説明

弁葉の展開を遅延させた弁

体内管腔で使用するための弁(100)であって、弁が、生体内植込み時について展開を遅延させた弁葉(104)を含む。弁は、弁フレーム(102)、弁フレームに結合された弁葉(104)を含む。弁葉は、弁を通る液体の一方向の流れのために可逆的に密閉することができる接合部(106)と、いったん生体内に植え込まれると、所定の期間、弁葉の少なくとも接合部を弁フレームに対して固定関係で保持するように、弁葉と弁フレームとの間に生分解性接着剤(122)とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は一般に体内管腔で使用するための弁に関し、より詳細には、生体内植込み時に関して展開を遅延させた弁葉を有する弁に関する。
【背景技術】
【0002】
心不全は、急速に心血管系疾患の中で最も多い疾患の1つになってきている。残念なことに、心不全の最適な治療はまだ確立されていない。
一般に、心不全は心疾患によって発現する症候群として分類され、心機能不全に対する複雑な循環系および神経−ホルモン反応によって引き起こされる様々な兆候および症状によって、臨床的に認識される。
【0003】
心臓の収縮機能および/または拡張機能の一方または両方の機能不全は、心不全につながることがある。例えば、左心室拡張機能不全は、罹病、入院および死亡に至る病態として認識されている。左心室拡張機能不全は、心臓の左心室が機能低下を呈する病態である。この機能低下により、心血管系疾患の中でもとりわけ、うっ血性心不全または心筋梗塞を引き起こし得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
左心室拡張機能不全の治療には、医薬品を使用することがある。これらの治療にもかかわらず、拡張機能不全の治療手法の改善は、医療業界では引き続き目標とされている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の実施形態は、弁葉を有する弁、該弁を含むシステム、および該弁を製造および/または使用する方法に関する。実施形態では、弁の生体内植込み時について弁葉の展開を遅延させる。実施形態では、展開の遅延は、所定の期間、弁葉を弁フレームに対して固定関係で保持する生分解性接着剤(例えば、生分解性材料)を使用して達成することができる。いったん生体内に植え込まれると、生分解性接着剤は、所定の期間にわたって、少なくとも弁葉が弁フレームに対する固定関係から解放される位置まで分解および/または崩壊する。いったん解放されると、弁葉は、弁を通る流体の流れを基本的に一方向に制御するように動作することができる。
【0006】
本明細書で使用される、「1つの(a、an)」、「その(the)」、「1つ以上の」、および「少なくとも1つの」という語は、互換可能に使用され、他に明確な記載がない限り、複数の対象物も含む。他に定義されない限り、すべての科学技術用語は、その用語が関連する技術分野で一般的に使用されているのと同じ意味を有すると理解される。本開示のために、追加的な特定の用語は、全体を通して定義される。
【0007】
本明細書で使用される「弁」は、多くの金属、金属合金、生物学的材料および/または合成材料から形成することができる。例えば、弁葉は、適切な機械的特性および材料特性を有する1つまたは複数の生物学的材料(例えば、非自家移植材料)および/または合成材料(例えば、合成重合体)から形成することができる。さらに、弁フレームは、適切な機械的および材料特性を有する合成材料、金属および/または金属合金から形成することができる。他の材料も使用可能である。弁の形成に使用される材料は、以下でより詳細に説明する。
【0008】
本開示の弁は、哺乳類(例えば、ヒト)の体内の1つまたは複数の体内管に植え込むことができ、弁フレームを最初に据え付け(例えば、固定し)、弁が弁葉の開閉によってかかる力にさらされる前に、植込み部位において少なくとも一部に内方成長を生じさせることが望ましい。様々な実施形態において、弁葉は、本明細書で説明するように、生分解性接着剤の使用によって「開」構成(すなわち、弁フレームに対する固定関係)を維持する。この「開」構成では、弁を通る長手方向のせん断応力を最小限にすることができ、弁フレームを据え付け、所定の期間にわたって植込み部位で内方成長を生じさせることができる。
【0009】
本明細書で使用される1つまたは複数の「体内管」には、心血管系(例えば、動脈および静脈)の管を含むことができ、これは冠血管系および/または末梢血管系、リンパ系の導管、泌尿器系の血管および/または管、および/または腎臓の血管および/または管を含む。哺乳類の体内の他の体内管の場所に、本開示の弁を植え込むことも可能である。
【0010】
