説明

形状記憶効果を有するポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)ブロックコポリマー

反復単位としての複数の3-ヒドロキシブチレート(3HB)ブロック及び反復単位としての複数の3-ヒドロキシバレレート(3HV)ブロック、並びに任意選択で6個以上の炭素原子を含むヒドロキシ酸反復基を含む、配向誘導性ゴム弾性及び温度感受性形状記憶効果を有するPHAブロックコポリマーが提供される。前記PHAブロックコポリマーは、配向誘導性ゴム弾性及び迅速な形状回復速度を有する形状記憶効果を示し、従って、PHAに特有の生物分解性及び生体適合性等の物性と組み合わせたこのような特徴は、種々の使用へのPHAブロックコポリマーの適用を可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、形状記憶効果を有するポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)ブロックコポリマーに関する。とりわけ、本発明は、反復単位としての3-ヒドロキシブチレートブロック及び反復単位としての3-ヒドロキシバレレートブロックを含み、且つ任意的に6個以上の炭素原子を含むヒドロキシ酸反復基を含み、それにより、配向誘導性ゴム弾性及び温度感受性形状記憶効果を有する、ブロックコポリマーに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)(本明細書中で以後しばしば「PHA」と称す)は、優れた機械的特性、並びに生物分解性及び生体適合性等の独自の特性を有するポリマーであり、従って、多大な調査及び研究がこれに関して実施されてきた。PHAは一般に、その構成モノマーの炭素原子数に依存して、短鎖長PHA(SCL-PHA)、中鎖長PHA(MCL-PHA)、及び長鎖長PHA(LCL-PHA)に分類される。
【0003】
SCL-PHAは、例えば3-ヒドロキシブチレート(本明細書中で以後しばしば「3HB」と称す)、3-ヒドロキシバレレート(本明細書中で以後しばしば「3HV」と称す)、及び4-ヒドロキシブチレート等の、PHAを構成するモノマーの炭素原子数が5以下であるPHAであり、例えばポリ(3-ヒドロキシブチレート)(PHB)ホモポリマー及びポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシバレレート)(本明細書中で以後しばしばポリ(3HB-co-3HV)と称す)コポリマーが含まれる。MCL-PHAは、例えば3-ヒドロキシヘキサノエート(3HHx)、3-ヒドロキシヘプタノエート(3HHp)、及び3-ヒドロキシオクタノエート(3HO)等の、6〜12個の炭素原子を含むモノマーからなるPHAであり、例えば、このようなモノマーのホモポリマーまたはコポリマーが含まれる。最後に、LCL-PHAは、13個以上の炭素原子を含むモノマーからなるPHAであり、例えば、このようなモノマーのホモポリマーまたはコポリマーが含まれる。
【0004】
これらのPHAは、化学合成または生合成によって合成され得る。特に、微生物を用いた生合成を介してPHAを調製する方法は、当該分野で周知である。これまでに、90を超える属を含む微生物がPHAを生合成することが知られている。さらに、生合成を介して調製されるPHAのモノマーが150種類より多く存在することも公知である。
【0005】
PHAは、モノマーの種類及び組成に依存して、種々の物性を示す。さらに、それらの多様性に起因して、未だ同定されていない多数の物性が存在すると考えられている。
【特許文献1】韓国特許公開第1999-0080695号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明は、前記問題を考慮して実施されたものであり、本発明の目的は、PHAブロックコポリマーの新規な物性、前記PHAブロックコポリマーを調製するための方法、及びそれらの使用を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
広範囲で徹底的な種々の研究及び実験の結果として、本発明者らは驚くべきことに、特定の組成を有するPHAブロックコポリマーが形状記憶効果を示すことを発見した。形状記憶効果は、金属及び一般的なポリマーにおいて部分的に確認された物性であるが、これまで、生合成を介して主に調製されるPHAにおいては確認されていなかった。特に、本明細書中に提供される特定のPHAブロックコポリマーは、温度感受性形状記憶効果と共に配向誘導性ゴム弾性を示し、且つ迅速な形状回復能を有することが確認された。PHAに特有な生物分解性及び生体適合性等の物性と合わせたこのような特徴は、PHAが種々の用途に利用されることを可能にする機会を提供する。本発明は、これらの発見に基づいて完成された。本発明の一態様によれば、前記及び他の目的は、配向誘導性ゴム弾性及び温度感受性形状記憶効果を有し、
