説明

巻取式複合真空表面処理装置及びフィルムの表面処理方法

【課題】多機能化により小型で且つ低コストな巻取式複合真空表面処理装置を提供する。
【解決手段】真空容器全体を真空引きする真空ポンプを備えた略円筒状の真空容器内に、一対のフィルム巻取巻出ロールと、真空容器と軸中心をほぼ一致させた回転可能キャンロールとを備え、容器周壁にキャンロールに対向して固定された複数の表面処理手段と、容器周壁とキャンロールの間をほぼ遮蔽するように表面処理手段が配置された処理ゾーンを一対のフィルム巻取巻出ロールから分離する一対の第1遮蔽板と、容器周壁に固定されてキャンロール近くまで延長し、処理ゾーン内を少なくとも2つの表面処理手段を含む複数の処理室に区画する複数の第2遮蔽板と、容器周壁にそれぞれ設置された各処理室用真空ポンプとを有し、各々の処理室において互いに異なる圧力やガス種の表面処理を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムに乾燥、前処理、薄膜形成などの各種の表面処理を施すことができる巻取式複合表面処理装置、並びにこの装置を用いてフィルムの表面処理を行う方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プラスチック等のフィルムを基材とし、その表面に薄膜を形成した機能性フィルムの開発が盛んに行われている。例えば、パッケージ分野では、フィルム表面にSiOx、MgO、AlOx等から選ばれた少なくとも1種の金属酸化物からなる薄膜を形成することによって、透明で且つ酸素や水蒸気等の気体遮断性を有する食品保存性に優れたガスバリヤーフィルムが提供されている。
【0003】
また、エレクトロニクス分野においては、ディスプレイ用途として、ディスプレイ表面の反射を防止し、視認性を向上した反射防止フィルム等が広く使用されている。このフィルムは、TiO、ZrO、Nb等の高屈折率層、Al等の中屈折率層、SiO等の低屈折率層を積層した、異なる屈折率からなる多層薄膜をフィルム上に形成したものである。
【0004】
また、液晶ディスプレイでは、画素の小型化が進むに伴って、それに接続されるフレキシブル回路基板は高精度のパターンが必須となり、同時に狭ピッチに伴う電気的な信頼性の確保が一層要望されている。そのため最近では、ポリイミドフィルム上にスパッタリングや蒸着等により下地としてニッケル、クロム等の異種の金属層を設け、その上に電解銅めっきを施すことによって、接着剤を用いずに高い接着力を有する銅ポリイミドフレキシブル基板が用いられている。
【0005】
これらの機能性フィルムを製造する場合、基材となるフィルムに機能性を付与するため薄膜を形成する必要があるが、枚葉式では生産性や製造コストに劣るため、プラスチックフィルムを連続的に移動させながら薄膜を形成することが望ましい。そのための装置として、一般に、真空環境下でフィルムをロール間で移動させながら、連続的に薄膜形成を行う巻取式真空成膜装置が用いられている。
【0006】
従来から使用されている最も基本的な巻取式真空成膜装置としては、特開2002−60931公報に記載された構造を有するものがある。即ち、図1に示すように、真空チャンバ1の内部にフィルム2の搬送手段と共に、薄膜形成手段(図示せず)を具備した薄膜形成部3が設置され、真空チャンバ1の内部は真空ポンプ等から構成される排気系4により高真空まで排気される。巻出ロール5から連続的に送り出されたフィルム2は、巻取ロール6で巻き取られる間に、1つの成膜ドラム7上において薄膜形成部3により成膜されるようになっている。
【0007】
上記の薄膜形成手段については、物理的成膜法として真空蒸着法、スパッタリング法等があり、化学的成膜法として化学的気相成長法(CVD)等が用いられている。真空蒸着法は、抵抗加熱や電子銃照射により成膜材料を加熱蒸発させ、基材上に薄膜を形成する方法である。蒸着の際に、薄膜の密着性、緻密化を目的として、蒸発源と基材の間にプラズマを形成させるプラズマアシスト蒸着法も知られている。尚、プラズマの形成は、真空成膜装置内に設置した放電用の電極に直流又は交流の電圧を印加したり、導波管を用いてマイクロ波を任意の場所に照射したりすることによって形成することができる。
【0008】
