説明

巻線の巻回方法、及び分割ステータ

【課題】ティースの一端側から巻線を導入して巻線を奇数層に巻回する際に、巻線の始端と終端とをティースの同じ一端側に配することができる巻線の巻回方法、及び分割ステータを提供する。
【解決手段】本発明の巻線の巻回方法は、ティース11の一端(ヨーク部12)側から偶数の巻線21を並列に導入し、ティース11の軸方向に沿って移動させながらティース11に巻線21を奇数層に巻回する。そして、本発明の巻回方法は、偶数の巻線を縦積みして巻回する工程(1ターン目から10ターン目)と、偶数の巻線を横並べして巻回する工程(例えば、11ターン目から15ターン目)とを具え、これら工程を組み合わせることで、巻線21の始端と終端とをティース11の同じ一端(ヨーク部12)側に配する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻線の巻回方法、及び分割ステータに関するものである。特に、巻線の始端と終端とをティースの同じ一端側に配することができる巻線の巻回方法、及び分割ステータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、モータの構成部材として、磁性材料からなるコアのティースに巻線を巻回したコイルを具えるロータやステータが広く知られている。ロータやステータは円環状のものが汎用されており、例えば、環状部から求心状に配される複数のティースと、各ティースに配されるコイルとを具える構成が挙げられる(特許文献1、2参照)。ステータとしては、環状部とティースとが一体に形成された一体型のものや、図8に示すように環状部とティースを具える分割コアとが分離可能であり、複数の分割コアを組み合わせて環状に形成された分割型のものがある。図8(A)は分割コアの斜視図、(B)はこの分割コアを円環状に配した状態を示す正面図、(C)はこの分割コアのティースに巻線を巻回して得られたコアとコイルとの一体化物(以下、分割ステータと呼ぶ)の横断面図である。ここで、横断面とは、図8(A)に示すX−X断面に該当する。図8(C)では、分割コアの左側部分にのみ巻線(コイル)を配した状態を示しており、右側部分の巻線は省略しているが、実際には右側部分にも巻線が存在する。以下、図面において同一符号は同一物を意味する。
【0003】
分割コア100は、磁性材料から形成されており、外周に巻線201が巻回されるティース101と、ティースの一端側に設けられるヨーク部102と、このヨーク部と対向するようにティースの他端側に設けられる鍔部103とを具える。ヨーク部102及び鍔部103はティース101の外周面から突出するように設けられており、分割コア100の横断面はT字状である。例えばこのような分割コア100を用いて円環状のステータを形成した場合、ヨーク部102はステータの外周側に位置し、鍔部103はステータの内周側に位置する。コイル200は、ティース101の外周に沿って巻線201を巻回することで形成され、ティース101とヨーク部102及び鍔部103により形成されるスロット104に収納される。
【0004】
この分割コア100のティース101に巻線201を巻回したコイル200を具える分割ステータmを複数作製し、これら分割ステータmを環状部材R等に組み付けて環状に配置することで、ステータを形成することができる。
【0005】
ところで、ティースに巻線を巻回してコイルを形成する場合、従来から整列巻きといわれる巻回方法が一般的に採用されている。図9は、ティースに巻線を巻回してコイルを形成する従来手順を説明するための図であり、分割ステータの横断面図の一部を拡大した図である。巻線中の数字は巻回順序(ターン数)を示しており、巻線を積み重ねて計5層に巻回している。巻回手順は、巻線21を分割コア10のティース11の一端側(ヨーク部12)から他端側(鍔部13)方向に向かって巻回し、ティースの他端側で巻線の移動方向を反転して、先に巻回された巻線の上に巻線を積み重ねながら一端側まで巻回していき、これを繰り返すことによって巻線21を所望の複数層に巻回して、コイル20を形成する。
【0006】
【特許文献1】特開平9−19095号公報