反復単位としての以下に示す式1で示される複数の3-ヒドロキシブチレート(3HB)ブロック:
【化1】

[式中、mは2以上である];及び
反復単位としての以下に示す式2で示される複数の3-ヒドロキシバレレート(3HV)ブロック:
【化2】

[式中、nは2以上である];及び
任意的に、以下に示す式3で示される、6個以上の炭素原子を含む複数のヒドロキシ酸ブロック:
【化3】

[式中、p及びqは独立して2以上である]
を含むPHAブロックコポリマーの提供によって達成され得る。
【0008】
すなわち、本発明によるポリ(3HB-co-3HV)ブロックコポリマーは、ゴム弾性を有する一時的形状を付与し、且つ温度感受性形状記憶効果を発揮し得る。本明細書中で、本発明によるブロックコポリマーは、ポリ(3HB-co-3HV-co-HA)の形態のブロックコポリマーをも包含するが、ポリ(3HB-co-3HV)を本明細書中で以後、代表的に例示する。このような特徴の作用機構は、軟セグメント及び硬セグメント(これらは、1つのポリマー分子中に含まれる複数の3HBブロック及び3HVブロックによって形成される)の、外力の適用及び温度変化により生じる、誘導された配向により引き起こされると推測されている。硬セグメントは、成形材料の永久的な変形を防止する。鎖のもつれ、並びにより高いガラス転移温度及び融点を示す分子のブロック等の物理的架橋剤が、硬セグメントとして働く。軟セグメントは、より低いガラス転移温度を有する分子のブロックであり、変形を誘導し得、これにより、可逆的設定及び解放の特性を提供することが可能となる。
【0009】
このような独自の物性に基づき、本発明によるポリ(3HB-co-3HV)ブロックコポリマーは、その融点から熱分解温度までの範囲の温度に加熱され得、これにより、永久的に変形した特定の形状を調製することが可能となる。さらに、例えば、所定の期間、室温で、永久的に成形された材料に一定の外力を適用することによって、一時的形状を有する成形材料を得ることができる。このような一時的に成形された材料は、そのガラス転移温度から融点までの範囲の温度に加熱されると、永久的に成形された材料の元の状態に迅速に回復する。
【0010】
特に、形状記憶効果は、PHAにおいてこれまでに知られていなかった完全に新規な物性であり、従って、種々の分野へのPHAの適用可能性を大幅に拡張できるという点で非常に重要である。さらに、本発明の実験によれば、形状記憶効果に関する回復速度は非常に速く、前記形状回復速度は他の一般的合成ポリマーのものよりも高水準であることが確認された。
【0011】
さらに、従来の形状記憶ポリマーのほとんどの場合、その形状を設定するために、サンプルは、軟セグメントのガラス転移温度より高い温度に加熱され、その後変形され、次いでサンプルの温度は、変形状態を保持したままガラス転移温度より低い温度まで低下され、それによってその一時的形状が保持される。一方、ガラス転移温度より低い温度で引き伸ばされる場合でさえ、本発明による形状記憶ポリマーは、配向誘導性の結晶化によって変形形状を保持し得、それによって、加工に関する簡便性を提供し得る。
【0012】
1つのポリマー分子中に存在する3HBブロック及び3HVブロックの数は、ブロックの数が、ブロックコポリマーの形態をとることを可能にしつつ、配向誘導性ゴム弾性及び形状記憶効果が発揮されるような範囲内にある限り、特に限定されない。例えば、当該コポリマーの総モノマー中の3HVの含量は、好ましくは10〜90モル%、より好ましくは20〜80モル%、特に好ましくは30〜70モル%の範囲内である。
【0013】
本発明によるポリ(3HB-co-3HV)ブロックコポリマーの分子量は、およそ数万〜数百万の範囲、好ましくは数十万、とりわけ300,000〜600,000の範囲である。
【0014】
必要に応じて、前記のような本発明によるPHAブロックコポリマーは、総ポリマーに基づいて、70モル%以下、好ましくは50モル%以下、より好ましくは30モル%以下の、以下に示す式3のヒドロキシアルカノエート(HA)ブロックをさらに含み得る:
【化4】

[式中、p及びqは独立して2以上である]。
【0015】