本明細書の図面における付番法では、最初の数字が図面の番号に対応し、残りの数字が図中の要素または構成要素を識別する。異なる図における同様の要素または構成要素は、同様の数字を使用することによって識別することができる。例えば、符号110は、図1の要素「10」を示すことができ、同様の要素は、図2では符号210として示すことができる。理解されるように、本明細書で、様々な実施形態において示す要素は、弁および/またはシステムの任意の数の追加の実施形態を提供するように、付加、置換および/または削除することができる。さらに、理解されるように、図面に示された要素の寸法比率および相対的尺度は、本開示の実施形態を示すためのものであり、本発明を限定するものとして解釈されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本開示の弁の一実施形態を示す図。
【図2A】本開示の弁を有するシステムの一実施形態を示す図。
【図2B】本開示の弁を有するシステムの一実施形態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示の様々な非限定的な実施形態が、図面に示されている。一般に、弁は、体内の管腔を通る体液の流れを一方向に調節するために、体内管内に植え込むことができる。
図1は、弁フレーム102および弁フレーム102に結合された弁葉104を含む、弁100の実施形態を示す。図示されているように、弁100は、弁100を通る液体の一方向の流れのために可逆的に密閉することができる接合部106を有する弁葉104を有するように形成することができる。本明細書で説明するように、1つの弁葉104または2つよりも多い弁葉104を有する弁100の実施形態が可能である。
【0013】
弁フレーム102はまた、管腔110を画定する助けとなるフレーム部材108も含む。様々な実施形態において、弁フレーム102は、基端112および先端114を備えた長尺管状構造を有することができる。様々な実施形態において、フレーム部材108の一部分が、弁フレーム102の基端112および先端114を画定する。
【0014】
弁葉104も、基端116および先端118を有する。図示されているように、弁葉104の基端116は、多くの様々な手法によって、弁フレーム102に結合することができる。例えば、弁葉104を形成する材料120は、縫合、接合、接着または他の方法によって、弁葉104の基端116を形成するように、弁フレーム102に固定することができる。一実施形態では、材料120は、基端112またはその近傍の位置において、弁フレーム102に固定することができる。あるいは、材料120は、弁フレーム102の基端112と先端114との間の位置において、弁フレーム102に固定することができる。様々な実施形態において、弁葉104を形成する材料120は、弁100の管腔110の少なくとも一部を画定することができる。
【0015】
図示されているように、弁葉104の先端118は、弁100を通る流体の流れを制御するように可逆的に形成することができる接合部106を含む。本明細書において使用される場合、接合部106とは、弁100を通る一方向の流れをもたらすことができるように解放可能に結合および密閉する、弁葉104の区域である。図示されているように、接合部106は、弁葉104の先端118にほぼ近接している。
【0016】
図示されているように、弁葉104は開位置にある。様々な実施形態において、弁が体内の管内に植え込まれた後に、少なくとも所定の期間、接合部106が逆流を防ぐことを助けないように、弁葉104を、生分解性接着剤122によって、この開位置に保持されるように解放可能に結合することができる。本明細書で使用される場合、「生分解性接着剤」には、生物学的環境(例えば、生体内)にさらされると、1つまたは複数のメカニズムによって、化学的にかつ/または物理的に分解する材料を含む。これらのメカニズムには、生分解性材料の加水分解および/または酵素的切断(例えば、高分子骨格の切断)を含むことができるが、これらに限定されるものではない。
【0017】
弁100について、少なくとも弁葉104の接合部106を弁フレーム102に対して固定関係で保持するように、生分解性接着剤122を弁葉104と弁フレーム102との間に配置することができる。様々な実施形態において、生分解性接着剤122は当初は、弁葉104を弁フレーム102に結合するために使用することができる液体および/または固体(ゲルを含む)の形態とすることができる。例えば、生分解性接着剤122を弁葉104および弁フレーム102の近接する表面の一方または両方に塗布することができ、表面同士は生分解性接着剤122によって互いに結合する。生分解性接着剤122の他の形態も可能である。
【0018】
