説明

強化繊維複合材ビームの製造方法

【課題】強化繊維シートの積層体の積層枚数が変化し長手方向に厚さが変化する部分を有する強化繊維複合材ビームを、所定形態に、容易にかつ精度良く成形する。
【解決手段】横断面にT形の形状部を含むとともに、長手方向に厚さが変化する部分を有する強化繊維複合材ビームの製造方法であって、(a)横断面に、L形部を持つ2つの強化繊維シートの積層体2a、2bを背中合わせにしたT形部を含み、長手方向に、強化繊維シートの積層枚数が変化する部分を有し、L形部の屈曲部の谷側の曲率半径R1が長手方向に一定である予備成形体1を製造する予備成形体製造工程と、(b)予備成形体1のより厚い部分において、T形部における垂直部5を水平部6に向けて近づけることにより、その部分における前記曲率半径R2を他の部分における曲率半径よりも小さくした曲率半径変化成形体10を成形する曲率半径変化成形体成形工程を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強化繊維複合材ビームの製造方法に関し、とくに、横断面に屈曲部を含むT形の形状部を有し長手方向に厚さが変化する部分を有する強化繊維複合材ビームを精度良く所望の形状に成形可能な強化繊維複合材ビームの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維やガラス繊維、アラミド繊維を強化繊維として用いた強化繊維複合材としてのFRP(繊維強化プラスチック)は、軽量でかつ高い耐久性を有するものであることから、自動車や航空機などを構成する各種の構成部材として理想的な材料である。このFRPの成形方法としては、例えば、強化繊維基材を複数枚積層し、金型で挟み加圧することにより賦形し、所定の形状に成形する方法が知られている。
【0003】
強化繊維基材としては、例えば強化繊維をシート状に複数本引き揃え、エポキシ樹脂等のマトリックス樹脂を含浸させ、シート状に成形したプリプレグシートが用いられている。このプリプレグシートを複数枚積層し、金型内で加圧、加熱して硬化させ成形する。また、マトリックス樹脂が含浸されていない、ドライな強化繊維基材を用いたFRPの成形も行われている。これはResin Transfer Molding(以下、RTMという)成形方法や真空RTM成形方法などと呼ばれる成形方法であり、例えば、層間接着樹脂が付加された強化繊維基材を複数枚積層し、金型で賦形したプリフォームと呼ばれる予備成形品を製作した後、このプリフォームに低粘度の液状マトリックス樹脂を注入し、硬化させるものである。
【0004】
上記のようなFRPからなる部材の製造においては、I形やH形(本願では、これらを総称してI形と呼ぶ。)の横断面形状を持つビーム部材(梁部材)を製造する装置が知られている(例えば、特許文献1)。この装置は、積層体を所定の横断面形状に金型にて賦形した後、金型を開き積層体を所定量移動させ、再度賦形するということを繰り返し、長尺の成形品を成形する装置である。このような装置を用いることで、長手方向に一様な横断面形状を持つビーム部材の成形を、そのビーム部材の全長分の大型の金型を用いることなく、小さな金型にて製造することが可能になる。
【0005】
しかしながら、例えば片持ちの構造物を考えた場合、一般的にそれを支えるビーム部材には、根元側にいくほど剛性が高くなることが求められる。そのため、長尺の積層体成形品では、積層枚数(積層体成形品の厚み)を根元側にいくほど増すことでこれに対応している。一方、前述の従来技術は、一定形状、一定厚みの断面にて順次成形するものであるため、このような成形品の厚み変化には対応できなかった。
【0006】
このように成形品に厚み変化が要求される場合で、特に横断面内に屈曲部を有する形状へ強化繊維基材を賦形する場合には、次のような問題がある。図9を用い、屈曲部を持つ成形品の例として、T字形の横断面形状を持つ積層体の賦形について説明する。図9において、(A)は、強化繊維基材の積層枚数が少ない部分を賦形する場合の横断面を示しており、図示例では、断面形状がL形の積層体102、103が背中合わせに配置されたT形部101と、板状の積層体104とにより、全体としてT字形の横断面形状を持つ強化繊維基材積層体100が形成されている。この板状積層体104と、T形部101における水平部105と垂直部106との交差部107との間に形成される隙間に、該隙間を埋めるための強化繊維を主成分とするコーナーフィラー材108が充填される。この横断面形態にて、金型109に対し金型110、111が押圧され、金型間で強化繊維基材積層体100がプレスされて所定の横断面形状に賦形される。
【0007】