本発明の別の態様によれば、形状記憶効果を有する前記ポリ(3HB-co-3HV)ブロックコポリマーを調製するための方法が提供される。当該ポリ(3HB-co-3HV)ブロックコポリマーは、化学合成または微生物を用いた生合成によって調製され得る。後者が特に好ましい。微生物を用いたポリ(3HB-co-3HV)ブロックコポリマーの生合成に関して、本発明者らは、韓国特許公開第1999-0080695号においてシュードモナス(Pseudomonas)sp. HJ-2株(本明細書中で以後「HJ-2」と称す)を提供しており、これは、登録番号KCTC 0406 BPで、韓国生命工学研究所(Korean Research Institute of Bioscience and Biotechnology:KRIBB、韓国)に加盟している韓国生命工学研究所遺伝子銀行(Korean Collection for Type Cultures:KCTC)に寄託された。飽和及び/または不飽和カルボン酸並びに/あるいはグルコース、デンプン等の炭水化物を含む培養培地中で培養した場合、HJ-2株は、種々のモノマーを含むPHAコポリマーを産生する。従って、韓国特許公開第1999-0080695号の開示を、本明細書中にその全容を参照により組み込むが、HJ-2株以外の、本発明による形状記憶ポリ(3HB-co-3HV)ブロックコポリマーを合成し得る任意の他の株の利用は、本発明の範囲内に入ると解すべきである。
【0016】
好ましい一実施形態において、単一の炭素源としてヘプタン酸を補充してHJ-2株を培養することによって、本発明による形状記憶ポリ(3HB-co-3HV)ブロックコポリマーを比較的高濃度で調製することが可能である。
【0017】
当該HJ-2株は、短鎖長PHA合成遺伝子及び長鎖長PHA合成遺伝子の両方を保有し、当該形状記憶ポリ(3HB-co-3HV)ブロックコポリマーは、短鎖長PHA合成遺伝子によって生合成され得る。従って、本発明は、形状記憶効果を有するポリ(3HB-co-3HV)ブロックコポリマーを生合成し得るHJ-2株の短鎖長PHA合成遺伝子を提供する。
【0018】
好ましくは、前記短鎖長PHA合成遺伝子は、配列番号12に示される配列を有する遺伝子、配列番号13に示される配列を有する遺伝子、及び/または配列番号14に示される配列を有する遺伝子を含む遺伝子である。
【0019】
さらに、本発明による形状記憶ポリ(3HB-co-3HV)ブロックコポリマーは、HJ-2株の短鎖長PHA合成遺伝子で形質転換された微生物を培養すること、または前記遺伝子を使用した無細胞タンパク質合成によって合成され得る。
【0020】
本発明のさらなる態様によれば、種々の使用への形状記憶ポリ(3HB-co-3HV)ブロックコポリマーの適用のための方法が提供される。
【0021】
本発明のさらに別の態様によれば、形状記憶ポリ(3HB-co-3HV)またはポリ(3HB-co-3HV-co-HA)ブロックコポリマーを含むブレンドまたは複合材料、並びに種々の使用へのそれらの適用のための方法が提供される。
【0022】
驚くべきことに、形状記憶ポリ(3HB-co-3HV)またはポリ(3HB-co-3HV-co-HA)ブロックコポリマーをポリ塩化ビニル(PVC)等の汎用ポリマー樹脂と混合したブレンドまたは複合材料もまた、形状記憶効果を示すことがさらに確認された。従って、その製造方法または使用に関して、可塑剤の添加を本質的に必要とするPVCの場合、前記ブレンドまたは複合材料の形態でPVCを調製することによって、発癌物質の発生の可能性のために、その使用に関連する制御及び調整に対して最近敏感になっている可塑剤の使用を回避することができる。しかし、前記適用例は例示に過ぎず、従って、さらなるより多くの且つより広い適用例が可能であり、それらはすべて本発明の範囲内に包含されると解すべきである。
【0023】
当該形状記憶ポリ(3HB-co-3HV)ブロックコポリマーが適用され得る使用の代表例には、医療用材料、生活必需品用材料、繊維/織物材料、産業用材料等が含まれ得る。形状記憶効果に加えて、当該ポリ(3HB-co-3HV)ブロックコポリマーはまた、生物分解性、生体適合性、及び優れた機械的特性を有し、従って医療用材料として特に好ましく使用され得る。
【0024】
医療用材料には、例えば、血管形成ステント、尿道及び食道用のインプラントチューブ、血管吻合用のデバイス、歯科インプラント、並びに歯列矯正スプリングまたはワイヤが含まれ得るが、これらに限定されない。
【0025】
生活必需品用材料には、例えば、化粧品、マッサージパック、形状記憶マトリックス、包装材料または包装フィルム、及び避妊用デバイスが含まれ得るが、これらに限定されない。
