説明

屈曲振動片及び電子部品

【課題】複数の振動腕の間に連結部から1本の中央支持腕を延長させた屈曲振動モードの屈曲振動片において、振動腕の振動損失を抑制して性能向上を図る。
【解決手段】圧電振動片11は、2本の振動腕13,14を結合する連結部12から振動腕の間を延出する1本の中央支持腕15からなる振動片本体が、その外側に配置した矩形枠体18の1側辺部19に中央支持腕の先端部15aを結合させて支持される。この側辺部は、その幅方向内側と外側とで振動腕の屈曲振動による圧縮及び引張応力が発生する範囲に有底溝23,24又は貫通溝25を形成し、熱弾性損失によるQ値の低下を抑制することができる。振動片本体は、枠体48の対向する側辺部の間を延長する支持部49に中央支持腕45の先端部を結合させて支持することができ、該支持部に同様の有底溝又は貫通溝を形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屈曲振動モードで振動する屈曲振動片に関し、更に屈曲振動片を用いた振動子や共振子、発振器ジャイロ、各種センサ等の様々な電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、屈曲振動モードの圧電振動片として、基部から1対の振動腕を平行に延出させかつ水平方向に互いに接近又は離反する向きに振動させる音叉型のものが、広く使用されている。この振動腕を屈曲励振させたとき、その振動エネルギに損失が生じると、CI値の増加やQ値の低下など、振動子の性能を低下させる原因となる。そこで、かかる振動エネルギの損失を防止又は低減するために、従来から様々な工夫がなされている。
【0003】
例えば、振動腕が延出する基部の両側部に切込み部又は所定深さの切込み溝を形成した音叉型水晶振動片が知られている(特許文献1,2を参照)。この水晶振動片は、振動腕の振動が垂直方向の成分をも含む場合に、振動が基部から漏れるのを切込み部又は切込み溝により緩和することによって、振動エネルギの閉込効果を高めてCI値を抑制し、かつ振動片間でのCI値のばらつきを防止している。
【0004】
かかる機械的損失だけでなく、振動エネルギの損失は、屈曲振動する振動腕の圧縮部と引張応力を受ける伸張部との間で発生する温度差による熱伝導によっても発生する。この熱伝導によって生じるQ値の低下は、熱弾性効果と呼ばれている。熱弾性効果によるQ値低下を防止又は抑制するために、矩形断面を有する振動腕(振動梁)の中心線上に溝又は孔を形成した音叉型の振動子が知られている(例えば、特許文献3を参照)。
【0005】
特許文献3によれば、一般に温度差を原因として生じる固体の内部摩擦の場合によく知られた歪みと応力との関係式から、熱弾性損失は、屈曲振動モードの振動子において、振動数が変化したときに、緩和振動数fm=1/2πτ(ここで、πは円周率、τは緩和時間)でQ値が極小となる、と説明されている。このQ値と周波数との関係を一般的に表すと、図5の曲線Fのようになる(例えば、非特許文献1を参照)。同図において、Q値が極小Qとなる周波数が緩和周波数f(=1/2πτ)である。
【0006】
また、2本の振動腕を有する音叉型の発振片とその外側を囲む矩形の保持枠とを、該発振片の基部に設けた結合部により一体に構成した水晶振動子が知られている(例えば、特許文献4を参照)。このような構造の水晶振動子は、保持枠を上下から平板状のカバーで挟み込むことにより封止される。更に、振動子と矩形の支持枠とを、該振動子の基部の側面に設けた弾性部材で接続することにより、振動腕の振動エネルギが基部から外部に漏れるのを抑制した音叉型圧電振動子が提案されている(例えば、特許文献5を参照)。
【0007】
他方、音叉型以外の屈曲振動子として、2本の平行な振動腕を連結部により互いに結合し、かつ該連結部から中央アームを両振動アームの間に延長させた共振器が考案されている(例えば、特許文献6を参照)。この共振器は、水晶で形成した単一部品の振動片からなり、振動アームの前面又は裏面の少なくとも一方に少なくとも1つの溝を形成することにより、励起電界をより均一にかつ局所的に強くしてエネルギ消費を少なくしかつCI値を抑制する。更に、機械的応力が最大となる連結部まで振動アームの溝を延長させて、この領域での電界を取り出すことにより、振動アームの振動結合効果を増加させている。
【0008】
屈曲振動振動モードで振動する振動片には、上述した圧電駆動型のもの以外に、静電気力を用いた静電駆動型や、磁気を用いた磁気駆動型のものがある。静電駆動型のものとして、シリコン材料の基板に方形枠部からなる第1の振動体を、第1の支持梁によりX軸方向に振動可能に支持し、第1の振動体の枠部内に方形平板状の第2の振動体を、第2の支持梁によりY軸方向に振動可能に支持し、基板側の縁部に設けた固定側導電部と第1の振動体側の縁部に設けた可動側導電部との間で発生する静電力によって、第1の支持梁を屈曲させて第1の振動体をX軸方向に振動させる角速度センサが知られている(例えば、特許文献7を参照)。別の静電駆動型として、固定フレームの内側に駆動梁で支持される振動フレームの内側に複合梁で取り付けられた錘部を有するシリコンウェハのセンサ本体と、それに対向するガラス基板とからなり、センサ本体側とガラス基板側との平行平板電極間で働く静電気力によって、センサ本体及び錘部を振動させる角速度センサが知られている(例えば、特許文献8を参照)。
【0009】
また、磁気駆動型のものとして、恒弾性材料の振動体を一端の支持部で外部固定台に固定支持し、その連結部から分岐したバネ部をその自由端に固着した磁石と基台に固着した電磁コイルとにより駆動して振動させる振動体構造が知られている(例えば、特許文献9を参照)。別の磁気駆動型として、シリコン基板から形成されかつ片持ち梁状に支持される薄膜振動板上に薄膜磁石を配置し、薄膜振動板の外側に設けた導体又は電磁コイルに交流電流を通電して発生する電磁力の作用によって、薄膜振動板を厚み方向に振動させるようにした角速度センサが知られている(例えば、特許文献10を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2002−261575号公報
【特許文献2】特開2004−260718号公報
【特許文献3】実願昭63−110151号明細書
【特許文献4】特開昭53−23588号公報
【特許文献5】特開昭56−94813号公報
【特許文献6】特開2006−345519号公報
【特許文献7】特開平5−312576号公報