ところが、図9(B)に示すように、強化繊維基材積層体100の長手方向における強化繊維基材の積層枚数が多い部分、つまり、より厚いL形の積層体102a、103aが背中合わせに配置されたT形部101aと、より厚い板状の積層体104aとにより、横断面が形成された部分100aを賦形する場合、同じ金型110、111を用いてプレスしたのでは、L形の積層体102a、103aの厚みが大きいため、L形積層体102a、103aの屈曲部の外側の山側の曲率半径Rが大きくなり、コーナーフィラー材108が図9(A)の状態に比べて十分にプレスされず、低密度で強化繊維密度が低すぎる状態となって、最終製品の品位に悪影響を及ぼすことになる。このコーナーフィラー材108は、強化繊維複合材を連続生産していく中で、量を変化させることが装置機能上難しいものであるため、通常、一定量ずつ順次上記隙間に供給されている。すなわち、積層厚さが変化しても、コーナーフィラー材108の供給量は、製造のし易さを考慮して変化しないものとされている。したがって、上記の如く同じ金型110、111を用いたプレスでは、積層体102a、103aの厚み増大に伴い屈曲部の山側の曲率半径Rが大きくなることによるコーナーフィラー材108の形態不良の発生を防止することが困難となっている。
【0008】
この基材厚みが大きい部分100aを賦形するに際して、コーナーフィラー材108の断面積を図9(A)に示したものと同じにするには、図9(C)に示すように、型のコーナー部の曲率半径Rkが小さい金型110a、111aに交換する必要がある。しかし、積層体の長手方向における基材厚みの変化に対応して、その都度、金型を交換することは、生産効率を著しく低下させることになり、現実的ではない。また、たとえ金型を交換できるようにしたとしても、積層体の厚みの変化に対応させて適切な金型を選択することは相当難しく、金型の選択が適正でないと、例えば図10に示すように、金型110b、111bのコーナー部に隙間112が生じ、目標とする賦形ができなくなるおそれがある。
【0009】
上記のような問題に対し、金型と積層体の間にシート状のスキマ調整部材を挿入することで長手方向に厚みの異なる(厚みの変化する)積層体を同一の金型で賦形できるようにした技術が知られている(例えば、特許文献2)。しかし、特に上述のような、材料を長手方向に送りながら長尺の成形品を金型で成形していく装置に、このようなシート状の隙間調整部材を挿入する機構を組み込むのは、装置構成上容易ではなく、たとえ組み込んだとしても、装置の安定稼働の面で不安の残るものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2001−191418号公報
【特許文献2】特開2008−179130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで本発明の課題は、上記のような従来技術における問題点に着目し、基本的に金型を交換することなく、かつ、隙間調整部材等を挿入することなく、強化繊維シートの積層体の積層枚数が変化し長手方向に厚さが変化する部分を有する強化繊維複合材ビームを、所望の横断面形態に、とくにコーナーフィラー材を一定量ずつ供給する場合のコーナーフィラー材の横断面形態を所望の横断面形態に、容易にかつ精度良く成形できるようにした強化繊維複合材ビームの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明に係る強化繊維複合材ビームの製造方法は、強化繊維シートの積層体を有する強化繊維とマトリックス樹脂の強化繊維複合材からなり、横断面にT形の形状部を含むとともに、長手方向に厚さが変化する部分を有する強化繊維複合材ビームの製造方法であって、
(a)横断面に、L形部を持つ2つの強化繊維シートの積層体を背中合わせにしたT形部を含み、長手方向に、強化繊維シートの積層枚数が変化する部分を有し、前記L形部の屈曲部の谷側の曲率半径が長手方向に一定であるビーム状の予備成形体を製造する、予備成形体製造工程と、
(b)前記予備成形体の長手方向の一部で、かつ、強化繊維シートの積層枚数がより多い部分において、前記T形部における垂直部を該T形部における水平部に向けて近づけることにより、その部分における前記L形部の屈曲部の谷側の曲率半径を他の部分における曲率半径よりも小さくした曲率半径変化成形体を成形する、曲率半径変化成形体成形工程を含むことを特徴とする方法からなる。
【0013】