また、スパッタリング法は、成膜材料としてプレート状に成形したターゲットを用い、このターゲットを放電用電極として上記プラズマ発生方法を用いて基材とターゲットの間にプラズマを発生させ、電位勾配を用いてターゲット表面にイオンを照射衝突させることによって、ターゲット物質を叩き出して基材上にターゲット物質の薄膜を形成する方法である。更に、化学的気相成長法(CVD)は、基材近傍に無機又は有機若しくはこれらの混合物を原料ガスとして気化導入し、加熱やプラズマを用いて化学反応させることによって、基材上に薄膜を形成する方法である。プラズマを用いた場合、スパッタリングと同様の装置構成を用いることも可能である。
【0009】
上記の薄膜形成手段のいずれにおいても、成膜の際にプラズマを用いることによって薄膜の密着性や緻密化に効果があることが確認されている。従って、プラズマを用いる薄膜形成手段は、ガスバリヤーフィルムでは気体遮断性の向上等に、反射防止フィルムでは光学特性の改善等に、また銅ポリイミドフレキシブル基板では銅層との密着性の向上等に対し、有効な方法として実用化されている。
【0010】
しかし、図1に示すような巻取式真空成膜装置では、単層の薄膜の形成は簡単であるが、複数の薄膜を積層する場合には、フィルムの走行方向に沿って複数の薄膜形成手段を配置するか、若しくはフィルムを往復して走行可能にし、積層に必要な回数に応じて複数の薄膜形成手段を通過させることが必要となる。
【0011】
このような薄膜の積層形成に用いる巻取式真空成膜装置として、特開2003−178436公報には、図2に示すように、真空チャンバ1の内部に複数の温度制御可能な成膜ドラム7a、7bを配置した成膜装置が記載されている。この成膜装置によれば、巻出ロール5から送り出されて巻取ロール6で巻き取られるフィルム2は、複数の成膜ドラム7a、7bを通過する間に、各成膜ドラム7a、7bの円周面に対向して設けた複数のカソード組立体8により、フィルム2上に異なる材質の薄膜を順次低温で成膜することができる。
【0012】
上記した従来の巻取式真空表面処理装置の場合、1つの装置で同時に複数の表面処理を行うことは難しかった。例えば、各種の表面処理手段を装置内の成膜ドラムの周辺各所に連続して接するように配置し、複数の処理を異なったフィルム処理位置において実施しようとすると、装置が大型化するだけでなく、フィルムにしわが発生したり、品質が低下したりする問題があった。そのため、フィルムに複数の表面処理を実施するためには、異なる処理装置を用いる必要があった。しかし、異なる処理装置を用いる方法では、処理工数やコストの増加を招くと同時に、装置間を移送する間にフィルムが大気に触れるため、形成した薄膜にピンホールが発生したり密着性が低下したりしやすいという問題があった。
【0013】
また、特許文献3で指摘されているように、上記したような接着剤を施すことなく直接絶縁体フィルム上に銅導体層を形成することができる銅ポリイミドフレキシブル基板を製造する場合には、絶縁体フィルム上に廉価に均一な厚さの銅導体層を形成するための手段として、通常は電気銅めっき法が採用されるが、そのためには、電気銅めっき被膜を施す絶縁体フィルムの上に薄膜の金属シード層を成膜して表面全面に導電性を付与し、その上に電気銅めっき処理を行うのが一般的である。この銅ポリイミドフレキシブル基板に配線パターンを形成するためのエッチング工程で、配線間にエッチング残渣と呼ばれる金属成分の溶け残りが残存するとショート不良の原因につながるため、配線の微細化に伴い、このエッチング残渣の有無を検出する検査が重要になっており、ますます厳密になってきている。ここで、このエッチング残渣は主に絶縁体フィルム中に存在する充填材(フィラー)周囲で多く見られ、これらが原因となっていることが考えられている。
【0014】
また、絶縁体フィルム上に薄膜の金属シード層を形成するためには、該フィルム表面をスパッタリング法もしくは真空蒸着法などの乾式めっき法を使用するのが一般的であるが、このような乾式めっき法で得られる被膜層には、主に3〜10μmの大きさのピンホールが発生する場合があり、径10μm以下のピンホールの存在によって、回路加工後に断線が発生する場合があることがわかってきた。
【0015】
ピンホール発生原因を調査検討したところ、絶縁体フィルム中の充填材がフィルム中から突出することが原因である場合が多いことが明らかとなった。該充填材の突出によるピンホールは、絶縁体フィルムが乾式めっき処理時に高温に曝された状態で起きていることが考えられる。従って、2層フレキシブル基板の製造においては、金属シード層を成膜する前処理として絶縁体フィルムに含まれる水分を脱水処理することが一般的であるが、加熱を行う場合には絶縁体フィルムが分解反応を始める温度以下の範囲内で行う必要がある、と言われている。
