説明

弦楽器演奏システム、及び弦楽器演奏ロボット

【課題】簡便にビブラート奏法を行なうことができる弦楽器用マニピュレータ、及びそれを用いた弦楽器演奏ロボットを提供すること。
【解決手段】本発明の一態様に係る弦楽器演奏システムは、弦楽器と弦楽器を演奏する弦楽器演奏ロボットとを有する弦楽器演奏システムである。弦楽器演奏ロボット100が、指板52に対して弦51を押し当てる指部を有する左手部11と、弦51を指板52に押し当てるように、指板52と指部40との距離を変化させる左手用アクチュエータ13と、左手部11を移動させて、弦の押し当て位置を変化させる腕用アクチュエータ17と、有し、指板52の弦側側面が円筒の側面形状であり、腕用アクチュエータ17が左手部11を円筒の中心軸57と平行に移動させている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弦楽器を演奏する弦楽器演奏システム、及び弦楽器演奏ロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、テーマパークのアトラクション等で、楽器を演奏するロボットが活躍している。例えば、トランペット等の管楽器を演奏するためのロボットが開示されている(特許文献1参照)。このロボットでは、ピストンを押し下げるための人口指がピストン毎に設けられている。また、バイオリンを演奏するロボットも開発されている(非特許文献1、2)
【特許文献1】特開2004−314187号公報
【非特許文献1】龍谷大学ホームページ 理工学研究科 機械システム工学専攻 下条・明研究室 「平成19年10月16日検索」 インターネット〈URL:http://mec3342.mecsys.ryukoku.ac.jp/sibuya/jindex.html〉
【非特許文献2】電気通信大学ホームページ 電気通信学研究科 知能機械工学専攻 渋谷研究室 [平成19年10月16日検索] インターネット〈URL:http://www.rm.mce.uec.ac.jp/research/mubot/mubot_index.html〉
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
バイオリンを演奏する場合、弦を指板に押し付けて音階を調整する。演奏ロボットでは、指先で弦を押し付けるために、3自由度の位置決めが必要とされる。例えば、図11に示すように、バイオリンネック部を基準に、(1)ネック軸(長軸)方向への平行移動、(2)ネック軸に対する回転移動、(3)ネック軸に垂直な方向に分解して動作させる方法が一般的に用いられる。(1)の駆動は音階調整のために行われ、(2)の駆動は別弦に移動するために行われ、(3)の駆動は弦の押し付け、放しを切換えるために行われる。
【0004】
非特許文献1のロボットでは、運指用の左手は、楽器に対して固定されており、ネック軸に対して垂直方向にのみ指を運動させて演奏している。また、非特許文献2のロボットでは、左ハンドは、平行レールに沿って移動し、手首に該当する回転部を有している。そして、ネック軸に垂直方向の運動について、指先は力制御ベースで駆動されている。
【0005】
バイオリンのネック及び指板は、複雑な形状をしており、各音階のポジションによって高低の違いがある。すなわち、ネック軸に垂直方向における移動距離が、音階のポジションによって異なっている。したがって、図11に示すように、左手部11の運動をネック軸に対する平行運動と、回転運動に分解した後も、軸垂直方向の高低差を吸収する必要があるため、指部40の軸垂直運動の制御を位置制御ベースにすることができず、力制御ベースで行う必要がある。ネック軸垂直方向への指部40の制御が力制御ベースであるため、細かなタイミング制御が難しいという問題点がある。特に、別弦に移動する場合等、最適な経路計画が難しく、素早い演奏ができない。そのため、微細な押さえ付け、放しのタイミングのコントロールが難しいという問題点がある。
【0006】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、本発明の目的は、簡便な制御で、弦を指板に押し当てることができる弦楽器演奏システム、及び弦楽器用マニピュレータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様に係る弦楽器演奏システムは、弦楽器と前記弦楽器を演奏する弦楽器演奏ロボットとを有する弦楽器演奏システムであって、前記弦楽器演奏ロボットが、前記弦楽器の指板に対して弦を押し当てる指部を有するロボットハンドと、前記弦を前記指板に押し当てるように、前記指板と前記指部との距離を変化させる第1のアクチュエータと、前記ロボットハンドを移動させて、弦の押し当て位置を変化させる第2のアクチュエータと、有し、前記指板の弦側側面が円筒の側面形状であり、前記第2のアクチュエータが前記ロボットハンドを前記円筒の中心軸と平行に移動させるものである。これにより、音階を変えるためにロボットハンドを移動させても、指部から指板までの距離が変わらないため、容易に制御することができる。