【特許文献8】特開2001−183140号公報
【特許文献9】特公昭43−1194号公報
【特許文献10】特開平10−19577号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】C. Zener,外2名,「Internal Friction in Solids III. Experimental Demonstration of Thermoelastic Internal Friction」,PHYSICAL REVIEW,1938年1月1日,Volume 53,p.100-101
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本願発明者は、特許文献6に記載されるように2本の振動腕の間に連結部から1本の中央支持腕を延長させた構造の圧電振動片について、振動腕の振動エネルギの損失を抑制するための手段を検討した。特に、少なくとも本願発明者が知る限り、従来技術において、上述した熱弾性効果が屈曲振動モードの圧電振動片に与える影響を検討した例は、特許文献3以外にほとんど見当たらない。
【0013】
図11(A)は、かかる1本の中央支持腕を有する従来構造の圧電振動片の典型的な一例を示している。この圧電振動片1は、連結部2から延出する2本の平行な振動腕3,4を備える。両振動腕3,4の間には、1本の中央支持腕5が連結部2から前記振動腕と等間隔をもって平行に延長している。前記各振動腕の表裏各主面には、それぞれ1本の直線状の溝6,7が形成されている。圧電振動片1は、前記中央支持腕の前記連結部とは反対側の先端部5aで、図示しないパッケージ等のマウント部8に固定保持される。この状態で、図示しない励振電極に所定の電圧を印加すると、振動腕3,4は、図中矢印で示すように互いに接近又は離反する向きに屈曲振動する。
【0014】
この屈曲振動によって、中央支持腕5には、その長手方向に圧縮・引張の機械的歪みが発生した。この歪みは、中央支持腕5に発生する温度の上昇及び下降として観察された。図11(B)に示すように、振動腕3,4が互いに離反する向きに屈曲すると、連結部2は全体として中央支持腕5の先端部5a側に湾曲するから、前記中央支持腕には、これを前記先端部側に圧縮する応力が作用する。逆に、前記振動腕が互いに接近する向きに屈曲すると、図11(C)に示すように、連結部2は中央支持腕5の先端部5aとは反対側に湾曲するから、前記中央支持腕には、これを前記先端部とは反対側に引張る応力が作用する。
【0015】
その結果、振動腕3,4の屈曲振動の一部が中央支持腕5からマウント部8に逃げる機械的な振動漏れが発生し、CI値の増加やQ値の低下を生じ、振動子の性能を低下させる虞がある。また、中央支持腕5に作用する圧縮・引張応力が圧電振動片1内部に温度勾配を発生させ、その結果熱弾性損失による振動エネルギの損失を生じる虞がある。
【0016】
そこで本発明は、かかる従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、複数の振動腕の間に連結部から1本の中央支持腕を延長させた屈曲振動モードの屈曲振動片において、振動腕の振動エネルギの機械的損失及び/又は熱弾性損失を抑制して、その性能の向上を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明によれば、上記目的を達成するために、複数本の平行な振動腕、該振動腕を結合する連結部、及び該連結部から振動腕の間にそれらと等間隔をもって平行に延出する1本の中央支持腕からなる振動片本体と、該振動片本体の外側に配置された枠体とを備え、振動片本体が、中央支持腕の連結部とは反対側の端部で枠体により支持されている屈曲振動片が提供される。
【0018】
振動腕の屈曲振動は、振動片本体の連結部を屈曲振動させ、それが中央支持腕に長手方向に沿って圧縮又は引張応力を作用させ、枠体の中央支持腕との結合部分を屈曲変形させるが、枠体の他の部分にはほとんど作用しない。従って、本発明の屈曲振動片は、枠体の中央支持腕との結合部分以外の部分でパッケージ等に固定支持することにより、振動腕の外部への振動漏れを抑制することができ、その性能向上を図ることができる。
【0019】
本発明の屈曲振動片には、振動子や共振子、ジャイロ、各種センサ等の圧電デバイス、その他の電子部品に使用される圧電駆動型の圧電振動片が含まれる。更に本発明の屈曲振動片には、従来技術に関連して上述した静電駆動型及び磁気駆動型のものが含まれる。
【0020】
或る実施例では、振動片本体を支持するために、中央支持腕の連結部とは反対側の端部が枠体の1側辺部に直接結合されている。この側辺部は、振動腕の屈曲振動により圧縮又は引張応力を受けて屈曲変形するが、その影響は他の側辺部にほとんど及ばないので、該他の側辺部で圧電振動片をパッケージ等に固定支持することにより、振動腕の外部への振動漏れを抑制することができる。
【0021】
別の実施例では、枠体の中央支持腕を結合した側辺部がその表裏主面の少なくとも一方に形成された溝を有し、該溝が、枠体の側辺部に沿ってその幅方向内側と外側とで振動腕の屈曲振動による圧縮応力と引張応力とが交互に発生する範囲に配置されると好都合である。この側辺部の内部には、その幅方向内側と外側とで圧縮による温度上昇と伸張による温度下降とが交互に発生して温度差を生じるが、それらの間における熱伝達を側辺部の溝で制限することができる。従って、熱弾性損失によるQ値の低下が抑制され、屈曲振動片の性能向上を図ることができる。
【0022】
更に別の実施例によれば、溝が、側辺部に沿ってその両端と中央支持腕を接続する部分との間の範囲に形成されることにより、該側辺部の強度及び剛性を損なうことなく、有効に熱弾性損失を減少させてQ値の改善を図ることができる。
【0023】
或る実施例では、前記側辺部の溝が有底の溝であることにより、該側辺部の幅方向内側と外側との間における熱伝達経路が途中で狭められ、見かけ上従来よりも長くなる。その結果、側辺部の幅方向内側と外側との間で温度が平衡状態となるまでの緩和時間τが長くなるので、Q値の極小値を生じる緩和振動数(f=1/2πτ)は、側辺部に溝が無い場合の緩和振動数よりも低くなり、その場合の緩和振動数よりも高い周波数範囲では、Q値が高くなる。
【0024】
