説明

懸架装置の制御装置および車両

【課題】車両挙動の急激な変化を防止しながら、路面状況や走行条件の変化に迅速に対応して減衰力特性を制御することが可能な懸架装置の制御装置を提供する。
【解決手段】この自動二輪車1のECU29(懸架装置の制御装置)は、懸架装置(右側フロントフォーク18およびリヤサスペンション42)の減衰機構(圧縮側電子制御バルブ27、伸長側電子制御バルブ28、圧縮側電子制御バルブ52および伸長側電子制御バルブ53)の減衰力特性を電気的に制御するとともに、懸架装置の減衰機構を複数の減衰力特性モード(サーキットモードA、スポーツモードB、ノーマルモードCおよびコンフォートモードD)に切替可能な制御部29aを備えている。制御部29aは、減衰力特性モードが切り替えられる際の減衰力の変化の大きさに応じて、減衰力特性モードの切替に要する切替時間を変化させるように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、懸架装置の制御装置および車両に関し、特に、減衰力特性を電気的に制御するように構成された懸架装置の制御装置および車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の減衰力特性や操舵特性などの走行特性を電気的に制御する車両の制御装置が知られている(たとえば、特許文献1参照)。上記特許文献1には、車速に応じて操舵アシスト力の制御値を比較的大きな値で変化させる第1モードと、車速に応じて操舵アシスト力の制御値を比較的小さな値で変化させる第2モードとをモード切替スイッチで切替可能な車両の操舵制御装置が開示されている。この操舵制御装置は、車両挙動の急変を防止するために、モードの切替時に一方のモードの操舵アシスト力の制御値から他方のモードの操舵アシスト力の制御値へと所定の一定時間を掛けて徐々に切り替えることが可能なように構成されている。
【0003】
【特許文献1】特開昭63−41279号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に開示された車両の操舵制御装置では、車両挙動の急激な変化を防止することが可能である一方、路面状況や走行条件の変化に係わらず、一方のモードの操舵アシスト力の制御値から他方のモードの操舵アシスト力の制御値へと所定の一定時間を掛けて徐々に切り替えるため、路面状況や走行条件の変化に迅速に対応することができない場合があるという問題点がある。この特許文献1に開示されたモード切替の際に操舵アシスト力の制御値を一定時間で切り替える構成を、たとえば、減衰力特性のモード切替の制御に適用すると、減衰力特性のモード切替を一定時間で切り替える構成になる。この場合にも、上記車両の操舵制御装置と同様、路面状況や走行状況の変化に迅速に対応して減衰力特性を制御することができないという問題点が生じると考えられる。
【0005】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、車両挙動の急激な変化を防止しながら、路面状況や走行条件の変化に迅速に対応して減衰力特性を制御することが可能な懸架装置の制御装置および車両を提供することである。
【課題を解決するための手段および発明の効果】
【0006】
上記目的を達成するために、この発明の第1の局面による懸架装置の制御装置は、車輪と車体とが相対的に移動するときの伸長方向および圧縮方向の少なくとも一方側の力を減衰させる懸架装置の減衰機構の減衰力特性を電気的に制御するとともに、懸架装置の減衰機構を複数の特性モードに切替可能な制御部を備え、制御部は、特性モードが切り替えられる際の減衰力の変化の大きさに応じて、特性モードの切替に要する切替時間を変化させるように構成されている。
【0007】
この第1の局面による懸架装置の制御装置では、上記のように、制御部を、特性モードが切り替えられる際の減衰力の変化の大きさに応じて、特性モードの切替に要する切替時間を変化させるように構成する。これにより、たとえば、減衰力の変化の大きさが小さくて早急に特性モードを変化させても車両挙動が急激に変化しない場合には、短い切替時間で所望の特性モードに変化させるとともに、減衰力の変化の大きさが大きくて車両挙動が急激に変化しやすい場合には、長い切替時間でゆっくりと所望の特性モードに変化させることができる。これにより、路面状況や走行条件の変化に対応して減衰力特性を変化させる場合に、車両挙動の急激な変化を防止しながら路面状況や走行条件の変化に迅速に対応することができる。
【0008】
また、この発明の第2の局面による車両は、車輪と、車体と、車輪と車体との間に設けられるとともに、車輪と車体とが相対的に移動するときの伸長方向および圧縮方向の少なくとも一方側の力を減衰させる減衰機構を含む懸架装置と、懸架装置の減衰機構の減衰力特性を電気的に制御するとともに、懸架装置の減衰機構を複数の特性モードに切替可能な制御部とを備え、制御部は、特性モードが切り替えられる際の減衰力の変化の大きさに応じて、特性モードの切替に要する切替時間を変化させるように構成されている。
【0009】
この第2の局面による車両では、上記のように、制御部を、特性モードが切り替えられる際の減衰力の変化の大きさに応じて、特性モードの切替に要する切替時間を変化させるように構成する。これにより、たとえば、減衰力の変化の大きさが小さくて早急に特性モードを変化させても車両挙動が急激に変化しない場合には、短い切替時間で所望の特性モードに変化させるとともに、減衰力の変化の大きさが大きくて車両挙動が急激に変化しやすい場合には、長い切替時間でゆっくりと所望の特性モードに変化させることができる。これにより、路面状況や走行条件の変化に対応して減衰力特性を変化させる場合に、車両挙動の急激な変化を防止しながら路面状況や走行条件の変化に迅速に対応することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0011】
図1は、本発明の一実施形態による自動二輪車の全体構造を示した側面図である。図2〜図6は、図1に示した一実施形態による自動二輪車の構成を詳細に説明するための図である。なお、本実施形態では、本発明の車両の一例として、自動二輪車について説明する。図中、矢印FWDは、自動二輪車の走行方向の前方を示している。以下、図1〜図6を参照して、本発明の一実施形態による自動二輪車1の構成について詳細に説明する。
【0012】
本発明の一実施形態による自動二輪車1では、図1に示すように、ヘッドパイプ2の後方には、メインフレーム3が配置されている。また、メインフレーム3には、シートレール4が接続されている。これらのヘッドパイプ2、メインフレーム3およびシートレール4によって、車体フレームが構成されている。なお、ヘッドパイプ2、メインフレーム3およびシートレール4は、本発明の「車体」の一例である。
【0013】
また、ヘッドパイプ2には、ステアリングシャフト5が取り付けられている。このステアリングシャフト5の上部には、前輪6を操舵するためのハンドル7が取り付けられている。なお、前輪6は、本発明の「車輪」の一例である。また、ハンドル7には、図2に示すように、運転者の手が載置されるグリップ8が設けられており、グリップ8の近傍には、複数のスイッチ部9が設けられている。
【0014】
