説明

平版印刷版の処理方法

【課題】高感度の平版印刷版を経時保存した後においても露光部の耐刷性と非画像部の溶出性に優れた平版印刷版の処理方法。
【解決手段】支持体上にメタクリル酸および側鎖にビニル基が置換したフェニル基を有する成分を含む重合体であって、該重合体中にアクリル酸を含まないか、アクリル酸のメタクリル酸に対するモル比が0.5以下である重合体を含有する感光層を有する平版印刷版を、一般式(I)で表される化合物を1種含む現像液を用いて処理する。


(式中、Xはアルキル基、アリール基、もしくは複素環基、Lは水素、炭素、窒素、酸素、硫黄から構成される原子群から選ばれる原子からなる連結基、Aはアルキレン基、lは0または1であり、mは1以上の整数、nは1以上の整数を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平版印刷版に関する。より詳しくは、デジタル信号に基づいてレーザー等の走査露光装置を用いて、画像形成可能な平版印刷版の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
感光性組成物は、光反応によって分子構造が化学変化を起こし、その結果、物理現象(物性)に変化が生じる。この光の作用による化学変化としては、架橋・重合・分解・解重合・官能基変換などがあり、溶解度・接着性・屈折率・物質浸透性および相変化など多様である。このような感光性組成物は、印刷版、レジスト、塗料、コーティング剤、カラーフィルターなどの広い分野で実用化されている。さらに、写真製版技術(フォトリソグラフィ)を用いるフォトレジスト分野で活用され、発展してきた。フォトレジストは、光反応による溶解度の変化を利用したもので、高解像度の要求などからいっそうの精緻な材料設計が必要となっている。
【0003】
広く用いられているタイプの平板印刷版は、アルミニウムベース支持体に塗布された感光性塗膜を有する。この塗膜は、露光された塗膜部分は硬化し、露光されなかった塗膜部分は現像処理で溶出される。このような版をネガ型印刷版という。平版印刷は印刷版表面に形成されたパターンと背景部のそれぞれの親油性、親水性の表面物性を利用し、平版印刷においてインクと湿し水を同時に印刷機上で版面に供給し、インクが親油性表面を有するパターン上に選択的に転移する現象を利用するものである。パターン上に転移したインクはその後ブランケットと呼ばれる中間体に転写され、これから更に印刷用紙に転写することで印刷が行われる。
【0004】
上記した光反応による溶解度の変化を利用してレリーフ像を形成する感光性組成物は、従来から多くの研究が成されており、また実用化されている。例えば、側鎖に不飽和二重結合を有する重合体とエチレン性不飽和二重結合を有するモノマーまたはオリゴマーおよび光重合開始剤を含有する感光性組成物が開示されている。(例えば、特許文献1。)これらは、400nm以下の紫外線領域を中心とした短波長の光に対して感光性を有するものである。
【0005】
400nm前後の波長での光反応による溶解度の変化を利用した感光性組成物として、無水マレイン酸を共重合成分として含む重合体を使用した感光性組成物が開示されている。(例えば、特許文献2および3。)これらは、表面硬度が高く、保存安定性に優れるものであり、保護膜、層間絶縁膜、ソルダーレジストパターンなどに適している。しかしながら、平版印刷版に利用すると、良好な印刷性が得られるものではなかった。
【0006】
一方、近年、画像形成技術の進歩に伴い、可視光に対して高感度を示す感光性材料が求められるようになってきた。例えば、アルゴンレーザー、ヘリウム・ネオンレーザー、赤色LED等を用いた出力機に対応した感光性材料及び平版印刷版の研究も活発に行われている。
【0007】
更に、半導体レーザーの著しい進歩によって700〜1300nmの近赤外レーザー光源を容易に利用できるようになったことに伴い、該レーザー光に対応する感光性材料及び平版印刷版が注目されている。
【0008】
750〜900nmの近赤外レーザー光に感光性を有する組成物として、特定の重合体と光酸発生剤と近赤外増感色素の組み合わせが開示されている。(例えば、特許文献4。)しかしながらこのような光酸発生剤を用いた重合性組成物は、近赤外領域に充分高い感光性を付与するのは難しく、特に各種レーザー光を用いた走査露光に適用するには感光性が不足していた。
【0009】
側鎖にビニル基が置換したフェニル基を有する重合体と光ラジカル発生剤を含有することを特徴とする感光性組成物が開示されている。(例えば、特許文献5。)この発明では、700〜1300nmの近赤外レーザー光に対して高感度で露光部の耐刷性に優れた平版印刷版を得ることができる。しかしながら、この発明中で開示されている現像液を用いて経時保存後の平版印刷版を処理すると、溶出性が不良となるために非画像部が印刷時に汚れやすい場合があった。ビニル基が置換したフェニル基を有する重合体を含む平版印刷版の非画像部の溶出性を促進しながら露光部の耐刷性を維持するために、特定の化合物を添加した現像液が開示されているが、経時保存後の平版印刷版には十分な効果を得ることができなかった。(例えば、特許文献6。)
【0010】
従って、高感度の平版印刷版を経時保存した後においても露光部の耐刷性と非画像部の溶出性に優れた平版印刷版の処理方法が要望されていた。
【特許文献1】特公昭59−46643号公報
【特許文献2】特開平2−97502号公報
【特許文献3】特開2005−331610号公報
【特許文献4】特開平11−212252号公報
【特許文献5】特許3654422号公報
【特許文献6】特開2002−278085号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、高感度の平版印刷版を経時保存した後においても露光部の耐刷性と非画像部の溶出性に優れた平版印刷版の処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の上記目的は、支持体上に、少なくともメタクリル酸および側鎖にビニル基が置換したフェニル基を有する成分を含む重合体であって、該重合体中にアクリル酸を含まないか、アクリル酸のメタクリル酸に対するモル比が0.5以下である重合体を含有する感光層を有する平版印刷版を、下記一般式(I)で表される化合物を少なくとも1種含む現像液を用いて処理することによって達成された。
【0013】
【化1】