上記本発明に係る強化繊維複合材ビームの製造方法においては、予備成形体の製造の段階では、L形部の屈曲部の谷側の曲率半径は一定に形成されるが、曲率半径変化成形体成形工程では、横断面T形部における垂直部が該T形部における水平部に向けて近づけられることにより、L形部の屈曲部の谷側の曲率半径がより小さくされる。すなわち、T形部における垂直部を水平部に向けて近づけるだけで、強化繊維シートの積層枚数が多く厚い部分についても、L形部の屈曲部の曲率半径が大きくなることを抑え、適切な小さな曲率半径にて成形することを可能としたものである。これによって、金型を交換することなく、かつ、隙間調整部材等を挿入することなく、強化繊維シートの積層体の積層枚数が変化し長手方向に厚さが変化する部分を有する強化繊維複合材ビームを、所望の目標とする横断面形態に成形できるようになる。とくに、コーナーフィラー材を一定量ずつ供給する場合にも、該コーナーフィラー材の横断面形態を所望の横断面形態に、容易にかつ精度良く成形できるようになる。
【0014】
このような本発明に係る強化繊維複合材ビームの製造方法においては、上記予備成形体製造工程において、強化繊維シートの積層体を、金型間でプレスして金型賦形面の形状に沿う形に変形する動作と、この金型が開放されたタイミングで積層体を長手方向に搬送する動作を交互に行うことで、長手方向に積層体を断続的に賦形していく間欠プレス処理を行うことが可能である。このような間欠プレス処理を採用すれば、長尺の強化繊維複合材ビームを製造する場合にあっても、その全長にわたる金型を用いることなく、比較的短尺の金型を用いて所定のプレス処理を順次間欠的に行うことで、目標とする形状への賦形が可能になり、賦形動作の容易化、装置コストの低減が可能になる。
【0015】
また、上記予備成形体製造工程において、上記T形部における水平部の、T形部における垂直部とは反対側の面上に、板状の強化繊維シートまたはその積層体を配置し、該板状強化繊維シートと、上記T形部における水平部と垂直部との交差部との間に形成される隙間に、コーナーフィラー材を充填し、その状態において上記曲率半径変化成形体成形工程を行うようにすることもできる。すなわち、前述したようなコーナーフィラー材を充填する場合にも、本発明は極めて有効に適用できる。
【0016】
また、本発明においては、予備成形体の横断面全体の形状がT形であってもよく、横断面内にT形の形状部を含み、横断面全体の形状としてはT形部を含むT形以外の形状であってもよい。いずれの場合にあっても、T形部は、L形部を持つ2つの強化繊維シートの積層体を背中合わせにすることによって形成される。
【0017】
予備成形体の横断面全体の形状がT形である場合、予備成形体のT形部における垂直部の高さを、上記曲率半径変化成形体成形工程において上記垂直部を上記水平部に向けて近づけることにより減少する分を考慮して、予め高く設定しておくことが好ましい。このようにしておけば、上記垂直部を上記水平部に向けて近づけた後の垂直部の高さ、換言すれば、曲率半径変化成形体成形工程後の垂直部の高さを、略一様に揃えることが可能になる。この場合、上記予備成形体と曲率半径変化成形体とのT形部における垂直部の高さの変化量をΔH、上記L形部の屈曲部の谷側の曲率半径の変化量をΔRとしたとき、ΔHとΔRが以下の式を満たすことが好ましい。
ΔH=ΔR(2−π/2)
この式が示す意味については後述する。
【0018】
また、本発明においては、上記予備成形体の横断面全体の形状がI形であってもよく、この場合にも、横断面形状内にT形部が含まれる。
【0019】
予備成形体の横断面全体の形状がI形である場合、予備成形体のI形形状における垂直部の高さを、上記曲率半径変化成形体成形工程において上記I形形状内のT形部における垂直部を上記水平部に向けて近づけることにより減少する分を考慮して、予め高く設定しておくことが好ましい。このようにしておけば、上記垂直部を上記水平部に向けて近づけた後の垂直部の高さ、換言すれば、曲率半径変化成形体成形工程後の垂直部の高さを、略一様に揃えることが可能になる。この場合、上記予備成形体と上記曲率半径変化成形体との上記I形形状の垂直部の高さの変化量をΔH´、上記L形部の屈曲部の谷側の曲率半径の変化量をΔR´としたとき、ΔH´とΔR´が以下の式を満たすことが好ましい。
ΔH´=ΔR´(4−π)
この式が示す意味についても後述する。
【0020】