【0008】
本発明の第2の態様に係る弦楽器演奏システムは、上記の弦楽器演奏システムであって、前記ロボットハンドを前記円筒の中心軸に沿って移動させるためのリニアガイドが前記ロボットハンドと前記弦楽器との間に設けられているものである。これにより、精度よく、ロボットハンドを移動することができる。
【0009】
本発明の第3の態様に係る弦楽器演奏システムは、上記の弦楽器演奏システムであって、前記第2のアクチュエータが、前記ロボットハンドを前記円筒の中心軸を回転軸として駆動するものである。これにより、別弦に移動するためにロボットハンドを移動させても、指部から指板までの距離が変わらないため、容易に制御することができる。
【0010】
本発明の第4の態様に係る弦楽器演奏システムは、上記の弦楽器演奏システムであって、前記ロボットハンドを前記円筒の中心軸を回転軸として回転させるための軸受が前記ロボットハンドと前記弦楽器と間に設けられているものである。これにより、精度よく、ロボットハンドを移動することができる。
【0011】
本発明の第5の態様に係る弦楽器演奏システムは、上記の弦楽器演奏システムであって、弦楽器と前記弦楽器を演奏する弦楽器演奏ロボットとを有する弦楽器演奏システムであって、前記弦楽器演奏ロボットが、前記弦楽器の指板に対して弦を押し当てる指部を有するロボットハンドと、前記弦を前記指板に押し当てるように、前記指板と前記指部との距離を変化させる第1のアクチュエータと、前記ロボットハンドを移動させて、弦の押し当て位置を変化させる第2のアクチュエータと、有し、前記指板の弦側側面が円筒の側面形状であり、前記第2のアクチュエータが、前記ロボットハンドを前記円筒の中心軸を回転軸として回転駆動させるものである。これにより、別弦に移動するためにロボットハンドを移動させても、指部から指板までの距離が変わらないため、容易に制御することができる。
【0012】
本発明の第6の態様に係る弦楽器演奏システムは、上記の弦楽器演奏システムであって、前記第1のアクチュエータを位置制御によって駆動するものである。これにより、制御が容易になり、細かな動作を精度よく行うことができる。
【0013】
本発明の第7の態様に係る弦楽器演奏ロボットは、弦楽器の指板に対して弦を押し当てる指部を有するロボットハンドと、前記弦を前記指板に押し当てるように、前記指板と前記指部との距離を変化させる第1のアクチュエータと、前記ロボットハンドを移動させて、弦の押し当て位置を変化させる第2のアクチュエータと、前記ロボットハンドに設けられたリニアガイドと、を有するものである。これにより、音階を変えるためにロボットハンドを移動させても、指部から指板までの距離が変わらないため、容易に制御することができる。
【0014】
本発明の第8の態様に係る弦楽器演奏ロボットは、前記ロボットハンドに設けられ、前記リニアガイドを軸支する軸受をさらに備え、前記軸受の軸を回転中心として、前記ロボットハンドが回転するものである。これにより、別弦に移動するためにロボットハンドを移動させても、指部から指板までの距離が変わらないため、容易に制御することができる。
【0015】
本発明の第9の態様に係る弦楽器演奏ロボットは、前記第1のアクチュエータを位置制御によって駆動するものである。これにより、制御が容易になり、細かな動作を精度よく行うことができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、簡便な制御で、弦を指板に押し当てることができる弦楽器演奏システム、及び弦楽器演奏ロボットを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本実施の形態にかかる弦楽器用システムは、弦楽器と弦楽器を演奏する弦楽器演奏マニピュレータとを有している。そして、弦楽器演奏マニピュレータが、弦楽器の指板に対して弦を押し当てる指部を有するロボットハンドと、弦を指板に押し当てるように、前記指板と前記指部との距離を変化させる第1のアクチュエータと、ロボットハンドを移動させて、弦の押し当て位置を変化させる第2のアクチュエータと、有している。さらに、指板の弦側側面が円筒の側面形状であり、第2のアクチュエータがロボットハンドを円筒の中心軸に沿って移動させている。