【0014】
一般式(I)中、Xは無置換もしくは置換基を有するアルキル基、単環又は2環のアリール基、もしくは複素環基を表し、Lは水素原子、炭素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子から構成される原子群から選ばれる原子からなる連結基を表し、Aは炭素数が1個以上からなるアルキレン基を表し、lは0または1であり、mは1以上の整数を表し、nは1以上の整数を表す。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、高感度の平版印刷版を経時保存した後においても露光部の耐刷性と非画像部の溶出性に優れた平版印刷版の処理方法が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明に用いられる重合体は、少なくともメタクリル酸および側鎖にビニル基が置換したフェニル基を有する成分を含む重合体であって、該重合体中にアクリル酸を含まないか、アクリル酸のメタクリル酸に対するモル比が0.5以下である。アクリル酸のメタクリル酸に対するモル比は0.3以下がより好ましい。側鎖にビニル基が置換したフェニル基を有することにより、発生するラジカルにより生成するスチリルラジカル同士の再結合により効果的に架橋を行うため、高感度で加熱処理を必要としない感光材料を作製することができる。しかし、フェニル基を重合体中に導入することにより現像液への溶出性が低下する。アクリル酸を重合体中に導入することにより現像液への溶出性は向上するが、アクリル酸のメタクリル酸に対するモル比が本発明の範囲を超えると、比較的経時日数が短い平版印刷版を現像処理した場合には優れた露光部の耐刷性と非露光部の溶出性が得られるものの、経時の条件によっては現像性の変化が大きく、露光部の耐刷性と非画像部の溶出性のバランスを維持することが困難となる。
【0017】
本発明に用いられる重合体が側鎖に有する前記フェニル基は該フェニル基が有する水素原子と置換可能な基もしくは原子で置換されていても良く、また、本発明に用いられる重合体が側鎖に有する前記ビニル基はハロゲン原子、カルボキシ基、スルホ基、ニトロ基、シアノ基、アミド基、アミノ基、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基等で置換されていても良い。上記した側鎖にビニル基が置換したフェニル基を有する重合体とは、更に詳細には、下記で表される基を側鎖に有するものである。
【0018】
【化2】

【0019】
式中、Z1は連結基を表し、R11、R12、及びR13は、水素原子、ハロゲン原子、カルボキシ基、スルホ基、ニトロ基、シアノ基、アミド基、アミノ基、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基等であり、更にこれらの基は、アルキル基、アミノ基、アリール基、アルケニル基、カルボキシ基、スルホ基、ヒドロキシ基等で置換されていても良い。R14は水素原子と置換可能な基または原子を表す。n1は0〜1を表し、m1は0〜4の整数を表し、k1は1〜4の整数を表す。
【0020】
上記した基について更に詳細に説明する。連結基Z1は、複素環を含むものが好ましく、他の基や原子、例えば酸素原子、硫黄原子、アルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基、−N(R15)−、−C(O)−O−、−C(R16)=N−、−C(O)−、スルホニル基、及び下記に示す基等が単独もしくは2以上が複合した状態で含まれていても良い。ここでR15及びR16は、水素原子、アルキル基、アリール基等を表す。更に、上記した連結基には、アルキル基、アリール基、ハロゲン原子等の置換基を有していてもよい。複素環を含む連結基を介してビニル基が置換したフェニル基を側鎖に有することにより、複素環同士の相互作用によって版面が強固になり、耐刷性が向上する。
【0021】
【化3】

【0022】
上記複素環基としては、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環、テトラゾール環、イソオキサゾール環、オキサゾール環、オキサジアゾール環、イソチアゾール環、チアゾール環、チアジアゾール環、チアトリアゾール環、インドール環、インダゾール環、ベンズイミダゾール環、ベンゾトリアゾール環、ベンズオキサゾール環、ベンズチアゾール環、ベンズセレナゾール環、ベンゾチアジアゾール環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、トリアジン環、キノリン環、キノキサリン環等の含窒素複素環、フラン環、チオフェン環等が挙げられ、更にこれらの複素環には置換基が結合していても良い。本発明の重合体が側鎖に有する基の例を以下に示すが、これらの例に限定されるものではない。
【0023】
【化4】