具体的には、グリップ8に最も近い部分には、ヘッドライト10(図1参照)が照射する方向を調整するためのビーム切替スイッチ9aが設けられている。また、ビーム切替スイッチ9aの下方には、左右(矢印X1方向および矢印X2方向)の各フラッシャー(方向指示ランプ)11(図1参照)を点滅させるための方向指示スイッチ9bが設けられている。また、方向指示スイッチ9bの下方には、図示しないホーン(警笛)を鳴らすためのホーンスイッチ9cが設けられている。
【0015】
ここで、本実施形態では、ビーム切替スイッチ9aの右側(矢印X2方向側)には、後述する減衰力特性モード(特性モード)の設定変更を行うためのUP/DOWNスイッチ9dが設けられている。このUP/DOWNスイッチ9dは、UPスイッチ部9eおよびDOWNスイッチ部9fにより構成されており、後述する予め定められた4つの減衰力特性モード(サーキットモードA、スポーツモードB、ノーマルモードCおよびコンフォートモードD)(図7参照)のうちいずれか1つの減衰力特性モードを選択する(入力する)際などに操作可能に構成されている。なお、UP/DOWNスイッチ9dは、本発明の「スイッチ部」の一例である。また、UPスイッチ部9eは、本発明の「第1スイッチ部」の一例であり、DOWNスイッチ部9fは、本発明の「第2スイッチ部」の一例である。UPスイッチ部9eは、ユーザに押圧されることにより、大きい減衰力特性モードに切り替える信号を後述する制御部29aに送信するために設けられているとともに、DOWNスイッチ部9fは、ユーザに押圧されることにより、小さい減衰力特性モードに切り替える信号を後述する制御部29aに送信するために設けられている。
【0016】
また、ヘッドパイプ2の前方には、図1に示すように、ヘッドパイプ2の前方を覆うフロントカウル12が設けられている。また、フロントカウル12の後部には、図1および図3に示すように、後述するエンジン38(図1参照)の回転数を表示する回転速度計13aが設けられている。また、回転速度計13aの矢印X1方向側には、図3に示すように、液晶パネルにより構成されている速度計13bが設けられている。また、回転速度計13aの矢印X2方向側には、液晶パネルにより構成されている表示パネル14が設けられている。この表示パネル14は、自動二輪車1が走行した距離などを表示する機能を有するとともに、後述する減衰力特性モード(サーキットモードA、スポーツモードB、ノーマルモードCおよびコンフォートモードD)(図7参照)などを表示する機能を有する。
【0017】
また、フロントカウル12の下方には、図1に示すように、前輪6の上方に配置されるフロントフェンダ15が配置されている。また、前輪6は、一対のフロントフォーク16の下端部に回転可能に取り付けられている。なお、フロントフォーク16は、本発明の「懸架装置」の一例である。このフロントフォーク16は、前輪6と車体とが相対的に移動するときの伸縮する力を減衰させる機能を有する。
【0018】
また、フロントフォーク16は、図4に示すように、走行方向に向かって前輪6の左側に配置される左側フロントフォーク17と、走行方向に向かって右側に配置される右側フロントフォーク18とにより構成されている。この左側フロントフォーク17は、アウターチューブ19およびインナーチューブ20が軸方向に摺動して伸縮可能に設けられるとともに、右側フロントフォーク18は、アウターチューブ21およびインナーチューブ22が軸方向に摺動して伸縮可能に設けられることによって、テレスコピック型に構成されている。また、アウターチューブ19および21は、ステアリングシャフト5に固定されたアンダーブラケット23aおよびアッパーブラケット23bに固定されている。また、インナーチューブ20および22には、アクスルブラケット24および25がそれぞれ設けられているとともに、アクスルブラケット24および25には、前輪6の車軸6aが取り付けられている。
【0019】
また、左側フロントフォーク17には、左側フロントフォーク17の伸縮量を検出するための検出装置26が設けられている一方、右側フロントフォーク18には、右側フロントフォーク18の減衰力特性を調整可能に構成されている圧縮側電子制御バルブ27および伸長側電子制御バルブ28が設けられている。なお、圧縮側電子制御バルブ27および伸長側電子制御バルブ28は、本発明の「減衰機構」の一例である。これら圧縮側電子制御バルブ27および伸長側電子制御バルブ28は、それぞれ、ソレノイドバルブにより構成されており、通電する電流量を制御することによって、弁を流れるオイルの圧力を制御可能なように構成されている。
【0020】
また、検出装置26、圧縮側電子制御バルブ27および伸長側電子制御バルブ28は、それぞれ、ECU(電子制御ユニット)29と接続されている。なお、ECU29は、本発明の「懸架装置の制御装置」の一例である。このECU29は、フロントフォーク16および後述するリヤサスペンション42において発生される減衰力を制御する機能を有する。具体的には、ECU29は、図5に示すように、フロントフォーク16、後述するエンジン38およびリヤサスペンション42などを電気的に制御する制御部29aと、後述する圧縮側電子制御バルブ27および伸長側電子制御バルブ28のそれぞれの減衰力特性モード(図7参照)などが記憶されている記憶部29bとを含んでいる。また、ECU29の制御部29aには、メインスイッチ30が接続されており、ECU29は、メインスイッチ30をオンすることにより起動される。なお、ECU29の詳細な構成については、後述する。
【0021】
また、左側フロントフォーク17の検出装置26は、ストロークセンサにより構成されている。また、検出装置26は、検出された左側フロントフォーク17の伸縮量をECU29に送信可能に構成されている。そして、ECU29の制御部29aは、左側フロントフォーク17の伸縮量から左側フロントフォーク17が圧縮および伸長する際のそれぞれのストロークスピードを検出可能に構成されている。また、制御部29aは、記憶部29bに記憶されている減衰力特性モードに基づいて、検出したストロークスピードに対応した減衰力により右側フロントフォーク18を減衰させるように、圧縮側電子制御バルブ27および伸長側電子制御バルブ28に対して所定の電流を通電させる機能を有する。
【0022】
また、右側フロントフォーク18は、図4に示すように、アウターチューブ21に固定されたロッド部31と、ロッド部31の端部に設けられているピストン部32とを含んでいる。そして、右側フロントフォーク18の内部は、ピストン部32により、圧縮側オイル室18aと、伸長側オイル室18bとに隔てられている。この圧縮側オイル室18aには、オイル通路部33のオイル通路33aが接続されており、オイル通路部33は、圧縮側オイル室18aに充填されているオイルがオイル通路33aに流入され、圧縮側電子制御バルブ27、中間通路33b、33c、チェックバルブ34aおよびオイル通路33dを介して伸長側オイル室18bに流入可能に構成されている。また、伸長側オイル室18bには、オイル通路部33のオイル通路33dが接続されている。オイル通路部33は、伸長側オイル室18bに充填されているオイルがオイル通路33dに流入され、伸長側電子制御バルブ28、中間通路33e、33c、チェックバルブ34bおよびオイル通路33aを介して圧縮側オイル室18aに流入可能に構成されている。また、中間通路33b、33cおよび33eには、リザーバ35に接続されるオイル通路33fが設けられている。