【0018】
以下に、本発明を適用した具体的な実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。各図面において、同一要素には同一の符号が付されており、説明の明確化のため、必要に応じて重複説明は省略する。
【0019】
本実施の形態に係る弦楽器演奏ロボットについて、図1を用いて説明する。図1は、本実施の形態にかかる弦楽器演奏ロボット100の概略構成を示す図である。弦楽器演奏ロボット100は、胴体部10、左手部11、右手部12、左手用アクチュエータ13、右手用アクチュエータ14、左腕部15、右腕部16、腕用アクチュエータ17、センサ18、及び制御部19を備えている。弦楽器演奏ロボット100は、例えば、図示しない頭部と脚部とを有する人型のヒューマイノイドロボットであってもよい。弦楽器演奏ロボット100は、両腕、及び両手を駆動して、バイオリン50を演奏する。このバイオリン50は、通常のバイオリンに限らず、電子バイオリンであってもよい。そして、弦楽器演奏ロボット100及びバイオリン50によって、弦楽器演奏システムが構成される。
【0020】
胴体部10には、左腕部15、及び右腕部16が接続されている。左腕部15、及び右腕部16は、例えば、6自由度や7自由度のロボットアームである。左腕部15、及び右腕部16は、肩関節を介して胴体部10に取り付けられている。左腕部15、及び右腕部16には、肘関節が設けられている。この肘関節は、左腕部15、及び右腕部16の上腕と前腕とを連結している。左腕部15の先端には左手部11が接続され、右腕部16の先端には、右手部12が接続されている。左手部11、及び右手部12は、手首関節を介して、左腕部15、及び右腕部16にそれぞれ接続されている。
【0021】
さらに、胴体部10には、左腕部15、及び右腕部16の各関節を駆動する腕用アクチュエータ17が設けられている。腕用アクチュエータ17によって、肘関節、肩関節、手首関節が駆動する。腕用アクチュエータ17としては、例えば、ソレノイドやモータ等を用いることができる。ここでは、腕用アクチュエータ17として、サーボモータを用いている。なお、腕用アクチュエータ17を配置する場所は、胴体部10に限らず、各関節の近傍でもよい。もちろん、自由度の数に応じた数の腕用アクチュエータ17が設けられている。
【0022】
左手部11、及び右手部12は、複数の指を有するロボットハンドである。例えば、左手部11、及び右手部12はそれぞれ、人間の手と同様に、五指を有する。左手部11には、五指に設けられた指関節を駆動するための左手用アクチュエータ13が設けられている。同様に、右手部12には、五指に設けられた指関節を駆動するための右手用アクチュエータ14が設けられている。なお、1本の指の指関節は1以上であればよい。左手用アクチュエータ13は、例えば、左手部11の手の平部に収容され、右手用アクチュエータ14は、右手部12の手の平部に収容される。左手用アクチュエータ13は、左手部11の指関節を駆動し、右手用アクチュエータ14は右手部12の指関節を駆動する。左手用アクチュエータ13、及び右手用アクチュエータ14としては、例えば、ソレノイドやモータ等を用いることができる。ここでは、左手用アクチュエータ13、及び右手用アクチュエータ14として、サーボモータを用いている。
【0023】
なお、腕用アクチュエータ17、左手用アクチュエータ13、及び右手用アクチュエータ14は自由度に応じた数のモータ等を有している。例えば、左腕部15、及び右腕部16が6自由度のロボットアームである場合、それぞれの腕には、6つのモータが設けられる。また、両腕、及び両手の各関節には、サーボモータの動力を伝達するギヤやベルトやプーリなどが設けられていてもよい。
【0024】
左手部11、及び右手部12は、バイオリン50を演奏する弦楽器演奏マニピュレータを構成する。左手部11は、バイオリン50の指板52部分を把持する。すなわち、左手部11がバイオリン50のネック部分を把持して、バイオリン50を持ち上げる。そして、バイオリン50のボディーを胴体部10で保持する。例えば、人間と同様に、頭部の顎部と肩部とでバイオリンのあご当てを挟み込む。これにより、バイオリン50を安定して保持することができる。もちろん、上記以外の方法で、バイオリン50を保持してもよい。例えば、弦楽器演奏ロボット100に、バイオリン保持機構を設けてもよい。
【0025】
