説明

弾性表面波装置及び通信装置

【課題】 通過帯域近傍のスプリアスの発生を抑制し、小型の弾性表面波装置及び通信装置を提供すること。
【解決手段】 弾性表面波装置は、圧電基板1上に、弾性表面波の伝搬方向に沿って、3個のIDT電極2〜4,5〜7と、それらの両側にそれぞれ配置された反射器電極8,10とを有し、不平衡信号端子21に並列接続された第1,第2の弾性表面波素子14,15が伝搬方向に並んで形成されており、第1,第2の弾性表面波素子14,15の中央のIDT電極3,6に平衡信号端子22,23が接続されており、第1,第2の弾性表面波素子14,15は、それらが隣り合う箇所における反射器電極が共通反射器電極30からなり、その中央部の電極指ピッチが共通反射器電極30に隣り合うIDT電極4,5の電極指ピッチより長く形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば携帯電話等の移動体通信機器に用いられる弾性表面波フィルタや弾性表面波共振器等の弾性表面波装置及びこれを備えた通信装置に関するものであり、特に小型で、通過帯域外減衰特性が優れた弾性表面波装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
携帯端末装置は小型化、軽量化が進むとともに、複数の通信システムに対応するマルチバンド化及び携帯端末装置の多機能化のため、内蔵する回路が増加してきている。そのため、使用される電子部品はその実装密度向上のため表面実装可能な小型部品が強く要望されている。携帯端末装置のキーパーツである弾性表面波フィルタにおいても、低損失かつ通過帯域外の遮断特性とともに、表面実装可能な小型の弾性表面波フィルタが要求されている。
【0003】
この小型化の要求に対して、実装形態において、従来、弾性表面波装置はセラミックパッケージ型が多用されていたが、図6に示すような構成のものが、近年広く用いられるようになってきている。即ち、回路基板52の上面に、弾性表面波素子の電極パターンを主面に形成した圧電基板51のその主面を対向させ、弾性表面波素子の電極パターンと回路基板52の配線導体等をバンプ接続体53を介して電気的に接続し、フェースダウン実装によりフリップチップ実装し、封止樹脂54等で気密封止したCSP(Chip Scale Package)タイプの弾性表面波装置が、表面実装可能で小型化が実現できるものである。
【0004】
また、近年、移動体通信機器等の小型化、軽量化及び低コスト化のために、使用部品の削減が進められ、弾性表面波フィルタに新たな機能の付加が要求されてきている。その1つに、不平衡入力−平衡出力型または平衡入力−不平衡出力型に構成できるようにするといった要求がある。ここで、平衡入力または平衡出力とは、信号が2つの信号線路間の電位差として入力または出力するものをいい、各信号線路の信号は振幅が等しく、位相が逆相になっている。これに対して、不平衡入力または不平衡出力とは、信号がグランド電位に対する1本の線路の電位として入力または出力するものをいう。
【0005】
図5は、従来の平衡−不平衡変換機能を有する弾性表面波フィルタの電極構造を模式的に示す平面図である。圧電基板201上に並列接続させた弾性表面波フィルタとしての縦結合共振器型弾性表面波素子212,213を配置し、縦結合共振器型弾性表面波素子212,213は、それぞれ3個のIDT電極202,203,204及び205,206,207と、その両側に配置された反射器電極208,209及び210,211とから構成されている。
【0006】
縦結合共振器型弾性表面波素子212,213は、不平衡信号端子214に並列接続されている。不平衡信号端子214に接続されたIDT電極202,204及びIDT電極205,207は、一対の互いに対向させた櫛歯状電極に電界を加えられ、弾性表面波を励振させる。励振された弾性表面波が中央のIDT電極203,206に伝搬される。また、中央のIDT電極203の位相は、中央のIDT電極206の位相に対して180°異なった逆相となっており、最終的に中央のIDT電極203,206の一方の櫛歯状電極から平衡出力信号端子215,216へ信号が伝わり平衡出力される。このような構成により、平衡−不平衡変換機能を実現している。また、2段縦続接続したタイプの縦結合共振器型弾性表面波フィルタと比べて、IDT電極の電極指の交差幅を従来の半分まで小さくし、さらに、並列接続することにより、縦結合共振器型弾性表面波フィルタにおける抵抗損失を小さくすることができ、低損失な縦結合共振器型弾性表面波フィルタを実現することができる(例えば、特許文献1を参照。)。