別の実施例では、前記側辺部の溝が貫通溝であることにより、該側辺部の幅方向内側と外側との間における熱伝達経路は途中で遮断され、従来よりも短くなる。その結果、側辺部の幅方向内側と外側との間で温度が平衡状態となるまでの緩和時間τが短くなるので、Q値の極小値を生じる緩和振動数(f=1/2πτ)は、側辺部に溝が無い場合の緩和振動数よりも高くなり、その場合の緩和振動数よりも低い周波数範囲では、Q値が高くなる。
【0025】
また、或る実施例によれば、枠体が、該枠体の内側にその対向する1対の側辺部の間を延長する支持部を有し、振動片本体を支持するために、中央支持腕の連結部とは反対側の端部が支持部に結合されている。この支持部は、振動腕の屈曲振動により圧縮又は引張応力を受けて屈曲変形するが、その影響は枠体の側辺部にほとんど及ばないので、該側辺部で圧電振動片をパッケージ等に固定支持することにより、振動腕の外部への振動漏れを抑制することができる。
【0026】
別の実施例では、枠体の支持部がその表裏主面の少なくとも一方に形成した溝を有し、該溝が、支持部に沿ってその振動片本体側とその反対側とで振動腕の屈曲振動による圧縮応力と引張応力とが交互に発生する範囲に配置されると好都合である。支持部の内部には、その幅方向に振動片本体側とその反対側とで圧縮による温度上昇と伸張による温度下降とが交互に発生して温度差を生じるが、それらの間における熱伝達を支持部の溝で制限することができる。従って、熱弾性損失によるQ値の低下が抑制され、屈曲振動片の性能向上を図ることができる。
【0027】
更に別の実施例では、前記支持部の溝が、該支持部に沿ってその両端と中央支持腕を接続する部分との間の範囲に形成されることにより、支持部の強度及び剛性を損なうことなく、有効に熱弾性損失を減少させてQ値の改善を図ることができる。
【0028】
或る実施例によれば、前記支持部の溝が有底の溝であることにより、同様に該支持部の振動片本体側とその反対側との間における熱伝達経路が途中で狭められ、見かけ上従来よりも長くなる。その結果、支持部の振動腕側とその反対側との間で温度が平衡状態となるまでの緩和時間τが長くなり、Q値の極小値を生じる緩和振動数(f=1/2πτ)は、支持部に溝が無い場合の緩和振動数よりも低くなるから、その場合の緩和振動数よりも高い周波数範囲では、Q値が高くなる。
【0029】
別の実施例によれば、前記支持部の溝が貫通溝であることにより、該支持部の振動片本体側とその反対側との間における熱伝達経路は途中で遮断され、従来よりも短くなる。その結果、支持部の振動片本体側とその反対側との間で温度が平衡状態となるまでの緩和時間τが短くなり、Q値の極小値を生じる緩和振動数(f=1/2πτ)は、支持部に溝が無い場合の緩和振動数よりも高くなるから、その場合の緩和振動数よりも低い周波数範囲では、Q値が高くなる。
【0030】
本発明の別の側面によれば、上述した本発明の屈曲振動片と、ベースと、リッドとを備え、該屈曲振動片をベース上に配置し、かつ枠体の中央支持腕を結合した側辺部とは異なる側辺部でベースに固定し、リッドをベースに接合してその内部に屈曲振動片を気密に封止した、従来よりも高いQ値及び高性能を有する圧電デバイス等の電子部品が提供される。
【0031】
本発明の更に別の側面によれば、上述した枠体に支持部を有する本発明の屈曲振動片と、ベースと、リッドとを備え、該屈曲振動片の枠体の下面にベースを接合しかつ枠体の上面にリッドを接合して、その内部に屈曲振動片を気密に封止した、従来よりも高いQ値及び高性能を有する圧電デバイス等の電子部品が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】(A)図は本発明による圧電振動片の第1実施例を示す平面図、(B)図及び(C)図は振動腕の屈曲振動による変形をそれぞれ示す模式図。
【図2】(A)図は第1実施例の変形例の圧電振動片を示す平面図、(B)図は枠体の側辺部を示す部分拡大平面図、(C)図はそのII−II線における断面図。
【図3】(A)図は、第1実施例の別の変形例の圧電振動片について、枠体の側辺部を示す部分拡大平面図、(B)図はそのIII−III線における断面図。
【図4】第1実施例の圧電振動片を備える圧電デバイスの縦断面図。
【図5】(A)図は本発明による圧電振動片の第2実施例を示す平面図、(B)図及び(C)図は振動腕の屈曲振動による変形をそれぞれ示す模式図。
【図6】(A)図は第2実施例の変形例の圧電振動片を示す平面図、(B)図は枠体の支持部を示す部分拡大平面図、(C)図及び(D)図はそのVIc−VIc線及びVId−VId線における断面図。
【図7】(A)図は、第2実施例の別の変形例の圧電振動片について、枠体の支持部を示す部分拡大平面図、(B)図及び(C)図はそのVIIb−VIIb線及びVIIc−VIIc線における断面図。
【図8】第2実施例の圧電振動片を備える圧電デバイスの縦断面図。
【図9】第2実施例の圧電振動片を備える別の圧電デバイスの縦断面図。
【図10】屈曲振動モードの圧電振動片における緩和周波数とQ値の極小値との関係を示す線図。
【図11】(A)図は従来の圧電振動片の構成を示す平面図、(B)図及び(C)図は振動腕の屈曲振動による変形をそれぞれ示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下に、添付図面を参照しつつ、本発明の好適な実施例を詳細に説明する。尚、添付図面において、同様の構成要素には同様の参照符号を付して示す。
【0034】
図1(A)は、本発明を適用した圧電振動片の第1実施例の構成を概略的に示している。本実施例の圧電振動片11は、連結部12と、該連結部から延出する2本の平行な振動腕13,14と、1本の中央支持腕15とからなる振動片本体を備える。中央支持腕15は、連結部12から前記両振動腕の間を該振動腕と等間隔をもって平行に延長する。各振動腕13,14の表裏各主面には、CI値を抑制するために、それぞれ長手方向に沿って1本の直線状の長溝16,17が形成されている。
【0035】
更に圧電振動片11は、前記振動片本体の外側に配置された矩形の枠体18を備える。中央支持腕15は、その先端部15a即ち連結部12とは反対側の端部において、枠体18の一方の側辺部19に一体に結合する。これにより、前記振動片本体は、枠体18に片持ちに支持される。また、枠体18は、その隅部を丸み付けしたり、面取り加工を施したものであってもよい。
【0036】
本実施例の圧電振動片11は、従来の音叉型水晶振動片と同様に、所謂Zカットの水晶薄板から、水晶結晶軸のY軸を前記振動腕の長手方向に、X軸をその幅方向に、Z軸を前記振動片の表裏主面の垂直方向にそれぞれ配向して形成される。別の実施例では、圧電振動片11を水晶以外の圧電材料で形成することができる。