様々な実施形態において、弁葉104を開位置に保持するために生分解性接着剤122を使用する場所および/または表面領域は、基端116から先端118まで(逆も可能)および/または弁100の周りの径方向で様々とすることができる。例えば、生分解性接着剤122は、弁葉104を弁葉104とフレーム102との間の1つまたは複数の個別の取り付け位置に保持するように配置することができる。別の例では、生分解性接着剤122は、少なくとも弁葉104を完全に弁フレーム102の先端114に沿って保持するように配置することができる。換言すれば、生分解性接着剤122は、弁葉104の少なくとも一部分を、弁葉104の周縁に沿って弁フレーム102に対して解放可能に結合することができる。様々な実施形態において、弁葉104の周縁の一部分を弁フレーム102に対して解放可能に結合することは、その周縁全体を弁フレーム102に対して解放可能に結合することを含む。あるいは、弁葉104の周縁の一部分を弁フレーム102に対して解放可能に結合することは、弁フレーム102の長手方向軸から等距離に離間した取り付け位置で行うことができる。これらの実施形態で、生分解性接着剤122は、体内の管腔への植込み後、所定の期間、弁葉104の少なくとも接合部106を弁フレーム102に対して固定関係で保持することができる。
【0019】
様々な実施形態において、生分解性接着剤122は、弁葉104の外表面(管腔面の反対側)とフレーム部材108との間に配置することができる。さらに、生分解性接着剤122がフレーム部材108によって画定される開口に行き渡ることができるように、生分解性接着剤122を、弁葉104の外表面のほぼ全体にわたって配置することができる。
【0020】
様々な実施形態において、弁葉104を開位置に保持するために使用される生分解性接着剤122の濃度、タイプおよび/または混合(例えば、任意で他の物質を含む2つ以上の異なる生分解性接着剤)もまた、様々とすることができる。本明細書で使用される場合、「濃度」という用語は、接着剤を形成する混合物および/または溶液中のそれぞれの生分解性接着剤の量(例えば、重量による)を含む。
【0021】
様々な実施形態において、弁葉104を弁フレーム102に対して固定関係で保持する際に使用される1つまたは複数の生分解性接着剤、その濃度および/または場所の選択によって、多くの方法で弁葉104を弁フレームから解放することができる。例えば、生分解性接着剤122は、弁葉104を弁フレーム102の基端112および/または先端114の一方から徐々に解放することができるように、使用することができる。一手法では、これは、濃度を変えることによって、かつ/または、弁フレーム102の基端112および/または先端114の一方または両方から延びる生分解性接着剤122の勾配を有することによって、達成することができる。
【0022】
あるいは、1つまたは複数の生分解性接着剤122、その濃度および/または場所の選択によって、各弁葉104のほぼ全体をほぼ同時に固定関係から解放することができるようにしてもよい。例えば、弁葉104を徐々に解放することができるように、異なるタイプの生分解性接着剤122を異なる領域(例えば、個別の領域)で使用することができる。
【0023】
様々な実施形態において、生分解性接着剤のタイプは、体内に吸収されるように崩壊する(例えば、生崩壊性または生分解性)化合物を含むことができるが、これに限定されるものではない。本明細書で使用される場合、「崩壊する」または「崩壊」とは、水に不溶性の材料が水溶性の材料に転換される工程を含む。他のタイプの生分解性接着剤は、少なくともヘテロ原子を含む重合体骨格を有するものなど、生分解性の様々な天然、合成および生合成の重合体を含むことができる。そのような生分解性接着剤は、とりわけ、無水物、エステル、またはアミド結合などの化学結合を有するものを含むことができる。次いで、これらの化学結合は、加水分解および/または酵素的切断の一方または両方によって分解することができ、重合体骨格が切断されることになる。
【0024】
生分解性接着剤122の例は、ポリラクチド(PLA)、ポリグリコリド(PGA)、ポリカプロラクトン(PCL)、およびそれらの共重合体をもとにしたポリ(エステル)を含むものである。他の生分解性接着剤122は、PHB−PHVクラスのポリ(ヒドロキシアルカノエート)、追加のポリ(エステル)、およびさらなる加水分解によって低分子量オリゴ糖類が得られる、修飾されたポリ(糖類)(例えば、澱粉、セルロース、およびキトサン)などの天然重合体を有するものを含むことができる。ポリ(エチレンオキシド)、PEO、および/またはポリ(エチレングリコール)、PEGもまた、生分解性接着剤として使用することができる。ポリ(エチレンオキシド)(PEO)およびポリ(ブチレンテレフタレート)(PBT)のマルチブロック共重合体もまた、本開示の生分解性接着剤での使用が可能であり、分解速度はPEO分子量および含有量によって影響を受け得る。