【0007】
また、弾性表面波素子の小型化に関しては、複数の2ポート弾性表面波共振子を構成する1つの反射器電極を、複数の2ポート弾性表面波共振子の反射器電極として共用し、かつ共用した反射器電極のグレーティング電極に重み付けする構成が提案されている(例えば、特許文献2を参照。)。
【特許文献1】特開2001−308672号公報
【特許文献2】特開2003−174350号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図6に示すような従来の弾性表面波フィルタを用いることにより、実装形態を小型化することができるが、さらなる小型化の要求を満たすためには弾性表面波素子チップ自体をさらに小型化する必要があった。
【0009】
また、特許文献1に記載された図5に示すような従来の弾性表面波フィルタを用いることにより、不平衡−平衡変換機能を実現することができる。しかしながら、並列接続された2つの縦結合共振器型弾性表面波素子において隣り合った位置に2つの反射器電極が存在するため、弾性表面波装置の小型化には不利な構造であった。また、不平衡信号端子に並列接続された2つの縦結合共振器型弾性表面波素子が、弾性表面波の伝搬方向に対して、並んで隣接して配置されているため、励振される弾性表面波が互いに干渉し合い、特に通過帯域近傍の低周波側の通過帯域外減衰特性においてスプリアスが発生するなど、弾性表面波装置の周波数特性において特性が劣化する問題点があった。
【0010】
また、特許文献2に記載された、従来の複数の2ポート弾性表面波共振子を構成する1つの反射器電極を、複数の2ポート弾性表面波共振子の反射器電極として共用し、かつ共用した反射器電極のグレーティング電極に重み付けした構成の弾性表面波素子の小型化技術については、隣り合った弾性表面波素子における弾性表面波の相互干渉を抑えて、弾性表面波装置の通過帯域近傍の低周波側の通過帯域外減衰特性におけるスプリアス発生の抑制について、充分な効果を得ることができなかった。
【0011】
従って、本発明は上記従来の技術における問題点に鑑みて完成されたものであり、その目的は、弾性表面波装置の小型化及び弾性表面波フィルタの通過帯域近傍の低周波側の通過帯域外減衰特性におけるスプリアス発生を充分に抑制できる弾性表面波装置及びそれを用いた通信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の弾性表面波装置は、1)圧電基板上に、前記圧電基板上を伝搬する弾性表面波の伝搬方向に沿って、前記伝搬方向に直交する方向に長い電極指を複数備えた3個のIDT電極と、前記3個のIDT電極の両側にそれぞれ配置され、前記伝搬方向に直交する方向に長い電極指を複数備えた反射器電極とを有するとともに、不平衡信号端子に並列接続された第1及び第2の弾性表面波素子が前記伝搬方向に並んで形成されており、前記第1及び第2の弾性表面波素子のそれぞれが平衡出力部または平衡入力部とされ、前記第1及び第2の弾性表面波素子のそれぞれの中央の前記IDT電極に平衡信号端子が接続されている弾性表面波装置であって、前記第1及び第2の弾性表面波素子は、それらが隣り合う箇所における前記反射器電極が共通反射器電極からなり、前記共通反射器電極の中央部の電極指ピッチが前記共通反射器電極に隣り合う前記IDT電極の電極指ピッチより長いことを特徴するとするものである。
【0013】