【0024】
【化5】

【0025】
本発明の重合体が側鎖に有する基の中には好ましいものが存在する。即ち、R11及びR12が水素原子でR13が水素原子もしくは炭素数4以下の低級アルキル基(メチル基、エチル基等)であるものが好ましい。k1は1または2であるものが好ましい。
【0026】
上記の例で示されるような基を有する重合体としては、アルカリ性水溶液に可溶性を付与するために、本発明の超えない範囲のモル比でアクリル酸およびメタクリル酸を共重合成分として含む。共重合体組成に於ける側鎖にビニル基が置換したフェニル基の割合として、重合体全体の組成100質量%中に1質量%以上95質量%以下であることが好ましく、これ以下の割合ではその導入の効果が認められない場合がある。また、95質量%以上含まれる場合に於いては、共重合体がアルカリ水溶液に溶解しない場合がある。さらに、共重合体中に於けるアクリル酸およびメタクリル酸の割合は同じく5質量%以上99質量%以下であることが好ましく、これ以下の割合では共重合体がアルカリ水溶液に溶解しない場合がある。
【0027】
アクリル酸、メタクリル酸以外にも共重合体中に他のモノマー成分を導入して多元共重合体として合成、使用することも好ましく行うことが出来る。こうした場合に共重合体中に組み込むことが出来るモノマーとして、スチレン、4−メチルスチレン、4−ヒドロキシスチレン、4−アセトキシスチレン、4−カルボキシスチレン、4−アミノスチレン、クロロメチルスチレン、4−メトキシスチレン等のスチレン誘導体、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ドデシル等のメタクリル酸アルキルエステル類、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル等のメタクリル酸アリールエステル或いはアルキルアリールエステル類、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸メトキシジエチレングリコールモノエステル、メタクリル酸メトキシポリエチレングリコールモノエステル、メタクリル酸ポリプロピレングリコールモノエステル等のアルキレンオキシ基を有するメタクリル酸エステル類、メタクリル酸2−ジメチルアミノエチル、メタクリル酸2−ジエチルアミノエチル等のアミノ基含有メタクリル酸エステル類、或いはアクリル酸エステルとしてこれら対応するメタクリル酸エステルと同様の例、或いは、リン酸基を有するモノマーとしてビニルホスホン酸等、或いは、アリルアミン、ジアリルアミン等のアミノ基含有モノマー類、或いは、ビニルスルホン酸およびその塩、アリルスルホン酸およびその塩、メタリルスルホン酸およびその塩、スチレンスルホン酸およびその塩、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸およびその塩等のスルホン酸基を有するモノマー類、4−ビニルピリジン、2−ビニルピリジン、N−ビニルイミダゾール、N−ビニルカルバゾール等の含窒素複素環を有するモノマー類、或いは4級アンモニウム塩基を有するモノマーとして4−ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミドのメチルクロライドによる4級化物、N−ビニルイミダゾールのメチルクロライドによる4級化物、4−ビニルベンジルピリジニウムクロライド等、或いはアクリロニトリル、メタクリロニトリル、またアクリルアミド、メタクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、ジエチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メトキシエチルアクリルアミド、4−ヒドロキシフェニルアクリルアミド等のアクリルアミドもしくはメタクリルアミド誘導体、さらにはアクリロニトリル、メタクリロニトリル、フェニルマレイミド、ヒドロキシフェニルマレイミド、酢酸ビニル、クロロ酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル類、またメチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類、その他、N−ビニルピロリドン、アクリロイルモルホリン、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、塩化ビニル、塩化ビニリデン、アリルアルコール、ビニルトリメトキシシラン、グリシジルメタクリレート等各種モノマーを適宜共重合モノマーとして使用することが出来る。これらのモノマーの共重合体中に占める割合としては、先に述べた共重合体組成中におけるアクリル酸およびメタクリル酸の好ましい割合が保たれている限りに於いて任意の割合で導入することが出来る。
【0028】
上記のような重合体の分子量については好ましい範囲が存在し、質量平均分子量で1000から100万の範囲であることが好ましく、さらに1万から30万の範囲にあることが特に好ましい。
【0029】
本発明に用いられる重合体の例を下記に示す。式中、数字は共重合体トータル組成中に於ける各繰り返し単位のモル%を表す。
【0030】
【化6】

【0031】
【化7】

【0032】
本発明で使用される現像液は、下記一般式(I)で表される化合物を少なくとも1種含むことを特徴とする。少なくともメタクリル酸および側鎖にビニル基が置換したフェニル基を有する成分を含む重合体であって、該重合体中にアクリル酸を含まないか、アクリル酸のメタクリル酸に対するモル比が0.5以下である重合体を使用するとアルカリ性水溶液への溶解性が低く、また該重合体を含む感光層を有する平版印刷版は経時保存の条件によっては、アルカリ性水溶液への溶解性が更に低下する傾向にあった。これを一般式(I)の化合物を添加した現像液を用いて処理することにより経時保存後の平版印刷版を用いても露光部の耐刷性と非露光部の溶出性に優れた平版印刷版の処理方法を得ることを可能にした。
【0033】
【化8】