【特許文献1】特開2002−60931号公報
【特許文献2】特開2003−178436号公報
【特許文献3】特開2006−269689号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、このような従来の事情に鑑み、同一の装置で、フィルムが分解反応を始める温度以下の範囲内で加熱を行いフィルムに含まれる水分を脱水処理した後、同時に複数の表面処理を実施することができるうえ、形成された薄膜にピンホールの発生や密着性の低下などの欠陥が発生したり、フィルムにしわが発生したりすることがなく、しかも多機能化により小型で且つ低コストな巻取式複合真空表面処理装置およびフィルムの表面処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するため、本発明が提供する巻取式複合真空表面処理装置は、真空容器全体を真空引きする真空ポンプを備えた略円筒状の真空容器内に、一対のフィルム巻取巻出ロールと、真空容器と軸中心をほぼ一致させた回転可能なフィルム搬送用のキャンロールとを備え、キャンロールの回転に合わせフィルム巻取巻出ロール間で巻き出し又は巻き取られてキャンロールに沿って移動するフィルムに表面処理を施す表面処理装置であって、真空容器周壁にキャンロールに対向して固定された複数の表面処理手段と、真空容器周壁とキャンロールの間をほぼ遮蔽するように真空容器周壁に固定され、表面処理手段が配置された処理ゾーンを一対のフィルム巻取巻出ロールから分離する一対の第1遮蔽板と、真空容器周壁に固定されてキャンロール近くまで延長し、処理ゾーン内を少なくとも2つの表面処理手段を含む複数の処理室に区画する複数の第2遮蔽板と、各処理室は真空容器周壁にそれぞれ設置された処理室用真空ポンプを有し、各々の処理室において互いに異なる圧力やガス種の表面処理を行うことができると共に、該キャンロール表面に、ガス成分の排気が可能な格子状の溝を備えているか、あるいは、該キャンロール表面とキャンロール内部とを貫通する複数の孔を有しており、フィルム裏面側に発生するガス成分を排気可能となっており、キャンロール内部にキャンロールを加熱および温度制御することができるヒータが設置されており、さらに真空容器の周囲に装着された各種表面処理源を用いてフィルムを処理することを特徴とするものである。
【0018】
上記本発明の巻取式複合真空表面処理装置において、キャンロール上に形成された格子状の溝の断面形状が、長方形あるいは該キャンロール表面側が広い台形であることを特徴としており、容易にガス成分の排気が可能である。
【0019】
あるいは、上記本発明の巻取式複合真空表面処理装置において、キャンロールの貫通孔の形状が、円筒状、あるいはキャンロール表面側に広がりを持つすり鉢状であり、キャンロール内部側から容易にガス成分の排気が可能である。
【0020】
また、前記表面処理手段は、フィルム乾燥用のヒータ手段、フィルム前処理用のプラズマ発生手段、薄膜形成用のスパッタリング手段のいずれかである。
【0021】
また、本発明は、上記の本発明の巻取式複合真空表面処理装置を用いて、フィルムをキャンロールに沿って一方向に移動させながら、キャンロール内部のヒータによりキャンロールを加熱および温度制御し、該フィルムから発生したガス成分をキャンロール表面の格子状の溝部から排気し、あるいは、該キャンロール表面とキャンロール内部とを貫通する複数の排気孔を通してキャンロール内部側から排気し、その後、フィルムをキャンロールに沿って逆方向に移動させながら、各処理室内でフィルム処理位置に対向する1つの表面処理手段によりフィルムの表面処理を行うと共に、その表面処理の終了後に表面処理手段を切り替え、再びフィルムをキャンロールに沿ってサイド逆方向に移動させながら、各処理室内のフィルム処理位置で対向する表面処理手段によりフィルムの表面処理を行うことを特徴とするフィルムの表面処理方法を提供する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、同一の装置で、フィルムが分解反応を始める温度以下の範囲内で加熱を行い、該キャンロール表面にガス成分の排気が可能な格子状の溝を備えているか、あるいは、該キャンロール表面とキャンロール内部とを貫通する複数の孔を有しており、これらキャンロールに設けられた簡易な排気構造によってフィルムに含まれる水分を脱水処理した後、同時に複数の表面処理を実施することができ、比較的小型で低コストの巻取式複合真空表面処理装置を提供することができる。