【特許文献2】特開2001−25198号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、図9に示すようにこの巻回方法では、ティースの一端側から巻き始めて巻線を奇数層に巻回する場合、巻線の巻き終り端(50ターン目)は巻き始め端(1ターン目)とは反対のティースの他端側に配されることとなる。このため、ステータとロータとを有するモータを組み立てる際に、ティースの他端側に配された巻線の終端の配線処理が困難となる場合がある。例えば、内側にロータが収容され、外側にステータが配されるインナーロータ型のモータの場合、分割ステータを作製する際に巻線をティースのヨーク部側から巻き始めると、巻線の終端はヨーク部側とは反対の鍔部側、つまり回転駆動するロータが存在する側に配されることとなる。したがって、モータの製造時又はメンテナンス時に巻線の終端をバスバーに接続したり、ロータを挿入したり、保守・点検したりすることが困難である。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、その目的の一つは、ティースの一端側から巻線を導入して巻線を奇数層に巻回する際に、巻線の巻き始め端(始端)と巻き終り端(終端)とをティースの同じ一端側に配する巻線の巻回方法を提供することにある。
【0009】
本発明の別の目的は、ティースに巻線を奇数層に巻回して形成されたコイルの始端と終端とがティースの同じ一端側に配されている分割ステータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の巻線の巻回方法は、ティースの一端側から偶数の巻線を並列に導入し、ティースの軸方向に沿って移動させながらティースに巻線を奇数層に巻回する。特に、本発明の巻回方法は、偶数の巻線を縦積みして巻回する工程と、偶数の巻線を横並べして巻回する工程とを具え、これら工程を組み合わせることで、巻線の始端と終端とをティースの同じ一端側に配することを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、巻線の始端と終端とをティースの同じ一端側に配することができ、例えばモータの製造時において巻線の始端及び終端の配線処理を容易に行うことができる。
【0012】
また、本発明の分割ステータは、ティースの一端側から偶数の巻線が並列に導入され、ティースに巻線を奇数層に巻回したコイルを具える。そして、このコイルは、偶数の巻線を縦積みして巻回された層と横並べして巻回された層とからなり、巻線の始端と終端とがティースの同じ一端側に配されていることを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、巻線の始端と終端とがティースの同じ一端側に配されており、例えばモータの製造時において巻線の始端及び終端の配線処理を容易に行うことができる。
【0014】
本発明の分割ステータは、ティースの一端側にティースの外周面から突出するように設けられたヨーク部を具え、巻線の始端と終端とがヨーク部側に配されていることが好ましい。
【0015】
巻線の始端と終端とがティースのヨーク部側に配されていることで、例えばインナーロータ型のモータを製造する際に、巻線の始端及び終端の配線処理をロータが存在する側と反対側で行うことができる。
【0016】
本発明の分割ステータは、ティースの外周面にインシュレータを具え、このインシュレータに巻線が巻回され、コイルが形成されていてもよい。そして、インシュレータの一端側及び他端側の少なくとも一方には、並列に縦積みされた巻線の傾きに合わせて傾斜したテーパー部が形成されていることが好ましい。
【0017】
インシュレータを具えることで、ティースを具える分割コアと巻線とをより確実に電気的に絶縁することができる。さらに、インシュレータの一端側若しくは他端側にテーパー部が形成されていることで、並列に縦積みされる巻線の位置決めを容易に行うことができ、巻きずれを生じ難くすることができる。
【0018】
以下、本発明をより詳しく説明する。
【0019】
巻線には通常、エナメル等の絶縁被覆が施された導線が用いられる。また、本発明に用いる巻線としては、巻線の断面形状が円形の丸線の他、断面形状が矩形の角線を利用することもできる。
【0020】