【0037】
図示しないが、溝16,17の内面を含む各振動腕13,14の表面には、励振電極が形成されている。上述したように圧電振動片11を中央支持腕15で枠体18により片持ちに支持した状態で、前記励振電極に所定の電圧を印加すると、振動腕13,14は水平方向に、図中矢印で示すように互いに接近又は離反する向きに屈曲振動する。
【0038】
この屈曲振動によって、枠体18の側辺部19は水平方向に屈曲変形する。図1(B)に示すように、振動腕13,14が互いに離反する向きに屈曲すると、連結部12が、全体として中央支持腕15の先端部15a側に湾曲する。従って、前記中央支持腕には、これを前記先端部側に圧縮する応力が作用し、側辺部19を枠体18の外側に向けて屈曲させる。これにより、側辺部19に沿ってその幅方向内側には、特に中央支持腕15を接続する部分15´に近い範囲の部分20,21に圧縮応力が作用する。側辺部19に沿ってその幅方向外側には、部分15´を中心に該側辺部の両端に向けて比較的広い範囲の部分22に、引張応力が作用する。
【0039】
逆に、前記振動腕が互いに接近する向きに屈曲すると、図1(C)に示すように、連結部12が、全体として中央支持腕15の先端部15aとは反対側に湾曲する。前記中央支持腕には、これを前記先端部側から引張る応力が作用し、側辺部19を枠体18の内側に向けて屈曲させる。これにより、側辺部19に沿ってその幅方向内側には、特に中央支持腕15を接続する部分15´に近い範囲の部分20,21に引張応力が作用する。側辺部19に沿ってその幅方向外側には、部分15´を中心に該側辺部の両端に向けて比較的広い範囲の部分22に圧縮応力が作用する。
【0040】
これに対し、枠体18の側辺部19とそれに隣接する側辺部との接続部分及びその近傍には、振動腕13,14の屈曲振動による圧縮応力及び引張応力がほとんど発生しないことが分かった。従って、圧電振動片11は、枠体18を側辺部19以外の側辺部でパッケージ等に固定支持することにより、前記振動腕の振動漏れを防止又は抑制し、その性能向上を図ることができる。
【0041】
図2は、第1実施例の変形例を示している。この変形例の圧電振動片11は、枠体18の側辺部19に沿って溝23,24が形成されている点において、第1実施例と異なる。溝23,24は、第1実施例に関連して上述したように、振動腕13,14の屈曲振動による圧縮応力及び引張応力が交互に発生する側辺部19の幅方向内側の部分20,21と外側部分22との間に、該側辺部の各辺縁から等距離に配置される。
【0042】
図2(C)は、前記振動腕が互いに離反する向きに屈曲して、側辺部19の幅方向内側の部分20(21)が圧縮側となりかつ外側部分22が伸張側となる場合を示している。同図に示すように、溝23,24は、前記側辺部の表裏各主面から同じ深さを有する有底の溝である。図中、+の符号は温度上昇を、−の符号は温度下降を示す。溝23(24)を挟んで、圧縮側の部分20(21)は温度が上昇し、伸張側の部分22は温度が下降する。この温度勾配によって、圧縮側(+)の部分20(21)から溝23(24)の部分を通って伸張側(−)の部分22へと、熱伝達が起こる。
【0043】
逆に、前記振動腕が互いに接近する向きに屈曲すると、側辺部19の幅方向内側の部分20、21が伸張側となり、かつ外側の部分22が圧縮側となる。圧縮側の部分22では温度が上昇し、伸張側の部分20、21では温度が下降する。この温度勾配によって、圧縮側の部分22から溝23,24の部分を通って伸張側の部分22へと、逆向きに熱伝達が起こる。このように、側辺部19に沿って幅方向内側の部分20、21と外側の部分22との間では、前記振動腕が互いに接近又は離反する向きによって温度勾配が生じ、その温度傾斜に沿って熱伝達が起こる。
【0044】
側辺部19の幅方向内側の部分20、21と外側の部分22間の熱伝達経路は、その途中が溝23,24によって狭められている。その結果、部分20、21と部分22間で温度が平衡状態になるまでの緩和時間τは、側辺部19に前記溝を有しない第1実施例の場合の緩和時間τよりも長くなる。これは、図2(C)に想像線19’で示すように、側辺部19の幅Tをみかけ上Tまで長くした場合と等価と考えられる。従って、本実施例の圧電振動片11は、緩和振動数f10が、f10=1/2πτとなり、τ<τであるから、第1実施例の場合の緩和振動数f=1/2πτよりも低くなる。
【0045】
これを、図10の周波数とQ値との関係で見ると、曲線F自体の形は変わらないから、緩和振動数の低下に伴って、曲線Fが曲線Fの位置まで周波数の低下方向にシフトしたことになる。従って、所望の使用周波数が振動数fよりも高い範囲では、Q値は常に、第1実施例における極小値Qよりも高くなる。このように本実施例の圧電振動片11は、側辺部19に有底溝23,24を設けることによって、振動エネルギの機械的損失の抑制に加えて、熱弾性損失を抑制し、Q値をより改善して高性能化を実現することができる。また、これらの有底溝は、側辺部19の表裏主面のいずれか一方にのみ設けた場合も、同様の作用効果を得ることができる。
【0046】
尚、一般に緩和振動数fmは、次式で求められることが知られている。
【0047】
fm=πk/(2ρC) …(1)
ここで、πは円周率、kは振動腕の振動方向の熱伝導率、ρは振動腕の質量密度、Cは振動腕の熱容量、aは振動腕の振動方向の幅である。上記式(1)中の熱伝導率k、質量密度ρ、熱容量Cに、振動腕の材料自体の定数を入力して求められる緩和振動数fmは、振動腕の表裏主面に、例えば図2の長溝16,17のような溝を有しない場合の緩和振動数である。
【0048】
図3(A)(B)は、第1実施例の別の変形例を示している。この変形例は、側辺部19に、有底溝に代えて、その表裏を貫通する溝25が形成されている点において、図2の実施例とは異なる。この貫通溝25により、側辺部19は、その幅方向内側の部分20(21)と外側の部分22とが分離されている。
【0049】
図2の実施例と同様に、前記振動腕を水平方向に互いに接近又は離反する向きに屈曲振動させると、側辺部19は水平方向に屈曲変形する。前記側辺部の内部には、その屈曲の向きに応じて、圧縮応力と引張応力とが発生する。側辺部19の圧縮応力が作用する圧縮部分は温度が上昇し、引張応力が作用する伸張部分は温度が下降する。
【0050】