【0023】
また、圧縮側電子制御バルブ27および伸長側電子制御バルブ28は、ECU29により、それぞれを通過するオイルの圧力を調整可能に構成されている。そして、圧縮側電子制御バルブ27は、通過するオイルの圧力を小さくするのに従って、右側フロントフォーク18が圧縮される際の減衰力が小さくされるように構成されているとともに、通過するオイルの圧力を大きくするのに従って、右側フロントフォーク18が圧縮される際の減衰力が大きくされるように構成されている。また、伸長側電子制御バルブ28は、通過するオイルの圧力を小さくするのに従って、右側フロントフォーク18が伸長される際の減衰力が小さくされるように構成されているとともに、通過するオイルの圧力を大きくするのに従って、右側フロントフォーク18が伸長される際の減衰力が大きくされるように構成されている。
【0024】
また、メインフレーム3の上部には、図1に示すように、燃料タンク36が配置されている。また、燃料タンク36の後方には、シート37が配置されている。また、メインフレーム3の下方には、エンジン38が取り付けられている。また、エンジン38の前方には、エンジン38を冷却するためのラジエーター39が設けられている。また、メインフレーム3の後部には、図示しないピボット軸が設けられている。このピボット軸により、リヤアーム40の前端部が上下に揺動可能に支持されている。このリヤアーム40の後端部には、後輪41が回転可能に取り付けられている。なお、後輪41は、本発明の「車輪」の一例である。
【0025】
また、メインフレーム3の後部の上側には、支持部3aが設けられている。この支持部3aには、リヤサスペンション42の上部取付部43が軸部材44により取り付けられている。なお、リヤサスペンション42は、本発明の「懸架装置」の一例である。また、リヤサスペンション42の下部取付部45は、メインフレーム3の後部の下側に設けられた支持部3bを中心として揺動可能に設けられた揺動部材46に取り付けられている。この揺動部材46の下部は、リヤアーム40の支持部40aに連結部材47によって連結されている。これにより、リヤアーム40が上下に揺動するにともなって、揺動部材46がメインフレーム3の支持部3bを中心として揺動するとともに、リヤサスペンション42を伸縮させることが可能となる。
【0026】
また、リヤサスペンション42は、図6に示すように、一方端部に上部取付部43が設けられたシリンダ部48と、シリンダ部48の内周面を摺動可能に設けられたピストン49と、一方端部がピストン49に取り付けられているとともに、他方端部が下部取付部45に取り付けられているロッド部50とを含んでいる。また、リヤサスペンション42には、リヤサスペンション42の伸縮量を検出するための検出装置51が設けられているとともに、リヤサスペンション42の減衰力特性を調整可能に構成されている圧縮側電子制御バルブ52および伸長側電子制御バルブ53が設けられている。なお、圧縮側電子制御バルブ52および伸長側電子制御バルブ53は、本発明の「減衰機構」の一例である。これら圧縮側電子制御バルブ52および伸長側電子制御バルブ53は、それぞれ、ソレノイドバルブにより構成されており、通電する電流量を制御することによって、弁を流れるオイルの圧力を制御可能なように構成されている。また、検出装置51、圧縮側電子制御バルブ52および伸長側電子制御バルブ53は、それぞれ、フロントフォーク16の検出装置26、圧縮側電子制御バルブ27および伸長側電子制御バルブ28と同様、ECU(電子制御ユニット)29と接続されている。
【0027】
また、リヤサスペンション42の検出装置51は、ストロークセンサにより構成されている。また、検出装置51は、図5に示すように、検出されたリヤサスペンション42の伸縮量(ストローク)をECU29に送信可能に構成されている。そして、ECU29の制御部29aは、リヤサスペンション42の伸縮量からリヤサスペンション42が圧縮および伸長する際のそれぞれのストロークスピードを検出可能に構成されている。また、制御部29aは、記憶部29bに記憶されている減衰力特性モードのマップに基づいて、検出したストロークスピードに対応した減衰力によりリヤサスペンション42を減衰させるように、圧縮側電子制御バルブ52および伸長側電子制御バルブ53に対して所定の電流を通電させる機能を有する。
【0028】
また、リヤサスペンション42の内部は、ピストン49により、圧縮側オイル室42aと伸長側オイル室42bとに隔てられている。この圧縮側オイル室42aには、オイル通路部54のオイル通路54aが接続されており、オイル通路部54は、圧縮側オイル室42aに充填されているオイルがオイル通路54aに流入され、圧縮側電子制御バルブ52、中間通路54b、54c、チェックバルブ55aおよびオイル通路54dを介して伸長側オイル室42bに流入可能に構成されている。また、伸長側オイル室42bには、オイル通路部54のオイル通路54dが接続されており、オイル通路部54は、伸長側オイル室42bに充填されているオイルがオイル通路54dに流入され、伸長側電子制御バルブ53、中間通路54e、54c、チェックバルブ55bおよびオイル通路54aを介して圧縮側オイル室42aに流入可能に構成されている。また、中間通路54b、54cおよび54eには、リザーバ56に接続されるオイル通路54fが設けられている。
【0029】
また、圧縮側電子制御バルブ52および伸長側電子制御バルブ53は、ECU29により、それぞれを通過するオイルの圧力を調整可能に構成されている。そして、圧縮側電子制御バルブ52は、通過するオイルの圧力を小さくするのに従って、リヤサスペンション42が圧縮される際の減衰力が小さくされるように構成されているとともに、通過するオイルの圧力を大きくするのに従って、リヤサスペンション42が圧縮される際の減衰力が大きくされるように構成されている。また、伸長側電子制御バルブ53は、通過するオイルの圧力を小さくするのに従って、リヤサスペンション42が伸長される際の減衰力が小さくされるように構成されているとともに、通過するオイルの圧力を大きくするのに従って、リヤサスペンション42が伸長される際の減衰力が大きくされるように構成されている。
【0030】
図7は、図1に示した一実施形態による自動二輪車に搭載されたフロントフォークまたはリヤサスペンションの減衰力特性モードを示したマップである。図8は、図1に示した一実施形態による自動二輪車に搭載されたECUの制御部により電子制御バルブの減衰力特性モードの移行を説明するためのモード遷移図である。次に、図2、図5、図7および図8を参照して、本発明の一実施形態による自動二輪車1のECU29の構成について詳細に説明する。
【0031】