【0034】
式中Xはアルキル基、単環又は2環のアリール基(例えば、フェニル基、ナフチル基)や複素環基(例えば、ピリジル基、イミダゾリル基、キノリニル基、ピリミジル基、ピラゾリル基、チアゾリル基、ベンズチアゾリル基)を表し、これらには置換基(例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、クロロ基、ブロモ基、メトキシ基、フェノキシ基、エチルスルホンアミド基、アセトアミド基等)を有してもよい。Xの特に好ましいのはフェニル基、ナフチル基、ピリジル基である。Lは水素原子、炭素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子から構成される原子群から選ばれる原子からなる連結基を表し、例えばアルキレン基(例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基)、エーテル構造、チオエーテル構造、アミド構造、尿素結合構造等が挙げられ、これらが2種以上含まれていてもよい。Aは炭素数が1個以上からなるアルキレン基を表し、好ましくは炭素数が2から5個のアルキレン基であり、特に好ましくはエチレン基、プロピレン基である。lは0または1である。mは1以上の整数を表し、分子構造により好ましい範囲は異なるが、概ね1から10の範囲が好ましく、特に好ましい範囲は1から5の範囲である。nは1以上の整数を表し、好ましくは1又は2である。一般式(1)で表される具体例を下記に示す。
【0035】
【化9】

【0036】
【化10】

【0037】
【化11】

【0038】
【化12】

【0039】
【化13】

【0040】
現像液に含まれる前述した一般式(I)の化合物の含有量は現像液全体の質量に対して0.001〜10質量%であり、特に好ましくは0.05〜5質量%である。
【0041】
本発明の現像液はアルカリ性であり、pHは10から13.5の範囲であるが、好ましくは10.5から12.5の範囲である。本発明の現像液は上記化合物とともに水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、テトラメチルアンモニウムハイドロキサイド等のようなアルカリ性化合物を溶解した水性現像液が良好に未露光部を選択的に溶解し、下方の支持体表面を露出出来るため極めて好ましい。
【0042】
本発明の現像液には溶出剤として下記一般式(I)の化合物の他にアルカノールアミン類を含有することが好ましく、現像液に含まれるアルカノールアミン類の含有量は、一般式(I)の化合物の含有量が1質量部に対して0.1質量部から20質量部が好ましい範囲であり、特に好ましい範囲は1質量部から10質量部の間である。好ましいアルカノールアミン類は下記一般式(II)で表される化合物である。
【0043】
【化14】

【0044】
式中R21は炭素数1以上10以下のアルキル基を表す。R22は水素原子又は炭素数1以上10以下のアルキル基を表し該アルキル基は水酸基、カルボン酸基、スルホン酸基等の親水性の置換基を有しても良い。R21とR22は炭素数1〜6がより好ましい。P21とP22は2以上の整数を表し、同じでも異なっていても良い。P21とP22の好ましい範囲は2〜6である。
【0045】
本発明に於ける一般式(II)の化合物として以下に例を挙げるが、これらに限定されるわけではない。
【0046】
【化15】

【0047】
【化16】

【0048】
現像液に一般的に含まれる珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、メタ珪酸ナトリウム、メタ珪酸カリウム、珪酸アンモニウム等の珪酸化合物は、自動現像機にて多量に製版した場合、自動現像機の現像槽内や循環パイプ内に結晶が析出しやすく、メンテンスが煩雑になる問題がある。従って、本発明の現像液にはこれらの珪酸化合物は実質的に含有しないのが好ましい態様である。ここで実質的にとは結晶が析出しない範囲であり、現像液の組成、pH等により珪酸化合物の含有できる量は異なるが、具体的には現像液中の珪酸化合物の含有量がSiO量として1Lあたり0.01モル以下にある。
【0049】
本発明に用いられる現像液には現像性の促進や現像かすの分散及び印刷版画像部の親インキ性を高める目的で必要に応じて種々界面活性剤を添加できる。好ましい界面活性剤としては、一般的であるアニオン系、カチオン系、ノニオン系及び両性界面活性剤が挙げられ、特に好ましい界面活性剤として、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルナフタレンスルホン酸が挙げられ、上記の界面活性剤は、単独もしくは二種以上を組み合わせて使用することができ、現像液中に0.001〜10質量%、より好ましくは0.01〜5質量%の範囲で添加されるのが好ましい。
【0050】
本発明に用いられる現像液は使用時よりも水の含有量を少なくした濃縮液としておき、使用時に水で希釈するようにしておくことが運搬上有利である。この場合の濃縮度は各成分が分離や析出を起こさない程度が適当であり、含有物にもよるが、通常、濃縮液:水=1:0〜1:10程度に濃縮する事ができる。又、容器としてはアルカリ性であることから、炭酸ガスを透過しない、しかも安全上輸送中に破損することのない材料を用いることが好ましく、通常ハードボトル、キュービテナー等の樹脂製容器が好ましく用いられる。
【0051】
本発明の処理方法においては、露光後通常自動現像機で処理を行う。自動現像機は、一般に現像部と後処理部とからなり、印刷版を搬送する装置と、各処理液槽及びスプレー槽から成り、一般的には現像液が満たされた現像槽中に液中ガイドロールなどによって印刷版を浸漬搬送させて現像処理する方法があり、又、ポンプで組み上げた現像液をスプレーノズルから吹き付けて現像する方法もある。この様な自動現像液においては、現像処理量や稼働時間等に応じて補充液を補充しながら処理することが出来る。
【0052】
この様な組成の現像液で現像処理された印刷版は水洗水、界面活性剤等を含有するリンス液、アラビアガムやデンプン誘導体等を主成分とするフィニッシャーや保護ガム液で後処理を施される。本発明の印刷版の後処理はこれらの処理を種々組み合わせて用いることができ、例えば、現像→水洗→界面活性剤を含有するリンス液処理や、現像→水洗→フィニッシャー液による処理がリンス液やフィニッシャー液の疲労が少なく好ましい。更にリンス液やフィニッシャー液を用いた向流多段処理も好ましい態様である。これらの後処理は、一般に現像部と後処理部とからなる自動現像機を用いて行われる。後処理液は、スプレーノズルから吹き付ける方法、処理液が満たされた処理槽中を搬送する方法が用いられる。この様な自動処理においては、各処理液に処理量や稼働時間に応じてそれぞれの補充液を補充しながら処理することが出来る。この様な処理によって得られた平版印刷版は、オフセット印刷機に掛けられ、印刷に用いられる。
【0053】
本発明に係る平版印刷版の感光層は光重合開始剤が好ましく用いられるが、特に有機ホウ素塩が好ましく用いられる。更に好ましくは、有機ホウ素塩とトリハロアルキル置換化合物(例えばトリハロアルキル置換された含窒素複素環化合物としてs−トリアジン化合物およびオキサジアゾール誘導体、トリハロアルキルスルホニル化合物)を組み合わせて用いることである。
【0054】
有機ホウ素塩を構成する有機ホウ素アニオンは、下記で表される。
【0055】
【化17】