【0023】
同一装置内でフィルムに含まれる水分の脱水処理を行い、複数の表面処理を完結でき、処理途中のフィルムを他の装置に付け替える必要がなくなるため、処理工程が短縮され且つ処理コストを低く抑えることが可能となるだけでなく、大気中に曝されることがなくなり、薄膜にピンホールの発生や密着性の低下などの欠陥が発生する等の品質の低下を招くことがない。
【0024】
更に、区画された各処理室をほぼ気密状態に遮蔽し、それぞれの処理室に処理室用真空ポンプを設置すれば、各処理室を差動排気することが可能となり、各々の処理室において異なる圧力やガス種の処理条件を選択して、より一層多様な表面処理を行うことが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の巻取式複合真空表面処理装置及びそれを用いたフィルムの処理法を、図面を用いて詳しく説明する。
【0026】
従来、巻取式のスパッタリング装置などの表面処理装置を用いて、フィルムに各種の表面処理を施す場合、フィルム中に残留する水分や溶媒成分などは、フィルムの表面処理特性に影響を与えるため事前に除去する必要性が明らかとなっているが、フィルムにしわを発生させることなく効率的に残留水分など除去するためには、精密なフィルム搬送システムを有する装置を用いる必要があった。また、しわやフィルムの寸法変形の発生を抑制するため、残留水分の除去を効率的に実施できる温度以下で処理し、処理時間をパラメータとして除去を行なわなければならず、処理の生産性が低下したり、また装置を大型化することによって、処理コストや設備費用に問題があった。
【0027】
本発明の表面処理装置は、例えば、図3〜4に示すように、装置全体用の真空ポンプ(図示せず)を備えた略円筒状の真空容器10の内部に、一対のフィルム巻取巻出ロール11a、11bと、真空容器10と軸中心をほぼ一致させて回転可能に設けたフィルム搬送用のキャンロール12とを備えている。フィルム13は、例えば、キャンロール12の回転に合わせて片方のフィルム巻取巻出ロール11aから巻き出されて他方のフィルム巻取巻出ロール11bに巻き取られる間に、回転するキャンロール12に沿って移動しながら表面処理が施されるようになっている。また、キャンロール12は、その表面温度を制御できるように、内部にヒータや温水又は冷媒などによる加熱冷却手段を備えていることが好ましい。
【0028】
真空容器10は、略円筒状の真空容器周壁10aと、真空容器底板10bと、真空容器天板(図示せず)とからなる。この真空容器10の内部には、キャンロール12に略対向して、それぞれ2つの表面処理手段からなる複数の表面処理手段対17、18、19が配置され、具体的には、この真空容器周壁10aには、キャンロール12に対向して複数の表面処理手段、例えば、フィルム乾燥用のヒータ手段17、フィルム前処理用のプラズマ発生手段18、薄膜形成用のスパッタリング手段19が取り付けてある。そして、真空容器全体を排気する真空ポンプ(図示せず)、処理ゾーンを局所的に排気する真空ポンプ23a、23b、23cによって本装置は真空排気される。
【0029】
また、これら複数の表面処理手段が配置された処理ゾーンを一対のフィルム巻取巻出ロール11a、11bから分離するために、一対の第1遮蔽板20が真空容器底板10bに固定され、真空容器周壁10aとキャンロール12の間をほぼ気密状態に遮蔽している。更に、複数の表面処理手段が配置された処理ゾーン内は、真空容器周壁10aに固定されてキャンロール12の近くまで延長した2つの第2遮蔽板21により、3つの処理室A、B、Cに区画されている。
【0030】
上記の各処理室A、B、C内には、それぞれ2つの表面処理手段が含まれている。各処理室A、B、Cの境界には、上記の通り、一対の第1遮蔽板20と、2つの第2遮蔽板21が配置され、そのうちの2つの遮蔽板により各処理室A、B、Cは他の処理室との隔離を行っている。この各処理室において、真空容器底板10bに保持され、キャンロール12と表面処理手段の間にマスク板(図示せず)を配置し、各処理室の表面処理手段に対向するフィルム処理位置以外を覆うこともできる。従って、例えば図3の状態の処理室Aでは、キャンロール12のヒータ手段17に対向する位置は、そのフィルム処理位置においてヒータ手段17によるフィルム13の乾燥処理のみが行われる。尚、上記マスク板は、処理室内で、キャンロール12の表面処理手段に対向する位置の一方を覆うことができるように稼動可能とすることにより、処理室内の2つの表面処理手段の一方のみを使用することも可能となる。これにより、処理室内の2つの表面処理手段をそれぞれ異なる表面処理手段を配置して、異なる表面処理を行う処理室とすることが可能となる。