【0025】
様々な実施形態において、生分解性接着剤122は、体内の管腔内への植込み後、所定の期間、少なくとも弁葉104の接合部106を弁フレーム102に対して固定関係で保持することができる。生分解性接着剤122の分解は患者個人ごとに異なる速度で進む可能性が最も高いため、様々な実施形態において、植込み後の所定の期間は、およその時間範囲とすることができる。したがって、任意の特定の弁100で使用される生分解性接着剤122のタイプ、濃度および/または場所は、患者ごとおよび/または植込み場所ごとに特有のものとすることができる。
【0026】
例えば、生分解性接着剤122は、一週間(すなわち、7日間)以上、弁葉104の少なくとも一部分を弁フレーム102に対して固定的に保持することができる。この所定の期間の後、生分解性接着剤122は、生分解性接着剤122が弁葉104の少なくとも一部分を弁フレーム102に対して固定的に保持することができない位置まで、分解および/または崩壊することができる。その後、弁葉104は、弁フレーム102の生分解性接着剤122を有する部分から解放されることができる。解放された後、弁葉104は、弁を通る流体(例えば、血液)の流れをほぼ一方向に制御するように動作することができる。
【0027】
様々な実施形態において、所定の期間はまた、弁100が弁葉104の開閉によってかかる力にさらされる前に、植込み部位で弁フレーム102の少なくとも一部において内方成長を生じる(例えば、固定する)ことも可能にする。一実施形態では、弁フレーム102は、周辺組織の内方成長および/または過成長を促進および/または抑制する1つまたは複数の表面処理および/または被覆を有することができる。例えば、弁フレーム102は、弁葉104が生分解性接着剤122で弁フレーム102に取り付けられていない場合、弁100の複数の領域で組織の内方成長を促進する、1つまたは複数の表面処理および/または被覆を有することができる。同様に、生分解性接着剤122が弁葉104と弁フレーム102を結合する領域は、少なくとも生分解性接着剤122が分解および/または崩壊するために必要な期間、周辺組織の内方成長および/または過成長を抑制する1つまたは複数の表面処理および/または被覆を有することができる。
【0028】
様々な実施形態において、生分解性接着剤122および/または弁フレーム102はまた、弁フレーム102に対して固定関係にある間、弁葉104の周りの内方成長を防ぎながら、弁100の組織の内方成長を可能にする、所定の構造および/または形状を有することができる。例えば、弁葉104と弁フレーム102との間に配置された生分解性接着剤122は、組織の内方成長を促進および/または可能にする多孔性の部分または層を有することができるが、生分解性接着剤122の近接部分はそのような内方成長を促進する設計としないことができる。換言すれば、生分解性接着剤122は、生分解性接着剤122の物理的構造および/または形態によって様々な層および/または領域が体内の様々な内方成長反応を促進し得る、層構造を有することができる。あるいは、上述の内方成長反応を誘導することを試みて、様々なタイプの生分解性接着剤122を、同一のおよび/または異なる形態(例えば、多孔性などの構造)を有する層および/またはパターンで使用することができる。
【0029】
いくつかの実施形態では、弁フレーム102のフレーム部材108は、様々な材料から形成することができる。そのような材料には、金属、金属合金、および/または重合体を含むが、これらに限定されるものではない。弁フレーム102の設計および構成は、全体または少なくとも一部がバルーンにより拡張可能とすることができ、かつ/または、自己拡張式の形状記憶材料とすることができる。形状記憶材料の例には、体内で不活性の形状記憶プラスチック、重合体、熱可塑性材料および金属合金を含む。いくつかの形状記憶材料(例えば、ニッケル−チタン合金)は、温度感受性であり指定の温度または温度範囲で形状を変えることができる。一実施形態では、形状記憶金属合金は、ニチノールとして一般に知られている特定の比率のニッケルおよびチタンから作られたものを含む。他の材料も使用可能である。
【0030】
様々な実施形態において、フレーム部材102は、長さに沿って同様のおよび/または異なる断面形状を有することができる。断面形状の類似性および/または相違性は、弁フレーム102のそれぞれの部分から誘導したいと望む1つまたは複数の機能に基づいて選択することができる。断面形状の例は、矩形、非平面形状(例えば、湾曲)、円形(例えば、円、楕円および/または長円)、多角形、アーチ形および円筒形を含む。他の断面形状も可能である。