【0056】
式中、R31、R32、R33およびR34は各々同じであっても異なっていてもよく、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、複素環基を表す。これらの内で、R31、R32、R33およびR34の内の一つがアルキル基であり、他の置換基がアリール基である場合が特に好ましい。
【0057】
上記の有機ホウ素アニオンは、これと塩を形成するカチオンが同時に存在する。この場合のカチオンとしては、アルカリ金属イオン、オニウムイオン及びカチオン性増感色素が挙げられる。オニウム塩としては、アンモニウム、スルホニウム、ヨードニウムおよびホスホニウム化合物が挙げられる。アルカリ金属イオンまたはオニウム化合物と有機ホウ素アニオンとの塩を用いる場合には、別に増感色素を添加することで色素が吸収する光の波長範囲での感光性を付与することが行われる。また、カチオン性増感色素の対アニオンとして有機ホウ素アニオンを含有する場合は、該増感色素の吸収波長に応じて感光性が付与される。しかし、後者の場合は更にアルカリ金属もしくはオニウム塩の対アニオンとして有機ホウ素アニオンを併せて含有するのが好ましい。
【0058】
本発明に係わる最も好ましい様態の一つとして、有機ホウ素塩とこれを増感する色素を併せて含む感光性組成物が挙げられ、この場合の有機ホウ素塩は750〜900nmの波長領域に感光性を示さず、増感色素の添加によって初めてこうした波長領域の光に感光性を示すものである。感光層に有機ホウ素塩とこれを増感する色素を含有することにより750〜900nmの波長領域の光に高い感度を得ることができるが、経時保存の条件によっては暗反応の進行により現像液への溶解性が大きく低下する。前述した一般式(I)の化合物を添加した現像液を用いて処理することによりこの問題を解決することができる。
【0059】
本発明に用いられる有機ホウ素塩としては、先に示した有機ホウ素アニオンを含む塩であり、塩を形成するカチオンとしてはアルカリ金属イオンおよびオニウム化合物が好ましく使用される。特に好ましい例は、有機ホウ素アニオンとのオニウム塩として、テトラアルキルアンモニウム塩等のアンモニウム塩、トリアリールスルホニウム塩等のスルホニウム塩、トリアリールアルキルホスホニウム塩等のホスホニウム塩が挙げられる。特に好ましい有機ホウ素塩の例を下記に示す。
【0060】
【化18】

【0061】
【化19】

【0062】
本発明において、有機ホウ素塩とともに用いることでさらに高感度化、硬調化が具現される光重合開始剤としてトリハロアルキル置換化合物が挙げられる。上記トリハロアルキル置換化合物とは、具体的にはトリクロロメチル基、トリブロモメチル基等のトリハロアルキル基を分子内に少なくとも一個以上有する化合物であり、好ましい例としては、該トリハロアルキル基が含窒素複素環基に結合した化合物としてs−トリアジン誘導体およびオキサジアゾール誘導体が挙げられ、或いは、該トリハロアルキル基がスルホニル基を介して芳香族環或いは含窒素複素環に結合したトリハロアルキルスルホニル化合物が挙げられる。
【0063】
トリハロアルキル置換した含窒素複素環化合物やトリハロアルキルスルホニル化合物の特に好ましい例を下記に示す。
【0064】
【化20】

【0065】
【化21】

【0066】
上述したような光重合開始剤の含有量は、感光層全体の固形分量に対して1質量%から50質量%の範囲にあることが好ましい。
【0067】
本発明の感光性組成物は、近赤外〜赤外光、即ち、750〜900nmの波長領域のレーザー光を用いた走査露光に対して極めて好適に用いられる。このような近赤外に増感するために用いられる増感色素としてはシアニン、ポリメチン、スクアリリウム色素等を利用することができるが、以下の増感色素を利用することが好ましい。
【0068】
【化22】

