説明

巻締部の検査方法及びその検査装置

【課題】本発明は検査の信頼性を悪化させることなくスリップシームの予兆を発見することにより不良缶の発生を未然に防止し得る巻締部の検査方法及び検査装置を提供する。
【解決手段】缶の巻締部110を検査する際に、缶蓋101の中心Cを基準とした所定角度α毎の巻締部110の厚さTの変化量を、巻締部110の全周に亘って複数個取得し、それら変化量に基づいて巻締部110の巻締状態を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は缶蓋と缶胴との接合部に位置する巻締部を検査する検査方法及びその検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
缶蓋の外周縁部と缶胴の上縁部とを重ね合わせて巻き締めて缶蓋と缶胴とを接合する巻締装置が知られている。こうした巻締装置は、まず缶蓋の外周縁部と缶胴の上縁部とを重ね合わせ、これら外周縁部と上縁部とを第1シーミングロールで巻き締めて、その巻き締めで得られた巻締部を更に第2シーミングロールで押し潰して仕上げることが一般的である。
【0003】
これらのシーミングロールの押し当ては缶蓋及び缶胴をシーミングチャック等の保持具で保持しつつ回転させて行われる。第2シーミングロールによる巻締部の押し潰しは第2シーミングロールが巻締部の回りを3回転前後相対的に回転することにより完了し、その回転量の増加に従って第2シーミングロールの巻締部に対する押し込み量が徐々に増加するように第2シーミングロールの位置が制御される。従って、巻締部は、缶蓋及び缶胴に対する第2シーミングロールの相対回転が進むにつれてその厚さが適正な厚さになるまで徐々に低下して仕上げられる。
【0004】
巻締部の検査装置としては、検査対象の缶をカメラで撮影してリング状の巻締部の画像を取得し、その取得画像を解析して当該画像のリング幅が閾値を超えた場合に巻締不良を判定し、更にリング幅の変化が急峻に変化した場合を水滴等の付着に伴うノイズとして不良から除外するものが知られている(特許文献1)。その他、本発明に関連する先行技術文献として特許文献2が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−47079号公報
【特許文献2】特開2002−156338号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
保持具による缶蓋及び缶胴の保持は、これらの間に生じる摩擦力を利用して行われるため、保持具の摩耗によってその摩擦力が低下すると缶蓋及び缶胴が保持具に対して滑り第2シーミングロールによる巻締部の押し潰しが中断される。保持具に作用する負荷は、第2シーミングロールに対する缶蓋及び缶胴の回転が進むに従って増加し、第2シーミングロールの最接近時の前後でピークを迎える。そのため、保持具の滑りはそのピーク付近で最も発生し易くなる。しかし、そのピーク付近で滑りが発生しても既にある程度は巻締部が押し潰されている。従って、そのようなタイミングで滑りが発生しても缶蓋と缶胴との密封は十分に確保されており巻締不良が発生したと評価すべきでない。一方、こうしたタイミング以前に例えば第2シーミングロールの押し潰しの初期に保持具の滑りが発生した場合には巻締部の押し潰しが不十分な段階で押し潰しが中断するので、缶蓋と缶胴との密封が不十分となり巻締不良が発生したと評価すべきである。このような巻締不良は一般にスリップシームと呼ばれている。
【0007】
巻締加工を連続的に行う巻締装置に対して、スリップシームの発生に至るまでの稼働状況の履歴を検証したところ、スリップシームの発生に至る過程で、巻締部の厚さの最大値や巻締部の厚さの平均値等の値が稼働時間に従って徐々に増加していることが分かった。つまり、スリップシームは巻締部の厚さが突如として閾値を超えて発生するような現象ではないと言える。保持具の摩耗が進行すると、その進行に伴って保持具の保持力(摩擦力)が徐々に低下する。そのため、保持具の滑りが発生するタイミングが、保持具の摩耗の進行に伴って負荷がピークを迎えるタイミングよりも第2シーミングロールによる押し潰しの初期側へ徐々に移行する。保持具の滑りが発生するタイミングが許容範囲を超えて押し潰しの初期側へ移った場合に巻締不良として評価すべきスリップシームとして顕在化すると考えられる。
