説明

干渉計測装置及び干渉計測方法

【課題】参照面及び被検面の熱変形による測定誤差を高精度に補正する干渉計測装置及び測定方法を提供すること。
【解決手段】参照面からの反射光と被検面からの反射光を比較測定することで、前記被検面の面形状を測定する干渉計測装置において、光源強度、温度、気圧を検出するための検出手段を有し、該検出手段により取得した情報に基づいて、予め作成しておいた数式モデルに従って前記参照面と被検面の熱変形形状を算出し、該熱変形形状を用いて測定波面より得られる被検面形状データを補正する補正演算装置を有するように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体露光装置等の高精度光学機器に用いられるレンズ及びミラーの面形状を極めて高い精度で測定する干渉計測方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、高精度光学機器に用いられるレンズやミラーの面形状を高精度に測定する手段として、干渉計測装置が広く使用されている。干渉計測装置は自身が持つ高精度球面や高精度平面等の参照面からの反射光を基準として、被検面からの反射光との比較測定を行うものである。
【0003】
そのため、参照レンズや被測定物、これらの支持部材に温度変化が生じると、参照面や被検面が熱変形するため、測定誤差になる。
【0004】
従来技術として、特許文献1において、温度変化による測定誤差を抑えるために参照面と被検面を恒温チャンバに入れることで、耐環境攪乱性を高める技術が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2000−88512号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、測定精度の高精度化に伴って必要な温調精度は益々高くなっており、温度を良好に保つことが困難になっているという問題がある。
【0007】
これに加えて、高精度な干渉計測装置では、空気揺らぎを抑制するために減圧環境で使用されており、減圧環境では空気の対流による伝熱が微弱であるため、温度を精密に制御することは更に困難になっている。
【0008】
又、干渉計測装置で高精度な測定を行うためには、測定波面より得られたデータから干渉計測装置の持つシステムエラーを補正する必要があり、前記高精度球面や高精度平面等の参照面を別途校正しているが、校正時と測定時では、校正原器と被測定物の形状や配置、材料の違いから、伝熱状態が異なり、参照レンズの温度分布に僅かに違いが生じる。このため、校正時の参照面形状と測定時の参照面形状が異なり、測定誤差になるという問題が生じてきている。
【0009】
従来、精度上余り問題にならなかったこれらの点が近年或いは将来、計測精度が高精度化するにつれて、益々重要となってくると考えられる。
【0010】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたもので、その目的とする処は、参照面及び被検面の熱変形による測定誤差を高精度に補正する干渉計測装置及び干渉測定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を達成するため、本発明に係る第1の発明は、参照面からの反射光と被検面からの反射光を比較測定することで、前記被検面の面形状を測定する干渉計測装置において、光源強度、温度、気圧を検出するための検出手段を有し、該検出手段により取得した情報に基づいて、予め作成しておいた数式モデルに従って前記参照面と被検面の熱変形形状を算出し、該熱変形形状を用いて測定波面より得られる被検面形状データを補正する補正演算装置を備えるようにした。
【0012】
又、本出願に係る第2の発明は、前記数式モデルのデータを入力する入力手段と、該入力手段により入力されたデータを保存する記録手段を有し、前記被測定物の形状や配置、材料に対応した数式モデルを呼び出し可能にした。
【0013】
又、本出願に係る第3の発明は、参照面からの反射光と被検面からの反射光を比較測定することで、前記被検面の面形状を測定する干渉計測方法において、光源強度、温度、気圧を検出し、該検出した情報に基づいて、予め作成しておいた数式モデルに従って前記参照面と被検面の熱変形形状を算出し、該熱変形形状を用いて測定波面より得られる被検面形状データを補正するようにした。
【発明の効果】
【0014】
上記のように構成された本出願に係る第1及び第3の発明によれば、参照面及び被検面の熱変形形状を数式モデルに従って算出することで、温度変化による測定誤差を高精度に補正することができる。
【0015】
又、本出願に係る第2の発明によれば、被測定物の形状や配置、材料に対応した数式モデルを呼び出すことで、種々の被測定物に対して測定誤差を補正することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