右手部12は、バイオリン50の演奏に用いる弓53を把持する。すなわち、右手部12で弓53を操作する。右手部12が弓53を把持した状態で、腕用アクチュエータ17を駆動する。これにより、右腕部16の関節が駆動し、音を奏でるための弓53の往復動作が行なわれる。バイオリン50には、4本の弦51が設けられている。そして、左手部11の指の先端が、それぞれの弦51を指板52に対して押し当てる。例えば、4本の弦51が人差指、中指、薬指、親指で、それぞれ押さえられる。これにより、弦51の振動部分の長さが変化して、音程を調整することができる。左手部11によって弦51を指板52に押し当てた状態で、右手部12が弓53によって弦51を振動させる。具体的には、右手部12が弓53のヘアーを弦51に当接させた状態で、弓53を弦方向から傾いた方向に移動させる。例えば、弓53を把持した右手部12を図1の矢印方向に駆動する。弦51と弓53とがこすれ、弦51が振動する。これにより、弦51の振動部分の長さに応じた音階の音が奏でられる。
【0026】
胴体部10には、各関節の駆動を制御するための制御部19が設けられている。制御部19は、腕用アクチュエータ17、左手用アクチュエータ13、及び右手用アクチュエータ14の駆動を制御する。制御部19は、例えば、エンコーダなどのセンサ18からの出力に応じて、フィードバック制御する。制御部19による制御は、公知の制御方法を用いることができる。これにより、右手部12、及び左手部11が上述のように駆動して、音を奏でることができる。
【0027】
ここで、制御部19について詳細に説明する。制御部19は、演算処理部であるCPU(Central Processing Unit)、記憶領域であるROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)、通信用のインターフェースなどを有し、ロボット100の各種動作を制御する。例えば、ROMには、制御するための制御プログラムや、各種の設定データ等が記憶されている。そして、CPUは、このROMに記憶されている制御プログラムを読み出し、RAMに展開する。そして、設定データや、センサ等からの出力に応じてプログラムを実行する。
【0028】
制御部19は、演奏する曲に応じて、腕用アクチュエータ17、左手用アクチュエータ13、及び右手用アクチュエータ14の駆動を制御する。例えば、演奏曲に応じて、押し当て位置のパターンを生成する。そして、押し当て位置のパターンに基づいて左手部11を移動させる。これにより、所定のタイミングで、押し当て位置が所定の位置に変化する。また、演奏曲に応じて、弓53を移動するタイミングのパターンを生成する。そして、このタイミングパターンに応じて弓53の往復動作を制御する。これにより、所定の音程が所定のタイミングで奏でられていき、演奏することができる。なお、本実施の形態において、弦楽器演奏ロボット100が行なう演奏とは、完全な曲の演奏に限らず、少なくとも1つの音階の音が奏でられるものであればよい。また、弓53の動作は、物理的に異なるロボットや、人間が行ってもよい。
【0029】
次に、本実施の形態にかかるロボット演奏システムの特徴部分である、指板52、及び左手部11の構成について、図2〜図4を用いて説明する。図2は、指板52の構成を示す図である。図3は、指板52が取り付けられたバイオリン50の構成を示す側面図である。図4は、バイオリン50を把持する左手部11の構成を示す図である。
【0030】
まず、指板52の形状について、説明する。図2に示すように、指板52は、円筒56から切り出された形状を有している。すなわち、図2において、円筒56内で交差する実線で円筒56を切断することによって、指板52が形成される。したがって、指板52の側面は円筒56の側面形状になっている。すなわち、指板52の表面が円筒側面で形成されるように、円筒56をカットする。また、円筒56の軸方向位置に応じて、指板52の厚みが変化している。
【0031】
もちろん、指板52の表面が円筒側面で形成されていれば、実際に円筒状のブロックをカットしなくてもよい。すなわち、指板52が円筒側面で形成されるように加工されていればよい。また、指板52の表面は、厳密な円筒56の側面でなくてもよく、実施の弦51が押し当てられる部分のみが円筒56の側面と一致していればよい。
【0032】
図3に示すように、この指板52をバイオリン50のネック54に固定する。ここでは、円筒56の側面形状となっている指板52の側面が弦側になるように配置されている。すなわち、弦51が当接する面が円筒の側面形状になる。従って、円筒56の切断面がネック側に配置される。また、バイオリン50の駒に向かうにつれて、指板52が高くなっている。
【0033】
