説明

微粒子の製造方法

【課題】真空雰囲気下あるいは不活性ガス雰囲気下で、作製又は加工した微粒子を、外気(又は空気)に触れさせずに液体中に取り込む方法として、上記雰囲気を形成する密閉容器中の微粒子捕捉用の容器に予め液体を入れておく方法がある。しかしながら、この方法では、液体が容器から蒸発して上記の真空雰囲気又は不活性ガス雰囲気を形成できなくなることがあり、このため、用いる液体に制限があるという課題があった。
【解決手段】開口部11を持つ密閉容器12の上蓋13を開け、微粒子の原料を入れる。次に、密閉容器12内を真空雰囲気あるいは不活性ガス雰囲気とする。続いて、密閉容器12内で、気相法又は粉砕法により微粒子を作製する。次に、密閉容器12に不活性ガスを導入していき、密閉容器12内の圧力が密閉容器2外の圧力よりも高い状態で開口部11を開け、開口部11から密閉容器12内の容器14内に液体15を注入して、容器14内に捕捉された微粒子を取り出す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空雰囲気下、あるいはHeやAr等の不活性ガスの雰囲気下で、作製又は加工した微粒子を、外気(又は空気)に触れさせずに液体中に移送して取り出すことを特徴とした、微粒子製造方法に係るものである。
【背景技術】
【0002】
真空雰囲気下、あるいはHeやAr等の不活性ガスの雰囲気下で、作製又は加工した微粒子を、外気(又は空気)に触れさせずに液体中に取り込む方法としては、上記雰囲気を形成する密閉容器中の微粒子捕捉用の容器に予め液体を入れておく方法がある。
【0003】
例えば、微粒子をオイル上に捕捉する方法がある(特許文献1)。
【特許文献1】特開平11-158390号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の方法では、減圧操作又は温度上昇により、液体が容器から蒸発して上記の真空雰囲気又は不活性ガス雰囲気を形成できなくなることがあり、このため、用いる液体に制限があるという課題があった。
【0005】
本発明は、前記の従来技術の課題を克服しようとするものであり、微粒子作製時は、所要の真空雰囲気又は不活性ガス雰囲気を形成し、微粒子取出時は、微粒子を外気(又は空気)に触れさせずに液体中に移送することを特徴とする微粒子製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための手段として提供される第一の発明は、開口部を持つ密閉容器中で、真空雰囲気下あるいはHeやAr等の不活性ガスの雰囲気下で加工又は作製し、容器内に捕捉した微粒子を、前記密閉容器中に不活性ガスを導入しながら、密閉容器内圧力が密閉容器外圧力よりも高い状態で開口部を開け、開口部から容器内に液体を注入して、前記容器内に捕捉した微粒子を外気(又は空気)に触れさせずに取り出すことを特徴とする微粒子の製造方法である。
【0007】
第二の発明は、第一の発明において、製造する微粒子がシリコン等の酸化し易い物質であることを特徴とする微粒子製造方法である。
【0008】
第三の発明は、第一または第二の発明において、製造する微粒子が、放電法又はレーザアブレーション法により、加工又は作製した微粒子であることを特徴とする微粒子製造方法である。
【0009】
第四の発明は、第一ないし第三のいずれかの発明において、微粒子を捕捉し、また、液体を注入する容器の表面が、微粒子又は液体との親和力が小さい容器であることを特徴とする微粒子製造方法である。
【0010】
第五の発明は、第一ないし第三のいずれかの発明において、微粒子を捕捉し、また、液体を注入する容器の材質が、表面エネルギーの小さいフッ素樹脂であることを特徴とする微粒子製造方法である。
【0011】
第六の発明は、第一ないし第三のいずれかの発明において、微粒子を捕捉し、また、液体を注入する容器の表面が、一端にフルオロカーボン基等の表面エネルギーの小さい官能基を持ち、他端に容器表面と反応結合する官能基を持つ有機材料により被覆されていることを特徴とする微粒子製造方法である。
【0012】
第七の発明は、第一ないし第六のいずれかの発明において、開口部を上側に設置する場合は、密閉容器中に導入する不活性ガスが、外気(又は空気)より重いことを特徴とし、開口部を下側に設置する場合は、密閉容器中に導入する不活性ガスが、外気(又は空気)より軽いことを特徴とする微粒子製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