【0031】
弁100はさらに、1つまたは複数の放射線不透過性マーカー(例えば、タブ、スリーブ、溶接部)を含むことができる。例えば、弁フレーム102の1つまたは複数の部分は、放射線不透過性材料から形成することができる。放射線不透過性マーカーは、弁フレーム102に沿って1つまたは複数の場所に取り付けることができ、かつ/または、被覆することができる。放射線不透過性材料の例には、金、タンタルおよび白金を含むが、これらに限定されるものではない。1つまたは複数の放射線不透過性マーカーの位置は、弁100の植込み中に弁の姿勢、場所および向きの情報を提供するように、選択することができる。
【0032】
弁100はさらに、弁100を通る液体の一方向の流れのための可逆的に密閉可能な開口(例えば、接合部106)を画定する表面を有する弁葉104を含む。弁葉104はそれぞれ弁フレーム102に結合され、弁葉104が弁フレーム102との固定関係から解放される位置まで生分解性接着剤122が分解および/または崩壊した後、弁葉104が、弁100の管腔を通る液体の一方向の流れのために開状態と閉状態との間を反復的に動くことができる。この例では、弁100は、二弁葉構成の2つの弁葉104を含む。理解されるように、一弁葉、三弁葉および/または他の多弁葉構成も可能である。
【0033】
いくつかの実施形態では、弁葉104は、自家、同種異系または異種移植片材料の由来とすることができる。理解されるように、異種移植片材料(例えば、心臓弁)の供給源は、ブタ、ウマおよびヒツジなどの哺乳類の供給源を含むが、これらに限定されるものではない。弁葉104を形成する別の生物由来材料は、外植された静脈、心膜、大腿筋膜、採取された心臓弁、膀胱、静脈壁、様々なコラーゲンタイプ、エラスチン、腸粘膜下および脱細胞化した基底膜材料、例えば小腸粘膜下組織(SIS)、羊膜組織または臍静脈などを含むが、これらに限定されるものではない。
【0034】
あるいは、弁葉104は、合成材料から形成することができる。可能な合成材料には、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリスチレン−ポリイソブチレン−ポリスチレン(SIBS)、ポリウレタン、セグメント化ポリ(カーボネート−ウレタン)、ポリエステル、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、絹、ウレタン、レーヨン、シリコーン等を含むが、これらに限定されるものではない。別の実施形態では、合成材料には、ステンレス鋼(例えば、316L)およびニチノールなどの金属を含むこともできる。これらの合成材料は、織り、編み、鋳造または他の既知の物理的な流体不透過性または透過性構成とすることができる。さらに、留置後に弁葉104を視認できるようにするために、金めっきされた金属を弁葉104材料に埋め込むことができる(例えば、サンドイッチ構成)。
【0035】
理解されるように、弁100(例えば、弁フレーム102および/または弁葉104)は、任意の数の表面処理または材料処理によって処理および/または被覆することができる。そのような処理の例には、血栓形成を調節するもの、細胞の内方成長、介在成長および内皮化を促進するもの、感染に抵抗するもの、抗血栓被覆、および石灰化を抑えるものを含む生物活性剤を含むが、これに限定はされない。少なくとも弁フレーム102のための、好適な被覆の1つの例は、ボストン・サイエンティフィック社(Boston Scientific)からTaxus(登録商標)の商標名で提供されているステントフレーム被覆である。
【0036】
ここで図2A〜2Bを参照すると、本開示によるシステム230の異なる実施形態が示されている。それぞれのシステム230には、本明細書で説明されるように、少なくとも一部が長尺状送達カテーテル232上に配置された、少なくとも1つの弁200がある。図示されているように、長尺状送達カテーテル232は、ガイドワイヤ236を受け入れて通すためのガイドワイヤルーメン234を含むことができる。
【0037】
図2Aに示されたシステム230の実施形態はさらに、長尺状送達カテーテル232の少なくとも一部分の周りに配置された拡張可能なバルーン238を含み、弁200の少なくとも一部が拡張可能なバルーン238上に配置されている。この実施形態では、長尺状送達カテーテル232はさらに、膨張ポート242から長尺状送達カテーテル232を通って、拡張可能なバルーン238および長尺状送達カテーテル232によって少なくとも一部が画定される拡張可能な容積へと延びる、膨張管腔240を含む。次いで、膨張ポート242を通って、圧力下で送り込まれた流体を使用して、拡張可能なバルーン238を膨張させることができ、それにより、弁200の少なくとも一部または全部を所望の場所へと送達する。