【0008】
こうしたスリップシームの発生過程からみて、スリップシームの予兆とも言うべき許容範囲内での保持具の滑りを巻締部の厚さに基づいて捉えることができれば不良缶の発生を未然に防止できる。しかしながら、この予兆たる保持具の滑りが発生しても巻締部の厚さには小さな変化として反映されるにすぎない。従って、特許文献1のように、巻締部の厚さに閾値を設け、或いはその厚さの最大値と最小値との差分に閾値を設けて検査した場合には、こうした閾値を厳格にすればするほど、スリップシームの予兆たる保持具の滑りが発生した状態と、巻き締めが正常に行われているが巻締部の厚さにばらつきが生じている状態との判別が困難になる。このため、巻締部の厚さ等の閾値を厳格化してスリップシームの予兆を捉えようとしても正常缶を不良缶とする誤判定が増加するから検査の信頼性が悪化する。
【0009】
そこで、本発明は検査の信頼性を悪化させることなくスリップシームの予兆を発見することにより不良缶の発生を未然に防止し得る巻締部の検査方法及びその検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の巻締部の検査方法は、缶蓋(101)と缶胴(100)との接合箇所に位置し、シーミングロール(5)で押し潰されて形成される巻締部(110)を検査する巻締部の検査方法において、前記缶蓋の中心(C)を基準とした所定角度(α)毎の前記巻締部の厚さ(T)の変化量(ΔT)を、前記巻締部の全周に亘って複数個取得し、前記変化量に基づいて前記巻締部の巻締状態を判定するものである。
【0011】
巻締部の押し潰しの途中で保持具が滑った場合は巻締部に押し潰せなかった部分が残る。つまり、保持具の滑りが発生した場合はその巻締部にシーミングロールの形状に対応した圧痕が残る。従って、その圧痕を横切るように巻締部の厚さを測定すると圧痕が生じた範囲内で圧痕の形状変化に対応して巻締部の厚さが変化する。
【0012】
本発明の検査方法によれば、所定角度毎の巻締部の厚さの変化量に基づいて巻締状態を判定するため、変化量の基準となる所定角度を適宜に細かく設定することにより圧痕の存在を捉えることができる。つまり、本発明の検査方法によれば、巻締部の厚さのばらつきによって生じる寸法差、例えばある位置における巻締部の厚さとその位置から180°離れた位置における巻締部の厚さとの寸法差と、圧痕の存在を原因とした巻締部の厚さの寸法差とを識別できる。これにより、誤判定を増加させずにスリップシームの予兆たる保持具の滑りを原因とした巻締部の厚さの変化を捉えることができる。従って、連続的に巻き締めを行う巻締装置を含んだシステムを前提として本発明の検査方法を実施することにより、いち早くスリップシームの予兆を検出して不良缶の発生を未然に防止できるから、不良缶を発見した時点で他の不良缶が既に多数製造されているという事態を回避できる。なお、こうしたシステムを前提とした場合には、本発明の検査方法をインライン又はオフラインのいずれでも実施できる。また、抜き取り検査又は全数検査のいずれでも実施可能である。
【0013】
本発明の検査方法の一態様において、前記所定角度は、前記巻締部が前記シーミングロールで押し潰される時に前記シーミングロールが前記巻締部に食い込む範囲に相当する食い込み角度(θp)よりも小さな値に設定されてもよい。シーミングロールが巻締部に食い込む範囲は、保持具の滑りが発生した巻締部に残る圧痕の形成範囲に相当する。この態様によれば、変化量の基準となる所定角度が食い込み角度よりも小さな値に設定されるので、確実に圧痕の存在を捉えることができるので検査精度が向上する。
【0014】
以上に説明した検査方法及びその各態様は以下の検査装置及びその各態様で実現して同様の効果を得ることができる。
【0015】
即ち、本発明の巻締部の検査装置は、缶蓋(101)と缶胴(100)との接合箇所に位置し、シーミングロール(5)で押し潰されて形成される巻締部(110)を検査する巻締部の検査装置において、前記缶蓋の中心(C)を基準とした所定角度(α)毎の前記巻締部の厚さ(T)の変化量(ΔT)を、前記巻締部の全周に亘って複数個取得する変化量取得手段(17〜19)と、前記変化量に基づいて前記巻締部の状態を判定する判定手段(19)と、を備えるものである。