また、本発明においては、上記予備成形体製造工程における強化繊維シートとしては、強化繊維にマトリックス樹脂を含まないドライの強化繊維材を用いることも可能であり、強化繊維にマトリックス樹脂が含浸されたプリプレグを用いることも可能である。ドライの強化繊維材を用いる場合には、例えば、予備成形体の外周を型で覆うことで上記曲率半径変化成形体成形工程における曲率半径の変化を与え、その状態にて、型内部にマトリックス樹脂を注入し、硬化させることにより、強化繊維複合材ビームを製造することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る強化繊維複合材ビームの製造方法によれば、強化繊維シートの積層枚数が変化し長手方向に厚さが変化する部分を有する場合にも、基本的に金型を交換することなく、しかも、隙間調整部材等を挿入することなく、強化繊維複合材ビームを目標とする横断面形態に容易にかつ精度良く成形することができる。とくに、コーナーフィラー材を一定量ずつ供給する場合に最適な方法を提供でき、該コーナーフィラー材の横断面形態を所望の横断面形態に、容易にかつ精度良く成形できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1実施態様に係る強化繊維複合材ビームの製造方法を示す横断面図であり、(A)は予備成形体製造工程、(B)は曲率半径変化成形体成形工程を示している。
【図2】第1実施態様における成形体の側面図であり、(A)は予備成形体の側面図、(B)は曲率半径変化成形体の側面図を示している。
【図3】本発明の第2実施態様に係る強化繊維複合材ビームの製造方法を示す横断面図であり、(A)は予備成形体製造工程、(B)は曲率半径変化成形体成形工程を示している。
【図4】第2実施態様における成形体の側面図であり、(A)は予備成形体の側面図、(B)は曲率半径変化成形体の側面図を示している。
【図5】L形部の屈曲部の曲率半径の変化量を説明するための説明図である。
【図6】第1実施態様における予備成形体の製造装置の一例を示す斜視図である。
【図7】第2実施態様における予備成形体の製造装置の一例を示す斜視図である。
【図8】図7における加熱賦形装置の構成例を示す横断面図である。
【図9】従来の厚さ変化部分を有する強化繊維複合材ビームの製造方法を示す横断面図であり、(A)は厚さの小さい部分の成形工程、(B)は同じ金型を用いた厚さの大きい部分の成形工程、(C)は異なる金型を用いた厚さの大きい部分の成形工程を示している。
【図10】適切でない金型を用いた場合の問題点を示す成形工程の横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明の望ましい実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
図1および図2は、本発明の第1実施態様に係る強化繊維複合材ビームの製造方法を示しており、ビーム状の予備成形体の横断面全体の形状がT形である場合について示している。予備成形体製造工程を示す図1(A)において、予備成形体1は、L形部を持つ2つの強化繊維シートの積層体2a、2b(本実施態様では、強化繊維にマトリックス樹脂を含まないドライの強化繊維材からなる強化繊維シートの積層体)を背中合わせにしたT形部を含み、横断面全体の形状としてT形の形状に形成されている。2つの強化繊維シート積層体2a、2bは、図2(A)に示すように、長手方向において強化繊維シートの積層枚数が変化する部分3を有し、長手方向に厚さが大きい部分4aと厚さが小さい部分4bとを有している。上記強化繊維シート積層体2a、2bのL形部の屈曲部の谷側の曲率半径は、長手方向に一定の曲率半径R1に形成されている。横断面全体の形状としてT形の形状に形成されているT形部は、垂直部5と水平部6を持ち、水平部6の垂直部5とは反対側の面上に、板状の強化繊維シートの積層体7が配置されている。この板状強化繊維シート7と、上記T形部における水平部6と垂直部5との交差部8との間に形成される隙間に、コーナーフィラー材9が充填されている。本実施態様では、板状強化繊維シート7の厚さは一定とされているが、変化させることも可能である。この予備成形体製造工程の段階では、図2(A)に示すように、T形部の垂直部5の高さH1は、厚さが大きい部分4aではより高く、厚さが小さい部分4bではより低くされている。予備成形体1の所定形態への賦形においては、比較的短尺の賦形型を用いて、長手方向に間欠的に順次所定横断面形状への賦形を行い、これを繰り返すことによって所定長全長にわたっての賦形を行うことができる。垂直部5の高さの設定においては、所定の変化分を有する高さに設定するために、連続体としてのプリフォームを形成後に、垂直部5の上端側をトリミングするようにしてもよい。高さの変化量の設定については後述する。
【0024】
