説明

差圧弁

【課題】部品点数が少なく、組み立て後の設定差圧の調整が可能な差圧弁を提供する。
【解決手段】ハウジング10にプラグ20および付勢ばね30を収容し、3つの部品で差圧弁を構成している。ハウジング10は、先端が閉止され側面に入口ポート14を有する小径部11と、先端の開口部が出口ポート15になっていて開口側辺縁のばね受け部16を折り曲げて付勢ばね30を係止している大径部12と、これらの結合部の段差を弁座13としている。プラグ20は、弁体21と、その軸線方向両端に配置された第1のガイド22および第2のガイド23とで一体に形成され、第1のガイド22が先端の閉止された小径部11に遊嵌されることでダンパ室25を構成している。付勢ばね30を係止しているばね受け部16は、大径部12の先端の開口部にあるので、その折り曲げの角度を変えて軸方向の係止位置を調整することにより設定差圧の微調整を可能にしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は差圧弁に関し、特に圧力が異なる2つの部屋の間に設置されて部屋間の圧力を所定の差圧に維持する差圧弁に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用空調装置の冷凍サイクルを構成するコンプレッサとしてスクロールコンプレッサが知られている。スクロールコンプレッサは、固定スクロールと、固定スクロールの軸方向開放側に配置された鏡板に支持されていて電動モータ等により旋回駆動される可動スクロールとを有している。可動スクロールが公転運動されることにより、固定スクロールと可動スクロールとによって囲まれた圧縮室の容積が周囲から中心に向かって螺旋方向に移動しながら減少していくことでガス冷媒が圧縮される。
【0003】
この圧縮動作のとき、可動スクロールの鏡板は、圧縮生成された圧縮室の高圧により固定スクロールから軸方向で離れる方向に押し出される力を受け、駆動源側が過大なスラスト荷重を受けてしまう。これを避けるため、鏡板の駆動源側に中間圧力室を形成し、この中間圧力室に圧縮生成された高圧を導入して、可動スクロールを固定スクロールの側へ押し戻すことが行われている。
【0004】
中間圧力室の中間圧力は、可動スクロールを固定スクロールに押し付けている荷重であるので、高くなり過ぎると、押し付ける荷重が過大になり、摩擦力も大きくなってコンプレッサの消費動力が大きくなってしまう。逆に、中間圧力が小さ過ぎると、可動スクロールと固定スクロールとの間のクリアランスが大きくなり、圧縮性能が低下するなどの弊害が生じる。
【0005】
そのため、中間圧力室の中間圧力を適切な値に保持することが必要となる。そこで、圧縮室に連通する高圧室と中間圧力室との間および中間圧力室と冷媒ガスが吸入される低圧室との間に切換弁を設ける構造が知られている(たとえば、特許文献1参照)。この切換弁は、高圧室と低圧室との差圧が大きくなると、高圧室から中間圧力室へ向かう通路を閉塞し、中間圧力室と低圧室との通路を開放して中間圧力室の中間圧力を低下させ、押し付け荷重を小さくしている。また、高圧室と低圧室との差圧が小さくなると、切換弁は、逆に切り換えて中間圧力室の中間圧力を上昇させ、押し付け荷重が大きくなるようにしている。
【0006】
これに対し、高圧室と中間圧力室との間にオリフィスを設置し、中間圧力室と低圧室との間に差圧弁を設け、中間圧力室の圧力と低圧室の圧力との差圧を所定の差圧に保持するようにした簡単構成のものも知られている(たとえば、特許文献2参照)。この差圧弁は、弁座を有するケーシングポットと、弁座を開閉する弁体と、一端がこの弁体に結合された連結棒と、この連接棒の他端に螺着された減衰ピストンと、弁体を弁座の方向へ付勢する閉弁ばねと、これらを収容する弁本体とを備えている。この構成では、中間圧力室の上流側にオリフィス、下流側に差圧弁を設置するだけなので、中間圧力室の圧力調整を低コストにて実現することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−21382号公報
【特許文献2】特開平10−89179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