【0038】
いくつかの実施形態では、拡張可能なバルーン238は灌流バルーンとすることができる。弁200が脈管内に配置されている間、灌流バルーンを使用して、流体(例えば、血液)が送達カテーテル232および弁200を通ることができるようにしながら、弁200の弁フレームを径方向に拡張することができる。
【0039】
代替実施形態では、図2Bは、長尺状送達カテーテル232の少なくとも一部分の周りに配置された引き込み可能なシース250を含む、システム230を示す。さらに、弁200を送達状態に保持するために、弁200の少なくとも一部分を、長尺状送達カテーテル232と引き込み可能なシース250との間に配置することができる。例えば、図2Bは、弁200を圧縮された送達(すなわち、未送達)状態に解放可能に保持するように、引き込み可能なシース250が送達カテーテル232の少なくとも一部分の周りに配置されている実施形態を示す。引き込み可能なシース250は、弁200が長尺状送達カテーテル232から径方向に拡張することができるように引き込むことができ、弁フレーム202は少なくとも一部がニチノールなどの形状記憶材料から形成されている。
【0040】
あるいは、弁フレーム202はばね付勢を備えた材料から形成することができ、弁200はシース250が取り外されたときに拡張することができる。ばね付勢を備えた材料の例には、医療用ステンレス鋼(例えば、316L)、チタン、タンタル、白金合金、ニオブ合金、コバルト合金、アルギン酸塩、またはそれらの組合せを含むことができるが、これらに限定されるものではない。
【0041】
一実施形態では、引き込み可能なシース250は、長尺状送達カテーテル232と同軸に延びることができ、シース250は、弁200を送達状態から展開状態へと径方向に拡張することができるように、長尺状送達カテーテル232に対して長手方向に移動する(例えば、摺動する)ことができる。いくつかの実施形態では、引き込み可能なシース250を送達カテーテル232に対して移動させることは、シース250の基端256を送達カテーテル232の基端258に対して引っ張ることによって達成することができる。
【0042】
図2Aおよび2Bに示されているように、本開示の実施形態には弁200も図示されており、生分解性接着剤を使用して、弁葉204を弁フレーム202の1つまたは複数の個別の取り付け位置254において保持することができる。図示されているように、弁葉の周縁の一部分を、弁フレームの長手方向軸260から等距離に離間した取り付け位置で弁フレームに対して解放可能に結合することができる。
【0043】
圧縮された状態で、図2Aおよび2Bに図示されているように、弁葉204を1つまたは複数の個別の取り付け位置254で弁フレーム202に取り付けることによって、弁フレーム202が拡張可能なバルーン238の周りで径方向に圧縮された状態、または引き込み可能なシース250と長尺状カテーテル232との間で圧縮された状態にあるときに、弁葉204の接合部206の少なくとも一部分を長手方向軸260に向かって集めることができる。
【0044】
別の実施形態では、システムは、長尺状送達カテーテルの少なくとも一部分の周りに配置された拡張可能なバルーンと、引き込み可能なシースとを含むことができる。弁フレームは、少なくとも一部が自己拡張式(または全体が自己拡張式)とすることができ、シースを引き込むことによって、弁が送達状態から展開状態に向かって拡張することができる。次いで、拡張可能なバルーンを使用して、所望の植込み場所で、弁フレームを十分に展開し、固定し、かつ/またはより十分に据え付けることができる。
【0045】
送達カテーテル232および/または引き込み可能なシース250はそれぞれ、多くの材料から形成することができる。材料は、PVC、PE、POC、PET、ポリアミドなどの重合体、それら重合体の混合物およびブロック共重合体を含む。さらに、送達カテーテル232および/または引き込み可能なシース250はそれぞれ、本明細書で説明するように構造体同士が互いに対して長手方向に摺動でき、かつ本明細書で説明するように弁200を送達状態に維持するために十分な、壁厚および内径を有することができる。
【0046】
別の実施形態では、本開示の弁200は、弁フレームまたはフレーム部材に取り付けられたアンカー部材を含むことができる。アンカー部材は、鉤、フック等を含むことができる。
【0047】
様々な実施形態について、本開示の弁は、基本的に駆出率は正常であるが心不全の兆候および症状を呈するなど、特定のタイプの心不全と診断された患者に使用することができる。例えば、左心室(LV)拡張機能不全を治療する際、(必ずしも肺静脈循環への血液の逆流が原因とは限らないが)左心房(LA)収縮の改善によって、硬くなったLVの充満を助けることができる。本開示の弁は、肺静脈とLAの接合部に植え込まれたときに、LA収縮のLV拡張期充満への寄与を改善する助けとなることができる。これらの弁は、LVの拡張期に、より多くの量の血液をLVへと送り込む際に、LA収縮によって行われる働きを改善する助けとなる可能性がある。