上記のように形成された予備成形体1が、強化繊維複合材ビーム(曲率半径変化成形体)へと成形される。図1(B)、図2(B)に示すように、上記予備成形体1の長手方向の一部で、かつ、強化繊維シートの積層枚数がより多い部分(つまり、強化繊維シート積層体2a、2bの厚さが大きい部分4a)について、上記T形部における垂直部5を該T形部における水平部6に向けて近づけることにより、その部分におけるL形の強化繊維シート積層体2a、2bの屈曲部の谷側の曲率半径R2を他の部分における曲率半径(つまり、R1)よりも小さくした曲率半径変化成形体10が成形される。このとき、上記T形部における垂直部5の高さは、上記H1からH2に、垂直部5を水平部6に近づけた分(高さ変化分)減少され、図2(B)に示すように、曲率半径変化成形体10は長手方向に一定の高さとされる。
【0025】
この曲率半径変化成形体成形工程は、例えば図1(B)に示すように実施される。上記予備成形体1の外周全体が、金型11、12、13a、13bで覆われ、本実施態様では、金型12に、上記T形部における垂直部5を該T形部における水平部6に向けて近づけるために垂直部5の上面を押圧する突出部12aが設けられている。これら金型を用いて型締めすることで、曲率半径変化成形体成形工程における曲率半径のR1からR2への変化が与えられ、その状態にて、型内部にマトリックス樹脂が注入されて硬化される。本実施態様では、型の上面の実質的に全体が、シール材14によってシールされた状態にて可撓性シートまたはフィルムからなるバッグ材15で覆われ、その状態にてバッグ材15の内部が減圧され、注入口16から液状のマトリックス樹脂17が注入され、予備成形体1を形成していた強化繊維材に含浸された後、余剰の樹脂が排出口18から排出される。樹脂硬化後に、バッグ材15、金型12、13a、13bが除去され、金型11上から強化繊維複合材ビーム成形品としての曲率半径変化成形体10が取り出される。
【0026】
なお、上記実施態様では、強化繊維シートの積層体2a、2bおよび板状強化繊維シート7に、マトリックス樹脂を含まないドライの強化繊維材からなる強化繊維シートの積層体を用いたが、強化繊維にマトリックス樹脂が予め含浸されたプリプレグを使用することもできる(図示略)。その場合には、図1(B)に示したと同様に型締めは行うが、マトリックス樹脂を注入する必要はない。
【0027】
図3および図4は、本発明の第2実施態様に係る強化繊維複合材ビームの製造方法を示しており、ビーム状の予備成形体の横断面全体の形状がI形である場合について示している。予備成形体製造工程を示す図3(A)において、予備成形体21は、L形部を持つC形断面形状の2つの強化繊維シートの積層体22a、22b(本実施態様では、強化繊維にマトリックス樹脂を含まないドライの強化繊維材からなる強化繊維シートの積層体)を背中合わせにして、上下に2つのT形部を含み、横断面全体の形状としてI形の形状に形成されている。2つの強化繊維シート積層体22a、22bは、図4(A)に示すように、長手方向において強化繊維シートの積層枚数が変化する部分23を有し、長手方向に厚さが大きい部分24aと厚さが小さい部分24bとを有している。上記強化繊維シート積層体22a、22bの上下各L形部の屈曲部の谷側の曲率半径は、長手方向に一定の曲率半径R3に形成されている。I形の形状に形成されている横断面全体の形状としてI形形状は、垂直部25と上下の水平部26a、26bを持ち、水平部26a、26bの垂直部25とは反対側の面上に、板状の強化繊維シートの積層体27a、27bが配置されている。この板状強化繊維シート27a、27bと、上記水平部26a、26bと垂直部25との交差部28a、28bとの間に形成される隙間に、コーナーフィラー材29a、29bが充填されている。本実施態様では、板状強化繊維シート27a、27bの厚さは一定とされているが、変化させることも可能である。この予備成形体製造工程の段階では、図4(A)に示すように、垂直部25の高さ(水平部26a、26b間距離)H3は、厚さが大きい部分24aではより小さく、厚さが小さい部分24bではより大きくされており、I形部全体の高さとしては、厚さが大きい部分24aではより高く、厚さが小さい部分24bではより低く設定されている。予備成形体21の所定形態への賦形においては、比較的短尺の賦形型を用いて、長手方向に間欠的に順次所定横断面形状への賦形を行い、これを繰り返すことによって所定長全長にわたっての賦形を行うことができる。この場合には、この賦形の段階でI形部全体の高さが決まってしまうため、前述の第1実施態様のように賦形後のトリミングはできない。I形部の高さの変化量については後述する。
【0028】