図3(B)は、前記振動腕が互いに離反する向きに屈曲して、側辺部19の幅方向内側が圧縮され、かつ外側が伸張する場合を示している。図中、温度上昇の程度を+符号の数で、温度下降の程度を−符号の数で示す。側辺部19を全体として見ると、圧縮側の部分20(21)は温度が上昇し、伸張側の部分22は温度が下降する。本実施例では、貫通溝25を設けたことによって、側辺部19の幅方向内側の部分20(21)と外側の部分22との間で熱伝達は起こらない。
【0051】
局所的に見ると、側辺部19の幅方向に溝25を挟んで振動片本体側の部分では、その幅方向内側と溝25側とで作用する圧縮応力の大きさに差が生じる。その結果、この振動片本体側の部分は、圧縮応力がより大きい内側即ち振動片本体側で、温度がより高く上昇し、それよりも圧縮応力が低い溝25側で、温度上昇が小さい。従って、この部分の内部では、その相対的な温度上昇の差によって、内側(++)から溝25側(+)に向けて温度勾配が生じ、その温度傾斜に沿って熱伝達が起こる。
【0052】
同様に、側辺部19の幅方向に溝25を挟んで振動片本体とは反対側の部分でも、その幅方向外側と溝25側とで作用する引張応力の大きさに差が生じる。その結果、この振動片本体とは反対側の部分は、引張応力がより大きい外側即ち振動片本体とは反対側で、温度がより低く下降し、それよりも引張応力が低い溝25側で、温度下降が小さい。従って、この部分の内部では、その相対的な温度上昇の差によって、溝25側(−)から外側(−−)に向けて温度勾配が生じ、その温度傾斜に沿って熱伝達が起こる。
【0053】
逆に、前記振動腕が互いに接近する向きに屈曲する場合には、側辺部19の幅方向内側が伸張し、かつ外側が圧縮される。従って、側辺部19を全体として見ると、圧縮側の部分22で温度が上昇し、伸張側の部分20、21で温度が下降する。側辺部19の幅方向に溝25を挟んでその両側の各部分を局所的に見ると、それぞれ外側から溝25側に向けて及び溝25側から内側に向けて温度勾配が生じ、その温度傾斜に沿って熱伝達が起こる。
【0054】
本実施例では、貫通溝25によって、側辺部19の幅方向にその両側の各部分内部の熱伝達経路が第1実施例の場合よりも大幅に短い。その結果、これら各部分において温度が平衡状態になるまでの緩和時間τは、前記貫通溝を有しない第1実施例の緩和時間τよりも短くなる。これは、側辺部19の幅Tをみかけ上、貫通溝25によって分離された各部分の幅Tまで短くした場合と等価と考えることができる。従って、本実施例の圧電振動片は、緩和振動数f20が、f20=1/2πτとなり、τ<τであるから、第1実施例の緩和振動数f=1/2πτよりも大きくなる。
【0055】
これを、図10の周波数とQ値との関係で見ると、曲線F自体の形は変わらないから、緩和振動数の増大に伴って、曲線Fが曲線Fの位置まで周波数の増加方向にシフトしたことになる。従って、所望の使用周波数が振動数fよりも低い範囲では、Q値は常に、第1実施例の極小値Qよりも高くなる。このように本実施例においても、側辺部19に貫通溝25を設けることによって、図2の変形例と同様に、振動エネルギの機械的損失の抑制に加えて、熱弾性損失を抑制し、Q値をより改善して高性能化を実現することができる。
【0056】
図4は、第1実施例又はその上記各変形例の圧電振動片11を備えた圧電デバイスの実施例を示している。この圧電デバイス31は、絶縁材料の薄板を積層した矩形箱型のベース32と、平板状のリッド33とを備える。圧電振動片11は、ベース32の空所34内に、枠体18の側辺部19に隣接する両側辺部を導電性接着剤等でマウント35,36に固定して実装する。ベース32の上端にリッド33を接合することにより、圧電振動片11は圧電デバイス31の内部に気密に封止される。また、ベース32及びリッド33は、本実施例とは異なる形態にすることができる。例えば、ベース32を平板状にかつリッド33を箱型に形成し、又は前記ベース及びリッド双方共に箱型に形成して、その内部に圧電振動片11を実装するための空所を画定することができる。
【0057】
図5(A)は、本発明を適用した圧電振動片の第2実施例の構成を概略的に示している。第1実施例と同様に、本実施例の圧電振動片41は、連結部42と、該連結部から延出する2本の平行な振動腕43,44と、1本の中央支持腕45とからなる振動片本体を備える。中央支持腕45は、連結部42から前記両振動腕の間を該振動腕と等間隔をもって平行に延長する。各振動腕43,44の表裏各主面には、CI値を抑制するために、それぞれ長手方向に沿って1本の直線状の長溝46,47が形成されている。
【0058】
更に圧電振動片41は、前記振動片本体の外側に配置された矩形の枠体48を備える。本実施例の枠体48は、その内側に対向する図中左右1対の側辺部の間を延長する直線状のバーからなる支持部49を有する。支持部49は、枠体48の一方(図中上側)の側辺部に近接して該側辺部と平行に配置されている。中央支持腕45は、その先端部45a即ち連結部42とは反対側の端部において、支持部49に一体に結合する。これにより、前記振動片本体は枠体48に片持ちに支持されている。
【0059】
本実施例の圧電振動片41も、従来の音叉型水晶振動片と同様に、所謂Zカットの水晶薄板から、水晶結晶軸のY軸を前記振動腕の長手方向に、X軸をその幅方向に、Z軸を前記振動片の表裏主面の垂直方向にそれぞれ配向して形成される。別の実施例では、圧電振動片41を水晶以外の圧電材料で形成することができる。
【0060】
図示しないが、溝46,47の内面を含む各振動腕43,44の表面には、励振電極が形成されている。上述したように圧電振動片41を中央支持腕45で枠体48の支持部49により片持ちに支持した状態で、前記励振電極に所定の電圧を印加すると、前記両振動腕は水平方向に、図中矢印で示すように互いに接近又は離反する向きに屈曲振動する。
【0061】
この屈曲振動によって、枠体48の支持部49は水平方向に屈曲変形する。図5(B)に示すように、振動腕43,44が互いに離反する向きに屈曲すると、連結部42が全体として中央支持腕45の先端部45a側に湾曲する。従って、前記中央支持腕には、これを前記先端部側に圧縮する応力が作用し、支持部49を枠体48の近接する前記側辺部側に向けて屈曲させる。これにより、支持部49に沿ってその幅方向内側には、特に中央支持腕45を接続する部分45´に近い範囲の部分50,51に圧縮応力が作用する。支持部49に沿ってその幅方向外側には、部分45´を中心に該支持部の両端に向けて概ね部分50,51に対応する範囲の部分52に、引張応力が作用する。更に、支持部49の枠体48の側辺部との接続部分付近には、その幅方向内側の部分53,54に引張応力が作用し、かつ外側の部分55,56に圧縮応力が作用する。