【0069】
【化23】

【0070】
上記で例示した増感色素の含有量は、感光性組成物1m2当たり3〜300mg程度が適当である。好ましくは10〜200mg/m2である。
【0071】
本発明の平版印刷版は、分子内に2個以上の重合性二重結合を有する多官能重合性モノマーもしくはオリゴマーの重合性化合物を含有するのが好ましい。かかる重合性化合物の分子量は1万よりも少なく、好ましくは5000以下である。該化合物としては、例えば、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基が置換したフェニル基等の重合性二重結合を2個以上有する化合物が挙げられる。
【0072】
重合性二重結合としてアクリロイル基もしくはメタクリロイル基を有する化合物としては、例えば1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリスアクリロイルオキシエチルイソシアヌレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールグリセロールトリ(メタ)アクリレート、グリセロールエポキシトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ピロガロールトリアクリレート等が挙げられる。
【0073】
分子内にビニル基が置換したフェニル基を2個以上有する重合性化合物を使用した場合、発生するラジカルにより生成するスチリルラジカル同士の再結合により効果的に架橋を行うため、高感度で加熱処理を必要としないネガ型感光材料を作成することができる。重合性二重結合としてビニル基が置換したフェニル基を有する化合物は、代表的には下記一般式で表される。
【0074】
【化24】

【0075】
式中、Zは連結基を表し、R41、R42は水素原子、ハロゲン原子、カルボキシ基、スルホ基、ニトロ基、シアノ基、アミド基、アミノ基、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基等を表す。R43は、水素原子、ハロゲン原子、カルボキシ基、スルホ基、ニトロ基、シアノ基、アミド基、アミノ基、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基等であり、更にこれらの基は、アルキル基、アミノ基、アリール基、アルケニル基、カルボキシ基、スルホ基、ヒドロキシ基等で置換されていても良い。R44は水素原子と置換可能な基または原子を表す。m2は0〜4の整数を表し、k2は2以上の整数を表す。m2が2以上の場合、R44はそれぞれ同じでも異なっていても良い。
【0076】
上記一般式について更に詳細に説明する。Zの連結基としては、酸素原子、硫黄原子、アルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基、−N(R45)−、−C(O)−O−、−C(R46)=N−、−C(O)−、スルホニル基、複素環基等の単独もしくは2以上が複合した基が挙げられる。ここでR45及びR46は、水素原子、アルキル基、アリール基等を表す。更に、上記した連結基には、アルキル基、アリール基、ハロゲン原子等の置換基を有していてもよい。
【0077】
上記複素環基としては、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環、テトラゾール環、イソオキサゾール環、オキサゾール環、オキサジアゾール環、イソチアゾール環、チアゾール環、チアジアゾール環、チアトリアゾール環、インドール環、インダゾール環、ベンズイミダゾール環、ベンゾトリアゾール環、ベンズオキサゾール環、ベンズチアゾール環、ベンズセレナゾール環、ベンゾチアジアゾール環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、トリアジン環、キノリン環、キノキサリン環等の含窒素複素環、フラン環、チオフェン環等が挙げられ、これらには置換基が結合していても良い。
【0078】
上記一般式で表される化合物の中でも好ましい化合物が存在する。即ち、R41及びR42は水素原子でR43は水素原子もしくは炭素数4以下の低級アルキル基(メチル基、エチル基等)で、k2は2〜10の化合物が好ましい。以下に具体例を示すが、これらの例に限定されるものではない。
【0079】
【化25】

