24の外周面24cに、該後側当接部材24の回転に伴って水を軸受ボス部8fの軸方向外方(前方)に案内する水排出構造Aが設けられている。この水排出構造Aは、前記外周面24cに溝24dを螺旋状をなすように形成することにより構成されている。なお、前記水排出構造Aを、螺旋状をなす凸条のリブにより、あるいは前記溝とリブの両方により構成しても良い。
【0062】
本第2実施形態では、後側当接部材24の外周面24cに、螺旋状の溝24dからなる水排出構造Aを設けたので、該後側当接部材24と軸受ボス部8fのシール孔8gとの間から後側軸受21側に浸入しようとする水を、簡単な構造で、軸方向外方に排出でき、軸受への水の浸入をより確実に防止できる。
【0063】
図9〜図10は本発明の第3実施形態を説明するための図である。本第3実施形態では、前記後側当接部材24の軸方向端面24eに、該後側当接部材24の回転に伴って水を径方向外方に案内する水拡散構造Bが設けられている。この水拡散構造Bは、前記後側当接部材24の軸方向端面24eに、これの外周縁から軸方向中央部に向かって螺旋状に延在する多数の溝24fを形成することにより構成されている。なお、前記水拡散構造Bを、螺旋状をなす凸条のリブにより、あるいは前記溝とリブの両方により構成しても良い。
【0064】
このように本第3実施形態では、後側当接部材24の軸方向端面24eに、螺旋状の溝24fを設けたので、軸受21に向かって浸入する水を、簡単な構造により径方向外方に拡散させることができ、軸受への水の浸入をより確実に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の第1実施形態に係るシール装置を備えた小型船舶の側面図である。
【図2】前記小型船舶の駆動軸及び推進装置部分の断面側面図である。
【図3】前記小型船舶のシール装置部分の断面側面図である。
【図4】前記小型船舶の前側シール装置部分の断面側面図である。
【図5】前記小型船舶の後側シール装置部分の断面側面図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係る後側シール装置の後側当接部材部分の断面側面図である。
【図7】前記第2実施形態の後側当接部材の平面図である。
【図8】前記第2実施形態の後側当接部材の背面図である。
【図9】本発明の第3実施形態に係る後側シール装置の後側当接部材部分の断面側面図である。
【図10】前記第3実施形態の後側当接部材の背面図である。
【符号の説明】
【0066】
1 小型船舶
3 エンジン
4 水ジェットポンプ(推進装置)
6 駆動軸
7 インペラ
8 水通路
8c ガイド部(水通路に連通する空間)
8e 軸受ハウジング(後側ハウジング)
9 ジェットノズル
14 前側ハウジング
15,21軸受
18 第3オイルシール(シール部材)
18d 径方向リップ部(径方向シール部)
18f 軸方向リップ部(軸方向シール部)
19 前側当接部材
20 カバー
23 第5オイルシール(シール部材)
23d 径方向リップ部(径方向シール部)
23f 軸方向リップ部(軸方向シール部)
24 後側当接部材
24d 螺旋状の溝
24f 溝
A 水排出構造
B 水拡散構造

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの動力を推進装置に伝達する駆動軸と、該駆動軸を回転自在に支持する軸受と、該軸受を保持するハウジングと、該ハウジングと駆動軸との間に介在され、前記軸受に水が浸入するのを防止するシール部材とを備えた小型船舶用駆動軸のシール装置において、
前記シール部材は、前記駆動軸に対して径方向に当接して該駆動軸とハウジングとの隙間の径方向のシールを行う径方向シール部と、軸方向に延びる軸方向シール部と、該軸方向シール部に当接して駆動軸とハウジングとの隙間の軸方向のシールを行う当接部材とを備えており、
該当接部材は、前記駆動軸に嵌合して該駆動軸と共に回転する
ことを特徴とする小型船舶用駆動軸のシール装置。
【請求項2】
請求項1において、前記軸方向シール部は、軸方向に延びるリップ部を備えており、該リップ部は径方向外側に傾斜していることを特徴とする小型船舶用駆動軸のシール装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記径方向シール部と軸方向シール部は一体成形されていることを特徴とする小型船舶用駆動軸のシール装置。
【請求項4】
請求項1ないし3の何れかにおいて、前記当接部材の軸方向端面には水拡散構造が設けられており、該水拡散構造は、該当接部材が駆動軸と共に回転するに伴って水を径方向外方に案内するよう構成されていることを特徴とする小型船舶用駆動軸のシール装置。
【請求項5】
請求項4において、前記水拡散構造は、前記当接部材の軸方向端面の外周縁から軸方向中央部に向かって延在する溝及びリブの一方又は両方により構成されていることを特徴とする小型船舶用駆動軸のシール装置。
【請求項6】
請求項1ないし5の何れかにおいて、前記当接部材は、該当接部材の少なくとも一部が前記ハウジングと対向するように配置され、該当接部材のハウジング対向部には水排出構造が設けられており、該水排出構造は、該当接部材が駆動軸と共に回転するに伴って水をハウジングの軸方向外方に案内するよう構成されていることを特徴とする小型船舶用駆動軸のシール装置。
【請求項7】
請求項6において、前記水排出構造は、前記当接部材のハウジング対向部に螺旋状をなすように形成された溝及びリブの一方又は両方により構成されていることを特徴とする小型船舶用駆動軸のシール装置。
【請求項8】
請求項1ないし7の何れかにおいて、前記当接部材は金属製であり、該当接部材の少なくとも一部を径方向外側から覆う絶縁性カバーが配設されていることを特徴とする小型船舶用駆動軸のシール装置。
【請求項9】
請求項1ないし8の何れかにおいて、前記推進装置は、水ジェットポンプであり、該水ジェットポンプは、前記駆動軸により駆動されるインペラと、該インペラの回転により汲み上げられる水が通る水通路と、前記インペラにより加圧された水が噴射されるジェットノズルとを備え、
前記当接部材は、前記水通路に連通する空間に面して設けられていることを特徴とする小型船舶用駆動軸のシール装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−36282(P2009−36282A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−200400(P2007−200400)
【出願日】平成19年8月1日(2007.8.1)
【出願人】(000176213)ヤマハマリン株式会社 (256)
【出願人】(000167196)光洋シーリングテクノ株式会社 (57)
【Fターム(参考)】