【0031】
上記した本発明の表面処理装置を用いることによって、同一ガス種及び同一圧力下で可能な処理であれば、真空容器内を1方向にフィルムを連続的に搬送させながら、処理ゾーン内の各処理室において複数の表面処理手段を用いることによって、複数の処理室で異なる処理を同時に実施したり、表面処理手段の配置を選択することによって複数の処理室で同じ処理を同時に実施したりすることができる。
【0032】
例えば、図3の状態において、各処理室でのフィルム処理位置は、処理室Aでは2つのヒータ手段17に、処理室Bでは2つのプラズマ発生手段18に、及び処理室Cでは2つのスパッタリング手段19に、それぞれ対向している。従って、真空容器10内又はその処理ゾーン内を同一ガス種及び同一圧力とし、片方のフィルム巻取巻出ロール11aから巻き出されたフィルム13を他方のフィルム巻取巻出ロール11bに巻き取る間に、キャンロール12に沿って移動するフィルム13に対して、処理室Aではヒータ手段17による乾燥処理を行う。その後、フィルム10を上記と逆方向に移動させながら、処理室Bでプラズマ発生手段18によりプラズマでフィルム表面を前処理する。その際、真空容器10内は、真空容器底板10bに接続された全体用真空ポンプによって排気し、更にプラズマ処理用のガスを供給して所定の圧力に保持することができる。
【0033】
次に、再度、逆方向に(この場合、上記乾燥処理時と同方向となる)移動させながら、処理室Cでは、スパッタリング手段19により、フィルム13に薄膜を形成することができる。上記スパッタリング工程では、1巻のフィルムロールに対して上記の表面処理が終了した後、その際、真空容器10内は、真空容器底板10bに接続された全体用真空ポンプによって排気され、更にスパッタリング用のアルゴンガスなどを供給して所定の圧力に保持することで、行うことができる。
【0034】
上記の、処理室Aにおけるヒータ手段17による乾燥処理においては、片方のフィルム巻取巻出ロール11aから巻き出されたフィルム13を他方のフィルム巻取巻出ロール11bに巻き取る間に、フィルム13は、水分などの除去に適した温度に加熱されたキャンロールからの熱伝導、および処理室Aにおけるヒータ手段17からの輻射熱によって、キャンロール12に沿って移動するフィルム13から、キャンロール上に形成された格子状の溝24を経由して水分などガス成分が排気されることによって、フィルムに含まれる水分の脱水処理が行なわれ、乾燥される。
【0035】
本発明の他の実施態様として図4が挙げられる。
図4は、本発明の装置構造の断面構造を示す他の1つの実施例の図である。本実施例では、3つの処理室が設けられ、各処理室には、乾燥用のヒータ手段、イオン源やプラズマ電極などのフィルム表面処理手段、さらには薄膜形成用のスパッタリングカソードを具備するスパッタリング手段を設置しているところは図3と同様である。
【0036】
また、真空容器全体を排気する真空ポンプ、処理室を局所的に排気する真空ポンプを具備している。さらに、キャンロール内部排気口16よりキャンロール表面にある細かい排気孔25を通して、キャンロール内部排気口16より排気する真空ポンプを具備している。
【0037】
図4においても、フィルムは、水分などの除去に適した温度に加熱されたキャンロールからの熱伝導、および真空容器の内部周囲部に設置された乾燥ヒータからの輻射熱によって乾燥される。そして、キャンロールは内部にキャンロールを加熱および温度制御することができるヒータが設置されているとともに、該キャンロール表面とキャンロール内部とを貫通する複数の排気孔25を有し、フィルム裏面側に発生するガス成分を排気可能となっている。キャンロール内部の排気口よりキャンロール表面にある上記排気孔を通して真空ポンプなどによって排気される。
【0038】
これにより、処理室Aにおけるヒータ手段17による乾燥処理においては、片方のフィルム巻取巻出ロール11aから巻き出されたフィルム13を他方のフィルム巻取巻出ロール11bに巻き取る間に、フィルム13は、水分などの除去に適した温度に加熱されたキャンロールからの熱伝導、および処理室Aにおけるヒータ手段17からの輻射熱によって、キャンロール12に沿って移動するフィルム13から、該キャンロール表面とキャンロール内部とを貫通する複数の排気孔25を経由して水分などガス成分が排気されることによって、フィルムに含まれる水分の脱水処理が行なわれ、乾燥される。