【0048】
さらに、本明細書で説明する弁を有するシステムを配置することは、システムを最小侵襲の経皮経管的手技を使用して患者の心血管系へと導入することを含む。例えば、ガイドワイヤを、所定の場所を含む患者の心血管系に配置することができる。本明細書で説明する弁を含む本開示のシステムは、ガイドワイヤ上に配置することができ、弁を所定の場所またはその近傍に配置するように、システムを前進させることができる。一実施形態では、本明細書で説明するように、カテーテルおよび/または弁の上に放射線不透過性マーカーを使用して、弁の位置決めおよび配置を助けることができる。
【0049】
弁は、本明細書で説明するように、任意の数の方法で、所定の場所でシステムから展開することができる。一実施形態では、本開示の弁を、任意の数の心血管系の場所で展開および留置することができる。例えば、弁を、患者の動脈および/または静脈(例えば、肺静脈)内で展開および留置することができる。一実施形態では、患者の動脈および/または静脈は、末梢血管および/または心血管系のものを含む。例えば、本開示の1つまたは複数の弁の肺静脈への送達は、右心房から左心房へと中隔を通る穴を通して達成することができる。さらに、弁の実施形態は、流体の移動に対してより厳格な制御が望まれる、(例えば、泌尿器および/またはリンパの)多くの様々な管で使用される可能性がある。他の場所も可能である。
【0050】
弁の送達は、多くの様々な植込み手技によって達成することができる。例えば、本開示の弁は、本明細書で説明するように、弁を送達カテーテルによって所定の場所に配置することができる、経皮的送達手技によって植え込むことができる。次いで、弁を、所定の場所で送達カテーテルから展開することができる。次いで、カテーテルを該所定の場所から抜去することができる。
【0051】
弁は、いったん植え込まれると、送達カテーテルの抜去後、弁葉の基端部分および先端部分が弁フレームに対して固定関係で維持される、開管腔構成を維持する。換言すれば、弁葉は、本明細書で説明するように、生分解性接着剤の使用によって「開」位置に保持される。いったん植え込まれると、生分解性接着剤は、体内の流体(例えば、血液)にさらされ、その流体が、所定の期間後に弁葉が弁フレームに対する固定関係から解放される位置まで、生分解性接着剤を分解および/または崩壊させる。
【0052】
しかし、所定の期間中は、開管腔構成により、弁を通る血液の流れは制御されない。この開管腔構成を形成するように弁葉を維持することにより、弁を通る一方向の流れをもたらすように弁葉が開閉しないので、所定の期間中、弁フレーム上の長手方向のせん断応力を最小限とすることができる。この所定の期間中、弁フレームの周りで組織の内方成長が生じ得る。本明細書で述べたものなどの被覆および/または表面処理の使用によって、所定の期間中、この組織の内方成長を促進することができる。
【0053】
本開示を上記で詳細に図示および説明したが、当業者であれば、本開示の精神および範囲から逸脱することなく、変更および改変を行うことができることは明らかである。したがって、上記の説明および添付の図面は、本発明を限定するものとしてではなく、本発明を例示するためにのみ記載されている。本開示の実際の範囲は、添付の特許請求の範囲によって定義され、そのような特許請求の範囲のあらゆる均等物も含む。さらに、本開示を読み理解すれば、本明細書に説明された本開示の他の変形も本開示の範囲内に含まれ得ることが、当業者には明らかであろう。
【0054】
上記の「発明を実施するための形態」では、本開示を簡素化するために、いくつかの実施形態において様々な特徴がまとめられている。本開示のこの方法は、本開示の実施形態が、それぞれの請求項に明示的に記載されているよりも多くの特徴を必要とするという意図を示すと解釈されるべきではない。むしろ、添付の特許請求の範囲が示すように、本発明の主題は、1つの開示された実施形態のすべての特徴より少ない。したがって、添付の特許請求の範囲は「発明を実施するための形態」に援用され、それぞれの請求項は別個の実施形態として独立している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁フレーム(102、202)と、
前記弁フレーム(102、202)に結合され、弁(100、200)を通る液体の一方向の流れのために可逆的に密閉することができる接合部(106、206)を含む弁フレーム(104、204)と、