また、本発明の弾性表面波装置は、2)上記1)の構成において、前記共通反射器電極の両端部の電極指ピッチが前記共通反射器電極に隣り合う前記IDT電極の電極指ピッチと略同じであることを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明の弾性表面波装置は、3)上記1)または2)の構成において、前記第1及び第2の弾性表面波素子が、弾性表面波共振子を介して、不平衡信号端子に並列接続されていることを特徴とするものである。
【0015】
また、本発明の通信装置は、4)上記1)乃至3)のいずれかの弾性表面波装置を有する、受信回路及び送信回路の少なくとも一方を備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の弾性表面波素子によれば、圧電基板上に、圧電基板上を伝搬する弾性表面波の伝搬方向に沿って、伝搬方向に直交する方向に長い電極指を複数備えた3個のIDT電極と、3個のIDT電極の両側にそれぞれ配置され、伝搬方向に直交する方向に長い電極指を複数備えた反射器電極とを有するとともに、不平衡信号端子に並列接続された第1及び第2の弾性表面波素子が伝搬方向に並んで形成されており、第1及び第2の弾性表面波素子のそれぞれが平衡出力部または平衡入力部とされ、第1及び第2の弾性表面波素子のそれぞれの中央のIDT電極に平衡信号端子が接続されている弾性表面波装置であって、第1及び第2の弾性表面波素子は、それらが隣り合う箇所における反射器電極が共通反射器電極からなり、共通反射器電極の中央部の電極指ピッチが共通反射器電極に隣り合うIDT電極の電極指ピッチより長いことにより、隣り合う2つの弾性表面波素子において、励振される弾性表面波の相互干渉を抑制することができ、そのため、特に通過帯域近傍の低周波側の帯域外減衰特性において、スプリアス発生を抑制することができ、弾性表面波装置の周波数特性において特性を向上させることができる。また、隣り合った第1及び第2の弾性表面波素子の反射器電極が、共通反射器電極として一体に形成されるので、弾性表面波フィルタチップを小型化することができる。
【0017】
また、本発明の弾性表面波装置よれば、上記の構成において、共通反射器電極の両端部の電極指ピッチが共通反射器電極に隣り合うIDT電極の電極指ピッチと略同じであることから、通過帯域の低域側及び高域側の幅が狭まるのを防ぎ、通過帯域全体を大きくとることができる。
【0018】
また、本発明の弾性表面波装置よれば、上記の構成において、第1及び第2の弾性表面波素子が、弾性表面波共振子を介して、不平衡信号端子に並列接続されていることにより、上記と同様に、隣り合う2つの弾性表面波素子において、励振される弾性表面波の相互干渉をさらに抑制することができ、そのため、特に通過帯域近傍の低周波側の通過帯域外減衰特性において、スプリアス発生をさらに抑制することができ、弾性表面波装置の周波数特性において特性を向上させることができる。
【0019】
また、第1及び第2の弾性表面波素子が、不平衡信号端子(不平衡入力端子または不平衡出力端子)が接続された弾性表面波共振子を介して並列接続されていることにより、不平衡信号端子の接続先が、縦結合共振子型弾性表面波素子である第1及び第2の弾性表面波素子である場合には、50Ωで不平衡信号端子に信号が入出力されたとき、インピーダンス整合を取ることが困難になるが、本発明のように初段が弾性表面波共振子(単一のIDT電極及び反射器電極から成る弾性表面波素子)である場合には、インピーダンス整合を容易に取ることができる。
【0020】
本発明の通信装置は、上記いずれかの本発明の弾性表面波装置を有する、受信回路及び送信回路の少なくとも一方を備えたことにより、従来より要求されていた厳しい減衰特性を満たすことができるものが得られ、感度が格段に良好で、かつ、小型の通信装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の弾性表面波装置の実施の形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。また、本発明の弾性表面波装置について、簡単な構造の共振器型の弾性表面波フィルタを例にとり説明する。なお、以下に説明する図面において同一構成には同一符号を付すものとする。また、各電極の大きさや電極間の距離等、電極指の本数や間隔等については、説明のために模式的に図示している。