【0039】
本発明は、円筒状あるいは円筒状に近い形状の真空容器10の内部に設置されたフィルム搬送および温度制御用のキャンロール12に沿わせてフィルム13を搬送しながらそのフィルム13を表面処理する巻取式乾式フィルム表面処理装置であって、その真空容器とキャンロールの中心軸が同一あるいはほぼ同一であり、フィルムの裏面が接するキャンロール表面とキャンロール内部とを貫通する複数の排気孔を有し、フィルムから排出される水蒸気などのガス成分の排気が可能であり、キャンロール内部にキャンロールを加熱および温度制御することができるヒータ15が設置されており、フィルム中に残留する水分や溶媒成分などを、しわや寸法変形を抑制しながら効率的に実施しできる。さらに、その後、連続的に実施されるイオン源やプラズマ処理によるフィルムの表面処理、さらにスパッタリング法による形成された薄膜に優れた処理特性を与える事を可能とするものである。
【0040】
本発明の表面処理装置においては、まず、キャンロールおよびヒータによる加熱乾燥工程後に、次の表面処理工程を実施することも可能であるが、キャンロールによるフィルムの加熱が次の処理工程に対して問題無い場合は、各処理ゾーン毎に異なる処理雰囲気となるように処理室用真空ポンプを用いるなどしてガス圧力を制御して異なった表面処理を実施することも可能である。これにより、例えば、乾燥、プラズマ処理、スパッタリング成膜を連続的に一回のフィルムの搬送工程で実施することもできる。
【0041】
このようにして、複数の異なる表面処理手段を備えた本発明の表面処理装置においては、同一の装置で、フィルムを真空容器内に装着して、その後真空装置外に取り出すことなく複数の処理を行うことができる。また、フィルムに同時に複数の箇所で同一の又は異なる表面処理を施すことができる。従って、複雑なプロセスの複合処理が可能であり、また同一種の薄膜形成を行う場合であっても、1つのカソードのターゲットが消耗しても別のターゲットを用いて成膜することができるなど、長時間処理あるいは厚膜化処理を実施することができる。
【実施例】
【0042】
以下に実施例を示し、具体的に本発明を説明するが、本発明は実施例に限定されることはない。
(実施例1)
図3に示した巻取式乾式フィルム表面処理装置に、各処理ゾーンに2つの各種表面処理源をセットした。第1の処理ゾーンAには、ヒータ17を設置し、真空容器10全体とは別個に真空ポンプ23aで差動排気した。処理ゾーンBにはプラズマ電極18を設置し、真空容器全体とは別個に真空ポンプ23bで差動排気する。処理ゾーンCにはカソード19を設置し、真空容器全体とは別個に真空ポンプ23cで差動排気した。カソード19にはCrおよびCuのターゲットをそれぞれ装着した。
【0043】
キャンロール12の表面には、ガス成分の排気が可能な格子状の溝24を備えており、該格子状の溝の断面形状は、該キャンロール表面側がわずかに広い台形状をしており、フィルム搬送時には連通する格子状の溝24のキャンロール端部から、フィルム裏面側に発生するガス成分を容易に排気が可能となっている。
【0044】
真空容器10の内の巻取巻出ロール11aに、長さ1000m、厚み25μmのポリイミドフィルムを装着し、円筒形の真空容器10の端面に設置した真空ポンプ、各処理ゾーンの真空ポンプ23a、23b、23cを用いて、真空容器10、各処理ゾーン内A、B、Cを真空排気後、処理ゾーンAは真空排気したままの状態とし、キャンロール内部のヒータ15と真空容器内のヒータ17を180°Cに保持し、処理ゾーンBに酸素ガスを供給して6.7Pa(50mmTorr)に保持し、プラズマ電極18に高周波電源より3kWの電力を各々供給しプラズマ放電を発生させた。巻取巻出ロール11aに装着した上記ポリイミドフィルムを毎分5mの速さで搬送し巻取巻出ロール11bに巻取りながら、ヒータによるポリイミドフィルムの乾燥とプラズマによるポリイミドフィルムの表面処理を約200分間連続的に実施した。
【0045】
上記乾燥処理、プラズマ処理の後、ポリイミドフィルム10を上記と逆方向に移動させながら、処理ゾーンCにはアルゴンガスを供給して1.3Pa(10mTorr)に保持し、2つのカソード19に各々のスパッタリング電源よりそれぞれ10kWと50kWの電力を供給し、スパッタリング放電を発生させ、スパッタリング成膜によってCr膜10nmとCu膜100nmの積層膜をポリイミドフィルム上に形成した。