真空雰囲気下、あるいはHeやAr等の不活性ガスの雰囲気下で、作製又は加工した微粒子を、外気(又は空気)に触れさせずに液体中に取り込む方法としては、上記雰囲気を形成する密閉容器中の微粒子捕捉用の容器に予め液体を入れておく方法があるが、この方法では、減圧操作又は温度上昇により、液体が容器から蒸発して上記の真空雰囲気又は不活性ガス雰囲気が形成できなくなることがあり、このため、用いる液体に制限があるという課題があった。本発明は、開口部を持つ密閉容器中で、真空雰囲気下あるいはHeやAr等の不活性ガスの雰囲気下で加工又は作製し、容器内に捕捉した微粒子を、前記密閉容器中に不活性ガスを導入しながら、密閉容器内圧力が密閉容器外圧力よりも高い状態で開口部を開け、開口部から容器内に液体を注入することで、この課題を解決する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明を実現するための実施手順を図1に示す。まず、開口部1を持つ密閉容器2の上蓋3を開け、微粒子の原料を入れる。次に、密閉容器2内を真空ポンプ又は不活性ガスを用いて、真空雰囲気あるいは不活性ガス雰囲気とする。続いて、密閉容器2内で、気相法又は粉砕法により微粒子を作製する。次に、密閉容器2に不活性ガスを導入していき、密閉容器2内の圧力が密閉容器2外の圧力よりも高い状態で開口部1を開け、開口部1から密閉容器2内に配置した容器4内に液体5を注入して、容器4内に捕捉された微粒子を、外気(又は空気)に触れさせずに取り出す。
【0015】
以下、本発明の実施例を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
【実施例1】
【0016】
図2に示すように、直径160mm、高さ80mm(ともに内寸)の密閉容器2の上蓋3を開け、10×10×10mmのp型Si6、2個を、銅製の棒7に取り付けた金属製クリップ8に固定した。銅製の棒7は、図に示さないが、密閉容器2の相対する側面に設けた穴から挿入されており、Oリングと抑え金具を使用して、密閉容器内に形成するArガス雰囲気を維持したまま、銅製の棒を摺動できる。
【0017】
次に、上蓋3を密閉容器2に取り付け、真空引きとArガス導入を3回繰り返した後、真空引きをし、密閉容器内圧力を示す圧力計の指示値が28kPaになるまで、Arガスを導入した。
【0018】
次に、密閉容器外の2本の銅製の棒7に出力150VAの直流電源を用いて直流電圧を印可し、また、銅製の棒7を動かしてSi間の距離を調整することで、Si間の放電による発光が安定するようにしながら、電圧印可を1時間続けた。
【0019】
次に、密閉容器2に空気より重いArガスを導入していき、密閉容器2内の圧力が密閉容器2外の圧力よりも高い状態で開口部1を開け、開口部1から密閉容器2内に配置した直径93mm、高さ16mm(ともに内寸)のガラス製シャーレ9内に有機溶媒(有機溶剤365LIVE、大和化学工業(株)製)20mLを注入した。このとき、Arガスは、空気より重いので、空気が短時間で容器内に混入することはほとんどなかった。その後、上蓋を開け、密閉容器からガラス製シャーレ9を取り出し、ガラス製シャーレ9の内容物を50mLポリビンに移した。
【0020】
50mLポリビンの内容物の一部を直径27mm、高さ14mm(ともに内寸)のガラス製シャーレにとり、乾燥機に入れて有機溶媒を蒸発させ、蒸発後残留物を、電子顕微鏡で観察し、写真を撮影した。また、エネルギー分散型電子線プローブマイクロアナライザーにより、元素分析を行った。前記の電子顕微鏡写真、元素分析結果は、比較実験の場合と合わせて後述する。
【0021】
ガラス製シャーレ9に予め液体を入れておく方法と比較するため、前記の操作において、p型Si6、2個を金属製クリップ8に固定する前に、ガラス製シャーレ9内に前記有機溶媒60mLを注入し、その他は、前記と同様の操作を、電圧印可まで行った。その後、上蓋を開け、密閉容器2からガラス製シャーレ9を取り出し、内容物を50mLポリビンに移した。その後、前記と同様の方法で、有機溶媒を蒸発させ、また、蒸発残留物の電子顕微鏡写真撮影と元素分析を行った。また、上蓋を開けたとき、液体がガラス製シャーレ9外の密閉容器内面に付着していた。これは、減圧操作又は温度上昇により、蒸発した有機溶媒が、昇圧操作又は温度低下により凝縮したためと考えられる。
【0022】
電子顕微鏡写真は、図3に示すとおりで、本発明に基づいて行った場合、図3(a)のように粒径1〜10μm程度の微粒子が分散していたが、比較実験の場合、図3(b)のように1μm程度の微粒子が凝集していた。また、元素分析結果は、図4に示すとおりで、本発明に基づいて行った場合、図4(a)のようにSiの強いピークが認められたが、比較実験の場合、図4(b)のようにCの強いピークが認められた。なお、本発明の場合に見られるC及びOのピークは、分析時に微粒子を固定した導電性テープによるものと思われる。
【0023】
図3及び図4から、本発明に基づいて行った場合、有機溶媒中に取り込まれた微粒子はp型Siから生成したp型Si微粒子と考えられたが、比較実験の場合、有機溶媒中に取り込まれた微粒子はCを含む微粒子と考えられた。比較実験では、有機溶媒が減圧操作時又は直流電圧印可時に蒸発し、この状態で直流電圧が印可されエネルギーが付与されたことによりCを含む微粒子が生成したと考えられた。