【0016】
本発明の検査装置の一態様として、前記所定角度は、前記巻締部が前記シーミングロールで押し潰される時に前記シーミングロールが前記巻締部に食い込む範囲に相当する食い込み角度(θp)よりも小さな値に設定されてもよい。
【0017】
なお、以上の説明では本発明の理解を容易にするために添付図面の参照符号を括弧書きにて付記したが、それにより本発明が図示の形態に限定されるものではない。
【発明の効果】
【0018】
以上に説明したように、本発明の巻締部の検査方法及び検査装置によれば、所定角度毎の巻締部の厚さの変化量に基づいて巻締不良を判定するため、変化量の基準となる所定角度を適宜に細かく設定することにより保持具の滑りを原因とした巻締部に残る圧痕の存在を捉えることができる。これにより、誤判定を増加させずにスリップシームの予兆を発見できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一形態に係る検査方法を適用した検査装置が組み込まれた缶飲料製造ラインの一部を示した図。
【図2】図1の製造ラインに含まれる巻締装置の範囲IIを拡大して示した図。
【図3】巻き締めを行う前の缶胴のフランジ及び缶蓋のカール部を示す図。
【図4】第1シーミングロールで巻締部が形成された状態を示す図。
【図5】巻き締めが完了した缶胴のフランジ及び缶蓋のカール部を示す図。
【図6】検査ラインを模式的に示した説明図。
【図7】巻締部の厚さの測定方法を説明する説明図。
【図8】巻締部を第2シーミングロールが押し潰している状態を示した説明図。
【図9】図8の範囲XIを拡大して示した図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
まず、本発明の一形態に係る検査方法及び検査装置の説明を行う前提として、図1に示した製造ラインに含まれる巻締装置1について説明する。巻締装置1は、図3に示したように缶胴100の上縁部としてのフランジ100aと缶蓋101の外周縁部としてのカール部101aとを重ね合わせて巻き締め、これにより缶胴100に缶蓋101を接合する装置である。図1に示したように巻締装置1は、軸線回りに回転可能なシーミングターレット2と、シーミングターレット2の外周に等間隔で設けられる複数のリフタープレート3と、各リフタープレート3の上方にそれぞれ設けられるシーミングチャック10(図2参照)及びノックアウトパッド(不図示)と、リフタープレート3毎に設けられて缶胴100に缶蓋101を巻き締める第1シーミングロール4及び第2シーミングロール5とを備えている。この巻締装置1は、まず缶胴100のフランジ100aと缶蓋101のカール部101aとを第1シーミングロール4で巻き締めて巻締部110(図4参照)を形成し、次にその巻締部110を第2シーミングロール5で押し潰すことにより巻き締めを完了させる(図5参照)。この方法は一般に二重巻き締めと称される。従って、第2シーミングロール5が本発明に係るシーミングロールに相当する。
【0021】
リフタープレート3は、上下方向に移動可能なようにシーミングターレット2に設けられている。各リフタープレート3には、上部に缶蓋101が被せられた缶胴100が載置される。シーミングチャック10及びノックアウトパッドは、リフタープレート3と対向するように設けられている。ノックアウトパッドは、リフタープレート3の上昇時に缶胴100及び缶蓋101を上から押さえるために設けられている。シーミングチャック10は、リフタープレート3が上昇して所定の位置に達した際に缶蓋101の内部に挿入されるように設けられている。このようにリフタープレート3が上昇してリフタープレート3に載置された缶胴100の底部をリフタープレート3が押し、かつシーミングチャック10が缶蓋101の内部に挿入されて缶蓋101を上から押さえることにより、シーミングチャック10及びリフタープレート3にて缶胴100及び缶蓋101を上下方向から挟み込んで把持することができる。