【0022】
図1(a)に本発明の弾性表面波装置の電極構造についての実施の形態の一例の平面図を示す。また、図1(b)に本発明の弾性表面波装置の電極構造について、共通反射器電極の電極指ピッチの変化を示す。図1(a)に示すように、本発明の弾性表面波装置は圧電基板1上に、圧電基板1上を伝搬する弾性表面波の伝搬方向に沿って、伝搬方向に直交する方向に長い電極指を複数備えた3個のIDT電極2〜4及び5〜7と、3個のIDT電極2〜4及び5〜7の両側にそれぞれ配置され、伝搬方向に直交する方向に長い電極指を複数備えた反射器電極8,10とを有するとともに、不平衡信号端子21に並列接続された第1及び第2の弾性表面波素子14,15が伝搬方向に並んで形成されており、第1及び第2の弾性表面波素子14,15のそれぞれが平衡出力部または平衡入力部とされ、第1及び第2の弾性表面波素子14,15のそれぞれの中央のIDT電極3,6に平衡信号端子(平衡信号出力端子または平衡信号入力端子)22,23が接続されており、第1及び第2の弾性表面波素子14,15は、それらが隣り合う箇所における反射器電極が一体的に形成された1つの共通反射器電極30からなり、共通反射器電極30の中央部の電極指ピッチが共通反射器電極30に隣り合うIDT電極4,5の電極指ピッチより長く形成されている。
【0023】
この構成により、隣り合う2つの弾性表面波素子14,15において、励振される弾性表面波の相互干渉を抑制することができ、そのため、特に通過帯域近傍の低周波側の通過帯域外減衰特性において、スプリアス発生を抑制することができ、弾性表面波装置の周波数特性において特性を向上させることができる。また、隣り合った第1及び第2の弾性表面波素子14,15の反射器電極が、共通反射器電極30として一体に形成されているので、弾性表面波フィルタチップを小型化することができる。
【0024】
本発明の弾性表面波装置において、共通反射器電極30の中央部の電極指ピッチが共通反射器電極30に隣り合うIDT電極4,5の電極指ピッチより長く形成されているが、共通反射器電極30の中央部の電極指ピッチをx1、中央部の電極指の本数をN1、共通反射器電極30の中央部以外の領域、即ち両端部の電極指ピッチをx3としたとき、N1×{(x1/x3)−1}が0.003〜0.8程度であることがよい。0.003未満では、本発明の上記の効果が発現しなくなり、0.8を超えると、共通反射器電極30によって生じる減衰極の周波数が大幅に低くなってしまい、弾性表面波の相互干渉によるスプリアスを抑制できなくなる。
【0025】
なお、例えば、N1は数本〜数10本程度、x1/x3は1を超え2以下程度であり、N1×{(x1/x3)−1}が0.003〜0.8程度となるように、N1,x1/x3を制御する。
【0026】
本発明において、共通反射器電極30の両端部の電極指ピッチが共通反射器電極30に隣り合うIDT電極4,5の電極指ピッチと略同じであることがよい。この場合、共通反射器電極30の両端部の電極指ピッチをx2としたとき、x2/x3は、通過帯域幅にも依存するが、0.985〜1.011程度がよい。x2/x3が0.985未満では、通過帯域の高域側が狭まってしまい、x2/x3が1.011を超えると、通過帯域の低域側が狭まってしまう。従って、x2/x3を0.985〜1.011程度とすることにより、通過帯域の低域側及び高域側の幅が狭まるのを防ぎ、通過帯域全体を大きくとることができる。
【0027】
また、共通反射器電極30の中央部の伝搬方向における幅は、特に限定するものではないが、例えば、共通反射器電極30の伝搬方向における全体の幅の20〜80%程度であり、特には60%程度である。従って、共通反射器電極30の両端部の伝搬方向における幅は、共通反射器電極30の伝搬方向における全体の幅の80〜20%程度である。
【0028】
また、図2(a)に本発明の弾性表面波装置の電極構造についての実施の形態の他の例の平面図を示す。また、図2(b)に本発明の弾性表面波装置の電極構造について、共通反射器電極30の電極指ピッチの変化を示す。本発明の弾性表面波装置は、上記図1(a)の構成において、第1及び第2の弾性表面波素子14,15が、弾性表面波共振子16を介して、不平衡信号端子21に並列接続されて形成されている。
