説明

微小平面の角度測定装置

【課題】本発明は、試料の微小平面の角度を光学顕微鏡の接眼レンズ及び対物レンズの中間に2個のビームスプリッタを設置した光学系を用いて測定することにより、数十μm程度 (マイクロビッカース試験の領域に対応) の測定面に対し、高い精度で角度測定が行える装置を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の微小平面の角度測定装置は、試料テーブルに裁置される試料の微小平面の角度を光学系を用いて測定する装置において、光学系の光軸を通る参照光と試料の微小平面で反射した測定光とを撮像素子に入射させ、撮像素子における参照光と測定光の位置のずれから試料の微小平面の角度を測定するようにしたことを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、数十μm程度の微小平面の角度を精密に測定する角度測定装置に関し、特にビッカース硬さ試験機、マイクロビッカース硬さ試験機、ナノインデンテーション装置など、四角または三角錐型ダイヤモンド圧子を用いる硬さ試験機用圧子の検証のために利用される微小平面の角度測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ビッカース硬さ圧子の角度を光学顕微鏡と回転テーブルを用いて測定する方法が発表されており(例えば、非特許文献1参照。)、この原理に基づいた測定機が企業から製品化されている。しかし、測定には数百μm程度の平面が必要であり、マイクロビッカースなどの押し込み深さの小さい硬さ試験には対応できない。なお、マイクロビッカースは硬さ試験の中では最も産業界でのニーズが高い。
また、ビッカース硬さ圧子の角度を顕微干渉計を用いて測定する製品について紹介されている(例えば、非特許文献2参照。)。しかしながら、干渉縞を用いて面の法線方向を検出するので、対象となる平面が小さくなるほど測定精度が低下する。
【非特許文献1】樋田並照、ビッカース硬さ標準の精度向上に関する研究、計量研究所報告、26,4 (1977)
【非特許文献2】A. Liguori, et al., Galindent: The Reference Metrological System for the Verification of the Geometrical Characteristics of Rockwell and Vickers Diamond Indenters, VDI-Berichte, 1685(2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
硬さ試験は産業界で広く使われている材料試験法であるが、正しい測定値を得るためには試験機を正しく校正された状態で使用することが不可欠である。特に、使用する圧子の形状は硬さ値に直接影響する重要な因子であるが、微小な三次元形状を正確に測定・検証することは容易でない。近年、被測定物の微小化・薄膜化にともない、圧子進入量の小さいマイクロビッカース試験やナノインデンテーション試験の需要が高まっており、圧子の検証も先端近傍のごく狭い領域で行うことが求められている。
しかしながら、今日用いられている方法は、数百μm程度の比較的大きな測定面を必要とする物や、観察倍率を上げると十分な角度の測定精度が得られない物がほとんどである。
【0004】
本発明は、試料の微小平面の角度を光学顕微鏡の接眼レンズ及び対物レンズの中間に2個のビームスプリッタを設置した光学系を用いて測定することにより、数十μm程度 (マイクロビッカース試験の領域に対応) の測定面に対し、高い精度で角度測定が行える装置を提供することを目的とする。また、この技術を応用することによりAFM等でも使用可能な微小角度ゲージの校正も可能である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため本発明の微小平面の角度測定装置は、試料テーブルに裁置される試料の微小平面の角度を光学系を用いて測定する装置において、光学系の光軸を通る参照光と試料の微小平面で反射した測定光とを撮像素子に入射させ、撮像素子における参照光と測定光の位置のずれから試料の微小平面の角度を測定するようにしたことを特徴としている。
また、本発明の微小平面の角度測定装置は、二軸回転ステージで構成される試料テーブルに試料の基準面が光学系の光軸と直交するように試料を裁置し、試料テーブル側から順に、対物レンズ、ハーフミラー、対物レンズ側ビームスプリッタ、接眼レンズ側ビームスプリッタ、及び接眼レンズを光軸上に設けて光学系を構成し、対物レンズ側ビームスプリッタに光源からの光を入射させ、ハーフミラーを透過した光を対物レンズを介して試料の測定面に照射し、測定面で反射された測定光とハーフミラーで反射された参照光とを接眼レンズ側ビームスプリッタを介して測定用撮像素子に入射させるようにしたことを特徴としている。
また、本発明の微小平面の角度測定装置は、試料の測定面の1辺が数十μmであることを特徴とする。
また、本発明の微小平面の角度測定装置は、試料が硬さ試験用の圧子であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、以下のような優れた効果を奏する。