<実施の形態1>
図1に本発明の実施の形態1を示す。
【0017】
図1において、101は光源であるところのレーザ、102は射出したレーザ光の一部を反射し残りを透過する半透過鏡、103はレーザ光を一旦集光して発散させる集光レンズ、104はレーザ光の進行方向を変化させるビームスプリッタ、105、111は発散するレーザ光を平行光に変換するコリメータレンズ、106は参照レンズ、107は被測定物、108は参照レンズ106の支持部材、109は被測定物107の支持部材、110は減圧すると共に温度調整された減圧チャンバ、112は撮像素子であるところのCCDカメラ、113は電子化された画像データを処理する2次元画像演算装置、201は参照面106a及び被検面107aの熱変形形状を演算し、2次元画像演算装置113により得られる被検面形状データを補正する補正演算装置、202は光量モニタ、203は温度センサ、204は気圧センサである。
【0018】
光源101から射出されたレーザ光は、半透過鏡102により一部が透過し、集光レンズ103で一旦集光された後発散し、ビームスプリッタ104の作用で進行方向を折り曲げられ、コリメータレンズ105で平行光となり、参照レンズ106に入射する。参照レンズ106の参照面106aからの反射光は、参照用波面として用いられる。参照用波面は、再びコリメータレンズ105に入射し集光され、ビームスプリッタ104を透過し、コリメータレンズ111で平行光に変換され、CCDカメラ112に入射する。
【0019】
一方、参照面106aを透過した透過光は、測定用波面として用いられる。測定用波面は、被検面107aで反射され、再び参照レンズ106、コリメータレンズ105、ビームスプリッタ104、コリメータレンズ111を経てCCDカメラ112に入射する。
【0020】
参照用波面と測定用波面との干渉により、CCDカメラ112で干渉縞が検出され、2次元画像演算装置113において画像データを処理し、補正演算装置201に出力する。
【0021】
又、光源101から射出され、半透過鏡102で反射した反射光は、光量モニタ202に入射し、光強度が検出され補正演算装置201に出力する。
【0022】
温度センサ203a〜eはそれぞれ参照レンズ106、被測定物107、支持部材108、109、減圧チャンバ110内部の気体、の温度を検出し、補正演算装置201に出力する。
【0023】
気圧センサ204は、減圧チャンバ110内部の気圧を検出し、補正演算装置201に出力する。
【0024】
但し、温度センサ203及び気圧センサ204は、レーザ光路を遮らない位置に配置する。
【0025】
補正演算装置201は、光量モニタ202、温度センサ203、気圧センサ204より情報を得て、後述するように、参照面106a及び被検面107aの熱変形形状を算出し、2次元画像演算装置113により処理された被検面形状データを補正する。
【0026】
尚、補正演算装置201には、参照レンズ106、被測定物107、支持部材108、109の熱変形特性に対応した数式モデルや、熱変形を算出するために必要な物性値等のデータが保存されている。
【0027】
続いて、参照面106a及び被検面107aの熱変形形状の計算方法について説明する。
【0028】
熱変形形状は、参照レンズ106及び被測定物107、支持部材108、109の温度分布がわかれば計算可能であるため、先ず、これらの温度分布を数式モデルに従って計算する。
【0029】
温度分布を得るために用いる数式モデルは、参照レンズ106及び被測定物107、支持部材108、109の形状とこれらの部材の周りに存在する空気を、或る有限な要素に分割してモデル化し、有限要素法等を用いて計算する。要素の分割数は最終的に必要な精度と、演算装置の計算速度等を加味して決められる。
【0030】
光量モニタ202、温度センサ203、気圧センサ204より得られる情報は、有限要素法の計算で用いる境界条件の基礎データとなる。
【0031】
光量モニタ202により検出される光源強度は、レーザ光が透過及び反射する際に生じる発熱を計算するために使用される。レーザ光が物質を透過及び反射すると、その一部が熱エネルギとして物質に吸収されるため、その熱吸収率を予め知っておけば、光源強度を用いてレーザ光が入射する部分の発熱量が分かる。
【0032】
温度センサ203により検出される温度は、測定箇所に対応する数式モデル上の点を温度固定するために使用される。
【0033】
気圧センサ204により検出される気圧は、気圧の変化による気体伝熱のパラメータ変動を求めるために使用される。大気圧の状態から次第に気圧を下げると、温度差による対流が発生しにくくなるため、空気の伝熱量が次第に低下する。更に気圧を下げると、空気の分子の影響が現れ、大気圧とは異なる伝熱現象が見られるようになる。このような気圧の変化による気体伝熱のパラメータを予め測定し記録しておくことで、減圧チャンバ内の気圧を取得することにより、空気の伝熱量を計算できる。