【0062】
逆に、前記振動腕が互いに接近する向きに屈曲すると、図5(C)に示すように、連結部42が、全体として中央支持腕45の先端部45aとは反対側に湾曲する。前記中央支持腕には、これを前記先端部側から引っ張る応力が作用し、支持部49を前記振動片本体側に向けて屈曲させる。これにより、支持部49に沿ってその幅方向内側には、中央支持腕45を接続する部分45´に近い範囲の部分50,51に引張応力が作用する。支持部49に沿ってその幅方向外側には、部分45´を中心に該支持部の両端に向けて概ね部分50,51に対応する範囲の部分52に圧縮応力が作用する。更に、支持部49の枠体48の側辺部との接続部分付近には、その幅方向内側の部分53,54に圧縮応力が作用し、かつ外側の部分55,56に引張応力が作用する。
【0063】
これに対し、枠体48の各側辺部には、振動腕43,44の屈曲振動による圧縮応力及び引張応力がほとんど発生しないことが分かった。従って、圧電振動片41は、枠体48の側辺部でパッケージ等に固定支持することにより、前記振動腕の振動漏れを防止又は抑制し、その性能向上を図ることができる。
【0064】
図6は、第2実施例の変形例を示している。この変形例の圧電振動片41は、支持部49に沿って溝57〜60が形成されている点において、第2実施例と異なる。溝57〜60は、第2実施例に関連して上述したように、振動腕43,44の屈曲振動による圧縮応力及び引張応力が交互に発生する支持部49の幅方向内側の部分50,51と外側の部分52との間及び幅方向内側の部分53,54と外側の部分55,56との間に、それぞれ支持部49の両辺縁から等距離に配置される。
【0065】
図6(C)は、前記振動腕が互いに離反する向きに屈曲することにより、支持部49の幅方向内側の部分50(51)が圧縮側となりかつ外側の部分52が伸張側となる場合を、図6(D)は、支持部49の幅方向外側の部分55(56)が圧縮側となりかつ内側の部分53(54)が伸張側となる場合を示している。図6(C)(D)に示すように、溝57〜60は、前記支持部49の表裏各主面から同じ深さを有する有底の溝である。図中、+の符号は温度上昇を、−の符号は温度下降を示す。溝57(58)を挟んで、圧縮側の部分50(51)は温度が上昇し、伸張側の部分52は温度が下降する。同様に溝59(60)を挟んで、圧縮側の部分55(56)は温度が上昇し、伸張側の部分53(54)は温度が下降する。これらの温度勾配によって、圧縮側(+)の部分50(51)及び55(56)から溝57(58)及び59(60)の部分を通って伸張側(−)の部分52及び53(54)へと、それぞれ熱伝達が起こる。
【0066】
逆に、前記振動腕が互いに接近する向きに屈曲すると、支持部49の幅方向内側の部分50,51及び外側の部分55,56が伸張側となり、かつ幅方向外側の部分52及び内側の部分53,54が圧縮側となる。圧縮側の部分52〜54では温度が上昇し、伸張側の部分50,51,55,56では温度が下降する。この温度勾配によって、圧縮側の部分52及び53,54からそれぞれ溝57,58及び溝59,60の部分を通って伸張側の部分50,51及び55,56へと、逆向きに熱伝達が起こる。このように、支持部49に沿って幅方向内側の部分50,51,53,54と外側の部分52,55,56との間では、前記振動腕が互いに接近又は離反する向きによってそれぞれ温度勾配が生じ、それらの温度傾斜に沿って熱伝達が起こる。
【0067】
支持部49の幅方向内側の部分50,51及び53,54と外側の部分52及び55,56との間の熱伝達経路は、それぞれ途中が溝57〜60によって狭められている。その結果、部分50,51と部分52との間及び部分55,56と部分53,54との間で、それぞれ温度が平衡状態になるまでの緩和時間τは、支持部49に前記溝を有しない第2実施例の場合の緩和時間τよりも長くなる。これは、図6(C)(D)にそれぞれ想像線49’,49”で示すように、支持部49の幅Tをみかけ上Tまで長くした場合と等価と考えられる。従って、本実施例の圧電振動片41は、緩和振動数f10が、f10=1/2πτとなり、τ<τであるから、第2実施例の場合の緩和振動数f=1/2πτよりも低くなる。
【0068】
これを、図10の周波数とQ値との関係で見ると、曲線F自体の形は変わらないから、緩和振動数の低下に伴って、曲線Fが曲線Fの位置まで周波数の低下方向にシフトしたことになる。従って、所望の使用周波数が振動数fよりも高い範囲では、Q値は常に、第2実施例における極小値Qよりも高くなる。このように本実施例の圧電振動片41は、支持部49に有底溝57〜60を設けることによって、振動エネルギの機械的損失の抑制に加えて、熱弾性損失を抑制し、Q値をより改善して高性能化を実現することができる。この有底溝は、支持部49の表裏主面のいずれか一方にのみ設けても、同様の作用効果が得られる。
【0069】
図7(A)(B)は、第2実施例の別の変形例を示している。この変形例は、支持部49に、有底溝に代えて、その表裏を貫通する溝61,62が形成されている点において、図6の実施例とは異なる。この貫通溝61,62により、支持部49は、その幅方向内側の部分50(51)、53(54)と外側の部分52,55(56)とが分離されている。
【0070】
図6の実施例と同様に、前記振動腕を水平方向に互いに接近又は離反する向きに屈曲振動させると、支持部49は水平方向に屈曲変形する。前記支持部の内部には、その屈曲の向きに応じて、圧縮応力と引張応力とが発生する。支持部49の圧縮応力が作用する圧縮部分は温度が上昇し、引張応力が作用する伸張部分は温度が下降する。
【0071】
図7(B)は、前記振動腕が互いに離反する向きに屈曲して、支持部49の中央支持腕45との接続部分45´付近において、その幅方向内側の部分50(51)が圧縮側となりかつ外側の部分52が伸張側となる場合を、図7(C)は、前記支持部の枠体48の側辺部との接続部分付近において、その幅方向外側の部分55(56)が圧縮側となりかつ内側の部分53(54)が伸張側となる場合を示している。図中、温度上昇の程度を+符号の数で、温度下降の程度を−符号の数で示す。支持部49を全体として見ると、圧縮側の部分50(51),55(56)は温度が上昇し、伸張側の部分52,53(54)は温度が下降する。本実施例では、貫通溝61,62を設けたことによって、支持部49の幅方向内側の部分50(51)、53(54)と外側の部分52,55(56)との間で熱伝達は起こらない。