(実施例2)
図4に示した巻取式真空フィルム表面処理装置に、各処理ゾーンに2つの各種表面処理源をセットした。第1の処理ゾーンAには、ヒータ17を設置し、真空容器10全体とは別個に真空ポンプ23aで差動排気した。処理ゾーンBにはプラズマ電極18を設置し、真空容器全体とは別個に真空ポンプ23bで差動排気した。処理ゾーンCにはカソード19を設置し、真空容器全体とは別個に真空ポンプ23cで差動排気した。カソード19には、CrおよびCuのターゲットをそれぞれ装着した。
【0046】
キャンロール12の表面には、ガス成分の排気が可能な、該キャンロール表面とキャンロール内部とを貫通する孔をほぼ等間隔でカゴメ状に、該キャンロール表面全面に備えており、該キャンロール排気孔25の断面形状は、キャンロール表面側に広がりを持つすり鉢状であり、フィルム搬送時には、フィルム裏面側に発生するガス成分を、該貫通孔を通して、該貫通孔とつながるキャンロール内部の排気口より真空ポンプなどによって排気することができる。
【0047】
上記本発明の巻取式複合真空表面処理装置において、キャンロール上に形成された格子状の溝の断面形状が、長方形あるいは該キャンロール表面側が広い台形であることを特徴としており、容易にガス成分の排気が可能である。あるいは、上記本発明の巻取式複合真空表面処理装置において、キャンロールの貫通孔の形状が、円筒状、あるいは、キャンロール内部側から容易にガス成分の排気が可能である。
【0048】
真空容器10の内の巻取巻出ロール11aに、長さ1000m、厚み25μmのポリイミドフィルムを装着し、円筒形の真空容器10の端面に設置した真空ポンプ、各処理ゾーンの真空ポンプ23a、23b、23c、さらにキャンロール内部を排気する真空ポンプ(図示せず)を用いて、真空容器10、各処理ゾーン内A、B、C、さらにキャンロール内部を真空排気後、処理ゾーンAは真空排気したままの状態とし、キャンロール内部のヒータ15と真空容器内のヒータ17を180°Cに保持した。
【0049】
処理ゾーンBには酸素ガスを供給して6.7Pa(50mmTorr)に保持し、プラズマ電極18に高周波電源より3kwの電力を各々供給しプラズマ放電を発生させた。巻取巻出ロール11aに装着した25μm厚さのポリイミドフィルムを毎分5mの速さで搬送し巻取巻出ロール11bに巻取りながら、ヒータによるポリイミドの乾燥とプラズマによるポリイミドの表面処理を約200分間連続的に実施した。
【0050】
上記乾燥処理、プラズマ処理の後、ポリイミドフィルム10を上記と逆方向に移動させながら、処理ゾーンCにはアルゴンガスを供給して1.3Pa(10mTorr)に保持し、2つのカソード19に各々のスパッタリング電源よりそれぞれ10kWと50kWの電力を供給し、スパッタリング放電を発生させ、スパッタリング成膜によってCr膜10nmとCu膜100nmの積層膜をポリイミドフィルム上に形成した。
(比較例1)
キャンロールにフィルムの裏面から真空排気を可能とする格子状の溝が無く、さらにキャン加熱用のヒータが内蔵されていないこと以外は図1に示した巻取式乾式フィルム表面処理装置と同様の装置を用いて、ポリイミドフィルムを乾燥、プラズマ処理し、その後、スパッタリング成膜を行った。
【0051】
真空容器内に設置され180°Cに温度設定されたヒータのみを用いて厚さ25μmのポリイミドフィルムを十分に乾燥させるためには、搬送速度を毎分2mにする必要があり、その後連続的に処理するプラズマ処理およびスパッタリング成膜の処理強度を実施例1に比較して40%程度まで落とす必要があった。そのため、1000m巻きのロールを処理するためには、約500分の時間を要した。
(比較例2)
比較例1と同様のキャンロールの構造を有する巻取式乾式フィルム処理装置を用いて、毎分5m程度の搬送速度で前記ポリイミドフィルムを十分に乾燥させるために、3つの処理ゾーンA、B、Cに設置される表面処理源をヒータに置き換えて、実施例1と同程度の効果が得られるかを調べた。その結果、6台のヒータを設置してフィルム乾燥を行って初めて実施例1と同等の効果があることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】従来の巻取式真空成膜装置の最も基本的な構成を示す概略の断面図である。