それでも、上記の差圧弁は、部品点数が多く、しかも、設定差圧を決める閉弁ばねが弁座を有するハウジングによって開口部が閉止された弁本体内に収容されているので、組み立て後に設定差圧を調節することができないという問題点があった。
【0009】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、部品点数が少なく、組み立て後の設定差圧の調整が可能な差圧弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明では上記の課題を解決するために、先端が閉止され側面には入口ポートが穿設された筒状の小径部、先端が開放されて出口ポートをなす筒状の大径部、および、前記小径部および前記大径部の結合位置にできる段差で構成される弁座が一体に形成されたハウジングと、前記弁座に対して接離自在な弁体、前記弁体から入口ポートを越える位置まで延出され先端には前記小径部に遊嵌されるピストン形状の第1のガイド、および、前記弁体から前記出口ポートの側に延出されていて多角形の外形形状を有し前記多角形の頂点を軸方向に連ねて成る尾根の部分が前記大径部の内壁に略等しい曲率を有している第2のガイドが一体に形成されたプラグと、一端が前記プラグに係止され他端が前記大径部の開口側辺縁の一部を内側に折り曲げた複数のばね受け部により係止されて前記弁体を前記弁座の方向に付勢する付勢ばねと、を備えていることを特徴とする差圧弁が提供される。
【0011】
このような差圧弁によれば、ハウジングと、プラグと、付勢ばねの3つの構成要素で構成される。また、付勢ばねを係止しているばね受け部が大径部の露出している開口側辺縁にあり、係止位置の変更が可能であるので、設定差圧の微調整を可能にしている。
【発明の効果】
【0012】
上記構成の差圧弁は、構成要素が少ないことによってコストを大幅に低減することができるという利点がある。また、プラグは、その軸方向両端に第1および第2のガイドを有して弁体を支持する構成にしているので、弁体は弁座に対して傾くことなく動作することができる。さらに、第1ガイドをハウジングの先端が閉止された小径部に遊嵌する構成にしたことで、部品を増やすことなく差圧弁にダンパ効果を持たせることができる。
【0013】
ハウジングは、大径部の開口側辺縁にばね受け部よりも軸方向外側に突出された治具受け部を有しているので、差圧弁を通路内に治具を用いて押し込むときに、治具がばね受け部に当たることがないので、設定差圧が変化してしまうことがない。
【0014】
ハウジングは、その大径部の開口端側に半径方向外側に膨出された嵌合部が形成されていることにより、差圧弁を嵌合部の外径より僅かに小さな内径の通路に圧入したときに、嵌合部が差圧弁と通路内壁との間をシールし、かつ、差圧弁を通路内に固定する機能を有する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態に係る差圧弁の外観を示す正面図である。
【図2】差圧弁の詳細を示す図であって、(A)は差圧弁の左側面図、(B)は(A)のA−A矢視断面図である。
【図3】プラグの外観を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、冷凍サイクルを構成するスクロールコンプレッサの中間圧力室と低圧室との間の通路に設置し、可動スクロールを固定スクロールに押し付ける中間圧力の調整弁として使用する場合を例に図面を参照して詳細に説明する。
【0017】
図1は本発明の実施の形態に係る差圧弁の外観を示す正面図、図2は差圧弁の詳細を示す図であって、(A)は差圧弁の左側面図、(B)は(A)のA−A矢視断面図、図3はプラグの外観を示す斜視図である。
【0018】
差圧弁は、図2の(B)に示されるように、ハウジング10、プラグ20、および付勢ばね30の3つの部品を有し、ハウジング10にプラグ20および付勢ばね30を収容することによって構成されている。
【0019】
ハウジング10は、同一軸線上に配置されていて外径の異なる筒状の小径部11および大径部12を有し、これらの結合位置には段差ができていて、その内部は、この差圧弁の弁座13の機能を持たせている。そして、このハウジング10は、たとえば、銅、ステンレス鋼、真鍮等の金属板材をたとえば深絞り加工によって小径部11、大径部12および弁座13を一体に形成している。
【0020】