上記のように形成された予備成形体21が、強化繊維複合材ビーム(曲率半径変化成形体)へと成形される。図3(B)、図4(B)に示すように、上記予備成形体21の長手方向の一部で、かつ、強化繊維シートの積層枚数がより多い部分(つまり、強化繊維シート積層体22a、22bの厚さが大きい部分24a)について、上記I形部における垂直部25を下側の水平部26bに向けて近づけることにより(実際には、垂直部25を上下の水平部26a、26bに向けて近づけることにより)、その部分における上下T形部を有するC形断面形状の強化繊維シート積層体22a、22bの上下L形屈曲部の谷側の曲率半径R4を他の部分における曲率半径(つまり、R3)よりも小さくした曲率半径変化成形体30が成形される。このとき、上記垂直部25の高さは、上記H3からH4に、垂直部25を水平部26a、26bに近づけた分減少され、図4(B)に示すように、曲率半径変化成形体30は長手方向に一定の高さとされる。
【0029】
この曲率半径変化成形体成形工程は、例えば図3(B)に示すように実施される。上記予備成形体21の外周全体が、金型31、32、33a、33bで覆われ、本実施態様では、金型32によって、上記垂直部25を水平部26a、26bに向けて近づけるために、垂直部25および上側水平部26aが下側水平部26bに向けて押圧される。これら金型を用いて型締めすることで、曲率半径変化成形体成形工程における曲率半径のR3からR4への変化が与えられ、その状態にて、型内部にマトリックス樹脂が注入されて硬化される。本実施態様では、型の上面の実質的に全体が、シール材34によってシールされた状態にて可撓性シートまたはフィルムからなるバッグ材35で覆われ、その状態にてバッグ材35の内部が減圧され、注入口36から液状のマトリックス樹脂37が注入され、予備成形体21を形成していた強化繊維材に含浸された後、余剰の樹脂が排出口38から排出される。樹脂硬化後に、バッグ材35、金型32、33a、33bが除去され、金型31上から強化繊維複合材ビーム成形品としての曲率半径変化成形体30が取り出される。このFRPの成形方法は、前述の第1実施態様と実質的に同じである。本実施態様においても、強化繊維シートの積層体として、強化繊維にマトリックス樹脂が予め含浸されたプリプレグを使用することが可能である。
【0030】
上記のような強化繊維複合材ビームの製造方法において、予備成形体と曲率半径変化成形体とのT形部やI形部における垂直部の高さの変化量の設定について、図2(B)や図4(B)に示したように、曲率半径変化成形体成型後の成型体の高さが長手方向に一定となるようにするには、垂直部の高さを、垂直部を水平部に向けて近づけることにより減少する分を考慮して、予め高く設定しておくとよい。例えば、前述の第1実施態様に関しての垂直部の高さ設定について、図5に示すように、予備成形体1と曲率半径変化成形体10とのT形部における垂直部5の高さの変化量をΔH、L形部の屈曲部の谷側の曲率半径のR1からR2への変化量をΔR(=R1−R2)としたとき、好ましくは、ΔHとΔRは以下の式を満たす。
ΔH=2・ΔR+(2π・R1)/4−(2π・R2)/4=ΔR(2−π/2)
同様に、例えば、前述の第2実施態様に関しては、上下に垂直部25の高さの変化部位が存在するので、上記式の2倍の変化量を見込んでおくことが好ましく、予備成形体21と曲率半径変化成形体30とのI形形状の垂直部の高さの変化量をΔH´、L形部の屈曲部の谷側の曲率半径の変化量をΔR´(=R3−R4)としたとき、ΔH´とΔR´が以下の式を満たすことが好ましい。
ΔH´=ΔR´(4−π)
【0031】
このような本発明に係る強化繊維複合材ビームの製造方法により、強化繊維シートの積層枚数が変化し長手方向に厚さが変化する部分を有する予備成形体1、21に対しても、金型を交換することなく、かつ、従来のような隙間調整部材等を挿入することなく、強化繊維複合材ビームを目標とする横断面形態に容易にかつ精度良く成形することができる。とくに、コーナーフィラー材9、29a、29bを一定量ずつ供給する場合にも、望ましいコーナーフィラー材の横断面形態に成形でき、強化繊維複合材ビーム全体として、所望の品質の目標とする形態に、容易にかつ精度良く成形できるようになる。
【0032】
コーナーフィラー材の供給を含む、予備成形体の製造は、例えば図6、図7に示すように行うことができる。図6に示す例は、前述の第1実施態様に対応する予備成形体1の製造例を示しており、図7に示す例は、前述の第2実施態様に対応する予備成形体21の製造例を示している。
【0033】
図6に示す例においては、一定供給量にて繰り出されてきたコーナーフィラー材の素材条体41をフィラー賦形装置42で図1に示したような所定の断面形状のコーナーフィラー材43に賦形し、繰り出されてきた強化繊維シート積層体44a、44bに例えば折れ線付与装置45により後続の賦形を行いやすいようにそれぞれ1本の折れ線を付与し、折れ線が付与された略L形の積層体46a、46bと、繰り出されてきた平板状強化繊維シート積層体46cと、送られてきたコーナーフィラー材43とを図1に示したような所定の位置関係に並べて圧縮賦形装置47に導入する。圧縮賦形装置47では、図1に示したような圧縮賦形を行い、一体化された賦形物48に対し、必要に応じてトリミング装置49で不要部分を除去し、例えばアクチュエータ50で作動される牽引装置51によって賦形物を予備成形体1として送り出す。このようにすれば、間欠的な賦形動作を繰り返すことにより、長尺物に対しても、効率よく所望の賦形を行うことが可能になる。