(1)近年、産業界で用いられる様々な計測に国家標準へのトレーサビリティが求められている。硬さに関しても計量法校正事業者認定制度 (JCSS) の枠組みの中でトレーサビリティ体系の構築が進められているが、例えば、マイクロビッカース試験に関しては、微小な三次元形状を有する圧子の校正技術がなかったため整備が立ち後れており、本発明がブレークスルーの役割を果たすことが期待される。産業界では(株)東京ダイヤモンド工具製造所が圧子の製作、(財)日本軸受検査協会が圧子の校正事業を行うことで既に協力体制・役割分担ができており、本発明の技術移転を円滑に進めることが可能であると考えられる。
(2)AFM用角度ゲージへの応用という観点では、現状ではAFMのxyz三軸を標準サンプルにより校正することにより角度の校正を間接的に行っているが、現状では標準サンプルの不確かさが大きいため (特にz方向) 満足できる角度の校正が行えない状況である。数十μmという大きさは、光学顕微鏡でも観察可能であり、かつAFMの測定範囲にも含まれる大きさなので、そのようなサイズの角度ゲージに対してより精度の高い校正値を付与することができれば、AFMの角度校正の不確かさが大幅に低減することが期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明に係る微小平面の角度測定装置を実施するための最良の形態を実施例に基づいて図面を参照して以下に説明する。
【実施例1】
【0008】
図1乃至図4は、本発明の微小平面の角度測定装置を説明するためのものであって、図1は本装置の概略を示す正面図、図2は本装置における参照光の経路を示す正面図、図3は本装置における測定光の経路(角度誤差がある場合)を示す正面図、また、図4は図1のA−A視図である。
図1において、測定される試料はマイクロビッカース試験に用いられる硬さ試験用の圧子1であって、圧子1の先端部は正四角錐の形状をしており、該正四角錐の4つの面2、2、2,2が順次測定される面である。測定される面2の1辺の長さは数十μmである。
圧子1の正四角錐の面2の角度は、圧子の中心軸に対し68°と規格で決められている。本明細書においては、規格で決められた誤差のない正四角錐の面を便宜上「基準面」という。
なお、試料としてはマイクロビッカース試験に用いられる硬さ試験用の圧子に限らず測定面の1辺の長さが数μm以上のものであればよく、望ましくは測定面の1辺の長さが10μm以上あればよい。また、圧子の角度は、ビッカース試験の場合68°であるが、ビッカース試験以外の場合は別の角度であることはいうまでもない。
【0009】
圧子1は、直交する2面を持つくの字型の試料テーブル3の一面4(垂直面)にロータリーエンコーダ6を介して支持されている。試料テーブル4の他面5(水平面)はx軸(図1の紙面に平行かつ上下方向に延びる軸)回りに回転自在なロータリーエンコーダ7に固定され、試料テーブル3全体がx軸回りに回転自在となっている。このように、試料テーブル4は二軸回転ステージで構成されている。
後述する光学系の光軸をZ軸(図1乃至3においては、紙面に平行且つ水平な軸)とすると、圧子1は、その正四角錐の基準面がZ軸と直交するようにロータリーエンコーダ6、7を制御することによりセットされる。
【0010】
図4では、角度誤差のない圧子を一点鎖線で、角度誤差のある圧子1を実線で示しており、図1乃至図3におけるマイクロビッカース試験用の圧子1の中心軸は左から右に向かって光学系の光軸であるZ軸を基準にして紙面手前方向に22゜傾けた状態で配置されていることがわかる。すなわち、基準面が光学系の光軸であるZ軸に対して直交するように圧子1の中心軸をZ軸に対して22°傾けた角度で配置しており、実線で示す測定しようとする圧子1の正四角錐の面2に角度誤差がある場合は、該角度誤差のある面2は光学系の光軸Zに対して直交しないため、面2で反射された光は光軸Zに対して一定角度を有するものとなる。
【0011】
圧子1に対向して光学顕微鏡の対物レンズ8が配置され、対物レンズ8の後方には光学顕微鏡の接眼レンズ9が配置されている。
対物レンズ8と接眼レンズ9の間には、光学系の光軸Z上に対物レンズ8側に位置するビームスプリッタ10及び接眼レンズ9側に位置するビームスプリッタ11が設けられる。対物レンズ8側に位置するビームスプリッタ10の対物レンズ8側に隣接してハーフミラー12が設けられ、対物レンズ8側に位置するビームスプリッタ10には図示のようにレーザー光源13のレーザー光14が導入されるようになっている。また、接眼レンズ9側に位置するビームスプリッタ11で反射された反射光を導入する位置には測定用撮像素子15が設置されている。
さらに、接眼レンズ9の後方には観察用撮像素子16が配置されている。
【0012】
レーザー光源13から出射されたレーザー光14は、ビームスプリッタ10に入射され、その反射光17の半分は図3に示すようにハーフミラー12を透過し対物レンズ8を介して圧子1の先端部の正四角錐の測定面2に照射される。
一方、ハーフミラー12で反射された光19は、図2に示すようにビームスプリッタ10を透過して接眼レンズ9側に位置するビームスプリッタ11に入射し、反射された光20が測定用撮像素子15に入射する。