小径部11は、その先端が閉止されており、側面には複数の入口ポート14が穿設されている。この入口ポート14は、本実施の形態では4つ設けられており、それぞれ周方向に均等に配置されている。
【0021】
大径部12は、先端が開放されていて出口ポート15を構成している。大径部12の開口側辺縁は、図2の(A)に示されるように、周方向に、ばね受け部16と治具受け部17とが交互に配列され、ばね受け部16と治具受け部17との境界には、溝18が形成されている。ばね受け部16は、差圧弁の組み立て前は、軸方向外側にまっすぐ延出されていて、プラグ20および付勢ばね30をハウジング10に収容した後に、内側に折り曲げられる。このばね受け部16を折り曲げるときにその基部が変形されるが、その変形が他に影響するのを防止しているのが溝18である。治具受け部17は、ばね受け部16よりも軸方向外側に突出されている。これにより、この差圧弁をスクロールコンプレッサの中間圧力室と低圧室との間の通路に設置するとき、その通路に円柱状の治具を使って差圧弁を押し込むが、そのとき、その治具がばね受け部16に当たることはなく治具受け部17のみに当たるようにしている。大径部12は、また、その開口端側の一部が半径方向外側に膨出された嵌合部19が形成されている。この嵌合部19は、装着しようとする中間圧力室と低圧室との間の通路の内径よりも僅かに大きな外径を有し、通路に差圧弁を圧入したときに、通路の内壁に圧接される。これにより、嵌合部19は、通路と差圧弁との間をシールする機能と、通路内に差圧弁を固定する機能とを有している。
【0022】
プラグ20は、弁体21と、その軸線方向両端に配置された第1のガイド22および第2のガイド23とがたとえば冷凍サイクルの冷媒およびそれに混入された潤滑油や温度に耐性のある樹脂によって一体に形成されている。
【0023】
弁体21は、小径部11から大径部12に向かって径が大きくなるテーパ面を有し、そのテーパ面が弁座13に対して接離自在になっている。テーパ面を有する弁体21にしたことにより、差圧弁が開き始めるときのリフト量に対する流量の特性が急激な変化になることがなくなる。
【0024】
第1のガイド22は、弁体21から入口ポート14を越える位置まで軸方向に延出された弁棒24の先端に形成され、小径部11に遊嵌されるピストン形状を有している。弁棒24は、細く形成されていて、小径部11の内壁との間に冷媒が流れる通路を形成している。第1のガイド22は、小径部11に遊嵌されることにより、弁体21の軸方向の動きを支持するとともに、閉止されている側の小径部11と協働してダンパ室25を形成している。ダンパ室25は、第1のガイド22と小径部11との間のクリアランスを介して冷媒ガスまたは潤滑油が出入りすることにより、第1のガイド22と一体になっている弁体21の軸方向の急激な動作を抑制することができる。
【0025】
第2のガイド23は、弁体21から出口ポート15に向かって軸方向に延出され、図3に示したように、略四角形の外形形状を有していて、第2のガイド23と大径部12との間に4つの冷媒通路を確保するようにしている。また、第2のガイド23は、その略四角形の4つの頂点を軸方向に連ねて成る尾根の部分が大径部12の内壁に略等しい曲率を有し、大径部12に遊嵌されている。これにより、弁体21は、その軸方向両端にある第1のガイド22および第2のガイド23が小径部11および大径部12によって軸方向の動きが支持されているので、弁座13に対して傾くことなく、接離することができる。
【0026】
付勢ばね30は、弁体21を弁座13の方向に付勢するようハウジング10の大径部12に収容され、テーパスプリングが用いられている。付勢ばね30の一端は、第2のガイド23の端面に凹設された溝に係止され、他端は、大径部12の開口側辺縁に形成されて内側に折り曲げられたばね受け部16によって係止されている。この付勢ばね30の付勢力は、スクロールコンプレッサの中間圧力室の圧力と低圧室の圧力と差圧をいくつにするかに応じて設定される。すなわち、付勢ばね30は、図1および図2に示したように、ばね受け部16を直角方向に曲げた位置まで圧縮されたときに、所望の差圧で開弁するような付勢力に設定されている。なお、付勢ばね30の係止位置は、ばね受け部16の曲げ角度によって変更できるので、差圧弁を組み上げた後に、ばね受け部16の曲げ角度をさらに変更することによって、設定差圧を微調整することが可能になる。