【0080】
【化26】

【0081】
【化27】

【0082】
上記した重合性化合物の添加量は、重合体1質量部に対して0.01質量部から10質量部の範囲で含まれることが好ましく、さらに0.05質量部から1質量部の範囲で含まれることが特に好ましい。
【0083】
また重合促進剤として、アミンやチオール、ジスルフィド等に代表される重合促進剤や連鎖移動触媒等を加えることができる。具体例としては、例えば、N−フェニルグリシン、トリエタノールアミン、N,N−ジエチルアニリン等のアミン類、米国特許第4,414,312号明細書や特開昭64−13144号公報記載のチオール類、特開平2−29161号公報記載のジスルフィド類、米国特許第3,558,322号明細書や特開昭64−17048号公報記載のチオン類、特開平2−291560号公報記載のo−アシルチオヒドロキサメートやN−アルコキシピリジンチオン類が挙げられる。重合促進剤の添加量は、好ましくは重合層全固形分の0.1〜5質量%である。この範囲より少なすぎると効果が期待できない。また多すぎると重合層の膜質を劣化させやすくなる。
【0084】
本発明の平版印刷版は、上述した成分以外にも種々の目的で他の成分を添加することも好ましく行われる。特に、スチリル基の熱重合あるいは熱架橋を防止し長期にわたる保存性を向上させる目的で種々の重合禁止剤を添加することが好ましく行われる。この場合の重合禁止剤としては、ハイドロキノン類、カテコール類、ナフトール類、クレゾール類等の各種フェノール性水酸基を有する化合物やキノン類化合物等が好ましく使用され、特にハイドロキノンが好ましく使用される。この場合の重合禁止剤の添加量としては、該重合体100質量部に対して0.1質量部から10質量部の範囲で使用することが好ましい。
【0085】
平版印刷版を構成する要素として、他に、画像の視認性を高める目的で種々の染料、顔料を添加することや、感光性組成物のブロッキングを防止する目的等で無機物微粒子あるいは有機物微粒子を添加することも好ましく行われる。
【0086】
平版印刷版材料として使用する場合の感光層自体の厚みに関しては、支持体上に0.5ミクロンから10ミクロンの範囲の乾燥厚みで形成することが好ましく、さらに1ミクロンから5ミクロンの範囲であることが耐刷性を大幅に向上させるために極めて好ましい。感光層は、少なくともメタクリル酸および側鎖にビニル基が置換したフェニル基を有する成分を含む重合体であって、該重合体中にアクリル酸を含まないか、アクリル酸のメタクリル酸に対するモル比が0.5以下である重合体を少なくとも含有する感光性塗工液を作製し、公知の種々の塗布方式を用いて支持体上に塗布、乾燥される。支持体については、例えばフィルムやポリエチレン被覆紙を使用しても良いが、より好ましい支持体は、研磨され、陽極酸化皮膜を有するアルミニウム板である。
【0087】
上記のようにして支持体上に形成された感光層を有する材料を印刷版として使用するためには、これに密着露光あるいはレーザー走査露光を行い、露光された部分が架橋することでアルカリ性現像液に対する溶解性が低下することから、前述したアルカリ性現像液により未露光部を溶出することでパターン形成が行われる。
【0088】
次に、少なくともメタクリル酸および側鎖にビニル基が置換したフェニル基を有する成分を含む重合体であって、該重合体中にアクリル酸を含まないか、アクリル酸のメタクリル酸に対するモル比が0.5以下である重合体の代表的な化合物の合成例を以下に示す。
【0089】
合成例1(重合体P−1の合成例)
ビスムチオール(2,5−ジメルカプト−1,3−4−チアジアゾール)150gを600mlのメタノール中に懸濁させ、冷却しながらトリエチルアミン101gを徐々に添加し、均一な溶液を得た。室温下に保ちながらp−クロロメチルスチレン153g(セイミケミカル製、CMS−14)を10分に亘り滴下し、さらに3時間攪拌を続けた。反応生成物が次第に析出し、攪拌後に氷浴に移し内温を10℃まで冷却した後、吸引濾過により生成物を分離した。メタノールにより洗浄を行い、真空乾燥器内で1昼夜乾燥することで収率75%で以下に示す化合物を得た。
【0090】
【化28】