【0022】
図3に示したように、缶蓋101は、センターパネル102、チャックウォールラジアス103、チャックウォール104、及びカール部101aを備えている。センターパネル102は、缶蓋101の中央部分に設けられており、ほぼ平坦である。チャックウォールラジアス103は、センターパネル102の外周に設けられている。図に示したようにこのチャックウォールラジアス103は、下方に凹んでいる。すなわち、このチャックウォールラジアス103が缶蓋101の下端101bとなる。チャックウォール104は、チャックウォールラジアス103の外周に設けられ、チャックウォールラジアス103から径方向外側、かつ上方に延びている。そして、チャックウォール104の外周にカール部101aが設けられている。
【0023】
図2及び図3に示したように、シーミングチャック10は、リップ部11、凹部12及びウォール部13を備えている。凹部12とウォール部13とは、シーミングチャック10の外周面10aに設けられている。リップ部11は、シーミングチャック10が缶蓋101の内部に挿入された際にチャックウォールラジアス103の内部に入り込み、その外周面及び下端がチャックウォールラジアス103の内周面とそれぞれ接触する。これによりリップ部11を缶蓋101の下端101bと接触させることができる。図4に示したように、凹部12は、巻締部110が形成された缶蓋101の内部にシーミングチャック10が挿入された際に缶蓋101との間に空間が生じるように、すなわち缶蓋101から離間するように形成されている。ウォール部13は、巻締部110が形成された缶蓋101の内部にシーミングチャック10が挿入された際にチャックウォール104のうち缶蓋101の上端101cとなる部分と接するように形成されている。そのため、巻締部110が形成された缶蓋101の内部にシーミングチャック10を挿入すると、第2シーミングロール5を接触させる前の状態においてリップ部11とウォール部13とが缶蓋101と接触する。従って、これらリップ部11及びウォール部13の2箇所で缶蓋101を保持できる。
【0024】
第1シーミングロール4及び第2シーミングロール5は、それぞれシーミングチャック10及びリフタープレート3で把持されている缶胴100と接触する接触位置と缶胴100から離間する離間位置との間で移動可能なように設けられている。第1シーミングロール4の外周には、重ね合わされたフランジ100aとカール部101aとを途中まで巻き締めるためのグルーブ4aが設けられている。第2シーミングロール5の外周には、第1シーミングロール4によって途中まで巻き締められたフランジ100aとカール部101aとを押しつぶして巻き締めを完了させるグルーブ5aが設けられている。
【0025】
巻締装置1による缶胴100と缶蓋101との巻き締めは次の通り行われる。上述したように、リフタープレート3には、上部に缶蓋101が被せられた缶胴100が載置される。その後、まずリフタープレート3が上昇し、缶蓋101内にシーミングチャック10が挿入される。これによりリフタープレート3及びシーミングチャック10にて缶胴100及び缶蓋101を把持することができる。
【0026】
次に、第1シーミングロール4が接触位置に移動してフランジ100a及びカール部101aを巻き締める。これにより、図4に示したように缶胴100及び缶蓋101に巻締部110が形成される。その後、第1シーミングロール4が離間位置に移動し、続いて第2シーミングロール5が接触位置に移動する。そして、図5に示したように第2シーミングロール5の押し込み量を徐々に増加させながら巻締部110の回りを3回転半程度相対回転させて巻締部110を押し潰してフランジ100aとカール部101aとの巻き締めを完了する。これにより、巻締部110の厚さが所定寸法に仕上げられる。その後、第2シーミングロール5が離間位置に移動し、続いてリフタープレート3が下降する。そして、巻き締めが完了した缶が巻締装置1から排出される。
【0027】