図5に示すように、本実施形態による自動二輪車1のECU29は、上記したように、自動二輪車1の各部を電気的に制御する制御部29aと、右側フロントフォーク18の圧縮側電子制御バルブ27および伸長側電子制御バルブ28、および、リヤサスペンション42の圧縮側電子制御バルブ52および伸長側電子制御バルブ53のそれぞれの減衰力特性が記憶されている記憶部29bとを含んでいる。この記憶部29bに記憶されている減衰力特性モードは、サーキットモードA(CIRCUIT)、スポーツモードB(SPORTS)、ノーマルモードC(NORMAL)およびコンフォートモードD(COMFORT)(それぞれ図7参照)の走行状態に応じた減衰力特性モードによって構成されている。なお、サーキットモードA(CIRCUIT)、スポーツモードB(SPORTS)、ノーマルモードC(NORMAL)およびコンフォートモードD(COMFORT)は、それぞれ、本発明の「特性モード」の一例である。
【0032】
なお、図7に示した各減衰力特性モードは、フロントフォーク16およびリヤサスペンション42が相対的に伸縮する際のストロークスピードと、そのストロークスピードに対応する減衰力との関係を表したマップである。また、サーキットモードA、スポーツモードB、ノーマルモードCおよびコンフォートモードDは、圧縮側電子制御バルブ27、伸長側電子制御バルブ28、圧縮側電子制御バルブ52および伸長側電子制御バルブ53について、それぞれ、別々に設けられている。すなわち、サーキットモードA、スポーツモードB、ノーマルモードCおよびコンフォートモードDは、フロントフォーク16の圧側および伸び側の両方について設けられているとともに、リヤサスペンション42の圧側および伸び側の両方について設けられている。
【0033】
サーキットモードAは、図7に示すように、自動二輪車1をサーキットなどで走行させる際に最も適した減衰力特性を示す減衰力特性モードである。サーキットモードAは、ストロークスピードVに対応する減衰力FAが、スポーツモードB、ノーマルモードCおよびコンフォートモードDのそれぞれのストロークスピードVに対応する減衰力FB、FCおよびFDと比べて、大きくなるように構成されている。すなわち、サーキットモードAは、障害物を乗り越えた時の周期運動が素早く収束されるような特性を有しており、スポーツモードB、ノーマルモードCおよびコンフォートモードDと比べて、自動二輪車1の姿勢を素早く安定させることが可能である。その一方、サーキットモードAは、スポーツモードB、ノーマルモードCおよびコンフォートモードDと比べて、最も路面の凹凸が吸収され難い特性を有する。
【0034】
また、スポーツモードBは、自動二輪車1を高速走行させる際に最も適した減衰力特性を示す減衰力特性モードである。スポーツモードBは、ストロークスピードVに対応する減衰力FBが、ノーマルモードCおよびコンフォートモードDのそれぞれのストロークスピードVに対応する減衰力FCおよびFDと比べて、大きくなるように構成されている。すなわち、スポーツモードBは、ノーマルモードCおよびコンフォートモードDと比べて、障害物を乗り越えた時の周期運動が素早く収束されるような特性を有しており、ノーマルモードCおよびコンフォートモードDと比べて、自動二輪車1の姿勢を素早く安定させることが可能である。その一方、スポーツモードBは、サーキットモードAと比べて、路面の凹凸が吸収されやすい特性を有する。
【0035】
また、ノーマルモードCは、自動二輪車1を郊外路において走行させる際に最も適した標準的な減衰力特性を示す減衰力特性モードである。ノーマルモードCは、ストロークスピードVに対応する減衰力FCが、コンフォートモードDのストロークスピードVに対応する減衰力FDと比べて、大きくなるように構成されている。すなわち、ノーマルモードCは、コンフォートモードDと比べて、障害物を乗り越えた時の周期運動が素早く収束されるような特性を有しており、コンフォートモードDと比べて、自動二輪車1の姿勢を素早く安定させることが可能である。その一方、ノーマルモードCは、サーキットモードAおよびスポーツモードBと比べて、路面の凹凸が吸収されやすい特性を有する。
【0036】
また、コンフォートモードDは、自動二輪車1を石畳のような凹凸が多い路面において走行させる際に最も適した減衰力特性を示す減衰力特性モードである。コンフォートモードDは、ストロークスピードVに対応する減衰力FDが、サーキットモードA、スポーツモードBおよびノーマルモードCのそれぞれのストロークスピードVに対応する減衰力FA,FBおよびFCと比べて、小さくなるように構成されている。すなわち、コンフォートモードDは、サーキットモードA、スポーツモードBおよびノーマルモードCと比べて、路面の凹凸が吸収されやすい特性を有している。その一方、コンフォートモードDは、サーキットモードA、スポーツモードBおよびノーマルモードCと比べて、障害物を乗り越えた時の周期運動が素早く収束され難い特性を有する。
【0037】
ここで、本実施形態では、1段階だけ異なる減衰力特性を有するサーキットモードAとスポーツモードBとの間は、一方のモードから他方のモードに切り替えられる際の減衰力の変化の大きさが減衰力差F1になるように構成されているとともに、1段階だけ異なる減衰力特性を有するスポーツモードBとノーマルモードCとの間は、一方のモードから他方のモードに切り替えられる際の減衰力の変化の大きさが減衰力差F2になるように構成されている。また、1段階だけ異なる減衰力特性を有するノーマルモードCとコンフォートモードDとの間は、一方のモードから他方のモードに切り替えられる際の減衰力の変化の大きさが減衰力差F3になるように構成されている。また、3段階異なる減衰力特性を有するサーキットモードAとコンフォートモードDとの間は、一方のモードから他方のモードに切り替えられる際の減衰力の変化の大きさが減衰力差F4になる。なお、本実施形態では、1段階だけ異なる減衰力特性モード(特性モード)とは、たとえば、サーキットモードAおよびスポーツモードBのように隣り合う減衰力特性モード(特性モード)を意味する。
【0038】
また、本実施形態では、図8に示すように、メインスイッチ30(図5参照)がオンされることにより、制御部29a(図5参照)は、記憶部29b(図5参照)より前回オフされた時点で実行されていた減衰力特性モードを呼び出すように構成されている。そして、制御部29aは、記憶部29b(図5参照)に格納されているサーキットモードA、スポーツモードB、ノーマルモードCおよびコンフォートモードDの4種類の減衰力特性モードのいずれか1つの減衰力特性モードを選択可能なモードに移行するように構成されている。
【0039】
ここで、本実施形態では、この場合、制御部29aは、減衰力特性モード(サーキットモードA、スポーツモードB、ノーマルモードCおよびコンフォートモードD)が切り替えられる際の減衰力の変化の大きさに応じて、減衰力特性モードの切替に要する切替時間を変化させるように構成されている。
【0040】