【0027】
以上の構成を有する差圧弁は、スクロールコンプレッサの中間圧力室と低圧室との間の通路に圧入されることによって設置される。冷凍サイクルが動作していないとき、中間圧力室の圧力と低圧室の圧力とには差がないので、弁体21は、付勢ばね30の付勢力によって弁座13に着座され、閉弁している。
【0028】
スクロールコンプレッサが起動すると、高圧室から圧縮された冷媒が供給される中間圧力室の圧力は高くなり、圧縮のために冷媒が吸引される低圧室の圧力は低くなる。ここで、中間圧力室の圧力と低圧室の圧力との差が所定の値を超えると、付勢ばね30の付勢力に抗して弁体21が弁座13からリフトし、差圧弁は開弁する。差圧弁が開弁すると、中間圧力室と低圧室との差圧が小さくなるので、差圧弁は閉弁する。差圧弁は、この開弁と閉弁とを繰り返すことによって、中間圧力室と低圧室との差圧を所定の差圧に保持するようになる。このとき、差圧弁は、周期的に開閉を繰り返すが、弁体21と一体の第1のガイド22がダンパ室25を構成していることにより、そのときの周期開閉動作が大幅に制約されることになる。したがって、閉弁時に弁体21が弁座13を叩く打音の大きさが小さくなり、打音の周波数も非常に低くなるので、耳障りな寸開時における開閉ノイズを大幅に低減することができる。
【0029】
中間圧力室と低圧室との差圧が大きいとき、差圧弁は、その差圧に応じた開度に維持され、所定の差圧を保持するよう動作する。このとき、差圧弁は、閉じることがないので、弁体21が弁座13を叩く打音の発生はない。
【0030】
なお、上記の実施の形態では、出口ポート15の側で弁体21をガイドしている第2のガイド23を略四角形の外形形状で形成したが、本発明は、これに限定されるものではなく、多角形にすることができる。また、差圧弁を通路内でシールしながら固定する手段として、ハウジング10の大径部12の開口端側に嵌合部19を形成してあるが、シールをたとえばOリングで行い、たとえば通路の冷媒出口側にリングを嵌合して通路に挿入した差圧弁が脱落しないようにしても良い。
【符号の説明】
【0031】
10 ハウジング
11 小径部
12 大径部
13 弁座
14 入口ポート
15 出口ポート
16 ばね受け部
17 治具受け部
18 溝
19 嵌合部
20 プラグ
21 弁体
22 第1のガイド
23 第2のガイド
24 弁棒
25 ダンパ室
30 付勢ばね

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端が閉止され側面には入口ポートが穿設された筒状の小径部、先端が開放されて出口ポートをなす筒状の大径部、および、前記小径部および前記大径部の結合位置にできる段差で構成される弁座が一体に形成されたハウジングと、
前記弁座に対して接離自在な弁体、前記弁体から入口ポートを越える位置まで延出され先端には前記小径部に遊嵌されるピストン形状の第1のガイド、および、前記弁体から前記出口ポートの側に延出されていて多角形の外形形状を有し前記多角形の頂点を軸方向に連ねて成る尾根の部分が前記大径部の内壁に略等しい曲率を有している第2のガイドが一体に形成されたプラグと、
一端が前記プラグに係止され他端が前記大径部の開口側辺縁の一部を内側に折り曲げた複数のばね受け部により係止されて前記弁体を前記弁座の方向に付勢する付勢ばねと、
を備えていることを特徴とする差圧弁。
【請求項2】
前記大径部の開口側辺縁は、内側に折り曲げられた前記ばね受け部の間に前記ばね受け部よりも軸方向外側に突出された治具受け部を有していることを特徴とする請求項1記載の差圧弁。
【請求項3】
前記大径部は、その開口端側に半径方向外側に膨出された嵌合部が形成されていることを特徴とする請求項1記載の差圧弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−2238(P2012−2238A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−134628(P2010−134628)
【出願日】平成22年6月14日(2010.6.14)
【出願人】(000133652)株式会社テージーケー (280)
【Fターム(参考)】