巻締装置1から排出された缶は巻締装置1に隣接する検査ラインに移送される。図6に示すように、検査ラインは缶を搬送するコンベア15を有しており、そのコンベア15の搬送経路には検査装置16が設けられている。検査装置16は缶をその真上から撮像するカメラ17と、そのカメラ17が撮像した画像を処理する画像処理部18と、画像処理部18が処理した画像を解析するとともに所定の演算を行う演算部19と、演算部19の演算結果を出力する出力部20とを備えている。
【0028】
画像処理部18はカメラ17が撮像した缶蓋101の正面画像を適宜に処理して鮮明な巻締部110の演算対象画像を生成する。演算部19はこの演算対象画像に基づいて巻締部11の厚さTの所定角度α毎の変化量ΔTを巻締部110の全周に亘って複数個取得する。図7に示すように、角度αは缶蓋101の中心Cを基準とした角度であり、その値は検査対象となる缶の種類に応じて適宜に(例えば1°に)設定される。角度αの設定の詳細は後述する。なお、本形態は、カメラ17、画像処理部18及び演算部19の組み合わせによって本発明に係る変化量取得手段が実現される。
【0029】
演算部19は取得した複数の変化量ΔTのそれぞれについて所定の閾値Tthと比較し、変化量ΔTが閾値Tthを超えている場合にスリップシームの予兆たるシーミングチャック10及びリフタープレート3の滑り、即ち保持具の滑りが発生したと判定する。一方、変化量ΔTが閾値Tth以下の場合は正常な巻き締めが行われたと判定する。但し、取得した複数の変化量ΔTのうち、隣接若しくは近接する2つの取得値の間で、増加及び減少を区別する識別手段としての正及び負の符号が反転する場合、つまり角度範囲2α若しくは3α程度の範囲内で厚さTが増加から減少へ又は減少から増加へ変化した場合は、巻締部110への異物の付着や微細な傷の存在等が推認される。従って、演算部19は、変化量ΔTが閾値Tthを超えていても、こうしたケースを判定対象から除外する。これにより、スリップシームと無関係な異物の付着や微細な傷が存在する場合を、スリップシームの予兆たる保持具の滑りが発生した場合として誤判定することを防止できるので検査精度が向上する。以上により、演算部19は本発明に係る判定手段として機能する。
【0030】
演算部19は、スリップシームの予兆が発生したと判定した場合は不良検出信号を出力部20に出力する。出力部20は、不良検出信号を受信した場合、警告表示等を不図示のディスプレイに表示するとともに、当該缶を排出する排出装置(不図示)を駆動するための駆動信号を出力する。
【0031】
次に、図8及び図9を参照しながら、巻締部110の厚さTの変化量Δに基づいて巻締部110の検査を行う原理等について説明する。保持具の滑りによって第2シーミングロール5の押し潰しが中断した場合、巻締部110には第2シーミングロール5の形状に対応した圧痕が残る。この圧痕の形成範囲は第2シーミングロール5にて巻締部110を押し潰す際に第2シーミングロール5が巻締部110に食い込む範囲に相当する。この食い込み範囲の大きさ、即ち食い込み角度θpは、第2シーミングロール5の押し込み量(潰し代)δt、第2シーミングロール5の半径Rr、缶蓋101の中心Cから巻締部110の内周面に至る距離(半径)Rf、巻締部110の厚さTがそれぞれ定まることにより理論的に算出され得る。この食い込み範囲内では、巻締部110の厚さTが加工方向に向かって角度α毎にT1、T2、T3、…と徐々に増加する。そして、この増加の割合は一定でないため、角度α当たりの変化量ΔTも同方向に向かって、ΔT1、ΔT2、ΔT3、…と増加する特徴を持つ。
【0032】
第2シーミングロール5の食い込み範囲がこのように特徴付けられるので、保持具の滑りが発生して第2シーミングロール5による巻締部110の押し潰しが中断した場合には、その滑りが発生したタイミングにかかわらず最大で食い込み角度θpの大きさを持ち、かつ図示のような寸法変化を巻締部110に与える圧痕が残存しているはずである。なお、保持具の滑りが第2シーミングロール5による押し潰しの初期に生じて完全なスリップシームが発生した場合は、巻締部110の厚さTが押し潰し後期に滑りが生じる予兆の場合に比べて大きくなる。
【0033】