具体的には、制御部29aは、UP/DOWNスイッチ9d(図2参照)のUPスイッチ部9eがユーザにより押圧されることにより、減衰力特性モードを切り替える信号を受信し、コンフォートモードD、ノーマルモードC、スポーツモードBおよびサーキットモードAの順に減衰力特性モードを選択可能に構成されている。このように、減衰力の変化の大きさが所定量以下(減衰力差F1、F2およびF3)の場合において、制御部29aは、切替前の減衰力特性モードを目標の減衰力特性モードに短い切替時間T1(約0.2秒)で切り替えるように構成されている。なお、切替時間T1は、本発明の「第1の切替時間」の一例である。また、制御部29aは、最大の減衰力特性を有するサーキットモードAが選択されている状態において、さらにUPスイッチ部9eが時間t1(約1秒)間長押しされた際には、最小の減衰力特性を有するコンフォートモードDに切替時間T1よりも長い切替時間T2(約1秒)で切り替えるように構成されている。このように、減衰力の変化の大きさが所定量(減衰力差F1、F2およびF3)よりも大きい(減衰力差F4)場合において、制御部29aは、比較的長い切替時間T2(約1秒)で切り替えるように構成されている。なお、時間t1は、本発明の「第2の時間」の一例であり、切替時間T2は、本発明の「第2の切替時間」の一例である。
【0041】
また、本実施形態では、制御部29aは、DOWNスイッチ部9fが押圧されることにより、減衰力特性モードを切り替える信号を受信し、サーキットモードA、スポーツモードB、ノーマルモードCおよびコンフォートモードDの順に減衰力特性モードを選択可能に構成されている。このように、減衰力の変化の大きさが所定量以下(減衰力差F1、F2およびF3)の場合において、制御部29aは、切替前の減衰力特性モードを目標の減衰力特性モードに切替時間T1(約0.2秒)で切り替えるように構成されている。また、制御部29aは、最小の減衰力特性を有するコンフォートモードDが選択されている状態において、さらにDOWNスイッチ部9fが時間t2(約1秒)間押圧された際には、最大の減衰力特性を有するサーキットモードAに切替時間T1よりも長い切替時間T2(約1秒)で切り替えるように構成されている。このように、減衰力の変化の大きさが所定量(減衰力差F1、F2およびF3)よりも大きい(減衰力差F4)場合において、制御部29aは、切替時間T2(約1秒)で切り替えるように構成されている。なお、時間t2は、本発明の「第3の時間」の一例である。この際、表示パネル14は、現在選択されている減衰力特性モードが点灯されるように構成されており、減衰力特性モードがサーキットモードA、スポーツモードB、ノーマルモードCおよびコンフォートモードDのいずれの減衰力特性モードが選択されているかを示す機能を有する。
【0042】
つまり、本実施形態による自動二輪車1の制御部29aは、切替前の減衰力特性モードと切替目標とする減衰力特性モードとが互いに1段階だけ異なる減衰力特性を有する減衰力特性モードである場合に、切替前の減衰力特性モードを目標の減衰力特性モードに短い切替時間T1(約0.2秒)で切り替えるように構成されている。また、本実施形態による自動二輪車1の制御部29aは、切替目標とする減衰力特性モードが切替前の減衰力特性モードから2段階以上(3段階)変化する場合に、切替前の減衰力特性モードを目標の減衰力特性モードに比較的長い切替時間T2(約1秒)で切り替えるように構成されている。
【0043】
また、本実施形態では、制御部29aは、切替前の減衰力特性モードを隣り合う(1段階だけ異なる)減衰力特性モードに切り替えるためにユーザによりUP/DOWNスイッチ9dのUPスイッチ部9eおよびDOWNスイッチ部9fのいずれかが押圧された場合において、切替時間T1(約0.2秒)以下の時間t3(約0.1秒)の間、切替前の減衰力特性モードの状態を維持するように構成されている。この切替前の減衰力特性モードの状態を維持する制御は、切替時間T1(約0.2秒)で隣り合う(1段階だけ異なる)減衰力特性モードに切り替える前に実行される。つまり、制御部29aは、減衰力特性モードを隣り合う減衰力特性モードに切り替える際に、UP/DOWNスイッチ9dが切り替わった直後にノイズが発生することにより信号がオン/オフを繰り返す現象であるチャタリングが発生した場合に、チャタリングに応じて減衰力特性モードが頻繁に切り替わるのを抑制するように構成されている。なお、時間t3は、本発明の「第1の時間」の一例である。
【0044】
図9は、図1に示した一実施形態による自動二輪車の制御部が減衰力特性モードを切り替える際の処理を説明するためのフローチャートである。図10は、図9のフローチャートを説明するための減衰力特性モードを示したマップである。次に、図5、図7〜図10を参照して、自動二輪車1の記憶部29bに記憶された減衰力特性モードを切り替える際の制御部29aの処理動作について詳細に説明する。
【0045】
まず、図9に示すように、ステップS1において、制御部29a(図5参照)によりUP/DOWNスイッチ9dが押圧されたか否かが判断される。そして、ステップS1において、UP/DOWNスイッチ9dが押圧されていないと判断された場合には、減衰力特性モードを切り替えることなく、減衰力特性モードの切替処理動作が終了される。また、ステップS1において、UP/DOWNスイッチ9dが押圧されたと判断された場合には、ステップS2に進む。
【0046】
そして、ステップS2において、制御部29aにより、目標の減衰力特性モードと切替前の減衰力特性モードとの減衰力差が演算され、ステップS3に進む。その後、ステップS3において、演算された減衰力の差が減衰力差F1、F2またはF3よりも大きいか否かが判断される。そして、ステップS3において、演算された減衰力の差が減衰力差F1、F2またはF3以下であると判断された場合には、ステップS4に進み、目標の減衰力特性モードになるようにバルブ(圧縮側電子制御バルブ27、伸長側電子制御バルブ28、圧縮側電子制御バルブ52および伸長側電子制御バルブ53)に印加される電流値を設定した後に、減衰力特性モードの切替処理動作は終了される。また、ステップS3において、演算された減衰力の差が減衰力差F1、F2またはF3よりも大きいと判断された場合には、ステップS5に進む。
【0047】
そして、ステップS5において、制御部29aにより、演算された減衰力の差を5等分した値を、現在の減衰力に加えた状態の減衰力特性になるようにバルブ(圧縮側電子制御バルブ27、伸長側電子制御バルブ28、圧縮側電子制御バルブ52および伸長側電子制御バルブ53)に印加される電流値が設定される。このとき、切替時間T1(約0.2秒)で電流値の設定が行われる。その後、ステップS6において、5等分した値を現在の減衰力に1回分加えたことが記憶部29bに記憶されるとともに、5等分した値を加えた回数が加算され、ステップS7に進む。なお、本実施形態では、演算された減衰力の差を5等分に分割した例について説明しているが、演算された減衰力の差を2等分〜4等分に分割してもよいし、6等分以上に分割してもよい。
【0048】
その後、ステップS7において、制御部29aにより、5等分した値が現在の減衰力に5回分加えられたか否かが判断される。つまり、5等分した値を加えた回数が5回分加算されたか否かが判断される。そして、ステップS7において、5等分した値が現在の減衰力に5回分加えられていないと判断された場合には、ステップS5に戻る。また、ステップS7において、5等分した値が現在の減衰力に5回分加えられたと判断された場合には、ステップS8に進む。本実施形態では、図10に示すように、このステップS5からステップS7の動作が5回繰り返されることにより、切替前の減衰力特性モードから目標の減衰力特性モードに切替時間T2(約1秒)をかけて、バルブに印加する電流値を徐々に(段階的に)変化させることが可能となる。そして、ステップS8において、記憶部29bに記憶されている5等分した値を加えた回数がリセットされ、減衰力特性モードの切替処理動作は終了される。