【0026】
繊維/織物材料には、例えば、ブラジャーのワイヤ、及び撥水性または防水性を有する機能的衣類が含まれ得るが、これらに限定されない。
【0027】
産業用材料には、例えば、締結部材、自動切換えデバイス、温度感受性センサー、及び電力変換設備が含まれ得るが、これらに限定されない。
【0028】
しかし、前記適用例は例示に過ぎず、従って、種々の他の使用が考慮され得る。さらに、このような使用は、PHAの形状記憶効果が利用される限り、特に限定されない。
【0029】
本発明の前記及び他の目的、特徴、及び他の利点は、添付の図面と合わせて以下の詳細な説明からより明確に理解される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
ここで、本発明を、以下の実施例を参照してより詳細に説明する。これらの実施例は、本発明を例示するためのみに提供されるのであり、本発明の範囲及び精神を限定すると解すべきではない。
【実施例】
【0031】
<実施例1:形状記憶効果を有するポリ(3HB-co-3HV)ブロックコポリマーフィルムの調製>
ポリ(3HB-co-3HV)ブロックコポリマーを、単一の炭素源としてヘプタン酸を使用して、pH7でシュードモナスsp. HJ-2を培養することによって生合成した。当該培養物を破砕してポリ(3HB-co-3HV)ブロックコポリマーを抽出し、粗抽出物をメタノール及びヘキサンで精製した。精製されたポリ(3HB-co-3HV)ブロックコポリマーを分析したところ、培養条件等の実験条件に依存して、20〜70モル%の3-ヒドロキシバレレート(3HV)を含む種々のブロックコポリマーが得られた。さらに、こうして得たブロックコポリマーのすべてが、同程度の形状記憶効果を示すことが確認された。
【0032】
基準として、前記ブロックコポリマーと第3のPHAまたはポリマーとの間のブレンドも調製した。この場合、互いにある程度の差異が存在するが、前記ブレンドもまた形状記憶効果を示した。
【0033】
こうして得たポリ(3HB-co-3HV)ブロックコポリマー(35モル%の3-ヒドロキシバレレート(3HV)を含む)20重量%をクロロホルムに添加し、テフロン(登録商標)ディッシュ中に注ぎ、それにより、約0.2mmの厚さを有するポリ(3HB-co-3HV)ブロックコポリマーフィルム(PHBVフィルム)を調製した。
【0034】
<実施例2:ポリ(3HB-co-3HV)ブロックコポリマーフィルムの物性>
存在する硬セグメントが除去される最低温度を確認するために、実施例1で得られたPHBVフィルムを種々の温度で引き伸ばし、約30秒間引き伸ばした状態で保持し、その後90℃にさらした。例えば、60℃及び90℃の2つの水浴を連続して準備し、PHBVフィルムを60℃の水浴中で引き伸ばし、約1分間保持した。その直後、引き伸ばされたPHBVフィルムを90℃の水浴に移し、前記フィルムが収縮したか否かを確認した。引き伸ばされたPHBVフィルムが90℃にさらした際に収縮しない最低温度を、存在する硬セグメントが除去される最低温度として決定することができる。反復実験において、PHBVフィルムを、600%の伸長率で一軸配向に供し、室温で約1分間保持し、それによって変形したサンプルを調製した。前記変形したサンプルを、種々の温度を有する蒸気にさらし、室温に冷却してその長さを測定した。回復したサンプルを室温で約3分間アニールし、その後引き続く反復実験に使用した。5回の反復実験を3つのフィルムについて実施し、こうして得られた結果を平均化した。
【0035】
実験結果により、図1に示されるように、当該PHBVフィルムは皮革様特性を有し、種々の条件下でフィルム形態に戻ることが示された。皮革様フィルム(I)を短時間引き伸ばすと、約700%の最大伸長率を有するゴム弾性フィルム(II)が得られる。フィルム(II)は、室温で数時間アニールすると皮革様フィルム(III)に転じ、皮革様フィルム(III)はフィルム(I)よりも約10%長くなる。再度引き伸ばすと、皮革様フィルム(III)はゴム弾性フィルム(II)になる。フィルム(II)を、反復的な引き伸ばし及び解放のプロセスに供するか、またはフィルム(IIA)を30秒より長く引き伸ばした状態で保持すると、配向した皮革様フィルム(IV)が得られる。驚くべきことに、フィルム(IV)を加熱すると、それは収縮し、その元の状態に戻る。
【0036】