【0034】
図7に示す例においては、強化繊維シート積層体61a、61bが、上下から挟持して所定量ずつ間欠的に搬送する搬送装置62により送られ、C形形成装置63によって横断面C形に予備成形された後、加熱賦形手段としての加熱賦形装置64に導入される。一定供給量にて供給されるコーナーフィラー材65a、65bは、加熱賦形装置64に導入される前に、フィラー形成装置66によって、図3に示したような所定の横断面形状となるように成形される。加熱賦形装置64で、C形に予備成形された強化繊維シート積層体61a、61b、コーナーフィラー材65a、65b、平板状強化繊維シート積層体67a、67bが、図3に示したような所定の位置関係にて加熱賦形されるようになっている。加熱賦形装置64に導入する前に、全体の成形速度の向上を狙って、加熱オーブン68で予備加熱してもよい。加熱賦形装置64は、アクチュエータ69によりレール70上を往復動され、賦形された予備成形体21が送り出される。予備成形体21が逆方向に戻らないように、戻り防止装置71が設けられている。
【0035】
図7に示した例における加熱賦形装置64は、例えば図8に示すような構成を有することが好ましい。図8に示す構成例においては、加熱賦形装置64が2つのT形プレス装置81a、81bからなり、両T形プレス装置81a、81bの相対位置を変化させることで、長手方向に高さ(H3)を変化させることができるようになっている。より詳細には、加熱賦形装置64は、所定の賦形温度に加熱可能な、上型82a、82b、下型83a、83b、側面型84a、84bを有しており、これら金型が装置筐体85a、85bによって囲まれる加熱空間内で、アクチュエータ86a、86b、87a、87bによって型締めされることにより、加熱賦形装置64内に導入されてきた強化繊維基材、つまり、前述の強化繊維シート積層体61a、61b、コーナーフィラー材65a、65b、平板状強化繊維シート積層体67a、67bが、前述のような横断面I形の予備成形体21に加熱、加圧賦形される。このとき、長手方向における高さ(H3)の変化に対応できるように、金型82a、83a、84aのセットと金型82b、83b、84bのセットとの間隔(相対位置)が変化できるように、本実施態様では、金型82a、83a、84aのセットが金型82b、83b、84bのセットに対し装置筐体85aごと、幅変更アクチュエータ88を有するスライド装置89によって移動され、位置が制御されるようになっている。なお、図4(A)に示したような、長手方向において強化繊維シートの積層枚数が変化し、高さ(H3)がテーパー状に変化する部分23を有する場合にも、そのテーパー状変化に対しても良好に追従できるように、アクチュエータ87a、87bと側面型84a、84bとの間の連結機構には、例えば側面型84a、84bを回動可能に支持するピン連結機構等を採用することが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、横断面にT形形状部を有し長手方向に厚さが変化する部分を有する、あらゆる強化繊維複合材ビームの製造に適用でき、とくに、長尺のビームの製造に好適な方法である。
【符号の説明】
【0037】
1、21 予備成形体
2a、2b、22a、22b 屈曲部を有する強化繊維シート積層体
3、23 強化繊維シートの積層枚数が変化する部分
4a、24a 厚さが大きい部分
4b、24b 厚さが小さい部分
5、25 垂直部
6、26a、26b 水平部
7、27a、27b 板状強化繊維シート
8、28a、28b 水平部と垂直部との交差部
9、29a、29b コーナーフィラー材
10、30 曲率半径変化成形体
11、12、13a、13b、31、32、33a、33b 金型
12a 突出部
14、34 シール材
15、35 バッグ材
16、36 注入口
17、37 マトリックス樹脂
18、38 排出口
R1、R2、R3、R4 L形部の屈曲部の谷側の曲率半径
H1、H2、H3、H4 垂直部の高さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維シートの積層体を有する強化繊維とマトリックス樹脂の強化繊維複合材からなり、横断面にT形の形状部を含むとともに、長手方向に厚さが変化する部分を有する強化繊維複合材ビームの製造方法であって、