【0029】
この構成により、上記と同様に、隣り合う2つの弾性表面波素子14,15において、励振される弾性表面波の相互干渉を抑制することができ、そのため、特に通過帯域近傍の低周波側の通過帯域外減衰特性において、スプリアス発生を抑制することができ、弾性表面波装置の周波数特性において特性を向上させることができる。
【0030】
また、第1及び第2の弾性表面波素子14,15が、不平衡信号端子(不平衡入力端子または不平衡出力端子)21が接続された弾性表面波共振子16を介して並列接続されている。これにより、不平衡信号端子21の接続先が、縦結合共振子型弾性表面波素子である第1及び第2の弾性表面波素子14,15である場合には、50Ωで不平衡信号端子21に信号が入出力されたとき、インピーダンス整合を取ることが困難になるが、本発明のように初段が弾性表面波共振子(単一のIDT電極12及び反射器電極17,18から成る弾性表面波素子)16である場合には、インピーダンス整合を容易に取ることができる。
【0031】
また、図1,図2において、IDT電極2〜7,反射器電極8,10,17,18,30及び弾性表面波共振子16の電極指の本数は数本〜数100本にも及ぶので、簡単のため、図においてはそれら形状を簡略化して図示している。
【0032】
また、弾性表面波フィルタ用の圧電基板1としては、36°±3°YカットX伝搬タンタル酸リチウム単結晶、42°±3°YカットX伝搬タンタル酸リチウム単結晶、64°±3°YカットX伝搬ニオブ酸リチウム単結晶、41°±3°YカットX伝搬ニオブ酸リチウム単結晶、45°±3°XカットZ伝搬四ホウ酸リチウム単結晶は電気機械結合係数が大きく、かつ、周波数温度係数が小さいため圧電基板1として好ましい。また、これらの焦電性圧電単結晶のうち、酸素欠陥やFe等の固溶により焦電性を著しく減少させた圧電基板1であれば、デバイスの信頼性上良好である。圧電基板1の厚みは0.1〜0.5mm程度がよく、0.1mm未満では圧電基板1が脆くなり、0.5mm超では材料コストと部品寸法が大きくなり使用に適さない。
【0033】
また、IDT電極及び反射器電極は、AlもしくはAl合金(Al−Cu系、Al−Ti系)からなり、蒸着法、スパッタリング法、またはCVD(Chemical Vapor Deposition)法等の薄膜形成法により形成する。電極厚みは0.1〜0.5μm程度とすることが弾性表面波フィルタとしての所期の特性を得る上で好適である。
【0034】
さらに、本発明に係る弾性表面波フィルタの電極及び圧電基板1上の弾性表面波の伝搬部に、SiO,SiN,Si,Alを保護膜として形成して、導電性異物による通電防止や耐電力向上を図ることもできる。
【0035】
また、本発明の弾性表面波フィルタを通信装置に適用することができる。即ち、少なくとも受信回路及び送信回路の一方を備え、これらの回路に含まれるバンドパスフィルタとして用いる。例えば、送信回路から出力された送信信号をミキサでキャリア周波数にのせて、不要信号をバンドパスフィルタで減衰させ、その後、パワーアンプで送信信号を増幅して、デュプレクサを通ってアンテナより送信することができる送信回路を備えた通信装置、または、受信信号をアンテナで受信し、デュプレクサを通った受信信号をローノイズアンプで増幅し、その後、バンドパスフィルタで不要信号を減衰して、ミキサでキャリア周波数から信号を分離し、この信号を取り出す受信回路へ伝送するような受信回路を備えた通信装置に適用可能である。したがって、本発明の弾性表面波装置を採用すれば、上記いずれかの本発明の弾性表面波装置を有する、受信回路及び送信回路の少なくとも一方を備えたことにより、従来より要求されていた厳しい減衰特性を満たすことができるものが得られ、感度が格段に良好で、かつ、小型の通信装置を実現することができる。
【実施例】
【0036】
本発明の実施例について以下に説明する。
【0037】