【0072】
局所的に見ると、支持部49の幅方向に溝61を挟んで振動片本体側の部分では、その幅方向内側と溝61側とで作用する圧縮応力の大きさに差が生じる。その結果、この振動片本体側の部分は、図7(B)に示すように、圧縮応力がより大きい内側即ち振動片本体側で、温度がより高く上昇し、それより圧縮応力が低い溝61側で、温度上昇が小さい。従って、この部分の内部では、その相対的な温度上昇の差によって、内側(++)から溝61側(+)に向けて温度勾配が生じ、その温度傾斜に沿って熱伝達が起こる。
【0073】
同様に、支持部49の幅方向に溝61を挟んで振動片本体とは反対側の部分でも、その幅方向外側と溝61側とで作用する引張応力の大きさに差が生じる。その結果、この振動片本体とは反対側の部分は、引張応力がより大きい外側即ち振動片本体とは反対側で、温度がより低く下降し、それよりも引張応力が低い溝61側で、温度下降が小さい。従って、この部分の内部では、その相対的な温度上昇の差によって、溝61側(−)から外側(−−)に向けて温度勾配が生じ、その温度傾斜に沿って熱伝達が起こる。
【0074】
また、支持部49の幅方向に溝62を挟んで振動片本体とは反対側の部分では、その幅方向外側と溝62側とで作用する圧縮応力の大きさに差が生じる。その結果、この振動片本体とは反対側の部分は、図7(C)に示すように、圧縮応力がより大きい外側即ち振動片本体側とは反対で、温度がより高く上昇し、それより圧縮応力が低い溝62側で、温度上昇が小さい。従って、この部分の内部では、その相対的な温度上昇の差によって、内側(++)から溝62側(+)に向けて温度勾配が生じ、その温度傾斜に沿って熱伝達が起こる。
【0075】
同様に、支持部49の幅方向に溝62を挟んで振動片本体側の部分でも、その幅方向内側と溝62側とで作用する引張応力の大きさに差が生じる。その結果、この振動片本体側の部分は、引張応力がより大きい外側即ち振動片側で、温度がより低く下降し、それよりも引張応力が低い溝62側で、温度下降が小さい。従って、この部分の内部では、その相対的な温度上昇の差によって、溝62側(−)から内側(−−)に向けて温度勾配が生じ、その温度傾斜に沿って熱伝達が起こる。
【0076】
逆に、前記振動腕が互いに接近する向きに屈曲すると、支持部49の中央支持腕45との接続部分45´付近において、その幅方向に内側が伸張し、かつ外側が圧縮される。前記支持部の枠体48の側辺部との接続部分付近では、その幅方向に内側が圧縮され、かつ外側が伸張する。従って、支持部49を全体として見ると、圧縮側の部分52〜54で温度が上昇し、伸張側の部分50,51,55,56で温度が下降する。
【0077】
局所的に見ると、支持部49の幅方向に溝61を挟んで振動片本体とは反対側の部分では、その幅方向外側と溝61側とで作用する圧縮応力の大きさに差が生じる。その結果、この振動片本体とは反対側の部分は、圧縮応力がより大きい外側即ち振動片本体とは反対側で、温度がより高く上昇し、それより圧縮応力が低い溝61側で、温度上昇が小さい。従って、この部分の内部では、その相対的な温度上昇の差によって、外側から溝61側に向けて温度勾配が生じ、その温度傾斜に沿って熱伝達が起こる。
【0078】
同様に、支持部49の幅方向に溝61を挟んで振動片本体側の部分でも、その幅方向内側と溝61側とで作用する引張応力の大きさに差が生じる。その結果、この振動片本体側の部分は、引張応力がより大きい内側即ち振動片本体側で、温度がより低く下降し、それよりも引張応力が低い溝61側で、温度下降が小さい。従って、この部分の内部では、その相対的な温度上昇の差によって、溝61側から内側に向けて温度勾配が生じ、その温度傾斜に沿って熱伝達が起こる。
【0079】
更に、支持部49の幅方向に溝62を挟んで振動片本体側の部分では、その幅方向内側と溝61側とで作用する圧縮応力の大きさに差が生じる。その結果、この振動片本体側の部分は、圧縮応力がより大きい内側即ち振動片本体側で、温度がより高く上昇し、それより圧縮応力が低い溝62側で、温度上昇が小さい。従って、この部分の内部では、その相対的な温度上昇の差によって、内側から溝62側に向けて温度勾配が生じ、その温度傾斜に沿って熱伝達が起こる。
【0080】
同様に、支持部49の幅方向に溝62を挟んで振動片本体とは反対側の部分でも、その幅方向外側と溝62側とで作用する引張応力の大きさに差が生じる。その結果、この振動片本体とは反対側の部分は、引張応力がより大きい外側即ち振動片本体とは反対側で、温度がより低く下降し、それよりも引張応力が低い溝62側で、温度下降が小さい。従って、この部分の内部では、その相対的な温度上昇の差によって、溝62側から外側に向けて温度勾配が生じ、その温度傾斜に沿って熱伝達が起こる。
【0081】
本実施例では、貫通溝61,62によって、該溝を挟んで支持部49の幅方向内側及び外側の各部分の内部の熱伝達経路が、第2実施例よりも大幅に短い。その結果、これら各部分において温度が平衡状態になるまでの緩和時間τは、前記貫通溝を有しない第2実施例の場合の緩和時間τよりも短くなる。これは、支持部49の幅Tをみかけ上、貫通溝61,62によって分離された各部分の幅Tまで短くした場合と等価と考えられる。従って、本実施例の圧電振動片は、緩和振動数f20が、f20=1/2πτとなり、τ<τであるから、従来構造の緩和振動数f=1/2πτよりも高くなる。
【0082】
これを、図10の周波数とQ値との関係で見ると、曲線F自体の形は変わらないから、緩和振動数の上昇に伴って、曲線Fが曲線Fの位置まで周波数の増加方向にシフトしたことになる。従って、所望の使用周波数が振動数fよりも低い範囲では、Q値は常に、第2実施例の極小値Qよりも高くなる。このように本変形例においても、支持部49に貫通溝61,62を設けることによって、図6の変形例と同様に、振動エネルギの機械的損失の抑制に加えて、熱弾性損失を抑制し、Q値をより改善して高性能化を実現することができる。
【0083】