【0049】
次に、図5および図6を参照して、本発明の一実施形態による自動二輪車1のリヤサスペンション42の動作について説明する。
【0050】
まず、リヤサスペンション42(図6参照)に伸長する方向の力が作用した場合について説明する。リヤサスペンション42に伸長する方向の力が作用すると、リヤサスペンション42が伸長されることにより、減衰力が発生する。
【0051】
具体的には、図6に示すように、ピストン49が伸長側オイル室42bの方に移動されると、伸長側オイル室42bの油圧が上昇する。そして、伸長側オイル室42b内のオイルが、オイル通路部54のオイル通路54dに流入され、伸長側電子制御バルブ53に流入される。このとき、リヤサスペンション42の伸長側へのストロークスピードに応じて、ECU29の制御部29a(図5参照)が所定の電流を伸長側電子制御バルブ53に通電するように制御することにより、伸長側電子制御バルブ53の弁圧が調整される。これにより、伸長側電子制御バルブ53を通過するオイルの圧力が調整されるので、伸長側電子制御バルブ53で発生される減衰力が調整される。そして、伸長側電子制御バルブ53を通過したオイルは、中間通路54eおよび中間通路54cを介してチェックバルブ55bに流入され、チェックバルブ55bに流入されたオイルは、オイル通路54aを介して圧縮側オイル室42aに流入される。
【0052】
次に、リヤサスペンション42に圧縮する方向の力が作用した場合について説明する。リヤサスペンション42に圧縮する方向の力が作用すると、リヤサスペンション42が短縮されることにより、減衰力が発生する。
【0053】
具体的には、ピストン49が圧縮側オイル室42aの方に移動されると、圧縮側オイル室42aの油圧が上昇する。そして、圧縮側オイル室42a内のオイルが、オイル通路部54のオイル通路54aに流入され、圧縮側電子制御バルブ52に流入される。このとき、リヤサスペンション42の圧縮側へのストロークスピードに応じて、ECU29の制御部29a(図5参照)が所定の電流を圧縮側電子制御バルブ52に通電するように制御することにより、圧縮側電子制御バルブ52の弁圧が調整される。これにより、圧縮側電子制御バルブ52を通過するオイルの圧力が調整されるので、圧縮側電子制御バルブ52で発生される減衰力が調整される。そして、圧縮側電子制御バルブ52を通過したオイルは、中間通路54bおよび中間通路54cを介してチェックバルブ55aに流入され、チェックバルブ55aに流入されたオイルは、オイル通路54dを介して伸長側オイル室42bに流入される。
【0054】
次に、図4および図5を参照して、本発明の一実施形態による自動二輪車1の右側フロントフォーク18の動作について説明する。
【0055】
まず、右側フロントフォーク18(図4参照)に伸長する方向の力が作用した場合について説明する。右側フロントフォーク18に伸長する方向の力が作用すると、右側フロントフォーク18が伸長されることにより、減衰力が発生する。
【0056】
具体的には、図4に示すように、ピストン32が伸長側オイル室18bの方に移動されると、伸長側オイル室18bの油圧が上昇する。そして、伸長側オイル室18b内のオイルが、オイル通路部33のオイル通路33dに流入され、伸長側電子制御バルブ28に流入される。このとき、右側フロントフォーク18の伸長側へのストロークスピードに応じて、ECU29の制御部29a(図5参照)が所定の電流を伸長側電子制御バルブ28に通電するように制御することにより、伸長側電子制御バルブ28の弁圧が調整される。これにより、伸長側電子制御バルブ28を通過するオイルの圧力が調整されるので、伸長側電子制御バルブ28で発生される減衰力が調整される。そして、伸長側電子制御バルブ28を通過したオイルは、中間通路33eおよび中間通路33cを介してチェックバルブ34bに流入され、チェックバルブ34bに流入されたオイルは、オイル通路33aを介して圧縮側オイル室18aに流入される。
【0057】
次に、右側フロントフォーク18に圧縮する方向の力が作用した場合について説明する。右側フロントフォーク18に圧縮する方向の力が作用すると、右側フロントフォーク18が短縮されることにより、減衰力が発生する。
【0058】
具体的には、ピストン32が圧縮側オイル室18aの方に移動されると、圧縮側オイル室18aの油圧が上昇する。そして、圧縮側オイル室18a内のオイルが、オイル通路部33のオイル通路33aに流入され、圧縮側電子制御バルブ27に流入される。このとき、右側フロントフォーク18の圧縮側へのストロークスピードに応じて、ECU29の制御部29a(図5参照)が所定の電流を圧縮側電子制御バルブ27に通電するように制御することにより、圧縮側電子制御バルブ27の弁圧が調整される。これにより、圧縮側電子制御バルブ27を通過するオイルの圧力が調整されるので、圧縮側電子制御バルブ27で発生される減衰力が調整される。そして、圧縮側電子制御バルブ27を通過したオイルは、中間通路33bおよび中間通路33cを介してチェックバルブ34aに流入され、チェックバルブ34aに流入されたオイルは、オイル通路33dを介して伸長側オイル室18bに流入される。
【0059】
本実施形態では、上記のように、制御部29a(懸架装置の制御装置)を、減衰力特性モード(サーキットモードA、スポーツモードB、ノーマルモードCおよびコンフォートモードD)が切り替えられる際の減衰力の変化の大きさ(減衰力差F1、F2、F3およびF4)に応じて、減衰力特性モードの切替に要する切替時間(たとえば、切替時間T1およびT2)を変化させるように構成する。これにより、減衰力の変化の大きさが小さくて早急に減衰力特性モードを変化させても車両挙動が急激に変化しない場合(減衰力差F1、F2およびF3の場合)には、短い切替時間T1で所望の減衰力特性モードに変化させるとともに、減衰力の変化の大きさが大きくて車両挙動が急激に変化しやすい場合(減衰力差F4)には、長い切替時間T2でゆっくりと所望の減衰力特性モードに変化させることができる。これにより、路面状況や走行条件の変化に対応して減衰力特性を変化させる場合に、車両挙動の急激な変化を防止しながら路面状況や走行条件の変化に迅速に対応することができる。
【0060】
また、本実施形態では、上記のように、制御部29a(懸架装置の制御装置)を、ユーザにより減衰力特性モードの切替の入力が行われた際に、減衰力の変化の大きさが所定量(減衰力差F1、F2およびF3)以下の場合に、切替前の減衰力特性モードを目標の減衰力特性モードに短い切替時間T1(約0.2秒)で切り替えるように構成するとともに、ユーザにより減衰力特性モードの切替入力がされた際に、減衰力の変化の大きさが所定量(減衰力差F1、F2およびF3)よりも大きい(減衰力差F4)場合に、切替前の減衰力特性モードを目標の減衰力特性モードに切替時間T1(約0.2秒)よりも長い切替時間T2(約1秒)で切り替えるように構成する。これにより、切替前の減衰力特性モードと目標の減衰力特性モードとの減衰力差が小さい場合には、早急に切替前の減衰力特性モードを目標の減衰力特性モードに変更することができるとともに、切替前の減衰力特性モードと目標の減衰力特性モードとの減衰力差が大きい場合には、時間を掛けて徐々に切替前の減衰力モードを目標の減衰力特性モードに変更することができる。