図1(a)に示す弾性表面波装置を具体的に作製した実施例について説明する。38.7°YカットのX方向伝搬とするLiTaO単結晶からなる圧電基板(多数個取り用の母基板)1上に、Al(99質量%)−Cu(1質量%)による微細電極パターンを形成した。
【0038】
また、各電極のパターン作製には、スパッタリング装置、縮小投影露光機(ステッパー)、及びRIE(Reactive Ion Etching)装置によりフォトリソグラフィを施すことにより行った。
【0039】
まず、圧電基板1をアセトン,IPA(イソプロピルアルコール)等によって超音波洗浄し、有機成分を落とした。次に、クリーンオーブンによって充分に圧電基板1の乾燥を行った後、各電極となる金属層の成膜を行った。金属層の成膜にはスパッタリング装置を使用し、金属層の材料としてAl(99質量%)−Cu(1質量%)合金を用いた。このときの金属層の厚みは約0.18μmとした。
【0040】
次に、金属層上にフォトレジストを約0.5μmの厚みにスピンコートし、縮小投影露光装置(ステッパー)により、所望形状にパターニングを行い、現像装置にて不要部分のフォトレジストをアルカリ現像液で溶解させ、所望パターンを表出させた。その後、RIE装置により金属層のエッチングを行い、パターニングを終了し、弾性表面波素子を構成する各電極のパターンを得た。
【0041】
この後、電極の所定領域上に保護膜を形成した。即ち、CVD(Chemical Vapor Deposition)装置により、各電極のパターン及び圧電基板1上にSiO層を約0.02μmの厚みで形成した。
【0042】
その後、フォトリソグラフィによりパターニングを行い、RIE装置等でフリップチップ用窓開け部のエッチングを行った。その後、そのフリップチップ用窓開け部に、スパッタリング装置を使用してAlを主体とするパッド電極を成膜した。このときのパッド電極の膜厚は約1.0μmとした。その後、フォトレジスト及び不要箇所のAlをリフトオフ法により同時に除去し、弾性表面波装置を外部回路基板等にフリップチップするための導体バンプを形成するためのパッド電極を完成した。
【0043】
次に、上記パッド電極上にAuからなるフリップチップ用の導体バンプをバンプボンディング装置を使用して形成した。導体バンプの直径は約80μm、その高さは約30μmであった。
【0044】
次に、圧電基板1に分割線に沿ってダイシング加工を施し、各弾性表面波装置(チップ)ごとに分割した。その後、各チップをフリップチップ実装装置にて電極パッドの形成面を下面にしてパッケージ内に収容し接着した。その後、N雰囲気中でベーキングを行い、パッケージ化された弾性表面波装置を完成した。パッケージは、セラミック層を多層積層して成る2.5×2.0mm角の積層構造のものを用いた。
【0045】
また、比較例のサンプルとして、図3(a)に示すような、第1及び第2の弾性表面波素子14,15の隣り合う箇所における反射器電極が一体的に形成された1つの共通反射器電極30aからなり、共通反射器電極30aの電極指ピッチが全体で一定である弾性表面波装置を、上記と同様の工程で作製した。
【0046】
また、比較例のサンプルとして用いた弾性表面波装置の上記以外の構成は、本実施例である図1(a)に示す弾性表面波素子の構成と同様である。図3(b)に、本発明の弾性表面波装置の実施例及び比較例の共通反射器電極30,30aの電極指ピッチの変化の状態を示す。本発明の弾性表面波装置の実施例においては、共通反射器電極30の中央部に56本の電極指ピッチが長い部分と、その両側に20本の電極指ピッチが短い部分を有している。これに対して、比較例の共通反射器電極30aは、一定の電極指ピッチの96本の電極指を有するものである。
【0047】
次に、本実施例及び比較例の弾性表面波装置について、それぞれ特性測定を行った。0dBmの信号を入力し、周波数1640〜2140MHz、測定ポイントを801ポイントの条件にて測定した。サンプル数は30個、測定機器はマルチポートネットワークアナライザ(アジレントテクノロジー社製「E5071A」)である。
【0048】