図8は、第2実施例又はその上記各変形例の圧電振動片41を備えた圧電デバイスの実施例を示している。この圧電デバイス71は、圧電振動片41の下側に配置される平板状のベース72と、該圧電振動片の上側に配置される平板状のリッド73とを備える。圧電振動片41は、枠体48の下面及び上面において、それぞれ低融点ガラス等の封止材74,75でベース72及びリッド73と気密に接合される。これにより、前記振動片本体は、支持部49に片持ちに支持されて、圧電デバイス71内部に気密に封止される。また、ベース72及びリッド73は、平板状のものに限定されない。例えば、圧電振動片41の枠体48と接合される前記ベース及び/又はリッドの周縁部分を厚肉に形成したり、圧電振動片との対向面又は外面に溝や凹み又は凸部を形成したものであってもよい。
【0084】
図9は、第2実施例又はその上記各変形例の圧電振動片41を備えた圧電デバイスの別の実施例を示している。この圧電デバイス81は、絶縁材料の薄板を積層した矩形箱型のベース82と、平板状のリッド83とを備える。圧電振動片41は、ベース82の空所84内に、枠体48を導電性接着剤等でマウント85,86に固定して実装する。ベース82の上端にリッド83を接合することにより、圧電振動片41が圧電デバイス81内部に気密に封止される。また、ベース82及びリッド83は、本実施例と異なる形態にすることができる。例えば、ベース82を平板状にかつリッド83を箱型に形成し、又は前記ベース及びリッド双方共に箱型に形成して、その内部に圧電振動片41を実装するための空所を画定することができる。
【0085】
本発明は、上記実施例に限定されるものでなく、その技術的範囲内で様々な変形又は変更を加えて実施することができる。例えば、本発明は、連結部から3本以上の振動腕が延出する構造の圧電振動片についても、同様に適用することができる。また、上記各実施例の屈曲振動片は、圧電材料で一体に形成したものだけでなく、シリコン半導体等の材料を使用し、その表面に圧電板材を設けたものであってもよい。更に、本発明は、圧電駆動型の屈曲振動片だけでなく、静電駆動型や磁気駆動型のものについても同様に適用することができる。その場合、圧電材料以外にシリコン半導体などの様々な公知の材料を用いて屈曲振動片を形成することができる。また、本発明の屈曲振動片は、圧電デバイス以外の様々な電子部品に適用することができる。
【符号の説明】
【0086】
1,11,41…圧電振動片、2,12,42…連結部、3,4,13,14,43,44…振動腕、5,15,45…中央支持腕、5a,15a,45a…先端部、6,7,16,17,46,47…長溝、8…マウント部、18,48…枠体、19…側辺部、20〜22,50〜56…部分、23〜25,57〜62…溝、31,71,81…圧電デバイス、32,72,82…ベース、33,73,83…リッド、34,84…空所、35,36,85,86…マウント、49…支持部、74,75…封止材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の平行な振動腕、前記振動腕を結合する連結部、及び前記連結部から前記振動腕の間にそれらと等間隔をもって平行に延出する1本の中央支持腕からなる振動片本体と、前記振動片本体の外側に配置された枠体とを備え、前記振動片本体が、前記中央支持腕の前記連結部とは反対側の端部で前記枠体により支持されていることを特徴とする屈曲振動片。
【請求項2】
前記振動片本体を支持するために、前記中央支持腕の前記連結部とは反対側の前記端部が、前記枠体の1側辺部に直接結合されていることを特徴とする請求項1記載の屈曲振動片。
【請求項3】
前記枠体の前記中央支持腕を結合した前記側辺部がその表裏主面の少なくとも一方に形成された溝を有し、前記溝が、前記側辺部に沿ってその幅方向内側と外側とで前記振動腕の屈曲振動による圧縮応力と引張応力とが交互に発生する範囲に配置されていることを特徴とする請求項2記載の屈曲振動片。
【請求項4】
前記溝が、前記側辺部に沿って該側辺部の両端と前記中央支持腕を接続する部分との間の範囲に形成されることを特徴とする請求項3記載の屈曲振動片。
【請求項5】
前記溝が有底の溝であることを特徴とする請求項3又は4記載の屈曲振動片。
【請求項6】
前記溝が貫通溝であることを特徴とする請求項3又は4記載の屈曲振動片。
【請求項7】
前記枠体が、該枠体の内側にその対向する1対の側辺部の間を延長する支持部を有し、前記振動片本体を支持するために、前記中央支持腕の前記連結部とは反対側の前記端部が前記支持部に結合されていることを特徴とする請求項1記載の屈曲振動片。
【請求項8】
前記支持部がその表裏主面の少なくとも一方に形成した溝を有し、前記溝が、前記支持部に沿って前記支持部の振動片本体側とその反対側とで前記振動腕の屈曲振動による圧縮応力と引張応力とが交互に発生する範囲に配置されていることを特徴とする請求項7記載の屈曲振動片。
【請求項9】
前記溝が、前記支持部に沿って該支持部の両端と前記中央支持腕を接続する部分との間の範囲に形成されることを特徴とする請求項8記載の屈曲振動片。
【請求項10】
前記溝が有底の溝であることを特徴とする請求項8又は9記載の屈曲振動片。
【請求項11】
前記溝が貫通溝であることを特徴とする請求項8又は9記載の屈曲振動片。
【請求項12】
請求項1乃至6のいずれか記載の屈曲振動片と、ベースと、リッドとを備え、前記屈曲振動片を前記ベース上に配置し、かつ前記枠体の前記中央支持腕を結合した前記側辺部とは異なる側辺部で前記ベースに固定し、前記リッドを前記ベースに接合してその内部に前記屈曲振動片を気密に封止したことを特徴とする電子部品。
【請求項13】
請求項7乃至11のいずれか記載の屈曲振動片と、ベースと、リッドとを備え、前記屈曲振動片の前記枠体の下面に前記ベースを接合しかつ前記枠体の上面に前記リッドを接合して、その内部に前記屈曲振動片を気密に封止したことを特徴とする電子部品。
【請求項14】
請求項7乃至11のいずれか記載の屈曲振動片と、ベースと、リッドとを備え、前記屈曲振動片を前記ベース上に配置しかつ前記枠体の側辺部で前記ベースに固定し、前記リッドを前記ベースに接合してその内部に前記屈曲振動片を気密に封止したことを特徴とする電子部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−171966(P2010−171966A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−295837(P2009−295837)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(000003104)エプソントヨコム株式会社 (1,528)
【Fターム(参考)】