【0061】
また、本実施形態では、上記のように、制御部29a(懸架装置の制御装置)を、切替前の減衰力特性モードと切替目標とする減衰力特性モードとが互いに1段階だけ異なる減衰力特性を有する減衰力特性モードである場合に、切替前の減衰力特性モードを目標の減衰力特性モードに短い切替時間T1(約0.2秒)で切り替えるように構成する。これにより、切替前の減衰力特性モードを、早急に、1段階だけ異なる減衰力特性モードに変更することができる。
【0062】
また、本実施形態では、上記のように、制御部29a(懸架装置の制御装置)を、減衰力特性モードを1段階だけ異なる減衰力特性モードに切り替えるためにユーザによりUP/DOWNスイッチ9dが操作された場合において、短い切替時間T1(約0.2秒)で隣り合う(1段階だけ異なる)減衰力特性モードに切り替える制御を実行する際に、短い切替時間T1(約0.2秒)以下の時間t3(約0.1秒)の間、UP/DOWNスイッチ9dが押圧される前の減衰力特性モードの状態を維持するように構成する。これにより、減衰力特性モードを切り替える際にチャタリングが発生した場合にも、減衰力特性モードがチャタリングに応じて頻繁に切り替わるのを抑制することができる。
【0063】
また、本実施形態では、上記のように、制御部29a(懸架装置の制御装置)を、切替目標とする減衰力特性モードが切替前の減衰力特性モードから2段階以上(3段階)変化する場合に、切替前の減衰力特性モードを目標の減衰力特性モードに比較的長い切替時間T2(約1秒)で切り替えるように構成する。このように切替前の減衰力特性モードと目標の減衰力特性モードとの減衰力差が大きい場合には、時間を掛けて徐々に切替前の減衰力モードを目標の減衰力特性モードに変更することができる。
【0064】
また、本実施形態では、上記のように、制御部29a(懸架装置の制御装置)を、最大の減衰力特性を有するサーキットモードAである場合において、UP/DOWNスイッチ9dのUPスイッチ部9eがユーザにより操作された場合に、最小の減衰力特性を有するコンフォートモードDに比較的長い切替時間T2(約1秒)で切り替えるように構成する。このようにサーキットモードAとコンフォートモードDとのように減衰力差が大きい(減衰力差F4)場合に、時間を掛けて徐々にサーキットモードAをコンフォートモードDに変更することができる。
【0065】
また、本実施形態では、上記のように、制御部29a(懸架装置の制御装置)を、最大の減衰力特性を有するサーキットモードAである場合において、UP/DOWNスイッチ9dのUPスイッチ部9eがユーザにより時間t1(約1秒)の間継続して押圧(長押し操作)された場合に、最小の減衰力特性を有するコンフォートモードDに比較的長い切替時間T2(約1秒)で切り替えるように構成する。これにより、サーキットモードAである場合にユーザが間違ってUPスイッチ部9eを押圧した場合に、ユーザが意図しないコンフォートモードDに減衰力特性モードが変更されるのを抑制することができる。
【0066】
また、本実施形態では、上記のように、制御部29a(懸架装置の制御装置)を、最小の減衰力特性を有するコンフォートモードDである場合において、UP/DOWNスイッチ9dのDOWNスイッチ部9fがユーザにより押圧(操作)された場合に、最大の減衰力特性を有するサーキットモードAに比較的長い切替時間T2(約1秒)で切り替えるように構成する。このようにサーキットモードAとコンフォートモードDとのように減衰力差が大きい(減衰力差F4)場合に、時間を掛けて徐々にコンフォートモードDをサーキットモードAに変更することができる。
【0067】
また、本実施形態では、上記のように、制御部29a(懸架装置の制御装置)を、最小の減衰力特性を有するコンフォートモードDである場合において、UP/DOWNスイッチ9dのDOWNスイッチ部9fがユーザにより時間t2(約1秒)の間継続して押圧(長押し操作)された場合に、最大の減衰力特性を有するサーキットモードAに切替時間T2で切り替えるように構成する。これにより、コンフォートモードDである場合にユーザが間違ってDOWNスイッチ部9fを押圧した場合に、ユーザが意図しないサーキットモードAに減衰力特性モードが変更されるのを抑制することができる。
【0068】
また、本実施形態では、上記のように、ハンドル7のグリップ8近傍に、ユーザに押圧されることにより減衰力特性が増大する減衰力特性モードに切替可能なUPスイッチ部9eと、ユーザに押圧されることにより減衰力特性が低下する減衰力特性モードに切替可能なDOWNスイッチ部9fとを有するUP/DOWNスイッチ9dを設けることによって、ユーザがハンドル7のグリップ8から手を離すことなく減衰力特性モードを変更するための操作を行うことができる。
【0069】
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0070】
たとえば、上記実施形態では、減衰機構を含む懸架装置を備えた車両の一例として自動二輪車を示したが、本発明はこれに限らず、減衰機構を含む懸架装置を備えた車両であれば、自動車、自転車、三輪車、ATV(All Terrain Vehicle;不整地走行車両)などの他の車両にも適用可能である。
【0071】
また、上記実施形態では、サーキットモードとコンフォートモードとの間で減衰力特性モードを切り替える場合のみに、長い切替時間で減衰力特性を変化させる制御を行う例について示したが、本発明はこれに限らず、2段階以上変化する減衰力特性モードの間(たとえばサーキットモードとノーマルモードとの間)で減衰力特性モードを切り替える場合であれば、長い切替時間で減衰力特性を変化させる制御を行うようにしてもよい。また、1段階だけ異なる減衰力特性の減衰力特性モードの間のうち少なくとも1箇所の減衰力特性モードの間(たとえばサーキットモードとスポーツモードとの間)で、比較的短い時間で減衰力特性を変化させる制御を行うようにしてもよい。
【0072】
また、上記実施形態では、UP/DOWNスイッチを押圧することにより減衰力特性モードを切り替える例について示したが、本発明はこれに限らず、たとえば、表示パネルをタッチパネルにより構成するとともにその表示パネルを操作することにより減衰力特性モードを切り替えるようにしてもよいし、ロータリースイッチを設けるとともにそのロータリースイッチを操作することにより減衰力特性モードを切り替えるようにしてもよい。
【0073】
また、上記実施形態では、減衰力特性モードを4種類の減衰力特性モードにより構成した例について示したが、本発明はこれに限らず、減衰力特性モードを3種類または5種類以上の減衰力特性モードにより構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の一実施形態による自動二輪車の全体構造を示した側面図である。
【図2】図1に示した一実施形態による自動二輪車のスイッチ部周辺を示した斜視図である。
【図3】図1に示した一実施形態による自動二輪車の表示パネル周辺を示した図である。
【図4】図1に示した一実施形態による自動二輪車のフロントフォークの構成を説明するための図である。