通過帯域近傍の周波数特性のグラフを図4に示す。図4は、弾性表面波フィルタの伝送特性を表す挿入損失の周波数依存性を示すグラフである。本実施例品のフィルタ特性は非常に良好であった。即ち、図4の実線で示すように、本実施例品の弾性表面波フィルタの通過帯域近傍の低域側(1760〜1785MHz)の減衰特性において、スプリアスが充分に抑制された良好なフィルタ特性が得られた。
【0049】
一方、図4の波線で示すように、比較例の弾性表面波装置の通過帯域近傍の低域側(1760〜1785MHz)の減衰特性において、スプリアスが大きく発生し、フィルタ特性が劣化している。
【0050】
このように本実施例では、通過帯域近傍の低域側の減衰特性において、スプリアスが充分に抑制され、小型化された弾性表面波装置を実現することができた。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の弾性表面波装置について実施の形態の1例を示し、(a)は弾性表面波装置の平面図、(b)は(a)の弾性表面波装置の共通反射器電極の電極指ピッチを示すグラフである。
【図2】本発明の弾性表面波装置について実施の形態の他例を示し、(a)は弾性表面波装置の平面図、(b)は(a)の弾性表面波装置の共通反射器電極の電極指ピッチを示すグラフである。
【図3】比較例の弾性表面波装置を示し、(a)は弾性表面波装置の平面図、(b)は実施例の弾性表面波装置の共通反射器電極の電極指ピッチ及び(a)の弾性表面波装置の共通反射器電極の電極指ピッチを示すグラフである。
【図4】実施例及び比較例の弾性表面波装置について通過帯域及びその近傍における挿入損失の周波数特性を示すグラフである。
【図5】従来の弾性表面波装置の電極構造例を模式的に示す平面図である。
【図6】従来のパッケージ化された弾性表面波装置の断面図である。
【符号の説明】
【0052】
1:圧電基板
14:第1の弾性表面波素子
15:第2の弾性表面波素子
16:弾性表面波共振子
2〜7:IDT電極
8,10:反射器電極
21:不平衡信号端子
22,23:平衡信号端子
30:共通反射器電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板上に、前記圧電基板上を伝搬する弾性表面波の伝搬方向に沿って、前記伝搬方向に直交する方向に長い電極指を複数備えた3個のIDT電極と、前記3個のIDT電極の両側にそれぞれ配置され、前記伝搬方向に直交する方向に長い電極指を複数備えた反射器電極とを有するとともに、不平衡信号端子に並列接続された第1及び第2の弾性表面波素子が前記伝搬方向に並んで形成されており、
前記第1及び第2の弾性表面波素子のそれぞれが平衡出力部または平衡入力部とされ、前記第1及び第2の弾性表面波素子のそれぞれの中央の前記IDT電極に平衡信号端子が接続されている弾性表面波装置であって、
前記第1及び第2の弾性表面波素子は、それらが隣り合う箇所における前記反射器電極が共通反射器電極からなり、前記共通反射器電極の中央部の電極指ピッチが前記共通反射器電極に隣り合う前記IDT電極の電極指ピッチより長いことを特徴とする弾性表面波装置。
【請求項2】
前記共通反射器電極の両端部の電極指ピッチが前記共通反射器電極に隣り合う前記IDT電極の電極指ピッチと略同じであることを特徴とする請求項1記載の弾性表面波装置。
【請求項3】
前記第1及び第2の弾性表面波素子が、弾性表面波共振子を介して、前記不平衡信号端子に並列接続されていることを特徴とする請求項1または2記載の弾性表面波装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか記載の弾性表面波装置を有する、受信回路及び送信回路の少なくとも一方を備えたことを特徴とする通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−85720(P2008−85720A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−264010(P2006−264010)
【出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】