偶数の巻線を並列に導入して巻回するとは、導入した偶数本の巻線を同時に並列に巻回することを意味する。偶数の巻線を縦積みして巻回した場合、偶数の巻線が縦方向(ティース外周面に対して交差方向)に並んだ状態で巻回され、巻線をティースの軸方向に沿って移動させながら巻回することで、導入された巻線数と同じ偶数の巻線層が同時に形成されることとなる。例えば、ティースの一端側から2本の巻線を縦積みして巻き始めた場合、1層目と2層目とが同時に形成されることとなる(図1(A)参照)。ここで、巻線に断面形状が円形の丸線を用いる場合、縦積みされる巻線をティース外周面に対して垂直に縦積みしてもよいし、ティース外周面に対して傾けて縦積みしてもよい。後者の場合、具体的には同時に並列に巻回される巻線の各々の中心軸を結ぶ直線がティース外周面に対して例えば60°傾けることが好ましい(図1(B)参照)。このような角度に傾けて巻線を縦積みすることで、最終的に巻線を俵状に積み重ねることができ、結果として巻線の占積率を高めることができる。次に、偶数の巻線を横並べして巻回した場合、偶数の巻線が横方向(ティース外周面に対して平行方向)に並んだ状態で巻回され、巻線をティースの軸方向に沿って移動させながら巻回することで、1つの巻線層が形成されることとなる。例えば、ティースの一端側から2本の巻線を横並べして巻き始めた場合、1層目を形成するのに必要な巻回数は1層目に配される巻線数の1/2となる(図2参照)。
【0021】
上述した偶数の巻線を縦積みして巻回する工程と偶数の巻線を横並べして巻回する工程とを組み合わせることで、ティースに巻線を奇数層に巻回する場合であっても、巻線の始端と終端とをティースの同じ一端側に配することができる。例えば、ティースの一端側から2本の巻線を導入し、他端側方向に向かって巻線を並列に縦積みして巻回することで1層目と2層目とを同時に形成し、他端側で巻線の移動方向を反転させて、巻線を並列に横並べして巻回することで3層目を形成する。そして、巻線を5層以上に巻回する場合は、巻線の移動方向を順次反転させながら、巻線を並列に横並べして巻回することで4層目以降をそれぞれ形成すればよい。巻線を並列に縦積みして形成される層はティースの外周面(最内層)側とすることに限られず、コイルの外形表面(最外層)側としてもよく、最内層から最外層までの間のいずれかの層を形成する。
【0022】
また、巻線をティースの一端側から他端側又は他端側から一端側方向に向かって巻回し、巻線の移動方向を反転する折返し端まで巻線を巻回することを巻線層形成作業と呼び、偶数の巻線を縦積みして巻回する巻線層形成作業は奇数回であれば1回以上行うことができる。具体的には、導入する巻線の数を2kとし、最終的に形成する巻線層の総数TがT=2n+2k−1と表される場合(n,kは共に自然数)、偶数の巻線を縦積みして巻回する巻線層形成作業は、次式で求められる回数X以下行う。
【0023】
X=2×{Int[(n+2k−1)/2k]}−1 (式1)
なお、Int[(n+2k−1)/2k]は、(n+2k−1)/2kを計算して求められた実数の整数部のみを表す。
【0024】
なお、上記した折返し端は、巻線が巻回されるティースや後述するインシュレータの筒状部の形状によって異なる場合がある。例えば、巻線が巻回される外周面が平面状に形成されている場合は、折返し端がティースの一端側や他端側となり、巻線が巻回される外周面に段差が形成されている場合は、折返し端がティースの一端側や段差面となる。段差面とは、上段面と下段面とを繋ぐ面のことを意味する。
【0025】
分割コアは、例えば磁性材料からなる板状材を複数積層したり、磁性粉末を所定形状の金型に充填して加圧することで得られる。板状材を用いて分割コアを作製する場合、T字状の板状材を複数積層することで、ティースの外周面から突出するヨーク部及び鍔部を設けることができる。ティースとヨーク部及び鍔部とで囲まれる空間がスロットを形成し、ティースに巻線を巻回して形成されるコイルはこのスロットに収納される。また、ヨーク部及び鍔部は巻回作業時において、巻線の移動方向を反転させて次の巻線層を形成する際の巻線の当て止めに利用することができ、巻きずれを防止するのに役立つ。
【0026】
分割ステータは、分割コアのティースに巻線を巻回してコイルを形成することで得られるが、インシュレータを具える構成としてもよい。インシュレータは分割コアと巻線とを電気的に絶縁するのに役立つ。したがって、インシュレータは、分割コアと巻線とが接触しないように、スロットを形成する箇所に配置することが好ましい。つまり、巻線が巻回されるティースの外周面、及びヨーク部と鍔部とが互いに対向しあう面、にインシュレータを配して、インシュレータがスロットを形成するようにする。また、分割コアにヨーク部又は鍔部を設けずに、インシュレータによりヨーク部又は鍔部を形成するようにしてもよい。インシュレータは、分割片を組み合わせて一体となるように構成しておくと、分割コアに配置し易く好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明の巻線の巻回方法は、ティースの一端側から巻線を導入して巻線を奇数層に巻回する際に、巻線の始端と終端とをティースの同じ一端側に配することができる。また、本発明の分割ステータは、ティースに巻線を奇数層に巻回して形成されたコイルの始端と終端とがティースの同じ一端側に配されている。