図4に示すように、指板52が取り付けられたバイオリン50が、左手部11で把持される。そして、指部40を駆動することで、弦が指板52に対して押し当てることができる。すなわち、図1に示した左手用アクチュエータ13で指部40を駆動する。これにより、指部40が指板52に対して近づき、弦51が指板52に押し付けられる。反対に、指部40を指板52から離していくことで、弦51の押し当てを解放することができる。また、腕用アクチュエータ17を駆動することで、弦の押し当て位置を変えることができる。すなわち、肘関節や肩関節を駆動することで、バイオリン50に対する左手部11の位置を変える。
【0034】
ここでは、図11に示したように、弦の押し当て動作を3方向の運動に分解する。ネック軸に平行な平行運動、及びネック軸に対する回転運動は、腕用アクチュエータ17によって行われる。また、ネック軸に垂直な垂直運動は、左手用アクチュエータ13によって行われる。
【0035】
図4に示すように、腕用アクチュエータ17によって、左手部11を矢印Aの方向に回転駆動している。これにより、指板52に対して押し当てる弦51を選択することができ、押し当て位置を別弦に移動することができる。すなわち、A方向に回転させると、指板52の表面上において、各指の押し当て位置が弦51と垂直な方向に変化する。したがって、指板52に押し当てる弦51が変わる。ここでは、回転駆動の回転中心を指板52を構成する円筒の中心軸57と一致させる。これにより、指板52の表面に沿って、左手部11が回転する。したがって、左手部11を回転駆動させても、指部40の先端から指板52の表面までの距離が変化しない。すなわち、押し付ける弦を変えた場合でも、押し当て動作のために指部40を駆動する距離が変化しない。このため、指部40を位置制御によって駆動することができる。すなわち、左手用アクチュエータ13を位置制御することで、指部40が押し当て位置まで移動する。これにより、正確に制御することができ、微細な制御が可能になる。
【0036】
さらに、腕用アクチュエータ17によって、左手部11を矢印Bの方向に直線駆動する。これにより、同一弦に対する押し当て位置が変わり、音階を調整することができる。すなわち、左手部11をB方向にスライドさせると、それぞれの指の押し当て位置が弦と平行な方向に変化する。したがって、それぞれの弦での押し当て位置が移動して、音階を変えることができる。さらに、ここでは、直線駆動の駆動軸を円筒の中心軸57と平行にしている。これにより、指板52の表面に沿って、左手部11がスライド移動する。したがって、左手部11を直線駆動しても、指部40の先端から指板52の表面までの距離が変化しない。すなわち、音階を変えるために左手部11をスライドさせた場合でも、押し当て動作のために指部40を駆動する距離が変化しない。押し当て位置によって指部40の垂直駆動距離が変化しないため、指部40を位置制御によって駆動することができる。すなわち、左手用アクチュエータ13を位置制御することで、指関節が回転して、指部40の先端が押し当て位置まで移動する。これにより、精度よく制御することができ、微細な制御が可能になる。
【0037】
なお、円筒56の中心軸57とは、図2に示したような指板52を切り出す前の円筒56を仮想的にバイオリン50のネック54に沿って配置したときの中心軸である。もちろん、仮想的に配置された円筒56の側面は、実際に配置された指板52の弦側の表面と一致している。
【0038】
このように、指板52の表面を円筒56の側面形状とする。そして、円筒56の中心軸57と一致する駆動軸で左手部11を駆動する。すなわち、スライド移動させるときのスライド軸を円筒56の中心軸57と平行にする。また、回転駆動するときの回転軸を円筒56の中心軸57と一致させる。このようにすることにより、押し当て位置によらず、指板52表面までの高さが一定になる。腕用アクチュエータ17を駆動することによって左手部11を指板52に対して移動させた場合でも、指板52表面までの垂直距離を一定にすることができる。すなわち、指板52のどの位置においてでも、指板52に対して指部40を一定距離だけ近づければ、指部40が指板52に接触する。よって、左手用アクチュエータ13を位置制御で駆動することができる。これにより、3軸とも位置制御にすることができるため、最適な経路計画を容易に行なうことができる。
【0039】
次に、図5、及び図6を用いて指板52、及び左手部11の構成を詳細に説明する。図5は、左手部11がバイオリン50を把持している構成全体を示す斜視図である。図6は、バイオリン50のネック54、及び左手部11の構成を拡大して示す斜視図である。また、図5、図6では、左手部11に設けられた五指を、親指41、人差指42、中指43、薬指44、小指45として示している。すなわち、5つの指部40を親指41、人差指42、中指43、薬指44、小指45として、区別している。もちろん、指部40の数は、4以下でよく、6以上でもよい。