95℃より高い温度で当該ポリマーの結晶子を溶融し、溶融したポリマーを室温でアニールし、それにより、その結晶化を誘導して永久的形状にすることによって、永久的形状を作製する。PHBVポリマーは、150℃より上で著しく分解する。図1に示すように、永久的形状を有するポリマーサンプルは、フィルム(I)に対応する。当該ポリマーサンプルを600%まで引き伸ばし、30秒を超えてその状態で保持することによって、一時的形状を作製する。当該サンプルを引き伸ばして保持する間、新たな配置を有するドメインが形成され、それによって一時的形状が導かれると推定される。一時的形状を有するサンプルは、図1中のフィルム(IV)に対応する。一時的形状を有するサンプルは、加熱すると元の形状を回復する(図1のV、VI、及びVIIを参照)。最初の収縮は45℃で観察され、収縮は約75℃で実質的に停止した。
【0037】
図2を参照すると、ストリップ(a)を巻いてコイル形状にし、それを110℃で10分間加熱し、加熱したコイルストリップを室温で10分間アニールすることによって、永久的なコイル形状を有するサンプル(b)を調製した。コイルストリップ(b)を室温で手で引き伸ばすことによって、一時的形状を有するストリップ(c)を調製した。変形したストリップ(c)を80℃で蒸気にさらすと、当該一時的形状はその元のコイル形状のサンプル(d)に戻った。
【0038】
<実施例3:短鎖長PHA合成(phb)遺伝子座のクローニング>
シュードモナスsp. HJ-2の短鎖長PHA合成遺伝子をクローニングするために、他の短鎖長PHAを合成し得る株の短鎖長PHA合成遺伝子を整列し、それにより、保存された領域に基づいてプライマーchoi3及びchoi4を調製した。これらのプライマーを使用してPCRを実施したところ、0.6kbのPCR産物が得られ、次いでこれをT-ベクター中にクローニングした(pGEM-SCL)。pGEM-SCLの塩基配列を配列決定し、Blast X検索を実施した。結果として、pGEM-SCLは、シュードモナスsp. 61-3のPHBシンターゼと75%のアミノ酸配列相同性を示した。前記0.6kbのPCR産物をDIG標識し、短鎖長PHAシンターゼをクローニングするためのプローブとして使用した。シュードモナスsp. HJ-2の全ゲノムDNAを抽出し、種々の制限酵素で切断し、サザンハイブリダイゼーションを、DIG検出キットを使用してDIG標識プローブを用いて実施した。結果として、ゲノムDNAを、それぞれ制限酵素SacI、EcoRI、NcoI、SmaI、びPstIで切断した場合、陽性シグナルがそれぞれ、約4kb、1.5kb、1.2kb、3.5kb及び1.6kb、並びに0.6kbのフラグメントで現れた。本明細書中で使用した制限酵素のうち、NcoI及びSmaIは、プローブとして使用したDNA中にも存在し、この事実に基づき、おおよその制限マップをプロットすることが可能であった。当該制限マップに基づき、シュードモナスsp. HJ-2の全ゲノムDNAをSacIで切断することによって得られた4kbのDNAと、pBluescript II KS+ベクターとを使用することによって、部分的ゲノムライブラリーを構築した。コロニーハイブリダイゼーションを使用して、4kbのSacIフラグメントを含む部分的ゲノムライブラリーを、クローンスクリーニングにかけた(pBS-S53)。制限酵素及びPCRを使用して、pBS-S53が所望の陽性クローンであることを再確認した。これらのクローンの塩基配列を分析したところ、シンターゼ遺伝子のC末端部分に相当する約100bpが欠如していることがわかった。残りの部分について、他のシンターゼ遺伝子を整列し、プライマーHJ-2-PHB-N及びHJ-2-PHB-Cを構築し、これらを次いでPCRに供し、それによって0.8kbのPCR産物を得た。こうして得られた0.8kbのPCR産物を、pDriveベクター中にクローニングした(pD-SCL)。こうして得られたpD-SCLクローンのDNA配列決定の結果から、こうして得られた構築物がPHBシンターゼのC末端であることがわかった。phb遺伝子座の制限マップを図3に開示する。
【0039】