【0091】
上記のモノマー40gを攪拌機、窒素導入管、温度計、還流冷却管を備えた1リッター4ツ口フラスコ内にとり、メタクリル酸20gおよびエタノール200ml、蒸留水50mlを加え、攪拌しながら水浴上でトリエチルアミン40gを添加した。窒素雰囲気下で内温を70℃になるよう加熱し、この温度でアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を1g添加し、重合を開始した。6時間加熱攪拌を行い、その後重合系を室温まで冷却した。重合体溶液中に1,4−ジオキサン100gおよびp−クロロメチルスチレンを23g加え、室温で更に15時間攪拌を続けた。その後、濃塩酸(35〜37%水溶液)80〜90gを加え、系のpHが4以下になったことを確認後、3リッターの蒸留水中に全体を移した。析出した重合体を濾過により分離し、蒸留水にて洗浄を繰り返した後、真空乾燥器内で1昼夜乾燥した。収率90%で目的とする重合体を得た。ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる分子量測定により質量平均分子量9万(ポリスチレン換算)の重合体であり、さらにプロトンNMRによる解析により重合体P−1の構造を支持するものであった。
【実施例】
【0092】
以下実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、効果はもとより本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0093】
(実施例1)
厚みが0.24mmである砂目立て処理を行った陽極酸化アルミニウム板を使用して、この上に下記の処方で示される感光性塗工液を乾燥厚みが2.0μmになるよう塗布を行い、75℃の乾燥器内にて6分間乾燥を行った。
<感光性塗工液>
重合体 (P−1) 12質量部
重合開始剤(BC−6) 1質量部
重合性化合物(C−5) 3質量部
増感色素 (S−1) 0.5質量部
ジオキサン 70質量部
シクロヘキサン 20質量部
【0094】
保存安定性を調べるために、80℃、相対湿度80%に調節した乾燥機内に0〜1週間の間で加熱時間を変えて保存した試料を用い、現像性評価として露光を行わずに下記の現像液を使用して35℃の液温において1秒間隔で下記現像液に浸漬を行い、感光層被膜が溶出できる最小の時間を求めることで現像性の評価を行った。この時間が短くかつ加熱に於いても変化が少ないものが良好である。結果を表1に示す。
<現像液>
一般式(I)の化合物(PG−1) 10g
水酸化カリウム 20g
珪酸カリウム 20g
界面活性剤(ペレックスNBL、花王社製) 60g
水 1L
【0095】
耐刷性を調べるために、80℃、相対湿度80%で1週間加熱したものと未加熱のものとを830nm半導体レーザーを搭載した外面ドラム方式プレートセッター、大日本スクリーン製造株式会社製PT−R4000を使用して、ドラム回転速度1000rpm解像度2400dpi、レーザー照射エネルギー100mJ/cm2の条件で、作製したサンプルに50%平網露光を行った。露光後に自動現像機として大日本スクリーン製造株式会社製PS版用自動現像機PD−1310を使用し、現像液で現像を行った。現像液は、上記組成のものを使用した。現像液温は35℃、現像液への浸漬時間は20秒であった。
【0096】
耐刷性としては、印刷機はハイデルベルグTOK(Heidelberg社製オフセット印刷機の商標)を使用し、インキはBEST ONE墨H(T&KTOKA(株)社製)、湿し水はアストロマークIII(株式会社日研化学研究所社製湿し水)の1%水溶液を使用し、画像部が欠落し印刷ができなくなった枚数で評価した。耐刷性については、下記評価基準にて評価し、得られた結果を表1に示す。
【0097】
耐刷性○:20万枚以上、○△:10万枚〜20万枚未満、△:5万枚〜10万枚未満、×:5万枚未満
【0098】
感度については以下のようにして評価した。版面上の露光量が100mJ/cm2になるように設定し、グレイスケールを介してベタ画像を露光した。その後上記現像液にて処理を行った。現像液温は35℃、現像液への浸漬時間は約20秒であった。感度は得られたグレイスケール段数より判断した。表1にグレイスケール段数を示した。グレイスケールは各段ごとに1/21/2の光学濃度差の光学くさびであり、2段高いと感度が2倍高いことを示す。得られた結果を表1に示す。
【0099】
(実施例2)
実施例1に記載の現像液が含有するPG−1をPG−6へ変更した以外は実施例1と同様に試験を行った。結果を表1に示した。
【0100】
(実施例3)
実施例1に記載の現像液が含有するPG−1をPG−15へ変更した以外は実施例1と同様に試験を行った。結果を表1に示した。
【0101】
(実施例4)
実施例1に記載の感光性塗工液が含有する重合体P−1をP−2へ変更した以外は実施例1と同様に試験を行った。結果を表1に示した。
【0102】
(実施例5)
実施例1に記載の感光性塗工液が含有する重合体P−1をP−5へ変更した以外は実施例1と同様に試験を行った。結果を表1に示した。
【0103】
(比較例1)
実施例1に記載の現像液が含有するPG−1を用いない現像液を使用した以外は実施例1と同様に試験を行った。結果を表1に示した。80℃、相対湿度80%で1週間加熱したサンプルは溶出性が低く、現像により良好な画像が得られなかったので、耐刷性の評価が行えず、評価不可とした。
【0104】
(比較例2)
実施例1に記載の感光性塗工液が含有する重合体P−1を下記構造のものへ変更した以外は実施例1と同様に試験を行った。結果を表1に示した。80℃、相対湿度80%で1週間加熱したサンプルは溶出性が低く、現像により良好な画像が得られなかったので、耐刷性の評価が行えず、評価不可とした。
【0105】
【化29】

【0106】
(比較例3)
実施例1に記載の感光性塗工液が含有する重合体P−1を下記構造のものへ変更した以外は実施例1と試験を行った。結果を表1に示した。
【0107】
【化30】

【0108】
(比較例4)
実施例1に記載の現像液が含有するPG−1をAA−1へ変更した以外は実施例1と同様に試験を行った。結果を表1に示した。
【0109】
(比較例5)
実施例1に記載の現像液が含有するPG−1を下記構造のものへ変更した以外は実施例1と同様に試験を行った。結果を表1に示した。
【0110】
【化31】

【0111】
【表1】

【0112】
表1の結果から明らかなように、本発明により、高感度の平版印刷版を経時保存した後においても露光部の耐刷性と非画像部の溶出性に優れた平版印刷版の処理方法が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明の活用例として、平版印刷の刷版として利用することが挙げられる。経時保存性に優れ、耐刷性が良好なことから、取り扱いやすく、多くの印刷物に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上に、少なくともメタクリル酸および側鎖にビニル基が置換したフェニル基を有する成分を含む重合体であって、該重合体中にアクリル酸を含まないか、アクリル酸のメタクリル酸に対するモル比が0.5以下である重合体を含有する感光層を有する平版印刷版を、下記一般式(I)で表される化合物を少なくとも1種含む現像液を用いて処理することを特徴とする平版印刷版の処理方法。
【化1】

(一般式(I)中、Xは無置換もしくは置換基を有するアルキル基、単環又は2環のアリール基、もしくは複素環基を表し、Lは水素原子、炭素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子から構成される原子群から選ばれる原子からなる連結基を表し、Aは炭素数が1個以上からなるアルキレン基を表し、lは0または1であり、mは1以上の整数を表し、nは1以上の整数を表す。)
【請求項2】
前記感光層が更に有機ホウ素塩、および該有機ホウ素塩を増感しうる750nmから900nmに吸収を有する増感色素を含有することを特徴とする請求項1記載の平版印刷版の処理方法。

【公開番号】特開2008−170608(P2008−170608A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−2319(P2007−2319)
【出願日】平成19年1月10日(2007.1.10)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】