【0040】
図5、及び図6に示すように、左手部11によって、バイオリン50のネック54が把持されている。具体的には、ネック54の指板52と反対側に、左手部11の手の平部が配置されている。すなわち、左手部11の手の平部の上方にネック54が配置される。そして、人差指42、中指43、薬指44、及び小指45がネック54の一方側に配置され、親指41がネック54の他方に配置されている。そして、手の平部分にバイオリン50を載置した状態で、五指でネック54を挟み込むように、バイオリン50を保持する。
【0041】
さらに、図6に示すように、バイオリン50と左手部11の間には、リニアガイド60が設けられている。リニアガイド60によって、バイオリン50に対する左手部11の移動方向が、ガイドされる。リニアガイド60は、バイオリン50に対する左手部11の移動方向を制限する。リニアガイド60が設けられている方向に沿って、バイオリン50と左手部11とが相対移動する。よって、バイオリン50の指板52に沿って、左手部11が並進移動する。すなわち、指板52を構成する円筒の中心軸と平行方向に、左手部11が直進する。なお、円筒の中心軸とは、図2に示したような指板52を切り出す前の円筒56を仮想的にバイオリン50のネック54に沿って配置したときの中心軸である。もちろん、仮想的に配置された円筒の側面は指板52の弦側の側面と一致している。
【0042】
ここで、リニアガイド60とその周辺の構成について、図7〜図10を用いて説明する。図7は、リニアガイド60とその周辺の構成を示す斜視図であり、図6のバイオリン50を取り除いた状態を示している。図8は、左手部11の構成を示す分解斜視図である。図9は、バイオリン50を把持する左手部11をネック54側から見た図である。図10は、バイオリン50を把持する左手部11をバイオリン50の側方から見た図である。また、図7では、人差指42、中指43、薬指44、小指45を駆動する指関節をそれぞれ、指関節42a、指関節43a、指関節44a、及び指関節45aとして示している。
【0043】
図7、及び図8に示すように、リニアガイド60は移動ブロック61、及びガイドレール62から構成されている。リニアガイド60のガイドレール62は、図10に示すように、バイオリン50に取り付けられ、リニアガイド60の移動ブロック61は、ロボットハンド11に取り付けられる。例えば、ガイドレール62は、ネック54の裏側、すなわち、指板52と反対側に固定される。また、移動ブロック61は、左手部11の親指41の根元部分に取り付けられる。移動ブロック61がガイドレール62の長手方向に沿って移動する。ガイドレール62の長手方向がネック54方向に沿って配置されている。すなわち、ガイドレール62の長手方向が、指板52を構成する円筒の中心軸と平行になっている。そして、移動ブロック61は、ガイドレール62にスライド可能に嵌合支持される。従って、移動ブロック61がガイドレール62にガイドされ、移動ブロック61が設けられている左手部11が、ガイドレール62に沿って移動する。すなわち、図10の矢印Bの方向に左手部11が移動する。
【0044】
より具体的には、図8に示すように、直方体状のガイドレール62には、凸部62a、及び凸部62bが形成されている。凸部62aと凸部62bとは、ガイドレール62の異なる側面に設けられている。凸部62a、及び凸部62bのそれぞれは、ガイドレール62の長手方向に沿って形成されている。そして、移動ブロック61には、溝61a、及び溝61bが形成されている。移動ブロック61は、ガイドレール62の長手方向において、ガイドレール62よりも短くなっている。凸部62aを溝61aに嵌合挿入し、凸部62bを溝61bに嵌合挿入する。従って、凸部62aが溝61a内を移動し、凸部62bが溝61b内を移動する。これにより、ガイドレール62が移動ブロック61をスライド可能に支持する。
【0045】
ガイドレール62の上面にネック54の裏面を対向配置して、ガイドレール62をネック54に固定する。すなわち、ガイドレール62の凸部62aが設けられている面と反対側の面に、ネック54を載置して、固定する。このようにすることで、移動ブロック61が取り付けられている左手部11の移動方向を、指板52の円筒の中心軸に平行にすることができる。ここでは、腕用アクチュエータ17を駆動することで、図10に矢印Bの方向に、左手部11が直進移動する。このように、リニアガイド60を設けることによって、バイオリン50に対する左手部11の移動方向が、回転軸と平行な方向に規制される。リニアガイド60を設けることで、スライド軸のバイオリン50に対する位置が決まるため、確実にスライド軸を円筒の中心軸に平行にすることができる。