(a)横断面に、L形部を持つ2つの強化繊維シートの積層体を背中合わせにしたT形部を含み、長手方向に、強化繊維シートの積層枚数が変化する部分を有し、前記L形部の屈曲部の谷側の曲率半径が長手方向に一定であるビーム状の予備成形体を製造する、予備成形体製造工程と、
(b)前記予備成形体の長手方向の一部で、かつ、強化繊維シートの積層枚数がより多い部分において、前記T形部における垂直部を該T形部における水平部に向けて近づけることにより、その部分における前記L形部の屈曲部の谷側の曲率半径を他の部分における曲率半径よりも小さくした曲率半径変化成形体を成形する、曲率半径変化成形体成形工程を含むことを特徴とする、強化繊維複合材ビームの製造方法。
【請求項2】
前記予備成形体製造工程において、強化繊維シートの積層体を、金型間でプレスして金型賦形面の形状に沿う形に変形する動作と、この金型が開放されたタイミングで積層体を長手方向に搬送する動作を交互に行うことで、長手方向に積層体を断続的に賦形していく間欠プレス処理を行うことを特徴とする、請求項1に記載の強化繊維複合材ビームの製造方法。
【請求項3】
前記予備成形体製造工程において、前記T形部における水平部の、T形部における垂直部とは反対側の面上に、板状の強化繊維シートまたはその積層体を配置し、該板状強化繊維シートと、前記T形部における水平部と垂直部との交差部との間に形成される隙間に、コーナーフィラー材を充填し、その状態において前記曲率半径変化成形体成形工程を行うことを特徴とする、請求項1または2に記載の強化繊維複合材ビームの製造方法。
【請求項4】
前記予備成形体の横断面全体の形状がT形であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の強化繊維複合材ビームの製造方法。
【請求項5】
前記予備成形体のT形部における垂直部の高さを、前記曲率半径変化成形体成形工程において前記垂直部を前記水平部に向けて近づけることにより減少する分を考慮して、予め高く設定しておくことを特徴とする、請求項4に記載の強化繊維複合材ビームの製造方法。
【請求項6】
前記予備成形体と前記曲率半径変化成形体とのT形部における垂直部の高さの変化量をΔH、前記L形部の屈曲部の谷側の曲率半径の変化量をΔRとしたとき、ΔHとΔRが以下の式を満たすことを特徴とする、請求項5に記載の強化繊維複合材ビームの製造方法。 ΔH=ΔR(2−π/2)
【請求項7】
前記予備成形体の横断面全体の形状がI形であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の強化繊維複合材ビームの製造方法。
【請求項8】
前記予備成形体のI形形状における垂直部の高さを、前記曲率半径変化成形体成形工程において前記I形形状内のT形部における垂直部を前記水平部に向けて近づけることにより減少する分を考慮して、予め高く設定しておくことを特徴とする、請求項7に記載の強化繊維複合材ビームの製造方法。
【請求項9】
前記予備成形体と前記曲率半径変化成形体との前記I形形状の垂直部の高さの変化量をΔH´、前記L形部の屈曲部の谷側の曲率半径の変化量をΔR´としたとき、ΔH´とΔR´が以下の式を満たすことを特徴とする、請求項8に記載の強化繊維複合材ビームの製造方法。
ΔH´=ΔR´(4−π)
【請求項10】
前記予備成形体製造工程における強化繊維シートとして、強化繊維にマトリックス樹脂を含まないドライの強化繊維材を用いることを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の強化繊維複合材ビームの製造方法。
【請求項11】
前記予備成形体の外周を型で覆うことで前記曲率半径変化成形体成形工程における曲率半径の変化を与え、その状態にて、型内部にマトリックス樹脂を注入し、硬化させることを特徴とする、請求項10に記載の強化繊維複合材ビームの製造方法。
【請求項12】
前記予備成形体製造工程における強化繊維シートとして、強化繊維にマトリックス樹脂が含浸されたプリプレグを用いることを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の強化繊維複合材ビームの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−194987(P2010−194987A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−45321(P2009−45321)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】