【実施例2】
【0024】
前記の実施例1において、ガラス製シャーレの代わりにフッ素樹脂製シャーレを用いた以外は実施例1と同様の操作を、フッ素樹脂製製シャーレの内容物を50mLポリビンに移すまで行った。
【0025】
フッ素樹脂製シャーレの内容物をポリビンに移した後、シャ−レ内面に微粒子が付着していたが、その量は、ガラス製シャーレの場合に比べ、明らかに少なかった。
【実施例3】
【0026】
前記の実施例1において、図5に示すように直径160mm、高さ80mm(ともに内寸)の密閉容器2に空気より軽いHeガスを導入していき、密閉容器2内の圧力が密閉容器2外の圧力よりも高い状態で下部に設けた開口部10を開け、開口部10から前記有機溶媒11を注入した以外は実施例1と同様の操作を行った。
【0027】
(前記実施例1〜3では、開口部を開け、液体の注入を行っているが、図6に示すように側面他に弁12を有する配管13を設け、微粒子作製時は、弁12を閉じ、微粒子取出時は弁12を開けて配管13から液体5を注入してもよい。なお、この場合、液体注入前に行う不活性ガスの注入量は0又は任意量でよい。)
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】真空雰囲気下あるいは不活性ガス雰囲気下で作製した微粒子を外気(又は空気)に触れさせずに取り出すための実施手順を示す図である。
【図2】実施例1におけるp型Si微粒子を作製し、有機溶媒中に取り込むのに使用するのに用いる装置の概略図である。
【図3】実施例1において作製した微粒子の電子顕微鏡写真を示す図である。
【図4】実施例1において作製した微粒子のエネルギー分散型電子線プローブマイクロアナライザーにより得た、元素分析スペクトルである。
【図5】実施例3におけるp型Si微粒子を作製し、有機溶媒中に取り込むのに使用するのに用いる装置の概略図である。
【図6】実施例1〜3における微粒子を作製し、有機溶媒中に取り込むのに使用するのに用いる装置の概略図である。
【符号の説明】
【0029】
1 開口部
2 密閉容器
3 上蓋
4 容器
5 液体
6 p型Si(10×10×10mm
7 銅製の棒
8 金属製クリップ
9 ガラス製シャ−レ
10 開口部
11 有機溶媒
12 弁
13 配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部を持つ密閉容器中で真空雰囲気下あるいはHeやAr等の不活性ガスの雰囲気下で作製し容器内に捕捉した微粒子を、前記密閉容器中に不活性ガスを導入しながら密閉容器内圧力が密閉容器外圧力よりも高い状態で開口部を開け、開口部から容器内に液体を注入して、前記容器内に捕捉した微粒子を外気(又は空気)に触れさせずに取り出すことを特徴とする微粒子の製造方法。
【請求項2】
製造する微粒子がシリコン等の酸化し易い物質であることを特徴とする請求項1記載の微粒子製造方法。
【請求項3】
製造する微粒子が、放電法又はレーザアブレーション法により、作製した微粒子であることを特徴とする請求項1または2記載の微粒子製造方法。
【請求項4】
微粒子を捕捉し、また、液体を注入する容器の表面が、微粒子又は液体との親和力が小さいことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の微粒子製造方法。
【請求項5】
微粒子を捕捉し、また、液体を注入する容器の材質が、表面エネルギーの小さいフッ素樹脂であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の微粒子製造方法。
【請求項6】
微粒子を捕捉し、また、液体を注入する容器の表面が、一端にフルオロカーボン基等の表面エネルギーの小さい官能基を持ち、他端に容器表面と反応結合する官能基を持つ有機材料により被覆されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の微粒子製造方法。
【請求項7】
開口部を上側に設置する場合は、密閉容器中に導入する不活性ガスが、外気(又は空気)より重いことを特徴とし、開口部を下側に設置する場合は、密閉容器中に導入する不活性ガスが、外気(又は空気)より軽いことを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の微粒子製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−62146(P2008−62146A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−240961(P2006−240961)
【出願日】平成18年9月6日(2006.9.6)
【出願人】(000144991)株式会社四国総合研究所 (116)
【Fターム(参考)】