【図5】図1に示した一実施形態による自動二輪車の構成を示すブロック図である。
【図6】図1に示した一実施形態による自動二輪車のリヤサスペンションの構成を説明するための図である。
【図7】図1に示した一実施形態による自動二輪車に搭載されたフロントフォークまたはリヤサスペンションの減衰力特性モードを示したマップである。
【図8】図1に示した一実施形態による自動二輪車に搭載されたECUの制御部により電子制御バルブの減衰力特性モードの移行を説明するためのモード遷移図である。
【図9】図1に示した一実施形態による自動二輪車の制御部が減衰力特性モードを切り替える際の処理を説明するためのフローチャートである。
【図10】図9のフローチャートを説明するための減衰力特性モードを示したマップである。
【符号の説明】
【0075】
1 自動二輪車(車両)
2 ヘッドパイプ(車体)
3 メインフレーム(車体)
4 シートレール(車体)
6 前輪(車輪)
7 ハンドル
8 グリップ
9d UP/DOWNスイッチ(スイッチ部)
9e UPスイッチ部(第1スイッチ部)
9f DOWNスイッチ部(第2スイッチ部)
16 フロントフォーク(懸架装置)
27、52 圧縮側電子制御バルブ(減衰機構)
28、53 伸長側電子制御バルブ(減衰機構)
29 ECU(懸架装置の制御装置)
29a 制御部(懸架装置の制御装置)
29b 記憶部(懸架装置の制御装置)
41 後輪(車輪)
42 リヤサスペンション(懸架装置)
A サーキットモード(特性モード)
B スポーツモード(特性モード)
C ノーマルモード(特性モード)
D コンフォートモード(特性モード)
t1 時間(第2の時間)
t2 時間(第3の時間)
t3 時間(第1の時間)
T1 切替時間(第1の切替時間)
T2 切替時間(第2の切替時間)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪と車体とが相対的に移動するときの伸長方向および圧縮方向の少なくとも一方側の力を減衰させる懸架装置の減衰機構の減衰力特性を電気的に制御するとともに、前記減衰力特性を複数の特性モードに切替可能な制御部を備え、
前記制御部は、前記特性モードが切り替えられる際の減衰力の変化の大きさに応じて、前記特性モードの切替に要する切替時間を変化させるように構成されている、懸架装置の制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、ユーザにより前記特性モードの切替の入力が行われた際に、前記減衰力の変化の大きさが所定量以下の場合に、切替前の前記特性モードを目標の前記特性モードに第1の切替時間で切り替えるように構成されているとともに、前記減衰力の変化の大きさが所定量よりも大きい場合に、切替前の前記特性モードを目標の前記特性モードに前記第1の切替時間よりも長い第2の切替時間で切り替えるように構成されている、請求項1に記載の懸架装置の制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、切替前の前記特性モードと目標の前記特性モードとが互いに1段階だけ異なる減衰力特性を有する前記特性モードである場合に、切替前の前記特性モードを目標の前記特性モードに前記第1の切替時間で切り替えるように構成されている、請求項2に記載の懸架装置の制御装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記特性モードを1段階だけ異なる前記特性モードに切り替えるための信号がユーザにより送信された場合において、前記第1の切替時間で1段階だけ異なる前記特性モードに切り替える制御を実行する際に、前記第1の切替時間以下の第1の時間の間、前記切替部が押圧される前の前記特性モードの状態を維持するように構成されている、請求項3に記載の懸架装置の制御装置。
【請求項5】
前記制御部は、切替目標とする前記特性モードが切替前の前記特性モードから2段階以上変化する場合に、切替前の前記特性モードを目標の前記特性モードに前記第2の切替時間で切り替えるように構成されている、請求項2に記載の懸架装置の制御装置。
【請求項6】
前記制御部は、最大の減衰力特性を有する前記特性モードである場合において、減衰力特性を増大させる信号がユーザにより送信された場合に、最小の減衰力特性を有する前記特性モードに前記第2の切替時間で切り替えるように構成されている、請求項5に記載の懸架装置の制御装置。
【請求項7】
前記制御部は、最大の減衰力特性を有する前記特性モードである場合において、減衰力特性を増大させる信号がユーザにより第2の時間の間継続して送信された場合に、最小の減衰力特性を有する前記特性モードに前記第2の切替時間で切り替えるように構成されている、請求項6に記載の懸架装置の制御装置。
【請求項8】
前記制御部は、最小の減衰力特性を有する前記特性モードである場合において、減衰力特性を減少させる信号がユーザにより送信された場合に、最大の減衰力特性を有する前記特性モードに前記第2の切替時間で切り替えるように構成されている、請求項5に記載の懸架装置の制御装置。
【請求項9】
前記制御部は、最小の減衰力特性を有する前記特性モードである場合において、減衰力特性を減少させる信号がユーザにより第3の時間の間継続して送信された場合に、最大の減衰力特性を有する前記特性モードに前記第2の切替時間で切り替えるように構成されている、請求項8に記載の懸架装置の制御装置。
【請求項10】
車輪と、
車体と、
前記車輪と前記車体との間に設けられるとともに、前記車輪と前記車体とが相対的に移動するときの伸長方向および圧縮方向の少なくとも一方側の力を減衰させる減衰機構を含む懸架装置と、
前記懸架装置の減衰機構の減衰力特性を電気的に制御するとともに、前記懸架装置の減衰機構を複数の特性モードに切替可能な制御部とを備え、
前記制御部は、前記特性モードが切り替えられる際の減衰力の変化の大きさに応じて、前記特性モードの切替に要する切替時間を変化させるように構成されている、車両。
【請求項11】
運転者の手が載置されるグリップを含み、前記車輪を操舵するためのハンドルと、
前記ハンドルのグリップ近傍に設けられ、ユーザに押圧されることにより、大きい前記特性モードに切り替える信号を前記制御部に送信可能な第1スイッチ部と、ユーザに押圧されることにより、小さい前記特性モードに切り替える信号を前記制御部に送信可能な第2スイッチ部とを含むスイッチ部とを備える、請求項10に記載の車両。
【請求項12】
前記懸架装置は、フロントフォークと、リヤサスペンションとをさらに含み、
前記制御部は、前記フロントフォークと前記リヤサスペンションとの少なくとも一方における前記特性モードが切り替えられる際の減衰力の変化の大きさに応じて、前記特性モードの切替に要する切替時間を変化させるように構成されている、請求項10に記載の車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−255777(P2009−255777A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−108204(P2008−108204)
【出願日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)
【Fターム(参考)】