なお、本明細書においては、ハーフミラー12で反射され、測定用撮像素子15に入射する光を参照光20という。
【0013】
他方、図3に示すように、圧子1の先端部の正四角錐の測定面2で反射された光18は、対物レンズ8を介してビームスプリッタ11に入射し、そこで二方向に分けられ、透過した一方の光21は接眼レンズ9により結像され、観察用撮像素子16において測定面2上に照射されているレーザー光の位置を示すものとなる。
ビームスプリッタ11で反射したもう一方の光22は非結合光学系 (無限遠光学系) として測定用撮像素子15に入射する。
なお、本明細書においては、測定面2で反射され、測定用撮像素子15に入射する光を測定光22という。
測定用撮像素子15ではレーザー光源13から直接入射する参照光20と、測定面で反射された測定光22とのふたつのスポット23、24が観察されるので、その位置のずれから測定面の法線方向を検出する。すなわち、測定用撮像素子15上のふたつのスポット23、24を一致させるようにロータリーエンコーダ7により圧子1の向きを調整し、その際の調整角度から圧子1の測定面2の法線方向を検出することができる。
【0014】
このように、図1に示す装置を用いて測定面の角度を測定するには、測定面にレーザー光を照射することのできる大きさの面があればよい。例えば、マイクロビッカース試験の圧子の四角錐の測定面の1辺の長さは数十μmであるから、図1に示す装置により十分に測定可能である。
【産業上の利用の可能性】
【0015】
本発明は、硬さ試験機の校正事業 (JCSS)、圧子製作時の製品検査に利用できる。
また、圧子の校正結果はトレーサビリティが必要な硬さ試験を行うすべての事業所に必要な物であり、このような事業者すべてに間接的に影響する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態に係る微小平面の角度測定装置を説明するための概略正面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る微小平面の角度測定装置おける参照光の経路示す正面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る微小平面の角度測定装置おける測定光の経路示す正面図である。
【図4】図1のA−A視図である。
【符号の説明】
【0017】
1 圧子
2 正四角錐の4つの面(測定面)
3 試料テーブル
4 試料テーブルの垂直面
5 試料テーブルの水平面
6 ロータリーエンコーダ
7 ロータリーエンコーダ
8 対物レンズ
9 接眼レンズ
10 ビームスプリッタ
11 ビームスプリッタ
12 ハーフミラー
13 レーザー光源
14 レーザー光
15 測定用撮像素子
16 観察用撮像素子
17 ビームスプリッタ10における反射光
18 測定面2で反射された光
19 ハーフミラー12で反射された光
20 参照光
21 観察用撮像素子16に入射する光
22 測定光
23、24 測定用撮像素子上のふたつのスポット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料テーブルに裁置される試料の微小平面の角度を光学系を用いて測定する装置において、光学系の光軸を通る参照光と試料の微小平面で反射した測定光とを撮像素子に入射させ、撮像素子における参照光と測定光の位置のずれから試料の微小平面の角度を測定するようにしたことを特徴とする微小平面の角度測定装置。
【請求項2】
二軸回転ステージで構成される試料テーブルに試料の基準面が光学系の光軸と直交するように試料を裁置し、試料テーブル側から順に、対物レンズ、ハーフミラー、対物レンズ側ビームスプリッタ、接眼レンズ側ビームスプリッタ、及び接眼レンズを光軸上に設けて光学系を構成し、対物レンズ側ビームスプリッタに光源からの光を入射させ、ハーフミラーを透過した光を対物レンズを介して試料の測定面に照射し、測定面で反射された測定光とハーフミラーで反射された参照光とを接眼レンズ側ビームスプリッタを介して測定用撮像素子に入射させるようにしたことを特徴とする請求項1記載の微小平面の角度測定装置。
【請求項3】
試料の測定面の1辺が数十μmであることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の微小平面の角度測定装置。
【請求項4】
試料が硬さ試験用の圧子であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の微小平面の角度測定装置。








【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−78594(P2007−78594A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−269229(P2005−269229)
【出願日】平成17年9月15日(2005.9.15)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】