【0028】
したがって、本発明を利用すれば、モータの製造時において巻線の始端及び終端の配線処理をティースの同じ一端側で容易に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の実施例を図3乃至図7に基づいて説明する。巻線中の数字は巻回順序(ターン数)を示しており、同じ数字の巻線同士は同時に並列に巻回されていることを意味する。ここでは、巻線に断面形状が円形のエナメル被覆銅線を用い、2本の巻線をティースの一端(ヨーク部)側から導入してティースに巻線を計5層に巻回する場合を例に説明する。
【0030】
<実施例1>
図3は、本発明の巻線の巻回方法を利用してティースに巻線を奇数層に巻回したコイルを具える分割ステータの横断面図の一部を拡大した図である。横断面とは、分割ステータを円環状に配してステータを形成した際にステータの中心軸(モータの回転軸)と直交する面で分割コアを切断したときの切断面である。
【0031】
実施例1では、分割コア10のティース11のヨーク部12側から2本の巻線21を導入し、鍔部13側方向に向かって2本の巻線21を縦積みして巻回することで、最内層側の2層、つまり1層目と2層目とを同時に形成する(1ターン目から10ターン目)。巻線21が鍔部13側まで到達したら、巻線の移動方向を反転させて、先に巻回された2層目の巻線の上に2本の巻線21を横並べして巻回することで3層目を形成する(11ターン目から15ターン目)。続いて、巻線の移動方向をティース11の端側で順次反転させながら、3層目と同じように4層目と5層目とを2本の巻線21を横並べして巻回することでそれぞれ形成する(16ターン目から20ターン目、21ターン目から25ターン目)。巻線21を巻回して形成されたコイル20は、巻線の始端(1ターン目)と終端(25ターン目)とがヨーク部12側に配される。このようにして分割ステータmが得られる。
【0032】
このように本発明の巻線の巻回方法を利用すれば、巻線を奇数層に巻回した際に、巻線の始端と終端とがティースの同じ一端側、例えばヨーク部側に配することができる。また、図に示すように縦積みされる巻線をティース外周面に対して約60°傾けて巻回することで、最終的に巻線を俵状に積み重ねることができ、結果として巻線の占積率を高めることができる。
【0033】
<変形例1>
実施例1では巻線を並列に縦積みして巻回される層が最内層側である場合について説明したが、下記の変形例1では巻線を並列に縦積みして巻回される層が最外層側である場合について説明する。図4は変形例1を説明するための図であり、図3と同じように分割ステータの横断面図の一部を拡大した図である。
【0034】
変形例1では、ティース11のヨーク部12側から2本の巻線21を導入し、鍔部13側方向に向かって2本の巻線21を横並べして巻回することで1層目を形成する(1ターン目から5ターン目)。続いて、巻線の移動方向を順次反転させながら、1層目と同じように2層目と3層目とを2本の巻線21を横並べして巻回することでそれぞれ形成する(6ターン目から10ターン目、11ターン目から15ターン目)。最後に、鍔部13側からヨーク部12側方向に向かって、先に巻回された3層目の巻線の上に2本の巻線21を縦積みして巻回することで、最外層側の2層、つまり4層目と5層目とを同時に形成する。巻線21を巻回して形成されたコイル20は、巻線の始端(1ターン目)と終端(25ターン目)とがヨーク部12側に配される。
【0035】
このように本発明の巻線の巻回方法によれば、巻線を並列に縦積みして巻回される層が最内層側であるか最外層側であるかを問わず、最内層から最外層までの間のいずれかの層を形成すればよい。そして、言うまでも無いが、巻線を並列に縦積みして巻回する作業は1回以上行えばよく、例えば巻線を7層に巻回する場合、この作業を1回又は3回行うことで、巻線の始端と終端とをティースの同じ一端側に配することができる。
【0036】
<実施例2>
本発明の分割ステータはインシュレータを具える構成としてもよい。図5はインシュレータを具える分割ステータの横断面図の一部を拡大した図である。ここでは、巻線を巻回する手順は実施例1と同様に行い、実施例1との相違点を中心に説明する。
【0037】