【図2】従来の巻取式真空成膜装置の他の構成を示す概略の断面図である。
【図3】本発明の巻取式複合真空表面処理装置の一実施例を示す概略の断面図である。
【図4】本発明の巻取式複合真空表面処理装置の他の実施例を示す概略の断面図である。
【符号の説明】
【0053】
1 真空チャンバ
2 フィルム
3 薄膜形成部
5 巻出ロール
6 巻取ロール
7、7a、7b 成膜ドラム
8 カソード組立体
10 真空容器
10a 真空容器周壁
10b 真空容器底板
11a、11b 巻取巻出ロール
12 キャンロール
13 フィルム
14 周壁突出部
15 キャンロール内蔵ヒータ
16 キャンロール内部の排気口
17 ヒータ手段
18 プラズマ発生手段
19 スパッタリング手段
20 第1遮蔽板
21 第2遮蔽板
23a、23b、23c 処理室用真空ポンプ
24 キャンロール表面の溝
25 キャンロール排気孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空容器全体を真空引きする真空ポンプを備えた略円筒状の真空容器内に、一対のフィルム巻取巻出ロールと、真空容器と軸中心をほぼ一致させた回転可能キャンロールとを備え、フィルム巻取巻出ロール間で巻き出し又は巻き取られてキャンロールに沿って移動するフィルムに表面処理を施す表面処理装置であって、
真空容器周壁にキャンロールに対向して固定された複数の表面処理手段と、
真空容器周壁とキャンロールの間をほぼ遮蔽するように真空容器周壁に固定され、表面処理手段が配置された処理ゾーンを一対のフィルム巻取巻出ロールから分離する一対の第1遮蔽板と、
真空容器周壁に固定されてキャンロール近くまで延長し、処理ゾーン内を少なくとも2つの表面処理手段を含む複数の処理室に区画する複数の第2遮蔽板と、
各処理室は真空容器周壁にそれぞれ設置された処理室用真空ポンプと、を有し、
各々の処理室において互いに異なる圧力やガス種の表面処理を行うことができると共に、該キャンロール表面にガス成分の排気が可能な格子状の溝を備えているか、あるいは、該キャンロール表面とキャンロール内部とを貫通する複数の孔を有しており、フィルム裏面側に発生するガス成分を排気可能となっており、キャンロール内部にキャンロールを加熱および温度制御することができるヒータが設置されており、さらに真空容器の周囲に装着された各種表面処理源を用いてフィルムを処理することを特徴とする巻取式複合真空表面処理装置。
【請求項2】
キャンロール上に形成された格子状の溝の断面形状が、長方形あるいは該キャンロール表面側が広い台形であることを特徴する請求項1記載の巻取式複合真空表面処理装置。
【請求項3】
キャンロールの貫通孔の形状が、円筒状、あるいはキャンロール表面側に広がりを持つすり鉢状であることを特徴する請求項1記載の巻取式複合真空表面処理装置。
【請求項4】
前記表面処理手段が、フィルム乾燥用のヒータ手段、フィルム前処理用のプラズマ発生手段、薄膜形成用のスパッタリング手段のいずれかであることを特徴とする請求項1〜3に記載の巻取式複合真空表面処理装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の巻取式複合真空表面処理装置を用いて、フィルムをキャンロールに沿って一方向に移動させながら、キャンロール内部のヒータによりキャンロールを加熱および温度制御し、該フィルムから発生したガス成分を、キャンロール表面の格子状の溝部から排気し、あるいは、該キャンロール表面とキャンロール内部とを貫通する複数の排気孔を通してキャンロール内部側から排気し、その後、フィルムをキャンロールに沿って逆方向に移動させながら、各処理室内でフィルム処理位置に対向する1つの表面処理手段によりフィルムの表面処理を行うと共に、その表面処理の終了後に表面処理手段を切り替え、再びフィルムをキャンロールに沿って再度逆方向に移動させながら、各処理室内のフィルム処理位置で対向する表面処理手段によりフィルムの表面処理を行うことを特徴とするフィルムの表面処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−231525(P2008−231525A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−74412(P2007−74412)
【出願日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】