【0046】
さらに、図7、8に示すように、左手部11には、軸受66が設けられている。軸受66は、左手部11の手の平側に取り付けられていた回転軸受である。軸受66が、移動ブロック61に設けられている軸65を軸支する。すなわち、軸65を軸受66に挿入する。従って、移動ブロック61の軸65を回転軸として、軸受66が回転する。軸受66は、ボールベアリング等であり、左手部11の駆動を機械的に拘束する。これにより、腕用アクチュエータ17を駆動すると、軸受66の軸65を回転中心として、図9の左手部11が矢印Aに沿って、回転する。よって、左手部11の回転運動の中心位置を特定することができる。軸受66を設けることで、回転軸のバイオリン50に対する位置が決まる。確実に回転中心を円筒の中心軸に一致させることができる。
【0047】
このように、左手部11とバイオリン50との間には、リニアガイド60が設けられている。さらに、リニアガイド60は軸受66を介して、左手部11に取り付けられている。すなわち、リニアガイド60と左手部11の間には、軸受66が配置されている。リニアガイド60、及び軸受66により、バイオリン50に対する左手部11の動きが機械拘束されている。これにより、バイオリン50に対する左手部11の移動精度を向上することができる。すなわち、バイオリン50に対する左手部11の移動を高い位置精度で、制御することができる。例えば、腕用アクチュエータ17の制御による移動で位置誤差が生じてしまった場合でも、位置誤差がバイオリン50の移動によって吸収される。具体的には、腕用アクチュエータ17の位置誤差が生じた場合でも、バイオリン自体が、位置誤差を吸収するように移動する。従って、左手部11のスライド方向と回転方向のバイオリン50に対する軸の位置が不変となる。よって、左手部11が指板52の表面に沿って移動する。
【0048】
本実施の形態では、指板52の表面を円筒の側面形状にしている。従って、ハンド運動をネック軸に対する平行運動と回転運動に分解した場合、軸垂直方向の高低差を吸収することができる。よって、ネック軸に垂直に移動する指部40を位置制御で駆動することができる。すなわち、左手用アクチュエータ13のモータに対して、モータの回転角度を指令値として与えて、各指関節を駆動すればよい。指部40を位置制御で駆動しているため、弦51を押し当てるタイミングや放すタイミングを細かく制御することができる。また、弦51の押し当て位置等を精度よく制御することができる。特に、別弦に移動する場合など、最適な経路計画を容易に行うことができ、素早い演奏が可能になる。このように、位置制御を行うことで、制御を容易に行うことができ、正確な演奏が可能になる。なお、親指41でリニアガイド60、及び軸受66を隠すようにしてもよい。
【0049】
上記の説明では、バイオリン50に対する駆動軸を位置決めするために、リニアガイド60、及び軸受66を設けているが、腕用アクチュエータ17を制御することで、駆動軸の位置を制御してもよい。すなわち、左腕の複数の関節を駆動することによって、バイオリン50に対する左手部11の移動方向を制御してもよい。この場合、リニアガイド60、及び軸受66が不要になる。
【0050】
また、指部40の先端に位置制御で動作するビブラート機構を設けてもよい。例えば、バネなどの弾性体を、指部40の先端に設ける。そして、弾性体の弾性力を利用して、指部40の先端を指板52に対して押し当てる。また、弦を押し当てる押し当て部材の形状を扁平させ、指部40に回転可能に取り付ける。押し当て部材が指板52に接触している状態では、指部40の垂直方向位置に応じて、弾性体が伸縮して、押し当て位置が弦方向に変化する。すなわち、指部先端の指板52からの高さによって押し当て位置が変化する。このような場合、位置制御で指部40を駆動することで、精度よくに制御することが可能になる。よって、ビブラート奏法を正確かつ容易に行うことができる。
【0051】
なお、上記の例では、バイオリンを演奏する弦楽器演奏システムについて説明したが、他の弦楽器を演奏するものであってもよい。例えば、ビィオラ、チェロ、コントラバス、ウッドベースなどの擦弦楽器について演奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本実施の形態に係る弦楽器演奏システムの構成を示すブロック図である。
【図2】本実施の形態にかかる弦楽器演奏システムに用いられるバイオリンの指板の構成を示す図である。