インシュレータ30は、ティース11の外周面に配される筒状部31と、ヨーク部12に配される第一フランジ部32と、鍔部13に配される第二フランジ部33とを具え、筒状部31と第一フランジ部32及び第二フランジ部33とで囲まれる空間がスロットを形成する。コイル20は筒状部31に巻線21を巻回することで形成される。さらに、インシュレータ30には、筒状部31の一端(第一フランジ部32)側に並列に縦積みされる巻線の傾きに合わせて傾斜したテーパー部40が形成されている。実施例1では、1層目に配された1ターン目の巻線21がティース11の外周面としか接することがないので巻線21の位置決めが難しく、巻きずれが生じ易い。しかし、このようにテーパー部40が形成されていることで、1ターン目の巻線21をテーパー部40に接するようにして巻回することができ、並列に縦積みされる巻線21の位置決めが行い易く、巻きずれを生じ難くすることができる。
【0038】
<変形例2及び3>
上記の実施例では、いずれも巻線が巻回されるティース又はインシュレータの外周面が平面状に形成されている場合について説明したが、下記の変形例2及び3では、巻線が巻回される外周面に段差が形成されている場合について説明する。図6及び7は変形例2及び3を説明するための図であり、図3と同じように分割ステータの横断面図の一部を拡大した図である。
【0039】
<変形例2>
変形例2では、分割ステータmはインシュレータ30を具えており、ティース11の外周面に配される筒状部31には、高さhが(d×√3/2)である段差が1段形成されている(d:巻線の直径)。
【0040】
例えば、このような段差が形成されている外周面に巻線を巻回する手順としては、筒状部31の第一フランジ部32側から2本の巻線21を導入し、段差面50側方向に向かって2本の巻線21を縦積みして巻回することで、1層目と2層目の一部とを同時に形成する(1ターン目から6ターン目)。巻線21が段差面50まで到達したら、2層目の残る部分を形成するべく、2本の巻線21を横並べして第二フランジ部33側まで巻回する(7ターン目と8ターン目)。次に、巻線21が第二フランジ部33側まで到達したら、巻線の移動方向を反転させて、第二フランジ部33側から第一フランジ部32側方向に向かって、先に巻回された2層目の巻線の上に2本の巻線21を横並べして巻回することで3層目を形成する(9ターン目から13ターン目)。続いて、巻線の移動方向を順次反転させながら、3層目と同じように4層目と5層目とを2本の巻線21を横並べして巻回することでそれぞれ形成する(14ターン目から18ターン目、19ターン目から23ターン目)。巻線21を巻回して形成されたコイル20は、巻線の始端(1ターン目)と終端(23ターン目)とが第一フランジ部32側に配される。
【0041】
また、インシュレータには、並列に縦積みされる巻線21の傾きに合わせて傾斜したテーパー部40が第一フランジ部32側に形成されている。したがって、並列に縦積みされる巻線21の位置決めが行い易く、巻きずれを生じ難くすることができる。
【0042】
<変形例3>
変形例3では、分割ステータmはインシュレータ30を具えており、ティース11の外周面に配される筒状部31には、高さhが(2×d×√3/2)である段差が1段形成されている(d:巻線の直径)。
【0043】
例えば、このような段差が形成されている外周面に巻線を巻回する手順としては、筒状部31の第一フランジ部32側から2本の巻線21を導入し、段差面50’側方向に向かって2本の巻線21を横並べして巻回することで1層目を形成する(1ターン目から3ターン目)。巻線21が段差面50’まで到達したら、巻線の移動方向を反転させて、2本の巻線21を横並べして第一フランジ部32側まで巻回して2層目を形成する(4ターン目から6ターン目)。次に、巻線21が第一フランジ部32側まで到達したら、巻線の移動方向を反転させて、第一フランジ部32側から第二フランジ部33側方向に向かって2本の巻線21を横並べして巻回することで3層目を形成する(7ターン目から11ターン目)。最後に、第二フランジ部33側から第一フランジ部32側方向に向かって、先に巻回された3層目の巻線の上に2本の巻線21を縦積みして巻回することで、4層目と5層目とを同時に形成する(12ターン目から21ターン目)。巻線21を巻回して形成されたコイル20は、巻線の始端(1ターン目)と終端(21ターン目)とが第一フランジ部32側に配される。
【0044】
さらに、インシュレータには、並列に縦積みされる巻線21の傾きに合わせて傾斜したテーパー部40’が第二フランジ部32側に形成されており、12ターン目の巻線21をテーパー部40’に接するようにして巻回することができる、したがって、並列に縦積みされる巻線21の位置決めが行い易く、巻きずれを生じ難くすることができる。