前記弁フレーム(104、204)の少なくとも接合部(106、206)を前記弁フレーム(102、202)に対して固定関係で保持するように、前記弁フレーム(104、204)と前記弁フレーム(102、202)との間に配置される生分解性接着剤(122)と
を含む弁(100、200)。
【請求項2】
前記弁フレーム(104、204)を前記弁フレーム(102、202)に対してそれぞれ固定関係で保持するように、前記生分解性接着剤(122)が前記弁フレーム(104、204)を1つまたは複数の個別の取り付け位置(254)に保持する、請求項1に記載の弁(100、200)。
【請求項3】
前記弁フレーム(102、202)が先端(114)を含み、前記生分解性接着剤(122)が前記弁フレーム(104、204)を完全に前記弁フレーム(102、202)の先端(114)に沿って保持する、請求項1または2のいずれか一項に記載の弁(100、200)。
【請求項4】
体内の管腔内への植込み後、前記生分解性接着剤(122)が、所定の期間、前記弁フレーム(102、202)に対して固定関係で保持するように前記弁フレーム(104、204)の少なくとも前記接合部(106、206)を保持する、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の弁(100、200)。
【請求項5】
前記弁フレーム(102、202)が径方向に圧縮された状態にあるときに、前記弁フレーム(104、204)の接合部(106、206)の少なくとも一部分が長手方向軸(260)に向かって集まることを可能にすることをさらに含む、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の弁(100、200)。
【請求項6】
前記弁フレーム(104、204)が抗血栓被覆を含む、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の弁(100、200)。
【請求項7】
長尺状送達カテーテル(232)(232)と、
少なくとも一部が該長尺状送達カテーテル(232)(232)上に配置された弁(100、200)を含み、
前記弁(100、200)が、
管腔を画定するフレーム部材を有する弁フレーム(102、202)、
前記弁フレーム(102、202)の一部分に取り付けられ、接合部(106、206)を有する弁フレーム(104、204)、および
前記弁フレーム(104、204)の少なくとも接合部(106、206)を前記弁フレーム(102、202)に対して固定関係で保持するように、前記弁フレーム(104、204)と前記弁フレーム(102、202)との間に配置される生分解性接着剤(122)を備えることと
を含むシステム。
【請求項8】
前記長尺状送達カテーテル(232)(232)が前記長尺状送達カテーテル(232)(232)の少なくとも一部分の周りに配置される拡張可能なバルーン(238)を含み、前記弁(100、200)の少なくとも一部が前記拡張可能なバルーン(238)上に配置される、請求項1乃至7のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項9】
前記長尺状送達カテーテル(232)(232)が前記弁(100、200)の少なくとも一部分の上に配置される引き込み可能なシース(250)を含み、該引き込み可能なシース(250)は、前記弁(100、200)を前記長尺状送達カテーテル(232)(232)から解放するように引き込むことができる、請求項1乃至8のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項10】
前記生分解性接着剤(122)が、前記弁フレーム(104、204)を1つまたは複数の個別の取り付け位置(254)で前記弁フレーム(102、202)に対して保持する、請求項1乃至9のいずれか一項に記載のシステム。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【公表番号】特表2011−507597(P2011−507597A)
【公表日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−539494(P2010−539494)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【国際出願番号】PCT/US2008/013889
【国際公開番号】WO2009/085207
【国際公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【出願人】(500332814)ボストン サイエンティフィック リミテッド (627)
【Fターム(参考)】