pBS-S53及びpD-SCLの両方の塩基配列の完全な解釈及びベクターNT1(InforMax社)を使用した分析から、得られた構築物がphb遺伝子座であり、3つのオープンリーディングフレーム(ORF)が存在することがわかった(図4を参照)。ORF1は、NADPH依存性アセトアセチル-CoAレダクターゼ(PhbBHJ-2)であり、765bp、255アミノ酸からなり(配列番号12を参照)、シュードモナスsp. 61-3のPhbBと69%のアミノ酸配列相同性を示す。ORF2は、β-ケトチオラーゼ(PhbAHJ-2)であり、1179bp、393アミノ酸からなり(配列番号13を参照)、シュードモナスaeruginosaのPhbAと72%のアミノ酸配列相同性を示す。ORF3はPHBシンターゼ(PhbCHJ-2)をコードし、1701bp、567アミノ酸からなり(配列番号14を参照)、シュードモナスsp. 61-3と69%のアミノ酸配列相同性を示す。他の短鎖長PHAを合成する株と同様に、短鎖長PHAの生合成に関与するHJ-2の遺伝子は、1つのオペロン(phbBACHJ-2)を形成する。しかし、このオペロンは、短鎖長PHAシンターゼを含む代表的な株Wautersia eutropha(以前にはRalstonia eutrophaとして知られていた)のものとは異なる組成を有し、短鎖長PHAシンターゼ遺伝子及び中鎖長PHAシンターゼ遺伝子の両方を含むことが知られるシュードモナスsp. 61-3のものと同じ組成を有する。シュードモナスsp. HJ-2の短鎖長PHA合成(phb)遺伝子座のアミノ酸配列については、図5及び図6を参照。
【0040】
リパーゼボックス様配列は、ポリエステルシンターゼの高度に保存された配列であり、リパーゼボックス様配列内に位置する活性部位残基システインは、トランスエステル化反応が生じる領域として知られている。代表的な株W.eutrophaのPhbCReにおいて、319位のアミノ酸システインは、トランスエステル化に関与することが知られていることが報告された。シュードモナスsp. HJ-2のPhbCにおいて、300番目のアミノ酸残基システインは、トランスエステル化反応が生じる部位であると考えられている。他のPHAシンターゼにおいて、触媒3残基を形成するシステイン、アスパラギン酸、及びヒスチジンは、300位、459位、及び489位のアミノ酸としてすべて存在する。リボソーム結合部位(RBS)として公知のシャイン-ダルガノ(SD) 配列(AGGAボックス)を、phbB、phbA、及びphbC遺伝子の開始コドンであるATGの10bp上流に見出すことができた。
【0041】
この実施例で使用したプラスミド及びPCRプライマーを、以下に示す表1及び表2にまとめる。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0044】
前記説明から明らかなように、本発明による特定の組成を有するPHAブロックコポリマーは、配向誘導性ゴム弾性及び迅速な形状回復速度を有する形状記憶効果を示し、従って、PHAに特有の生物分解性及び生体適合性等の物性と組み合わせたこのような特徴は、種々の使用へのPHAブロックコポリマーの適用を可能にする。
【0045】
本発明の好ましい実施形態を例示目的のために開示してきたが、当業者であれば、添付の特許請求の範囲に開示された本発明の範囲及び精神から逸脱することなく、種々の改変、付加、及び置換が可能であると解するであろう。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の実施例2で調製されたPHBVフィルムのゴム弾性及び形状記憶効果を示す形態変化の図である。
【図2a】本発明の実施例2で調製されたPHBVストリップを示す写真である。
【図2b】本発明の実施例2で調製されたPHBVストリップ(a)がコイル形状に永久的に変形された形状を示す写真である。
【図2c】PHBVストリップのコイル形状が引き伸ばされ一時的に成形される形状を示す写真である。
【図2d】一時的形状を有するPHBVストリップが加熱され、その元のコイル形状に回復する形状を示す写真である。
【図3】本発明の実施例3における、プラスミドの構築を示す図である。
【図4】本発明の実施例3のシュードモナスsp. HJ-2中のphb遺伝子座(短鎖長PHAの生合成のための遺伝子)の制限マップを示す図である。
【図5】シュードモナスsp. HJ-2中のphb遺伝子座(短鎖長PHAの生合成のための遺伝子)のアミノ酸配列を示す図である。
【図6】シュードモナスsp. HJ-2中のphb遺伝子座(短鎖長PHAの生合成のための遺伝子)のアミノ酸配列を示す図である。
【0047】
<配列表>
配列番号1〜11:PCRプライマー
配列番号12:シュードモナスsp. HJ-2のSCL-PHA遺伝子座中のNADPH依存性アセトアセチル-CoAレダクターゼ(phbB)
配列番号13:シュードモナスsp. HJ-2のSCL-PHA遺伝子座中のβ-ケトチオラーゼ(phbA)
配列番号14:シュードモナスsp. HJ-2のSCL-PHA遺伝子座中のSCL-PHAシンターゼ(phbC)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反復単位としての複数の式1の3-ヒドロキシブチレート(3HB)ブロック:
【化1】

[式中、mは2以上である];及び
反復単位としての複数の式2の3-ヒドロキシバレレート(3HV)ブロック:
【化2】

[式中、nは2以上である]
を含む、配向誘導性ゴム弾性及び温度感受性形状記憶効果を有するPHAブロックコポリマー。
【請求項2】
PHAブロックコポリマーをその融点から熱分解温度までの範囲の温度に加熱し、それによって永久的に変形した特定の形状を調製し、且つ永久的に成形された材料を所定の期間室温付近で一定の外力にさらし、それによって一時的な形状を有する成形材料を形成する、請求項1に記載のPHAブロックコポリマー。
【請求項3】
一時的に成形された材料をそのガラス転移温度から融点までの範囲の温度に加熱することによって、一時的に成形された材料が永久的に成形された材料の元の状態に迅速に回復する、請求項2に記載のPHAブロックコポリマー。
【請求項4】
コポリマーの総モノマー中の3HVの含量が10〜90モル%の範囲内である、請求項1に記載のPHAブロックコポリマー。
【請求項5】
コポリマーの分子量がおよそ数万〜数百万の範囲である、請求項1に記載のPHAブロックコポリマー。
【請求項6】
コポリマーが、総ポリマーに基づいて、70モル%以下の式3のヒドロキシ酸反復基:
【化3】

[式中、p及びqは独立して2以上である]
をさらに含む、請求項1に記載のPHAブロックコポリマー。
【請求項7】
化学合成または微生物を用いた生合成による、請求項1に記載のPHAブロックコポリマーの調製方法。
【請求項8】
炭素源としての飽和及び/または不飽和カルボン酸、並びにシュードモナスsp. HJ-2株(登録番号KCTC 0406 BP)を使用することによって、PHAブロックコポリマーを調製する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
単一の炭素源としてヘプタン酸を補充してシュードモナスsp. HJ-2株を培養することによって、PHAブロックコポリマーを調製する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
請求項1または6に記載のブロックコポリマー及び1つまたは複数の第3のポリマーを含む、温度感受性形状記憶効果を有するブレンドまたは複合材料。
【請求項11】
請求項1に記載のPHAブロックコポリマーを生合成し得るシュードモナスsp. HJ-2株の短鎖長PHA合成遺伝子。
【請求項12】
配列番号12に示される配列を有する遺伝子を含む、請求項11に記載の短鎖長PHA合成遺伝子。
【請求項13】
配列番号13に示される配列を有する遺伝子を含む、請求項11に記載の短鎖長PHA合成遺伝子。
【請求項14】
配列番号14に示される配列を有する遺伝子を含む、請求項11に記載の短鎖長PHA合成遺伝子。
【請求項15】
請求項11に記載の短鎖長PHA合成遺伝子で形質転換した微生物を培養することによる、または当該同一遺伝子を使用した無細胞タンパク質合成による、請求項1に記載のPHAブロックコポリマーの調製方法。
【請求項16】
請求項1に記載のPHAブロックコポリマーの形状記憶効果の使用方法。
【請求項17】
PHAブロックコポリマーが、医療用材料、生活必需品用材料、繊維/織物材料、または産業用材料として使用される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
医療用材料が、血管形成ステント、尿道及び食道用のインプラントチューブ、血管吻合用のデバイス、歯科インプラント、または歯列矯正スプリングもしくはワイヤに使用される、請求項17に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2009−500468(P2009−500468A)
【公表日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−519158(P2008−519158)
【出願日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【国際出願番号】PCT/KR2005/004439
【国際公開番号】WO2007/004777
【国際公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 
【出願人】(500239823)エルジー・ケム・リミテッド (1,221)
【Fターム(参考)】