従って、図示のような巻締部110の寸法変化を手がかりとしてその圧痕の存否を推定することにより、スリップシームの予兆の有無を判定できる。本形態の検査は、食い込み角度θpよりも小さい角度α毎の変化量ΔTに基づいているので、圧痕を原因とした巻締部110の厚さの寸法差と、圧痕の形成範囲を超えた範囲内で発生する厚さのばらつき等を原因とした寸法差とを区別できる。従って、保持具の滑りを原因とした圧痕を確実に捉えることができる。特に、角度αは食い込み角度θpを複数に分割し得る大きさに設定されているので、圧痕をより正確に捉えることができる。本形態では、圧痕上で検出し得る変化量ΔTの最小値ΔT1からこれに隣接するΔT2までの範囲内に変化量ΔTの閾値Tthを設定し、この閾値Tthを超えた場合に保持具の滑りが発生したものと判定している。この閾値Tthの値は角度αの値が小さいほど小さく設定することができる。閾値Tthの値を小さくしてもスリップシームとは無関係の寸法変化を誤検出する機会が増え難いので、より正確な検査が可能となる。なお、巻き締めが正常に行れた場合について付言するが、保持具の滑りが発生しない正常な場合は、第2シーミングロール5の押し込み量が最大になった状態で巻締部110が完全に押し潰されるため、最終的には図7の潰し代δtが0となる。つまり巻締部110に圧痕が存在しない状態となる。
【0034】
本発明は上記形態に限定されず、種々の形態にて実施できる。上記形態では本発明に係る検査方法を行う検査装置16が巻締装置1を含む製造ライン内に組み込まれたインラインの状態で実施されているが、本発明の検査方法をオフラインで実施することも可能である。また、本発明の検査方法及び装置はいわゆる抜き取り検査に適用することもできるし、全数検査にも適用することもできる。
【0035】
また、上記形態は、巻締部の厚さの変化量の基礎となる巻締部の厚さを図7に示したように光学的手段を用いて非接触で取得しているが、巻締部の厚さの取得方法には制限はない。例えば、円筒状の物体の内周や外周を測定可能な周知の接触式のラウンド測定器を利用して当該厚さ及びその変化量を取得することもできる。また、こうした測定器は製造ライン上に組み込んで自動制御してもよいし、作業者が手動で測定器を操作して実施することも可能である。
【符号の説明】
【0036】
5 第2シーミングロール(シーミングロール)
16 検査装置
100 缶胴
101 缶蓋
110 巻締部
C 缶蓋の中心
α 所定角度
T 巻締部の厚さ
ΔT 巻締部の厚さの変化量
θp 食い込み角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
缶蓋と缶胴との接合箇所に位置し、シーミングロールで押し潰されて形成される巻締部を検査する巻締部の検査方法において、
前記缶蓋の中心を基準とした所定角度毎の前記巻締部の厚さの変化量を、前記巻締部の全周に亘って複数個取得し、前記変化量に基づいて前記巻締部の巻締状態を判定することを特徴とする巻締部の検査方法。
【請求項2】
前記所定角度は、前記巻締部が前記シーミングロールで押し潰される時に前記シーミングロールが前記巻締部に食い込む範囲に相当する食い込み角度よりも小さな値に設定されている請求項1に記載の検査方法。
【請求項3】
缶蓋と缶胴との接合箇所に位置し、シーミングロールで押し潰されて形成される巻締部を検査する巻締部の検査装置において、
前記缶蓋の中心を基準とした所定角度毎の前記巻締部の厚さの変化量を、前記巻締部の全周に亘って複数個取得する変化量取得手段と、前記変化量に基づいて前記巻締部の状態を判定する判定手段と、を備えることを特徴とする巻締部の検査装置。
【請求項4】
前記所定角度は、前記巻締部が前記シーミングロールで押し潰される時に前記シーミングロールが前記巻締部に食い込む範囲に相当する食い込み角度よりも小さな値に設定されている請求項3に記載の検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−47513(P2012−47513A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−188052(P2010−188052)
【出願日】平成22年8月25日(2010.8.25)
【出願人】(307027577)麒麟麦酒株式会社 (350)
【Fターム(参考)】