【0045】
このように本発明の巻線の巻回方法を利用すれば、巻線が巻回される外周面に段差が形成されている場合であっても、巻線を奇数層に巻回した際に、巻線の始端と終端とがティースの同じ一端側、例えばヨーク部(第一フランジ部)側に配することができる。
【0046】
なお、本発明の巻線の巻回方法、及び分割ステータは、本発明の要旨を逸脱することなく、適宜変更することが可能であり、上記実施例及び変形例に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の巻線の巻回方法は、巻線を奇数層に巻回してコイルを形成する際に利用することができる。また、本発明の分割ステータは、ステータといったモータを構成する部品の構成部材として利用することができる。さらに、このモータは、例えば電気自動車やハイブリッド自動車等に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】ティースの一端側から2本の巻線を縦積みして巻き始めた状態を示す図であり、(A)は縦積みされる巻線をティース外周面に対して垂直に縦積みする場合であり、(B)は縦積みされる巻線をティース外周面に対して傾けて縦積みする場合である。
【図2】ティースの一端側から2本の巻線を横並べして巻き始めた状態を示す図である。
【図3】本発明の実施例1に係る分割ステータの部分横断面図である。
【図4】本発明の変形例1に係る分割ステータの部分横断面図である。
【図5】本発明の実施例2に係る分割ステータの部分横断面図である。
【図6】本発明の変形例2に係る分割ステータの部分横断面図である。
【図7】本発明の変形例3に係る分割ステータの部分横断面図である。
【図8】分割ステータの説明図であり、(A)は直方体状のティースを具える分割コアを模式的に示す斜視図、(B)はこの分割コアのティースに巻線を巻回して得られた分割ステータを円環状に配した状態を模式的に示す正面図、(C)はこの分割コアのティースに巻線を巻回して得られた分割ステータの横断面図である。
【図9】従来の巻線の巻回手順を示す図である。
【符号の説明】
【0049】
m 分割ステータ R 環状部材
10,100 分割コア
11,101 ティース 12,102 ヨーク部 13,103 鍔部
104 スロット
20,200 コイル 21,201 巻線
30 インシュレータ
31 筒状部 32 第一フランジ部 33 第二フランジ部
40,40’ テーパー部
50,50’ 段差面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ティースの一端側から偶数の巻線を並列に導入し、ティースの軸方向に沿って移動させながらティースに巻線を奇数層に巻回する巻線の巻回方法であって、
偶数の巻線を縦積みして巻回する工程と、
偶数の巻線を横並べして巻回する工程とを具え、
これら工程を組み合わせて、巻線の始端と終端とをティースの同じ一端側に配することを特徴とする巻線の巻回方法。
【請求項2】
ティースの一端側から偶数の巻線が並列に導入され、ティースに巻線を奇数層に巻回したコイルを具える分割ステータであって、
コイルは、偶数の巻線を縦積みして巻回された層と横並べして巻回された層とからなり、
巻線の始端と終端とがティースの同じ一端側に配されていることを特徴とする分割ステータ。
【請求項3】
ティースの一端側には、ティースの外周面から突出するように設けられたヨーク部を具え、
巻線の始端と終端とがヨーク部側に配されていることを特徴とする請求項2に記載の分割ステータ。
【請求項4】
ティースの外周面には、インシュレータを具え、
このインシュレータに巻線が巻回され、コイルが形成されており、
インシュレータの一端側及び他端側の少なくとも一方には、並列に縦積みされた巻線の傾きに合わせて傾斜したテーパー部が形成されていることを特徴とする請求項2に記載の分割ステータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−43108(P2008−43108A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−216296(P2006−216296)
【出願日】平成18年8月8日(2006.8.8)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】