【0034】
以上のように計算することで、各サンプリング周期の参照レンズ106及び被測定物107、支持部材108、109の温度分布を得ることができる。
【0035】
続いて、得られた温度分布をもとに参照面106a及び被検面107aの熱変形を計算する。計算方法は温度分布を計算した際と同様に有限要素法等を用いて計算できる。
【0036】
尚、熱変形を計算するために用いる数式モデルは、温度分布を計算するために用いる数式モデルと異なっていても良く、両者の計算の性質を加味して、形状及び要素数を決定することが望ましい。
【0037】
又、熱変形の計算は、測定中に逐次行っても良いし、熱変形に係る情報のみを経時的に取得しておいて、干渉計測終了後に一括して行っても良い。
【0038】
以上のように計算することで、各サンプリング周期の参照面106a及び被検面107aの熱変形形状を得ることができる。
【0039】
続いて、計算した熱変形形状を用いて測定波面を補正する方法について説明する。
【0040】
先ず、参照面で反射する際の収差(面形状)を公知の校正方法(例えば、3点測定法等)によって得る。このように得られる面形状Rroは基準温度時の参照面形状Rrと基準温度からの温度差によって生じる熱変形分Rr’が合わされた状態として、次の形で表される。
Rro=Rr+Rr’ ・・・・(1)
ここで、Rr’は補正演算装置201にて算出することできる。
【0041】
続いて、被検面を測定する際の測定波面をDmとすると、Dmは次のように表すことができる。
Dm=Rm+Rm’’−(Rr+Rr’’) ・・・・(2)
ここで、Rmは基準温度時に被検面で反射する際の収差(面形状)であり、’’の付いた項は測定時に基準温度との温度差によって生じる熱変形分であり、補正演算装置201にて算出することができる。
【0042】
(1)及び(2)からRmは、
Rm=Dm+Rro−Rr’−Rm’’+Rr’’ ・・・・(3)
として計算できる。
【0043】
従来方法では、’や’’の付いた項は取り除くことができないため、測定誤差として含まれていたが、本発明によれば、熱変形形状を算出することで、熱変形による計測誤差を高精度に補正することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の実施形態に係る干渉計測装置の概略を示す図である。
【符号の説明】
【0045】
101 レーザ光源
102 半透過鏡
103 集光レンズ
104 ビームスプリッタ
105、112 コリメータレンズ
106 参照レンズ
106a 参照面
107 被測定物
107a 被検面
108 校正原器
108a 校正原器面
109、110 支持部材
111 減圧チャンバ
113 CCDカメラ
201 補正演算装置
202 光量モニタ
203a〜e 温度センサ
204 気圧センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
参照面からの反射光と被検面からの反射光を比較測定することで、前記被検面の面形状を測定する干渉計測装置において、
光源強度、温度、気圧を検出するための検出手段を有し、該検出手段により取得した情報に基づいて、予め作成しておいた数式モデルに従って前記参照面と被検面の熱変形形状を算出し、該熱変形形状を用いて測定波面より得られる被検面形状データを補正する補正演算装置を有することを特徴とする干渉計測装置。
【請求項2】
前記数式モデルのデータを入力する入力手段と、該入力手段により入力されたデータを保存する記録手段を有し、前記被測定物の形状や配置、材料に対応した数式モデルを呼び出し可能であることを特徴とする請求項1記載の干渉計測装置。
【請求項3】
参照面からの反射光と被検面からの反射光を比較測定することで、前記被検面の面形状を測定する干渉計測方法において、
光源強度、温度、気圧を検出し、該検出した情報に基づいて、予め作成しておいた数式モデルに従って前記参照面と被検面の熱変形形状を算出し、該熱変形形状を用いて測定波面より得られる被検面形状データを補正することを特徴とする干渉計測方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−220471(P2006−220471A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−32658(P2005−32658)
【出願日】平成17年2月9日(2005.2.9)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】