【図3】図1の指板が取り付けられたバイオリンの構成を示す側面図である。
【図4】本実施の形態に係る弦楽器演奏システムにおいて、バイオリンを把持した左手部の構成を示す図である。
【図5】左手部がバイオリンを把持している構成全体を示す斜視図である。
【図6】図5の構成を拡大して示す斜視図である。
【図7】リニアガイドとその周辺の構成を示す斜視図である。
【図8】左手部の構成を示す分解斜視図である。
【図9】バイオリンを把持する左手部をネック側から見た図である。
【図10】バイオリンを把持する左手部をバイオリンの側方から見た図である。
【図11】バイオリンをロボットハンドで演奏するときの運動を説明する斜視図である。
【符号の説明】
【0053】
10 胴体部、11 左手部、12 右手部、13 左手用アクチュエータ
14 右手用アクチュエータ、15 右腕部、16 左腕部、
17 腕用アクチュエータ、18 センサ、19 制御部、
40 指部、41 親指、42 人差指、43 中指、44 薬指、45 小指、
50 バイオリン、51 弦、52 指板、53 弓、54 ネック、
60 リニアガイド、61 移動ブロック、62 ガイドレール、
100 弦楽器演奏ロボット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弦楽器と前記弦楽器を演奏する弦楽器演奏ロボットとを有する弦楽器演奏システムであって、
前記弦楽器演奏ロボットが、
前記弦楽器の指板に対して弦を押し当てる指部を有するロボットハンドと、
前記弦を前記指板に押し当てるように、前記指板と前記指部との距離を変化させる第1のアクチュエータと、
前記ロボットハンドを移動させて、弦の押し当て位置を変化させる第2のアクチュエータと、有し、
前記指板の弦側側面が円筒の側面形状であり、
前記第2のアクチュエータが前記ロボットハンドを前記円筒の中心軸と平行に移動させる弦楽器演奏システム。
【請求項2】
前記ロボットハンドを前記円筒の中心軸に平行移動させるためのリニアガイドが前記ロボットハンドと前記弦楽器との間に設けられている請求項1に記載の弦楽器演奏システム。
【請求項3】
前記第2のアクチュエータが、前記ロボットハンドを前記円筒の中心軸を回転軸として駆動する請求項1、又は2に記載の弦楽器演奏システム。
【請求項4】
前記ロボットハンドを前記円筒の中心軸を回転軸として回転させるための軸受が前記ロボットハンドと前記弦楽器と間に設けられている請求項3に記載の弦楽器演奏システム。
【請求項5】
弦楽器と前記弦楽器を演奏する弦楽器演奏ロボットとを有する弦楽器演奏システムであって、
前記弦楽器演奏ロボットが、
前記弦楽器の指板に対して弦を押し当てる指部を有するロボットハンドと、
前記弦を前記指板に押し当てるように、前記指板と前記指部との距離を変化させる第1のアクチュエータと、
前記ロボットハンドを移動させて、弦の押し当て位置を変化させる第2のアクチュエータと、有し、
前記指板の弦側側面が円筒の側面形状であり、
前記第2のアクチュエータが、前記ロボットハンドを前記円筒の中心軸を回転軸として回転駆動させる弦楽器演奏システム。
【請求項6】
前記第1のアクチュエータを位置制御によって駆動する請求項1乃至5のいずれかに1項に記載の弦楽器演奏システム。
【請求項7】
弦楽器の指板に対して弦を押し当てる指部を有するロボットハンドと、
前記弦を前記指板に押し当てるように、前記指板と前記指部との距離を変化させる第1のアクチュエータと、
前記ロボットハンドを移動させて、弦の押し当て位置を変化させる第2のアクチュエータと、
前記ロボットハンドに設けられたリニアガイドと、を有する弦楽器演奏ロボット。
【請求項8】
前記ロボットハンドに設けられ、前記リニアガイドを軸支する軸受をさらに備え、
前記軸受の軸を回転中心として、前記ロボットハンドが回転する請求項5に記載の弦楽器演奏ロボット。
【請求項9】
前記第1のアクチュエータを位置制御によって駆動する請求項7、又は8に記載の弦楽器演奏ロボット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図11】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−101453(P2009−101453A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−274767(P2007−274767)
【出願日】平成19年10月23日(2007.10.23)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】